センサ信号伝送システムおよびセンサ信号伝送方法
【課題】複数のセンサの検出データをデータ収集装置に光信号を用いて空間伝送する場合に、見通し外の拡散反射通信路を利用する場合にも高精度に伝送することが可能なセンサ信号伝送システムおよびセンサ信号伝送方法を提供する。
【解決手段】各センサ装置3によって検出された検出データは、データ収集装置2に送信する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の出力時刻の時間差に変換される。このとき、複数のセンサ装置3から出力される光パルス列Scは、互いに異なる拡散符号にそれぞれ対応しているので、複数の検出データを相互に干渉することなく送信することができる。
【解決手段】各センサ装置3によって検出された検出データは、データ収集装置2に送信する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の出力時刻の時間差に変換される。このとき、複数のセンサ装置3から出力される光パルス列Scは、互いに異なる拡散符号にそれぞれ対応しているので、複数の検出データを相互に干渉することなく送信することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの測定値を光波を利用してデータ処理装置に空間伝送する信号伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
センサの測定値をコントローラへ伝送する場合に、信号光を用いて空間伝送する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特開平6−307957号公報(特許文献1)に開示される技術では、センサが圧力や加速度などの機械量を静電容量の変化として検出する。検出された静電容量の変化は、周波数情報あるいはパルス幅情報に変換され、変換された周波数情報もくしはパルス幅情報が受信側に光信号などで非接触伝送される。複数の静電容量式機械量センサを有している場合には、各静電容量式機械量センサが使用する周波数帯域は、互いに重複しないように異ならせる。
【0004】
また、特開平2−16824号公報(特許文献2)は、複数個のセンサを有している工作機械用の信号伝送システムを開示する。各センサには、1個ずつ信号送信手段が設けられる。信号送信手段は、各信号送信手段ごとに異なる周波数の搬送波信号を発生する搬送波信号発生手段と、搬送波信号の位相を変調することによりデータを搬送波信号で変調するための位相変調手段とを含む。信号伝送手段は、信号を光学的に(たとえば赤外放射を用いて)伝送する。
【0005】
また、実開昭61−168738号公報(特許文献3)は、移動自在な1または複数台の光送信器と、光送信器から送信される光信号を受信する受信装置とからなる光空間伝送装置を開示する。受信装置は複数の受信ヘッドを含み、複数の受信ヘッドの少なくとも1つが送信される光信号を受信し得る位置に配置される。
【0006】
上述の従来技術は、光伝送路として見通し内通信路を用いている。これに対して、室内の天井などの反射を利用する拡散反射通信路による赤外線通信方式が、無線LAN(ローカルエリアネットワーク:Local Area Network)への適用を目的として検討されている。
【0007】
たとえば、佐藤章博、他3名(非特許文献1:「拡散反射通信路を利用した室内赤外線無線通信における送信パルス波形の検討」、電子情報通信学会論文誌B−I、1998年12月、第J81−B−I巻、第12号、pp.861−871)は、拡散反射通信路を利用した室内赤外線通信ではマルチパスによる遅延歪みが生じることを数値計算によって示している。遅延歪みによる符号間干渉の影響によってビット誤り率特性が劣化する。
【0008】
また、松尾綾子、他4名(非特許文献2:「拡散反射通信路におけるOOK CDMA室内赤外線無線通信方式の特性解析」、電子情報通信学会論文誌B、2000年7月、第J83−B巻、第7号、pp.970−979)は、符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)による室内赤外線無線通信方式の特性を、数値解析により評価している。マルチパスチャネルでは、符号間干渉の影響による特性劣化を補うために、平均送信信号光パワーを増加させる必要があることが指摘されている。
【特許文献1】特開平6−307957号公報
【特許文献2】特開平2−16824号公報
【特許文献3】実開昭61−168738号公報
【非特許文献1】佐藤章博、他3名、「拡散反射通信路を利用した室内赤外線無線通信における送信パルス波形の検討」、電子情報通信学会論文誌B−I、1998年12月、第J81−B−I巻、第12号、pp.861−871
【非特許文献2】松尾綾子、他4名、「拡散反射通信路におけるOOK CDMA室内赤外線無線通信方式の特性解析」、電子情報通信学会論文誌B、2000年7月、第J83−B巻、第7号、pp.970−979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
たとえば、多数のモジュール類が実装された精密電子機器では、電子機器の健全性をチェックするために筐体内の温度が複数の温度センサによって連続的にモニターされることがある。この場合、センサケーブル(コネクタ付きハーネスなど)を介して複数の温度センサとデータ収集処理装置とを接続すると、次のような不適切な事態が生じる。
【0010】
まず、電子機器をさらに小型化する場合に、コネクタ寸法とハーネス束径などが実装スペースに制約を与えることになる。また、電子機器の組立てや改修時に、センサケーブルの取扱いに手間がかかることになる。さらに、電子機器各部に張巡らされたセンサケーブルは、EMI(電磁波障害:Electromagnetic Interference)による計測誤差の原因となるほか、他機器への電磁干渉経路となる。EMIを抑制するために可とう性の低い電磁シールド強化ケーブルを用いると、ますます取扱いに手間がかかる。
【0011】
そこで、上述の従来技術のように非接触タイプの光空間伝送を用いて、温度センサの測定値をデータ収集処理装置へ伝送する方法が考えられる。しかし、多数のコンポーネントが筐体内部に高密実装される最新の小形電子機器の場合、分散配置された複数のセンサとデータ収集処理器との間の見通し条件が悪く、直接光によるデータ伝送は困難である。
【0012】
また、見通し外の拡散反射通信路を用いて、センサの測定値を光空間伝送する方法も考えられる。しかし、公知の室内赤外線通信の技術が、必ずしもあらゆる光伝送路環境に適用できるとは言えない。拡散反射通信路を用いたデータ伝送では、拡散反射による光強度の減衰やマルチチャネルによる信号波形歪みの影響を考慮する必要があるからである。
【0013】
本発明の目的は、複数のセンサの検出データをデータ収集装置に光信号を用いて空間伝送する場合に、見通し外の拡散反射通信路を利用する場合にも高精度に伝送することが可能な信号伝送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は要約すれば、センサ装置とデータ処理装置とを備えるセンサ信号伝送システムである。センサ装置は、センサ部と光信号出力部とを含む。センサ部は、センサ素子を有し、センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換し、第1のタイミングと第1のタイミングから第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとを指定するタイミング信号を出力する。光信号出力部は、タイミング信号を受け、第1、第2のタイミングをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力する。
【0015】
また、データ収集装置は、検出データを収集するために設けられ、受光部と、相関値演算部と、データ処理部とを含む。受光部は、受光強度を検知する。相関値演算部は、現時刻より拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から現時刻までの受光強度と拡散符号との相関値を時々刻々求める。データ処理部は、第1、第2の光パルス列の受光によって相関値が予め定められた閾値を越えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定し、第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差をセンサ素子の検出データに逆変換する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサ装置によって検出された検出データが、データ収集装置に送信される第1、第2の光パルス列の出力時刻の時間差に変換される。したがって、見通し外の拡散反射通信路を用いた光空間伝送であっても、マルチパス伝送に起因する遅延歪みの影響を受け難く、高精度のデータ伝送が可能になる。さらに、第1、第2の光パルス列は拡散符号に対応しているので、複数のセンサ装置が設けられている場合でも、互いに異なる拡散符号を各センサ装置に割当てることによって、相互干渉なく、複数の検出データを送信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10が適用される電子機器システム1の構成を概略的に示す断面図である。
【0019】
図1を参照して、電子機器システムに1は、筐体5内と、筐体5内に設置された複数のコンポーネント(部品)6、温度計測用の複数のセンサ装置3(3.1,3.2,3.3)、およびセンサ装置3で検出された検出データ(測温抵抗体の抵抗値)を収集するためのデータ収集装置2とを含む。
【0020】
各センサ装置3は、発光素子32を含み、各センサ装置3で検出した検出データを信号光Scを用いて伝送する。信号光Scとして、赤外光または可視光などを用いることができる。データ収集装置2は、受光素子211を含み、各センサ装置3からの信号光Scを受光する。図1では、このように光を使って空間伝送するので、ケーブル伝送の場合に比べて、ケーブル敷設に必要なスペースを削減できる。
【0021】
ここで、図1のようにコンポーネント6が高密度実装された電子機器システム1の場合、センサ装置3からデータ収集装置2に向かう信号光Scは、筐体5の内部のコンポーネント6が障壁となって、直接的にデータ収集装置2の受光素子211には到達しない。筐体5およびコンポーネント6の表面での反射・散乱により強度が減弱された信号光Scが、データ収集装置2の受光素子211に到達する主要成分となる。
【0022】
このように、信号光Scが反射経路をとるので、直接光に比べて、散乱および伝送距離の増加による信号強度の減衰が著しい。この対策として、発光素子32を大きくして信号光の出力強度を増大させることは、電子機器システム1の小型化・高密度化の要請のために限界がある。
【0023】
また、筐体5およびコンポーネント6の表面の複数箇所で反射した光が受光素子211に到達するので、信号光Scの伝送経路は、光路長が異なる複数の経路(マルチパス)になる。この場合、受光素子211の受光面積は光の波長よりも大きいので、空間ダイバシティの効果によってフェージングは生じない。しかしながら、マルチパス伝送によって信号波形に遅延歪みが生じ、この遅延歪みによって信号伝送特性が劣化する可能性がある。
【0024】
また、自由空間の光伝送であるので、筐体5が完全密閉されない環境では、照明や自然光による外部雑音が重畳する。このため信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)の改善にも限界がある。
【0025】
本発明によるセンサ信号伝送システムは、このような光拡散反射通信路が本質的に有する制約の中で、複数のセンサ装置3の検出データをデータ収集装置2に高精度(0.01%程度の誤差)で伝送する方法を提供するものである。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0027】
図2を参照して、センサ信号伝送システム10は、複数のセンサ装置3とデータ収集装置2とを含む。図2では、複数のセンサ装置3を代表して1つのセンサ装置3が図示されている。
【0028】
センサ装置3は、センサ素子341を有するセンサ部34と、発光素子32を有する光信号出力部33とを含む。センサ素子341は、たとえば、測温抵抗体などの温度センサである。測温抵抗体は温度に応じて抵抗値が変化する。センサ部34は、センサ素子341の抵抗値を検出データとして検出する。センサ部34は、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する。そして、センサ部34は、第1、第2のタイミングを指定するタイミング信号Wtを光信号出力部33に出力する。
【0029】
図3は、タイミング信号Wtの一例を示す図である。図3の横軸は経過時間を示し、縦軸はタイミング信号Wtの信号強度を示す。
【0030】
図3を参照して、タイミング信号Wtは、第1のタイミングを指定する第1のパルスP1sendと、第2のタイミングを指定する第2のパルスP2sendとを含む。第1、第2のパルスP1send,P2sendの時間差Td1が、センサ素子341の検出データに対応する。なお、タイミング信号Wtは、図3のようなダブルパルスの形状でなくてもよい。たとえば、第1のタイミングで立上がり、第1のタイミングから時間Td1経過後の第2のタイミングで立ち下がる矩形波であってもよい。
【0031】
再び図2を参照して、光信号出力部33は、タイミング信号Wtを受けて、タイミング信号Wtが指定する第1、第2のタイミングをそれぞれトリガとして、1周期分の拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を出力する。ここで、拡散符号は、スペクトラム拡散通信に用いられるの符号系列であり、PN(擬似雑音:Pseudo-random Noise)符号とも呼ばれる。拡散符号としてM系列(Maximum Length Sequence)やGold符号系列などを例示することができる。拡散符号系列の周期(ビット数)mには、たとえばm=1023など、比較的長周期が用いられる。
【0032】
各センサ装置3には互いに異なる拡散符号が予め割当てられている。光信号出力部33は、自己に割当てられた拡散符号に対応する信号電流を発光素子32に流すことによって、光パルス列を出力する。発光素子32として、たとえば、発光ダイオード、半導体レーザなどを用いることができる。出力された第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2(信号光Sc)は、図1の筐体5内で反射および散乱した後、データ収集装置2に到達する。
【0033】
データ収集装置2は、受光部21と、相関値演算部22と、データ処理部24とを含む。受光部21は、フォトダイオードなどの受光素子211を含み、受光素子211によって、受信した信号光Scを電気信号に変換する。受光部21は、電気信号に変換した受信信号Srecを、増幅し、フィルタで整形する。本データ処理装置2では、同期若しくは非同期いずれにおいても以降の処理動作が実現できる。同期処理の場合、この後、受光部21は、受信信号Srecを、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)で量子化する。量子化のタイミングは、公知の同期捕捉の方法で、送信側の第1、第2のパルス列Sc1,Sc2の送信タイミングに同期させるのが望ましい。量子化された受信信号Srecは、相関値演算部22に出力される。しかし、実際にはセンサの送信タイミングを取得するのが困難な場合がある。このため非同期の場合でも、量子化手段の一種であるフラッシュADC(Analog to Digital Converter)を用いてトリガタイミング信号なしで連続して量子化することができる。また、後段の整合フィルタ22は、このような連続信号について実時間にて畳み込み演算による相関処理が可能な方式である。
【0034】
相関値演算部22は、同期処理の場合、現時刻より拡散符号の1周期mに相当する時間だけ前の時刻から現時刻までの間に受信した受信信号Srecの信号強度と各センサ装置3に割当てた拡散符号との相関値を計算する。相関値演算部22は、整合フィルタ(Matched Filter)によって構成され、相関値の計算をリアルタイムで行なうことができる。また、非同期処理の場合でも、拡散符号の信号タイミングや1周期信号分の時間管理を必要としない整合フィルタ22を用いて効率の良い相関処理が行なえる。整合フィルタの構成については、図7を参照して後述する。
【0035】
ここで、異なる拡散符号は互いにほぼ直交関係にあるので相関値はほぼ0である。したがって、受光部21で受光した第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2に対応する拡散符号との組合わせの場合にのみ、閾値を超える大きさの相関値が得られる。こうして、相関値演算部22は、受信信号Srecの中から、拡散符号に対応する特定のセンサ装置3から出力された第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を検出することができる。
【0036】
図4は、図2の相関値演算部22から出力された信号Wt−recvの波形の一例を示す図である。図4の横軸は経過時間を示し、縦軸は信号強度を示す。
【0037】
図4を参照して、第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の受信による受信信号Srecと、その光パルス列Sc1,Sc2に対応する拡散符号との相関値の計算結果を表わす信号Wt−recvは、2つピークをもつ信号である。第1のパルスP1recvが第1の光パルス列Sc1に対応し、第2のパルスP2recvが第2の光パルス列Sc2に対応する。したがって、それぞれのピークが閾値DLVLを越えたときの時間差Td1を計測することによって、センサ素子341の検出データを検知することができる。
【0038】
