説明

セルロース繊維の懸濁液とその製造方法

【課題】酸素、水蒸気、二酸化炭素、窒素、リモネンなどの各種ガスの透過を抑制できるガスバリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液を提供する。
【解決手段】セルロース繊維を含有するセルロース繊維の懸濁液であって、前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであり、前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして多価金属及び1価金属から選ばれるもの(但し、ナトリウム単独のものを除く)を含有している、セルロース繊維の懸濁液。対イオンを形成する多価金属又は1価金属は、コバルト、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、銀から選ばれるものが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素、水蒸気、二酸化炭素、窒素、リモネンなどの各種ガスの透過を抑制できるガスバリア膜の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液とその製造方法、それを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
現状の酸素、水蒸気等のガスバリア用材料は、主として化石資源から製造されているため、非生分解性であり、焼却処分せざるを得ない。そこで、再生産可能なバイオマスを原料として、生分解性のある酸素バリア材料を製造することが検討されている。
【0003】
特許文献1は、微結晶セルロースを含有するコーティング剤と、それを基材に塗布した積層材料に関する発明である。原料となる微結晶セルロース粉末は、平均粒径が100μm以下のものが好ましいことが記載され、実施例では、平均粒径が3μmと100μmのものが使用されているが、カルボキシル基の対イオンとしての存在する金属に関する記載は一切なく、塗布したコーティング剤層の膜強度や耐水性、基材との密着性に改善の余地がある。
【0004】
特許文献2には微細セルロース繊維に関する発明が開示されており、コーティング材として使用できる可能性が記載されているが、具体的な効果が示された用途については記載されていない。
【0005】
非特許文献1には、酸素バリア等のガスバリア性を発揮することについての開示は全くなされていない。
【0006】
非特許文献2には、特定のセルロース繊維が陽イオン交換能を持つこと、多価金属イオンと陽イオン交換したセルロース繊維から作製したシートの湿潤強度が向上することが報告されているが、機械処理をすることやコーティング剤としての用途、ガスバリア性についての開示は全くされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−348522号公報
【特許文献2】特開2008−1728号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Bio MACROMOLECULES Volume7, Number6,2006年6月,Published by the American Chemical Society
【非特許文献2】Carbohydrate Polymers 61 (2005) 183-190
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた酸素バリア性又は水蒸気バリア性を有する成形体の製造用として適したセルロース繊維の懸濁液とその製造方法を提供することを課題とする。
【0010】
本発明は、セルロース繊維の懸濁液を用いて製造される、酸素バリア性又は水蒸気バリア性が優れた膜状成形体と複合成形体を提供することを他の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明は、課題の解決手段として、下記の各発明を提供する。
(1)セルロース繊維を含有するセルロース繊維の懸濁液であって、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであり、前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして多価金属及び1価金属から選ばれるもの(但し、ナトリウム単独のものを除く)を含有している、セルロース繊維の懸濁液。
(2)対イオンを形成する多価金属が、コバルト、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄から選ばれるものである、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
(3)対イオンを形成する1価金属が、銀、カリウムから選ばれるものである、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
(4)請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法であって、
前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして多価金属を含有するものを得るときは、セルロース繊維と水溶性多価金属塩を混合して、前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の対イオンを前記多価金属に陽イオン交換する工程、或いは
