説明

タップホールの寿命延長を目的とした構造の電気炉の炉底

【課題】 タップホールを有する偏芯炉底出鋼型の電気炉のレンガの構造において、タップホールレンガの構造を変えることにより、溶鋼の出鋼で上部を溶損したタップホールレンガを取替える必要をなくし、タップホールレンガの寿命を延長する構造のタップホールを有する電気炉の炉底の構造を提供する。
【解決手段】 偏芯炉底出鋼型の電気炉13において、電気炉の炉底7にタップホール1aを有するタップホールレンガ1の長さを周囲のスリーブレンガ2の長さより長く形成し、このタップホールレンガ1の上端を周囲のスリーブレンガ2の上端よりも上方に突出した構造に形成し、さらに適宜スリーブレンガ2と炉底を形成する不定形耐火物3の上に不定形耐火物4を載置してタップホールレンガ1の高さまで埋めたタップホールレンガ1および周囲のスリーブレンガ2を有する電気炉の炉底7。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏芯炉底出鋼型の電気炉より取鍋に溶鋼を移す際に通過する電気炉のタップホールに関し、特にそのタップホールレンガの構造変更によるタップホールの寿命延長に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼用の鋼を溶製する電気炉より、溶製した溶鋼を取鍋に移す際には、偏芯炉底出鋼型の電気炉の炉底に取り付けてある中空構造のタップホールを持つタップホールレンガより出鋼する。タップホールレンガは出鋼時に、溶鋼との摩擦と熱により消耗が激しく、出鋼の度にタップホールの内径が大きくなる。特にタップホールレンガの上部と下部は溶損が激しく、ラッパ状に溶損していくため、溶損の都度タップホールレンガを取替する必要があった。
【0003】
タップホールレンガの寿命延長方法として、タップホールの内側面に鉄管を挿入し、内側面と鉄管の間にモルタルを流し込んで固化する補修方法がある(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この補修方法では、鉄管が挿入可能となる径まで溶損しなければ補修は不可能であり、その時期がくるまでにタップホールレンガの上部が大きく溶損してしまうことがあった。このように溶損が進行すると、タップホールレンガ周囲のスリーブレンガの上部まで溶損されてしまう。タップホールレンガの取替えは、比較的容易に実施出来る方法があるが、スリーブレンガの取替えは作業時間がかかることと、労力およびコストがかかる面から、容易に実施することは出来ない。一度スリーブレンガを溶損させてしまうと、その溶損部を耐火物で補修したとしても、この耐火物はレンガと比べると弱いため、溶損は進行する一方である。このようになると、タップホールレンガの溶損も大きくなる一方である。このような理由から、タップホール上部周囲のタップホールレンガが激しく溶損する前にタップホールレンガを取替る必要があった。
【0004】
従来技術における溶損したタップホールレンガのタップホール上部に鉄管を挿入して載置する方法では、鉄管が挿入可能となる径まで溶損しなければ補修は不可能であり、その時期がくるまでにタップホールレンガの上部が大きく溶損してしまい、レンガ上部の溶損を理由にタップホールレンガを取替となる場合が発生することがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001-215084
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、タップホールを有する偏芯炉底出鋼型の電気炉のレンガの構造において、溶鋼の出鋼により上部を溶損したタップホールレンガを取替える必要をなくし、かつ溶損したタップホールレンガのタップホールの上部に鉄管を載置して補修する必要をなくしながら、タップホールレンガの寿命を延長するものとした構造からなるタップホールを有する電気炉の炉底を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、偏芯炉底出鋼型の電気炉におけるものである。この電気炉の炉底に有するタップホールレンガの長さをその周囲のスリーブレンガの長さより長く形成し、このタップホールレンガの上端を周囲のスリーブレンガの上端よりも上方に突出した構造から形成していることを特徴とするタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底である。
【0008】
請求項2の発明では、タップホールレンガの上端を周囲のスリーブレンガよりも上方に突出した構造は、タップホールレンガとその周囲のスリーブレンガで形成される段差の部分であるスリーブレンガの上およびスリーブレンガの外側の炉底の不定形耐火物の上に、不定形耐火物をタップホールレンガの上面位置まで埋めて補強した構造であることを特徴とする請求項1の手段のタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底である。