前述のように、複数のセンサ装置3からデータ収集装置2に到達する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の経路はマルチパスになっている。このため、受光部21に到達した時点における第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を構成する各光パルスの形状は、遅延歪みによって送信時よりも幅広の形状に変化する。この場合、図4に示すように、相関値演算部から出力される相関値の信号Wt−recvの形状も幅広のパルスになる。この遅延歪みの影響は、第1の光パルス列Sc1と同一の経路を経てデータ収集装置2に到達すると第2の光パルス列Sc2にも及ぶ。しかしながら、検出データは、同様の遅延歪みが生じた第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の到着時刻の差Td1に対応しているので、時間差の測定精度には、マルチパスによる信号歪みの影響が直接的には関係しない。
【0039】
一方、複数のセンサ装置3からの光パルス列がほぼ同時刻に受光部21に到達した場合の生じ得る相互干渉や、背景光による雑音は、SNRを劣化させる要因となり得る。SNRが劣化した場合にはジッタが生じて、時間差の計測精度に影響を及ぼすことになる。しかし、この場合には、拡散符号のビット数mを増加させることによってSNRを改善させることが可能である。それぞれ時間差は、平均値を中心にランダムに変動する場合には、拡散符号ビット数回の加算による統計的データ処理を行なうことで、より平均時間差に近い値を得て、この時間変動率を改善することができる。
【0040】
このように、実施の形態1のセンサ信号伝送システム10では、センサ素子341の検出データが、センサ装置3からデータ収集装置2に出力される第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の出力時刻の時間差に変換される。したがって、見通し外の拡散反射通信路を用いた光空間伝送であっても、マルチパス伝送に起因する信号歪みの影響をほとんど受けずに高精度のデータ伝送を行なうことができる。しかも、各センサ装置3から出力される光パルス列は、互いに異なる拡散符号に対応しているので、複数のセンサ素子341の検出データを相互に干渉することなくデータ収集装置2に送信できる。
【0041】
さらに、センサ装置3にはA/D(Analog to Digital)変換手段が不要であるので、センサ装置3をコンパクトに構成することができる。また、空間伝送を用いるので、信号伝送ケーブルの敷設が不要となる。したがって、高密度化した電子機器内でのセンサ信号伝送システムの設計が容易になり、改修などのメンテナンスも簡単になるという利点がある。
【0042】
再び図2を参照して、データ処理部24は、相関値演算部22の出力信号Wt−recvを受けて、出力信号Wt−recvが、閾値DLVLを越えるタイミングを判定する。データ処理部24は、各拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列の受信によって、出力信号Wt−recv(相関値)が閾値DLVLを越える2度のタイミングを特定する。そして、データ処理部24は、閾値DLVLを超える2度のタイミングの時間差Td1を表わす信号TDMを出力する。なお、データ処理部24は、時間差Td1と検出データ(抵抗値)との対応関係に基づいて、時間差を検出データに、さらには検出温度に逆変換して出力することもできる。
【0043】
次に、実施の形態1のセンサ信号伝送方法を数式で説明する。
各センサ装置3は、図3の第1のパルスP1sendの生成時刻(前述の第1のタイミング)を起点の時刻t=0として、第1の光パルス列S(t)を出力する。ここで、光パルス列S(t)は、mビットの拡散符号系列C(k)(ただし、k=1,2,…,m、チップ周期Tc=2π/ω)を用いて以下の式で表わされる。以下の式において、δはディラックのデルタ関数であり、INTは引数を超えない最大の整数を示す関数である。また、Tは光パルス信号の出力周期であり(ただし、m・Tc<T/2)、周期TごとにPN符号系列C(k)の1周期分の光パルス信号が繰返し出力される。各周期Tごとにその時点におけるセンサ素子341の検出データが送信されることになる。
【0044】
【数1】
【0045】
また、伝送路上で強度減衰がない場合の時刻tにおける相関値D(t)(ただし、j=1,2,・・・,m)およびその最大値Dmaxは、以下の式で表わされる。
【0046】
【数2】
【0047】
第2の光パルス列についても、図3の第2のパルスP2sendの生成時刻(第2のタイミング)を起点t=0として、同様に考えることができる。
【0048】
図5は、拡散符号の一例を示す図である。図5に示す拡散符号は、周期m=1023ビットのGold符号系列の一部を示す。周期m=1023ビットのGold符号系列の場合、1周期中に1が512回、0が511回現れ、それぞれ出現頻度はランダムである。相関値の算出(逆拡散)のときに、白色性の外部雑音強度が単純加算平均により1/20になるので、信号の統計精度は改善される。
【0049】
このような拡散符号が各センサ装置3に割当てられる。このとき、異なるセンサ装置3には、周期が等しく異なる配列の拡散符号が割当てられる。光信号出力部33は、タイミング信号Wtに含まれる第1、第2のパルスP1send,P2sendをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する光パルス列Sc1,Sc2を出力する。
【0050】
図6は、データ収集装置2の受光部21から出力される受信信号Srecの一例を示す図である。図6の横軸は時間を示し、縦軸は信号強度を示す。図6を参照して、受信信号Srecは10台のセンサ装置3から出力されたPN(擬似雑音)信号が重畳されたものである。この受信信号Srecを用いて、相関値演算部22は、各センサ装置に対応するPN系列との相関値を計算する。異なるセンサ装置3には異なる拡散符号が割当てられているので、相関値演算部22は、センサ装置3ごとに受信信号Srecを分離することが可能になる。
【0051】
図7は、相関値演算部22の構成の一例を示すブロック図である。図7の相関値演算部22は整合フィルタとも呼ばれ、入力信号のタイミングを必要とせず、相関値の検出をリアルタイムで連続的に行なうことができる。
【0052】
図7を参照して、相関値演算部22は、m段のシフトレジスタ221(1)〜221(m)と、拡散符号生成回路224と、m個のAND回路222(1)〜222(m)と、総和回路223とを含む。m段のシフレジスタ221には、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)に等しいタイミングで量子化された受信信号Srecが入力される。m段のシフトレジスタ221に入力された受信信号Srecと、拡散符号生成回路224生成回路が出力する周期mのPN信号Srefとは、m個のAND回路222によってビットごとに乗積される。ビットごとの乗算結果が総和回路223によって加算され、相関値Wt−recvが出力される。
【0053】
ここで、実施の形態1の温度センサは、温度測定範囲が1℃〜100℃であり、計測精度が0.1%であるとする。この場合、測定温度に1℃〜100℃対応する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の時間差Td1を0.1msec〜10msec(周波数範囲では、0.1kHz〜10kHz)とすれば、必要な時間分解能は100nsecとなる。したがって、図7に示す回路を10MHzの動作クロックで動作すればよいので、図7の相関値演算部22は、実現容易な回路構成となっている。
【0054】
なお、相関値演算部22は、図7に示す整合フィルタを複数個有する構成してもよい。この場合、複数のセンサ装置3から同時に第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2が送信されると、各センサ装置3に対応する拡散符号用いた相関値の演算を並列処理で行なうことができる。
【0055】
また、相関値演算部22の整合フィルタを、CCD(Charge Coupled Device)やSAW(Surface Acoustic Wave)素子などのアナログデバイスを用いて構成することもできる。この場合、受光部21は、量子化を行なわずに、アナログ量の受信信号Srecを相関値演算部22に出力する。さらに、相関値演算部22は、光信号を直接用いて光演算処理を行なうように構成することもできる。この場合には、受光部21は、受信した信号光Scをそのまま光増幅して相関値演算部22に出力する。
【0056】
図8は、相関値演算部22の出力波形の一例を示す図である。図8の横軸は時間であり、縦軸は信号強度を示す。図8に示すように、センサ装置3から伝送された光パルス列に対応したパルスP1recvが得られている。パルスP1recvは、後段のデータ処理部24で閾値判定が可能な良好なパルス波形である。
【0057】
図9は、図2の受光部21における量子化数と、相関値演算部22の出力波形のNS比との関係を示す図である。図9の縦軸は、相関値演算部22の出力波形のNS(Noise to Signal)比を百分率で示したものである。図9に示すように、受光部21における量子化数が6ビットの場合でも、相関値演算部22の出力波形のNS比は23%である。したがって、後段のデータ処理部24での閾値判定が十分に可能である。
【0058】
図10は、図2のセンサ信号伝送システム10における各信号波形を模式的に示すタイミング図である。図10の横軸は時間であり、縦軸は、上から順に、センサ部34から出力されるタイミング信号Wt、光信号出力部33から出力される信号光Sc(光パルス列)、相関値演算部22の出力波形Wt−recv、データ処理部24で計測された時間差を表わす信号TDMを示す。
【0059】
図10を参照して、時刻t1で出力されるパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。第1の光パルス列Sc1の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t2まで続く。
【0060】
次の時刻t2では、第1の光パルス列Sc1の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP1recvが生じる。データ処理部24は、パルスP1recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP1recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt2に等しい。
【0061】
次の時刻t3で出力されるパルスP2sendがトリガとなって、第2の光パルス列Sc2が出力される。時刻t1と時刻t3との時間差Td1は、センサ部34での検出データに対応する。第2の光パルス列Sc2の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t4まで続く。本データ収集装置2は、非同期動作を基本にしたので、出力信号である時間差Td1を精度良く求めることができる。送信タイミング信号による同期動作の場合でも、動作開始タイミングは内部クロックに対してまるめこまれることはない。整合フィルタが出力するP1recvとP2recv信号との時間差は、センサ装置3の出力するP1sendとP2send信号との時間差に対応するものであり、整合フィルタの非同期動作によって高い精度で求めることができる。
【0062】
次の時刻t4では、第2の光パルス列Sc2の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP2recvが生じる。データ処理部24は、パルスP2recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP2recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt4に等しい。さらに、データ処理部24は、両パルスP1recv,P2recv間の時間差を検出することによって、送信された検出データを再生することができる。
【0063】
時刻t5では、再びパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。時刻t6では、第1の光パルス列Sc1の受信に対応して、相関値演算部22の出力波形Wt−recvにピークが生じる。センサ部34の検出データに対応する時間が経過した時刻t7に、第2の光パルス列Sc2が出力される。次の時刻t8では、第2の光パルス列Sc2の受信に対応して、相関値演算部22の出力波形Wt−recvにピークが生じる。データ処理部24は、出力波形Wt−recvが閾値を超えるタイミングを測定する。このようにして、センサ素子341によって検出された検出データは、順次、センサ装置3からデータ収集装置2へと伝送される。
【0064】
図11は、実施の形態1のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
図11を参照して、センサ装置3は、センサ素子341によって検出データを取得すると(ステップS10)、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する(ステップS11)。続いて、センサ装置3は、第1のタイミングをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1の光パルス列Sc1を出力する(ステップS14)。第1のタイミングから時間Td1が経過した第2のタイミングをトリガとして、センサ装置3は、割当てられた拡散符号に対応する第2の光パルス列Sc2を出力する(ステップS15)。
【0065】
データ収集装置2は、センサ装置3から第1の光パルス列Sc1を受光すると(ステップS21)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS22)。データ収集装置2は、第1の光パルス列Sc1の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS23)。
【0066】
次に、データ収集装置2は、センサ装置3から第2の光パルス列Sc2を受光すると(ステップS24)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS25)。データ収集装置2は、第2の光パルス列Sc2の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS26)。
【0067】
そして、次のステップS27で,データ収集装置2は、前述のステップS23およびステップS26で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、センサ素子341の検出データに対応した時間差Td1に等しい。さらに、ステップS27で、データ収集装置2が、計測した時間差をセンサ素子341の検出データに逆変換するようにしてもよい。こうして、センサ素子341によって検出された検出データが、センサ装置3からデータ収集装置2へ伝送される。
【0068】
以上の説明は、図2に関連して述べたように、受信信号Srecは、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)で量子化するとして説明した。さらに、出力信号の時間差Td1の時間精度を上げるためには、1ビットの時間刻み(チップ周期)より短い周期、たとえば、1/2あるいは1/3の周期で量子化し、また整合フィルタ22のm段シフトレジスタ221のそれぞれに遅れ時間要素を挿入することで達成できる。
【0069】
[実施の形態2]
拡散反射伝送路を利用した信号伝送では、センサ装置3が配置される場所によって伝送路環境が大きく異なるので、信号光の受信強度がセンサ装置3ごとに大きくばらつくことがある。また、伝送路環境が経時的に変化するために、信号光の受信強度に変動が生じる場合もある。たとえば、埃などの表面汚染によって、表面の反射率が変化したり、筐体が密閉されていない場合には日光や照明によってSNRが変動したりする。さらに、電子機器のメンテナンスなどによって内部コンポーネントの再組立てを行なった場合に、現状に復帰しないこともある。拡散反射伝送路を利用した自由空間伝送の場合は、ケーブル伝送の場合に比べて伝送路環境の微妙な変化が受信特性に影響する。
【0070】
このような原因によって、信号光の受信強度がセンサ装置3ごとに異なると、信号光の受信強度と拡散符号との相関値について閾値判定をするときに、センサ装置3ごとに閾値のレベルを変化させなければならないという不都合が生じる。そこで、実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aでは、受光部21での受信時の信号強度を揃えるために、光信号出力部35は、光パルス列の出力強度を調節するための信号強度調節手段を含む。
【0071】
図12は、本発明の実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aの構成を概略的に示すブロック図である。図12のセンサ信号伝送システム10Aの光信号出力部35は、増幅度の調節可能な減衰補償アンプ351をさらに含む点において、実施の形態1のセンサ信号伝送システム10と異なる。その他の点については、実施の形態1と共通するので、共通する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。なお、センサ信号伝送システム10Aは、実際には、複数のセンサ装置3Aを含むけれども、図12では、複数のセンサ装置3Aを代表して1つのセンサ装置3Aを図示している。
【0072】
図12を参照して、減衰補償アンプ351は、発光素子32の駆動電流を変化させることによって、信号光Sc(光パルス列)の出力強度を調節する信号強度調節手段である。n台のセンサ装置3Aが設けられている場合、各センサ装置3Aの減衰補償アンプ351に入力される信号強度をS1〜Snとし、減衰補償アンプ351の増幅率をA1〜Anとし、各センサ装置3Aからデータ収集装置2に至る信号光伝送路の減衰率をξ1〜ξnとする。そうすると、データ収集装置2で受信する受信信号の信号強度Srecは、
Srec=ξ1・A1・S1+ξ2・A2・S2+・・・+ξn・An・Sn
・・・(5)
