説明

ソリッドフォトニックバンドギャップファイバおよび該ファイバを用いたファイバモジュールおよびファイバアンプ、ファイバレーザ

【課題】ソリッドフォトニックバンドギャップファイバとして、実質的にシングルモード伝搬を維持すると同時に実効コア断面積を拡大した光ファイバ、及びファイバモジュール、さらにはファイバアンプやファイバレーザを提供する。
【解決手段】ファイバ長手方向に対する断面の中心部分のコア領域を、低屈折率の固体物質により形成し、そのコア領域を取り囲むクラッド領域の母材を、低屈折率の固体物質で形成するとともに、そのクラッド領域の母材中に、高屈折率の固体物質からなる多数の微細な高屈折率散乱体を、コア領域を取り囲むように分散配置してなるソリッドフォトニックバンドギャップファイバであって、所定の曲げ半径で曲げられた状態で、曲げによって生じる基本モードと高次モードの曲げ損失の差により高次モードでの伝搬を規制して、実質的に基本モードのみを伝搬するように構成した

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高パワー光を伝送するなどの目的のための実効コア断面積を拡大した光ファイバ、特にコア領域を取り囲むクラッド領域に、微細な高屈折率散乱体を分散配置してなる全固体構造の微細構造ファイバ(ソリッドフォトニックバンドギャップファイバ)、およびその光ファイバを用いた光ファイバモジュールに関するものであって、シングルモード伝搬を維持しつつ実効コア断面積を拡大せんとする技術に関するものである。また本発明は、光増幅・光発振技術の分野において、光ファイバに励起光を導入し、その励起光による誘導放出で信号光を増幅、またはレーザ発振して出力するファイバアンプやファイバレーザ、およびそれらに好適に用いられる光ファイバ、光ファイバモジュールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
光ファイバを伝送モードによって分類すれば、マルチモードファイバと、シングルモードファイバ(単一モードファイバ)とに分けられるが、伝送損失が小さいなど、伝送特性の点ではシングルモードファイバが圧倒的に有利であり、特にファイバアンプやファイバレーザに使用される光ファイバとしては、高次モード伝搬を阻止して、実質的にシングルモード伝搬としたシングルモードファイバを使用することによって、出力ビームのビーム品質が向上する、という効果を得ることができる。
一方、近年のファイバアンプやファイバレーザの高出力化の進展はめざましいものがある。これらの高出力化が進むに従い、ファイバアンプやファイバレーザに用いられる希土類添加ファイバをはじめとする光ファイバ型部品においては、高パワー光に対する耐性を有する必要が生じてきている。光ファイバとして留意しなければならない光パワーに関する特性としては、一般的には光損傷と非線形光学効果が知られている。光損傷と非線形光学効果は、いずれも光のパワー密度(単位導光断面積あたりの光パワー)が高いと生じる現象である。したがって、これらの望ましくない現象の発現を避けつつ高出力光を得るためには、光のパワー密度を下げればよく、また出力パワーを下げずにパワー密度を下げるためには、光の通る断面積を大きくすれば良い。ここで、一般的に光の導光断面積の指標としては、実効コア断面積という定義が使用されている。この実効コア断面積Aeffは、次の(1)式によって定義される。
【0003】
【数1】

【0004】
なお(1)式において、E(r)は光ファイバ内の光の電界分布を示し、rは光ファイバの半径方向の距離を示す。
【0005】
そこで、例えば次に述べる非特許文献1〜11に示されるように、実効コア断面積を拡大させるための種々の試みが、近年盛んに行われるようになっている。
【0006】
非特許文献1には、光ファイバのコアの屈折率分布形状を変えることで実効コア断面積を拡大する手法が開示されている。しかしながら本手法では、実効コア断面積の拡大とともにカットオフ波長が長くなってしまい、ビーム品質を維持するために必要なシングルモード伝搬と実効コア断面積拡大の間にトレードオフがあるという問題がある。また、非特許文献1の屈折率分布では、ファイバを曲げて使用した時に実効コア断面積が大幅に小さくなるという問題がある(曲げたときの実効コア断面積の挙動に関しては、非特許文献2に詳細な検討結果が示されている)。
【0007】
また、非特許文献3には、高次モードが存在するファイバであっても、ファイバを曲げて使用することで、高次モードに曲げ損失を発生せしめ、実効コア断面積が大きい複数モードファイバで実質的にシングルモード伝搬を実現できる方法が開示されている。本手法は比較的広く用いられているが、この手法についても、非特許文献4に記載されるように、曲げたときの実効コア断面積の縮小の影響を受け、実効コア断面積の拡大には一定の制限があり、十分に実効コア断面積を拡大できないという問題がある。
【0008】
非特許文献5、非特許文献6には、それぞれ、フォトニッククリスタルファイバを用いた実効コア断面積拡大の手法および比屈折率差を小さくすることによる実効コア断面積拡大の手法が開示されている。これらの手法は、従来にない大きな実効コア断面積の拡大が実現できているが、いずれの手法も、曲げに弱いため、曲げて使用することができない。従って、コンパクトなファイバアンプやファイバレーザを実現することができない。
【0009】
その他、非特許文献7にはリーケージファイバを用いた実効コア断面積拡大の手法が開示されているが、リーケージファイバは曲げに弱い点で非特許文献5、非特許文献6の手法と同様であり、また、原理的に伝送損失が大きいため、レーザの発振効率やアンプの増幅効率を高めることが難しいという問題点もある。
【0010】
非特許文献8、非特許文献9には、コアの周囲に高次モードのみを結合させて除去し、実質的にシングルモード伝搬を実現する手法が開示されている。これらの手法は、効果的に高次モードを除去できるものの、その屈折率分布や構造が非常に複雑かつ非常に高い制御性が求められるために、製造が難しく、コストが高かったり歩留まりが低かったりする問題点がある。
【0011】
ところで最近に至り、高出力のファイバレーザやファイバアンプに適した光ファイバとして、従来の光ファイバとは異なる光伝搬メカニズムを基礎としたフォトニックバンドギャップファイバが注目されている。このフォトニックバンドギャップファイバは、基本的には光のブラッグ反射を利用したものであり、低屈折率のコア領域の周囲のクラッド領域に、微細な多数の高屈折率散乱体を周期構造で配置し、そのクラッド領域内の高屈折率部の周期構造による光の面外伝搬に対するフォトニックバンドギャップ(PFG)を利用して、光波を、周期構造に対する欠陥部であるコア領域(低屈折率部)に閉じ込め、ファイバの長手方向へ光を伝搬させるものである。
【0012】
そしてさらにこのフォトニックバンドギャップファイバを、固体(ソリッド)構造で実現した、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバが、開発されている(例えば特許文献1参照)。このソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、その長手方向に直交する断面における構造として、基本的には、相対的に低屈折率の固体物質(通常はシリカガラス)により中心部分のコア領域を形成し、そのコア領域を取り囲むクラッド領域の母材を、コア領域と同様な相対的に低屈折率の固体物質(通常はシリカガラス)で形成するとともに、そのクラッド領域の母材中に、多数の微細な高屈折率散乱体(通常波シリカガラスに屈折率上昇物質をドープしたもの)を、コア領域を取り囲むように層状に周期構造で配置して、高屈折率部を形成したものである。
【0013】
このようなソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいても、実効コア断面積についての検討が、例えば非特許文献10などにおいてなされている。この非特許文献10では、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、実効コア断面積にほぼ比例するMFD(モードフィールド径)が19〜20μmにおいてシングルモード伝搬を実現できるとの結果が報告されている。しかしながら、これ以上の実効コア断面積を拡大しようとする場合、高次モードの伝搬が問題となり、シングルモード伝搬が困難になるとされている(非特許文献11参照)。さらに非特許文献11の構造では、基本モードの曲げ損失が大きく、コンパクトなサイズに曲げて使用することが困難であるとされている
【0014】
なお前述の非特許文献1〜9は、いずれもフォトニックバンドギャップファイバ、とりわけ本発明で対象としているソリッドフォトニックバンドギャップファイバについてのものではなく、伝搬方式が異なる光ファイバについてのものである。このように基本的に光の伝搬方式が異なれば、仮に非特許文献1〜9に示される手法が有効であったとしても、それをフォトニックバンドギャップファイバ、とりわけ本発明で対象としているソリッドフォトニックバンドギャップファイバに適用した場合にも有効となるとは、直ちには言い得ないのである。
【0015】
以上のように、従来は、実効コア断面積を拡大することと、高次モードを除去してシングルモード伝搬を維持することとは、相反する課題、すなわちトレードオフの関係にある課題とされ、特にソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいても、その課題は解消されていなかったのである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2009―211066号公報
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Proc. of SPIE vol. 5335, p.132-139 (2004)
【非特許文献2】Opt. Express, 14, p.69-81 (2006)
【非特許文献3】Opt. Lett., vol.25, p.442-444 (2000)
【非特許文献4】Proc. of OFC/NFOEC 2008, OTuJ2 (2008)
【非特許文献5】Opt. Express, 14, p.2715-2720 (2006)
【非特許文献6】Proc. of ECOC 2008, Th.3.C.1 (2008)
