説明

タイヤ補強材としてのスチールコードの製造方法

【課題】タイヤの仕様に対応したスチールコードを低コストで製造する製造方法の提供。
【解決手段】複数本の素線1を一対のチャック3a、3bとチャック3a、3bのほぼ中央部に配設された第3のチャック3cとで把持し、チャック3cを回転して複数本の素線1にねじり加工を施してスチールコード7を形成してから、チャック3cを逆回転してねじりの残留応力を取り去り、次に引き取りローラ4でスチールコード7をチャック3a、3b間外に引き出し、チャックにより把持されていた箇所で切断し、この工程を繰り返すことによりタイヤ補強材としての短尺のスチールコード10を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラジアルタイヤの補強材としてのスチールコードの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ラジアルタイヤは、長尺(数百メートル乃至数万メートル)のスチールコードを平行状に数百本配列し、これを同時に繰り出しながら使用するタイヤの仕様に基づく間隔に並べ平面に引きそろえた状態で両面より薄いシート状ゴム体をサンドイッチ状に貼り合わせるカレンダー加工により、長尺(数百メートルから数万メートル)のカレンダーシートを構成し、このようにして構成されたカレンダーシートを、タイヤに貼り合わせる幅とバイアス角で裁断して、短冊体を形成し、それらを貼り合わせてタイヤ原型をつくり、これを金型に入れて高温、高圧で加硫して製造される。
【0003】
従来の方式では、使用されるスチールコードの一度の使用量、すなわちスプールの巻量が大きい方がカレンダー加工の稼働時間が長く、効率が良いとされてきた。
また、スチールコードの加工においても、最終の撚り合わせの工程は製品長さが長い方が加工効率が良く、長尺製品が生産できる工夫をしてきた。すなわち、材料のスプール容量を大きくし、製品スプールを大きくする方向で必然的に撚線機の回転部分を大きくしてきた。
【0004】
撚線機として、現在使用されているのは、大別して筒型回転で1回転で1度撚りのチューブラタイプのものと、1回転で2度撚りのバンチャータイプのものとがある。
いずれの撚線機も有効エネルギー消費率が10%以下であり極めて浪費が大きい。これは重量物を高速回転させる為の機械損失と高速回転体の空気抵抗による損失の為であると考えられる。
【0005】
近年、自動車が成熟するにともなって自動車用タイヤも成熟し、それに伴ってタイヤに対する要求品質も多様化し、機能的に多様化した要求を満たすためタイヤの種類も増加してきている。
従来のような規格大量生産方式でこれらの要求に対応するには、コストなどの面で無理があり、省スペースで一気通貫的に加工できる新製法も併用する必要が生じてきた。
【0006】
タイヤの生産方式では、上記目的に沿い新製法が試験的に稼働する段階に来ているが、それに供するコードの生産形態の提供が要望されている。
さらに、今後環境改善時代に先に述べたすこぶるエネルギー効率の悪い方法を継続することなく、資源の最小化、エネルギーの最小化を狙った新しいスチールコードの加工技術の開拓も要望されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の2つの要望に対処しようとするもので、スチールコードの新生産方式の開発により、タイヤの生産方式を少ロット化して無駄なスペース、無駄な輸送を排除するばかりか、スチールコードの撚り線加工に無駄なエネルギーを必要としない撚り線加工方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、タイヤ補強材としてのスチールコードの製造方法において、張力を掛けられながら引き出された複数本の素線又は複数本の素線とストランドコードあるいは複数本のストランドコードを、一対のチャックと同一対のチャックのほぼ中央部に配設された第3のチャックとで把持し、上記第3のチャックを回転することにより上記複数本の素線又は複数本の素線とストランドコードあるいはストランドコードにねじり加工(撚り線加工)を施してスチールコードを形成してから、ねじりの残留応力を取り去り、次に引き取りローラで上記スチールコードを上記一対のチャック間外に引き出し、チャックによって把持されていた箇所(無撚り部)で切断し、この工程を繰り返すことによりタイヤ補強材としてのスチールコードを製造することを特徴とする。
【0009】
また、上記ねじり加工による長さの減少分(撚り減り分)を、上記一対のチャックを構成するチャックのいずれか一方のチャックあるいは両方のチャックを、同一対のチャック間の距離が小さくなる方向に移動させて補填するようにしてスチールコードを製造することを特徴とする。
【0010】
