説明

タイル壁及び該タイル壁に用いるタイルユニット

【課題】降雨によってもタイル間の目地溝内の汚れによってタイル壁の外観が損なわれるのを防止でき、メンテナンス費を削減すること。高度の熟練技術を必要とすることなく単純な張付作業を行うのみでタイル壁を短時間で構築すること。
【解決手段】建物の壁面1に複数枚のタイル2が張り付けられると共にタイル2間に目地溝4が形成され、少なくともタイル2間の横方向Aの目地溝4の開口4a側の幅Cが狭く且つ奥4b側の幅Dが広くなるように、縦方向Bに隣接する上段側のタイル2の下端面2a及び下段側のタイル2の上端面2bをそれぞれ傾斜させてなるタイル壁3である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイル壁及び該タイル壁に用いるタイルユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
マンション、一戸建て住宅等の建築物の外壁構造に十分な質感を与えるために、建築物の外壁構造には仕上げ材としてタイルが多く用いられている。この場合、タイル間に目地溝を形成したタイル壁が一般に知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
ところで、タイルの前面に付着した油等の汚れは、払拭により簡単に除去することができるが、目地溝内に入った汚れは払拭の程度では簡単に除去することができず、経年により汚れが目立つようになる。特に上記特許文献1にみられる従来例では、図5(a)に示すように、建物の壁面1に複数枚のタイル2が接着剤11により張り付けられると共にタイル2間に目地溝4が形成されたタイル壁において、目地溝4が断面コ字状に形成されているため、目地溝4内に堆積した埃や油などの汚れ12が外部から目立ちやすいものである。そのうえ降雨の際にタイル2を伝って下方向へ流れる雨水Wが目地溝4内に浸入しやすく且つ目地溝4の開口4a側から流出しやすいものであり、これによって図5(b)に示すように目地溝4内に雨水WのUターン流路10が形成され、目地溝4内に堆積した汚れ12がタイル2の前面2fに流出してしまい、結果、タイル2の前面2fを汚してしまうという問題がある。このため従来では、タイル壁3の前面2fを美しく維持するためには定期的に清掃する必要があり、多大なメンテナンス費を要するものであった。
【特許文献1】特開平11−350704号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記の従来の問題点に鑑みて発明したものであって、降雨によってもタイル間の目地溝内の汚れによって外観が損なわれるのを防止でき、メンテナンス費を削減できるタイル壁を提供することを課題とし、さらに高度の熟練技術を必要とすることなく単純な張付作業を行うのみでタイル壁を短時間で構築できるタイル壁に用いるタイルユニットを提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するために本発明のタイル壁は、建物の壁面1に複数枚のタイル2が張り付けられると共にタイル2間に目地溝4が形成され、少なくともタイル2間の横方向Aの目地溝4の開口4a側の幅Cが狭く且つ奥4b側の幅Dが広くなるように、縦方向Bに隣接する上段側のタイル2の下端面2a及び下段側のタイル2の上端面2bをそれぞれ傾斜させてなることを特徴としている。
【0006】
このような構成とすることで、横方向Aの目地溝4の開口4a側の幅Cを狭くすることで、横方向Aの目地溝4内に埃や油などの汚れ12が堆積しても外部からは目立ちにくい構造となる。また降雨の際に横方向Aの目地溝4内に雨水Wが浸入しても、その目地溝4の奥4b側の幅Dが広くなっているため、浸入した雨水Wは幅Cが狭い開口4a側に戻らず、奥4b側の広い溝部分を伝って排水されるようになる。従って、横方向Aの目地溝4内に堆積した汚れ12が雨水Wによってタイル2の前面2fに流出してしまうのを防止できるようになる。
【0007】
また上記横方向Aの目地溝4と直交する縦方向Bの目地溝5の開口5a側の幅C´が狭く且つ奥5b側の幅D´が広くなるように、横方向Aに隣接する一方のタイル2の一側面2c及び他方のタイル2の他側面2dをそれぞれ傾斜させてなるのが好ましく、この場合、縦方向Bの目地溝5の開口5a側の幅C´を狭くすることで、縦方向Bの目地溝5内に埃や油などの汚れ12が堆積しても外部からは目立ちにくい構造となる。また降雨の際に縦方向Bの目地溝5内に雨水Wが浸入したり、或いは横方向Aの目地溝4内に浸入した雨水Wが縦方向Bの目地溝5内に流れ込んだりした場合でも、目地溝5の奥5b側の幅D´が広くなっているため、雨水Wは幅C´が狭い開口5a側に戻らず、奥5b側の広い溝部分を伝って排水されるようになる。従って、各目地溝4,5内に堆積した汚れ12が雨水Wによってタイル2の前面2fに流出してしまうのを防止できるようになる。
