説明

タッチパネル部材、座標検出装置、積層部材および、積層部材の製造方法

【課題】部材強度を向上させつつも、薄膜化、軽量化が損なわれないタッチパネル部材あるいは積層部材等の提供、および、上記タッチパネル部材を用いる座標検出装置、上記タッチパネル部材を含む積層部材の製造方法を提供する。
【解決手段】タッチパネル部材6は、強化ガラス基板2上に、タッチパネル用電極層8,9と、シロキサン樹脂層3a,3bとが、積層して設けられ、上記強化ガラス基板が上記タッチパネル用電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板となるよう構成し、あるいは、積層部材を、強化ガラス基板上に電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、上記強化ガラス基板が上記電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板となるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タッチパネル部材、座標検出装置、積層部材および、積層部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タッチパネルは、表示装置と座標検出装置を組み合わせた、入力デバイスとして注目を集めており、携帯電話、携帯音楽再生装置などのポータブルデバイス、自動販売機、パーソナルコンピュータの画面など種々の技術分野において搭載機種が増加している。タッチパネルの方式は、その作動原理から抵抗膜方式、静電容量方式、光学方式、超音波表面弾性波方式、電磁誘導方式など様々であり、組み合わせて使用が予定されるデバイスの目的や使用環境などを勘案して、望ましい方式が選択される傾向にある。
【0003】
上記座標検出装置には、タッチ面に指先などが接触し、あるいは接触に近い状態となったときにおける電圧の変化や静電容量の変化などを生じせしめるための電極層が基板に設けられたタッチパネル部材が備えられている。電極層の内容は、タッチパネル方式の違いなどによって種々決定され、電極層の層構成としては、一層から構成される電極層、二層以上から構成される積層電極層がある。また、上記タッチパネル部材における電極層は、その電気的特性などを勘案し、該電極層に直接または間接に絶縁性膜あるいは保護層が積層されることが一般的である。上記絶縁性膜および上記保護層は、フォトリソグラフィ法により容易にパターニングが可能な、無色で透明性に優れるアクリル樹脂系のネガ型感光性材料(以下、単に「アクリル樹脂材料」という場合がある)により形成されることが一般的である。尚、上記アクリル材料を用いて形成される従来の絶縁性膜または保護層は、そのプロセス条件にもよるが、耐熱性が230℃程度である。
【0004】
上記タッチパネル部材の一般的な構成の例としては、例えば一の基材に一の電極を形成した電極材を2つ準備し、これらを積層させることで積層電極とする態様が汎用である(例えば下記特許文献1。以下、「従来技術1」ともいう)。しかしながら、かかるタッチパネル部材は、2枚の基材を必要とするため薄膜化、軽量化の点で改善が望まれており、また、電極材を対向配置させる際の位置合わせなども要する点などの問題を有している。
【0005】
またタッチパネル部材の別の態様として一枚の基材の両面側に、それぞれ直接に、電極層を形成することによって構成されるタッチパネル部材(以下、「従来技術2」ともいう)が知られている(例えば特許文献2)。従来技術2によれば、従来技術1のように複数の基材を貼り合わせることによるアライメント精度の低下の問題がなく、さらに従来技術1に比べて、タッチパネルの厚みも小さくすることができる。
【0006】
ところで、いずれのタッチパネル部材においても、薄膜化、軽量化、強度向上といった課題を有している。軽量化、薄膜の観点では、上記従来技術1に比べ、従来技術2の方が、電極を積層するための支持基板である基板の数を減らせることができるため好ましい。
一方、強度の点では、保護層などの保護構成をタッチパネル部材に付加することが一般的である。例えば、従来技術1の例として示す特許文献1に開示の図1には、上下電極材を対向させ、さらに下側電極材の下側全面に強化ガラスを貼り合わせる態様が示されている。
また、従来技術2の例として示す特許文献2に開示の図1には、上部電極を覆って表面側に保護膜4を被着させる態様が示されている。
また、近年は、タッチパネルを搭載した携帯電話などのポータブルデバイスにおけるタッチパネル部材のカバーガラスとして、強化ガラスを使用する例も提案されている(例えば特許文献3)。
【0007】
特に、強化ガラスは、強化処理のなされていないガラスに比べて強度が高く、タッチパネル部材の保護部材としての使用が期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−278701
【特許文献2】特開平04−264613
【特許文献3】特開2010−168252
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら強化ガラスを保護部材としてタッチパネル部材に用いるためには、まず強化処理前のガラスを所望の形状に加工し、その後に強化処理を行い、強化ガラスとした上で、タッチパネル部材に、粘着材などを介して貼り付ける必要があった。したがって、タッチパネル部材自体の基材に加えて、強化ガラスの重量が付加されるため、部材の軽量化の点で問題があった。また、強化ガラスを貼り付ける工程を必要とする点、およびタッチパネル部材と強化ガラス間における粘着層の存在によりタッチパネルの透過性が低減する虞がある点などの問題があった。
【0010】
これに対し、本発明者らは、従来技術2における基材として強化ガラスを用い、強化ガラスを直接の支持基板として、電極層を積層することを検討したが以下の理由により困難な点があることがわかった。即ち、タッチパネル部材などの積層部材は、多面取りの大型基材に2以上の有効領域を積層すべく、電極層などを作りこんだ後、大型基材をダイヤモンドカッターなどの物理的な切断手段で一有効領域毎に切断して複数の部材を得る方法が常用である。しかしながら、強化ガラスは、従来用いられてきた非強化処理のガラス基板よりも強度が高いため、物理的な切断手段では、望ましく切断できない虞があり、レーザー切断手段などの熱切断手段を選択する必要がある。ところが、熱切断手段によれば、強化ガラスは切断可能であるものの、切断面が切断時の熱により溶融するため、タッチパネル部材に設けられている、アクリル樹脂材料などから構成される絶縁性膜あるいは保護層などにおいて上記切断面に近い領域が焦げ付き、異物化する虞があった。したがって、強化ガラスを直接の支持基板として用いるタッチパネル部材の提供には困難性があり、これを可能とするための技術が求められていた。
【0011】
また、本発明者らは、上記タッチパネル部材が有する、強度向上、且つ、軽量化、薄膜化に関する課題は、タッチパネル部材のみならず、太陽電池モジュールや表示装置などの種々のデバイスにおいて用いられる、基材上に電極層および絶縁性膜および/または保護層等を備える積層部材一般における課題であると認識した。
【0012】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、部材強度、薄膜化、軽量化が改善されたタッチパネル部材あるいは積層部材等の提供、あるいは換言すると、部材強度を向上させつつも、薄膜化、軽量化を損なわないタッチパネル部材あるいは積層部材等の提供を課題とし、より具体的には、強化ガラスを直接の支持基板として用いるタッチパネル部材、該タッチパネル部材を用いる座標検出装置、強化ガラスを直接の支持基板として用いる積層部材、上記タッチパネル部材を含む積層部材の製造方法を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、
(1)強化ガラス基板上に、タッチパネル用電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、上記強化ガラス基板が上記タッチパネル用電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であることを特徴とするタッチパネル部材、
(2)上記強化ガラス基板のヤング率が70GPa以上であることを特徴とする上記(1)に記載のタッチパネル部材、
(3)強化ガラス基板上に電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、上記強化ガラス基板が上記電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であることを特徴とする積層部材、
(4)強化ガラス基板上に、タッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層が積層して設けられており、上記強化ガラス基板が上記タッチパネル用電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であるタッチパネル部材を備え、上記強化ガラス基板を直接または間接にタッチ面とするか、あるいは、電極層および/またはシロキサン樹脂層を挟んで上記強化ガラス基板に対向して設けられる他の基板をタッチ面とし、上記タッチ面に対し、直接または間接に行なわれる接触動作によって出力される電気信号を検出する検出回路と、上記検出回路において検出された電気信号から上記接触動作の行なわれた接触位置の座標を算出する座標算出用演算回路と、を備えることを特徴とする座標検出装置、
(5)基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を備える積層部材の製造方法であって、基板として強化ガラス基板を用い、強化ガラス基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を任意の順序で積層形成し、上記電極層および上記シロキサン樹脂層を含む有効領域を形成する積層工程と、上記積層工程実施後に、上記有効領域の周囲全周あるいは周囲の一部に位置する、他の領域を熱切断手段により切断する切断工程と、を備えることを特徴とする積層部材の製造方法、
(6)強化ガラス基板が、2以上の積層部材を多面取り可能な強化ガラス基板であり、
積層工程が、上記強化ガラス基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を任意の順序で形成し、上記電極層および上記シロキサン樹脂層を含む有効領域を2以上形成する積層工程であり、切断工程が、上記積層工程実施後に、熱切断手段により上記有効領域毎に切断することを含む切断工程であることを特徴とする上記(5)に記載の積層部材の製造方法、
(7)上記シロキサン樹脂層が感光性シロキサン樹脂を含むシロキサン樹脂組成物を用いて形成されることを特徴とする上記(5)または(6)に記載の積層部材の製造方法、
(8)上記積層部材がタッチパネル部材であり、上記電極層がタッチパネル用電極層であることを特徴とする上記(5)から(7)のいずれかに記載の積層部材の製造方法、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタッチパネル部材および積層部材は、強化ガラス基板が用いられているため、強度に優れる。しかも、非強化処理のガラスや樹脂フィルムを支持基板とし、該基板に電極層や絶縁性膜あるいは保護層を作り込んだ上、強化ガラスを保護材としてさらに積層する従来のタッチパネル部材あるいは積層部材に比べて、薄膜化、軽量化が図られる。
【0015】
上記タッチパネル部材を用いて構成される本発明の座標検出装置においても、上記タッチパネル部材の強度向上、軽量化、薄膜化という効果が反映され、優れた座標検出装置を提供することが可能である。
