タイヤ加硫用モールドの製造方法
【課題】排気機構を備えたモールドを、簡便に製造できるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびこの製造方法により製造されるタイヤ加流用モールドを提供する。
【解決手段】ブレード6の石膏鋳型11の表面11aから突出している部分6aを、易崩壊性耐火材料からなる被覆層9で被覆するとともに、鋳造用耐火材からなる棒状の排気孔形成部材10を、被覆層9に接触させてブレード6に直立に取り付けた状態にして、この状態の石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込んで表面11aの形状を転写するとともに、ブレード6の石膏鋳型11の表面から突出している部分および排気孔形成部材10を鋳込んだモールドを鋳造した後、被覆層9および排気孔形成部材10を除去することによりブレード6の周囲にスリットを形成し、このスリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成する。
【解決手段】ブレード6の石膏鋳型11の表面11aから突出している部分6aを、易崩壊性耐火材料からなる被覆層9で被覆するとともに、鋳造用耐火材からなる棒状の排気孔形成部材10を、被覆層9に接触させてブレード6に直立に取り付けた状態にして、この状態の石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込んで表面11aの形状を転写するとともに、ブレード6の石膏鋳型11の表面から突出している部分および排気孔形成部材10を鋳込んだモールドを鋳造した後、被覆層9および排気孔形成部材10を除去することによりブレード6の周囲にスリットを形成し、このスリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関し、さらに詳しくは、排気機構を備えたモールドを、簡便に製造することができるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびこの製造方法により製造されるタイヤ加流用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫用モールドに設けられる排気機構として、従来、ベントホールが多用されていたが、加硫の際にゴムがベントホールに流入してスピューが発生するため、スピューが発生しない排気機構が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1では、十分な排気を確保するために、薄板を折り曲げて一端部を重ね合わせ、他端部に大きな隙間を確保した積層ブレードが用いた排気機構が提案されている。この積層ブレードはブロックで保持され、このブロックをモールドのタイヤ成形面の凹状のポケットに嵌入させることにより、ポケットとブロックとで囲まれた排気室を形成している。エアやガスは、積層ブレードの一端部の微小隙間および他端部の大きな隙間を通じて排気室に排出される。しかしながら、この排気機構では、鋳造したモールドのタイヤ成形面にポケットを形成する工程、ブロックに積層ブレードを保持させた組立体を製造する工程、この組立体をポケットに嵌入させる工程が必要になるので、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【0004】
特許文献2の提案では、モールドを構成するピースを鋳造する際に、溶融金属を複数回に分けてショットする。鋳造したピースには、ショット間の鋳継ぎ部に溶融金属の凝固収縮による微細なすき間が形成され、このすき間が排気通路になる。しかしながら、この提案では、溶融金属を複数回に分けてショットしなければならないため、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260135号公報
【特許文献2】特開2000−229322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、排気機構を備えたモールドを、簡便に製造することができるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびこの製造方法により製造されるタイヤ加流用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面形状を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、前記石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、前記ブレードに対して前記被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、前記ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および前記排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、前記被覆層を除去することにより前記ブレードの周囲にスリットを形成し、前記排気孔形成部材を除去することにより前記スリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のタイヤ加硫用モールドは、タイヤ成形面にブレードが埋設され、溶融金属を固化させることにより製造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記ブレードの周囲に形成されたスリットと、このスリットとモールドの外部とを連通させるモールド背面側に延びる排気孔とを有し、前記スリットが、前記溶融金属に鋳込まれた前記ブレードを被覆していた易崩壊性耐火材料からなる被覆層を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであり、前記排気孔が、前記溶融金属に鋳込まれた鋳造用耐火材からなる棒状の排気孔形成部材を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、ブレードに対して被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、被覆層および排気孔形成部材を除去することによりブレードの周囲にスリットと、このスリットに連通してモールド背面側に延びる排気孔とを形成するので、排気機構となるスリットおよび排気孔を形成するための作業工程が簡略化される。
【0010】
この製造方法により、排気機構を備えた本発明のタイヤ加硫用モールドを簡便に得ることができる。
【0011】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法では、前記ブレードおよび排気孔形成部材の少なくとも一方に切欠き部を設け、この切欠き部を介して、ブレードに対して排気孔形成部材を直立させて取り付けることもできる。これにより、排気孔形成部材をブレードにしっかりと取り付けできるので、溶融金属を流し込んだ際に、直立させた排気孔形成部材のずれを防止し易くなる。
【0012】
