説明

タイミングトレーン機構の潤滑構造

【課題】油圧式テンショナ装置の動作に影響を及ぼすことなく、所定以上の油圧を確保して狙った所を潤滑できるタイミングトレーン機構の潤滑構造を提供する。
【解決手段】タイミングトレーン機構20の潤滑構造は、クランクスプロケット21とオイルポンプ用スプロケット24とオイルポンプ用タイミングチェーン26と第2油圧式テンショナ装置30と、を備え、第2油圧式テンショナ装置30は、高油圧室32とプランジャ33とリリーフバルブ50と、を有し、リリーフバルブ50は、第2チェックバルブ52の下流にリリーフ孔31fを有し、リリーフバルブ50は、高油圧室32よりも上方に設けられ、リリーフ孔31fは、クランクスプロケット21の噛み合い部に向かって開口している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイミングトレーン機構の潤滑構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、内燃機関のクランク軸などの駆動側からカム軸やオイルポンプなどの被動側に駆動力を伝達するタイミングトレーン機構は、タイミングチェーンの張力を調節するためのチェーンテンショナ装置を備えている。
例えば、特許文献1には、油室およびピストンを有し、この油室内の圧力によりピストンが移動してチェーンアジャスタレバーをタイミングチェーンに押し当ててタイミングチェーンの張力を調整する油圧式テンショナ装置(チェーンアジャスタ)が開示されている。特許文献1に記載の油圧式テンショナ装置のハウジングには、油室とチェーン室とを連通し、タイミングチェーンとカムスプロケットとの噛み合い初期部分に向かって開口する出口オリフィスが設けられており、この出口オリフィスから噴射されたオイルによって、タイミングチェーンとカムスプロケットとの噛み合い初期部分が潤滑されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭64−755号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の油圧式テンショナ装置では、ピストンを作動させる高圧の油室に出口オリフィスを連通させて高圧のオイルを噴射しているので、オイルの噴射がピストンの伸縮に影響を及ぼすおそれがあった。また逆に、ピストンの伸縮状態によってオイルの噴射圧力が変化してしまい、狙ったところにオイルがかからないおそれがあった。
【0005】
本発明は、これらの問題に鑑みて成されたものであり、油圧式テンショナ装置の動作に影響を及ぼすことなく、所定以上の油圧を確保して狙った所を潤滑できるタイミングトレーン機構の潤滑構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内燃機関に設けられた駆動輪及び被動輪と、前記駆動輪及び前記被動輪に掛け渡されたタイミングチェーンと、前記タイミングチェーンに摺接するシューと、前記シューを前記タイミングチェーンに向かって付勢する油圧式テンショナ装置と、を有するタイミングトレーン機構の潤滑構造であって、前記油圧式テンショナ装置は、高油圧室を形成するハウジングと、一端が前記シューに当接するとともに他端が前記高油圧室に挿通し、前記ハウジングに対して伸縮するプランジャと、前記高油圧室に連通するリリーフバルブと、を有し、前記リリーフバルブは、チェックバルブと、前記チェックバルブの下流側に設けられたリリーフ孔と、を有し、前記リリーフバルブは、前記高油圧室よりも上方に設けられ、前記リリーフ孔は、前記タイミングチェーン、前記駆動輪及び前記被動輪の少なくともいずれか一つに向けて開口していることを特徴とする。
【0007】
かかる構成によれば、高油圧室とリリーフ孔との間にチェックバルブが介在するので、高油圧室の油圧を確保しながら、リリーフバルブからオイルを所定以上の油圧で排出することができる。また、リリーフバルブは、高油圧室よりも上方に設けられているので、油圧式テンショナ装置内のエア抜き性能が向上する。さらに、リリーフ孔は、前記タイミングチェーン、前記駆動輪及び前記被動輪の少なくともいずれか一つに向けて開口しているので、油圧式テンショナ装置の排油を用いて狙った部位を効率よく潤滑することができる。
なお、「高油圧室よりも上方」とは、例えば、当該内燃機関を搭載した車両を水平に配置した状態でリリーフバルブが「高油圧室よりも上方」に配置されていればよい。
【0008】
また、前記リリーフバルブは円筒形状の外周壁を有し、前記外周壁の軸線は前記駆動輪の軸線と平行に設けられ、前記外周壁に前記リリーフ孔が形成されている構成とするのが好ましい。
