説明

セルロース懸濁液およびその製造方法

本発明は、セルロース粒子、セルロース粒子懸濁液、およびセルロース粒子懸濁液を作製するための方法に関する。セルロース物質は、セルロースの溶解から懸濁したセルロース繊維の粉砕までの間に決して乾燥されることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース系物質がセルロースの溶解から懸濁したセルロース繊維の粉砕(disintegration)までの間に決して乾燥しない、セルロース系粒子、セルロース系粒子の懸濁液、およびセルロース系粒子の懸濁液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乾燥セルロース粉末は各種サイズで市販されており、例えば、補助ろ過剤、食料品および医薬製品における添加剤ならびに補助剤、クロマトグラフィ用の物質として、さらには建築材料業界における添加剤として等、数多くの様々な用途に用いられている。その大部分を占めるのは、パルプ、木材、または一年性植物から抽出される繊維性セルロースI型粉末である。これに関して、この繊維性セルロース粉末の繊維長の下限は、10〜20μmに限定される。上方の範囲の繊維長としては、mmの範囲で用いられており、従って、ここで既に、ショートカット繊維とある程度重複している。
量的には少なくなるが、セルロースII型粉末も得ることができる。ここでは、繊維性粉末に加えて球状粉末を得ることができる。これらの粉末は、好適な析出剤に溶解したセルロースを析出させることによって主に作製される。10μm未満のサイズ範囲の球状セルロース粉末は、作製により多くの労力を要するため、市販されているものを見つけることは困難である。
【0003】
例えば、国際公開第02/57319号にはNMMO‐法を用いたセルロースパール(cellulose pearls)の作製について記載されており、ここでは、例えば、二酸化チタンまたは硫酸バリウム、さらにはイオン交換を誘発する物質等の種々の添加剤が大量に繊維が形成される前のセルロース溶液に添加されている。得られた生成物は、イオン交換体または触媒として用いることができる。
【0004】
例えば排水処理に用いるイオン交換物質として好適な酸化チタンの作製が、米国特許第6,919,029号に記載されている。酸化チタン物質の表面が特別な処理によって活性化されていることにより、この物質を用いることで特に高い吸収能力および速度が達成される。この酸化チタン物質は「準化学量論的酸化チタン」ということができる。これは、物質中のチタン原子に対する酸素原子の比が2未満であることを意味する。この表面活性化に関するより詳細な説明については、米国特許第6,919,029号の記載を参照されたい。
【0005】
特定の機能を付与した酸化チタンの作製に関するその他の可能性は、鉄および硫黄原子による酸化チタンのいわゆる「ドーピング」に見ることができる。このような化合物は、光触媒活性を示す。
【0006】
同様に、ミリメートル範囲のセルロース系物質が今日大きな注目を集めつつある。これらは、剛性の結晶性ウイスカー(de Souza Lima, M.M. and R. Borsali, Macromolecular Rapid Communications, 2004. 25: p.771‐787)と、可撓性のMFC(ミクロフィブリル化セルロース)(Herrick, F.W. et al, Journal of Applied Polymer Science; Applied Polymer Symposium, 1983. 37: p.797‐813)とに区分することができる(Turbak, A.F. F.W. Snyder and K.R. Sandberg, Journal of Applied Polymer Science; Applied Polymer Symposium, 1983. 37: p.815‐827)。両タイプの粒子とも、そのサイズ範囲はそれぞれ約1μmと小さく、その製造方法のために、僅かな量のセルロースしか含まない懸濁液またはゲルの形態である。これらの製造は、主に1回もしくは複数回の機械的粉砕工程(超音波、ホモジナイザー等)と、酵素または強酸によるセルロース系出発物質の強力な分解とを組み合わせて行われる。
【0007】
同様に、低温法(cyro processes)が文献に記載されており、当該方法では液体窒素の補助によってセルロース系物質のミクロフィブリルを遊離させる(Chakraborty, A.M. Sain, and M. Kortschot, Holzforschung, 2005. 59: p.102‐107)。
【0008】
