説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】不純物の少ないセルロースアシレートを製造する。
【解決手段】パルプ等の天然素材を原料とするセルロース11に酢酸を添加して活性化セルロース15とする。これに酢化反応剤である無水酢酸、酢酸及び触媒である硫酸を加えて攪拌混合し、活性化セルロース15の水酸基の一部をエステル化させて一次セルロースアシレート16とする。一次セルロースアシレート16に含まれる硫酸を中和させて二次セルロースアシレート19とした後、これを多孔質の濾材を備えた濾過装置で濾過する。これにより、二次セルロースアシレート19に含まれる不純物は捕捉されるため、結果として、不純物の含有量が極めて少ないセルロースアシレート23が得られる。このセルロースアシレート23を含むドープを溶液製膜方法により製膜すると、支持体の表面に対する汚れの生成を抑制しながら平面性に優れ、不純物の少ないフィルムが得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に光学フィルムとして利用されるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートは、耐薬品性、耐熱性、難燃性等に優れる等の特長から、タバコ用フィルタ、アセテート繊維、写真フィルム等を代表とするポリマーフィルムの原料として多岐に使用されている。中でも、トリアセチルセルロースを用いると、優れた取り扱い性や加工性をもって製膜することができ、かつ透明度の高いフィルムが得られる。これは液晶表示装置の偏光板の保護フィルムや光学補償フィルム等、各種光学フィルムとして使用されており、液晶表示装置等の発展に伴ってその需要は著しく増大している。
【0003】
セルロースアシレートフィルムは、主に溶液製膜方法で作られる。溶液製膜方法とは、セルロースアシレート、溶媒及び微粒子等の添加剤を混合したドープを走行する支持体上に流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥ぎ取り、乾燥させてフィルムとする方法である。
【0004】
ところで、溶液製膜方法では、製膜中に支持体の表面に汚れが付着して、この汚れが流延膜の表面に転写することによりフィルムの平面性が低下するという問題を抱える。汚れは、流延膜に含まれていた不純物が析出したものと考えられる。主な不純物としては、ドープの原料であるセルロースアシレートに起因するアルカリ土類金属、及びセルロースアシレートや添加剤等に起因する脂肪酸が反応して生成した金属塩が挙げられる。そこで、通常、支持体の表面に対する汚れの生成を抑制するために、流延に供する前のドープを多孔質の濾材に通過させて不純物を除去する作業が行われている。しかし、微細な不純物を除去しようと濾材の孔径を小さくすれば、不純物の捕捉効果は高まる一方で、目詰まりし易く、濾過に要する時間が長くなって濾過効率が低下する等の問題が生じている。
【0005】
そこで、濾材の孔径を小さくすることなく濾過効率を向上させる方法として、例えば、特許文献1には、多孔質の濾過助剤でドープを濾過することにより濾材の目詰まりを防ぐ溶液製膜方法が提案されている。この方法によれば、ドープ中の不純物を濾過助剤に吸着させることができ、かつ濾過を続けるうちに濾過助剤の上に不純物が堆積し、濾過助剤と不純物との間に形成される隙間を利用することにより高い濾過精度を実現することができる。
【特許文献1】特開2004−107629号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1のように、調製したドープを所定の濾材で濾過するだけでは不純物を十分に除去することは難しく、支持体の表面における汚れの生成を防ぐことが難しい。また、現在、セルロースアシレートフィルムに対しては、液晶表示装置等による高画質化の実現を目的として不純物の含有量が少ないフィルムが求められているが、本要求に対する効果的な方法は確立されていない。
【0007】
したがって、本発明は、不純物が少ないドープを調製し、これを用いることにより支持体の表面における汚れの付着を防止し、結果として、不純物が少ないフィルムを製造することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセルロースアシレートの製造方法は、走行する支持体上に、溶媒とセルロースアシレートとを含むドープを流延して流延膜を形成した後、支持体から流延膜を剥ぎ取った後、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、セルロースアシレートは、酸性触媒下でセルロースとアシル化剤とをエステル化反応させることにより生成するセルロースアシレート混合物を、多孔質の濾材に通過させることにより不純物を除去したものであることを特徴とする。
【0009】
濾材が、複数の濾過助剤であることが好ましい。
【0010】
濾過助剤は、珪藻土であることが好ましい。
【0011】
濾材が、平均孔径を0.1μm以上50.0μm以下とする多数の孔が形成されたフィルタであることが好ましい。
【0012】
濾材に送られるセルロースアシレート混合物は、セルロースアシレート混合物の全重量に対してセルロースアシレートの含まれる割合が10重量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、生成工程中で、所定の濾材で濾過することにより微細な不純物までも効率良くかつ効果的に取り除かれたセルロースアシレートを使用してドープを調製し、このドープによりフィルムを製造するようにしたので、支持体の表面における汚れの付着を防止することができ、結果として、不純物が少ないフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明に係るセルロースアシレートの製造方法について、実施形態を示しながら説明する。
