説明

タイヤ情報送信装置

【課題】ホイールに対する取付けの緩みを抑制できる構造を有するタイヤ情報送信装置を提供する。
【解決手段】タイヤ情報送信装置10は、タイヤの走行回転によりタイヤの半径方向外側に作用する遠心力を利用して、当該タイヤ情報送信装置10をホイールリムに固定しているネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させる。センサユニット34のハウジング34aの内部に収納される基板44と電池46をネジ部32bの回転中心軸Mから離間した位置に配置することでセンサユニット34の重心Gを回転中心軸Mから離間させて遠心力によりセンサユニット34を回転させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ情報送信装置、特にホイールに対してタイヤ情報送信装置を固定する構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のタイヤの状態が、推奨状態より低圧であったり高温であった場合、タイヤ本来の性能が発揮できないばかりか、そのような状態で長期間使用するとタイヤの信頼性低下に繋がる虞がある。そのため、タイヤの空気圧や温度、その他のタイヤ状態を示すタイヤ情報を監視する技術が種々提案されている。たとえば、タイヤ内部にタイヤの空気圧を測定する圧力センサを配置して、その測定値を無線で車両側に送信するタイヤ情報送信装置がある。このようなタイヤ情報送信装置の圧力センサや送信器は、ホイールに装着されたタイヤの内部に組み付けられる。そして、組み付け作業の容易性を考慮してタイヤ内部に空気の出し入れを行うときに使用するタイヤバルブと一体化する場合がある。タイヤバルブは、ホイールのリム部分に形成された取付孔に挿入され、一端をホイールとタイヤが形成するタイヤ気室(圧力空間)に露出させ、他端をホイールの表面に露出させている。圧力センサや送信器をタイヤ気室に露出したタイヤバルブの一端に連結することにより、ホイールの取付構造を従来と変更することなく、圧力センサや送信器をホイールに組付固定することができる(たとえば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−44726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示されるようなタイヤバルブとセンサや送信部が一体化された装置の場合、ホイールリムに形成された取付孔にゴム製のグロメットが装着される。このグロメットを介してタイヤバルブをホイールリムにワッシャやナットにて固定している。しかし、ゴム材で構成されるグロメットは、経年劣化により弾性力が低下する。グロメットの弾性力が低下すると、当該グロメットの実質的な厚みが薄くなり、ホイールリムとの間に隙間ができる。その結果、ナットが緩んだときと同じ状態になって、ナットによる締付けトルクを一定に維持できなくなる場合がある。また、走行時の振動などによりナットの緩みが生じる場合がある。これらの場合、ホイールに対するタイヤ情報送信装置の取り付けが緩み、タイヤ内空気圧の漏れが生じる虞がある。
【0004】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ホイールに対する取付けの緩みを抑制できる構造を有するタイヤ情報送信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のタイヤ情報送信装置は、タイヤの内部の気体の出し入れを行うためのバルブ体と、前記バルブ体と連結されると共に、前記タイヤの状態情報を取得して、取得した状態情報の少なくとも一部を外部に送信するセンサユニットと、前記バルブ体または前記センサユニットのいずれか一方に形成されたネジ部と螺合して、前記バルブ体及び前記センサユニットを共にホイールに固定する螺合部材と、を含み、前記センサユニットは、前記タイヤの走行回転により発生する遠心力を受けて、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転力を発生するように、前記ネジ部の回転中心軸から離間した位置に重心を有することを特徴とする。
【0006】
