説明

セルロース誘導体からの多孔性スキャフォールドの形成方法

スキャフォールドは、マクロ孔を画定しかつ自己架橋可能な基を含む置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含むポリマーを含み、該部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースは該自己架橋可能な基を介して架橋されている。該マクロ孔は、50マイクロメートルより大きい平均孔径を有し、かつ少なくとも部分的に相互連結している。一つの方法において、連続水相および連続ポリマー相を含む両連続エマルジョンを形成する。該ポリマー相は自己架橋可能な基を含む置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含み、かつ少なくとも部分的に相互連結した孔を画定するポリマーを形成するために該ポリマー相を自己架橋可能な基を介して架橋する。別の方法において、連続ポリマー相および連続水相を含む両連続エマルジョンを形成するために、ポリマー前駆体と水とを含む溶液中で相分離を誘導する。該ポリマー前駆体は自己架橋可能な基を含み、かつ少なくとも部分的に相互連結したマクロ孔を画定するポリマーを形成するために該ポリマー前駆体をエマルジョン中の自己架橋可能な基を介して架橋する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2007年12月18日に提出された米国特許仮出願第61/006,090号の恩典を主張し、その全内容が参照により本明細書に組み入れられる。
【0002】
発明の分野
本発明は、多孔性スキャフォールド、およびそのようなスキャフォールドを形成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
マクロ多孔性スキャフォールドを形成するための技術には、塩浸出、気泡形成、エマルジョン凍結乾燥、繊維状織物の加工、三次元(3D)印刷、等、多くの異なる手法が存在する。大きな孔は、孔内の細胞の移動および成長を促進することが可能であり、十分な養分の到達および代謝物の除去を可能にするため、マクロ多孔性スキャフォールドは、細胞を支えるために有用である。ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)を異なる温度で架橋した場合、非多孔性および微小多孔性HPCヒドロゲルの両方を形成できることが報告されている。報告されている微小多孔性HPCヒドロゲルの平均孔径は10マイクロメートル未満である。一般的に、微小孔は、平均孔径が2〜50マイクロメートルの範囲内の孔を指し、マクロ孔は、平均孔径が50マイクロメートルよりも大きい孔を指す。
【発明の概要】
【0004】
一部の適用においては、HPC誘導体等のセルロース誘導体からマクロ多孔性スキャフォールドを形成することが望ましいと認められている。また、驚くべきことに、一つまたはそれ以上の自己架橋可能な基を含む置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースからマクロ多孔性スキャフォールドが形成可能であることも見出された。置換基は、例えば、アリルイソシアネートであってもよい。そのような部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースから形成されたマクロ多孔性スキャフォールドは、例えば約50%またはそれ以上の相対的に高い相互連結多孔度も有することができる。部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースは、自己連結可能な基を含む置換基により部分的に置換されたメチルセルロース等の別の感熱性ポリマー前駆体、または自己連結可能な基を含む置換基により部分的に置換されたpH感受性ポリマー前駆体と交換してもよい。
【0005】
従って、本発明の一つの局面によれば、マクロ孔を画定しかつ置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含むポリマーを含むスキャフォールドであって、置換基が自己架橋可能な基を含み、部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが自己架橋可能な基を介して架橋され、マクロ孔の平均孔径が50マイクロメートルより大きくかつ少なくとも部分的に相互連結されている、スキャフォールドが提供される。ポリマーは、約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有し得る。ポリマーは、約80%またはそれ以上の全多孔度を有し得る。マクロ孔は、50マイクロメートルよりも大きい値で、例えば約90または約100マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有し得る。ポリマーは、約85%の平衡含水量を有し得る。ポリマーは、水和状態において、約10〜約20kPaのヤング率を有し得る。自己架橋可能な基は炭素-炭素不飽和二重結合を含み得る。置換基は、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含み得る。部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースは、約2.5未満、例えば約2.1の置換度を有し得る。ポリマーは、例えば水和状態にある場合、ゲルであり得る。
【0006】
本発明の別の局面によれば、以下の工程を含む、スキャフォールドを形成する方法が提供される:連続ポリマー相が、置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含み、置換基が自己架橋可能な基を含む、連続水相および連続ポリマー相を含む両連続(bicontinuous)エマルジョンを形成する工程;少なくとも部分的に相互連結した孔を画定するポリマーを形成するために、部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを自己架橋可能な基を介して架橋する工程。置換基は、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含み得る。孔は、マクロ孔を含み得る。架橋する工程は、エマルジョンにγ線を照射する工程を含み得る。架橋する工程は、少なくとも約90重量%の部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースをエマルジョン中で架橋する工程を含み得る。ポリマーを凍結乾燥することにより孔から水を除去してもよい。凍結乾燥後、ポリマーは約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有してもよく、かつ孔は50マイクロメートルよりも大きい平均孔径を有し得る。エマルジョンは、約80〜約90重量%の前記水相および約10〜約20重量%の前記ポリマー相を含み得る。部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースは、約2.5またはそれ未満、例えば約2.1の置換度を有し得る。ポリマーは、例えば水和状態にある場合、ゲルであり得る。エマルジョンは、水と前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースとを含む溶液を熱処理に供することにより形成してもよい。熱処理は、約313Kの温度における約5分間の熱処理を含み得る。