前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして1価金属(但し、ナトリウム単独のものを除く)を含有するものを得るときは、セルロース繊維と水溶性1価金属塩(但し、ナトリウムを除く)を混合して、前記セルロース繊維中のカルボキシル基を前記1価金属塩の1価金属に陽イオン交換する工程、
陽イオン交換されたセルロース繊維固形分を水で洗浄する工程、
ろ過物にイオン交換水を添加した後、機械的処理により、セルロース繊維の懸濁液を得る工程、
を有している、セルロース繊維の懸濁液の製造方法。
(5)前記陽イオン交換する工程において、前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の対イオンの多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)への下記式から求められる金属置換率が10%以上である、請求項4記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法。
金属置換率(%)={金属元素含有率(%)/原子量×10×価数)/セルロース繊維のカルボキシル基含有量×100
(6)請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された膜状成形体。
(7)基材上に、請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロース繊維の懸濁液から形成されたセルロース繊維層を有する複合成形体。
【0012】
本発明でいうガスバリアとは、酸素、窒素、炭酸ガス、有機性蒸気、水蒸気等の各種ガス、リモネン、メントール等の香気物質に対する遮蔽機能のことをいう。
本発明におけるガスバリア材は、前記の各種ガス全てに対してバリア性の向上を目的とするものだけでなく、ある特定のガスに対してのみバリア性を向上するものであっても良い。例えば酸素バリア性は低下するが、水蒸気バリア性が向上するガスバリア材は、水蒸気の透過を選択的に阻害するガスバリア材であり、本発明に含まれる。バリア性向上の対象となるガスは用途によって適宜選択される。
【発明の効果】
【0013】
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、酸素ガス、水蒸気等のガスバリア性を有する膜材料として適している。前記懸濁液から得られる膜は、高い酸素バリア性又は水蒸気バリア性又はその両方を有している。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<セルロース繊維の懸濁液とその製造方法>
〔特定のセルロース繊維の製造〕
本発明で用いるセルロース繊維は、平均繊維径200nm以下のものを含み、好ましくは1〜200nm、より好ましくは1〜100nm、更に好ましくは1〜50nmのものである。平均繊維径は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0015】
本発明で用いるセルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量は、高いガスバリア性を得ることができる観点で、0.1〜2mmol/gであり、好ましくは0.4〜2mmol/g、より好ましくは0.6〜1.8mmol/gであり、更に好ましくは0.6〜1.6mmol/gである。カルボキシル基含有量は、実施例に記載の測定方法により、求められるものである。
【0016】
なお、本発明で用いるセルロース繊維は、セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が上記範囲のものであるが、実際の製造過程における酸化処理等の制御状態によっては、酸化処理後のセルロース繊維中に前記範囲を超えるものが不純物として含まれることもあり得る。
【0017】
本発明で用いるセルロース繊維は、例えば、次の方法により製造することができる。まず、原料となる天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理して、スラリーにする。
【0018】
原料となる天然繊維としては、例えば、木材パルプ、非木材パルプ、コットン、バクテリアセルロース等を用いることができる。
【0019】
次に、触媒として2,2,6,6,−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(TEMPO)を使用して、前記天然繊維を酸化処理する。触媒としては他に、TEMPOの誘導体である4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、及び4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。
【0020】
TEMPOの使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、0.1〜10質量%となる範囲である。
【0021】
酸化処理時には、TEMPOと共に、次亜塩素酸ナトリウム等の酸化剤、臭化ナトリウム等の臭化物を共酸化剤として併用する。
【0022】
酸化剤は次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、及び過有機酸などが使用可能であるが、好ましくは次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムなどのアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩である。酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜100質量%となる範囲である。
【0023】
共酸化剤としては、臭化アルカリ金属、例えば臭化ナトリウムを使用することが好ましい。共酸化剤の使用量は、原料として用いた天然繊維(絶対乾燥基準)に対して、約1〜30質量%となる範囲である。