セルロースナノ繊維を作製する別の方法としてはエレクトロスピニング法があり(Kulpinski, P., Journal of Applied Polymer Science, 2005. 98(4): p.1855‐1859)、これも多大な労力を必要とするものである。
【0009】
これらのナノ構造を有する物質の現在の主な利用分野は、特に、配合材料の強化である(Favier, V., H. Chanzy and J.Y. Cavaille, Macromolecules, 1999. 28: p.6365‐6357)。
【0010】
上述のセルロース粒子の別の特別な用途として、フィルムおよび膜がそれぞれ文献に記載されている。セルロース系物質は、その他の物質と組み合わせて用いられることが多く、および/または、フィルムの製造には多大な労力を要する。例としては、(Fendler, A., et al. Characterization of barrier properties of composites of HDPE and purified cellulose fibres. Cellulose, 2007. In press. Doi. 10.1007/s10570‐007‐9136‐x), Liu, H. and Y.‐L Hsieh, Ultrafine Fibrous Cellulose Membranes from the Electrospinning of Cellulose Acetate. Journal of Polymer Science: part B: Polymer Physics, 2002.40:p.2119‐2129)、または(Sanchez‐Garcia, M.D. E. Gimenez and J.M. Lagaron, Morphology and barrier properties of solvent cast composites of thermoplastic biopolymers and purified cellulose fibres, Carbohydrate Polymers, 2007 in press. doi: 10.1016/j.carbpol.2007.05.041)に見ることができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、既存の技術と比較したときの本発明の課題は、例えばMFCのウイスカー等の懸濁媒体中に懸濁された1μm未満の範囲のナノ物質と、10μm〜数mmの範囲の従来の乾燥粉末という、入手可能な粒子のサイズ間のギャップを埋めるセルロースフィブリドを作製し、それによって経済効率の向上を実現することであった。
【0012】
さらに、上記の製造方法は、簡便に行われることを特徴とすべきであり、好ましくは、生成物の入念な洗浄を必要とする出発物質の酵素または薬品(特に強酸)による処理によるセルロース系物質の強力な分解を経ることなく行われるべきである。同様に、生成されたフィブリドがより高度に濃縮され(およそ10%の固形分)、より容易に加工することのできる懸濁液を作製することが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題は、以下の工程を含むセルロース系粒子の懸濁液の製造方法によって解決されうる。
・セルロースを溶解させてセルロースを含有するスピニング溶液を得る工程
・上記セルロースを含有する溶液を押出す工程
・セルロースを析出させ、それによってセルロース繊維を得る工程
・析出させたセルロース繊維を切断する工程
・切断したセルロース繊維を懸濁させる工程
・懸濁させたセルロース繊維を粉砕する工程
ここで、セルロースの溶解から懸濁させたセルロース繊維の粉砕までの間、セルロース系物質は決して乾燥されることがない。
【発明の効果】
【0014】
本製造方法によれば、優れた特性を有するセルロース系粒子を、現在の技術と比較して少ない加工工程数、短縮された工程全体の滞留時間、および少ないエネルギー所要量で得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
セルロース系物質は、常に50%以上、好ましくは100%以上、最も好ましくは150%以上の水分を含有することが好ましい。このため、さらなる加工に付する間、特に粉砕工程の間、およびその間の加工工程においても、セルロースが決して完全に乾燥されないように、すなわち常に十分な水相を有するように、注意を払う必要がある。
【0016】
