説明

ソイルセメント柱の構築装置と構築方法

【課題】ソイルセメント柱を構築するための凝固材が、地上へ溢れ出ないようにする。
【解決手段】掘削軸1を回転させ、下端部に位置する掘削翼2を回転させて掘削軸1を地中に侵入させるとともに、凝固材注入口6から凝固材15を注入する。掘削軸1の外周に位置する円筒管4を進行し、下端よりも徐々に直径が大きくなったテーパ状部分によって、原土を外周方向に押しのけ、押しのけた分凝固材15を注入する。円筒管4には掘削方向に対して、その左右に離隔可能にスリット41を形成し、前記スリット41を境に、当該スリット41の幅が拡大と縮小を繰り返して円筒管4の直径が変わる。円筒管4の径が拡大したときに、原土を外周へ押しやり、縮小したときに進行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソイルセメント柱を構築する装置と、その構築方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開平7−138937号公報に記載されたようなソイルセメント柱の構築装置が知られている。
構築装置は、動力によって回転する掘削軸の下端に地盤を掘削するための掘削翼を有しており、この掘削翼によって地盤に削孔を掘削し、掘削軸の先端からミルク状凝固材を吐出しながら掘削進行していく。
掘削翼の上方に配した攪拌翼によって、凝固材と掘削した土砂を攪拌して、ソイルセメント柱を構築していくものである。
【0003】
前記した従来のソイルセメント柱の構築方法にあっては、次のような問題点がある。
<1> ソイルセメント柱は、オーガー軸の先端から凝固材を加圧して吐出し、土と攪拌して地中に形成される。その際に凝固材は加圧状態にあるから、この凝固材混りの原土が地上に押し上げられる現象を避けられなかった。
つまりは、凝固材(セメントミルク)注入体積分、おおよそ改良体積の約25〜18%ほど注入するので、その分、地上にミルク混じりの土が盛り上がって残土となるものである。
<2> こうして地上に吹き出した凝固材の混じった残土は地表面に残土の山となって盛り上がる。この残土の山は改良に使われずに無駄になるだけでなく、ダンプトラック数台分の廃棄物となり、運搬、残土処理が必要となり、工期が長くなり、余分な費用が嵩むという不経済なものであった。
【特許文献1】特開平7−138937号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、地中に注入した凝固材分の凝固材と土砂とを混練した土が地表面に押し上げられることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明にかかるソイルセメント柱の構築装置は、
動力によって回転する掘削軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼とを備えるソイルセメント柱の構築装置であって、
掘削翼よりも上方に、下端の直径よりも直径が徐々に大きくなり、少なくとも一部が下端よりも大きな径となった円筒管を配し、
前記円筒管には掘削方向に向って、その左右両側に離隔可能にスリットを形成し、
当該スリットの幅が拡大と縮小を繰り返す。
本発明にかかる他のソイルセメント柱の構築装置は、
動力によって回転する掘削軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼とを備えるソイルセメント柱の構築装置であって、
前記掘削軸とは別個に、動力によって回転するとともに、偏心カムを有する揺動シャフトを配し、
掘削翼よりも上方に、下端の直径よりも直径が徐々に大きくなり、少なくとも一部が下端よりも大きな径となった円筒管を配し、
円筒管には掘削方向の左右に離隔可能にスリットを形成し、
前記円筒管のスリットの左右いずれか一方側端に、前記偏心カムの周りを囲む揺動リングを設け、
前記円筒管のスリットの左右いずれかの他方側端に、揺動シャフトを通してなる。
本発明にかかる他のソイルセメント柱の構築装置は、
円筒管の下端の径は、掘削翼の回転直径とほぼ同じであって、
その上方の少なくとも一部がそれよりも大きな直径を有している。
本発明にかかるソイルセメント柱の構築方法は、
上記したソイルセメント柱の構築装置を使用した構築方法であって、
掘削翼によって掘削した削孔の径を、円筒管の徐々に径が大きくなるテーパ部分によって拡大しながら、土砂を外側へ押しやり、
土砂を押しのけた分の凝固材と混練された流動土を充填していき、
円筒管の直径が拡大・縮小を繰り返すことで、円筒管を進行するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のソイルセメント柱の構築装置と構築方法は以上説明したようになるから次のような効果を得ることができる。