【0009】
かかる構成によれば、リリーフバルブが円筒形状の外周壁を有しているので、円筒形状の外周壁の周方向の任意の位置にリリーフ孔を形成することで、オイルの噴射方向を軸線回りに自在に設定することができる。そのため、油圧式テンショナ装置の排油を狙った部位に確実に噴射することができる。
また、外周壁の軸線が駆動輪の軸線と平行に設けられているので、例えば、駆動輪の軸線と直交する平面で半割りにした一対の金型でハウジングを鋳造する場合に、型抜き方向が外周壁の軸線方向と一致するので、半割りにした金型の一方に外周壁の中空部に対応する部分を設けることができ、高油圧室を形成するための中子以外に、別の中子を用意する必要がないので、ハウジングの製造コストを抑制することができる。
【0010】
また、前記油圧式テンショナ装置は、前記シューに当接する前記プランジャの一端側が下方となるように、前記プランジャ及び前記高油圧室の軸線が傾斜して設けられ、前記高油圧室の上方側に前記リリーフバルブが連通している構成とするのが好ましい。
【0011】
かかる構成によれば、高油圧室の上方側に前記リリーフバルブが連通しているので、高油圧室に入ったエアがリリーフバルブから排出され易くなる。そのため、油圧式テンショナ装置のエア抜き性能を向上させることができる。
【0012】
また、前記駆動輪は、前記内燃機関のクランク軸に連結され、少なくとも2つのギア部を備えたクランクスプロケットであり、前記被動輪は、カム軸に連結されたカムスプロケットと、オイルポンプに連結されたオイルポンプ用スプロケットと、を備え、前記タイミングチェーンは、前記クランクスプロケットの一方のギア部と前記カムスプロケットとの間に掛け渡されたカム用タイミングチェーンと、前記クランクスプロケットの他方のギア部と前記オイルポンプ用スプロケットとの間に掛け渡されたオイルポンプ用タイミングチェーンと、を備え、前記シューは、前記カム用タイミングチェーン及び前記オイルポンプ用タイミングチェーンのいずれか一方に摺接し、前記リリーフ孔は、前記クランクスプロケットと前記カム用タイミングチェーンと前記オイルポンプ用タイミングチェーンの噛み合い部に向かって開口している構成とするのが好ましい。
【0013】
かかる構成によれば、2つのギア部にカム用タイミングチェーン及びオイルポンプ用タイミングチェーンがそれぞれ掛け渡されたクランクスプロケットに向かってリリーフ孔が開口しているので、クランクスプロケット、カム用タイミングチェーン及びオイルポンプ用タイミングチェーンの3つの部材にオイルを同時に供給することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、油圧式テンショナ装置の動作に影響を及ぼすことなく、所定以上の油圧を確保して狙った所を潤滑できるタイミングトレーン機構の潤滑構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】タイミングトレーン機構の潤滑構造を備える内燃機関の側面図である。
【図2】図1のクランクスプロケット付近を拡大して示した側面図である。
【図3】油圧式テンショナ装置の斜視図である。
【図4】油圧式テンショナ装置の側面図である。
【図5】図4のA−A線断面図である。
【図6】(a)は図4のB−B線断面図であり、(b)は(a)のC−C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態について、図1乃至図6を参照して詳細に説明する。説明において、同一の要素には同一の番号を付し、重複する説明は省略する。また、方向を説明する場合は、図1に示す車両の前後上下に基づいて説明する。なお、本実施形態では、上下方向は、鉛直方向に一致しているものとする。
【0017】
図1は、タイミングトレーン機構の潤滑構造を備える内燃機関の側面図である。なお、図1は、チェーンケースカバー(図示省略)を取り外した状態を描いている。
図1に示すように、内燃機関10は、例えば、車体に横置きされたDOHC形式の直列型エンジンである。内燃機関10は、シリンダブロック11と、ロアブロック12と、シリンダヘッド13と、ヘッドカバー14と、オイルパン15と、タイミングトレーン機構20と、を主に備えている。
【0018】
シリンダブロック11は、図示は省略するが、主にシリンダボアとクランクケースとを構成する部材である。シリンダブロック11の内部には、ピストン、コンロッド、クランク軸16などが収容されている。
【0019】
