説明

ソーナー装置及びその指向性合成方法

【課題】ソーナー装置において、受波器数の増加を抑え、垂直方向に対する感度を抑えつつ、音響信号の到来方向を知ることができるようにする。
【解決手段】オムニ指向特性の第1の受波器とダイポール指向特性の第2及び第3の受波器を用い、第2及び第3の受波器の最大感度軸を基準面内にあって相互に直交させる。第1乃至第3の受波器からの受波信号により、基準面内の所定の方向に対して最大感度となり、基準面内で所定の方向とは反対方向に対してヌル感度となり、基準面に垂直な方向に対して感度を有する指向性パターンの第1の信号を形成し、第2及び第3の受波器からの受波信号により、基準面内の各方向に対して一様な最大感度を有し、基準面に直交する方向に対してヌル感度となる指向性パターンで第2の信号を形成し、第1の信号と第2の信号との乗算結果またはその平方根をもって検出結果を表す信号とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ソーナー装置に関し、特に、複数個の受波器を備えてそれらの受波器の出力を組み合わせ指向性利得を得るようにしたソーナー装置とそのようなソーナー装置における指向性合成方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
水中などにおいて用いられるソーナー装置においては、水平面内での全方位からの音響信号の検出や、音響信号の到来方法の決定などの目的に応じ、複数個の音響受波器を用い、それらの受波器からの出力を合成することにより、所望の指向性が得られるようにしている。受波器の代表的なものとして、任意の方向に対して一様な感度(等方的な感度)を有するすなわち無指向特性を有するオムニ(Omni)型のものと、ダイポール指向特性を有するダイポール型のものとが知られている。
【0003】
例えば、水面あるいは海面に対して平行な面内の所望の方位θから到来する音響信号を検出するための構成として、カージオイド処理による水平指向性合成の手法がある(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。カージオイド処理による手法では、図1に示すように、オムニ型の受波器11と2つのダイポール型の受波器12,13とを用いる。図において各受波器11〜13は、当該受波器の指向性パターンによって示されている。ダイポール型の受波器12,13は、それらの最大感度軸が相互に直交し、かつ、水面あるいは海面に対して平行となるように配置される。ここで便宜上、受波器12の最大感度軸はN(北)−S(南)方向を向いており、受波器13の最大感度軸はE(東)−W(西)方向を向いているものとし、そこで、受波器12での受信信号をNS信号と呼び、受波器13での受信信号をEW信号と呼ぶものとする。もちろん、受波器12,13の最大感度軸の方向は、それぞれ、南北方向及び東西方向に一致している必要はなく、また、ソノブイなどの可搬型のソーナー装置にこれらの受波器が組み込まれているのであれば、南北及び東西の方位と受波器12,13の最大感度軸の方向が一致していないのが一般的である。いずれにせよ、受波器の最大感度軸の方向と真方位との関係が明らかであれば、音響信号の到来方法を正確に決定することができる。
【0004】
カージオイド処理では、受波器12での受信信号(NS信号と呼ぶ)に対してsin θを乗算し、受波器13での受信信号(EW信号と呼ぶ)に対してcos θを乗じる。そして、受波器11での受信信号(オムニ信号と呼ぶ)と、sin θが乗じられたNS信号と、cos θを乗じられたEW信号とを加算し、加算によって得られた信号を二乗し、検出信号とする。その結果、図1に示すソーナー装置は、水平面内での指向性がカージオイド型であるような指向性パターンを有し、そのような指向性パターンに応じた検出信号を出力することになる。指向性はθの方位に対して最大となる。ダイポール型の受波器12,13はいずれも垂直方向(上下方向)に対しては感度を有しないが、オムニ型の受波器11からのオムニ信号を加算しているため、このソーナー装置全体としては、上下方向にもいくばくかの感度を有し、最大感度軸を含む垂直面内での指向性パターンもカージオイド型となる。カージオイド型の処理では、4.2dBの指向性利得(DI)を見込むことができる。
【0005】
sin θの乗算、cos θの乗算、加算及び二乗の各処理はデジタル信号処理として行うことができるので、オムニ信号、NS信号及びEW信号を取得してしまえば、同時に複数の方位角に関して検出信号を取得すること、すなわち、複数の指向性パターンによる音響信号の受信が可能となる。
【0006】
