説明

セルロース分解助長タンパク質及びその利用

【課題】セルラーゼによるセルロースの分解活性を増強する新規なポリペプチドを提供する。
【解決手段】Fusarium equiseti(フザリウム・エクイセチ)から結晶性セルロースに結合するポリペプチド。このポリペプチドをセルラーゼとともにセルロースに供給すると、セルラーゼによるセルロース分解活性が増強される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なセルロース分解助長タンパク質及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有限である石油資源を代替するものとして、植物の光合成作用に由来するバイオマスへの期待が高まってきており、バイオマスをエネルギーや各種材料に利用するための各種の試みがなされている。バイオマスを利用し化成品やバイオ燃料に展開しようとする試み(バイオリファイナリー)の重要性が指摘され、実用化に向けた技術開発が世界中で進められている。実用化において解決しなければならない大きな課題の一つとして、木質系または草本系バイオマスの主成分である結晶性セルロースの高効率分解が指摘されている。現状のセルロース分解プロセスにおいては、大量のセルロース分解酵素(セルラーゼ)を添加する必要があり、セルラーゼの添加量低減に貢献できる技術が必要とされている。
【0003】
セルロースは、糖であるグルコースがβ−1,4グリコシド結合によって縮合した高分子化合物であり、分子間水素結合により強固な結晶構造を構成している。セルロースを糖化する一つの方法として、各種セルラーゼの利用が挙げられる。しかしながら、実際のプロセスにおいては大量のセルラーゼが必要であるという課題が指摘されている。一方で、植物が成長する過程においてセルロース繊維を緩める機能を有する“エクスパンシン”の存在が報告されており、近年、本アミノ酸と相同性を有する因子として、Trichoderma reesei(トリコデルマ・リーゼイ)由来のタンパク質である“スウォレニン”(Swolenin)が単離された(特許文献1、非特許文献1)。スウェレニンは、植物由来のエクスパンシンタンパク質に対して、高い相同性を示している。スウォレニンをセルラーゼに混合することにより、セルロース分解能を向上させることはすでに報告されている。
【0004】
また、サーモアスカス・アウランチアカス由来の低分子タンパク質であって、糖質分解酵素ファミリー61(GHF61)に属するタンパク質も希硫酸で前処理を行ったトウモロコシの茎をセルラーゼ調製物を用いて加水分解する際に加えると、セルロースの分解を増強する活性を呈することが報告されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2001-509387号公報
【特許文献2】特表2007-523646号公報
【非特許文献】
【0006】
【特許文献1】M. Saloheimo et al., Swollenin, a Trichoderma reesei protein with sequence similarity to the plant expansins, exhibits disruption activity on cellulosic materials. Eur. J. Biochem., 269, 4202-4211 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、セルロースの分解に寄与するポリペプチドは、ほとんど知られていないのが実情であり、セルロースの糖化にあたり、セルラーゼの使用量を削減するために選択できる新たな選択肢が依然として求められている。そこで、本明細書の開示は、セルラーゼによるセルロースの分解活性を助長する新規なポリペプチドを提供しその利用も併せて提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、結晶性セルロースに結合する低分子タンパク質に、結晶性セルロースを緩和又はその分解を増強する機能があると考え、Fusarium equiseti(フザリウム・エクイセチ)から結晶性セルロースに結合するポリペプチドを取得し同定することに成功した。さらに、このポリペプチドをセルラーゼとともにセルロースに供給すると、セルラーゼによるセルロース分解活性が増強されるという知見を得た。本明細書の開示は、これらの知見に基づいて提供される。
【0009】
本明細書の開示によれば、以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリペプチドが提供される。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるポリペプチド。
(e)配列番号1で表される塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるポリペプチド。
(f)配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるポリペプチド。
【0010】
本明細書の開示によれば、本明細書に開示されるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、1又は2以上の前記ポリペプチドを発現させるための要素と、を含むDNA構築物が提供される。また、本明細書の開示によれば、本明細書に開示されるDNA構築物を含む発現ベクターも提供される。さらに、本明細書に開示されるDNA構築物を含有する、形質転換細胞も提供される。
【0011】
本明細書の開示によれば、本明細書に開示されるポリペプチドを生産する方法であって、本明細書に開示される形質転換細胞を培養する工程と、前記培養物からポリペプチドを回収する工程と、を備える、方法も提供される。
【0012】
本明細書の開示によれば、セルロース含有材料の分解産物の生産方法であって、本明細書に開示されるポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロースを分解する工程を、備える、方法が提供される。
【0013】
本明細書の開示によれば、セルロース含有材料から有用物質を生産する方法であって、本明細書に開示されるポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロース含有材料を分解する工程と、前記分解工程で得られるセルロース分解産物を炭素源として用いて発酵微生物を培養する培養工程と、を備える、方法が提供される。
【0014】