<a> 掘削していない堅い土砂を、下端よりも上方の一部の径が大きい円筒管によって外周方向に押しのけるもので、その押しのけた分に凝固材を注入するものである。これによって、大きな圧力での注入の必要はなく、凝固材が掘削軸を伝って上昇するようなことが生じない。
<b>円筒管は、上方の一部が下端よりも大きな径を有するだけでなく、スリットを境に、そのスリットの幅が拡大と縮小を繰り返すため、土砂を外周に押しのけた後、縮小したとき掘削進行方向に移動し易くなり、掘削の進行の大きな抵抗とならない。
<c> このように凝固材は高い圧力で加圧されていないから、掘削軸を伝わって地上へ吐出してしまうことがなく、設計量通りの全量の凝固材を地中に注入することができる。
<d> このように凝固材は地表へ溢れないから、凝固材を100%活用でき産業廃棄物も発生せず、土の体積に対する凝固材の比率が高くなり、強固なソイルセメント柱を構築することができる。
<e> 凝固材は地表へ溢れず地表に凝固材混じりの残土の山が形成されることがないから、その積み込み、搬出の手間が不要であり、廃棄物を廃棄する費用も発生せず、経済的な施工が可能である。
<f> 凝固材が地表へ上昇してこないから、地表面が泥水で汚れることがなく、整然とした、良好な環境の現場を維持することができる。
【実施例1】
【0007】
<1>装置全体の構成
本発明の装置は、回転軸となる掘削軸1と、掘削軸1に回転を与えるモーター16と、掘削軸1の下端に取付けたビットを備えた掘削翼2、掘削翼2の上方に取付けられた外周方向に張り出るとともに、先端部分が着脱自在の攪拌翼3・3、掘削軸1の外周を囲むように配された円筒管4、掘削軸1の内部に配置した凝固材注入路の開口部である掘削軸1の下端の注入口6より構成する。
【0008】
<2>円筒管
下端の掘削翼2の上に、掘削軸1の外周に位置する円筒管4が取り付けてある。
円筒管4の高さは、攪拌翼3.3の高さと同じ程度の高さである。
円筒管4は、その最下端の直径D1が、掘削軸1の回転直径とほぼ同じである。
その最下端から、上方に行くにつれて徐々に直径が大きくなって、つまりは下端から上方にかけて直径が大きくなるテーパ状となっている。
最も大きな直径D2の部分がテーパ状部分の上方にあり、その上は、徐々に直径が小さくなるようテーパ状に形成されている。
円筒管4は、モーター16の周囲に配された環状のリング12から伸びた支持柱13・13によって支持されている。
円筒管4は、掘削方向に対して、その左右両側へ離隔可能にスリット41が形成されている。
つまりは、図で示すスリット41を境に、スリット41の右側部分44と左側部分45が近接離隔可能となって、円筒管4の直径が拡大したり、縮小したりする。
【0009】
<3>揺動シャフトとカムシャフト
地上に位置するリング12にはモーター7が設けられており、モーター7の下方に伸びた揺動シャフト8が回転する。
揺動シャフト8の下端には、カムシャフト9がユニバーサルジョイント10によって連結されている。
カムシャフト9の外周には、当該カムシャフト9の軸線とは軸線がズレている偏心カム11が、上下に適宜間隔離れて複数個取付られている。
これら偏心カム11の周囲を囲み、偏心カム11の偏心回転を許容する環状の揺動リング42が、円筒管4のスリット41の右側部分44から突設してある。
円筒管4のスリット41の左側部分45からは、カムシャフト9の外周を囲み、カムシャフト9の回転を許容する環状の摺接リング43が複数個突設してある。
【0010】
続いて、上記で説明した装置を用いてソイルセメント柱を構築する方法について説明する。
<4>削孔の掘削
掘削軸1をモーターで回転して、掘削軸1の回転で下端の掘削翼2を回転させ、それに取付けられているビットによって地盤を掘削して、地中に削孔14を形成する。
【0011】
<5>凝固材の注入
掘削翼2による掘削と同時に、掘削軸1の先端の注入口6から凝固材15を、削孔14の中に注入する。
実施例では、凝固材15としてセメントミルクを使用している。
掘削した土砂と凝固材15を、攪拌翼3でかき混ぜ、攪拌する。
円筒管4を進行して、徐々に直径が大きくなったテーパ状の側面によって掘削していない原土を、外周方向へ押しのける。
このようにして、掘削しない原土を円筒管4によって外周方向へ押しのけ、より大きな径の掘削孔14を形成することになる。
原土砂を外側へ押しやった分、凝固材15と攪拌された土が、大きな圧力をかける必要なく、掘削孔14の中に充填されることとなる。
【0012】
<6>凝固材の注入量
本発明では、注入する凝固材(セメントミルク)15量を、円筒管4のテーパ状部分によって拡径しただけの、つまりは直径D2から直径D1を引いた体積分となるよう、予め計算で求めた量をするシステムを採用している。
従って、注入量が、円筒管4によって拡径した体積と同じだけであるから、従来のように凝固材15と掘削土が混ざった土砂が掘削軸1を伝わって地表面にあふれ出したり、軟弱な地層を伝って予定外の方向へ侵入したり、凝固材15の混合した残土の山が盛り上がるというようなことが生じない。