一方、水面あるいは海面に対して平行な面内ではいずれの方位であっても同じ強度(水平面無指向性)で音響信号を受信する処理として、シンセティックオムニ処理がある。シンセティックオムニ処理では、図1に示したものと同様の受波器11〜13が設けられるとして、これらのうち、2つのダイポール型の受波器12,13を使用する。ここでも受波器12,13は、それらの最大感度軸が相互に直交し、かつ、水面あるいは海面に対して平行となるように配置されており、上述と同様にそれぞれNS信号及びEW信号を出力するものとする。オムニ型の受波器11からのオムニ信号は、シンセティックオムニ処理では使用されない。
【0007】
シンセティックオムニ処理では、図2に示すように、NS信号とEW信号の各々が二乗され、二乗された各信号が加算されて、その後、加算された信号の平方を算出して検出信号とする。オムニ信号は無指向性であって球形の指向性パターンを示すのに対し、シンセティックオムニ処理による検出信号すなわちシンセティックオムニ信号は、ドーナツ型の指向性パターンを示し、特に、垂直方向上方向と下方向に対しては感度がゼロとなる。以下に示すように、水平面内では全方位に対して一様な感度となる。
【0008】
NS信号の強度をSNSで表し、EW信号の強度をSEWで表すとして、水平面内での方位θから強さPの音響信号が受波器12,13に入来したすると、それぞれの受波器はダイポール型の指向特性を有することから、SNS=P×sin θ,SEW=P×cos θとなる。その結果、シンセティックオムニ信号SSOは、cos2 θ+sin2 θ=1が恒等式であることにより、
【0009】
【数1】

【0010】
となり、θによらずにPとなる(図3参照)。したがって、シンセティックオムニ信号は、水平面内では、方位によらずに同一の感度を有することとなり、水平面内では無指向性となる。
【0011】
海中に配置したソノブイとしてソーナー装置が構成される場合を考えると、図3に示すように、シンセティックオムニ処理を採用することにより、垂直方向すなわち海面方向及び海底方向に対する感度が抑制されるため、海面方向からの雑音や海底方向からの雑音の影響を抑えることができ、また、目標からの信号のうち海面や海底によって反射された成分(海面残響及び海底残響)の影響を抑えることもできる。したがって、シンセティックオムニ処理によれば、目標から海中をまっすぐ進んできた音響信号だけを正確に検出することができる。
【0012】
シンセティックオムニ処理では、2個の受波器12,13からの信号を合成するため、等方性雑音に対して最大でlog10 2=3dBの指向性利得が得られ、よさの指数(FOM;figure of merit)と探知距離との関係から、約1.2倍の探知距離の延伸が見込まれる。さらに、2個の受波器の信号を合成することから雑音レベルの標準偏差σが2-1/2倍(≒0.7倍)に小さくなり、誤検出の確率を小さくすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2009−150662号公報
【特許文献2】特開2010−169644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
音響信号を複数の受波器で受信した信号を処理する方法として、上述のカージオイド処理では、音響信号の到来方向を知ることができるが、垂直方向に対しても感度を有するために、例えば、海面や海底からの雑音や残響の影響を受けやすい、という課題がある。これに対し、上述したシンセティックオムニ処理では、垂直方向には原理的に感度がないので、海面や海底からの雑音や残響の影響を受けにくいという利点が得られるが、水平面内では無指向性であるので音響信号の到来方向を知ることができない、という課題がある。
【0015】
ソーナー装置において、指向性利得を高め、かつ、不要な方向から入来する信号の影響を小さくするために、受波器の数を多くし、例えば、フェーズドアレイ構成にするなどのことが考えられる。しかしながら、可搬型のソーナー装置、例えばソノブイなどでは、装置の大きさなどに対する制約から、受波器数を多くすることはできない。
【0016】
本発明の目的は、受波器数の増加を抑え、例えば垂直方向に対する感度を抑えつつ、音響信号の到来方向を知ることができるように所望の方位に指向性を設定できる、ソーナー装置及びその指向性合成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の第1の指向性合成方法は、オムニ指向特性を有する第1の受波器とダイポール指向特性を有する第2及び第3の受波器とを備え、第2の受波器の最大感度軸と第3の受波器の最大感度軸とが直交しているソーナー装置における指向性合成方法であって、第1乃至第3の受波器による受波信号をそれぞれ第1乃至第3の受波信号とし、指向性を向けたい方位の方位角をθとして、第1の受波信号と、第2の受波信号にsin θを乗算した信号と、第3の受波信号にcos θを乗算した信号と、を加算して第1の加算信号とし、第1の加算信号を二乗してカージオイド信号とすることと、第2の受波信号の二乗と第3の受波信号の二乗とを加算して第2の加算信号とし、第2の加算信号の平方根となる信号を求めてシンセティックオムニ信号とすることと、カージオイド信号とシンセティックオムニ信号との乗算処理を実行して検出結果を表す信号を生成することと、を有する。