ロアブロック12は、シリンダブロック11と共にクランクケースを構成する部材であり、シリンダブロック11の下方に設置されている。クランク軸16の端部は、シリンダブロック11の側壁11aとロアブロック12の側壁12aに回転可能に狭持されている。
【0020】
シリンダヘッド13は、シリンダブロック11と共に燃焼室を構成する部材であり、シリンダブロック11の上方に設置されている。シリンダヘッド13の内部には、図示は省略するが、燃焼室に連通する給・排気ポートが形成されていると共に、これらの給・排気ポートを開閉するための給・排気バルブやロッカアームなどが設置されている。また、シリンダヘッド13の上には、2本のカム軸17が設置されている。2本のカム軸17は、吸気側カム軸18と排気側カム軸19と、を構成している。
【0021】
ヘッドカバー14は、シリンダヘッド13の上部を閉塞して動弁室を構成する蓋状の部材であり、シリンダヘッド13の上方に設置されている。吸気側カム軸18及び排気側カム軸19の端部は、シリンダヘッド13の側壁13aとヘッドカバー14の側壁14aに回転可能に狭持されている。
【0022】
オイルパン15は、内燃機関10内の各部を潤滑して落下してくるオイルを受け止めるための部材であり、ロアブロック12の下方に設置されている。オイルパン15の内部には、内燃機関10内の各部にオイルを圧送するためのオイルポンプ15aが設置されている。オイルポンプ15aのポンプ駆動軸15bの一端側は、オイルパン15の側壁15cから突出している。
【0023】
タイミングトレーン機構20は、クランク軸16の回転力をポンプ駆動軸15bとカム軸17とに伝達する機構である。タイミングトレーン機構20は、駆動輪であるクランクスプロケット21と、被動輪であるカムスプロケット22,23と、同じく被動輪であるオイルポンプ用スプロケット24と、カム用タイミングチェーン25と、オイルポンプ用タイミングチェーン26と、第1油圧式テンショナ装置27と、シュー29と、第2油圧式テンショナ装置30と、を主に備えている。
【0024】
駆動輪であるクランクスプロケット21は、内燃機関10の側面から突出したクランク軸16の一端側に固定されており、クランク軸16の回転に伴って回転する歯車部材である。クランクスプロケット21は、径の大きい第1ギア部21aと、径の小さい第2ギア部21bと、を備えている。第1ギア部21aは、第2ギア部21bの内燃機関10側に設けられている。なお、本実施形態では、クランクスプロケット21(及びクランク軸16)は、図1における時計回り方向に回転しているものとする。
【0025】
カムスプロケット22,23は、内燃機関10の側面から突出した2本のカム軸17(吸気側カム軸18、排気側カム軸19)の一端側にそれぞれ固定された歯車部材である。カムスプロケット22は、吸気側カム軸18に連結されており、カムスプロケット23は、排気側カム軸19に連結されている。カムスプロケット22,23の回転に伴って、吸気側カム軸18及び排気側カム軸19が回転することで、吸気バルブ及び排気バルブが所定のタイミングで開閉する。
【0026】
カム用タイミングチェーン25は、クランク軸16の回転力をカム軸17に伝達する無端状のチェーンであり、クランクスプロケット21の第2ギア部21bとカムスプロケット22,23の間に掛け渡されている。カム用タイミングチェーン25の緩み側(図1の左側)には、可動シュー28Aが摺接しており、カム用タイミングチェーン25の引張り側(図1の右側)には固定シュー28Bが摺接している。
【0027】
可動シュー28Aは、カム用タイミングチェーン25をガイドする弓状の長尺部材であり、上端側がシリンダヘッド13の側壁13aに回動可能に固定されている。可動シュー28Aの下端側は、第1油圧式テンショナ装置27によってカム用タイミングチェーン25に向かって付勢されている。固定シュー28Bは、カム用タイミングチェーン25をガイドする弓状の長尺部材であり、シリンダブロック11の側壁11a及びシリンダヘッド13の側壁13aに跨って固定されている。
【0028】
第1油圧式テンショナ装置27は、シリンダブロック11の側壁11aに固定された油圧シリンダ27aと、この油圧シリンダ27aから突出して可動シュー28Aに当接するピストン27bと、を有している。油圧シリンダ27aには、シリンダブロック11の油路(図示省略)から高圧のオイルが供給されている。油圧シリンダ27aから押し出されたピストン27bによって可動シュー28Aがカム用タイミングチェーン25に向かって押圧され、これによりカム用タイミングチェーン25の張力が略一定に調節されている。
