説明

タンク

【課題】口金部に過度の応力がかかることを防止して、高い耐久性と強度を有するタンクを提供する。
【解決手段】筒状の口金部11と、当該口金部11が取り付けられたタンク本体のFRP層21とを有する高圧タンク2において、タンク本体のFRP層21は、一部が口金部11の外周面に接触しており、タンク本体のFRP層21の内層21aは、外層21bよりも軟らかく形成されている。FRP層21は、樹脂含有繊維により構成され、樹脂の含有量を増やすことにより、内層21aが軟らかくなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口金部と、当該口金部に接触したタンク本体の壁層を有するタンクに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車等の車両に搭載される燃料電池システムには、燃料ガスの供給源として高圧タンクが用いられる。この種のタンクとして、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このタンクは、例えばライナー層(内壁層)の外周面を、FRP(Fiber Reinforced Plastics)層(外壁層)で補強したタンク本体と、そのタンク本体の長手方向の開口端部に取り付けられた筒状の口金部を有している。
【0003】
口金部は、例えばタンク本体の開口端部に嵌入された状態で取り付けられており、当該開口端部を構成するタンク本体の壁層は、口金部の外周面に気密に接触している。
【0004】
【特許文献1】特開2007−155116号公報
【特許文献2】特開2000−266289号公報
【特許文献3】特開平7−310895号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようなタンクに高圧のガスが封入されると、タンク本体の壁層に内圧がかかり、当該壁層に接触する口金部に過度の応力がかかることがある。口金部に過度の応力がかかると、例えば長期間の使用したときに口金部に亀裂を生させる原因となりかねない。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、口金部に過度の応力がかかることを防止して、高い耐久性と強度を有するタンクを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、筒状の口金部と、当該口金部が取り付けられたタンク本体の壁層とを有するタンクであって、前記タンク本体の壁層は、一部が前記口金部の外周面に接触しており、前記タンク本体の壁層の少なくとも前記一部を含む一の部分は、他の部分よりも軟らかく形成されていることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、タンク本体の壁層の前記口金部と接触する部分が軟らかく形成されているので、タンク本体の壁層を通じて口金部にかかる応力が分散し平均化して、口金部に過度の応力がかかることを防止できる。この結果、タンクの耐久性及び強度を向上できる。
【0009】
前記タンク本体の壁層の前記一部は、前記口金部の外周面において口金部の軸方向の中央部側が端部側より厚くなるように形成されていてもよい。
【0010】
前記タンク本体の壁層は、前記一部のある内周面側よりも外周面側が硬くなるように形成されていてもよい。
【0011】
前記タンク本体の壁層は、内周面側から外周面側に向けて段階的に硬くなっていてもよい。
【0012】
前記タンク本体の壁層は、樹脂含有繊維により構成され、樹脂の含有量を増やすことにより、前記一の部分が軟らかくなっていてもよい。
【0013】
別の観点による本発明は、外周面に内側に凹んだ凹部を有する筒状の口金部と、当該口金部の凹部に一部が入り込んだタンク本体の壁層とを有するタンクであって、前記タンク本体の壁層と前記口金部の凹部との間には、弾力性を有する部材が介在されていることを特徴とする。
【0014】
本発明によれば、口金部とタンク本体の壁層との間に、弾力性を有する部材が介在されているので、タンク本体の壁層と通じて口金部にかかる応力が分散し平均化して、口金部に過度の応力がかかることを防止できる。この結果、タンクの耐久性及び強度を向上できる。
【0015】
別の観点による本発明は、外周面に内側に凹んだ凹部を有する筒状の口金部と、当該口金部の凹部に一部が入り込んだタンク本体の壁層とを有するタンクであって、前記タンク本体の壁層の全体が、柔軟性を有する材料で構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によれば、タンク本体の壁層の全体が柔軟性を有する材料で構成されているので、タンク本体の壁層を通じて口金部にかかる応力が分散し平均化して、口金部に過度の応力がかかることを防止できる。この結果、タンクの耐久性及び強度を向上できる。
【0017】
前記タンク本体の壁層は、樹脂含有繊維により構成され、含有樹脂に軟質樹脂が用いられていてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、口金部に過度の応力がかかることを防止できるので、タンクの耐久性及び強度を向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。図1は、本実施の形態に係るタンクを搭載した燃料電池自動車1の模式図である。
【0020】
燃料電池自動車1には、例えば3つの高圧タンク2が車体のリア部に搭載されている。高圧タンク2は、燃料電池システム3の一部を構成し、ガス供給ライン4を通じて各高圧タンク2から燃料電池5に燃料ガスが供給可能になっている。高圧タンク2に貯留される燃料ガスは、可燃性の高圧ガスであり、例えば圧縮天然ガス又は水素ガスである。なお、高圧タンク2は、燃料電池自動車1のみならず、電気自動車、ハイブリッド自動車などの車両のほか、各種移動体(例えば、船舶や飛行機、ロボットなど)や定置設備(住宅、ビル)にも適用できる。