【0018】
本発明の第2の指向性合成方法は、オムニ指向特性を有する第1の受波器とダイポール指向特性を有する第2及び第3の受波器とを備え、第2の受波器の最大感度軸と第3の受波器の最大感度軸とが基準面内にあって相互に直交しているソーナー装置における指向性合成方法であって、第1乃至第3の受波器による受波信号をそれぞれ第1乃至第3の受波信号とし、第1乃至第3の受波信号により、基準面内の所定の方向に対して最大感度となり、基準面内で所定の方向とは反対方向に対してヌル感度となり、基準面に垂直な方向に対して感度を有する第1の指向性パターンによる第1の信号を形成し、第2及び第3の受波信号により、最大感度方向が基準面内にあって基準面内の各方向に対して一様な感度を有し、基準面に直交する方向に対してヌル感度となる第2の指向性パターンによる第2の信号を形成し、第1の信号と第2の信号との乗算結果またはその乗算結果の平方根をもって検出結果を表す信号とする。
【0019】
本発明のソーナー装置は、オムニ指向特性を有する第1の受波器と、ダイポール指向特性を有する第2の受波器と、第2の受波器の最大感度軸とは直交する最大感度軸を有するダイポール指向特性を有する第3の受波器と、指向性を向けたい方位の方位角をθとして、第1の受波器による受波信号である第1の受波信号と、第2の受波器による受波信号である第2の受波信号にsin θを乗じた信号と、第3の受波器による受波信号である第3の受波信号にcos θを乗じた信号と、を加算して第1の加算信号とし、第1の加算信号を二乗してカージオイド信号とする第1の指向性合成処理部と、第2の受波信号の二乗と第3の受波信号の二乗とを加算して第2の加算信号とし、第2の加算信号の平方根となる信号を求めてシンセティックオムニ信号とする第2の指向性合成処理部と、カージオイド信号とシンセティックオムニ信号との乗算処理を実行して検出結果を出力する第3の指向性合成処理部と、を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明では、オムニ指向特性を有する第1の受波器とダイポール指向特性を有する第2及び第3の受波器とを備え、第2の受波器の最大感度軸と第3の受波器の最大感度軸とが直交しているソーナー装置において指向性合成を行う際に、第2及び第3の受波器の最大感度軸によって張られる面を基準面として、カージオイド信号のような、基準面内の所定の方向に対して最大感度となり、基準面内で所定の方向とは反対方向に対してヌル感度となり、基準面に垂直な方向に対して感度を有する第1の指向性パターンによる第1の信号と、シンセティックオムニ信号のような、最大感度方向が基準面内にあって各方向に対して一様な感度を有し、基準面に直交する方向に対してヌル感度となる第2の指向性パターンによる第2の信号とを形成する。そして、第1の信号あるいはカージオイド信号と第2の信号あるいはシンセティックオムニ信号とを乗算する。その結果、後述の説明から明らかになるように、基準面内での所定の方向に対して最大感度を有するように指向性を有しつつ、基準面に垂直な方向に対してはヌル感度となる。本発明によれば、ソーナー装置における受波器数の増加を抑えながら、例えば垂直方向に対する感度を抑えつつ、音響信号の到来方向を知ることができるように所望の方位に指向性を設定できるようになる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】カージオイド処理による水平指向性合成を説明する図である。
【図2】シンセティックオムニ処理を説明する図である。
【図3】シンセティックオムニ処理による指向性を説明する図である。
【図4】本発明の実施の一形態のソーナー装置におけるシンセティックカージオイド処理の原理を示す図である。
【図5】本発明の別の実施形態のソーナー装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に基づく指向性合成方法の最も原理的なものでは、ソーナー装置として、オムニ指向特性を有する第1の受波器と、ダイポール指向特性を第2及び第3の受波器とを有するものを使用する。ダイポール指向特性の第2及び第3の受波器の最大感度軸は相互に直交しており、これら2つの最大感度軸によって張られる面を基準面と呼ぶことにする。また、オムニ指向特性の第1の受波器による受波信号を受波信号SOMとし、ダイポール指向特性の第2及び第3の受波器による受波信号をそれぞれ受波信号SNS,SEWで表すことにする。
【0023】
