説明

セルロース微小繊維を付与した用紙

【課題】 本発明の課題は、紙幣、パスポート、有価証券、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物に用いる用紙に関し、特に、機械読み取りによる真偽判別が可能な用紙に関する。
【解決手段】 本発明の構成は、基材の少なくとも一部に、真偽判別用領域を有しており、この真偽判別用領域には、セルロース微小繊維を分散させた分散液が付与されて成っている。セルロース微小繊維分散液が付与された付与部と、セルロース微小繊維分散液が付与されていない非付与部分の差異は、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できないが、透過光量の差異、透気度の差異、発光波長の差異、化学構造の差異又は着色による色濃度の差異によって、機械読み取りによる真偽判別が可能なセルロース微小繊維を付与した用紙を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、パスポート、有価証券、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物に用いる用紙に関し、特に、機械読み取りによる真偽判別が可能な用紙に関わるものである。
【背景技術】
【0002】
紙幣、パスポート、有価証券、カード、印紙類、証明書又は入場券等の貴重印刷物は、その性質上、偽造や不正な複写を防止する機能を有することが要求される。この防止策としては、用紙内に偽造防止機能を付与する技術と、印刷において偽造防止機能を付与する技術に大別される。用紙内に偽造防止機能を付与する技術としては、すき入れ、混抄又は多層紙等が挙げられ、印刷において偽造防止機能を付与する技術としては、微細な画線構成、凹版画線又は蛍光発光等が挙げられる。
【0003】
しかし、近年、高性能なスキャナ、パソコン又はプリンタ等が普及したため、第三者が容易に偽造品を作製できる傾向にある。さらに、高性能なスキャナ、パソコン又はプリンタ等で作製された偽造品は、視覚的な判断だけでは真正品と差別化することが困難になりつつあり、このような状況において、偽造品と真正品の判別のためには機械読み取り技術が有効な手段となる。
【0004】
機械読み取り技術により真偽判別を行う具体的な方法としては、IR吸収性インキを利用し、赤外光センサで検知する方法、蛍光インキを利用し、紫外光を照射した時の発光を検知する方法が広く利用されている。さらに、これらの方法を実際に採用する上では、偽造等を防止する対策として、付与した情報を何らかの形で隠蔽することが行われている。
【0005】
また、印刷を、情報源、出力の規模及び印刷物の使用者の相互関係という観点から分類すれば、大規模商業印刷と個人向けの印刷に分けられる。大規模商業印刷は、情報源が紙などを原稿として存在し、大量かつ高速にその複製を作ることを目的に効率化が進められてきた。それに対し、個人向け印刷は、インクジェット方式やレーザー方式などがあり、パソコン上で作成した文書やインターネットから得た情報などを個人的な記録として紙に出力することが主な使用方法であるが、ここ数年、高精細で可変情報を付与できる特性を生かしたオンデマンド印刷方式が採用されてきている。そのため、オンデマンド印刷に適用可能で、かつ、偽造防止効果及び真偽判別効果を有した用紙が求められている。
【0006】
一方、近年、テクノロジーの進歩が著しく、ナノスケール品の創製の際、合成材料に限らずセルロースのような天然材料にも応用が可能となってきた。その例として、セルロース系の原料を酸化し、該酸化セルロースを湿式微粒化処理してナノファイバー(以下、「セルロースナノファイバー」という。)を作製し、そのセルロースナノファイバーから成る製紙用添加剤を、紙に塗工又は含浸することで紙の透気抵抗度及び平滑度を向上させ、インキの着肉性や裏抜け防止に優れた印刷用紙が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
また、セルロースナノファイバーからなる製紙用添加剤を表面に塗布した紙に、1層以上の塗工層を設けることで、白紙光沢度及び印刷光沢度を向上させたオフセット印刷用塗工紙と、網点の欠落の少ないグラビア印刷用塗工紙が開示されている(例えば、特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−263850
【特許文献2】特開2009−263853
【特許文献3】特開2009−263854