前記ブレードに貫通孔を設け、この貫通孔の周囲部分は前記被覆層で被覆せずにブレードの素地を露出させたままの状態にして、前記溶融金属を流し込むこともできる。これにより、モールドの鋳造後に被覆層を除去しても、貫通孔の周囲部分と固化した溶融金属とが密着接合しているので、ブレードがモールドに強固に固定される。
【0013】
前記被覆層の厚さは、例えば、0.02mm〜0.10mmにする。これにより、スリットを通じて十分な排気を確保しながらスピューの発生を確実に防止できる。
【0014】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端まで溶融金属に埋没させ、この排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、このモールドの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させることもできる。これにより、モールドの背面側の加工処理と同時に排気孔形成部材がその背面に露出する。それ故、最終仕様の厚さ、即ち、厚さの薄いモールドに対して、排気孔形成部材の除去作業を行なうことができるので、除去すべき排気孔形成部材の長さが短くなり除去作業時間を短縮できる。
【0015】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端部を溶融金属の表面から露出させることもできる。これにより、鋳造したモールドの背面には、排気孔形成部材が露出するので、この露出した部分から、すぐに排気孔形成部材を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1のセクターを例示する平面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】図3のセクターの左半分の一部を例示する平面図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】ブレードの根元部分が突出しているゴム型の表面に石膏を流し込む工程を例示する説明図である。
【図7】石膏鋳型の表面に突設されたブレードと、このブレードに取り付ける排気孔形成部材を例示する斜視図である。
【図8】排気孔形成部材を取り付けたブレードが突設された石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、正面視で例示する説明図である。
【図9】図8の工程を平面視で示す説明図である。
【図10】鋳造したセクターから、被覆層および排気孔形成部材を除去する工程を例示する断面図である。
【図11】鋳造したセクターの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させる工程を例示する断面図である。
【図12】タイヤ加硫用モールドの別の実施形態を例示する正面図である。
【図13】ブレードのアンカー部が突出しているゴム型の表面に石膏を流し込む工程を例示する説明図である。
【図14】排気孔形成部材を取り付けたブレードが突設された石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、正面視で例示する説明図である。
【図15】鋳造したセクターから、アンカー部、被覆層および排気孔形成部材を除去する工程を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールドを、図に示した実施形態に基づいて説明する。図面に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、加硫用モールドに挿入して加硫されるグリーンタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。
【0018】
図1〜図5に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1)は、複数のセクター2を環状に組み付けて構成されるセクショナルタイプになっている。それぞれのセクター2の背面にはバックブロック3が取り付けられる。それぞれのセクター2の内周側表面がタイヤ成形面4になる。セクター2は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を溶融させた溶融金属Mを固化させることにより形成されている。
【0019】
タイヤ成形面4には、タイヤの溝を形成する溝成形突起5がセクター2と一体となって設けられている。また、タイヤ成形面4には、ステンレス鋼等からなるブレード6が突設されている。この実施形態のブレード6は、製造するタイヤ表面にサイプを形成するサイプ用ブレードになっている。即ち、ブレード6が、根元部分6aがタイヤ成形面4に鋳込まれて突設されている。ブレード6の厚さは、0.4mm〜1.2mm程度である。
【0020】
ブレード6の根元部分6aの周囲には、スリット7が設けられている。このスリット7は、根元部分6aを被覆していた後述する被覆層9を、セクター2を鋳造した後に除去することにより形成されたものである。スリット7は、セクター2(モールド1)の背面側に延びて、セクター2の外部に通じる排気孔8と連通している。
【0021】
スリット7を通じて十分な排気を確保しながらスピューの発生を防止するために、スリット7のすき間は、0.02mm〜0.10mmの範囲にすることが好ましい。尚、図4ではスリット7のすき間を実際よりも大きく図示している。
【0022】
排気孔8は、ブレード6に対して被覆層9に接触させ、かつ、直立させて取り付けられていた後述する排気孔形成部材10を、セクター2を鋳造した後に除去することにより形成されたものである。排気孔8の大きさは、外径相当で2mm〜10mm程度である。
【0023】
このセクター2を組付けたモールド1を用いてグリーンタイヤを加硫すると、不要なエアやガスはスリット7を通じて排気孔8に排出され、さらにセクター2の端面等を通じてモールド1の外部に排出される。このようにして加硫中に適切な排気を確保できるので、タイヤの加硫故障が防止される。
【0024】
このセクター2を製造する方法は以下のとおりである。
【0025】
図6に例示するように、ゴム型13にはブレード6の根元部分6aが埋設されて、ブレード6がゴム型13の表面に突設されている。ゴム型13はマスター型の表面形状を転写して形成されたものである。
【0026】
ブレード6の根元部分6aの表面は、予め被覆層9によって被覆しておくとよい。図面では被覆層9を斜線で示している。ブレード6の根元部分6aには、貫通孔6cおよび切欠き部6dが設けられている。貫通孔6cの周囲部分は被覆層9で被覆せずにブレード6の素地を露出させたままの状態にすることが好ましい。被覆層9を後工程で除去することによりスリット7が形成されるので、被覆層9の厚さは0.02mm〜0.10mmの範囲に設定する。
【0027】
被覆層9は、水に溶解し易い、或いは、衝撃で容易に壊れる易崩壊性耐火材料により形成されている。易崩壊性耐火材料としては、塗型材や石膏や黒鉛系離型材を含有した固形物等を例示できる。塗型材は、鋳造金型の溶湯に接触する部分に塗布されて鋳造金型の断熱材や保護材として機能するものである。塗型材の成分は、水、ケイ酸ソーダ、バーミキュライト、マイカ、ベントナイトである。また、黒鉛系離型材の成分は、黒鉛、n−ヘキサン、ジメチルエーテル等である。
