説明

タフトカーペット基布

【課題】ホルムアルデヒドの発生が問題となる用途に利用可能で、環境の空気へのホルムアルデヒドの放出量が低く、特に自動車用のタフトカーペット基布に好適な長繊維不織布材料を提供する。
【解決手段】合成樹脂フィラメントと、該フィラメントを互いに固定させるバインダー成分とで構成される長繊維不織布において、フィラメントの繊度が1.5〜3.5dtex、 バインダー樹脂の含有率が3〜30質量%、目付が70〜200g/mであり、放出されるホルムアルデヒドの量が0.50μg以下であることを特徴とするタフトカーペット基布。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成樹脂フィラメントと、該フィラメントを互いに固定させる能力をもつバインダー成分とで構成され、カーペットや床材の基布に好適な長繊維不織布に関するものであり、さらに詳しくは、自動車用カーペットに好適な基布に関するものである。
【背景技術】
【0002】
長繊維不織布において繊維間を接着し固定する方法として、バインダー成分を用いる方法が広く採用され、バインダー成分としては、エマルジョンタイプの接着用樹脂を使用する方法が最も一般的であり、自己架橋性樹脂を架橋させることや反応性基含有樹脂と架橋剤を併用することが幅広く用いられている。これらの架橋成分は、メチロール基であり、ホルムアルデヒド発生の原因となる。
【0003】
さて近年、環境の空気質とアレルギー等の各種疾患との関連に社会の関心が高まってきており、住宅に於ける室内空気汚染問題はシックハウス症候群、シックビルディング症候群等の症例として取り上げられているが、室内空気汚染物質としてホルムアルデヒド、揮発性有機化合物(VOC)等が問題となっている。
特にホルムアルデヒドに関しては、1997年に厚生省(当時)から住宅におけるガイドライン値が発表されるなど、明確に問題視されてきており、その発生源は、住宅建築材料である木材、合板、内装材に使われる接着剤、防腐剤、防蟻剤、生活空間内の家具・調度品、生活用品、および業務用事務機器等あらゆる分野に渡っている。
ホルムアルデヒド対策として、ホルムアルデヒド吸着剤を具備させる方法(特許文献1など)やホルムアルデヒド吸着剤をコーティングする方法(特許文献2など)などが知られているが、十分な対策にはなっていない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−046965号公報
【特許文献2】特開2000−287819号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、環境の空気質への影響を考慮せざるを得なくなった現在の情勢に合致すべく、生活用品、産業資材、建築材料、土木資材等のさまざまな分野において、将来規制されるであろうホルムアルデヒド環境基準に適合させる用途に利用可能な、環境の空気へのホルムアルデヒドの放出量が低く、特に自動車用のタフトカーペット基布に好適な長繊維不織布材料を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は以下の構成を採用する。
1.合成樹脂フィラメントと、該フィラメントを互いに固定させるバインダー成分とで構成される長繊維不織布において、フィラメントの繊度が1.5〜3.5dtex、 バインダー樹脂の含有率が3〜30質量%、目付が70〜200g/mであり、シリコン樹脂エマルジョンを含み、放出されるホルムアルデヒドの量が0.50μg以下であることを特徴とするタフトカーペット基布。
2.合成樹脂フィラメントが、互いに熱及び圧力によって固定された後、さらにバインダー成分によって固定されてなることを特徴とする前項1に記載のタフトカーペット基布。
3.合成樹脂フィラメントが、ニードルパンチによって互いに絡められた後、さらにバインダー成分によって固定されてなることを特徴とする前項1に記載のタフトカーペット基布。
4.合成樹脂フィラメントが、ニードルパンチによって互いに絡められた後、バインダー成分によって固定され、その後、さらに熱及び圧力によって固定されてなることを特徴とする前項1に記載のタフトカーペット基布。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境へのホルムアルデヒドの放出量が低く、かつタフト性に優れたカーペット用基布を提供でき、この基布は、特に自動車のカーペット用に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における長繊維不織布は、スパンボンド法等の従来公知の製造方法によって得られる長繊維不織布であり、多数のノズル孔をもつ紡糸口金からの溶融紡糸されたフィラメントを主たる構成材料とするものである。