本明細書の開示によれば、セルラーゼ組成物であって、本明細書に開示されるポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを含有する、組成物が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】結晶性セルロース結合タンパク質のSDSポリアクリルアミド電気泳動結果を示す図である。
【図2】実バイオマス(バガス)を基質とした市販のセルラーゼ製剤によるセルロース分解における、F. equiseti由来の新規ポリペプチドの添加効果試験を示す図である。
【図3】F. equiseti由来の新規ポリペプチドのエンドグルカナーゼ活性を確認したCMC含有アガロースプレート及びハロ(3回繰り返し)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本明細書の開示は、セルロース分解助長活性を有するポリペプチド及びその利用に関し、特に、ポリヌクレオチド構築物、当該ポリペプチドを利用したセルロース分解産物の生産方法、及び有用物質の生産方法並びにセルラーゼ組成物に関する。以下、本明細書に開示されるポリペプチドに関する各種実施形態について詳細に説明する。
【0017】
なお、本明細書において、セルロースとは、グルコースがβ-1,4-グルコシド結合により重合した重合体及びその誘導体をいう。セルロースにおけるグルコースの重合度は特に限定しないが、好ましくは200以上である。また、誘導体としては、カルボキシメチル化、アルデヒド化、若しくはエステル化などの誘導体が挙げられる。また、セルロースは、その部分分解物である、セロオリゴ糖、セロビオースを含んでいてもよい。さらに、セルロースは、配糖体であるβグルコシド、リグニン及び/又はヘミセルロースとの複合体であるリグノセルロース、さらにペクチンなどとの複合体であってもよい。セルロース は、結晶性セルロースであってもよいし、非結晶性セルロースであってもよいが、好ましくは結晶性セルロースを含む。さらに、セルロース は、天然由来のものでも、人為的に合成したものでもよい。セルロースの由来も特に限定しない。植物由来のものでも、真菌由来のものでも、細菌由来のものであってもよい。
【0018】
セルロースは、天然では植物細胞壁の主たる構成成分として存在し、多糖としては地球上で最も多く生産されている。植物細胞壁において、セルロースは、結晶性セルロース領域と非晶質セルロース領域とを形成している。結晶性セルロース領域は、分子間水素結合等により強固な結晶構造を形成している。
【0019】
本明細書において、セルロース含有材料とは、上記したセルロースを含むものであればよい。セルロース含有材料は、綿や麻などの天然繊維品、レーヨン、キュプラ、アセテート、リヨセルなどの再生繊維品、稲ワラなどの各種ワラ、籾殻、バガス、木材チップなどの農産廃棄物、古紙、建築廃材などの各種廃棄物などを含むバイオマス(木質系及び草本系)が挙げられる。また、セルロース含有材料は、リグニンとセルロースとの複合体であるリグノセルロースであってもよいが、酵素処理や化学的処理等により少なくとも一部のリグニンと分離された状態であってもよいし、実質的にリグニンが除去されたものであってもよい。
【0020】
(セルロース分解助長活性を有するポリペプチド)
本明細書に開示されるポリペプチド(以下、単に本ポリペプチドという。)は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなることができる。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、本発明者らが、F. equisetiから取得した新規なポリペプチドである。セルロース分解活性を増強するポリペプチドとして公知のT. reesei由来のスウォレニンタンパク質のアミノ酸配列との同一性は33.3%であり、Aspergillus fumigatus(A. fumigatus、アスペルギルス・フミガータス)由来のタンパク質のアミノ酸配列との同一性は27.3%である。F. equisetiは、植物病原菌として知られる糸状菌である。
【0021】
本ポリペプチドは、セルロース分解助長活性を有することができる。セルロース分解助長活性とは、本ポリペプチドを、1又は2以上のセルラーゼとともにセルロースに供給したとき、本ポリペプチドを加えないときに比較して、セルロースの分解活性が向上する活性を意味している。
【0022】
セルロースの分解活性の向上は、例えば、以下の方法で測定できる。
(1)微粉砕バガスなどの実バイオマスに市販セルラーゼ製剤ミックス(例えば、Celluclast (SIGMA):Novozyme 188 (SIGMA) = 5:1)を40 FPU相当 (6 μg)、本ポリペプチドを適量、例えば、1μgもしくは20μgを加えて反応させる。反応条件は、例えば、反応媒体として50 mM Tris-HCl(pH 5.0)3mlを用い、40 ℃、150 rpmとすることができる。
(2)反応開始から分解反応がおおよそ終了する時間に至る時間の1又は2以上の時点で反応液を分取し、分取した反応液をバイオセンサ BF5 (王子計測機器)等でグルコース濃度を測定し、糖化効率を算出する。
(3)本ポリペプチドを加えない以外は同一条件で反応させて、グルコース濃度を測定し、糖化効率を算出する。
(4)本ポリペプチド含有試料と本ポリペプチド非含有試料の糖化効率を比較することで、セルロース分解活性の向上を確認できる。なお、糖化効率を対比する反応時間は特に限定しないで、いずれかの時点で本ポリペプチド含有試料が本ポリペプチド非含有試料に比べて糖化効率が上回っていれば足りる。好ましくは、反応開始から所定の経過時間ごとに反応液を分取して糖化効率曲線を取得し、本ポリペプチド含有試料につき糖化効率の向上を確認する。
【0023】
本ポリペプチドは、結晶性セルロース結合活性を有することができる。結晶性セルロース結合活性とは、結晶性セルロースと結合する活性であり、例えば、以下のようにして検出することができる。結晶性セルロースと結合する活性を有する可能性のあるポリペプチドの溶液を準備し、この溶液(例えば、50ml程度)に対して、結晶性セルロース(例えば、アビセル PH-101, Sigma-Aldrich) 4 gを添加し、スターラーで5分間攪拌し、結晶性セルロースの沈降後に、ピペットにて上清を除去し、結晶セルロースをWash Buffer: 1M (NH4)2SO4 、0.1M Tris-HCL (pH7.0) 20 ml で2回洗浄した後、シリンジに充填し、30 mlの滅菌水、または50mM Tris NaOH (pH 12.5)20 mlを用い、結晶性セルロースに結合したポリペプチドを溶出させる。ポリペプチドを含む可能性のある溶出液を限外ろ過膜等で濃縮後、SDS- PAGE等で精製し取得できたポリペプチドは、結晶性セルロース結合活性を有しているといえる。
【0024】
