説明

ソルビシルラクトンAを生成する方法

抗腫瘍天然化合物ソルビシルラクトンA(sorbicillactone A)(2)およびその誘導体を大量に最適化して生産するための、真菌ペニシリウムクリソゲヌム、特にKIP3201株の改良された培養方法、およびその真菌バイオマスおよび培地から回収し精製するための最適化された方法が記載されている。
【化1】


さらに、ソルビシルラクトンA(2)の生物活性および化合物の遺伝毒性に関する研究が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペニシリウムクリソゲヌム(Penicillium chrysogenum)、特にKIP3201株の培養による、生物活性化合物ソルビシルラクトンA(sorbicillactone A)およびその誘導体の最適化された生成方法に関する。本発明はさらに、培地および真菌バイオマスから多量のソルビシルラクトンAおよびその誘導体を精製する方法、ならびに疾病および感染を治療するためのソルビシルラクトンAの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
新規な生物活性化合物の探索は、主として以下の2経路で行われる。1つは生体系から活性天然化合物の単離、他方は自然物からの二次代謝産物に部分的に触発された新規な化合物の合成。これに関しては、アクセス困難で極端な生息場所にいる大型および小型の生物の代謝産物の検査が特に重要である。従って、例えば、海洋性真核生物、特に海綿は、生理活性物質の豊富な供給源の代表である(Sarma AS, Daum T, Mueller WEG (1993)『海生海綿からの二次代謝産物(Secondary metabolites from marine sponges.)』、Akademie gemeinnuetziger Wissenschaften zu Erfurt, Ullstein-Mosby Verlag, Berlin)。その理由は、この生物体の生活が定着方式ということにある。この生物体は、彼らの栄養物である浮遊粒子(藻類、細菌、または真菌)が水中で自分の場所に移送されて来るのを頼りにしている。しかし、これらの粒子は絶え間なく水流と共に回遊しているので、細菌または真菌に感染して生じる疾病の危険性が増大している。したがって、海綿は、そのような感染に対する防護のために生物活性二次代謝産物による効率的な防御機構に依存する。しかし、多くの場合、これらの物質の形成が海綿自体によるのか、または海綿に関連する多数の微生物の1つによるのかは不明のままである。従って、海綿中に生息するこれらの微生物を単離し、その代謝産物スペクトルを研究することは特に重要である。従って、その生物活性二次代謝産物を十分な量取得するために、これらの微生物の培養増殖を可能にする方法を開発することが研究の主たる目標である。
【0003】
今日、海洋性真核生物中に生じている微生物の約5%しか培養できないと推定することができる。従って、その潜在能力は依然として大部分未開発であるとみなすことができる。新規な薬剤の供給源としてこれらの微生物を首尾よく継続的に使用可能にするためには、所望の代謝産物の生成を可能な限り増大する一方で、望ましくない副産物の形成を大きく阻害することを特徴とする培養方法を開発するのが重要である。
【0004】
生物活性二次代謝産物を商業的に活用するための利用範囲は広く、神経変性疾患、細菌、ウイルス、および真菌感染症の治療から腫瘍治療に至る。
【0005】
その際に強く追求されるのは、所定の腫瘍に対して高い特異性を示し、同時に、例えばウイルスによる日和見感染を低減する生理活性物質である。
【0006】
近年、生理活性物質ソルビシルラクトンAおよびその誘導体が、イルシニア(Ircinia)属の海洋性海綿から単離されたペニシリウム株から単離された(ドイツ国特許第10238257.3号)。それによって、ソルビシルラクトンAおよびその誘導体が、予想外の顕著な抗腫瘍特性および抗ウイルス特性、ならびに抗炎症特性を有することが見出された。現在まで、この物質およびその誘導体の生成のために使用する方法の規模拡大が今までのところ不可能であった。とはいえ、多量のソルビシルラクトンAおよびその誘導体を確実に生成することは、例えば、癌や炎症などの疾患の治療における有望な使用に向けて早急に必要とされている。
【非特許文献1】Sarma AS, Daum T, Mueller WEG (1993)『海生海綿からの二次代謝産物(Secondary metabolites from marine sponges.)』、Akademie gemeinnuetziger Wissenschaften zu Erfurt, Ullstein-Mosby Verlag, Berlin
【特許文献1】ドイツ国特許第10238257.3号
【非特許文献2】1998, Mech. Ageing Dev. 101:1-19
【非特許文献3】Freshney (1987)、「特定細胞型の培養(Culture of specific cell types.)」、『動物細胞培養(Culture of Animal Cells.)』、『基本技術マニュアル(A Manual of Basic Technique)』,A.R. Liss, New York, S. 257-288; Perovic et al. (1994) Eur. J. Pharmacol. (Mol. Pharmacol. Sec.) 288:27-33
【非特許文献4】Ushijima et al. (1995) Eur. J. Neurosci. 7:1353-9
【非特許文献5】Grynkiewicz et al. (1985) J. Biol. Chem. 260:3440-50
【非特許文献6】(1985, J. Biol. Chem. 260:3440-50)
【非特許文献7】Sachs (1984) Angewandte Statistik. Springer, Berlin
【非特許文献8】Mueller et al., 1979, Cancer Res. 39:1102-1107
【非特許文献9】Bihari et al., 2002, Croatica Chemica Acta 75:793-804
【非特許文献10】Batel et al.,1999, Anal. Biochem., 270:195-200
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、天然化合物ソルビシルラクトンAおよびその誘導体の最適化された生成方法、培地および真菌バイオマスからのソルビシルラクトンAおよびその誘導体の抽出方法、および多量のソルビシルラクトンAおよびその誘導体を精製する方法を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、この目的は、最初に以下の諸ステップを含む方法の提供によって解決される:
a)適切な増殖培地中、20〜25℃、2〜5%の塩濃度でペニシリウム属真菌を緻密表面菌糸体が形成されるまで培養するステップ、