最新の技術と比較して、公知の小型ナノ粒子と同等の特性および用途分野を有しながらもより有利なコストで作製できるセルロース粒子およびこのような粒子を含有する懸濁液を、本発明に従う方法を用いて作製することができる。さらなる経済的な利点としては、本発明に従って作製された懸濁液は、セルロースを非常に高い含有量で、すなわちナノ物質の場合のような僅か2重量パーセントではなく、最大で20重量パーセントものセルロースを含有できる点が挙げられる。これにより、包装および輸送のコストが低減され、同様に、例えば、セルロース粒子のフィルムを得るために除去する必要のある懸濁媒体の量がより少なくてすむことから、懸濁液の使用がコストの面でより有利となる。
【0017】
リヨセル(Lyocell)技術に基づくセルロース繊維の作製は公知であり、最新の技術である。本発明による繊維のフィブリドの作製においては、繊維が工程の間に乾燥せず、常に対応する高い水分含有量(50%以上、好ましくは100%以上、最も好ましくは150%以上)を示すことが必須である。
【0018】
リヨセル技術において工業規模で既に用いられている最もよく知られた溶媒は、水性N‐メチルモルホリン‐N‐オキシド(NMMO)である。しかしながら、本発明によるセルロース繊維の作製においては、セルロースが化学的に誘導体化せずに物理的に溶解するその他の公知の溶媒が好適かつ経済的である。特に注目すべきは、いわゆる「イオン性液体」、またはその他のアミンオキシド含有溶媒への溶解である。同様に、公知のビスコース法は本発明の実施に対して好適かつ経済的である。この方法では、セルロースをまず苛性ソーダを含有する媒体中でキサントゲン酸塩化することにより溶解させ、次にこのようにして調製したセルロース含有スピニング溶液を押出し、最後に析出浴中で析出させて再生させる。
【0019】
補助剤(例えば、ステアリン酸‐PEG‐エステル、部分硫酸化脂肪アルコール、脂肪アルキルエトホスフェート)を湿潤繊維に適用してもよい。これは、グラインディング能の向上など、さらに行われる加工工程を容易にするものである。
【0020】
湿潤繊維のケーブルは従来の手段によって切断され、2〜60mmの繊維長とされる。このような(短く切断した)初めに湿潤した繊維から開始して、さらなる加工を実施する。繊維が作製された段階で既に、最終的に得られるフィブリドの特性の一部が決定され得る。この目的のために、従来の織物用繊維を作製する場合であれば、繊維の太さ(fibre titre)、繊維の引張り強度、伸長度、またはループ強度(loop strength)に影響する、当業者に公知の手段が例えば好適である。この種の手段としては、中でも、スピニングの諸条件にそれぞれ対応するパルプの選択がある。繊維の太さが特に粒子サイズに影響するが、脆さおよびフィブリル化傾向は、繊維の引張り強度に影響され得る。より脆く、かつよりフィブリル化しやすい繊維の各々は、グラインディング時間がより短く、グラインディングに要するエネルギーがより少なく、グラインディング時の粒子の熱負荷も低減されることから、より容易にグラインディングすることができる。
【0021】
最初に、繊維を水または好適なその他の媒体中へ懸濁させる。この懸濁液は均質であり、易流動性かつポンプ圧送が可能であるべきである。絶乾状態、すなわち完全に乾燥したセルロースにおいて、4〜6%の範囲の繊維含有量が最適であることがわかった。懸濁は、好適な機械的凝集体(mechanical aggregates)を介して行われ、それによって、さらに繊維のフィブリル化も生じる。フィブリル化、すなわち繊維表面からの個々のフィブリルの分離は、このようにして作製される微細画分(fine fractions)のために、懸濁液中における小型セルロース粒子の割合を高める。この種の微粉砕画分は、最終製品で目標とされる特性に応じて、所望される場合も、または所望されない場合もある。このため、懸濁される凝集体の選択は適切に行われる必要がある。
【0022】
さらなる加工工程としては、複数のバリエーションが考えられる。
第一のバリエーションでは、最初に繊維は懸濁されるのみであり、そのサイズはほとんど変化しない。最後に、これを粉砕工程において所望の最終サイズまで分解する。
【0023】
第二のバリエーションでは、繊維は懸濁させる間に既に粉砕されており、続いて最後に、最終的な粉砕工程にて所望の最終サイズまで分解される。
【0024】
第三のバリエーションでは、繊維は懸濁させる間に既に所望の最終サイズまで分解されている。
【0025】
第四のバリエーションでは、切断後の繊維から水を分離することが可能であり、最初にこの湿潤繊維を切断ミル、高性能ミル(high consistency mill)、またはシュレッダーにて周囲に液体を存在させずに粉砕し、次にこれらを懸濁させ、所望の最終サイズまで分解する。
【0026】
一般に、パルプの粉砕および調製のそれぞれに用いられるほとんどの装置が、本発明による繊維懸濁液の作製にも好適であると言える。以下の装置が繊維の懸濁に適していることがわかった。切断ヘッドを有するUltra Turax、ジョクロミル(Jokro mill)、バレービーター(Valley Beater)、およびリファイナー。
