説明

セルロースエステル樹脂組成物、それを用いたフィルム及び液晶表示装置用偏光板

【課題】少ない添加剤量で優れた耐透湿性を有し、かつ高温多湿の環境下においても高い透明性、耐ブリード性及び耐黄変性を有するフィルムの材料となるセルロースエステル樹脂組成物を提供する。また、該樹脂組成物からなるフィルムを提供する。
【解決手段】セルロースエステル樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)及び炭素原子数1〜8のアルキルチオ基を有するヒンダードフェノール系化合物(C)を含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物を用いる。
【効果】このセルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムは、光学フィルムとして好適に用いることができ、特に液晶表示装置用偏光板の偏光子を保護する保護フィルムとして最適に用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースエステル樹脂の透湿性を大幅に低減したセルロースエステル樹脂組成物に関する。また、該樹脂組成物を用いたフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル樹脂フィルムは透明性、光学的等方性、強靭性であることから、写真用フィルムとして使用されてきた。近年では、上記性質に加えてポリビニルアルコール(PVA)との接着性が良好なことから、テレビ、ノートパソコン等の液晶表示装置(以下、「LCD」と略記する場合がある。)の偏光板を構成する偏光子保護フィルムとしての需要が飛躍的に伸長している。
【0003】
一般にLCD用偏光板は、PVAフィルムに二色性分子を配向させた偏光子の両側に偏光子保護フィルムを貼付した構造となっており、液晶セルの両側にクロスニコルの状態で配置されている。偏光子保護フィルムにはセルロースエステル樹脂、シクロオレフィン系樹脂等が使用されているが、セルロースエステル樹脂を使用する場合、透湿性が高いために、外部からの湿気の透過により偏光子保護フィルムと偏光子とが剥離したり、偏光子が劣化したりする欠点があった。そこで、両者の持続的な接着性を確保するために、偏光子保護用のセルロースエステル樹脂フィルムには、湿気を通しにくい耐透湿性を付与する効果があるトリフェニルホスフェート(以下、「TPP」と略記する。)等の燐酸エステル系可塑剤が添加されてきた。
【0004】
また、前記保護フィルムとしては、LCDの構造等により異なるものの、通常は厚さが約80μm程度のものが使用されることが多い。近年、LCDの薄型・軽量化が要求されており、保護フィルムの厚さを薄くし、30〜50μm程度の保護フィルムの使用が検討されている。しかしながら、保護フィルムの厚さを薄くすると耐透湿性の大幅な低下が懸念され、外部からの湿気の透過による上記のような問題を生じ、偏光子保護フィルムとして用いることは困難であった。そこで、耐透湿性を向上するためにTPP等の添加剤量を多くする手法もあるが、熱による添加剤のフィルム表面へのしみ出し(ブリード)が発生しやすくなる問題が新たに発生する。
【0005】
さらに、近年の高コントラスト化の要求に伴い、添加剤(特に芳香族系添加剤)に起因する光散乱によるわずかな光漏れが問題となっている。この問題を解決するため、なるべく添加量を低減した状態で所望の性能を付与することが求められている。すなわち、低添加量で充分な耐透湿性を付与することができる添加剤が必要となっている。
【0006】
上記のような状況の下、セルロースエステル樹脂フィルムに耐透湿性を付与するものとして、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を添加する方法(例えば、特許文献1参照。)、芳香族系ポリエステル樹脂を添加する方法(例えば、特許文献2及び3参照。)、芳香族系エポキシ樹脂を添加する方法(例えば、特許文献4参照。)等が提案されている。これらの添加剤を添加して耐透湿性を付与する方法は、フィルムの厚さを30〜50μmとし、さらに添加量を低減した場合に、充分な耐透湿性を維持することができない問題があった。
【0007】
そこで、セルロースエステル樹脂フィルムに対して少ない添加量で、充分な耐透湿性を付与できる添加剤が求められている。また、LCDの輝度、色の鮮明性を向上するために、セルロースエステル樹脂フィルムに要求される特性としては耐透湿性以外に、より高い透明性、すなわち、低ヘイズであることが要求される。さらに、LCDの高温多湿下での使用において、フィルム表面からの添加剤のしみ出し(ブリード)やフィルム自体の黄変によって、映像の鮮明性が低下することがないように耐ブリード性や耐黄変性も有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】:特開2002−146044号公報
【特許文献2】:特開2006−282987号公報
【特許文献3】:特開2009−173741号公報
【特許文献4】:特開2010−077239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、少ない添加剤量で優れた耐透湿性を有し、かつ高温多湿の環境下においても高い透明性、耐ブリード性及び耐黄変性を有するフィルムの材料となるセルロースエステル樹脂組成物を提供することである。また、該樹脂組成物からなるフィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究した結果、ノボラック型フェノール樹脂をセルロースエステル樹脂に配合したセルロースエステル樹脂組成物を用いたフィルムが優れた耐透湿性を付与できることを見出したが、高温多湿の環境下において黄色に着色する問題があった。そこで、該樹脂組成物にさらに特定の含硫黄ヒンダードフェノール系化合物を配合することで、この着色が防止できることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
すなわち、本発明は、セルロースエステル樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)及び炭素原子数1〜8のアルキルチオ基を有するヒンダードフェノール系化合物(C)を含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物に関する。また、該樹脂組成物からなるフィルム及びこのフィルムを用いた液晶表示装置用偏光板に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、少ない添加剤量で優れた耐透湿性を有し、かつ高温多湿の環境下においても高い透明性、耐ブリード性及び耐黄変性を有するフィルムの材料となるため、光学フィルムとして好適に用いることができ、特に液晶表示装置用偏光板の偏光子を保護する保護フィルムとして最適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、セルロースエステル樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)及び炭素原子数1〜8のアルキルチオ基を有するヒンダードフェノール系化合物(C)を含有する樹脂組成物である。
