タッチセンサ
【課題】大型化を伴わずにタッチセンサの感度を向上する。
【解決手段】周期的に変化する作動信号を出力する発振器2と、作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって静電容量が変化して出力信号の波形を変化させるアンテナ電極3と、出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部8から出力する比較器4と、比較器4の出力部8に接続された積分回路5と、積分回路5から出力された検出値に基づいてアンテナ電極3への人体の接近の有無を判定する判定手段2とを備えたタッチセンサ1において、比較器4のプルアップ電源として、比較器4の出力部8に抵抗R4を介して発振器2を接続する。
【解決手段】周期的に変化する作動信号を出力する発振器2と、作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって静電容量が変化して出力信号の波形を変化させるアンテナ電極3と、出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部8から出力する比較器4と、比較器4の出力部8に接続された積分回路5と、積分回路5から出力された検出値に基づいてアンテナ電極3への人体の接近の有無を判定する判定手段2とを備えたタッチセンサ1において、比較器4のプルアップ電源として、比較器4の出力部8に抵抗R4を介して発振器2を接続する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチセンサに関し、特に、車両のスマートエントリーシステムに好適に用いられるタッチセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、運転者が無線装置(電子キー)を携帯して車両に接近あるいは離間すると、ドアのロック又はアンロックが自動的に行われる、いわゆるスマートエントリーシステムを備えたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このスマートエントリーシステムにおいては、車両のドアハンドル装置内に、人がドアハンドルに接近したことを検出する静電容量式のタッチセンサを設け、人の接近が検出された場合に、ドアのロック又はアンロック処理を実行するように構成したものがある。
【0004】
このドアハンドル装置は、タッチセンサ、および、無線送信用のアンテナ等が収納可能なように中空状になっているが、そのスペースは、ドアハンドルのデザイン上、限られたものとなっている。タッチセンサの感度を上げるためには、タッチセンサの電極を大きくすることが考えられる。しかしながら、ドアハンドル内の限られた収納スペースでのタッチセンサの電極の大型化には限界があるため、その限界を超えてタッチセンサの感度を向上させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−295094号公報
【特許文献2】特開2007−150733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大型化を伴わずにタッチセンサの感度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する手段として、本発明のタッチセンサは、周期的に変化する作動信号を出力する発振器と、前記作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させるアンテナ電極と、前記出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部から出力する比較器と、前記比較器の出力部に接続された積分回路と、前記積分回路から出力された検出値に基づいて前記アンテナ電極への人体の接近の有無を判定する判定手段とを備えたタッチセンサにおいて、前記比較器のプルアップ電源として、前記比較器の出力部に抵抗を介して前記発振器を接続するようにした。
【0008】
本発明にかかるタッチセンサにおいては、比較器のプルアップ電源として発振器の作動信号を用いているため、比較器に入力される出力信号が高電位、すなわち比較器がオンであり、発振器の作動信号が低電位である状態において、比較器の出力部の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号に対応した検出信号の作動信号より遅延した残余部分を除去した信号を積分回路に入力することができる。つまり、比較器の出力部に作動信号を印加することは、作動信号と検出信号の論理積を取ることに相当する。これにより、人体接近状態における検出値と人体非接近状態における検出値との差を大きくすることができる。したがって、アンテナ電極の大型化による本体の大型化を伴わずに感度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較器のプルアップ電源として、比較器の出力部に抵抗を介して発振器を接続するようにしているので、アンテナ電極の大型化によるタッチセンサの大型化を伴わずにタッチセンサの感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかるタッチセンサの回路図。
【図2】比較例にかかるタッチセンサの回路図。
【図3】比較例にかかるタッチセンサの各信号と、本発明にかかるタッチセンサの各信号との比較を示す図。
【図4】タッチセンサの人体非接近状態および人体接近状態における出力信号と基準電圧の関係を示す図。
【図5】作動信号と検出信号の関係を示す図。
【図6】比較例にかかるタッチセンサの回路を示す図。
【図7】本発明のかかるタッチセンサの回路を示す図。
【図8a】人体がアンテナ電極に接近していない状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図8b】人体がアンテナ電極に接近した状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図8c】人体がアンテナ電極に接触した状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9a】人体がアンテナ電極に接近していない状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9b】人体がアンテナ電極に接近した状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9c】人体がアンテナ電極に接触した状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかるタッチセンサ1の回路図を示す。タッチセンサ1は、マイコン2、アンテナ電極3、比較器4、および積分回路5を備えている。
【0013】
マイコン2は、周期的にオンとオフが変化する方形波からなる作動信号を出力する発振器(図示せず)としての機能を備えている。また、マイコン2は、後述の判定手段(図示せず)を備えている。判定手段(図示せず)は、アンテナ電極3への人体の接近の有無を判定する。
【0014】
アンテナ電極3は、マイコン2と抵抗R3を介して接続されている。アンテナ電極3は、マイコン2から入力された作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有している。アンテナ電極3は、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させる。