b)28〜35℃に温度を上げ、さらに5〜10日間インキュベーションするステップ、
c)培養液を菌糸体から分離するステップ、および
d)ソルビシルラクトンAおよびその誘導体を培地から抽出するステップ、および任意に、
e)塩濃度を0.5〜1.5%に減少した新鮮培地を菌糸体の下に敷き、28〜35℃で3〜8日間インキュベーションするステップ、
f)ステップc)とd)を繰り返すステップ、および任意に、
g)ステップe)とf)を繰り返すステップ、および
h)ソルビシルラクトンAおよびその誘導体を培地および/または菌糸体から抽出するステップ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明により、このようにして、特定の条件下で真菌の培養が行われ、収量が増大し同時に生成速度が高められる方法がこれによって示される。従って、ソルビシルラクトンAおよびその前駆体もしくは誘導体の増殖および生成は、培養条件を変更することによって制御され、かつ、例えば、NaClの添加によって開始し刺激される。生成が特に促進される理由は、段階的過程で生成のための最適増殖条件および最適生成条件を、例えば、インキュベーション温度を、例えば、20〜25℃から28〜35℃に変化させることによって、および塩濃度を2〜5%から0.5〜1.5%に変化させることによって生成を連続的に実施するからである。他のインキュベーション温度では、ソルビシルラクトンAの生成および/またはその誘導体の生成は皆無であるか、または少ししか見出されなかった。驚くべきことに、本発明の方法によってこのようにして多量のソルビシルラクトンAおよびその誘導体が確実に提供される。
【0010】
本発明によって好ましいのは、真菌ペニシリウムクリソゲヌム、特にKIP3201株が生成に使用される方法である。
【0011】
本発明の別の態様によれば、多様な基質および基質濃度、例えば、ピルビン酸塩、グルタミン酸塩、プロリン、酢酸塩を介して増殖培地を改変することにより、ソルビシルラクトンAばかりでなく、ソルビシリンおよびソルビシルラクトンAの他の生合成前駆体の収量が増大することを特徴とする方法が提示される。
【0012】
好ましい実施形態によれば、ソルビシルラクトンAおよびその誘導体の生成をフラットベッド法で行う方法が提示される。ソルビシルラクトンAおよびその誘導体の生成は、適当な時点で細胞から液相分離することによって、かつ再度、新鮮培地が供給された細胞を生成に向けて刺激することによってさらに促進することができる。適当な時間は、例えば3〜10日である。
【0013】
好ましい接種原の型は、真菌が固形物に結合した形態であり、その原料は浮遊可能な固形物、例えば、粒子またはポリスチレンフォーム球上に用意されて接種される。
【0014】
よりさらに好ましいのは、表面真菌菌糸体の沈殿が回避される方法である。これは、表面菌糸体を安定化させるキャリアデバイスを培養容器に組み込むことによって実現できる。その際に、キャリアデバイスの適当な形は、例えば、メッシュによって代表される。
【0015】
好ましい方法は、生成したソルビシルラクトンAおよびその誘導体を直ちに培地から固体交換体に結合できることを特徴とする。次いで、この結合形態からの精製を追加ステップにおいて行う。その際には、交換体からの溶出は、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、またはアセトニトリルなどの有機溶媒によって行うことができる。この方式で、交換体から高度に濃縮された形でソルビシルラクトンAおよびその誘導体を得ることができる。
【0016】
別の好ましい方法は、培地から分離した真菌菌糸体から生成したソルビシルラクトンAおよびその誘導体を、有機溶媒の添加によって抽出することを特徴とする。その際には、酢酸エチルを使用するのが好ましい。
【0017】
本発明の別の態様によれば、粗抽出液をさらに抽出することを特徴とする方法が提示される。その際には、粗抽出液を酸性化することができ、続いてソルビシルラクトンAおよびその誘導体を有機溶媒によって抽出することができる。その際には、酢酸エチルを使用することも好ましい。
【0018】
高速遠心分離分配クロマトグラフィー(FCPC)によって、最適化された抽出液を精製するのがさらに有利である。さらに、ゲルクロマトグラフィー、例えば、セファデックスLH−20によって最適化された抽出液の精製が好ましい。その際には、ソルビシルラクトンAおよびその誘導体を溶出するために異なる有機溶媒を使用することができる。
【0019】
本発明の好ましい態様は、特徴としてソルビシルラクトンAをソルビシルラクトン−A−メチルエステルに誘導することを含む方法である。
【0020】
ソルビシルラクトンAでインキュベートした神経細胞は、L−グルタミン酸およびセロトニン(5−HT)を添加すると、細胞内カルシウム濃度の甚だしい減少が示されることが判明した。L−グルタミン酸およびセロトニンは、一連の神経変性疾患において神経伝達物質として病原学的に関与している。これらの特性のために、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体は、神経変性疾患およびそれに関連する複合症状の治療に使用できるはずである。
【0021】
さらに、ソルビシルラクトンAの遺伝毒性をL5178Y−マウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722)で試験した。1、3、および10μg/mLのソルビシルラクトンAと共にインキュベートした細胞では、DNA鎖の切断が誘発されないことが判明した。それに反して、30μg/mlの濃度のソルビシルラクトンAでのインキュベーション24時間後にはDNA鎖切断部分の有意な増加が見られた。この特性のために、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を白血病の治療に使用することが有利である。
【0022】
さらに、ソルビシルラクトンAは、10および30μg/mLの濃度でのインキュベーション4時間後、L5178Y細胞でアポトーシスを誘発する。これらの特性のために、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を白血病の治療に使用するのが好ましい。
【0023】
さらに、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体をウイルス感染症の治療に使用することができる。これに関する詳細は、ドイツ国特許第10238257.3号の例に記載されている。
【0024】
本発明の別の態様は、医薬組成物を生成する方法であって、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を適当な医薬的に受容可能な補助化合物および添加物と共に製剤化することができる方法に関する。これに関して、好ましい医薬組成物では、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体は、治療中に0.3〜30μg/mlの濃度範囲が生体内に存在するような量で存在する。