【0024】
スラリーのpHは、酸化反応を効率良く進行させる点から9〜12の範囲で維持されることが望ましい。
【0025】
酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また反応時間は1〜240分間が望ましい。
【0026】
酸化処理後に、使用した触媒等を水洗等により除去する。必要に応じて乾燥処理した繊維状や粉末状の酸化セルロース繊維を得ることができる。
【0027】
〔セルロース繊維の陽イオン交換〕
前記酸化セルロース繊維は酸化反応によってカルボキシル基が導入されており、ナトリウムを対イオンとして存在している。
【0028】
前記酸化セルロース繊維を、水を含んだ分散媒中に分散し、そこに水溶性の多価金属塩、又は1価金属塩(ナトリウム塩を除く)を加えて攪拌しながら、陽イオン交換を行う。
【0029】
前記多価金属塩又は1価金属塩(ナトリウム塩を除く)は、その金属イオンが上記セルロース繊維のカルボキシル基のナトリウムイオンと陽イオン交換が可能であれば任意に選択でき、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、コバルト、亜鉛、バリウム、ニッケル、銅、鉄、カドミウム、鉛、ランタン、銀、カリウムなどの塩化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩などの有機酸塩、などを用いることができるが、特に後に成形体にした時のガスバリア性の観点からは塩化マグネシウム、塩化コバルト、硝酸銀が好ましい。
【0030】
任意な時間攪拌した後、酸化セルロース繊維をイオン交換水等で洗浄する。この段階ではセルロース繊維は微細化されていないので、水洗とろ過を繰り返す洗浄法を適用できる。
【0031】
洗浄処理によって、残存している多価金属塩又は1価金属塩(ナトリウム塩を除く)と陽イオン交換によって生じた副生成物を除去する。その後、湿潤状態の又は乾燥して粉末状態の陽イオン交換セルロース繊維が得られる。
【0032】
前記陽イオン交換セルロース繊維では、洗浄前に残存していたセルロース繊維のカルボキシル基と陽イオン交換しなかった多価金属又は1価金属は洗浄処理によって流失している。
【0033】
前記陽イオン交換セルロース繊維のカルボキシル基は、全てが多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)に陽イオン交換されていなくてもよく、本発明の課題を解決できる範囲で、少量のナトリウムを対イオンとしたカルボキシル基が残存していても構わない。ナトリウムを対イオンとしたカルボキシル基が残存している場合は、カルボキシル基の対イオンは多価金属とナトリウムの組み合わせであるか、又はナトリウムを除く1価金属となトリウムの組み合わせになる。
【0034】
しかし、前記陽イオン交換セルロース繊維のカルボキシル基が多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)に陽イオン交換された割合(金属置換率;実施例に記載の測定方法により求める)が高いほど、ガスバリア性が高くなるので好ましい。金属置換率は100%であることが好ましいが、製造コストの削減や省エネルギーの観点から洗浄作業に要する負担(洗浄回数、洗浄時間、洗浄に要する水量等)を軽減し、ガスバリア性を高いレベルで維持する観点から、金属置換率は10%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0035】
前記金属置換率は、誘導結合プラズマ発光分析(ICP-AES)や蛍光X線分析等の元素分析によって定性、定量的に確認することができる。
【0036】
〔陽イオン交換セルロース繊維の機械処理〕
その後、該中間体を水等の溶媒中に分散し、微細化処理をする。微細化処理は、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサーで所望の繊維幅や長さに調整することができる。この工程での固形分濃度は50質量%以下が好ましい。それを超えると分散にきわめて高いエネルギーを必要とすることから好ましくない。
【0037】
このような微細化処理により、平均繊維径が200nm以下のセルロース繊維を得ることができる。
【0038】
その後、必要に応じて固形分濃度を調整した懸濁液状又は必要に応じて乾燥処理した粉末状(但し、セルロース繊維が凝集した粉末状物であり、セルロース粒子を意味するものではない)を得ることができる。なお、懸濁液にするときは、水のみを使用したものでもよいし、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用したものでもよい。
【0039】
このような酸化処理、陽イオン交換、及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、前記カルボキシル基の対イオンが多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)であり、前記カルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであり、平均繊維径が200nm以下のものを含む高結晶性セルロース繊維を得ることができる。
【0040】