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、機械読み取り技術の手段として使用されているIR吸収性インキや蛍光インキの場合、これらの技術が広く普及して一般化していく中で、関連した技術情報が公開され、偽造等に対する抵抗力は低下してきており、偽造や変造による被害が続発してきている、といった現状がある。
【0010】
また、これらのインキや透明顔料等を用紙上に付与した場合には、付与部と非付与部で光沢や色味が異なるため、目視で付与部が認識できてしまい、用紙の一部分に何らかの加工がされていることが一目で分かってしまうという問題があった。
【0011】
さらに、IR吸収性インキや蛍光インキ等は、リサイクル性や環境調和性に乏しく、原価の高い材料も存在するため、製品のコスト制限によっては使用できない場合があった。
【0012】
なお、特許文献1、特許文献2及び特許文献3に記載の技術に関しては、いずれも、セルロースナノファイバーを用紙全面に塗工(又はダブル塗工)し、用紙の平滑性、インキ着肉性又は光沢度等を向上させることを目的とした技術であり、本発明が目的とする真偽判別を目的として加工された用紙ではない。
【0013】
本発明は、前述した課題の解決を目的とするものであり、基材の一部に、セルロース微小繊維を分散させた分散液を付与した用紙に関する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙は、基材の少なくとも一部に、真偽判別用領域を有し、真偽判別用領域は、セルロース微小繊維を分散させたセルロース微小繊維分散液が付与されて成り、真偽判別領域におけるセルロース微小繊維分散液が付与された付与部と、セルロース微小繊維分散液が付与されていない非付与部分の差異は、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できないことを特徴とする。
【0015】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙は、セルロース微小繊維における繊維幅が、2nm以上10μm未満であることを特徴とする。
【0016】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙は、基材の少なくとも一部に付与する、セルロース微小繊維の乾燥後の固形分量は、0.01〜30g/mであることを特徴とする。
【0017】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙は、機械読み取りによる真偽判別用紙としての使用であることを特徴とする。
【0018】
本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の機械読み取りは、付与部と非付与部における、透過光量の差異、透気度の差異、発光波長の差異、化学構造の差異又は着色による色濃度の差異による読み取りであること特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
基材の紙を構成する材料と、同形状の繊維形状及び同素材のセルロース材料を使用することにより、セルロース微小繊維の付与部分と非付与部分で、光沢、白色度、色味又は風合い等が変わらず、可視光下において目視で視認できなくなった。そのため、用紙に何らかの加工がされていることが一目では分からず、容易に偽造されることがない。
【0020】
可視光下においては目視で付与部の視認ができないが、セルロース微小繊維の付与部分と非付与部分の透過光量、透気度、発光波長又は化学構造等の違いによる機械読み取りによる真偽判別が可能になった。
【0021】
用紙に何らかの処理を施さない限り、可視光下においては目視で付与部の視認ができないが、用紙に印字又は着色することで、セルロース微小繊維の付与部分と非付与部分が色変化し付与部を可視光下で視認でき、簡易な方法で真偽判別が可能となった。
【0022】
また、用紙自体が真偽判別としての要素を持っているので、住民票等、オンデマンド印刷用の用紙として適用可能である。
【0023】
セルロースといった天然繊維を使用するため、リサイクル性や環境調和性が向上する。また、製品コストの低減が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。
【図2】実施例1におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。
【図3】実施例1における用紙の真偽判別結果を示す。
【図4】実施例2におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。
【図5】実施例2における用紙の真偽判別結果を示す。
【図6】実施例3におけるセルロース微小繊維を付与した用紙の平面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0026】
