説明

ソケット変形を減じるための寛骨臼ソケットの非対称的な構成

【課題】ソケットインサートの損傷及び/又は滑動対偶、つまり球頭/ソケットインサートの機能の減縮が、ソケットインサートの球冠直径の局所的な縮小により回避されている寛骨臼ソケットを提供する。
【解決手段】人工股関節に使用するための寛骨臼ソケットであって、人工股関節がステムから成っており、ステムに球頭が取付け可能であり、球頭がソケットインサートに回動可能に挿入可能であり、ソケットインサートが寛骨臼ソケット4内に挿入可能且つ固定可能であり、ステムが大腿骨内に埋込み可能であり、且つ寛骨臼ソケット4が骨盤骨内に埋込み可能であり、寛骨臼ソケット4が、寛骨臼ソケット4の剛性及び/又はジオメトリに関して、寛骨臼ソケット4の対称軸線zに対して相互に直交する2つの方向x,yにおいて非対称的に形成されているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工股関節に使用するための寛骨臼ソケットであって、人工股関節がステムから成っており、ステムに球頭が取付け可能であり、球頭がソケットインサートに回動可能に挿入可能であり、ソケットインサートが寛骨臼ソケット内に挿入可能且つ位置固定可能であり、ステムが大腿骨内に埋込み可能であり、且つ寛骨臼ソケットが骨盤骨内に埋込み可能である、寛骨臼ソケットに関する。
【背景技術】
【0002】
寛骨臼ソケットは一次固定するための手術の進行中に、種々異なる技術により骨盤骨に連結される。周知の固定形式はプレスばめによるソケットの締付けである。これは技術的な意味において締めしろを伴う結合に分類されている連結の1つである。つまり寛骨臼ソケットの外側ジオメトリは、医者による寛骨臼のフライス加工によってもたらされるソケット収容部よりも大きい。従ってソケットの挿入後に骨によりソケットに作用する法線力と、その結果である摩擦力とは寛骨臼ソケットの一次固定(Verankerung)を保証する。
【0003】
骨盤骨の不均一な剛性に基づき、一般的に、プレスばめ状況において寛骨臼ソケットの非対称的な負荷がもたらされる。非対称的な負荷は寛骨臼ソケットの非対称的な変形を結果的にもたらすことがある。このことは原理的に不都合である。なぜならば寛骨臼ソケットの変形はソケットインサートの挿入を困難にするか、もしくは更にソケットインサートの非対称的な変形及び負荷に繋がることがあるからである。この場合、起こり得る更なる作用はソケットインサートの破損、及び/又はソケットインサートの球冠直径の局所的な縮小による、滑動対偶の機能の減縮である。
【0004】
剛性に関する骨盤骨の不均一性は、一般的に、常に同じ方向に存在するので、医者はプレスばめにおいて寛骨臼ソケットに対する極めて高い負荷の方向を、十分な正確性を持って患者において判断することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の根底にある課題は、請求項1の上位概念部記載の寛骨臼ソケットを改良して、ソケットインサートの損傷及び/又は滑動対偶、つまり球頭/ソケットインサートの機能の減縮が、ソケットインサートの球冠直径の局所的な縮小により回避されている寛骨臼ソケットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、人工股関節に使用するための寛骨臼ソケットであって、前記人工股関節がステムから成っており、該ステムに球頭が取付け可能であり、該球頭がソケットインサートに回動可能に挿入可能であり、前記ソケットインサートが当該寛骨臼ソケット内に挿入可能且つ固定可能であり、前記ステムが大腿骨内に埋込み可能であり、且つ当該寛骨臼ソケットが骨盤骨内に埋込み可能である、寛骨臼ソケットにおいて、当該寛骨臼ソケットが、該寛骨臼ソケットの剛性及び/又はジオメトリに関して、当該寛骨臼ソケットの対称軸線に対して相互に直交する2つの方向において非対称的に形成されていることにより解決される。