【0015】
〔原料〕
本発明のドープは、溶媒とセルロースアシレートとを含む。本発明に係わるセルロースアシレートは、酸性触媒下でセルロースとアシル化剤とをエステル化反応させることにより生成させたものであり、具体的には、例えば、ジアセチルセルロースやトリアセチルセルロース(TAC)等が挙げられる。
【0016】
図1に示すように、本実施形態のセルロースアシレート製造工程10は、前処理工程13と、酢化工程17と、熟成工程20と、濾過工程22と、後処理工程24とからなる。
【0017】
前処理工程13は、セルロース11に酸を添加することで活性化セルロース15とする。セルロース11としては、綿花若しくは木材のどちらから得られたものでも良いが、フィルムを製造する際に、支持体上の汚れを防止する目的では木材から得られたものが好適である。上記の酸としては、酢酸が好適に用いられる。前処理工程13では、セルロース11と酸とを入れた密閉容器を20〜60℃に保温した状態で0.1〜3時間攪拌し、セルロース11を活性化させる。
【0018】
酢化工程17は、酸性触媒下にて活性化セルロース15にアシル化剤を反応させる。アシル化剤は、例えば、無水酢酸や酢酸等であり、触媒は硫酸が好適である。これにより活性化セルロース15の持つ水酸基の一部がエステル化された一次セルロースアシレート16が生成する。酢化工程17におけるエステル反応を終了するタイミングは、水酸基の一部がエステル化している割合、すなわち酢化度により知ることができる。この酢化度は、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)のアセチル化度の測定方法に準じて求めることができる。
【0019】
熟成工程20は、一次セルロースアシレート16の生成系中にMg塩等の中和剤を添加する。これにより生成系中の硫酸が中和して、二次セルロースアシレート19が生成する。熟成工程20は、中和反応を効果的に進める上で、反応系の温度を125〜170℃とし、同温度範囲で3分〜6時間保持することが好ましい。
【0020】
通常、セルロースアシレートを製造する方法としては、上記の各工程の後に、後処理工程24を経過させてセルロースアシレート23が作られる。後処理工程24は、沈澱処理25と、洗浄処理と28と、乾燥処理29とからなる。沈殿処理25では、所定の溶液で二次セルロースアシレート19を処理する。この溶液としては希酢酸水溶液が好適である。これにより、二次セルロースアシレート19は沈殿物26と分離液27とに分離する。沈殿物26は、セルロースアシレート23の前駆体となる成分であるため、回収されて洗浄処理28に供される。一方で、分離液27は、その他の不溶な液分であるため廃液として処理される。洗浄処理28では、洗浄液による沈殿物26の洗浄が行われる。上記の洗浄液は、特に限定されるものではないが、沈殿物26に対して不溶性を示し、かつ不純物の少ない化合物が好適とされ、入手しやすさ等の理由からも蒸留水が好適に用いられる。乾燥処理29は、洗浄後の沈殿物26を乾燥することにより溶媒分を蒸発させてセルロースアシレート23とする。
【0021】
本発明は、後処理工程24の前に濾過工程22を行なうことを特徴とする。濾過工程22では、所定の濾材を備えた濾過装置により二次セルロースアシレート19を濾過する。図2に示すように、濾材43は、フィルタ41と、このフィルタ41の上に位置する多孔質層42とからなる。フィルタ41は、多数の孔41aを有する面が二次セルロースアシレートの流れに対して直交するように設置され、二次セルロースアシレート19中の不純物を捕捉する他、ここでは主に珪藻土45の支持体として作用する。多孔質層42は、複数の珪藻土45をフィルタ41の上に堆積させたものである。珪藻土45は、平均粒径が5μm以上150μm以下のものが好ましく用いられ、各珪藻土45の間に空隙ができるように堆積させる。なお、図2における矢印は、二次セルロースアシレート19の流れを示す。
【0022】
二次セルロースアシレート19を濾材43に通過させると、珪藻土45の堆積により形成された空隙に二次セルロースアシレート19中に存在する不純物47が捕捉される。この空隙の大きさは珪藻土45の粒径に応じているため、ミクロンオーダーの不純物でさえも効果的に捕捉される。また、濾過時間が長くなるほど不純物47の堆積量が増えることにより空隙が増加するので濾過効率は向上する。
【0023】
フィルタ41は、孔41aの平均孔径が0.1μm以上50.0μm以下であるものが好適に用いられる。このように非常に微細な孔の場合には、目詰まりが発生しやすいと思われるが、本実施形態のように珪藻土45等の濾過助剤と併用すれば、目詰まりが抑制され、高い濾過精度を維持することができる。ここで、孔径が50.0μmを超えるようなフィルタでは、微細な不純物を捕捉することが難しいため不適である。一方で、孔径が0.1μmよりも小さいものでは、目詰まりし易い上に、濾過に要する時間が長くなり、濾過効率が低下するため好ましくない。なお、フィルタの材質は、耐久性の観点でいえば金属製が好ましいが、紙製でも良く特に限定されるものではない。
【0024】