【非特許文献7】Proc. of CLEO/QELS 2008, CPDB6 (2008)
【非特許文献8】Proc. of OFC/NFOEC 2008, OWU2 (2008)
【非特許文献9】Opt. Express, 13, p.3477-3490 (2005)
【非特許文献10】Opt. Express, 16, p.11735-11740 (2008)
【非特許文献11】電気情報通信学会通信ソサイエティ大会 通信講演論文集, BS-7-8 (2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたもので、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバ、すなわちクラッド部に微細な高屈折率散乱体が分散配置されていて、フォトニックバンドギャップを利用して光伝送を行う微細構造ファイバにおいて、高次モードでの伝搬を有効に阻止して、実質的にシングルモード伝搬を維持すると同時に、実効コア断面積を拡大した光ファイバ、及びそれを用いたファイバモジュール、さらにはファイバアンプおよびファイバレーザを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明者等は、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいては高次モードと基本モードの曲げ損失の差が大きいことから、それを積極的に利用すれば、該ソリッドフォトニックバンドギャップファイバを適切な曲げ径にすることにより、高次モードを曲げ損失によって除去し、実質的に基本モードのみがコア内を伝搬するようにし得ることを見い出し、同時に、その場合には実効コア断面積を拡大し得ることを見い出し、本発明をなすに至った。
【0020】
具体的には、本発明の基本的な形態(第1の形態)によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、ファイバ長手方向に対する断面の中心部分のコア領域を、低屈折率の固体物質により形成し、そのコア領域を取り囲むクラッド領域の母材を、低屈折率の固体物質で形成するとともに、そのクラッド領域の母材中に、高屈折率の固体物質からなる多数の微細な高屈折率散乱体を、コア領域を取り囲むように分散配置してなるソリッドフォトニックバンドギャップファイバであって、所定の曲げ半径で曲げられた状態で、曲げによって生じる基本モードと高次モードの曲げ損失の差により高次モードでの伝搬を規制して、実質的に基本モードのみを伝搬するように構成したことを特徴とするものである。
【0021】
また本発明の第2の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記高屈折率散乱体が、コア領域を取り囲む層状の周期構造で配置されてなることを特徴とするものである。
【0022】
さらに本発明の第3の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第2の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記高屈折率散乱体が、コア領域を取り囲むクラッド領域に三角格子状に周期的に配置されており、かつその高屈折率散乱体の周期構造がファイバの半径方向に少なくとも4層以上であって、しかもコア領域を、ファイバの横断面の中心位置から半径方向外方に向けて高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したと仮定してその中心から高屈折率散乱体を2層以上除去した広さに相当する領域としたことを特徴とするものである。
【0023】
そしてまた本発明の第4の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第3の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記コア領域と、クラッド領域の母材とが、シリカガラスを主成分とする物質で構成され、高屈折率散乱体が、ゲルマニウムを添加したシリカガラスで構成されていることを特徴とするものである。
【0024】
また本発明の第5の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第4の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記所定の曲げ半径で曲げられた状態での基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下であって、かつ高次モードの曲げ損失が3dB/m以上であるものである。
【0025】
さらに本発明の第6の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第5の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、所定の曲げ半径における実効コア断面積が200μm2以上であることを特徴とするものである。
【0026】
また本発明の第7の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第6の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、使用波長帯を、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一透過バンド内とすることを特徴とするものである。
【0027】
そしてまた本発明の第8の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第3の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記所定の曲げ半径が40〜200mmの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0028】
そしてまた本発明の第9の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第3の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が8〜16μmの範囲内であって、かつ高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.0〜3.0%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0029】
また本発明の第10の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第9の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、所定の曲げ半径における実効コア断面積が300μm2以上であることを特徴とするものである。
【0030】
さらに本発明の第11の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第3の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が10〜16μmの範囲内であって、高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.3〜3.0%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0031】
そしてまた本発明の第12の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第11の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記所定の曲げ半径が90〜200mmの範囲内にあり、所定の曲げ半径における実効コア断面積が450μm2以上であることを特徴とするものである。
【0032】
また本発明の第13の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第3の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が8〜11μmの範囲内であって、高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.5〜3.0%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0033】
さらに本発明の第14の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第13の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記所定の曲げ半径が40〜90mmの範囲内にあり、その所定の曲げ半径における実効コア断面積が350μm2以上であることを特徴とするものである。
【0034】
また本発明の第15の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第6〜第14の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、40〜200mmの範囲内の曲げ半径で曲げられた状態で、基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下であってかつ高次モードの曲げ損失が10dB/m以上であることを特徴とするものである。
【0035】
そしてまた本発明の第16の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第7〜第14の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、規格化周波数Vが1.2〜2.0の範囲の波長で使用することを特徴とするものである。
【0036】
そしてまた本発明の第17の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第16の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記クラッド領域の外側に、低屈折率の外側クラッド層を有することを特徴とするものである。