最も原理的な処理においては、受波信号SOM,SNS,SEWにより、基準面内の所定の方向(この方向の方位角をθとする)に対して最大感度となり、基準面内でこの所定の方向とは反対方向に対してヌル感度となり、基準面に垂直な方向に対して感度を有する第1の指向性パターンによる第1の信号を形成する。所定の方向θは、指向性を向けたい方向となる。それと同時に、受波信号SNS,SEWにより、最大感度方向が基準面内にあって基準面内の各方向に対して一様な感度を有し、基準面に直交する方向に対してヌル感度となる第2の指向性パターンによる第2の信号を形成する。そして、第1の信号と第2の信号との乗算結果またはその乗算結果の平方根をもって検出結果を表す信号とする。
【0024】
基準面を水面または海面に対して平行な面とした場合、このような第1の信号の代表的なものは、図1によって説明したカージオイド処理による検出信号すなわちカージオイド信号SCDであり、第2の信号の代表的なものは、図2及び図3によって説明したシンセティックオムニ処理による検出信号すなわちシンセティックオムニ信号SSOである。
【0025】
そこで、図4に示した本発明の実施の一形態のソーナー装置は、カージオイド信号SCDとシンセティックオムニ信号SSOとを求めてこれらの乗算処理を行うように構成されている。このソーナー装置は、オムニ指向特性を有する受波器11と、ダイポール指向特性を有する2つの受波器12,13と、カージオイド信号SCDを求める第1の指向性合成処理部31と、シンセティックオムニ信号SSOを求める第2の指向性合成処理部32と、カージオイド信号SCDとシンセティックオムニ信号SSOとの乗算処理を実行して検出結果を出力する第3の指向性合成処理部33とを備えている。ダイポール指向特性の受波器12,13の最大感度軸は、例えば水面または海面に対して平行な面である基準面内にあって相互に直交している。第1の指向性合成処理部32は、受波器11の受波信号SOMと、受波器12の受波信号SNSにsin θを乗じた信号と、受波器13の受波信号SEWにcos θを乗じた信号と、を加算して第1の加算信号とし、第1の加算信号を二乗してカージオイド信号SCDとする。θは基準面内の方位であって、指向性を最大としたい方向への方位角である。第2の指向性合成処理部34は、受波信号SNSの二乗と受波信号SEWの二乗とを加算して第2の加算信号とし、第2の加算信号の平方根となる信号を求めてシンセティックオムニ信号SSOとする。第3の指向性合成処理部35は、SCD×SSOを演算して得られる値の平方根を求め、これをシンセティックカージオイド信号SSCとして出力することが好ましい。
【0026】
結局、図4に示すソーナー装置は、
CD=(SOM+SNS×sin θ+SEW×cos θ)2
及び
SO=(SNS2+SEW21/2
として、
D=SCD×SSO
で等価的に表される処理を実行し、SDまたはSDの平方根によって検出結果を表す信号とする処理が行われていることになる。
【0027】
ところで異なる指向性パターンの2つの信号を乗算したとき、元の指向性パターンにおいてヌル感度となる方向に対しては、乗算後の信号の指向性パターンにおいてもヌル感度となっているはずである。シンセティックオムニ処理信号SSOの指向性パターンでは、基準面に対して垂直な方向には感度を有しないので、乗算した結果である信号SDの指向性パターンでも、基準面に対して垂直な方向、例えば海面方向及び海底方向に対しては、感度を有しない。またカージオイド信号SCDの指向性パターンは基準面内の特定の方向(方位角θの方向)に最大感度を有しその反対方向でヌル感度となっているので、乗算した結果である信号SDの指向性パターンでは、角度θの方向に最大感度を有し、その反対方向ではヌル感度となっている。信号SDの平方根を求めて得た信号(これをシンセティックカージオイド信号SSCと呼ぶ)についても、信号SDと同様に最大感度方向とヌル感度の方向が定まることになる。図4においては、カージオイド信号SCD、シンセティックオムニ信号SSO及びシンセティックカージオイド処理信号SSCの指向性パターンが示されている。
【0028】
このように信号SDあるいはシンセティックカージオイド信号SSCによれば、ローブ方位が強調され、ヌル方位が除去された検出結果が得られ、例えば、水中あるいは海中において、雑音や残響の影響を受けることなく、所望の方位からの音響信号を確実に検出できるようになる。この実施形態では、カージオイド信号SCDとシンセティックオムニ信号SSOとをリニア(線形)量としてかけ合わせることにより、すなわち、クロススペクトルを算出することにより、シンセティックオムニ処理に準じた垂直面内指向性特性を有しつつ、カージオイド処理に準じた水平面内指向性特性を持たせることができ、指向性利得を得ることができる。シンセティックカージオイド信号SSCの指向性利得は、カージオイド処理による指向性利得の+4.2dBよりは若干低いものの、シンセティックオムニ処理での指向性利得の+3.0dBよりは十分に大きいものである。受波器を3個使用していることから、雑音レベルの標準偏差σも、シンセティックオムニ処理の場合に比べてさらに小さくなる。