【0015】
比較器4は、2つの入力部6,7、1つの出力部8、およびスイッチ部(図示せず)を備えている。入力部6は、アンテナ電極3と接続され、アンテナ電極3の出力信号が入力される。入力部7は、直流電源電圧Vcc(V)と接地部Gとの間に直列に接続された2つの抵抗R1,R2の両者を接続する接続点aと接続されている。出力部8は、積分回路5と接続されている。
【0016】
比較器4の出力部8は、抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されている。すなわち、比較器4の出力部8はマイコン2と接続され、マイコン2の方形波出力をプルアップ電源としている。
【0017】
比較器4は、アンテナ電極3の出力信号と予め設定した基準電圧の差に応じた検出信号を出力する。すなわち、比較器4は、アンテナ電極3からの出力信号と抵抗R1と抵抗R2との間の接続点aの電位(基準電圧)Vaとを比較して、アンテナ電極3からの出力信号の電位が低ければスイッチ部(図示せず)をオンして比較器4の出力部8をスイッチ部(図示せず)を介して接地することで出力部8の電圧を0Vとし、アンテナ電極3からの出力信号の電位が高ければスイッチ部(図示せず)をオフして比較器4の出力部8の接地を解除(オープン)することで、出力部8にはプルアップ電源であるマイコン2の方形波出力(作動信号)が抵抗R4を介して出力される。電位Vaは、アンテナ電極3の出力信号の最高電位と最低電位の間の電位となるように予め設定されている。
【0018】
積分回路5は、比較器4の出力部8から入力された検出信号を積分平滑する。積分回路5はマイコン2と接続されている。
【0019】
マイコン2は、作動信号を出力して1ミリ秒後の積分回路5の出力電圧eの値を検出値として取得するようになっている。マイコン2は、記憶手段(図示せず)を備えている。記憶手段(図示せず)には、予め閾値が記憶されている。マイコン2が取得した検出値は、マイコン2内部でディジタル変換された後、アンテナ電極3への人体の接近を判定する判定手段(図示せず)により演算処理され、その判定結果に応じてマイコン2の出力部9から車両の制御手段(図示せず)に信号が出力されるようになっている。
【0020】
図2は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路図を示す。本発明にかかるタッチセンサ1と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0021】
比較器4の出力部8は、抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されていない。比較器4の出力部8は、抵抗R4を介して直流電源と接続されている。
【0022】
次に、本発明にかかるタッチセンサ1の各信号について、比較例にかかるタッチセンサ11の各信号と比較して説明する。
【0023】
図3に、比較例にかかるタッチセンサ11において、マイコン2から出力された作動信号aを示す。x軸は時間軸(単位:マイクロ秒)であり、y軸は電圧軸(単位:ボルト)である。マイコン2は、周期的にオン電圧とオフ電圧を変化させて方形波の作動信号を形成する。
【0024】
マイコン2からアンテナ電極3に作動信号aが入力されると、作動信号aはアンテナ電極3の静電容量により歪まされる。そして、アンテナ電極3に入力された作動信号aは、方形波が歪んだ波形、すなわち立ち上がりおよび立ち下がりが遅れたのこぎり波に近い波形の出力信号bとなる。出力信号bは、アンテナ電極3から出力され、比較器4の入力部6に入力される。一方、比較器4の入力部7には、接続点aの電位(基準電圧c)Vaが常時入力されている。
【0025】
比較器4では、入力部6に入力されたアンテナ電極3からの出力信号bと、入力部7に入力された接続点aの電位Vaとの大小関係を比較する。
【0026】
アンテナ電極3からの出力信号bが接続点aの電位Vaより小さい場合(b<cである場合)、スイッチ部(図示せず)はオンになって比較器4がオフとなるように切り替える。すなわち、スイッチ部(図示せず)は出力部8を接地した状態にする。したがって、出力部8が0Vとなり、比較器4は、出力部8に検出信号dを出力しない。
【0027】
アンテナ電極3からの出力信号bが接続点aの電位Vaより大きい場合(b>cである場合)、スイッチ部(図示せず)はオフになって比較器4がオンとなるように切り替える。すなわち、スイッチ部(図示せず)は、出力部8の接地を解除した状態にする。これにより、比較器4の出力部8には、プルアップ電源である直流電源の電圧が抵抗R4を介して検出信号dとして出力される。図5に示すように、検出信号dもまた、オンとオフが変化する方形波である。そして、比較器4の検出信号dがオフからオンとなる時点T1は、出力信号bの立ち上がりの遅れによって出力信号bが基準電圧cを上回る時点も遅れるため、マイコン2の作動信号aがオフからオンとなる時点T0に対して遅れている。また、比較器4の検出信号dがオンからオフとなる時点T3は、出力信号bの立ち下がりの遅れによって出力信号bが基準電圧cを下回る時点も遅れるため、マイコン2の作動信号aがオンからオフとなる時点T2に対して遅れている。
【0028】
タッチセンサ11のアンテナ電極3に人体が接近すると、アンテナ電極3全体の静電容量(図6のCH)が増加するため、アンテナ電極3の出力信号b’は、図3および図4に示すように、人体非接近状態の出力信号bと比較して振幅が小さくなるとともに、立ち上がりおよび立ち下がりも遅れたのこぎり波となる。これにより、出力信号b’の基準電圧Va以上となる時間が短くなり(X1+X2>X1’+X2’)、比較器4の出力電圧のデューティ比(オンしている時間の割合)が低下する。
【0029】
比較例にかかるタッチセンサ11では、比較器4の出力電圧である検出信号(d,d’)の全てが積分回路5に入力される。そして、時間の増加に伴って積分回路5の出力電圧が上昇する。アンテナ電極3に人体が接近している場合、アンテナ電極3に人体が接近していない場合と比較して、比較器4の出力電圧のデューティ比が低下することにより、積分回路5の出力電圧上昇の傾きは小さくなる。つまり、アンテナ電極3に人体が接近している場合、アンテナ電極3に人体が接近していない場合と比較して、マイコン2が取得する検出値は小さくなる(e>e’)。
【0030】
マイコン2は検出値eを取得すると、記憶手段(図示せず)に予め記憶された閾値と比較する。検出値eが閾値より小さい場合、アンテナ電極3に人体が接近したと判断して、マイコン2の出力部9からの出力を切り替える。
【0031】
一方、本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4の出力部8が抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されている。すなわち、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号)を用いているため、比較器4がオンの場合に、常に高電位の検出信号が出力されるとは限らない。具体的には、積分回路5に入力される検出信号は、接続点bにおける電圧と、比較器4の状態に応じて次の(i)〜(iii)のように変化する。
【0032】
