センサ
【課題】全体のシステムを複雑にすることなく、微小信号がより高速に検出できるようにする。
【解決手段】第1細線チャネル101aより構成される第1電界効果トランジスタ101と、第2細線チャネル102aより構成される第2電界効果トランジスタ102と、第1細線チャネル101aの一方に接続するとともに第2細線チャネル102aに容量を介して接続する電荷蓄積部103と、第1細線チャネル101aの他方に接続する電子溜め部104と、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧を制御して電子溜め部104から電荷蓄積部103への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御部105と、第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の、蓄積電荷制御部105による制御の前後における変化を検出する電流検出部106とを備える。
【解決手段】第1細線チャネル101aより構成される第1電界効果トランジスタ101と、第2細線チャネル102aより構成される第2電界効果トランジスタ102と、第1細線チャネル101aの一方に接続するとともに第2細線チャネル102aに容量を介して接続する電荷蓄積部103と、第1細線チャネル101aの他方に接続する電子溜め部104と、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧を制御して電子溜め部104から電荷蓄積部103への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御部105と、第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の、蓄積電荷制御部105による制御の前後における変化を検出する電流検出部106とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小信号を高速に検出するセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気的なセンサでは、電圧、電流、電荷などの電気信号を増幅することで動作する素子が用いられている。代表的な素子としてトランジスタがあり、トランジスタに様々な現象や物質、他素子を組み合わせることで、光やガス、圧力など多くのものが検出できるため多くの場面で利用されている。
【0003】
このようなセンサの重要な性能として、検出可能な信号検出分解能および最小信号値がある。分解能はノイズに埋もれないで検出できる信号の変化量である。また、最小信号値は、分解能の絶対値である。信号が小さくなるほどノイズの影響が大きくなるため、性能を上げる方法として一般的に検出値を平均化している。この平均化のための平均時間や数が多いほど性能を向上できるが、測定時間が長くなるという問題が発生する。近年のトランジスタの微細化技術や回路設計技術を利用することで分解能は単一電子レベルまで向上し検出可能最小信号値も改善されているが、上述しように、ノイズの影響により測定速度には限界があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、確率共鳴現象の利用がある。例えば、図6Aに示すような矩形波信号を検出する場合を例にする。この信号よりも大きなノイズがある場合、通常、信号を検出することは困難である。しかし、閾値となる基準信号を導入し、矩形波信号とノイズをあわせた信号が閾値よりも大きなときに、出力信号を出す閾値回路を用意する。このとき、閾値とノイズの大きさを調整することにより、本来検出したい信号と同等の信号を出力することが可能となる現象が確率共鳴である。この現象により通常では検出できない小さな信号やノイズに埋もれた信号を検出することが可能となる。
【0005】
閾値とノイズ、および入力と出力信号の相関値の関係を図6Bに示す。相関値は、いかに似ているかを示す値で大きいほど似ていることを示す値である。図6Bから分かるように、ノイズを最適化する必要があり、同様のことが閾値の設定にも言える。これを解決する方法として、図6Cに示すように、閾値回路を複数個並べ、各々の閾値回路に個別のノイズを印加し、全閾値回路の出力を合計するネットワーク・システムがある。この方法により、入力信号と出力信号の相関値を改善できるだけでなく、ノイズや閾値の調整が容易になる(図6D)。この効果は閾値回路が多いほど大きい(非特許文献1参照)
【0006】
上述では、入力信号として矩形波を考えたが、任意の信号でも同様の現象を利用できる。また、出力信号として単一電子、ノイズとしてショットノイズを利用することでも、上述同様のことが実現できる(非特許文献2参照)。これらのような確率共鳴を利用することで、微小信号を検出できるだけでなく、ノイズに埋もれた信号を高速に検出できるようになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.J.Collins et al. , "Stochastic resonance without tuning", NATURE, vol.378, pp236-238, 1995.
【非特許文献2】K.Nishiguchi et al. , "Single-electron stochastic resonance using Si nano-wire transistors",22th International Microprocesses and Nanotechnology Conference, pp.470-471, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した技術では、確率共鳴現象を効果的に利用するために、複数の回路および出力信号を合計する回路が必要となり、全体のシステムが複雑となるという問題がある。また、検出する信号の周波数帯域をカバーするノイズを外部から印加する必要があるため、特に高周波帯域は技術的に困難な場合もある。このため、例えば、より高速な検出のために高周波帯域の信号を用いている場合、信号検出に確率共鳴現象が利用できなくなる。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、全体のシステムを複雑にすることなく、微小信号がより高速に検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセンサは、第1細線チャネルより構成される第1電界効果トランジスタと、第2細線チャネルより構成される第2電界効果トランジスタと、第1細線チャネルの一方に接続するとともに第2細線チャネルに容量を介して接続する電荷蓄積部と、第1細線チャネルの他方に接続する電子溜め部と、第1電界効果トランジスタのゲート電極および電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を制御して電子溜め部から電荷蓄積部への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御手段と、電荷蓄積部への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する第2電界効果トランジスタに流れる電流値の、蓄積電荷制御手段による制御の前後における変化を検出する電流検出手段と、蓄積電荷制御手段の制御により電荷蓄積部へ注入された電荷の数を、電流検出手段が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出手段と、この電荷数算出手段が算出した電荷の数より電子溜め部および第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する信号検出手段とを備える。
【0011】
上記センサにおいて、信号検出手段は、予め求めてある電子溜め部および第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化と蓄積電荷制御手段の制御により電荷蓄積部へ注入された電荷の数との関係を用い、信号の変化を導出するようにすればよい。
【0012】
上記センサにおいて、電子溜め部,第1電界効果トランジスタ,電荷蓄積部,および第2電界効果トランジスタより構成された複数のユニットを備え、複数のユニットは、各々の第2電界効果トランジスタが直列に接続され、蓄積電荷制御手段は、複数の第1電界効果トランジスタのゲート電極および複数の電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、電流検出手段は、直列に接続された複数の第2電界効果トランジスタに流れる電流値の変化を検出し、電荷数算出手段は、電流検出手段が検出した電流値の変化により複数の電荷蓄積部へ注入された電荷の数の合計を算出し、信号検出手段は、電荷数算出手段が算出した合計の電荷の数より複数の電子溜め部および複数の第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出するようにしてもよい。
【0013】