【0016】
本発明の積層部材の製造方法は、製造工程を複雑にすることなく、強度が向上し、且つ、軽量化、薄膜化が図られたタッチパネル部材を含む積層部材を提供することができる。
しかも、本発明の積層部材の製造方法は、強化ガラス基板を直接の支持基板とし、これに樹脂層および電極層を積層形成した後で、熱切断手段により強化ガラス基板を切断する工程を含むが、上記樹脂層としてシロキサン樹脂層を選択したことにより、熱切断時における樹脂層の焦げ付きの問題が解消され、強化ガラス基板を直接の支持基板とする積層部材の多面取り製造や、所望の形状に切断加工することを実質的に可能とした。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のタッチパネル部材の積層態様の例を示す概略断面図である。
【図2】第一の電極および第二の電極が積層されたタッチパネル部材の例を示す概略断面図である。
【図3】第一の電極層、第二の電極層および絶縁性膜の積層態様の一例を示す上面図である。
【図4】第一の電極層、第二の電極層および絶縁性膜の積層態様の別の例を示す上面図である。
【図5】本発明のタッチパネル部材の使用態様(タッチパネル部材一体型有機EL表示装置)の一例を示す概略断面図である。
【図6】本発明のタッチパネル部材の使用態様(タッチパネル部材搭載型液晶表示装置)の一例を示す概略断面図である。
【図7】本発明の座標検出装置の動作の流れの一実施態様を説明するための説明図である。
【図8】本発明の製造方法の一実施態様を説明するための説明図である。
【図9】本発明の製造方法の一実施態様を説明するための説明図である
【図10】本発明のタッチパネル部材の一実施態様を示す断面図である。
【図11】従来のタッチパネル部材を搭載した液晶表示装置の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[タッチパネル部材および積層部材]
本発明のタッチパネル部材は、強化ガラス基板を直接の支持基板とし、該強化ガラス基板上に、タッチパネル用電極層とシロキサン樹脂層とが積層して設けられる。本発明は、「強化ガラス基板を直接の支持基板とする」ことにより、強化ガラス以外の基板を直接の支持基板として電極層およびシロキサン樹脂層が設けられ、事後的に、さらに強化ガラスが積層されるものが除かれる。かかる構成を採用することによって、タッチパネル部材あるいはそれ以外の積層部材の強度向上が図られるとともに、事後的に強化ガラス基板をさらに積層する従来の部材に比べ、薄膜化、軽量化を図ることができる。
【0019】
また、本発明の積層部材は、強化ガラス基板上の少なくとも一方面側に電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、上記強化ガラス基板が上記電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であることを特徴とする。後述する、本発明のタッチパネル部材に関する記載において、タッチパネル用電極層の代わりに、タッチパネル以外の他のデバイスにおける電極層として適した電極層を適宜選択して実施し、またタッチパネル特有の技術的事項を除外することによって、本発明の積層部材を理解することができる。したがって、後述する本発明のタッチパネル部材の説明あるいは態様において、タッチパネル部材特有の構成、材料、態様など以外の記載については、本発明の積層部材の説明と重複するため、該積層部材に関する説明は割愛する。
また、後述においては、主として強化ガラス基板の一方面側にのみ電極層およびシロキサン樹脂層が設けられる態様を例に、本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。強化ガラス基板の一方面側に設けられる電極層およびシロキサン樹脂層の内容および形成方法などに倣って、同様に該強化ガラス基板の他方面側にも任意に電極層および/またはシロキサン樹脂層を設ける態様も本発明のタッチパネル部材、積層部材、あるいは本発明の積層部材の製造方法に含まれる。
【0020】
本発明のタッチパネル部材の積層態様の例を、図1を用いて説明する。図1Aは、強化ガラス基板2上に、シロキサン樹脂層3を備え、さらにシロキサン樹脂層3上にタッチパネル用電極層4が設けられてなる本発明のタッチパネル部材1の概略断面図である。シロキサン樹脂層は、ポリシロキサンを含んで構成される層であって、絶縁性と良好な強度および耐熱性とを発揮可能な樹脂層である。したがって、タッチパネル部材1においてシロキサン樹脂層3は、例えば、絶縁性膜および/または保護層としての作用を発揮可能である。より具体的な例としては、強化ガラス基板上に金属材料などで形成される所謂、取り出し配線がまず形成され、その後にタッチパネル用電極層4が設けられる場合がある(取り出し配線については図示省略する)。その場合には、該取り出し配線の少なくとも一部を覆って、取り出し配線の保護層として、且つ、取り出し配線とタッチパネル用電極層4との間の絶縁性膜として、シロキサン樹脂層3が作用可能である。
【0021】
上述のとおり、本発明のタッチパネル部材においてシロキサン樹脂層は、保護層および/または絶縁性膜として設けられてよい。ただし本発明におけるシロキサン樹脂を、保護層および/または絶縁性膜として限定する趣旨ではない。たとえば、チタンを含有するシロキサン樹脂層を、タッチ面側の最表面、あるいは最表面層に近い位置に設けることによって反射防止、あるいは光学調整の作用を発揮可能である。あるいはまた、本発明のタッチパネル部材と組み合わされるデバイスを考慮し、上記チタンを含有するシロキサン樹脂層において、バックライトなどの透過光に対する光学調整作用を発揮させることも可能であり、この場合に、該シロキサン樹脂層の形成位置は任意である。したがって、本発明におけるシロキサン樹脂層は、反射防止層および/または光学調整層として設けられてもよい。もちろん、反射防止、光学調整、表面保護層といった2以上の作用が期待される機能層であってもよい。
【0022】
また、図1Bに示す本発明のタッチパネル部材1’は、タッチパネル用電極層4とシロキサン樹脂層3との積層順が入れ替わった以外は、図1Aに示すタッチパネル部材1と同様である。かかる態様では、シロキサン樹脂層3はタッチパネル用電極層4の表面保護層として作用し得る。あるいはまた、シロキサン樹脂層3の強化ガラス基板2とは反対面側にさらに任意の層が設けられる場合には、タッチパネル用電極層4と該任意の層との絶縁性膜として作用する場合もあってよい。
【0023】
また、図1Cに示すタッチパネル部材1’’は、強化ガラス基板2、第一シロキサン樹脂層3a、タッチパネル用電極層4、第二シロキサン樹脂層3bの順に積層して構成されている。第一シロキサン樹脂層3a、第二シロキサン樹脂層3bが、保護層および/または絶縁性膜であってよいことは、図1A、図1Bと同様である。また、後述する図1D、図1Eにおいて示すシロキサン樹脂層についても同様に、保護層および/または絶縁性膜であってよい。
【0024】
また本発明のタッチパネル部材は、2以上のシロキサン樹脂層だけでなく、2以上のタッチパネル用電極層を備えていてもよい。たとえば本発明のタッチパネル部材の態様としては、図1Dに示す、強化ガラス基板2、第一電極層8、第一シロキサン樹脂層3a、第二電極層9、第二シロキサン樹脂層3bがこの順に積層されてなるタッチパネル部材5であってよい。あるいは、図1Eに示すように、本発明のタッチパネル部材の別の態様としては、図1Eに示す、強化ガラス基板2、第一シロキサン樹脂層3a、第一電極層8、第二シロキサン樹脂層3b、第二電極層9、第三シロキサン樹脂層3cがこの順に積層されてなるタッチパネル部材5’であってよい。
【0025】
尚、図1には、いずれも強化ガラス基板2の一方面側にのみ、タッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層を備える本発明のタッチパネル部材の態様を示したが、本発明のタッチパネル部材の態様はこれに限定されず、強化ガラス基板の両面側に、それぞれタッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層を備える態様も含まれる。その場合に、タッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層は、強化ガラス基板を中心として両面対象に積層構造が構成されていてもよいし、強化ガラス基板を中心として一方面側と他方面側とにおいてタッチパネル用電極層とシロキサン樹脂層の積層態様が異なっていてもよい。あるいは、強化ガラスの一方面側にタッチパネル用電極層が積層されており、他方面側にシロキサン樹脂層が積層されていてもよい。このように強化ガラス基板を介してタッチパネル用電極層とシロキサン樹脂層が設けられる本発明のタッチパネル部材では、シロキサン樹脂層は、例えば、外光反射防止、光学調整など機能を発揮可能である。
【0026】
加えて図1では、強化ガラス基板2上にタッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層のみが設けられる態様を示したが、本発明のタッチパネル部材はこれに限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる任意の層あるいは、さらなる任意の構成が付加されていてよい。例えば、強化ガラス基板上に設けられた電極層あるいはシロキサン樹脂層上、あるいはこれらに並列にさらに任意の層が設けられもよい。また、強化ガラス基板の一方面側に透明樹脂層およびシロキサン樹脂層が設けられ、他方面側に任意の層あるいは構成が設けられていても良い。
【0027】
本発明のタッチパネル部材は、種々の様式のタッチパネルにおいて、タッチパネル用電極層を備える部材として用いることが可能である。例えば、図1A〜図1Cに示すタッチパネル用電極層4を備えるタッチパネル部材1、1’、1’’は、抵抗膜方式のタッチパネルにおける上部電極板または下部電極板として使用することが可能である。かかる場合には、該上部電極板または下部電極板に一般的に用いられるPETフィルムあるいは非強化処理ガラスなどの透明基材の替わりに、強化ガラス基板を支持基板として構成することが可能である。あるいは静電容量方式のタッチパネルのうち、特に投影型静電容量方式のタッチパネルに、一層構成の電極層を備えるタッチパネル部材として構成することが可能である。あるいは、タッチパネル部材1、1’、1’’は、二層以上のタッチパネル用電極層を積層させるタイプの静電容量方式のタッチパネルであって、基板に1層のタッチパネル用電極層を積層する電極材を積層させる態様において、少なくとも一方側の電極材として本発明のタッチパネル部材を用いてもよい。
【0028】
一方、図1E、Dに例示するように、一枚の強化ガラス基板上に、2層以上のタッチパネル用電極層を積層させる態様の本発明にタッチパネル部材は、2層以上のタッチパネル用電極層を積層させるタイプの静電容量方式のタッチパネルに用いることができる。図1C〜図1Eにおける、より具体的な態様の1つとして、本発明のタッチパネル部材において、タッチパネル用電極層として、強化ガラス基板の一方の面側から第一電極層および、上記第一電極層上に積層される第二電極層の2層を備え、且つ、上記第一電極層および上記第二電極層間に、上記シロキサン樹脂層が絶縁性膜として設けられていることを特徴とするタッチパネル部材を提供することが可能である。かかる具体的例示の態様は、シロキサン樹脂層が、二層の電極層が基材を介さずに積層形成される態様のタッチパネル部材において、両電極層の絶縁性膜として優れた効果を発揮し、且つ、タッチパネル部材全体の強度向上、薄膜化、軽量化が図られるため、本発明の優れた態様の1つであると理解される。
以上に示す本発明のタッチパネル部材と、これを用いる種々の様式のタッチパネルとの関係は例示に過ぎず、何ら本発明のタッチパネル部材の使用を制限するものではない。