と表わされる。各センサ素子341の特性が同一であるとすれば、信号強度S1=S2=・・・=Snが近似的に成立する。一方、伝送路の減衰率ξ1〜ξnは、センサ素子3Aごとに大きくばらつく。そこで、ξ1・A1=ξ2・A2=・・・=ξn・An=constとなるように、減衰補償アンプ351の増幅率をA1〜Anを調節する。これによって、センサ素子3ごとの伝送路の減衰率ξ1〜ξnのばらつきが補正されて、センサ装置3から到達する信号光の信号光を均等にすることができる。
【0073】
図13は、相関値演算部22の出力信号と閾値レベルDLVLとの関係を説明するための図である。図13は、伝送路の減衰率が異なる結果、相関値演算部22の出力信号の強度が異なっている場合を対比して示している。図13に示すように、Bの信号強度は、Aの信号強度に比べて、伝送路の減衰率が大きいために小さくなっている。このため、Aの信号強度が閾値レベルDLVLを超える時刻がt1であるのに対して、Bの信号強度が閾値レベルDLVLを超える時刻はt2となって遅れる。
【0074】
ここで、本発明では、センサ素子341の検出データを第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の送信時刻の時間差に変換して伝送している。したがって、図13のような信号強度の変化に起因する時刻の遅れは、第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2に等しく生じることになるので、時間差の検出精度には影響しない。これに対して、信号強度の変化が適正範囲を超えてしまうと、一定の閾値レベルDLVLでは相関値の変化を検出できなくなる。実施の形態2の減衰補償アンプ351は、このような適正範囲を超える信号強度の変化が生じた場合に特に効果がある。また、工場出荷時、据付初期、あるいは運用時には定期的に校正するのが望ましいので、減衰補償アンプ351を校正機能を備えることで、供用期間中の計測精度を確保させることができる。
【0075】
[実施の形態3]
実施の形態3は、各センサ装置3Bで、センサ素子341の検出データを時間差Td1に変換するときの変換誤差を校正する手段を提供するものである。
【0076】
図14は、本発明の実施の形態3のセンサ信号伝送システム10Bの構成を概略的に示すブロック図である。図14を参照して、センサ信号伝送システム10Bは、互いに異なる拡散符号が割当てられた複数のセンサ装置3Bとデータ収集装置2Bとを含む。図14では、複数のセンサ装置3Bを代表して1つのセンサ装置3Bが図示されている。
【0077】
センサ装置3Bは、センサ部36と光信号出力部35とを含む。センサ部36は、センサ素子341の他に校正用素子342をさらに含む点で、実施の形態1,2のセンサ部34と異なる。校正用素子342は、センサ素子341の測定対象である温度の変化に対して、抵抗値がほとんど変化しない抵抗体である。
【0078】
センサ部36は、第1〜第3のタイミングを指定するタイミング信号Wttを光信号出力部35に出力する。第1、第2のタイミングの時間差は、実施の形態1,2と同様に、センサ素子341(測温抵抗体)の検出データ(抵抗値)に対応する。また、第2、第3のタイミングの時間差は、校正用素子342の校正用データ(抵抗値)に対応する。ここで、センサ部36は、校正用素子342の抵抗値についても、センサ素子341の抵抗値と同様の電気回路を用いて時間差に変換するので、センサ素子341の検出データの校正が可能になる。
【0079】
光信号出力部35は、タイミング信号を受けて、第1〜第3のタイミングをそれぞれトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を出力する。光信号出力部35の構成は実施の形態1,2と同様であるので、詳しい説明を繰返さない。
【0080】
データ収集装置2Bは、受光部21と、相関値演算部22と、データ処理部25とを含む。受光部21および相関値演算部22の構成は、実施の形態1と同様であるので、詳しい説明を繰返さない。
【0081】
図14の受光部は、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を受光して、受光した信号を電気信号に変換した受信信号Srecとして出力する。相関値演算部22は、受信信号Srecの信号強度と拡散符号との相関値を算出する。この結果、相関値演算部22の出力信号Wtt−recvには、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3の受信時刻に対応して、第1〜第3のパルスP1recv,P2recv,P3recvが現れる。
【0082】
データ処理部25は、これら第1〜第3のパルスP1recv,P2recv,P3recvの閾値判定を行なって、検出データに対応する第1、第2のパルスP1recv,P2recvの時間差Td1と、校正用データに対応する第2、第3のパルスP2recv,P3recvの時間差Td2とを測定する。データ処理部25は、測定した時間差Td1,Td2を表わす信号TDM1,TDM2を出力する。
【0083】
なお、データ処理部25において、検出データおよび校正用データと時間差Td1,Td2との対応関係に基づいて、測定した時間差Td1,Td2を検出データおよび校正用データに逆変換することもできる。したがって、逆変換した検出データおよび校正用データの比を求めれば、センサ素子341の検出データを校正用素子342の校正用データで校正することができる。
【0084】
図15は、図14のセンサ部36の構成の一例を示す回路図である。図14のセンサ部36は、スイッチング素子としてのトランジスタTr1,Tr2を有する無安定マルチバイブレータ361を含む。無安定マルチバイブレータ361では、トランジスタTr1,Tr2のオン/オフの期間が、コンデンサの充放電時間によって決定される。
【0085】
図15を参照して、センサ部36は、センサ素子341としての測温抵抗体と、校正用素子342としての抵抗体と、抵抗素子R1,R2と、PNP型トランジスタ343,344と、NPN型トランジスタTr1,Tr2と、コンデンサ345,346と、パルス生成器347とを含む。まず、センサ部36の各要素の接続関係を説明する。電源ノードVcと接地ノードGNDとの間に、抵抗素子R1とトランジスタTr1とが直列に接続される。同様に、電源ノードVcと接地ノードGNDとの間に、抵抗素子R2とトランジスタTr2とが直列に接続される。また、電源ノードVcとトランジスタTr1のベースNB1との間に、測温抵抗体341とトランジスタ343が直列に接続される。同様に、電源ノードVcとトランジスタTr2のベースNB2との間に、抵抗体342とトランジスタ344が直列に接続される。また、トランジスタTr1のコレクタNC1とトランジスタTr2のベースNB2とが、コンデンサ345を介して接続される。同様に、トランジスタTr2のコレクタNC2とトランジスタTr1のベースNB1とが、コンデンサ346を介して接続される。トランジスタ343,344のベースにはバイアス電圧Vb1,Vb2が供給される。トランジスタTr2のコレクタNC2から出力信号TFが取出され、パルス生成器347によってパルス信号Wttに変換される。
【0086】
次に、図15のセンサ部36の動作について説明する。測温抵抗体341およびトランジスタ343と、抵抗体342とトランジスタ344とは、それぞれ定電流出力手段である。この出力直流電流によって、トランジスタ343,344のコレクタ端子に接続された充電用のコンデンサ345,346が充電される。コンデンサ345,346の充電時間は、充電電流の一次関数となっている。
【0087】
ここで、トランジスタTr2のオン時(トランジスタTr1のオフ時)の場合のコンデンサ346の充電電流Ic343は、電源電圧Vc、バイアス電圧Vb1、測温抵抗体341の抵抗値Rtを用いて次式で表わされる。ただし、Vbe343は、トランジスタ343の順方向電圧(約0.6V)である。
【0088】
Ic343=(Vc−Vb1−Vbe343)/Rt ・・・(6)
この電流Ic343によってコンデンサ346が充電されるので、トランジスタTr2の次の状態遷移までのオン時間Tonは、コンデンサ346の静電容量をCchg346として、
Ton=(Vc−dV)×Cchg346/Ic343
=(Vc−dV)×Rt×Cchg346/(Vc−Vb1−Vbe343)
・・・(7)
と表わされる。ここで、トランジスタTr1,Tr2の飽和電圧をVsat(約0.1V)、トランジスタ344の順方向電圧をVbe344として、
dV=Vsat+Vbe343−Vbe344=Vsat ・・・(8)
である。
【0089】
同様に、トランジスタTr1のオン時(トランジスタTr2のオフ時)の場合のコンデンサ345の充電電流Ic344は、電源電圧Vc、バイアス電圧Vb2、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcを用いて次式で表わされる。ただし、Vbe344は、トランジスタ344の順方向電圧(約0.6V)である。
【0090】
Ic344=(Vc−Vb2−Vbe344)/Rc ・・・(9)
この電流Ic344によってコンデンサ345が充電されるので、トランジスタTr2の次の遷移時間までのオフ時間Toffは、コンデンサ345の静電容量をCchg345として、
Toff=(Vc−Vsat)×Cchg345/Ic344
=(Vc−Vsat)×Rc×Cchg345
/(Vc−Vb2−Vbe344) ・・・(10)
と表わされる。
【0091】
この結果、トランジスタTr2のコレクタNC2から出力信号TFは、LレベルがTonのあいだ続き、HレベルがToffのあいだ続く矩形波である。パルス生成器347は、出力信号TFの立下り、立上がりに応答してパルスを出力する。具体的には、第1の光パルス列Sc1の出力時刻である第1のタイミングが、トランジスタTr2のオフからオンへの遷移(出力信号TFのHレベルからLレベルへの変化)に対応する。第2の光パルス列Sc2の出力時刻である第2のタイミングが、トランジスタTr2のオンからオフへの遷移(出力信号TFのLレベルからHレベルへの変化)に対応する。また、第3の光パルス列Sc3の出力時刻である第3のタイミングが、トランジスタTr2のオフからオンへの遷移(出力信号TFのHレベルからLレベルの変化)に対応する。したがって、第1、第2のタイミングの時間差Td1がトランジスタTr2のオン時間Tonに対応し、第2、第3のタイミングの時間差Td2がトランジスタTr2のオフ時間Toffに対応することになる。すなわち、式(7)、式(10)を用い、K1,K2を電源電圧Vcおよびバイアス電圧Vb1,Vb2などによって決まる定数とすれば、
Td1=Ton=K1×Rt ・・・(11)
Td2=Toff=K2×Rc ・・・(12)
と表わされる。
【0092】
データ収集装置2Bは、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を受信して、これらの受信時刻の時間差Td1,Td2を求める。求めた時間差Td1,Td2は、センサ部36のトランジスタTr2のオン時間Tonおよびオフ時間Toffに等しい。そして、オン時間Tonは、測温抵抗体341の抵抗値Rtに対応し、オフ時間は、高精度な校正用の抵抗体342の抵抗値Rcに対応する。したがって、受信時刻の時間差Td1,Td2に比を求めれば、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcで測温抵抗体341の抵抗値Rtを校正することができる。
【0093】
センサ部36に供給される電源電圧Vc、バイアス電圧Vb1,Vb2は、安定化電源を用いても長期にわたって高精度を維持することが困難である。これらの電圧Vc,Vb1,Vb2が不安定であれば、センサ部36から出力されるタイミング信号Wttが指定する時間差Td1,Td2に誤差をもたらすことになる。そこで、実施の形態3では、測温抵抗体341の抵抗値Rtに対応する時間差Td1と、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcに対応する時間差Td2との両方を、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bに送信することによって、バイアス電圧などの変動が原因となる検出誤差を補正することが可能な構成となっている。
【0094】
図16は、図14のセンサ信号伝送システム10Bにおける各信号波形を模式的に示すタイミング図である。図16の横軸は時間であり、縦軸は、上から順に、図15のトランジスタTr2のコレクタNC2の出力電圧TF,図14のセンサ部36から出力されるタイミング信号Wtt、光信号出力部35から出力される信号光Sc(光パルス列)、相関値演算部22の出力波形Wtt−recv、データ処理部25で計測した時間差を表わす信号TDM1,TDM2を示す。
【0095】
図16を参照して、時刻t1で出力されるパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。第1の光パルス列Sc1の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t2まで続く。
【0096】
次の時刻t2では、第1の光パルス列Sc1の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP1recvが生じる。データ処理部25は、パルスP1recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP1recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt2に等しい。
【0097】
次の時刻t3で出力されるパルスP2sendがトリガとなって、第2の光パルス列Sc2が出力される。時刻t1と時刻t3との時間差Td1は、センサ部36で検出する検出データに対応する。第2の光パルス列Sc2の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t4まで続く。
【0098】
次の時刻t4では、第2の光パルス列Sc2の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP2recvが生じる。データ処理部25は、パルスP2recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP2recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt4に等しい。さらに、データ処理部25は、両パルスP1recv,P2recv間の時間差を検出することによって、送信された検出データを検知することができる。
【0099】
次の時刻t5で出力されるパルスP3sendがトリガとなって、第3の光パルス列Sc3が出力される。時刻t3と時刻t5との時間差Td2は、センサ部36で検出する校正用データに対応する。第3の光パルス列Sc3の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t6まで続く。
【0100】
次の時刻t6では、第3の光パルス列Sc3の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP3recvが生じる。データ処理部25は、パルスP3recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP3recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt6に等しい。さらに、データ処理部25は、両パルスP2recv,P3recv間の時間差を検出することによって、送信された校正用データを検知することができる。
【0101】
なお、図15のセンサ部36の回路を用いる場合には、上記の時刻t5で出力されるパルスP3sendは、次に取得した検出データの送信タイミングを指定する第1のパルスP1sendも兼ねている。したがって、第3の光パルス列Sc3の出力は、次に取得したデータを出力するための第1の光パルス列Sc1に対応する。
【0102】
次に、実施の形態3のセンサ信号伝送方法を数式で説明する。
各センサ装置3Bは、図16の第1のパルスP1sendの生成時刻(第1のタイミング)を起点t=0として、第1の光パルス列S(t)を出力する。さらに、時間Td1が経過した第2のパルスP2sendの生成時刻(第2のタイミング)t=Td1を起点として第2の光パルス列S(t)を出力する。光パルス列S(t)は、mビットの拡散符号系列C(k)(ただし、k=1,2,…,m、チップ周期Tc=2π/ω)を用いて以下の式で表わされる。以下の式において、δはディラックのデルタ関数であり、INTは引数を超えない最大の整数を示す関数である。また、T=Td1+Td2は光パルス信号の出力周期であり(ただし、m・Tc<T/2)、周期Tごとに第1の光パルス列と第2の光パルス列とが繰返し出力される。この場合、第1の光パルス列は、第3の光パルス列も兼ねる。
【0103】
【数3】
【0104】
また、伝送路上で強度減衰がない場合の時刻tにおける相関値D(t)(ただし、j=1,2,・・・,m)およびその最大値Dmaxは、以下の式で表わされる。
【0105】
【数4】
【0106】
式(17)に示す相関値D(t)の最大値Dmaxは、第1、第2の光パルス列の受信に対応して、1周期Tごとに2回現れる。
【0107】
図17は、実施の形態3のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
図16、図17を参照して、センサ装置3Bは、センサ素子341によって検出データを取得すると(ステップS10)、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する(ステップS11)。次に、センサ装置3Bは、校正用素子342によって校正用データを取得すると(ステップS12)、校正用データを第2、第3のタイミングの時間差Td2に変換する(ステップS13)。続いて、センサ装置3Bは、第1のタイミングをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1の光パルス列Sc1を出力する(ステップS14)。第1のタイミングから時間Td1が経過した第2のタイミングをトリガとして、センサ装置3Bは、割当てられた拡散符号に対応する第2の光パルス列Sc2を出力する(ステップS15)。さらに、第2のタイミングから時間Td2が経過した第3のタイミングをトリガとして、センサ装置3B、割当てられた拡散符号に対応する第3の光パルス列Sc3を出力する(ステップS16)。