【0007】
本発明の更なる一局面によれば、以下の工程を含む、スキャフォールドを形成する方法が提供される:連続ポリマー相および連続水相を含む両連続エマルジョンを形成するために、自己架橋可能な基を含むポリマー前駆体と水とを含む溶液中で相分離を誘導する工程;少なくとも部分的に相互連結したマクロ孔を画定するポリマーを形成するために、ポリマー前駆体をエマルジョン中の自己架橋可能な基を介して架橋する工程。ポリマー前駆体は、セルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、メチルセルロース誘導体、またはアリルイソシアネートにより部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシプロピルセルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、自己連結可能な基を含む置換基により部分的に置換されていてもよい。自己架橋可能な基は、炭素-炭素不飽和二重結合を含み得る。置換基は、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含み得る。ポリマー前駆体は感熱性であり得、かつ前記相分離を誘導する工程は溶液を加熱する工程を含み得る。ポリマー前駆体はpH感受性であり得、かつ前記相分離を誘導する工程は溶液のpHを変化させる工程を含み得る。架橋する工程は、前記エマルジョンにγ線を照射する工程を含み得る。ポリマーは、例えば水和状態にある場合、ゲルであり得る。
【0008】
更に、マクロ孔を画定する架橋されたポリマーを含むスキャフォールドも開示されている。マクロ孔は、少なくとも部分的に相互連結し、かつ50マイクロメートルより大きい平均孔径を有している。相互連結多孔度は、約50%またはそれ以上であり得る。ポリマーは、水溶液中で相分離を起こす為の相分離刺激への応答性を有するポリマー前駆体から形成される。刺激は、熱または溶液におけるpH変化であり得る。ポリマー前駆体は、自己架橋可能な基を介してポリマー分子が架橋されるように、自己架橋可能な基も含む。自己架橋可能な基は、γ線で照射された際に互いに架橋されるように選択してもよい。ポリマー前駆体は、セルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、メチルセルロース誘導体、またはアリルイソシアネートにより部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシプロピルセルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、自己連結可能な基を含む置換基により部分的に置換されていてもよい。自己架橋可能な基は、炭素-炭素不飽和二重結合を含み得る。置換基は、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含み得る。ポリマーは、約80%またはそれ以上の全多孔度を有し得る。マクロ孔は、50マイクロメートルよりも大きい値で、例えば約90または約100マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有し得る。ポリマーは、約85%の平衡含水量を有し得る。ポリマーは、水和状態において、約10〜約20kPaのヤング率を有し得る。ポリマーは、約2.5未満、例えば約2.1の置換度を有し得る。ポリマーは、例えば水和状態にある場合、ゲルであり得る。
【0009】
本発明の他の局面および特徴は、添付図面と共に本発明の特定の態様の以下の説明を検討することにより、当業者には明らかになると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明の態様を一例としてのみ説明する図面において、以下が示されている。
【図1】異なる試料溶液におけるUV吸収の溶液温度に対する依存を示すデータグラフを表す。
【図2】試料スキャフォールドの断面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を示す。
【図3】図2に示した試料スキャフォールドの一部分を高倍率で表したSEM像を示す。
【図4】図2に示した試料スキャフォールドの一部分を高倍率で表したSEM像を示す。
【図5】二つの試料スキャフォールドにおける孔径分布を表す線グラフを示す。
【図6】試料スキャフォールドの断片の共焦点顕微鏡像を示す。
【図7】比較対照スキャフォールドの断片の共焦点顕微鏡像を示す。
【図8】図6の試料スキャフォールドの共焦点顕微鏡像であるが、別の標識で染色したものを示す。
【図9】図8の試料スキャフォールドの共焦点顕微鏡像であるが、より高倍率のものを示す。
【図10】試料スキャフォールド中の細胞数の培養時間への依存を表すデータグラフを示す。
【図11】異なる標識を用いて染色した試料スキャフォールド中で培養した細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図12】異なる標識を用いて染色した試料スキャフォールド中で培養した細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図13】図11および図12の重ね合わせを示す。
【図14】試料スキャフォールド中で培養した細胞の、それぞれ異なる時間および異なる倍率で取得したSEM像を示す。
【図15】試料スキャフォールド中で培養した細胞の、それぞれ異なる時間および異なる倍率で取得したSEM像を示す。
【図16】試料スキャフォールド中で培養した細胞の、それぞれ異なる時間および異なる倍率で取得したSEM像を示す。
【図17】試料スキャフォールド中で培養した細胞の、それぞれ異なる時間および異なる倍率で取得したSEM像を示す。
【図18】測定された尿素合成データを表す棒グラフを示す。
【図19】測定比較データを表す棒グラフを示す。
【図20】測定比較データを表す棒グラフを示す。
【図21】試料スキャフォールド中で培養した細胞のSEM像を示す。
【図22】試料スキャフォールド中で培養した細胞のSEM像を示す。
【図23】試料スキャフォールド中で培養した細胞のSEM像を示す。
【図24】試料スキャフォールド中で培養した細胞のSEM像を示す。
【図25】試料スキャフォールド中で培養した細胞の共焦点顕微鏡像(透過画像)を示す。
【図26】図25に示す試料スキャフォールド中で培養した細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図27】図25に示す試料スキャフォールド中で培養した細胞の早い段階におけるSEM像を示す。
【図28】図25に示す細胞の遅い段階における共焦点顕微鏡像(透過画像)を示す。
【図29】図28に示す細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図30】異なる試料スキャフォールド中で培養した異なる細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図31】異なる試料スキャフォールド中で培養した異なる細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図32】異なる試料スキャフォールド中で培養した異なる細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【図33】異なる試料スキャフォールド中で培養した異なる細胞の共焦点顕微鏡像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