【0029】
図1に示すタッチパネル部材における電極層およびシロキサン樹脂層は、いずれも平坦な層として図示したが、本発明における電極層およびシロキサン樹脂層は、これに限定されず、適宜、パターニング形成されていてよい。
【0030】
図1Dに示すタッチパネル部材5の積層態様と同様の積層態様であって、電極層およびシロキサン樹脂層がパターニングされてなる本発明のタッチパネル部材6について、図2を用いて説明する。図2に示すタッチパネル部材6は、強化ガラス基板2上に、所望のパターンでパターンニング形成された第一電極層8と第一電極層8の端部に電気的に接続する取り出し電極7が設けられ、第一電極層8と取り出し電極7の一部とを覆って第一シロキサン樹脂層3aが設けられている。次いで、所望のパターンでパターンニング形成された第二電極層9、第二電極層9を覆って第二シロキサン樹脂層3bが設けられている。尚、第一シロキサン樹脂層3aおよび第二シロキサン樹脂層3bは、ベタ層として形成されていてもよいし、あるいは、取り出し配線7の一部上を被覆しないよう、パターニング形成されてなる層であってもよい。タッチパネル部材6は、二つの電極層が積層されて設けられており、薄膜化の観点において、特に静電容量方式のタッチパネルに好適に用いることができる。このとき、第一シロキサン樹脂層3aは、絶縁性膜として機能させることができ、また第二シロキサン樹脂層3bは、保護層として機能させることができる。ただしタッチパネル部材6は、静電容量方式のタッチパネル部材への適用に限定されず、本発明においてもたらされる薄膜化等の効果は、他の形式のタッチパネル部材においても有効な効果として発揮される。尚、図2の紙面上には表れないが、タッチパネル部材6には、第二電極層9の端部に電気的に接続される取出し配線が設けられてよい。
【0031】
タッチパネル部材6が静電容量式のタッチパネルに適用される場合において、第一電極層8および第二電極層9の積層パターンは、二層の電極層が積層されてなる静電容量方式のタッチパネル部材として適用可能な積層電極の積層パターンであれば、適宜選択して実施してよい。一例として、タッチパネル部材6の第一電極層8、第二電極層9が積層された側を上面とする上面概略図を図3に示す。尚、図3においては、タッチパネル部材6における取出し配線7およびシロキサン樹脂層3a、3bを図示省略する。図3に示される第一電極層8、第二電極層9の積層パターンは、強化ガラス基板2上に、規則的に配列されるダイヤ型の電極部をy方向に連続するようパターニング形成された第一電極層8上に、図示省略するシロキサン樹脂層3aを形成した後、規則的に配列されるダイヤ型の電極部をx方向に連続するようパターニング形成された第二電極層9を設けて構成されている。第二電極層9上にはさらに、図示省略するシロキサン樹脂層3bが形成されてよい。
【0032】
尚、本発明のタッチパネル部材は、2以上の電極層を設ける態様において、一方の電極層を強化ガラス基板の一方面側に設け、他方の電極層を強化ガラスの他方面側に設ける態様を含む。この場合の電極層の積層パターンの例としては、例えば、図4に示すように、強化ガラス基板2上の一方面側に、規則的に配列されるダイヤ型の電極部をy方向に連続するようパターニング形成された第一電極層8を設け、他方面側に規則的に配列されるダイヤ型の電極部をx方向に連続するようパターニング形成された第二電極層10を備えるタッチパネル部材が挙げられる。
図4に示す態様において、図示省略するシロキサン樹脂層は、強化ガラス基板2と第一電極層8との間、強化ガラス基板2と第二電極層10との間、第一電極層8上、および第二電極層10の少なくともいずれかに設けられる。
また、第一電極層および第二電極層の積層パターンは、上述に限定されず、例えばストライプ状に形成された第一電極層と第二電極層とが上面視上において交差するパターン、あるいは、一方の電極層が整然配列された複数のダイヤ形状の電極部を有し、他方の電極層が上面視上、隣り合うダイヤ形状の電極部をx軸方向またはy軸方向に接続する、複数のブリッジ形状の電極部を有するパターンなどが例示されるが、これに限定されない。
【0033】
尚、図1を用いて説明するタッチパネル部材におけるタッチパネル用電極層を、タッチパネル以外のデバイスに必要とされる電極層に置き換えることによって、図1を用いて説明する積層態様は、本発明の積層部材の態様として理解することができる。本発明の積層部材を使用可能なデバイスの具体的な例としては、例えば、太陽電池モジュール、電極層を備える薄膜トランジスタ、各種表示装置の電極基板などが挙げられるが、これに限定されない。
【0034】
(強化ガラス基板)
本発明に用いられる強化ガラス基板は、衝撃に対し脆い、あるいは物理的衝撃による傷耐性が不充分であるというガラス基板の性質を改善するために処理された強化ガラスを用いる基板である。上記強化ガラスとしては、一般的には、ガラス表面の圧縮応力を向上させる処理を施すことによって、処理前のガラスと比べて耐衝撃性が向上したものを含む。強化ガラスとするための強化処理方法は特に限定されないが、化学強化処理ガラスを得る手段として、イオン交換法、あるいは風冷強化法が広く知られている。また、熱強化処理により得られる熱強化ガラス、特許第3956286号に開示されるレーザー処理等により得られるレーザー処理ガラスなども、本発明における強化ガラス基板として使用可能であり、またこれらに限定されない。
【0035】
特にイオン交換法は、薄膜ガラスの強化可能であり、本発明に用いる強化ガラス基板を得るための方法として適している。上記イオン交換法は、カリウムイオンなどの適切なイオンが含有される処理液を準備し、該処理液中に、ナトリウムイオンなどの置換可能なイオンを含有するガラスを浸漬し、該ガラスに含まれる置換可能なイオンと、処理液中に含有されるイオンを交換させる方法である。このときガラス中のナトリウムイオンと、これよりも大きいカリウムイオンとが交換されることによって、ガラスの表面層内部が圧縮された状態となり、この結果、ガラスの強度が向上するものである。
【0036】
上記強化ガラスは、強化処理前のガラスと区別されるものである。強化処理前のガラスとは、所謂、青板ガラス、生板ガラス、強化未処理ガラスなど呼ばれるものを含む。強化ガラスの市販品としては、例えば、コーニング社製のゴリラFITガラス(Gorilla FIT Glass)、ゴリラガラス(Gorilla Glass)(登録商標)、旭硝子社製のドラゴントレイル(Dragontrail)(登録商標)、日本板硝子社製の化学強化ガラス(FL3.2)などを挙げることができるが、これに限定されない。
【0037】
特に、本発明における強化ガラス基板としては、ヤング率が70GPa以上であるものが好適に選択される。ヤング率が70GPa以上の強化ガラス基板を用いる本発明のタッチパネル部材であれば、タッチ面側から受けるタッチ力に対する応力が特に高い。したがって、ヤング率が70GPa以上の強化ガラス基板を用いる本発明では、指やタッチペンなどによる押し圧でデバイス内部が圧迫されて、該デバイスの故障や機能低下を防止する効果が充分に高くなるからである。より具体的には、例えば、液晶表示装置とヤング率が70GPa以上の強化ガラス基板を用いる本発明のタッチパネル部材を組み合わせた場合に、タッチ面からのタッチにより、装置内部の液晶素子等が圧迫され、ディスプレイの表示不良が発生することを良好に防止することができる。
また、ヤング率が70GPa以上の強化ガラス基板は、特に傷耐性が高いので、該強化ガラスをタッチ面として設計した場合には、優れた表面の傷付き防止効果が発揮される。
ただし上述する、強化ガラス基板のタッチ力に対する優れた応力や、傷耐性といった効果は、本発明のタッチパネル部材においてヤング率が70GPa以上の強化ガラス基板を用いたときに初めて発揮される効果ではなく、特に70GPa以上の強化ガラス基板において効果が高い。尚、本発明における強化ガラス基板のヤング率は、ガラスの強化という観点からは、高いほうが好ましく特に制限を設けられるものではないため、タッチパネル部材の基板としての適当な厚み、重量などを勘案して適宜決定されてよい。強化ガラス基板のヤング率は、JIS規格のR1602(セラミックの室温の弾性定数測定)で測定することができる。
尚、上述するヤング率が示される強化ガラスに関し、応力、傷耐性などの優れた性能は本発明の積層部材においても優れた特質として発揮される。したがって、本発明の積層部材においても、ヤング率が70GPa以上の強化ガラスを用いることは、上述する効果を享受可能である点で好ましい。
【0038】
ガラス基板のヤング率は、ガラス基板を構成する成分などにも左右され、また基板の厚みによるところも大きい。従来のタッチパネル部材に用いられる強化処理前のガラス基板の厚みは一般的に2〜3mm程度であって、このとき示されるヤング率は50GPa〜70GPa未満であることが一般的であった。しかし本発明に用いられる強化ガラスは基板の厚みが0.5mm〜1.8mm程度において、ヤング率70GPa以上を発揮することが可能である。
【0039】
強化ガラスは、上述のとおり強化処理されているため、ダイヤモンドカッターなどの物理的圧力による切断手段(非熱切断手段)によって望ましく切断することが困難である。この傾向は、ヤング率70GPa以上の強化ガラスにおいて特に顕著である。そこで、強化ガラスの切断手段として、レーザー切断、ガス切断、プラズマ切断、放電切断等などの熱切断手段を選択することにより切断可能である。本発明のタッチパネル部材あるいは積層部材の製造を勘案すれば、本発明に用いる強化ガラス基板の熱切断時において、焦げ付きなどが発生しないようシロキサン樹脂層を構成することが望ましい。あるいは、本発明におけるシロキサン樹脂層の耐熱性を勘案し、本発明に用いる強化ガラスの種類、厚みを決定してもよい。
【0040】
上記強化ガラス基板の厚みは特に限定されず、本発明のタッチパネル部材あるいは積層部材が用いられるデバイスにおいて適した厚みを適宜選択してよい。あるいは、強化ガラス基板の厚みは、該強化ガラス基板がタッチ面側に位置することを予定するか、あるいは、デバイスの内側(インセル)に位置することを予定するかによって、適宜決定してよい。例えば、第一電極層と第二電極層とを備える静電容量方式のタッチパネル部材とし、しかも、強化ガラス基板が直接または間接にタッチ面となる場合には、強化ガラス基板の厚みは、0.5mm以上1.8mm以下であることが望ましい。これによって、タッチ面としての強度が充分発揮されうる。
【0041】
上記強化ガラス基板は、タッチパネルを含む表示機能を備えるデバイスの表示面内に位置することが予定される場合には、一般的に透明であることが望ましい。強化ガラスの透明度合いは特に限定されず、タッチパネルを含むデバイス自体の視認性、タッチパネル部材あるいは積層部材が使用されるデバイスにおける表示性能を担保する範囲で、適度な透明性が示されればよい。
【0042】
(電極層)
本発明のタッチパネル部材におけるタッチパネル用電極層は、タッチ面において指などが接触または接触に近い状態となったときに、これを感知するために設けられる電極をなす層であればよく、公知のタッチパネル部材の基材上に設けられ得る電極層を適宜選択することができる。本発明におけるタッチパネル用電極層は、一層からなるもの、二層以上からなるもののいずれであってもよく、二層以上に設けられる場合に、強化ガラス基板の一方面側に二以上の電極層が設けられているもの、および強化ガラス基板の両面側にそれぞれ一層以上の電極層が設けられているもののいずれであってもよい。
【0043】
本発明の積層部材における電極層は、タッチパネル以外のデバイスにおいて、基板上に設けられ得る電極層を適宜選択することができる。電極層の数、強化ガラス基板の片面側に設けられる場合、両面側に設けられる場合については、上述するタッチパネル用電極層と同様である。
【0044】