【0025】
本発明の別の態様は、ペニシリウム属クリソゲヌムKIP3201真菌株に関する。これは、2004年1月14日に、微生物および細胞培養物のドイツ国コレクション(the German Collection of Microorganisms and Cell Cultures)GmbHに第DSM16137号で寄託された。
【0026】
本発明に関連して、「誘導体」は、一般式1に由来し、例えば、R1〜R4およびXもしくはYに定義する異なる遊離基によって置換した化合物、およびこれらの化合物数種の混合物であり、この誘導体は、例えば、治療しようとする疾病および/または患者に関して、診断データ、または治療成果もしくは進行それぞれに関するデータを基礎に調製した「個別化」医療に加工することができる。誘導体はまた、ソルビシルラクトンAのクラスに属する化合物であって、(見本として)ここに述べたものとは異なる(例えば)海洋生物から単離することができ化合物を意味する。
【化1】

【0027】
さて、以下に、添付図を参照して以下の実施例によって本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0028】
ソルビシルラクトンAの最適化生成のために塩含有培地で真菌ペニシリウムクリソゲヌムを培養
【0029】
ソルビシルラクトンAの生成を最適化するために、培養を行う塩含有量および温度がこの生物にとって異常に高いという点で、特に通常使用されているものとは異なる培地および培養条件を確立した。
【0030】
標準的な条件下で作成されている胞子懸濁液が培養接種原として使用されており、最初にこの胞子を1.5%バクトアガーを含むWickerham培地と共に寒天プレート上にて室温で14日間増殖させた。胞子を海水(34‰)とグリセロールの溶液(2:1)に懸濁し、標準力価液に調整し、分割し、適当な分量で凍結し、−20℃で保管した。大量培地を大規模に調製するための接種材料を調製するに当たり、粒子をオートクレーブ処理して滅菌し、培地を補充し、真菌胞子を接種した。14日間20℃でインキュベーション後、粒子を乾燥し、使用時まで室温で保管する。培地にこれらの胞子調製物を接種する。
【0031】
生産には、以下の組成の改変型Wickerham培地:3gの酵母抽出液、6gの麦芽抽出液、5gのペプトン、10gのグルコース、NaCl25g/蒸留水1000mLを使用する。pHは5.5に調整する。
【0032】
充填高が4cmになるまで培地を培養容器に加え、オートクレーブ(121℃で20分)にかけ、冷却後、胞子懸濁液を接種し、緻密な表面菌糸体が形成されるまで22℃で7日間インキュベートする。次いで、温度を31℃に上げ、さらに7日間インキュベーションを続ける。次いで、生成したソルビシルラクトン(1)の主画分を含む培養液を菌糸体から分離し、さらに加工してその物質を回収する。菌糸体の下にわずかに変更した組成の同量の新鮮培地を再度敷く。上記の培地を使用するが、1Lにつき5gのNaCl、15gのグルコースを含み、麦芽抽出液は含まない。添加の前には、培地を加温してインキュベーション温度にし、菌糸体を5日間インキュベートする。次いで、同じ手順を繰り返す。分離法にしたがってソルビシルラクトンA(1)を培養ブロスおよび菌糸体から抽出する。
【実施例2】
【0033】
ソルビシルラクトンAを真菌バイオマスから抽出
真菌菌糸体を目の細かいメッシュによって培地から分離し、バイオマス1gにつき酢酸エチル3mLを補充し抽出する。抽出液をろ過し、回転エバポレーター中で濃縮する。さらに精製するまで、濃縮物をそれぞれ5℃または−20℃で保管する。
【実施例3】
【0034】
ソルビシルラクトンAを培地から抽出
菌糸体から分離した培地に、1Lにつき100gの交換樹脂、例えば、XAD−16を軽く攪拌しながら加える。培地から物質を搭載させた後、XAD−16をろ過し、メタノール/水(1:1)およびメタノールで抽出する。抽出液を回転エバポレーターで濃縮し、さらに精製するまでメタノール不含濃縮物をそれぞれ5℃または−20℃で保管する。
【実施例4】
【0035】
HPLC−UVによるソルビシルラクトンAの含有量の定量
含有量の定量は、0.4mL/分の流量でWaters製symmetry-C-18逆相カラムにより、ダイオードアレイ検出器を備える分析用HPLCで行う(A=水+0.05%TFA、およびB=アセトニトリル+0.05%TFAとして、20分で濃度勾配:80%A:20%B〜20%A:80%B)。ピーク領域の統合は370nmの波長によって行う。ジヒドロソルビシルラクトンA(3)の吸収が、この波長では事実上ゼロであり、従って含有量の定量誤差が最小化するからである。粗抽出液の濃度の定量は、それぞれの抽出液をメタノール/水(1:1)混合物で約150倍に希釈することによって行われ、異なる精製ステップの抽出液では希釈は約10倍である。粗抽出液および異なる精製ステップの個々の抽出液のソルビシルラクトンA(2)の含有量の定量は、ソルビシルラクトンA(2)を様々な濃度で含むメタノール溶液の試料の測定値から得た検量線を用いて行う。
【実施例5】
【0036】
培地から得られた粗抽出液の精製
ペニシリウムクリソゲヌム真菌培養物の水性粗抽出液は、望ましくない副産物、例えば、メレアグリン(meleagrin)などを分離するために、酢酸エチルで中性下で抽出する。得られた酢酸エチル相は廃棄する。水相は、リン酸(pH=2)で酸性化し酢酸エチルで徹底的に抽出する。ソルビシルラクトンAは、実際、酸性抽出液の酢酸エチル相に定量的に移すことができる。真空濃縮後、得られた抽出液には、既に、その質量の50%までの量のソルビシルラクトンAが含まれている。
【実施例6】
【0037】
高速遠心分離分配クロマトグラフィー(FCPC)による抽出液の更なる精製
抽出液の更なる精製は、追加の液体−液体クロマトグラフィーステップによって行う。その際には、新規な方法である、いわゆる高速遠心分離分配クロマトグラフィー(FCPC)を使用する。この方法では、一般的な液体−液体クロマトグラフィー法、例えば、高速向流クロマトグラフィー(HSCCC)などと同様に、2相溶媒混合液を使用する。その際には、任意により、上相または下相を静止相として使用することができる。HSCCCとは対照的に、FCPCはキャピラリーコイルを使用しないが、数百の分離チャンバを備えたローターを使用する。直接次々と配列したこれらのチャンバでは、抽出液に含まれている物質の分離は移動相と静止相の間で行われる。
【0038】
分離中、系を急速回転(1200〜1400rpm)にかける。その際には、一方で、流れの方向に従って所望する相をFCPCのローターに保持し、他方で両相の分離を遠心力によって促進する。これにより高速流が使用可能になり、それによって短時間で多量の物質の処理を行うことができる。所望する物質の2相間における分離係数Kは、0.7〜4.5の範囲であるべきである。Kが小さいと、この物質は急激溶出され過ぎて、従って全く分離されない。それに反して、Kが高いと、多量の抽出液を迅速に精製するには保持時間が長くなりすぎる。