【0008】
また本発明に係るタイル壁に用いるタイルユニットは、上記タイル2を所定枚数で1組としたタイル2群を、壁面1以外の場所で、目地溝4(5)に相当する隙間S1(S2)をあけて整列させた状態で各タイル2の前面2f間に跨るように台紙9を水溶性糊8にて仮接着することで、台紙9を利用してタイル2群を一体化してなることを特徴としている。
【0009】
このような構成とすることで、所定枚数のタイル2群を一体化したタイルユニット7を一度で壁面1に張り付けることができ、しかも各タイル2は台紙9によって目地溝4(5)に相当する隙間S1(S2)をあけて保持されているため、熟練者でなくてもタイル2が上下・左右にずれたり斜めになったりして張り付けられてしまうことがなく、タイル2の張付作業を効率良く且つ外観良く行なうことができる。
【0010】
また上記タイル2の表面を光触媒層6でコーティングするのが好ましく、この場合、施工後にタイル2の表面に付着した油などの有機物の汚れを光触媒を利用して自己浄化(セルフクリーニング)できるので、タイル2の表面をより長期に亘って美しく維持できるようになる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るタイル壁は、少なくともタイル間の横方向の目地溝の開口側の幅が狭く且つ奥側の幅が広くなるように、縦方向に隣接する上段側のタイルの下端面及び下段側のタイルの上端面をそれぞれ傾斜させたことにより、横方向の目地溝内に埃や油などの汚れが堆積しても外部からは目立ちにくくなると共に、降雨の際に横方向の目地溝内に浸入した雨水が目地溝内に堆積した汚れをその目地溝の開口から流出させてしまうことがなくなり、この結果、タイルの前面の外観を長期に亘って美しく維持することができ、メンテナンス費を削減できるものである。
【0012】
また本発明に係るタイル壁に用いるタイルユニットは、所定枚数のタイル群を一体化したタイルユニットを一度で壁面に張り付けることができ、しかも各タイルは台紙によって目地溝に相当する隙間をあけて保持されているため、高度の熟練技術を必要とすることなく単純な張付作業を行うのみでタイル壁を短時間で構築でき、施工工数及び施工期間を大幅に削減できるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基いて説明する。
【0014】
図1(a)は本発明の一実施形態に係るタイル壁3の側面断面図であり、(b)は横方向Aの目地溝4を拡大した側面断面図であり、(c)は横方向Aの目地溝4と縦方向Bの目地溝5とが交差している部分を雨水Wが流下する状態を説明する概略斜視図であり、図2は同上のタイル壁3を構築した家屋の概略図である。
【0015】
建物の壁面1には図1に示すように、複数枚のタイル2が張り付けられると共にタイル2間に目地溝4,5が形成されている。本実施形態ではタイル2は横方向Aに細長いタイル2を千鳥状に配列して、その裏面2eを建物の壁面1に接着して一体化したものである。なおタイル2の材質は、例えば無機質素材からなる陶磁器などで構成される。
【0016】
上記タイル2間には、横方向Aの目地溝4及び縦方向Bの目地溝5が形成されている。これら目地溝4,5の幅は略同一とされる。
【0017】
ここで、横方向Aの目地溝4は、図1(a)(b)に示すように、開口4a側の幅Cが狭く且つ奥4b側の幅Dが広くなるように、縦方向Bに隣接する上段側のタイル2の下端面2a及び下段側のタイル2の上端面2bをそれぞれ傾斜させてある。つまり、上段側のタイル2の下端面2aを水平方向に対して上り傾斜させてあり、下段側のタイル2の上端面2bを水平方向に対して下り傾斜させてある。さらに図1(c)に示すように、縦方向Bの目地溝5はその開口5a側の幅C´が狭く且つ奥5b側の幅D´が広くなるように、横方向Aに隣接する一方のタイル2の一側面2c及び他方のタイル2の他側面2dをそれぞれ傾斜させてある。本例では各目地溝4,5の断面形状はそれぞれアリ溝状に形成されている。これら目地溝4,5はタイル壁3の外観にくっきりとした超深堀り感を付与すると共にタイル2の厚みによる重厚感、高級感を付与する働きをする。
【0018】
しかして、上記横方向Aの目地溝4の開口4a側の幅Cを狭くし、また縦方向Bの目地溝5の開口5a側の幅C´を狭くしているので、各目地溝4,5内に埃や油などの汚れ12が堆積しても外部からは目立ちにくい構造となる。
