説明

セルロースフィルム及びその製造方法

【課題】セルロースフィルム及びその製造方法を提供することである。
【解決手段】液晶表示装置の偏光板保護フィルムとして用いるために好適なセルロースフィルム及びその製造方法が開示される。前記セルロースフィルムは、前面層、内部層及び背面層からなり、前記前面層には非リン酸エステル系可塑剤が含まれ、前記背面層には非リン酸エステル系可塑剤及び微粒子が含まれ、前記内部層には可塑剤及び紫外線吸収剤が含まれる。ここで、前記前面層には微粒子がさらに含まれ、前記内部層の可塑剤は2種以上であり、前記内部層に含まれる2種以上の可塑剤のうち少なくとも1種はリン酸エステル系可塑剤であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はセルロースフィルム及びその製造方法に係り、さらに詳しくは、液晶表示装置の偏光板を保護するフィルムとして用いるための好適なセルロースフィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、携帯用情報媒体に対する需要が増大するに伴い、液晶表示装置(Liquid Crystal Display:LCD)の画質改善、製造コスト節減などを目指す研究が盛んになされている。液晶表示装置(LCD)は商業化された代表的なフラット表示装置の一つであり、バックライトから発せられた光が異方性を有する液晶材料及び偏光板を通過して画像を表示する。液晶表示装置は、相対する一対の基板の間にプラスの誘電率異方性を有する液晶を水平に配向させたTNモード(twisted nematic mode:TN)、相対する一対の基板の間にマイナスの誘電率異方性を有する液晶を垂直に配向させたVAモード(Vertical Alignment mode)、IPS(in-plane switching)モードの液晶表示装置などに分類される。
【0003】
この種の液晶表示装置において、偏光板を保護するために、トリアセチルセルロースなどのセルロースフィルムを偏光板の片面に貼着する。前記セルロースフィルムは、画像を表示する偏光板に直接的に貼着されることから光学特性に優れており、表面の傷つきが少ない必要があるだけではなく、外部から入射する紫外線を遮断して偏光板及び液晶の劣化を防止しなければならない。このため、紫外線吸収剤がセルロースフィルムに用いられるが、セルロースフィルムに含まれる紫外線吸収剤は、フィルムの高温乾燥処理過程においてブリードアウトされてフィルム表面を汚染させ、偏光板製造工程のアルカリけん化処理段階において溶出されて偏光板の製造設備を汚染させるという欠点がある。また、前記保護用のセルロースフィルムに柔軟性を与えるために、フィルム内にリン酸エステルなどの可塑剤を含める必要がある。しかしながら、前記可塑剤もまたフィルムの高温乾燥処理過程においてブリードアウトされてフィルムの表面を汚染させ、偏光板の製造工程のアルカリけん化処理段階において溶出されて偏光板の製造設備を汚染させるという欠点がある。さらに、可塑剤のブリードアウトを防止するために、非リン酸エステル系可塑剤だけを使用することもできるが、高価であるため製造コストが上昇するという欠点がある。
【0004】
また、前記セルロースフィルムは、一般的に、ロール状態で貯蔵及び搬送されるため、偏光板の製造工程中において、積み重ねられたフィルム同士が接着してしまうという問題が発生し易い。このようなフィルムの接着を防止し、ロール状態でフィルム同士の滑り性を与えるために、フィルムに微粒子を添加して、フィルムの表面に凹凸を付与する方法が汎用されている。一方、最近、液晶表示装置の薄膜化及び軽量化が進むに伴い、保護用のセルロースフィルムの薄膜化も進んでいる傾向にあり、前記保護用のセルロースフィルムの表面特性の管理が一層重要になりつつある。もし、前記セルロースフィルムに用いられる微粒子などの添加剤の種類、含量、分散などが適切になされなければ、添加剤が正常に機能できないか、あるいは、フィルムのヘーズが増大するなどフィルムの物性が低下することもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、可塑剤及び紫外線吸収剤のブリードアウトまたは溶出を抑制することができ、フィルムのヘーズ(haze)値(濁度)の上昇などフィルムの物性低下を防止可能なセルロースフィルム及びその製造方法を提供するところにある。