高い濾過効率を実現し、またこれを維持する上で、濾材43に通過させる二次セルロースアシレートは、二次セルロースアシレートの全重量に対してセルロースアシレートの前駆体成分が含まれている割合が10重量%以下であることが好ましい。この割合は、濾過工程22が行なわれる前の段階で使用する各溶液の量により調整可能である。これにより、濾圧の上昇や濾過効率の低下が抑制される。セルロースアシレートの前駆体の含まれる割合はこの溶液の粘度の影響し、割合が低いほど上記の効果は向上する。ここで、上記の割合が10重量%を超えるような二次セルロースアシレート19は粘度が高いので濾圧が上昇する他、濾過に要する時間が長くなり濾過効率が低下する。なお、二次セルロースアシレート19の粘度は、市販の粘度計により求めることができる。
【0025】
なお、濾過助剤として珪藻土45を用いる方法は、本形態に限定されるものではなく、例えば、濾材43に通過させる前に、予め二次セルロースアシレート19中に珪藻土45を添加したものをフィルタ41に通過させる方法が挙げられる。この場合、図2と同様にフィルタ41の上に珪藻土45がランダムに堆積してなる多孔質層43が形成され、不純物47を効果的に捕捉することができる。
【0026】
〔不純物の含有率〕
二次セルロースアシレートにおける不純物の除去状況は、濾過前後の二次セルロースアシレートに含まれる不純物の含有率で判断することができる。本含有率の算出方法は、不純物の重さW0(g)、二次セルロースアシレートを濾過する前の濾材の重さW1(g)、二次セルロースアシレートを濾過した後、更に、例えば、ジクロロメタンとメタノールとを混合した濾材洗浄液で洗浄した濾材の重さW2(g)とを測定した後、下記式(1)で算出される値とする。
不純物の含有率(%)={(W2−W1)/W0}×100・・・・(1)
【0027】
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基の水素をアシル基で置換している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル置換度と称する)が下記式(I)〜(III)の全ての条件を満足するものがより好ましい。なお、(I)〜(III)において、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数3〜22のアシル基の置換度である。
2.5≦A+B≦3.0・・・(I)
0≦A≦3.0・・・(II)
0≦B≦2.9・・・(III)
【0028】
セルロースを構成しβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水素が炭素数2以上のアシル基に置換された重合体(ポリマー)である。なお、水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位および6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
【0029】
ここで、グルコース単位の2位のアシル置換度をDS2、3位のアシル置換度をDS3、6位のアシル置換度をDS6とする。DS2+DS3+DS6で求められる全アシル置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
【0030】
アシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBはその28%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換基であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位のDSA+DSBの値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶解性が好ましいドープや、粘度が低く、ろ過性がよいドープを製造することができる。特に非塩素系有機溶媒を用いる場合には、上記のようなセルロースアシレートが好ましい。
【0031】
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
【0032】
ドープの原料とするセルロースアシレートは、その90重量%以上が粒径0.1mm〜4mmの粒子であることが好ましい。
【0033】
なお、セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載は本発明にも適用することができる。
【0034】
ドープを製造するための溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン,トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン,クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール,エタノール,n−プロパノール,n−ブタノール,ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン,メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル,酢酸エチル,酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン,メチルセロソルブなど)などが例示される。なお、ここで、ドープとはポリマーを溶媒に溶解または分散媒に分散して得られるポリマー溶液または分散液である。
【0035】