【0108】
データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第1の光パルス列Sc1を受光すると(ステップS21)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS22)。データ収集装置2Bは、第1の光パルス列Sc1の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS23)。次に、データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第2の光パルス列Sc2を受光すると(ステップS24)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS25)。データ収集装置2Bは、第2の光パルス列Sc2の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS26)。そして、次のステップS27で,データ収集装置2Bは、前述のステップS23およびステップS26で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、センサ素子341の検出データに対応した時間差Td1に等しい。さらに、ステップS27で、データ収集装置2Bが、計測した時間差をセンサ素子341の検出データに逆変換するようにしてもよい。こうして、センサ素子341によって検出された検出データが、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bへ伝送される。
【0109】
また、データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第3の光パルス列Sc3を受光すると(ステップS28)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS29)。データ収集装置2Bは、第3の光パルス列Sc3の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS30)。そして、次のステップS31で,データ収集装置2Bは、前述のステップS26およびステップS30で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、校正用素子342の校正用データに対応した時間差Td2に等しい。さらに、ステップS31で、データ収集装置2Bが、計測した時間差を校正用素子342の校正用データに逆変換するようにしてもよい。こうして、校正用素子342によって検出された校正用データが、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bへ伝送される。
【0110】
なお、上述のセンサ信号伝送方法において、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換し、校正用データを第3、第4のタイミングの時間差Td2に変換することもできる。この場合、センサ装置は、第1〜第4のタイミングをトリガとして、拡散符号にそれぞれ対応する第1〜第4の光パルス列を出力する。データ収集装置は、第1、第2の光パルス列の受信によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定し、判定結果から検出データに対応する時間差Td1を再生する。また、データ収集装置は、第3、第4の光パルス列の受信によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定し、判定結果から校正用データに対応する時間差Td2を再生する。
【0111】
[実施の形態4]
実施の形態4は、実施の形態1〜3のデータ収集装置2,2Bの受光部21を、高感度の増幅器を用いて構成したものである。
【0112】
図18は、本発明の実施の形態4の受光部21の構成を示すブロック図である。図18を参照して、受光部21は、受光素子としてのフォトダイオード211と、前置増幅器212と、整形フィルタ付の増幅器213と、量子化器214とを含む。信号光Scには、波長850nmを中心とする赤外光が使用される。
【0113】
前置増幅器212は、微弱光パルスが検出可能なように構成され、等価雑音電荷数Qeとして3000〜5000を有するパルス電荷積算型光センサアンプである。図18に示すように、前置増幅器212は、並列接続された高感度アンプ212Aおよびコンデンサ212Bを含み、信号光Scによってフォトダイオード211に生成された電荷を積算して増幅する。
【0114】
整形フィルタ付の増幅器213は、前置増幅器212の出力を受けて、SNRが高くなるように、最適パルス整形を行なう。パルス整形時定数は、筐体内の多重散乱(マルチパス)に起因する100nsec程度の時間遅れによる信号波形の歪(遅延歪)を考慮したものである。マルチパスに起因する遅延歪の影響を除去するために、増幅器213のパルス整形時定数は、チップ周期Tc(PN符号系列の1ビットあたりの周期)に等しくするのが望ましい。しかしながら、必ずしもパルス整形時定数をチップ周期Tcに一致させなくても、相関値演算部22の出力信号の立上がりは十分に急峻であるので、遅延歪による時刻の計測精度への影響は少ないと考えられる。
【0115】
図19は、図18の整形フィルタ付の増幅器213の構成の一例を示す回路図である。図19を参照して、増幅器213は、前置増幅器212の出力を微分する微分回路71、微分回路の出力を増幅する増幅器74、増幅器74の出力を積分する積分回路75、および積分回路75の出力を増幅する増幅器78を含む。また、微分回路71は、コンデンサ72および抵抗素子73を含み、積分回路75は、抵抗素子76およびコンデンサ77を含む。図19の増幅器213の場合、整形時定数はコンデンサ72,77の容量と抵抗素子73,76の抵抗値との積で表わされる。
【0116】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0117】
たとえば、上述の各実施の形態では、電子機器の筐体内の複数箇所に設置された温度センサ(測温抵抗体)の検出データをデータ収集装置に光空間伝送する場合について説明した。しかし、本発明は必ずしもこのような例に限るものでない。
【0118】
たとえば、温度センサには、測温抵抗体以外に熱電対を用いることもできる。また、本発明は、温度以外の物理量を検出するセンサにも適用可能である。たとえば、加速度計、歪ゲージ、音響センサ、磁気センサなど、物理量を電気量に変換することが可能なあらゆるセンサに適用することができる。
【0119】
また、本発明は、筐体内に多数のモジュールが実装された精密電子機器の温度管理以外に、一般的な電子機器システムの環境温度測定に適用可能である。たとえば、本発明は、ハーネス布線を望まない環境温度監視が必要なプロセス製造装置に好適である。また、今後、高機能および小型化が要求される人工衛星などにも本発明を好適に用いることができる。人工衛星では、筐体およびコンポーネントの健全性をチェックするために各部温度を連続モニタリングする必要があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10が適用される電子機器システム1の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】タイミング信号Wtの一例を示す図である。
【図4】図2の相関値演算部22から出力された信号Wt−recvの波形の一例を示す図である。
【図5】拡散符号の一例を示す図である。
【図6】データ収集装置2の受光部21から出力される受信信号Srecの一例を示す図である。
【図7】相関値演算部22の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】相関値演算部22の出力波形の一例を示す図である。
【図9】図2の受光部21における量子化数と、相関値演算部22の出力波形のNS比との関係を示す図である。
【図10】図2のセンサ信号伝送システム10における各信号波形を模式的に示すタイミング図である。
【図11】実施の形態1のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aの構成を概略的に示すブロック図である。
【図13】相関値演算部22の出力信号と閾値レベルDLVLとの関係を説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態3のセンサ信号伝送システム10Bの構成を概略的に示すブロック図である。
【図15】図14のセンサ部36の構成の一例を示す回路図である。
【図16】図14のセンサ信号伝送システム10Bにおける各信号波形を模式的に示すタイミング図である。
【図17】実施の形態3のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態4の受光部21の構成を示すブロック図である。
【図19】図18の整形フィルタ付の増幅器213の構成の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0121】
2,2B データ収集装置、3,3A,3B センサ装置、5 筐体、6 コンポーネント(部品)、10,10A,10B センサ信号伝送システム、21 受光部、22 相関値演算部、24,25 データ処理部、33,35 光信号出力部、34,36 センサ部、341 センサ素子(測温抵抗体)、342 校正用素子(抵抗体)、351 減衰補償アンプ(信号強度調節手段)、361 非安定マルチバイブレータ、DLVL 閾値、Sc1〜Sc3 第1〜第3の光パルス列、Td1,Td2 時間差、Tr1,Tr2 トランジスタ(スイッチング素子)、Wt,Wtt タイミング信号、Wt−recv,Wtt−recv 相関値演算部22の出力信号(相関値)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサの測定値を光波を利用してデータ処理装置に空間伝送する信号伝送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
センサの測定値をコントローラへ伝送する場合に、信号光を用いて空間伝送する方法が知られている。
【0003】
たとえば、特開平6−307957号公報(特許文献1)に開示される技術では、センサが圧力や加速度などの機械量を静電容量の変化として検出する。検出された静電容量の変化は、周波数情報あるいはパルス幅情報に変換され、変換された周波数情報もくしはパルス幅情報が受信側に光信号などで非接触伝送される。複数の静電容量式機械量センサを有している場合には、各静電容量式機械量センサが使用する周波数帯域は、互いに重複しないように異ならせる。
【0004】
また、特開平2−16824号公報(特許文献2)は、複数個のセンサを有している工作機械用の信号伝送システムを開示する。各センサには、1個ずつ信号送信手段が設けられる。信号送信手段は、各信号送信手段ごとに異なる周波数の搬送波信号を発生する搬送波信号発生手段と、搬送波信号の位相を変調することによりデータを搬送波信号で変調するための位相変調手段とを含む。信号伝送手段は、信号を光学的に(たとえば赤外放射を用いて)伝送する。
【0005】
また、実開昭61−168738号公報(特許文献3)は、移動自在な1または複数台の光送信器と、光送信器から送信される光信号を受信する受信装置とからなる光空間伝送装置を開示する。受信装置は複数の受信ヘッドを含み、複数の受信ヘッドの少なくとも1つが送信される光信号を受信し得る位置に配置される。
【0006】
上述の従来技術は、光伝送路として見通し内通信路を用いている。これに対して、室内の天井などの反射を利用する拡散反射通信路による赤外線通信方式が、無線LAN(ローカルエリアネットワーク:Local Area Network)への適用を目的として検討されている。
【0007】
たとえば、佐藤章博、他3名(非特許文献1:「拡散反射通信路を利用した室内赤外線無線通信における送信パルス波形の検討」、電子情報通信学会論文誌B−I、1998年12月、第J81−B−I巻、第12号、pp.861−871)は、拡散反射通信路を利用した室内赤外線通信ではマルチパスによる遅延歪みが生じることを数値計算によって示している。遅延歪みによる符号間干渉の影響によってビット誤り率特性が劣化する。
【0008】
また、松尾綾子、他4名(非特許文献2:「拡散反射通信路におけるOOK CDMA室内赤外線無線通信方式の特性解析」、電子情報通信学会論文誌B、2000年7月、第J83−B巻、第7号、pp.970−979)は、符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)による室内赤外線無線通信方式の特性を、数値解析により評価している。マルチパスチャネルでは、符号間干渉の影響による特性劣化を補うために、平均送信信号光パワーを増加させる必要があることが指摘されている。
【特許文献1】特開平6−307957号公報
【特許文献2】特開平2−16824号公報
【特許文献3】実開昭61−168738号公報
【非特許文献1】佐藤章博、他3名、「拡散反射通信路を利用した室内赤外線無線通信における送信パルス波形の検討」、電子情報通信学会論文誌B−I、1998年12月、第J81−B−I巻、第12号、pp.861−871
【非特許文献2】松尾綾子、他4名、「拡散反射通信路におけるOOK CDMA室内赤外線無線通信方式の特性解析」、電子情報通信学会論文誌B、2000年7月、第J83−B巻、第7号、pp.970−979
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
たとえば、多数のモジュール類が実装された精密電子機器では、電子機器の健全性をチェックするために筐体内の温度が複数の温度センサによって連続的にモニターされることがある。この場合、センサケーブル(コネクタ付きハーネスなど)を介して複数の温度センサとデータ収集処理装置とを接続すると、次のような不適切な事態が生じる。
【0010】
まず、電子機器をさらに小型化する場合に、コネクタ寸法とハーネス束径などが実装スペースに制約を与えることになる。また、電子機器の組立てや改修時に、センサケーブルの取扱いに手間がかかることになる。さらに、電子機器各部に張巡らされたセンサケーブルは、EMI(電磁波障害:Electromagnetic Interference)による計測誤差の原因となるほか、他機器への電磁干渉経路となる。EMIを抑制するために可とう性の低い電磁シールド強化ケーブルを用いると、ますます取扱いに手間がかかる。
【0011】
そこで、上述の従来技術のように非接触タイプの光空間伝送を用いて、温度センサの測定値をデータ収集処理装置へ伝送する方法が考えられる。しかし、多数のコンポーネントが筐体内部に高密実装される最新の小形電子機器の場合、分散配置された複数のセンサとデータ収集処理器との間の見通し条件が悪く、直接光によるデータ伝送は困難である。
【0012】
また、見通し外の拡散反射通信路を用いて、センサの測定値を光空間伝送する方法も考えられる。しかし、公知の室内赤外線通信の技術が、必ずしもあらゆる光伝送路環境に適用できるとは言えない。拡散反射通信路を用いたデータ伝送では、拡散反射による光強度の減衰やマルチチャネルによる信号波形歪みの影響を考慮する必要があるからである。
【0013】
本発明の目的は、複数のセンサの検出データをデータ収集装置に光信号を用いて空間伝送する場合に、見通し外の拡散反射通信路を利用する場合にも高精度に伝送することが可能な信号伝送システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は要約すれば、センサ装置とデータ処理装置とを備えるセンサ信号伝送システムである。センサ装置は、センサ部と光信号出力部とを含む。センサ部は、センサ素子を有し、センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換し、第1のタイミングと第1のタイミングから第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとを指定するタイミング信号を出力する。光信号出力部は、タイミング信号を受け、第1、第2のタイミングをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力する。
【0015】
また、データ収集装置は、検出データを収集するために設けられ、受光部と、相関値演算部と、データ処理部とを含む。受光部は、受光強度を検知する。相関値演算部は、現時刻より拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から現時刻までの受光強度と拡散符号との相関値を時々刻々求める。データ処理部は、第1、第2の光パルス列の受光によって相関値が予め定められた閾値を越えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定し、第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差をセンサ素子の検出データに逆変換する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、センサ装置によって検出された検出データが、データ収集装置に送信される第1、第2の光パルス列の出力時刻の時間差に変換される。したがって、見通し外の拡散反射通信路を用いた光空間伝送であっても、マルチパス伝送に起因する遅延歪みの影響を受け難く、高精度のデータ伝送が可能になる。さらに、第1、第2の光パルス列は拡散符号に対応しているので、複数のセンサ装置が設けられている場合でも、互いに異なる拡散符号を各センサ装置に割当てることによって、相互干渉なく、複数の検出データを送信することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳しく説明する。なお、同一または相当する部分には同一の参照符号を付して、その説明を繰り返さない。