【0027】
本発明による方法の好ましい態様では、繊維は懸濁されると同時に粉砕される。ここで、懸濁装置は、懸濁と同時に100μm〜600μmの範囲の長さまで繊維を分解する種類のものが好適である。この長さは、さらに粉砕を行う際に特に適している。
【0028】
本発明による方法の別の好ましい態様では、1〜5μmの粒子サイズへの粉砕が懸濁の後に行われる。この粉砕は、湿式グラインディングによって行われることが好ましい。
【0029】
粉砕は、懸濁液中のセルロース含有量が0.1〜5.0重量パーセントである状態で実施することが好ましい。セルロース含有量がこれより少ないと、セルロース粒子の量に関連して、必要とされるミルが大き過ぎ、さらに、粉砕後に除去しなければならない懸濁媒体の量が多過ぎる。セルロース含有量が多過ぎると、懸濁液の粘度が高くなり過ぎ、グラインディングの動きによりもたらされるせん断エネルギーが大きくなり過ぎる。
【0030】
ここでさらに、添加剤を加えることで周囲の媒体中におけるフィブリドの粉砕および/または安定化を補助することも可能である。湿式グラインディングは、所望の最終繊度(1〜5μm)が得られるミルにて行う。これは、好ましくは、異なる攪拌ビーズミル(インペラー攪拌機やピン攪拌機等)である。(ダブル)円錐ミル等のその他のミルは、限られた範囲内で使用することができる。
【0031】
所望の粒子特性、特に最終繊度を達成するためには、一般に、湿式グラインディングの間、懸濁液を閉じたループ状に循環させて、グラインディングされたストック液がミルを複数回通過できるようにする必要がある。このようにして、繊度をグラインディングを行う時間によって制御することができ、同時に、その他のパラメーターによって粒子サイズに影響を与えることが可能である。従って、グラインディング媒体のサイズまたはミルの速度を調節することができる。
【0032】
非常に狭い分布が所望される場合は、グラインディングに続いて、例えばHosokawa‐Alpine Hydroplex型の湿式分級機を用いてフィブリドを分級する必要がある。
【0033】
グラインディングの終了時において、フィブリドは、1〜5μmの長さおよび100〜500nmの直径を有し、1.1〜5重量パーセントの濃度で懸濁媒体中に存在する。ここで、個別のフィブリドならびに相互に連結したフィブリド結合物の両方を見ることができる。フィブリドは、そのサイズおよび安定化の種類に応じて沈降する。
【0034】
所望により、懸濁液を安定化させるために、懸濁液の粘度を高める手段を用いることができる。これは、例えば、遠心分離、温和な温度での蒸発、もしくは膜分離法を介して懸濁媒体を少量除去するか、または増粘剤を添加するかのいずれかによって行うことができる。好適な増粘剤は当業者に公知であり、市販されているカルボキシメチルセルロースまたはグリセリンが例として挙げられる。基本的に、分散剤や界面活性剤(tensides)などの表面活性物質を用いることによって懸濁液を安定化させることができる。しかしながらこの方法では、ポリマーまたはポリマー様の増粘剤を用いる場合とは異なり、別種類の物質が懸濁液中へ導入されることになるため、好ましくはない。
【0035】
しかしながら、本発明によるセルロース粒子が懸濁液中で析出する場合であっても、凝集体は通常発生せず、フィブリド沈降物は振とうによって再度容易に分散させることができる。上清(overlap)のデカンティングとこの析出とを組み合わせた結果として、懸濁液中のフィブリドの濃度を高めることもできる。固形分の濃度を高めるためのその他の方法としては、遠心分離および液相の蒸発がある。しかしながら、この場合は懸濁液の濃度を高め過ぎてフィブリドの不可逆的な凝集を引き起こさないように注意を払う必要がある。懸濁液の固形分含有量の上限はフィブリドのサイズに応じて異なり、フィブリドについてのこれは、懸濁液中の乾燥物質として15〜20%の場合は、約数μmに等しい。
【0036】
本発明による懸濁液をスプレードライすることにより、粒子を得ることができる。スプレードライのための方法および装置は、基本的に当業者に公知である。しかしながら、本発明による懸濁液が、非常に高い粒子含有量であるにも関わらず全く困難を伴わずにスプレーすることが可能であることは驚きに値する。最新技術による粒子の懸濁液は、最大2重量パーセントの含有量ですでにスプレーを容易に行うことができない。これは、懸濁液が高い粘度、および特にスプレー管内で問題となり得る非ニュートン流動挙動を示すためである。
【0037】
