説明

センサの構造

【課題】センサの入出力端子上に電子部品を外部実装する場合において、電子部品の接続部信頼性を向上させると共に、生産性,小型軽量化等に優れたセンサ構造とする。
【解決手段】構造体の基礎となるハウジング部材に使用する樹脂材料の線膨張係数と、実装するセンサのケース部材に使用する樹脂材料の線膨張係数との関係を「ケース部材≪線膨張係数α≪ハウジング部材」と構成し、電子部品を外部実装する際には線膨張係数の小さい部品側、即ちケース部材側に一体成型されている入出力端子上に実装する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は内燃機関の吸入空気に係わる物理量計測に好適なセンサの一体化構造と、これを使用した内燃機関制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用の吸入空気に係る物理量測定技術として、例えば流量測定技術に関しては発熱抵抗体式空気流量測定装置が知られている(特許文献1参照)。これは発熱抵抗体から奪われる熱量が流入流量に対し相関関係があることを利用したものであり、エンジンの燃焼制御で必要となる質量流量を直接測定できるため特に自動車の空燃比制御用の流量計として広く使われている。
【0003】
更に、その他内燃機関用の吸入空気に係る物理量計測技術として、流量測定装置,圧力検出装置,湿度検出装置などを一体化してなる複数の計測機能を有するセンサがある。例えば、特開2008−304232号公報では、エアフローセンサ,圧力センサを一体化した例が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許3523022号公報
【特許文献2】特開2008−304232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子制御燃料噴射システムを用いた自動車が一般化し、近年では更なる高性能化,高機能化が進んでいる。この場合、エンジンルームの内部には様々なセンサや制御機器が所狭しと配置され、各種センサや制御機器、更にはそれらをコントロールするためのコントロールユニットなどを相互に接続するワイヤハーネスも複雑に入り組んだものとなる。
【0006】
これらを背景に複数のセンサや制御機器を一体化することによる部品点数の低減やエンジンルーム内部の景観向上などが望まれ、例えば流量測定装置と温度検出装置、更には半導体式圧力検出装置や湿度検出装置などをも一体化し、コネクタを共用化する方策などはその一例であり、これにより車両への部品組み付け工数の低減や、ワイヤハーネスの簡略化が可能となる。
【0007】
従来は前記の流量測定装置と温度検出装置を一体化した構造が主流であったが、前述のように今後前記圧力検出装置や湿度検出装置なども一体化されるに従い様々な技術的課題が出てくる。
【0008】
特にセンサの多機能化を推進するためには、従来型と比べて必然的に多部品で構成されることになり、実装スペースの問題や製造工程の繁雑さ、更には多部品構成による接続点の多さ、即ち接続部における信頼性等に懸念が生じる。
【0009】
例えば、流量測定装置と圧力検出装置を一体化し、且つ、前記圧力検出装置の耐電波障害性能を向上するためにチップコンデンサを外部から実装接続する場合、実装する相手側端子を保持する樹脂材料によっては、環境温度の変化に起因する樹脂の膨張収縮などによってチップコンデンサの接続端子間隔などが変位する。この結果、例えば、はんだや導電性接着剤などによるチップコンデンサと端子の接続部分が疲労し、最終的に破断に至る可能性がある。この場合、圧力検出装置は意図した耐電波障害性能に著しく欠如した状態でエンジン制御へ寄与することになり、例えば圧力検出装置からの信号をスロットル開度制御に使用する場合には、圧力検出装置の誤動作が生じうる。
【0010】
そこで、本発明の目的は、流量測定装置に対して圧力検出装置や湿度検出装置などを一体化する際に、信頼性,生産性,小型軽量化等に優れたセンサ構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題に対応するため以下の手段を講じる。
【0012】