(i)比較器4がオフの状態では、出力部8が接地されるため、接続点bの電位に関係なく、出力部8が0Vとなり、検出信号は、積分回路に入力されない。
【0033】
(ii)比較器4がオンの状態で、接続点bの電位が高い場合、比較器4の出力部8の電位が高電位となり、この高電位の電圧が、検出信号として積分回路に入力される。
【0034】
(iii)比較器4がオンの状態で、接続点bが0Vの場合、比較器4の出力部8が0Vとなり、検出信号は、積分回路に入力されない。
【0035】
(i)〜(iii)をまとめると、比較器4がオンの状態で、接続点bの電位が高い場合、すなわち、マイコン2の方形波出力(作動信号)がオンの場合のみ、その作動信号の電圧が検出信号として積分回路5に入力され、接続点bの電位が0Vの場合、すなわち、マイコン2の方形波出力(作動信号)がオフの場合には、検出信号は積分回路5に入力されない。したがって、本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4の出力部8に作動信号を印加することにより、作動信号と論理積を取ることに相当する検出信号を積分回路5に入力することができる。
【0036】
具体的に見てみると、図3に示すように、本発明にかかるタッチセンサ1における作動信号A、出力信号B、接続点aの電位Va(基準電圧C)は、比較例のタッチセンサ11における作動信号a、出力信号b、接続点aの電位Va(基準電圧c)と同様である。
【0037】
作動信号A、出力信号Bのいずれにおいても、立ち上がりの開始時点は同じである。
【0038】
そして、上述したように、作動信号Aに対して出力信号Bの立ち上がりは遅れるので、オフからオンへの作動信号Aの切り替え時点から出力信号Bが基準電圧Cを上回るのに時間差を生じる。また、作動信号Aに対して出力信号Bの立ち下がりも遅れるので、オンからオフへの作動信号Aの切り替え時点から出力信号Bが基準電圧Cを下回るのに時間差を生じる。
【0039】
ここで、図4に示すように、本発明にかかるタッチセンサ1における作動信号A(接続点bの電位)と作動信号Aに対応する出力信号B(出力部8の電位)それぞれの1周期分の波形を、オフからオンへの作動信号Aの切り替え時点と異なる4つの時点で分割して考える。
【0040】
作動信号Aのオフからオンへの切り替え時点T0、出力信号Bの電圧が増加して基準電圧Cに達する時点をT1、作動信号Aのオンからオフへの切り替え時点T2、出力信号Bの電圧が減少して基準電圧Cに達する時点をT3、最初の切り替え時点T0に対して次の作動信号Aのオフからオンへの切り替え時点をT4とする。
【0041】
T=T0では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、図5に示すように、検出信号Dは、低電位となる。
【0042】
T0<T<T1では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0043】
T=T1では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0044】
T1<T<T2では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bも高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、高電位であるので、検出信号Dは、高電位となる。
【0045】
T=T2では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0046】
T2<T<T3では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。図5のハッチング部分の領域では、比較例にかかるタッチセンサ11の検出信号dが高電位であるのに対し、本発明にかかるタッチセンサ1の検出信号Dは低電位である。この領域以外では、比較器4と検出信号(d、D)のオンオフ状態は連動しているが、この領域に限っては比較器4がオンであるにもかかわらず、検出信号Dはオフとなっている。
【0047】
T=T3では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0048】
T3<T<T4では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0049】
本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号A)を用いているため、出力信号Bが高電位、すなわち比較器4がオンであり、マイコン2の方形波出力が低電位である状態(T2<T<T3)において、比較器4の出力部8の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号Aに対応した検出信号Dの作動信号Aより遅延した残余部分(図5のハッチング部分)を除去した信号、すなわち、作動信号Aと比較器4のオンオフとの論理積を取ることに相当する検出信号Dを積分回路5に入力することができる。なお、比較例にかかるタッチセンサ11では、比較器4のプルアップ電源として直流電源を用いているため、比較器4がオンの場合には常に比較器4の出力部8の電位は高電位となる。したがって、作動信号aに対応した検出信号dの作動信号aより遅延した残余部分を除去した信号を得ることはできない。
【0050】
本発明にかかるタッチセンサ1において、タッチセンサ11のアンテナ電極3に人体接近状態における前記除去した信号と、人体非接近状態における前記除去した信号とは除去時間の長さが異なる。すなわち、図3に示すように、人体接近状態における検出信号は、人体非接近状態における検出信号と比較して、より長時間にわたってその一部が消去されている。したがって、作動信号を出力して1ミリ秒後の積分回路5の出力電圧の値である検出値に対しては、人体非接近状態の検出値Eと人体接近状態の検出値E’との差を検出値eと検出値e’との差よりも大きくすることができる。
【0051】
次に、本発明にかかるタッチセンサ1の感度について説明する。
【0052】
本発明のかかるタッチセンサ1の回路では、作動信号(a,A)(方形波)を比較器4の出力に印加しているが、作動信号(a,A)のオン時の電圧値と比較例のプルアップ電源である直流電源の電圧値とが同じであれば、比較器4の出力部8の出力である検出信号Dの振幅および周期は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路のものと同一となる。したがって、各回路の感度の比較は、検出信号(d,D)の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)を比べることで行うことができる。
【0053】
図4に示すように、人体がアンテナ電極3に接近していない場合、T2−T1=X1,T3−T2=X2とし、人体がアンテナ電極3に接近した場合、T2−T1=X1’,T3−T2=X2’とすると、人体がアンテナ電極3に接近した場合にはアンテナ電極3の静電容量が大きくなり、非接近時に対して出力信号(b,B)の立ち上がり、立下り時間が遅れるため、X1>X1’,X2<X2’となる。
【0054】
比較例にかかるタッチセンサ11の検出信号(d,d’)の波形において、人体非接近状態の幅と人体接近状態の幅との差rは、(X1+X2)−(X1’+X2’)である。
【0055】