タイヤが回転する場合、タイヤの表面及び内部で質量を有するものは全て遠心力の影響を受ける。一方、センサユニットは、タイヤの状態情報を取得するためのセンサやセンサで取得した状態情報を外部に送信する送信器などを含む基板や、センサや送信器を駆動するためのバッテリなどが含まれている。したがって、ネジ部の回転中心軸から離間した位置に重心が形成されるように、センサユニットを形成するハウジングにおいて、センサや送信器、基板、バッテリなどを配置する。つまり、センサユニットを構成するたとえばセンサ、送信器、基板、バッテリなど錘として利用し、その錘に遠心力を作用させて、ネジ部の回転力を発生させる。したがって、たとえばネジ部が右ネジの場合、ネジ部の中心軸より左側にセンサユニットの重心があれば、センサユニットが遠心力を受けることにより、ネジ部を締め込み方向に回転させることができる。センサユニットの重心により生じる回転トルクはタイヤの回転時に常に発生する。したがって、ネジ部に緩みが生じた場合、ネジ部の回転動作が発生して、ネジ部を常に最適な締付けトルクで締め込まれている状態にすることができる。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本発明のある態様のタイヤ情報送信装置は、タイヤの内部の気体の出し入れを行うためのバルブ体と、前記バルブ体と連結されると共に、前記タイヤの状態情報を取得して、取得した状態情報の少なくとも一部を外部に送信するセンサユニットと、前記バルブ体または前記センサユニットのいずれか一方に形成されたネジ部と螺合して、前記バルブ体及び前記センサユニットを共にホイールに固定する螺合部材と、前記タイヤの走行回転により発生する遠心力を受けて、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転力を発生するように、前記ネジ部の回転中心軸から離間した位置に重心を持たせる回転発生部と、を含むことを特徴とする。
【0008】
たとえば、ネジ部が右ネジの場合、ネジ部の中心軸より左側に回転発生部の重心があれば、この回転発生部が遠心力を受けることにより、ネジ部を締め込み方向に回転させることができる。回転発生部は、たとえば、バルブ体またはセンサユニットの少なくともいずれか一方に接続することが可能で、たとえば棒状部材の一端をバルブ体またはセンサユニットに接続し、他端側に質量の大きなたとえば錘を接続することで構成できる。回転発生部により生じる回転トルクはタイヤの回転時に常に発生する。したがって、ネジ部に緩みが生じた場合、ネジ部の回転動作が発生して、ネジ部を常に最適な締付けトルクで締め込まれている状態にすることができる。
【0009】
また、上記態様において、前記遠心力により回転力が付与された場合、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転トルクのみを当該ネジ部に伝達する一方向トルク伝達機構を含んでもよい。タイヤの回転が停止して遠心力が消失した場合、ネジ部に回転力を与えていた回転発生部やセンサユニットが、ネジ部を螺合部材の締め込み方向とは逆に回転させる方向に回転してしまう場合がある。そこで、回転発生部やセンサユニットにより発生した回転トルクが、ネジ部を螺合部材に対する締め込み方向に回転させる場合のみ伝達されるようにする。言い換えれば、回転発生部やセンサユニットで発生した逆方向の回転トルクはネジ部に伝達されず、ネジ部の緩みを招く虞がなくなる。その結果、遠心力消失時によるネジ部と螺合部材の緩みを防止する。
【0010】
また、上記態様において、前記一方向トルク伝達機構は、前記ネジ部が前記螺合部材の締め込み方向と逆方向に回転することを禁止する逆転禁止機構を有してもよい。逆転禁止機構は、たとえばラチェット機構で構成することができる。この態様によれば、ネジ部と螺合部材との緩み具合に応じて、遠心力による締め込み動作が行われる度に増し締めが行われると共に、最適な締付けトルク状態で回転状態のロックが行われる。その結果、最適な締付けトルク状態を維持することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、取付けの緩みを抑制できる構造を有するタイヤ情報送信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0013】
本実施形態のタイヤ情報送信装置は、タイヤの走行回転によりタイヤの半径方向外側に作用する遠心力を利用して、当該タイヤ情報送信装置をホイールリムに固定しているネジ部を螺合部材に対する締め込み方向に回転させる。遠心力はネジ部材の回転中心軸から離間した位置に重心を有する回転発生部、またはタイヤ情報送信装置の基本構成に含まれるセンサユニットに作用して、ネジ部に対する回転力を発生する。
【0014】