本発明におけるフィラメントを形成する合成樹脂とは、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの公知の合成繊維材料を用いることができるが、リサイクルのしやすさ、耐熱性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のホモポリエステルやこれらの成分以外に共重合成分を有する公知の共重合ポリエステルなどの一般的なポリエステルが好ましい。
これらの合成樹脂材料には安定剤、紫外線吸収剤、吸湿剤、滑剤、顔料等が含まれても良いが、これらにホルムアルデヒドの発生源を有することは好ましくない。
【0009】
合成樹脂フィラメントの繊度は1.5〜3.5dtexである。繊度が1.5dtexより小さい場合は糸切れを引き起こし、その操業性の悪化要因となる他、繊維の接着点数や接着点密度が増し、タフティングの際に接着点の破壊及び繊維の切断による引張り強力の低下が大きくなり、かつタフティングの際の針の貫通抵抗が過大になる。また反対に繊度が3.5dtexより大きいと、目が大きくなり、タフト針の貫通抵抗は低くなるが、パイル糸の保持力低下し、また、繊維の絡み及び接点が減少し強度が低下する。
【0010】
紡出されたフィラメントはコンベアネットなどで捕集されてウエブを形成し、該ウエブのフィラメントは、必要によりエンボスカレンダーなどによる加熱、圧着処理、ニードルパンチなどによる絡合処理、バインダー樹脂処理などの種々の接合手段によって接合される。
【0011】
エンボスカレンダーによる加熱温度は、合成樹脂の融点−15℃から−80℃の範囲が好ましく、ポリエステルの場合は、180〜250℃が好ましく、より好ましくは200〜230℃である。この処理により、後のバインダー成分で固定する工程でのシートの搬送性が安定する、シートを薄くできる等の効果が得られる。
【0012】
ニードルパンチによる絡合処理をする場合は、ニードルパンチングの針密度は、ニードルパンチング用針の形状や挿入深さによって20〜160回/cmの範囲内に設定されるのが好ましく、更には60〜120回/cmが好ましい。上記針密度が20回/cm未満の場合には、ニードルパンチングの効果がなく、強伸度が著しく低下するためその後の加工工程で歪みが発生し、シワ等の要因となる。また反対に160回/cmを超えた場合、繊維や、接着点の切断が激しく、強力が低下する。
【0013】
ニードルパンチによる繊維の絡み状態の調整により、シートが厚くできる、シートを薄くできる、厚さ方向にシートが剥離しにくくなる、等の特徴を付与できる。
バインダー樹脂処理する前のシートの目付は60〜150g/m、好ましくは80〜120g/mである。この不織布ウェッブの目付量が60g/m未満の場合には、タフトカーペット用基布として必要な引張り強力や5%伸張時応力などの物性が得られず、製品カーペットの寸法安定性が低くなる。反対に目付量が大きすぎると、過剰物性となって基布として不経済となるばかりでなく、目付増加による厚みの増加で消費パイル糸も増え、製品としても不経済である。また、厚みが増すことにより、バッキング材の基布への入り込みが低下し、これにより製品のキャスター性が低下するという問題もかかえることになる。
【0014】
バインダー樹脂処理は、噴霧、浸漬、コーティングなどを適宜選択できるが、上記のエンボスカレンダー処理やニードルパンチング処理されたウエブをバインダー樹脂処理浴中に浸漬後、絞るパッド・ニップ法が好ましい。
【0015】
バインダー樹脂としては、ポリエステル樹脂水系エマルジョン、アクリル樹脂水系エマルジョンなどでホルマリンや有機溶剤などのVOCの発生源にならないものが好ましい。 エマルジョンタイプの樹脂に、触媒、PH調整剤、浸透剤、消泡剤、分散剤等の助剤を併用することができるが、これらにホルムアルデヒドの発生源にならないものが好ましい。
【0016】
バインダー樹脂液が付与された後は、通常80〜130℃程度の温度で乾燥し、次いで130〜200℃で1〜10分間、好ましくは150〜180℃で1〜5分間のベーキング処理をする。ベーキング処理することで、VOCを著しく低減させることができる。