構造体の基礎となるハウジング部材に使用する樹脂材料の線膨張係数と、実装するセンサのケース部材に使用する樹脂材料の線膨張係数との関係を「ケース部材≪線膨張係数α≪ハウジング部材」と構成し、電子部品を外部実装する際には線膨張係数の小さい部品側、即ちケース部材側に一体成型されている入出力端子上に実装する。
【0013】
これにより、周囲温度変化に伴うPPS自体の膨張収縮は非常に小さいので、電子部品で各入出力用端子部材間をブリッジするように接続しても電子部品の接続部信頼性を確保できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実装するセンサの耐電波障害性など各性能を向上するために電子部品の外部実装が可能になる。これにより長期に渡り電子部品の接続信頼性が確保できると共に、簡単な外部実装が適用できることから生産性の向上やコストの低減が達成できる。
【0015】
また、自動車用として性能や品質に優れる、空気流量や吸気圧力など様々な物理量を同時に検出可能な多機能型センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施例を示すセンサ構造図及びそのA−A断面図。
【図2】本発明の一実施例を示すセンサ構造図。
【図3】本発明の他の一実施例を示すセンサ構造図。
【図4】本発明の他の一実施例を示すセンサ構造図。
【図5】電子燃料噴射方式の内燃機関に本発明品を適用した一実施例。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の一実施例について図1を使い説明する。
【0018】
主空気通路(吸気管路又は単に吸気管ともいう)1を構成する主空気通路構成部材(吸気管路構成部材)2には、その一部にセンサの挿入口4が設けられており、発熱抵抗体式空気流量測定装置3と圧力検出装置5を一体化した多機能型センサ6を挿入口4より設置している。
【0019】
発熱抵抗体式空気流量測定装置3はハウジング構成部材7の他に、ベース部材8,電子回路基板9を保護するためのカバー部材10,空気流量を計測するための発熱抵抗体11,空気流量計測に使用する温度補償用抵抗体12,車両側で使用する吸入空気温度センサ13,発熱抵抗体11や温度補償用抵抗体12等を内装する副空気通路14,副空気通路14を構成するための副空気通路構成部材15,主空気通路1と外部とをシールするためのシール材16等から構成されている。吸入空気流量や吸入空気温度の検知を行う発熱抵抗体11,温度補償用抵抗体12,吸入空気温度センサ13はボンディング部材17を介して電子回路基板9と接続され、更に電子回路基板9は同様にボンディング部材17を介してコネクタ端子18と電気的に接続され、コネクタ25を介して外部との入出力を行う。
【0020】
発熱抵抗体式空気流量測定装置3のハウジング構成部材7上に搭載される圧力検出装置5は、圧力検出部と電子回路を備えた圧力検出チップ19と入出力用端子部材20、それらを電気的に接続するボンディング部材17とをケース部材21に一体化することで構成し、入出力用端子部材20はケース部材21から突出するように設けられており、コネクタ端子18と同列に配置される圧力検出装置用コネクタターミナル24と溶接等で電気的に接続され、コネクタ25を介して外部との入出力を行う。
【0021】
また圧力検出装置5とハウジング構成部材7の固定は注型樹脂26をハウジング構成部材7に設けたキャビティ内へ流し込むことで完了する。主空気通路1内部の圧力は、挿入口4,圧力導入孔27を介し圧力検出チップ19が設置される位置まで連通させることで計測を可能としている。
【0022】
ここで、発熱抵抗体式空気流量測定装置3のハウジング構成部材7は、発熱抵抗体式空気流量測定装置3に圧力検出装置5を一体化する場合、構造体として自動車の吸気系で使用される際に要求される温度環境,機械的な振動環境,衝撃環境などに対する堅牢性を確保することが必須となる。そのため、必要な機械的強度を持ちながらも延性やじん性に優れ、更には温度変化や湿度の変化に対して劣化し難い樹脂材料が適しており、例えば繊維ガラスなどで強化したPBT樹脂を使用し成型する。
【0023】
また、圧力検出装置5のケース部材21は、PPSなどの線膨張係数の小さい材料を選定する。すなわち、線膨張係数は「ケース部材21≪線膨張係数α≪ハウジング構成部材7」の関係を持つ。
【0024】