【0018】
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10が適用される電子機器システム1の構成を概略的に示す断面図である。
【0019】
図1を参照して、電子機器システムに1は、筐体5内と、筐体5内に設置された複数のコンポーネント(部品)6、温度計測用の複数のセンサ装置3(3.1,3.2,3.3)、およびセンサ装置3で検出された検出データ(測温抵抗体の抵抗値)を収集するためのデータ収集装置2とを含む。
【0020】
各センサ装置3は、発光素子32を含み、各センサ装置3で検出した検出データを信号光Scを用いて伝送する。信号光Scとして、赤外光または可視光などを用いることができる。データ収集装置2は、受光素子211を含み、各センサ装置3からの信号光Scを受光する。図1では、このように光を使って空間伝送するので、ケーブル伝送の場合に比べて、ケーブル敷設に必要なスペースを削減できる。
【0021】
ここで、図1のようにコンポーネント6が高密度実装された電子機器システム1の場合、センサ装置3からデータ収集装置2に向かう信号光Scは、筐体5の内部のコンポーネント6が障壁となって、直接的にデータ収集装置2の受光素子211には到達しない。筐体5およびコンポーネント6の表面での反射・散乱により強度が減弱された信号光Scが、データ収集装置2の受光素子211に到達する主要成分となる。
【0022】
このように、信号光Scが反射経路をとるので、直接光に比べて、散乱および伝送距離の増加による信号強度の減衰が著しい。この対策として、発光素子32を大きくして信号光の出力強度を増大させることは、電子機器システム1の小型化・高密度化の要請のために限界がある。
【0023】
また、筐体5およびコンポーネント6の表面の複数箇所で反射した光が受光素子211に到達するので、信号光Scの伝送経路は、光路長が異なる複数の経路(マルチパス)になる。この場合、受光素子211の受光面積は光の波長よりも大きいので、空間ダイバシティの効果によってフェージングは生じない。しかしながら、マルチパス伝送によって信号波形に遅延歪みが生じ、この遅延歪みによって信号伝送特性が劣化する可能性がある。
【0024】
また、自由空間の光伝送であるので、筐体5が完全密閉されない環境では、照明や自然光による外部雑音が重畳する。このため信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)の改善にも限界がある。
【0025】
本発明によるセンサ信号伝送システムは、このような光拡散反射通信路が本質的に有する制約の中で、複数のセンサ装置3の検出データをデータ収集装置2に高精度(0.01%程度の誤差)で伝送する方法を提供するものである。
【0026】
図2は、本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0027】
図2を参照して、センサ信号伝送システム10は、複数のセンサ装置3とデータ収集装置2とを含む。図2では、複数のセンサ装置3を代表して1つのセンサ装置3が図示されている。
【0028】
センサ装置3は、センサ素子341を有するセンサ部34と、発光素子32を有する光信号出力部33とを含む。センサ素子341は、たとえば、測温抵抗体などの温度センサである。測温抵抗体は温度に応じて抵抗値が変化する。センサ部34は、センサ素子341の抵抗値を検出データとして検出する。センサ部34は、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する。そして、センサ部34は、第1、第2のタイミングを指定するタイミング信号Wtを光信号出力部33に出力する。
【0029】
図3は、タイミング信号Wtの一例を示す図である。図3の横軸は経過時間を示し、縦軸はタイミング信号Wtの信号強度を示す。
【0030】
図3を参照して、タイミング信号Wtは、第1のタイミングを指定する第1のパルスP1sendと、第2のタイミングを指定する第2のパルスP2sendとを含む。第1、第2のパルスP1send,P2sendの時間差Td1が、センサ素子341の検出データに対応する。なお、タイミング信号Wtは、図3のようなダブルパルスの形状でなくてもよい。たとえば、第1のタイミングで立上がり、第1のタイミングから時間Td1経過後の第2のタイミングで立ち下がる矩形波であってもよい。
【0031】
再び図2を参照して、光信号出力部33は、タイミング信号Wtを受けて、タイミング信号Wtが指定する第1、第2のタイミングをそれぞれトリガとして、1周期分の拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を出力する。ここで、拡散符号は、スペクトラム拡散通信に用いられるの符号系列であり、PN(擬似雑音:Pseudo-random Noise)符号とも呼ばれる。拡散符号としてM系列(Maximum Length Sequence)やGold符号系列などを例示することができる。拡散符号系列の周期(ビット数)mには、たとえばm=1023など、比較的長周期が用いられる。
【0032】
各センサ装置3には互いに異なる拡散符号が予め割当てられている。光信号出力部33は、自己に割当てられた拡散符号に対応する信号電流を発光素子32に流すことによって、光パルス列を出力する。発光素子32として、たとえば、発光ダイオード、半導体レーザなどを用いることができる。出力された第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2(信号光Sc)は、図1の筐体5内で反射および散乱した後、データ収集装置2に到達する。
【0033】
データ収集装置2は、受光部21と、相関値演算部22と、データ処理部24とを含む。受光部21は、フォトダイオードなどの受光素子211を含み、受光素子211によって、受信した信号光Scを電気信号に変換する。受光部21は、電気信号に変換した受信信号Srecを、増幅し、フィルタで整形する。本データ処理装置2では、同期若しくは非同期いずれにおいても以降の処理動作が実現できる。同期処理の場合、この後、受光部21は、受信信号Srecを、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)で量子化する。量子化のタイミングは、公知の同期捕捉の方法で、送信側の第1、第2のパルス列Sc1,Sc2の送信タイミングに同期させるのが望ましい。量子化された受信信号Srecは、相関値演算部22に出力される。しかし、実際にはセンサの送信タイミングを取得するのが困難な場合がある。このため非同期の場合でも、量子化手段の一種であるフラッシュADC(Analog to Digital Converter)を用いてトリガタイミング信号なしで連続して量子化することができる。また、後段の整合フィルタ22は、このような連続信号について実時間にて畳み込み演算による相関処理が可能な方式である。
【0034】
相関値演算部22は、同期処理の場合、現時刻より拡散符号の1周期mに相当する時間だけ前の時刻から現時刻までの間に受信した受信信号Srecの信号強度と各センサ装置3に割当てた拡散符号との相関値を計算する。相関値演算部22は、整合フィルタ(Matched Filter)によって構成され、相関値の計算をリアルタイムで行なうことができる。また、非同期処理の場合でも、拡散符号の信号タイミングや1周期信号分の時間管理を必要としない整合フィルタ22を用いて効率の良い相関処理が行なえる。整合フィルタの構成については、図7を参照して後述する。
【0035】
ここで、異なる拡散符号は互いにほぼ直交関係にあるので相関値はほぼ0である。したがって、受光部21で受光した第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2に対応する拡散符号との組合わせの場合にのみ、閾値を超える大きさの相関値が得られる。こうして、相関値演算部22は、受信信号Srecの中から、拡散符号に対応する特定のセンサ装置3から出力された第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を検出することができる。
【0036】
図4は、図2の相関値演算部22から出力された信号Wt−recvの波形の一例を示す図である。図4の横軸は経過時間を示し、縦軸は信号強度を示す。
【0037】
図4を参照して、第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の受信による受信信号Srecと、その光パルス列Sc1,Sc2に対応する拡散符号との相関値の計算結果を表わす信号Wt−recvは、2つピークをもつ信号である。第1のパルスP1recvが第1の光パルス列Sc1に対応し、第2のパルスP2recvが第2の光パルス列Sc2に対応する。したがって、それぞれのピークが閾値DLVLを越えたときの時間差Td1を計測することによって、センサ素子341の検出データを検知することができる。
【0038】
前述のように、複数のセンサ装置3からデータ収集装置2に到達する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の経路はマルチパスになっている。このため、受光部21に到達した時点における第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2を構成する各光パルスの形状は、遅延歪みによって送信時よりも幅広の形状に変化する。この場合、図4に示すように、相関値演算部から出力される相関値の信号Wt−recvの形状も幅広のパルスになる。この遅延歪みの影響は、第1の光パルス列Sc1と同一の経路を経てデータ収集装置2に到達すると第2の光パルス列Sc2にも及ぶ。しかしながら、検出データは、同様の遅延歪みが生じた第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の到着時刻の差Td1に対応しているので、時間差の測定精度には、マルチパスによる信号歪みの影響が直接的には関係しない。
【0039】
一方、複数のセンサ装置3からの光パルス列がほぼ同時刻に受光部21に到達した場合の生じ得る相互干渉や、背景光による雑音は、SNRを劣化させる要因となり得る。SNRが劣化した場合にはジッタが生じて、時間差の計測精度に影響を及ぼすことになる。しかし、この場合には、拡散符号のビット数mを増加させることによってSNRを改善させることが可能である。それぞれ時間差は、平均値を中心にランダムに変動する場合には、拡散符号ビット数回の加算による統計的データ処理を行なうことで、より平均時間差に近い値を得て、この時間変動率を改善することができる。
【0040】
このように、実施の形態1のセンサ信号伝送システム10では、センサ素子341の検出データが、センサ装置3からデータ収集装置2に出力される第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の出力時刻の時間差に変換される。したがって、見通し外の拡散反射通信路を用いた光空間伝送であっても、マルチパス伝送に起因する信号歪みの影響をほとんど受けずに高精度のデータ伝送を行なうことができる。しかも、各センサ装置3から出力される光パルス列は、互いに異なる拡散符号に対応しているので、複数のセンサ素子341の検出データを相互に干渉することなくデータ収集装置2に送信できる。
【0041】
さらに、センサ装置3にはA/D(Analog to Digital)変換手段が不要であるので、センサ装置3をコンパクトに構成することができる。また、空間伝送を用いるので、信号伝送ケーブルの敷設が不要となる。したがって、高密度化した電子機器内でのセンサ信号伝送システムの設計が容易になり、改修などのメンテナンスも簡単になるという利点がある。
【0042】
再び図2を参照して、データ処理部24は、相関値演算部22の出力信号Wt−recvを受けて、出力信号Wt−recvが、閾値DLVLを越えるタイミングを判定する。データ処理部24は、各拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列の受信によって、出力信号Wt−recv(相関値)が閾値DLVLを越える2度のタイミングを特定する。そして、データ処理部24は、閾値DLVLを超える2度のタイミングの時間差Td1を表わす信号TDMを出力する。なお、データ処理部24は、時間差Td1と検出データ(抵抗値)との対応関係に基づいて、時間差を検出データに、さらには検出温度に逆変換して出力することもできる。
【0043】
次に、実施の形態1のセンサ信号伝送方法を数式で説明する。
各センサ装置3は、図3の第1のパルスP1sendの生成時刻(前述の第1のタイミング)を起点の時刻t=0として、第1の光パルス列S(t)を出力する。ここで、光パルス列S(t)は、mビットの拡散符号系列C(k)(ただし、k=1,2,…,m、チップ周期Tc=2π/ω)を用いて以下の式で表わされる。以下の式において、δはディラックのデルタ関数であり、INTは引数を超えない最大の整数を示す関数である。また、Tは光パルス信号の出力周期であり(ただし、m・Tc<T/2)、周期TごとにPN符号系列C(k)の1周期分の光パルス信号が繰返し出力される。各周期Tごとにその時点におけるセンサ素子341の検出データが送信されることになる。
【0044】
【数1】
【0045】
また、伝送路上で強度減衰がない場合の時刻tにおける相関値D(t)(ただし、j=1,2,・・・,m)およびその最大値Dmaxは、以下の式で表わされる。
【0046】
【数2】
【0047】
第2の光パルス列についても、図3の第2のパルスP2sendの生成時刻(第2のタイミング)を起点t=0として、同様に考えることができる。
【0048】
図5は、拡散符号の一例を示す図である。図5に示す拡散符号は、周期m=1023ビットのGold符号系列の一部を示す。周期m=1023ビットのGold符号系列の場合、1周期中に1が512回、0が511回現れ、それぞれ出現頻度はランダムである。相関値の算出(逆拡散)のときに、白色性の外部雑音強度が単純加算平均により1/20になるので、信号の統計精度は改善される。
【0049】
このような拡散符号が各センサ装置3に割当てられる。このとき、異なるセンサ装置3には、周期が等しく異なる配列の拡散符号が割当てられる。光信号出力部33は、タイミング信号Wtに含まれる第1、第2のパルスP1send,P2sendをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する光パルス列Sc1,Sc2を出力する。
【0050】
図6は、データ収集装置2の受光部21から出力される受信信号Srecの一例を示す図である。図6の横軸は時間を示し、縦軸は信号強度を示す。図6を参照して、受信信号Srecは10台のセンサ装置3から出力されたPN(擬似雑音)信号が重畳されたものである。この受信信号Srecを用いて、相関値演算部22は、各センサ装置に対応するPN系列との相関値を計算する。異なるセンサ装置3には異なる拡散符号が割当てられているので、相関値演算部22は、センサ装置3ごとに受信信号Srecを分離することが可能になる。
【0051】
図7は、相関値演算部22の構成の一例を示すブロック図である。図7の相関値演算部22は整合フィルタとも呼ばれ、入力信号のタイミングを必要とせず、相関値の検出をリアルタイムで連続的に行なうことができる。
【0052】
図7を参照して、相関値演算部22は、m段のシフトレジスタ221(1)〜221(m)と、拡散符号生成回路224と、m個のAND回路222(1)〜222(m)と、総和回路223とを含む。m段のシフレジスタ221には、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)に等しいタイミングで量子化された受信信号Srecが入力される。m段のシフトレジスタ221に入力された受信信号Srecと、拡散符号生成回路224生成回路が出力する周期mのPN信号Srefとは、m個のAND回路222によってビットごとに乗積される。ビットごとの乗算結果が総和回路223によって加算され、相関値Wt−recvが出力される。
【0053】
ここで、実施の形態1の温度センサは、温度測定範囲が1℃〜100℃であり、計測精度が0.1%であるとする。この場合、測定温度に1℃〜100℃対応する第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の時間差Td1を0.1msec〜10msec(周波数範囲では、0.1kHz〜10kHz)とすれば、必要な時間分解能は100nsecとなる。したがって、図7に示す回路を10MHzの動作クロックで動作すればよいので、図7の相関値演算部22は、実現容易な回路構成となっている。
【0054】
なお、相関値演算部22は、図7に示す整合フィルタを複数個有する構成してもよい。この場合、複数のセンサ装置3から同時に第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2が送信されると、各センサ装置3に対応する拡散符号用いた相関値の演算を並列処理で行なうことができる。
【0055】
また、相関値演算部22の整合フィルタを、CCD(Charge Coupled Device)やSAW(Surface Acoustic Wave)素子などのアナログデバイスを用いて構成することもできる。この場合、受光部21は、量子化を行なわずに、アナログ量の受信信号Srecを相関値演算部22に出力する。さらに、相関値演算部22は、光信号を直接用いて光演算処理を行なうように構成することもできる。この場合には、受光部21は、受信した信号光Scをそのまま光増幅して相関値演算部22に出力する。
【0056】
図8は、相関値演算部22の出力波形の一例を示す図である。図8の横軸は時間であり、縦軸は信号強度を示す。図8に示すように、センサ装置3から伝送された光パルス列に対応したパルスP1recvが得られている。パルスP1recvは、後段のデータ処理部24で閾値判定が可能な良好なパルス波形である。
【0057】
図9は、図2の受光部21における量子化数と、相関値演算部22の出力波形のNS比との関係を示す図である。図9の縦軸は、相関値演算部22の出力波形のNS(Noise to Signal)比を百分率で示したものである。図9に示すように、受光部21における量子化数が6ビットの場合でも、相関値演算部22の出力波形のNS比は23%である。したがって、後段のデータ処理部24での閾値判定が十分に可能である。