図1に、本発明における用紙の平面図を示す。本発明における用紙(1)は、基材(2)の少なくとも一部に、真偽判別用領域(3)を有し、その真偽判別用領域(3)には、セルロース微小繊維を分散させた分散液(以下、「セルロース微小繊維分散液」という。)が付与されて成る。以下、セルロース微小繊維分散液を付与した部分のことを「付与部」といい、セルロース微小繊維分散液を付与していない部分のことを「非付与部」という。
【0027】
また、基材(2)の少なくとも一部に有している真偽判別用領域(3)における付与部の形状は、図1(a)に示すように有意味情報を持った図柄形状でもよく、図1(b)に示すように基材に対して帯状としてもよい。
【0028】
本発明における基材(2)とは、木材や非木材パルプから成る紙、合成繊維からなる合成繊維紙、不織布又はフィルム等、吸水性を有する材料から形成されるシート状のものであれば、特に限定はない。ただし、紙、合成繊維紙又は不織布等の、繊維状の材料から形成される基材の方が好ましい。フィルム等の場合、セルロース微小繊維分散液を多く付与した場合、付与部が可視光下において視認できる可能性がある。
【0029】
なお、図1(a)及び図1(b)において、付与部が着色され視認できる状態で図示されているが、説明上、着色して図示しているのであって、実際の用紙(1)は、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できない。
【0030】
本発明におけるセルロース微小繊維とは、主としてセルロースからなる繊維であり、特に植物由来の天然セルロースを原料として用いたものが好ましく、繊維幅2nm〜10μm未満の微小なセルロース繊維に解繊されたものをいう。
【0031】
ここでいう解繊とは、セルロース系の繊維をミクロ又はナノフィブリル数本単位まで解きほぐすことである。通常、植物から得られるセルロース系の繊維は、セルロース分子30〜50本から成り、繊維幅が約2〜5nmのセルロースナノフィブリルの集合体である。セルロースミクロフィブリルは無数の水素結合により強固に結合されているが、物理的又は化学的な処理を施すことで、繊維状のままセルロースミクロ又はナノフィブリル数本単位に解きほぐすことが可能である。
【0032】
解繊する方法として、物理的方法では、高圧ホモジナイザーによる機械的せん断力でミクロフィブリル化する方法又は乾式ボールミルによる機械的粉砕に有機溶媒を添加することで微粒化処理する方法等がある。また、化学処理による方法では、硫酸処理によりセルロース繊維の非結晶部分を除く方法又は酸化処理により結晶性セルロースミクロフィブリル表面のみにカルボキシル基を導入して高分散させる方法等がある。これらの方法は、すべて公知の手法であり、本発明における用紙を作製するために行う解繊も公知の手法で行うこととする。
【0033】
セルロース繊維の繊維幅が10μm以上になると、一般的なパルプ繊維の繊維幅である10〜30μmと同じオーダーとなり、微小繊維特有の特性を得られない。よって、ここでいう微小繊維とは、セルロースナノフィブリル単位の約2nm〜10μm未満の繊維をいい、特に2nm〜1μm未満の繊維の使用が好ましく、更に好ましくは2nm〜100nm未満の繊維である。
【0034】
セルロース微小繊維は、主としてセルロースからなる繊維から成るが、そのセルロースからなる繊維については、特に限定されるものではなく、各種木材を原料とするKP又はSP等の化学パルプ、GP、TMP又はCTMP等の機械パルプ、古紙再生パルプ等のパルプを適宜選択して使用でき、それらを粉砕した粉末状セルロース、化学処理により精製した微結晶化セルロース等も使用できる。また、ケナフ、麻、イネ、バガス、アバカ、木綿、ミツマタ又は竹等の非木材を使用することもできる。
【0035】
セルロース微小繊維は水に分散させ、セルロース微小繊維分散液を調製する。これに、分散剤や水溶性高分子、セルロース微小繊維の分散状態を阻害しない水溶性液体や、あるいは粉末や微粒子等を加えることが可能である。
【0036】
また、セルロース微小繊維分散液は、解繊された微小繊維同士が、すぐに水素結合で再結合しない程度の濃度である必要があり、固形分濃度1〜3%程度での使用が望ましい。ただし、分散液を強撹拌又は分散剤を添加することで、微小繊維同士を再分離させることができれば、3〜35%程度でも問題はない。
【0037】
これは、固形分濃度が35%以上の高濃度になると、撹拌又は分散剤を加えるのみでは、微小繊維同士の再結合を抑止できず、再解繊処理が必要となる可能性があるためであり、逆に、固形分濃度が1%以下の低濃度では、用紙への付与及び乾燥段階において、水分過多による用紙の膨潤等を促進する可能性があるためである。ただし、それらの問題が他の手段で回避できれば特に制限はない。