【0021】
図2は、高圧タンク2の要部を示す断面図である。高圧タンク2は、例えば略楕円体のタンク本体10と、当該タンク本体10の長手方向の一端部に取り付けられた口金部11を有する。なお、本実施の形態では、口金部11が取り付けられている側を高圧タンク2の前方とする。
【0022】
タンク本体10は、例えば二層構造の壁層を有し、内壁層であるライナー20とその外側の外壁層である樹脂含有繊維層としてのFRP層21を有している。
【0023】
ライナー20は、タンク本体10とほぼ同じ略楕円体形状を有する。ライナー20は、例えばポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、またはその他の硬質樹脂などにより形成されている。
【0024】
ライナー20の口金部11のある前方端部側には、内側に屈曲した折返し部30が形成されている。折返し部30は、外側のFRP層21から離間するようにタンク本体10の後方に向けて折り返されている。折返し部30は、例えば内側(軸Y側)に凸に湾曲する湾曲形状を有している。この折り返し部30によりライナー20の開口部が形成されている。
【0025】
口金部11は、略円筒形状を有し、ライナー20の開口部に嵌入されている。口金部11は、例えばアルミニウム又はアルミニウム合金からなり、例えばダイキャスト法等により所定の形状に製造されている。口金部11は、例えばインサート成形によりライナー20に取り付けられている。
【0026】
口金部11の例えば前方端部の外周面には、軸周りに環状の鍔部11aが形成されている。その鍔部11aの後方側には、軸周りに環状の凹み部11bが形成されている。凹み部11bは、軸Y側(内側)に凸に湾曲しR形状になっている。この凹み部11bには、同じくR形状のFRP層21の前方端部が気密に接触している。
【0027】
口金部11の凹み部11bのさらに後方側には、例えば凹み部11bに連続して径の大きい大径部11cが形成されている。その大径部11cの後方側には、軸周りに環状の凹み部11dが形成されている。凹み部11dは、軸側に凸に湾曲しR形状になっている。この大径部11cと凹み部11dの外周面に密着するように、上記ライナー20の折返し部30が形成されている。
【0028】
例えば口金部11の軸Y側の内周面には、ネジ部40が形成され、バルブアッセンブリ50が挿入され螺着されている。バルブアッセンブリ50は、例えば外部のガス供給ラインと高圧タンク2の内部との間で燃料ガスの給排を制御するものである。口金部11の内周面とバルブアッセンブリ50の外周面との間には、シール部材60、61が介在されている。
【0029】
FRP層21は、例えばフィラメントワインディング法により、ライナー20の外周面と口金部11の外周面の凹み部11bに、樹脂の含浸した補強繊維を巻き付け、当該樹脂を硬化させることにより形成されている。FRP層21の樹脂には、例えばエポキシ樹脂、変性エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が用いられる。また、補強繊維としては、炭素繊維、金属繊維などが用いられる。
【0030】
FRP層21は、例えば口金部11やライナー20に接触する一の部分としての内層21aと、その外側の他の部分としての外層21aの2層構造を有している。内層21aは、その外側の外層21bよりも例えば軟質樹脂の含有量が多く、外層21bと比べて軟らかくなっている。これにより、FRP層21の内層21aは、クッション材として機能する。なお、本実施の形態において、内層21aは、口金部11と接触するFRP層21の一部(前方端部)を含んでいる。
【0031】
以上の構成の高圧タンク2によれば、口金部11と接触するFRP層21の内層21aが外層21bよりも軟らかくなっている。このため、例えば高圧タンク2内に高圧のガスが封入され、タンク本体10に内圧がかかってFRP層21から口金部11に力が作用したときに、FRP層21の内層21aの柔軟性によりその力が分散される。それゆえ、口金部11にかかる応力が分散し平均化され、口金部11に過度の応力がかかることが防止される。この結果、高圧タンク2の耐久性及び強度を向上できる。
【0032】
図3は、FRP層21と口金部11との接触部にクッション性を持たせた場合の効果を実証するためのシュミュレーション結果を示す。このシュミュレーションは、有限要素法(FEM)解析を用いて、口金部11にかかる応力を計算したもので、(a)がFRP層21と口金部11との接触部にクッション性を持たせない場合であり、(b)がFRP層21と口金部11との接触部にクッション性を持たせた場合である。(a)の場合の口金部11にかかる最大応力を100とした場合、(b)の場合の口金部11にかかる最大応力は、62程度であった。このように、FRP層21と口金部11との接触部にクッション性を持たせることにより、口金部11にかかる最大応力が低下することが確認できる。
【0033】
また、以上の実施の形態では、FRP層21の内層21aの外側に、内層21aより硬い外層21bが形成されているので、FRP層21の全体の弾力性が十分に確保される。 また、FRP層21の全体の強度も維持される。
【0034】
また、以上の実施の形態では、FRP層21の硬さが内層21aと外層21bの2段階であったが、図4に示すように内側から外側に向けてFRP層21の硬さが3段階に変わってもよい。かかる場合、FRP層21の内層21a、中間層21c、外層21bの順に炭素繊維に対する樹脂の含有比率が下げられる。こうすることにより、FRP層21が外側に行くにつれ、段階的に硬くなり、FRP層21の強度とクッション性の両方を十分に確保できる。なお、FRP層21は、内側から外側に向けて硬さが4段階以上変わるものであってもよい。
【0035】