以下に、本発明における電極層について、タッチパネル用電極層を例に、詳細を説明する。
タッチパネル用電極層は、タッチ面において指などが接触または接触に近い状態となったことを感知可能とする面内に主として設けられることが一般的である。またタッチパネル部材が表示機能を備えるデバイスと組み合わせて使用することが予定される場合には、電極層は、該デバイスにおける表示領域面内に含められるよう設計されることが一般的である。ただし、電極層の端部は、上記感知可能とする面の外側、あるいは上記表示領域面の外側まで伸長していてもよい。
【0045】
上記タッチパネル用電極層は、タッチパネルの視認性、表示性を妨げないという観点から、光透過性の材料で形成されることが一般的である。ただし、タッチ面、あるいは表示面において視認されない程度の小さい領域にパターン形成されるなど、選択される電極層のパターンによっては、光透過性のない材料から形成されてもよい。上記電極層を構成する材料としては、インジウム錫オキサイド(ITO)、酸化インジウム、インジウム亜鉛オキサイド(IZO)などの酸化インジウム系透明電極材料、あるいは、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)等の透明導電膜、ポリアニリン、ポリアセチレン等の導電性酸化物等を用いることができるが、材料はこれに限定されない。あるいは、ワイヤーセンサー方式のタッチパネルに本発明のタッチパネル部材が使用予定の場合には、導電性ワイヤで電極層を形成してもよい。一枚の強化ガラス基板上に、二層以上の電極層が設けられる場合には、各電極層は、同種の材料から構成されていてもよいし、異なる材料により構成されていてもよい。
【0046】
本発明におけるタッチパネル用電極層の厚みは、特に限定されず、一般的には、10nm〜500nm程度、好ましくは10nm〜100nm程度である。
【0047】
(シロキサン樹脂層)
本発明におけるシロキサン樹脂層とは、ポリシロキサンを含む層であり、実質的にポリシロキサンからなる層、およびポリシロキサンに加え、任意の成分および任意の元素を含む層のいずれも含む。本発明におけるシロキサン樹脂層は、絶縁性、耐熱性、硬度などの点で優れた性質を発揮し得るが、当該性質は、ポリシロキサンからなる樹脂骨格により層構成されているためと推察される。シロキサン樹脂層が上記優れた性質を示すため、強化ガラス基板上においてタッチパネル用電極層、あるいはタッチパネル以外の電極層に対し、直接または間接に該シロキサン樹脂層が積層されることによって、絶縁性膜および/または保護層としての機能を発揮させることができる。電極層は、その電気的な作用を設計通りに作用させるために、絶縁性膜を積層されることが望ましく、そのため、絶縁性のシロキサン樹脂層を積層させることによって電極層の電気的な作用が望ましく実施される。また、電極層形成後の製造後工程や、部材の搬送時、あるいは完成品に関しタッチパネルなどのデバイスを使用する際、電極層が物理的あるいは化学的に損傷を受けると、タッチパネルあるいはデバイスの機能が良好に実施されない虞がある。したがって電極層上に保護層を設けることが望ましい。ことのき、該保護層を硬度、耐熱性に優れるシロキサン樹脂層とすることにより、従来のアクリル樹脂材料から形成される保護層に比べ、保護効果を向上させることができる。ただし上述は、本発明におけるシロキサン樹脂層を絶縁性膜および/または保護層として用いる態様に限定する趣旨ではない。本発明におけるシロキサン樹脂層の積層の趣旨は、主としてポリシロキサン骨格を備えることによる種々発揮される性質の範囲において、絶縁性、保護性を含め適宜理解されてよい。
【0048】
シロキサン樹脂層は、アクリル樹脂などから形成される樹脂層と同等以上の絶縁性を示すことが可能であり、またシロキサン樹脂層の絶縁性の程度は特に限定されない。ただし、シロキサン樹脂の積層は、絶縁性膜として機能することが求められる場合、あるいは保護層としての機能が求められる場合、あるいはその両方の場合を含むが、いずれの場合においても、シロキサン樹脂層の事後的な静電気による破壊などを考慮して、絶縁耐圧が200Vから500V程度となるように設定されることが望ましく、また所望の絶縁耐圧は、用いられるシロキサン樹脂材料の種類や、シロキサン樹脂層の厚みなどによって調整することができる。
【0049】
シロキサン樹脂層の耐熱性は特に限定されないが、一般的には400℃〜500℃程度の耐熱性が示され得る。したがって、400℃〜500℃、あるいは500℃を超える温度で強化ガラス基板が熱切断され切断面が溶融した場合にも、シロキサン樹脂層の、該切断面付近の領域において焦げ付きが良好に防止されうる。また、シロキサン樹脂層の硬度は特に限定されないが、JIS K 5600−5−4における鉛筆硬度試験において4H以上の構造を示すことが可能である。したがって、特にシロキサン樹脂層が保護層として設けられる場合には、上記硬度が4H以上となるよう、シロキサン樹脂層を構成することが望ましい。シロキサン樹脂層の耐熱性、あるいは硬度といった物性は、シロキサン樹脂層に含まれるシロキサン樹脂(ポリシロキサン)の含有率や選択されるシロキサン樹脂の種類、2以上のシロキサン樹脂の混合などによって適宜調整してよい。
【0050】
また、上記シロキサン樹脂層が、タッチパネル部材、あるいは積層部材中に二層以上形成される場合には、各層は、実質的に同一のポリシロキサンから構成されていてもよいし、あるいは異なるポリシロキサンが含有されていてもよい。但し、各層を実質的に同一にポリシロキサンから構成することによれば、各シロキサン樹脂層の収縮率を同じくすることできるため、設計通りのタッチパネル部材あるいは積層部材を容易に製造し易く望ましい。加えて、各シロキサン樹脂層の屈折率が同じになるため、光学的に反射の発生を防止することができ望ましい。尚、本発明において「二層以上のシロキサン樹脂層が実質的に同一のポリシロキサンから構成されている」とは、一のシロキサン樹脂層が、1種のポリシロキサンのみを含む場合、各シロキサン樹脂層を構成するポリシロキサンの構造式が同一であることを意味する。一方、一のシロキサン樹脂層が2種以上のポリシロキサンの組み合わせで構成される場合には、各シロキサン樹脂層におけるポリシロキサンの組み合わせが同一であることを意味し、組み合わされるシロキサン樹脂の含有比率までは、その同一性を問わない。
【0051】
シロキサン樹脂層に任意に添加される添加剤としては、例えば、チタン、シリカ粒子、光酸発生材、熱酸発生材あるいはこれらの残渣などが挙げられるがこれらに限定されず、本願発明の趣旨を逸脱しない範囲において、シロキサン樹脂層に、ポリシロキサン以外のその他の成分が含有していてもよい。その他の含有成分の含有量は、特に限定されず、本発明のタッチパネル部材が用いられるタッチパネル、あるいは本発明の積層部材が用いられるデバイスにおいて不都合にならない程度の性質、例えば透明性、絶縁性、硬化性、耐熱性などが示されるよう、適宜調整してよい。
【0052】
上記シロキサン樹脂層の厚みは、特に限定されないが、シロキサン樹脂層に求められる機能、絶縁耐圧、シロキサン樹脂層を備えるタッチパネル部材を含む積層部材の使用が予定されるデバイスの機能などを勘案し、求められる機能を発揮することが可能な範囲で、薄く形成されることが、望ましい。シロキサン樹脂の厚みを可能な範囲で小さく設計することのメリットは以下のとおりである。
即ち、タッチパネル部材、また表示機能を備えるデバイスに使用予定の積層部材において、上記絶縁性膜および上記保護層としてのシロキサン樹脂層は、全可視光領域での透過率が高く、ほぼ無色透明ではあることが好ましいが、若干ながら可視光領域の短波長領域に吸収帯を有するため、わずかに黄色く着色する場合がある。このような着色は、デバイスの表示機能を勘案すると好ましくない。また、感光性シロキサン樹脂を用いてシロキサン樹脂層を形成する場合に、膜厚を大きく設定するほど、露光の際の回折光の影響により露光エリアが増大し、結果としてパターン太りを招いて解像度が悪化するといった問題も発生し得る。したがって、上記着色の問題および解像度の悪化を回避するために、上記シロキサン樹脂層は、絶縁耐圧を満足する範囲で必要最低限の膜厚で形成されることが好ましい。一般的には、絶縁性膜および表面保護層の厚みは、0.5μm以上3.0μm以下の厚さで形成されることが好ましい。また、光学調整、あるいは反射防止効果をシロキサン樹脂層の求める場合には、層の厚みは、30nm以上100nm以下、特には、40nm〜70nm以下程度にすることが好ましい。
【0053】
(任意の構成)
本発明のタッチパネル部材あるいは本発明の積層部材には、強化ガラス基板上において電極層とシロキサン樹脂層以外に、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において任意の層を含む任意の構成が設けられて良い。
【0054】
任意の構成が設けられた本発明のタッチパネル部材の例として図10を示す。図10に示す本発明にタッチパネル部材71は、タッチ面側に位置する強化ガラス基板72上に、パターニングされた第一電極層73と、これに積層させる第二透明電極層74を有し、第一電極層73と第二電極層74との間には、絶縁性膜としてパターニング形成された第一シロキサン樹脂層75を備える。そして、第一電極層73の端部と電気的に接続する取り出し配線77が設けられている。このように、本発明において取り出し配線が任意の構成として設けられてもよく、図10に現れない、第二透明電極層74の端部に電気的に接続する取り出し配線をさらに有していても良い。このとき、取出し配線77を覆って第二シロキサン樹脂層76が設けられることによって、取り出し配線77に対する保護および絶縁作用が図られる。
【0055】
上記取出し配線は、電極層との電気的接続により導電し、タッチパネル部材に接続される回路等および電極層との間における電流の流れを助ける。したがって、導電性材料によって構成される。また上記取出し配線は、タッチパネル部材における指などが接触または接触に近い状態となったことを感知可能とする操作領域(表示領域)の外側に位置する非操作領域(非表示領域)に設けられることが一般的であり、かかる場合には、光透過性の有無を問わない。上記取出し配線は、高い導電性を有した銀や銅などの金属材料を用いて形成することができる。より具体的には、取出し配線を構成する金属物質としては、金属単体や、金属の複合体や、金属と金属化合物の複合体のほか、金属合金を挙げることができる。金属単体としては、銀、銅、金、クロム、プラチナ、アルミニウムの単体などを例示することができる。金属の複合体としては、MAM(Mo−Al−Mo、すなわちモリブデン・アルミニウム・モリブデンの3層構造体)などを挙げることができ、金属と金属化合物の複合体としては、酸化クロム/クロム積層体などを例示することができる。金属合金としては、銀合金や銅合金が汎用される。また、金属合金としては、APC(Au・Pd・Cu、すなわち銀・パラジウム・銅)などを例示することができる。
【0056】
また、タッチパネル部材71には、その他の任意の構成として、額縁層78が設けられている。額縁層78は、強化ガラス基板72上の非操作領域(非表示領域)に形成されており、タッチ面側から観察した際に、取り出し配線77を覆って、これらの視認を防止する役割を有する。したがって、額縁層78は、一般的には黒色であるが、黒色に限定する必要はなく、タッチ面側から取り出し配線77が視認不可能な程度の不透明性が示されればよく、白色不透明、あるいは有色不透明な層であってもよい。額縁層78を設けることにより、タッチパネル部材のタッチ面側からの意匠性を向上させることができる。額縁層78は、不透明性を発揮しうるインキあるいはペーストなどの材料を用い、フォトリソフラフィ法あるいはスクリーン印刷などの公知の手段で形成することができる。また額縁層78の厚みは任意であるが、充分な意匠性を発揮させるためには、用いられるインキやペーストなどの種類を勘案し、0.8μm〜2μm程度に形成することが一般的である。