【0014】
まず、本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いるセルロースエステル樹脂(A)について説明する。セルロースエステル樹脂(A)は、綿花リンター、木材パルプ、ケナフ等から得られるセルロースの有する水酸基の一部、又は全部がエステル化されたものである。これらの中でも、綿花リンターから得られるセルロースをエステル化して得られるセルロースエステル樹脂を使用して得られるフィルムは、フィルムの製造装置を構成する金属支持体から剥離しやすく、フィルムの生産効率を向上させることが可能となるため好ましい。
【0015】
前記セルロースエステル樹脂(A)の具体例としては、例えば、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネートブチレート、セルロースアセテートフタレート及び硝酸セルロース等が挙げられる。これらのセルロースエステル樹脂は、単独で用いることも2種以上併用することもできる。本発明のセルロースエステル樹脂組成物からなるフィルムを光学フィルム、特に偏光子保護フィルムとして使用する場合には、セルロースアセテートを使用することが、機械的物性及び透明性に優れたフィルムを得ることができるため好ましい。
【0016】
前記セルロースアセテートとしては、平均酢化度(結合酢酸量)が50.0〜62.5質量%の範囲のものであると、得られるセルロースエステル樹脂組成物からなる光学フィルムの耐透湿性を向上させることができるため好ましい。また、光学フィルムの耐透湿性をさらに向上させるためには、平均酢化度が52.5〜61.5質量%の範囲であるセルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)がより好ましい。なお、平均酢化度は、セルロースアセテートの質量を基準として、該セルロースアセテートをケン化することによって生成する酢酸の質量割合である。
【0017】
前記セルロースエステル樹脂(A)は、数平均分子量が30,000〜300,000の範囲のものであると、フィルムの機械的物性を向上することができるため好ましい。また、より高い機械的物性が必要な場合は、50,000〜200,000の範囲のものを用いるとより好ましい。
【0018】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いるノボラック型フェノール樹脂(B)は、フェノールとホルムアルデヒドとを酸触媒存在下で縮重合させることによって得られるものである。前記酸触媒としては、シュウ酸、硫酸、p−トルエンスルホン酸等を用いることができるが、これらの中でもシュウ酸はノボラック型フェノール樹脂の製造の最終段階である脱水工程において二酸化炭素に熱分解し、樹脂中に残留しないため好ましい。フェノールとホルムアルデヒドとの縮重合反応の条件は、公知の方法で行うことができる。
【0019】
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の構造は、下記一般式(B−1)で表される。
【0020】
【化1】

(式中、nは、平均で1〜10を表す。)
【0021】
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量は、300〜1,200の範囲が好ましいが、耐透湿性及び耐ブリード性をより向上させるためには400〜1,000の範囲がより好ましく、450〜900の範囲がさらに好ましい。また、熱や高温多湿下での黄変が抑制できることから、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量は、450〜700の範囲が特に好ましい。
【0022】
なお、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量は、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液として使用し、ゲルパーミュエ−ションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定され、標準ポリスチレンに換算した値として得ることができる。測定条件は、下記の通りである。
【0023】
[ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ−L」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン1.09」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
標準試料:前記「HLC−8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0024】
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0025】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物に用いる前記ヒンダードフェノール系化合物(C)は、炭素原子数1〜8のアルキルチオ基を有する化合物である。前記アルキルチオ基は、R−S−で表される官能基であり、Rは炭素原子数が1〜8のアルキル基を表し、炭素原子数3以上のアルキル基の場合は、直鎖状のものでも分岐状のものでも構わない。また、これらのアルキル基の中でも、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の着色防止効果が大きいことから、炭素原子数8のアルキル基が好ましい。
【0026】
また、前記ヒンダードフェノール系化合物(C)のヒンダードフェノールとは、フェノールの水酸基に2つ存在するオルト位のうち少なくとも1つにメチル基、エチル基、プロピル基、t−ブチル基等のある程度嵩高い他の置換基を有するものである。このようなヒンダードフェノール系化合物(C)としては、下記一般式(C−1)又は(C−2)で表されるヒンダードフェノール系化合物が挙げられる。
【0027】
【化2】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であり、前記アルキルチオ基は芳香環に直接結合していても2価の有機基を介して結合していてもよい。ただし、X及びXのうち少なくとも1つは、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルキルチオ基である。)
【0028】
前記一般式(C−1)中のX〜Xが炭素原子数3〜6のアルキル基の場合、そのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも構わない。また、前記一般式(C−1)中のX〜Xがアルキルチオ基であって2価の有機基を介して芳香環に結合している場合、2価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数1〜4のアルキレン基が挙げられ、これらの中でもメチレン基が好ましい。さらに、X〜Xのうち少なくとも2つが炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であるものが、熱や高温多湿下での黄変が抑制できることから好ましい。