【0006】
本発明の他の目的は、フィルム同士の摩擦係数を低めて滑り性を向上させ、透湿度を低下させて寸法安定性を向上させることのできるセルロースフィルム及びその製造方法を提供するところにある。
【0007】
本発明のさらに他の目的は、ダイリップ(die lip)部において微粒子の凝集物が蓄積されて発生されるメヤニ形状によりフィルムの表面にダイライン(die line)が形成されることを抑制可能なセルロースフィルム及びその製造方法を提供するところにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、支持体から剥離しやすいセルロースフィルム及びその製造方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するために、本発明は、前面層、内部層及び背面層からなり、前記前面層には非リン酸エステル系可塑剤が含まれ、前記背面層には非リン酸エステル系可塑剤及び微粒子が含まれ、前記内部層には可塑剤及び紫外線吸収剤が含まれるセルロースフィルムを提供する。ここで、前記前面層には微粒子がさらに含まれ、前記内部層の可塑剤は2種以上であることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、及び非リン酸エステル系可塑剤を含む第1キャスト原液、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、可塑剤及び紫外線吸収剤を含む第2キャスト原液、及びセルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、微粒子及び非リン酸エステル系可塑剤を含む第3キャスト原液をベルトの表面に共押出してシート状に塗布し、前記キャスト原液に存在する溶媒を蒸発させて前面層、内部層及び背面層からなるセルロースフィルムを形成するステップと、前記セルロースフィルムをベルトから剥離するステップと、前記剥離されたセルロースフィルムを延伸及び乾燥するステップと、を含み、前記前面層には非リン酸エステル系可塑剤が含まれ、前記背面層には非リン酸エステル系可塑剤及び微粒子が含まれ、前記内部層には可塑剤及び紫外線吸収剤が含まれるセルロースフィルムの製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるセルロースフィルムは、前面層及び背面層の可塑剤として非リン酸エステル系可塑剤だけを使用し、内部層にのみリン酸エステル系可塑剤及び紫外線吸収剤を含むことから、可塑剤及び紫外線吸収剤のブリードアウトまたは溶出を効率よく抑制することができる。また、本発明によるセルロースフィルムは、非リン酸エステル系可塑剤だけを使用する場合に比べて生産コストを下げることができ、紫外線吸収能及び柔軟性に優れている。さらに、背面層及び必要に応じて前面層に疎水性の微粒子を含めることにより、フィルム同士の摩擦係数を低下させて滑り性を向上させ、透湿度を低下させて寸法安定性を向上させることができる。なお、本発明によるセルロースフィルムは、フィルム表面へのダイラインの形成が抑制され、支持体からの剥離が容易であるというメリットがある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明によるセルロースフィルムの製造に使用可能なフィルム製造装置の全体概略図。
【図2】図1に示すフィルム製造装置におけるダイ及びベルト部分の拡大断面図。
【図3】本発明の一実施形態によるセルロースフィルムの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づき、本発明を詳述する。
【0014】
