説明

セルロース繊維とその製造方法

【課題】 ガスバリアフィルム材料として適したセルロース繊維の製造方法の提供。
【解決手段】
天然セルロースを酸化して、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gである酸化セルロース繊維を含む分散液を得る酸化工程と、前記分散液に酵素を添加して保持する酵素処理工程と、前記分散液中の酸化されたセルロース繊維を機械的に解繊する工程を有している、セルロース繊維の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア膜材料として使用できるセルロース繊維、その製造方法、前記セルロース繊維から得られるガスバリア性成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒として、2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して得られる天然セルロースナノファイバーが知られており(非特許文献1)、様々な分野への応用が期待されている。
【0003】
上記天然セルロースナノファイバーの用途の一つとして、酸素等のガスバリア膜が考えられる。その場合には、例えば、天然セルロースナノファイバーの水分散液を調製し、基材表面にキャスティングして製膜する方法が考えられる。
【0004】
このようなキャスティング法を適用するとき、濃度が1質量%以上の水分散液を使用すると、水を蒸発させる時間を短縮できるため、後工程の処理が容易になる。しかし、上記天然セルロースナノファイバーは、濃度を1質量%以上にすると粘度が高くなって、キャスティングによる製膜が困難になる。
【特許文献1】特開2008−1728号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、分散液の濃度を高くした場合でも、キャスティング等の公知の製膜方法等を適用して容易に成形することができるセルロース繊維の製造方法、前記セルロース繊維の製造方法から得られるセルロース繊維を用いた酸素等のガスバリア性成形体を提供することを課題とする。ここでいうガスバリアとは、酸素、窒素、炭酸ガス、有機性蒸気、水蒸気等の各種ガス、リモネン、メントール等の香気物質に対する遮蔽機能のことをいう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
1.天然セルロースを酸化して、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含む分散液を得る酸化工程と、
前記分散液に酵素を添加して保持する酵素処理工程と、
前記分散液中のセルロース繊維を機械的に解繊する工程を有している、セルロース繊維の製造方法。
2.前記酸化工程と前記酵素処理工程を並行させる、請求項1記載のセルロース繊維の製造方法。
3.前記酸化工程の後に前記酵素処理工程を行う、請求項1記載のセルロース繊維の製造方法。
4.前記酵素処理工程と前記解繊工程を並行させる、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
5.前記酵素処理工程の後に前記解繊工程を行う、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
6.前記酵素処理工程の前に前記解繊工程を行う、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
7.請求項1〜6記載のセルロース繊維の製造方法から得られるセルロース繊維を用いたガスバリア性成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明のセルロース繊維は、濃度が1質量%以上の水分散液にした場合の該水分散液の粘度が高くなりすぎないため、キャスティング等の公知の成形方法を適用して、容易にフィルム等の成形体にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<セルロース繊維>
本発明のセルロース繊維は、平均繊維径が200nm以下のものであり、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0009】
本発明のセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0010】
本発明のセルロース繊維は、1質量%分散液の粘度(23℃)が5〜3500mPa・sであり、好ましくは50〜3000mPa・s、より好ましくは100〜2000mPa・sである。粘度は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0011】
また本発明のセルロース繊維は、公知のセルロース繊維と比べて、非常に微細なものであるため、下記条件で調製した分散液は、水溶液ではないが肉眼観察で透明なものであり、吸光光度計(島津製作所製 型名UV−2550)にて光線透過率を測定すると5%以上の光線透過率を示す。公知のバイオセルロースや機械的に剪断して調製したセルロース(例えば、ダイセル化学工業(株)製の商品名セリッシュFD-200L)の場合には、同条件で懸濁液を調製した場合、白濁液となり、光線透過率は0%である。
