説明

セルロースアシレートフィルムの製造方法

【課題】斜めムラの発生を抑制しながら、生産速度を向上させてフィルムを製造する。
【解決手段】表面を冷却させた流延ドラム34の上に、ポリマーを含む固形分と溶剤とからなる2種類以上のドープを共流延してゲル状の流延膜44を形成する。流延膜44は、流延ドラム34上で空気に面する表層44aと表層44a及び流延ドラム34に接した内層44dとを有し、この内層44dは基層44bと支持体層44cとからなる。表層ドープ70aの固形分濃度C1を18重量%以上20重量%以下の範囲とし、基層ドープ70bの固形分濃度C2よりも2重量以上5重量%以下で低くする。また、表層44aの厚みが流延膜44の総厚みの2%以上10%以下とする。これにより、表層44aでの有効なレベリング効果が得られ斜めムラの発生が抑制される。この流延膜44を流延ドラム34から剥ぎ取り乾燥して得られるフィルムは優れた光学特性を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光板の保護フィルムや光学補償フィルム、視野角拡大フィルム等、各種光学フィルムとして利用されるセルロースアシレートフィルムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
セルロースアシレートフィルムは、強靭であり、また透明度が高い等の特長を有するため、古くから写真感光用フィルム等に利用されている。最近では、セルロースアシレートの中でも酢化度が平均して57.5〜62.5%程度のセルローストリアセテート(TAC)を原料としたフィルムが、上記の特徴に加えて取り扱い性が良好であって光学的等方性等に優れることから、液晶表示装置における偏光板の保護フィルムや視野角拡大フィルム、或いは光学補償フィルム等の各種光学フィルムとして盛んに利用されており、液晶表示装置の発展に伴って、その需要が著しく増大している。
【0003】
セルロースアシレートフィルムは、一般に溶液製膜方法で作られている。溶液製膜方法とは、エンドレスで走行させた支持体の上に、流延ダイの吐出口からポリマー及び溶媒を含むドープを流延して流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥ぎ取り乾燥してフィルムとする方法である。
【0004】
ところで、セルロースアシレートフィルムには、液晶表示装置の軽量化・薄型化に伴って薄手化が要求されている。また、セルロースアシレートフィルムの著しい需要の増大を受けて、溶液製膜方法には、生産性を向上させて薄手のフィルムを製造することができる技術の構築が望まれている。そこで、溶液製膜方法では、生産性の向上を目的として生産速度を上げるための様々な工夫が行われている。例えば、流延膜の乾燥速度やドープの流延速度を上げる試みが挙げられる。しかし、流延膜の乾燥速度を向上させるために強く乾燥風を吹き付けたり、ドープの流延速度を上げたりすると、風の影響を受けたり、ドープの流延が安定しないため、流延膜の表面には、その走行方向に対して斜めに厚みムラ(以下、斜めムラと称する)が生じる。この斜めムラは、フィルムを薄手にするほど顕著に現れるが、斜めムラが生じればフィルムの面状を悪化させるだけでなく、光学特性を著しく低下させるので問題である。
【0005】
そこで、斜めムラの発生を防止しながら薄手のフィルムを製造する方法として、例えば、特許文献1には、流延膜に対してその上流及び下流側から当たる風の最大風速、及び流延膜の全幅領域に当たる風の強さの偏差を所定の範囲で調節し、支持体の走行速度を調節する方法が提案されている。また、例えば、特許文献2には、所定の構造を持つリン酸エステル系界面活性剤を入れたドープを流延して流延膜を形成し、かつ流延直後を無風状態とすることで、流延膜の表面におけるレベリング効果を向上させる方法が提案されている。このレベリング効果は表面張力により平滑化することを意味し、この効果が高いほど斜めムラの発生を防止することができる。この他にも、例えば、特許文献3には、減圧チャンバで流延ビードの背面を所定の範囲で減圧し、かつ流延ビード付近のガス濃度を80%以下とすることにより気化した溶剤の液化を防止して斜めムラの発生を抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2002−028943号公報
【特許文献2】特開平4−320203号公報
【特許文献3】特開2006−264027号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1〜3のように、乾燥風で流延膜を乾燥させる方法では、流延膜の表面に対する乾燥風の影響を十分に防止することができないので、良好なレベリング効果を得ることが難しい。また、特許文献2は、流延直後を無風状態とするので流延膜の乾燥不足が懸念される。乾燥不足が生じた箇所は、流延膜を剥ぎ取った後の支持体上に剥げ残りとして残る。このような支持体を用いて製膜を続ければ、流延膜の表面が汚れるだけでなく剥取性の低下により高速化が阻害される。そして、特許文献3のように、減圧チャンバだけで斜めムラの発生を抑制する方法では、近年求められている生産速度の高速化に対応することができないため改善が必要である。
【0007】
そこで、本発明は、上記の問題に鑑みて、流延膜の表面における斜めムラの発生を抑制しながらも生産速度の向上を図り、面状に優れる薄手のフィルムを製造することができるセルロースアシレートフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のセルロースアシレートフィルムの製造方法は、表面が冷却されたエンドレス走行の支持体の上に、支持体の上に設置した流延ダイよりポリマー及び添加剤からなる固形分と溶媒とからなるドープを流延してゲル状の流延膜を形成した後、この流延膜を支持体から剥がして乾燥しフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、流延膜となったときに支持体上で空気に面する表層を形成するための第1ドープの固形分濃度を、18重量%以上20重量%以下の範囲として、表層及び支持体に接する内層を形成するための第2ドープの固形分濃度よりも2重量%以上5重量%以下だけ低くし、第1ドープ及び第2ドープを流延ダイに送り共流延又は逐次流延し、表層の厚みが流延膜の総厚みの2%以上10%以下であることを特徴とする。
【0009】
支持体の表面温度が−12℃以上0℃以下であることが好ましい。
【0010】
乾燥後のフィルムの厚みが30μm以上80μm以下であることが好ましい。
【0011】
支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その走行速度が60m/分以上であることが好ましい。
【0012】
内層が表層に接する基層と支持体に接する支持体層とから構成されることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、流延膜の表面における斜めムラの発生を抑制しながらも生産速度の向上を実現し、面状に優れる薄手のフィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に関わる実施形態を示して、本発明の詳細を説明する。ただし、ここに示す形態はあくまで本発明の一例であり、本発明を限定するものではない。
【0015】
図1に示すように、本実施形態で使用するフィルム製造設備10は、流延室12と、渡り部13と、テンタ14と、乾燥室16と、冷却室18と、巻取室19等から構成されている。
【0016】
流延室12は、支持体上にドープを流延して流延膜を形成するためのものであり、フィードブロック30が取り付けられた流延ダイ31と、減圧チャンバ32と、伝熱媒体循環装置33と、流延ドラム34と、凝縮器(コンデンサ)35と、剥取ローラ36等が備えられている。また、流延室12の外部には温調設備37が取り付けられており、流延室12の内部温度が所定の範囲で略一定に保持される。
【0017】