図1は、本発明によるセルロースフィルムの製造に使用可能なフィルム製造装置の全体概略図であり、図2は、図1に示すフィルム製造装置におけるダイ及びベルト部分の拡大断面図である。図1及び図2に示すように、本発明によるセルロースフィルムは、溶液流延法によって製造される。本発明によるセルロースフィルムを製造するためには、先ず、ダイ20を介してベルト30の表面に第1、第2及び第3キャスト原液2、4、6を共押出してシート状に塗布し、前記ベルト30の温度により前記キャスト原液2、4、6に存在する溶媒を蒸発させてセルロースフィルム10を形成する。前記ダイ20は、前記キャスト原液2、4、6を押出するためのものであり、例えば、通常のT−ダイが使用可能である。前記ベルト30は前記キャスト原液2、4、6を搬送しながら乾燥させてフィルム10を形成する支持体であって、前記ベルト30としてステインレス鋼コンベヤベルトが使用可能であり、前記ベルト30の移動または回転速度を調節することによりセルロースフィルム10の厚さを調節することができる。
【0015】
前記ダイ20から押出されるキャスト原液2、4、6はドープとも呼ばれ、フィルム10の前面層12を形成する第1キャスト原液2、フィルム10の内部層14を形成する第2キャスト原液4及びフィルム10の背面層16を形成する第3キャスト原液6を含む。前記キャスト原液2、4、6のうち第1キャスト原液2は、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒及びフィルム10に柔軟性を与えるための非リン酸エステル系可塑剤を含み、前記第3キャスト原液6は、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、フィルム10の表面に凹凸を与えてフィルム10の摩擦係数を低減させるための微粒子、及びフィルム10に柔軟性を与えるための非リン酸エステル系可塑剤を含む。前記第2キャスト原液4は、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、紫外線を遮断するための紫外線吸収剤及びフィルム10に柔軟性を与えるための可塑剤を含む。ここで、前記第1キャスト原液2もまたフィルム10の表面に凹凸を与えるための微粒子を含み、前記第2キャスト原液4は2種以上の可塑剤を含むことが好ましい。
【0016】
前記セルロース成分としては、トリアセチルセルロース(TAC)、又はセルロースアセテートプロピオネート(CAP)などのセルロースアセテートが使用可能であり、前記セルロース成分の平均置換率(アセチル化度)は55〜66%程度であることが好ましい。前記溶媒としては、メチレンクロリド(Methylene Chloride:MC)、酢酸メチル、アルコール(例えば、メタノール)などのセルロース成分を溶解可能な通常の有機溶媒が使用可能である。前記第1、第2及び第3キャスト原液2、4、6を構成するセルロース成分及び/または溶媒は互いに同一であってもよく、互いに異なっていてもよい。前記第1、第2及び第3キャスト原液2、4、6における前記セルロース成分の含量は、それぞれ15〜25重量%、好ましくは、15〜20重量%であり、前記溶媒の含量は、それぞれ前記セルロース成分を含む固形分(可塑剤、紫外線吸収剤、及び微粒子など)を除く残余である。
【0017】
前記微粒子としては、疎水性を有する通常の保護用のセルロースフィルム用微粒子が使用可能であり、例えば、平均粒径0.1〜2.0μm、好ましくは、0.1〜1.0μmの二酸化ケイ素、二酸化チタン、又はこれらの混合物などが使用可能である。前記微粒子の平均粒径が0.1μm未満であればフィルム10同士の摩擦係数を低めることができなくなる恐れがあり、2.0μmを超えるとフィルムの透明性が低下する恐れがある。前記微粒子は、フィルム10のキャスト工程において支持体と接触する面、すなわち、背面層16に含まれ、必要に応じて前面層12にも含まれることがある。前記背面層16または前面層12に含まれる微粒子の含量は、前記背面層16または前面層12を形成するセルロースフィルムの全体に対して、0.005〜2重量%、好ましくは、0.01〜2重量%、さらに好ましくは、0.5〜2重量%、最も好ましくは、1〜1.5重量%である。前記微粒子の含量が少な過ぎるとフィルム10同士の摩擦係数及びフィルム10の透湿度を低めることができなくなる恐れがあり、前記微粒子の含量が多過ぎるとフィルムの透明性が低下する恐れがある。