【0039】
ソルビシルラクトンAの場合には、毎分6〜7mLの流量でのヘプタン/酢酸エチル/メタノール/水(42%/58%/42%/58%)の溶媒混合液の使用、回転数1200rpm、および静止相として上相の使用が特に有利である。さらに、溶媒混合液1Lにつき濃リン酸1mlを加える。200mL−FCPCローターを使用すると、一回につき抽出液1.5gまでの精製が可能である。これらの設定により、調製および洗浄時間を含め、分離一回につき90分しか必要とされない。ソルビシルラクトン含有画分を有機溶媒から分離し、残りの水性酸性相を徹底的に酢酸エチルで抽出する。真空濃縮後、ソルビシルラクトンAの質量−含有量が70%までの抽出液を得ることができる。
【実施例7】
【0040】
ゲルクロマトグラフィーによる純粋ソルビシルラクトンAの回収
純粋ソルビシルラクトンA(2)の回収における最も困難なステップは、構造的に非常に類似するが、活性が5分の1の化合物ジヒドロソルビシルラクトンA(3)の分離である。
【化2】

【化3】

図1.ソルビシルラクトンA(2)およびジヒドロソルビシルラクトンA(3)の構造
【0041】
両化合物は、ソルビル(sorbyl)側鎖のC−2'およびC−3'の飽和の等級が異なるにすぎないために、化合物混合物の分離中に利用することができる質量や極性などの分子物理的特性はほぼ同じである。とはいえ、溶出剤としてメタノールと共にセファデックス−LH−20物質でのゲルクロマトグラフィーによって分離することができる。しかし、分子類似性が高いために、非常に長いカラム系(6m以上)を使用する必要がある。MPLC系としてこのカラム系には、ポンプによって溶媒を供給する。溶出剤の流速は毎分約10mLである。その際には、両ラクトン2および3は互いに十分に分離し、3が速く溶出する。分離過程一回につき、アプライした被夾雑ソルビシルラクトンA(2)の約70%を清浄画分として得ることができる。3が夾雑している混合画分は、セファデックスLH−20でのクロマトグラフィーを再スタートすることによって、問題なくさらに精製することができる。
【実施例8】
【0042】
HPLC−UVによる抽出液中のソルビシルラクトンA(2)およびジヒドロソルビシルラクトンA(3)の百分率比の定量
粗抽出液中のソルビシルラクトンA(2)およびジヒドロソルビシルラクトンA(3)の百分率比の定量には、最初に、抽出液試料をメタノール/水混合物で希釈する。ダイオードアレイ検出器を備える分析用HPLCで均一溶媒条件下(水/アセトニトリル/TFA=70/30/0.05%)、Waters製symmetry-C-18逆相カラムにより流量0.4mL/minで試料を検査する。これにより、化合物のピーク領域の統合に適した分離がなされる。その際には、220nmの波長における両ラクトン(2、3)の吸収はほぼ同一なので、220nmの波長でピーク領域の統合を実施する。この方法は、ゲルクロマトグラフィーからの画分の純度の検査にも使用することができる。
【実施例9】
【0043】
UV吸収実験によるゲルクロマトグラフィーからの画分の純度の定量
最終精製ステップからの画分の分析を促進するために、それを探究する方法はクロマトグラフィー法なしに行われるはずである。その際、それぞれの画分のUV吸収を300nmおよび430nmで記録し、純度の検査には、測定した両値の商を使用できることが判明した。望ましくない夾雑ジヒドロソルビシルラクトンA(3)は、ソルビシルラクトンA(2)より先に溶出し、ソルビシルラクトンA(2)と同様に、300nmで強く吸収されるが、430nmの波長ではそれほど吸収されなかった。測定した両値の商が一定値に達すると、その結果、画分は純粋ソルビシルラクトンA(2)しか含まないことが想定される。これらの結果は、実施例8に記載した条件下での対照測定でも確認することができた。このようにして、全分離画分の分析に要する時間を、HPLC分析での数時間から、ほんの数分に減少させることができる。
【実施例10】
【0044】
ソルビシルラクトンA(2)をそのメチルエステル4へ誘導体化
ソルビシルラクトンA(2)をそのメチルエステル4へ誘導体化することは興味深かった。一方で、化合物は、例えば、血清中の濃度を定量するための内部標準として適切であり、他方で構造−活性相関の研究に適切であったからである。30mgのソルビシルラクトンA(2)を5mlのメタノールに溶解し、200μLの濃硫酸を補った。室温で6時間攪拌した後、100mLの水を加え、混合物を100mlの酢酸エチルで二度抽出した。有機相を真空蒸発後、残留物を調製用HPLCによって精製した。このようにして18.6mgの黄色非結晶物質が得られた。
【化4】

【0045】
ソルビシルラクトン−A−メチルエステル(4)の物理的および分光学的データ
化合物は、非結晶黄色固体として存在する。
融解温度166〜170℃(THF)。
[α]D20=−558°(c=0.2、メタノール中)。
CD(c=0.2、メタノール中):Δε208 +11.1、Δε231 −12.6、Δε278 +12.5、Δε370 −13.0。
IR(KBr):ν=3333(br.),2931(w),1783(m),1730(m),1681(s),1612(s),1552(s),1442(m),1415(m),1384(m),1350(s),1310(s),1198(m),1176(m),1065(m)cm−1
MS(ESI、陽性):m/z432[M+H]
【0046】
THF−d中のソルビシルラクトン−A−メチルエステル(1)のNMRデータ
【表1】

【実施例11】
【0047】
ソルビシルラクトンAの生物活性の検出
A)測定
物質:Perovicら(1998, Mech. Ageing Dev. 101:1-19)に記載されているものと同じ物質を使用した。Molecular Probes(Leiden、オランダ国)からFura−2−アセトキシメチルエステル(Fura−2−AM);Sigma-Aldrich(Taufkirchen、ドイツ国)から4.5g/Lグルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM/HG)、L−グルタミン酸(L−Glu)、およびセロトニン(5−HT);ならびにRoche Diagnostics(Mannheim、ドイツ国)から抗体、マウス抗神経フィラメント(68kDa)およびマウス抗グリア繊維酸性蛋白質(GFAP)を入手した。バッチ:2208/2aのソルビシルラクトンAを使用した。
【0048】