【0038】
基材(2)の少なくとも一部にセルロース微小繊維分散液を付与する方式は、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はインクジェット印刷等の方式で印刷するか、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ブレードコーター又はバーコーター等の塗工機により塗工する、あるいは含浸させればよい。
【0039】
セルロース微小繊維分散液を付与する量は、付与する方式によって異なるが、乾燥後のセルロース微小繊維の固形分量が、0.01〜10g/m程度と成るように調製する必要がある。ただし、セルロース微小繊維分散液の付与部が可視光下において視認できなければ、10〜30g/m程度を付与しても問題はない。
【0040】
これは、固形分量が30g/mを超えると、可視光による反射光下及び透過光下において、セルロース微小繊維分散液の付与部が視認できてしまい、偽造される可能性が高くなるためであり、逆に、固形分量が0.01g/m以下では、微小繊維付与による効果である機械読み取り精度が低下し正確な結果を得ることが難しくなるためである。
【0041】
また、付与方式によっては、一回での付与限界量が当該量以下の場合もあるが、この場合は数回付与を繰り返し、目標の固形分量を得ればよい。
【0042】
セルロース微小繊維の長さは、木材パルプの繊維長さが通常0.5〜3mm程度であることから、最小限界長さはこれ以下の長さとなるが、最大限界長さは付与方式により異なる。例えば、スクリーン印刷方式ではスクリーンの網目を通過できる長さ以下、フレキソ印刷方式ではロールのセルに転写されうる長さ以下、インクジェット印刷方式では噴射口から噴射されうる長さ以下である必要がある。
【0043】
以上のように、基材の少なくとも一部にセルロース微小繊維分散液を付与した後、基材を乾燥させることによって、本発明における用紙が作製される。
【0044】
このようにして作製された用紙は、セルロース微小繊維分散液を付与した部分が、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できない。しかし、セルロース微小繊維分散液を付与した部分とそれ以外の部分とでは、用紙の特性に変化が生じるため、機械読み取りによる真偽判別が可能となる。
【0045】
機械読み取りとしては、透過光量によるもの、透気度によるもの、発光波長によるもの、化学構造によるもの、着色による色濃度変化によるもの等が挙げられる。
【0046】
まず、透過光量による機械読み取りについて説明する。
【0047】
これは、付与部が非付与部に対して繊維の密度が高くなり透過光量が異なるため、その透過光量の差異から機械読み取りを行う方法である。
【0048】
使用する装置としては、例えば、スキャナ、赤外スキャナ又は分光光度計等を使用する。これは、用紙の透過光量を測定できる装置であれば特に限定はない。
【0049】
方法としては、まず、付与部の透過光量値と非付与部の透過光量値を測定する。次に、測定した透過光量値同士を比較演算し、付与部の透過光量値と非付与部の透過光量値の差を算出する。次に、算出した透過光量値の差が、あらかじめ記憶してある透過光量値の許容範囲内であるかを比較する。比較した結果、許容範囲内であれば真正品、許容範囲外であれば偽造品の判定を行う。
【0050】
また、別の方法としては、まず、付与部の透過画像を取得する。取得した透過画像と、あらかじめ記憶してある画像とをパターンマッチング等により比較照合し、合致すれば真正品、合致しなければ偽造品の判定を行う。
【0051】
次に、透気度による機械読み取りについて説明する。
【0052】
これは、付与部が非付与部に対して繊維の密度が高くなり透気度が異なるため、その透気度の差異から機械読み取りを行う方法である。
【0053】
使用する装置としては、例えば、透気度計等を用いる。これは、用紙の透気度を測定できる装置であれば特に限定はない。
【0054】
方法としては、まず、付与部の透気度値と非付与部の透気度値を測定する。次に、測定した透気度値同士を比較演算し、付与部の透気度値と非付与部の透気度値の差を算出する。次に、算出した透気度値の差が、あらかじめ記憶してある透気度値の許容範囲内であるかを比較する。比較した結果、許容範囲内であれば真正品、許容範囲外であれば偽造品の判定を行う。
【0055】
次に、発光波長による機械読み取りについて説明する。
【0056】
これは、セルロース繊維の持つ特徴の一つ、蛍光発光特性を測定することで機械読み取りを行う方法である。セルロース由来の繊維は、450〜500nmのレーザー光を照射すると500〜600nmに強度を持つ蛍光を発光する特性があり、それを利用する方法である。