TACの溶媒としては、これらの溶媒の中でも炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく、ジクロロメタンが最も好ましい。そして、TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フィルムの機械的強度、フィルムの光学特性等の特性の観点から、炭素原子数1〜5のアルコールを一種ないし数種類を、ジクロロメタンに混合して用いることが好ましい。このとき、アルコールの含有量は、溶媒全体に対し2重量%〜25重量%であることが好ましく、5重量%〜20重量%であることがより好ましい。アルコールの好ましい具体例としては、メタノール,エタノール,n−プロパノール,イソプロパノール,n−ブタノール等が挙げられるが、中でも、メタノール,エタノール,n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0036】
環境に対する影響を最小限に抑えることを目的にした場合には、ジクロロメタンを用いずにドープを製造してもよい。この場合の溶媒としては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いることがある。これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン及びエステルの官能基(すなわち、−O−,−CO−及び−COO−)のいずれかを二つ以上有する化合物も、溶媒として用いることができる。また、溶媒は、例えばアルコール性水酸基のような他の官能基を化学構造中に有するものであってもよい。
【0037】
ドープには、可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤、光学異方性コントロール剤、染料、マット剤、剥離剤等の添加剤を適宜使用しても良い。本発明に適用できる添加剤や溶媒の詳細についても、同じく特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、ドープの製造方法に関して、例えば、素材、原料、添加剤の溶解方法及び添加方法、濾過方法、脱泡等についても同様に、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0038】
次に、本発明に係るセルロースアシレートを使用してポリマーフィルムを製造する方法の一例を説明する。図3に示すように、本実施形態で使用するポリマーフィルム製造設備50は、流延室51と、渡り部52と、テンタ53と、乾燥室54と、冷却室55と、巻取室56とを備える。
【0039】
フィルムを製造する際には、先ず、ドープ製造設備60で調製されたドープがポンプP1により第1濾過装置61及び第2濾過装置62に送られる。このドープは、本発明に係るセルロースアシレートと溶媒と微粒子等の添加剤とを攪拌混合させたものである。また、第1濾過装置61の内部には、第2濾過装置62よりも孔径の小さい濾紙が備えられている。これによりドープの調製中に混入した不純物や不溶解物が、そのサイズの大小に係わらず効果的に取り除かれる。
【0040】
濾過後のドープは、流延室51内のフィードブロック65に送られる。フィードブロック65は、流延膜51の層構造に応じたドープの流路が形成されており、ここでドープの配置が決定される。例えば、複数の流路が形成されたフィードブロックを用いれば、複層構造のフィルムを製造することができる。この後、ドープは流延ダイ67に送られる。
【0041】
流延ダイ67は、ドープの吐出口が形成されており、この吐出口からドープが流延ドラム68の表面に流延される。流延ドラム68は支持体として作用し、駆動装置によりエンドレスで回転する。本実施形態では、円筒状若しくは円柱状のドラムを使用するが、例えば、無端で走行する流延バンドを用いても良い。この流延ドラム68の内部には、伝熱媒体の流路が形成されている。伝熱媒体供給装置70から流路に温度を調節した伝熱媒体が供給され、循環又は通過させることにより流延ドラム68の表面温度が−40℃以上30℃以下の範囲で略一定に保持される。流延に供するドープの温度は、−10〜55℃の範囲で略一定とされる。ドープの温度は、フィードブロック65や流延ダイ67の内部温度を調整する等して調節可能である。
【0042】
流延ドラム68の表面に到達したドープは冷却されて、短時間のうちにゲル状の流延膜71が形成される。流延ドラム68上に滞在する時間が長くなるほど、流延膜71のゲル化が進行して自己支持性が付与される。このように表面が冷却された流延ドラム68を用いる方法は、流延膜の形成時間を短縮することにより製膜速度の高速化が可能となる。自己支持性を持たせた流延膜71は、剥取ローラ80で支持されながら搬送方向に張力が付与されて流延ドラム68から剥ぎ取られ、湿潤フィルム81とされる。この流延時において、本実施形態で用いるドープは、不純物を効果的に取り除いたセルロースアシレートを用いているので、連続して製膜しても流延ドラム68の表面における汚れの生成が抑制される。このため、流延ドラム68から流延膜71を剥ぎ取る際の剥取性も低下しない。
【0043】
ドープを流延する間、減圧チャンバ73により流延するドープの背面、すなわち流延ドラム68の上流側の圧力を(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10Pa)以下の範囲で略一定とする。これにより、ドープは流延ドラム68の方へ引き寄せられることによりエアの巻き込みが防止される。また、流延室51の内部温度は、温調装置75により常時−10〜57℃の範囲で略一定に調整される。流延室51では、ドープや流延膜71から蒸発した溶媒ガスを凝縮器(コンデンサ)82により凝縮液化した後、回収装置80で回収される。回収された溶媒ガスは、回収装置83に接続される再生装置(図示しない)で不純物が取り除かれ、再生される。この溶媒をドープ調製用の溶媒として再利用すると、原料コストの低減を図ることができる。
【0044】