【0057】
さらにタッチパネル部材71は、第二シロキサン樹脂層76上の一部または略全面を覆って保護ペースト層79が任意で設けられていてもよい。保護ペースト層77を設けることによって、下層にある金属配線を保護することが可能である。保護ペースと層77は、透明であってもよく、または不透明であってもよく、例えば、不透明な保護ペースト層77であれば、上述する額縁層78と同様の材料および方法により形成することができる。
【0058】
また、タッチパネル部材71は、強化ガラス基材72が、タッチ面側に位置するよう予定されるため、タッチ面とは反対面側略全面に保護層80を設け、タッチパネル部材71と他のデバイスとを組み合わせる際、あるいは、タッチパネル部材71の運搬の際などにおいて、第一透明電極層73および第二透明電極層74の保護を図ってもよい。保護層80を、シロキサン樹脂層により構成してもよい。あるいは、保護層80を透明樹脂フィルムまたはアクリル樹脂などの透明樹脂層により構成してもよいが、かかる場合には、多面取りした基板から熱切断手段により本発明のタッチパネル部材を得る場合、あるいは熱切断手段により所望の形状に加工する場合には、熱切断手段実施後に、保護層80を設けることが望ましい。
【0059】
(タッチパネル部材一体型有機EL表示装置)
以下に本発明のタッチパネル部材の使用態様の例を、図面を用いて説明する。図5は、タッチパネル部材一体型の表示装置の実施態様の例である、タッチパネル部材一体型有機EL表示装置11について、基板面に対し略法線方向に切断した際の概略断面図である。タッチパネル部材一体型とは、タッチパネル部材における基板が、組み合わされるデバイスの基板として兼用される態様を意味する。
【0060】
タッチパネル部材一体型有機EL表示装置11は、本発明のタッチパネル部材に関し、強化ガラス基板が直接または間接にタッチ面として位置するようデバイスと組み合わされる使用態様としても理解される。
強化ガラス基板が直接にタッチ面として位置するとは、図5に示すとおり、強化ガラスの一方面側が使用者側に露出しており、使用者が接触または接触に近い状態でタッチパネルを使用する際の面となることを意味する。一方、強化ガラス基板が間接にタッチ面として位置するとは、例えば、強化ガラスの露出面側に、反射防止フィルムなどのさらなる層、あるいは部材が積層され、使用者がタッチ面に接触した際に、直接に強化ガラスに触れない態様を意味する。
【0061】
タッチパネル部材一体型有機EL表示装置11は、本発明のタッチパネル部材12と有機EL基板21とを用いて構成されている。
タッチパネル部材12は、強化ガラス基板13の一方面側に、第一電極層14が設けられ、次いで、第一電極層14上にシロキサン樹脂層15が設けられ、さらに第二電極層14’が設けられて、構成されている。第一電極層14および第二電極層14’は、それぞれ、タッチパネル部材の積層電極として機能するよう適切なパターンでパターニングされている。尚、図中、取出し配線は図示省略しているが、有機EL基板と組み合わせるタッチパネル部材においては、取出し配線は、一般的に取出し配線として理解される金属などの導電性の材料で構成されてよく、また光取り出しのために、金属酸化物からなる透明導電膜などの透明電極として形成されてもよい。
【0062】
一方、有機EL用基板21は、透明基板22上に有機EL素子23が設けられて構成されている。有機EL素子23は、一般的には、透明基板22上にTFTを備える駆動用回路が形成され、必要に応じて駆動用回路上に平坦化膜や保護膜が設けられた後、Al、Ag、Auなどの有機EL素子における金属電極として公知の材料を用いて金属電極が形成され、次いで、発光層を備える有機層が公知の材料から形成された後、さらに金属電極が形成されることによって構成される。ただし、本発明における有機EL素子、あるいはこれを備える有機EL基板の構成はこれに限定されず、従来公知の有機EL用基板を適宜選択し、タッチパネル部材と一体的に組み合わせてよい。
そして、タッチパネル部材12における第二電極層14’側と、有機EL用基板21における有機EL素子23側とが向かい合う向きで互いに組み合わせることにより製造することができる。このとき両基板間は、たとえばスペーサ24などにより適当な距離が保たれる。
【0063】
比較として、従来のタッチパネル部材一体型有機EL表示装置100の概略断面図を図11に示す。タッチパネル部材一体型有機EL表示装置100に用いられるタッチパネル部材101は、タッチパネル部材101の直接の支持基板として、強化処理のなされていないガラス基板あるいは透明樹脂フィルムを透明基板102として用いたこと、および、第一電極層14と第二電極層14’との間に、アクリル樹脂層104を用いたこと以外は、タッチパネル部材12と同様の構成を有する。そして、タッチパネル部材101と有機EL基板21とが組み合わされ、且つタッチ面の耐傷耐性や強度を向上させるために、強化ガラス105が、透明基板102の露出面側に設けられている。尚、強化ガラス105と透明基板102との間には、図示省略する粘着層が設けられ、強化ガラス105は、透明基板102に対し位置あわせされた上、貼り付けられる。
【0064】
タッチパネル部材一体型有機EL表示装置11は、強化ガラス基板13がタッチ面となっているため、タッチ面の傷耐性や強度の向上が図られている上、タッチパネル部材一体型有機EL表示装置100と比較すると、透明基板102が省略されているためデバイスの薄膜化、軽量化が図られ好ましい。しかも、タッチパネル部材一体型有機EL表示装置100では、強化ガラス105を設けるために、透明基板102と強化ガラス105の間に図示省略される粘着層が設けられているため、粘着層による光散乱などの虞があるが、本発明のタッチパネル部材の使用によれば、そのような虞がない。
【0065】
(タッチパネル部材搭載型液晶表示装置)
次に本発明のタッチパネル部材の異なる使用態様の例を、図面を用いて説明する。図6は、タッチパネル部材搭載型液晶表示装置の実施態様の例であり、示されるタッチパネル部材搭載型液晶表示装置31について、基板面に対し略法線方向に切断した際の概略断面図である。タッチパネル部材搭載型とは、タッチパネル部材における基板が、組み合わされるデバイスの基板として兼用されず、タッチパネル部材における基板と、組み合わされるデバイスの基板とが任意の手段で重ね合わされる態様を意味する。
【0066】
タッチパネル部材搭載型液晶表示装置31は、本発明のタッチパネル部材32と、液晶表示装置41とを用いて構成されている。
タッチパネル部材32は、強化ガラス基板33の一方面側に、第一電極層34と第一電極層34の端部に電気的に接続される取出し配線36とが設けられ、次いで、第一電極層34上に第一シロキサン樹脂層35が設けられ、さらに第二電極層34’が設けられて、第二電極層34’を覆って第二シロキサン樹脂層35’が設けられて構成されている。第一電極層34および第二電極層34’は、それぞれ、タッチパネル部材の積層電極として機能するよう適切なパターンでパターニングされている。タッチパネル部材32には、強化ガラス基板33の対向基板として透明基板38がスペーサ37を介して設けられ、タッチパネル39をなしている。本発明のタッチパネル部材は、タッチパネル39のように、強化ガラス基板の対向基板をさらに備えてタッチパネルを構成してもよい。上記対向基板としては、透明ガラス基板や、透明フィルム基板などが好ましく用いられるが、これに限定されるものではない。
【0067】
一方、液晶表示装置41は、表示側基板43と電極基板48とを対向させ、シール部材50で両基板間に空間を設けた状態で密着させ、当該空間に駆動用液晶材料49を充填させ構成することができる。表示側基板43は、透明基板42上に、ブラックマトリクス45を設け、次いで、赤色着色部44R、緑色着色部44G、青色着色部44Bからなる着色層46を設け、図示省略する透明導電膜、および駆動用液晶材料用配向膜47を着色層46上に設けて構成されている。また電極基板48は、図示省略する液晶駆動用回路および液晶駆動用電極などを透明基板上に設けて構成されている。液晶表示装置41は、単なる例示であり、一般的に駆動用液晶材料を用いてなる液晶表示装置として理解される装置であればよい。公知の液晶表示装置における表示側基板を構成する透明基板と、本発明のタッチパネル部材の強化ガラス基板とが直接または間接に重なるよう、本発明のタッチパネル部材を搭載することができる。また同様に、有機EL表示装置などの他の表示装置を含むデバイスにおいても、表示側基板等のデバイスの一方側の基板と、本発明のタッチパネル部材の強化ガラス基板とが直接または間接に重なるよう、重ね合わせて搭載することができる。
【0068】
図6に示すタッチパネル部材搭載型液晶表示装置31は、本発明のタッチパネル部材に関し、強化ガラス基板が、タッチ面側ではなくデバイス側(インセル)に位置するようデバイスと組み合わされる使用態様として理解される。かかる使用態様によれば、デバイス自体の強度の向上を図ることができる。また、万が一に強化ガラス基板が割れてしまった場合でも、該強化ガラス基板がデバイス側(インセル)に位置しているため、周囲に対するガラス破片の散乱を小さく抑えることができる。
【0069】
尚、図6に示す態様は、本発明のタッチパネル部材を任意のデバイスに搭載する使用態様を限定するものではない。例えば、図6において、タッチパネル39を紙面上、上下を逆にして液晶層表示装置41に搭載させることも可能である。この場合には、強化ガラス基板33が、タッチ面となり、タッチパネル部材搭載型液晶表示装置31のタッチ面側の強度等の向上を図ることができる上、強化ガラスをタッチ面としたにもかかわらず薄膜化、軽量化が損なわれないという有利な点がある。
【0070】
[座標検出装置]
次に、本発明の座標検出装置について説明する。上述する本発明のタッチパネル部材を用い、タッチ面に対し、直接または間接に行なわれる接触動作によって電極層において出力される電気信号を検出する検出回路と、上記検出回路において検出された電気信号から上記接触動作の行なわれた接触位置の座標を算出する座標算出用演算回路とを備えることによって、本発明の座標検出装置を構成することができる。
【0071】
本発明の座標検出装置は、用いられるタッチパネル部材における直接の支持基板が強化ガラスであるため、強度向上が図られるとともに、薄膜化、および軽量化の観点でも有利である。特に、タッチ面側に強化ガラス基板を備える態様では、指やタッチペンなどの接触による物理的衝撃に対し、タッチ面の強度、傷耐性を向上させることができ好ましい。しかも、タッチ面側における透明基板にさらに粘着層を介して強化ガラスを貼り合わせることによってタッチ面の強化が図られた従来の座標検出装置に比べ、本発明は強化ガラスによりタッチ面の強度向上が図られる上、該粘着層による透過光の散乱などの虞がない。
一方、上記強化ガラス基板をタッチ面と反対側に位置させてなる本発明の座標検出装置では、該強化ガラス基板が座標検出装置自体の強度を向上させることが期待される上、万が一に強化ガラスが割れてしまった場合でも、周囲に対するガラス破片の散乱を小さく抑えることができる。
【0072】
本発明の座標検出装置における検出回路は、タッチパネル部材におけるタッチ面の接触または接触に近い動作により発生する電気信号を検出することを可能とする回路である。
以下に、静電容量式のタッチパネル部材を用いる本発明の座標検出装置を例に説明する。上記座標検出装置は、タッチパネル部材のタッチ面に、指などの導体が接触するか、または接触に近い状態で接近した際に、その接触動作の行われた座標における静電容量の変化による交流電流の偏りを検出する検出回路と、上記検出回路より出力される静電容量の変化量より、所定の演算式に基づき、接触動作の行われた座標位置を計算する座標算出用演算回路とを備える。タッチパネル部材と検出回路とは、該タッチパネル部材における接触動作を電気信号として検知可能に接続されていればよい。例えば、電極層が絶縁性膜を介して二層にパターン形成されている態様のタッチパネル部材を用いる場合には、強化ガラス基板側から、第一電極層、絶縁性膜、第二電極層の順に構成され、第一電極層、および第二電極層の端部に設けられた取出し配線と、検出回路とが、フレキシブルプリント回路などの配線部材などによって電気的に接続される。