【0037】
また本発明の第18の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第17の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記外側クラッド層が、ポリマークラッドであることを特徴とするものである。
【0038】
さらに本発明の第19の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第17の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記外側クラッド層が、エアクラッドもしくはホーリークラッドであることを特徴とするものである。
【0039】
そしてまた本発明の第20の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第1〜第19の形態のいずれか1の形態ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、蛍光元素を前記コア領域に含むことを特徴とするものである。
【0040】
また本発明の第21の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第20の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記蛍光元素が希土類であることを特徴とするものである。
【0041】
さらに本発明の第22の形態によるソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、前記第21の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、前記希土類蛍光元素がイッテルビウムであることを特徴とするものである。
【0042】
また本発明の第23の形態による光ファイバモジュールは、前記第1〜第22の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの少なくとも一部が、所定の曲げ半径で曲げられてなることを特徴とするものである。
【0043】
そしてまた本発明の第24の形態による光ファイバモジュールは、前記第1〜第22の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバが、所定の径で巻かれてコイル状とされていることを特徴とするものである。
【0044】
そしてまた本発明の第25の形態のファイバレーザもしくはファイバアンプは、前記第1〜第22の形態のいずれか1の形態のソリッドフォトニックバンドギャップファイバもしくは光ファイバモジュールを構成要素として含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0045】
本発明によれば、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバとして、大きな実効コア断面積を実現することができ、しかもそのような大きな実効コア断面積で、高次モードでの伝搬を有効に阻止して、実質的にシングルモード伝搬を維持することができ、そのため、高ビーム品質でしかも高出力のファイバレーザ・アンプを実現することが実際に可能となった。しかも本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバでは、曲げた状態で使用することにより、前述のように大きな実効コア断面積で実質的にシングルモード伝搬を維持することができることから、例えばコイル状に曲げたコンパクトなファイバモジュールとして使用することにより、コンパクトでしかも高ビーム品質、高出力のファイバレーザ、ファイバアンプを実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの基本的な構造を説明するために、ファイバの長手方向に対し直交する横断面で示す模式的な断面図である。
【図2】本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第1の例として、1セル構造(1層コア構造)のソリッドフォトニックバンドギャップファイバを示す模式的な断面図である。
【図3】図1に示されるソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおける、高屈折率体間隔Λが12.0μmのときの、基本モードの閉じ込め損失と規格化周波数Vの関係の計算例を示す線図である。
【図4】図1に示されるソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一バンドギャップにおける、曲げ半径75mmのときの基本モードの曲げ損失のΛ依存性を示す線図である。
【図5】本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第2の例として、7セル構造(2層コア構造)のソリッドフォトニックバンドギャップファイバを示す模式的な断面図である。
【図6】図5に示されるソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおける、高屈折率体間隔Λが12.0μmのときの、基本モードの閉じ込め損失と規格化周波数Vの関係の計算例を示す線図である。
【図7】図5に示されるソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一バンドギャップにおける、曲げ半径75mmのときの基本モードの曲げ損失のΛ依存性を示す線図である。
【図8】図5に示されるソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一バンドギャップにおける、比屈折率差Δが2.0%のときの、基本モードおよび高次モードの曲げ損失の曲げ径依存性を示す線図である。
【図9】本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第3の例を示す模式的な断面図である。
【図10】本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第4の例を示す模式的な断面図である。
【図11】ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したときの、高屈折率散乱体の層数依存性を、曲げ半径と曲げ損失について示す線図である
【図12】ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおける、第三バンドギャップでの基本モードの曲げ損失と高次モードの曲げ損失の曲げ径依存性を示す線図である。
【図13】高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、曲げ半径が150mmの場合に、高屈折率散乱体間隔Λと比屈折率比Δを変化させたときに実現される、基本モードの曲げ損失、高次モードの曲げ損失、実効コア断面積について示す線図である。
【図14】同じく高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、曲げ半径が100mmの場合に、高屈折率散乱体間隔Λと比屈折率比Δを変化させたときに実現される、基本モードの曲げ損失、高次モードの曲げ損失、実効コア断面積について示す線図である。
【図15】同じく高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、曲げ半径が75mmの場合に、高屈折率散乱体間隔Λと比屈折率比Δを変化させたときに実現される、基本モードの曲げ損失、高次モードの曲げ損失、実効コア断面積について示す線図である。
【図16】同じく高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいて、曲げ半径が50mmの場合に、高屈折率散乱体間隔Λと比屈折率比Δを変化させたときに実現される、基本モードの曲げ損失、高次モードの曲げ損失、実効コア断面積について示す線図である。
【図17】ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおける高屈折率散乱体の実際の比屈折率差分布の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
以下、本発明の基本的な要素およびその本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0048】
先ず本発明の基本的な技術的要素に関して説明する。
ソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、反共鳴反射を利用してある波長域内の光がコア領域の外に漏洩するのを遮断し、コア領域内に光を閉じ込めることで導波構造としている(ARROW型導波路と呼ばれる)。このARROW型導波路では、低屈折率のコアが実現可能であるとともに、一般的な屈折率導波型のファイバでは実現不可能な光学特性を実現できる。
そして本発明では、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおける、高次モードと基本モードの曲げ損失の差が大きいことを利用して、該ソリッドフォトニックバンドギャップファイバを適切な曲げ径にして高次モードを曲げ損失により除去し、実質的に基本モードのみがコア内を伝搬するようにしている。
【0049】
ここで、実効コア断面積が拡大された、実質的にシングルモード動作を奏し得るような光ファイバに求められる特性を述べる。
光ファイバにおいては、実効コア断面積の拡大とシングルモード動作であることのほかに、伝搬光の損失が小さくなければならない。ここでの損失とは、材料損失、閉じ込め損失、曲げ損失を含むが、本発明において損失を小さくするべき対象となるモードは、伝搬したいモードのみ、すなわち基本モードのみであり、高次モードについては、逆に損失を大きくすることが必要である。また、本ファイバを適用する対象として有望なものは、ファイバレーザやファイバアンプであり、これらが使用されるシチュエーションを想定すれば、ファイバをコイル化して、コンパクトに収納できるようにしたモジュールとすることが望ましい。これらの要求条件に対しては、さまざまなトレードオフが存在する。