本発明のかかるタッチセンサ1の検出信号(D)の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)Rは、X1−X1’である。
【0056】
r−R={(X1+X2)−(X1’+X2’)}−(X1−X1’)=X2−X2’
X2−X2’<0であるので、r−R<0である。ゆえにr<Rとなり、本発明のかかるタッチセンサ1の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)の方が比較例にかかるタッチセンサ11の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)よりも大きい。つまり、本発明のかかるタッチセンサ1の感度の方が比較例にかかるタッチセンサ11より大きい。
【0057】
次に、パソコンによるシュミレーションの結果を示す。図6は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路であり、図7は、本発明にかかるタッチセンサ1の回路である。
【0058】
図6,図7において、V1,C2,U1,D1,CH,Vccは、以下の各構成と対応する。
V1:マイコン2
C2:アンテナ電極3
U1:比較器4
D1,C1:積分回路5
CH:人体の静電容量
Vcc:直流電源
【0059】
回路の各抵抗値は、R1=200k(Ω),R2=300k(Ω),R3=500k(Ω),R4=10k(Ω)である。回路の各コンデンサの容量は、C1=10000(pF),CH=0〜6(pF)である。
【0060】
方形波の設定条件は、方形波の下限電圧:0(V),方形波の上限電圧:3.3(V),方形波の開始時間:0(ms),方形波の立ち上がり時間:0.1(μs),方形波の立ち下がり時間:0.1(μs),方形波のオン時間:10(μs),方形波の周期:20(μs),方形波の周波数:50k(Hz)である。
【0061】
シュミレーション設定条件は、シュミレーション開始時間:0(ms),シュミレーション終了時間:0.5(ms),計算間隔:0.1(μs)である。
【0062】
図8aは、人体がアンテナ電極3に接近していない状態での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを0(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.248(V)となる。
【0063】
図8bは、人体がアンテナ電極3に接近した状態での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを3(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.213(V)となる。
【0064】
図8cは、人体がアンテナ電極3にさらに接近した状態(または接触した状態)での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを6(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.128(V)となる。
【0065】
図9aは、人体がアンテナ電極3に接近していない状態での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを0(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.949(V)となる。
【0066】
図9bは、人体がアンテナ電極3に接近した状態での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを3(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.575(V)となる。
【0067】
図9cは、人体がアンテナ電極3にさらに接近した状態(または接触した状態)での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを6(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.106(V)となる。
【0068】
以上のシュミレーション結果をまとめると、アンテナ電極3の静電容量CHが0(pF)から6(pF)へと容量変化した場合、比較例にかかるタッチセンサ11の出力電圧の変化が、0.12(V)であるのに対して、本発明にかかるタッチセンサ1の出力電圧の変化は、0.843(V)である。したがって、方形波出力をプルアップ電源とする本発明にかかるタッチセンサ1の出力電圧の変化の方が比較例にかかるタッチセンサ11の出力電圧の変化より大きい。これにより、本発明にかかるタッチセンサ1の方が比較例にかかるタッチセンサ11よりも前記接近状態における検出値と前記非接近状態における検出値との差を大きくできることが分かる。
【0069】
本発明によれば、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号A)を用いているため、比較器4に入力される出力信号Bが高電位、すなわち比較器4がオンであり、マイコン2の方形波出力が低電位である状態(T2<T<T3)において、比較器4の出力部8の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号Aに対応した検出信号Dの作動信号Aより遅延した残余部分を除去した信号を積分回路5に入力することができる。つまり、比較器4の出力部8に作動信号Aを印加することは、作動信号Aと比較器4のオンオフ(検出信号)との論理積を取ることに相当する。これにより、人体接近状態における検出値E’と人体非接近状態における検出値Eとの差を大きくすることができる。したがって、アンテナ電極3の大型化による本体の大型化を伴わずに感度を向上させることができる。
【0070】
また、タッチセンサ1の感度が上がることで、より微小な変化が検知可能となり、人体の接近を判定する閾値の設定可能幅が大きくなるため、ノイズの除去が簡単になる。さらに、アンテナ電極3の面積を小さくすることも可能となる。その結果、アンテナの設計の自由度が上がり、より幅広いデザインに対応可能となる。
【0071】
本発明は実施形態のものに限定されず、種々の変形が可能である。例えば、マイコン2に内蔵された発振器としての機能を使用する代わりに、タッチセンサ1が装着される装置本体の内部の発振器を使用してもよい。また、抵抗R4は、2個以上の直列に接続した抵抗からなっていてもよい。さらに、アンテナ電極3に入力する作動信号は、矩形波に限定されず、正弦波であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1,11 タッチセンサ
2 マイコン(発振器、判定手段)
3 アンテナ電極
4 比較器
5 積分回路
6,7 入力部
8 出力部
9 出力部
G 接地部
R4 抵抗
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチセンサに関し、特に、車両のスマートエントリーシステムに好適に用いられるタッチセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両において、運転者が無線装置(電子キー)を携帯して車両に接近あるいは離間すると、ドアのロック又はアンロックが自動的に行われる、いわゆるスマートエントリーシステムを備えたものが知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このスマートエントリーシステムにおいては、車両のドアハンドル装置内に、人がドアハンドルに接近したことを検出する静電容量式のタッチセンサを設け、人の接近が検出された場合に、ドアのロック又はアンロック処理を実行するように構成したものがある。