【0012】
また、本発明のセルロース繊維は、好ましくは30%以上、より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上の光線透過率である。
【0013】
ここで、セルロース中や分散液中の酵素やタンパク質の解析方法について記載する。解析方法としては、例えば、PMF(ペプチドマスフィンガープリンティング)法や二次元電気泳動法によるプロテオーム解析法がありこれらの方法により同定を行うことができる。
【0014】
<セルロース繊維の製造方法>
本発明のセルロース繊維の製造方法としては、
(I)酸化工程と酵素処理工程を有する製造方法、
(II)酸化工程、酵素処理工程及び機械的に解繊する工程を有する製造方法、
のいずれかの方法を適用することができる。
【0015】
(I)の製造方法は、酸化工程と酵素処理工程を一緒に行う製造方法と、酸化工程の後に酵素処理工程を行う製造方法の2つを含んでいる。
【0016】
(II)の製造方法は、
(II−1)酸化工程と酵素処理工程を一緒に行う製造方法、
(II−2)酸化工程の後に酵素処理工程を行う製造方法、
の2つを含んでおり、
更に(II−1)の製造方法は、
(II-1-1)酸化工程の後、酵素処理工程と機械的に解繊する工程を一緒に行う製造方法、
(II-1-2)酸化工程の後、酵素処理工程の後に機械的に解繊する工程を行う製造方法、
を含んでいる。
【0017】
以下、本発明の製造方法に含まれる製造工程を工程ごとに説明する。
【0018】
<酸化工程>
酸化処理をする前の前処理工程として、原料となる天然セルロース(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。ここでいう絶対乾燥基準とは、20℃、50%RHの環境下で自然乾燥した天然セルロース(パルプ)の水分率をハロゲン水分計にて測定したものから絶乾パルプ量を算出するものである。
【0019】
原料となる天然セルロースとしては、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、絹、羊毛、再生セルロース、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0020】
次に、前記スラリー中の天然セルロースを酸化して、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gである酸化されたセルロース繊維を得る。
【0021】
天然セルロースを酸化する方法としては、例えば、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用し、更に次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を併用して酸化する方法を適用できる。
【0022】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然セルロース(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%、好ましくは0.2〜8質量%、更に好ましくは、0.4〜5質量%である。0.1質量%以上であると酸化反応が円滑に進行し、10質量%以下であると、後工程における除去負担が軽減される。
【0023】
酸化剤としては、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩が使用できる。次亜ハロゲン酸塩としては、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム、次亜塩素酸リチウムが挙げられる。亜ハロゲン酸塩としては、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム、亜塩素酸リチウムが挙げられる。酸化剤は、次亜塩素酸ナトリウムが好ましい。次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合、セルロース繊維に対して使用する割合を多くすると、カルボキシル基の導入量が多くなり、直接繊維に作用することにより、繊維の分散性が向上し、透明性が促進される。
【0024】
酸化剤の使用量は、原料として用いたセルロース繊維(絶対乾燥基準)1gに対して、0.1mmol〜10mmol、好ましくは1mmol〜8mmol、更に好ましくは1.4mmol〜6mmol、更に好ましくは1.7mmol〜5mmolである。0.1mmol以上であると酸化反応が円滑に進行し、透明な分散液を得ることができ、10mmol以下であると、後工程における除去負担が軽減される。
【0025】
臭化物としては、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム等が挙げられ、臭化ナトリウムが好ましい。
【0026】
臭化物の使用量は、原料として用いたセルロース繊維(絶対乾燥基準)1gに対して、0.1mmol〜10mmol、好ましくは0.5mmol〜7mmol、更に好ましくは0.7mmol〜5mmolである。0.1mmol以上であると酸化反応が円滑に進行し、10mmol以下であると、後工程における除去負担が軽減される。