本ポリペプチドは、エンドグルカナーゼ活性を有することができる。エンドグルカナーゼは、セルロースのβ-1,4-グルコシド結合をランダムに切断することができる。エンドグルカナーゼ活性は、により検出することができる。エンドグルカナーゼの活性は、例えば、カルボキシルメチルセルロース(CMC)を基質として加水分解にて生じた還元末端をソモギ-ネルソン法などの公知の還元糖の測定方法で測定することができる。また、CMCなどのセルロースを含有するアガロースプレートなどに、本ポリペプチドを載せてエンドグルカナーゼの活性温度域、例えば、40℃近傍で適当な時間インキュベートし、染色するコンゴーレッドなどを用いて、セルロースが分解されたことによる領域(ハロ)を検出することでエンドグルカナーゼ活性を測定できる。
【0025】
本ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するタンパク質であってもよい。配列番号2で表されるアミノ酸配列に付加されることがあるアミノ酸配列としては、例えば、細胞外分泌のためのシグナルペプチド、セルロース結合ドメイン等、こうしたドメインとのリンカー等が挙げられる。このような付加的アミノ酸配列は、後述する各種態様のポリペプチドにも適宜含まれていてもよい。
【0026】
本ポリペプチドは、配列番号2で表されるアミノ酸配列と一定の関係を有するアミノ酸配列を有し、セルロース分解増強活性を有するポリペプチドであってもよい。こうしたポリペプチドが有しうるアミノ酸配列の一つの態様は、配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸変異を有することができる。アミノ酸変異の個数は特に限定されないが、例えば、1から40個、好ましくは1から30個、より好ましくは1から20個、より好ましくは1から10個、さらに好ましくは1から5個、特に好ましくは1から3個程度を意味する。また、アミノ酸変異は、置換、欠失及び付加のいずれであってもよく、2種類以上の変異態様を同時に含んでいてもよい。アミノ酸置換の例としては、保存的置換が好ましく、具体的には以下のグループ内での置換が挙げられる。(グリシン、アラニン)(バリン、イソロイシン、ロイシン)(アスパラギン酸、グルタミン酸)(アスパラギン、グルタミン)(セリン、トレオニン)(リジン、アルギニン)(フェニルアラニン、チロシン)。
【0027】
かかるポリペプチドの他の一態様としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつセルラーゼ活性を有するポリペプチドが挙げられる。同一性は好ましくは80%以上であり、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは、90%以上であり、一層好ましくは95%以上である。より一層好ましくは98%以上であり、最も好ましくは99%以上である。
【0028】
本明細書において同一性又は類似性とは、当該技術分野で知られているとおり、配列を比較することにより決定される、2以上のタンパク質あるいは2以上のポリヌクレオチドの間の関係である。当該技術で“同一性 ”とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きのそのような配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の配列不変性の程度を意味する。また、類似性とは、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間のアラインメントによって、あるいは場合によっては、一続きの部分的な配列間のアラインメントによって決定されるような、タンパク質またはポリヌクレオチド配列の間の相関性の程度を意味する。より具体的には、配列の同一性と保存性(配列中の特定アミノ酸又は配列における物理化学特性を維持する置換)によって決定される。なお、類似性は、後述するBLASTの配列相同性検索結果においてSimilarity と称される。同一性及び類似性を決定する方法は、対比する配列間で最も長くアラインメントするように設計される方法であることが好ましい。同一性及び類似性を決定するための方法は、公衆に利用可能なプログラムとして提供されている。例えば、AltschulらによるBLAST (Basic Local Alignment Search Tool) プログラム(たとえば、Altschul SF, Gish W, Miller W, Myers EW, Lipman DJ., J. Mol. Biol., 215: p403-410 (1990), Altschyl SF, Madden TL, Schaffer AA, Zhang J, Miller W, Lipman DJ., Nucleic Acids Res. 25: p3389-3402 (1997))を利用し決定することができる。BLASTのようなソフトウェアを用いる場合の条件は、特に限定するものではないが、デフォルト値を用いるのが好ましい。
【0029】
かかるポリペプチドのさらに他の一態様として、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA(若しくはその一部9又は当該DNAと相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズするDNAによってコードされるアミノ酸配列を有し、セルロース分解増強活性を有するポリペプチドが挙げられる。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列として、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。ストリンジェントな条件とは、たとえば、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、塩基配列の同一性が高い核酸、すなわち、配列番号2で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上、一層好ましくは95%以上である。より一層好ましくは98%以上であり、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNA又はその相補鎖がハイブリダイズし、それより相同性が低い核酸の相補鎖がハイブリダイズしない条件が挙げられる。より具体的には、ナトリウム塩濃度が15〜750mM、好ましくは50〜750mM、より好ましくは300〜750mM、温度が25〜70℃、好ましくは50〜70℃、より好ましくは55〜65℃、ホルムアミド濃度が0〜50%、好ましくは20〜50%、より好ましくは35〜45%での条件をいう。さらに、ストリンジェントな条件では、ハイブリダイゼーション後のフィルターの洗浄条件が、通常はナトリウム塩濃度が15〜600mM、好ましくは50〜600mM、より好ましくは300〜600mM、温度が50〜70℃、好ましくは55〜70℃、より好ましくは60〜65℃である。