【0029】
【化3】

(式中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、X及びXのうち少なくとも1つは炭素原子数1〜6のアルキル基である。また、Yは2価の有機基であり、Zは芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり、X及びXはそれぞれ独立に炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であり、このアルキルチオ基はZに直接結合していても2価の有機基を介して結合していてもよい。)
【0030】
前記一般式(C−2)中のX及びXが炭素原子数3〜6のアルキル基の場合、そのアルキル基は直鎖状でも分岐状でも構わない。また、前記一般式(C−2)中のYの2価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数1〜4のアルキレン基、エステル結合、NH結合、アミド結合、エーテル結合、スルフィド結合等が挙げられる。前記一般式(C−2)中のZが芳香族複素環である場合、その具体例としては、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、トリアジン環等が挙げられる。さらに、前記一般式(C−2)中のX又はXのアルキルチオ基が2価の有機基を介してZに結合している場合、2価の有機基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等の炭素原子数1〜4のアルキレン基が挙げられ、これらの中でもメチレン基が好ましい。
【0031】
前記ヒンダードフェノール系化合物(C)の具体的な例としては、下記式(C−1−1)で表される2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、下記式(C−2−1)で表される2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン等が挙げられる。
【0032】
【化4】

【0033】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物中の前記成分(A)〜(C)の含有量について説明する。まず、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量は、少ない含有量でも高い耐透湿性を発揮するため、所望とする耐透湿性が得られる最小限の量とすることが好ましいが、通常は前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して0.5〜50質量部の範囲が好ましい。また、該セルロースエステル樹脂組成物をフィルムとし、より高い耐透湿性及び光学特性(光散乱による光漏れ防止)を付与するためには、5〜40質量部がより好ましい。一方、前記ヒンダードフェノール系化合物(C)の含有量は、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量の0.1〜50質量%の範囲が好ましいが、高温多湿の環境下での着色防止性の向上と透明性の維持の両立を図るためには、1〜30質量%の範囲がより好ましく、3〜15質量%の範囲がより好ましい。
【0034】
また、本発明のセルロースエステル樹脂組成物では、本発明の効果を損なわない範囲内で、前記セルロースエステル樹脂(A)に、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)、前記ヒンダードフェノール系化合物(C)以外の各種添加剤を添加することができる。
【0035】
前記各種添加剤としては、例えば、改質剤(可塑剤も含む)、紫外線吸収剤、レターデーション上昇剤、樹脂、マット剤、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤等)、染料などの添加剤が挙げられる。また、これらの添加剤は、後述するソルベントキャスト法において、有機溶剤中に前記セルロースエステル樹脂(A)、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)及び前記ヒンダードフェノール系化合物(C)を溶解、混合する際に、併せて添加することもできる。
【0036】
前記改質剤(可塑剤も含む)としては、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等のリン酸エステル;ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート等のフタル酸エステル;エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、トリメチロールプロパントリベンゾエート、ペンタエリスリトールテトラアセテート、アセチルクエン酸トリブチルなどが挙げられる。
【0037】
前記紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等が挙げられる。この紫外線吸収剤の添加量は、前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜2質量部の範囲であることが好ましい。
【0038】
前記レターデーション上昇剤としては、レターデーション値(Rth値)が上昇するものであれば何ら制限はないが、例えば、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニルのような液晶化合物、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸エステル化合物、1,3,5−トリアジン環を有する化合物等が挙げられる。このレターデーション上昇剤の添加量は、前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.01〜20質量部の範囲が好ましく、特に1〜10質量部の範囲がより好ましい。
【0039】
前記樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリメタクリル酸メチル等)、ポリカーボネート樹脂、ポリエステルエーテル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、トルエンスルホンアミド樹脂等が挙げられる。
【0040】
前記マット剤としては、例えば、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、リン酸カルシウム、カオリン、タルク等が挙げられる。このマット剤は、前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して、0.1〜0.3質量部の範囲が好ましい。
【0041】
前記染料としては、通常使用されている公知慣用のものを用いることができ、その添加量は本発明の目的を阻害しない範囲であれば、特に限定しない。
【0042】