特に、掘削軸1周辺の地表へ盛り上がった土砂の廃棄量の多さが問題となっている現在、そのような現象が生じない本発明の経済的効果は大きい。
【0013】
<7>円筒管の拡大・縮小
掘削開始と平行して、モーター7によって揺動シャフト8を回転すると、カムシャフト9も回転し、それに取付けた偏心カム11も、揺動リング42内で偏心して回転する。
偏心カム11が偏心して回転することにより、揺動リング42もカムシャフト9に対して偏心して回転する。
揺動リング42が偏心動することにより、円筒管4のスリット41の右側部分44も前後左右動を行いスリット41の幅が大きくなったり小さくなったりし、結果的に円筒管4の直径が拡大したり、縮小したりすることになる。
円筒管4の直径が拡大することによって、原土を外周方向へしっかりと押しのける。
円筒管4の直径が縮小するときに、周辺土砂の抵抗が弱まり、常時下方に押されている円筒管4は徐々に進行する。
【0014】
<8>凝固材の攪拌
攪拌翼3・3によって、凝固材15と掘削土が混ざった土砂を更に攪拌して、掘削孔の中に凝固材15と掘削土が均一に分散し、それらが硬化することでソイルセメント柱が形成される。
【0015】
<9>掘削軸の引き抜き
予定の掘削が終了したら、掘削軸1を削孔14から引き抜く。
引き抜きには、通常、掘削とは反対方向に回転しながら引き抜く。
このとき、引き抜きながら凝固材15を注入口6から注入しながら引き抜くこともある。
【実施例2】
【0016】
以上の実施例では、円筒管4に一つのスリット41を設けたが、スリットはふたつ以上設けることも可能であるし、そのうちの一つのスリットは、カムを使用しないで、蝶番のようにヒンジ結合して、他方のスリットの幅が大きくなったり小さくなったりするのを許容する構造としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】ソイルセメント柱の構築装置の実施例の斜視図
【図2】装置の側面図
【図3】円筒管の要部の斜視図
【図4】円筒管の要部の横断面
【符号の説明】
【0018】
1:掘削軸
2:掘削翼
3:攪拌翼
4:円筒管
6:注入口
7:モーター
9:カムシャフト
10:ユニバーサルジョイント
11:偏心カム
12:リング
13:支持柱
14:削孔
15:凝固材
41:スリット
42:揺動リング
43:摺接リング
44:右側部分
45:左側部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力によって回転する掘削軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼とを備えるソイルセメント柱の構築装置であって、
掘削翼よりも上方に、下端の直径よりも直径が徐々に大きくなり、少なくとも一部が下端よりも大きな径となった円筒管を配し、
前記円筒管には掘削方向に向って、その左右両側に離隔可能に少なくとも一つのスリットを形成し、
当該スリットの幅が拡大と縮小を繰り返す、
ソイルセメント柱の構築装置。
【請求項2】
動力によって回転する掘削軸の下端部に、凝固材注入口と掘削翼とを備えるソイルセメント柱の構築装置であって、
前記掘削軸とは別個に、動力によって回転するとともに、偏心カムを有する揺動シャフトを配し、
掘削翼よりも上方に、下端の直径よりも直径が徐々に大きくなり、少なくとも一部が下端よりも大きな径となった円筒管を配し、
円筒管には掘削方向の左右に離隔可能に少なくとも一つのスリットを形成し、
前記円筒管のスリットの左右いずれか一方側端に、前記偏心カムの周りを囲む揺動リングを設け、
前記円筒管のスリットの左右いずれかの他方側端に、揺動シャフトを通してなる、
ソイルセメント柱の構築装置。
【請求項3】
円筒管の下端の径は、掘削翼の回転直径とほぼ同じであって、
その上方の少なくとも一部がそれよりも大きな直径を有する、
請求項1又は2にかかるソイルセメント柱の構築装置。
【請求項4】
請求項1乃至は3のいずれか1項にかかるソイルセメント柱の構築装置を使用した構築方法であって、
掘削翼によって掘削した削孔の径を、円筒管の徐々に径が大きくなるテーパ部分によって拡大しながら、土砂を外側へ押しやり、
土砂を押しのけた分の凝固材と混練された流動土を充填していき、
円筒管の直径が拡大・縮小を繰り返すことで、円筒管を進行する、
ソイルセメント柱の構築方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−270326(P2009−270326A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−121159(P2008−121159)
【出願日】平成20年5月7日(2008.5.7)
【出願人】(000199234)千代田ソイルテック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】