【0004】
このドアハンドル装置は、タッチセンサ、および、無線送信用のアンテナ等が収納可能なように中空状になっているが、そのスペースは、ドアハンドルのデザイン上、限られたものとなっている。タッチセンサの感度を上げるためには、タッチセンサの電極を大きくすることが考えられる。しかしながら、ドアハンドル内の限られた収納スペースでのタッチセンサの電極の大型化には限界があるため、その限界を超えてタッチセンサの感度を向上させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−295094号公報
【特許文献2】特開2007−150733号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、大型化を伴わずにタッチセンサの感度を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決する手段として、本発明のタッチセンサは、周期的に変化する作動信号を出力する発振器と、前記作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させるアンテナ電極と、前記出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部から出力する比較器と、前記比較器の出力部に接続された積分回路と、前記積分回路から出力された検出値に基づいて前記アンテナ電極への人体の接近の有無を判定する判定手段とを備えたタッチセンサにおいて、前記比較器のプルアップ電源として、前記比較器の出力部に抵抗を介して前記発振器を接続するようにした。
【0008】
本発明にかかるタッチセンサにおいては、比較器のプルアップ電源として発振器の作動信号を用いているため、比較器に入力される出力信号が高電位、すなわち比較器がオンであり、発振器の作動信号が低電位である状態において、比較器の出力部の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号に対応した検出信号の作動信号より遅延した残余部分を除去した信号を積分回路に入力することができる。つまり、比較器の出力部に作動信号を印加することは、作動信号と検出信号の論理積を取ることに相当する。これにより、人体接近状態における検出値と人体非接近状態における検出値との差を大きくすることができる。したがって、アンテナ電極の大型化による本体の大型化を伴わずに感度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、比較器のプルアップ電源として、比較器の出力部に抵抗を介して発振器を接続するようにしているので、アンテナ電極の大型化によるタッチセンサの大型化を伴わずにタッチセンサの感度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明にかかるタッチセンサの回路図。
【図2】比較例にかかるタッチセンサの回路図。
【図3】比較例にかかるタッチセンサの各信号と、本発明にかかるタッチセンサの各信号との比較を示す図。
【図4】タッチセンサの人体非接近状態および人体接近状態における出力信号と基準電圧の関係を示す図。
【図5】作動信号と検出信号の関係を示す図。
【図6】比較例にかかるタッチセンサの回路を示す図。
【図7】本発明のかかるタッチセンサの回路を示す図。
【図8a】人体がアンテナ電極に接近していない状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図8b】人体がアンテナ電極に接近した状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図8c】人体がアンテナ電極に接触した状態での比較例にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9a】人体がアンテナ電極に接近していない状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9b】人体がアンテナ電極に接近した状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【図9c】人体がアンテナ電極に接触した状態での本発明にかかるタッチセンサの回路のシュミレーション波形を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0012】
図1は、本発明にかかるタッチセンサ1の回路図を示す。タッチセンサ1は、マイコン2、アンテナ電極3、比較器4、および積分回路5を備えている。
【0013】
マイコン2は、周期的にオンとオフが変化する方形波からなる作動信号を出力する発振器(図示せず)としての機能を備えている。また、マイコン2は、後述の判定手段(図示せず)を備えている。判定手段(図示せず)は、アンテナ電極3への人体の接近の有無を判定する。
【0014】
アンテナ電極3は、マイコン2と抵抗R3を介して接続されている。アンテナ電極3は、マイコン2から入力された作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有している。アンテナ電極3は、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させる。
【0015】
比較器4は、2つの入力部6,7、1つの出力部8、およびスイッチ部(図示せず)を備えている。入力部6は、アンテナ電極3と接続され、アンテナ電極3の出力信号が入力される。入力部7は、直流電源電圧Vcc(V)と接地部Gとの間に直列に接続された2つの抵抗R1,R2の両者を接続する接続点aと接続されている。出力部8は、積分回路5と接続されている。
【0016】
比較器4の出力部8は、抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されている。すなわち、比較器4の出力部8はマイコン2と接続され、マイコン2の方形波出力をプルアップ電源としている。
【0017】
比較器4は、アンテナ電極3の出力信号と予め設定した基準電圧の差に応じた検出信号を出力する。すなわち、比較器4は、アンテナ電極3からの出力信号と抵抗R1と抵抗R2との間の接続点aの電位(基準電圧)Vaとを比較して、アンテナ電極3からの出力信号の電位が低ければスイッチ部(図示せず)をオンして比較器4の出力部8をスイッチ部(図示せず)を介して接地することで出力部8の電圧を0Vとし、アンテナ電極3からの出力信号の電位が高ければスイッチ部(図示せず)をオフして比較器4の出力部8の接地を解除(オープン)することで、出力部8にはプルアップ電源であるマイコン2の方形波出力(作動信号)が抵抗R4を介して出力される。電位Vaは、アンテナ電極3の出力信号の最高電位と最低電位の間の電位となるように予め設定されている。
【0018】
積分回路5は、比較器4の出力部8から入力された検出信号を積分平滑する。積分回路5はマイコン2と接続されている。
【0019】