【0073】
図7に、本発明の座標検出装置の動作の流れの一実施態様を説明するための説明図を示す。図面左側に示すタッチパネル部材は、特に電極層について示す。具体的には、第1電極層を構成する、x方向に電流が流れる複数の第1透明電極部X1、X2、X3・・・と、第2電極層を構成する、y方向に電流が流れる複数の第2透明電極部Y1、Y2、Y3・・・とを備える。図面中央に示す検出回路における定電流源から、電流が、第1透明電極部X1、X2、X3・・・および第2透明電極部Y1、Y2、Y3・・・に供給される。このとき電流は、基準クロックによって指示される規定時間に基づき、高速スイッチ部におけるスイッチングの指示を受け各電極へ接続を切り替える切り替え部によって、絶えず定電流源から各電極へと流れる電流の接続のオン、オフが切り替えられてよい。
【0074】
タッチパネル部材のタッチ面において接触動作がないときには、基本的に交流電流は流れず、初期値ゼロの状態であるが、接触動作が行われると、静電容量の発生により交流電流が流れ、電圧降下が生じる。検出回路では、上述のとおり切り替えられながら断続的に各電極に電流が送られるとともに、電流の変化を検知する電流検出回路により各電極の電流により抵抗変化を検知するよう構成される。電流の変化による電圧降下量は、積分用コンデンサにおける増幅回路により増幅されて出力され、インパルスノイズを取り除くための低域通過フィルタを通過し、比較器において、基準電圧と積分用コンデンサで増幅された電圧を比較することで積分用コンデンサが基準電圧に達するまでの時間を認識する。検出回路により検出された電極の容量変化に基づく信号は、タッチ検出演算回路に送られ、所定の計算式により接触動作の行われた座標が算出される。尚、上述は、本発明の座標検出装置の一実施態様を説明するものであって、本発明の座標検出装置を限定するものではなく、本発明の座標検出装置の検出動作を実行する構成および動作の流れとしては、公知のタッチパネル部材における接触動作を検出可能な回路を適宜選択して実施してよい。
【0075】
[積層部材の製造方法]
次に、本発明の積層部材の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と略する場合がある)について説明する。本発明の製造方法は、基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を備える積層部材の製造方法であって、上記積層部材には、本発明のタッチパネル部材、および本発明の積層部材を含む。本発明の製造方法は、強化ガラス基板の少なくとも一方面側に電極層およびシロキサン樹脂層を任意の順序で積層形成し、上記電極層および上記シロキサン樹脂層を含む有効領域を形成する積層工程と、上記積層工程実施後に、上記部材有効領域の周囲全周あるいは周囲の一部に位置する、他の領域を熱切断手段により切断する切断工程と、を備える。尚、本発明において「有効領域」とは、一の積層部材に関する電極層、シロキサン樹脂層、およびさらなる任意の構成または層を含む領域を、意味する。
【0076】
本発明の製造方法は、上記積層工程および上記切断工程以外の任意の工程を含んでもよいが、その効果を充分に享受するためには、少なくとも、切断工程前において、強化ガラス基板上に、アクリル樹脂材料などの耐熱性の乏しい材料によって樹脂層を形成する工程を含まないよう留意すべきである。尚、耐熱性の乏しい樹脂層とは、熱切断手段による切断時の熱によって焦げ付きなどを起こす可能性のある樹脂層を意味する。
【0077】
本発明の製造方法は、絶縁膜や保護層を担うことが可能な樹脂として、耐熱性の優れたシロキサン樹脂層を選択するため、強化ガラスを直接の支持基板として電極層とシロキサン樹脂層を積層形成して有効領域を形成した後に、強化ガラス基板を熱切断手段により切断することを実質的に可能とした。したがって、従来のように多面取りにより作成したタッチパネル部材とは別に、強化ガラス断片を準備する手間が省け、またタッチパネル部材と強化ガラス断片とを位置合わせして貼り付けるという工程も省くことができる。
【0078】
本発明に製造方法の1つの態様について図8を用いて説明する。まず、積層部材が2以上多面取り可能な強化ガラス基板51を準備する(図8A)。そして強化ガラス基板51に各積層部材に対応する電極層およびシロキサン樹脂層を積層形成し、多面取りする数だけ有効領域52を形成する(図8B)。図8Bに示す強化ガラス基板51上には、6つの有効領域52が形成されている。尚、有効領域において積層形成されている透明電極およびシロキサン樹脂層の積層態様は、本発明のタッチパネル部材の積層態様として図1等を用いて説明する態様と同様であるため、ここでは説明を割愛する。次いで、図8Cに示すとおり、適切な熱切断手段により、切断線54に沿って強化ガラス基板を熱により切断することによって、6つの積層部材53が得られる。
【0079】
本発明の製造方法によれば、上述のとおり、タッチパネル部材などの積層部材を2以上多面取りすることの可能な強化ガラス基板を直接の支持基板として、電極層およびシロキサン樹脂層を作りこんだ後に、有効領域ごとに熱切断し、2以上の積層部材を製造することができ、製造工程を複雑にすることなく、品質の良い積層部材を提供することができる。
【0080】
また、本発明の製造方法は、多面取りする態様に限定されず、図9に示すように、多面取りを予定しない強化ガラス基板61を準備し(図9A)、強化ガラス基板61に、一の有効領域62を積層形成し(図9B)、その後に熱切断手段により切断線65に沿って強化ガラス基板61を切断し、不要な領域64を切断除去し、所望形状の積層部材63を形成してもよい。上述のとおり、本発明の製造方法によれば、適当な形状の強化ガラス基板を準備し、該強化ガラス基板上に所望形状の電極層およびシロキサン樹脂層を形成し、有効領域の周囲の少なくとも一部を切断し、所望の形状の積層部材を得ることができる。したがって、所望形状の積層部材を作成した上、別途、所望形状の強化ガラス断片を準備し、これを位置あわせの上貼り付けて積層させるといった複雑な工程を省くことができる。
【0081】
尚、タッチパネルは、表示面を使用者が接触するという特殊な使用方法が前提であるため、特に強度の点で向上が望まれるところ、本発明の製造方法であれば、タッチパネル部材の強度向上が図られる上、軽量化、薄膜化についても改善されたタッチパネル部材を提供することができる。したがって、本発明の製造方法は、特にタッチパネル部材の製造方法として有効である。
【0082】
(透明電極の積層形成)
本発明の製造方法において、強化ガラス基板上に透明電極層を積層形成する方法は特に限定されず、基板上に形成される透明電極の形成方法として知られる公知の方法を適宜選択し、積層部材の使用が予定されるデバイスに適した透明電極を積層形成してよい。例えば、本発明の製造方法によりタッチパネル部材を製造する場合には、タッチパネル用電極層が積層形成される。タッチパネル用電極層を形成する方法は、特に限定されないが、一般的には、フォトリソグラフィ法、あるいはスクリーン印刷法などの形成方法が汎用される。例えば、フォトリソグラフィ法により電極層を形成する場合には、強化ガラス基板上を直接または間接の基材面とし、上述にて説明する電極層を構成する導電性材料を基材面に塗布して導電性膜を形成し、さらに、上記膜上に感光性材料を塗布して感光性膜を形成する。そして、複数の電極部の形成パターンに対応した露光マスクを上記感光性膜上に配置し、露光光を照射して露光する。その後、露光マスクを取り除き、感光性膜を現像し、次いで、導電性膜をエッチングし、最後に、基材面に残る感光性膜を除去することにより、所望のパターンで形成される複数の電極部からなる電極層を形成することができる。電極層をフォトリソグラフィ手法により形成する場合には、一般的には、一の電極層の厚みを10nm〜500nm程度に形成することができる。ただし上述は、本発明の製造方法における電極層の形成方法の一態様であって、電極層の形成方法を限定するものではない。
【0083】
(シロキサン樹脂層の積層形成)
本発明の製造方法においてシロキサン樹脂層は、シロキサン樹脂組成物を準備し、これを基材面に塗布して、該シロキサン樹脂組成物に含有されるシロキサン樹脂に適した膜形成方法を選択することができる。尚、形成されるシロキサン樹脂層は、強化ガラス基板を熱切断手段により切断する際の熱によって焦げ付きを受けない程度の耐熱性が示されることが望ましい。したがって、シロキサン樹脂層を形成するためのシロキサン樹脂組成物は、形成されるシロキサン樹脂層の耐熱性を勘案して、含有されるシロキサン樹脂の配合量などを調整してよい。
【0084】
以下に本発明の製造方法におけるシロキサン樹脂の積層形成の例として、感光性シロキサン樹脂組成物を用いてシロキサン樹脂層を積層形成する方法を説明する。尚、本発明において感光性とは、電離放射線硬化性を意味する。上記感光性シロキサン樹脂組成物は、アルコキシシラン化合物に加え、必要に応じて、光酸発生剤、熱酸発生剤、光塩基発生剤のいずれかまたは組み合わせ、及び、上記シロキサン樹脂を溶解可能な溶媒を含んで調製されてよい。上記シロキサン樹脂組成物を基材面に塗布して膜を形成し、該膜中に含まれるアルコキシラン化合物を加水分解してシラノール化合物とし、次いでシラノール化合物を縮合反応させて、ポリシロキサンを含むシロキサン樹脂層を形成することができる。
【0085】
上記アルコキシシラン化合物としては、例えば、特開2010−26360号公報に開示されるアルコキシシラン化合物を選択することができ、詳しくは下記一般式(1)〜(3)等であらわされるものから任意選択で使用してよく、また2以上を組み合わせて用いてもよい。
(式1) RSi(OR・・・(1)
(式2) RSi(OR・・・(2)
(式3) Si(OR・・・(3)
尚、上記Rは水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはそれらの置換体であってよく、特にメチル基が好ましい。Rは、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基またはブチル基であってよく、同一でも異なっていてもよい。
およびRは、それぞれ水素、アルキル基、アルケニル基、アリール基またはそれらの置換体を表し、同一でも異なっていてもよい。特にメチル基が好ましい。Rはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基またはブチル基を表し、同一でも異なっていてもよい。
はメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基またはブチル基を表し、同一でも異なっていてもよい。
【0086】
上記一般式(1)で表される3官能性シラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシランなどであってよく、またこれらに限定されない。
上記一般式(2)で表される2官能性シラン化合物としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルビニルジメトキシシランなどであってよく、またこれらに限定されない。
上記一般式(3)で表される4官能性シラン化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシランなどであってよく、またこれらに限定されない。