ここで、圧力検出装置5は耐電波障害性能向上を目的にチップコンデンサなどの電子部品22を外部から実装する必要がある。本実施例では、この電子部品22をハンダや導電性接着剤などの接続用ペースト部材23を介し、入出力用端子部材20上、即ち圧力検出装置5側に実装している。言い換えると、電子部品22が線膨張係数の小さな樹脂でパッケージされた部品側に搭載されていることを特徴とした構成である。
【0025】
この構成により、ケース部材21が線膨張係数の小さな樹脂材料で構成されているため、周囲温度が変化した場合においてもケース部材21は膨張収縮が起き難く、故に入出力用端子部材20上において端子間距離の変動が最小限に抑えられ、電子部品で各入出力用端子部材間をブリッジするように接続しても接続部信頼性を確保できる。よってこの位置に電子部品22を実装することで、電子部品22と入出力用端子部材20間の接続部信頼性を向上することができる。
【0026】
もしPBT側に電子部品を搭載すれば、PBT樹脂の熱膨張収縮と共に一体成型されているコネクタ端子部材も変位するので、電子部品の接続部は繰り返し応力による影響が生じる。
【0027】
図2は圧力検出装置5の部分断面図である。
【0028】
圧力検出装置5とハウジング構成部材7の固定は注型樹脂26をハウジング構成部材7に設けたキャビティ内へ流し込むことで完了するが、更に入出力用端子部材20上に接続用ペースト部材23を介して接続された電子部品22の固定をより確実にし、自動車のエンジンルーム内部で想定される環境下においても十分な電子部品22の接続信頼性を確保する必要がある。この場合、電子部品22と入出力用端子部材20全体を注型樹脂26で包み込むと効果的である。
【0029】
電子部品22と入出力用端子部材20の周囲全体に注型樹脂26を完全に行き渡らせるためには注型樹脂26の流れ込みや廻り込みを良くする必要があり、電子部品22が搭載される領域で且つ入出力用端子部材20の下側に構造物を配置しないようにし、空間部28を設けた。この空間部28は入出力用端子部材20の持つ端子厚みの2倍以上あることが好ましい。この構成により電子部品22と入出力用端子部材20の周囲全体を1種類の注型樹脂26で包むことができ、この結果電子部品22の接続部信頼性を向上することができる。
【0030】
図3は電子部品22の実装方法に関する他の実施例の一例を示した図である。
【0031】
圧力検出装置5の耐電波障害性能向上のためにコンデンサ等の電子部品を入出力用端子部材20の上に2つ以上実装する場合、電子部品22を千鳥状に搭載する。1つの端子上に2部品の電極を接続するようなケースにおいては、接続用ペースト部材23同士が接触することを避けたほうが良い。接続用ペースト部材23同士が接触すると互いに引っ張り合い、ペーストを熱硬化した後に残留応力を原因としたクラックなど接続部の不具合を引き起こす要因となる。電子部品22を千鳥状に搭載することで、隣り合う接続用ペースト部材23間の距離を十分に確保することができる。
【0032】
図4は電子部品22の実装方法に関する他の実施例の一例を示した図である。
【0033】
圧力検出装置5の耐電波障害性能向上のためにコンデンサ等の電子部品を入出力用端子部材20上に実装する場合、電子部品22を圧力検出装置5のケース部材21に近い位置とする。ケース部材21はPPSのような線膨張係数の小さな樹脂材料で構成されるため、周囲温度が変化した場合でもケース部材21は膨張収縮が起き難く、故に入出力用端子部材20上において端子間距離の変動はケース部材21に最も近い部分で最小となる。この位置に電子部品22を実装することで、接続部の信頼性を向上することができる。
【0034】
また、溶接部29を電子部品22から極力遠い位置に設けると良い。入出力用端子部材20の幅がWである場合、電子部品22と溶接部29間の距離を2W以上確保する。このように、電子部品22と溶接部29との距離を確保すると、溶接時、或いは、溶接後に発生する入出力用端子部材20に加わる応力を緩和させ、電子部品22の接続部信頼性の向上に効果がある。
【0035】
最後に図5を使い電子燃料噴射方式の内燃機関に多機能型センサ6を適用した一実施例を示す。
【0036】
エアクリーナ50から吸入された吸入空気51は、多機能型センサ6が挿入される主空気通路構成部材2,吸入ダクト52,スロットルボディ53及び燃料が供給されるインジェクタ54を備えたインテークマニホールド55を経て、エンジンシリンダ56に吸入される。一方、エンジンシリンダ56で発生したガス57は排気マニホールド58を経て排出される。