フィードブロック30は、配管L1〜L3を介してドープ製造設備40と接続されており、適宜送られてくるドープを流延膜の層構造に応じて所望の配置で合流させる。本実施形態では、支持体の上で流延膜となったときに、支持体から最も遠くに存在し空気に面する表層と、支持体に接する層(内層)であって表層に接する基層と、基層と流延ドラム34とに接する支持体層からなる流延膜を形成する。各配管のうち、配管L1は基層を形成するための基層ドープ、L2は支持体層ドープ、L3は表層ドープの流路となる。
【0018】
流延ダイ31は、流延ドラム34に対して開口したスリット状の吐出口を有しており、この吐出口から流延ドラム34の上に各ドープを流延する。本発明におけるドープとは、ポリマーや添加剤からなる固形分と溶媒とを含む混合液である。ドープの流延及びその調製に関しては後で詳細に説明する。本実施形態の流延ダイ31には、その吐出口の両端に溶媒供給装置(図示しない)が取り付けられている。この溶媒供給装置は、ドープを可溶化させる溶媒を吐出口と流延ドラム34との間に形成される流延ビードの両端部及び吐出口と外気との気液界面に供する。上記の溶媒としては、例えば、ジクロロメタン86.5重量部、メタノール13重量部、n−ブタノール0.5重量部の混合溶媒が挙げられる。溶媒を供給する際には、脈動率が5%以下のポンプを用いることが好ましい。これにより吐出口からドープを流延している間、ドープの局所的な乾燥を抑制して安定した流延ビードを形成することができる。上記の溶媒の供給量は特に限定されないが、ドープの乾燥を抑制し、流延膜44の中にドープの固化物等の異物を混入させない上で、吐出口端部の片側ごとの供給量が0.1〜1.0mL/分であることが好ましい。
【0019】
減圧チャンバ32は減圧装置32aに接続されており、減圧度を調節しながら流延ビードの背面部を減圧する。流延ビードの背面の減圧度は(大気圧−2000Pa)以上(大気圧−10)Pa以下とすることが好ましい。
【0020】
流延ドラム34は支持体として作用し、図示しない駆動装置により連続的に回転する。流延ドラム34の内部には、伝熱媒体循環装置33から所定の温度に調節された伝熱媒体が送られる伝熱媒体流路(図示しない)が形成されており、この伝熱媒体を循環させることで、流延ドラム34の表面温度は所定の範囲に保持される。また、耐腐食性や耐熱性等の観点からはその材質が金属製であるものが好ましい。中でも、ステンレス製であってSUS316製の金属ドラムが好適である。なお、本発明では、流延ドラム34に代わる支持体として、回転ローラに掛け渡されて無端で移動する流延バンドを用いても良い。
【0021】
ドラム及びバンドとその形態に係わらず、支持体の幅はドープの流延幅の1.05倍〜1.5倍の範囲のものが好ましい。また、平面性に優れる流延膜を形成させる上で、流延ドラム34の周面はその表面粗さが0.05μm以下となるように研磨されたものが好ましく、その表面欠陥が最小限に抑制されたものが好ましい。具体的には30μm以上のピンホールを皆無とし、10μm以上30μm未満のピンホールを1個/m以下とし、10μm未満のピンホールを2個/m以下とすることが好ましい。
【0022】
凝縮器(コンデンサ)35は、流延室12の内部に浮遊している溶媒ガスを凝縮液化して回収する。溶媒ガスは、ドープや流延膜中の溶媒が揮発して生成したものである。凝縮液化した溶媒は回収装置43に送られた後、図示しない再生装置で再生されてドープ調製用の溶媒として再利用される。剥取ローラ36は、流延ドラム34から流延膜44を剥ぎ取る際に、この流延膜44を支持する。ここで流延ドラム34から流延膜44を剥ぎ取ることにより溶媒を含んだ湿潤フィルム47が形成される。
【0023】
渡り部13は、複数のローラと送風装置13aとで構成されており、各ローラで湿潤フィルム47を支持し搬送する間に、送風装置13aから乾燥風を供給して湿潤フィルム47の乾燥を促進させる。
【0024】
テンタ14は、その内部に複数のピンを備えたピンプレートと乾燥風を供給するための乾燥装置(共に図示しない)とが備えられており、湿潤フィルム47の両側端部に各ピンを差し込み固定した後、搬送する間に乾燥をよりいっそう促進させる。
【0025】
テンタ14の下流には、カッタを備えた耳切装置48が設置されており、ここで湿潤フィルム47の両側端部が切断される。また、耳切装置48にはクラッシャ49が接続されており、上記の切断片をチップ状に粉砕する。
【0026】
乾燥室16には、多数のローラ50と、乾燥風を供給するための送風装置(図示しない)とが備えられており、各ローラ50に湿潤フィルム47を巻き掛け搬送する間に、乾燥を十分に促進させてフィルム51とする。また、乾燥室16の外部には吸着回収装置53が接続されており、乾燥室16中に存在する溶媒ガスを含んだ空気を回収し、溶媒成分を取り除いた後に、再び乾燥風として乾燥室16の中に供給する。
【0027】
冷却室18は、乾燥室15で加熱されたフィルム51を略室温まで冷却する。フィルム51を冷却する方法は特に限定されず、略室温とした室内にフィルム51を放置して自然に冷やしても良いし、冷熱や冷却風を供給して人為に冷やしても良い。冷却室18の下流に設置されている強制除電装置(除電バー)52は、フィルム51の帯電圧を所定の範囲(例えば、−3kV〜+3kV)とする。ナーリング付与ローラ53は、フィルム51にナーリングを付与する。巻取室19には、フィルム51を巻き取るための巻取装置55とフィルム51に押圧を付与するための押圧ローラ56とが備えられている。
【0028】
次に、上記のフィルム製造設備10の作用について説明する。
【0029】
ドープ製造設備40から各配管L1〜L3を通じてフィードブロック30の中に表層ドープ、基層ドープ、支持体層ドープの3種類のドープが送られる。フィードブロック30で各ドープを合流させた後、流延ダイ31から流延ドラム34の上に3層で流延する。流延ドラム34の表面は−12℃〜0℃の範囲で略一定に保持することが好ましい。流延ドラム34上にて流延ビードが冷却され、短時間の内にゲル状の流延膜44が形成される。流延膜44は流延ドラム34の回転に伴い移動する。この移動中に冷却されることでゲル状が進行し流延膜44に自己支持性が付与される。これにより生産速度の高速化が可能となる。ここで、流延ドラム34とドープとの温度差を小さくするほどドープが効果的に冷やされるので流延膜の形成時間が短縮される。なお、冷却ゲル化により流延膜を形成させれば、乾燥風等により流延膜が自己支持性を持つまで乾燥する方法に比べて乾燥ムラがなく剥げ残りが発生し辛いので剥取性が向上する。
【0030】
流延ドラム34の回転速度は60m/分以上で保持されることが好ましい。これにより、生産速度を低下させずに安定した形状の流延ビード70を形成させて優れた平面性の流延膜44を得ることができる。なお、回転速度を大きくするほど、流延ドラム34の回転支持構造や高速回転時の同伴風抑制、或いは支持体自身の振動が生じるおそれがあるので、これらの程度を確認しながら回転速度を調節することが好ましい。支持体として流延バンドを用いる場合には、上記の回転速度は流延バンドの走行速度に等しい。なお、高速回転時における支持体の安定性は、流延バンドに比べて流延ドラムが優れており、本実施形態のように流延ドラムを用いれば、回転速度を80m/分以上として安定して流延膜44を形成することが可能である。また、温調設備37により流延室12の内部温度が、−10℃〜57℃の範囲で略一定に保持される。
【0031】
自己支持性を持たせた流延膜44は剥取ローラ36で支持されながら流延ドラム34から剥ぎ取られ湿潤フィルム47とされる。溶媒を多量に含んだ湿潤フィルム47は、渡り部13において乾燥が促進された後に、テンタ14に送られる。テンタ14では、湿潤フィルム47の両側端部にピンが差し込み固定した状態で搬送する間に乾燥を進める。ここで、対面するピンの間隔を調節することにより湿潤フィルム47の幅方向に対して張力を付与することができる。この張力の大きさを適宜調節すれば湿潤フィルム47の分子配向を好適に制御でき、結果として、所望のレタデーション値をフィルムに発現させることができる。
【0032】