【0030】
かかるポリペプチドのさらに他の一態様としては、配列番号1で表される塩基配列と70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、一層好ましく95%以上、より一層好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上の同一性を有する塩基配列からなるDNAによってコードされ、セルロース分解増強活性を有するポリペプチドが挙げられる。配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする塩基配列として、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
【0031】
こうした各種態様の本ポリペプチドは、セルロース分解増強活性を有していればよく、その程度は問わない。好ましくは、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの有するセルロース分解増強活性の20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは50%以上、一層好ましくは60%以上、より一層好ましくは70%以上、さらに一層好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上であり、さらに最も好ましくは100%以上である。
【0032】
本ポリペプチドは、セルロース分解増強活性に基づき、セルロース含有材料中のセルロース等の分解(糖化)に寄与して、セルラーゼの使用量を低減し、セルロースの糖化利用の効率を高めることができる。本ポリペプチドは、そのセルロース分解増強活性に基づき、セルラーゼ供給前の処理前のセルロース含有材料の前処理への利用、セルラーゼ存在下でのセルロース含有材料の分解への利用、発酵微生物及びセルラーゼの存在下でのセルロースの直接糖化発酵による有用物質生産への利用、セルラーゼと組み合わせた組成物への利用等に有用である。
【0033】
本ポリペプチドは、ゲル電気泳動等の分離手段で精製された状態であってもよいし、他のタンパク質等が併存した未精製あるいは粗精製のものであってもよい。未精製又は粗精製の本ポリペプチドとして、後述する本ポリペプチドを分泌生産する形質転換体の培養上清又はその粗精製物が挙げられる。本ポリペプチドの製造方法は特に限定されない。本ポリペプチドは、公知のタンパク質合成方法あるいは遺伝子工学的に合成できる。本ポリペプチドの製造方法については後段で詳述する。
【0034】
(本ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド)
本明細書に開示されるポリヌクレオチド(以下、本ポリヌクレオチドという。)は、本ポリペプチドをコードしている。本ポリヌクレオチドとしては、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。本ポリヌクレオチドは、一つのアミノ酸配列に対応して、遺伝コードの縮重により発生する複数の態様の塩基配列を包含している。ポリヌクレオチドは、DNA(一重鎖及び二重差)、RNA(一重鎖)、DNA/RNAハイブリッド(DNA一重鎖とRNA一重鎖のハイブリッド)、DNAとRNAのキメラであってもよい。また、本ポリヌクレオチドは、cDNA等、本ポリペプチドをコードするコード化配列のみを有するものあってもよいし、ゲノム等、所定の宿主で対応する本ポリペプチドに翻訳される限り、1又は2以上のイントロンを含んでいてもよい。
【0035】
本ポリヌクレオチドは、例えば、本ポリペプチドをコードする塩基配列に基づいて設計したプライマーを用いて、本ポリペプチドの天然の取得源であるF. equisetiから抽出したDNA、他各種生物のcDNAライブラリー又はゲノムDNAライブラリー等由来のポリヌクレオチドを鋳型としたPCR増幅を行うことにより、ポリヌクレオチド断片として得ることができる。また、上記ライブラリー等由来のポリヌクレオチドを鋳型とし、本ポリペプチドをコードするDNAの一部であるDNA断片をプローブとしてハイブリダイゼーションを行うことにより、ポリヌクレオチド断片として得ることができる。あるいは本ポリヌクレオチドは、化学合成法等の当技術分野で公知の各種の核酸配列合成法によって、DNA断片等として合成してもよい。さらにまた、配列番号2で表されるアミノ酸配列に変異を導入した態様のポリペプチドをコードするDNA等の本ポリヌクレオチドは、公知のアミノ酸配列における変異導入法において取得される。変異導入法については後段で説明する。そのほか、当業者であれば、Molecular Cloning(Sambrook, J. et al., Molecular Cloning :a Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 10 Skyline Drive Plainview, NY (1989))等を参照することにより、本ポリペプチドについて開示される塩基配列等に基づいて、各種態様の本ポリヌクレオチドを取得することができる。
【0036】
なお、本ポリヌクレオチド並びに本ポリペプチドの取得源は、F. equisetiやFusarium oxysporum等のFusarium属微生物のほか、各種糸状菌が挙げられる。本明細書において、例えば、「Fusarium 属に由来するポリペプチド」とは、F. equisetiなどFusarium属に分類される微生物(野生株であっても変異株であってもよい。)が生産するポリペプチド又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたポリペプチドをいう。したがって、F. equisetiやF. oxysporum から取得したポリペプチドをコードする遺伝子(又はその改変遺伝子)を導入した形質転換体によって生産された組換体タンパク質であるポリペプチドも、Fusarium属に由来するポリペプチドに該当する。また、「F. equisetiに由来するポリペプチド」には、同様に、F. equisetiに分類される微生物が生産するポリペプチド又は当該微生物の生産するタンパク質をコードする遺伝子を利用して遺伝子工学的手法によって得られたポリペプチドをいい、同種で他の菌株からそれぞれ取得したされるポリペプチドをコードする遺伝子を導入した形質転換体によって生産された組換え体タンパク質が含まれうる。