一次ニューロン:修正した手順に従い、17〜18日齢ラット胎仔脳から表層細胞培養を生成した[Freshney (1987)、「特定細胞型の培養(Culture of specific cell types.)」、『動物細胞培養(Culture of Animal Cells.)』、『基本技術マニュアル(A Manual of Basic Technique)』,A.R. Liss, New York, S. 257-288; Perovic et al. (1994) Eur. J. Pharmacol. (Mol. Pharmacol. Sec.) 288:27-33]。単離後、Ca2+およびMg2+不含のハンクス平衡塩類溶液(HBSS)に大脳半球を入れ、続いて0.025%(w/v)トリプシンを使用(10分、37℃)し、神経細胞をHBSS中で分離させた。蛋白質分解反応を10%(v/v)ウシ胎仔血清(FCS)で停止させた。単一細胞懸濁液を遠心分離し、得られたペレットを4.5g/Lグルコース含有ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM/HG)(2mM L−グルタミン、100mU/Lインスリン、および10%(v/v)FCS含有)に取り入れた。ポリ−L−リジン(5μg/mL、300μl/cm)を塗布したチャンバに細胞密度2.0×10細胞/cmで細胞を播種した。2日後、DMEM/HG/10%−FCS培地を除去し、DMEM/HG/無血清培地と交換した。単離から2週間後、ニューロンのマーカーとして抗神経フィラメント(68kDa)で、かつグリア細胞のマーカーとして抗GFAPで免疫染色を行った。培養物には、ニューロンが80%を超えて含まれており、残りの20%はGFAP陽性細胞、主としてアストロサイト(Ushijima et al. (1995) Eur. J. Neurosci. 7:1353-9)であった。ニューロンを空気95%およびCO25%の雰囲気の中に37℃で保持した。
【0049】
ニューロンにFura−2−AMを搭載:細胞内Ca2+濃度([Ca2+)を蛍光測定によって定量した。340および380nmでのCa2+の指標染料Fura−2−AMの吸収率比(Grynkiewicz et al. (1985) J. Biol. Chem. 260:3440-50)を決定した。ニューロンには、DMEM/HG/無血清培地(1%(w/v)ウシ血清アルブミンを補充)中、37℃で60分間、6μM Fura−2−AMを搭載した。インキュベーション後、細胞を培地で2回洗浄し、37℃で45分間さらにインキュベートした。このインキュベーション時間は、ニューロン(不活性Fura−2−AM)に搭載し、アセトキシメチルエステル(活性Fura−2)を加水分解するのに十分である。
【0050】
カルシウム検量線:Grynkiewicz ら(1985, J. Biol. Chem. 260:3440-50)の方法に従ってカルシウム検量線を生成した。340および380nmで各緩衝液の蛍光写真を得た。両蛍光スペクトル(340/380nm)から商を算出し、検量線を引いた。商(340/380nm[比の値])1.0は228nM[Ca2+に相当する。
【0051】
ニューロンのカルシウム濃度の変化:全実験設定では、最初に、細胞にFura−2−AMを搭載し、続いて異なる物質(ロッケ液中:154mM NaCl、5.6mM KCl、3.6mM NaHCO、5.6mM グルコース、および10mM Hepes、pH7.4、CaCl不含)で刺激した。ソルビシルラクトンAを100%(v/v)DMSOに10mg/mLの濃度で溶解し、−20℃で保存した。第1の設定では、ニューロンを0.1%(v/v)DMSO(対照)で5分間刺激し、10分後、200μM L−グルタミン酸(L−Glu)、200μM セロトニン(5−HT)、および2.5mM CaClを細胞に加えた。第2の設定では、事前に(10μg/mL ソルビシルラクトンAで5分)インキュベートしたニューロンのカルシウム濃度に及ぼすL−Glu、5−HT、および2.5mM CaClの作用を試験した。全実験では、[Ca2+濃度を少なくとも20〜25分間測定した。
【0052】
[Ca2+の定量では、4チャンバ系(Lab-Tek(登録商標)、Chamber Slide(商標)系、Nunc、Wiesbaden、ドイツ国)のポリ−L−リジンをコートしたホウケイ酸対物スライド上で細胞を培養した。蛍光測定は、アポクロマート反射光および蛍光対物UApo40X/340を備えた倒立ステージ顕微鏡(Olympus IX70)で実施した。100Wのキセノンランプの前でコンピュータ制御の狭帯域干渉フィルタを用いて細胞に波長340および380nmを交互に光照射した。さらに、380nmで0.25−NDフィルタを使用した。蛍光発光を510nmでCCDカメラ(モデルC2400−87、Hamamatsu、Herrsching、ドイツ国)を用いて記録した。写真は、画像化システムArgus 50、Hamamatsuによりコンピュータを利用して、8ビット配列、256×256ピクセルとしてデジタル化した。340/380nmの蛍光の商を、画像中の対の値を割ることによって算定した。
【0053】
統計学:結果は、対応のある「スチューデントt検定」(Sachs (1984) Angewandte Statistik. Springer, Berlin)によって解析した。
【0054】
B)結果
神経細胞の[Ca2+濃度に対するソルビシルラクトンAの作用:10μg/mL ソルビシルラクトンAを加えても、神経細胞の[Ca2+に対してはほとんど効果がないことが示された。
【0055】
ソルビシルラクトンAの存在下または非存在下、神経細胞における[Ca2+濃度に対するL−グルタミン酸の効果:200μM L−グルタミン酸および2.5mM Ca2+を用いて細胞をインキュベーション(図1A)したところ、10分後に[Ca2+が強烈に上昇した。測定の終点で340nm/380nm値は、対照を100%とすると、1.715±0.081(307.1%)も増加した。ニューロンを予め10μg/mL ソルビシルラクトンAでインキュベーションしたところ、200μM L−Gluおよび2.5mM CaClを添加した後の[Ca2+濃度は減少した。[Ca2+濃度のこの減少は有意であり、10μg/mLでは46.7%であった(p<0.001、図1A)。
【0056】
ソルビシルラクトンAの存在下または非存在下、神経細胞における[Ca2+濃度に対するセロトニンの効果:200μM セロトニン(5−HT)および2.5mM Ca2+を細胞に加えると(図1B)、10分後に[Ca2+が強烈に上昇した。340nm/380nm値は、対照を100%とすると、0.971±0.112(219.9%)も増加した。 10μg/mL ソルビシルラクトンAと共に事前にインキュベーションし、続いて200μMの5−HTと共にインキュベーションしたところ、ニューロン中の遊離カルシウム濃度は有意に減少し、対照と比較して値は77.6%低減した(図1B)。
【0057】
C)結論
ソルビシルラクトンAでインキュベートした細胞は、L−グルタミン酸およびセロトニン(5−HT)の添加後、細胞内カルシウム濃度が甚だしく減少することが判明した。神経伝達物質としてL−グルタミン酸およびセロトニンは、一連の神経変性疾患に病原学的に関与している。これらの特徴から、ソルビシルラクトンAは、上に示したような疾患およびそれに関連する複合症状の治療に使用することができる。
【実施例12】
【0058】
ソルビシルラクトンAの遺伝毒性の検出:「コメットアッセイ」