本発明では、フィルムに光学特性を付与することを目的とし、必要に応じてクリップテンタを設置しても良い。クリップテンタとは、湿潤フィルム47の把持手段である多数のクリップと乾燥装置とを備えた延伸乾燥機を意味し、クリップで把持した湿潤フィルム47を搬送しつつ乾燥する間に、対面するクリップの間隔を拡縮させることにより湿潤フィルムの幅方向に張力を付与するものである。また、ピンやクリップ等の把持手段の形態に係わらず、テンタにおいて湿潤フィルム47の搬送速度や把持手段の搬送方向に対する間隔を調節すれば、湿潤フィルム47の搬送方向に張力を付与することができるので、搬送方向にかかる分子配向を制御してより好ましくレタデーション値を調節することが可能となる。なお、ピンテンタとクリップテンタとを併用する場合には、各装置を連続して用いる必要はなく、例えば、ピンテンタで乾燥を進めた湿潤フィルムを一旦ロール状に巻き取った後に、このロール状のフィルムをクリップテンタに供して後の工程を続けても良い。
【0033】
乾燥が進められた湿潤フィルム47は耳切装置48によりその両側端部が切断されてピンの突き刺しキズ等が取り除かれる。切断片はクラッシャ49に送られてチップ状に粉砕される。なお、このチップはフィルムの原料として再利用できるため、製造コストの低減が実現できる。
【0034】
乾燥室16では、各ローラ50に巻き掛けられて湿潤フィルム47が搬送される間に、その膜面温度が60〜145℃となるように加熱される。これにより、湿潤フィルム47の乾燥が十分に進められてフィルム51が得られる。上記の膜面温度は、フィルム51の搬送路の近傍に赤外線センサー等の温度計を設けることで測定可能である。この後、フィルム51は冷却室18で略室温まで冷却される。そして、強制除電装置52で帯電圧が所定の範囲に調節された後に、ナーリング付与ローラ53によりナーリングが付与される。
【0035】
巻取室19に送られたフィルム51は、押圧ローラ56でその中心方向に押圧されながら巻取装置55に巻き取られる。これにより、しわやつれがなく面状が良好なロール状のフィルムが製造される。巻き取るフィルム51は、搬送方向に少なくとも100m以上とすることが好ましく、その幅方向が1400〜2500mmであることが好ましい。ただし、本発明は幅方向が2500mmより大きい場合にも効果を得ることができる。また、乾燥後のフィルム51の厚みが30μm以上80μmであることが好ましい。なお、フィルム51の厚みは、流延膜の厚みを制御したり、湿潤フィルム47を延伸させる割合を調節したりすること等で制御可能である。
【0036】
次に、ドープの流延に係る詳細について説明する。図2に示すように、本実施形態で用いられるフィードブロック30の内部にはドープの流路60〜62が形成されており、各流路60〜62の入口には配管L1〜L3が順に接続されている。このため、先に説明した通り、ドープ製造設備から配管L1〜L3を通じて基層ドープ、支持体層ドープ、表層ドープがこの順でそれぞれ送られ、合流部64で合流した後に3層状態を維持して流延ダイ31の吐出口31aに送られる。
【0037】
図3に示すように、流延ダイ31によって3層状態が維持された表層ドープ70aと基層ドープ70bと支持体層ドープ70cとは、流延ダイ31の吐出口31aから流延ドラム34の上に共流延される。
【0038】
表層ドープ70aは、この中に含まれる固形分の濃度C1が18重量%以上20重量%以下の範囲であって、基層ドープ70bにおける固形分の濃度C2よりも2重量%以上5重量%以下で低くされたものが用いられる。
【0039】
このように固形分の濃度C1が調節された表層ドープ70aは非常に流動性が高く表層44aにおける高いレベリング効果が実現できる。このため、表層44aでの斜めムラの発生が効果的に抑制される。ただし、表層ドープ70aの濃度C1が21重量%を超えれば、流動性が低下するので、有効なレベリング効果が得られない。一方で、C1が18重量%未満では安定した流延ビードを形成させることが難しい。このため、いずれの場合も斜めムラを防止することが難しい。ここで、C1が所定の範囲を満たしていてもC2より5重量%を超えて低い場合には、両者の流動性に大きな差が生じて同時流延が困難となるおそれがあり、一方で、2重量%未満ではレベリング効果が発現されないおそれがあるので不適である。また、表層ドープ70aの濃度C1よりも基層ドープ70bの固形分の濃度C2を高くすることで安定した流延ビード70を形成される。このため、流延膜44における平面性の低下を防止する効果が得られる。
【0040】
より良好なレベリング効果を得るには、表層ドープ70aの粘度を30Pa・s以上60Pa・S以下とすることが好ましい。上記の粘度はドープのせん断粘度として測定された値である。なお、粘度は、公知の粘度計で測定すれば良い。
【0041】
図4に示すように、本実施形態で形成する流延膜44は、表層44aと基層44b及び支持体層44cからなる内層44dとから構成される。ここで、表層44aの厚みt1(μm)が流延膜44の総厚みt(μm)の2%以上10%以下とする。前述したような濃度範囲を満たすドープを使用し、かつ流延膜の総厚みに対する表層44aの割合を制御すれば、流延直後の表層44aにおける高いレベリング効果が得られるので斜めムラの発生が効果的に抑制される。ただし、上記の割合が10%を超えたり2%未満であれば、表層が厚すぎたりかえって薄すぎたりするので、有効なレベリング効果を得ることができない。流延膜44を構成する各層の厚みは、例えば、ドープの流量や流延ドラムの回転速度等を制御することで好適に調節することができる。また、上記の膜厚の割合は(t1/t)×100で算出される値である。
【0042】
なお、内層は複層である必要はなく単層でも良い。この場合には、本実施形態における基層44bのみからなるものを内層としてもよい。ただし、本実施形態のように支持体層44cを設ければ、ここに剥離促進剤等を含ませることにより剥取性向上等の効果を得ることができる。
【0043】
より高いレベリング効果を得る上で、表層44aの厚みt1と、基層44bの厚みt2(μm)、支持体層44cの厚みt3(μm)との間にはt3≦t1<t2の関係を成立させることが好ましい。また、このような支持体層44cを設ければ、剥げ残りの発生を抑制する有効な効果が得られる。ここで、t2<t1だと、流延膜44の形状が安定せずに取り扱いにくいほか、ゲル状になるまで時間がかかり生産性が低下する。支持体層44cの厚みは膜化できる範囲であれば良いのでt1<t3である必要はなく、更に、t1が薄すぎればレベリング効果が得られないので不適である。なお、流延膜44の幅方向の長さW(mm)は特に限定されるものではないが、通常は所望とする流延膜44の幅方向の長さWに応じて流延ドラム等の支持体の幅が決定される。
【0044】
本発明では、流延膜を形成する方法として本実施形態で示した共流延以外に、逐次流延も好適である。逐次流延を行う場合には、図5に示すように、流延ドラム34の上方であってその走行方向に向かって、使用するドープの数量等に応じて複数の流延ダイ80〜82を設置して各ドープを逐次に流出させれば良い。流延ドラム34の上には、逐次に層が積み重ねられ表層を最外層としその内側に基層と支持体層とを配した流延膜85が形成される。なお、流延ドラム34の温度や回転速度等、流延に係る条件は先の説明と同じであるため省略する。
【0045】
本発明のフィルムの製造に係る流延ダイ、減圧室、支持体等の構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶剤回収方法、フィルム回収方法まで、特開2005−104148号公報の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記述されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0046】
次に、本発明に係るドープについて説明する。
【0047】
本発明では、ドープの原料であるポリマーとして、セルロースをアセチル化して得られるセルロースアシレートが好適に用いられる。中でも、セルロースアセテート、特にアセチル化度の平均値が57.5%〜62.5%のセルローストリアセテート(TAC)が好ましい。TACからなるフィルムは透明度が高く、優れた光学特性を示す。上記のアセチル化度とは、セルロース単位重量当りの結合酢酸量を意味し、ASTM:D−817−91(セルロースアセテート等の試験方法)におけるアセチル化度の測定、及び計算に従って求めることができる。本実施形態では粒子状のTACを使用する。TACは、その90重量%以上が0.1〜4mmの粒子径であるものが好ましく、より好ましくは粒子径が1〜4mmのものである。