渡り部52では、湿潤フィルム81は複数のパスローラで支持し搬送される間に、乾燥装置84から所望の温度の乾燥風が吹き付けられることで乾燥が進められる。乾燥風の温度は20℃以上250℃以下の範囲で略一定とすることが好ましい。
【0045】
テンタ53では、湿潤フィルム81の両側端部に複数のピンが差し込まれ、湿潤フィルム81の両側端部が保持される。ピンは無端で走行するチェーンに取り付けられており、チェーンの動きに応じてテンタ53の内部を移動する。この間、図示しない乾燥装置から乾燥風が供給されて湿潤フィルム81の乾燥が促進されることによりフィルム88が得られる。テンタ53の出口付近では、ピンによるフィルム88の保持が解放される。
【0046】
テンタ53の下流には、複数のクリップを備えるクリップテンタを設置しても良い。クリップテンタは、その内部が区画され、区画ごとに温度が調節されているものが好ましい。この温度は、温調装置(図示しない)により120℃以上180℃以下の範囲で略一定に保持される。また、クリップテンタでは、フィルム88を搬送する間に、対面するクリップの間隔を拡縮することによりフィルム88の幅方向に対して張力を付与すれば、フィルム88の幅方向に対する分子配向を制御することができるので、所望とするレタデーション値のフィルム88が得られる。
【0047】
耳切装置89によりフィルム88の両側端部が切断される。フィルム88の切断片は、クラッシャ90に送られチップ状に粉砕される。なお、当該切除工程は省略することもできるが、欠陥の少ないフィルム88を得る上で流延室51から巻取室56までのいずれかで行うことが好ましい。
【0048】
乾燥室54では、フィルム88は複数のローラ93に巻き掛けられた状態で搬送される間に、温度調整装置94によりフィルム88の膜面温度が60℃以上145℃以下の範囲で略一定となるよう調整される。これにより、熱ダメージを与えることなくフィルム88を十分に乾燥することができる。フィルム88の膜面温度は、フィルム88の搬送路上かつ表面近傍に設けた温度計により容易にしることができる。また、乾燥室54では、フィルム88から揮発した溶媒ガスが吸着回収装置95で回収された後、溶媒成分が除去され、再度、乾燥室54に乾燥風として供給される。これにより、フィルム88の表面に溶媒ガスが付着せず、かつエネルギーコストの削減を図ることができる。なお、耳切装置89と乾燥室54との間に予備乾燥室(図示しない)を設けてフィルム88を予備乾燥すると、乾燥室54において発生するおそれのあるフィルム88の膜面温度の急激な上昇による形状変化を防止する効果が得られる。
【0049】
流延膜71やフィルム88の乾燥具合は、その残留溶媒量を目安として把握することができる。残留溶媒量は、残留溶媒量を測定したい対象物をサンプルとし、このサンプルの重量をx、サンプルを完全に乾燥した後の重量をyとするとき、{(x−y)/y}×100で算出される乾量基準での値とする。複数の溶媒を同時に使用する場合には、それらの溶媒の総和から残留溶媒量を算出する。
【0050】
冷却室55では、加熱された状態のフィルム88が略室温まで冷却される。また、乾燥室54と冷却室55との間に調湿室(図示しない)を設けてフィルム88を調湿した後に冷却すると、既にフィルム88の表面にしわが生じている場合でも、そのしわを効果的に伸ばす効果を得ることができるので好ましい。強制除電装置99によりフィルム88の帯電圧が調整される。フィルム88の帯電圧は特に限定されるものではないが、−3kV以上+3kV以下の範囲で略一定とすることが好ましい。この後、フィルム88の両側端部にはナーリング付与ローラ100によりエンボス加工が施されナーリングが付与される。そして、巻取室56において、フィルム88はプレスローラ105で押圧されながら巻取ローラ107で巻き取られる。
【0051】
以上により、平面性に優れ、不純物の少ないフィルム88を高速かつ安定して製造することができる。本発明によると、搬送方向に少なくとも100m以上であり、幅方向が1400〜2500mmであるフィルム88を連続的に製造することが可能である。ただし、本発明は、幅方向が2500mmよりも大きいフィルム88にも効果を発揮する。また、本発明は、完成後の厚みが20〜100μmであるような薄手のフィルムの製造にも効果を発揮する。より好ましくは、フィルムの厚みが20〜80μmであり、特に好ましくは、30〜70μmである。ただし、本発明は、完成したフィルム76の膜厚に、特に限定されるものではない。
【0052】
本実施形態では、1種類のドープを使用して単層構造のフィルムを製造する形態を示したが、本発明は複層構造のフィルムを製造する場合にも効果を発揮する。なお、複層構造のフィルムを形成する場合には、流延膜を形成する工程において逐次流延でも、同時に複数のドープを流延する方法でも良く、特に限定されるものではない。また、流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0053】
完成したフィルムの性能や、カールの度合い、厚み、及びこれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0054】
完成したフィルムを光学フィルムとして利用する場合、少なくとも一方の面を表面処理すると、その他の光学部材と貼り合せる際の接着性を向上させることができるため好ましい。表面処理としては、例えば、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理、アルカリ処理等が挙げられ、これらの中から少なくとも1つの処理を行うことが好ましい。
【0055】