上記センサにおいて、電流検出手段が電流値の変化を検出した後で、電荷蓄積部に注入された電荷を電子溜め部に放出させる放出制御電圧を電荷蓄積部に印加する放出制御電圧印加手段を備えるようにしてもよい。また、第2電界効果トランジスタのゲート電極に、電荷蓄積部への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧を印加するトランジスタ動作制御電圧印加手段を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したことにより、本発明によれば、全体のシステムを複雑にすることなく、微小信号がより高速に検出できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す構成図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの一部構成を示す構成図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す平面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す断面である。
【図1E】図1Eは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す断面である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4A】図4Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4B】図4Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4C】図4Cは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4D】図4Dは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図5A】図5Aは、本発明の実施の形態2におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図5B】図5Bは、本発明の実施の形態2におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図6A】図6Aは、矩形波信号を検出する構成を説明するための構成図である。
【図6B】図6Bは、矩形波信号の検出における、閾値とノイズ、および入力と出力信号の相関値の関係を示す説明図である。
【図6C】図6Cは、複数の閾値回路を並列に接続し、また、各閾値回路に個別のノイズを印加し、全ての閾値回路の出力の合計する構成としたセンサの構成を示す構成図である。
【図6D】図6Dは、閾値回路の数と信号−出力の相関値との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0017】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1Aは、本発明の実施の形態におけるセンサの構成を示す構成図である。このセンサは、まず、第1細線チャネル101aより構成される第1電界効果トランジスタ101と、第2細線チャネル102aより構成される第2電界効果トランジスタ102と、第1細線チャネル101aの一方に接続するとともに第2細線チャネル102aに容量を介して接続する電荷蓄積部103と、第1細線チャネル101aの他方に接続する電子溜め部104とを備える。
【0018】
また、このセンサは、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧(Ves,Vcg1)を制御して電子溜め部104から電荷蓄積部103への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御部105と、電荷蓄積部103への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の、蓄積電荷制御部105による制御の前後における変化を検出する電流検出部106と、蓄積電荷制御部105の制御で電荷蓄積部103へ注入された電荷の数を、電流検出部106が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出部107と、電荷数算出部107が算出した電荷の数より電子溜め部104に入力された信号の変化を導出する信号検出部108とを備える。信号検出部108は、導出した信号の変化を出力信号として出力する。
【0019】
本実施の形態におけるセンサによれば、電子溜め部104に信号が入力され、蓄積電荷制御部105の制御により、電子溜め部104から電荷蓄積部103へ電荷が注入される状態とすると、電荷蓄積部103には、入力された信号に対応する電荷(例えば電子)が注入されるようになる。このとき、蓄積電荷制御部105による制御で、電荷が注入される平均的な時間は正確に制御できる。これに対し、電荷の注入自体はポアソン過程に従うので、注入されている個々の電荷の注入(移動)の間隔は、ランダムとなる。言い換えると、この電荷の伝導(注入)は、ショットノイズに相当する。従って、電荷蓄積部103への電荷の注入は、確率共鳴を利用したものとなる。
【0020】
以上のようにして電荷蓄積部103に電荷が注入されると、第2電界効果トランジスタ102のソース・ドレイン間に流れる電流Idが変化する。この電流変化を電流検出部106で検出し、検出した電流変化により電荷数算出部107が、電荷蓄積部103に蓄積された電荷の数を算出する。電荷蓄積部103に注入される電荷の数と第2電界効果トランジスタ102に流れる電流の関係とを予め把握しておけば、上述した電流変化により電荷の数が算出できる。なお、第2電界効果トランジスタ102のゲート電極に、バイアスとして印加するゲート電圧により、電荷蓄積部103に注入される電荷の数と第2電界効果トランジスタ102に流れる電流の関係とを調整することができる。
【0021】
ここで、上述したように電荷蓄積部103に蓄積される電荷の数は、電子溜め部104に入力された信号に対応して変化する。この対応関係(相関)を予め把握し、信号検出部108に記憶させておけば、信号検出部108では、記憶されている対応関係を用い、電荷数算出部107が算出した電荷の数より入力された信号の変化が導出できる。
【0022】
ところで、図1Bに示すように、放出制御電圧Vcg2を電荷蓄積部103に印加する制御電極(放出制御電圧印加手段)111を備えるようにしてもよい。放出制御電圧Vcg2は、電流検出部106が電流値の変化を検出した後で、電荷蓄積部103に注入された電荷を電子溜め部104の側に放出させるための制御電圧である。また、第2電界効果トランジスタ102のゲート電極に、電荷蓄積部103への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧Vcg3を印加する制御電極(トランジスタ動作制御電圧印加手段)112を備えるようにしてもよい。
【0023】
図1Bを用いて説明した回路構成は、例えば、図1C,図1D,および図1Eに示すように形成すればよい。図1Cは平面図、図1D,図1Eは断面図である。
【0024】
上記回路構成は、例えば、よく知られたSOI(Silicon on insulator)基板を利用して形成可能である。SOI基板は、基部121と、基部121の上に配置する埋め込み絶縁層122と、埋め込み絶縁層122の上に配置されるSOI層123とを備える。まず、SOI層123をパターニングすることで、第1細線チャネル101a,第2細線チャネル102a,ソース部102b,ドレイン部102c,および電子溜め部104などを形成すればよい。第1細線チャネル101aは、一端に電子溜め部104が接続した状態に一体に形成すればよい。また、第1細線チャネル101aの他端の側に、所定の距離離間して第2細線チャネル102aが配置されるようにすればよい。
【0025】
また、SOI層123に形成した上記各部分の上に、層間絶縁層124を形成し、層間絶縁層124の上に、制御電極111および制御電極113を形成すればよい。制御電極113は、第1細線チャネル101のゲート電極となる。制御電極111および制御電極113は、例えば、第1細線チャネル101aの延在方向とは垂直な方向に延在する形状とすればよい。例えば、層間絶縁層124の上に形成した電極材料膜を、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術により加工することで、制御電極111および制御電極113が形成できる。
【0026】
また、制御電極111および制御電極113の上に層間絶縁層125を形成し、この上に、制御電極112を形成すればよい。なお、制御電極112は、層間絶縁層125の上に形成する必要はない。例えば、層間絶縁層124の上で、第2細線チャネル102aに容量接続するように制御電極112を配置してもよい。
【0027】
上述したように形成した制御電極113と第1細線チャネル101aとの交差する箇所から電子溜め部104との接続部分までの領域で、第1電界効果トランジスタ101が構成される。また、第1細線チャネル101aの他端の部分をゲート電極とし第2細線チャネル102aをチャネルとして第2電界効果トランジスタ102が構成される。
【0028】
第1細線チャネル101aおよび第2細線チャネル102aの設計寸法は、断面形状が縦横10nm程度となっていればよい。また、制御電極113より第2電界効果トランジスタ102の側に延在している第1細線チャネル101aの長さは、数10nm〜数100nm程度とすればよい。また、制御電極111および制御電極113の断面形状は、縦横10nm程度とすればよい。
【0029】