詳細な説明
本発明の例示的な態様は、アリルイソシアネートにより部分的に置換された架橋ヒドロキシプロピルセルロース(H-A)により形成されたスキャフォールドに関する。スキャフォールドとは、細胞または組織等の何か他の物を支えるための支持骨格を提供するために利用できる、任意の多孔性材料または構造である。H-Aポリマーの孔は、平均孔径が50マイクロメートルよりも大きいマクロ孔である。H-Aポリマーは、水和された際にゲルを形成しうる。
【0012】
一つの態様において、H-Aポリマーは、約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有し、約80%またはそれ以上の全多孔度を有し得る。相互連結多孔度とは、隣接する孔との間の連結の程度を指し、水銀圧入式ポロシメータ法により測定できる。
【0013】
マクロ孔は、50マイクロメートルよりも大きい値で、例えば約90または約100マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有し得る。ピークは、水銀圧入式ポロシメータ法により得られる孔径の分布曲線から決定してもよい。
【0014】
スキャフォールド中の孔径およびその分布は、Thermo Finnigan(商標)より入手可能なPASCAL 140水銀ポロシメータ等のポロシメータを利用して決定してもよい。
【0015】
孔径は、用いられる手法に応じて、H-Aポリマーが水和状態あるいは脱水状態のときに測定してもよい。
【0016】
H-Aポリマーは、約85%の平衡含水量(EWC)を有していてもよく、水和状態において、約10〜約20kPaのヤング率を有し得る。平衡含水量(EWC)は、EWC=100%×(Wh−Wd)/Whとして算出され、式中、Wdはゲルの乾燥重量であり、WhはH-Aポリマーの完全に水和した重量である。
【0017】
H-A分子は、約2.5またはそれ未満、例えば約2.1の置換度(DS)を有し得る。DSは、HPC中の-OH対アリルイソシアネート中の-NCOのモル比を変化させることにより調節してもよい。当業者に理解されるように、DSは、核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて決定してもよい。
【0018】
本発明の別の例示的態様は、上記のスキャフォールド等のスキャフォールドを調製する過程に関する。このプロセスにおいては、連続水相および連続ポリマー相を含む両連続エマルジョンが調製される。ポリマー相は、ポリマー前駆体としてH-A分子を含む。H-AのDSは、約2.5またはそれ未満、例えば約2.1であり得る。H-A分子を架橋することにより、少なくとも部分的に相互連結したマクロ孔を有するポリマーが形成される。H-A分子間の架橋を誘発するために、エマルジョンにγ線を照射してもよい。少なくとも約90重量%のH-A分子(ポリマー前駆体)が架橋される(即ち、架橋度が90重量%となる)ようにエマルジョンを選択し、照射を行ってもよい。架橋後、H-Aポリマーは、先ずマクロ孔中に水または水相を含むゲルを形成し、この水または水相はゲルを凍結乾燥すること等により除去してもよい。凍結乾燥後、結果として得られるポリマーが約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有し、かつマクロ孔が50マイクロメートルよりも大きい平均孔径を有するように、エマルジョンの内容は調節してもよい。孔径の分布は、約50マイクロメートルよりも大きい値で、例えば約90または約100マイクロメートルでピークに達し得る。例えば、エマルジョンは、約80〜約90重量%の水相および約10〜約20重量%のポリマー相(またはH-A)を含み得る。
【0019】
いくつかの要素が全多孔度、相互連結多孔度、および孔径分布の値に影響を及ぼし得る。これらの要素としては、ポリマー前駆体濃度、DS、架橋時間、および任意の架橋剤の濃度が含まれる。これらの要素は、結果として得られるスキャフォールドの多孔度を制御するために調節してもよい。例えば、ポリマー前駆体濃度または架橋時間の増加は、スキャフォールドの孔径を減少させ得る。
【0020】
一つの態様において、二相エマルジョンは、H-Aの水溶液を約313Kの温度で約5分間熱処理し、溶液において相分離を引き起こすことにより形成され得る。
【0021】
好都合に、本明細書の記載のように調製したスキャフォールドは、いくらかの利益または利点を有することが可能であり、様々な医学的または生物学的適用等、様々な適用に利用できる。
【0022】
いくつかの従来技術において、マクロ多孔性ヒドロゲルは、複雑な手順により調製され、これらの孔は相互連結されていない。これら従来型のヒドロゲル中の孔は、深度分布も不足し、表面近くに留まる傾向がある。対照的に、本発明の態様は、三次元スキャフォールドを提供することが可能であり、相互連結したマクロ孔は、三次元物質の全体に実質的に均一に分布している。本明細書中に開示されているスキャフォールドは、比較的簡単な製作手順において比較的簡単な化学を用いて調製できる。いくつかの態様において、この手順は、穏やかな温度条件下で、いかなる有機溶媒または追加の剤(例えば、界面活性剤または架橋剤)も使用せず、簡単な一段階化学反応により実施できる。
【0023】
理解されているとおり、セルロース(ポリ(1,4'-アンヒドロ-β-D-グルコピラノース))は、植物細胞の主要なECM成分である。これは自然に豊富であり、生体適合性、生物分解性を有し、生物学的に再生可能、および容易に誘導体化可能である。従って、セルロースに基づく物質は、薬学的および生物医学的な適用に好都合に利用することができる。従って、HPC等、本発明の態様において使用される主要な原料は、比較的低費用で得ることができる。
【0024】
ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)は、セルロースの誘導体であり、商業的供給源より簡単に入手できる。薬物送達用途における使用が米国食品医薬品局(FDA)により許可されている。HPCおよびH-Aは、水および幅広い有機溶媒のいずれにおいても高い溶解性を示す。これらは、特定の適用における様々な具体的な必要条件を満たすために、比較的に容易に官能性を持たせることができる。HPCまたはH-Aの水溶液は、等方性の水相から準安定性の二相エマルジョンへの、独特な下限臨界溶解温度(LCST)型相変化を起こす。この相分離は、マクロ多孔性ポリマーおよびゲルの形成を可能とする。
【0025】
微小孔性ヒドロゲルおよびナノ構造ヒドロゲルは他のHPC誘導体を使用して形成できる一方、マクロ多孔性ヒドロゲルは、より小さい孔を有するヒドロゲルよりも一定の利点を有するものと認識されており、驚くべきことに、マクロ孔性ヒドロゲルの形成に、H-A相を含む二相エマルジョンが便利に利用できることが見出された。
【0026】
HPCは、アリルイソシアネートの代わりに別の適した置換基で部分的に置換されていてもよい。一部の適用においては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、グリシジルメタクリレート、等が適した置換基となり得る。
【0027】