【0019】
また、降雨の際に目地溝4,5内に雨水Wが浸入しても、従来のような目地溝4内に雨水WのUターン流路10(図4(b))が形成されるのを防止できる。つまり、図1(b)(c)に示すように、横方向Aの目地溝4内に雨水Wが浸入しても、雨水Wは横方向Aの目地溝4の奥4b側の広い溝部分に沿って横に流れ、更に縦方向Bの目地溝5の奥5b側の広い溝部分を伝って下方に流れ落ちるようになる。つまりタイル2の下端面2a及び上端面2b(側面2c,2dも同様)はそれぞれ傾斜して且つその傾斜によって端面2aの距離L及び端面2bの距離L(図1(b))がそれぞれ長くなっているため、雨水Wがタイル2の端面2a,2bを伝って開口4a側へと戻りにくくなっている。これにより、目地溝4,5内に堆積した汚れ12が雨水Wによって目地溝4の開口4a側(目地溝5の開口5a側)から流出してタイル2の前面2fを汚してしまうことを防止できるので、タイル壁3の外観を長期に亘って美しく維持できるようになり、メンテナンス費を削減できるものである。
【0020】
なお本実施形態では横方向Aと縦方向Bの目地溝4,5をそれぞれアリ溝状に形成したが、少なくとも横方向Aの目地溝4がアリ溝状に形成されていればよい。またタイル2の配列は千鳥状に限らず、桝目状に配列したものであってもよい。
【0021】
次に、上記タイル壁3の施工手順の一例を説明する。タイルユニット7を作成する工程とタイルユニット7を壁面1に張り付ける工程とに分かれる。タイルユニット7は、図3(a)(b)に示すように、タイル壁3に用いるタイル2の総数よりも少ない所定枚数のタイル2を1組としたタイル2群を備えたものである。このタイルユニット7は壁面1以外の水平な場所で作成する。先ず所定枚数のタイル2の前面2fをそれぞれ上向きにした状態で、これらタイル2を横方向Aの目地溝4に相当する隙間S1(開口4a側の幅Cと同一幅)をあけて整列させ、且つ、縦方向Bの目地溝5に相当する隙間S2(開口5a側の幅C´と同一幅)をあけて整列させる。この整列状態で、各タイル2の前面2f間に跨るように台紙9を例えば、でんぷん糊8(水溶性糊)を利用して仮接着する。これにより台紙9を利用してタイル2群が一体化されたタイルユニット7が得られる。本例では例えば10枚1組のタイル2群を千鳥状に配列して台紙9で一体に連結して1つのタイルユニット7が作成される。このタイルユニット7を複数個作成する。なお台紙9はタイル2の張付作業完了後に剥がされるものであり、例えば水溶性の紙が用いられる。
【0022】
一方、図3(c)に示すように、建物の壁面1上に接着剤11を全面に塗布する。接着剤11として例えば、ゴム弾性を有し緩衝作用のある樹脂製弾性接着材を用いる。その後、上記タイルユニット7の張付作業を行なう。なお、接着剤11を壁面1側ではなく、タイルユニット7の裏面2e側に塗布してもよいものである。
【0023】
タイルユニット7の張り付けは、タイルユニット7の台紙9が仮接着されている前面2fとは反対側の裏面2eを壁面1に押し付けて接着する。このときタイルユニット7は台紙9によって所定枚数のタイル2が連結されているため、作業者はタイルユニット7を壁面1に押し付けるだけで、所定枚数のタイル2を均一な接着力で正規の位置に接着することができる。
【0024】
すべてのタイルユニット7の張付作業が終了した時点で、図3(d)に示すように、タイルユニット7の前面2fを水洗いして台紙9を除去する。このとき水によってでんぷん糊8が溶かされ、台紙9が剥がれやすくなる。さらにタイル2の前面2fをブラシで擦ってきれいに仕上げることにより、タイル2の張付作業が終了する。
【0025】
ちなみに、壁面1にタイル2を張り付けるにあたって、タイル2を一枚ずつ張り付けたのでは時間がかかり煩雑であるが、本発明のように台紙9を利用して所定枚数のタイル2群を一体に張り付けることによって、熟練者でなくてもタイル2が上下・左右にずれたり斜めにずれて張り付けられてしまうことがなく、タイル2を正確に張り付けることができるので、張付作業を効率良く且つ外観良く行なうことができ、結果、高度の熟練技術を必要とすることなく単純な張付作業を行うのみでタイル壁3を容易に構築でき、施工工数及び施工期間を大幅に削減できる。またタイル2の張り付け後は台紙9を水洗いによって簡単に剥がすことができるので、作業効率がより一層向上する。
【0026】