また、例えば、図1Eの断面図に示すように、第1細線チャネル101aを跨ぐように制御電極111を形成してもよい。このようにすることで、第1電界効果トランジスタ101による電子溜め部104と電荷蓄積部103との間の素電荷の動きの制御を効果的に行うことが可能となる。
【0030】
また、第2細線チャネル102aは、断面の縦横が数10nmであればよい。また、ソース部102bおよびドレイン部102cの間の第2細線チャネル102aの長さは、数10nm〜数100nmであればよい。また、第1細線チャネル101aの他端(電荷蓄積部103)と、第2細線チャネル102aとの間隔は、数nm〜数10nmが望ましい。
【0031】
次に、第2電界効果トランジスタ102を利用した電荷蓄積部103に蓄積される電荷の検出方法を説明する。以下では、電子の検出を例に説明する。電子は後述の方法で電子溜めとなる電子溜め部104から電荷蓄積部103に、第1電界効果トランジスタ101を通って蓄積される。これに伴い、第2電界効果トランジスタ102のソース・ドレイン間の電流Idの特性は、図2に示すように、制御電極112による制御電圧Vcg3に対し、正の方向に電荷量に応じてシフトする。
【0032】
このとき、Vcg3を固定して電流Idをモニタすると、電子数に応じて電流が変わるので、電荷蓄積部103内の電子数を検出することができる。また、図2から明らかなように、制御電極112に印加する電圧Vcg3で、注入された電子数と第2電界効果トランジスタ102を流れる検出電流Idの関係を調整することができる。正確に電子数を検出するには、第2電界効果トランジスタ102のトランスコンダクタンス(Id/Vcg3の微分値)が大きくなるVcg3に設定すればよい。制御電極112を用いずに、第2細線チャネル102aの形状やドープする不純物の濃度によって、第2電界効果トランジスタ102のトランスコンダクタンス調整することもできる。
【0033】
次に、本発明の中核である単一電子を電荷蓄積部103に注入する原理を説明する。前述したように、電荷蓄積部103は、第1電界効果トランジスタ101に接続された構造となる。第1電界効果トランジスタ101のゲート電極となる制御電極113を用いて第1電界効果トランジスタ101をオフの状態にすると、制御電極113下部の第1細線チャネル01aには図3Aの各図に示すようにエネルギーバリアが形成される。これにより、電荷蓄積部103と電子溜め部104とが電気的に切断された状態となる。
【0034】
電荷蓄積部103のエネルギーは、容量的に接続された制御電極111に印加する電圧で制御することができる。例えば、制御電極111に所定の電圧を印加して電荷蓄積部103のエネルギーを電子溜め部104のエネルギーより下げることで、図3Aの(b)に示すように、電子が電子溜め部104から電荷蓄積部103に注入される。このとき、電子溜め部104と制御電極113で形成したエネルギーバリアのエネルギー差つまりVes−Vcg1により電子が注入される平均的な時間間隔は正確に制御できる。一方、電子注入自体はポアソン過程に従うので、個々の電子注入時間間隔は常にランダムとなる。換言すると、この電子伝導はショットノイズに相当する。
【0035】
これらを示す結果の一例を図3Bに示す。なお、図3Bにおいて、実線は、例えば、上述したエネルギーバリアを低くして電子が注入され易い状態とした場合の電流変化を示し、点線は、エネルギーバリアを高くして電子が注入され難い状態とした場合の電流変化を示している。図3Bに示すように、いずれの状態においても、電流Idが、1つの電子(1e)の段差で、δtの間隔で階段状に変化している。δtが、1つの電子が電荷蓄積部103に移動するタイミングを示している。なお、電荷蓄積部103に蓄積された電子は、制御電極111で電荷蓄積部103のエネルギーを上昇させることで電子溜め部104の側に放出できる。
【0036】
次に、信号を検出する方法をより詳細に説明する。図4Aおよび図4Bに示すように、ステップ(i)の電荷蓄積部103に電子がない状態から、蓄積電荷制御部105の制御により、ステップ(ii)でVesにより電子溜め部104のエネルギーを高くし、ステップ(iii)でVcg1の印加により電子溜め部104と電荷蓄積部103の間のエネルギーバリアを下げ、電子溜め部104より電荷蓄積部103に電子が注入される状態とする。「エネルギーバリアを下げる」とは、第1電界効果トランジスタ101をオン状態にすることである。このとき、注入される電子数の平均値は、図4Cに示すように、Ves-L−Vcg1-Hにより制御できる。なお、Ves-Lは、電子溜め部104のエネルギーを低い状態とする電圧であり、Vcg1-Hは、第1電界効果トランジスタ101をオン状態とする電圧である。
【0037】
次に、再度、第1電界効果トランジスタ101をオフ状態とするVcg1の印加によりエネルギーバリアを上昇させると電子注入が止まる[ステップ(iv)]。図4Bの中の拡大図に示すように、ステップ(ii)における電流Idとステップ(iv)における電流Idとの差から、電荷蓄積部103内の電子数を導出する。続いて、ステップ(v)で、制御電極111に対するVcg2の印加により電荷蓄積部103の電子を放出し、初期状態のステップ(i)に戻す。
【0038】
ステップ(ii)における電流Idとステップ(iv)における電流Idとの差から電荷蓄積部103の電子数を導出することにより、次に示す2つの利点が得られる。第1の利点は、個々の電子注入速度が非常に速くIdの測定速度が追いつかない場合でも、最終的に電荷蓄積部103に注入された電子数を導出できる点である。また、第2の利点は、ステップ(v)で電荷蓄積部103に存在する電子を全て放出できない場合でも、ステップ(iii)で注入された電子数を導出できる点である。
【0039】
図4Bに示す各電圧波形は、次のように決定することができる。まず、Ves-H>Ves-Lとすることが望ましいがVes-H=Ves-Lとしても良い。Vcg2-H>Vcg2-L、およびVcg1-H>Vcg1-Lが必須である。Vcg2-HおよびVes-Lは、ステップ(iii)において、電荷蓄積部103のエネルギーが電子溜め部104のエネルギーより低くなる条件ではなくてはならない。Vcg2-LおよびVcg1-Lは、ステップ(v)において電荷蓄積部103のエネルギーがエネルギーバリアより高くなる条件とすることが望ましい。Ves-LおよびVcg1-Lは、ステップ(ii)およびステップ(iv)において、電子が電荷蓄積部103に注入されない条件としなければならない。t2とt4はIdが測定できる時間間隔であれば良い。t5は電荷蓄積部103から電子を放出することが出来る時間間隔であれば良く、Vcg1-H−Vcg1-Lを大きくすることにより短くすることが可能である。t1は、制限するパラメータはなくゼロとしても良い。
【0040】
検出したい入力信号はVes-Lとして電子溜め部104に印加する。例えば、電子溜め部104にフォトダイオードを接続することで、所謂MOS型のイメージセンサとして利用できる。また、前述のようにVes-H=Ves-Lとすると回路は簡素化できる。これにより、ショットノイズを利用した確率共鳴現象により微小な入力信号を検出できるようになる。また、Vcg1-Hを制御することによって、図4Dに示すように入力信号と出力信号の相関値を上げることが可能となる。図4Dに示すように、Vcg1-Hを−1.65V程度とすることで、いずれのt3においても、より高い相関値が得られるようになる。なお、図4Dに示すように、Vcg1-Hを高くする過程で、相関値が極大値を示す状態となっており、この結果より、電荷蓄積部103への電荷(電子)の注入において、確率共鳴現象が得られていることがわかる。
【0041】
また、電荷蓄積部103への電子注入頻度が変わらないほどt3が小さい場合、ステップ(iii)の入力信号の変化量は、電荷蓄積部103に注入される電子数の合計を出力として考えることができる。このように、本実施の形態によれば、図6Cを用いて説明した構成のように、複数の素子(閾値回路)を接続して出力を合計したことと同様の効果が得られる。これは、複数の素子で行っていた並列処理を、1つの素子に時分割で信号を入力することに相当する。また、ショットノイズを利用して確率共鳴現象を実現しているため高速動作が可能となる。これは、ショットノイズが広い周波数帯域に渡るフラットなノイズスペクトラムを保証するためである。
【0042】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2では、次に示すように、信号の検出を行う。なお、センサの構成は、前述した実施の形態1と同様である。
【0043】
図5Aおよび図5Bに示すように、ステップ(i)の電荷蓄積部103に電子がない状態から、蓄積電荷制御部105の制御により、ステップ(ii)でVcg1により電子溜め部104と電荷蓄積部103の間のエネルギーバリアを下げ 、ステップ(iii)で電子溜め部104のエネルギーをVesで上げ、電子溜め部104より電荷蓄積部103に電子が注入される状態とする。このとき、注入される電子数の平均値は図4Cに示したように、Ves-L−Vcg1-Hにより制御できる。次に、ステップ(iv)で、電子溜め部104のエネルギーをVesで下げると、電荷蓄積部103への電子注入が止まる。
【0044】
以上のように操作するなかで、ステップ(ii)での電流Idとステップ(iv)での電流Idとの差から、電荷蓄積部103内の電子数を導出する。続いて、ステップ(v)で、電荷蓄積部103の電子を放出して初期状態のステップ(i)に戻す。ステップ(ii)での電流Idとステップ(iv)での電流Idとの差から電荷蓄積部103の電子数を導出することにより、前述した実施の形態と同様の利点が得られる。