図1は、本実施形態に係るタイヤ情報送信装置10を有する車輪12を装着した車両14の概念構成図である。車輪12はそれぞれタイヤおよびホイールを有する。タイヤ情報送信装置10は、車輪12(タイヤ)の各種状態情報を取得するセンサを含むことができる。たとえば、タイヤ内の空気圧情報や温度情報、タイヤに対する衝撃力情報や路面抵抗情報などを取得することができる。また、取得したタイヤの状態情報の全て、または必要な情報のみを選択して一部を車体16側に配置された受信器18に無線送信する送信器を含む。この場合、タイヤ情報送信装置10は、取得した状態情報を適宜処理して、その結果を送信してもよい。なお、タイヤ情報送信装置10に含まれるセンサの種類は、適宜選択可能であり、使用目的に応じて変更することができる。
【0015】
車体16には、タイヤ情報送信装置10から送信されたタイヤの状態情報に基づいて、タイヤの監視を行うタイヤ監視システム本体20が搭載されている。タイヤ監視システム本体20は、タイヤ情報送信装置10から送信される状態情報を受信する受信器18と、受信した状態情報に基づいて、タイヤの状態判定を行う電子制御ユニット(以下、「ECU」という)22と、ECU22による判定結果を運転者などユーザに通知する表示装置24を含む。本実施形態の場合、タイヤ情報送信装置10が送信する状態情報には、車輪12ごとにIDが付されている。また、ECU22はそのIDを識別するために参照IDを保持している。したがって、ECU22は、取得したタイヤの状態情報がどの車輪12から送信されてきたものか判断することが可能で、個別に車輪12の監視、たとえばタイヤ空気圧の管理ができる。
【0016】
図2は、本実施形態のタイヤ情報送信装置10を装着した車輪12(タイヤ26)の断面図の一部である。図2のタイヤ26は、一例としていわゆるランフラットタイヤを示している。ランフラットタイヤは、空気圧が低下した場合、たとえば空気圧がゼロの状態でも、タイヤの内部構造によりタイヤの変形を拘束して、たとえば時速90km/hで80kmの走行ができるようなタイヤである。ランフラットタイヤの代表的な構造には、サイドウォール補強型と中子型があるが、図2は、サイドウォール部分に補強ゴム28を配置したサイドウォール補強型のランフラットタイヤである。なお、本実施形態のタイヤ情報送信装置10は、ランフラットタイヤ以外の一般的なタイヤを装着した車輪12にも適用可能であり、以下に示す本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0017】
本実施形態のタイヤ情報送信装置10は、タイヤ26のタイヤ気室30の気体の出し入れを行うためのバルブ体32と、タイヤ26の状態情報を取得して、その状態情報の少なくとも一部を外部に送信するセンサユニット34が一体化されている。車輪12は、ホイール36およびタイヤ26を有する。ホイール36の外周部には円筒状に形成されたホイールリム36aが設けられる。このホイールリム36aの外周上にタイヤ26が組み付けられる。タイヤ26内部とホイールリム36aの外周によって囲われる内部空間にタイヤ気室30が形成される。バルブ体32は、ホイールリム36aに形成された取付孔36bにナット38などの螺合部材で固定されている。バルブ体32を取付孔36bに取り付ける場合、タイヤ気室30の気密性を確保する目的で、フランジ40aを有する筒状のグロメット40を取付孔36bに挿入している。グロメット40はゴム材等で形成された弾性体であり、取付時に圧縮変形させられることにより取付部分の気密性を確保できるようになっている。バルブ体32は、軸方向に貫通する空気供給孔32aを有する円筒形状の部品で、その外周部にはネジ部32bが形成されている。このネジ部32bには、ナット38が螺合するようになっている。バルブ体32は、ナット38が締め込まれることによりワッシャ42とグロメット40のフランジ40aがホイールリム36aを挟持して、当該バルブ体32をホイールリム36aに固定する。なお、本実施形態において、センサユニット34はバルブ体32の一端に連結固定されている。図2の場合、空気供給孔32aはセンサユニット34の内部を貫通してタイヤ気室30に開放されている。
【0018】
図3は、センサユニット34の内部構造を説明する概略図である。センサユニット34は、ハウジング34aの内部に基板44及び電池46を含む。基板44は、タイヤ26の状態情報であるタイヤ気室30内の空気圧を測定する圧力センサ(不図示)からの状態情報を取得するセンサ回路を備える。また、タイヤ気室30内やトレッド部やサイドウォール部の温度を測定する温度センサ(不図示)からの状態情報を取得するセンサ回路を備える。さらに、センサで取得した状態情報を車体16側の受信器18に無線送信する送信器を備える。なお、ハウジング34aには、前述したようにバルブ体32の空気供給孔32aが貫通していて、タイヤ気室30内部へ空気の出し入れを可能にしている。