【0007】
好ましくは、当該寛骨臼ソケットが、第1の方向において最小の壁厚を有しており、第2の方向において最大の壁厚を有している。
【0008】
好ましくは、他方の方向に対する一方の方向において、補強又は弱化エレメントが当該寛骨臼ソケット内に供給されている。
【0009】
好ましくは、一方の方向の補強又は弱化エレメントが、該補強又は該弱化エレメントの剛性を他方の方向に向かって一定に減じるか又は高める。
【0010】
好ましくは、前記弱化エレメントが当該寛骨臼ソケットにおける切欠きである。
【0011】
好ましくは、当該寛骨臼ソケットのジオメトリが、非対称的な負荷時に可能な限り円環状の対称的なジオメトリをもたらすように非対称的に構成されている。
【0012】
好ましくは、長手方向軸線に対して垂直な、当該寛骨臼ソケットの横断面が無負荷状態において楕円形である。
【0013】
好ましくは、当該寛骨臼ソケットが少なくとも1つの金属から製造されている。
【発明の効果】
【0014】
有利には、寛骨臼ソケットの剛性及び/又はジオメトリに関して寛骨臼ソケットを非対称的に構成することにより、プレスばめ状況における非対称的な外側の負荷に対抗することができる。従って寛骨臼ソケットは直交する2つの方向において種々異なる剛性を有している。
【0015】
寛骨臼ソケットの比較的高い剛性の軸線は、埋込み時に骨盤骨の極めて高い剛性の方向に対して同一線上に配向することができる。骨盤骨の剛性との関係において寛骨臼ソケットの剛性を適切に設計することにより、プレスばめ状況による寛骨臼ソケットの不可避の変形は均一に発生する、つまり全ソケット周面においてほぼ同じ程度の変形量を伴う。
【0016】
本発明による構成において、寛骨臼ソケットは第1の方向において最小の壁厚を有していて、第2の方向において最大の壁厚を有している。寛骨臼ソケットの壁厚の非対称的な構成は、例えば端面の領域の所定の方向において最小の壁厚が形成され、且つ前記方向に対して直交する方向において最大の壁厚が形成されている。種々異なる壁厚に基づき、寛骨臼ソケットは上記両方向において同様に種々異なる剛性を有している。
【0017】
別の構成において、他方の方向に対する一方の方向において補強又は弱化エレメントが寛骨臼ソケット内に供給されている。補強エレメント−比較的高い剛性を有する材料から成るエレメント−を寛骨臼ソケットの周壁内に挿入することにより、種々異なる負荷方向において寛骨臼ソケットの種々異なる剛性を達成することもできる。
【0018】
本発明の更に別の構成は、一方の方向の補強又は弱化エレメントは、他方の方向に向かって剛性を一定に減じるか又は高めることを特徴とする。弱化エレメントは寛骨臼ソケットにおける切欠きであってもよい。
【0019】
比較的僅かな剛性を有する材料から成るエレメントの供給により、寛骨臼ソケットの剛性は僅かな剛性を有する材料の場所において弱化する。この場合、剛性の減少量は方向に関連している。その結果、寛骨臼ソケットは種々異なる負荷方向に関して同様に種々異なる剛性を有している。極端な場合、剛性を方向に関連して減じるために、エレメントは供給されず、適切に材料が切り欠かれるだけである。
【0020】
更に別の構成において、寛骨臼ソケットのジオメトリは、非対称的な負荷時に可能な限り円環状の対称的なジオメトリがもたらされるように非対称的に形成されている。有利には、対称軸線に対して垂直な、寛骨臼ソケットの横断面は無負荷状態において楕円形である。
【0021】
ソケットジオメトリ、例えば負荷がかけられているソケット横断面の非対称的な構成により、非対称的な負荷がある場合、同様に非対称的な変形が発生することを達成できる。非対称的な変形は対称的なソケットジオメトリの形成に通じる。具体的な例として、楕円形のソケット横断面がプレスばめにおける非対称的な負荷に基づき変形し、その結果、横断面はほぼ円環状のジオメトリを有する。
【0022】