この高結晶性セルロース繊維はセルロースI型結晶構造を有している。これは、このセルロース繊維は、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化されて、微細化された繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロース繊維はその生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造が構築されているが、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、アルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、さらに微細化処理を経ることで微細セルロース繊維が得られる。
【0041】
そして、酸化処理条件を調整することにより、前記のカルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させたり、極性を変化させたりし、該カルボキシル基の静電反発や前述の微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
【0042】
そして、上記の酸化処理、陽イオン交換処理、微細化処理により得られるセルロース繊維懸濁液から形成される膜状成形体は、微細セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用が生まれ、ガスの溶解、拡散を抑制し、高い酸素バリア性等のガスバリア性を発現できるものと考えられる。また、セルロース繊維の巾や長さによって、成形後のセルロース繊維間の細孔サイズや細孔分布を変化させることができるため(即ち、分子篩効果を変化させることができるため)、分子選択的バリア性も期待できる。
【0043】
また、前記セルロース繊維懸濁液又は前記セルロース繊維懸濁液から形成される膜状成形体は、カルボキシル基の対イオンが多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)に置換されているため、対イオンの種類を選択することで、耐水性、耐湿性や抗菌性などの性質も期待できる。
【0044】
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、白濁したスラリー状又は透明なゲル状のものであり、塗料として適しており、その場合には、必要に応じて水と有機溶媒を含む懸濁液にしてもよい。本発明のセルロース繊維の懸濁液は、塗料として使用するときの塗布性の観点から、実施例に記載の測定方法による粘度(23℃)は10〜5000mPa・sが好ましく、30〜1000mPa・sがより好ましい。
【0045】
本発明のセルロース繊維懸濁液は、陽イオン交換しなかったセルロース繊維懸濁液と比較して粘度が低くなる。従って、塗料として用いる場合、濃度を大きくしても懸濁液の流動性が保たれるため、適用可能な濃度範囲が広くなる。本発明のセルロース繊維の懸濁液は、塗料として使用するときの塗布性の観点から濃度は0.5〜50質量%が好ましく、0.8〜10質量%がより好ましい。
【0046】
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、膜状に成形したとき、酸素バリア性や水蒸気バリア性等のガスバリア性を有する。よって、それ自体を製膜材料としてフィルム等の膜状成形体を製造することもできるし、既存の平面状の成形体及び立体状の成形体の表面に対して、塗布、スプレー、浸漬等の公知の方法により付着させることで、表面を改質する(即ち、ガスバリア性や耐湿性等を付与する)こともできる。
【0047】
本発明のセルロース繊維の懸濁液は、用途に応じて、紫外線吸収剤、着色剤等を含有させることもできる。
【0048】
〔成形体の製造方法〕
次に、本発明のセルロース繊維の懸濁液を用いて、膜状成形体と複合成形体を製造する実施形態について説明する。
【0049】
<膜状成形体>
本発明の膜状成形体は、セルロース繊維の懸濁液から形成されたものであり、次の製造方法により得ることができる。
【0050】
まず、最初の工程にて、セルロース繊維の懸濁液を基板上に付着させて、膜状物を形成させる。
【0051】
具体的には、ガラス、金属等の硬質表面等の基板上に、セルロース繊維の懸濁液を流延(又は塗布、スプレー、浸漬等)した後、乾燥させ、膜状成形体を形成させる。この方法では、セルロース繊維の懸濁液に含まれるセルロース繊維のカルボキシル基量やアスペクト比及び膜状成形体の厚みを制御することにより、仕様(ハイバリア性、透明性など)に応じた膜状成形体を得ることができる。
【0052】
さらに、必要に応じて50〜250℃で1〜200分間加熱処理して、膜状成形体を得ることもできる。
【0053】
膜状成形体は基板から剥がせる程度に乾燥させればよく、また加熱処理する場合は基板からはがさないまま加熱してもよい。
【0054】
このようにして、陽イオン交換セルロース繊維を用いて得られた膜状成形体中のセルロース繊維は、ナトリウム以外の金属とカルボン酸塩を形成しており、前記膜状成形体は耐水性や高湿度雰囲気下でのガスバリア性に優れている。
【0055】
前期膜状成形体中の金属種によっては、耐熱性の向上や、抗菌性が期待できる。またセルロース繊維状で金属イオンを還元して金属粒子を得ることで、触媒としての応用も可能となる。
【0056】
前記膜状成形体を得るために用いたセルロース繊維懸濁液は洗浄処理されているため、陽イオン交換していない金属塩や副生成物のナトリウム塩は流失している。したがって、前記セルロース繊維懸濁液を乾燥して得られる前記膜状成形体中には、前記セルロース繊維に結合しているもの以外の多価金属又は1価金属の無機塩は含まれない。
【0057】
前記膜状成形体中の多価金属又は1価金属の無機塩の存在の有無や陽イオン交換量は、蛍光X線分析やX線回折分析、赤外吸収スペクトル分析などの方法によって、確認できる。
【0058】