本発明のセルロースエステル樹脂組成物は、フィルムに好適に使用することができる。本発明のフィルムは、前記セルロースエステル樹脂組成物をフィルム状に成形することにより得ることができる。成形方法としては、例えば、本発明のセルロースエステル樹脂組成物を押出機等で溶融混練し、Tダイ等を用いることでフィルム状に成形する方法が挙げられる。
【0043】
また、本発明のフィルムは、前記成形方法の他に、前記セルロースエステル樹脂組成物を有機溶剤中に均一に溶解、混合して得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延し乾燥させるソルベントキャスト法での成形によっても得ることができる。ソルベントキャスト法によりフィルムを得た場合、成形途中でのフィルム中の前記セルロースエステル樹脂(A)の配向を抑制することができるため、得られるフィルムは、実質的に光学等方性を示す。この光学等方性を示すフィルムは、光学フィルムとして液晶ディスプレイ等の部材として使用することができ、特に偏光子保護フィルムとして有用である。また、このソルベントキャスト法により得られるフィルムは、その表面に凹凸が形成されにくく、表面平滑性に優れるという特長を有するため、ソルベントキャスト法がより好ましいフィルムの成形方法である。
【0044】
ソルベントキャスト法は、前記セルロースエステル樹脂(A)、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)及び前記ヒンダードフェノール系化合物(C)を有機溶剤中に溶解させ、得られた樹脂溶液を金属支持体上に流延させる第1の工程、流延させた前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤を乾燥させフィルムを形成する第2の工程、及び金属支持体上に形成されたフィルムを金属支持体から剥離し加熱乾燥させる第3の工程からなる。
【0045】
第1の工程で使用する金属支持体としては、無端ベルト状又はドラム状の金属、例えばステンレス製で、その表面が鏡面仕上げの施されたものを使用することができる。前記金属支持体上に、前記樹脂溶液を流延させる際には、得られるフィルムに異物が混入することを防止するために、フィルターで濾過した樹脂溶液を使用することが好ましい。
【0046】
第2の工程における乾燥方法としては、例えば30〜50℃の温度範囲の風を前記金属支持体の上面及び下面に当てることで、流延した前記樹脂溶液中に含まれる有機溶剤のおよそ50〜80質量%程度を蒸発させ、前記金属支持体上にフィルムを形成させる方法がある。
【0047】
第3の工程は、前記第2の工程で形成されたフィルムを金属支持体上から剥離し、前記第2の工程よりも高温で加熱乾燥させる工程である。前記加熱乾燥方法としては、例えば100〜160℃の温度範囲で段階的に温度を上昇させる方法が寸法安定性を良くするために好ましい。前記温度範囲で加熱乾燥することによって、前記第2の工程で得られたフィルム中に残存する有機溶剤をほぼ完全に除去することができる。
【0048】
前記樹脂溶液中のセルロースエステル樹脂組成物の溶液濃度としては、3〜50質量%の範囲が好ましく、5〜40質量%の範囲がより好ましい。
【0049】
前記有機溶剤としては、セルロースエステル樹脂(A)、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)及び前記ヒンダードフェノール系化合物(C)を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、セルロースエステル樹脂(A)としてセルロースアセテートを使用する場合は、セルロースアセテートの良溶媒として、例えばメチレンクロライド等の有機ハロゲン化合物やジオキソラン類を使用することができる。また、この良溶媒に対して、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−ブタノール、シクロヘキサン、シクロヘキサノン等の貧溶媒を併用することが、フィルムの生産効率を向上することができるので好ましい。良溶媒と貧溶媒とを混合して使用する場合の質量割合は、良溶媒/貧溶媒=75/25〜95/5(質量%)の範囲が好ましい。
【0050】
本発明のフィルムの膜厚は、10〜100μm範囲であることが好ましい。本発明のフィルムを偏光子保護フィルムとして使用する場合には、その膜厚が15〜80μmの範囲が好ましく、液晶表示装置の薄型化を図る場合には、その膜厚が15〜50μmの範囲が好ましい。本発明のフィルムは、前記の範囲の膜厚でも、充分に優れた耐透湿性を有する。
【0051】
フィルムの膜厚が80μmの場合、セルロースエステル樹脂(A)のみからなるフィルムの透湿度は、800〜900g/m・24h程度である。本発明のフィルムにおいては、例えば、セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して前記ノボラック型フェノール樹脂(B)を10質量部添加した場合、400g/m・24h以下の透湿度であれば、フィルムの膜厚を20〜60μm程度まで薄くし、更に添加量を低減したとしても、優れた耐透湿度が得られるため好ましく、50〜350g/m・24hの範囲の透湿度であることがより好ましい。
【0052】
本発明のフィルムは、高い耐透湿性、高い透明性などに優れることから、例えば、液晶表示装置の光学フィルムやハロゲン化銀写真感光材料の支持体等に使用できる。ここで、前記光学フィルムとしては、例えば、偏光子保護フィルム、位相差フィルム、反射板、拡散フィルム、視野角拡大フィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム、帯電防止フィルム、カラーフィルター等が挙げられる。これらの光学フィルムのうち、前記したような優れた特性に加えて、高いRth値を有する光学フィルムは、視野角補償機能を有する偏光子保護フィルムとして使用することが可能である。
【0053】
本発明の液晶表示装置用偏光板は、ポリビニルアルコール(PVA)フィルムにヨウ素化合物等の二色性分子を配向させた偏光子の片側又は両側に本発明の光学フィルムを偏光子保護フィルムとして貼付した構造のものである。なお、この液晶表示装置用偏光板は、液晶セルの両側にクロスニコルの状態で配置される。
【実施例】
【0054】
以下に実施例と比較例を挙げて、本発明を具体的に説明する。なお、下記合成例で合成した樹脂の軟化点、水酸基当量及び数平均分子量は、下記の条件で測定した値である。また、酸価及び水酸基価はJIS K 0070−1992に準じて測定した値である。
【0055】
[軟化点の測定条件]
環球法(「JIS K7234−86」に準拠、昇温速度が5℃/分)にて測定した。
【0056】
[水酸基当量の算出]
下記の条件にて行ったGPC測定によりn=1、n=2、n=3、n=4のそれぞれに対応するスチレン換算分子量(α1、α2、α3、α4)と、n=1、n=2、n=3、n=4のそれぞれの理論分子量(β1、β2、β3、β4)との比率(β1/α1、β2/α2、β3/α3、β4/α4)を求め、これら(β1/α1〜β4/α4)の平均値を求める。GPCで求めた数平均分子量(Mn)にこの平均値を掛け合わせた数値を平均分子量とし、この平均分子量から水酸基当量を算出した。
【0057】
[数平均分子量(Mn)の測定条件]
測定装置:東ソー株式会社製高速GPC装置「HLC−8320GPC」