【0017】
バインダー樹脂の固形分付与量は、全基布質量に対して3〜30質量%であり、好ましくは5〜15質量%である。バインダー樹脂の固形分付与量が5質量%未満の場合には、製品の引張り強さが不足し、30質量%を超えた場合は、タフティングの際にタフティング用針の貫通抵抗が大きく、また構成繊維の切断による物性の低下が甚だしく、二次加工性及び製品後の寸法安定性を低下させる。
【0018】
バインダー樹脂加工後に、さらに、カレンダーローラー等の熱及び圧力を作用させて、フィラメント間の固定をより強固にしたり、シート表面のバインダー樹脂を平滑化したり、エンボスパターンを付与することができる。
カーペット基布としての目付は、70〜200g/mであり、放出されるホルムアルデヒドの量が0.50μg以下である。
本発明における放出されるホルムアルデヒドの量とは、以下の方法で測定されるものである。
【0019】
すなわち、一時間あたりの通気量12リットルの温度70℃の窒素ガス流雰囲気下において面積500cmの長繊維不織布から窒素ガス12リットル中に放出されるホルムアルデヒドの量である。すなわち、測定試料の一定質量に対してではなく、一定面積からのホルムアルデヒド発生量を測定するものであり、使用空間に面する壁、床、天井、その他物品の特定面積からの室内空気汚染の影響を受ける使用者の現実の利用状況にできるだけ近い形で評価するものである。
【0020】
本発明は、この分野ではほとんど実用的に用いられなかったノンホルマリンのバインダー樹脂の使用と適切な繊度低減を組み合わせる事によって、ニードルパンチでの繊維の絡みの増大や、フィラメント間の接点増大効果を狙うことにより、従来のホルマリン由来の架橋剤を使用した場合と遜色ない物性と加工性を確保することができる。逆に、従来のホルマリン系バインダー樹脂では、長繊維不織布の繊度を小さくすると、バインダーの結合が強過ぎ、タフト加工性が損なわれるが、本発明では、このような欠点は認められない。 本発明のカーペット基布のタフティング時のタフト針の貫通抵抗は、8N以下であることが好ましく、より好ましくは、6N以下である。
【実施例】
【0021】
以下に、本発明を実施例によって説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
(1)ホルムアルデヒド発生量は次の方法:長繊維不織布5cm×10cm×10片を採取容器にとる。採取容器内温度=70℃で高純度窒素ガスを0.2ml/minの速度で流入させ、市販のDNPH(2,4−ジニトロフェニルヒドラジン)カートリッジに1時間12リットル通し、発生したホルムアルデヒドをDNPH誘導体化し固相吸着させる。 カートリッジからアセトニトリル5mlでホルムアルデヒドDNPH誘導体を抽出し、試料溶液を作成する。
試料溶液を高速液体クロマトグラフ(HPLC):Hewlett−Packard社製HP1100:に導入し分析する。
その他のHPLC分析条件は、カラム:Waters社製μBondapak C1810μm 125Å 3.9mm×150mm、移動相:水/アセトニトリル=45/55、流速=0.8ml/min、検出:UV 360nm。
以上より、一時間あたりの通気量12リットルの温度70℃の窒素ガス流雰囲気下において面積500cmの長繊維不織布から窒素ガス12リットル中に放出されるホルムアルデヒドの量を求める。
【0022】
(2)貫通抵抗:
得られたカーペット用基布を円形土台の上にベルトで固定し、エー・アンド・デイ社製RTC−1250測定器の上側チャックにタフティング針を一本設置し、それを用いて土台上のタフテッドカーペット用基布に穿孔し、その際の荷重(N)を測定した。なお、タフト針はSNF Spezialnadelfabrik社製0556FLを用いた。
【0023】
(3)タフト性評価:
得られたカーペット用基布に920デニールのナイロン製パイル糸を用いてゲージ8本/1インチ、ステッチ数8/1インチ、ループパイルの高さ4mmの条件でタフティングを行い、タフト性の評価を行なった。