【0058】
図10は、図2のセンサ信号伝送システム10における各信号波形を模式的に示すタイミング図である。図10の横軸は時間であり、縦軸は、上から順に、センサ部34から出力されるタイミング信号Wt、光信号出力部33から出力される信号光Sc(光パルス列)、相関値演算部22の出力波形Wt−recv、データ処理部24で計測された時間差を表わす信号TDMを示す。
【0059】
図10を参照して、時刻t1で出力されるパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。第1の光パルス列Sc1の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t2まで続く。
【0060】
次の時刻t2では、第1の光パルス列Sc1の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP1recvが生じる。データ処理部24は、パルスP1recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP1recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt2に等しい。
【0061】
次の時刻t3で出力されるパルスP2sendがトリガとなって、第2の光パルス列Sc2が出力される。時刻t1と時刻t3との時間差Td1は、センサ部34での検出データに対応する。第2の光パルス列Sc2の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t4まで続く。本データ収集装置2は、非同期動作を基本にしたので、出力信号である時間差Td1を精度良く求めることができる。送信タイミング信号による同期動作の場合でも、動作開始タイミングは内部クロックに対してまるめこまれることはない。整合フィルタが出力するP1recvとP2recv信号との時間差は、センサ装置3の出力するP1sendとP2send信号との時間差に対応するものであり、整合フィルタの非同期動作によって高い精度で求めることができる。
【0062】
次の時刻t4では、第2の光パルス列Sc2の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP2recvが生じる。データ処理部24は、パルスP2recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP2recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt4に等しい。さらに、データ処理部24は、両パルスP1recv,P2recv間の時間差を検出することによって、送信された検出データを再生することができる。
【0063】
時刻t5では、再びパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。時刻t6では、第1の光パルス列Sc1の受信に対応して、相関値演算部22の出力波形Wt−recvにピークが生じる。センサ部34の検出データに対応する時間が経過した時刻t7に、第2の光パルス列Sc2が出力される。次の時刻t8では、第2の光パルス列Sc2の受信に対応して、相関値演算部22の出力波形Wt−recvにピークが生じる。データ処理部24は、出力波形Wt−recvが閾値を超えるタイミングを測定する。このようにして、センサ素子341によって検出された検出データは、順次、センサ装置3からデータ収集装置2へと伝送される。
【0064】
図11は、実施の形態1のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
図11を参照して、センサ装置3は、センサ素子341によって検出データを取得すると(ステップS10)、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する(ステップS11)。続いて、センサ装置3は、第1のタイミングをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1の光パルス列Sc1を出力する(ステップS14)。第1のタイミングから時間Td1が経過した第2のタイミングをトリガとして、センサ装置3は、割当てられた拡散符号に対応する第2の光パルス列Sc2を出力する(ステップS15)。
【0065】
データ収集装置2は、センサ装置3から第1の光パルス列Sc1を受光すると(ステップS21)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS22)。データ収集装置2は、第1の光パルス列Sc1の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS23)。
【0066】
次に、データ収集装置2は、センサ装置3から第2の光パルス列Sc2を受光すると(ステップS24)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS25)。データ収集装置2は、第2の光パルス列Sc2の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS26)。
【0067】
そして、次のステップS27で,データ収集装置2は、前述のステップS23およびステップS26で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、センサ素子341の検出データに対応した時間差Td1に等しい。さらに、ステップS27で、データ収集装置2が、計測した時間差をセンサ素子341の検出データに逆変換するようにしてもよい。こうして、センサ素子341によって検出された検出データが、センサ装置3からデータ収集装置2へ伝送される。
【0068】
以上の説明は、図2に関連して述べたように、受信信号Srecは、光パルス列Sc1,Sc2の1ビットの時間刻み(チップ周期)で量子化するとして説明した。さらに、出力信号の時間差Td1の時間精度を上げるためには、1ビットの時間刻み(チップ周期)より短い周期、たとえば、1/2あるいは1/3の周期で量子化し、また整合フィルタ22のm段シフトレジスタ221のそれぞれに遅れ時間要素を挿入することで達成できる。
【0069】
[実施の形態2]
拡散反射伝送路を利用した信号伝送では、センサ装置3が配置される場所によって伝送路環境が大きく異なるので、信号光の受信強度がセンサ装置3ごとに大きくばらつくことがある。また、伝送路環境が経時的に変化するために、信号光の受信強度に変動が生じる場合もある。たとえば、埃などの表面汚染によって、表面の反射率が変化したり、筐体が密閉されていない場合には日光や照明によってSNRが変動したりする。さらに、電子機器のメンテナンスなどによって内部コンポーネントの再組立てを行なった場合に、現状に復帰しないこともある。拡散反射伝送路を利用した自由空間伝送の場合は、ケーブル伝送の場合に比べて伝送路環境の微妙な変化が受信特性に影響する。
【0070】
このような原因によって、信号光の受信強度がセンサ装置3ごとに異なると、信号光の受信強度と拡散符号との相関値について閾値判定をするときに、センサ装置3ごとに閾値のレベルを変化させなければならないという不都合が生じる。そこで、実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aでは、受光部21での受信時の信号強度を揃えるために、光信号出力部35は、光パルス列の出力強度を調節するための信号強度調節手段を含む。
【0071】
図12は、本発明の実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aの構成を概略的に示すブロック図である。図12のセンサ信号伝送システム10Aの光信号出力部35は、増幅度の調節可能な減衰補償アンプ351をさらに含む点において、実施の形態1のセンサ信号伝送システム10と異なる。その他の点については、実施の形態1と共通するので、共通する部分には同一の参照符号を付して説明を繰返さない。なお、センサ信号伝送システム10Aは、実際には、複数のセンサ装置3Aを含むけれども、図12では、複数のセンサ装置3Aを代表して1つのセンサ装置3Aを図示している。
【0072】
図12を参照して、減衰補償アンプ351は、発光素子32の駆動電流を変化させることによって、信号光Sc(光パルス列)の出力強度を調節する信号強度調節手段である。n台のセンサ装置3Aが設けられている場合、各センサ装置3Aの減衰補償アンプ351に入力される信号強度をS1〜Snとし、減衰補償アンプ351の増幅率をA1〜Anとし、各センサ装置3Aからデータ収集装置2に至る信号光伝送路の減衰率をξ1〜ξnとする。そうすると、データ収集装置2で受信する受信信号の信号強度Srecは、
Srec=ξ1・A1・S1+ξ2・A2・S2+・・・+ξn・An・Sn
・・・(5)
と表わされる。各センサ素子341の特性が同一であるとすれば、信号強度S1=S2=・・・=Snが近似的に成立する。一方、伝送路の減衰率ξ1〜ξnは、センサ素子3Aごとに大きくばらつく。そこで、ξ1・A1=ξ2・A2=・・・=ξn・An=constとなるように、減衰補償アンプ351の増幅率をA1〜Anを調節する。これによって、センサ素子3ごとの伝送路の減衰率ξ1〜ξnのばらつきが補正されて、センサ装置3から到達する信号光の信号光を均等にすることができる。
【0073】
図13は、相関値演算部22の出力信号と閾値レベルDLVLとの関係を説明するための図である。図13は、伝送路の減衰率が異なる結果、相関値演算部22の出力信号の強度が異なっている場合を対比して示している。図13に示すように、Bの信号強度は、Aの信号強度に比べて、伝送路の減衰率が大きいために小さくなっている。このため、Aの信号強度が閾値レベルDLVLを超える時刻がt1であるのに対して、Bの信号強度が閾値レベルDLVLを超える時刻はt2となって遅れる。
【0074】
ここで、本発明では、センサ素子341の検出データを第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2の送信時刻の時間差に変換して伝送している。したがって、図13のような信号強度の変化に起因する時刻の遅れは、第1、第2の光パルス列Sc1,Sc2に等しく生じることになるので、時間差の検出精度には影響しない。これに対して、信号強度の変化が適正範囲を超えてしまうと、一定の閾値レベルDLVLでは相関値の変化を検出できなくなる。実施の形態2の減衰補償アンプ351は、このような適正範囲を超える信号強度の変化が生じた場合に特に効果がある。また、工場出荷時、据付初期、あるいは運用時には定期的に校正するのが望ましいので、減衰補償アンプ351を校正機能を備えることで、供用期間中の計測精度を確保させることができる。
【0075】
[実施の形態3]
実施の形態3は、各センサ装置3Bで、センサ素子341の検出データを時間差Td1に変換するときの変換誤差を校正する手段を提供するものである。
【0076】
図14は、本発明の実施の形態3のセンサ信号伝送システム10Bの構成を概略的に示すブロック図である。図14を参照して、センサ信号伝送システム10Bは、互いに異なる拡散符号が割当てられた複数のセンサ装置3Bとデータ収集装置2Bとを含む。図14では、複数のセンサ装置3Bを代表して1つのセンサ装置3Bが図示されている。
【0077】
センサ装置3Bは、センサ部36と光信号出力部35とを含む。センサ部36は、センサ素子341の他に校正用素子342をさらに含む点で、実施の形態1,2のセンサ部34と異なる。校正用素子342は、センサ素子341の測定対象である温度の変化に対して、抵抗値がほとんど変化しない抵抗体である。
【0078】
センサ部36は、第1〜第3のタイミングを指定するタイミング信号Wttを光信号出力部35に出力する。第1、第2のタイミングの時間差は、実施の形態1,2と同様に、センサ素子341(測温抵抗体)の検出データ(抵抗値)に対応する。また、第2、第3のタイミングの時間差は、校正用素子342の校正用データ(抵抗値)に対応する。ここで、センサ部36は、校正用素子342の抵抗値についても、センサ素子341の抵抗値と同様の電気回路を用いて時間差に変換するので、センサ素子341の検出データの校正が可能になる。
【0079】
光信号出力部35は、タイミング信号を受けて、第1〜第3のタイミングをそれぞれトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を出力する。光信号出力部35の構成は実施の形態1,2と同様であるので、詳しい説明を繰返さない。
【0080】
データ収集装置2Bは、受光部21と、相関値演算部22と、データ処理部25とを含む。受光部21および相関値演算部22の構成は、実施の形態1と同様であるので、詳しい説明を繰返さない。
【0081】
図14の受光部は、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を受光して、受光した信号を電気信号に変換した受信信号Srecとして出力する。相関値演算部22は、受信信号Srecの信号強度と拡散符号との相関値を算出する。この結果、相関値演算部22の出力信号Wtt−recvには、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3の受信時刻に対応して、第1〜第3のパルスP1recv,P2recv,P3recvが現れる。
【0082】
データ処理部25は、これら第1〜第3のパルスP1recv,P2recv,P3recvの閾値判定を行なって、検出データに対応する第1、第2のパルスP1recv,P2recvの時間差Td1と、校正用データに対応する第2、第3のパルスP2recv,P3recvの時間差Td2とを測定する。データ処理部25は、測定した時間差Td1,Td2を表わす信号TDM1,TDM2を出力する。
【0083】
なお、データ処理部25において、検出データおよび校正用データと時間差Td1,Td2との対応関係に基づいて、測定した時間差Td1,Td2を検出データおよび校正用データに逆変換することもできる。したがって、逆変換した検出データおよび校正用データの比を求めれば、センサ素子341の検出データを校正用素子342の校正用データで校正することができる。
【0084】
図15は、図14のセンサ部36の構成の一例を示す回路図である。図14のセンサ部36は、スイッチング素子としてのトランジスタTr1,Tr2を有する無安定マルチバイブレータ361を含む。無安定マルチバイブレータ361では、トランジスタTr1,Tr2のオン/オフの期間が、コンデンサの充放電時間によって決定される。
【0085】
図15を参照して、センサ部36は、センサ素子341としての測温抵抗体と、校正用素子342としての抵抗体と、抵抗素子R1,R2と、PNP型トランジスタ343,344と、NPN型トランジスタTr1,Tr2と、コンデンサ345,346と、パルス生成器347とを含む。まず、センサ部36の各要素の接続関係を説明する。電源ノードVcと接地ノードGNDとの間に、抵抗素子R1とトランジスタTr1とが直列に接続される。同様に、電源ノードVcと接地ノードGNDとの間に、抵抗素子R2とトランジスタTr2とが直列に接続される。また、電源ノードVcとトランジスタTr1のベースNB1との間に、測温抵抗体341とトランジスタ343が直列に接続される。同様に、電源ノードVcとトランジスタTr2のベースNB2との間に、抵抗体342とトランジスタ344が直列に接続される。また、トランジスタTr1のコレクタNC1とトランジスタTr2のベースNB2とが、コンデンサ345を介して接続される。同様に、トランジスタTr2のコレクタNC2とトランジスタTr1のベースNB1とが、コンデンサ346を介して接続される。トランジスタ343,344のベースにはバイアス電圧Vb1,Vb2が供給される。トランジスタTr2のコレクタNC2から出力信号TFが取出され、パルス生成器347によってパルス信号Wttに変換される。
【0086】
次に、図15のセンサ部36の動作について説明する。測温抵抗体341およびトランジスタ343と、抵抗体342とトランジスタ344とは、それぞれ定電流出力手段である。この出力直流電流によって、トランジスタ343,344のコレクタ端子に接続された充電用のコンデンサ345,346が充電される。コンデンサ345,346の充電時間は、充電電流の一次関数となっている。
【0087】
ここで、トランジスタTr2のオン時(トランジスタTr1のオフ時)の場合のコンデンサ346の充電電流Ic343は、電源電圧Vc、バイアス電圧Vb1、測温抵抗体341の抵抗値Rtを用いて次式で表わされる。ただし、Vbe343は、トランジスタ343の順方向電圧(約0.6V)である。
【0088】
Ic343=(Vc−Vb1−Vbe343)/Rt ・・・(6)
この電流Ic343によってコンデンサ346が充電されるので、トランジスタTr2の次の状態遷移までのオン時間Tonは、コンデンサ346の静電容量をCchg346として、
Ton=(Vc−dV)×Cchg346/Ic343
=(Vc−dV)×Rt×Cchg346/(Vc−Vb1−Vbe343)
・・・(7)
と表わされる。ここで、トランジスタTr1,Tr2の飽和電圧をVsat(約0.1V)、トランジスタ344の順方向電圧をVbe344として、
dV=Vsat+Vbe343−Vbe344=Vsat ・・・(8)
である。
【0089】
同様に、トランジスタTr1のオン時(トランジスタTr2のオフ時)の場合のコンデンサ345の充電電流Ic344は、電源電圧Vc、バイアス電圧Vb2、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcを用いて次式で表わされる。ただし、Vbe344は、トランジスタ344の順方向電圧(約0.6V)である。
【0090】
Ic344=(Vc−Vb2−Vbe344)/Rc ・・・(9)
この電流Ic344によってコンデンサ345が充電されるので、トランジスタTr2の次の遷移時間までのオフ時間Toffは、コンデンサ345の静電容量をCchg345として、
Toff=(Vc−Vsat)×Cchg345/Ic344
=(Vc−Vsat)×Rc×Cchg345