以上の実施の形態では、口金部11と接触するFRP層21の内層21aの厚みがほぼ一定であったが、図5に示すように口金部11の凹み部11bの外周面において内層21aが軸方向の中央部側が厚く、前後端部側が薄くなっていてもよい。例えば内層21aは、凹み部11bの前方側から後方側に向けて、初め薄くその後次第に厚くなり、その後次第に薄くなっている。こうすることにより、口金部11の凹み部11bの中央部付近にかかる最大応力が前後方向に分散されやすくなる。したがって、口金部11にかかる最大応力を好適に低減できる。
【0036】
また、以上の実施の形態では、FRP層21の内層21aを外層21bより軟らかくして、FRP層21と口金部11との接触部のクッション性を確保していたが、口金部11の凹み部11bとFRP層21との間に、弾力性を有する部材を介在するようにしてもよい。図6は、かかる一例を示すものであり、口金部11の凹み部11bとFRP層21との間に、例えばゴム材70が介在されている。こうすることにより、FRP層21から口金部11の凹み部11bに作用する力がゴム材70により吸収され、口金部11にかかる応力が分散し平均化する。この結果、口金部11に過度の応力がかかることが防止される。
【0037】
なお、この例において、凹み部11bとFRP層21との間に、ゴム材70に代えて、弾力性のある樹脂等を介在してもよい。
【0038】
さらに、図7に示すようにFRP層21の全体が、柔軟性を有する材料により構成されていてもよい。例えばFRP層21の炭素繊維の含有樹脂として、例えばヤング率が10GPa(ギガパスカル)(一般的なエポキシ樹脂の硬さ)以下、好ましくは5GPa以下の軟質のエポキシ樹脂等の軟質樹脂が用いられてもよく、かかる場合、FRP層21が、柔軟性を有する軟質樹脂含有炭素繊維により構成される。この場合、FRP層21の柔軟性により、FRP層21から口金部11の凹み部11bに作用する応力が分散し平均化する。この結果、口金部11に過度の応力がかかることが防止される。なお、柔軟性を有する材料としては、例えば5GPa以下の硬さを有するものが好ましい。
【0039】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に相到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0040】
例えば以上の実施の形態では、タンク本体10の壁層の構造は、ライナー20とFRP層21の二重構造に限られず、他の構造であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】高圧タンクを搭載した燃料電池自動車の模式図である。
【図2】高圧タンクの要部の拡大断面図である。
【図3】FRP層と口金部との接触部にクッション性を持たせない場合と、FRP層と口金部との接触部にクッション性を持たせた場合の、口金部にかかる応力のシュミュレーション結果を示す説明図である。
【図4】FRP層を3層に形成した場合の高圧タンクの要部の拡大断面図である。
【図5】FRP層の内層の厚みを変化させた場合の高圧タンクの要部の拡大断面図である。
【図6】FRP層と口金部の凹み部との間にゴム材を介在した場合の高圧タンクの要部の拡大断面図である。
【図7】FRP層全体に柔軟性を持たせた場合の高圧タンクの要部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0042】
2 高圧タンク
10 タンク本体
11 口金部
11b 凹み部
21 FRP層
21a 内層
21b 外層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の口金部と、当該口金部が取り付けられたタンク本体の壁層とを有するタンクであって、
前記タンク本体の壁層は、一部が前記口金部の外周面に接触しており、
前記タンク本体の壁層の少なくとも前記一部を含む一の部分は、他の部分よりも軟らかく形成されていることを特徴とする、タンク。
【請求項2】
前記タンク本体の壁層の前記一部は、前記口金部の外周面において口金部の軸方向の中央部側が端部側より厚くなるように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載のタンク。
【請求項3】
前記タンク本体の壁層は、前記一部のある内周面側よりも外周面側が硬くなるように形成されていることを特徴とする、請求項1又は2に記載のタンク。
【請求項4】
前記タンク本体の壁層は、内周面側から外周面側に向けて段階的に硬くなっていることを特徴とする、請求項3に記載のタンク。
【請求項5】
前記タンク本体の壁層は、樹脂含有繊維により構成され、樹脂の含有量を増やすことにより、前記一の部分が軟らかくなっていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のタンク。
【請求項6】
外周面に内側に凹んだ凹部を有する筒状の口金部と、当該口金部の凹部に一部が入り込んだタンク本体の壁層とを有するタンクであって、
前記タンク本体の壁層と前記口金部の凹部との間には、弾力性を有する部材が介在されていることを特徴とする、タンク。
【請求項7】
外周面に内側に凹んだ凹部を有する筒状の口金部と、当該口金部の凹部に一部が入り込んだタンク本体の壁層とを有するタンクであって、
前記タンク本体の壁層の全体が、柔軟性を有する材料で構成されていることを特徴とする、タンク。
【請求項8】
前記タンク本体の壁層は、樹脂含有繊維により構成され、含有樹脂に軟質樹脂が用いられていることを特徴とする、請求項7に記載のタンク。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−293742(P2009−293742A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−149788(P2008−149788)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】