【0018】
前記紫外線吸収剤としては、保護用のセルロースフィルムに用いられる通常の紫外線吸収剤が使用可能であり、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、又はこれらの混合物などが使用可能である。前記内部層14に含まれる紫外線吸収剤の含量は、前記内部層14を構成するセルロース成分100重量部に対して、0.5〜5重量部、好ましくは、1〜5重量部、さらに好ましくは、2〜3重量部である。前記紫外線吸収剤の含量が少な過ぎると外部から入射する紫外線を十分に遮断することができなくなる恐れがあり、前記紫外線吸収剤の含量が多過ぎると紫外線吸収剤がブリードアウトまたは溶出される恐れがある。
【0019】
本発明に用いられる可塑剤としては、セルロースフィルム10の製造過程などの高温乾燥処理過程において可塑剤のブリードアウト及び溶出を防止可能な脂肪族多価アルコールエステルなどの非リン酸エステル系可塑剤または可塑剤の効能に優れており、しかも、コスト節減にメリットがあると言われるトリフェニルフォスファート、トリクレジルフォスファート、及びクレジルジフェニルフォスファートなどのリン酸エステル系可塑剤などを単独または混合して使用することができる(国際特許公開 WO 2008/129726参照)。本発明のセルロースフィルム10において、前記前面層12及び背面層16は前記非リン酸エステル系可塑剤だけを含む。また、前記内部層14には非リン酸エステル系可塑剤及び/またはリン酸エステル系可塑剤が含まれるが、2種以上の可塑剤を含むことが好ましく、少なくとも1種以上のリン酸エステル系可塑剤を含むことが好ましい。ここで、前記内部層14に含まれる全体の可塑剤に対して、前記リン酸エステル系可塑剤の含量が60重量%以上であることが好ましく、前記リン酸エステル系可塑剤の含量が少な過ぎる場合にはフィルムの柔軟性が低下する恐れがある。
【0020】
前記非リン酸エステル系可塑剤は、前記前面層12及び背面層16に均一に分布されていることが好ましい。本発明のセルロースフィルム10に含まれる全体の可塑剤100重量部に対して、前記前面層12及び背面層16(すなわち、第1キャスト原液2及び第3キャスト原液6)に含まれる非リン酸エステル系可塑剤の含量はそれぞれ3〜40重量部、好ましくは、5〜25重量部、さらに好ましくは、5〜15重量部である。前記含量は前面層12、内部層14及び背面層16の厚さを調節したり、第1、第2及び第3キャスト原液2、4、6に含まれるそれぞれの可塑剤の含量を調節することにより調節可能である。前記前面層12及び背面層16に含まれる非リン酸エステル系可塑剤の含量がそれぞれ3重量部未満であれば前面層12及び背面層16の柔軟性が低下したり可塑剤のブリードアウトまたは溶出を効率よく抑制することができなくなる恐れがあり、25重量部を超えるとフィルムの機械的な物性が低下したりコストアップが招かれる恐れがある。
【0021】
また、前記第1キャスト原液2または第3キャスト原液6における前記非リン酸エステル系可塑剤の含量は、前記第1キャスト原液2または第3キャスト原液6のセルロース成分100重量部に対して、それぞれ1〜20重量部、好ましくは、5〜18重量部である。ここで、前記非リン酸エステル系可塑剤の含量が少な過ぎると柔軟性が低下したり可塑剤のブリードアウトまたは溶出を効率よく抑えられなくなるという不都合が発生する恐れがあり、前記非リン酸エステル系可塑剤の含量が多過ぎるとフィルムの機械的な物性が低下したりフィルムの製造コストが上がるという不都合がある。前記内部層14、すなわち、第2キャスト原液4に含まれる可塑剤の含量は、前記内部層14を構成するセルロース成分100重量部に対して、1〜20重量部、好ましくは、5〜18重量部、さらに好ましくは、10〜17重量部である。前記内部層14の可塑剤の含量が少な過ぎるとフィルム10の柔軟性が低下する恐れがあり、前記内部層14の可塑剤の含量が多過ぎると可塑剤がブリードアウトされる問題が発生する恐れがある。