スプレードライを経て、個々のフィブリドは、実際はそのままの状態で維持されるが、その特徴的な特性が失われる。しかしながら、スプレードライは、乾式グラインディングでは得られない非常に微細なセルロース粉末が得られるという点で興味深い。
【0038】
本発明では、セルロース粒子の表面または内部に保持される添加剤を工程中で添加してもよい。これにより、追加的な機能特性を粒子に導入することができ、それによって、驚くべきことに、懸濁液の良好な加工特性が影響を受けずに維持される。このような添加剤は、例えば洗浄、懸濁、粉砕等の本発明による湿潤状態で行う処理の間に除去されることなくセルロース粒子中に保持される。添加剤は、粒子表面または粒子内部に、セルロースの量に対して1〜200重量パーセントの量で含まれていてよい。
【0039】
このような添加剤は、析出を行う前のセルロース系スピニング溶液にあらかじめ添加されてよい。添加剤は、例えば、顔料、例えば酸化チタン、特に準化学量論的酸化チタン等の無機物質、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、活性炭、煤、ゼオライト、ポリマー高吸収体、および難燃剤を含む群より選択することができる。
【0040】
同様にして、切断前または切断後に析出させたセルロース繊維に添加剤を適用してもよい。このための好適な装置は、当業者に公知である。
【0041】
添加剤は、粉砕工程の前、間、または後に本発明による懸濁液に添加してもよい。この場合、添加剤は主としてセルロース粒子の表面、外部層のそれぞれに分布される。この場合、添加剤は、例えば、仕上げ剤、染料、またはシクロデキストリンであってよい。従って、本発明による方法における加工特性に影響を与えるか、またはそれによって例えば特定の物質に対する吸収能が高まる等、粒子の機能特性に影響を与えることになる。
【0042】
本発明の主題は、本発明に従って作製された0.01〜20重量パーセント、好ましくは0.1〜10重量パーセントのセルロース系粒子を含有する懸濁液でもある。ここで、セルロース系粒子は、その作製の間決して乾燥されることがなかった。これらの粒子は、懸濁母液から乾燥させることにより均質なフィルムを形成する。この懸濁液の作製は、上述の本発明による方法に従って行うことができる。現在までのところ、この懸濁液およびそれに含有される粒子の独特の特性を記録する物理的な特性決定法は見出されていない。しかしながら、本発明に従う懸濁液は、セルロース系粒子の懸濁液に独特な、ここで述べるフィルム形成挙動によって明らかに識別することができる。現在までに知られているセルロース系粒子は、意図的に高い温度、圧力、または追加の溶媒を適用した場合にのみ均質なフィルムを形成する(例えば、Endo et al., Polymer Journal (32) 2, 182‐185 (2000)、を参照)。
【0043】
上記のフィブリドの基本的な特徴は、これらがセルロース溶液から抽出され、かつ製造方法全体を通して十分に湿潤した状態であることである。従って、本発明者らの取り扱っている対象は、いわゆる不乾燥粒子(never‐dried particles)である。セルロース分子のOH基間に、不可逆的な水素ブリッジがまだ形成されていない状態である。このため、OH基が依然として配置できるので、上記の懸濁液は完全に乾燥させると均質かつ緻密なフィルムを形成する傾向を示す。
【0044】
図1は、市販の乾燥セルロース粉末を懸濁させて得た懸濁液を対物スライド上に広げ、最後にこれを乾燥させることによって作製されたフィルムを示す。このフィルムは、肉眼で容易に見ることができるように、非常に粒子が粗く、不均質である。
【0045】
図2は、本発明による懸濁液を対物ガラスプレート上に広げ、続いてこれを乾燥させることによって作製されるフィルムを示す。このフィルムは、肉眼で見ることができるように、非常に均質である。
【0046】
図3は、本発明による懸濁液から作製された図2と同じフィルムの電子顕微鏡写真を示す。この倍率でも、フィルムが非常に均質であることを見ることができる。
【0047】
フィブリドを乾燥させ、再度懸濁液へ導入し、そして乾燥させた場合、得られたフィルムは、実際はそれほど均質ではなく、明らかにより粒子が粗く、クラックが発生する傾向がより大きい。この乾燥されたフィブリドは、その懸濁液からのフィルムの形成に用いた場合、市販の乾燥セルロース粉末のような挙動を示す。
【0048】
水分含有量が80〜99.9重量パーセントであるセルロース系粒子もまた、本発明の主題である。このような粒子は、その作製の間に決して乾燥されることのなかったことを特徴とする。この粒子は、懸濁母液から完全に乾燥させると、均質なフィルムを形成する。
【0049】