【0057】
使用する装置としては、例えば、レーザー顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡等を用いる。これは、レーザー光を照射して蛍光発光を確認できる装置であれば特に限定はない。
【0058】
方法としては、まず、付与部に対して450〜500nmのレーザー光を照射する。次に、照射に対する発光強度の測定を行う。照射に対し500〜600nmで蛍光を発光すれば真正品、発光しなければ偽造品の判定を行う。
【0059】
また、別の方法としては、まず、付与部に対して450〜500nmのレーザー光を照次に、照射に対する蛍光発光の画像を取得する。取得した蛍光発光画像と、あらかじめ記憶してある画像とをパターンマッチング等により比較照合し、合致すれば真正品、合致しなければ偽造品の判定を行う。
【0060】
ただし、蛍光の発光特性により機械読み取りを行う場合、基材は、合成繊維紙等のセルロース由来でない繊維からなるシートが好ましい。これは、基材がセルロース由来の繊維の場合、非付与部に450〜500nmのレーザー光を照射しても蛍光を発光してしまい、セルロース微小繊維分散液を付与した部分によって発光しているのか、基材そのもののセルロース由来の繊維によって発光しているのか区別できない可能性があるためである。
【0061】
しかし、セルロース由来の繊維から成る基材の場合でも、条件により発光強度差から機械読み取りによる真偽判別を可能にすることができる。例えば、セルロース微小繊維を原紙の表面に付与している場合、表層に近い物質からの蛍光発光強度の方が高く検出される。また、セルロース微小繊維は、原紙中のセルロース由来の繊維よりも表面積が大きいため、蛍光発光強度も高い場合がある。このような場合、蛍光発光強度の閾値を決定し、閾値より高い強度を示す部分は付与部、低い強度を示す部分は非付与部とし、発光強度差による機械読み取りを行うことができる。
【0062】
また、セルロース微小繊維分散液に、あらかじめ蛍光顔料等を混入し、それらを読み取ることもできる。
【0063】
次に、化学構造による機械読み取りについて説明する。
【0064】
これは、セルロース微小繊維を化学的処理方法により調製した場合における、繊維表面の化学構造の違いによって機械読み取りを行う方法である。セルロース微小繊維の表面にはカルボキシル基が多く残存する等、基材の紙を構成する繊維の表面とは異なった化学構造を示す。それを利用する方法である。
【0065】
使用する装置としては、例えば、X線光電子分析装置(ESCA)、赤外分光分析装置(IR)又は赤外分光分析全反射測定装置(IR−ATR)等を用いる。これは、繊維表面の化学構造を分析できる分析機器であれば特に限定はない。
【0066】
方法としては、まず、分析機器によって、付与部の化学構造を取得する。あらかじめ、セルロース微小繊維の化学構造を測定しておき、付与部の化学構造が、セルロース微小繊維の化学構造と一致すれば真正品、一致しなければ偽造品の判定を行う。
【0067】
また、別の方法としては、化学構造の違いによりマッピング画像を取得できる装置の場合、マッピング画像を取得する。所得した付与部のマッピング画像と、非付与部のマッピング画像をパターンマッチング等により比較照合し、合致すれば真正品、合致しなければ偽造品の判定を行う。
【0068】
セルロース微小繊維を調製後、故意に置換基又は金属成分等を導入し、それらを分析することも可能である。また、基材に合成繊維紙を使用することもできる。
【0069】
次に、着色による色濃度変化による機械読み取りについて説明する。
【0070】
これは、セルロース微小繊維を付与した用紙の全面又は付与部を含む一部を、着色材料により着色し、付与部と非付与部とで色濃度の差が生じることで機械読み取りを行う方法である。
【0071】
使用する装置としては、例えば、印刷濃度計や色濃度計などを用いる。これは、色濃度を測定できる機器であれば特に限定はない。
【0072】
方法としては、まず、付与部の濃度値と非付与部の濃度値を測定する。次に、測定した濃度値同士を比較演算し、付与部の濃度値と非付与部の濃度値の差を算出する。次に、算出した濃度値の差が、あらかじめ記憶してある濃度値の許容範囲内であるかを比較する。比較した結果、許容範囲内であれば真正品、許容範囲外であれば偽造品の判定を行う。
【0073】
セルロース微小繊維を付与した部分と付与していない部分とで、着色による色濃度に差が生じる原理は、セルロース微小繊維を付与した部分は、繊維の密度が高く空隙が少ないため、着色材料がセルロース微小繊維の表面上に溜まり、逆に、付与していない部分は、着色材料が基材の内部にまで浸透する。そのため、セルロース微小繊維を付与した部分は、印刷面側の色濃度が高く濃い色で視認され、付与していない部分は印刷面側の色濃度が低く淡い色で視認される。