【0028】
このゴム型13の表面に石膏Pを流し込んで、ゴム型13の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。このように製造した石膏鋳型11の表面11aには、図7に例示するようにブレード6が突設される。ブレード6の根元部分6aは、石膏鋳型11の表面11aから突出して露出した状態になる。
【0029】
このブレード6に対して、直立させて易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材10を取り付ける。その際、排気孔形成部材10を、石膏鋳型11の表面11aに突設したブレード6に対して、根元部分6aを被覆する被覆層9に接触させて取り付ける。排気孔形成部材10を形成する易崩壊性耐火材料としては石膏が好適である。
【0030】
このブレード6には切欠き部6dが設けられていて、排気孔形成部材10の下端部にも切欠き部10aが設けられている。これら切欠き部6d、10aどうしを嵌合させ、切欠き部6d、10aを介して排気孔形成部材10を直立させることにより、排気孔形成部材10をブレード6にしっかりと取り付けできる。そのため、溶融金属Mを流し込んだ際に、直立させた排気孔形成部材10のずれを防止し易くなる。
【0031】
図7の右側に記載した排気孔形成部材10のように、切欠き部10aを設ける下端部を他の部分よりも厚肉にすることもできる。これにより、ブレード6に取り付けて直立させた排気孔形成部材10が外力を受けた際に、切欠き部10aに損傷が生じ難くなる。
【0032】
この実施形態では、ブレード6および排気孔形成部材10に切欠き部6d、10aを設けているが、ブレード6および排気孔形成部材10の少なくとも一方に切欠き部を設けるようにしてもよい。また、ブレード6に対して排気孔形成部材10を取り付ける際に、耐火性接着剤を用いると、直立させた排気孔形成部材10のずれをより確実に防止することができる。
【0033】
次いで、図8、図9に例示するように、この石膏鋳型11の表面に溶融金属Mを流し込んでモールド1を鋳造する。排気孔形成部材10を後工程で除去することにより、排気孔8が形成されるので、排気孔形成部材10の太さは、外径相当で2mm〜10mm程度にする。
【0034】
このように、鋳造するモールド1の背面側に延びるように排気孔形成部材10を取り付けた石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込む。そして、溶融金属Mを固化させることにより石膏鋳型11の表面11aの形状を転写したセクター2が鋳造される。鋳造されたセクター2の表面(タイヤ成形面4)にはブレード(サイプ用ブレード)6が突設され、セクター2の背面からは、排気孔形成部材10の一部が露出した状態になる。ブレード6の根元部分6aは、被覆層9で被覆されたままセクター2に鋳込まれた状態になる。排気孔形成部材10もセクター2に鋳込まれた状態になる。
【0035】
次いで、鋳造したセクター2に鋳込まれた被覆層9および排気孔形成部材10を除去する。例えば、図10に例示するように、噴射ノズル14から噴射した高圧水流を被覆層9および排気孔形成部材10に吹き付けることによって、被覆層9および排気孔形成部材10を除去する。被覆層9が除去された所がスリット7になり、排気孔形成部材10が除去された所が排気孔8になる。形成された排気孔8は、セクター2の外部に通じた状態になる。排気孔形成部材10は、被覆層9に接触させていたのでスリット7と排気孔8とは連通することになる。
【0036】
溶融金属Mを石膏鋳型11の表面に流し込んだ際、排気孔形成部材10の上端部を溶融金属Mの表面から露出させると、排気孔形成部材10の上端部は、セクター2の背面から露出する。そのため、この露出した部分から、すぐに排気孔形成部材10を除去することができる。
【0037】
溶融金属Mを石膏鋳型11の表面に流し込んだ際、排気孔形成部材10の上端まで溶融金属Mに埋没させると、この排気孔形成部材10が完全に鋳込まれたセクター2が鋳造される。そこで、図11に例示するように、鋳造後、このセクター2の背面側を切断線2aに沿って切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材10をセクター2の外部に露出させる。この露出した部分から、排気孔形成部材10を除去する。
【0038】
これにより、セクター2の背面側の加工処理と同時に排気孔形成部材10をセクター2の背面に露出させることができる。それ故、最終仕様の厚さ、即ち、厚さの薄いセクター2に対して、排気孔形成部材10の除去作業を行なうことができるので、除去すべき排気孔形成部材10の長さが短くなり除去作業時間を短縮できる。
【0039】
上記のとおり、溶融金属Mを石膏鋳型11の表面11aに流し込んで固化させる鋳造工程と、被覆層9および排気孔形成部材10の除去工程とにより、排気機構を構成するスリット7および排気孔8をセクター2に簡便に形成することができる。
【0040】
また、この発明では、セクター2を細分化したピース毎ではなく、セクター2毎で排気孔8を形成することが可能なので、加工工数、加工時間を短縮するには有利である。
【0041】
この実施形態では、貫通孔6cの周囲部分を、ブレード6の素地を露出させたままの状態にして溶融金属Mを流し込んでセクター2を鋳造している。そのため、モールド1の鋳造後に被覆層9を除去しても、貫通孔6cの周囲部分で固化した溶融金属Mとブレード6の根元部分6aとが密着接合しているので、ブレード6がモールド1に強固に固定されて抜け難くなる。
【0042】
図12に例示するセクター2(モールド1)の別の実施形態は、ブレード6がタイヤ成形面4に突出せずに埋設されていることだけが先の実施形態との相違点である。
【0043】
このセクター2を製造する方法を以下に例示する。
【0044】
図13に例示するように、一端にアンカー部6bを突設したブレード6がゴム型13に埋設され、アンカー部6bのみがゴム型13の表面に突出している。ゴム型13はマスター型の表面形状を転写して形成されたものである。
【0045】
アンカー部6bは、ブレード6を石膏鋳型11の表面11a上に載置する際に、所望の位置に固定させるために設けられたものであり、後工程においてブレード6の本体部分から除去する。そのため、アンカー部6bは、ブレード6の本体部分(アンカー部6b以外の部分)とは、くびれた状態で連結していることが好ましい。この実施形態では、アンカー部6bを三角形状にして、その頂点でブレード6の本体部分と連結した仕様になっている。
【0046】
ブレード6の表面は、予め被覆層9によって被覆しておくとよい。図面では被覆層9を斜線で示している。また、ブレード6(本体部分)には、貫通孔6cおよび切欠き部6dが設けられている。貫通孔6cの周囲部分は被覆層9で被覆せずにブレード6の素地を露出させたままの状態にすることが好ましい。
【0047】