【0037】
(ポリヌクレオチド構築物及び発現ベクター)
本明細書に開示されるポリヌクレオチド構築物は、本ポリヌクレオチドを含み、好ましくは、さらに、本本ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドを宿主細胞で発現させるための1又は2以上の要素を含むことができる。こうした要素としては、公知技術に基づき適宜選択されるが、例えば、プロモーター、ターミネーター、ポリA配列、シグナルペプチド配列、宿主ゲノム等との相同組み換えによるゲノム導入のための相同配列等が挙げられる。また、ポリヌクレオチド構築物は、形質転換された宿主細胞を選択するためのマーカーを含むことができる。ポリヌクレオチド構築物は、環状あるいは線状のDNA分子でありえ、典型的には発現ベクターの形態を採りうる。発現ベクター及びその構築方法は、既述のMolecular Cloningに記載されるほか、当業者において周知である。なお、ベクターの形態は、使用形態に応じて様々な形態を採ることができる。
【0038】
(本ポリペプチドの製造及び形質転換体)
本ポリペプチドは、例えば、適当な宿主微生物に本ポリペプチドをコードする本ポリヌクレオチドを,発現ベクターの形態を採るポリヌクレオチド構築物を導入して宿主細胞を形質転換して得られた形質転換体で発現させることで本ポリペプチドを取得できる。すなわち、こうした形質転換体を培養する工程と、前記培養物ポリペプチドを回収する工程と、を備えることで、本ポリペプチドを取得できる。
【0039】
ポリヌクレオチド構築物の宿主細胞への導入にあたっては、既出のMolecular CloningやCurrent protocols in Molecular Biologyに記載されている方法を適宜参照し、従来公知の各種方法、例えば、トランスフォーメーション法や、トランスフェクション法、接合法、プロトプラスト法、エレクトロポレーション法、リポフェクション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。
【0040】
また、本ポリペプチドであって、配列番号2で表されるアミノ酸配列に点変異等を導入した態様のポリペプチドは、慣用の突然変異誘発法、部位特異的変異法、エラープローンPCRを用いた分子進化的手法等によって改変することによって取得することができる。このような手法としては、Kunkel法又は Gapped duplex法等の公知手法又はこれに準ずる方法が挙げられ、例えば部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット(例えばMutant-K(タカラバイオ社製)やMutant-G(TAKARA社製))などを用いて、あるいは、TAKARA社のLA PCR in vitro Mutagenesis シリーズキットを用いて変異が導入される。
【0041】
上記形質転換体の宿主は、特に限定しないで、各種原核微生物や真核微生物を用いることができる。真核微生物や原核微生物は特にその種類を限定しないが、遺伝子組み換え系と発酵技術の確立した微生物を用いることが好ましい。微生物は、特に限定しないが、例えば、公知の各種酵母を利用できる。後述するエタノール発酵等を考慮すると、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピヒア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピヒア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。また、真核微生物は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、アスペルギルス・ニジュランス(Aspergillus nidulans)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus soya)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii)、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)等の麹菌であってもよい。
【0042】
本ポリペプチドは、回収及び形質転換体によるセルロースの糖化や発酵を考慮すると、形質転換体において細胞外に分泌あるいは細胞表層に提示(保持)されることが好ましい。細胞外分泌性又は表層提示性を付与するには、公知の分泌シグナルや表層提示用のシステムを用いることができる。例えば、分泌シグナルや凝集性タンパク質又はその一部のアミノ酸配列が付与される。分泌シグナルとしては、例えば、Rhizopus oryzaeやC. albicansのグルコアミラーゼ遺伝子の分泌シグナル、酵母インベルターゼリーダー、α因子リーダーなどが挙げられる。また、凝集性タンパク質としては、α−アグルチニンをコードするSAG1遺伝子の5’領域の320アミノ酸残基からなるペプチドが挙げられる。また、所望のタンパク質を細胞表層に提示するためのポリペプチドや手法は、WO01/79483号公報や、特開2003−235579号公報、WO2002/042483号パンフレット、WO2003/016525号パンフレット、特開2006−136223号公報、藤田らの文献(藤田ら,2004. Appl Environ Microbiol 70:1207-1212および藤田ら, 2002. Appl Environ Microbiol 68:5136-5141.)、村井ら, 1998. Appl Environ Microbiol 64:4857-4861.に開示されている。以上のことから、本ポリペプチドを細胞外に分泌又は細胞表層提示する形質転換体が本明細書の開示に包含される。また、本ポリペプチドは、形質転換体の培養上清や培養菌体から公知の方法で回収することができる。
【0043】
(セルロースの分解産物の生産方法)
本発明のセルロースの分解産物の生産方法は、本ポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロースを分解する工程を、備えることができる。セルラーゼとともに本ポリペプチドを用いることで、セルラーゼによるセルロースの分解活性が向上する。本明細書において、セルラーゼとは、セルロースをグルコースにまで加水分解するのに作用する各種の酵素の総称である。セルラーゼとしては、狭義には、β1,4−エンドグルカナーゼ(EC3.2.1.4)、グルカン1,4−βグルコシダーゼ(EC3.2.1.74)、セルロース1,4−βセロビオヒドロラーゼ(EC3.2.1.91)、βグルコシダーゼ(EC3.2.1.21)等が挙げられる。セルラーゼは、天然由来であっても人工的に改変されたものであってもよい。天然由来のものとしては、Trichoderma属やAspergillus属等に由来するセルラーゼなどを好ましく用いることができる。本発明においては、上記した狭義のセルラーゼを1種類又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。異種のセルラーゼでなく、同種であっても2種類以上組み合わせてもよい。また、由来の異なるセルラーゼを組み合わせて用いることもできる。これらのセルラーゼのうち、セロビオヒドロラーゼ及びエンドグルカナーゼを少なくとも用いることが好ましい。また、グルコースまでに分解するには、さらにβグルコシダーゼを用いることが好ましい。