【0048】
セルロースアシレートは重合度が250以上450以下のものが好適に用いられる。重合度の違いはドープの粘度に関係しており、重合度の高いものほどドープの粘度が向上するため、選択的に重合度の異なるセルロースアシレートを用いればドープの粘度を調節することが可能となる。本発明では、表層ドープを形成する際、重合度が250以上350以下であるものとし、支持体層ドープには重合度が300以上450以下のセルロースアシレートを使用することが好ましい。
【0049】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター綿、パルプ綿のどちらから得られたものでも良い。なお、本発明で用いることができるセルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号公報の[0141]段落から[0192]段落に記載されており、本記載は本発明に適用することができる。
【0050】
本発明に係るドープには溶剤が含まれている。溶剤としては上記のポリマーを溶解させる化合物が好適に用いられる。具体的には、例えば、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン等)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコール等)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトン等)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)等が挙げられる。溶剤は、所望に応じて1種類、或いは2種類以上を混合させた混合溶剤を適宜選択し用いることができる。なお、本発明においてドープとは、ポリマーを溶剤に溶解または分散させることで得られるポリマー溶液または分散液を意味する。このため、溶剤は完全にポリマーを溶解させる必要はない。
【0051】
溶解度の高いドープを得る上では、上記の中でも疎水性の溶剤が好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。上記のハロゲン化炭化水素としては、炭素原子数1〜7のものが好ましく用いられる。ポリマーとしてはセルロースアシレートが好適に用いられるので、セルロースアシレートの溶解度、支持体から流延膜を剥ぎ取る際の剥ぎ取り易さ、フィルムの機械強度、光学特性等を考慮すると、ジクロロメタンに炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないしは数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、全溶剤に対して2〜25重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等が挙げられ、中でもメタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましい。
【0052】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えるため、ジクロロメタンを用いない溶媒組成も提案されている。この目的に対しては、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルが好ましく、これらを適宜混合して用いる。なお、これらのエーテル、ケトン及びエステルは、環状構造を有していてもよいし、エーテル、ケトン、及びエステルの官能基(すなわち、−O−、−CO−、及び−COO−)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶剤として用いることができる。また、溶剤は、アルコール性水酸基のような他の官能基を有していてもよい。そして、2種類以上の官能基を有する溶剤の場合には、その炭素原子数が、いずれかの官能基を有する化合物の規定範囲内であれば良く、特に限定はされない。
【0053】
また、ドープには添加剤が含まれている。添加剤としては、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、離型剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、この中から、目的に応じて1種類或いは複数種類が適宜選択される。
【0054】
上記の添加剤のうち、例えば、可塑剤としては、リン酸エステル系(例えば、トリフェニルホスフェート(以下、TPPと称する)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等)、フタル酸エステル系(例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート等)、グリコール酸エステル系(例えば、トリアセチン、トリブチリン、ブチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等)及びその他の可塑剤を用いることができる。この中で、セルロースアシレートをフィルムとするために特に好ましいものとしてはTPPが挙げられる。
【0055】
また、例えば、紫外線吸収剤としては、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物が好ましく用いられる例として挙げられる。中でも、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物が特に好ましい。なお、本発明で用いることができる溶剤や添加剤に関しては、特開2005−104148号公報の[0193]段落から[0513]段落に記載されており、本記載は本発明に適用することができる。
【0056】
添加剤の種類は同一でも異なるものでも良い。支持体層に接触する層を形成するためのドープの中には剥取性を向上させる上で、剥離促進剤(例えば、クエン酸エステル等)及びマット剤(例えば、二酸化ケイ素等)を入れることが好ましい。マット剤としては、粒状の二酸化ケイ素誘導体が好適である。二酸化ケイ素誘導体とは、二酸化ケイ素であって、三次元の網状構造を有するシリコーン樹脂も含まれる。二酸化ケイ素誘導体は、疎水化処理であるアルキル化処理が施されており、溶剤に対する分散性が良いので微粒子同士の凝集が抑制される。このため、凝集物による面状欠陥が少なく、かつ透明度が高いフィルムを得ることができる。
【0057】
アルキル化処理された微粒子の表面に導入されるアルキル基は、炭素数が1〜20とする。より好ましくは、導入されるアルキル基の炭素数が、1〜12であり、特に好ましくは、炭素数が1〜8である。このようなアルキル基が導入された微粒子では、微粒子同士の凝集をより抑制し、かつ分散性を向上させることができる。上記のように表面に炭素数が1〜20のアルキル基を有する微粒子は、例えば、二酸化ケイ素の微粒子をオクチルシランで処理することにより得ることができる。また、表面にオクチル基を有する二酸化ケイ素誘導体の一例としては、アエロジルR805(日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、本発明ではこれも好ましく用いることができる。このような原料ドープ122は、微粒子の凝集による異物の発生が抑制されるので透明度が高いフィルムが得られる。微粒子の平均粒径は、1.0μm以下が好ましい。より好ましくは、0.3〜1.0μmであり、特に好ましくは、0.4〜0.8μmである。
【0058】
本発明に用いることができる添加剤としては、上記のほかにも、例えば、光学異方性コントロール剤、染料等が挙げられるが、これらの添加剤に関しては、特開2005−104148号公報の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用させることができる。
【0059】