【0029】
図5は、本発明の別の実施形態のソーナー装置の構成を示している。図5に示したソーナー装置は、変調された音響信号を受波器11〜13によって受波するのに適したものであり、また、音響信号での周波数成分に応じて検出結果を求めることができ、かつ、方位計算や目標物の検出などを行えるようにしたものである。そのため、図5に示したソーナー装置は、図4に示したソーナー装置に対し、さらに、復調処理部34、FFT処理部35、正規化処理部36、信号検出処理部37、方位計算処理部38及び表示部39を追加したものである。
【0030】
受波器11〜13はいずれも変調された音響信号を受波するものとして、復調処理部34は、受波された各音響信号をそれぞれ復調して受波信号SOM、SNS及びSEWとする。図5において変調信号と記載されているものは、各受波器11〜13が音響信号を受波したことによってそれらの受波器から出力される信号のことである。復調処理部34からは、信号SOM、SNS及びSEWが第1の指向性合成処理部31に送られるとともに、信号SNS及びSEWがFFT処理部35に送られる。FFT処理部35は、信号SNS及びSEWに対して高速フーリエ変換(FFT;Fast Fourier Transform)を行ってその結果を第2の指向性合成処理部32に送り、また、第1の指向性合成処理部31からのカージオイド信号SCDに対して高速フーリエ変換を行ってその結果を第3の指向性合成処理部33に送る。この構成では、第1の指向性合成処理部31は、時間ドメインの信号を処理し、第2の指向性合成処理部32は周波数ドメインの信号を処理して、周波数ドメインのシンセティックオムニ信号を出力する。第3の指向性合成処理部33は、FFT処理部35によって周波数ドメインのものに変換されたカージオイド信号SCDと第2の指向性合成処理部32からの周波数ドメインのシンセティックオムニ信号SSOとの乗算処理を行って、シンセティックカージオイド信号SSCを出力する。
【0031】
正規化処理部36は、シンセティックカージオイド信号SSCにおける信号レベルの正規化を行い、正規化された信号を信号検出処理部37に送り、信号検出処理部37は信号レベルにおけるしきい値処理などを行って、有意の信号であるかどうかを判定する。一方、方位計算処理部38は、シンセティックカージオイド信号SSCに基づき、検出された音響信号がどの方位からのものであるかを計算する。表示部39は、信号検出処理部37において有意な信号と判定された場合に、方位計算処理部38での計算結果に基づき、信号の強度及び方位などの情報を画面上に表示する。
【0032】
図5に示した構成において、復調処理部34と第1の指向性合成処理部31とによって前処理ブロック21が構成され、FFT処理部35、第2及び第3の指向性合成処理部32,33、正規化処理部36及び方位計算処理部38によって信号処理ブロック22が構成され、信号検出処理部37によって信号検出ブロック23が構成されている。第1の指向性合成処理部31を信号処理ブロック22内に配置するようにしてもよい。
【0033】
また、受波器11〜13が受波しようとする音響信号が無変調の信号である場合や、パッシブソーナー方式で運用する場合などには、復調処理部34を設ける必要はない。FFT処理部35を設ける位置も、図5に示す位置に限られるものではない。例えば、第3の指向性合成処理部33の直前にFFT処理部33を設けてもよいし、あるいは、第3の指向性合成処理部33から出力されるシンセティックカージオイド信号SSCに対して高速フーリエ変換を行うように第3の指向性合成処理部33の後段にFFT処理部35を設けるようにしてもよい。
【0034】
上述した本発明の各実施形態のソーナー装置及びその指向性合成方法は、アクティブソーナー装置にもパッシブソーナー装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0035】
11〜13 受波器
21 前処理ブロック
22 信号処理ブロック
23 信号検出ブロック
31〜33 指向性合成処理部
34 復調処理部
35 FFT処理部
36 正規化処理部
37 信号検出処理部
38 方位計算処理部
39 表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オムニ指向特性を有する第1の受波器とダイポール指向特性を有する第2及び第3の受波器とを備え、前記第2の受波器の最大感度軸と前記第3の受波器の最大感度軸とが直交しているソーナー装置における指向性合成方法であって、
前記第1乃至第3の受波器による受波信号をそれぞれ第1乃至第3の受波信号とし、指向性を向けたい方位の方位角をθとして、