【0044】
セルロースの分解産物とは、セルロースの低分子化物であればよい。したがって、部分分解物であるセロオリゴ等やセロビオースからグルコースまでの態様が含まれる。
【0045】
本生産方法における分解工程において、本ポリペプチドとセルラーゼとセルロース含有材料との接触形態は特に限定されない。例えば、予め、本ポリペプチド又はセルラーゼをセルロース含有材料とを接触させた後、さらに、セルラーゼ又は本ポリペプチドを接触させてもよいし、本ポリペプチドとセルラーゼとセルラーゼ含有材料とを同時に相互に接触させてもよい。
【0046】
なお、セルロースをセルラーゼで分解する条件は特に限定しない。一般的にセルラーゼを用いる酵素反応では、用いるセルラーゼの至適pHや至適温度等を考慮し設定されるが、反応温度は30℃以上70℃以下であり、1時間以上24時間以下程度とすることができる。また、pHは、2以上6以下程度とすることができる。
【0047】
さらに、分解工程は、本ポリペプチド及びセルロース含有材料の存在下、1又は2以上のセルラーゼを発現可能な微生物を当該セルラーゼを分泌生産可能な条件下で培養する工程とすることができる。すなわち、セルラーゼの少なくとも一部を微生物によって直接供給してもよい。こうすることで、さらに、セルラーゼの供給コストや使用量を低減することができる。また、本ポリペプチドを、本ポリペプチドを細胞表層又は細胞外に分泌する微生物(本明細書に開示される形質転換体であってもよい)によって直接供給してもよい。こうすることで、本ポリペプチドの製造を実質的に省略することができる。なお、分解工程に供給する微生物がセルロースの分解産物を直接発酵できるときには、糖化発酵同時進行が可能となる。
【0048】
(セルロースから有用物質を生産する方法)
本明細書に開示される有用物質を生産する方法は、本ポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロースを分解する工程と、前記分解工程で得られるセルロース分解産物を炭素源として用いて発酵微生物を培養する培養工程と、を備えることができる。本明細書に開示される有用物質生産方法によれば、本ポリペプチドを用いて効率的に分解したセルロース分解産物を利用するため、効率的にセルロースを利用して有用物質を生産することができる。
【0049】
本有用物質の生産方法における分解工程は、本発明の分解産物の生産方法における分解工程と同様の各種態様で実施することができる。培養工程で用いる発酵微生物がβグルコシダーゼを生産しない場合には、分解工程で、βグルコシダーゼを用いてグルコースまで糖化しておくことが好ましい。
【0050】
本有用物質の生産方法における培養工程は、セルロース分解産物を利用できる発酵微生物として、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccahromyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属酵母等を利用してエタノールを生産する工程であってもよいし、酵母等の真菌や乳酸菌を利用してピルビン酸、乳酸、カプロン酸等の有機酸を生産する工程であってもよいし、大腸菌を利用してタンパク質等を生産する工程であってもよい。また、Aspergillus oryzae、アスペルギルス・アワモリ(Aspergillus awamori)、アスペルギルス・カワチ(Aspergillus kawachii,) アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi)、アスペルギルス・ソーヤ(Aspergillus sojae)等のAspergillus属菌を利用して各種化合物や食品を生産する工程であってもよい。発酵微生物は、人工的に取得された微生物であってもよい。例えば、グルコースからの代謝系の1種又は2種以上の酵素を遺伝子組換えにより置換、追加等して得られる本来の代謝物でない化合物を産生可能に遺伝子工学的に改変したものであってもよい。このような微生物を用いることで、例えば、イソプレノド合成経路の追加によるファインケミカル(コエンザイムQ10、ビタミン及びその原料等)、解糖系の改変によるグリセリンの生産、プラスチック・化成品原料を生産するなどのバイオリファイナリー技術に適用できる。有用物質としては特に限定しないが、グルコースを利用して微生物が生成可能なものが好ましく、上記したように、バイオリファイナリー技術全般にわたる物質を対象とすることができる。
【0051】
また、本明細書に開示される有用物質の生産方法は、本ポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロース含有材料を分解しつつ、セルロース分解産物を炭素源として用いて発酵微生物を培養する工程を備えることができる。分解工程と培養工程とを一挙に行うことでこの生産方法においては、本ポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼは、酵素製剤として供給されていてもよいが、その少なくとも一部が、発酵微生物が細胞表層又は細胞外に分泌する態様で供給されてもよい。そうすることでセルラーゼ使用量を低減することができる。
本ポリペプチドを細胞表層又は細胞外に分泌発現する発酵微生物は、本明細書に開示される形質転換体として取得できる。また、セルラーゼを細胞表層に提示又は細胞外に分泌発現する酵母や麹菌も同様の手法により又は公知の方法により取得できる。
【0052】
(セルラーゼ組成物)
本発明のセルラーゼ組成物は、本ポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを含有することができる。このセルラーゼ組成物によれば、セルロースを効果的に分解できる。セルロース含有材料のセルロースの構造を効果的に緩和することができる。また、本発明のセルロース分解用組成物は、セルラーゼ又はセルラーゼを分泌生産可能な微生物と、本セルロース分解助長因子又は本形質転換体と、を含有することができる。本分解用組成物によれば、効率的にセルロースを分解・糖化することができる。これらの組成物において、セルラーゼ及びセルラーゼを分泌生産可能な微生物については、本発明のセルロースの分解産物の生産方法において既に説明した態様を適用することができる。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下に述べる遺伝子組換え操作は既出のMolecular Cloningに従い行った。