【0022】
本発明のセルロースフィルムの製造のために、図2に示すように、それぞれのセルロース溶液配管22、24、26に、セルロース成分、溶媒、紫外線吸収剤、微粒子及び/または可塑剤を、サイドフィーディングを通じて混入する。このとき、前面層12及び背面層16には非リン酸エステル系可塑剤及び必要に応じて微粒子を含ませ、内部層14には可塑剤及び紫外線吸収剤を含ませる。ここで、前記セルロースフィルム10の総厚さ(延伸及び乾燥後の最終厚さ、以下同じ。)は、通常、20〜100μm、好ましくは、40〜80μmであり、前記前面層12及び背面層16の厚さはそれぞれフィルムの総厚さの5〜33.3%、好ましくは、5〜20%、さらに好ましくは、8〜12%である。また、前記内部層14の好適な厚さは、フィルムの総厚さの60〜90%、さらに好ましくは、76〜84%である。前記前面層12、内部層14及び背面層16の厚さが前記範囲から外れるとフィルムの柔軟性など物性が低下したり、可塑剤及び紫外線添加剤がブリードアウトする恐れがある。
【0023】
図1に戻り、前記ベルト30に塗布されたキャスト原液2、4、6は、フィルム10に成形されるのに十分な時間中に、フィルム10に成形されるのに十分な距離だけベルト30と一緒に移動した後、ガイドローラーである剥離ローラー32によってベルト30から剥離される。剥離されたフィルム10は延伸機40に搬送されて、水平方向(Transverse Direction:TD)及び/または機械方向(Mechanical Direction:MD)に延伸され、乾燥機50において乾燥されて最終的にセルロースフィルム10を形成した後、巻取機60に巻き取られて製品として出荷される。
【0024】
図3は、本発明の一実施形態によるセルロースフィルムの断面図である。図3に示すように、本発明によるセルロースフィルム10は、前面層12、内部層14及び背面層16を備える多層構造、好ましくは、3層構造を有する。本発明によるセルロースフィルム10を製造後、ガスクロマトグラフィ(GC)により前記セルロースフィルム10の表面の可塑剤ブリードアウトの度合いを解析した結果、フィルム10の表面に全体可塑剤の10%未満、好ましくは、1〜8%、さらに好ましくは、1〜5%がブリードアウトされていた。本発明のセルロースフィルム10において、前記背面層16の微粒子は積層されたフィルム10間の摩擦係数を低下させて、フィルム10の滑り性を向上させながらも、フィルム10内の厚手方向に存在する量が相対的に少量であるため、フィルム10のヘーズを過度に高めることはない。このため、本発明によるセルロースフィルム10のヘーズは、通常、0〜0.4%であり、動摩擦係数は、通常、0.4〜0.7の値を有する。また、前記微粒子がキャスト工程において支持体30と接触する背面層16にのみ存在する場合、支持体30とフィルム10との剥離が容易であるだけではなく、空気と接触する前面層12において微粒子が凝集して、メヤニによるダイラインが発生することを抑制することができる。
【0025】
本発明のセルロースフィルム10は、通常、ポリビニールアルコール(PVA)からなる偏光板の片側または両側に貼着されて偏光板を保護する役割を果たし、前記セルロースフィルムが貼着された偏光板は液晶表示装置パネルの上板及び/または下板に貼着される。また、必要に応じて、前記偏光板と本発明によるセルロース保護フィルムは所定の間隔をあけて位置してもよい。
【0026】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明を一層詳述する。下記の実施例は本発明を例示するためのものであり、本発明が下記の実施例により限定されることはない。
【0027】
[実施例1]セルロースフィルムの製造及び評価