次に、ドープを製造する流れについて具体的に説明する。図6に示すように、本実施形態で用いられるドープ製造設備40は、溶剤タンク91と、ホッパ93と、混合タンク95と、加熱装置96と、温調装置97と、第1濾過装置99と、ストックタンク100と、フラッシュ装置102等とから構成されている。
【0060】
溶剤タンク91は、ドープの溶媒として作用する溶剤が入れられており、本実施形態では、予めジクロロメタン及びメタノールを所定の割合で混合したものが貯留されている。なお、複数の溶剤を用いる場合には混合物として用いる必要はなく、所望とする溶剤の種類に応じてタンクを用意し、適宜混合タンクに送れば良い。また、ホッパ93は、フィルムの原料となるポリマーが入れられており、本実施形態ではTACが貯留されている。
【0061】
混合タンク95は、ジャケット110と、第1攪拌機112と、第2攪拌機113等とで構成されている。ジャケット110は、混合タンク95の外面を包み込むようにして設けられており、その内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることにより混合タンク95の内部温度を調節する。第1攪拌機112及び第2攪拌機113は、モータ115,116によりそれぞれ回転し、混合タンク95内に送ったドープの原料を攪拌混合して混合液120とする。第1攪拌機112はアンカー翼が好ましく、第2攪拌機113はディゾルバータイプの偏芯型攪拌機が好ましい。このように異なるタイプの攪拌機を適宜選択しながら用いればドープの原料を効率良くかつ効果的に攪拌することができる。
【0062】
加熱装置96は、温調制御が可能なジャケット付き配管が好適に用いられ、混合液120を所定の温度範囲で加熱してポリマー等の固形分を溶媒に溶解させる。加熱装置96としては、溶解度を向上させる上で加圧手段を備えたものが好ましい。加熱装置96による混合液120の加熱温度は0〜97℃とすることが好ましい。これにより、熱ダメージを軽減しながら溶解度を向上させることができる。なお、本発明において、加熱装置96による加熱とは、室温以上の温度に混合液120を加熱するという意味ではなく、混合液120の温度を上昇させると言う意味である。例えば、加熱装置96に送られた時点での混合液120の温度が−7℃の場合には0℃にすることも加熱である。
【0063】
混合液120の溶解度を向上させるには、上記の加熱溶解に代えて冷却溶解を用いても良い。冷却溶解は、混合液120を−100〜−10℃に冷却させることにより溶解度を向上させるものである。なお、加熱溶解及び冷却溶解はドープの原料等に応じて適宜選択して行なうことにより混合液120の溶解度を好適に制御することができる。
【0064】
温調装置97には温度制御機能が備えられており、混合液120を略室温として原料ドープ122とする。本実施形態では、温調装置97を出た後の液を原料ドープ122と称する。本発明において原料ドープとは、溶解度を十分に高めた混合液120のことである。
【0065】
第1濾過装置99の内部には、多孔質のフィルタが備えられており、原料ドープ122をフィルタに通過させることで不溶解物等の異物を取り除く。フィルタは特に限定されるものではないが、効率良くかつ効果的に濾過を進める上で平均孔径が100μm以下のものが好ましい。また、濾過時間を長引かせずに異物を効率良く取り除く上では、第1濾過装置99による原料ドープ122の濾過流量を50L/時以上とすることが好ましい。本実施形態では、第2濾過装置105として、第1濾過装置99と同形のものを同一条件で使用する。そこで、濾過に関する説明は、第1濾過装置99で詳細に行なうものとし、第2濾過装置105に関しては説明を省略する。
【0066】
ストックタンク100は原料ドープ122を貯留するためのものであり、ジャケット124と、モータ125で回転する攪拌機126とが取り付けられている。ジャケット124は、その内部に温度を調節した伝熱媒体を通過させることによりストックタンク100の内部温度を所定の範囲で保持する。ストックタンク100の下方にはフィルム製造設備10に繋げられた配管L1〜L3が接続されている。
【0067】
各配管L1〜L3には、所望とする添加剤溶液131a、132a、133aが入れられた添加剤タンク131、132、133が接続されている。各配管内では、原料ドープと添加剤溶液とを混合することにより流延膜を構成する表層、基層、支持体層用のドープが別途調製される。本実施形態において配管L1、L2、L3では、この順で基層ドープ、支持体層ドープ、表層ドープが調製される。
【0068】
添加剤溶液131a〜133aは、添加剤と溶剤とを混合させた液である。この添加剤としては、所望とするフィルムの特性に応じて適宜選択されたものが用いられる。本発明の添加剤としては、先に説明したように、例えば、可塑剤、紫外線吸収剤、離型剤、剥離促進剤、フッ素系界面活性剤等が挙げられ、この中から、目的に応じて1種類或いは複数種類が適宜選択される。支持体層ドープを調製するための添加剤溶液131aには、粒状の二酸化ケイ素誘導体が入れられている。添加剤溶液を調製するための溶剤は特に限定されるものではないが、原料ドープ122との相溶性の観点から原料ドープ122と同じものが好ましい。また、添加剤溶液の送液量は、ポンプP4、P6、P8により調節される。
【0069】
配管L1〜L3に添加剤タンク131〜133が接続された地点より下流側には、スタティックミキサ136、137、138が設置されている。このスタティックミキサは、添加剤溶液が入れられた原料ドープ122を攪拌混合する。スタティックミキサとしては、長方形の板をねじったエレメントを内部に備えたものを用いれば、原料ドープ122中に添加剤溶液を効率良くかつ効果的に分散させることができるので好ましい。ここで攪拌速度や滞留時間を調節すれば原料ドープ122と添加剤溶液との混合具合を好適に制御することができる。混合具合を制御することにより原料ドープ122の粘度も調節可能である。なお、スタティックミキサの形状や構造等は特に限定されるものではなく、例えば、短冊状の複数の板を格子状に組み合わせることで形成されたエレメントを備えたスルーザーミキサを用いるといったことが考えられる。また、本実施形態では、いずれも同形のものを使用するが必ずしも同じものを用いる必要はない。
【0070】
ドープ製造設備40を構成する各部材は、耐食性や耐熱性に優れる等の利点からステンレス製の配管で接続されている。また、各配管には任意にポンプP1〜P8やバルブV1〜V3が取り付けられており、配管内に送られる原料ドープ等の流量が適宜調節される。なお、ドープ製造設備40に設置されるポンプやバルブの個数及び設置箇所等は、特に限定されず、適宜選択して用いれば良い。
【0071】
次に、上記のドープ製造設備40の作用について説明する。
【0072】
混合タンク95の中に溶剤タンク91から溶剤が送られると共に、ホッパ93からは適量のTACが送られる。溶剤及びポリマーを送る順序は限定されず、ポリマー、溶剤の潤でも良いし、同時に送っても良い。原料が送られた後、混合タンク95では、第1攪拌機112及び第2攪拌機113が回されて溶剤とTACとが攪拌される。これにより、原料を混ぜ合わせた混合液120が調製される。混合タンク95の内部温度はジャケット110の内部に流入する伝熱媒体の温度を調節して−10〜55℃の範囲で略一定に保持される。
【0073】
加熱装置96に送られた混合液120は所定の温度範囲で加熱され溶解度が高められる。この後、温調装置97により混合液120は略室温とされて原料ドープ122が得られる。原料ドープ122は、平均孔径が100μmのフィルタを備えた第1濾過装置99に送られて異物が取り除かれる。ここで、原料ドープ122の濃度が所望の値である場合には、ストックタンク100へ送られ貯留される。ストックタンク100では、モータ125で回転させた攪拌機126により原料ドープ122は常時攪拌され、均一な状態が保持される。なお、本実施形態のようにTACを使用する場合には、原料ドープ122中のTACの濃度は5〜40重量%であることが好ましく、より好ましくは15〜30重量%であり、特に好ましくは17〜25重量%である。
【0074】