物質:Biozym(Hamburg、ドイツ国)から「通常溶融アガロース」(NMA、カタログ番号840041)および「低融点アガロース」(LMA、カタログ番号870081);Fluka(Buchs SG、スイス国)からTriton x-100;Sigma-Aldrich(Taufkirchen、ドイツ国)からRPMI1640培地、DMSO、およびEDTA;Roth(Karlsruhe、ドイツ国)からNaClおよびTris;ならびにGibco(Karlsruhe、ドイツ国)からウシ胎仔血清(FCS)をそれぞれ入手した。バッチ:2208/2aのソルビシルラクトンAを使用した。
【0059】
細胞:ソルビシルラクトンAの遺伝毒性をL5178Yマウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722)で試験した。(Mueller et al., 1979, Cancer Res. 39:1102-1107)に記載されている通り、10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充し、10mM Hepesを含むRPMI1640培地で細胞を培養した。接種原の濃度としては10個細胞/mLを選択した。細胞を1、3、10μg/mLのソルビシルラクトンAと共に4時間および24時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞を「コメットアッセイ」で検査した。
【0060】
アルカリ性での電気泳動:対物スライド(Superfrost)をアセトンで浄化した。1.0%「通常溶融アガロース」(NMA)を1×PBS中で加熱し、続いて約600μlのアガロースを対物スライド上に塗布した。対物スライドを50℃で短時間(〜5分)乾燥し、終夜室温で保管した。次いで、0.7%「低融点アガロース」(LMA)を蒸留水で調製した。対物スライドの第2層は200μl LMAから構成した。対物スライドを4℃で10分間インキュベートした。第3層は、10μlの細胞懸濁液(7×10個細胞/mL)に60μlのLMAを加えたものから構成した。ソルビシルラクトンAと共にインキュベーション後、細胞を1×PBSで1回洗浄し、4℃、800×gで5分間遠心分離した。細胞数を7×10個細胞/mLに希釈した。塗布後、対物スライドを4℃で10分間インキュベートした。細胞を溶解する前に、最後のLMA層(〜100μl)を塗布した。細胞の溶解は、暗所で、10%(v/v)DMSOと1%(v/v)Triton x-100を含む溶解液(10mM Tris、100mM EDTA、2.5M NaCl、pH=10)中、4℃で1時間インキュベーションすることによって行った。対物スライドは、溶解液から電気泳動チャンバ中に直接移送し、電気泳動緩衝液(30mM NaOH、1mM EDTA、pH13.8)中で20分間インキュベートした。電気泳動は、0.75V/cm(〜300mA)で一定に設定し、氷上で冷却しながら30分間実施した。中和には、室温で対物スライドを5分間中和用緩衝液(400mM Tris、pH7.5)で洗浄した後、5分間脱水した。95%エタノールを用いて暗所で風乾した。対物スライドを60μlの臭化エチジウム溶液(20μg/mL 蒸留水)で染色し撮影し解析した。値は、エクステントテールモーメント(Bihari et al., 2002, Croatica Chemica Acta 75:793-804;Mueller et al., 1979, Cancer Res. 39:1102-1107)として得られた。数が多ければ、細胞DNAの高度崩壊を指し示している。正常細胞では、約0の値が見受けられる。
【0061】
結果:1、3、10μg/mLのソルビシルラクトンAと共にL5178Y細胞をインキュベーションすると、4時間後、エクステントテールモーメントは有意に変化しなかった(図2A)。これらの濃度では、ソルビシルラクトンAはDNA鎖の切断を誘発しない。ソルビシルラクトンAと24時間インキュベーションした後も、L5178Y細胞ではエクステントテールモーメントの有意な変化は検出されなかった(図2B)。
【0062】
結論:ソルビシルラクトンAを1、3、および10μg/mL添加した後、ソルビシルラクトンAと共にインキュベートした細胞は、エクステントテールモーメントの有意な上昇を示さないことが判明した。
【実施例13】
【0063】
ソルビシルラクトンAの遺伝毒性の検出:「高速マイクロアッセイ」
物質:Molecular Probes(Leiden、オランダ国)からPicoGreen;Sigma-Aldrich(Taufkirchen、ドイツ国)からRPMI1640培地;Gibco(Karlsruhe、ドイツ国)からウシ胎仔血清(FKS)、およびNunc(Wiesbaden、ドイツ国)から黒色マイクロタイタープレート(96ウェルプレート)をそれぞれ入手した。バッチ:2208/2aのソルビシルラクトンAを使用した。
【0064】
細胞:ソルビシルラクトンAの遺伝毒性をL5178Yマウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722)で試験した。(Mueller et al., 1979, Cancer Res. 39:1102-1107)に記載されている通り、10%ウシ胎仔血清(FCS)を補充したRPMI1640培地で細胞を培養した。10個細胞/mLを接種原濃度として選択した。1、3、10、および30μg/mlのソルビシルラクトンA(1)と共に細胞を4時間および24時間インキュベートした。インキュベーション後、「高速マイクロアッセイ」で細胞を検査した。
【0065】
「高速マイクロアッセイ」:方法は、変法(Batel et al.,1999, Anal. Biochem., 270:195-200)に従って実施した。細胞を1×PBSで2回洗浄した。遠心分離後、ペレットを1×PBS中に取り入れて、10個細胞/mLに希釈した。各25μlの細胞懸濁液(ウェル当たり約2.5×10個細胞)を黒色マイクロタイタープレート(96ウェルプレート、Nunc、Wiesbaden)に予めピペットで取り入れた。25μlの1×PBSは対照である。次いで、PicoGreen(溶解液1mlにつき20μlの濃度のPicoGreen)を含む溶解液(7M 尿素、0.1%(w/v)SDS、0.2M EDTA、pH=10.0)25μlをピペットで取ってマイクロタイタープレートに入れた。続いて、細胞を暗所にて室温で40分間溶解した。インキュベーション後、新たに調製したアルカリ溶液を加えることによってDNAの変性(巻き戻し)が生じる。これは、20mMのEDTAを20mL、および20mM EDTA/100mM NaOHの32mLをpH値12.3に調整して製造する。測定は、直ちにフルオロスキャンにて励起波長485nmおよび発光波長520nmで3〜5分毎に合計20分行われた。結果は、「鎖切断因子」(SSF)として示され、20分の変性時間(巻き戻し時間)の後に以下の方程式によって算出された:SSF=log(%dsDNA試料/%dsDNA対照)。