マイコン2は、作動信号を出力して1ミリ秒後の積分回路5の出力電圧eの値を検出値として取得するようになっている。マイコン2は、記憶手段(図示せず)を備えている。記憶手段(図示せず)には、予め閾値が記憶されている。マイコン2が取得した検出値は、マイコン2内部でディジタル変換された後、アンテナ電極3への人体の接近を判定する判定手段(図示せず)により演算処理され、その判定結果に応じてマイコン2の出力部9から車両の制御手段(図示せず)に信号が出力されるようになっている。
【0020】
図2は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路図を示す。本発明にかかるタッチセンサ1と同じ構成要素には同じ符号を付して説明を省略する。
【0021】
比較器4の出力部8は、抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されていない。比較器4の出力部8は、抵抗R4を介して直流電源と接続されている。
【0022】
次に、本発明にかかるタッチセンサ1の各信号について、比較例にかかるタッチセンサ11の各信号と比較して説明する。
【0023】
図3に、比較例にかかるタッチセンサ11において、マイコン2から出力された作動信号aを示す。x軸は時間軸(単位:マイクロ秒)であり、y軸は電圧軸(単位:ボルト)である。マイコン2は、周期的にオン電圧とオフ電圧を変化させて方形波の作動信号を形成する。
【0024】
マイコン2からアンテナ電極3に作動信号aが入力されると、作動信号aはアンテナ電極3の静電容量により歪まされる。そして、アンテナ電極3に入力された作動信号aは、方形波が歪んだ波形、すなわち立ち上がりおよび立ち下がりが遅れたのこぎり波に近い波形の出力信号bとなる。出力信号bは、アンテナ電極3から出力され、比較器4の入力部6に入力される。一方、比較器4の入力部7には、接続点aの電位(基準電圧c)Vaが常時入力されている。
【0025】
比較器4では、入力部6に入力されたアンテナ電極3からの出力信号bと、入力部7に入力された接続点aの電位Vaとの大小関係を比較する。
【0026】
アンテナ電極3からの出力信号bが接続点aの電位Vaより小さい場合(b<cである場合)、スイッチ部(図示せず)はオンになって比較器4がオフとなるように切り替える。すなわち、スイッチ部(図示せず)は出力部8を接地した状態にする。したがって、出力部8が0Vとなり、比較器4は、出力部8に検出信号dを出力しない。
【0027】
アンテナ電極3からの出力信号bが接続点aの電位Vaより大きい場合(b>cである場合)、スイッチ部(図示せず)はオフになって比較器4がオンとなるように切り替える。すなわち、スイッチ部(図示せず)は、出力部8の接地を解除した状態にする。これにより、比較器4の出力部8には、プルアップ電源である直流電源の電圧が抵抗R4を介して検出信号dとして出力される。図5に示すように、検出信号dもまた、オンとオフが変化する方形波である。そして、比較器4の検出信号dがオフからオンとなる時点T1は、出力信号bの立ち上がりの遅れによって出力信号bが基準電圧cを上回る時点も遅れるため、マイコン2の作動信号aがオフからオンとなる時点T0に対して遅れている。また、比較器4の検出信号dがオンからオフとなる時点T3は、出力信号bの立ち下がりの遅れによって出力信号bが基準電圧cを下回る時点も遅れるため、マイコン2の作動信号aがオンからオフとなる時点T2に対して遅れている。
【0028】
タッチセンサ11のアンテナ電極3に人体が接近すると、アンテナ電極3全体の静電容量(図6のCH)が増加するため、アンテナ電極3の出力信号b’は、図3および図4に示すように、人体非接近状態の出力信号bと比較して振幅が小さくなるとともに、立ち上がりおよび立ち下がりも遅れたのこぎり波となる。これにより、出力信号b’の基準電圧Va以上となる時間が短くなり(X1+X2>X1’+X2’)、比較器4の出力電圧のデューティ比(オンしている時間の割合)が低下する。
【0029】
比較例にかかるタッチセンサ11では、比較器4の出力電圧である検出信号(d,d’)の全てが積分回路5に入力される。そして、時間の増加に伴って積分回路5の出力電圧が上昇する。アンテナ電極3に人体が接近している場合、アンテナ電極3に人体が接近していない場合と比較して、比較器4の出力電圧のデューティ比が低下することにより、積分回路5の出力電圧上昇の傾きは小さくなる。つまり、アンテナ電極3に人体が接近している場合、アンテナ電極3に人体が接近していない場合と比較して、マイコン2が取得する検出値は小さくなる(e>e’)。
【0030】
マイコン2は検出値eを取得すると、記憶手段(図示せず)に予め記憶された閾値と比較する。検出値eが閾値より小さい場合、アンテナ電極3に人体が接近したと判断して、マイコン2の出力部9からの出力を切り替える。
【0031】
一方、本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4の出力部8が抵抗R4を介してマイコン2と抵抗R3の間の接続点bと接続されている。すなわち、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号)を用いているため、比較器4がオンの場合に、常に高電位の検出信号が出力されるとは限らない。具体的には、積分回路5に入力される検出信号は、接続点bにおける電圧と、比較器4の状態に応じて次の(i)〜(iii)のように変化する。
【0032】
(i)比較器4がオフの状態では、出力部8が接地されるため、接続点bの電位に関係なく、出力部8が0Vとなり、検出信号は、積分回路に入力されない。
【0033】
(ii)比較器4がオンの状態で、接続点bの電位が高い場合、比較器4の出力部8の電位が高電位となり、この高電位の電圧が、検出信号として積分回路に入力される。
【0034】
(iii)比較器4がオンの状態で、接続点bが0Vの場合、比較器4の出力部8が0Vとなり、検出信号は、積分回路に入力されない。
【0035】
(i)〜(iii)をまとめると、比較器4がオンの状態で、接続点bの電位が高い場合、すなわち、マイコン2の方形波出力(作動信号)がオンの場合のみ、その作動信号の電圧が検出信号として積分回路5に入力され、接続点bの電位が0Vの場合、すなわち、マイコン2の方形波出力(作動信号)がオフの場合には、検出信号は積分回路5に入力されない。したがって、本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4の出力部8に作動信号を印加することにより、作動信号と論理積を取ることに相当する検出信号を積分回路5に入力することができる。
【0036】
具体的に見てみると、図3に示すように、本発明にかかるタッチセンサ1における作動信号A、出力信号B、接続点aの電位Va(基準電圧C)は、比較例のタッチセンサ11における作動信号a、出力信号b、接続点aの電位Va(基準電圧c)と同様である。
【0037】
作動信号A、出力信号Bのいずれにおいても、立ち上がりの開始時点は同じである。
【0038】
そして、上述したように、作動信号Aに対して出力信号Bの立ち上がりは遅れるので、オフからオンへの作動信号Aの切り替え時点から出力信号Bが基準電圧Cを上回るのに時間差を生じる。また、作動信号Aに対して出力信号Bの立ち下がりも遅れるので、オンからオフへの作動信号Aの切り替え時点から出力信号Bが基準電圧Cを下回るのに時間差を生じる。
【0039】