ソリッドフォトニックバンドギャップファイバで低い閉じ込め損失を得るためには、使用波長における基本モードの実効屈折率(伝搬定数)と、当該波長における面内方向伝搬禁則帯(バンドギャップ帯)の実効屈折率下限(面内方向伝搬禁則を維持できる実効屈折率(伝搬定数)の下限)の差を大きくすることが有効であるとされているが、一方で、その差を大きくすれば、高次モードも伝搬してしまい、シングルモード伝搬を維持しつつ実効コア断面積を拡大するには設計上制限が生じてしまう。
そこで、本発明では、基本モードの実効屈折率と面内方向伝搬禁則帯の実効屈折率下限の差を大きくして高次モードが存在するような条件下でも、高次モードの曲げ損失を利用して高次モードを積極的に漏洩させ、これにより実質的にシングルモード伝搬を行うことができるファイバを提供している。
【0050】
ここで、本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの基本的な構造について、図1を参照して説明するとともに、コア領域および高屈折率散乱体の層数表示について解説する。
図1に本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10の基本的な構造例を示す。図1において、このソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10は、ファイバ長手方向に直交する断面の中心部分のコア領域12を、低屈折率の固体物質(以下その屈折率をnlowと記す)により形成し、そのコア領域12を取り囲むクラッド領域14の母材部分16を、低屈折率の固体物質(通常はコア領域12の屈折率nlowと同等)で形成するとともに、そのクラッド領域12の母材16中に、高屈折率の固体物質(以下その屈折率をnhighと記す)からなる多数の微細な高屈折率散乱体18を、コア領域12を取り囲むように分散配置(図1の例では三角格子状の最密状態の周期構造で、層状に配置)してなる構造とされる。ここで、コア領域12の大きさ(ファイバ横断面での広さ)については、ファイバ10の中心位置からファイバ半径方向の外方に向けて高屈折率散乱体18を三角格子状の最密状態の周期構造で配置したと仮定して、その場合に中心からn層、m本(mセル)の高屈折率散乱体18´を取り除いてコア領域12を形成したとみなし、その取り除いた層数nまたはセル数mをもって、コア領域12の大きさを表す層数またはセル数としている。したがって図1の例では、仮想線で表している中心部の2層、7セルの高屈折率散乱体18´を取り除いてコア領域12を形成しているとみなせるから、コア領域12の大きさは、2層相当分、7セル相当分と言うことができる。一方、クラッド領域14の高屈折率散乱体18の層数については、前記同様に三角格子状の最密状態の周期構造で配置した場合の、ファイバ横断面の中心からの半径方向RDに周期的に並んでいる高屈折率散乱体18の数をもって層数を表している。したがって図1の例では、クラッド領域14の高屈折率散乱体18は、5層に相当する。
【0051】
なお上述のようにコア領域12の大きさについて、絶対的な寸法ではなく、高屈折率散乱体18を三角格子状の最密状態の周期構造で配置したと仮定して中心位置から抜いた高屈折率散乱体の層数、セル数で表すこととしている理由は、次の通りである。すなわち、本発明で前提としているソリッドフォトニックバンドギャップファイバにおいては、フォトニックバンドギャップを利用しているため、高屈折率散乱体の配置状況に対してのコア領域の相対的な大きさが特性に影響を与えるのであって、コア領域の絶対的な寸法が特性に影響を与えるのではないからである。但し、一般的には、コア領域の大きさは、ファイバ断面における直径で10〜50μm程度となり、例えば周期間隔が12μmで2層相当のコア領域は、3セル分の直径に相当するので、直径36μm程度となる。
【0052】
また例えば図1に示しているように、クラッド領域14の高屈折率散乱体18について、最も近接して隣り合う二つの高屈折率散乱体の中心間間隔を高屈折率散乱体間隔と称し、特に高屈折率散乱体18を三角格子状の最密状態の周期構造で配置した場合の隣り合う高屈折率散乱体の中心間間隔を(三角格子の)周期間隔と称し、この周期間隔をΛ(ラムダ)で表すこととする。さらに、ファイバ横断面における高屈折率散乱体18の直径をdで表している。
【0053】
以上を前提に、さらに本発明について具体的に説明する。
本発明においては、規格化周波数V(屈折率導波路で使用される規格化周波数とは異なることに注意)なる概念を導入しており、この規格化周波数Vについて、図2に示す本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第1の例を参照して説明する。
図2に横断面で示すソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10の第1の例は、コア領域12が1層(1セル)で、クラッド領域14の高屈折率散乱体18が三角格子状に6層で周期的に配置されたものである。これまで、一般的に、フォトニックバンドギャップファイバにおいては、d/Λを固定し、波長を変化させてバンドギャップ構造や閉じ込め損失について議論がなされることが多かったが、これでは、いろいろなパラメータを統一的かつ公平に評価が困難である。そこで、本発明者らは、次の式(2)
【0054】
【数2】

【0055】
で示される規格化周波数Vなる概念を導入し、使用波長λを固定した上で、d、nhighとΛを変化させ、これらの条件がどのような関係にあるときの構造が本発明の基本的な目的(低損失を維持しつつシングルモード伝搬と実効コア断面積の拡大の両立を図ること)を達成し得る構造となるかを、図2に示すソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10の第1の例で検討した。その結果を、図3、図4を参照して次に説明する。
【0056】
図3には、基本モードの閉じ込め損失と規格化周波数Vの関係の計算例を示す。ここでは1セルコア構造で、Λは12.0μmと固定し、比屈折率差(Δ)をいくつか振った場合の計算結果を示している。ここで比屈折率差は、次の式(3)によって規定される。なお式(3)において、nhighは前述のように高屈折率散乱体の屈折率、nlowはクラッド部の母材(低屈折率)部分(本計算においてはコア部及びクラッド部の母材部分の屈折率が等しい場合について計算をおこなっている)の屈折率であり、また式(3)の右辺側の近似式は、nhighとnlowとの差が小さいときに成立する。なお計算波長λは1064 nmである。
【0057】
【数3】

【0058】
図3において、1stとの表示を付した領域は、フォトニックバンドギャップ構造における第一バンドギャップ(第一透過バンド)、2ndとの表示を付した領域は、フォトニックバンドギャップ構造における第二バンドギャップ(第二透過バンド)、3rdとの表示を付した領域は、フォトニックバンドギャップ構造における第三バンドギャップ(第三透過バンド)である。図3から理解できるように、V値を導入することで、各バンドギャップでの損失の評価としては、第一バンドギャップ(1st)ではバンドギャップの中心波長であるV=1.6、第三バンドギャップ(3rd)では同じくV=4.65で評価すればよいことになる。図3の例では、第一バンドギャップ(V=1.6)ではΔが低いほど、第三バンドギャップ(V=4.65)ではΔが高いほど、閉じ込め損失が小さいことが分かる。また、第二バンドギャップでは、どの構造でも閉じ込め損失が大きく、実用には不向きであることも分かる。
【0059】
次に、曲げ損失について考える。図4は、図2に示した1セルコア構造のフォトニックバンドギャップファイバの第一バンドギャップにおける、曲げ半径Rが75mmのときの基本モードの曲げ損失のΛ依存性を示す。なお計算波長λは1064 nmであり、比屈折率差(Δ)をいくつか振った場合の計算結果を示している。図4から、基本モードの曲げ損失を0.1dB/m以下にしようとする場合、どのΔであっても、Λの上限は9〜9.5μm程度に限定されることが分かる。このときの実効コア断面積は200μm2以下で、実効コア断面積拡大の手法として、1セルコア構造のフォトニックバンドギャップファイバでは、他の手法(例えば屈折率導波タイプのファイバ:非特許文献4等を参照のこと)を越える特性を得ることが難しいことが示唆されている。
【0060】
図5には、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10の第2の例をその横断面で示す。この第2の例のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ10は、コア領域12が2層(7セル)構造、すなわち中心の2層の高屈折率散乱体を取り除いたコア構造で、クラッド領域14の高屈折率散乱体18が三角格子状に5層で周期的に配置されたものである。
【0061】
この図5に示すような7セル(2層)コア構造のフォトニックバンドギャップファイバについて、前記同様に計算した結果を図6、図7に示す。
図6にはΛ=12μmの時の基本モードの閉じ込め損失(漏洩損失)と規格化周波数Vの関係の計算例(計算波長λは1064nm)を示し、図7には第一バンドギャップ(1st:図6参照,V=1.6)における、曲げ半径75mmのときの基本モードの曲げ損失のΛ依存性(波長1064nm)を示す。図7から、基本モードの曲げ損失を0.1dB/m以下に規制しようとする場合、どのΔであっても、Λは9μm以上確保でき、かつΔが低ければ、よりΛを大きくできることがわかる。ここで、1セルコアの場合(図2〜図4)と異なり、7セルコアの場合、コア径は3Λ以上確保できることから、この場合、実効コア断面積は300μm2を確保でき、実効コア断面積を十分に拡大したファイバを実現できることがわかる。ここで、本発明で対象としているファイバは、基本モードの実効屈折率と面内方向伝搬禁則帯の実効屈折率下限の差を大きくしたファイバであるから、実質的にシングルモード伝搬を実現するには、上記ファイバ構造における高次モードの曲げ損失が十分に大きい必要がある。
【0062】