【0019】
ところで、前述したように、タイヤ情報送信装置10のバルブ体32はタイヤ気室30の気密性を維持するためにゴム製のグロメット40を装着している。しかし、このグロメット40は、ゴム製であるが故、経年劣化を避けられない。ゴムの劣化が進むと弾力性が低下する。グロメット40の弾性力が低下すると、当該グロメット40の実質的な厚みが薄くなり、ホイールリム36aとの間に隙間が生じてしまう。つまり、ナット38による実質的な締付け力が低下して、タイヤ気室30の気密を維持できなくなる。また、センサユニット34を連結しているバルブ体32の固定ができなくなり、バルブ体32やセンサユニット34の破損を招いてしまう場合もある。つまり、グロメット40が経年劣化すると、ナット38自体が振動などで緩んだ場合と同様な不具合を生じて、タイヤ情報送信装置10の固定に関するトルク管理が十分にできない場合が生じる。
【0020】
そこで、本実施形態のタイヤ情報送信装置10は、グロメット40の経年劣化やナット38自体の緩みによりバルブ体32の取付固定の緩みが生じる場合に、タイヤ情報送信装置10が自ら螺合の締め込み動作を行い、最適な締め込みトルク状態に維持するような構造を有している。
【0021】
タイヤ26は、走行などにより回転するとタイヤ26の半径方向外側に向かう遠心力が働く。すなわち、バルブ体32に連結されているセンサユニット34にも遠心力が働く。そこで、本実施形態では、この遠心力を利用して、タイヤ情報送信装置10の螺合の締め込み動作を行う。つまり、遠心力によりセンサユニット34を回転させることにより、センサユニット34と連結されたバルブ体32のネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させるようにしている。そのため、センサユニット34の重心は、ネジ部32bの回転中心軸Mから離間した位置に設定されている。本実施形態において、ハウジング34a内において、基板44および電池46はハウジング34aの質量より重い重量部品である。したがって、ハウジング34a内において、基板44や電池46を回転中心軸Mから離間した位置に配置することにより、ハウジング34aの重心Gの位置を容易に移動させることができる。回転中心軸Mから重心Gを離間させることにより重心Gに作用した遠心力により回転中心軸Mに対して回転モーメントが働き、センサユニット34が回転中心軸Mを中心に回転するようになる。なお、本実施形態の場合、図2に示すように、ホイール36の形状とバルブ体32の取付位置の関係で、バルブ体32に対してセンサユニット34が角度αを有して接続されている。その結果、センサユニット34に作用した遠心力F0に対し、回転中心軸Mに垂直な遠心力成分F1がセンサユニット34を回転させる。そして、センサユニット34が接続されたバルブ体32のネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させる。本実施形態の場合、ナット38とホイールリム36aとの間には、ワッシャ42が配置され摩擦抵抗が存在するためネジ部32bの緩みが初期の段階では、ナット38が摩擦抵抗により静止する。そのため、ネジ部32bが回転することによりネジ部32bとナット38の締め込み方向の螺合が進行する。
【0022】
図4は、センサユニット34が遠心力を受けた場合の回転動作を説明する説明図である。なお、図4の場合、説明を簡略化するために、XY座標系の中心にバルブ体32の回転中心軸Mを配置して、遠心力はY軸正方向に作用するものとする。また、バルブ体32の回転中心軸Mに対してセンサユニット34が直角(図2の角度αなし)で固定されている場合を示している。この場合、センサユニット34は、図2における遠心力F0が作用し回転することになる。また、本実施形態の場合、ネジ部32bは、時計回り方向(右ネジ方向)に回転した場合にナット38に締め込まれるものとする。つまり、遠心力F0によりセンサユニット34が時計回り方向Aに回転すればよい。ところで、上述したような構成で、遠心力F0が図4のY軸正方向に作用する場合、センサユニット34は、XY座標系の第2象限または第3象限に位置する必要がある。もし、第1象限または第2象限にセンサユニット34が存在する場合、Y軸正方向の遠心力F0が作用した場合、センサユニット34は反時計方向、つまり、ネジ部32bが緩む方向に回転してしまう。なお、ネジ部32bが左ネジの場合、センサユニット34の存在する位置は上述の場合と逆になり第1象限、第2象限になる必要がある。