セルロース成分としてのトリアセチルセルロース(TAC)18重量部、前記セルロース成分を溶解させる溶媒としてのメチレンクロリド81.76重量部、及び非リン酸エステル系可塑剤としての脂肪族多価アルコールエステル0.2重量部を含む第1キャスト原液2、トリアセチルセルロース(TAC)15.84重量部、メチレンクロリド81.76重量部、可塑剤としてのリン酸エステル系可塑剤トリフェニルフォスファート1.4重量部及び脂肪族多価アルコールエステル0.2重量部、紫外線吸収剤としてのベンゾトリアゾール系化合物0.25重量部を含む第2キャスト原液4、及びトリアセチルセルロース(TAC)18重量部、メチレンクロリド81.76重量部、非リン酸エステル系可塑剤としての脂肪族多価アルコールエステル0.2重量部及び微粒子としての直径0.1〜1μmの二酸化ケイ素0.002重量部を含む第3キャスト原液6を製造した。図2に示すダイを用いて、前記第1、第2及び第3キャスト原液2、4、6を金属ベルトの表面に厚さ90μm及び幅800mmのシート状に共押出して、前面層12、内部層14及び背面層16からなるセルロースフィルム10を製造した。図1に示すように、前記金属ベルトを回動させながらキャスト原液の溶媒を蒸発させ、延伸及び乾燥して総厚さが80μmであり、且つ、前面層12、内部層14及び背面層16の厚さがそれぞれフィルムの総厚さの略33.3%のセルロースフィルム10を製膜した。製造されたセルロースフィルム10の特性を試験した結果、フィルム10の表面にブリードアウトされた可塑剤の含量が8重量%未満、紫外線吸収剤の含量が5重量%未満と優れており、フィルム10の基本物性であるUV透過率は5%以下であり、濁度は0.2%、摩擦係数は0.7以下であって、優れた基本物性を示していた。なお、フィルムの表面にダイラインがほとんど形成されていないことを確認することができた。
【0028】
[実施例2]セルロースフィルムの製造及び評価
トリアセチルセルロース(TAC)18重量部、メチレンクロリド81.76重量部及び非リン酸エステル系可塑剤としての脂肪族多価アルコールエステル0.2重量部、微粒子0.002重量部を用いて、セルロースフィルム10の前面層12及び背面層16を形成するための第1及び第3キャスト原液2、6を製造し、トリアセチルセルロース(TAC)15.84重量部、メチレンクロリド81.76重量部及び可塑剤としてのリン酸エステル系可塑剤(トリフェニルフォスファート、トリクレジルフォスファート、クレジルジフェニルフォスファートなど)1.4重量%及び脂肪族多価アルコールエステル0.2重量部、紫外線吸収剤としてのベンゾトリアゾール系化合物0.25重量部を用いてセルロースフィルム10の内部層14を形成するための第2キャスト原液4を製造した。前記前面層12、内部層14及び背面層16を形成するためのそれぞれのキャスト原液を、図2に示すダイを用いて、金属ベルトの表面に厚さ90μm及び幅800mmのシート状にキャストした。前記金属ベルトを回動させながらキャスト原液2、4、6の溶媒を蒸発させ、延伸及び乾燥して総厚さが80μmであり、且つ、前面層12及び背面層16の厚さがそれぞれフィルム10の総厚さの5〜20%であり、フィルム10に含まれている全体の可塑剤100重量部に対して、前記前面層12及び背面層16に含まれる非リン酸エステル系可塑剤の含量がそれぞれ7重量部であるセルロースフィルム10を製造した。
【0029】
製造されたセルロースフィルム10の表面をガスクロマトグラフィ(GC)により測定した結果、フィルム10の表面にブリードアウトされた可塑剤の含量が8重量%未満、紫外線吸収剤の含量が5重量%未満と優れていた。また、フィルムの基本物性であるUV透過率は5%以下であり、濁度は0.3%であり、摩擦係数は0.7以下であって、基本物性の側面からも優れた性能を発揮していた。
【0030】
[実施例3及び4、比較例]セルロースフィルムの製造及び評価
前面層12、内部層14及び背面層16に、下記表1に示す含量にて非リン酸エステル系可塑剤、リン酸エステル系可塑剤、紫外線吸収剤及び微粒子を含ませた以外は、実施例1の方法と同様にしてセルロースフィルム10を製造した。下記表1中の各成分の含量はそれぞれの前面層12、内部層14及び背面層16に対する含量を示す。
【0031】
【表1】

【0032】