図8には、Δ2.0%のときの、基本モードおよび高次モードの曲げ損失の曲げ径依存性を、いくつかのΛについて計算した結果(計算波長λは1064 nm)を示す。なお図8において、FMは、基本モードの曲げ損失を、HOMは高次モードの曲げ損失を示す。図8から明らかなように、例えば曲げ半径100mmのとき、Λが11μmと大きい場合であっても、基本モード(FM)では曲げ損失0.1dB/m以下(10-4dB/m程度)、高次モード(HOM)では曲げ損失3dB/m以上(10dB/m程度)を確保できており、このような条件下では、実質的にシングルモード伝搬が可能である。以上から、適切な設計によって、従来のファイバ構造および設計では実現し得ない、ファイバをコンパクトに曲げて収容することが可能で、かつ大きな実効コア断面積を有し、実質的にシングルモード伝搬が可能なファイバを実現できる。
【0063】
次に、本発明のフォトニックバンドギャップファイバに使用される材料について述べる。基本的には、低屈折率部(コア領域およびクラッド領域の母材部分)を構成する材料としては、高屈折率散乱体を構成する材料との比屈折率差を適切に確保でき、かつ材料損失が使用波長で小さければ、特に限定されるものではない。例えば、PMMA等のプラスチックでもかまわないし、フッ化物ガラスやカルコゲナイドガラス、多成分系ガラス、ビスマスガラス等でかまわない。しかしながら、材料損失や屈折率の制御性等の観点から、シリカガラス(石英ガラス)が最適である。また、光の増幅を目的としてシリカガラスに蛍光元素(シリカガラスに添加して蛍光を発する元素)、例えば希土類元素やビスマス、コバルト、ニッケル、クロムなどを微量(通常は酸化物換算の合計量で5モル%以下)添加したコア領域とすることも許容され、またこの場合、上記元素のうちでも希土類元素、とりわけ希土類元素の一つであるイッテルビウムが最適である。
また、クラッド領域の低屈折率部分(母材部分)およびコア領域は、必ずしも同じ材質および添加物濃度である必要はない。コア領域のみに蛍光元素をドープしても良いし、コア領域とクラッド領域の母材部分の屈折率が多少違っていてもかまわない。また、コア領域に、屈折率分布を持つこともかまわないが、重要なことは、高屈折率散乱体の屈折率とこれらクラッド領域の低屈折率部分(母材部分)およびコア領域の屈折率との差が、コア領域とクラッド領域の母材部分の屈折率との差よりも、十分に大きいことである。一般的に、コア領域とクラッド領域の母材部分の屈折率との差が、高屈折率散乱体の屈折率とこれらクラッド領域の低屈折率部分(母材部分)およびコア領域の屈折率との差の20%以下であればこの条件を満たしているとみなせる。
【0064】
一方、高屈折率散乱体は、基本的には、屈折率がクラッド領域の低屈折率部分(母材部分)およびコア領域よりも高く、所望の比屈折率差を実現できる材料であれば、リンやチタン、アルミニウム等を添加したシリカガラス等、任意のものを使用することが可能であるが、損失や屈折率の制御性の観点からは、ゲルマニウムを添加したシリカガラスが最適である。また、該ソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、必要に応じて外側(クラッド領域の外側)に、例えばウレタンアクリレート系のUV樹脂などからなる保護被覆をコートしたり、クラッド領域における高屈折率分散体を配置した部分の外側に、クラッド領域の低屈折率部分(母材部分)よりもさらに低屈折率の外側クラッドを配置しても良い。後者に関しては、クラッドポンプ等のスキームで用いられるもので、外側クラッドとしては、ポリマークラッドやエアクラッド、ホーリークラッド等用いることができるが、ここで例示した3種類の外側クラッドが製造性等の観点から適しており、特にポリマークラッドが最適である。
【0065】
次に、高屈折率散乱体の配置について述べる。ソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、中空コアのフォトニックバンドギャップファイバと異なり、高屈折率散乱体は必ずしも周期的である必要がない。例えば、図9や図10に示すような構造であっても、適切に設計されていれば本発明の効果を奏することが可能である。但し、製造のしやすさの観点からは、周期的に配置されていることが望ましい。一般にソリッドフォトニックバンドギャップファイバはスタックアンドドロー法を用いて作製されることが多いが、スタックアンドドロー法を考えた場合、高屈折率散乱体は三角格子状に周期的に配置することが最適である。図11には、同じ高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に複数層に配置した状態での、曲げ損失の高屈折率散乱体層数依存性を示す。基本モード(FM)の曲げ損失は、層数にほとんど依存しないものの、高次モード(HOM)の曲げ損失は、高屈折率散乱体の層数が3層になれば基本モード(FM)の曲げ損失との差が小さくなってしまう。したがって、高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置する場合、高屈折率散乱体の層数は4層以上とすることが望ましい。なお、高屈折率散乱体の直径dは、前述の式(2)で示したように、nhigh、nlow、および使用波長λとともに、規格化周波数Vに影響を与える因子であり、したがってこれらの値に応じて、所望の規格化周波数Vが得られるように決定すればよく、その直径dの具体的な寸法は特に限定されるものではないが、通常は0.3〜7μm程度とされる。
【0066】
コア領域の構造に関しては、前述の通り、1セルコアの場合は、実効コア断面積を拡大することが困難であり、本構造を用いるメリットが少ない。一方、中心の2層の高屈折率散乱体を取り除いた7セル(2層)コア構造のフォトニックバンドギャップファイバは、ファイバを曲げて収容することが可能で、かつ大きな実効コア断面積を持ち、実質的にシングルモード伝搬が可能なファイバを実現するには好適な構成である。もちろん中心の3層以上の高屈折率散乱体を取り除いた3層以上のコア構造の場合も、適切に設計すれば、実用に供することが可能である。
【0067】
一般にソリッドフォトニックバンドギャップファイバには、複数のバンドギャップ(透過バンド)が現れるが、これらのバンドギャップのうち、いずれのバンドギャップを使用して本発明で目的とする機能を実現するかは、それぞれのバンドギャップの特性を把握して慎重に選択する必要がある。前述したように、第二バンドギャップは、閉じ込め損失が大きく、実用的でない。一方、第四バンドギャップ以上では、Λを非常に小さくする必要があり、製造するのが難しい上に、使用できる波長帯域が狭くなるという欠点がある。以上を考慮すれば、実用可能なバンドギャップは、第一バンドギャップもしくは第三バンドギャップとなる。
図6〜図8、図11に示したように、第一バンドギャップ(1st)は、低い閉じ込め損失および小さな基本モードの曲げ損失と高い高次モードの曲げ損失を有していて最適なバンドギャップであり、この第一バンドギャップを用いることが、最も望ましい。一方図12には、第三バンドギャップ(3rd)における基本モード(FM)の曲げ損失と高次モード(HOM)の曲げ損失の曲げ径依存性を示す。この図12を、第一バンドギャップ(1st)を用いた場合の計算結果(図8)と比較すれば、いずれの曲げ半径Rにおいても、基本モード(FM)の曲げ損失と高次モード(HOM)の曲げ損失の差が小さく、したがって、実用に供せないほどではないものの、この第三バンドギャップ(3rd)よりは前述の第一バンドギャップ(1st)の方が、より好適であることが分かる。
【0068】
シングルモード伝搬を実現するためのファイバの曲げ半径の設定、言い換えれば高次モードの曲げ損失と基本モードの曲げ損失の差を大きくするためのファイバの曲げ半径の設定も、ファイバモジュールなどの実用上の装置を考える上で重要である。本発明のファイバをコイル状に巻いてなるファイバモジュールあるいは本発明のファイバを巻いた状態で使用する装置としては、設置面積等を勘案すれば、できるだけコンパクト化することが望ましい。そのため、ファイバの曲げる径も、できるだけ小さいことが望ましい。そしてラックサイズに収納することを考えれば、曲げ半径は200mm以下であることが望ましい。一方で、あまり小さく巻きすぎれば、機械的な破断によって断線してしまう恐れが生じる。このことから、長期的な信頼性の観点からは、曲げ半径は40mm以上であることが望ましい。
【0069】
さらに図13から図16を参照して、高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置した場合の、基本モードに対して低損失を保ちつつ、実質的にシングルモード伝搬が可能な構造条件について述べる。
図13から図16は、それぞれ曲げ半径が150mm、100mm、75mm、50mmのときに、ΛとΔを変化させたときに実現される、基本モードの曲げ損失、高次モードの曲げ損失、実効コア断面積について示したグラフ(計算波長λは1064 nm)である。図中太い実線は高次モードの曲げ損失が3dB/mとなる設計パラメータ(BLHOM)を示しており、右上に行くほど曲げ損失が大きくなる。また図中太い破線は基本モードの曲げ損失が0.1dB/mとなる設計パラメータ(BLFM)を示しており、左下に行くほど曲げ損失が小さくなる。
ここで、基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下でかつ高次モードの曲げ損失が3dB/m以上であることが、実質的にシングルモード伝搬を確保するための曲げ損失についての望ましい条件であり、したがって図13〜図16の各図において、太い実線(BLHOM)と太い破線(BLFM)に囲まれた領域が、所望の曲げ損失を得られる領域(基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下でかつ高次モードの曲げ損失が3dB/m以上である領域)となる。なお図13〜図16には、実効コア断面積Aeffの等値線も細い破線で示している。
これらの図13〜16から理解できるように、同一の曲げ半径であれば、Δが高い場合には、Λが小さい領域で所望の曲げ損失を得ることができ、実効コア断面積Aeffも300μm2以上を確保できる。一方、Δが低い場合には、Λが大きい領域で所望の曲げ損失を得ることができ、実効コア断面積Aeffはさらに大きくできる。また、図13から図16を比較すれば、曲げ半径を小さくしていくにつれて、太い実線(BLHOM)と太い破線(BLFM)に囲まれた領域、すなわち所望の曲げ損失を得られる領域が、Λの小さな領域にシフトし、それに伴い、実現可能な実効コア断面積Aeffが小さくなることが分かる。