【0074】
着色材料としては、有色インク、有色顔料分散液又は有色染料溶液等、着色できる液体であれば何でも良い。好ましくは、セルロース微小繊維の繊維幅よりも大きい粒子径を持つ顔料の分散液、又は用紙に浸透する水性の液の方が、色濃度の差が出やすい。また、無色蛍光材料等、その蛍光色の濃度を読み取ることで真偽判別できる材料であれば、可視光下で無色でも問題ない。
【0075】
また、着色する方法としては、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷又はオフセット印刷等の各種印刷方式で印刷あるいは印字するか、着色材料をこぼす、着色材料を用いて書く又は描く等の方法で着色すればよい。セルロース微小繊維を付与した用紙の全面又は一部に着色することができれば、どのような方法でも構わない。
【0076】
また、前述したとおり、機械読み取りの例として、着色による色濃度変化による例を挙げたが、これに関しては、目視による真偽判別も可能であり、付与部のみが浮き出た(色濃度が濃い)状態となれば真正品と判断し、何も浮き出てこなければ偽造品と判断することが可能である。
【実施例1】
【0077】
本発明の実施例1について、図2を用いて説明する。図2(a)は、本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙(1−1)の平面図を示す。
【0078】
本発明における用紙(1−1)は、基材(2−1)の少なくとも一部に、真偽判別用領域(3−1)を有し、その真偽判別用領域(3−1)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例1において基材(2−1)の少なくとも一部とは、図面左下に図示している重円型の領域とした。
【0079】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%のセルロース微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。スクリーン印刷により、80線のメッシュ(オープニング247μm、版厚119μm)を用いて、セルロース微小繊維の付与を行った。
【0080】
図2(b)に、図2(a)に示した用紙(1−1)を用いて商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙(1−1)に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、オフセット印刷により図柄の印刷を行った。
【0081】
このようにして作製された商品券において、着色による真偽判別を行う。セルロース微小繊維を付与した真偽判別用領域(3−1)上に、インクジェットプリンタ(EPSON社製PM−890C)を用いて、当該プリンタ専用のマゼンタインクを印刷した。
【0082】
図3(a)に示すように、着色前の用紙(1−1)では、真偽判別用領域(3−1)には何も視認できないが、図3(b)に示すように、着色後の用紙(1−1)では、真偽判別用領域(3−1)にセルロース微小繊維を付与した部分のみ色濃度が濃く現れた。それによって、本商品券が真正品であると判断された。
【実施例2】
【0083】
本発明の実施例2について、図4を用いて説明する。図4(a)は、本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙(1−2)の平面図を示す。
【0084】
本発明における用紙(1−2)は、基材(2−2)の少なくとも一部に、真偽判別用領域(3−2)を有し、その真偽判別用領域(3−2)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例2において基材(2−2)の少なくとも一部とは、図面左下に図示しているギザギザした輪郭を有する領域とした。
【0085】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%のセルロース微小繊維分散液を調製し、印刷に用いた。スクリーン印刷により、80線のメッシュ(オープニング247μm、版厚119μm)を用いて、セルロース微小繊維の付与を行った。
【0086】
図4(b)に、図4(a)に示した合成繊維紙を用いて商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙(1−2)に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、フレキソ印刷により図柄の印刷を行った。
