説明

センサーチップ

【課題】光学的技法を用いて生体内において分析対象物を測定するか又はモニターするために使用するセンサーチップにおいて、分析対象物質を長期にわたり、精度よくモニターできる高い耐久性を有するセンサーチップを提供することを目的とする。
【解決手段】固体支持体13上に突起形状11を形成することにより、センサー表面と生体組織、更にはセンサーチップ10を生体内に埋め込む際に使用される部材との接触を無くすことができることから、センサーチップの耐久性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学的技法を用いて生体内において分析対象物を測定するか又はモニターするために使用するセンサーチップに関するものである。
【0002】
該センサーチップは、分析対象物を長期にわたり、精度よく測定、またはモニターする必要があるために、高い耐久性能が求められる場合に使用するのに特に適している。
【背景技術】
【0003】
糖尿病の管理を行う上で、血液中のグルコースを定期的に測定することは、正確なインシュリン投与を確保するために必須である。更には、糖尿病患者を長期にわたって治療看護するに際しては、血中グルコース濃度をより良好に管理することによって、往々にして糖尿病に関連することが多い網膜症、循環系疾患及びその他の退行性疾病の発症を、仮に防止はできないにしてもこれを遅延させることが出来る。即ち、血中グルコース濃度を信頼性が高く、しかも正確に自己モニターすることに対する、糖尿病患者からの要望が強い。
【0004】
現在のところ、血中グルコースは、市販の発色試験片又は電気化学的バイオセンサー(例えば酵素電極など)を用いて、糖尿病患者自らがモニターしているが、これら両者とも、測定を行う度に、適量の血液をランセットを用いて、採取する必要がある。糖尿病患者の多くは、一日当り二回血中グルコースの濃度を測定している。ただし、アメリカ合衆国国立健康研究所は、血中グルコース測定は、一日当り少なくとも四回行うことを推奨しており、かかる推奨は、アメリカ糖尿病学会によって支持されている。糖尿病患者にとって、これだけ高頻度の採血は、身体的苦痛と共に、経済的にも大きな負担となっている。そのため、糖尿病患者の多くは、血液採取を伴わない、より優れた長期間にわたるグルコースモニターリングシステムを求めている。
【0005】
当該患者から採血することを必要としないグルコース測定方法については近年数多くの提案がなされている。例えば、針又はカテーテルを酵素バイオセンサー電極として用い、これを血管中や経皮に挿入するようにした装置が報告されている(非特許文献1、特許文献1)。
【0006】
しかし、該センサーは、針又はカテーテルを血管内や、経皮に挿入し続けることになり、感染危険性がある。また患者にとっても常に傷がある状態となり、痛みを伴うと共に不快でもある。従って継続的な使用には適していない。第二に、この方式のセンサー、センサー自体が、針又はカテーテルの先端部を有しているために、患者の循環系内に血栓を剥離・投入する原因となる可能性があり、極めて深刻な危険性を及ぼす可能性がある。
【0007】
光学的手段により血中の低分子量化合物をin-situでモニターするための装置についても、既に報告されている(特許文献2、非特許文献2)。これらの装置は、血管内に挿入するか又は経皮に設置するよう設計されており、外部光源及び外部検出器とのファイバーによる光学的連結を必要とする。この場合にもやはり、装置を血管内に載置するため、血栓を形成する可能性があり、また感染の危険性を伴うことになる。
【0008】
より侵襲性の少ない、グルコースモニターリングとして、生体内に埋め込まれたセンサーチップを用いて、例えば表面増強ラマンや、他の表面励起増感分光法を利用した方法が提案されている。(非特許文献3)。
【0009】
このようなアプローチは、センサーチップを完全に生体内に埋め込むことで、測定したいときに外部から、光を照射するだけで、その都度の痛みを伴うことなく、分析対象物を測定、またはモニターすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2009−519106号公報
【特許文献2】米国特許第4344438号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】E.Wilkins,P.Atanasov, Med. Eng. Pys.(1966)18:273−288
【非特許文献2】D.L.Mansouri,J.S.Schultz,Anal. Chim. Acta.(1993) 280:pp21−30
【非特許文献3】J.M.Yuen, N.C.Shah et.al.,Anal.Chem.(2010)82:8382-8385