【0027】
pHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲が好ましい。更に好ましくは、pH9.5〜11.5である。
【0028】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)と時間は、1〜50℃で、1〜300分間が好ましい。
【0029】
本工程の処理が終了後、使用した触媒等を水洗等により除去し、必要に応じて乾燥処理を行ってもよい。
【0030】
本工程の処理により、セルロース構成単位のC6位を選択的にカルボキシル基に酸化することができ、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量を0.1〜2mmol/gにすることができる。前記含有量は、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.5〜1.7mmol/g、更に好ましくは0.6〜1.7mmol/gにすることができる。前記のカルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0031】
なお、カルボキシル基含有量の下限値が0.1mmol/g以上であると、後述の繊維の微細化処理を行った場合に、セルロース繊維の平均繊維径が200nm以下となり、固形分濃度0.1質量%の水分散液が透明になる。更に、カルボキシル基含有量が前記範囲内であると、微細化処理による固形分濃度0.1質量%の水分散液の透明度(肉眼観察又は実施例に記載の光線透過率で評価される)を向上させることが容易になる。
【0032】
<酵素処理工程>
本工程の酵素処理は、酸化工程中のセルロース繊維の水分散液又は酸化セルロース繊維を含む水分散液中に酵素を添加して、一定時間保持する処理である。保持する処理とは、セルロースに酵素を吸着させ作用させることを意味する。このとき、必要に応じて攪拌することもできる。
【0033】
本工程の処理により、酸化セルロース繊維の加水分解が促進され、酸化セルロース繊維の水分散液の粘度が低下される。これは、酸化セルロース繊維の幅又は長さ又はアスペクト比が低下したことに基づくものと推測される。
【0034】
なお、酵素処理工程は、機械的な解繊処理をする場合としない場合で、処理条件に差を付けることもできる。なお、必要に応じて酵素処理後、50〜100℃程度まで加熱して、酵素の失活処理をする。
【0035】
本工程で使用する酵素は主にセルラーゼであり、単一成分であってもよく、混合物でもよい。好ましいセルラーゼは、Henrissatらにより考案されたアミノ酸配列の類似点に基準するファミリー分類「Biochem.J.280p.309−16(1991年)」におけるファミリー5、6、7、12、及び45に属するものである。
【0036】
このようなセルラーゼの給源は特に限定されないが、ファミリー5のセルラーゼとしては特開平10−313859号公報に開示されている、バチルス エスピー(Bacillus sp.)KSM−S237株(FERM P−16067)から得られるアルカリ性セルラーゼを挙げることができる。
【0037】
ファミリー7のセルラーゼとしては、国際特許出願公開91−17244に開示されているフミコーラ インソレンス(Humicola insolens)DSM1800株から得られるエンドグルカナーゼEG Iを挙げることができる。
【0038】
ファミリー6のセルラーゼとしてはWongらよる「Gene vol.44(2−3)p.315−324,1986」に記載されているセルロモナス フィミ(Cellulomonas fimi)株から得られるエンドグルカナーゼを挙げることができる。
【0039】
ファミリー12のセルラーゼとしては、国際特許出願公開92−06184に開示されているトリコデルマ リーゼイ(Trichoderma reesei)株から得られるエンドグルカナーゼEG IIIを挙げることができる。
【0040】
ファミリー45のセルラーゼとしては、Biossetらによる「FEBS Letters vol.376 p.49−52」に記載されているフミコーラ インソレンス(Humicola insolens)株から得られるエンドグルカナーゼEG Vを挙げることができる。
【0041】
酵素の使用量は用いられるセルラーゼの特性によって選択すべきであるが、セルロース繊維水分解液の粘度を適切な範囲にする観点から、酸化工程時に使用したセルロース繊維100質量部に対して、0.0001〜10質量部が好ましく、0.0005〜5質量部がより好ましく、0.001〜2.5質量部が更に好ましい。
【0042】
酵素処理時の温度は用いられるセルラーゼの特性によって選択すべきであるが、酵素の活性が向上し、酵素反応が促進される観点から、10〜70℃が好ましく、20〜60℃がより好ましく、30〜50℃が更に好ましい。
【0043】
酵素処理時のpHは用いられるセルラーゼの特性によって選択すべきであるが、酵素の活性が向上し、酵素反応が促進される観点から、pH3.5〜11.5が好ましく、pH4.5〜10.5がより好ましく、pH5.0〜9.5が更に好ましい。