このようにして製造されたセルロースフィルム10に対して、摩擦係数、ヘーズ値(濁度)、ダイライン、ピールオフ剥離力、高湿寸法安定性を測定して表2に示す。ここで、ヘーズは日本電色社製のヘーズメーターを用いて測定し、ダイラインは暗室においてゼノンランプを点灯し、フィルムを目視観察してフィルムに形成されたラインの本数を測定した。また、ピールオフ剥離力は韓国ダセル(DACELL)社製のプッシュ‐プルゲージ(ロードセル)にて測定し、高湿寸法安定性は湿度95%、60℃の条件下で30分間放置後、ダイアルゲージを用いて寸法変化量を測定した。
【0033】
【表2】

【0034】
上記表2から、本発明に係るセルロースフィルムは、摩擦係数、ヘーズ、ダイライン、ピールオフ剥離力、高湿寸法安定性など諸物性に優れているものであることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
前面層、内部層及び背面層からなり、前記前面層には非リン酸エステル系可塑剤が含まれ、前記背面層には非リン酸エステル系可塑剤及び微粒子が含まれ、前記内部層には可塑剤及び紫外線吸収剤が含まれる、セルロースフィルム。
【請求項2】
前記前面層には微粒子がさらに含まれ、前記内部層の可塑剤は2種以上である、請求項1に記載のセルロースフィルム。
【請求項3】
前記内部層に含まれる2種以上の可塑剤のうち少なくとも1種はリン酸エステル系可塑剤である、請求項2に記載のセルロースフィルム。
【請求項4】
前記非リン酸エステル系可塑剤は脂肪族多価アルコールエステルであり、前記セルロースフィルムに含まれる全体可塑剤100重量部に対して、前記前面層及び背面層に含まれる非リン酸エステル系可塑剤の含量はそれぞれ3〜40重量部である、請求項1に記載のセルロースフィルム。
【請求項5】
前記微粒子は二酸化ケイ素、二酸化チタン、及びこれらの混合物よりなる群から選ばれ、平均粒径は0.1〜2.0μmであり、前記背面層の微粒子の含量は、前記背面層を形成するセルロースフィルムの全体に対して、0.005〜2重量%である、請求項1に記載のセルロースフィルム。
【請求項6】
前記セルロースフィルムの総厚さは20〜100μmであり、前記前面層及び背面層の厚さはそれぞれフィルムの総厚さの5〜20%である、請求項1に記載のセルロースフィルム。
【請求項7】
前記セルロースフィルムのヘーズは0〜0.4%であり、動摩擦係数は0.4〜0.7の値を有し、前記セルロースフィルムは、フィルム製造後に、フィルムの表面に全体の可塑剤の10%未満がブリードアウトされるものである、請求項1に記載のセルロースフィルム。
【請求項8】
セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、及び非リン酸エステル系可塑剤を含む第1キャスト原液、セルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、可塑剤及び紫外線吸収剤を含む第2キャスト原液、及びセルロース成分、前記セルロース成分を溶解させる溶媒、微粒子及び非リン酸エステル系可塑剤を含む第3キャスト原液をベルトの表面に共押出してシート状に塗布し、前記第1、第2及び第3キャスト原液に存在する溶媒を蒸発させて前面層、内部層及び背面層からなるセルロースフィルムを形成するステップと、
前記セルロースフィルムをベルトから剥離するステップと、
前記剥離されたセルロースフィルムを延伸及び乾燥するステップと、
を含み、
前記前面層には非リン酸エステル系可塑剤が含まれ、前記背面層には非リン酸エステル系可塑剤及び微粒子が含まれ、前記内部層には可塑剤及び紫外線吸収剤が含まれる、セルロースフィルムの製造方法。

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−131573(P2011−131573A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103666(P2010−103666)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(510053444)ヒョスン コーポレーション (6)
【Fターム(参考)】