H-Aポリマー前駆体固有の感熱性相挙動は、溶液を熱処理に供することによる溶液中での両連続のポリマーが豊富な相および水が豊富な相の形成を簡便にする。好都合に、両連続エマルジョンを形成するために任意の化学溶剤または化学物質(例えば、界面活性剤)を添加する必要は無い。
【0028】
液体二相構造は、架橋することにより、安定化(凝固)することができ、それはγ線照射により効率よく達成されてもよい。H-Aの架橋は、他の手法を用いて達成してもよいが、いくつかの適用においては、γ線照射が有利であり得る。例えば、γ線は、いくつかの他の種類の治療光よりも深く標的材料に進入することが可能である。従って、γ線により、溶液中での架橋は、異なる深さで均一に活性化できる。γ線照射は、多くの望まれない化学的副作用を引き起こさず、いかなる化学的イニシエーターも必要としない。従ってこれは、化学的に「クリーン」な手法である。
【0029】
約2.5またはそれ未満、例えば約2.1の置換度を有するH-Aは、いくつかの適用において有利であり得ることが見出されている。例えば、より高いDSを有するH-Aポリマー前駆体は、水中でより低い溶解度を示す傾向にあるが、より低いDSを有する架橋H-Aポリマーは、より高いDSを有するH-Aポリマーと比べて機械的特性が劣る可能性がある。従って、異なった望まれる性質間のバランスは、いくつかの適用において、約2.1のDSにより達成され得る。
【0030】
H-Aスキャフォールドの機械的強度等の機械的特性は、それらにおける架橋の度合いを変化させることにより制御してもよい。架橋の度合いは、前駆体溶液中のH-A濃度および架橋時間を変化させることにより制御してもよい。H-Aスキャフォールドの機械的特性を制御する能力は、一部の用途において有利であり得る。例えば、支える細胞に、適した機械的安定性および構造的完全性を提供するために、機械的特性が調節可能であることが望ましいと思われる。
【0031】
従って、本明細書に記載のH-Aポリマーは、軟部組織として使用できる三次元(3D)スキャフォールドを形成することができる。これらのスキャフォールドは、様々な望ましい物理化学的、機械的、およびバイオ界面特性を有するように調製することができる。例えば、スキャフォールドは、細胞接着の促進に適した特性を有していてもよい。スキャフォールドは、比較的に柔らかく作製でき、本質的に親水性である。相互連結マクロ孔は、生物組織と同様の細胞密度を有するスキャフォールドの中への細胞増殖を促進することが可能である。スキャフォールドは、三次元相互連結マクロ孔のおかげで、比較的高い平衡含水量(EWC)を有し、生体適合性を有し、生理活性分子のゆっくりとした放出を維持することができるだけでなく、更に、細胞増殖、移動、および究極的には組織形成も支えることができる。また、スキャフォールドは、細胞および組織の機能を制御するための細胞外基質(ECM)刺激の素早い組み込みも可能にする。本発明の態様において、材料および作製手順の選択は、細胞機能を制御するための三次元ECM刺激を導入できるように、柔軟であってもよい。
【0032】
スキャフォールドの調製のために水溶性前駆体が使用できるため、ポリマー側鎖の化学的性質を改変することにより、スキャフォールドの分解特性を調節することが可能であり得る。
【0033】
本発明の態様は、統合的な相互連結マクロ多孔性、ナノ特性(ナノメートルスケールの次元を有する表面構造;下記の実施例参照)、高い含水量、および軟部組織工学に適した機械的完全性を有する、三次元スキャフォールドを提供することも可能である。そのようなスキャフォールドは、細胞および組織に機械的安定性および構造的完全性を提供する際に有利であり得る、制御可能な中程度の弾性、および親水性を示すことができる。また、スキャフォールドは、孔の中にもナノ特性を有することができ、これらは、細胞挙動の制御において役割を果たし得る。ナノ特性は、細胞の挙動および機能を制御するために、接着タンパク質、および成長因子等の生理活性分子を負荷する際にも有用であり得る。
【0034】
相互連結マクロ多孔度、および高い平衡含水量、生体適合性、および機械的完全性を有することにより、本明細書に記載の三次元H-Aスキャフォールドは、軟部組織工学および再生医学における幅広い適用に適していると考えられる。
【0035】
本発明の一部の態様は、細胞培養用のインビトロ基質、および三次元環境における細胞挙動の研究への適用にも適していると考えられる。三次元細胞培養環境は、二次元培養環境よりもインビボの微小環境をよく模倣している。従って、三次元スキャフォールドは、ECM類似体の役割を果たし、細胞の接着、増殖、移動、機能および分化等のための生物模倣性三次元基質を提供することができる。
【0036】
本発明の一部の態様は、病理試験および薬物検査用のヒト細胞に基づく、インビトロ三次元組織モデルにおける使用にも適していると考えられる。
【0037】
本発明の一部の態様は、外部支持臓器を作成するための細胞のインビトロ培養に利用できる。高度に相互連結したマクロ多孔性構造は、適切な細胞-細胞接触を有する十分な細胞集団の培養に一時的な支えを提供できる。予備段階の結果は、本明細書中に記載のスキャフォールド中で培養した初代ラット肝細胞が一週間その肝臓特異的機能を保持できることを示した(下記の実施例参照)。これらのスキャフォールド中では、他の種類の細胞も培養できる。関連する適用の例としては、急性肝不全患者に必須の肝機能を提供するための人工肝補助デバイス(BLAD)が挙げられる。
【0038】
柔らかい、親水性およびマクロ多孔性スキャフォールドは、軟部組織における細胞移植および臓器修復、または再生への適用に適していると考えられる。
【0039】
本発明の一部の態様は、創薬および薬物スクリーニング用のハイコンテンツなスクリーニングに利用できる。セルロース誘導体スキャフォールドは、これにより様々な細胞アッセイ用の均一な三次元微小環境の提供のために、容易にマイクロプレートの形状に加工することが可能である。
【0040】
本発明の一部の態様は、生物的または薬学的活性を有する化合物の局所的および持続的な送達に利用できる。スキャフォールドが親水性であり、高い水分貯留能力を有する場合、これらは、生理活性分子またはその他の物質の取り込みおよび徐放を提供するために好都合に利用できる。
【0041】
ここで理解されているとおり、異なる態様において、HPCは、熱に応答して水溶液中で安定な両連続エマルジョンを形成することが可能な他の感熱性ポリマー前駆体に置き換えてもよい。例えば、HPCを置き換えるためにメチルセルロースを利用してもよい。更に、pH変化などの、別の種類の刺激に応答することにより水溶液中で安定な両連続エマルジョンを形成することができるポリマー前駆体をHPCの置き換えに利用してもよい。従って、適したpH感受性ポリマー前駆体を使用してもよい。
【0042】
更に理解されているとおり、異なる態様において、アリルイソシアネートは、自己架橋可能な基を含む他の適した置換基により置き換えられてもよい。自己架橋可能な基とは、互いに架橋することが可能な官能基を指す。例えば、適した置換基または架橋可能な基は、架橋可能な部位を提供するための不飽和C=C結合を有していてもよい。適した置換基は、その置換基によりHPCが部分的に置換されるように、HPCに結合するための官能基も有するべきである。アリルイソシアネートの代わりとして適しているものとしては、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレート等が挙げられる。置換基は、多官能性モノマーを含み得る。
【0043】