【0070】
これらの結果から、所望の特性を得るための条件は以下のようになる。
すなわち、先ず基本的には、第10の形態(請求項10に対応)に記載したように実効コア断面積を300μm2以上に確保しつつ、基本モードと高次モードの曲げ損失の差を利用して実質的にシングルモード伝送を可能にするためには、第9の形態(請求項9に対応)に記載したように、Λが8〜16μmの範囲内であって、Δが1.0〜3.0%の範囲内であればよい。
さらに、特に実効コア断面積の拡大を重視して、第12の形態(請求項12に対応)に記載したように実効コア断面積を450μm2以上に確保しつつ、基本モードと高次モードの曲げ損失の差を利用して実質的にシングルモード伝送を可能とするためには、第11の形態(請求項11に対応)に記載したようにΛが10〜16μmの範囲内であって、Δが1.3〜3.0%の範囲内であればよく、その場合には、曲げ半径Rが90〜200mmの範囲で実質的にシングルモード伝送となる。
逆に、省スペースで収納するために好適となるように、曲げ半径を重視して、第14の形態(請求項14に対応)に記載したように小さい曲げ半径、例えば40〜90mmの範囲内で実質的にシングルモード伝送とするには、第13の形態(請求項13に対応)に記載したように、Λが8〜11μmの範囲内であって、Δが1.5〜3.0%の範囲内であればよく、その場合には、実効コア断面積は350μm2以上を実現できる。
また、基本モードと高次モードの曲げ損失については、前述のところでは、基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下でかつ高次モードの曲げ損失が3dB/m以上であることが望ましいとしたが、基本モードと高次モードの曲げ損失の差は、できるだけ大きいことが、より望ましい。そのためには、例えば、高次モードの曲げ損失を10dB/m以上とすることが、より好適である。このときのΛとΔの設計範囲は適宜調整する必要があるが、概ね高次モードの曲げ損失が3dB/m以上の場合と同様の設計範囲となる。
【0071】
なお、以上の各計算は、Δが矩形の屈折率分布を持っていると仮定して行った。しかしながら、実際に高屈折率部を作製する場合、例えば図17のように、屈折率にだれが生じたり、ツノやディップと称される屈折率の非矩形状の屈折率分布が生じることがある。また、製造上の事情で意図的に屈折率分布を設ける場合もある。このような場合では、実効的にコアの屈折率が矩形状換算で上記Δの範囲に入っていれば良く、高屈折率部の屈折率分布形状は問わない。なお、例えば、図17の場合、ピークの屈折率は約2.7%であるが、矩形状換算すると約2.0%となる。
【0072】
最後に、実質的にシングルモード伝搬であることの意味するところを説明する。ここまで、実質的にシングルモード伝搬であることの指標として、基本モードの損失と高次モードの損失で議論してきた。しかしながら実際に製造されたファイバで、これらの測定を行うことは困難である。実用上、実質的なシングルモード伝搬とは、該ファイバに何らかの信号光が入射(増幅ファイバであった場合には、キャビティで発生した発振光でもかまわない)されたときに該ファイバ出力におけるビーム品質(M:Mスクエア値)が1.2以下であることを指す。なおこのM値は、理想的なシングルモード伝搬では1となるものである。そして本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバでは、M値1.2以下を容易に達成することが可能である。
【0073】
なお、ここまでは、例示として規格化周波数Vを1.6とした場合について説明してきたが、実用においては、Vが若干異なる波長で使用した場合にも、上記効果はほとんど変わらない。例えば、使用波長帯がソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一透過バンド内とした場合、規格化周波数Vが1.2〜2.0の範囲の波長で使用すれば、実質的にVが1.6であることと同様に考えることができる。
【0074】
なお本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、少なくともその長手方向の一部を既に述べたような望ましい曲げ半径で曲げた光ファイバモジュール、あるいは、既に述べたような望ましい曲げ半径で1周もしくは2周以上にコイル状に巻いた光ファイバモジュールとして使用することによって、その効果を発揮し得ることはもちろんである。また本発明のソリッドフォトニックバンドギャップファイバは、ファイバアンプあるいはファイバレーザとして使用するにあたって、そのファイバの少なくとも一部を既に述べたような望ましい曲げ半径で曲げるか、またはコイル状に巻いた光ファイバとして使用した場合に有効であることはもちろんである。なお、ファイバアンプあるいはファイバレーザに使用する場合、光ファイバ以外の部分の構成については、公知のファイバアンプもしくはファイバレーザと同様であればよい。
【0075】
以下に、ここまで述べてきた手法を利用して、実際にソリッドフォトニックバンドギャップファイバを作製した実施例を記す。なお以下の実施例は、あくまで本発明を実際に適用した例における具体的効果を説明するためのものであって、これらの実施例の記載が本発明の技術的範囲を限定するものでないことはもちろんである。
【0076】
[実施例1]
この実施例1は、基本的には、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用いたものである。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。Λは11μm、Δは2.0%を狙って作製した。
より具体的には、Vが1.6付近となるよう、dを調整(約1.8μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いる透過バンドは第一バンドギャップとなる。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率散乱体にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で積層構造体のプリフォームを作成した。そしてそのプリフォームをΛが11μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆を施し、ファイバを得た。ファイバ外径は約210μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.03dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約120mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径を小さくする方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が70mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、70mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径70mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径120mmでは約520μm2、曲げ半径100mmでは約470μm2、曲げ半径70mmでは約440μm2であった。
【0077】
[実施例2]
この実施例2は、基本的には、実施例1と同様にコア領域が2層相当(7セルコア)であるが、透過バンドとして第三バンドギャップを用いたものである。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。
より具体的には、Λは13μm、Δは2.5%を狙って作製した。またVが4.65付近となるよう、dを調整(約4.8μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いる透過バンドは第三バンドギャップとなる。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率散乱体にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが13μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆を施し、ファイバを得た。ファイバを得た。ファイバ外径は約250μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.07dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を、曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約100mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が60mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、60mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径60mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径100mmでは約430μm2、曲げ半径60mmでは約380μm2であった。
【0078】
[実施例3]
この実施例3は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、高屈折率散乱体の屈折率分布が矩形でない例である。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。Λは11μmで、しかも矩形換算でΔが2.0%となるような非矩形の屈折率分布(図17参照)を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。