上記のように、混合液120を作ってから、所望の濃度の原料ドープ122を調製する方法では、所望とする原料ドープ122の濃度が高いほど調製に要する時間が長くなり、製造コストが増大する等の問題が生じる。この問題を改善するには、所望とする濃度よりも低濃度の原料ドープ122を調製した後に所望の濃度まで濃縮させる方法が好ましい。本実施形態では、この方法を採用し、以下に、濃縮方法の詳細を説明する。
【0075】
前述の手順により所望とする値よりも濃度が低い原料ドープ122を調製する。第1濾過装置99で原料ドープ122の異物を取り除いた後に、バルブV2の開閉によりフラッシュ装置102に送る。フラッシュ装置102では、原料ドープ122に含まれている溶剤の一部を蒸発させて、原料ドープ122を所望の濃度にまで濃縮させる。これにより、短時間で高濃度のドープが調製できる。濃縮した原料ドープ122は、ポンプP2でフラッシュ装置102から抜き出した後に、第2濾過装置105を通過させて異物を取り除く。第2濾過装置105では、原料ドープ122の温度を0〜200℃とすることが好ましい。濾過後の原料ドープ122は、必要となるまでストックタンク100に貯留される。原料ドープ122から蒸発した溶剤ガスは、凝縮器(図示しない)で凝縮液化させた後に回収装置103で回収される。この後、再生装置104で再生された溶剤をドープの調製に用いると、原料コストの削減を図ることができる。なお、原料ドープ122をフラッシュ装置102から抜き出す際には、原料ドープ122の中に発生した気泡を抜くため、泡抜き処理を施すことが好ましい。泡抜き処理の方法としては、公知の方法を適用することができ、例えば、超音波照射法が挙げられる。
【0076】
本実施形態では、上記のようにして調製した原料ドープに対して適宜添加剤溶液を入れることにより流延に供するドープを調製する。流延に供する場合、適量の原料ドープ122がストックタンク100から各配管L1〜L3内に送られる。なお、各配管内でドープを調製する手順は同じであるため、ここでは配管L1内で基層ドープを調製する手順について説明する。
【0077】
先ず、バルブV3の開閉が調節されてストックタンク100と配管L1とが繋げられる。ストックタンク100から配管L1内に適量の原料ドープ122が送られる。原料ドープ122の流量はポンプP3で調節される。配管L1内の原料ドープ122に対して添加剤タンク132から添加剤溶液132aが送られる。添加剤溶液132aの流量はポンプP4で調節される。添加剤溶液132aが入れられた原料ドープ122はスタティックミキサ137で攪拌される。この後、スタティックミキサ137の下流側に設置された濾過装置(図示しない)により原料ドープ122中の異物が取り除かれる。これにより均質な基層ドープが得られる。
【0078】
添加剤溶液における溶剤の割合を調節すれば、各ドープ中の固形分の濃度や粘度を調節することができる。添加剤は原料ドープの調製時に添加させても良い。また、完成したフィルムの特性及びフィルムを製造する工程での取り扱い性等を考慮すれば、ドープ中に添加剤として可塑剤、紫外線吸収剤及び微粒子を含ませることが好ましい。このとき、フィルム中に含まれるセルロースアシレートの全重量に対して可塑剤の占める割合は3重量%以上20重量%以下とし、紫外線吸収剤は1×10−3重量%以上5重量%以下とし、微粒子は1×10−3重量%以上5重量%以下とすることが好ましい。原料ドープ122中に添加剤を含ませる方法は特に限定されない。例えば、固体の添加剤を用いる場合には、ホッパで配管内を流れる原料ドープに入れても良いし、常温で液体の添加剤を用いる場合には、溶剤を使用せずにそのままの状態で入れれば良い。
【0079】
本発明に係わるドープの製造方法(例えば、素材、原料の溶解方法、及び添加方法、濾過方法、脱泡等)は、特開2005−104148号公報の[0517]段落から[0616]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0080】
[性能・測定法]
(カール度・厚み)
本発明で得られるフィルムの性能及びそれらの測定法は、特開2005−104148号公報の[1073]段落から[1087]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0081】
[表面処理]
また、完成したフィルムの少なくとも一方の面には、表面処理されていることが好ましい。この表面処理は、真空グロー放電処理、大気圧プラズマ放電処理、紫外線照射処理、コロナ放電処理、火炎処理、酸処理またはアルカリ処理の少なくとも一種であることが好ましい。
【0082】
[機能層]
(帯電防止・硬化層・反射防止・易接着・防眩)
完成したフィルムの少なくとも一方の面は下塗りされていても良い。
【0083】
また、本発明に係わるフィルムをベースとして他の機能性層を付与した機能性材料として用いることが好ましい。機能性層としては、帯電防止層、硬化樹脂層、反射防止層、易接着層、防眩層、及び光学補償層のうち、少なくとも1層を設けることが好ましい。そして、この機能性層は、少なくとも一種の界面活性剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の滑り剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましい。機能性層は少なくとも一種のマット剤を0.1〜1000mg/m含有することが好ましく、少なくとも一種の帯電防止剤を1〜1000mg/m含有することが好ましい。なお、フィルムに対して様々な機能、特性を実現するための表面処理機能性層の付与方法は、上記以外にも特開2005−104148号公報の[0890]段落から[1072]段落に詳細な条件、方法も含めて記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0084】
本発明で得られるフィルムの用途について説明する。当該フィルムは、平面性に優れると共に、優れた光学特性を有することから、偏光板の保護フィルム等として有用である。このフィルムを偏光子に貼り合わせた偏光板を液晶層に2枚貼ることにより作製した液晶表示装置は、液晶表示能力に優れる等の特長を示す。ただし、液晶層と偏光板との配置は限定されるものではなく、公知の各種配置とすることができる。特開2005−104148号公報には、例えば、[1088]段落から[1265]段落に、液晶表示装置として、TN型、STN型、VA型、OCB型、反射型、その他の例が詳しく記載されており、この方法も本発明に適用させることができる。また、同出願には光学的異方性層を付与したフィルムや、反射防止、防眩機能を付与したフィルムについての記載、適度な光学性能を付与した光学補償フィルムとしての用途も記載されている。これらの記載も本発明に適用させることができる。
【0085】
以下、本発明に係る実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。なお、ここに示す実施例はあくまで本発明に係る一例であって本発明を限定するものではない。したがって、下記の実施例における材料、割合、操作等は、本発明の精神から逸脱しない限り適宜変更することができる。なお、各工程等の詳細は実施例1で説明し、その他の例では、実施例1と異なる箇所のみ記載する。
【実施例1】
【0086】
本実施例では、先ず、ドープ製造設備40(図5参照)により、表層ドープ、基層ドープ、支持体層ドープからなる流延用ドープを調製した。
【0087】
〔表層ドープ〕
下記の原料を混合して、ドープ中に含まれる固形分の濃度C1が19.5重量%である表層ドープを調製した。ここで、溶剤としてはジクロロメタンとメタノールとを予め混合した混合溶剤を使用した。また、添加剤であるレタデーション制御剤と微粒子とは、予めジクロロメタンとメタノールとの混合溶剤の一部に分散させた添加材溶液の状態で原料ドープに添加した。
【0088】
・TAC(酢化度60.8、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度250mPa・s) 100重量部
・ジクロロメタン 400重量部
・メタノール 60重量部
・化1に示すレタデーション制御剤 11.5重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0089】
【化1】