【0045】
第1の利点は、個々の電子注入速度が非常に速くIdの測定速度が追いつかない場合でも、最終的に電荷蓄積部103に注入された電子数を導出できる点である。また、第2の利点は、ステップ(v)で電荷蓄積部103に存在する電子を全て放出できない場合でも、ステップ(iii)で注入された電子数を導出できる点である。
【0046】
本実施の形態において、図5Bに示す各電圧は次のように決定すればよい。Ves-H>Ves-LかつVcg2-H>Vcg2-Lが、重要となる。Vcg1-H>Vcg1-Lであることが望ましいが、Vcg1-H=Vcg1-Lでも良い。Vcg2-HおよびVes-Lはステップ(iii)において、電荷蓄積部103のエネルギーが電子溜め部104のエネルギーより低いことが重要である。Vcg2-LおよびVcg1-Lは、ステップ(v)において電荷蓄積部103のエネルギーが、エネルギーバリア(第1電界効果トランジスタ101)より高くなる条件とすることが望ましい。Ves-HおよびVcg1-Hは、ステップ(ii)およびステップ(iv)において、電子が電荷蓄積部103に注入されない条件とすることが重要となる。
【0047】
t2およびt4は、Idが測定できる時間間隔であれば良い。t5は、電荷蓄積部103から電子を放出することができる時間間隔であれば良く、Vcg1-H−Vcg1-Lを大きくすることにより短くすることが可能である。t1は、制限するパラメータはなくゼロとしても良い。
【0048】
検出したい入力信号は、Vcg1-Hとして第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に印加する。これにより入力インピーダンスを無限大とすることができ、ショットノイズを利用した確率共鳴現象により、微小な入力信号を検出できるようになる。なお、上述したように電荷蓄積部103に蓄積される電荷の数は、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に入力された信号に対応して変化する。この対応関係(相関)を予め把握し、信号検出部108に記憶させておけば、信号検出部108では、記憶されている対応関係を用い、電荷数算出部107が算出した電荷の数より入力された信号の変化が導出できる。また、Ves-Lを制御することによって、図4Dを用いた説明と同様に、入力信号と出力信号の相関値を上げることができる。
【0049】
また、電荷蓄積部103への電子注入頻度が変わらないほどt3が小さい場合、ステップ(iii)の入力信号の変化量は、電荷蓄積部103に注入される電子数の合計を出力として考えることができる。このように、本実施の形態においても、図6Cを用いて説明した構成のように、複数の素子(閾値回路)を接続して出力を合計したことと同様の効果が得られる。これは、複数の素子で行っていた並列処理を、1つの素子に時分割で信号を入力することに相当する。また、ショットノイズを利用して確率共鳴現象を実現しているため高速動作が可能となる。これは、ショットノイズが広い周波数帯域に渡るフラットなノイズスペクトラムを保証するためである。
【0050】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、種々の組み合わせおよび多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述した各実施の形態において、ステップ(iii)の時間t3を長くすることで、図4Dに示すように、入力信号と出力信号との相関値をより高くすることができる。これは、図6Cを用いた説明における閾値回路の数を増加することに相当するためである。
【0051】
また、電子溜め部104,第1電界効果トランジスタ101,電荷蓄積部103,および第2電界効果トランジスタ102より構成された複数のユニットを備え、複数のユニットは、各々の第2電界効果トランジスタ102を直列に接続し、蓄積電荷制御部105は、複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および複数の電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、電流検出部106は、直列に接続された複数の第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の変化を検出し、電荷数算出部107は、電流検出部106が検出した電流値の変化により複数の電荷蓄積部103へ注入された電荷の数の合計を算出し、信号検出部108は、電荷数算出部107が算出した合計の電荷の数より、複数の電子溜め部104および複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に入力された信号の変化を導出するようにしてもよい。入力信号は、複数の電子溜め部104もしくは複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に、共通に入力される。
【0052】
このようにすることで、より高速に微小な入力信号を検出することができるようになる。なお、この構成の場合、素子の数は増加するが、図6Cを用いて説明したシステムに比較し、外部より個々のユニットに独立したノイズを印加する必要が無く、全体として簡略化が可能となる。
【0053】
また、上述では、主に、電荷として電子の場合について説明したが、これに限るものではなく、電荷として正孔を用いるようにしてもよい。正孔を用いる場合、各々の制御電圧として印加する電圧の正負を反転させればよい。
【0054】
以上に説明したように、本発明のセンサによれば、電界効果トランジスタが有するショットノイズを用いた確率共鳴現象により、シンプルな素子構造で、高速に微小な信号を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
101…第1電界効果トランジスタ、101a…第1細線チャネル、102…第2電界効果トランジスタ、102a…第2細線チャネル、103…電荷蓄積部、104…電子溜め部、105…蓄積電荷制御部、106…電流検出部、107…電荷数算出部、108…信号検出部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、微小信号を高速に検出するセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気的なセンサでは、電圧、電流、電荷などの電気信号を増幅することで動作する素子が用いられている。代表的な素子としてトランジスタがあり、トランジスタに様々な現象や物質、他素子を組み合わせることで、光やガス、圧力など多くのものが検出できるため多くの場面で利用されている。
【0003】
このようなセンサの重要な性能として、検出可能な信号検出分解能および最小信号値がある。分解能はノイズに埋もれないで検出できる信号の変化量である。また、最小信号値は、分解能の絶対値である。信号が小さくなるほどノイズの影響が大きくなるため、性能を上げる方法として一般的に検出値を平均化している。この平均化のための平均時間や数が多いほど性能を向上できるが、測定時間が長くなるという問題が発生する。近年のトランジスタの微細化技術や回路設計技術を利用することで分解能は単一電子レベルまで向上し検出可能最小信号値も改善されているが、上述しように、ノイズの影響により測定速度には限界があった。
【0004】
この問題を解決する手段として、確率共鳴現象の利用がある。例えば、図6Aに示すような矩形波信号を検出する場合を例にする。この信号よりも大きなノイズがある場合、通常、信号を検出することは困難である。しかし、閾値となる基準信号を導入し、矩形波信号とノイズをあわせた信号が閾値よりも大きなときに、出力信号を出す閾値回路を用意する。このとき、閾値とノイズの大きさを調整することにより、本来検出したい信号と同等の信号を出力することが可能となる現象が確率共鳴である。この現象により通常では検出できない小さな信号やノイズに埋もれた信号を検出することが可能となる。
【0005】
閾値とノイズ、および入力と出力信号の相関値の関係を図6Bに示す。相関値は、いかに似ているかを示す値で大きいほど似ていることを示す値である。図6Bから分かるように、ノイズを最適化する必要があり、同様のことが閾値の設定にも言える。これを解決する方法として、図6Cに示すように、閾値回路を複数個並べ、各々の閾値回路に個別のノイズを印加し、全閾値回路の出力を合計するネットワーク・システムがある。この方法により、入力信号と出力信号の相関値を改善できるだけでなく、ノイズや閾値の調整が容易になる(図6D)。この効果は閾値回路が多いほど大きい(非特許文献1参照)
【0006】
上述では、入力信号として矩形波を考えたが、任意の信号でも同様の現象を利用できる。また、出力信号として単一電子、ノイズとしてショットノイズを利用することでも、上述同様のことが実現できる(非特許文献2参照)。これらのような確率共鳴を利用することで、微小信号を検出できるだけでなく、ノイズに埋もれた信号を高速に検出できるようになる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】J.J.Collins et al. , "Stochastic resonance without tuning", NATURE, vol.378, pp236-238, 1995.