本発明の膜状成形体は、耐湿化(強度やバリア性)しているので、ガスバリア材の他にも、水浄化用分離膜やアルコール分離膜、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、ディスプレイ用フレキシブル透明基盤、燃料電池用セパレーター、結露防止シート、反射防止シート、紫外線遮蔽シート、赤外線遮蔽シート等として用いることもできる。
【0059】
<複合成形体>
本発明の複合成形体は、基材とセルロース繊維の層からなるものであり、次の製造方法により、得ることができる。
【0060】
まず、最初の工程にて、基材表面にセルロース繊維を含む懸濁液を付着(塗布、スプレー、浸漬、流延等による付着)させた後、乾燥させて、基材上(基材の一面又は両面)にセルロース繊維層が形成された複合成形体を得る。
【0061】
また、基材に対して、予め成形した上記の膜状成形体を貼り合わせて積層する方法を適用することができる。貼り合わせる方法としては、接着剤を使用する方法、熱融着法等の公知の方法を適用できる。
【0062】
さらに、必要に応じて、50〜250℃で1〜200分間加熱処理して、基材とセルロース繊維層からなる複合成形体を得ることもできる。
【0063】
このようにして得られた複合成形体中のセルロース繊維は、ナトリウム以外の金属とカルボン酸塩を形成しており、前記複合成形体は耐水性や高湿度雰囲気下でのガスバリア性に優れている。
【0064】
前記複合成形体を得るために用いたセルロース繊維懸濁液中には、洗浄処理を行っているため、陽イオン交換していない金属塩や副生成物のナトリウム塩は流失している。したがって、前記セルロース繊維懸濁液を乾燥して得られる前記複合成形体中には、前記セルロース繊維に結合しているもの以外の多価金属又は1価金属の無機塩は含まれない。
【0065】
前記複合成形体中の多価金属又は1価金属の陽イオン交換量や無機塩の存在の有無は、蛍光X線分析やX線回折分析、赤外線吸収スペクトル分析などの方法によって、確認できる。
【0066】
前記複合成形体中のセルロース繊維層の厚みは、用途に応じて任意に設定できるが、ガスバリア性の観点からは、20〜900nmが好ましく、より好ましくは50〜700nm、更に好ましくは100〜500nmである。
【0067】
基材となる成形体は、所望形状及び大きさのフィルム、シート、織布、不織布等の薄状物、各種形状及び大きさの箱やボトル等の立体容器等を用いることができる。これらの成形体は、紙、板紙、プラスチック、金属(多数の穴の開いたものや金網状のもので、主として補強材として使用されるもの)又これらの複合体等からなるものを用いることができ、それらの中でも、紙、板紙等の植物由来材料、生分解性プラスチック等の生分解性材料又はバイオマス由来材料にすることが好ましい。基材となる成形体は、同一又は異なる材料(例えば接着性やぬれ性向上剤)の組み合わせからなる多層構造にすることもできる。
【0068】
基材となるプラスチックは、用途に応じて適宜選択することができるが、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ナイロン6、66、6/10、6/12等のポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、脂肪族ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等のポリエステル、セルロース等のセロハン、三酢酸セルロース(TAC)等から選ばれる1又は2以上を用いることができる。
【0069】
基材となる成形体の厚みは特に制限されるものではなく、用途に応じた強度が得られるように適宜選択すればよく、例えば、1〜1000μmの範囲にすることができる。
【0070】
本発明の複合成形体は、耐湿化(強度やバリア性)しているので、ガスバリア材の他にも、水浄化用分離膜やアルコール分離膜、偏光フィルム、偏光板保護フィルム、ディスプレイ用フレキシブル透明基盤、燃料電池用セパレーター、結露防止シート、反射防止シート、紫外線遮蔽シート、赤外線遮蔽シート等として用いることもできる。
【実施例】
【0071】
各項目の測定方法は、次のとおりである。
【0072】
(1)セルロース繊維の平均繊維径
セルロース繊維の平均繊維径は、0.0001質量%に希釈した懸濁液をマイカ上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製,プローブはナノセンサーズ社製Point Probe(NCH)使用)で繊維高さを測定した。セルロース繊維が確認できる画像において、5本以上抽出し、その繊維高さから平均繊維径を求めた。
【0073】
(2)セルロース繊維のカルボキシル基含有量(mmol/g)
陽イオン交換した酸化セルロース繊維の絶乾重量約0.5gを100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えてパルプ懸濁液を調製し、パルプが十分に分散するまでスタラーにて攪拌した。そして、0.1M塩酸を加えてpH2.5〜3.0としてから、自動滴定装置(AUT−501、東亜デイーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で注入し、パルプ懸濁液の1分ごとの電導度とpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続けた。そして、得られた電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、カルボキシル基含有量を算出した。
【0074】
天然セルロース繊維は、セルロース分子約20〜1500本が集まって形成される高結晶性ミクロフィブリルの集合体として存在する。本発明で採用しているTEMPO酸化反応では、この結晶性ミクロフィブリル表面に選択的にカルボキシル基を導入することができる。したがって、現実には結晶表面にのみカルボキシル基が導入されているが、上記測定方法によって定義されるカルボキシル基含有量はセルロース重量あたりの平均値である。