図13に例示するように、このゴム型13の表面に石膏Pを流し込んで、ゴム型13の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。石膏鋳型11の溝11bは、モールド1の溝成形突起5に相当する部分である。このように製造した石膏鋳型11には、アンカー部6bのみが埋設される。ブレード6の本体部分は埋設されずに載置された状態、即ち、ブレード6の本体部分は、石膏鋳型11の表面11aから突出して露出した状態になる。
【0048】
次いで、この石膏鋳型11の表面に溶融金属Mを流し込んでモールド1を鋳造する。その際、図14に例示するように、このブレード6に対して、被覆層9に接触させ、かつ、直立させて易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材10を取り付ける。その際、排気孔形成部材10を、石膏鋳型11の表面11aに突設したブレード6の本体部分に対して、被覆層9に接触させて取り付ける。先の実施形態のように、ブレード6の切欠き部6dと排気孔形成部材10の下端部の切欠き部10aどうしを嵌合させ、切欠き部6d、10aを介して排気孔形成部材10を直立させることにより、排気孔形成部材10をブレード6にしっかりと取り付けできる。
【0049】
この状態の石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込み、溶融金属Mを固化させることにより石膏鋳型11の表面11aの形状を転写したセクター2が鋳造される。鋳造されたセクター2には、ブレード6のアンカー部6bのみが突出して、本体部分は、セクター2の表面上に突出せずに埋設される。ブレード6の本体部分は、被覆層9で被覆されたままセクター2に鋳込まれて埋設された状態になる。
【0050】
次いで、図15に例示するように、鋳造したセクター2の表面から突出しているアンカー部6bを除去する。アンカー部6bは直接手を使用した手作業で、或いは、切断装置や研削装置等の工具を使用して除去する。アンカー部6bを除去することにより、ブレード6の上端はセクター2の表面と同じレベルになる。
【0051】
また、セクター2に鋳込まれた状態の被覆層9および排気孔形成部材10を、例えば、噴射ノズル14から噴射した高圧水流を吹き付けることによって除去する。これにより、セクター2には、排気機構を構成するスリット6および排気孔8が形成される。
【0052】
上記のとおり、溶融金属Mを石膏鋳型11の表面11aに流し込んで固化させる鋳造工程と、アンカー部6b、被覆層9および排気孔形成部材10の除去工程とにより、セクター2の表面に開口するスリット7およびセクター2の背面側に延びる排気孔8を簡便に形成することができる。
【0053】
しかも、この実施形態では、ブレード6の一端に設けたアンカー部6bによって、ブレード6を石膏鋳型11の表面11a上の所望の位置に載置して固定できる。これに伴って、スリット7をセクター2の表面の所望の位置に形成できる。
【0054】
例えば、ブレード6の一部を石膏鋳型11に単純に埋設し、ブレード6を石膏鋳型11の表面11aから突設した状態にして、溶融金属Mを流し込んでセクター2を鋳造すると、セクター2の表面には、ブレード6の一部が突出する。そのため、このセクター2を用いてタイヤを加硫すると、ブレード6の突出した部分によってタイヤの表面には意図しない凹部が形成されてしまう。そこで、加硫したタイヤに意図しない凹部を形成しないようにするためには、ブレード6を石膏鋳型11に埋設することなく、石膏鋳型11の表面11aに載置する必要がある。しかしながら、石膏鋳型11の表面11aに載置するだけではブレード6を所望の位置で固定することができない。
【0055】
このような問題を、この実施形態本ではブレード6の一端に、後工程で除去するアンカー部6bを設けることによって解決している。
【符号の説明】
【0056】
1 モールド
2 セクター
3 バックブロック
4 タイヤ成形面
5 溝成形突起
6 ブレード
6a 根元部分
6b アンカー部
6c 貫通孔
6d 切欠き部
7 スリット
8 排気孔
9 被覆層
10 排気孔形成部材
10a 切欠き部
11 石膏鋳型
11a 表面
11b 溝
12 型枠
13 ゴム型
14 噴射ノズル
M 溶融金属
P 石膏
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加流用モールドに関し、さらに詳しくは、排気機構を備えたモールドを、簡便に製造することができるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびこの製造方法により製造されるタイヤ加流用モールドに関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫用モールドに設けられる排気機構として、従来、ベントホールが多用されていたが、加硫の際にゴムがベントホールに流入してスピューが発生するため、スピューが発生しない排気機構が種々提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1では、十分な排気を確保するために、薄板を折り曲げて一端部を重ね合わせ、他端部に大きな隙間を確保した積層ブレードが用いた排気機構が提案されている。この積層ブレードはブロックで保持され、このブロックをモールドのタイヤ成形面の凹状のポケットに嵌入させることにより、ポケットとブロックとで囲まれた排気室を形成している。エアやガスは、積層ブレードの一端部の微小隙間および他端部の大きな隙間を通じて排気室に排出される。しかしながら、この排気機構では、鋳造したモールドのタイヤ成形面にポケットを形成する工程、ブロックに積層ブレードを保持させた組立体を製造する工程、この組立体をポケットに嵌入させる工程が必要になるので、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【0004】
特許文献2の提案では、モールドを構成するピースを鋳造する際に、溶融金属を複数回に分けてショットする。鋳造したピースには、ショット間の鋳継ぎ部に溶融金属の凝固収縮による微細なすき間が形成され、このすき間が排気通路になる。しかしながら、この提案では、溶融金属を複数回に分けてショットしなければならないため、加工工程が多くなり製造に要する時間が長くなるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−260135号公報
【特許文献2】特開2000−229322号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、排気機構を備えたモールドを、簡便に製造することができるタイヤ加硫用モールドの製造方法およびこの製造方法により製造されるタイヤ加流用モールドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法は、石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面形状を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、前記石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、前記ブレードに対して前記被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、前記ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および前記排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、前記被覆層を除去することにより前記ブレードの周囲にスリットを形成し、前記排気孔形成部材を除去することにより前記スリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成することを特徴とする。