【非特許文献2】K.Nishiguchi et al. , "Single-electron stochastic resonance using Si nano-wire transistors",22th International Microprocesses and Nanotechnology Conference, pp.470-471, 2009.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した技術では、確率共鳴現象を効果的に利用するために、複数の回路および出力信号を合計する回路が必要となり、全体のシステムが複雑となるという問題がある。また、検出する信号の周波数帯域をカバーするノイズを外部から印加する必要があるため、特に高周波帯域は技術的に困難な場合もある。このため、例えば、より高速な検出のために高周波帯域の信号を用いている場合、信号検出に確率共鳴現象が利用できなくなる。
【0009】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、全体のシステムを複雑にすることなく、微小信号がより高速に検出できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るセンサは、第1細線チャネルより構成される第1電界効果トランジスタと、第2細線チャネルより構成される第2電界効果トランジスタと、第1細線チャネルの一方に接続するとともに第2細線チャネルに容量を介して接続する電荷蓄積部と、第1細線チャネルの他方に接続する電子溜め部と、第1電界効果トランジスタのゲート電極および電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を制御して電子溜め部から電荷蓄積部への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御手段と、電荷蓄積部への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する第2電界効果トランジスタに流れる電流値の、蓄積電荷制御手段による制御の前後における変化を検出する電流検出手段と、蓄積電荷制御手段の制御により電荷蓄積部へ注入された電荷の数を、電流検出手段が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出手段と、この電荷数算出手段が算出した電荷の数より電子溜め部および第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する信号検出手段とを備える。
【0011】
上記センサにおいて、信号検出手段は、予め求めてある電子溜め部および第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化と蓄積電荷制御手段の制御により電荷蓄積部へ注入された電荷の数との関係を用い、信号の変化を導出するようにすればよい。
【0012】
上記センサにおいて、電子溜め部,第1電界効果トランジスタ,電荷蓄積部,および第2電界効果トランジスタより構成された複数のユニットを備え、複数のユニットは、各々の第2電界効果トランジスタが直列に接続され、蓄積電荷制御手段は、複数の第1電界効果トランジスタのゲート電極および複数の電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、電流検出手段は、直列に接続された複数の第2電界効果トランジスタに流れる電流値の変化を検出し、電荷数算出手段は、電流検出手段が検出した電流値の変化により複数の電荷蓄積部へ注入された電荷の数の合計を算出し、信号検出手段は、電荷数算出手段が算出した合計の電荷の数より複数の電子溜め部および複数の第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出するようにしてもよい。
【0013】
上記センサにおいて、電流検出手段が電流値の変化を検出した後で、電荷蓄積部に注入された電荷を電子溜め部に放出させる放出制御電圧を電荷蓄積部に印加する放出制御電圧印加手段を備えるようにしてもよい。また、第2電界効果トランジスタのゲート電極に、電荷蓄積部への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧を印加するトランジスタ動作制御電圧印加手段を備えるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したことにより、本発明によれば、全体のシステムを複雑にすることなく、微小信号がより高速に検出できるようになるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1A】図1Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す構成図である。
【図1B】図1Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの一部構成を示す構成図である。
【図1C】図1Cは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す平面図である。
【図1D】図1Dは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す断面である。
【図1E】図1Eは、本発明の実施の形態1におけるセンサの構成を示す断面である。
【図2】図2は、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図3A】図3Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図3B】図3Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4A】図4Aは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4B】図4Bは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4C】図4Cは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図4D】図4Dは、本発明の実施の形態1におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図5A】図5Aは、本発明の実施の形態2におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図5B】図5Bは、本発明の実施の形態2におけるセンサの動作を説明するための説明図である。
【図6A】図6Aは、矩形波信号を検出する構成を説明するための構成図である。
【図6B】図6Bは、矩形波信号の検出における、閾値とノイズ、および入力と出力信号の相関値の関係を示す説明図である。
【図6C】図6Cは、複数の閾値回路を並列に接続し、また、各閾値回路に個別のノイズを印加し、全ての閾値回路の出力の合計する構成としたセンサの構成を示す構成図である。
【図6D】図6Dは、閾値回路の数と信号−出力の相関値との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0017】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について説明する。図1Aは、本発明の実施の形態におけるセンサの構成を示す構成図である。このセンサは、まず、第1細線チャネル101aより構成される第1電界効果トランジスタ101と、第2細線チャネル102aより構成される第2電界効果トランジスタ102と、第1細線チャネル101aの一方に接続するとともに第2細線チャネル102aに容量を介して接続する電荷蓄積部103と、第1細線チャネル101aの他方に接続する電子溜め部104とを備える。
【0018】
また、このセンサは、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧(Ves,Vcg1)を制御して電子溜め部104から電荷蓄積部103への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御部105と、電荷蓄積部103への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の、蓄積電荷制御部105による制御の前後における変化を検出する電流検出部106と、蓄積電荷制御部105の制御で電荷蓄積部103へ注入された電荷の数を、電流検出部106が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出部107と、電荷数算出部107が算出した電荷の数より電子溜め部104に入力された信号の変化を導出する信号検出部108とを備える。信号検出部108は、導出した信号の変化を出力信号として出力する。
【0019】
本実施の形態におけるセンサによれば、電子溜め部104に信号が入力され、蓄積電荷制御部105の制御により、電子溜め部104から電荷蓄積部103へ電荷が注入される状態とすると、電荷蓄積部103には、入力された信号に対応する電荷(例えば電子)が注入されるようになる。このとき、蓄積電荷制御部105による制御で、電荷が注入される平均的な時間は正確に制御できる。これに対し、電荷の注入自体はポアソン過程に従うので、注入されている個々の電荷の注入(移動)の間隔は、ランダムとなる。言い換えると、この電荷の伝導(注入)は、ショットノイズに相当する。従って、電荷蓄積部103への電荷の注入は、確率共鳴を利用したものとなる。