【0044】
処理時間は、機械的な解繊処理をしないときには、10分〜1ヶ月が好ましく、機械的な解繊処理をするときには24時間以下が好ましい。
【0045】
<機械的な解繊処理工程>
機械的な解繊処理工程では、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーにて、酵素処理された又は酵素処理中のセルロース繊維を解繊することで、所望の繊維幅や長さに調整する。
【0046】
以上の酵素処理後又は解繊処理後に、使用した触媒を水洗等により除去し、上記したようなセルロース繊維を得ることができる。
【0047】
<酸素ガスのバリアフィルム>
本発明のバリア性成形体は、上記したセルロース繊維のみからなる単層の成形体、適当な基材上に上記セルロース繊維からなる1層又は複数層が形成された複合成形体を含むものである。以下に酸素バリア用途の成形体を例示する。
【0048】
〔単層成形体〕
基材を使用しない単層成形体は、例えば、次のようにして製造することができる。ガラス板等の基板上に、セルロース繊維を流延塗布した後、自然乾燥又は送風乾燥等の乾燥法により乾燥して膜を形成する。その後、基板から膜を剥がして、酸素バリアフィルムを得る。
【0049】
〔複合成形体〕
基材を使用した複合フィルムは、基材となる成形体表面に、上記したセルロース繊維からなる層を有しているものであり、基材となる成形体は、上記したセルロース繊維からなる層よりも、酸素バリア性が低いものである。(これは、所定方法による酸素透過度が高いことを意味する。所定方法としては、ガス透過測定装置(型式M-C3、(株)東洋精機製作所製)を使って、試料を24時間真空引き後、23℃の条件で、ASTM D-1434-75M法に基づいた測定方法がある。)
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができる。基材となる成形体は、同一又は異なる材料の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0050】
プラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル等のポリエステル、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、セルロース等のセロハン、酢酸セルロース等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0051】
基材を使用した複合成形体は、例えば、次のようにして製造することができる。基材がプラスチックシートである場合は、前記シートの一面又は両面に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法により、酸素バリア用材料を付着させ、酸素バリア(酸素の透過を抑制できる層)を形成する。その後、自然乾燥、送風乾燥等の方法により乾燥する。
【0052】
また、基材がプラスチックシートである場合は、基材となるプラスチックシートに対して、予め作製した酸素バリア性材料からなるフィルム又はシートを貼り合わせて積層する方法を適用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等の公知の方法を適用できる。
【0053】
基材がプラスチックボトル容器又は紙製の箱容器のような立体容器である場合は、前記容器の外表面及び内表面の一方又は両方に対して、塗布法、噴霧法、浸漬法等の公知の方法を必要に応じて組み合わせて、酸素バリア用材料を付着させ、酸素バリア(酸素の透過を抑制できる層)を形成する。その後、自然乾燥、送風乾燥等の方法により乾燥する。
【0054】
フィルムの製造に用いるセルロース繊維には、本発明の課題を解決できる種類及び量の範囲内において、公知の充填剤、顔料等の着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤(シランカップリング剤等)、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等を配合することができる。
【0055】
本発明の酸素バリア性成形体は、酸素透過度が0.2cm/m・day・hPa以下であり、好ましくは0.05cm/m・day・hPa以下、より好ましくは0.01cm/m・day・hPa以下である。なお、酸素透過度の下限値は0cm/m・day・hPaである。
【0056】
本発明のセルロース繊維は、濃度を1質量%以上にした場合の粘度が低いため、キャスティング法等の公知の製膜方法を適用して容易に製膜することができるほか、後工程の乾燥工程も容易になるため、酸素バリア性成形体の製造が容易になる。
【実施例】
【0057】
(1)平均繊維径
原子間力顕微鏡(Veeco Dimension 3100 Tapping mode)によって撮影されたセルロース繊維の直径が確認できる画像において、5点以上抽出し、繊維径測定し平均繊維径を算出した。
【0058】
(2)カルボキシル基含有量(mmol/g)