【0009】
請求項3の発明では、タップホールレンガとその周囲のスリーブレンガで形成される段差を不定形耐火物で埋めて補強した構造は、不定形耐火物の下部を耐火レンガを用いて置換して上部を不定形耐火物のままでタップホールレンガの上面位置まで埋めて補強した構造であることを特徴とする請求項2の手段のタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底である。
【発明の効果】
【0010】
上記の請求項1の手段の構造の電気炉により、タップホールレンガの上部の溶損を理由にタップホールレンガを取替えとするケースがなくなり、タップホールレンガの上部の寿命を20〜30%延長させることができる。
【0011】
また請求項2の手段の構造の電気炉により、タップホールレンガの上部の溶損を理由にタップホールレンガを取替えとするケースがなくなり、タップホールレンガの上部の溶損をタップホールレンガの寿命を20〜30%延長させることができる効果をより的確に得ることができる。
【0012】
さらに請求項3の手段の構造の電気炉により、タップホールレンガの上部の溶損を理由にタップホールレンガを取替えとするケースがなくなり、タップホールレンガの上部の寿命を20〜30%延長させることができる効果をより一層的確に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の偏芯炉底出鋼型の電気炉を模式的に断面で示した側面図である。示した図である。
【図2】本発明のタップホールレンガがスリーブレンガより上方に突出している状態を模式的に示した図である。
【図3】本発明のタップホールレンガとスリーブレンガとの段差部を不定形耐火物にて埋めた状態を模式的に示した図で、(a)は段差部を面一に補強し、(b)はタップホールレンガ際を同一の高さ最も高いものとして補強した図である。
【図4】本発明のタップホールレンガとスリーブレンガとの段差部を耐火レンガおよびその上の不定形耐火物で補強した状態を模式的に示した図である。
【図5】図2のタップホールレンガの上部が出鋼により溶損した状態を模式的に示した図である。
【図6】図3のタップホールレンガの上部および周辺を補強した不定形耐火物が出鋼により溶損した状態を模式的に示した図である。
【図7】図4のタップホールレンガおよび不定形耐火物が出鋼により溶損した状態を模式的に示した図である。
【図8】一般的な従来のタップホールレンガが設けられた炉底を模式的に示した図である。
【図9】図8に示すタップホールレンガが出鋼により溶損した状態を模式的に示した図である。
【図10】図9の状態で、補修を行わずに出鋼を行い、タップホールレンガに加えてスリーブレンガが溶損した状態を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
先ず、従来の偏芯炉底出鋼型の電気炉のタップホールレンガ8およびその周辺の炉底7の構造について添付図面に基づいて説明する。図8は、従来のタップホール8aを有するタップホールレンガ8とその周囲に設けたスリーブレンガ2と炉底7を形成する不定形耐火物3を模式的に示している。上述したように、電気炉で溶製した溶鋼が出鋼により従来のタップホールレンガ8のタップホール8aを流下することで、溶鋼による摩擦と溶鋼の熱とにより、タップホール8aの上部がラッパ状に拡大されて溶損していく。
【0015】
図9は、図8に示す従来のタップホールレンガ8が出鋼によりタップホールレンガ8の上部が溶損して、タップホール8aの周囲の上部が溶損部12となっているタップホールレンガ9の状態を模式的に示している。しかし、この図9の状態では、スリーブレンガ2の上部はまだ溶損していない。しかし、このタップホールレンガ9のタップホール8aの中央部の溶損は少ないため、従来の補修方法(例えば、特許文献1参照。)では、補修することはできない。しかし、上述したように、このまま使用して出鋼を繰り返し続けるとスリーブレンガ2の上部が溶損されるので、これを防ぐために上部が溶損したタップホールレンガ9の取替えは必要な状態である。
【0016】
図10は、図9に示す上部が溶損したタップホールレンガ9の状態で、補修を行うことなく繰り返して出鋼を行った結果、タップホールレンガ9の上部およびタップホール8aの内径の周囲が溶損して拡大し、しかもタップホールレンガ9の周囲のスリーブレンガ10の上部が溶損している状態を模式的に示している。しかし、この様になると、上述したように、溶損したスリーブレンガ10を取替えことは、作業時間と労力とコストの面から容易に実施することは出来なくなる。