ここで、図4に示すように、本発明にかかるタッチセンサ1における作動信号A(接続点bの電位)と作動信号Aに対応する出力信号B(出力部8の電位)それぞれの1周期分の波形を、オフからオンへの作動信号Aの切り替え時点と異なる4つの時点で分割して考える。
【0040】
作動信号Aのオフからオンへの切り替え時点T0、出力信号Bの電圧が増加して基準電圧Cに達する時点をT1、作動信号Aのオンからオフへの切り替え時点T2、出力信号Bの電圧が減少して基準電圧Cに達する時点をT3、最初の切り替え時点T0に対して次の作動信号Aのオフからオンへの切り替え時点をT4とする。
【0041】
T=T0では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、図5に示すように、検出信号Dは、低電位となる。
【0042】
T0<T<T1では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0043】
T=T1では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0044】
T1<T<T2では、作動信号Aは高電位であり、出力信号Bも高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、高電位であるので、検出信号Dは、高電位となる。
【0045】
T=T2では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0046】
T2<T<T3では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは高電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bのうち少なくとも一方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。図5のハッチング部分の領域では、比較例にかかるタッチセンサ11の検出信号dが高電位であるのに対し、本発明にかかるタッチセンサ1の検出信号Dは低電位である。この領域以外では、比較器4と検出信号(d、D)のオンオフ状態は連動しているが、この領域に限っては比較器4がオンであるにもかかわらず、検出信号Dはオフとなっている。
【0047】
T=T3では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0048】
T3<T<T4では、作動信号Aは低電位であり、出力信号Bは低電位である。したがって、作動信号A、出力信号Bの両方が、低電位であるので、検出信号Dは、低電位となる。
【0049】
本発明にかかるタッチセンサ1では、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号A)を用いているため、出力信号Bが高電位、すなわち比較器4がオンであり、マイコン2の方形波出力が低電位である状態(T2<T<T3)において、比較器4の出力部8の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号Aに対応した検出信号Dの作動信号Aより遅延した残余部分(図5のハッチング部分)を除去した信号、すなわち、作動信号Aと比較器4のオンオフとの論理積を取ることに相当する検出信号Dを積分回路5に入力することができる。なお、比較例にかかるタッチセンサ11では、比較器4のプルアップ電源として直流電源を用いているため、比較器4がオンの場合には常に比較器4の出力部8の電位は高電位となる。したがって、作動信号aに対応した検出信号dの作動信号aより遅延した残余部分を除去した信号を得ることはできない。
【0050】
本発明にかかるタッチセンサ1において、タッチセンサ11のアンテナ電極3に人体接近状態における前記除去した信号と、人体非接近状態における前記除去した信号とは除去時間の長さが異なる。すなわち、図3に示すように、人体接近状態における検出信号は、人体非接近状態における検出信号と比較して、より長時間にわたってその一部が消去されている。したがって、作動信号を出力して1ミリ秒後の積分回路5の出力電圧の値である検出値に対しては、人体非接近状態の検出値Eと人体接近状態の検出値E’との差を検出値eと検出値e’との差よりも大きくすることができる。
【0051】
次に、本発明にかかるタッチセンサ1の感度について説明する。
【0052】
本発明のかかるタッチセンサ1の回路では、作動信号(a,A)(方形波)を比較器4の出力に印加しているが、作動信号(a,A)のオン時の電圧値と比較例のプルアップ電源である直流電源の電圧値とが同じであれば、比較器4の出力部8の出力である検出信号Dの振幅および周期は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路のものと同一となる。したがって、各回路の感度の比較は、検出信号(d,D)の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)を比べることで行うことができる。
【0053】
図4に示すように、人体がアンテナ電極3に接近していない場合、T2−T1=X1,T3−T2=X2とし、人体がアンテナ電極3に接近した場合、T2−T1=X1’,T3−T2=X2’とすると、人体がアンテナ電極3に接近した場合にはアンテナ電極3の静電容量が大きくなり、非接近時に対して出力信号(b,B)の立ち上がり、立下り時間が遅れるため、X1>X1’,X2<X2’となる。
【0054】
比較例にかかるタッチセンサ11の検出信号(d,d’)の波形において、人体非接近状態の幅と人体接近状態の幅との差rは、(X1+X2)−(X1’+X2’)である。
【0055】
本発明のかかるタッチセンサ1の検出信号(D)の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)Rは、X1−X1’である。
【0056】
r−R={(X1+X2)−(X1’+X2’)}−(X1−X1’)=X2−X2’
X2−X2’<0であるので、r−R<0である。ゆえにr<Rとなり、本発明のかかるタッチセンサ1の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)の方が比較例にかかるタッチセンサ11の波形の幅の差(人体非接近状態−人体接近状態)よりも大きい。つまり、本発明のかかるタッチセンサ1の感度の方が比較例にかかるタッチセンサ11より大きい。
【0057】
次に、パソコンによるシュミレーションの結果を示す。図6は、比較例にかかるタッチセンサ11の回路であり、図7は、本発明にかかるタッチセンサ1の回路である。
【0058】
図6,図7において、V1,C2,U1,D1,CH,Vccは、以下の各構成と対応する。
V1:マイコン2
C2:アンテナ電極3
U1:比較器4
D1,C1:積分回路5
CH:人体の静電容量
Vcc:直流電源
【0059】
回路の各抵抗値は、R1=200k(Ω),R2=300k(Ω),R3=500k(Ω),R4=10k(Ω)である。回路の各コンデンサの容量は、C1=10000(pF),CH=0〜6(pF)である。
【0060】
方形波の設定条件は、方形波の下限電圧:0(V),方形波の上限電圧:3.3(V),方形波の開始時間:0(ms),方形波の立ち上がり時間:0.1(μs),方形波の立ち下がり時間:0.1(μs),方形波のオン時間:10(μs),方形波の周期:20(μs),方形波の周波数:50k(Hz)である。