簡便な相分離を可能にし、相分離中に改変されたHPCの十分な架橋を許容するために、置換されたHPC中に十分な熱感受性が保持されるよう、使用する特定の置換基に応じて、置換度(DS)は調節するべきである。
【0044】
本明細書中の開示を考慮すると、マクロ孔を画定する架橋ポリマーを含むスキャフォールドを提供することが可能である。マクロ孔は、少なくとも部分的に相互連結し、かつ50マイクロメートルより大きい平均孔径を有する。相互連結多孔度は、約50%またはそれ以上であり得る。ポリマーは、水溶液中で相分離を起こす為の相分離刺激に応答性のポリマー前駆体から形成される。刺激は、熱または溶液中のpH変化であり得る。ポリマー前駆体は、自己架橋可能な基を介してポリマーが架橋されるように、自己架橋可能な基も含む。架橋可能な基は、γ線で照射された際に互いに架橋されるように選択してもよい。ポリマー前駆体は、セルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、メチルセルロース誘導体、またはアリルイソシアネートにより部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシプロピルセルロース誘導体であり得る。セルロース誘導体は、自己架橋可能な基を含む置換基により部分的に置換されていてもよい。自己連結可能な基は、炭素-炭素不飽和二重結合を含み得る。置換基は、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含み得る。ポリマーは、約80%またはそれ以上の全多孔度を有し得る。マクロ孔は、50マイクロメートルよりも大きい値で、例えば約90または約100マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有し得る。ポリマーは、約85%の平衡含水量を有し得る。ポリマーは、水和状態において、約10〜約20kPaのヤング率を有し得る。ポリマーは、約2.5未満、例えば約2.1の置換度を有し得る。ポリマーは、例えば水和状態にある場合、ゲルであり得る。
【0045】
本明細書中において、例示的態様のある差異および改変、ならびにその適用が考察されているが、これらは例示のためのものであり、網羅的ではない。本発明の態様の他の適用も可能である。
【実施例】
【0046】
これらの実施例において使用された全ての化学原料は、特別定めのない限り、シンガポールのSigma-Aldrich Pte Ltd.(商標)より入手した。
【実施例1】
【0047】
HPCのカルバミン酸アリル誘導体(H-A)の合成
HPC(Mn約10,000;1H NMR測定によると、エーテル化度は約3.4)は、トルエン中で共沸蒸留することにより脱水した。
【0048】
無水HPC(2.0 g、6.0 mmol[OH])をクロロホルム(100mL)に溶解し、これにアリルイソシアネート(1.83 mL、3.5モル当量)のクロロホルム(10mL)溶液を滴下した。触媒として、ジブチル錫ジラウレートを一滴加えた後、反応混合物を室温で約48時間攪拌し、次に回転式蒸発器を用いて濃縮し、ジエチルエーテル中に沈殿させた。
【0049】
反応生成物を真空濾過により回収し、クロロホルムに再度溶解し、ジエチルエーテル中に沈殿させることにより精製した。残留した不純物は、ジエチルエーテルからのソックスレー抽出により除去した。
【0050】
生成物は、1H NMR解析によると(CDCl3、δppm):0.5〜1.5(-CH3)、5.7-6.1(-CH=CH2)、2.5〜5.3(その他全てのプロトン)を含む。
【0051】
CDCl3中で測定した1H NMRより算出すると、置換度は2.1であった。
【0052】
10重量%および20重量%の試料H-A溶液(溶液中のH-Aの重量パーセント)の温度により媒介される相挙動は、UV/VIS/NIR分光光度計(Jasco(商標)、V-570、日本)を用いて、温度に応じて480nmにおける光学密度を測定することにより調査した。試料保持器の温度は、Jasco PSC-498温度制御装置を使用して調節した。測定値を読む前に、各温度において試料が平衡に達するよう10分待った。代表的な測定結果を図1に示す。相分離の発生は、光学密度の低下により示された。H-A溶液の相分離を誘発し、その後の架橋を行うための使用温度としては、低下した光学密度がプラトーに達した温度を選択した。
【0053】
図1は、異なる濃度のHPC(ひし形:10重量%‐塗りつぶし、20重量%‐白抜き)およびH-A(三角:10重量%‐塗りつぶし、20重量%‐白抜き)を含む試料溶液の規準化された(298Kにおける吸収強度に規準化)UV吸収の温度依存性を表す代表的な測定データを示す。相転移は、温度上昇による透過率の急峻な低下により明らかにされる。本明細書において、試料の透過率が50%減少する温度はLCSTと表示される。HPCと比較して、10重量%および20重量%のH-A溶液の両方の相分離は、低い温度の範囲で起こり、LCSTは約307Kであり、これはアリル基を用いた疎水性置換によるものである。
【0054】
HPC試料同様、H-A試料も温度が上昇すると白く不透明になったが、調査した温度の範囲においては目立った沈降は認められず、H-A溶液中に安定なコロイド系が形成されたことが示された。
【0055】
安定なコロイド形成は、その後の三次元開孔構造の形成に有利であり得る。
【0056】
実験データに基づき、H-A溶液の相分離および架橋の誘導に適した温度として313Kを選択した。
【実施例2】
【0057】
三次元H-Aスキャフォールドの調製
H-Aの試料溶液および水を用意した。溶液はそれぞれ約10重量%または約20重量%のH-Aを含有した。水は、脱気および脱イオン化してからH-Aと混合した。
【0058】
代表的な手順において、試料H-A溶液を含むガラス製バイアル(直径10mm×高さ50mm)を313Kの水浴に5分間入れ、溶液において相分離を誘発することにより、両連続エマルジョンを形成した。
【0059】
313Kの水を含むビーカー中で、エマルジョンをγ線照射器(Gammacell 220、MDS Nordion(商標)、カナダ)に移し、線量率10kGyh-1で30分間γ線照射に供すことにより、エマルジョン中でポリマー相を架橋し、ゲルを形成した。
【0060】
架橋したゲルを凍結乾燥し、脱イオン水で、一週間毎日水を交換して洗浄し、保存のために凍結乾燥した。
【0061】
10重量%H-Aを用いて形成された試料ポリマー(スキャフォールド)は、試料Iと呼び、20重量%H-Aを用いて形成された試料ポリマー(スキャフォールド)は、試料IIと呼ぶ。
【実施例3】
【0062】
比較試料
比較の目的で、実施例2と同様に調製したH-A溶液も、約273〜約277Kの温度において、相分離無しに、実施例2に記載のとおり照射することにより架橋した。結果として得られた生成物は、均一なゲルであり、実施例2に記載のものと同様の照射後処理に供した。これらのゲルを試料IC(10重量%H-A)および試料IIC(20重量%H-A)と呼んだ。
【実施例4】
【0063】
試料スキャフォールドの特徴づけ
資料中の架橋度は、スキャフォールドの架橋された分画の重量パーセントとして表した。
【0064】
残留した可溶性ポリマーは、アセトンによる4時間のソックスレー抽出により除去した。
【0065】
凍結乾燥したスキャフォールドを、室温の水中で48時間膨張させた。この水和の過程の前後に試料の重量を測定した。試料スキャフォールドのEWCは、上述の式に従って、それらの乾燥重量および水和重量に基づき決定した。