【0090】
溶剤タンク91及びホッパ93から混合タンク95に適量の混合溶剤及びTACを送り、これを第1、第2攪拌機32,33で攪拌混合させて混合液120を調製した。加熱装置96で混合液120の溶解度を向上させた後に、温調装置97で略室温として濃縮前の原料ドープを得た。この原料ドープを第1濾過装置99で濾過した後、バルブV2を切り替えてフラッシュ装置102に原料ドープを送り、ここで溶剤を蒸発させた。これにより、所望の濃度まで濃縮した原料ドープを得た。ポンプP2を用いてフラッシュ装置102から濃縮後の原料ドープを抜き出した後、超音波照射法で泡抜き処理を施した。そして、第2濾過装置105で原料ドープを濾過し、その内部に含まれていた異物を取り除いた後、ストックタンク100に送り、貯留した。ポンプP7で原料ドープ122の流量を調節しながら、ストックタンク100から配管L3内に適量の原料ドープ122を送った。この原料ドープ122の中に添加剤タンク133から適量の添加剤溶液133aを入れ、スタティックミキサ138で攪拌混合し表層ドープとした。
【0091】
〔基層ドープ、支持体層ドープ〕
下記の原料を用いる以外は表層ドープと同じ方法を用いて、配管L1内で基層ドープを、また、配管L2内では支持体層ドープをそれぞれ調製した。基層ドープ及び支持体層ドープにおける固形分の濃度C2は22.0重量%であった。
【0092】
・セルローストリアセテート(置換度2.86(酢化度60.8)、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度 400mPa・s) 100重量部
・ジクロロメタン 355重量部
・メタノール 40重量部
・化1に示すレタデーション制御剤 11.5重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
【0093】
次に、フィルム製造設備10により各ドープを用いてフィルム51を製造した。先ず、流延用ドープをフィードブロック30で所望の配置となるように合流させた後、流延ダイ31の吐出口から連続して走行させた流延ドラム34の上に流延した。流延ドラム34は、伝熱媒体循環装置33から供給する伝熱媒体の温度を調節することによりその表面温度TSを−7℃とした。
【0094】
流延ドラム34の上で流延ビードを冷却させて流延膜44を形成した。流延用ドープの各流量を調節して、流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を5%とした。また、表層と、基層の厚みt2と、支持体層の厚みt3との間にt3≦t1<t2の関係を成立させた。十分に冷却して自己支持性を持たせた流延膜44を流延ドラム34から剥ぎ取って湿潤フィルム47を形成した。この湿潤フィルム47は渡り部13及びテンタ14により乾燥した。乾燥室16では、多数のローラ50に湿潤フィルム47を巻き掛け搬送する間に、乾燥風を供給し十分に乾燥させてフィルム51とした。冷却室18で略室温まで冷やしたフィルム51に対し、強制除電装置52で帯電圧を調節した後、ナーリング付与ローラ53でナーリングを付与した。巻取室19では、押圧ローラ56で押圧しながらフィルム51を巻取装置55にて巻取った。完成したフィルム51の残留溶剤量は0.4重量%であり、厚みは70μmであった。
【0095】
完成したフィルムをサンプルとして、下記の方法によりフィルムの表面における斜めムラの発生具合を観察した。このとき、スジ状の変形がなく斜めムラが確認されないものを◎、若干のスジ状の変形による斜めムラは確認されたが製品として問題のないものを○、多量のスジ状の変形による斜めムラが確認され、製品として問題であるものを×として、3段階で評価した。また、目視により流延膜を剥ぎ取った後の流延ドラムの表面における剥げ残りの発生具合を観察した。このとき、流延ドラムの表面に剥げ残りが確認されなかった場合を○、剥げ残りが確認された場合を×として、2段階で評価した。なお、本評価方法は、後述の実施例及び比較例に適用した。
【0096】
実施例1では、斜めムラは確認されず(◎)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例2】
【0097】
実施例2では、表層ドープの濃度C1を20.0重量%とした以外は全て実施例1と同じにしてフィルム51を製造した。その結果、実施例2では、若干の斜めムラは確認されたが(○)、流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかった(○)。
【実施例3】
【0098】
実施例3では、表層ドープの濃度C1を19.5重量%とし、更に、流延ドラム34の表面温度TSを−5℃とした以外は全て実施例1と同じにしてフィルム51を製造した。その結果、実施例3では、斜めムラは確認されず(◎)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例4】
【0099】
実施例4では、表層ドープの濃度C1を20.0重量%とし、流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を3%とした以外は全て実施例1と同様にフィルム51を製造した。その結果、実施例4では、斜めムラは確認されず(○)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例5】
【0100】
実施例5では、表層ドープの濃度C1を20.0重量%とし、また、流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を8%にする以外は全て実施例1と同様にフィルム51を製造した。その結果、実施例5では、斜めムラは良好であったが(○)、その一方で流延ドラムの上において剥げ残りが確認された(×)。
【0101】
〔比較例1〕
比較例1では、表層ドープの濃度C1を23.0重量%とした以外は全て実施例1と同様にフィルムを製造した。その結果、多量のスジ状の変形による斜めムラが確認され、製品として問題であった(×)。その一方で、流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかった(○)。
【実施例6】
【0102】
表層ドープ、基層ドープ、支持体層ドープを以下のものに代えたこと以外は、実施例1と同様にしてフィルム51を製造した。
【0103】
〔表層ドープ〕
下記の原料を混合して、ドープ中に含まれる固形分の濃度C1が19.6重量%である表層ドープを調製した。ここで、溶剤としてはジクロロメタンとメタノールとブタノールとを予め混合した混合溶剤を使用した。また、添加剤であるレタデーション制御剤と微粒子とは、予めジクロロメタンとメタノールとブタノールとの混合溶剤の一部に分散させた添加材溶液の状態で原料ドープに添加した。
【0104】
・TAC(酢化度60.8、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度250mPa・s) 100重量部
・可塑剤1 TPP(トリフェニルホスフェート) 8重量部
・可塑剤2 BDP(ビフェニルジフェニルホスフェート) 4重量部
・化2に示すレタデーション制御剤 5重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
・UV剤1 2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール 0.3重量部
・UV剤2 2−(2‘−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7重量部
・ジクロロメタン 405重量部
・メタノール 75重量部
・ブタノール 4重量部
【0105】
【化2】

【0106】
〔基層ドープ、支持体層ドープ〕
下記の原料を混合して、ドープ中に含まれる固形分の濃度C2が22.0重量%である基層ドープ、支持体層ドープを調製した。各ドープの調製方法は、表層ドープと同じ方法を用いた。
【0107】
・TAC(酢化度60.8、粘度平均重合度305、ジクロロメタン溶液6重量%の粘度250mPa・s) 100重量部
・可塑剤1 TPP(トリフェニルホスフェート) 8重量部