【0061】
シュミレーション設定条件は、シュミレーション開始時間:0(ms),シュミレーション終了時間:0.5(ms),計算間隔:0.1(μs)である。
【0062】
図8aは、人体がアンテナ電極3に接近していない状態での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを0(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.248(V)となる。
【0063】
図8bは、人体がアンテナ電極3に接近した状態での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを3(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.213(V)となる。
【0064】
図8cは、人体がアンテナ電極3にさらに接近した状態(または接触した状態)での比較例にかかるタッチセンサ11の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを6(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをVcc=3.3(V)とした場合、積分回路5の出力電圧(Vout2)は、2.128(V)となる。
【0065】
図9aは、人体がアンテナ電極3に接近していない状態での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを0(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.949(V)となる。
【0066】
図9bは、人体がアンテナ電極3に接近した状態での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを3(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.575(V)となる。
【0067】
図9cは、人体がアンテナ電極3にさらに接近した状態(または接触した状態)での本発明にかかるタッチセンサ1の回路のシュミレーション波形である。アンテナ電極3の静電容量CHを6(pF)、比較器4の出力(Vout1)に対するプルアップ電源VpuをV1=3.3(V)の方形波出力とした場合、積分回路5の出力電圧は、1.106(V)となる。
【0068】
以上のシュミレーション結果をまとめると、アンテナ電極3の静電容量CHが0(pF)から6(pF)へと容量変化した場合、比較例にかかるタッチセンサ11の出力電圧の変化が、0.12(V)であるのに対して、本発明にかかるタッチセンサ1の出力電圧の変化は、0.843(V)である。したがって、方形波出力をプルアップ電源とする本発明にかかるタッチセンサ1の出力電圧の変化の方が比較例にかかるタッチセンサ11の出力電圧の変化より大きい。これにより、本発明にかかるタッチセンサ1の方が比較例にかかるタッチセンサ11よりも前記接近状態における検出値と前記非接近状態における検出値との差を大きくできることが分かる。
【0069】
本発明によれば、比較器4のプルアップ電源としてマイコン2の方形波出力(作動信号A)を用いているため、比較器4に入力される出力信号Bが高電位、すなわち比較器4がオンであり、マイコン2の方形波出力が低電位である状態(T2<T<T3)において、比較器4の出力部8の電位を低電位とすることができる。したがって、作動信号Aに対応した検出信号Dの作動信号Aより遅延した残余部分を除去した信号を積分回路5に入力することができる。つまり、比較器4の出力部8に作動信号Aを印加することは、作動信号Aと比較器4のオンオフ(検出信号)との論理積を取ることに相当する。これにより、人体接近状態における検出値E’と人体非接近状態における検出値Eとの差を大きくすることができる。したがって、アンテナ電極3の大型化による本体の大型化を伴わずに感度を向上させることができる。
【0070】
また、タッチセンサ1の感度が上がることで、より微小な変化が検知可能となり、人体の接近を判定する閾値の設定可能幅が大きくなるため、ノイズの除去が簡単になる。さらに、アンテナ電極3の面積を小さくすることも可能となる。その結果、アンテナの設計の自由度が上がり、より幅広いデザインに対応可能となる。
【0071】
本発明は実施形態のものに限定されず、種々の変形が可能である。例えば、マイコン2に内蔵された発振器としての機能を使用する代わりに、タッチセンサ1が装着される装置本体の内部の発振器を使用してもよい。また、抵抗R4は、2個以上の直列に接続した抵抗からなっていてもよい。さらに、アンテナ電極3に入力する作動信号は、矩形波に限定されず、正弦波であってもよい。
【符号の説明】
【0072】
1,11 タッチセンサ
2 マイコン(発振器、判定手段)
3 アンテナ電極
4 比較器
5 積分回路
6,7 入力部
8 出力部
9 出力部
G 接地部
R4 抵抗
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期的に変化する作動信号を出力する発振器と、
前記作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させるアンテナ電極と、
前記出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部から出力する比較器と、
前記比較器の出力部に接続された積分回路と、
前記積分回路から出力された検出値に基づいて前記アンテナ電極への人体の接近の有無を判定する判定手段とを備えたタッチセンサにおいて、
前記比較器のプルアップ電源として、前記比較器の出力部に抵抗を介して前記発振器を接続したことを特徴とするタッチセンサ。
【請求項1】
周期的に変化する作動信号を出力する発振器と、
前記作動信号を歪ませて出力信号を形成する静電容量を有し、人体の接近によって前記静電容量が変化して前記出力信号の波形を変化させるアンテナ電極と、
前記出力信号と予め設定した基準電圧との差に応じた検出信号を出力部から出力する比較器と、
前記比較器の出力部に接続された積分回路と、
前記積分回路から出力された検出値に基づいて前記アンテナ電極への人体の接近の有無を判定する判定手段とを備えたタッチセンサにおいて、
前記比較器のプルアップ電源として、前記比較器の出力部に抵抗を介して前記発振器を接続したことを特徴とするタッチセンサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8a】
【図8b】
【図8c】
【図9a】
【図9b】
【図9c】
【公開番号】特開2012−119906(P2012−119906A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−267370(P2010−267370)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000138462)株式会社ユーシン (241)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(000138462)株式会社ユーシン (241)
【Fターム(参考)】
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