【実施例1】
【0054】
(結晶性セルロース結合ポリペプチドの精製)
本実施例では、F. equiseti(NBRC 30198)の培養上清溶液から、結晶性セルロースに結合するタンパク質の取得を試みた。まず、F. equisetiを、以下の方法で培養した。炭素源としてCarboxy Methyl Cellulose (CMC, SIGMA-ALDRICH)を添加したDPY培地(CMC 1 g, Glucose 1 g, Polypeptone 1 g, Yeast extract 0.5 g, KH2PO40.5 g, MgSO4・7H2O 0.05 gを蒸留水で100 mlに溶解)(以下DPY+CMC培地) 100 mlに植菌し、30℃、120 rpm、4日間、振とう培養を行った。
【0055】
次いで、培養上清溶液から、結晶性セルロース結合ポリペプチドの調製を実施した。上述にて得られた培養上清溶液50 mlに対し、結晶性セルロース(アビセル PH-101, Sigma-Aldrich) 4 gを添加し、スターラーで5分間攪拌した。アビセルの沈降後に、ピペットにて上清を除去した。これに、Wash Buffer: 1M (NH4)2SO4 、0.1M Tris-HCL (pH7.0) 20 ml で2回洗浄した後、結晶性セルロースをシリンジに充填させた。溶出には、30 mlの滅菌水、または50mM Tris NaOH (pH 12.5)20 mlを用いた。
【0056】
採取した溶液は限外ろ過膜(NANOSEP 10K OMEGA, PALL)を用いて濃縮した後、14% SDSポリアクリルアミドゲル(TEFCO)を用いて、SDS-PAGEを実施した。SDS-PAGEの詳細な実験手順は、Molecular Cloning -A Laboratory Manual- (Cold Spring Harbor Laboratory)に従った。
【0057】
SDSポリアクリルアミド電気泳動の結果を図1に示す。糸状菌フザリウム・エクイセチの培養上清において、約50 kDa相当の断片が確認され、培養上清溶液中に結晶性セルロースに結合するポリペプチドが存在することが確認された。
【実施例2】
【0058】
(結晶性セルロース結合タンパク質(ペプチド)の同定)
実施例1にて確認されたF. equiseti由来の結晶性セルロース結合タンパク質について、LC-MS/MS解析によるペプチド配列同定と、既存データベースとの比較によるタンパク質の同定を試みた。
【0059】
SDS-PAGEにおいて確認された断片を、ゲルから切り出し、エッペンチューブに採取した。本断片を溶解させた後、トリプシン(Promega)にて処理させることで得られた試料について、LC-MS/MS解析を実施した。試料を逆相クロマトグラフィーにて分離・濃縮しながら質量分析計で計測し、得られた結果を既存のデータベースと比較した。続いて、アルゴンガスを用い、ペプチド断片をペプチド結合の位置でランダムに崩壊させた分解物の質量を既存のデータベースと比較することによって、トリプシン処理によって得られたペプチド断片の配列同定を行った。LC-MS/MS解析の結果、1種類のペプチド配列の同定に成功した。ペプチド配列は、
“Ala - Leu - Gly - Gly - Ala - Gln - Tyr - Gly - Gly - lle - Ser - Ser - Arg”(配列番号3)であった。
【0060】
同定されたペプチド配列を、既存のデータベースにて調査し、本配列を保有するタンパク質が存在しないかを調べた。その結果、同じフザリウム属に該当するフザリウム・オキスポラム(Fusarium oxysporum)のGHF45相当(機能は未同定)のタンパク質中に、本配列と同じペプチドが存在することが確認された。
【実施例3】
【0061】
(結晶性セルロース結合ポリペプチドをコードする遺伝子のクローニング)
F. equiseti由来の結晶性セルロース結合ポリペプチドをコードすると予想される全長遺伝子のクローニングを試みた。上述したデータベースからの検索により、最も可能性の高い配列として選出されたタンパク質の両末端のアミノ酸配列をもとに、オリゴヌクレオチドプライマーを合成した。合成したオリゴヌクレオチドプライマーの配列は、以下の通りである。
【0062】
FeGHF45_attB1_F30;5'-GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCATCTGGAAGCGGT
CACTCTACTCGATACTGG-3'(配列番号4)
FeGHF45_attB2_cR20;5'-GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTTTAGTTGGGGACA
CACTGGG-3'(配列番号5)
【0063】
続いて、F. equiseti由来のゲノムDNAの調整を行った。実施例1と同様の条件で菌体を培養後、集菌して得られた菌体に、E. Z. N. A.TM Fungal DNA Isolation Kit(OMEGA bio-tek)を利用して、ゲノムDNAを調製した。調製したゲノムDNAは、分光光度計(NanoDrop ND-1000 (Thermo SCIENTIFIC))を用いて、DNA濃度を測定した。
【0064】
上述のオリゴヌクレオチドプライマーおよびゲノムDNAを用いて、PCRによる目的遺伝子の増幅を試みた。反応組成は、PCR反応条件は、94℃ 2分の後、(94℃ 15秒、58℃ 30秒、68℃ 1分10秒で1サイクル)×35サイクル とした。DNAポリメラーゼとしてKOD -Plus- (TOYOBO)を用いた。得られた試料をアガロースゲルにて電気泳動を行った。電気泳動の結果、約1.1kbpの単一の遺伝子断片の増幅に成功した。
【0065】
PCR増幅断片を、アガロースゲルから、RECOCHIP(TaKaRa)によって回収し、MultiSite Gatewayシステム(Invitrogen)のDonor Vector (pDONRTM221 (Invitrogen))へのサブクローニングを行った。BP ClonaseIIEnzyme Mix (Invitrogen) によるBP反応後、大腸菌コンピテントセルJM109へ形質転換を行った。
【0066】