有利には、寛骨臼ソケットは少なくとも1つの金属から製造されている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1a,1b,1cは、従来の技術を示した図である。
【図2】図2a,2bは、発明による寛骨臼ソケットを示した図である。
【図3】図3a,3bは、補強又は弱化エレメントを備えた本発明による寛骨臼ソケットを示した図である。
【図4】図4aは、無負荷状態にある本発明による寛骨臼ソケットを示した図であり、図4bは、無負荷状態にある本発明による寛骨臼ソケット(点線)と、負荷状態にある本発明による寛骨臼ソケット(実線)とを対比した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、先行技術及び本発明を図面に基づき詳細に説明する。
【0025】
図1a,1b,1cには従来の技術が示されている。人工股関節は、一般的に、球頭2に連結されているステム1と、ソケットインサート3に連結されている寛骨臼ソケット(Hueftpfanne)4とから成っている。ステム1と寛骨臼ソケット4とは大腿骨20もしくは骨盤21への組込みにより患者の身体に結合され、球頭2もしくはソケットインサート3のための支持体である。球頭2はソケットインサート3の球冠5において回動可能に支承されている。寛骨臼ソケット4はその対称軸線zに対して回転対称的に形成されている。これにより寛骨臼ソケット4の壁厚a,bは全方向x,yにおいて同じであり、プレスばめ状況における寛骨臼ソケット4の非対称的な負荷により、結果的に寛骨臼ソケット4の非対称的な変形になることがある。
【0026】
図2a,2bには端面7の平面においては対称的(図2a参照)に構成されていない、本発明による寛骨臼ソケット4が示されている。対称軸線zに対して直交する方向xにおいて壁厚aは最大であり、同様に対称軸線zに対して直交する方向yにおいて壁厚bは最小である。この場合、方向x,yは互いに直交して、つまり直角に配置されている。
【0027】
異なる壁厚a,bに基づき、寛骨臼ソケット4は上記2つの方向x,yにおいて異なる剛性を有している。
【0028】
図3には本発明による寛骨臼ソケット4が示されている。図3の寛骨臼ソケット4では、他方の直交する方向yに対する一方の方向xにおいて、補強又は弱化するように作用するエレメント6が寛骨臼ソケット4に供給されている。補強又は弱化エレメント6−寛骨臼ソケット4の残りの材料よりも高い又は低い剛性を備えた材料から成るエレメント−を寛骨臼ソケット4の被覆体内に供給することにより、種々異なる負荷方向に対する寛骨臼ソケット4の種々異なる剛性が形成されている。
【0029】
この場合、方向xの補強又は弱化エレメント6は、端面においてほぼ90°(図3b参照)の角度範囲αを有している。方向xにおける剛性は、方向xに対して直交する方向yにおける剛性とは異なることが重要である。方向x,yに対する2つの極値の間において均一な剛性変化を達成するために、補強又は弱化エレメントは最大で180°の角度αを有していてよい。この場合、各エレメントの壁厚はエレメントの一方の端部から中央まで連続的に増加し、他方の端部に向かって同じように連続的に再び減少する。
【0030】
例えば比較的僅かな剛性を有する材料から成るエレメント6の供給により、比較的僅かな剛性を有する材料の場所において寛骨臼ソケット4の剛性は弱化される。この場合、剛性の減少の程度は方向に関係している。その結果、寛骨臼ソケット4は種々異なる負荷方向において同様に種々異なる剛性を有する。極端な事例では、剛性を方向に関連して減じるために、エレメントは供給されず、材料が適切に切り欠かれるだけである。
【0031】
対称軸線zに対して垂直な寛骨臼ソケット4の横断面は無負荷状態(実線)において楕円形であるように、非対称的に形成されているジオメトリを有する寛骨臼ソケット4が図4bに示されている。非対称的な負荷の場合、寛骨臼ソケット4は変形し(図4bの破線)、その結果として対称的なジオメトリが発生する。図4aには負荷状態にある寛骨臼ソケット4が示されている。簡略化されたモデルイメージにおいて点状に発生する力はF,Fで示されている。この実施の形態において、非対称的な負荷(方向F)の場合に可能な限り円環状の対称的なジオメトリ(図4a)がもたらされることを保証することができる。