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前記従来の構成では、センサーチップ表面上に形成された表面プラズモン波を誘起しうる金属層と固体基材との密着力が弱く、また金属層上に形成された機能性薄膜が非常に脆いために、センサーチップを生体内に埋め込む際には、センサー表面に接触しないよう細心の注意が必要であり、更に生体内へ埋め込んだ後も、生体組織との接触により、センサー表面上の金属微粒子が剥離することによるセンサーチップの破損、及び機能性薄膜への傷つきが発生するという課題を有する。
【0013】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、分析対象物質を長期にわたり、精度よくモニターできる高い耐久性を有するセンサーチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記従来の課題を解決するために、本発明のセンサーチップは、固体支持体上に表面プラズモン波を誘起しうる金属層が形成されたセンサーチップであって、前記センサーチップ表面に突起形状を有する。
【0015】
前記突起形状のアスペクト比が0.4以上5.2以下であり、前記突起形状の高さが5μm以上、150μm以下であることが好ましい。
【0016】
前記突起形状が周期的に第一の方向に形成、または周期的に第一の方向と第二の方向に形成されていることが好ましく、更には周期的に形成された柱状形状であることが好ましい。
【0017】
前記突起形状が前記固体支持体と同一の素材であることが好ましい。
【0018】
前記固体支持体がシリコン系化合物であることが好ましく、前記固体支持体の表面が生体適合性材料で覆われていることが好ましい。
【0019】
前記金属層が、金であることが好ましい。
【0020】
本構成によって、センサーチップの表面と、生体組織やセンサーを埋め込む際に使用される部材との接触を無くすことができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のセンサーチップによれば、センサーチップを生体内へ埋め込む際、更には埋め込み後においても、生体組織とセンサー表面が接触することが無いために、センサー表面の破損、及び傷付きリスクが無く、生体内においても長期にわたりセンサーチップの機能を保持できる高い耐久性能を得ること出来る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態におけるセンサーチップの断面図
【図2】本発明の実施の形態におけるセンサーチップの平面図
【図3】本発明の実施の形態における固体支持体上への突起形状の製造方法を示す工程図
【図4】本発明の実施の形態における突起形状を有する固体支持体上への表面プラズモン波を誘起しうる金属層の製造方法を示す工程図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態におけるセンサーチップの構成について、図面を参照しながら説明する。
【0024】
図1は本発明の実施の形態におけるセンサーチップ10の断面図である。図1において、本実施の形態におけるセンサーチップの固体支持体13は、シリコン基板、ガラス基板、セラミック基板、プラスチックフィルムが挙げられる。
【0025】
固体支持体13上には、突起形状11が設けられている。固体支持体13の表面上の突起形状11は、固体支持体13と異なる素材でも良いが、製造上同一の素材が好ましい。
【0026】
固体支持体13と突起形状11が同一素材の場合、突起形状11の形成方法としては、例えば、フォトリソグラフィー法とエッチング法とを組み合わせて行うことができる。
【0027】
固体支持体13上への突起形状の形成方法の一例を、図を用いて説明する。図3に示したように、まず固体支持体上に、スピンコート法などを用いレジスト膜31を成膜する(図3(a))。このレジスト膜を選択的に露光(図3(b))、現像し、所定の形状を有するレジストパターン32を作成する(図3(c))。その後、レジスト膜の存在しない固体支持体部分を所定の深さになるようにエッチングすることで、図3(d)に示すような突起形状11が形成できる。
【0028】
なお、エッチング法には、例えば、プラズマエッチング、リアクティブイオンエッチング、ビームエッチング、光アシストエッチング等の物理的エッチング法、ウェットエッチング等の化学的エッチング法等のうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0029】
また、固体支持体がプラスチックフィルムの場合は、モールド法により作製した微細な凹凸を有する支持体を用いた作製方法も可能である。これにより、微細な突起形状パターンを精密に形成することができる。
【0030】