【0075】
(3)粘度(mPa・s)
E型粘度計(VISCONIC、TOKIMEC製)を用い、23℃、回転数2.5rpmで濃度1%のセルロース繊維の懸濁液の粘度を測定した。
【0076】
(4)酸素透過度(等圧法)(cm3/m2・day・Pa)
JIS K7126−2 付属書Aの測定法に準拠して、酸素透過率測定装置OX−TRAN2/21(型式ML&SL、MODERN CONTROL社製)を用い、23℃、湿度50%RHの条件で測定した。具体的には、23℃、湿度50%RHの酸素ガス、23℃、湿度50%の窒素ガス(キャリアガス)環境下で測定を行った。
【0077】
(5)水蒸気透過度(g/m2・day)
JIS Z0208に基づき、カップ法を用いて、40℃、90%RHの環境下の条件で測定した。
【0078】
(6)金属置換率(%)
ICP-AES(セイコーインスツルメンツ製、SPS-3000)を用いて、セルロース繊維中のMg元素の含有量を測定した(実施例4〜7)。
Mg標準液(和光純薬(株)製)から0、0.1、1.5、10、20、30mg/Lの標準溶液を調製した。標準溶液には、100mLあたり硫酸1mLと1M硫酸5mLを含むように調製した。この標準溶液からMgの検量線を得た。
セルロース繊維懸濁液を凍結乾燥した試料0.1gを精秤後、硫酸1mLを添加し、ホットプレート上で加温した。この時、硝酸を徐々に添加しながら溶液が透明になるまで繰り返し操作を行った。溶液が透明になったら室温まで放冷し、1N硝酸5mLで再溶解させた。100mLメスフラスコに定量的に移し、超純水で100mLに定容し、この溶液を測定試料とした。ICP-AES分析によって得られたMg含有率(%)から、以下の式を用いて金属置換率を算出した。
金属置換率(%)=(Mg含有率/Mg原子量×10×Mg価数)/セルロース繊維のカルボキシル基含有量×100
ここでMg原子量は24、Mg価数は2とする。セルロース繊維のカルボキシル基含有量(mmol/g)は前記方法((2)セルロース繊維のカルボキシル基含有量(mmol/g)の測定法)で測定された値を用いる。
【0079】
(7)光透過率
分光光度計(UV−2550、株式会社島津製作所製)を用い、イオン交換水で濃度0.1質量%に調製した懸濁液の波長660nm、光路長1cmにおける光透過率(%)を測定した。固形分1質量%のセルロース繊維懸濁液は、後に得られる成形体の透明性の観点から、光透過率が0.5%以上であることが好ましく、より好ましくは40%以上、さらに好ましくは60%以上である。
【0080】
実施例1
〔セルロース繊維懸濁液の製造〕
(1)原料、触媒、酸化剤、共酸化剤
天然繊維:針葉樹の漂白クラフトパルプ(製造会社:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名 「Machenzie」、CSF650ml)
TEMPO:市販品(製造会社:ALDRICH、Free radical、98%)
次亜塩素酸ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株) Cl:5%)
臭化ナトリウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))。
塩化マグネシウム:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))
塩化コバルト:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))
0.05M硝酸銀:市販品(製造会社:和光純薬工業(株))
【0081】
(2)製造手順
<セルロース繊維の酸化>
まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維3gを297gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量3gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行った。
【0082】
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄した後、酸化パルプ3gにイオン交換水597gを加えて固形分0.5質量%の酸化セルロース繊維懸濁液を調製した。
【0083】
<酸化セルロース繊維の陽イオン交換と機械処理>
上記酸化セルロース繊維懸濁液に10質量%塩化マグネシウム水溶液9g加えて、ゆるやかに攪拌した。
【0084】
次に、60分で攪拌を終了し、セルロース繊維をイオン交換水にて十分洗浄して、陽イオン交換セルロース繊維を得た。陽イオン交換セルロース繊維3gとイオン交換水297gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製にて10分間攪拌する)ことにより、繊維の微細化処理を行い、セルロース繊維の懸濁液を得た。得られたセルロース繊維の懸濁液中の固形分濃度は、1.0質量%であった。実施例1はカルボキシル基の対イオンとしてマグネシウム(Mg)が存在している。表1にカルボキシル基量、平均繊維径、粘度を示す。
【0085】
〔複合成形体の製造〕
得られた前記セルロース繊維の懸濁液をポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上にバーコーター(#50)で塗布した。
【0086】
常温(23℃)で120分間以上乾燥して得られた複合成形体の酸素透過度、水蒸気透過度を測定した。また、常温(23℃)で120分間以上乾燥した後、加熱温度に維持した恒温槽で30分間保持し、さらに常温で2時間以上放熱して複合成形体を得た。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0087】