/(Vc−Vb2−Vbe344) ・・・(10)
と表わされる。
【0091】
この結果、トランジスタTr2のコレクタNC2から出力信号TFは、LレベルがTonのあいだ続き、HレベルがToffのあいだ続く矩形波である。パルス生成器347は、出力信号TFの立下り、立上がりに応答してパルスを出力する。具体的には、第1の光パルス列Sc1の出力時刻である第1のタイミングが、トランジスタTr2のオフからオンへの遷移(出力信号TFのHレベルからLレベルへの変化)に対応する。第2の光パルス列Sc2の出力時刻である第2のタイミングが、トランジスタTr2のオンからオフへの遷移(出力信号TFのLレベルからHレベルへの変化)に対応する。また、第3の光パルス列Sc3の出力時刻である第3のタイミングが、トランジスタTr2のオフからオンへの遷移(出力信号TFのHレベルからLレベルの変化)に対応する。したがって、第1、第2のタイミングの時間差Td1がトランジスタTr2のオン時間Tonに対応し、第2、第3のタイミングの時間差Td2がトランジスタTr2のオフ時間Toffに対応することになる。すなわち、式(7)、式(10)を用い、K1,K2を電源電圧Vcおよびバイアス電圧Vb1,Vb2などによって決まる定数とすれば、
Td1=Ton=K1×Rt ・・・(11)
Td2=Toff=K2×Rc ・・・(12)
と表わされる。
【0092】
データ収集装置2Bは、第1〜第3の光パルス列Sc1〜Sc3を受信して、これらの受信時刻の時間差Td1,Td2を求める。求めた時間差Td1,Td2は、センサ部36のトランジスタTr2のオン時間Tonおよびオフ時間Toffに等しい。そして、オン時間Tonは、測温抵抗体341の抵抗値Rtに対応し、オフ時間は、高精度な校正用の抵抗体342の抵抗値Rcに対応する。したがって、受信時刻の時間差Td1,Td2に比を求めれば、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcで測温抵抗体341の抵抗値Rtを校正することができる。
【0093】
センサ部36に供給される電源電圧Vc、バイアス電圧Vb1,Vb2は、安定化電源を用いても長期にわたって高精度を維持することが困難である。これらの電圧Vc,Vb1,Vb2が不安定であれば、センサ部36から出力されるタイミング信号Wttが指定する時間差Td1,Td2に誤差をもたらすことになる。そこで、実施の形態3では、測温抵抗体341の抵抗値Rtに対応する時間差Td1と、校正用の抵抗体342の抵抗値Rcに対応する時間差Td2との両方を、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bに送信することによって、バイアス電圧などの変動が原因となる検出誤差を補正することが可能な構成となっている。
【0094】
図16は、図14のセンサ信号伝送システム10Bにおける各信号波形を模式的に示すタイミング図である。図16の横軸は時間であり、縦軸は、上から順に、図15のトランジスタTr2のコレクタNC2の出力電圧TF,図14のセンサ部36から出力されるタイミング信号Wtt、光信号出力部35から出力される信号光Sc(光パルス列)、相関値演算部22の出力波形Wtt−recv、データ処理部25で計測した時間差を表わす信号TDM1,TDM2を示す。
【0095】
図16を参照して、時刻t1で出力されるパルスP1sendがトリガとなって、第1の光パルス列Sc1が出力される。第1の光パルス列Sc1の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t2まで続く。
【0096】
次の時刻t2では、第1の光パルス列Sc1の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP1recvが生じる。データ処理部25は、パルスP1recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP1recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt2に等しい。
【0097】
次の時刻t3で出力されるパルスP2sendがトリガとなって、第2の光パルス列Sc2が出力される。時刻t1と時刻t3との時間差Td1は、センサ部36で検出する検出データに対応する。第2の光パルス列Sc2の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t4まで続く。
【0098】
次の時刻t4では、第2の光パルス列Sc2の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP2recvが生じる。データ処理部25は、パルスP2recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP2recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt4に等しい。さらに、データ処理部25は、両パルスP1recv,P2recv間の時間差を検出することによって、送信された検出データを検知することができる。
【0099】
次の時刻t5で出力されるパルスP3sendがトリガとなって、第3の光パルス列Sc3が出力される。時刻t3と時刻t5との時間差Td2は、センサ部36で検出する校正用データに対応する。第3の光パルス列Sc3の出力は、拡散符号の1周期に対応する時間が経過する時刻t6まで続く。
【0100】
次の時刻t6では、第3の光パルス列Sc3の受信によって、相関値演算部22の出力にパルスP3recvが生じる。データ処理部25は、パルスP3recvが閾値を越える時刻を判定する。パルスP3recvの立上がりは十分に急峻であるので、この時刻はほぼt6に等しい。さらに、データ処理部25は、両パルスP2recv,P3recv間の時間差を検出することによって、送信された校正用データを検知することができる。
【0101】
なお、図15のセンサ部36の回路を用いる場合には、上記の時刻t5で出力されるパルスP3sendは、次に取得した検出データの送信タイミングを指定する第1のパルスP1sendも兼ねている。したがって、第3の光パルス列Sc3の出力は、次に取得したデータを出力するための第1の光パルス列Sc1に対応する。
【0102】
次に、実施の形態3のセンサ信号伝送方法を数式で説明する。
各センサ装置3Bは、図16の第1のパルスP1sendの生成時刻(第1のタイミング)を起点t=0として、第1の光パルス列S(t)を出力する。さらに、時間Td1が経過した第2のパルスP2sendの生成時刻(第2のタイミング)t=Td1を起点として第2の光パルス列S(t)を出力する。光パルス列S(t)は、mビットの拡散符号系列C(k)(ただし、k=1,2,…,m、チップ周期Tc=2π/ω)を用いて以下の式で表わされる。以下の式において、δはディラックのデルタ関数であり、INTは引数を超えない最大の整数を示す関数である。また、T=Td1+Td2は光パルス信号の出力周期であり(ただし、m・Tc<T/2)、周期Tごとに第1の光パルス列と第2の光パルス列とが繰返し出力される。この場合、第1の光パルス列は、第3の光パルス列も兼ねる。
【0103】
【数3】
【0104】
また、伝送路上で強度減衰がない場合の時刻tにおける相関値D(t)(ただし、j=1,2,・・・,m)およびその最大値Dmaxは、以下の式で表わされる。
【0105】
【数4】
【0106】
式(17)に示す相関値D(t)の最大値Dmaxは、第1、第2の光パルス列の受信に対応して、1周期Tごとに2回現れる。
【0107】
図17は、実施の形態3のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
図16、図17を参照して、センサ装置3Bは、センサ素子341によって検出データを取得すると(ステップS10)、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換する(ステップS11)。次に、センサ装置3Bは、校正用素子342によって校正用データを取得すると(ステップS12)、校正用データを第2、第3のタイミングの時間差Td2に変換する(ステップS13)。続いて、センサ装置3Bは、第1のタイミングをトリガとして、割当てられた拡散符号に対応する第1の光パルス列Sc1を出力する(ステップS14)。第1のタイミングから時間Td1が経過した第2のタイミングをトリガとして、センサ装置3Bは、割当てられた拡散符号に対応する第2の光パルス列Sc2を出力する(ステップS15)。さらに、第2のタイミングから時間Td2が経過した第3のタイミングをトリガとして、センサ装置3B、割当てられた拡散符号に対応する第3の光パルス列Sc3を出力する(ステップS16)。
【0108】
データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第1の光パルス列Sc1を受光すると(ステップS21)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS22)。データ収集装置2Bは、第1の光パルス列Sc1の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS23)。次に、データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第2の光パルス列Sc2を受光すると(ステップS24)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS25)。データ収集装置2Bは、第2の光パルス列Sc2の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS26)。そして、次のステップS27で,データ収集装置2Bは、前述のステップS23およびステップS26で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、センサ素子341の検出データに対応した時間差Td1に等しい。さらに、ステップS27で、データ収集装置2Bが、計測した時間差をセンサ素子341の検出データに逆変換するようにしてもよい。こうして、センサ素子341によって検出された検出データが、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bへ伝送される。
【0109】
また、データ収集装置2Bは、センサ装置3Bから第3の光パルス列Sc3を受光すると(ステップS28)、受光した信号強度と拡散符号との相関値を計算する(ステップS29)。データ収集装置2Bは、第3の光パルス列Sc3の受光によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定する(ステップS30)。そして、次のステップS31で,データ収集装置2Bは、前述のステップS26およびステップS30で相関値が閾値を超えたタイミングの時間差を計測する。この時間差は、校正用素子342の校正用データに対応した時間差Td2に等しい。さらに、ステップS31で、データ収集装置2Bが、計測した時間差を校正用素子342の校正用データに逆変換するようにしてもよい。こうして、校正用素子342によって検出された校正用データが、センサ装置3Bからデータ収集装置2Bへ伝送される。
【0110】
なお、上述のセンサ信号伝送方法において、検出データを第1、第2のタイミングの時間差Td1に変換し、校正用データを第3、第4のタイミングの時間差Td2に変換することもできる。この場合、センサ装置は、第1〜第4のタイミングをトリガとして、拡散符号にそれぞれ対応する第1〜第4の光パルス列を出力する。データ収集装置は、第1、第2の光パルス列の受信によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定し、判定結果から検出データに対応する時間差Td1を再生する。また、データ収集装置は、第3、第4の光パルス列の受信によって相関値が閾値を超えるタイミングを判定し、判定結果から校正用データに対応する時間差Td2を再生する。
【0111】
[実施の形態4]
実施の形態4は、実施の形態1〜3のデータ収集装置2,2Bの受光部21を、高感度の増幅器を用いて構成したものである。
【0112】
図18は、本発明の実施の形態4の受光部21の構成を示すブロック図である。図18を参照して、受光部21は、受光素子としてのフォトダイオード211と、前置増幅器212と、整形フィルタ付の増幅器213と、量子化器214とを含む。信号光Scには、波長850nmを中心とする赤外光が使用される。
【0113】
前置増幅器212は、微弱光パルスが検出可能なように構成され、等価雑音電荷数Qeとして3000〜5000を有するパルス電荷積算型光センサアンプである。図18に示すように、前置増幅器212は、並列接続された高感度アンプ212Aおよびコンデンサ212Bを含み、信号光Scによってフォトダイオード211に生成された電荷を積算して増幅する。
【0114】
整形フィルタ付の増幅器213は、前置増幅器212の出力を受けて、SNRが高くなるように、最適パルス整形を行なう。パルス整形時定数は、筐体内の多重散乱(マルチパス)に起因する100nsec程度の時間遅れによる信号波形の歪(遅延歪)を考慮したものである。マルチパスに起因する遅延歪の影響を除去するために、増幅器213のパルス整形時定数は、チップ周期Tc(PN符号系列の1ビットあたりの周期)に等しくするのが望ましい。しかしながら、必ずしもパルス整形時定数をチップ周期Tcに一致させなくても、相関値演算部22の出力信号の立上がりは十分に急峻であるので、遅延歪による時刻の計測精度への影響は少ないと考えられる。
【0115】
図19は、図18の整形フィルタ付の増幅器213の構成の一例を示す回路図である。図19を参照して、増幅器213は、前置増幅器212の出力を微分する微分回路71、微分回路の出力を増幅する増幅器74、増幅器74の出力を積分する積分回路75、および積分回路75の出力を増幅する増幅器78を含む。また、微分回路71は、コンデンサ72および抵抗素子73を含み、積分回路75は、抵抗素子76およびコンデンサ77を含む。図19の増幅器213の場合、整形時定数はコンデンサ72,77の容量と抵抗素子73,76の抵抗値との積で表わされる。
【0116】
今回開示された各実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0117】
たとえば、上述の各実施の形態では、電子機器の筐体内の複数箇所に設置された温度センサ(測温抵抗体)の検出データをデータ収集装置に光空間伝送する場合について説明した。しかし、本発明は必ずしもこのような例に限るものでない。
【0118】
たとえば、温度センサには、測温抵抗体以外に熱電対を用いることもできる。また、本発明は、温度以外の物理量を検出するセンサにも適用可能である。たとえば、加速度計、歪ゲージ、音響センサ、磁気センサなど、物理量を電気量に変換することが可能なあらゆるセンサに適用することができる。
【0119】
また、本発明は、筐体内に多数のモジュールが実装された精密電子機器の温度管理以外に、一般的な電子機器システムの環境温度測定に適用可能である。たとえば、本発明は、ハーネス布線を望まない環境温度監視が必要なプロセス製造装置に好適である。また、今後、高機能および小型化が要求される人工衛星などにも本発明を好適に用いることができる。人工衛星では、筐体およびコンポーネントの健全性をチェックするために各部温度を連続モニタリングする必要があるからである。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10が適用される電子機器システム1の構成を概略的に示す断面図である。
【図2】本発明の実施の形態1のセンサ信号伝送システム10の構成を概略的に示すブロック図である。
【図3】タイミング信号Wtの一例を示す図である。
【図4】図2の相関値演算部22から出力された信号Wt−recvの波形の一例を示す図である。
【図5】拡散符号の一例を示す図である。
【図6】データ収集装置2の受光部21から出力される受信信号Srecの一例を示す図である。
【図7】相関値演算部22の構成の一例を示すブロック図である。
【図8】相関値演算部22の出力波形の一例を示す図である。
【図9】図2の受光部21における量子化数と、相関値演算部22の出力波形のNS比との関係を示す図である。
【図10】図2のセンサ信号伝送システム10における各信号波形を模式的に示すタイミング図である。
【図11】実施の形態1のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施の形態2のセンサ信号伝送システム10Aの構成を概略的に示すブロック図である。
【図13】相関値演算部22の出力信号と閾値レベルDLVLとの関係を説明するための図である。
【図14】本発明の実施の形態3のセンサ信号伝送システム10Bの構成を概略的に示すブロック図である。
【図15】図14のセンサ部36の構成の一例を示す回路図である。
【図16】図14のセンサ信号伝送システム10Bにおける各信号波形を模式的に示すタイミング図である。
【図17】実施の形態3のセンサ信号伝送方法の手順を示すフローチャートである。
【図18】本発明の実施の形態4の受光部21の構成を示すブロック図である。
【図19】図18の整形フィルタ付の増幅器213の構成の一例を示す回路図である。
【符号の説明】
【0121】
2,2B データ収集装置、3,3A,3B センサ装置、5 筐体、6 コンポーネント(部品)、10,10A,10B センサ信号伝送システム、21 受光部、22 相関値演算部、24,25 データ処理部、33,35 光信号出力部、34,36 センサ部、341 センサ素子(測温抵抗体)、342 校正用素子(抵抗体)、351 減衰補償アンプ(信号強度調節手段)、361 非安定マルチバイブレータ、DLVL 閾値、Sc1〜Sc3 第1〜第3の光パルス列、Td1,Td2 時間差、Tr1,Tr2 トランジスタ(スイッチング素子)、Wt,Wtt タイミング信号、Wt−recv,Wtt−recv 相関値演算部22の出力信号(相関値)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサ装置を備え、前記センサ装置は、