固体支持体13厚み(W4)は、特に限定されなく、生体内への埋め込み場所等を考慮して、適宜選択される。具体的に、固体支持体の厚みは、5μm〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは100μm〜500μmの範囲である。固体支持体の厚みが5μm以下であれば、固体支持体13が破損または変形する恐れがある。また、固体支持体の厚みが1000μm以上である場合は生体内へ埋め込む際、人体への負荷が大きくなる。
【0031】
固体支持体13が生体適合性材料で無い場合は、固体支持体13表面に生体適合性ポリマーをコーティングすることができる。生体適合性ポリマーとしては、既知の材料を用いることができ、生体内へ埋め込むことを考慮して適宜選択される。例えば、ポリウレタン、シリコン樹脂、PMMA、パリレンなどがあげられる。
【0032】
固体支持体への生体適合性ポリマーのコーティング方法としては、スピンコート法、インクジェット法、ディッピング法、真空重合法など、固体支持体13上へ形成される突起形状に対し、均一にコーティングできる手法を適宜選択することが出来る。
【0033】
本発明の突起形状のアスペクト比は、0.4以上、5.2以下であることが好ましい。0.4以下では、下記に示す固体支持体上の凹部に形成した金属層12と生体組織が接触するために、金属層の剥離または損傷が発生する。突起形状のアスペクト比が5.2以上では、突起形状のエッジ部分の破損や折損の危険性がある。
【0034】
ここで、アスペクト比とは、突起形状が線状である場合は、線状に形成された突起形状を基材に対し垂直に、かつ該線状の突起形状に対し直角に切断した断面形状において、突起形状の高さ(W1)を凹部の幅(W2)で除した値を示す。該突起形状の断面形状が複数種類存在する場合は、最大値とする。
【0035】
突起形状が柱状の場合は、柱状の突起パターンに対し垂直に、且つ該突起パターンに対して、直角に切断した断面形状を用い、前記と同じ方法でアスペクト比を算出する。同様に突起形状のパターンの断面形状が複数種類存在する場合は、最大値とする。
【0036】
尚、図1中の突起形状の高さ(W1)は、5μm〜150μmの範囲であることが好ましく、凹部の幅W2は、0.9μm〜375μmの範囲内が好ましい。
【0037】
さらに、突起形状の幅W3は、特に制限されないが、加工精度、突起形状の折損、及び表面プラズモン波を誘起しうる金属層12を形成する面積を考慮すると、2μm〜1000μmの範囲であることが好ましい。
【0038】
固体支持体13の凹部には、表面プラズモン波を誘起しうる金属層12が形成されている。
【0039】
固体支持体13上への表面プラズモン波を誘起しうる金属層12の形成方法の一例を、図を用いて説明する。図4に示したように、まず突起形状を有する固体支持体13上に、金属薄膜41をスパッタ法、あるいは蒸着法により蒸着する。その上に電子線レジスト42をスピンコート法などにより成膜する(図4(a))。次いで、電子描画装置で露光し、現像後レジストパターン43を得る(図4(b))。その後、不要な金属薄膜をエッチングし、レジストを除去して、任意の形状を有する金属層12を形成することが出来る(図4(c))。
【0040】
前述の電子線描画装置の他、集束イオンビーム加工装置、X線露光装置、EUV露光装置によるパターニング法で金属パターン層を成形することもできる。
【0041】
図2は本発明のセンサーチップ10の一例を示す平面図である。図2(a)は固体支持体上に形成され、周期的に第一の方向に形成された突起形状21と、各突起形状パターンの凹部は表面プラズモン波を誘起しうる金属層12を有するセンサーチップである。
【0042】
図2(b)は固体支持体上に形成され、第一の方向に形成された突起形状21、及び第二の方向に形成された突起形状22を有するセンサーチップであり、図2(c)は固体支持体上に周期的に形成された、柱状の突起形状23を示す。柱状の突起形状23は、その形状は、円柱でも、四角柱でも六角柱でもよく、特に制限されない。また、柱状の突起形状の配列方法は、正方配列でも、三角配列、六角配列でもよく、規則的に配列していれば特に制限は無い。
【0043】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
(実施例)
525μm厚のシリコンウェハー上に、スピンコート法によりレジスト材を塗布して膜厚1μmのレジスト膜を形成し、このレジスト膜をプリベークした後に当該レジスト膜に選択的な露光、現像、およびポストベークを施して所定形状のレジストパターンを形成した。その後、該レジストパターンが形成されていない部分のシリコンウェハーを選択的にドライエッチングし、その後上記レジストパターンを除去した。その結果、シリコンウェハー上に表1に示す突起形状の高さW1、及び凹部の幅W2を有する第一の方向に突起形状を有する固体支持体を作製した。尚、突起形状の幅W3は20μmであった。