【0008】
また、本発明のタイヤ加硫用モールドは、タイヤ成形面にブレードが埋設され、溶融金属を固化させることにより製造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記ブレードの周囲に形成されたスリットと、このスリットとモールドの外部とを連通させるモールド背面側に延びる排気孔とを有し、前記スリットが、前記溶融金属に鋳込まれた前記ブレードを被覆していた易崩壊性耐火材料からなる被覆層を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであり、前記排気孔が、前記溶融金属に鋳込まれた鋳造用耐火材からなる棒状の排気孔形成部材を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法によれば、石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、ブレードに対して被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、被覆層および排気孔形成部材を除去することによりブレードの周囲にスリットと、このスリットに連通してモールド背面側に延びる排気孔とを形成するので、排気機構となるスリットおよび排気孔を形成するための作業工程が簡略化される。
【0010】
この製造方法により、排気機構を備えた本発明のタイヤ加硫用モールドを簡便に得ることができる。
【0011】
本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法では、前記ブレードおよび排気孔形成部材の少なくとも一方に切欠き部を設け、この切欠き部を介して、ブレードに対して排気孔形成部材を直立させて取り付けることもできる。これにより、排気孔形成部材をブレードにしっかりと取り付けできるので、溶融金属を流し込んだ際に、直立させた排気孔形成部材のずれを防止し易くなる。
【0012】
前記ブレードに貫通孔を設け、この貫通孔の周囲部分は前記被覆層で被覆せずにブレードの素地を露出させたままの状態にして、前記溶融金属を流し込むこともできる。これにより、モールドの鋳造後に被覆層を除去しても、貫通孔の周囲部分と固化した溶融金属とが密着接合しているので、ブレードがモールドに強固に固定される。
【0013】
前記被覆層の厚さは、例えば、0.02mm〜0.10mmにする。これにより、スリットを通じて十分な排気を確保しながらスピューの発生を確実に防止できる。
【0014】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端まで溶融金属に埋没させ、この排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、このモールドの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させることもできる。これにより、モールドの背面側の加工処理と同時に排気孔形成部材がその背面に露出する。それ故、最終仕様の厚さ、即ち、厚さの薄いモールドに対して、排気孔形成部材の除去作業を行なうことができるので、除去すべき排気孔形成部材の長さが短くなり除去作業時間を短縮できる。
【0015】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端部を溶融金属の表面から露出させることもできる。これにより、鋳造したモールドの背面には、排気孔形成部材が露出するので、この露出した部分から、すぐに排気孔形成部材を除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明のタイヤ加硫用モールドを例示する平面図である。
【図2】図1のセクターを例示する平面図である。
【図3】図2の正面図である。
【図4】図3のセクターの左半分の一部を例示する平面図である。
【図5】図4の正面図である。
【図6】ブレードの根元部分が突出しているゴム型の表面に石膏を流し込む工程を例示する説明図である。
【図7】石膏鋳型の表面に突設されたブレードと、このブレードに取り付ける排気孔形成部材を例示する斜視図である。
【図8】排気孔形成部材を取り付けたブレードが突設された石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、正面視で例示する説明図である。
【図9】図8の工程を平面視で示す説明図である。
【図10】鋳造したセクターから、被覆層および排気孔形成部材を除去する工程を例示する断面図である。
【図11】鋳造したセクターの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させる工程を例示する断面図である。
【図12】タイヤ加硫用モールドの別の実施形態を例示する正面図である。
【図13】ブレードのアンカー部が突出しているゴム型の表面に石膏を流し込む工程を例示する説明図である。
【図14】排気孔形成部材を取り付けたブレードが突設された石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込む工程を、正面視で例示する説明図である。
【図15】鋳造したセクターから、アンカー部、被覆層および排気孔形成部材を除去する工程を例示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のタイヤ加硫用モールドの製造方法およびタイヤ加硫用モールドを、図に示した実施形態に基づいて説明する。図面に記載されているC矢印、R矢印、W矢印は、それぞれ、加硫用モールドに挿入して加硫されるグリーンタイヤの周方向、半径方向、幅方向を示している。
【0018】
図1〜図5に例示するように、本発明のタイヤ加硫用モールド1(以下、モールド1)は、複数のセクター2を環状に組み付けて構成されるセクショナルタイプになっている。それぞれのセクター2の背面にはバックブロック3が取り付けられる。それぞれのセクター2の内周側表面がタイヤ成形面4になる。セクター2は、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を溶融させた溶融金属Mを固化させることにより形成されている。
【0019】
タイヤ成形面4には、タイヤの溝を形成する溝成形突起5がセクター2と一体となって設けられている。また、タイヤ成形面4には、ステンレス鋼等からなるブレード6が突設されている。この実施形態のブレード6は、製造するタイヤ表面にサイプを形成するサイプ用ブレードになっている。即ち、ブレード6が、根元部分6aがタイヤ成形面4に鋳込まれて突設されている。ブレード6の厚さは、0.4mm〜1.2mm程度である。