【0017】
次いで、図1に示す電極14、タップホール6aおよび出滓口15を備えた偏芯炉底出鋼型の電気炉13のタップホールレンガ1およびその周辺の炉底7の構造について添付図面に基づいて説明する。図2は、本願の基本構造の発明に係る構成からなる、電気炉の炉底7のタップホールレンガ1の周辺を示している。中央部にタップホール1aを有するタップホールレンガ1の長さはその周りに嵌合されているスリーブレンガ2よりも長く、しかも、タップホールレンガ1のよりも長い部分がスリーブレンガ2およびその周囲の炉底7を形成するする不定形耐火物3よりも上方に突出して設けられている構造を有する電気炉の炉底7の構造を模式的に示している。なお、タップホールレンガ1およびスリーブレンガ2の下端は同一平面に位置している。
【0018】
図3は、第2の発明に係る構成で、電気炉の炉底7のタップホールレンガ1の周辺を示している。この構造では、本発明の長いタップホールレンガ1の上方に突出した部分と、タップホール1の周囲のスリーブレンガ2および炉底の不定形耐火物3との間で形成された段差の部分を不定形耐火物4で埋めた状態を模式的に示している。この場合も、タップホールレンガ1およびスリーブレンガ2の下端は同一平面に位置している。このうち、図3の(a)は、タップホールレンガ1の上面と、スリーブレンガ2の上面および炉底の不定形耐火物3の上面とで形成された段差の部分を不定形耐火物4で埋めて、不定形耐火物4の上面をタップホールレンガ1の上面と同じ高さとしたものである。一方、図3の(b)は、タップホールレンガ1の上面際の段差の部分を埋めた不定形耐火物4の上面をタップホールレンガ1の上面と同位置の最も高い位置とし、不定形耐火物4の上面をその高い位置から順次に炉底の不定形耐火物3の上部の部分へ傾斜しながら低くして載置している。
【0019】
図4は、第3の発明に係る構成で、電気炉の炉底7のタップホールレンガ1の周辺を示している。この構造では、本発明の長いタップホールレンガ1の上方に突出した部分と、タップホール1の周囲のスリーブレンガ2および炉底の不定形耐火物3との間で形成された段差の部分を、スリーブレンガ2の上では耐火レンガ5を載置し、さらにその耐火レンガ5の上を不定形耐火物4で埋めており、さらにその周囲の炉底を形成する不定形耐火物3の上を上記の不定形耐火物4で埋めている状態を模式的に示している。この場合も、タップホールレンガ1およびスリーブレンガ2の下端は同一平面に位置している。
【0020】
図5は、図2に示す基本構造のタップホールレンガ1の上部が、この電気炉から出鋼する溶鋼により溶損されて、溶損した状態のタップホールレンガ6の状態を模式的に示した図である。図5において仮想線で示している部分はこの溶損部12である。図2のタップホールレンガ1は上方に突出しているため、図5に示す溶損した状態のタップホールレンガ6の突出部の溶損は大きいが、スリーブレンガ2は溶損するまでには、まだ至っていない。したがって、この状態では補修することなく、なお出鋼することができる。
【0021】
図6は、図3に示す構造のタップホールレンガ1と、スリーブレンガ2および炉底を形成する不定形耐火物3の上部を不定型耐火物4で埋めた状態の電気炉から、出鋼により溶損した状態のタップホールレンガ6と上記の不定形耐火物4の一部損傷した状態を模式的に示す図である。図6において仮想線で示している部分はこの溶損部12である。図5と比較してタップホールレンガ6の突出部の外周は不定形耐火物4で保護されているので、溶損は少ない。したがって、この状態では補修することなく、なお出鋼することができる。
【0022】
図7は、図4に示す構造のタップホールレンガ1と、スリーブレンガ2および炉底を形成する不定形耐火物3の上部を、スリーブレンガ2の部分ではその上面に耐火煉瓦5を載置し、さらにその上および炉底を形成する不定形耐火物3の上を不定型耐火物4で埋めた状態の電気炉から、出鋼により、タップホールレンガ1と不定下位耐火物3が溶損して、溶損した状態のタップホールレンガ6と、上部の不定形耐火物4が損耗した状態を模式的に示ししている。図6と比較してタップホールレンガ6の外周のスリーブレンガ2はその上を耐火レンガ4で保護しているので溶損はない。図7において仮想線で示している部分はこの溶損部12である。
【実施例1】
【0023】