【0045】
次に、突起形状を有する固体支持体上に、膜厚30μmの金薄膜をスパッタ法により成膜した。金薄膜上に電子線レジスト(PMMA)をスピンコートし、電子線描画装置によりパターニングし、レジストをマスクとして、表面プラズモン波を誘起しうる金層を形成した。
【0046】
これらセンサーチップ上に、ヒト正常表皮細胞を重層培養したヒト3次元培養表皮(LabCyte EPI−MODEL:株式会社ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング社製)を設置し、2時間放置した後、0.3kg/cm2の加重により、センサー表面へ引っかき試験を実施した。そして、これらセンサー表面の凹部の金薄膜パターンの剥離、破損、及び傷付きを、顕微鏡下で確認した。金薄膜パターンの剥離、または損傷が無い場合を○、金薄膜パターンに剥離、または損傷等による変化が確認された場合を×として評価した。
【0047】
【表1】

【0048】
表1から明らかなように、実施例のセンサーチップは生体組織による接触等が無いために、表面プラズモン波を誘起しうる金膜層は変化することは無かった。これに対し、比較例に示すように、アスペクト比が0.4以下においては、金属薄膜の剥離、または損傷が確認された。
【0049】
また、固体支持体上に第一の方向と第二の方向に突起形状を有するセンサーチップと、固体支持体上にφ30μmの円柱状の突起形状を有するセンサーチップを作製し、これら固体支持体上に該表面プラズモン波を誘起しうる金薄膜層を形成し、同様の試験を試みた結果、表1と一致する結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明にかかるセンサーチップは、その表面に突起形状を有するために、生体組織等と接触することがなく、高い耐久特性を維持できるセンサーチップとして有用である。また、センサー面の保護を可能にするため、比較的破損しやすい各種センサーチップのハンドリング性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0051】
10 センサーチップ
11 突起形状
12 金属層
13 固体支持体
W1 突起形状の高さ
W2 凹部の幅
W3 突起形状の幅
21 第一の方向に形成された突起形状
22 第二の方向に形成された突起形状
23 柱状の突起形状
31 レジスト膜
32 レジストパターン
41 金属薄膜
42 電子線レジスト
43 電子線レジストパターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体支持体上に表面プラズモン波を誘起しうる金属層が形成されたセンサーチップであって、前記センサーチップ表面に突起形状を有するセンサーチップ。
【請求項2】
前記突起形状のアスペクト比が0.4以上、5.2以下であり、前記突起形状の高さが5μm以上、150μm以下である請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項3】
前記突起形状が周期的に第一の方向に形成された請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項4】
前記突起形状が周期的に第一の方向と第二の方向に形成された請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項5】
前記突起形状が周期的に形成された柱状であることを特徴とする請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項6】
前記突起形状が前記固体支持体と同一の素材からなる請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項7】
前記固体支持体がシリコン系化合物からなる請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項8】
前記固体支持体の表面が生体適合性材料で覆われていることを特徴とする請求項1に記載のセンサーチップ。
【請求項9】
前記金属層が、金を含むことを特徴とする請求項1に記載のセンサーチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−88298(P2013−88298A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229360(P2011−229360)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】