【0087】
また、感光性、即ち、電離放射線硬化性の材料であって、それ自体において、フォトリソグラフィ法によりパターニング可能なシロキサン樹脂組成物の他の例として、上述以外の従来公知の材料を適宜選択し、本発明の製造方法においてシロキサン樹脂を積層形成するために使用することが可能である。中でも、特許第3821165号に開示される放射線硬化性樹脂組成物、即ち、シロキサン樹脂材料(ただし、フェノール基を有する水性塩基可溶性シリコン含有ポリマーを除く。)、光酸発生剤又は光塩基発生剤、及び、上記シロキサン樹脂材料を溶解可能であり、非プロトン性溶媒(即ち、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、メチル−n−ジ−n−プロピルエーテル、ジ−iso−プロピルエーテル、メチルテトラヒドロフラン、ジメチルジオキサン、などの当該公報請求項1に列挙されるエーテル系溶媒を1種以上含む非プロトン性溶媒)を含有してなり、放射線の照射により硬化する放射線硬化性組成物を、本発明において積層形成されるシロキサン樹脂層の構成材料として好適に用いることができる。あるいはまた、特許第3758669号に開示される放射線硬化性樹脂組成物、即ち、シロキサン樹脂材料、露光する工程で使用される特定波長の放射線を照射することにより酸性活性物質を放出する光酸発生剤、又は塩基性活性物質を放出する光塩基発生剤、上記シロキサン樹脂材料を溶解可能な溶媒、及び、上記特定波長の放射線を照射しても酸性活性物質及び塩基性活性物質を放出しない硬化促進触媒を含有してなる放射線硬化性組成物を、本発明の感光性シロキサン樹脂組成物として好適に用いることができる。尚、上記シロキサン樹脂組成物に含まれるシロキサン樹脂材料の好ましい例としては、下記一般式(4)で表される化合物を加水分解縮合して得られる樹脂等が挙げられる。
(式4) RSiX4−n・・・(4)
(式中、Rは、H原子若しくはF原子、又はB原子、N原子、Al原子、P原子、Si原子、Ge原子若しくはTi原子を含む基、又は炭素数1〜20の有機基を示し、Xは加水分解性基を示し、nは0〜2の整数を示し、nが2のとき、各Rは同一でも異なっていてもよく、nが0〜2のとき、各Xは同一でも異なっていてもよい。)
尚、本発明において形成されるシロキサン樹脂層は、1種の感光性シロキサン樹脂材料から形成されてもよく、あるいは、異なる構造式で表わされる2種以上の感光性シロキサン樹脂材料の任意の組み合わせから形成されてもよい。例えば、上記式(4)において示される感光性シロキサン樹脂材料であって、側鎖が異なる2種以上の感光性シロキサン樹脂材料を任意に組み合わせて、シロキサン樹脂層を形成してもよい。
【0088】
上述で説明される感光性シロキサン樹脂組成物を用い、従来の絶縁性膜の製造方法、即ち、アクリル系感光性材料を用いた絶縁性膜の製造方法と同様の製造工程でシロキサン樹脂層を形成することができる。したがって、従来、アクリル系感光性材料を用いて層形成した製造設備を、そのまま利用できるため、製造工程上、望ましい。
【0089】
より具体的には、感光性シロキサン樹脂組成物を準備し、強化ガラス基板上に直接または間接に該感光性シロキサン樹脂組成物を塗工して塗膜を形成する。塗工方法は、感光性シロキサン樹脂組成物を、基材面に略均一な膜厚で塗工が可能な塗工方法であればいずれの方法を採用しても良く、例えば、スピンコート法、ダイコート法、スリットコート法、グラビアコート法、あるいはこれらの方法を組み合わせた塗工方式、あるいはインクジェット法を適宜選択して実施することができる。
そして、必要に応じて減圧乾燥処理した後、適当な温度で加熱(プリベーク)し、次いで所望のパターンのフォトマスクを介して紫外線などの電離放射線を照射して露光し露光部分を硬化させ、次いで、マスクをはずして未露光部分をアルカリ現像液で現像し、必要に応じて加熱(ポストベーク)することによって、シロキサン樹脂層を形成することができる。ただし、アクリル系感光性材料と異なる点は、感光性シロキサン樹脂組成物に含まれる感光性シロキサン樹脂材料は、加熱工程における加熱温度が、約220℃〜500℃程度の範囲から適宜決定できる点にある。一般的には、感光性シロキサン樹脂材料を用いた場合、プリベーク時には、100℃前後の比較的に低温で加熱して樹脂を半硬化させ、ポストベーク時において、約220℃〜500℃程度の温度範囲において求められる表面硬度が発揮されるよう加熱温度を選択することができる。
尚、本発明に関し、電離放射線とは、紫外線などを含む電磁波、及び電子線などを含み分子を重合し得るエネルギー量子を有する粒子線のいずれをも含む。また感光性、あるいは電離放射線硬化性、というときは、上記電離放射線により硬化可能であることを意味する。
【0090】
上述は感光性シロキサン樹脂組成物を用い、フォトリソグラフィ手法によってシロキサン樹脂層を形成する方法を主として説明したが、シロキサン樹脂層の形成方法はこれに限定されず、例えば、シロキサン樹脂組成物をインキとして調製しスクリーン印刷などの印刷方法によって強化ガラス基板上に直接または間接に、シロキサン樹脂層を積層形成してもよい。
【0091】
また、本発明の製造方法におけるシロキサン樹脂層の積層形成は、非感光性シロキサン樹脂組成物を用いて実施することも可能である。例えば半導体分野における絶縁膜形成で知られる、シリコン系SOG(Spin on Glass)材料を、シロキサン樹脂組成物として用い、シロキサン樹脂層を形成してもよい。上記シリコン系SOG材料は、それ自体ではパターニング機能を有していない。そのため、上記シリコン系SOG材料を用いてパターニング層を形成するためには、まず、強化ガラス基板上に直接または間接に、基板面略全面に上記シリコン系SOG材料をベタ製膜した後に、その上面の所望の領域にポジ感光性材料を積層し、フォトリソグラフィ法によりパターニングし、次いでフッ酸などの酸溶剤によるウェットエッチングにより不要部を除去する必要がある。そして、エッチング完了後、不要となったポジ感光性材料を除去することによりパターニングを完遂することができる。
【0092】
ただし、上述のとおり上記シリコン系SOG材料を用いた場合には、ポジ感光性材料の製版/剥離が必要であり、且つ、取り扱いが難しい酸溶剤を使用してウェットエッチングを実施しなくてはならないなど、製造工程が複雑化し、感光性シロキサン樹脂組成物を用いる場合に比べて生産性に問題が生じる場合がある。
【0093】
また、感光性シロキサン樹脂組成物を用いて形成されたシロキサン樹脂層は、大型のガラス強化基板を用いて積層部材を多面取りするために形成される場合であっても、良好な面内均一性が得られるという点が挙げられる。
即ち、半導体分野における基板(ウェハー)は、一般的に直径300mm以下であり、比較的小さい基板面における製膜性が確保されれば充分である。一方、近年の表示用部材およびこれに用いられるタッチパネル部材は、例えば、300cm×300cmといった大型の基板において多面取りして製造される傾向にある。シリコン系SOG材料は小さい基板面において良好な製膜性を示す材料が、同様に、大型の基板面上においても、良好な製膜性を示し得るかは不明である。そこで、本発明者らが、上記シリコン系SOG材料を用いて、大型基板で複数の基板の多面取りを検討した。その結果、シリコン系SOG材料を用いて、大型基板で、半導体プロセスと同様にドライエッチングやウェットエッチング工程を実施した場合には、面内均一性が保障できず、これによって形成されるシロキサン樹脂層の面内均一性が得られないことが推察された。これに対し、感光性シロキサン樹脂組成物を用いてシロキサン樹脂層を積層形成するのであれば、フラットパネルディスプレイの製造によって確立された技術を駆使して膜を形成することができ、大型の強化ガラス木場基板を用いた場合であっても、シロキサン樹脂層の面内均一性が充分に確保される。
【0094】
以上の観点からは、本発明におけるシロキサン樹脂の積層形成は、感光性シロキサン樹脂材料を用いて行なうことが好ましい態様といえる。
【0095】
(その他の任意の層の形成について)
本発明の製造方法において、切断工程が実施される前に、強化ガラス基板上に直接または間接に任意の構成、あるいは任意の層をさらに形成してもよい。例えば、タッチパネル部材の製造方法において、強化ガラス基板上に取出し配線を形成してよい。取出し配線の形成方法は、一般的なタッチパネル部材の製造において形成される取出し配線の製造方法と同様である。例えば、フォトリソグラフィ手法で取出し配線を形成する場合には、形成材料として、銀と白金と銅からなるAPC材料が汎用されるが、これに限定されない。また、スクリーン印刷などの印刷方法により取出し配線を形成する場合には、形成材料として、溶媒中に数十nm〜数μmの粒径の銀や銅などの金属粒子と樹脂バインダ、たとえば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリスチレンなどの単体あるいは混合物からなる樹脂バインダが含有され、溶媒を用い適度に調整された金属粒子含有ペーストが汎用されるがこれに限定されない。尚、図示省略するが、取出し配線の端部であってガラス強化基板の縁部においては、それぞれ端子が設けられてよく、取出し配線を形成する工程とは異なる工程においてこれらを形成してもよいが、端子を、取出し配線を形成する際に同工程において、同材料で形成してもよい。尚、取出し配線の厚み、および幅寸法は、特に限定されないが、例えば取出し配線をフォトリソグラフィ手法により形成する場合には、厚みは、一般的には、10nm〜1000nm程度、幅寸法は、一般的には、5μm〜200μm程度に形成することができ、スクリーン印刷などの印刷により形成する場合には、厚みは、一般的には、5μm〜20μm程度、幅寸法は、一般的には、20μm〜300μm程度に形成することができる。
【0096】
切断工程:
本発明の製造方法において切断工程とは、熱切断手段を駆使して強化ガラス基板を切断する工程である。熱切断手段は、特に限定されないが、レーザー切断、ガス切断、プラズマ切断、放電切断等などの公知の熱切断手段から適宜選択して実施してよい。特に、レーザー切断は、ガラスカッター等でのコンタクトでの切断に対して材料に直接接触しない加工方法であるために、異物の付着や汚れなどの問題はないことや高精度・高能率な加工の要求に対して対応が可能なため本発明の製造方法における熱切断手段として好ましい。上記熱切断手段は、強化ガラス基板を切断することが可能であって、また強化ガラス基板を切断する際の熱が、該強化ガラス基板に設けられるシロキサン樹脂層の焦げ付きなどを防止可能な程度の温度であるものを選択することが好ましい。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
(下地基板の準備)
まず、タッチパネル部材の基板としての強化ガラス基板(強化処理済アルカリガラス、コーニング社製ゴリラガラス(登録商標)、ヤング率72GPa)550mm×650mmを準備し、超純水を用いて界面活性剤処理し、引き続き超音波洗浄処理により洗浄した。尚、以下に実施する電極層およびシロキサン樹脂層を含む有効領域の形成は、上記強化ガラス基板上において70箇所形成し、70面のタッチパネル部材を多面取り可能に実施した。
【0098】
(取り出し配線の製版)
外周配線部の抵抗を補助する取り出し配線として、APCを上記ガラス基板全面にスパッタにより30nmの厚さで製膜した。引き続き、ポジ感光性材料(AZマテリアルズ社製)を用い、フォトリソグラフィ法により、有効表示エリア外に金属配線パターンと電極取り出し部のパターンを焼き付けた。さらにエッチャントとしてリン酸、硝酸、酢酸系混合溶液を用い、不要部分を除去し、引き続いて不要となったポジ感光性材料を苛性ソーダで剥離して金属配線パターンを形成した。
【0099】
(第一透明電極層の製膜)