カラム:東ソー株式会社製「TSK GURDCOLUMN SuperHZ−L」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZM−M」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
+東ソー株式会社製「TSK gel SuperHZ−2000」
検出器:RI(示差屈折計)
データ処理:東ソー株式会社製「EcoSEC Data Analysis バージョン 1.09」
カラム温度:40℃
展開溶媒:テトラヒドロフラン
流速:0.35mL/分
標準試料:前記「HLC−8320GPC」の測定マニュアルに準拠して、分子量が既知の下記の単分散ポリスチレンを用いた。
【0058】
(使用ポリスチレン)
東ソー株式会社製「A−300」
東ソー株式会社製「A−500」
東ソー株式会社製「A−1000」
東ソー株式会社製「A−2500」
東ソー株式会社製「A−5000」
東ソー株式会社製「F−1」
東ソー株式会社製「F−2」
東ソー株式会社製「F−4」
東ソー株式会社製「F−10」
東ソー株式会社製「F−20」
東ソー株式会社製「F−40」
東ソー株式会社製「F−80」
東ソー株式会社製「F−128」
東ソー株式会社製「F−288」
【0059】
[合成例1]ノボラック型フェノール樹脂(B−1)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、フェノール940質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液40.3質量部(0.5モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液362.9質量部(4.5モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し9.3kPaで減圧蒸留を1時間行い、ノボラック型フェノール樹脂(B−1)を得た。得られたノボラック型フェノール樹脂(B−1)の軟化点は55℃であり、水酸基当量は105g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は472であった。
【0060】
[合成例2]ノボラック型フェノール樹脂(B−2)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、フェノール940質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液44.4質量部(0.55モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液399.2質量部(4.95モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し9.3kPaで減圧蒸留を1時間行い、ノボラック型フェノール樹脂(B−2)を得た。得られたノボラック型フェノール樹脂(B−2)の軟化点は軟化点70℃であり、水酸基当量は103g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は543であった。
【0061】
[合成例3]ノボラック型フェノール樹脂(B−3)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、フェノール940質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液48.4質量部(0.60モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液435.5質量部(5.40モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し9.3kPaで減圧蒸留を1時間行い、ノボラック型フェノール樹脂(B−3)を得た。得られたノボラック型フェノール樹脂(B−3)の軟化点は軟化点80℃であり、水酸基当量は103g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は632であった。
【0062】
[合成例4]ノボラック型フェノール樹脂(B−4)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、フェノール940質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液56.5質量部(0.70モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液508.1質量部(6.30モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し9.3kPaで減圧蒸留を1時間行い、ノボラック型フェノール樹脂(B−4)を得た。得られたノボラック型フェノール樹脂(B−4)の軟化点は軟化点100℃であり、水酸基当量は104g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は897であった。
【0063】
[合成例5]ノボラック型クレゾール樹脂(1)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、o−クレゾール1080質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液32.3質量部(0.40モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液290.3質量部(3.60モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し6.7kPaで減圧蒸留を1時間行い、得られたノボラック型クレゾール樹脂(1)を得た。ノボラック型クレゾール樹脂(1)の軟化点は軟化点86℃であり、水酸基当量は117g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は663であった。
【0064】
[合成例6]ノボラック型クレゾール樹脂(2)の合成
温度計、攪拌器及び還流冷却器を備えた2リットルの4つ口フラスコに、o−クレゾール1080質量部(10モル)及び37.2質量%ホルマリン水溶液38.7質量部(0.48モル)を仕込み、その後シュウ酸2水和物8.82質量部(0.07モル)を添加し、100℃に昇温した後、さらに37.2質量%ホルマリン水溶液348.4質量部(4.32モル)を1時間かけて滴下した。100℃で5時間反応した後、蒸留を開始し180℃まで昇温した。その後、温度を220℃まで昇温し6.7kPaで減圧蒸留を1時間行い、ノボラック型クレゾール樹脂(2)を得た。得られたノボラック型クレゾール樹脂(2)の軟化点は軟化点100℃であり、水酸基当量は118g/eq.であり、GPCによる数平均分子量は844であった。
【0065】
[合成例7]エポキシ樹脂(1)の合成