サブクローニングによって得られた目的遺伝子の遺伝子配列解読を実施した。配列解読には3130 Genetic Analyzer (Applied Biosystems)を利用し、その操作手順は付属のマニュアルに従った。
【0067】
同定された遺伝子配列を配列番号6で表されるとおりであった。また、本遺伝子は1つのイントロンを含んでいた。予想されるcDNA配列を配列番号1に示す。また、本遺伝子配列から予想されるアミノ酸配列を配列番号2に示す。なお、同定されたアミノ酸配列において、LC-MS/MS解析で得られたペプチド配列(Ala - Leu - Gly - Gly - Ala - Gln - Tyr - Gly - Gly - lle - Ser- Ser -Arg) は、確かに含まれていることが確認された。
【0068】
同定されたアミノ酸配列(配列番号2)に関し、既存の2種類のスウォレニンタンパク質との相同性を比較した。その結果、Trichoderma reeseiのスウォレニンタンパク質との相同性は33.3 %、Aspergillus fmigatus由来のスウォレニンタンパク質との相同性は27.3 %であった。そのため、今回取得したセルロース結合タンパク質は新規のポリペプチド(タンパク質)であると考えられる。
【実施例4】
【0069】
(F. equiseti由来新規結晶性セルロース結合ポリペプチドの評価)
実バイオマス(バガス)を基質とした市販のセルラーゼ製剤によるセルロース分解における、F. equiseti由来新規ポリペプチドの添加効果試験を試みた。
【0070】
微粉砕バガス10 mgに市販セルラーゼ製剤ミックス (Celluclast (SIGMA):Novozyme 188 (SIGMA) = 5:1) を40 FPU相当 (6 μg) 、F. equiseti由来新規タンパク質を1 μgもしくは20 μgを反応させた。試験は3 mlの反応系で行った。バッファーには50 mM Tris-HCl pH 5.0を用いた。40 ℃、150 rpm で反応させ、試験開始から0, 24, 48, 74時間後に250 μlずつ反応液を分取した。分取したサンプルはバイオセンサ BF5 (王子計測機器)でグルコース濃度を測定し、セルロース糖化効率を算出した。図2にその結果を示す。
【0071】
図2に示すように、反応系にF. equiseti由来新規ポリペプチドを1μg添加することにより、試験開始24時間後にはコントロールと比べ約3.4% 糖化効率が上昇することを確認した。
【実施例5】
【0072】
(エンドグルカナーゼ活性の確認)
本実施例では、F. equiseti由来新規ポリペプチドのエンドグルカナーゼ活性を調べた。0.1%CMC含有1.5%アガロースゲルプレートにこの新規ポリペプチド0.5μgを載せて、40℃で24時間インキュベートした。コンゴーレッド溶液(0.1%コンゴーレッド、1M Tris-HCl、pH9.0)で染色した後、1M NaCl溶液を用いてプレートを2回洗浄した。その後、プレート中のハロ(セルロースが分解されたことによりコンゴーレッドで染色されなくなった部分)の大きさを観察した。ハロを確認したアガロースプレートを図3に示す。図3に示すように、ハロの形成が確認されたため、この新規ポリペプチドは単独でエンドグルカナーゼ活性を有することがわかった。
【配列表フリーテキスト】
【0073】
配列番号4,5:プライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)〜(f)からなる群から選択されるポリペプチド。
(a)配列番号2で表されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列と70%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(c)配列番号2で表されるアミノ酸配列において1又は複数個のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を有するアミノ酸配列を有するポリペプチド。
(d)配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるポリペプチド。
(e)配列番号1で表される塩基配列と70%以上の同一性を有する塩基配列によってコードされるポリペプチド。
(f)配列番号1で表されるアミノ酸配列をコードする塩基配列又はその相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAによってコードされるポリペプチド。
【請求項2】
さらに、結晶性セルロース結合活性を有する、請求項1に記載のポリペプチド。
【請求項3】
前記セルロースは、結晶性セルロースである、請求項1又は2に記載のポリペプチド。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドと、1又は2以上の前記ポリペプチドを発現させるための要素と、を含むDNA構築物。
【請求項5】
前記DNA構築物を含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のDNA構築物を含有する、形質転換細胞。
【請求項7】
前記形質転換細胞は酵母である、請求項に記載の形質転換細胞。
【請求項8】
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチドを生産する方法であって、
請求項6に記載の形質転換細胞を培養する工程と、
前記培養物からポリペプチドを回収する工程と、
を備える、方法。
【請求項9】
セルロー含有材料の分解産物の生産方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロース含有材料を分解する工程を、備える、方法。
【請求項10】
セルロース含有材料から有用物質を生産する方法であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを用いてセルロース含有材料を分解する工程と、
前記分解工程で得られるセルロース分解産物を炭素源として用いて発酵微生物を培養する培養工程と、
を備える、方法。
【請求項11】
セルラーゼ組成物であって、
請求項1〜3のいずれかに記載のポリペプチド及び1又は2以上のセルラーゼを含有する、組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−200136(P2011−200136A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68510(P2010−68510)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】