【0066】
結果:L5178Y細胞のSSF値に対するソルビシルラクトンAの作用:1、3、10、および30μg/mlのソルビシルラクトンAを加えても、インキュベーション4時間後、L5178Y細胞のSSF値に対してそれほど効果がないことが示された(図3A)。
【0067】
3〜30μg/mL(p<0.001)のソルビシルラクトンAを加えると、24時間後にSSF値の有意な上昇(DNA鎖切断部分)が観察された(図3B)。1〜10μg/mlのソルビシルラクトンAでL5178Y細胞をインキュベーションすると、有意ではないが軽微なSSF値の上昇が示された。
【0068】
結論:L5178Y細胞中のソルビシルラクトンAによって、濃度30μg/mLでのインキュベーションの24時間後にDNA鎖の切断が誘発された。これらの特徴から、ソルビシルラクトンAを白血病の治療に使用することができる。
【実施例14】
【0069】
ソルビシルラクトンAによって誘発されたアポトーシスの検出(細胞死検出ELISA plus)
物質:Sigma-Aldrich(Taufkirchen、ドイツ国)からHepesで緩衝させたRPMI1640培地;Gibco(Karlsruhe、ドイツ国)からウシ胎仔血清(FCS)、およびRoche(Mannheim、ドイツ国、カタログ番号1774425)から細胞死検出ELISA plusをそれぞれ入手した。バッチ:2208/2aのソルビシルラクトンAを使用した。
【0070】
細胞のインキュベーションおよび調製:L5178Yマウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722))をカウントし、細胞数10個細胞/mLに調整した。ソルビシルラクトン−A保存液およびジヒドロソルビシルラクトン−A保存液(10mg/mL DMSO)を培地(10%FCS含有RPMI/Hepes)で希釈して濃度60、20、および6μg/mLにした。96ウェル培養プレートに、100μlの細胞懸濁液(〜103個の細胞)を別々のジヒドロソルビシルラクトン−A溶液およびソルビシルラクトン−A溶液各100μlにピペットで入れた。ジヒドロソルビシルラクトンおよびソルビシルラクトンA不含RPMI1640培地を負の対照として使用した。終濃度は、30、10、および3μg/mL ソルビシルラクトンAおよびジヒドロソルビシルラクトンAであった。各試料4並列設定を分析した。細胞を37℃で4時間インキュベートした。インキュベーション後、培養プレートを室温にて200×g(〜1200rpm)で10分間遠心分離した。上清を慎重にピペットで取り、細胞はそれぞれ200μlの溶解緩衝液(Roche−Kit)で覆った。次いで、細胞を室温で30分間溶解した。溶解後、培養プレートを再度、室温にて200×g(〜1200rpm)で10分間遠心分離した。
【0071】
ELISA:Roche−Kitのストレプトアビジン−ELISA−プレートから各2つの8ストリップウェルを使用した。細胞溶解物(上記参照)の上清20μlを各ウェルに加えた。その際に、30または10μg/mlのソルビシルラクトンAおよびジヒドロソルビシルラクトンAを含む試料は4つの定量が組みとなる態様で搭載し、他は全て2つの定量が組みとなる態様で搭載した。これらの試料の他に、正の対照(DNA−ヒストン−複合体)を加えた。次いで、80μlの免疫試薬を各ウェルに搭載した。この溶液は、インキュベーション緩衝液、抗ヒストン−ビオチン、および抗DNA−ペルオキシダーゼから構成した。インキュベーション緩衝液はブランク値として使用した。ELISA−プレートを室温で2時間、振盪インキュベータ中でインキュベートした。次いで、上清を丁寧に除去し、ウェルをそれぞれ250μlのインキュベーション緩衝液で3回洗浄した。洗浄後、100μlのABTS−溶液を各「ウェル」に加えた。続いて、細胞を暗所にて室温で30分間インキュベートした。測定は、405nmの発光波長でマルチスキャンにて行った。
【0072】
結果:4時間のインキュベーション後、3μg/mlのソルビシルラクトンAを細胞(表2)に添加してもアポトーシス細胞の増大はもたらされなかった。値91.2%は、負の対照(=100%)の範囲である(表2)。
【0073】
【表2】

【0074】
【表3】

【0075】
3、10、および30μg/mlのジヒドロソルビシルラクトンAを加えても、インキュベーション4時間後のL5178Y細胞においてアポトーシスは誘発されなかった(表3)。値は62〜67%に減少し、対照領域の下であった。
【0076】
結論:L5178Y細胞中のソルビシルラクトンAは、インキュベーション4時間後、10および30μg/mLの濃度でアポトーシスを誘発する。これらの特徴から、ソルビシルラクトンAを白血病の治療に使用することができる。選択した実験条件下で、ジヒドロソルビシルラクトンAは、L5178Y細胞でアポトーシスを誘発しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】神経細胞の細胞内カルシウム濃度に及ぼすソルビシルラクトンAの効果を示す図である。
【図1A】200μM L−グルタミン酸(L−Glu)および2.5mM Ca2+によるニューロンの処理(●)を示す図である。他方、ニューロンを10μg/mL ソルビシルラクトンAで処理(○)して5分予備インキュベートし、その後に200μM L−Gluおよび2.5mM CaClを加えた(10分の時点)。その動力学的変化を約20分間継続して測定した。平均値(n=19)および標準偏差(±SE)をそれぞれ算定した。
【図1B】200μM セロトニン(5−HT)および2.5mM Ca2+でニューロンの処理(●)を示す図である。他方、ニューロンを10μg/mL ソルビシルラクトンAで処理(○)して5分予備インキュベートし、その後に200μM 5−HTおよび2.5mM CaClを加えた(10分の時点)。その動力学的変化を約20分間継続して測定した。平均値(n=21)および標準偏差(±SE)をそれぞれ算定した。
【図2】1、3、10μg/mLのソルビシルラクトンAと共にL5178Y−マウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722)をインキュベーションした後の「コメットアッセイ」の結果を示す図である。
【図2A】インキュベーション4時間後の結果を示す図である。
【図2B】インキュベーション24時間後の結果を示す図である。平均値(A:n=25、B:n=29)および標準偏差(±SD)をそれぞれ算定した。
【図3】1、3、10、30μg/mLのソルビシルラクトンAと共にL5178Y−マウスリンパ腫細胞(ATCC CRL 1722)をインキュベーションした後の「高速マイクロアッセイ」の結果を示す図である。
【図3A】はインキュベーション4時間後の結果を示す図である。
【図3B】インキュベーション24時間後の結果を示す図である。平均値(A:n=5、B:n=7)および標準偏差(±SD)をそれぞれ算定した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソルビシルラクトンA(sorbicillactone A)またはその誘導体を生成する方法であって、