ここで述べる粒子は、上記で既に述べたように、高い割合で添加剤を含んでいてよい。添加剤は、粒子内のセルロースの量に対して1〜200重量パーセントの量で含まれていてよく、ここで、添加剤は、粒子全体に、主として粒子の表面全体に、または粒子の外層中に、それぞれ分布していてよい。
【0050】
本発明の主題はまた、上述の方法を用いて作製することができる、水分含有量が80〜99.9重量パーセントであるセルロース粒子の、均質なフィルムの作製のための使用である。
【0051】
本発明によるフィブリドをフィルム形成に使用することの利点は、上述の方法と最新の技術とを比較すると、非常に簡便に実施されることである。フィルムの作製は、フィブリドの懸濁液を緩やかに乾燥させることのみによって行われる。さらに、フィルムの形成の際に圧力および温度を付与してもよい。特に、温度が高いと乾燥が促進される。これは、例えば、加熱したガスの吹き付け、放射熱、または加熱した表面と直接接触させることによって行われる。
【0052】
より高い圧力をかけることにより、特に、より緻密なフィルムが作製される。これは、例えば平面間またはロール間にて加圧することによって達成される。
【0053】
以下では、実施例を用いて本発明の好ましい態様を説明する。しかし、本発明は、これらの態様に限定されるものではなく、同じ発明の発想に基づくその他の態様も包含する。
【0054】
粒子のサイズは、レーザー回折測定装置を用いて測定した。
【実施例1】
【0055】
NMMOを用いる基本的に公知である方法に従って、個々の繊維太さが1.3dtexである、長さが6mmのリヨセル繊維を作製した。ここでは乾式‐湿式スピニング法により、スピニング溶液をまずエアーギャップを通して析出浴内へ押し出し、形成されたゲル状の糸を析出浴から引き出し、次に、洗浄工程の後、湿潤状態で切断した。切断後、水中に懸濁させた繊維はバレービーター(Lorentzen & Wettre)でグラインディングされた。得られた懸濁液は2.5%のセルロースを含有し、グラインディング時間は150分間とした。第二のグラインディングを、ミル容積が1000ml、直径が0.9〜1.1mmである酸化ジルコニウムボールを用いたDrais Werke manufacturersの攪拌ビーズミルにて実施し、まずは2000rpmにて3時間、次に3000rpmにてさらに1時間行った。こうして得られた懸濁液は、最後に、乾燥キャビネット内にて60℃で15時間、7%セルロースまで濃縮された。この懸濁液は粘稠であり、長時間静置した後であっても相分離しなかった。この懸濁液は、問題なく水で再度希釈して低セルロース含有量とすることが可能であった。懸濁液の濃縮(および希釈)の結果として、フィブリドの顕著な(不可逆的な)凝集が発生することはなかった。フィブリドの長さは、1〜8μmの範囲であった(レーザー回折、顕微鏡観察)。
【実施例2】
【0056】
実施例1(6mm、1.3dtex)で得た切断した湿潤繊維(絶乾状態で30%のセルロース含有量)の8gを、ガラス攪拌棒を用いて60mlの水へ混合した。この懸濁液を、300gの酸化ジルコニウムボール(直径1.1〜1.4mm)と共にステンレススチール容器へ投入した。インペラー攪拌機(IKA RE 166)を用いて、懸濁液を300rpmにて2時間グラインディングした。ふるいを用いてフィブリド懸濁液からグラインディングボールを分離した。このフィブリドは実施例1のものよりも長かった。1μmの長さのフィブリドも確かに存在したが、長さの平均値は約10μmであり、最大40μmまでの長さのフィブリドが見られた。
【実施例3】
【0057】
仕上げおよび乾燥を行っていない、工業製造ラインより得たセルロース含有量が35%(絶乾)であるビスコース繊維(1.3dtex、切断長38mm)の15gを、スターンナイフ(Stern knife)を有する実験室用ミキサーで予備粉砕し、繊維状に分解した。こうして前処理したサンプルからの繊維2gを、ガラス攪拌棒を用いて80mlの水へ攪拌することによって分散させた。この懸濁液を、300gの酸化ジルコニウムボール(直径0.9〜1.1mm)とステンレススチール容器中で混合し、最後に、インペラー攪拌器(IKA RE 166)を用いて3000rpmにて3時間、長時間のグラインディングを施した。フィブリド懸濁液からのグラインディングボールの分離はふるいを用いて行った。得られたフィブリドのサイズは、実施例1のものと同等であり、長さが2〜12μmの範囲であった(レーザー回折)。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースを溶解してセルロースを含有するスピニング溶液を得ること、セルロースを含有する前記の溶液を押出すこと、前記のセルロースを析出させ、それによってセルロース繊維を得ること、前記の析出させたセルロース繊維を切断すること、前記の切断したセルロース繊維を懸濁させること、および前記の懸濁させたセルロース繊維を粉砕すること、によってセルロース系粒子の懸濁液を製造する方法であって、前記のセルロース系物質が、前記のセルロースの溶解から前記の懸濁させたセルロース繊維の粉砕までの間に決して乾燥されることがないことを特徴とする、製造方法。