加熱装置、攪拌装置、コンデンサ、温度計及び下部に分液コックを備えた反応装置に、合成例2で得られたフェノールノボラック樹脂(B−2)100質量部(軟化点70℃、水酸基当量103g/eq.)、エピクロルヒドリン359.2質量部及びイソプロピルアルコール35.9質量部を仕込んだ。次いで、40℃に昇温し、35質量%水酸化カリウム水溶液17.1質量部を加えて40℃に保ちながら4時間撹拌した後、50℃に昇温し、35質量%水酸化カリウム水溶液153.8質量部を3時間かけて滴下した。さらに、50℃で30分間撹拌した後に、生成塩が飽和濃度となる量の水を加えて生成塩を溶解して、攪拌を止めた後静置して、分離した水層を反応装置の下部のコックから取り出した。残った反応溶液中の未反応のエピクロルヒドリンを1時間かけて150℃まで加熱し蒸留回収した後、さらに、150℃に保持したまま気相の圧力が最終的に1.3kPaとなるまで減圧を行いながら、未反応のエピクロルヒドリンを蒸留回収し、粗樹脂を得た。得られた粗樹脂にメチルイソブチルケトン231.5質量部を加えて溶解した後、n−ブタノール50質量部と10%水酸化ナトリウム水溶液12質量部を加えて、80℃で2時間攪拌した後分液して水槽を取り除いた。残った反応液に第1燐酸ナトリウム0.3質量部を加えて中和した後に、共沸によって脱水し、精密濾過した後にメチルイソブチルケトンを留去して、フェノールノボラック型エポキシ樹脂であるエポキシ樹脂(1)を得た。
【0066】
[合成例8]エステル化合物(1)の合成
温度計、攪拌器、還流冷却器及び窒素導入管を備えた3リットルの四つ口フラスコに、1,2−プロピレングリコール476g、テレフタル酸ジメチル554g及びp−トルイル酸817gを仕込み、フラスコ内の温度が130℃になるまで昇温した。次いで、エステル化触媒としてテトライソプロポキシチタネート0.11gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら130℃から230℃まで6時間かけて昇温した。その後、フラスコ内の温度を200℃まで下げた後、約100Paの減圧下で未反応の1,2−プロピレングリコール等を減圧留去することによって、エステル化合物(1)(酸価0.06、水酸基価11)を得た。
【0067】
[合成例9]エステル化合物(2)の合成
温度計、攪拌器、還流冷却器及び窒素導入管を備えた3リットルの四ツ口フラスコに、1,2−プロピレングリコールを418g、コハク酸を354g及び安息香酸244gを仕込み、フラスコ内の温度が140℃になるまで昇温した。次いで、エステル化触媒としてテトライソプロポキシチタネート0.061gを仕込み、窒素気流下で攪拌しながら140℃から230℃まで5時間かけて昇温した。その後、フラスコ内の温度を200℃まで下げた後、約100Paの減圧下で未反応の1,2−プロピレングリコール等を減圧留去することによって、エステル化合物(2)(酸価0.3、水酸基価9)を得た。
【0068】
[実施例1]
トリアセチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製「LT−35」)100質量部、上記の合成例1で得られたノボラック型フェノール樹脂(B−1)10質量部及び前記式(C−1−1)で表されるヒンダードフェノール系化合物(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX 1520L」;以下、「ヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)」と略記する。)1質量部を、メチレンクロライド810質量部及びメタノール90重量部からなる混合溶剤に加えて溶解し、ドープ液を調製した。このドープ液をガラス板上に厚さ0.9mmとなるように流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分間乾燥させ、さらに120℃で30分乾燥させることで、膜厚80μmのフィルムを得た。
【0069】
[実施例2]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例2で得られたノボラック型フェノール樹脂(B−2)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0070】
[実施例3]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例3で得られたノボラック型フェノール樹脂(B−3)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0071】
[実施例4]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例4で得られたノボラック型フェノール樹脂(B−4)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0072】
[実施例5]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)の使用量を1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0073】
[実施例6]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)の使用量を1質量部から0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0074】
[実施例7]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)の使用量を1質量部から3質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0075】
[実施例8]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例2で得られたノボラック型フェノール樹脂(B−2)に変更し、ヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)を前記式(C−2−1)で表されるヒンダードフェノール系化合物(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX 565」;以下、「ヒンダードフェノール系化合物(C−2−1)」と略記する。)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0076】
[実施例9]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)の使用量を10質量部から5質量部に変更し、ヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)の使用量を1質量部から0.5質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0077】
[実施例10]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)の使用量を10質量部から40質量部に変更し、ヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)の使用量を1質量部から4質量部に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0078】