センサ素子を有し、前記センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換し、第1のタイミングと前記第1のタイミングから前記第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとを指定するタイミング信号を出力するセンサ部と、
前記タイミング信号を受け、前記第1、第2のタイミングをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力する光信号出力部とを含み、
前記検出データを収集するためのデータ収集装置をさらに備え、
前記データ収集装置は、
受光強度を検知する受光部と、
現時刻より前記拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から前記現時刻までの前記受光強度と前記拡散符号との相関値を時々刻々求める相関値演算部と、
前記第1、第2の光パルス列の受光によって前記相関値が予め定められた閾値を越えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定し、前記第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記センサ素子の検出データに逆変換するデータ処理部とを含む、センサ信号伝送システム。
【請求項2】
前記センサ部は、さらに、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子を有し、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換し、
前記タイミング信号は、さらに、前記第2のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第5のタイミングを指定し、
前記光信号出力部は、さらに、前記第5のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3の光パルス列を出力し、
前記データ処理部は、さらに、前記第3の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第6のタイミングとして特定し、前記第4、第6のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項3】
前記センサ素子は、温度に応じて抵抗値が変化する温度センサであり、
前記校正用素子は、前記温度の変化に対して抵抗値が略一定の抵抗体であり、
前記センサ部は、非安定マルチバイブレータを含み、
前記非安定マルチバイブレータは、前記センサ素子と、前記校正用素子と、前記センサ素子および前記校正用素子の抵抗値に応じた周期でそれぞれスイッチングする第1、第2のスイッチング素子とを有し、
前記第1のスイッチング素子のオン時間は、前記第1の時間差に対応し、
前記第2のスイッチング素子のオン時間は、前記第2の時間差に対応する、請求項2に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項4】
前記センサ部は、さらに、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子を有し、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換し、
前記タイミング信号は、さらに、第5のタイミングと前記第5のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第6のタイミングとを指定し、
前記光信号出力部は、さらに、前記第5、第6のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応した第3、第4の光パルス列をそれぞれ出力し、
前記データ処理部は、さらに、前記第3、第4の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第7、第8のタイミングとして特定し、前記第7、第8タイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項5】
前記センサ信号伝送システムは、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられた複数の前記センサ装置を備え、
複数の前記センサ装置および前記データ収集装置は、筐体内に複数の部品とともに設けられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項6】
前記センサ信号伝送システムは、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられた複数の前記センサ装置を備え、
複数の前記センサ装置からそれぞれ出力された複数の前記第1、第2の光パルス列を前記受光部が受光したときの受光強度を揃えるために、前記光信号出力部は、前記第1、第2の光パルス列を出力するときの信号強度を調節するための信号強度調節手段を有する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項7】
センサ装置にそれぞれ設けられたセンサ素子の検出データを、データ収集装置へ伝送するセンサ信号伝送方法であって、
前記センサ装置が、前記センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、第1のタイミングと前記第1のタイミングから前記第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力するステップと、
前記データ収集装置が、受光強度を検知するステップと、
前記データ収集装置が、現時刻より前記拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から前記現時刻までの前記受光強度と前記拡散符号との相関値を時々刻々求めるステップと、
前記データ収集装置が、前記第1、第2の光パルス列の受光によって前記相関値が予め定める閾値を超えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記センサ素子の検出データに逆変換するステップとを備える、センサ信号伝送方法。
【請求項8】
前記センサ装置は、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子をさらに有し、
前記センサ信号伝送方法は、
前記センサ装置が、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、前記第2のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第5のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3の光パルス列を出力するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第6のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第4、第6のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換するステップとをさらに備える、請求項7に記載のセンサ信号伝送方法。
【請求項9】
前記センサ装置は、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子をさらに有し、
前記センサ信号伝送方法は、
前記センサ装置が、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、第5のタイミングと前記第5のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第6のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3、第4の光パルス列をそれぞれ出力するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3、第4の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第7、第8のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第7、第8のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換するステップとをさらに備える、請求項7に記載のセンサ信号伝送方法。
【請求項10】
前記センサ装置は、複数個設けられ、
複数の前記センサ装置には、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられ、
複数の前記センサ装置および前記データ収集装置は、筐体内に複数の部品とともに設けられる、請求項7〜9のいずれか1項に記載のセンサ信号伝送方法。
【請求項1】
センサ装置を備え、前記センサ装置は、
センサ素子を有し、前記センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換し、第1のタイミングと前記第1のタイミングから前記第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとを指定するタイミング信号を出力するセンサ部と、
前記タイミング信号を受け、前記第1、第2のタイミングをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力する光信号出力部とを含み、
前記検出データを収集するためのデータ収集装置をさらに備え、
前記データ収集装置は、
受光強度を検知する受光部と、
現時刻より前記拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から前記現時刻までの前記受光強度と前記拡散符号との相関値を時々刻々求める相関値演算部と、
前記第1、第2の光パルス列の受光によって前記相関値が予め定められた閾値を越えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定し、前記第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記センサ素子の検出データに逆変換するデータ処理部とを含む、センサ信号伝送システム。
【請求項2】
前記センサ部は、さらに、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子を有し、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換し、
前記タイミング信号は、さらに、前記第2のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第5のタイミングを指定し、
前記光信号出力部は、さらに、前記第5のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3の光パルス列を出力し、
前記データ処理部は、さらに、前記第3の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第6のタイミングとして特定し、前記第4、第6のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項3】
前記センサ素子は、温度に応じて抵抗値が変化する温度センサであり、
前記校正用素子は、前記温度の変化に対して抵抗値が略一定の抵抗体であり、
前記センサ部は、非安定マルチバイブレータを含み、
前記非安定マルチバイブレータは、前記センサ素子と、前記校正用素子と、前記センサ素子および前記校正用素子の抵抗値に応じた周期でそれぞれスイッチングする第1、第2のスイッチング素子とを有し、
前記第1のスイッチング素子のオン時間は、前記第1の時間差に対応し、
前記第2のスイッチング素子のオン時間は、前記第2の時間差に対応する、請求項2に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項4】
前記センサ部は、さらに、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子を有し、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換し、
前記タイミング信号は、さらに、第5のタイミングと前記第5のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第6のタイミングとを指定し、
前記光信号出力部は、さらに、前記第5、第6のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応した第3、第4の光パルス列をそれぞれ出力し、
前記データ処理部は、さらに、前記第3、第4の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第7、第8のタイミングとして特定し、前記第7、第8タイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項5】
前記センサ信号伝送システムは、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられた複数の前記センサ装置を備え、
複数の前記センサ装置および前記データ収集装置は、筐体内に複数の部品とともに設けられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項6】
前記センサ信号伝送システムは、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられた複数の前記センサ装置を備え、
複数の前記センサ装置からそれぞれ出力された複数の前記第1、第2の光パルス列を前記受光部が受光したときの受光強度を揃えるために、前記光信号出力部は、前記第1、第2の光パルス列を出力するときの信号強度を調節するための信号強度調節手段を有する、請求項1に記載のセンサ信号伝送システム。
【請求項7】
センサ装置にそれぞれ設けられたセンサ素子の検出データを、データ収集装置へ伝送するセンサ信号伝送方法であって、
前記センサ装置が、前記センサ素子を用いて検出した検出データを第1の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、第1のタイミングと前記第1のタイミングから前記第1の時間差だけ遅れた第2のタイミングとをトリガとして、拡散符号に対応する第1、第2の光パルス列をそれぞれ出力するステップと、
前記データ収集装置が、受光強度を検知するステップと、
前記データ収集装置が、現時刻より前記拡散符号の1周期に相当する時間だけ前の時刻から前記現時刻までの前記受光強度と前記拡散符号との相関値を時々刻々求めるステップと、
前記データ収集装置が、前記第1、第2の光パルス列の受光によって前記相関値が予め定める閾値を超えた時刻を第3、第4のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3、第4のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記センサ素子の検出データに逆変換するステップとを備える、センサ信号伝送方法。
【請求項8】
前記センサ装置は、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子をさらに有し、
前記センサ信号伝送方法は、
前記センサ装置が、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、前記第2のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第5のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3の光パルス列を出力するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第6のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第4、第6のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換するステップとをさらに備える、請求項7に記載のセンサ信号伝送方法。
【請求項9】
前記センサ装置は、前記センサ素子が測定対象とする物理量の変化に対して特性が略一定の校正用素子をさらに有し、
前記センサ信号伝送方法は、
前記センサ装置が、前記校正用素子を用いて得られた校正用データを第2の時間差に変換するステップと、
前記センサ装置が、第5のタイミングと前記第5のタイミングから前記第2の時間差だけ遅れた第6のタイミングをトリガとして、前記拡散符号に対応する第3、第4の光パルス列をそれぞれ出力するステップと、
前記データ収集装置が、前記第3、第4の光パルス列の受光によって前記相関値が前記閾値を超えた時刻を第7、第8のタイミングとして特定するステップと、
前記データ収集装置が、前記第7、第8のタイミングの時間差を求め、求めた時間差を前記校正用素子の校正用データに逆変換するステップとをさらに備える、請求項7に記載のセンサ信号伝送方法。
【請求項10】
前記センサ装置は、複数個設けられ、
複数の前記センサ装置には、互いに異なる複数の前記拡散符号がそれぞれ割当てられ、
複数の前記センサ装置および前記データ収集装置は、筐体内に複数の部品とともに設けられる、請求項7〜9のいずれか1項に記載のセンサ信号伝送方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2009−199423(P2009−199423A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41407(P2008−41407)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
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