【0020】
以上のようにして電荷蓄積部103に電荷が注入されると、第2電界効果トランジスタ102のソース・ドレイン間に流れる電流Idが変化する。この電流変化を電流検出部106で検出し、検出した電流変化により電荷数算出部107が、電荷蓄積部103に蓄積された電荷の数を算出する。電荷蓄積部103に注入される電荷の数と第2電界効果トランジスタ102に流れる電流の関係とを予め把握しておけば、上述した電流変化により電荷の数が算出できる。なお、第2電界効果トランジスタ102のゲート電極に、バイアスとして印加するゲート電圧により、電荷蓄積部103に注入される電荷の数と第2電界効果トランジスタ102に流れる電流の関係とを調整することができる。
【0021】
ここで、上述したように電荷蓄積部103に蓄積される電荷の数は、電子溜め部104に入力された信号に対応して変化する。この対応関係(相関)を予め把握し、信号検出部108に記憶させておけば、信号検出部108では、記憶されている対応関係を用い、電荷数算出部107が算出した電荷の数より入力された信号の変化が導出できる。
【0022】
ところで、図1Bに示すように、放出制御電圧Vcg2を電荷蓄積部103に印加する制御電極(放出制御電圧印加手段)111を備えるようにしてもよい。放出制御電圧Vcg2は、電流検出部106が電流値の変化を検出した後で、電荷蓄積部103に注入された電荷を電子溜め部104の側に放出させるための制御電圧である。また、第2電界効果トランジスタ102のゲート電極に、電荷蓄積部103への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧Vcg3を印加する制御電極(トランジスタ動作制御電圧印加手段)112を備えるようにしてもよい。
【0023】
図1Bを用いて説明した回路構成は、例えば、図1C,図1D,および図1Eに示すように形成すればよい。図1Cは平面図、図1D,図1Eは断面図である。
【0024】
上記回路構成は、例えば、よく知られたSOI(Silicon on insulator)基板を利用して形成可能である。SOI基板は、基部121と、基部121の上に配置する埋め込み絶縁層122と、埋め込み絶縁層122の上に配置されるSOI層123とを備える。まず、SOI層123をパターニングすることで、第1細線チャネル101a,第2細線チャネル102a,ソース部102b,ドレイン部102c,および電子溜め部104などを形成すればよい。第1細線チャネル101aは、一端に電子溜め部104が接続した状態に一体に形成すればよい。また、第1細線チャネル101aの他端の側に、所定の距離離間して第2細線チャネル102aが配置されるようにすればよい。
【0025】
また、SOI層123に形成した上記各部分の上に、層間絶縁層124を形成し、層間絶縁層124の上に、制御電極111および制御電極113を形成すればよい。制御電極113は、第1細線チャネル101のゲート電極となる。制御電極111および制御電極113は、例えば、第1細線チャネル101aの延在方向とは垂直な方向に延在する形状とすればよい。例えば、層間絶縁層124の上に形成した電極材料膜を、公知のリソグラフィー技術およびエッチング技術により加工することで、制御電極111および制御電極113が形成できる。
【0026】
また、制御電極111および制御電極113の上に層間絶縁層125を形成し、この上に、制御電極112を形成すればよい。なお、制御電極112は、層間絶縁層125の上に形成する必要はない。例えば、層間絶縁層124の上で、第2細線チャネル102aに容量接続するように制御電極112を配置してもよい。
【0027】
上述したように形成した制御電極113と第1細線チャネル101aとの交差する箇所から電子溜め部104との接続部分までの領域で、第1電界効果トランジスタ101が構成される。また、第1細線チャネル101aの他端の部分をゲート電極とし第2細線チャネル102aをチャネルとして第2電界効果トランジスタ102が構成される。
【0028】
第1細線チャネル101aおよび第2細線チャネル102aの設計寸法は、断面形状が縦横10nm程度となっていればよい。また、制御電極113より第2電界効果トランジスタ102の側に延在している第1細線チャネル101aの長さは、数10nm〜数100nm程度とすればよい。また、制御電極111および制御電極113の断面形状は、縦横10nm程度とすればよい。
【0029】
また、例えば、図1Eの断面図に示すように、第1細線チャネル101aを跨ぐように制御電極111を形成してもよい。このようにすることで、第1電界効果トランジスタ101による電子溜め部104と電荷蓄積部103との間の素電荷の動きの制御を効果的に行うことが可能となる。
【0030】
また、第2細線チャネル102aは、断面の縦横が数10nmであればよい。また、ソース部102bおよびドレイン部102cの間の第2細線チャネル102aの長さは、数10nm〜数100nmであればよい。また、第1細線チャネル101aの他端(電荷蓄積部103)と、第2細線チャネル102aとの間隔は、数nm〜数10nmが望ましい。
【0031】
次に、第2電界効果トランジスタ102を利用した電荷蓄積部103に蓄積される電荷の検出方法を説明する。以下では、電子の検出を例に説明する。電子は後述の方法で電子溜めとなる電子溜め部104から電荷蓄積部103に、第1電界効果トランジスタ101を通って蓄積される。これに伴い、第2電界効果トランジスタ102のソース・ドレイン間の電流Idの特性は、図2に示すように、制御電極112による制御電圧Vcg3に対し、正の方向に電荷量に応じてシフトする。
【0032】
このとき、Vcg3を固定して電流Idをモニタすると、電子数に応じて電流が変わるので、電荷蓄積部103内の電子数を検出することができる。また、図2から明らかなように、制御電極112に印加する電圧Vcg3で、注入された電子数と第2電界効果トランジスタ102を流れる検出電流Idの関係を調整することができる。正確に電子数を検出するには、第2電界効果トランジスタ102のトランスコンダクタンス(Id/Vcg3の微分値)が大きくなるVcg3に設定すればよい。制御電極112を用いずに、第2細線チャネル102aの形状やドープする不純物の濃度によって、第2電界効果トランジスタ102のトランスコンダクタンス調整することもできる。
【0033】
次に、本発明の中核である単一電子を電荷蓄積部103に注入する原理を説明する。前述したように、電荷蓄積部103は、第1電界効果トランジスタ101に接続された構造となる。第1電界効果トランジスタ101のゲート電極となる制御電極113を用いて第1電界効果トランジスタ101をオフの状態にすると、制御電極113下部の第1細線チャネル01aには図3Aの各図に示すようにエネルギーバリアが形成される。これにより、電荷蓄積部103と電子溜め部104とが電気的に切断された状態となる。
【0034】
電荷蓄積部103のエネルギーは、容量的に接続された制御電極111に印加する電圧で制御することができる。例えば、制御電極111に所定の電圧を印加して電荷蓄積部103のエネルギーを電子溜め部104のエネルギーより下げることで、図3Aの(b)に示すように、電子が電子溜め部104から電荷蓄積部103に注入される。このとき、電子溜め部104と制御電極113で形成したエネルギーバリアのエネルギー差つまりVes−Vcg1により電子が注入される平均的な時間間隔は正確に制御できる。一方、電子注入自体はポアソン過程に従うので、個々の電子注入時間間隔は常にランダムとなる。換言すると、この電子伝導はショットノイズに相当する。
【0035】
これらを示す結果の一例を図3Bに示す。なお、図3Bにおいて、実線は、例えば、上述したエネルギーバリアを低くして電子が注入され易い状態とした場合の電流変化を示し、点線は、エネルギーバリアを高くして電子が注入され難い状態とした場合の電流変化を示している。図3Bに示すように、いずれの状態においても、電流Idが、1つの電子(1e)の段差で、δtの間隔で階段状に変化している。δtが、1つの電子が電荷蓄積部103に移動するタイミングを示している。なお、電荷蓄積部103に蓄積された電子は、制御電極111で電荷蓄積部103のエネルギーを上昇させることで電子溜め部104の側に放出できる。
【0036】
次に、信号を検出する方法をより詳細に説明する。図4Aおよび図4Bに示すように、ステップ(i)の電荷蓄積部103に電子がない状態から、蓄積電荷制御部105の制御により、ステップ(ii)でVesにより電子溜め部104のエネルギーを高くし、ステップ(iii)でVcg1の印加により電子溜め部104と電荷蓄積部103の間のエネルギーバリアを下げ、電子溜め部104より電荷蓄積部103に電子が注入される状態とする。「エネルギーバリアを下げる」とは、第1電界効果トランジスタ101をオン状態にすることである。このとき、注入される電子数の平均値は、図4Cに示すように、Ves-L−Vcg1-Hにより制御できる。なお、Ves-Lは、電子溜め部104のエネルギーを低い状態とする電圧であり、Vcg1-Hは、第1電界効果トランジスタ101をオン状態とする電圧である。
【0037】
次に、再度、第1電界効果トランジスタ101をオフ状態とするVcg1の印加によりエネルギーバリアを上昇させると電子注入が止まる[ステップ(iv)]。図4Bの中の拡大図に示すように、ステップ(ii)における電流Idとステップ(iv)における電流Idとの差から、電荷蓄積部103内の電子数を導出する。続いて、ステップ(v)で、制御電極111に対するVcg2の印加により電荷蓄積部103の電子を放出し、初期状態のステップ(i)に戻す。