【0020】
ブレード6の根元部分6aの周囲には、スリット7が設けられている。このスリット7は、根元部分6aを被覆していた後述する被覆層9を、セクター2を鋳造した後に除去することにより形成されたものである。スリット7は、セクター2(モールド1)の背面側に延びて、セクター2の外部に通じる排気孔8と連通している。
【0021】
スリット7を通じて十分な排気を確保しながらスピューの発生を防止するために、スリット7のすき間は、0.02mm〜0.10mmの範囲にすることが好ましい。尚、図4ではスリット7のすき間を実際よりも大きく図示している。
【0022】
排気孔8は、ブレード6に対して被覆層9に接触させ、かつ、直立させて取り付けられていた後述する排気孔形成部材10を、セクター2を鋳造した後に除去することにより形成されたものである。排気孔8の大きさは、外径相当で2mm〜10mm程度である。
【0023】
このセクター2を組付けたモールド1を用いてグリーンタイヤを加硫すると、不要なエアやガスはスリット7を通じて排気孔8に排出され、さらにセクター2の端面等を通じてモールド1の外部に排出される。このようにして加硫中に適切な排気を確保できるので、タイヤの加硫故障が防止される。
【0024】
このセクター2を製造する方法は以下のとおりである。
【0025】
図6に例示するように、ゴム型13にはブレード6の根元部分6aが埋設されて、ブレード6がゴム型13の表面に突設されている。ゴム型13はマスター型の表面形状を転写して形成されたものである。
【0026】
ブレード6の根元部分6aの表面は、予め被覆層9によって被覆しておくとよい。図面では被覆層9を斜線で示している。ブレード6の根元部分6aには、貫通孔6cおよび切欠き部6dが設けられている。貫通孔6cの周囲部分は被覆層9で被覆せずにブレード6の素地を露出させたままの状態にすることが好ましい。被覆層9を後工程で除去することによりスリット7が形成されるので、被覆層9の厚さは0.02mm〜0.10mmの範囲に設定する。
【0027】
被覆層9は、水に溶解し易い、或いは、衝撃で容易に壊れる易崩壊性耐火材料により形成されている。易崩壊性耐火材料としては、塗型材や石膏や黒鉛系離型材を含有した固形物等を例示できる。塗型材は、鋳造金型の溶湯に接触する部分に塗布されて鋳造金型の断熱材や保護材として機能するものである。塗型材の成分は、水、ケイ酸ソーダ、バーミキュライト、マイカ、ベントナイトである。また、黒鉛系離型材の成分は、黒鉛、n−ヘキサン、ジメチルエーテル等である。
【0028】
このゴム型13の表面に石膏Pを流し込んで、ゴム型13の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。このように製造した石膏鋳型11の表面11aには、図7に例示するようにブレード6が突設される。ブレード6の根元部分6aは、石膏鋳型11の表面11aから突出して露出した状態になる。
【0029】
このブレード6に対して、直立させて易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材10を取り付ける。その際、排気孔形成部材10を、石膏鋳型11の表面11aに突設したブレード6に対して、根元部分6aを被覆する被覆層9に接触させて取り付ける。排気孔形成部材10を形成する易崩壊性耐火材料としては石膏が好適である。
【0030】
このブレード6には切欠き部6dが設けられていて、排気孔形成部材10の下端部にも切欠き部10aが設けられている。これら切欠き部6d、10aどうしを嵌合させ、切欠き部6d、10aを介して排気孔形成部材10を直立させることにより、排気孔形成部材10をブレード6にしっかりと取り付けできる。そのため、溶融金属Mを流し込んだ際に、直立させた排気孔形成部材10のずれを防止し易くなる。
【0031】
図7の右側に記載した排気孔形成部材10のように、切欠き部10aを設ける下端部を他の部分よりも厚肉にすることもできる。これにより、ブレード6に取り付けて直立させた排気孔形成部材10が外力を受けた際に、切欠き部10aに損傷が生じ難くなる。
【0032】
この実施形態では、ブレード6および排気孔形成部材10に切欠き部6d、10aを設けているが、ブレード6および排気孔形成部材10の少なくとも一方に切欠き部を設けるようにしてもよい。また、ブレード6に対して排気孔形成部材10を取り付ける際に、耐火性接着剤を用いると、直立させた排気孔形成部材10のずれをより確実に防止することができる。
【0033】
次いで、図8、図9に例示するように、この石膏鋳型11の表面に溶融金属Mを流し込んでモールド1を鋳造する。排気孔形成部材10を後工程で除去することにより、排気孔8が形成されるので、排気孔形成部材10の太さは、外径相当で2mm〜10mm程度にする。
【0034】
このように、鋳造するモールド1の背面側に延びるように排気孔形成部材10を取り付けた石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込む。そして、溶融金属Mを固化させることにより石膏鋳型11の表面11aの形状を転写したセクター2が鋳造される。鋳造されたセクター2の表面(タイヤ成形面4)にはブレード(サイプ用ブレード)6が突設され、セクター2の背面からは、排気孔形成部材10の一部が露出した状態になる。ブレード6の根元部分6aは、被覆層9で被覆されたままセクター2に鋳込まれた状態になる。排気孔形成部材10もセクター2に鋳込まれた状態になる。
【0035】
次いで、鋳造したセクター2に鋳込まれた被覆層9および排気孔形成部材10を除去する。例えば、図10に例示するように、噴射ノズル14から噴射した高圧水流を被覆層9および排気孔形成部材10に吹き付けることによって、被覆層9および排気孔形成部材10を除去する。被覆層9が除去された所がスリット7になり、排気孔形成部材10が除去された所が排気孔8になる。形成された排気孔8は、セクター2の外部に通じた状態になる。排気孔形成部材10は、被覆層9に接触させていたのでスリット7と排気孔8とは連通することになる。
【0036】
溶融金属Mを石膏鋳型11の表面に流し込んだ際、排気孔形成部材10の上端部を溶融金属Mの表面から露出させると、排気孔形成部材10の上端部は、セクター2の背面から露出する。そのため、この露出した部分から、すぐに排気孔形成部材10を除去することができる。
【0037】
溶融金属Mを石膏鋳型11の表面に流し込んだ際、排気孔形成部材10の上端まで溶融金属Mに埋没させると、この排気孔形成部材10が完全に鋳込まれたセクター2が鋳造される。そこで、図11に例示するように、鋳造後、このセクター2の背面側を切断線2aに沿って切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材10をセクター2の外部に露出させる。この露出した部分から、排気孔形成部材10を除去する。
【0038】
これにより、セクター2の背面側の加工処理と同時に排気孔形成部材10をセクター2の背面に露出させることができる。それ故、最終仕様の厚さ、即ち、厚さの薄いセクター2に対して、排気孔形成部材10の除去作業を行なうことができるので、除去すべき排気孔形成部材10の長さが短くなり除去作業時間を短縮できる。