【0066】
水和したスキャフォールドの機械的特性は、Instron(商標)Micro-Tester 5848(Instron Co.、米国マサチューセッツ州、カントン)を用いて、分速0.5mmおよび25±2℃の温度における圧縮試験により評価した。圧縮係数は、応力・歪み曲線の初期直線部分の傾きより算出した。
【0067】
試料スキャフォールド中の孔径分布は、S-CD6膨張計と共にPASCAL140水銀ポロシメータ(Thermo Finnigan、イタリア、S.p.A.)を用いて測定した。
【0068】
試料凍結乾燥H-Aスキャフォールドの断面に金でスパッタコーティングを施し、これを20kVの加速電圧で電界放射型走査電子顕微鏡(FESEM)(JEOL(商標)、JSM-7400M、日本)を用いて調べた。水和H-Aスキャフォールドの形態をレーザー共焦点蛍光顕微鏡法により調べた。凍結乾燥スキャフォールドを、リン酸緩衝食塩水(PBS)中のフルオレセインイソチオシアネート抱合型デキストラン(FITC-デキストラン)(1.0 mg ml-1)またはヨウ化プロピジウム(PI)(50μg ml-1)でそれぞれ一晩染色した。次にこれらをPBSで5回洗浄し、レーザー共焦点蛍光顕微鏡(Olympus(商標)、Fluoview300、日本)を用いて観察した。2μmのZ軸解像度で光学切片を作製し、これを用いてスキャフォールドの3次元画像スタックを得た。
【0069】
上記の検査の代表的な結果の一部は表1に要約され、図面に示されている。
【0070】
(表1)試料H-Aスキャフォールドの性質

【0071】
表1においてピーク孔径とは、孔分布中の最高ピークの位置であり、多孔性材料において最も頻繁に生じる孔径を意味する。
【0072】
脱水または再水和による試料の寸法の有意な変化は認められなかった。この安定性は、H-Aポリマーにおける広範にわたる架橋(約90重量%)によるものと予想される。
【0073】
試料IおよびIIにおける相互連結したマクロ多孔性構造の存在は、水銀圧入式ポロシメータ法および走査電子顕微鏡法(SEM)より観察された。図2は、試料IIの倍率90倍における代表的なSEM像を示す。図2の像の一部分を更に拡大したSEM像を図3(500倍)および4(15000倍)に示す。同様の相互連結マクロ多孔性の内部形態は、試料Iにおいても観察された。ナノスケールの特徴、およびマクロ孔を連結する領域の縁、尖った部分等の孔表面の構造も画像中に見えた。
【0074】
HPCスキャフォールド中に微小孔のみが形成される、いくつかの従来の手法と対照的に、疎水性に改変されたH-Aから形成される試料スキャフォールドは、相互連結性マクロ孔を有した。調査した温度の範囲にいて安定かつ不透明なコロイド系が形成されたことから示されるように、H-A試料は、HPCの相挙動の特徴も保持していた。
【0075】
図5に示すように、いずれの試料も広域かつ二峰性分布を示す孔径を有し(試料I―塗りつぶし;試料II―白抜き)、それぞれ50%から60%の相互連結多孔度を有する。いずれの試料においても観察されるように、孔径分布は二つのピークを有し、より小さな孔径側に、より高く鋭いピークが存在し、より大きな孔径側に、より低く幅広いピークが存在する。約10重量%から約20重量%までH-A濃度が増加されると、孔径分布曲線中のより高いピークは左(より小さい孔径)へ移行し、より高いピークは右(より大きい孔径)へ移行し;より高いピークは更に高くなり、より低いピークは更に低くなった。
【0076】
試料IIおよびIICの多孔性構造も特徴づけし、それらを水和状態において比較した。
【0077】
試料IIおよびIICの両方を、PBS中のFITC-デキストランで24時間かけて染色した。試料のレーザー共焦点顕微鏡像において、水和した試料I中には高多孔性ネットワークが観察された。代表的な像としては、図6を参照のこと。それに対し、図7は、試料IICの同様の像を示し、これにより非多孔性で均一な構造が明らかとなった。この結果は、相分離が相互連結マクロ孔の形成を促進したことを示す。
【0078】
水和された試料IIにおける高マクロ多孔性な構造は、ヨウ化プロピジウム(PI)を用いた別の染色研究からも確認された。PI-染色された試料IIの代表的な像を図8および9に示す。水を含む孔の大きさは、数十から数百マイクロメートルと幅広く多様であり、水で膨張した支柱の厚みは約5から約20マイクロメートルにまで及んでいた。
【実施例5】
【0079】
細胞培養および試料スキャフォールドへの播種
細胞培養のために、試料IおよびIIを直径約10mm、厚み約2mmのディスクに切り抜いた。
【0080】
NIH 3T3、HepG-2、およびMCF-7細胞(ATCC、USA)は、10%ウシ胎仔血清、100単位/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加した高グルコースダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)(Invitrogen(商標)、シンガポール)を用いて、37℃の5%CO2高湿度インキュベーター中で、それぞれ標準的な手順に従って培養した。
【0081】
肝細胞を、体重250〜300gの雄ウィスターラットよりP. O. Seglen, Methds. Cell Biol., 1976, vol. 13, p.29に記載の二段階インサイチューコラゲナーゼ灌流法を用いて採取した。トリパンブルー排除アッセイより決定された肝細胞の生存率は、≧90%であった。スキャフォールド中で培養した肝細胞を、1mg/mlウシ血清アルブミン(BSA)、10ng/ml上皮増殖因子(EGF)、0.5μg/mlインスリン、5nMデキサメタゾン、50ng/mlリノール酸、100単位/mlペニシリン、および100μg/mlストレプトマイシンを添加したウィリアムズE中に保存した。
【0082】
試料スキャフォールドディスクを、12ウェルプレート中で、線量率10kGy/hで4時間γ線照射することにより滅菌した。細胞播種は、20μlの濃縮された細胞懸濁液を各スキャフォールドに加えた後に200μlの細胞培養液を加え、各スキャフォールドあたり0.5〜1.0×106個の細胞密度で実施した。無細胞のスキャフォールドは、下記の全ての作業の対照として用いた。スキャフォールドを3時間インキューベーションし、その後各々に1mlの細胞培養液を加えた。スキャフォールド中で培養した細胞の生存率は、蛍光生/死染色により評価した。スキャフォールドは、37℃および5%CO2において、5μMカルセインAM(Molecular probe、米国)および25μg/mlのヨウ化プロピジウムと共にダルベッコ改変基本培地(DMEM)中で30分間インキューベーションした。生細胞(緑)および死細胞(赤)の画像をレーザー共焦点蛍光顕微鏡法により取得した。2μmのZ軸解像度で光学切片を作製し、これを用いてスキャフォールドの3次元画像スタックを得た。
【0083】
試料スキャフォールドに播種したNIH 3T3の増殖は、almarBlue(商標)アッセイを用いてそれらの代謝活性を観察することにより評価した。細胞が播種されたスキャフォールドおよび無細胞のスキャフォールドを、10%(v/v)almarBlue(Biosource)と共に、無フェノールレッド補足DMEM培地中で4時間インキューベーションした。各資料より、200μlの培地を96穴プレートに移し、570nmおよび600nmにおける吸光度をSunrise(商標)マイクロプレートリーダー(Tecan、スイス)を用いて測定した。各試料におけるalmarBlueの減少を計算し、細胞数が既知の二次元細胞培養液より作成した検量線に基づき細胞数に換算した。