【0023】
センサユニット34に効率的に遠心力F0を作用させて回転させるためには、センサユニット34は第2象限に位置することが望ましい。センサユニット34が初期段階(グロメット40が劣化していない段階)で第3象限に位置することを許容する場合、センサユニット34の回転による締付けトルクの調整回転量は最大180°になる。また、センサユニット34が初期段階で第2象限に位置することを許容する場合、センサユニット34の回転による締付けトルクの調整回転量は最大90°になる。ただし、グロメット40の経年劣化によるネジ部32bの緩みは僅かであるので、調整量は90°程度でも十分である。
【0024】
このように、タイヤ26が走行回転するときに発生する遠心力により、センサユニット34を回転させて、ネジ部32bをナット38に対して締め込む方向に回転させることができる。その結果、グロメット40の経年劣化などが原因でネジ部32bが実質的に緩んでしまう場合でも、タイヤ26の走行の度に締付けトルクを与えることが可能になり、タイヤ情報送信装置10のホイールリム36aに対する固定を隙間のない最適な状態に維持することができる。つまり、グロメット40の状態に拘わらず、タイヤ26のタイヤ気室30の気密性を維持することができる。また、車両14の走行中に振動などが原因で、ナット38が緩んでしまうことがまれにある。このような場合でも、走行時の遠心力によりセンサユニット34が回転してネジ部32bを回転させて、ナット38に締め込むことができる。その結果、上述と同様にタイヤ情報送信装置10のホイールリム36aに対する固定を隙間のない最適な状態に維持することができる。つまり、タイヤ26のタイヤ気室30の気密性を維持することができる。
【0025】
図5(a)、図5(b)は、本実施形態のタイヤ情報送信装置10をホイールリム36aにナット38で固定するときに用いるワッシャ42の一例を示している。図5(b)は、図5(a)のC−C断面でする。通常、ワッシャ42は、ナット38の緩み防止のために装着されるが、グロメット40が経年劣化して弾性が低下した場合、外部力、たとえば走行時の振動などによって、ワッシャ42が回転して、ナット38の緩みを招く場合がある。そこで、本実施形態のワッシャ42は、グロメット40に経年劣化等が生じても回転しないように、図5(a)、図5(b)に示すように、係止突起42aを有している。また、図5(c)に示すように、ホイールリム36aには、係止突起42aと係合する凹部36cが形成されている。ナット38の使用に先立ち図5(d)に示すように、係止突起42aと凹部36cを係合させることによりワッシャ42の回転、つまりナット38の振動等の外力による緩み回転を防止できる。なお、図5(c)の場合、ホイールリム36aにワッシャ42が収まる収納凹部36dを形成した例を示しているが、収納凹部36dの形成は任意であり、ホイールリム36aの表面に凹部36cのみを形成してもよい。また、図5(a)〜図5(d)では、ワッシャ42側に凸形状の係止突起42aを設けた例を示したが、ワッシャ42側に凹部を設け、ホイールリム36a側に凸部を設けてもよい。この場合も上述の例と同様な効果を得ることができる。
【0026】
ところで、図2に示すタイヤ情報送信装置10の構成の場合、遠心力がなくなるとネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させる回転トルクも消失する。図4で説明したように、タイヤ情報送信装置10は、遠心力によりセンサユニット34が回転して、ナット38がワッシャ42を介してホイールリム36aを押圧する結果、強く締結されているので遠心力が消失したあとにセンサユニット34が逆方向に回転して螺合を緩める可能性は低い。しかし、図4に示すように、センサユニット34が当初の配置姿勢から立ち上がった不安定な姿勢となっているので、重力によりセンサユニット34が螺合を緩める方向に回転してしまう可能性がある。そこで、図6の例では、遠心力により回転力が付与された場合、ネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させる回転トルクのみをネジ部32bに伝達する一方向トルク伝達機構を設けている。一方向トルク伝達機構としては、たとえば、逆転禁止機構を有するラチェット機構48を用いることができる。