【0038】
ステップ(ii)における電流Idとステップ(iv)における電流Idとの差から電荷蓄積部103の電子数を導出することにより、次に示す2つの利点が得られる。第1の利点は、個々の電子注入速度が非常に速くIdの測定速度が追いつかない場合でも、最終的に電荷蓄積部103に注入された電子数を導出できる点である。また、第2の利点は、ステップ(v)で電荷蓄積部103に存在する電子を全て放出できない場合でも、ステップ(iii)で注入された電子数を導出できる点である。
【0039】
図4Bに示す各電圧波形は、次のように決定することができる。まず、Ves-H>Ves-Lとすることが望ましいがVes-H=Ves-Lとしても良い。Vcg2-H>Vcg2-L、およびVcg1-H>Vcg1-Lが必須である。Vcg2-HおよびVes-Lは、ステップ(iii)において、電荷蓄積部103のエネルギーが電子溜め部104のエネルギーより低くなる条件ではなくてはならない。Vcg2-LおよびVcg1-Lは、ステップ(v)において電荷蓄積部103のエネルギーがエネルギーバリアより高くなる条件とすることが望ましい。Ves-LおよびVcg1-Lは、ステップ(ii)およびステップ(iv)において、電子が電荷蓄積部103に注入されない条件としなければならない。t2とt4はIdが測定できる時間間隔であれば良い。t5は電荷蓄積部103から電子を放出することが出来る時間間隔であれば良く、Vcg1-H−Vcg1-Lを大きくすることにより短くすることが可能である。t1は、制限するパラメータはなくゼロとしても良い。
【0040】
検出したい入力信号はVes-Lとして電子溜め部104に印加する。例えば、電子溜め部104にフォトダイオードを接続することで、所謂MOS型のイメージセンサとして利用できる。また、前述のようにVes-H=Ves-Lとすると回路は簡素化できる。これにより、ショットノイズを利用した確率共鳴現象により微小な入力信号を検出できるようになる。また、Vcg1-Hを制御することによって、図4Dに示すように入力信号と出力信号の相関値を上げることが可能となる。図4Dに示すように、Vcg1-Hを−1.65V程度とすることで、いずれのt3においても、より高い相関値が得られるようになる。なお、図4Dに示すように、Vcg1-Hを高くする過程で、相関値が極大値を示す状態となっており、この結果より、電荷蓄積部103への電荷(電子)の注入において、確率共鳴現象が得られていることがわかる。
【0041】
また、電荷蓄積部103への電子注入頻度が変わらないほどt3が小さい場合、ステップ(iii)の入力信号の変化量は、電荷蓄積部103に注入される電子数の合計を出力として考えることができる。このように、本実施の形態によれば、図6Cを用いて説明した構成のように、複数の素子(閾値回路)を接続して出力を合計したことと同様の効果が得られる。これは、複数の素子で行っていた並列処理を、1つの素子に時分割で信号を入力することに相当する。また、ショットノイズを利用して確率共鳴現象を実現しているため高速動作が可能となる。これは、ショットノイズが広い周波数帯域に渡るフラットなノイズスペクトラムを保証するためである。
【0042】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について説明する。この実施の形態2では、次に示すように、信号の検出を行う。なお、センサの構成は、前述した実施の形態1と同様である。
【0043】
図5Aおよび図5Bに示すように、ステップ(i)の電荷蓄積部103に電子がない状態から、蓄積電荷制御部105の制御により、ステップ(ii)でVcg1により電子溜め部104と電荷蓄積部103の間のエネルギーバリアを下げ 、ステップ(iii)で電子溜め部104のエネルギーをVesで上げ、電子溜め部104より電荷蓄積部103に電子が注入される状態とする。このとき、注入される電子数の平均値は図4Cに示したように、Ves-L−Vcg1-Hにより制御できる。次に、ステップ(iv)で、電子溜め部104のエネルギーをVesで下げると、電荷蓄積部103への電子注入が止まる。
【0044】
以上のように操作するなかで、ステップ(ii)での電流Idとステップ(iv)での電流Idとの差から、電荷蓄積部103内の電子数を導出する。続いて、ステップ(v)で、電荷蓄積部103の電子を放出して初期状態のステップ(i)に戻す。ステップ(ii)での電流Idとステップ(iv)での電流Idとの差から電荷蓄積部103の電子数を導出することにより、前述した実施の形態と同様の利点が得られる。
【0045】
第1の利点は、個々の電子注入速度が非常に速くIdの測定速度が追いつかない場合でも、最終的に電荷蓄積部103に注入された電子数を導出できる点である。また、第2の利点は、ステップ(v)で電荷蓄積部103に存在する電子を全て放出できない場合でも、ステップ(iii)で注入された電子数を導出できる点である。
【0046】
本実施の形態において、図5Bに示す各電圧は次のように決定すればよい。Ves-H>Ves-LかつVcg2-H>Vcg2-Lが、重要となる。Vcg1-H>Vcg1-Lであることが望ましいが、Vcg1-H=Vcg1-Lでも良い。Vcg2-HおよびVes-Lはステップ(iii)において、電荷蓄積部103のエネルギーが電子溜め部104のエネルギーより低いことが重要である。Vcg2-LおよびVcg1-Lは、ステップ(v)において電荷蓄積部103のエネルギーが、エネルギーバリア(第1電界効果トランジスタ101)より高くなる条件とすることが望ましい。Ves-HおよびVcg1-Hは、ステップ(ii)およびステップ(iv)において、電子が電荷蓄積部103に注入されない条件とすることが重要となる。
【0047】
t2およびt4は、Idが測定できる時間間隔であれば良い。t5は、電荷蓄積部103から電子を放出することができる時間間隔であれば良く、Vcg1-H−Vcg1-Lを大きくすることにより短くすることが可能である。t1は、制限するパラメータはなくゼロとしても良い。
【0048】
検出したい入力信号は、Vcg1-Hとして第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に印加する。これにより入力インピーダンスを無限大とすることができ、ショットノイズを利用した確率共鳴現象により、微小な入力信号を検出できるようになる。なお、上述したように電荷蓄積部103に蓄積される電荷の数は、第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に入力された信号に対応して変化する。この対応関係(相関)を予め把握し、信号検出部108に記憶させておけば、信号検出部108では、記憶されている対応関係を用い、電荷数算出部107が算出した電荷の数より入力された信号の変化が導出できる。また、Ves-Lを制御することによって、図4Dを用いた説明と同様に、入力信号と出力信号の相関値を上げることができる。
【0049】
また、電荷蓄積部103への電子注入頻度が変わらないほどt3が小さい場合、ステップ(iii)の入力信号の変化量は、電荷蓄積部103に注入される電子数の合計を出力として考えることができる。このように、本実施の形態においても、図6Cを用いて説明した構成のように、複数の素子(閾値回路)を接続して出力を合計したことと同様の効果が得られる。これは、複数の素子で行っていた並列処理を、1つの素子に時分割で信号を入力することに相当する。また、ショットノイズを利用して確率共鳴現象を実現しているため高速動作が可能となる。これは、ショットノイズが広い周波数帯域に渡るフラットなノイズスペクトラムを保証するためである。
【0050】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、種々の組み合わせおよび多くの変形が実施可能であることは明白である。例えば、上述した各実施の形態において、ステップ(iii)の時間t3を長くすることで、図4Dに示すように、入力信号と出力信号との相関値をより高くすることができる。これは、図6Cを用いた説明における閾値回路の数を増加することに相当するためである。
【0051】
また、電子溜め部104,第1電界効果トランジスタ101,電荷蓄積部103,および第2電界効果トランジスタ102より構成された複数のユニットを備え、複数のユニットは、各々の第2電界効果トランジスタ102を直列に接続し、蓄積電荷制御部105は、複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極および複数の電子溜め部104に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、電流検出部106は、直列に接続された複数の第2電界効果トランジスタ102に流れる電流値の変化を検出し、電荷数算出部107は、電流検出部106が検出した電流値の変化により複数の電荷蓄積部103へ注入された電荷の数の合計を算出し、信号検出部108は、電荷数算出部107が算出した合計の電荷の数より、複数の電子溜め部104および複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に入力された信号の変化を導出するようにしてもよい。入力信号は、複数の電子溜め部104もしくは複数の第1電界効果トランジスタ101のゲート電極に、共通に入力される。
【0052】
このようにすることで、より高速に微小な入力信号を検出することができるようになる。なお、この構成の場合、素子の数は増加するが、図6Cを用いて説明したシステムに比較し、外部より個々のユニットに独立したノイズを印加する必要が無く、全体として簡略化が可能となる。