本発明の実施例について、図2に示す、上方に突出した長いタップホールレンガ1とスリーブレンガ2との段差の部分および炉底の不定形耐火物3の上を、図3の(a)に示すように、不定形耐火物4でタップホールレンガ1の上面の高さまで埋めて補強した。このタップホールレンガ1を有する電気炉を例に説明する。タップホールレンガ1およびスリーブレンガ2の各レンガは材質がMgCである。この実施例では、長いタップホールレンガ1の高さは約1100mmで、スリーブレンガ2の高さは約1000mmである。したがって、これらのレンガからなる段差の部分は100mmであり、この100mmの段差の部分を水分を若干含ませて練った不定形耐火物で、図3の(a)に示すように、埋めた。この状態で電気炉の精錬を行ったところ、約160回の出鋼では、図6に示すように、スリーブレンガ2の溶損はなく、タップホールレンガ6のタップホール1aの上部の内径側が溶損した状態となった。引き続き操業を行ったところ、195回の出鋼で、図9に示すように、不定形耐火物4が溶損し尽くしてスリーブレンガ2が溶損する直前の状態となった。そこで、この溶損した状態のタップホールレンガ6をタップホールレンガ1に取替えて再度、図3の状態に不定形耐火物4で埋め戻し、電気炉の操業を実施した。
【実施例2】
【0024】
本発明の実施例について、図4に示す、上方に突出した長いタップホールレンガ1とスリーブレンガ2との段差の部分および炉底の不定形耐火物3の上を、スリーブレンガ2の上には耐火レンガ5載置し、その上に不定形耐火物4で補強し、炉底を形成する不定形耐火物の3の上には上記の不定形耐火物4で補強し、それらの上面をタップホールレンガ1の上面と同一の高さとした構造により説明する。上記の実施例1と同様に、タップホールレンガ1およびスリーブレンガ2並びに耐火煉瓦5はいずれも材質がMgCであるMgCレンガである。この実施例においても、長いタップホールレンガ1は約1100mmで、スリーブレンガ2の高さは約1000mmである。この100mmの段差の部分のスリーブレンガ2の上に、縦250mm×横150mm×高さ95mmのMgCレンガをタップホールレンガ1に接するように置き、その上面の5mmの高さの部分に水分を若干含ませて練った不定形耐火物4を載置して、図4に示すように、埋めた。この状態で電気炉の精錬を行ったところ、約155回の出鋼で、図7に示すように、溶損部12が生じたが、スリーブレンガ6は耐火レンガ5で保護されて、スリーブレンガ2の溶損はなく、タップホールレンガ6の上部のタップホール1aの内側が溶損した状態となった。そこで、引き続き操業を行ったところ、190回の出鋼で、耐火レンガ5も無くなり、図9のような、スリーブレンガが溶損する直前の状態となった。そこで、この溶損した状態のタップホールレンガ6をタップホールレンガ1に取替え、スリーブレンガ2の上に耐火レンガ5、さらにその上および炉底を形成する不定形耐火物3の上に不定形耐火物4を載置して図4の状態に戻し、電気炉の操業を実施した。
【符号の説明】
【0025】
1 タップホールレンガ
1a タップホール
2 スリーブレンガ
3 炉底を形成する不定形耐火物
4 不定形耐火物
5 耐火レンガ
6 溶損した状態のタップホールレンガ
7 電気炉の炉底
8 従来のタップホールレンガ
8a タップホール
9 上部が溶損した従来のタップホールレンガ
10 上部および内径部が溶損している従来のタップホールレンガ
11 上部が溶損しているスリーブレンガ
12 溶損部
13 偏芯炉底出鋼型の電気炉
14 電極
15 出滓口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏芯炉底出鋼型の電気炉において、タップホールレンガの長さを周囲のスリーブレンガの長さよりも長く形成し、タップホールレンガの上端を周囲のスリーブレンガの上端よりも上方に突出した構造から形成していることを特徴とするタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底。
【請求項2】
タップホールレンガの上端を周囲のスリーブレンガよりも上方に突出した構造は、タップホールレンガとその周囲のスリーブレンガで形成される段差を不定形耐火物で埋めて補強した構造から形成していることを特徴とする請求項1に記載のタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底。
【請求項3】
タップホールレンガとその周囲のスリーブレンガで形成される段差を不定形耐火物で埋めた構造は不定形耐火物の下部を耐火レンガで置換して補強した構造であることを特徴とする請求項2に記載のタップホールレンガおよびその周囲のスリーブレンガを有する電気炉の炉底。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−191044(P2011−191044A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−59967(P2010−59967)
【出願日】平成22年3月16日(2010.3.16)
【出願人】(000180070)山陽特殊製鋼株式会社 (601)
【Fターム(参考)】