たとえば、センサユニット34が遠心力により締め込み方向に回転した場合、ラチェット機構48のラック歯車と爪部が係合し、センサユニット34の回転をネジ部32b側に伝達する。一方、遠心力が消失して、さらに、重力などによりセンサユニット34が締め込み方向とは逆方向に回転しようとすると、ラック歯車と爪部の係合が外れ空回りする。その結果、ネジ部32bとナット38の緩みを生じさせることなく、センサユニット34が当初の姿勢、つまり、グロメット40の経年劣化がないときの姿勢に戻る。そして、センサユニット34に再び遠心力が作用するとラック歯車と爪部の係合によりセンサユニット34の回転がネジ部32b側に伝達され、ネジ部32bとナット38との増し締めが行われる。
【0027】
タイヤ情報送信装置10に一方向トルク伝達機構がない場合、図4で説明したように、センサユニット34の回転範囲は、図4において第2象限及び第3象限に限られ、最大でも180°であった。前述したようにグロメット40の経年劣化に対応するための増し締めは、180°も回転すれば十分である。しかし、ネジ部32bのネジピッチが細かい場合やグロメット40の破損が生じた場合など回転量が不足する場合が生じる。また、タイヤ情報送信装置10を配置するホイールリム36aの形状によっては、センサユニット34とホイールリム36aまたはその他の部品が干渉して十分な回転角度を確保できない場合がある。
【0028】
一方、図6のように、タイヤ情報送信装置10に一方向トルク伝達機構を設け、遠心力が消失するたびにセンサユニット34を当初の姿勢に戻すようにすれば、遠心力が付与される度にセンサユニット34が小角度ずつ回転し、少量の増し締めを繰り返し行う。つまり、1回の回転量は少なくても、その累積で十分な締め増し角度を得ることができる。その結果、180°以上の締め増しも可能となる。この場合、締め増し動作は、車両の走行と停止の繰り返しによって実行されるので、増し締めはスムーズに実施される。なお、走行時の速度の増減によっても遠心力の大きさに変化が生じ、センサユニット34の締め込み方向への回転と戻り回転が生じるので増し締め動作が可能となる。
【0029】
図3の構成の場合、ハウジング34aにおける基板44と電池46の配置位置を回転中心軸Mから離間させることにより、センサユニット34の重心Gを回転中心軸Mから移動させた。図7は、他の構成によりセンサユニット34の重心の位置を変化させている。図7の例の場合、基板44及び電池46は、回転中心軸Mの近傍(たとえば、バルブ体32の直下)に配置されている。そして、タイヤ26の走行回転により発生する遠心力を受けて、ネジ部32bをナット38に対する締め込み方向に回転させる回転力を発生するように、ネジ部32bの回転中心軸Mから離間した位置に重心Gを形成する回転発生部としてのウエイト50を配置している。このウエイト50は、たとえば接続バー52でセンサユニット34のハウジング34aと接続することができる。この場合、遠心力を受けたときの締め込みトルクは、ウエイト50の質量を調整することによってもできるし、接続バー52の長さを変化させて重心Gの位置を変化させることによっても可能である。その結果、タイヤ種類や車種ごとに、ハウジング34aの形状や基板44、電池46の配置形態を設計し直すことなく、車輪12や車両14の特性に応じて締め増しのトルクを設定することができる。なお、図3の例において、ハウジング34a内部に錘の配置スペースを設けてもよい。この場合、図3の構成においても重心Gの位置の変更が可能になりタイヤ種類や車種ごとの特性に対応することができる。
【0030】
なお、本実施形態において、バルブ体32に形成されたネジ部32bにセンサユニット34を接続した例を示した。つまり、遠心力により回転するセンサユニット34によりバルブ体32のネジ部32bを回転させて、ナット38と螺合する構成を示したが、遠心力により回転させるネジ部はセンサユニット34側に設けられていてもよい。この場合、センサユニット34に形成されたネジ部がタイヤ気室30から取付孔36bを介して外側に向かい突出して、その先にナット38及びバルブ体が配置される。この構成においても上述した本実施形態と同様な効果を得ることができる。
【0031】
本発明は、上述の各実施形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。各図に示す構成は、一例を説明するためのもので、同様な機能を達成できる構成であれば、適宜変更可能であり、同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置を有する車輪を装着した車両の概念構成図である。