【0032】
寛骨臼ソケット4のジオメトリの非対称的な構成により、非対称的な負荷において同様に非対称的な変形が発生することがある。この非対称的な変形は対称的なソケットジオメトリの形成に繋がることになる。具体的な例では楕円形のソケット横断面がプレスばめにおける非対称的な負荷の結果変形され、横断面がほぼ円環状のジオメトリを有する。
【符号の説明】
【0033】
1 ステム
2 球頭
3 ソケットインサート
4 寛骨臼ソケット
5 球冠
6 補強又は弱化エレメント
a 最大の壁厚
b 最小の壁厚
x 第2の方向
y 第1の方向
z 対称軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工股関節に使用するための寛骨臼ソケットであって、前記人工股関節がステム(1)から成っており、該ステム(1)に球頭(2)が取付け可能であり、該球頭(2)がソケットインサート(3)に回動可能に挿入可能であり、前記ソケットインサート(3)が当該寛骨臼ソケット(4)内に挿入可能且つ固定可能であり、前記ステム(1)が大腿骨(20)内に埋込み可能であり、且つ当該寛骨臼ソケット(4)が骨盤骨(21)内に埋込み可能である、寛骨臼ソケットにおいて、
当該寛骨臼ソケット(4)が、該寛骨臼ソケット(4)の剛性及び/又はジオメトリに関して、当該寛骨臼ソケット(4)の対称軸線(z)に対して相互に直交する2つの方向(x,y)において非対称的に形成されていることを特徴とする、寛骨臼ソケット。
【請求項2】
当該寛骨臼ソケット(4)が、第1の方向(y)において最小の壁厚(b)を有しており、第2の方向(x)において最大の壁厚(a)を有している、請求項1記載の寛骨臼ソケット。
【請求項3】
他方の方向(y)に対する一方の方向(x)において、補強又は弱化エレメント(6)が当該寛骨臼ソケット(4)内に供給されている、請求項1又は2記載の寛骨臼ソケット。
【請求項4】
一方の方向(x)の補強又は弱化エレメント(6)が、該補強又は該弱化エレメント(6)の剛性を他方の方向(y)に向かって一定に減じるか又は高める、請求項3記載の寛骨臼ソケット。
【請求項5】
前記弱化エレメントが当該寛骨臼ソケット(4)における切欠きである、請求項3又は4記載の寛骨臼ソケット。
【請求項6】
当該寛骨臼ソケット(4)のジオメトリが、非対称的な負荷時に可能な限り円環状の対称的なジオメトリをもたらすように非対称的に構成されている、請求項1から5までのいずれか一項記載の寛骨臼ソケット。
【請求項7】
長手方向軸線(z)に対して垂直な、当該寛骨臼ソケット(4)の横断面が無負荷状態において楕円形である、請求項6記載の寛骨臼ソケット。
【請求項8】
当該寛骨臼ソケット(4)が少なくとも1つの金属から製造されている、請求項1から7までのいずれか一項記載の寛骨臼ソケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−66731(P2013−66731A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−259807(P2012−259807)
【出願日】平成24年11月28日(2012.11.28)
【分割の表示】特願2009−523268(P2009−523268)の分割
【原出願日】平成19年8月6日(2007.8.6)
【出願人】(508095614)セラムテック アクチエンゲゼルシャフト (36)
【氏名又は名称原語表記】CeramTec AG
【住所又は居所原語表記】Fabrikstrasse 23−29, D−73207 Plochingen, Germany
【Fターム(参考)】