絶乾パルプ約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて0.83質量%パルプ懸濁液とし、パルプが十分に分散するまでスターラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
【0059】
(3)粘度
セルロース繊維分散液を1.0〜1.1質量%の濃度に調製後、23℃の環境下で24時間以上静置した後、E型回転粘度計(トキメック製)を用いて粘度測定を行った。また、代表値は回転速度5rpmにおける値を用いた。
【0060】
実施例1及び2
(1)原料
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
【0061】
(2)製造手順
〔酸化工程〕
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維100gを9900gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量100gに対し、TEMPO1.24質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.1質量%、臭化ナトリウム12.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムにて滴下を行い、pHを10.5、温度20℃に保持し、酸化反応を行い酸化パルプを得た。
【0062】
その後、該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄し、目開き90μmのステンレス製ふるいを用いてろ過して、3〜4質量%の湿潤状態のパルプマットを得た。
【0063】
〔解繊工程〕
酸化パルプ10g(固形分)をイオン交換水990gに添加し、ミキサー(商品名、ABSOLUTE(Vita-Mix Blender)、大阪ケミカル社製、回転数37,000rpm、周速度140m/秒)にて10分間攪拌することにより、解繊処理を行った。
【0064】
〔酵素処理工程〕
前記解繊処理された酸化パルプの水分散液(1質量%、23℃、pH6.5)中に、セルラーゼ(エンドタイプ)(WKAC1500 POW(W))を表1に示す濃度になるように添加した後、前記のミキサー(商品名、ABSOLUTE(Vita-Mix Blender)、大阪ケミカル社製,回転数37,000rpm、周速度140m/秒)を用いて、さらに10分間攪拌することにより、酵素処理を行った。10分間攪拌後の水分散液の温度は約72℃であった。その後、約90℃に加熱して、セルラーゼを失活させた。
【0065】
〔製膜工程〕
基材シートとしてポリエチレンテレフタレートシート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み7μm)の片側面上に、実施例1及び2で得られた微細セルロース繊維分散液(カルボキシル基量:1.23mmol/g、酸化パルプ量:1質量%)にイソプロピルアルコールを30質量%ブレンドし、バーコート(R,D,S webster, N,Y #50)で塗工した後、23℃で120分間乾燥させることにより製膜して、複合シートを得た。
【0066】
比較例1及び2
表1に示す製造条件にて、実施例1及び2と同じ方法でフィルムを得た。
【0067】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然セルロースを酸化して、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2.0mmol/gであるセルロース繊維を含む分散液を得る酸化工程と、
前記分散液に酵素を添加して保持する酵素処理工程と、
前記分散液中のセルロース繊維を機械的に解繊する工程を有している、セルロース繊維の製造方法。
【請求項2】
前記酸化工程と前記酵素処理工程を並行させる、請求項1記載のセルロース繊維の製造方法。
【請求項3】
前記酸化工程の後に前記酵素処理工程を行う、請求項1記載のセルロース繊維の製造方法。
【請求項4】
前記酵素処理工程と前記解繊工程を並行させる、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
【請求項5】
前記酵素処理工程の後に前記解繊工程を行う、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
【請求項6】
前記酵素処理工程の前に前記解繊工程を行う、請求項1〜3記載のセルロース繊維の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6記載のセルロース繊維の製造方法から得られるセルロース繊維を用いたガスバリア性成形体。

【公開番号】特開2009−298972(P2009−298972A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−157342(P2008−157342)
【出願日】平成20年6月17日(2008.6.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】