【0053】
また、上述では、主に、電荷として電子の場合について説明したが、これに限るものではなく、電荷として正孔を用いるようにしてもよい。正孔を用いる場合、各々の制御電圧として印加する電圧の正負を反転させればよい。
【0054】
以上に説明したように、本発明のセンサによれば、電界効果トランジスタが有するショットノイズを用いた確率共鳴現象により、シンプルな素子構造で、高速に微小な信号を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
101…第1電界効果トランジスタ、101a…第1細線チャネル、102…第2電界効果トランジスタ、102a…第2細線チャネル、103…電荷蓄積部、104…電子溜め部、105…蓄積電荷制御部、106…電流検出部、107…電荷数算出部、108…信号検出部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1細線チャネルより構成される第1電界効果トランジスタと、
第2細線チャネルより構成される第2電界効果トランジスタと、
前記第1細線チャネルの一方に接続するとともに前記第2細線チャネルに容量を介して接続する電荷蓄積部と、
前記第1細線チャネルの他方に接続する電子溜め部と、
前記第1電界効果トランジスタのゲート電極および前記電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を制御して前記電子溜め部から前記電荷蓄積部への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御手段と、
前記電荷蓄積部への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する前記第2電界効果トランジスタに流れる電流値の、前記蓄積電荷制御手段による前記制御の前後における変化を検出する電流検出手段と、
前記蓄積電荷制御手段の制御により前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数を、前記電流検出手段が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出手段と、
この電荷数算出手段が算出した電荷の数より前記電子溜め部および前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する信号検出手段と
を備えることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のセンサにおいて、
前記信号検出手段は、予め求めてある前記電子溜め部および前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化と前記蓄積電荷制御手段の制御により前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数との関係を用い、前記信号の変化を導出する
ことを特徴とするセンサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のセンサにおいて、
前記電子溜め部,前記第1電界効果トランジスタ,前記電荷蓄積部,および前記第2電界効果トランジスタより構成された複数のユニットを備え、
複数の前記ユニットは、各々の前記第2電界効果トランジスタが直列に接続され、
前記蓄積電荷制御手段は、複数の前記第1電界効果トランジスタのゲート電極および複数の前記電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、
前記電流検出手段は、直列に接続された複数の前記第2電界効果トランジスタに流れる電流値の変化を検出し、
前記電荷数算出手段は、前記電流検出手段が検出した電流値の変化により複数の前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数の合計を算出し、
前記信号検出手段は、前記電荷数算出手段が算出した合計の電荷の数より複数の前記電子溜め部および複数の前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する
ことを特徴とするセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサにおいて、
前記電流検出手段が前記電流値の変化を検出した後で、前記電荷蓄積部に注入された電荷を前記電子溜め部に放出させる放出制御電圧を前記電荷蓄積部に印加する放出制御電圧印加手段を備えることを特徴とするセンサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサにおいて、
前記第2電界効果トランジスタのゲート電極に、前記電荷蓄積部への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧を印加するトランジスタ動作制御電圧印加手段を備えることを特徴とするセンサ。
【請求項1】
第1細線チャネルより構成される第1電界効果トランジスタと、
第2細線チャネルより構成される第2電界効果トランジスタと、
前記第1細線チャネルの一方に接続するとともに前記第2細線チャネルに容量を介して接続する電荷蓄積部と、
前記第1細線チャネルの他方に接続する電子溜め部と、
前記第1電界効果トランジスタのゲート電極および前記電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を制御して前記電子溜め部から前記電荷蓄積部への電荷の注入を制御する蓄積電荷制御手段と、
前記電荷蓄積部への電荷の注入による電界をゲート電圧として動作する前記第2電界効果トランジスタに流れる電流値の、前記蓄積電荷制御手段による前記制御の前後における変化を検出する電流検出手段と、
前記蓄積電荷制御手段の制御により前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数を、前記電流検出手段が検出した電流値の変化により算出する電荷数算出手段と、
この電荷数算出手段が算出した電荷の数より前記電子溜め部および前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する信号検出手段と
を備えることを特徴とするセンサ。
【請求項2】
請求項1記載のセンサにおいて、
前記信号検出手段は、予め求めてある前記電子溜め部および前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化と前記蓄積電荷制御手段の制御により前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数との関係を用い、前記信号の変化を導出する
ことを特徴とするセンサ。
【請求項3】
請求項1または2記載のセンサにおいて、
前記電子溜め部,前記第1電界効果トランジスタ,前記電荷蓄積部,および前記第2電界効果トランジスタより構成された複数のユニットを備え、
複数の前記ユニットは、各々の前記第2電界効果トランジスタが直列に接続され、
前記蓄積電荷制御手段は、複数の前記第1電界効果トランジスタのゲート電極および複数の前記電子溜め部に対する電荷注入制御電圧を共通に制御し、
前記電流検出手段は、直列に接続された複数の前記第2電界効果トランジスタに流れる電流値の変化を検出し、
前記電荷数算出手段は、前記電流検出手段が検出した電流値の変化により複数の前記電荷蓄積部へ注入された電荷の数の合計を算出し、
前記信号検出手段は、前記電荷数算出手段が算出した合計の電荷の数より複数の前記電子溜め部および複数の前記第1電界効果トランジスタのゲート電極のいずれかに入力された信号の変化を導出する
ことを特徴とするセンサ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のセンサにおいて、
前記電流検出手段が前記電流値の変化を検出した後で、前記電荷蓄積部に注入された電荷を前記電子溜め部に放出させる放出制御電圧を前記電荷蓄積部に印加する放出制御電圧印加手段を備えることを特徴とするセンサ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のセンサにおいて、
前記第2電界効果トランジスタのゲート電極に、前記電荷蓄積部への電荷の注入による電界印加とは異なるトランジスタ動作制御電圧を印加するトランジスタ動作制御電圧印加手段を備えることを特徴とするセンサ。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3B】
【図4C】
【図4D】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図3A】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図2】
【図3B】
【図4C】
【図4D】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図3A】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【公開番号】特開2012−42216(P2012−42216A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180798(P2010−180798)
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]