a)適切な増殖培地中、20〜25℃、2〜5%の塩濃度でペニシリウム属真菌を緻密表面菌糸体が形成されるまで培養するステップ、
b)28〜35℃に温度を上げ、さらに5〜10日間インキュベーションするステップ、
c)培養液を菌糸体から分離するステップ
d)ソルビシルラクトンAおよびその誘導体を培地から抽出するステップ、および任意に、
e)塩濃度を0.5〜1.5%に減少した新鮮培地を菌糸体の下に敷き、28〜35℃で3〜8日間インキュベーションするステップ、
f)ステップc)とd)を繰り返すステップ、および任意に、
g)ステップe)とf)を繰り返すステップ、および
h)ソルビシルラクトンAおよびその誘導体を培地および/または菌糸体から抽出するステップ、
の諸ステップを含む方法。
【請求項2】
真菌がペニシリウムクリソゲヌム、特にKIP3201株である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
異なる添加物、例えば、ピルビン酸塩、グルタミン酸塩、プロリン、酢酸塩、ソルビシリン、またはソルビシルラクトンAの他の生合成前駆体などを適切な増殖培地に加えることができる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
生成がフラットベッド法で行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
接種原が固形物結合形の真菌である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
真菌が結合する固形物が、浮遊可能な固形物、例えば、粒子またはポリスチレンフォーム球である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
表面菌糸体を安定化させるキャリアデバイスを培養容器に導入する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
キャリアデバイスがメッシュである、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
培地から分離した真菌菌糸体から酢酸エチルを加えてソルビシルラクトンAまたはその誘導体を抽出する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を培地から固体交換体に直接に結合し、この結合形態からさらに精製する、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
固体交換体が交換樹脂アンバーライトXAD−16である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
結合したまま固体交換体を培地からろ過し、ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を有機溶媒で溶出する、請求項10または11に記載の方法。
【請求項13】
有機溶媒が、メタノール、エタノール、酢酸エチル、ヘプタン、またはアセトニトリルである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
ソルビシルラクトンAまたはその誘導体を、粗抽出液から有機溶媒によって酸性抽出する、請求項10から13の一項に記載の方法。
【請求項15】
粗抽出液をリン酸によってpH2にし、続いて酢酸エチルによって抽出する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
抽出液の精製が、FCPC(高速遠心分離分配クロマトグラフィー)によって行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
ヘプタン、酢酸エチル、メタノール、および水に由来する溶媒群の混合液であって、1ml/Lの濃リン酸を6〜7mL/minの流量と回転数毎分1200回転にて添加し、その上相を静止相として使用する溶媒混合液が使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
抽出液の精製が、有機溶媒を使用しセファデックスLH−20でのゲルクロマトグラフィーによって行われる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
ソルビシルラクトンAをメタノールで溶出する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ソルビシルラクトン−A−メチルエステルを生成する方法であって、
a)請求項1から19に記載のソルビシルラクトンAを生成する、
b)メタノールに溶解したソルビシルラクトンAを濃硫酸によって処理する、
c)室温で6時間攪拌する、
d)水を加える、
e)酢酸エチルで抽出する、
f)有機相を真空蒸発する、および
g)製造用HPLCにより残留物を精製する、
の諸ステップを含む方法。
【請求項21】
医薬品を製造する方法であって、
a)請求項1〜19に記載のソルビシルラクトンAまたはその誘導体を生成する、および
b)医薬的に受容可能な助剤および添加物を使用し医薬組成物を製剤化する、
の諸ステップを含む方法。
【請求項22】
ソルビシルラクトンAまたはその誘導体が、治療中に生体に0.3〜30μg/mlの濃度範囲で存在するような量で存在することを特徴とする、請求項21に記載の医薬品を製造する方法。
【請求項23】
疾患細胞における、特に腫瘍細胞におけるアポトーシスの誘発剤としてのソルビシルラクトンAまたはその誘導体の使用。
【請求項24】
白血病の治療におけるソルビシルラクトンAまたはその誘導体の使用。
【請求項25】
神経変性疾患の治療におけるソルビシルラクトンAまたはその誘導体の使用。
【請求項26】
細菌感染症および真菌感染症の治療におけるソルビシルラクトンAまたはその誘導体の使用。
【請求項27】
寄託番号DSM16137であるペニシリウム属クリソゲヌムKIP3201の真菌株。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−519414(P2007−519414A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−550128(P2006−550128)
【出願日】平成17年1月31日(2005.1.31)
【国際出願番号】PCT/EP2005/000923
【国際公開番号】WO2005/072711
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(506261523)ヨハネス グーテンベルク ウニベルジテート マインツ (6)
【出願人】(506261534)ユリウス−マクシミリアンズ−ウニヴェルジテート ウュルツブルグ (2)
【Fターム(参考)】