【0037】
多機能型センサ6から出力される空気流量信号,湿度信号,圧力信号,温度信号、そしてスロットル角度センサ59から出力されるスロットルバルブ角度信号,排気マニホールド58に設けられた酸素濃度計60から出力される酸素濃度信号及び、エンジン回転速度計61から出力されるエンジン回転速度信号等、これらを入力するコントロールユニット62はこれらの信号を逐次演算して最適な燃料噴射量や最適な出力トルクを求め、その値を使って前記インジェクタ54やスロットルバルブ63を制御する。
【符号の説明】
【0038】
1 主空気通路
2 主空気通路構成部材
3 発熱抵抗体式空気流量測定装置
4 挿入口
5 圧力検出装置
6 多機能型センサ
7 ハウジング構成部材
8 ベース部材
9 電子回路基板
10 カバー部材
11 発熱抵抗体
12 温度補償用抵抗体
13 吸入空気温度センサ
14 副空気通路
15 副空気通路構成部材
16 シール材
17 ボンディング部材
18 コネクタ端子
19 圧力検出チップ
20 入出力用端子部材
21 ケース部材
22 電子部品
23 接続用ペースト部材
24 圧力検出装置用コネクタターミナル
25 コネクタ
26 注型樹脂
27 圧力導入孔
28 空間部
29 溶接部
50 エアクリーナ
51 吸入空気
52 吸入ダクト
53 スロットルボディ
54 インジェクタ
55 インテークマニホールド
56 エンジンシリンダ
57 ガス
58 排気マニホールド
59 スロットル角度センサ
60 酸素濃度計
61 エンジン回転速度計
62 コントロールユニット
63 スロットルバルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部との入出力を行うコネクタを備えた樹脂製のハウジング部材とを有し、第一の物理量を検出するセンシング部材と第二の物理量を検出するセンシング部材とが前記ハウジング部材に搭載されるセンサの構造において、
前記第二の物理量を検出するセンシング部材は、前記コネクタと電気的に接続される複数の入出力用端子が樹脂製のケース部材から突出するように前記ケース部材と一体で構成されており、
前記ケース部材を構成する樹脂の線膨張係数が、前記ハウジング部材を構成する樹脂の線膨張係数よりも小さく、
チップ状の電子部品が前記ケース部材の前記複数の入出力用端子の端子間で橋渡し状に電気的に接続されることを特徴とするセンサの構造。
【請求項2】
請求項1に記載のセンサの構造において、
前記入出力用端子と前記ハウジング部材との間には、前記複数の入出力用端子の少なくとも前記電子部品が電気的に接続される長手方向の範囲で空間が設けられており、充填部材で前記入出力用端子と前記電子部品全体を覆い、且つ、前記ハウジング部材と前記第二の物理量を検出するセンシング部材を一体で固定したことを特徴とするセンサの構造。
【請求項3】
請求項1または2に記載のセンサの構造において、
前記第一の物理量は空気流量であり、前記第二の物理量は圧力であることを特徴とするセンサの構造。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載のセンサの構造において、
前記電子部品が2つ以上前記入出力用端子と電気的に接続され、且つ、2つ以上の前記電子部品が千鳥状に実装されていることを特徴とするセンサの構造。
【請求項5】
請求項1乃至4の何れか1項に記載のセンサの構造において、
前記電子部品は、前記入出力端子が前記ケース部材から突出される近傍に実装されていることを特徴とするセンサの構造。
【請求項6】
請求項5に記載のセンサの構造において、
前記入出力用端子の一つの端子幅をWとすると、前記入出力用端子と前記コネクタとの接合点から前記電子部品までの距離が2W以上であることを特徴とするセンサの構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52809(P2012−52809A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−193074(P2010−193074)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】