より具体的には、Vが1.6付近となるよう、dを調整(約1.8μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いる透過バンドは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率散乱体にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが11μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆を施しファイバを得た。ファイバ外径は約240μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.01dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約130mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が60mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、60mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径60mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径130mmでは約530μm2、曲げ半径100mmでは約510μm2、曲げ半径60mmでは約420μm2であった。
【0079】
[実施例4]
この実施例4は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、実効コア断面積Aeffが大きくなるようにした例である。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。
より具体的には、Λを12.5μmとし、矩形換算でΔが1.5%となるような、図17に示す屈折率分布を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。Vが1.6付近となるよう、dを調整(約2.1μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いるバンドギャップは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率部にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが12.5μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ポリイミドからなる保護被覆に覆われたファイバを得た。ファイバ外径は約280μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.09dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約130mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が80mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず80mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径80mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径100mmでは約590μm2、曲げ半径80mmでは約480μm2であった。
【0080】
[実施例5]
この実施例5は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、曲げ半径を小さくして、ファイバモジュールなどとして、巻き径を小さくできるようにした例である。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。
より具体的には、Λは9μmとし、矩形換算でΔが2.5%となるような、図17に示す屈折率分布を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。Vが1.6付近となるよう、dを調整(約1.6μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いるバンドギャップは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率部にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが9μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆で覆われたファイバを得た。ファイバ外径は約160μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.01dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約70mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が40mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、40mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径40mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径70mmでは約370μm2、曲げ半径40mmでは約330μm2であった。
【0081】
[実施例6]
この実施例6は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、かつコア領域のシリカガラスにイッテルビウム(Yb)を添加したものを用い、しかも前期外側クラッドを設けて、ダブルクラッド構造とした。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造のファイバに、さらに外側クラッドを設けた構造である。
より具体的には、Λを11μmとし、矩形換算でΔが2.0%となるような、図17に示す屈折率分布を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。Vが1.6付近となるよう、dを調整(約1.8μm)した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いるバンドギャップは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、コア領域にあたる中心2層相当部分には、イッテルビウムを酸化イッテルビウム(Yb)換算で約1mol%添加したシリカガラスを用いた。高屈折率散乱体には、ゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが11μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ファイバの外側に、前記外側クラッドとして、ポリマークラッドを付与し、さらにその外側がウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆で覆われたファイバを得た。ファイバ外径は約180μm、外側クラッド外径は240μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1200nmにおいて0.1dB/mであった。なお、使用波長である1064nmでは、イッテルビウムの吸収が存在するため、伝送損失の測定ができない。976nmでのコアの吸収量は約1100dB/mであった。M測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約180mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が70mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、70mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径70mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径180mmでは約590μm2、曲げ半径120mmでは約520μm2、曲げ半径70mmでは約440μm2であった。本ファイバを用い、両端にファイバグレーティングを用いて共振器を構成してファイバレーザを作製した。本ファイバレーザにクラッドポンプ方式を用いてレーザ発振させたところ、Mは1.0であった。
【0082】
[実施例7]
この実施例7は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、実効コア断面積Aeffが大きくなるようにした例である。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。
より具体的には、Λは15μmとし、矩形状換算でΔが1.0%となるような、図17に示す屈折率分布を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。Vが1.6付近となるよう、dを約2.6μmに調整した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いるバンドギャップは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率散乱体にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームを、Λが15μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆で覆われたファイバを得た。ファイバ外径は約250μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.07dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約200mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が120mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、120mmから徐々にパワーが減っていった。これは、基本モードの曲げ損失が曲げ半径120mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径200mmでは約760μm2、曲げ半径120mmでは約670μm2であった。