【0024】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸し、スパンボンド法により単糸繊度を2.2dtexのフィラメントでウエブを形成し、ニードルパンチ加工(針密度65回/cm、針深さ10mm)を施した後、ノンホルマリンタイプのアクリル樹脂:大日本インキ化学工業社製VONCOAT ED−85及び平滑剤としてシリコン樹脂エマルジョンである大日本インキ化学工業社製DIC−SILICONE−SOFTNER 300の調合液をパッド・ニップして乾燥後、160℃で3分間ベーキングし、目付100g/mでバインダー成分の付与量が10質量%の基布を得た。この基布を前述の方法でホルムアルデヒド発生量を測定した結果、ホルムアルデヒド発生量は0.29μgであった。また、タフト針貫通抵抗は5Nであった。
さらに、得られた基布について、タフト性を評価したところ、何ら問題がなかった。
【0025】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸し、スパンボンド法により単糸繊度を3.9dtexのフィラメントでウエブを形成し、ニードルパンチ加工(針密度65回/cm、針深さ10mm)に続き、エンボスローラーで熱接着(200℃)した後、ホルムアルデヒドフリータイプの自己架橋型アクリル樹脂(BASFディスパージョン社製 アクロナール2348)及び実施例1と同じ平滑剤にて実施例1と同様にパッド・ニップ・ベーキング方式で固定化処理した後、さらにカレンダーローラーで熱圧着(205℃)し、目付160g/mでバインダー成分の付与量が15%の基布を得た。
この基布を前述の方法でホルムアルデヒド発生量を測定した結果、ホルムアルデヒド発生量は0.44μgであった。タフト針貫通抵抗は6Nであった。
さらに、得られた基布について、タフト性を評価したところ、何ら問題がなかった。
【0026】
[比較例1]
ポリエチレンテレフタレートを溶融紡糸し、スパンボンド法により単糸繊度を3.9dtexのフィラメントでウエブを形成し、エンボスローラーで熱接着した後、一般的な架橋反応性をもつアクリル樹脂および架橋剤としてメラミン樹脂、触媒として3級アミンからなる調合液にて実施例1と同様にパッド・ニップ・ベーキング方式で固定化処理した後、さらにカレンダーローラーで熱圧着(205℃)し、目付100g/mでバインダー成分の付与量が10%の基布を得た。
この基布を前述の方法でホルムアルデヒド発生量を測定した結果、ホルムアルデヒド発生量は9.17μgであった。タフト針貫通抵抗は12Nであった。
【0027】
[比較例2]
実施例1において、単糸繊度を4.0dtexとした以外は、実施例1と同様にして基布を得た。さらに、得られた基布について、タフト性を評価したところ、パイル糸の保持力が低く、また、基布としての特性に劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明によれば、環境へのホルムアルデヒドの放出量が低く、かつタフト性に優れたカーペット用基布を提供でき、この基布は、特に自動車のカーペット用に好適である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂フィラメントと、該フィラメントを互いに固定させるバインダー成分とで構成される長繊維不織布において、フィラメントの繊度が1.5〜3.5dtex、 バインダー樹脂の含有率が3〜30質量%、目付が70〜200g/mであり、シリコン樹脂エマルジョンを含み、放出されるホルムアルデヒドの量が0.50μg以下であることを特徴とするタフトカーペット基布。
【請求項2】
合成樹脂フィラメントが、互いに熱及び圧力によって固定された後、さらにバインダー成分によって固定されてなることを特徴とする請求項1に記載のタフトカーペット基布。
【請求項3】
合成樹脂フィラメントが、ニードルパンチによって互いに絡められた後、さらにバインダー成分によって固定されてなることを特徴とする請求項1に記載のタフトカーペット基布。
【請求項4】
合成樹脂フィラメントが、ニードルパンチによって互いに絡められた後、バインダー成分によって固定され、その後、さらに熱及び圧力によって固定されてなることを特徴とする請求項1に記載のタフトカーペット基布。


【公開番号】特開2007−224493(P2007−224493A)
【公開日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−87792(P2007−87792)
【出願日】平成19年3月29日(2007.3.29)
【分割の表示】特願2003−120989(P2003−120989)の分割
【原出願日】平成15年4月25日(2003.4.25)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】