【0029】
図2は、図1のクランクスプロケット付近を拡大して示した側面図である。
図2に示すように、被動輪であるオイルポンプ用スプロケット24は、オイルパン15の側壁15cから突出したポンプ駆動軸15bに固定された歯車部材である。オイルポンプ用スプロケット24の回転に伴ってポンプ駆動軸15bが回転することでオイルポンプ15aが駆動して、高圧のオイルがオイル供給通路(図示せず)を通って内燃機関10内の各所に供給される。
【0030】
オイルポンプ用タイミングチェーン26は、クランク軸16の回転力をポンプ駆動軸15bに伝達する無端状のチェーンであり、クランクスプロケット21の第1ギア部21aとオイルポンプ用スプロケット24の間に掛け渡されている。オイルポンプ用タイミングチェーン26の緩み側(図1、図2の右側)には、シュー29と第2油圧式テンショナ装置30とが配置されている。
【0031】
シュー29は、オイルポンプ用タイミングチェーン26の緩み側に当接する部材である。シュー29の下端部は、第2油圧式テンショナ装置30に回動可能に支持されている。シュー29のオイルポンプ用タイミングチェーン26側の側面は、側面視で円弧状に形成されている。また、シュー29のオイルポンプ用タイミングチェーン26側の側面には、凹溝29aが形成されており(図5参照)、オイルポンプ用タイミングチェーン26が外れ難くなっている。また、シュー29の第2油圧式テンショナ装置30側の側面にも、凹溝29bが形成されており(図5参照)、プランジャ33が外れ難くなっている。
【0032】
第2油圧式テンショナ装置30は、シュー29をオイルポンプ用タイミングチェーン26に向かって付勢することで、オイルポンプ用タイミングチェーン26の張力を略一定に調節する装置である。第2油圧式テンショナ装置30は、高油圧室32を形成するハウジング31と、プランジャ33と、リリーフバルブ50と、を主に備えている。以下、図3乃至図6を参照して、第2油圧式テンショナ装置30の構造について詳細に説明する。
【0033】
図3は、油圧式テンショナ装置の斜視図である。図4は、油圧式テンショナ装置の側面図である。図5は、図4のA−A線断面図である。図6の(a)は、図4のB−B線断面図であり、(b)は、(a)のC−C線断面図である。
【0034】
図3、図4に示すように、ハウジング31は、第2油圧式テンショナ装置30のボディを構成する部材であり、その内部に油路や油室を備えている。ハウジング31は、ロアブロック12の側壁12a(図2参照)にボルトなどの固定部材で固定されている。ハウジング31は、前後方向に延在する本体部31aと、本体部31aの下端部から斜め下前方に向かって延出するアーム部31bと、本体部31aの上側後方に設けられた円筒状の外周壁31cと、を有している。ハウジング31の上側前方と下側後方には、ボルト取付部31d,31dが突設されている。
【0035】
本体部31aは、断面円形状の高油圧室32を形成する部位である。本体部31aのシュー29側の面には、高油圧室32の開口部32aが形成されている。この開口部32aから後記するプランジャ33が突出している。
アーム部31bの先端部には、シュー29の下端部が回動可能に取り付けられている。
【0036】
外周壁31cは、後記するリリーフバルブ50の外周壁を構成する略円筒形状の部位である。外周壁31cは、その軸線がクランク軸16と平行に(つまり、クランクスプロケット21の軸線と平行に)設けられている。また、外周壁31cの軸線は、平面視で、高油圧室32の軸線J2(図4参照)に直交している。外周壁31cの一端側(内燃機関10と反対側)は、本体部31aよりも突出している。外周壁31cの一端側には、リリーフバルブ50のリリーフ孔31fが径方向に貫通形成されている。外周壁31cの中空部31eには、リリーフバルブ50の本体部51が収容されている。図6(a)に示すように、中空部31eの底部31gは、連通路31hを介して後記する高油圧室32と連通している。
【0037】
図5に示すように、高油圧室32は、後記するプランジャ33が挿入されるとともに、内燃機関10から高圧のオイルが供給される部位である。高油圧室32は、開口部32a側が下方となるように軸線J2が傾斜して設けられている(図2、図4参照)。なお、高油圧室32の軸線J2は、内燃機関10のシリンダ軸線(図示省略)に対しても開口部32a側が下方となるように傾斜している。高油圧室32の底部32bには、高油圧室32よりも小径の小径部32cが形成されている。小径部32cの側面には、内燃機関10のオイル供給通路(図示省略)に連通する連通孔32dが貫通形成されている。また、高油圧室32の内部には、第1チェックバルブ36が設けられている。