【0087】
このようにして作製された商品券の機械読み取りを行う。まず、共焦点レーザー顕微鏡を用いて、用紙(1−2)の真偽判別用領域(3−2)を含む一部分に、458nmのアルゴンレーザーを照射した。
【0088】
その結果、500〜600nmに蛍光発光波長を持つセルロース由来の蛍光を検出し、そのことによって、本商品券が真正品であると判断された。
【0089】
また、図5に、セルロース微小繊維を付与した部分の一部の蛍光発光画像を示す。画像に示される白い部分(X)が蛍光発光部であり、セルロース微小繊維が付与されている部分を示す。場合によっては、取得した蛍光発光画像と、あらかじめ記憶してある画像とをパターンマッチング等により比較照合し、合致すれば真正品、合致しなければ偽造品の判定を行うことも可能である。
【実施例3】
【0090】
本発明の実施例3について、図6を用いて説明する。図6(a)は、本発明におけるセルロース微小繊維を付与した用紙(1−3)の平面図を示す。
【0091】
本発明における用紙(1−3)は、基材(2−3)の少なくとも一部に、真偽判別用領域(3−3)を有し、その真偽判別用領域(3−3)には、セルロース微小繊維分散液が付与されて成る。本実施例3において基材(2−3)の少なくとも一部とは、図面下に図示している帯状の領域とした。
【0092】
セルロース微小繊維は、ダイセル化学工業株式会社製「セリッシュ100G(商品名)」を使用した。これを強撹拌して希釈し、固形分2%のセルロース微小繊維分散液を調製し、付与に用いた。乾燥後のセルロース微小繊維の固形分量が3g/mになるように、バーコーターを用いて、帯状に付与を行った。
【0093】
図6(b)に、図6(a)に示した用紙(1−3)を用いて商品券とした例を示す。商品券は、前述の方法で作製した用紙(1−3)に対し、その他の情報を付与することによって作製される。その他の情報としては、商品券の額面及び図柄とし、オフセット印刷により図柄の印刷を行った。
【0094】
このようにして作製された商品券の機械読み取りを行う。光学スキャナ(EPSONスキャナ2200)を用いて、ポジフィルム、16bitグレー、400dpiの設定で、商品券全体の透過画像を読み取った。グレー諧調の出力レベルのレベル補正を行い、セルロース微小繊維付与部の透過画像(図示なし)を取得した。
【0095】
取得した透過画像と、あらかじめ記憶してある画像とをパターンマッチング等により比較照合し、合致すれば真正品、合致しなければ偽造品の判定を行った。その結果、合致するとの判定により、本商品券が真正品であると判断された。
【符号の説明】
【0096】
1、1−1、1−2、1−3 用紙
2、2−1、2−2、2−3 基材
3、3−1、3−2、3−3 真偽判別用領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の少なくとも一部に、真偽判別用領域を有し、
前記真偽判別用領域は、セルロース微小繊維が付与されて成り、
前記真偽判別用領域における前記セルロース微小繊維が付与された付与部と、前記セルロース微小繊維が付与されていない非付与部の差異は、可視光による反射光下及び透過光下では目視で視認できないことを特徴とするセルロース微小繊維を付与した用紙。
【請求項2】
前記セルロース微小繊維における繊維幅は、2nm以上10μm未満であることを特徴とする請求項1記載のセルロース微小繊維を付与した用紙。
【請求項3】
前記基材の少なくとも一部に付与する、前記セルロース微小繊維の乾燥後の固形分量は、0.01〜30g/mであることを特徴とする請求項1又は2記載のセルロース微小繊維を付与した用紙。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のセルロース微小繊維を付与した用紙の機械読み取りによる真偽判別用紙としての使用。
【請求項5】
前記機械読み取りは、前記付与部と前記非付与部における、透過光量の差異、透気度の差異、発光波長の差異、化学構造の差異又は着色による色濃度の差異による読み取りであることを特徴とする請求項4記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−21235(P2012−21235A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157494(P2010−157494)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(303017679)独立行政法人 国立印刷局 (471)
【Fターム(参考)】