なお、表1中のセルロース繊維層の厚みはセルロース繊維の比重を1.5として、湿潤膜厚とセルロース繊維懸濁液の固形分濃度から算出した値である。この値は原子間力顕微鏡で測定した膜厚とよく一致していた。
【0088】
実施例2
金属塩として10% 塩化コバルト水溶液6g加えた以外は実施例1と同様にしてセルロース繊維の懸濁液得た。実施例1と同様にして複合成形体を得た。実施例2はカルボキシル基の対イオンとしてコバルト(Co)が存在している。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0089】
実施例3
金属塩として0.05M硝酸銀水溶液90g加えた以外は実施例1と同様にしてセルロース繊維の懸濁液得た。実施例1と同様にして複合成形体を得た。実施例3はカルボキシル基の対イオンとして銀(Ag)が存在している。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0090】
比較例1
比較例1は、陽イオン交換していないセルロース繊維である。まず、上記の針葉樹の漂白クラフトパルプ繊維3gを297gのイオン交換水で十分攪拌後、パルプ質量3gに対し、TEMPO1.25質量%、臭化ナトリウム12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウム28.4質量%をこの順で添加し、pHスタッドを用い、0.5M水酸化ナトリウムの滴下にてpHを10.5に保持し、温度20℃で酸化反応を行った。
【0091】
次に、120分の酸化時間で滴下を停止し、酸化パルプを得た。該酸化パルプをイオン交換水にて十分洗浄した後、酸化パルプ3gとイオン交換水297gを、ミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて10分間攪拌することにより、セルロース繊維の懸濁液を得た。得られたセルロース繊維の懸濁液中の固形分濃度は、1.0質量%であった。比較例1はカルボキシル基の対イオンとしてナトリウム(Na)が存在している。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0092】
実施例1と同様にして複合成形体を得た。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0093】
比較例2
基材シートとして用いたPETシート(シート厚み7μm)単体について、酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【0095】
実施例1〜3と比較例1から製造された膜状成形物を比較すると、陽イオン交換された実施例1〜3では、50%RHにおける酸素バリア性、水蒸気バリア性が共に高かった。平均繊維径は比較例1のほうが小さいにもかかわらず、実施例1〜3のほうが高い酸素バリア性を示したのは、陽イオン交換されたセルロース繊維層は吸湿しても緻密な構造を維持できているからと考えられる。セルロース繊維の吸水性は、主に水酸基とカルボキシル基に由来するが、カルボキシル基の対イオンをナトリウム以外の金属に置換することで吸水力が下がったことに起因すると考えられる。
【0096】
また実施例1、2、3を比較すると、対イオンが2価金属である実施例1、2は、対イオンが1価金属である実施例3よりも高い酸素バリア性、水蒸気バリア性を示した。2価の金属イオンによってセルロース繊維間のカルボキシル基が架橋されることで、湿度に対して構造を維持しやすくなり、結果として高いガスバリア性を示したものと考えられる。
【0097】
実施例4
実施例1と同様にして得られた酸化パルプ3gにイオン交換水597gを加えて固形分0.5質量%の酸化セルロース繊維懸濁液を調製し、10質量%塩化マグネシウム水溶液3.5g加えて、ゆるやかに攪拌した。ここで加えた塩化マグネシウムの添加量はセルロース繊維のカルボキシル基量に対して0.5化学当量となる量であった。
【0098】
次に、60分で攪拌を終了し、セルロース繊維をイオン交換水にて十分洗浄して、陽イオン交換セルロース繊維を得た。陽イオン交換セルロース繊維3.9gとイオン交換水296.1gをミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて120分間攪拌することにより、繊維の微細化処理を行い、セルロース繊維の懸濁液を得た。得られたセルロース繊維の懸濁液中の固形分濃度は、1.3質量%であった。表2にカルボキシル基量、平均繊維径、粘度、光透過率、金属置換率を示す。
【0099】
得られた前記セルロース繊維の懸濁液を、実施例1と同様にしてポリエチレンテレフタレート(PET)シート(商品名:ルミラー、東レ社製、シート厚み25μm)の片側面上にバーコーター(#50)で塗布した。常温(23℃)で120分間以上乾燥した後、150℃に保持した恒温槽で30分間保持し、さらに常温で2時間以上放熱して複合成形体を得た。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表2に示す。
【0100】
実施例5〜6
表2に記載された量の塩化マグネシウムを添加すること以外は実施例4と同様にしてセルロース繊維の懸濁液を調製し、複合成形体を得た。表2にカルボキシル基量、平均繊維径、粘度、光透過率、金属置換率、酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を示す。
【0101】
実施例7