【0084】
試料IIを細胞適合性試験用に選択した。AlamarBlueアッセイを用いて代謝活性を測定することにより、スキャフォールド中で培養したマウス線維芽細胞NIH 3T3について、詳しい細胞生存率および細胞増殖試験を行った。細胞は、生存可能のみならず、長期培養においてもよく増殖することが明らかとなった。試料IIにおける経時的細胞数を図10のグラフにプロットした。
【0085】
図11は、試料IIにおいて培養したNIH 3T3細胞の培養4週間後の蛍光顕微鏡像である。細胞をカルセインAMで染色することにより(図11において明るい領域として示されている)生細胞を標識した。図12は同様の画像であるが、細胞をPIで染色することにより(図12の明るい点として示されている)死細胞を標識した。図13は図11および12の重ね合わせ図である。
【0086】
図14および15は、試料II中で1日培養したNIH 3T3の、異なる倍率におけるSEM画像を示す。図16および17は、試料II中で5日間培養したNIH 3T3の、異なる倍率におけるSEM画像を示す。スケールバーは、図14および16においては100マイクロメートルを表し、図15および17においては10マイクロメートルを表す。
【0087】
肝細胞の尿素合成を研究するため、試料スキャフォールド中で培養した細胞を、1.0mM NH4Clを含む培地で90分間培養し、S. Ngら、Biomaterials, 2005, vol. 26, p.3163に記載されているとおり培地をUrea Nitrogen Kit(Sigma Diagnostics)を用いて分析した。Quan-iT(商標)PicoGreen dsDNA Assay Kit(Invitrogen、シンガポール)を用いて定量化したスキャフォールドに播種した細胞の数によりデータを正規化した。
【0088】
初代肝細胞は、肝臓組織工学のための主要な細胞源であり、インビトロにおいては肝機能を急速に失う傾向がある。本データは、試料スキャフォールド中で培養した初代ラット肝細胞が尿素分泌、肝臓特異的機能を一週間保持できることを明らかにした。図18は、測定結果を示す。
【0089】
図19および20は、試料IIにおいて培養した初代ラット肝細胞のアルブミン分泌および尿素合成を二次元コラーゲン単層培養と比較したものを示す。二次元コラーゲン単層培養は、従来、肝細胞の培養のために使用されてきた。スキャフォールド中で培養した初代ラット肝細胞の持続した肝臓特異的機能は、二つの被験スキャフォールドにおいて異なっていた。三次元試料IIにおいて培養した肝細胞のアルブミン分泌および尿素生成物は、二次元コラーゲン単層における培養によるものと比べて多かった。
【0090】
図21、22、23、および24は、試料II中で培養した初代ラット肝細胞の、7日間にわたって取得したSEM画像、および試料IIにおけるこれらの細胞の形態を示す。細胞は、丸く見え、細胞-細胞および細胞-マトリックス相互作用により十分支えられ、スキャフォールド中で細胞凝集塊を形成する傾向が見られた。
【0091】
蛍光生存力染色は、ヒトMCF-7乳癌細胞(MCF-7)およびヒト肝芽腫細胞(C3A)にも実施され、良好な細胞生体適合性が示された。
【0092】
図25は、三次元試料スキャフォールドにおいて2日間培養されたC3A細胞の透過画像である。C3A細胞は、スキャフォールド中で球状体を形成した。図26は、2日目におけるC3A球状体の生/死染色の蛍光画像である。図27は、1日目におけるC3A球状体のSEM画像であり、図28は、7日目におけるC3A球状体の透過画像である。図29は7日目におけるC3A球状体の生/死染色の蛍光画像である。
【0093】
試料スキャフォールドにおける-OH基の存在は、細胞接着を改善するECMタンパク質の容易な取り込みも可能にできると期待される。この方法は、他の種類のECMタンパク質にも適用できる。この期待を検証するため、1型コラーゲンを用いた。無菌条件下で、スキャフォールドをアセトンで3回洗浄した後、20mM 1,1’-カルボニルジイミダゾール(CDI)による処理を室温で一晩施した。この方法は、他の種類のECMタンパク質にも適用できることが期待される。スキャフォールドは、アセトンで5回洗浄してから、1型コラーゲン溶液(0.29 mg/ml、pH10.0)に浸した。接合は、軌道振盪装置を用いて、4℃で一晩実施した。次に、改変したスキャフォールドをPBSおよび脱イオン水で洗浄した後、凍結乾燥した。図31および33に示すように、改変したスキャフォールドにおいては、細胞の付着が優位に改善されていた。図30は、1日目における、無改変試料スキャフォールド中で培養したヒト包皮線維芽細胞の生/死染色画像を示し;図31は、1日目における、コラーゲン結合型試料スキャフォールド中で培養したヒト包皮線維芽細胞の生/死染色画像を示し;図32は、1日目における、無改変スキャフォールド中で培養したヒト臍帯静脈内皮細胞の生/死染色画像を示し;図33は、1日目における、コラーゲン結合型試料スキャフォールド中で培養したヒト臍帯静脈内皮細胞の生/死染色画像を示す。
【0094】
上に明示的に記載されていない、本明細書に記載の態様の他の特徴、有用性、および利点は、本明細書および図面から、当業者に理解される。
【0095】
当然のことながら、上記の態様は例にすぎず、限定するものではない。ここに記載の態様は、多くの形態の改変、部分の配置、操作の詳細および順番による影響を受けやすい。むしろ、本発明はその様な全ての改変を、請求項に定義されるように、その範囲内に含むことを意図するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マクロ孔を画定しかつ置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含むポリマーを含むスキャフォールドであって、
該置換基が自己架橋可能な基を含み、該部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが該自己架橋可能な基を介して架橋され、該マクロ孔の平均孔径が50マイクロメートルより大きくかつ少なくとも部分的に相互連結されている、スキャフォールド。
【請求項2】
前記ポリマーが約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有する、請求項1記載のスキャフォールド。
【請求項3】
前記ポリマーが約80%またはそれ以上の全多孔度を有する、請求項1または請求項2記載のスキャフォールド。
【請求項4】
前記マクロ孔が、50マイクロメートルよりも大きい値でピークに達する孔径分布を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項5】
前記マクロ孔が、約90マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項6】
前記マクロ孔が、約100マイクロメートルでピークに達する孔径分布を有する、請求項1〜3のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項7】
前記ポリマーが約85%の平衡含水量を有する、請求項1〜6のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項8】