前記第1の受波信号と、第2の受波信号にsin θを乗算した信号と、前記第3の受波信号にcos θを乗算した信号と、を加算して第1の加算信号とし、前記第1の加算信号を二乗してカージオイド信号とすることと、
前記第2の受波信号の二乗と前記第3の受波信号の二乗とを加算して第2の加算信号とし、前記第2の加算信号の平方根となる信号を求めてシンセティックオムニ信号とすることと、
前記カージオイド信号と前記シンセティックオムニ信号との乗算処理を実行して検出結果を表す信号を生成することと、
を有する方法。
【請求項2】
前記乗算処理は、前記カージオイド信号と前記シンセティックオムニ信号とを乗算して平方根を求めた結果を前記検出結果を表す信号とすることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2の受波器の最大感度軸と前記第3の受波器の最大感度軸は、水面または海面に対して平行に設定される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記各受波信号における周波数に応じて前記検出結果を表すために高速フーリエ変換を行うことをさらに有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
オムニ指向特性を有する第1の受波器とダイポール指向特性を有する第2及び第3の受波器とを備え、前記第2の受波器の最大感度軸と前記第3の受波器の最大感度軸とが基準面内にあって相互に直交しているソーナー装置における指向性合成方法であって、
前記第1乃至第3の受波器による受波信号をそれぞれ第1乃至第3の受波信号とし、
前記第1乃至第3の受波信号により、前記基準面内の所定の方向に対して最大感度となり、前記基準面内で前記所定の方向とは反対方向に対してヌル感度となり、前記基準面に垂直な方向に対して感度を有する第1の指向性パターンによる第1の信号を形成し、
前記第2及び第3の受波信号により、最大感度方向が前記基準面内にあって基準面内の各方向に対して一様な感度を有し、前記基準面に直交する方向に対してヌル感度となる第2の指向性パターンによる第2の信号を形成し、
前記第1の信号と前記第2の信号との乗算結果または該乗算結果の平方根をもって検出結果を表す信号とする、方法。
【請求項6】
オムニ指向特性を有する第1の受波器と、
ダイポール指向特性を有する第2の受波器と、
前記第2の受波器の最大感度軸とは直交する最大感度軸を有するダイポール指向特性を有する第3の受波器と、
指向性を向けたい方位の方位角をθとして、前記第1の受波器による受波信号である第1の受波信号と、前記第2の受波器による受波信号である第2の受波信号にsin θを乗じた信号と、前記第3の受波器による受波信号である第3の受波信号にcos θを乗じた信号と、を加算して第1の加算信号とし、前記第1の加算信号を二乗してカージオイド信号とする第1の指向性合成処理部と、
前記第2の受波信号の二乗と前記第3の受波信号の二乗とを加算して第2の加算信号とし、前記第2の加算信号の平方根となる信号を求めてシンセティックオムニ信号とする第2の指向性合成処理部と、
前記カージオイド信号と前記シンセティックオムニ信号との乗算処理を実行して検出結果を出力する第3の指向性合成処理部と、
を有する、ソーナー装置。
【請求項7】
前記第3の指向性合成処理部は、前記カージオイド信号と前記シンセティックオムニ信号とを乗算し、その乗算結果の平方根を算出して前記検出結果とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記第2の受波器の最大感度軸と前記第3の受波器の最大感度軸は、水面または海面に対して平行に設定される、請求項6または7に記載の装置。
【請求項9】
前記第3の指向性合成処理部に供給されることなる信号に対して高速フーリエ変換を行く高速フーリエ変換処理部をさらに備える請求項6乃至8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
前記第3の指向性合成処理部から出力される信号に対して高速フーリエ変換を行う高速フーリエ変換処理部をさらに備える請求項6乃至8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項11】
前記第1乃至第3の受波器はいずれも変調された音響信号を受波し、前記受波された各音響信号をそれぞれ復調して前記第1乃至第3の受波信号とする復調処理部をさらに備える、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−173155(P2012−173155A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35854(P2011−35854)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】