【0039】
上記のとおり、溶融金属Mを石膏鋳型11の表面11aに流し込んで固化させる鋳造工程と、被覆層9および排気孔形成部材10の除去工程とにより、排気機構を構成するスリット7および排気孔8をセクター2に簡便に形成することができる。
【0040】
また、この発明では、セクター2を細分化したピース毎ではなく、セクター2毎で排気孔8を形成することが可能なので、加工工数、加工時間を短縮するには有利である。
【0041】
この実施形態では、貫通孔6cの周囲部分を、ブレード6の素地を露出させたままの状態にして溶融金属Mを流し込んでセクター2を鋳造している。そのため、モールド1の鋳造後に被覆層9を除去しても、貫通孔6cの周囲部分で固化した溶融金属Mとブレード6の根元部分6aとが密着接合しているので、ブレード6がモールド1に強固に固定されて抜け難くなる。
【0042】
図12に例示するセクター2(モールド1)の別の実施形態は、ブレード6がタイヤ成形面4に突出せずに埋設されていることだけが先の実施形態との相違点である。
【0043】
このセクター2を製造する方法を以下に例示する。
【0044】
図13に例示するように、一端にアンカー部6bを突設したブレード6がゴム型13に埋設され、アンカー部6bのみがゴム型13の表面に突出している。ゴム型13はマスター型の表面形状を転写して形成されたものである。
【0045】
アンカー部6bは、ブレード6を石膏鋳型11の表面11a上に載置する際に、所望の位置に固定させるために設けられたものであり、後工程においてブレード6の本体部分から除去する。そのため、アンカー部6bは、ブレード6の本体部分(アンカー部6b以外の部分)とは、くびれた状態で連結していることが好ましい。この実施形態では、アンカー部6bを三角形状にして、その頂点でブレード6の本体部分と連結した仕様になっている。
【0046】
ブレード6の表面は、予め被覆層9によって被覆しておくとよい。図面では被覆層9を斜線で示している。また、ブレード6(本体部分)には、貫通孔6cおよび切欠き部6dが設けられている。貫通孔6cの周囲部分は被覆層9で被覆せずにブレード6の素地を露出させたままの状態にすることが好ましい。
【0047】
図13に例示するように、このゴム型13の表面に石膏Pを流し込んで、ゴム型13の表面形状を転写した石膏鋳型11を製造する。石膏鋳型11の溝11bは、モールド1の溝成形突起5に相当する部分である。このように製造した石膏鋳型11には、アンカー部6bのみが埋設される。ブレード6の本体部分は埋設されずに載置された状態、即ち、ブレード6の本体部分は、石膏鋳型11の表面11aから突出して露出した状態になる。
【0048】
次いで、この石膏鋳型11の表面に溶融金属Mを流し込んでモールド1を鋳造する。その際、図14に例示するように、このブレード6に対して、被覆層9に接触させ、かつ、直立させて易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材10を取り付ける。その際、排気孔形成部材10を、石膏鋳型11の表面11aに突設したブレード6の本体部分に対して、被覆層9に接触させて取り付ける。先の実施形態のように、ブレード6の切欠き部6dと排気孔形成部材10の下端部の切欠き部10aどうしを嵌合させ、切欠き部6d、10aを介して排気孔形成部材10を直立させることにより、排気孔形成部材10をブレード6にしっかりと取り付けできる。
【0049】
この状態の石膏鋳型11の表面11aに溶融金属Mを流し込み、溶融金属Mを固化させることにより石膏鋳型11の表面11aの形状を転写したセクター2が鋳造される。鋳造されたセクター2には、ブレード6のアンカー部6bのみが突出して、本体部分は、セクター2の表面上に突出せずに埋設される。ブレード6の本体部分は、被覆層9で被覆されたままセクター2に鋳込まれて埋設された状態になる。
【0050】
次いで、図15に例示するように、鋳造したセクター2の表面から突出しているアンカー部6bを除去する。アンカー部6bは直接手を使用した手作業で、或いは、切断装置や研削装置等の工具を使用して除去する。アンカー部6bを除去することにより、ブレード6の上端はセクター2の表面と同じレベルになる。
【0051】
また、セクター2に鋳込まれた状態の被覆層9および排気孔形成部材10を、例えば、噴射ノズル14から噴射した高圧水流を吹き付けることによって除去する。これにより、セクター2には、排気機構を構成するスリット6および排気孔8が形成される。
【0052】
上記のとおり、溶融金属Mを石膏鋳型11の表面11aに流し込んで固化させる鋳造工程と、アンカー部6b、被覆層9および排気孔形成部材10の除去工程とにより、セクター2の表面に開口するスリット7およびセクター2の背面側に延びる排気孔8を簡便に形成することができる。
【0053】
しかも、この実施形態では、ブレード6の一端に設けたアンカー部6bによって、ブレード6を石膏鋳型11の表面11a上の所望の位置に載置して固定できる。これに伴って、スリット7をセクター2の表面の所望の位置に形成できる。
【0054】
例えば、ブレード6の一部を石膏鋳型11に単純に埋設し、ブレード6を石膏鋳型11の表面11aから突設した状態にして、溶融金属Mを流し込んでセクター2を鋳造すると、セクター2の表面には、ブレード6の一部が突出する。そのため、このセクター2を用いてタイヤを加硫すると、ブレード6の突出した部分によってタイヤの表面には意図しない凹部が形成されてしまう。そこで、加硫したタイヤに意図しない凹部を形成しないようにするためには、ブレード6を石膏鋳型11に埋設することなく、石膏鋳型11の表面11aに載置する必要がある。しかしながら、石膏鋳型11の表面11aに載置するだけではブレード6を所望の位置で固定することができない。
【0055】
このような問題を、この実施形態本ではブレード6の一端に、後工程で除去するアンカー部6bを設けることによって解決している。
【符号の説明】
【0056】
1 モールド
2 セクター
3 バックブロック
4 タイヤ成形面
5 溝成形突起
6 ブレード
6a 根元部分
6b アンカー部
6c 貫通孔
6d 切欠き部
7 スリット
8 排気孔
9 被覆層
10 排気孔形成部材
10a 切欠き部
11 石膏鋳型
11a 表面
11b 溝
12 型枠
13 ゴム型
14 噴射ノズル
M 溶融金属
P 石膏