・可塑剤2 BDP(ビフェニルジフェニルホスフェート) 4重量部
・化2に示すレタデーション制御剤 5重量部
・微粒子(二酸化ケイ素(平均粒径15nm)、モース硬度 約7) 0.05重量部
・UV剤1 2−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール 0.3重量部
・UV剤2 2−(2‘−ヒドロキシ−3、5−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール 0.7重量部
・ジクロロメタン 346重量部
・メタノール 67重量部
・ブタノール 4重量部
【0108】
実施例6では、斜めムラは確認されず(◎)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例7】
【0109】
濃度C1を20.0%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルム51を製造した。その結果、若干の斜めムラは確認されたが(○)、流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかった(○)。
【実施例8】
【0110】
表面温度TSを−5℃としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルム51を製造した。斜めムラは確認されず(◎)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例9】
【0111】
流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を3%としたこと以外は、実施例7と同様にしてフィルム51を製造した。その結果、実施例9では、斜めムラは確認されず(○)、また、流延ドラムの上において剥げ残りも確認されなかった(○)。
【実施例10】
【0112】
流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を8%としたこと以外は、実施例7と同様にしてフィルム51を製造した。その結果、斜めムラは良好であったが(○)、その一方で流延ドラムの上において剥げ残りが確認された(×)。
【0113】
〔比較例2〕
濃度C1を21.0%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかったが(○)、その一方で、完成したフィルムには斜めムラが確認された(×)。
【0114】
〔比較例3〕
濃度C1を17.0%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果完成したフィルムには斜めムラが確認され(×)、流延ドラムの上においては剥げ残りが確認された(×)。
【0115】
〔比較例4〕
濃度C2を25.0%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかったが(○)、その一方で、完成したフィルムには斜めムラが確認された(×)。
【0116】
〔比較例5〕
濃度C2を20.0%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果完成したフィルムには斜めムラが確認され(×)、流延ドラムの上においては剥げ残りが確認された(×)。
【0117】
〔比較例6〕
流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を13%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果完成したフィルムには斜めムラが確認され(×)、流延ドラムの上においては剥げ残りが確認された(×)。
【0118】
〔比較例7〕
流延膜44の厚みtに対する表層の厚みt1の割合を1%としたこと以外は、実施例6と同様にしてフィルムを製造した。その結果流延ドラムの上において剥げ残りは確認されなかったが(○)、その一方で、完成したフィルムには斜めムラが確認された(×)。
【0119】
以下、各実施例および比較例における各条件および評価結果について表1に纏めて示す。なお、表1において、評価結果1には斜めムラ発生の有無についての評価の結果を、評価結果2には剥げ残り発生の有無についての評価を示す。
【0120】
【表1】

【0121】
以上の結果から、支持体上で流延膜となったときに表層を形成するためのドープの固形分濃度を、内層を形成するためのドープの固形分濃度を考慮しながら所定の範囲とし、かつ表層の厚みが流延膜の総厚みに占める割合を好適に調節すれば、表層でのレベリング効果が向上されて斜めムラの発生を抑制することができることを確認した。また、実施例及び比較例を通じてその生産速度を見ると、一般的に溶液製膜方法で行われている略室温程度の支持体による製造方法に比べて向上させることができた。このことから、表面を冷却した流延ドラムを用いれば光学特性に優れるフィルムを高速で製造することができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0122】
【図1】本発明に関わるフィルム製造設備の一例の概略図である。
【図2】本実施形態で用いたフィードブロック付き流延ダイの断面図である。
【図3】流延ダイの吐出口付近の概略図である。
【図4】本発明に関わる流延膜の幅方向の断面図である。
【図5】流延膜を形成させる方法の一例である逐次流延の説明図である。
【図6】本発明に関わるドープ製造設備の一例の概略図である。
【符号の説明】
【0123】
10 フィルム製造設備
32 流延ダイ
34 流延ドラム
40 ドープ製造設備
44 流延膜
44a 表層
44b 基層
44c 支持体層
51 フィルム
70a 表層ドープ
70b 基層ドープ
70c 支持体層ドープ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面が冷却されたエンドレス走行の支持体の上に、前記支持体の上に設置した流延ダイよりポリマー及び添加剤からなる固形分と溶媒とからなるドープを流延してゲル状の流延膜を形成した後、この流延膜を前記支持体から剥がして乾燥しフィルムとするセルロースアシレートフィルムの製造方法において、
前記流延膜となったときに前記支持体上で空気に面する表層を形成するための第1ドープの前記固形分濃度を、18重量%以上20重量%以下の範囲として、前記支持体に接する内層を形成するための第2ドープの前記固形分濃度よりも2重量%以上5重量%以下だけ低くし、
前記第1ドープ及び前記第2ドープを前記流延ダイに送り共流延又は逐次流延し、
前記表層の厚みが前記流延膜の総厚みの2%以上10%以下であることを特徴とするセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記支持体の表面温度が−12℃以上0℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項3】
乾燥後の前記フィルムの厚みが30μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項4】
前記支持体は周面を持つ流延ドラムであり、その走行速度が60m/分以上であることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。
【請求項5】
前記内層が、前記表層に接する基層と前記支持体に接する支持体層とから構成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれか1つに記載のセルロースアシレートフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−254429(P2008−254429A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−56147(P2008−56147)
【出願日】平成20年3月6日(2008.3.6)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】