[比較例1]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂及びヒンダードフェノール系化合物を用いなかった以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0079】
[比較例2]
トリアセチルセルロース(ダイセル化学工業株式会社製「LT−35」)100質量部及びトリフェニルホスフェート(以下、「TPP」と略記する。)10質量部を、メチレンクロライド810質量部及びメタノール90重量部からなる混合溶剤に加えて溶解し、ドープ液を調製した。このドープ液をガラス板上に厚さ0.9mmとなるように流延し、室温で16時間乾燥させた後、50℃で30分間乾燥させ、さらに120℃で30分乾燥させることで、膜厚80μmのフィルムを得た。
【0080】
[比較例3]
比較例2で用いたTPPに代えて、合成例7で得られたフェノールノボラック型エポキシ樹脂(以下、「エポキシ樹脂(1)」と略記する。)を用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。
【0081】
[比較例4]
比較例2で用いたTPPに代えて、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(エポキシ当量173g/eq.;以下、「エポキシ樹脂(2)」と略記する。)を用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。
【0082】
[比較例5]
比較例2で用いたTPPに代えて、合成例8で得られたエステル化合物(1)を用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。
【0083】
[比較例6]
比較例2で用いたTPPに代えて、合成例9で得られたエステル化合物(2)を用いた以外は比較例2と同様にしてフィルムを得た。
【0084】
[比較例7]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)を用いなかった以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0085】
[比較例8]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)を下記式(X−1)で表されるヒンダードフェノール系化合物(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX 1726」;以下、「ヒンダードフェノール系化合物(X−1)」と略記する。)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0086】
【化5】

【0087】
[比較例9]
実施例1で用いたヒンダードフェノール系化合物(C−1−1)を下記式(X−2)で表されるヒンダードフェノール系化合物(BASFジャパン株式会社製「IRGANOX 1010」;以下、「ヒンダードフェノール系化合物(X−2)」と略記する。)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0088】
【化6】

【0089】
[比較例10]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例5で得られたノボラック型クレゾール樹脂(1)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0090】
[比較例11]
実施例1で用いたノボラック型フェノール樹脂(B−1)を合成例6で得られたノボラック型クレゾール樹脂(2)に変更した以外は実施例1と同様にしてフィルムを得た。
【0091】
[比較例12]
比較例3で用いたエポキシ樹脂(1)の使用量を10質量部から5質量部に変更した以外は比較例3と同様にしてフィルムを得た。
【0092】
[比較例13]
比較例3で用いたエポキシ樹脂(1)の使用量を10質量部から40質量部に変更した以外は比較例3と同様にしてフィルムを得た。
【0093】
上記の実施例1〜10及び比較例1〜13で得たフィルムについて、透湿度、ヘイズ値(湿熱試験前後)及び黄色度(湿熱試験後)について下記の方法で測定し、耐透湿性、透明性及び耐黄変性を評価した。
【0094】
(透湿度の測定)
JIS Z 0208に準じて、フィルムの透湿度を測定し、80μmの厚さに換算した。なお、測定条件は、温度40℃、相対湿度90%RHとした。
【0095】
(ヘイズ値の測定及び耐ブリード性の評価)
濁度計(日本電色工業株式会社製「ND−1001DP」)を用いて、JIS K 7105に準じて、フィルムのヘイズ値を測定した。また、耐ブリード性を評価するため、湿熱試験(温度85℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿中に5日間放置)したフィルムについても同様にヘイズ値を測定した。得られたヘイズ値から、下記の基準にしたがって耐ブリード性を評価した。
○:湿熱試験前後において、ヘイズ値の増加が0.3未満である。
△:湿熱試験前後において、ヘイズ値の増加が0.3以上、1未満である。
×:湿熱試験前後において、ヘイズ値の増加が1以上である。
【0096】
(黄色度の測定及び耐黄変性の評価)
湿熱試験(温度85℃、相対湿度90%RHの恒温恒湿中に5日間放置)したフィルムについて、透過色測定専用器(日本電色工業株式会社製「TZ6000」)を用いて、ASTM E313に準じて、フィルムの黄色度を測定した。得られた黄色度の値から、下記の基準にしたがって耐黄変性を評価した。
○:黄色度が2未満である。
△:黄色度が2以上、5未満である。
×:黄色度が5以上である。
【0097】
実施例1〜10及び比較例1〜13で作製したフィルムの組成及び上記の測定結果について表1及び2に示す。
【0098】
【表1】

【0099】
【表2】

【0100】
表1及び2に示した評価結果から、下記のことが分かった。
【0101】
実施例1〜8のフィルムは、セルロースエステル樹脂100質量部に対してノボラックフェノール樹脂を10質量部含有する本発明のセルロースエステル樹脂組成物を用いた例であるが、フィルムの透湿度が285〜329g/m・24hと極めて低く、非常に優れた耐透湿性を有することが分かった。
【0102】
また、実施例9のフィルムは、セルロースエステル樹脂に対するノボラックフェノール樹脂の含有量を実施例1の半分にした例であるが、含有量を半分としても優れた耐透湿性を有することが分かった。さらに、実施例10のフィルムは、セルロースエステル樹脂100質量部に対してノボラックフェノール樹脂を40質量部含有する例であるが、70g/m・24hという極めて優れた耐透湿性を有することが分かった。いずれのフィルムにおいても、湿熱試験前後の透明性及び湿熱試験後の耐黄変性も充分であり、液晶表示装置用偏光板の偏光子を保護する保護フィルムとして最適に用いることができる性能であることが分かった。
【0103】