【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面形状を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、前記石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、前記ブレードに対して前記被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、前記ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および前記排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、前記被覆層を除去することにより前記ブレードの周囲にスリットを形成し、前記排気孔形成部材を除去することにより前記スリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成することを特徴とするタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記ブレードおよび排気孔形成部材の少なくとも一方に切欠き部を設け、この切欠き部を介して、ブレードに対して排気孔形成部材を直立させて取り付ける請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記ブレードに貫通孔を設け、この貫通孔の周囲部分は前記被覆層で被覆せずにブレードの素地を露出させたままの状態にして、前記溶融金属を流し込む請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記被覆層の厚さを0.02mm〜0.10mmにする請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項5】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端まで溶融金属に埋没させ、この排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、このモールドの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させる請求項1〜4のいずれに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項6】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端部を溶融金属の表面から露出させる請求項1〜4のいずれに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項7】
タイヤ成形面にブレードが埋設され、溶融金属を固化させることにより製造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記ブレードの周囲に形成されたスリットと、このスリットとモールドの外部とを連通させるモールド背面側に延びる排気孔とを有し、前記スリットが、前記溶融金属に鋳込まれた前記ブレードを被覆していた易崩壊性耐火材料からなる被覆層を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであり、前記排気孔が、前記溶融金属に鋳込まれた易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであることを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【請求項1】
石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込み、この溶融金属を固化させることにより石膏鋳型の表面形状を転写したモールドを製造するタイヤ加硫用モールドの製造方法において、前記石膏鋳型の表面に突設されたブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分を、易崩壊性耐火材料からなる被覆層で被覆した状態にするとともに、易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、前記ブレードに対して前記被覆層に接触させ、かつ、直立させて取り付け、この状態の石膏鋳型の表面に溶融金属を流し込んで、石膏鋳型の表面の形状を転写するとともに、前記ブレードの石膏鋳型の表面から突出している部分および前記排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、前記被覆層を除去することにより前記ブレードの周囲にスリットを形成し、前記排気孔形成部材を除去することにより前記スリットと連通してモールド背面側に延びる排気孔を形成することを特徴とするタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項2】
前記ブレードおよび排気孔形成部材の少なくとも一方に切欠き部を設け、この切欠き部を介して、ブレードに対して排気孔形成部材を直立させて取り付ける請求項1に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項3】
前記ブレードに貫通孔を設け、この貫通孔の周囲部分は前記被覆層で被覆せずにブレードの素地を露出させたままの状態にして、前記溶融金属を流し込む請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項4】
前記被覆層の厚さを0.02mm〜0.10mmにする請求項1または2に記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項5】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端まで溶融金属に埋没させ、この排気孔形成部材を鋳込んだモールドを鋳造した後、このモールドの背面側を切断することにより、鋳込んだ排気孔形成部材をモールド外部に露出させる請求項1〜4のいずれに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項6】
前記溶融金属を石膏鋳型の表面に流し込んだ際、前記排気孔形成部材の上端部を溶融金属の表面から露出させる請求項1〜4のいずれに記載のタイヤ加硫用モールドの製造方法。
【請求項7】
タイヤ成形面にブレードが埋設され、溶融金属を固化させることにより製造されたタイヤ加硫用モールドにおいて、前記ブレードの周囲に形成されたスリットと、このスリットとモールドの外部とを連通させるモールド背面側に延びる排気孔とを有し、前記スリットが、前記溶融金属に鋳込まれた前記ブレードを被覆していた易崩壊性耐火材料からなる被覆層を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであり、前記排気孔が、前記溶融金属に鋳込まれた易崩壊性耐火材料からなる棒状の排気孔形成部材を、モールド鋳造後に除去することにより形成されたものであることを特徴とするタイヤ加硫用モールド。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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【図8】
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【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−218423(P2012−218423A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−90157(P2011−90157)
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】
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