【0038】
第1チェックバルブ36は、小径部32cに設置された弁座36aと、弁座36aの連通孔36bを閉塞するボール弁36cと、ボール弁36cを弁座36a側に付勢するコイルばね36fと、ボール弁36c及びコイルばね36fを収容するケース36dと、ケース36dとプランジャ33との間に介在してプランジャ33をシュー29に向かって付勢するコイルばね36eと、を有している。この第1チェックバルブ36によって、高油圧室32内のオイルが内燃機関10側に逆流しないようになっている。
【0039】
プランジャ33は、高油圧室32から突出してシュー29を押圧する有底円筒形状の部材である。プランジャ33は、底部33aをシュー29側に向けた状態で高油圧室32に挿入されている。底部33aは、シュー29の凹溝29bに嵌まり込むように段差形状に加工されている。プランジャ33の中空部33bには、コイルばね36eが配置されている。
【0040】
図2、図3及び図6(主に図6)に示すように、リリーフバルブ50は、高油圧室32の油圧が所定値以上になったときにオイルを排出するとともに、排出したオイルを利用してタイミングトレーン機構20を潤滑する機能を有する部位である。リリーフバルブ50は、高油圧室32よりも上方に設けられている。
リリーフバルブ50は、第2チェックバルブ52を有する本体部51と、本体部51を収容する外周壁31cと、外周壁31cに設けられたリリーフ孔31fと、から構成されている。
【0041】
本体部51は、第2チェックバルブ52を収容するための有底円筒形状の部材である。本体部51の外周面には、2つの環状フランジ51a,51bが形成されており、この2つの環状フランジ51a,51bの間には、環状凹溝51cが形成されている。2つの環状フランジ51a,51bの外周面には、ねじ溝が形成されており、外周壁31cの中空部31eの内周面に形成されたねじ溝と螺合して、本体部51が中空部31eから抜け出るのを防止している。環状凹溝51cは、リリーフ孔31fに対応する位置に配置されている。また、本体部51は、第2チェックバルブ52を収容するための収容部51dを有している。収容部51dは、円柱状の空間であり、中空部31eの底部31g側に開口している。収容部51dは、連通孔51eを介して環状凹溝51cと連通している。
【0042】
図6(a)に示すように、第2チェックバルブ52は、収容部51dの開口部付近に取り付けられた弁座52aと、弁座52aの連通孔52bを開閉するボール弁52cと、ボール弁52cを弁座52aに向かって付勢するコイルばね52dと、収容部51dの底部に設けられてボール弁52cの移動を制限するストッパ52eと、を有している。ストッパ52eは、断面視で略T字状の部材であり、コイルばね52dに挿入されている。コイルばね52dの付勢力によってボール弁52cが開く圧力が定まり、ひいては高油圧室32の油圧が定まる。
【0043】
リリーフ孔31fは、第2チェックバルブ52を通って、本体部51内に入ってきたオイルを排出する孔であり、第2チェックバルブ52の下流側に設けられている。リリーフ孔31fは、環状凹溝51cと外周壁31cの外周面とを連通している。リリーフ孔31fは、外周壁31cの周方向の任意の位置に設けることができる。本実施形態では、図2に示すように、リリーフ孔31fの軸線J1の延長線上に、クランクスプロケット21とカム用タイミングチェーン25とオイルポンプ用タイミングチェーン26の噛み合い部が配置されるように、リリーフ孔31fの軸線J1(図2参照)の向きが調節されている。
【0044】
本実施形態に係るタイミングトレーン機構の潤滑構造は、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、図1乃至図6を参照して、本実施形態に係るタイミングトレーン機構の潤滑構造の動作及び作用効果について説明する。
【0045】
図1に示すように、内燃機関10の起動によりクランク軸16が回転すると、クランク軸16に取り付けられたクランクスプロケット21が回転し、その回転がカム用タイミングチェーン25によってカムスプロケット22,23に伝達され、カムスプロケット22,23の回転に伴って2本のカム軸17が回転する。これにより、図示しない吸・排気バルブが所定のタイミングで開閉する。
【0046】