なお、タイルユニット7の張り付け後に水洗いして台紙9を除去する際に、タイル2間の目地溝4,5内にでんぷん糊8が残ることがあり、これが原因で目地溝4,5内にカビが生えたり、白っぽくなったりすることがあるが,本発明では前述のように目地溝4,5の開口4a,5aがそれぞれ幅狭となっていて汚れ12が外部から目立ちにくいものであり、また降雨によって目地溝4,5内の汚れ12がタイル2の前面2fを汚すようなこともないため、目地溝4,5内の汚れ12は放置しても問題とはならない。
【0027】
また前記各実施形態において、図4に示すように、タイル2の表面の最外層に光触媒層6をコーティングするのが望ましい。光触媒層6はタイル2の表面全体にコーティングされてもよいが、少なくとも屋外に露出する前面2fにコーティングすればよい。この光触媒は、太陽光があたると強い酸化作用が発生して、油などの有機物の汚れを分解する機能を有するものであり、従って、施工後はタイル2の表面を自己浄化(セルフクリーニング)できる。なおタイル2の表面に付着した埃などの無機物の汚れは光触媒では分解されないが、このような無機物の汚れは雨水によって自然に流れ落ちるので、結果、タイル2の表面をより長期に亘って美しく維持できるようになる。
【0028】
本発明のタイル壁3及びこれに用いるタイルユニット7は、タイル2を壁面1に接着する湿式工法に限らず、例えばタイル2を釘打ち固定する乾式工法にも広く適用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】(a)は本発明の一実施形態を示すタイル壁の側面断面図であり、(b)は横方向の目地溝を拡大した側面断面図であり、(c)は横方向の目地溝と縦方向の目地溝とが交差している部分を雨水が流下する状態を説明する斜視図である。
【図2】同上のタイル壁を構築した家屋の概略図である。
【図3】同上のタイルユニットを示し、(a)はタイルユニットの平面図であり、(b)は(a)のE−E線断面図であり、(c)はタイルユニットを壁面に接着する工程を説明する側面断面図であり、(d)は壁面にタイルユニットを接着した後に台紙を剥がす状態の説明図である。
【図4】同上のタイルの表面を光触媒層でコーティングした状態を説明する断面図である。
【図5】(a)は従来のタイル壁の目地溝の説明図であり、(b)は目地溝内の汚れが雨水によってタイルの前面に排出される場合の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 壁面
2 タイル
2a 下端面
2b 上端面
2c 一側面
2d 他側面
3 タイル壁
4 横方向の目地溝
4a 開口
5 縦方向の目地溝
5a 開口
6 光触媒層
7 タイルユニット
8 水溶性糊
9 台紙
A 横方向
B 縦方向
C,C´ 開口側の幅
D,D´ 奥側の幅
S1,S2 目地溝に相当する隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の壁面に複数枚のタイルが張り付けられると共にタイル間に目地溝が形成され、少なくともタイル間の横方向の目地溝の開口側の幅が狭く且つ奥側の幅が広くなるように、縦方向に隣接する上段側のタイルの下端面及び下段側のタイルの上端面をそれぞれ傾斜させてなることを特徴とするタイル壁。
【請求項2】
上記横方向の目地溝と直交する縦方向の目地溝の開口側の幅が狭く且つ奥側の幅が広くなるように、横方向に隣接する一方のタイルの一側面及び他方のタイルの他側面をそれぞれ傾斜させてなることを特徴とする請求項1記載のタイル壁。
【請求項3】
上記タイルの表面を光触媒層でコーティングしたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載のタイル壁。
【請求項4】
請求項1又は請求項2記載のタイルを所定枚数で1組としたタイル群を、壁面以外の場所で、目地溝に相当する隙間をあけて整列させた状態で各タイルの前面間に跨るように台紙を水溶性糊にて仮接着することで、台紙を利用してタイル群を一体化してなることを特徴とするタイル壁に用いるタイルユニット。
【請求項5】
上記タイルの表面を光触媒層でコーティングしたことを特徴とする請求項4記載のタイル壁に用いるタイルユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−332568(P2007−332568A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162712(P2006−162712)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【出願人】(000004673)パナホーム株式会社 (319)
【Fターム(参考)】