比較例1で得た固形分1.0質量%のセルロース繊維懸濁液300gに、表2に示す金属塩及び添加量を用いて陽イオン交換した。ガラスフィルター上で十分に洗浄した後、固形分1.3質量%になるようにイオン交換水で調製し、ミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて120分間攪拌することにより、セルロース繊維の懸濁液を得た。実施例1と同様にして複合成形体を製造した。金属塩置換率、酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表2に示す。
【0102】
実施例8〜13
表2に記載された量と種類の金属塩を添加すること以外は、実施例4と同様にしてセルロース繊維の懸濁液を調製し、複合成形体を得た。表2にカルボキシル基量、平均繊維径、粘度、光透過率、酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を示す。
【0103】
比較例3
ミキサー(Vita−Mix−Blender ABSOLUTE、大阪化学(株)製)にて120分間攪拌すること以外は、比較例1と同様にして、セルロース繊維の懸濁液、複合成形体を製造した。酸素透過度、水蒸気透過度の測定結果を表2に示す。
【0104】
【表2】

実施例4、5、6、7は、金属置換率の異なるセルロース繊維懸濁液である。表2から明らかなように、金属塩置換率が高いセルロース繊維懸濁液から作製される複合成形体ほど酸素バリア性、水蒸気バリア性がともに高く、特に金属置換率が100%である実施例6では最も高いバリア性が得られた。また実施例7は、一度微細化したセルロース繊維(比較例1)から陽イオン交換処理を行ったものであるが、同量の塩化マグネシウムを添加した実施例6に比べて、金属置換率が低かった。但し、バリア性の向上は確認でき、かつ高い光透過率を有した複合成形体が得られた。
【0105】
対イオンの種類を比較すると2価の金属である実施例4〜8(Mg)、9〜10(Ca)、12(Zn)は、酸素バリア性と水蒸気バリア性が比較例3(Na)よりも高く、1価である実施例13(K)、3価である実施例11(Al)は水蒸気バリア性が比較例3(Na)よりも高かった。対イオンの種類によって、繊維形態やカルボキシル基との架橋状態が変化し、吸水力に影響を与えているものと考えられる。
なお、表2中、対イオンの金属置換率が100%に満たない例では、残部の対イオンはナトリウムとなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を含有するセルロース繊維の懸濁液であって、
前記セルロース繊維が、平均繊維径が200nm以下のものを含み、前記セルロース繊維を構成するセルロースのカルボキシル基含有量が0.1〜2mmol/gであり、前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして多価金属及び1価金属から選ばれるもの(但し、ナトリウム単独のものを除く)を含有している、セルロース繊維の懸濁液。
【請求項2】
対イオンを形成する多価金属が、コバルト、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、亜鉛、銅、鉄から選ばれるものである、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
【請求項3】
対イオンを形成する1価金属が、銀、カリウムから選ばれるものである、請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液。
【請求項4】
請求項1記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法であって、
前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして多価金属を含有するものを得るときは、セルロース繊維と水溶性多価金属塩を混合して、前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の対イオンを前記多価金属に陽イオン交換する工程、或いは
前記カルボキシル基の対イオンを形成するものとして1価金属(但し、ナトリウム単独のものを除く)を含有するものを得るときは、セルロース繊維と水溶性1価金属塩(但し、ナトリウム塩を除く)を混合して、前記セルロース繊維中のカルボキシル基を前記1価金属塩の1価金属に陽イオン交換する工程、
陽イオン交換されたセルロース繊維固形分を水で洗浄する工程、
ろ過物にイオン交換水を添加した後、機械的処理により、セルロース繊維の懸濁液を得る工程、
を有している、セルロース繊維の懸濁液の製造方法。
【請求項5】
前記陽イオン交換する工程において、前記セルロース繊維が有するカルボキシル基の対イオンの多価金属又は1価金属(ナトリウムを除く)への下記式から求められる金属置換率が10%以上である、請求項4記載のセルロース繊維の懸濁液の製造方法。
金属置換率(%)={金属元素含有率(%)/原子量×10×価数)/セルロース繊維のカルボキシル基含有量×100
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロース繊維の懸濁液から形成された膜状成形体。
【請求項7】
基材上に、請求項1〜3のいずれか1項記載のセルロース繊維の懸濁液から形成されたセルロース繊維層を有する複合成形体。

【公開番号】特開2010−202856(P2010−202856A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−291858(P2009−291858)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「ナノテク先端部材実用化研究開発」委託研究産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】