一方、クランクスプロケット21の回転は、オイルポンプ用タイミングチェーン26によって、オイルポンプ用スプロケット24に伝達され、オイルポンプ用スプロケット24の回転に伴ってポンプ駆動軸15bが回転する。これにより、オイルポンプ15aが駆動して、オイルパン15のオイルが汲み上げられ、内燃機関10の各部にオイルが供給される。
【0047】
図5に示すように、内燃機関10から第2油圧式テンショナ装置30に所定圧のオイルが供給されると、第1チェックバルブ36が開いて、高油圧室32の内部にオイルが供給される。このオイルの圧力によってプランジャ33がシュー29をオイルポンプ用タイミングチェーン26に向かって付勢する。これにより、オイルポンプ用タイミングチェーン26の張力が調節される。
【0048】
図6に示すように、リリーフバルブ50の第2チェックバルブ52は、高油圧室32の油圧が所定値以上になったときに開くように設定されている。そのため、高油圧室32の油圧が所定値以上になると、第2チェックバルブ52が開き、リリーフ孔31fからオイルが排出される。これにより、高油圧室32の油圧が所定値に保たれるので、プランジャ33の付勢力に影響を与えることがない。
【0049】
図2に示すように、リリーフ孔31fは、クランクスプロケット21とカム用タイミングチェーン25とオイルポンプ用タイミングチェーン26の噛み合い部にその軸線J1が向くように形成されており、かつ、第2チェックバルブ52(図6(a)参照)によってリリーフ孔31fから噴射されるオイルの圧力は所定値以上となるので、オイルを噛み合い部に確実に噴き掛けることができる。
【0050】
また、第2油圧式テンショナ装置30に供給されるオイルに気泡(空気)が混入することがあり、これが高油圧室32に溜まると高油圧室32の油圧が変動するおそれがあるが、本実施形態では、リリーフバルブ50が高油圧室の上方に配置されているので、高油圧室32に入り込んだ気泡がリリーフバルブ50側に移動し易い。また、高油圧室32の軸線J2は、シュー29側が下方となるように傾斜しており、高油圧室32とリリーフバルブ50とを連通する連通路31h(図6(a)参照)は、シュー29と反対側に形成されているので、高油圧室32内に入り込んだ気泡がリリーフバルブ50側に一層移動し易い構造となっている。そのため、高油圧室32内に気泡が溜まり難くなるとともに、リリーフバルブ50から気泡が排出され易くなり、第2油圧式テンショナ装置30のエア抜き性能が向上する。
【0051】
また、一つのリリーフ孔31fで、クランクスプロケット21とカム用タイミングチェーン25とオイルポンプ用タイミングチェーン26の3つの部材の潤滑を同時に行なうことができるので、装置構成のコンパクト化、部品点数の削減、レイアウト性の向上、などを図ることができる。
【0052】
さらに、外周壁31cの軸線がクランクスプロケット21の軸線と平行に(換言すれば、高油圧室32の軸線J2と平面視で直交するように)設けられているので、例えば、クランクスプロケット21の軸線に直交する平面で半割りにした一対の金型(図示省略)でハウジング31を鋳造する場合に、型抜き方向が外周壁31cの軸線方向と一致するので、半割りにした金型の一方に外周壁31cの中空部31eに対応する部分を設けることができ、高油圧室32を形成するための中子以外に、別の中子を用意する必要がないので、ハウジング31の製造コストを抑制することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0054】
例えば、本実施形態では、オイルポンプ用タイミングチェーン26の張力を調節する第2油圧式テンショナ装置30に本発明を適用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、カム用タイミングチェーン25の張力を調節する第1油圧式テンショナ装置27に本発明を適用してもよい。
【0055】
また、本実施形態では、クランクスプロケット21とカム用タイミングチェーン25とオイルポンプ用タイミングチェーン26の噛み合い部にオイルを噴き掛ける構成としたが、本発明はこれに限定されるものではなく、カム用タイミングチェーン25やオイルポンプ用タイミングチェーン26に個別にオイルを噴き掛けるように構成してもよい。また、カムスプロケット22,23やオイルポンプ用スプロケット24にオイルを噴き掛けるように構成してもよい。
【0056】
また、本実施形態では、シュー29を、第2油圧式テンショナ装置30のアーム部31bに回動可能に支持させて、第2油圧式テンショナ装置30とシュー29とを一体に構成したが、本発明はこれに限定されるものではなく、シュー29を内燃機関10の側面(より詳しくはロアブロック12の側壁12a)に固定して、シュー29と第2油圧式テンショナ装置30とを別体に構成してもよい。