一方、比較例1は、セルロースエステル樹脂のみのフィルムであるが、透湿度が800g/m・24hと非常に高く、耐透湿性に問題があることが分かった。
【0104】
比較例2は、従来から用いられているセルロースエステル樹脂用の添加剤であるTPPを用いた例であるが、透湿度が551g/m・24hと高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0105】
比較例3は、本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂の代わりに、フェノールノボラック型エポキシ樹脂を用いた例であるが、透湿度が418g/m・24hとやや高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0106】
比較例4は、本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂の代わりに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂を用いた例であるが、透湿度が407g/m・24hとやや高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0107】
比較例5は、本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂の代わりに、1,2−プロピレングリコール、テレフタル酸ジメチル及びp−トルイル酸を原料としたエステル化合物を用いた例であるが、透湿度が430g/m・24hとやや高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0108】
比較例6は、本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂の代わりに、1,2−プロピレングリコール、コハク酸及び安息香酸を原料としたエステル化合物を用いた例であるが、透湿度が446g/m・24hとやや高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0109】
比較例7は、ノボラック型フェノール樹脂を用い、本発明で用いるヒンダードフェノール系化合物を用いなかった例であるが、湿熱試験後の黄色度が35.5と非常に高く、耐黄変性に問題があること分かった。
【0110】
比較例8は、ノボラック型フェノール樹脂を用いたが、炭素原子数1〜8の範囲から外れる炭素原子数12のアルキルチオ基を有するヒンダードフェノール系化合物を用いた例であるが、湿熱試験前後でのヘイズ値の増加量が1.8と高く、耐ブリード性に問題があること分かった。
【0111】
比較例9は、本発明で用いるノボラック型フェノール樹脂を用いて、アルキルチオ基を有しないヒンダードフェノール系化合物を用いた例であるが、湿熱試験後の黄色度が20.1と非常に高く、耐黄変性に問題があること分かった。
【0112】
比較例10及び11は、ノボラック型クレゾール樹脂を用いた場合であるが、湿熱試験後の黄色度が6.0及び14.1と高く、耐黄変性に問題があること分かった。
【0113】
比較例12は、比較例3のフィルムで用いたフェノールノボラック型エポキシ樹脂の含有量を半分にした例であるが、同様に含有量を半分とした実施例9のフィルムの透湿度が479g/m・24hであるのに対し、透湿度が555g/m・24hと高く、耐透湿性に問題があること分かった。
【0114】
比較例13は、比較例3のフィルムで用いたフェノールノボラック型エポキシ樹脂の含有量を4倍にした例であるが、同様に含有量を4倍とした実施例10のフィルムの透湿度が70g/m・24hであるのに対し、透湿度が220g/m・24hであり、ノボラック型フェノール樹脂を用いた本発明のセルロースエステル樹脂組成物ほど大幅な透湿度の低下が見られなかった。また、湿熱試験前のヘイズ値が36.2と非常に高く、透明性に問題があることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースエステル樹脂(A)、ノボラック型フェノール樹脂(B)及び炭素原子数1〜8のアルキルチオ基を有するヒンダードフェノール系化合物(C)を含有することを特徴とするセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項2】
前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の数平均分子量が、300〜1,200の範囲である請求項1記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項3】
前記ヒンダードフェノール系化合物(C)が、下記一般式(C−1)又は(C−2)で表されるヒンダードフェノール系化合物である請求項1又は2記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【化1】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であり、前記アルキルチオ基は芳香環に直接結合していても2価の有機基を介して結合していてもよい。ただし、X及びXのうち少なくとも1つは、炭素原子数1〜6のアルキル基又は炭素原子数1〜8のアルキルチオ基である。)
【化2】

(式中、X及びXはそれぞれ独立に水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、X及びXのうち少なくとも1つは炭素原子数1〜6のアルキル基である。また、Yは2価の有機基であり、Zは芳香族炭化水素環又は芳香族複素環であり、X及びXはそれぞれ独立に炭素原子数1〜8のアルキルチオ基であり、このアルキルチオ基はZに直接結合していても2価の有機基を介して結合していてもよい。)
【請求項4】
前記ヒンダードフェノール系化合物(C)が、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール又は2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジンである請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項5】
前記セルロースエステル樹脂(A)100質量部に対して、前記ノボラック型フェノール樹脂(B)を0.5〜50質量部を含有し、前記ヒンダードフェノール系化合物(C)を前記ノボラック型フェノール樹脂(B)の含有量の0.1〜50質量%含有する請求項1〜4のいずれか1項記載のセルロースエステル樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項記載のセルロースエステル樹脂組成物からなることを特徴とするフィルム。
【請求項7】
請求項6記載のフィルムを有する液晶表示装置用偏光板。

【公開番号】特開2012−1660(P2012−1660A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−139264(P2010−139264)
【出願日】平成22年6月18日(2010.6.18)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】