次に製版された金属配線上に、第一透明電極層を形成するために、スパッタにより全面に30nmの厚さでITOを製膜した。そして、取り出し配線と同様のポジ感光性材料を用いてフォトリソグラフィ法により、整列する複数のダイヤ形状の電極部が、x方向において、独立に整列する列と、x方向に直線状に連結された列とが交互に形成されるパターンで第一透明電極層を形成した。ITOのエッチャントとしてはシュウ酸系溶液を用いた。尚、本実施例において強化ガラス基板上に形成する第一透明電極層および第二透明電極層は、ダイヤ形状の電極部が整然配列するパターンの第一透明電極層、および上面視上、上記ダイヤ形状の電極部をx軸方向に連続させるための複数のブリッジ形状の電極部が整然配列するパターンで実施した。
【0100】
(第一シロキサン樹脂層の製膜)
特許第3821165号公報の実施例2記載(同公報段落0125)の手法、即ち「テトラエトキシシラン317.9gとメチルトリエトキシシラン247.9gとをジエチレングリコールジメチルエーテル1116.7gに溶解させた溶液中に、0.644重量%に調製した硝酸167.5gを攪拌下で30分間かけて滴下した。滴下終了後3時間反応させた後、減圧下、温浴中で生成エタノールおよびジエチレングリコールジメチルエーテルの一部を留去して、ポリシロキサン溶液1077.0gを得た。このポリシロキサン溶液525.1gにジエチレングリコールジメチルエーテル53.0g、2.38重量%に調製したテトラメチルアンモニウム硝酸塩水溶液(pH3.6)及び水3.0gを添加し、室温(25℃)で30分間攪拌溶解して放射線硬化性組成物用ポリシロキサン溶液を得た。GPC法によりポリシロキサンの重量平均分子量を測定すると、830であった。この放射線硬化性組成物用シロキサン樹脂溶液10.0gに光酸発生剤(PAI−1001、みどり化学社製)0.193gを配合し、放射線硬化性組成物を調製した。なお、(a)成分の使用量は放射線硬化性組成物総量に対して15重量%であり、(b)成分の使用量は放射線硬化性組成物総量に対して1.9重量%であり、(d)成分の使用量は放射線硬化性組成物総量に対して0.075重量%であった。」なる記載に倣い、パターニングが可能な感光性シロキサン樹脂組成物を調製した。
【0101】
上記感光性シロキサン樹脂組成物を、上述のとおり製膜した第一透明電極層を備える強化ガラス基板上であって、該第一透明電極層面に直接に、スピンコート法により塗工して塗膜を形成した。引き続き減圧乾燥装置にて0.02torrまで減圧して溶剤を部分的に除去し、さらに90℃のホットプレート上で45秒間加熱(プリベーク)して、完全に溶剤成分を除去した。基板を室温まで冷却した後、後工程で形成予定の第二透明電極層であるITO配線のブリッジ部分にコンタクトホールを設置したパターンのフォトマスクを適用し、プロキシアライナーにより365nmで200mJの露光量で露光処理した。
上述のとおり露光処理が終了した塗膜面を、現像液であるテトラメチルアンモニウムヒドロキシド2.38wt%(TMAH、東京応化工業社製:NMD−3)でディップ現像し、未露光部分を除去してパターンを形成した。さらに露光後の基板は加熱炉(アドバンテスト社製FUW210PA)中、大気雰囲気下で500℃1時間加熱(ポストベーク)して硬化させ、膜厚1.5μmのパターニングされた絶縁性膜である第一シロキサン樹脂層を第一の透明電極層上に形成した。
【0102】
(第二透明電極層の製膜)
さらに上記絶縁性膜上に、ブリッジ部を構成する2層目の透明電極層を形成するために、ITOを用い、スパッタにより全面に50nmの厚さで製膜し、第一透明電極層と同様にポジ感光性材料を用いフォトリソグラフィ法により所定の位置に複数のブリッジ状の電極部が複数形成されるパターンで第二透明電極層を形成した。
【0103】
(第二シロキサン樹脂層の製膜)
絶縁性膜である第一シロキサン樹脂層を形成する際に調製した感光性シロキサン樹脂組成物と同様のものを用い、タッチパネル部材の最表面として適した形成パターン向けのフォトマスクに変更した以外は、第一シロキサン樹脂層と同様の製膜手法により、第二透明電極層を形成した基材面に厚さ1.5μmの第二シロキサン樹脂層を製膜した。第二シロキサン樹脂層は、主として表面保護のために設けた。以上により、強化ガラス基板上に複数の有効領域が形成された多面取り基板を得た。
【0104】
上記多面取り基板上に形成された有効領域を略均等に分割するよう切断線を設定し、該切断線に沿って、COレーザー切断装置(LASERTEX−40、小池酸素工業株式会社製)によって、強化ガラス基板を切断し、70個のタッチパネル部材を得て、実施例1とした。
【0105】
(比較例1)
実施例1において、第一シロキサン樹脂層(絶縁性膜)および第二シロキサン樹脂層(表面保護層)を構成する材料として用いた感光性シロキサン樹脂組成物の替わりに、透明アクリル系感光性材料(JSR社製NN880)に変更し、且つ、絶縁性膜および表面保護層の形成条件の一部を以下のとおり変更することによって、第一アクリル樹脂層、第二アクリル樹脂層を設けたこと以外は、実施例1の製造方法と同様の手法でタッチパネル部材の多面取り基板を形成した。
【0106】
比較例1における絶縁性膜および表面保護層は、実施例1におけるこれらの形成条件に対し、プリベーク時の加熱時間を60秒間に変更し、また、露光処理における露光量を100mJに変更した。また、これらの層を形成するための露光処理が終了した基板を現像する際には、現像液としての無機アルカリ溶液(JSR社製 CD150−CR)を用い、未露光部分を除去してパターンを形成した。さらに露光後の基板は加熱炉(アズワン社製DO−450FPA)中、大気雰囲気下で230℃30分加熱して硬化させ、膜厚1.4μmのパターニングされた絶縁性膜および表面保護層をそれぞれ形成した。以上により、強化ガラス基板上に複数の有効領域が形成された多面取り基板を得た。
【0107】
そして、該他面取り基板を、実施例1におけるレーザー切断手段と同じ条件で有効領域毎になるよう切断し、70個のタッチパネル部材を得て、比較例1とした。
【0108】
(評価)
実施例1のタッチパネル部材は、良好に切断されており、切断面も品質上問題のない状態で示された。また、第一シロキサン樹脂層および第二シロキサン樹脂層は、いずれも焦げ付きなどは生じていないことが方法により観察された。
一方、比較例1のタッチパネル部材は、切断面は品質上問題のない程度の状態が示されたが、第一アクリル樹脂層、および第二アクリル樹脂層の切断面に近い領域において、アクリル樹脂層の焦げ付きが顕微鏡観察により観察された。
【符号の説明】
【0109】
1、1’、1’’ タッチパネル部材
2 強化ガラス基板
3 シロキサン樹脂層
3a 第一シロキサン樹脂層
3b 第二シロキサン樹脂層
3c 第三シロキサン樹脂層
4 タッチパネル用透明電極層
5 タッチパネル部材
6 タッチパネル部材
7 取り出し配線
8 第一電極層
9 第二電極層
10 第二電極層
11 タッチパネル部材一体型有機EL表示装置
12 タッチパネル部材
13 強化ガラス基板
14 第一電極層
14’ 第二電極層
15 シロキサン樹脂層
21 有機EL用基板
22 透明基板
23 有機EL素子
24 スペーサ
31 タッチパネル部材搭載液晶表示装置
32 タッチパネル部材
33 強化ガラス基板
34 第一電極層
34’ 第二電極層
35 第一シロキサン樹脂層
35’ 第二シロキサン樹脂層
36 取り出し配線
37 スペーサ
38 透明基板
39 タッチパネル部材
41 液晶表示装置
42 透明基板
43 表示側基板
44R、44G、44B 赤色着色部、緑色着色部、青色着色部
45 ブラックマトリクス
46 着色層
47 駆動用液晶材料用配向膜
48 電極基板
49 駆動液晶材料
50 シール部材
51 強化ガラス基板
52 有効領域
53 積層部材
54 切断線
61 強化ガラス基板
62 有効領域
63 積層部材
64 切断領域
65 切断線
71 タッチパネル部材
72 強化ガラス基板
73 第一電極層
74 第二電極層
75 第一シロキサン樹脂層
76 第二シロキサン樹脂層
77 取り出し配線
78 黒額縁層
79 保護ペースト層
80 保護層
100 従来のタッチパネル部材一体型有機EL表示装置
101 従来のタッチパネル部材
102 透明基板
104 アクリル樹脂層
105 保護用強化ガラス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化ガラス基板上に、タッチパネル用電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、
上記強化ガラス基板が上記タッチパネル用電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であることを特徴とするタッチパネル部材。
【請求項2】
上記強化ガラス基板のヤング率が70GPa以上であることを特徴とする請求項1に記載のタッチパネル部材。
【請求項3】
強化ガラス基板上に電極層と、シロキサン樹脂層とが、積層して設けられ、
上記強化ガラス基板が上記電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であることを特徴とする積層部材。
【請求項4】
強化ガラス基板上に、タッチパネル用電極層およびシロキサン樹脂層が積層して設けられており、上記強化ガラス基板が上記タッチパネル用電極層および上記シロキサン樹脂層の直接の支持基板であるタッチパネル部材を備え、
上記強化ガラス基板を直接または間接にタッチ面とするか、あるいは、電極層および/またはシロキサン樹脂層を挟んで上記強化ガラス基板に対向して設けられる他の基板をタッチ面とし、
上記タッチ面に対し、直接または間接に行なわれる接触動作によって出力される電気信号を検出する検出回路と、
上記検出回路において検出された電気信号から上記接触動作の行なわれた接触位置の座標を算出する座標算出用演算回路と、を備えることを特徴とする座標検出装置。
【請求項5】
基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を備える積層部材の製造方法であって、
基板として強化ガラス基板を用い、
強化ガラス基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を任意の順序で積層形成し、上記電極層および上記シロキサン樹脂層を含む有効領域を形成する積層工程と、
上記積層工程実施後に、上記有効領域の周囲全周あるいは周囲の一部に位置する、他の領域を熱切断手段により切断する切断工程と、
を備えることを特徴とする積層部材の製造方法。
【請求項6】
強化ガラス基板が、2以上の積層部材を多面取り可能な強化ガラス基板であり、
積層工程が、上記強化ガラス基板上に電極層およびシロキサン樹脂層を任意の順序で形成し、上記電極層および上記シロキサン樹脂層を含む有効領域を2以上形成する積層工程であり、
切断工程が、上記積層工程実施後に、熱切断手段により上記有効領域毎に切断することを含む切断工程であることを特徴とする請求項5に記載の積層部材の製造方法。
【請求項7】
上記シロキサン樹脂層が感光性シロキサン樹脂を含むシロキサン樹脂組成物を用いて形成されることを特徴とする請求項5または6に記載の積層部材の製造方法。
【請求項8】
上記積層部材がタッチパネル部材であり、上記電極層がタッチパネル用電極層であることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の積層部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−16026(P2013−16026A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148379(P2011−148379)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】