【0057】
また、本実施形態では、直列形式のエンジンに本発明を適用したが、他の形式のエンジン(例えばV型エンジンなど)に本発明を適用してもよいことはいうまでもない。また、本実施形態では、車両のエンジンに本発明を適用したが、発電機などの汎用装置や船舶のエンジンなどに適用してもよいことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0058】
10 内燃機関
11 シリンダブロック
12 ロアブロック
13 シリンダヘッド
14 ヘッドカバー
15 オイルパン
15a オイルポンプ
15b ポンプ駆動軸
16 クランク軸
17 カム軸
18 吸気側カム軸
19 排気側カム軸
20 タイミングトレーン機構
21 クランクスプロケット(駆動輪)
22 カムスプロケット
23 カムスプロケット
24 オイルポンプ用スプロケット(被動輪)
25 カム用タイミングチェーン
26 オイルポンプ用タイミングチェーン(タイミングチェーン)
27 第1油圧式テンショナ装置
28A 可動シュー
28B 固定シュー
29 シュー
30 第2油圧式テンショナ装置(油圧式テンショナ装置)
31 ハウジング
31c 外周壁
31f リリーフ孔
32 高油圧室
33 プランジャ
36 第1チェックバルブ
50 リリーフバルブ
51 本体部
52 第2チェックバルブ(チェックバルブ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に設けられた駆動輪及び被動輪と、前記駆動輪及び前記被動輪に掛け渡されたタイミングチェーンと、前記タイミングチェーンに摺接するシューと、前記シューを前記タイミングチェーンに向かって付勢する油圧式テンショナ装置と、を有するタイミングトレーン機構の潤滑構造であって、
前記油圧式テンショナ装置は、高油圧室を形成するハウジングと、一端が前記シューに当接するとともに他端が前記高油圧室に挿通し、前記ハウジングに対して伸縮するプランジャと、前記高油圧室に連通するリリーフバルブと、を有し、
前記リリーフバルブは、チェックバルブと、前記チェックバルブの下流側に設けられたリリーフ孔と、を有し、
前記リリーフバルブは、前記高油圧室よりも上方に設けられ、
前記リリーフ孔は、前記タイミングチェーン、前記駆動輪及び前記被動輪の少なくともいずれか一つに向けて開口していることを特徴とするタイミングトレーン機構の潤滑構造。
【請求項2】
前記リリーフバルブは円筒形状の外周壁を有し、前記外周壁の軸線は前記駆動輪の軸線と平行に設けられ、前記外周壁に前記リリーフ孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載のタイミングトレーン機構の潤滑構造。
【請求項3】
前記油圧式テンショナ装置は、前記シューに当接する前記プランジャの一端側が下方となるように、前記プランジャ及び前記高油圧室の軸線が傾斜して設けられ、
前記高油圧室の上方側に前記リリーフバルブが連通していることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のタイミングトレーン機構の潤滑構造。
【請求項4】
前記駆動輪は、前記内燃機関のクランク軸に連結され、少なくとも2つのギア部を備えたクランクスプロケットであり、
前記被動輪は、カム軸に連結されたカムスプロケットと、オイルポンプに連結されたオイルポンプ用スプロケットと、を備え、
前記タイミングチェーンは、前記クランクスプロケットの一方のギア部と前記カムスプロケットとの間に掛け渡されたカム用タイミングチェーンと、前記クランクスプロケットの他方のギア部と前記オイルポンプ用スプロケットとの間に掛け渡されたオイルポンプ用タイミングチェーンと、を備え、
前記シューは、前記カム用タイミングチェーン及び前記オイルポンプ用タイミングチェーンのいずれか一方に摺接し、
前記リリーフ孔は、前記クランクスプロケットと前記カム用タイミングチェーンと前記オイルポンプ用タイミングチェーンの噛み合い部に向かって開口していることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のタイミングトレーン機構の潤滑構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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