また、本発明で得られるフィルムをベースとして、その両面或いは一方の面に所望の機能性層を設けると、機能性フィルムとして用いることができる。機能性層としては、例えば、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、光学補償層等が挙げられ、これらのうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。例えば、反射防止層を設けると、液晶表示装置等の画像反射防止効果を得ることができる機能性フィルムの反射防止フィルムを得ることができる。上記の機能性層は、界面活性剤や滑り剤、マット剤、帯電防止剤等の添加剤のうち少なくとも1種を含んでいることが好ましく、その場合の含有量は、0.1〜1000mg/mであることが好ましい。なお、フィルムに各種機能を付与するための機能性層や形成方法等は、特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0056】
本発明により得られるフィルムは、透明度やレタデーション値が高く、湿度依存性が低い。そのため、特に、偏光板の位相差フィルムとして好適に用いることができるが、偏光板の表面を保護するための保護フィルムとしても利用することができる。本発明のポリマーフィルムの具体的用途に関しては、特開2005−104148号公報において、例えば、[1088]段落から[1265]段落には、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この記載も本発明に適用させることができる。
【0057】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、ここに示す実施例及び比較例は、本発明の一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例1】
【0058】
セルロースアシレートの生成中に、所定の濾材で濾過したセルロースアシレート23を用いてドープを調製した。そして、フィルム製造設備50によりこのドープからフィルム88を製造した。セルロースアシレートは、木材を原料とするセルロース11を使用し、先ず、密閉容器にセルロース11を100重量部と酢酸を25重量部投入し、50℃に保温した状態で1時間攪拌することにより活性化セルロース15とした。次に、この活性化セルロース15にアシル化剤として無水酢酸を280重量部、酢酸を430重量部、触媒として硫酸を3重量部添加したものを1時間攪拌して一次セルロースアシレート16を生成させた。一次セルロースアシレート16にアルカリ性化合物である酢酸マグネシウムを24重量部添加して二次セルロースアシレート19とした。この二次セルロースアシレート19を濾過装置により濾過した。濾過装置は、濾材43として、多孔質のフィルタ41と、このフィルタ41の上に堆積させた複数の珪藻土45からなる多孔質層42とを有するものを使用した。このとき、二次セルロースアシレート19の全重量に対するセルロースアシレート成分の割合を15重量%とした。濾過した後の二次セルロースアシレート19に希酢酸水溶液を添加して沈殿物26を生成させた後、沈殿物26を水で洗浄し、乾燥させてセルロースアシレート23とした。
【0059】
〔ドープ原料〕
本実施例で調製したドープの原料並びに配合量は下記の通りである。
セルロースアシレート 100重量部ジクロロメタン 320重量部メタノール 83重量部1−ブタノール 3重量部可塑剤A 7.6重量部可塑剤B 3.8重量部UV剤a 0.7重量部UV剤b 0.3重量部クエン酸エステル混合物 0.006重量部
微粒子 0.05重量部
【0060】
ドープ原料の詳細を示す。上記のセルロースアシレートは、置換度2.84、粘度平均重合度306、含水率0.2重量%、ジクロロメタン溶液中の6重量%の粘度 315mPa・s、平均粒子径1.5mm、標準偏差0.5mmの粉体とした。また、可塑剤Aはトリフェニルフォスフェートであり、可塑剤Bはジフェニルフォスフェートとし、UV剤aは2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、UV剤bは2(2′−ヒドロキシ−3′,5′−ジ−tert−アミルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、クエン酸エステル化合物はクエン酸とモノエチルエステルとジエチルエステルとトリエチルエステルとの混合物、微粒子は平均粒径が15nmであり、モース硬度が約7の二酸化ケイ素とした。なお、ドープを調製する際には、レタデーション制御剤としてN−N−ジ−m−トルイル−N−P−メトキシフェニル−1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンを使用し、これをフィルムとしたときの全重量に対して4.0重量%となるように添加した。
【0061】
ドープ製造設備60から、ポンプP1により流量を調整しながらドープを孔径が40μmの濾紙を備えた第1濾過装置61、及び孔径が5μmの濾紙を備えた第2濾過装置62に送り、ドープに含まれる大小様々なサイズの不純物を除去した。濾過後のドープはフィードブロック65を介して流延ダイ68に送った。流延ダイ68は、幅が1.8mのスリット状の吐出口を流延ドラム68の幅と平行になるように設置した。また、流延ダイ68は、その内部温度を調整するためのジャケット(図示しない)を有するタイプを使用し、ドープの温度が36℃となるように保温した。なお、フィードブロック65やドープの流路である配管には温度調整機能を有するタイプを使用し、その内部温度を全て36℃に保温した。
【0062】