前記ポリマーが、水和状態において約10〜約20kPaのヤング率を有する、請求項1〜7のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項9】
前記自己架橋可能な基が炭素-炭素不飽和二重結合を含む、請求項1〜8のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項10】
前記置換基がアリルイソシアネートを含む、請求項1〜9のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項11】
前記置換基が、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含む、請求項1〜9のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項12】
前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが約2.5未満の置換度を有する、請求項1〜11のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項13】
前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが約2.1の置換度を有する、請求項1〜11のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項14】
前記ポリマーがゲルである、請求項1〜13のいずれか一項記載のスキャフォールド。
【請求項15】
以下の工程を含む、スキャフォールドを形成する方法:
連続ポリマー相が、置換基で部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを含み、該置換基が自己架橋可能な基を含む、連続水相および該連続ポリマー相を含む両連続(bicontinuous)エマルジョンを形成する工程;
少なくとも部分的に相互連結した孔を画定するポリマーを形成するために、該部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを該自己架橋可能な基を介して架橋する工程。
【請求項16】
前記置換基がアリルイソシアネートを含む、請求項15記載の方法。
【請求項17】
前記置換基がメタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含む、請求項15記載の方法。
【請求項18】
前記孔がマクロ孔を含む、請求項15〜17のいずれか一項記載の方法。
【請求項19】
前記架橋する工程が、前記エマルジョンにγ線を照射する工程を含む、請求項15〜18のいずれか一項記載の方法。
【請求項20】
前記架橋する工程が、少なくとも約90重量%の前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースを前記エマルジョン中で架橋する工程を含む、請求項15〜19のいずれか一項記載の方法。
【請求項21】
前記ポリマーを凍結乾燥することにより前記孔から水を除去する工程を含む、請求項15〜20のいずれか一項記載の方法。
【請求項22】
前記凍結乾燥後、前記ポリマーが約50%またはそれ以上の相互連結多孔度を有し、かつ前記孔が50マイクロメートルよりも大きい平均孔径を有する、請求項21記載の方法。
【請求項23】
前記エマルジョンが、約80〜約90重量%の前記水相および約10〜約20重量%の前記ポリマー相を含む、請求項15〜22のいずれか一項記載の方法。
【請求項24】
前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが、約2.5またはそれ未満の置換度を有する、請求項15〜23のいずれか一項記載の方法。
【請求項25】
前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースが、約2.1の置換度を有する、請求項15〜24のいずれか一項記載の方法。
【請求項26】
前記ポリマーがゲルである、請求項15〜25のいずれか一項記載の方法。
【請求項27】
前記エマルジョンが、水と前記部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースとを含む溶液を熱処理に供することにより形成される、請求項15〜26のいずれか一項記載の方法。
【請求項28】
前記熱処理が、約313Kの温度における約5分間の熱処理を含む、請求項15〜27のいずれか一項記載の方法。
【請求項29】
以下の工程を含む、スキャフォールドを形成する方法:
連続ポリマー相および連続水相を含む両連続エマルジョンを形成するために、自己架橋可能な基を含むポリマー前駆体と水とを含む溶液中で相分離を誘導する工程;
少なくとも部分的に相互連結したマクロ孔を画定するポリマーを形成するために、該ポリマー前駆体を該エマルジョン中の該自己架橋可能な基を介して架橋する工程。
【請求項30】
前記ポリマー前駆体がセルロース誘導体である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記セルロース誘導体がメチルセルロース誘導体である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
前記セルロース誘導体がヒドロキシプロピルセルロース誘導体である、請求項30記載の方法。
【請求項33】
前記ヒドロキシプロピルセルロース誘導体が、アリルイソシアネートにより部分的に置換されたヒドロキシプロピルセルロースである、請求項32記載の方法。
【請求項34】
前記セルロース誘導体が、自己連結可能な基を含む置換基により部分的に置換されている、請求項30〜32のいずれか一項記載の方法。
【請求項35】
前記自己架橋可能な基が炭素-炭素不飽和二重結合を含む、請求項34記載の方法。
【請求項36】
前記置換基が、アリルイソシアネート、メタクリル酸、アクリル酸、またはグリシジルメタクリレートを含む、請求項34記載の方法。
【請求項37】
前記ポリマー前駆体が感熱性であり、かつ前記相分離を誘導する工程が前記溶液を加熱する工程を含む、請求項29〜36のいずれか一項記載の方法。
【請求項38】
前記ポリマー前駆体がpH感受性であり、かつ前記相分離を誘導する工程が前記溶液のpHを変化させる工程を含む、請求項29記載の方法。
【請求項39】
前記架橋する工程が、前記エマルジョンにγ線を照射する工程を含む、請求項29〜38のいずれか一項記載の方法。
【請求項40】
前記ポリマーがゲルである、請求項29〜39のいずれか一項記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公表番号】特表2011−505871(P2011−505871A)
【公表日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−539393(P2010−539393)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際出願番号】PCT/SG2008/000491
【国際公開番号】WO2009/078819
【国際公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(508305029)エージェンシー フォー サイエンス, テクノロジー アンド リサーチ (36)
【Fターム(参考)】