【請求項2】
前記のセルロース系物質が、常に、50%以上、好ましくは100%以上、最も好ましくは150%以上の水分を含有する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記の繊維が懸濁と同時に粉砕される、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記の繊維が、懸濁させる間に100μm〜600μmの範囲の長さに粉砕される、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記の懸濁の後、前記の粉砕、好ましくは湿式グラインディングを、1〜5μmの粒子サイズまで行う、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記の懸濁液が、湿式グラインディングの間、閉じたループ状に循環される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記の繊維が、前記の粉砕の後、湿式分級器によって分級される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記の粉砕が、前記の懸濁液中のセルロース含有量が0.1〜5.0重量パーセントである状態で行われる、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記のセルロース系粒子の表面上、またはセルロース系粒子内部に保持される添加剤が添加される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
顔料、酸化チタン、特に準化学量論的酸化チタン、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、活性炭、活性石炭、ポリマー高吸収体、および難燃剤を含む群より選択される添加剤が、セルロース量に対して1〜200重量パーセントの量で、前記のセルロース溶液に析出の前に添加される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
0.1〜20重量パーセント、好ましくは0.1〜10重量パーセントのセルロース系粒子を含有する懸濁液であって、前記のセルロース系粒子がその作製の間、決して乾燥されることがなかったことを特徴とする、懸濁液。
【請求項12】
前記の懸濁液中に含有される前記のセルロース系粒子が、高い割合の添加剤を含有する、請求項11に記載の懸濁液。
【請求項13】
前記の懸濁液中に含有される前記のセルロース系粒子が、顔料、酸化チタン、特に準化学量論的酸化チタン、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、活性炭、ポリマー高吸収体、および難燃剤を含む群より選択される取り込まれた添加剤を、セルロース量に対して1〜200重量パーセントの量で含有する、請求項11に記載の懸濁液。
【請求項14】
水分含有量が80〜99.9重量パーセントであるセルロース系粒子であって、その作製の間、決して乾燥されることがなかったことを特徴とする、セルロース系粒子。
【請求項15】
前記の粒子が、高い割合の添加剤を含有する、請求項14に記載の粒子。
【請求項16】
前記の粒子が、顔料、酸化チタン、特に準化学量論的酸化チタン、硫酸バリウム、イオン交換体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、活性炭、ポリマー高吸収体、および難燃剤を含む群より選択される取り込まれた添加剤を、セルロース量に対して1〜200重量パーセントの量で含有する、請求項14に記載の粒子。

【公表番号】特表2010−539301(P2010−539301A)
【公表日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−525159(P2010−525159)
【出願日】平成20年9月12日(2008.9.12)
【国際出願番号】PCT/AT2008/000323
【国際公開番号】WO2009/036479
【国際公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(500077889)レンツィング アクチェンゲゼルシャフト (20)
【Fターム(参考)】