また、上記の製造方法により製造されたスチールコードを、スチールコード製造工程に連続するゴムシート(一対のシート状ゴム体間にスチールコードを挟み込んだシート)製造工程に、たとえばS撚りスチールコードとZ撚りスチールコードとに区分して別々に送って、タイヤ構成材としてのゴムシートを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明のスチールコードの製造方法は、従来の大量生産型の場合と異なり、簡単な撚り線加工機による撚り線加工で、無撚り部を境界にしてS撚り部とZ撚り部とが交互に繰り返す形状のスチールコードを製造し、これを無撚り部で切断して、タイヤ補強材としてのスチールコードを製造するものである。このように、本発明のスチールコードの製造方法によれば、必要な場所で必要量のスチールコードを製造することが可能となるばかりか、簡単な撚り線加工機による撚り線加工であるので、設備費用の低減と撚り線加工のためのエネルギー消費量を極端に低減することができる。
【0012】
また、一対のチャックの間隔を調整することにより、さらに第3のチャックの回転方向や回転数を調節することにより、タイヤの仕様に対応したスチールコードの製造に簡単に対処することができるので、多品種、少量生産化に低コストで対処することが可能となる。
【0013】
さらに、上記の製造方法により製造されたスチールコードを、スチールコード製造工程に連続するゴムシート製造工程に送って、タイヤ構成材としてのゴムシートを製造するようにしたので、タイヤ構成材としてのゴムシートの製造装置の少スペース化が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下本発明の製造方法をその実施に適した装置の1例により説明する。
図1は本発明のスチールコードの製造方法を実施する装置を例示した概略図である。
【0015】
図1において、符号1は素線を示しており、複数本の素線1が張力を負荷されながらリール10から引き出され、分離板2で各々の素線1は並びを決められ相互の素線の並びが入れ代わらないようにして、送り出しを兼ねた引き出しローラ4によって、一定長さ引き出されて停止する。ここで、一定長さとは、後述のチャック3aとチャック3bとの間隔に相当する長さのことである。
上記複数本の素線1は、複数本の素線とストランドコードの組み合わせでもよいし、複数本のストランドコードでもよい。
【0016】
一定長さ引き出されて停止した複数本の素線1(素線束1a)は、一対のチャック3a、3bと、同一対のチャック3a、3bのほぼ中央部に配設された第3のチャック3cとで複数本の素線1が自由に回転できない強さで把持される。
チャック3aとチャック3cとの間隔(および、チャック3bとチャック3cとの間隔)は、撚り線終了後におけるスチールコードの撚り減りを考慮した長さで当該スチールコードが使用されるタイヤに埋設された補強層のバイアス角度を考慮した一端部から他端部までのスチールコードの長さと同じ長さである。
【0017】
図1の例では、下流側のチャック3bは後述の撚り線工程における撚り減りを補填するために、図1中左右方向に移動可能に基台8に取り付けられている。符号6は把持解除時の復帰用バネを示す。なお、上流側のチャック3aを移動可能としてもよく、さらに両チャック3a、3bを移動可能としてもよいが、いずれの場合でも移動可能なチャックには把持解除時の復帰用バネ6が設けられている。
【0018】
一対のチャック3a、3bと第3のチャック3cとで素線束1aを3ヵ所で自由に回転できない強さで把持した後、チャック3cを回転させる。チャック3cを回転させることにより素線束1aはねじられ、3ヵ所のチャック間の素線束1aはS方向とZ方向とに撚られたスチールコードとなる。つまり第3のチャック3cを挟んで左側は「S撚り」に、右側は「Z撚り」に撚られたスチールコードが得られる。第3のチャック3cの回転方向を反対に設定するとき、左右の撚りをこれと反対の撚りにすることが可能なことはいうまでもない。
【0019】
スチールコードに必要な仕様に基づいた回転をした後、一旦第3のチャック3cの回転を停止し、次いでねじりの残留応力を取り去るために第3のチャック3cを逆回転する。
次にチャック3a、3bと第3のチャック3cの把持を解除し、引き出しローラ4の駆動でスチールコード7を上記一対のチャック間外に引き出す。これによってチャック3a、3b間には次の素線束1aが送り込まれる。チャック3a、3bと第3のチャック3cの把持を解除すると、移動していたチャック3bは復帰用バネ6の復元力により元の位置にもどる。
【0020】
上記コードの製造方法において、ねじりの残留応力を取り去る手段は、上記第3のチャックをねじり加工後に開放できる機構にしてコードの戻り力を利用して残留ねじれを取り去るようにしてもよい。
【0021】
引き出されたスチールコード7は第3のチャック3cで把持されていた箇所を境界にしてS撚り部とZ撚り部とからなっている。そして停止した状態で、チャックによって把持されていた箇所で切断される。
切断は、チャック3aとチャック3c間の距離分引き出されて切断装置5によって、第3のチャック3cで把持されていた箇所を切断し、次にチャック3aとチャック3c間の距離分を再度引き出してチャック3aで把持されていた箇所を切断装置5で切断するようにするか、一対のチャック3a、3b間の距離に相当する長さを引き出して、2箇所に設けた切断装置で切断するようにしてもよい。