【0083】
[実施例8]
この実施例8は、基本的には、実施例1と同様に、コア領域が2層相当(7セルコア)で、透過バンドとして第一バンドギャップを用い、実効コア断面積Aeffが大きくなるようにした例である。具体的には、図5に示すように、2層相当コア型で、三角格子状に周期的に配列された高屈折率散乱体を持つ構造である。
より具体的には、Λは12.5μmとし、矩形状換算でΔが1.4%となるような、図17に示す屈折率分布を持つ高屈折率散乱体を有するファイバを作製した。Vが1.6付近となるよう、dを約2.2μmに調整した。したがって、波長1064nmで使用する場合、用いるバンドギャップは第一バンドギャップである。光ファイバプリフォームはシリカガラスを主成分としており、高屈折率散乱体にはゲルマニウムを添加したシリカガラスを用い、スタックアンドドロー法で作製した。該プリフォームをΛが12.5μmとなるようにファイバ外径を制御して紡糸し、ウレタンアクリレート系のUV樹脂からなる保護被覆で覆われたファイバを得た。ファイバ外径は約210μmであった。
該ファイバを測定したところ、伝送損失は波長1064nmにおいて0.04dB/mであった。またM測定器で、試作ファイバの出力ビーム品質を曲げ半径を変えながら測定したところ、曲げ半径約150mm以下でMが1.2以下となった。曲げ半径が小さくなる方向に曲げを印加しながら、出力光パワーも測定したが、曲げ半径が90mm程度までは、パワーの曲げ径依存性は見られず、90mmから徐々にパワーが減っていった。これは基本モードの曲げ損失が曲げ半径90mm程度以上では観測されていないことを意味し、低損失なファイバとなっていることがわかる。各曲げ半径にて実効コア断面積を測定したが、曲げ半径150mmでは約640μm2、曲げ半径90mmでは約580μm2であった。
【符号の説明】
【0084】
10 ソリッドフォトニックバンドギャップファイバ
12 コア領域
14 クラッド領域
16 クラッド領域の母材部分
18 高屈折率散乱体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ファイバ長手方向に対する断面の中心部分のコア領域を、低屈折率の固体物質により形成し、そのコア領域を取り囲むクラッド領域の母材を、低屈折率の固体物質で形成するとともに、そのクラッド領域の母材中に、高屈折率の固体物質からなる多数の微細な高屈折率散乱体を、コア領域を取り囲むように分散配置してなるソリッドフォトニックバンドギャップファイバであって、所定の曲げ半径で曲げられた状態で、曲げによって生じる基本モードと高次モードの曲げ損失の差により高次モードでの伝搬を規制して、実質的に基本モードのみを伝搬するように構成したことを特徴とする、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項2】
前記高屈折率散乱体が、コア領域を取り囲むクラッド領域に層状の周期構造で配置されてなることを特徴とする、請求項1に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項3】
前記高屈折率散乱体が、コア領域を取り囲むクラッド領域に三角格子状に周期的に配置されており、かつその高屈折率散乱体の周期構造がファイバの半径方向に少なくとも4層以上であって、しかもコア領域を、ファイバの横断面の中心位置から半径方向外方に向けて高屈折率散乱体を三角格子状に周期的に配置したと仮定してその中心から高屈折率散乱体を2層以上除去した広さに相当する領域としたことを特徴とする、請求項2に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項4】
前記コア領域と、クラッド領域の母材とが、シリカガラスを主成分とする物質で構成され、高屈折率散乱体が、ゲルマニウムを添加したシリカガラスで構成されていることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項5】
前記所定の曲げ半径で曲げられた状態での基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下であって、かつ高次モードの曲げ損失が3dB/m以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項4のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項6】
実効コア断面積が200μm2以上であることを特徴とする、請求項1〜請求項5のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項7】
使用波長帯を、ソリッドフォトニックバンドギャップファイバの第一透過バンド内とすることを特徴とする、請求項1〜請求項6のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項8】
前記所定の曲げ半径が40〜200mmの範囲内にあることを特徴とする、請求項3に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項9】
前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が8〜16μmの範囲内であって、かつ高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.0〜3.0%の範囲内であることを特徴とする、請求項3に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項10】
実効コア断面積が300μm2以上であることを特徴とする、請求項9に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項11】
前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が10〜16μmの範囲内であって、高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.3〜3.0%の範囲内であることを特徴とする、請求項3に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項12】
前記所定の曲げ半径が90〜200mmの範囲内にあり、実効コア断面積が450μm2以上であることを特徴とする、請求項11に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項13】
前記高屈折率散乱体の三角格子状の周期間隔が8〜11μmの範囲内であって、高屈折率散乱体とクラッド領域母材との比屈折率差が1.5〜3.0%の範囲内であることを特徴とする、請求項3に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項14】
前記所定の曲げ半径が40〜90mmの範囲内にあり、実効コア断面積が350μm2以上であることを特徴とする、請求項13に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項15】
40〜200mmの範囲内の曲げ半径で曲げられた状態で、基本モードの曲げ損失が0.1dB/m以下であってかつ高次モードの曲げ損失が10dB/m以上であることを特徴とする、請求項6〜14のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項16】
規格化周波数Vが1.2〜2.0の範囲の波長で使用することを特徴とする、請求項7〜14のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項17】
前記クラッド領域の外側に、低屈折率の外側クラッド層を有することを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項18】
前記外側クラッド層が、ポリマークラッドであることを特徴とする、請求項17に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項19】
前記外側クラッド層が、エアクラッドもしくはホーリークラッドであることを特徴とする、請求項17に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項20】
蛍光元素を前記コア領域に含むことを特徴とする、請求項1〜19いずれかの請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項21】
前記蛍光元素が希土類であることを特徴とする、請求項20に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項22】
前記希土類蛍光元素がイッテルビウムであることを特徴とする、請求項21に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバ。
【請求項23】
請求項1〜22のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバの少なくとも一部が、所定の曲げ半径で曲げられてなることを特徴とする、光ファイバモジュール。
【請求項24】
請求項1〜22のいずれか1の請求項に記載のソリッドフォトニックバンドギャップファイバが、所定の径で巻かれてコイル状とされていることを特徴とする、光ファイバモジュール。
【請求項25】
請求項1〜24のいずれか1の請求項に記載されたソリッドフォトニックバンドギャップファイバもしくは光ファイバモジュールを構成要素として含むことを特徴とする、ファイバレーザもしくはファイバアンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−73389(P2012−73389A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217798(P2010−217798)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】