連続的に回転させた流延ドラム68の上に、乾燥後のフィルム88の厚みが80μmとなるように吐出量を調整しながらドープを吐出させた。流延ドラム68は駆動装置(図示しない)により回転数を制御することができるSUS316製のドラムであり、その内部に冷却媒体供給装置78から供給される冷媒の流路が形成されたタイプを使用した。そして、上記の流路に冷媒を供給し、これを循環させることで流延ドラム68の表面温度を−5℃とした。流延室51の内部は、温調装置75により常時35℃とした。以上により、流延ドラム68の表面においてドープを冷却ゲル化させることにより流延膜71を形成した。
【0063】
冷却ゲル化を進行させて自己支持性を持たせた流延膜71を剥取ローラ80で支持しながら流延ドラム68から剥ぎ取った。流延膜71を渡り部52に送り、複数のパスローラで支持し搬送する間に乾燥装置84から40℃の乾燥風を供給して乾燥させた。乾燥を促進させた流延膜71をテンタ53に送り、流延膜71の両側端部を複数のピンで固定した後、幅方向に徐々に延伸しながら搬送する間に、乾燥装置(図示しない)から乾燥風を供給した。これにより、流延膜71を幅方向に延伸させて分子配向を制御すると共に、残留溶媒量が1重量%になるまで乾燥を十分に促進させてフィルム88とした。テンタ53の出口から30秒以内にNT型カッタを備える耳切装置89を設けて、フィルム88の両側端部から内側に向かって50mmmの位置で切断した。切断したフィルム88の両側端部は、カッターブロワ(図示しない)によりクラッシャ90に送り、平均80mm程度のチップに粉砕した。
【0064】
耳切装置89と乾燥室54との間に予備乾燥室(図示しない)を設けて100℃の乾燥風を供給することによりフィルム88を予備加熱した後、乾燥室54へ搬入した。乾燥室54では、フィルム88の膜面温度が140℃となるように温度調整装置94で内部温度を調整した乾燥室54内を複数のローラ93に巻き掛けながら搬送する間に乾燥を促進させた。乾燥室54によるフィルム88の乾燥時間は10分とした。フィルム88の膜面温度は、フィルム88の搬送路の真上かつ表面近傍に設けた温度計(図示しない)を用いて測定した。また、乾燥室54では、活性炭からなる吸着剤と乾燥窒素からなる脱着剤とを有する吸着回収装置95を使用して、フィルム88から揮発した溶媒ガスを回収した後、水分量が0.3重量%以下になるまで溶媒ガスの水分を除去した。
【0065】
乾燥室54と冷却室55との間には調湿室(図示しない)を設けて、フィルム88に対して、温度50℃、露点20℃のエアを供給した後、直接的に90℃、湿度70%のエアを吹き付けて調湿し、フィルム88に発生しているカールを矯正した。次に、フィルム88を冷却室55に送り30℃以下になるまで徐々に冷却した後、強制除電装置99を用いてフィルム88の帯電圧を−3kV以上+3kV以下とした。そして、ナーリング付与ローラ100を用いてフィルム88の両側端部にナーリングの付与を行ない表面に生じている凹凸を矯正した。なお、フィルム88に付与するナーリングの幅を10mmとし、凹凸の高さがフィルム88の平均厚みよりも平均して12μm高くなるようにナーリング付与ローラによる押し圧を調整して、フィルム88にエンボス加工を行った。
【0066】
フィルム88を巻取室56に送り、プレスローラ105によりフィルム88に対して50N/mの押し圧を付与しながらφ169mmの巻取ローラ107で巻取った。巻取り時には、フィルム88の巻き始めの張力を300N/mとし、巻き終わりの張力を200N/mとした。以上より、完成したフィルム88の膜厚は80μmであった。なお、全工程を通じて、流延膜71やフィルム88の平均乾燥速度を20重量%/分とした。
【0067】
製膜開始から100時間経過した際の流延ドラム68の反射度、及び完成したフィルムに含まれる異物数を測定、評価することで本発明の効果を把握した。各評価方法の詳細は下記の通りである。
【0068】
〔支持体の反射度〕
製膜開始から100時間経過した際の流延ドラム68の反射度を下記の方法で求め、流延ドラム68の表面における汚れの生成度合いを評価した。図4に示すように、流延膜71を剥ぎ取った後の流延ドラム68の表面に対してハロゲン光を照射するための光源110と、反射光を測定するためのイメージセンサ111(竹中電子製IMS512)とを設けて、入射角θ1を20°としたときの反射角θ2における強度を測定した。ここで、製膜を開始する前の反射光強度であるXと、製膜開始から100時間が経過した後の反射光強度であるX100 とをそれぞれ測定し、各測定値を下記の式(2)に代入することで製膜開始から100時間経過後での流延ドラム68の反射度を求めた。なお、反射度は、100に近いほど流延ドラム68の表面に不純物の析出による汚れが生成していないことを意味し、その一方で、反射度が60%未満から0に近づくほど流延ドラム68の表面に不純物が析出して汚れが多量に生成していることを意味する。
支持体の反射度(%)=(X100 /X)×100・・・・(2)
【0069】
〔フィルムに含まれる異物数〕
完成したフィルム88に含まれる異物の数を測定し、不純物の含有している割合を評価した。異物の数は、完成したフィルム88を2枚の偏光板で挟み、この偏光板の偏光子が直角となるように重ね合せた状態で顕微鏡により観察し、孔径20μm以上の異物の数を測定した。ここで、異物数を観察する領域は幅1500mm×長さ1mとした。
【0070】
実施例1では、製膜開始から100時間経過後の流延ドラム68の反射度は80%であり、長時間、連続してフィルムを製造したにも係らず汚れの生成を十分に抑制することができた。また、異物は2個しか確認されず、不純物が非常に少ないフィルムであることを確認した。
【実施例2】
【0071】