この工程を繰り返すことにより、所定長さのS撚りスチールコードとZ撚りスチールコードとを順次製造することができる。
【0022】
このようにして製造された所定長さのS撚りスチールコードおよびZ撚りスチールコードは、タイヤ構成材としてのゴムシートを製造するために、撚り線工程に連続するゴムシート製造工程に送られる。
ゴムシート製造工程には、S撚りスチールコードとZ撚りスチールコードとを区分して別々に、送るようにしてもよい。
また、ゴムシート製造工程と撚り線工程とを切り離し、撚り線工程で撚られて切断されたスチールコードを一度収集して、これをゴムシート製造工程に投入するようにしてもよい。
【0023】
以上は、素材として複数本の素線を使用した例であるが、素材としてはこの外に複数本の素線とコードを使用した場合、あるいは複数本のストランドコードを使用した場合でも同様のタイヤ補強材としてのスチールコードを製造することができることは、いうまでもない。
【0024】
このように、この実施形態の方法によれば、簡単な撚り線加工機による撚り線加工で、無撚り部を境界にしてS撚り部とZ撚り部とからなるスチールコードを製造することができ、これを無撚り部(チャックで把持されていた箇所)で切断することにより、タイヤ補強材としての撚り線を必要な場所で必要量製造することができる。
また、一対のチャックの間隔を調整することにより、さらに第3のチャックの回転方向や回転数を調節することにより、タイヤの仕様に簡単に対応したスチールコードを製造することができるので、多品種、少量生産化に低コストで対処することが可能となる。
したがって、この実施形態の方法によれば、設備費用の低減と撚り線加工のためのエネルギー消費量を極端に低減しながらタイヤの多品種、少量生産化にコストアップすることなくタイヤ補強材としてのスチールコードを製造することが可能となる。
【0025】
さらに、上記の製造方法により製造されたスチールコード10を、撚り線工程に連続して設置したゴムシート工程に送って、タイヤ構成材としてのゴムシートを製造するようにすることにより、タイヤ構成材としてのゴムシートの製造装置の少スペース化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の撚り線の製造方法を実施する装置を例示した概略図である。
【符号の説明】
【0027】
1:素線
1a:素線束
2:分離板
3a、3b:一対のチャック
3c:第3のチャック
4:引き出しローラ
5:切断装置
6:復帰用バネ
7:スチールコード
8:基台
9:切断されたスチールコード
10:リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ補強材としてのスチールコードの製造方法において、
複数本の素線又は複数本の素線とストランドコードあるいは複数本のストランドコードを引き出し、
一対のチャックと同一対のチャックのほぼ中央部に配設された第3のチャックとでこれを把持し、
上記第3のチャックを回転することにより上記複数本の素線又は複数本の素線とストランドコードあるいは複数本のストランドコードにねじり加工を施してスチールコードを形成してから、ねじりの残留応力を取り去り、
次に引き取りローラで上記スチールコードを上記一対のチャック間外に引き出し、チャックによって把持されていた箇所で切断し、
この工程を繰り返すことによりタイヤ補強材としてのスチールコードを製造することを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項2】
上記ねじり加工による長さの減少分が、上記一対のチャックを構成するチャックのいずれか一方のチャック、あるいは両方のチャックが同一対のチャック間の距離が小さくなる方向に移動して補填されることを特徴とする請求項1記載のスチールコードの製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法により製造されたスチールコードが、タイヤ構成材としてのゴムシートを製造するために、スチールコード製造工程に連続するゴムシート製造工程に送られるものであることを特徴とするスチールコードの製造方法。
【請求項4】
上記スチールコードを、S撚りスチールコードとZ撚りスチールコードとに区分して別々に、上記複合体シート製造工程に送られるようにしたことを特徴とする請求項3に記載のスチールコードの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2007−204894(P2007−204894A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27900(P2006−27900)
【出願日】平成18年2月6日(2006.2.6)
【出願人】(394010506)
【Fターム(参考)】