【図2】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置を装着した車輪(タイヤ)の断面図の一部である。
【図3】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置のセンサユニットの内部構造を説明する概略図である。
【図4】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置のセンサユニットが遠心力を受けた場合の回転動作を説明する説明図である。
【図5】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置をホイールリムにナットで固定するときに用いるワッシャの一例を示す説明図である。
【図6】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置に一方向トルク伝達機構を適用した場合の構成概念図である。
【図7】本実施形態に係るタイヤ情報送信装置の別の構成を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0033】
10 タイヤ情報送信装置、 12 車輪、 14 車両、 16 車体、 18 受信器、 20 タイヤ監視システム本体、 22 ECU、 24 表示装置、 26 タイヤ、 30 タイヤ気室、 32 バルブ体、 32b ネジ部、 34 センサユニット、 34a ハウジング、 36 ホイール、 36a ホイールリム、 38 ナット、 40 グロメット、 42 ワッシャ、 44 基板、 46 電池、 48 ラチェット機構、 50 ウエイト、 52 接続バー、 M 回転中心軸。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤの内部の気体の出し入れを行うためのバルブ体と、
前記バルブ体と連結されると共に、前記タイヤの状態情報を取得して、取得した状態情報の少なくとも一部を外部に送信するセンサユニットと、
前記バルブ体または前記センサユニットのいずれか一方に形成されたネジ部と螺合して、前記バルブ体及び前記センサユニットを共にホイールに固定する螺合部材と、
を含み、
前記センサユニットは、前記タイヤの走行回転により発生する遠心力を受けて、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転力を発生するように、前記ネジ部の回転中心軸から離間した位置に重心を有することを特徴とするタイヤ情報送信装置。
【請求項2】
タイヤの内部の気体の出し入れを行うためのバルブ体と、
前記バルブ体と連結されると共に、前記タイヤの状態情報を取得して、取得した状態情報の少なくとも一部を外部に送信するセンサユニットと、
前記バルブ体または前記センサユニットのいずれか一方に形成されたネジ部と螺合して、前記バルブ体及び前記センサユニットを共にホイールに固定する螺合部材と、
前記タイヤの走行回転により発生する遠心力を受けて、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転力を発生するように、前記ネジ部の回転中心軸から離間した位置に重心を持たせる回転発生部と、
を含むことを特徴とするタイヤ情報送信装置。
【請求項3】
前記遠心力により回転力が付与された場合、前記ネジ部を前記螺合部材に対する締め込み方向に回転させる回転トルクのみを当該ネジ部に伝達する一方向トルク伝達機構を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載のタイヤ情報送信装置。
【請求項4】
前記一方向トルク伝達機構は、前記ネジ部が前記螺合部材の締め込み方向と逆方向に回転することを禁止する逆転禁止機構を有することを特徴する請求項3記載のタイヤ情報送信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−143344(P2008−143344A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332470(P2006−332470)
【出願日】平成18年12月8日(2006.12.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000204033)太平洋工業株式会社 (143)
【Fターム(参考)】