実施例2では、セルロースアシレート成分の含まれている割合が10重量%である二次セルロースアシレート19を孔径が3μmの多孔質の濾材を用いて濾過する以外は全て実施例1と同様の方法でセルロースアシレート23を製造した。そして、このセルロースアシレート23を用いてフィルム88を製造したところ、100時間経過後の流延ドラム68の反射度は83%となり、長時間、連続してフィルムを製造したにも係らず汚れの生成を十分に抑制することができた。また、フィルム88には0.5個の異物しか確認されず、不純物が非常に少ないフィルムが得られた。
【実施例3】
【0072】
実施例3では、実施例1と同様にして調製したセルロースアシレート23を含むドープを、第1濾過装置61を使用せずに孔径が5μmの濾紙を備えた第2濾過装置62のみで濾過する以外は、全て実施例1と同様にしてフィルム88を製造した。すると、100時間経過後の流延ドラム68の反射度は83%となり、長時間、連続してフィルムを製造したにも係らず汚れの生成を十分に抑制することができた。また、フィルム88には3個の異物が確認されたが、製品としては問題のないレベルであった。
【実施例4】
【0073】
実施例4では、セルロースアシレート23を製造する際に、濾過助剤である珪藻土を使用せずに、孔径が50μmの多孔質の濾材のみを使用した以外は全て実施例1と同様にフィルム88を製造した。すると、100時間経過後の流延ドラム68の反射度は83%であり、長時間、連続してフィルムを製造したにも係らず汚れの生成を十分に抑制することができた。また、フィルムには3.5個の異物が確認されたが製品としては問題のないレベルであった。
【実施例5】
【0074】
実施例5では、セルロースアシレートを製造する際に、濾過助剤である珪藻土を使用せずに孔径が60μmの多孔質の濾材を用いて濾過した以外は全て実施例1と同様にセルロースアシレート23を製造した。そして、このセルロースアシレート23を用いてフィルムを製造したところ、100時間経過後の流延ドラム68の反射度は83%となり、長時間、連続してフィルムを製造したにも係らず汚れの生成を十分に抑制することができた。また、フィルムには4.5個の異物が確認されたが製品としては問題のないレベルであった。
【0075】
〔比較例1〕
全量に対する固形分の割合が15%の二次セルロースアシレート19を濾過することなく製造したセルロースアシレート23を用いて、実施例1と同様にフィルムを製造した。すると、100時間経過後の流延ドラム68の反射度は50%となり、汚れの生成を抑制することができなかった。また、フィルムには5個の異物が確認され、製品レベルを満足させることはできなかった。
【0076】
以上の結果から、本発明に係るセルロースアシレートを原料としたドープを使用して溶液製膜方法によりフィルムを製造すると、製造時間が長くなるにも係らず、支持体の表面において汚れの生成が抑制されることを確認した。したがって、本発明のようにセルロースアシレートを製造する途中で全量に対する固形分の含まれる割合が低い、すなわち粘度が低い二次セルロースアシレートを多孔質の濾材により濾過すると、濾圧の上昇や、濾過効率の低下を起こすことなく二次セルロースアシレートに含まれる不純物を効率良くかつ効果的に捕捉し除去することができるので、光学フィルムの原料として好適なセルロースアシレートが得られることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明に係わるセルロースアシレートの製造方法の説明図である。
【図2】本発明に係る濾過工程の一例の概略図である。
【図3】本実施形態で用いるフィルム製造設備の概略図である。
【図4】流延ドラムの反射度の測定に係る説明図である。
【符号の説明】
【0078】
10 セルロースアシレート製造工程
22 濾過工程
23 セルロースアシレート
43 濾材
45 珪藻土
47 不純物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する支持体上に、溶媒とセルロースアシレートとを含むドープを流延して流延膜を形成した後、前記支持体から前記流延膜を剥ぎ取った後、乾燥してフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記セルロースアシレートは、酸性触媒下でセルロースとアシル化剤とをエステル化反応させることにより生成するセルロースアシレート混合物を、多孔質の濾材に通過させることにより不純物を除去したものであることを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記濾材が、複数の濾過助剤であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記濾過助剤は、珪藻土であることを特徴とする請求項2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記濾材が、平均孔径を0.1μm以上50.0μm以下とする多数の孔が形成されたフィルタであることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記濾材に送られる前記セルロースアシレート混合物は、前記セルロースアシレート混合物の全重量に対して前記セルロースアシレートの含まれる割合が10重量%以下であることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−221564(P2008−221564A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−61596(P2007−61596)
【出願日】平成19年3月12日(2007.3.12)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】