説明

タンタルパラジウムスパッタリングターゲット及びその製造方法

【課題】半導体素子への銅拡散バリア性を保持しつつ、銅配線部を無電解めっきすることが可能であるタンタルパラジウムスパッタリングターゲット、及び十分な密度の焼結体とすることができる同スパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】タンタルとパラジウムとからなる半導体素子配線部の銅拡散防止バリア膜形成用スパッタリングターゲットであって、パラジウムが15原子%以上、70原子%以下であり、残部がタンタル及び不可避不純物からなるタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。タンタルとパラジウムからなる焼結体の製造方法であって、タンタルとパラジウムとの金属間化合物を予め作製し、該金属間化合物を混合して焼結することを特徴とするタンタルパラジウムスパッタリングターゲットの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解銅めっきが可能な銅拡散バリア膜形成用の高密度タンタルパラジウムスパッタリングターゲット及びその製造方法並びに焼結体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、半導体素子に銅配線を形成する際に、素子に直接銅配線を形成すると、銅が半導体素子(シリコン)中に拡散し、半導体の特性を阻害するので、拡散バリア膜を予め形成し、その後銅配線を形成している。半導体素子の銅配線の拡散バリア膜として、一般にタンタルや窒化タンタルが用いられている。
例えば、銅配線を形成する溝の凹部に高純度タンタルターゲットでスパッタリングによりタンタル若しくは窒化タンタルを成膜して拡散バリア膜を形成し、次いで銅あるいは銅合金からなるシード層をスパッタリングにより成膜し、最後に電気めっきで銅を埋め込むことにより行われている。
【0003】
一方、半導体素子の配線幅は高密度化に従って更に狭くなる方向に向かっているが、配線幅が45nm以下まで狭くなると、このシード層の形成が難しくなり密着性に問題が生じてくること、及び電気めっきで銅を埋め込むことが困難になることなどから、埋め込み性に優れる無電解銅めっきでシード層や配線部を形成することが検討されるようになった。
【0004】
ところが、タンタルに銅を直接無電解メッキすることは出来ないため、触媒(Pd等)を付与する必要がある。原子層堆積法(ALD)やイオン化クラスタービーム(ICB)などの方法で、Pdの触媒層を形成することが検討された例があるが、工程の増加や膜を汚染したり損傷が生じたりする問題がある。
【0005】
以上のことから、タンタルに無電解銅めっきの触媒となるパラジウムを加えたパラジウムを含むタンタルの銅拡散バリア膜が実現できれば、銅拡散バリア性を保持しつつ、銅配線部を無電解めっきで作製することが可能となる。パラジウムを含むタンタルの銅拡散バリア膜は、非特許文献1に紹介されている。
このパラジウムを含むタンタルの銅拡散バリア膜を形成する手段として、スパッタリング法が考えられるが、タンタルパラジウムスパッタリングターゲットが必要となる。
【0006】
タンタルパラジウムスパッタリングターゲットは、タンタルとパラジウムからなる焼結体として作製される。このとき、タンタル粉末とパラジウム粉末とを単に混合して焼結するだけでは、通常密度は90%程度に留まり、十分な密度の焼結体とすることができない。この理由はタンタルの融点(約3000℃)はパラジウムの融点(約1555℃)より遥かに高く、タンタルを焼結するような高温ではパラジウムが融解し液相として流出してしまうので、焼結時のホットプレス温度を十分に高くできないためである。この結果、ポアが焼結体に多く残ってしまい、HIP処理を行っても解消することは出来ない。
【0007】
これについて、一般的な溶解鋳造法によりスパッタリングターゲットを製造することも考えられるが、この場合はルツボからの汚染やタンタルとパラジウムの比重差による組成変動、さらにインゴットからスパッタリングターゲットの形状への塑性加工の難しさという問題がある。その前提として、タンタルをスパッタリングターゲットとして許容される不純物レベルで溶解して合金化できるルツボ自体が存在しないという問題がある。たとえばカーボンルツボではタンタルの炭化物を生成してしまう。したがって、溶解によるタンタルパラジウムスパッタリングターゲットは実現しない。
【0008】
焼結法では、上記のように、単に原料粉末を混合し焼結するだけでは、相対密度90%程度の焼結体しかえられず、その焼結体から加工形成したスパッタリングターゲットはポアが多く、それが原因となってスパッタリング時にパーティクルが多く発生し、そのパーティクルが微細な配線溝を埋めるときに配線を遮断してしまい使い物にならないという課題があった。
【0009】
このような系でこれまで検討されてきた先行事例として、以下の3例がある。特許文献1に、高融点物質粉末と低融点金属粉末を加熱せずに加圧成型するターゲットが記載されているが、この方法では、高密度化は不可能であり、加圧成型したものをターゲット形状に機械加工する際に割れたり表面から粉末が欠け落ちたりすることが分った。
また、特許文献2に、高融点物質粉末と低融点物質粉末とを混合し造粒した粉末を、プラズマ溶射することにより均質かつ高密度で、従来のような成型・加工・接合の工程が不要なターゲットが製造できると記載されているが、この方法では、造粒工程からの汚染、溶射時の蒸気圧差による組成制御の難しさ、などの問題に加え、タンタルパラジウムでは厚い膜の形成は出来なかった。容易に溶射膜を形成できるアルミニウムなどに適した方法と思われる。
【0010】
さらに特許文献3に、融点900℃以上の高融点物質粉末と融点700℃以下の低融点金属粉末との混合物を低融点金属の融点未満の温度で加熱・加圧してターゲットを製造する方法が記載されているが、後に述べるように、この方法によってもタンタルパラジウム系では相対密度90%程度に留まり高密度化は出来なかった。
【非特許文献1】”A study of Pd-Ta on Si(100) using Auger electron spectroscopy, Rutherford backscattering spectrometry, and variable energy positron annihilation” J.Vac. Sci. Technol. A7(3), May/Jun 1989, p.1601-1607
【特許文献1】特開平4-323366号公報
【特許文献2】特開平6-346232号公報
【特許文献3】WO96/36746号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
半導体素子への銅拡散バリア性を保持しつつ、銅配線部を無電解めっきすることが可能であるタンタルパラジウムスパッタリングターゲットを提供すると共に、十分な密度の焼結体とすることができる同スパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の課題に鑑み、本発明は以下の発明を提供するものである。
1)タンタルとパラジウムとからなる半導体素子配線部の銅拡散防止バリア膜形成用スパッタリングターゲットであって、パラジウムが15原子%以上、70原子%以下であり、残部がタンタル及び不可避不純物からなるタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
2)タンタルとパラジウムとの金属間化合物相が、面積比50%以上である焼結組織を持つ上記1)記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
3)タンタルとパラジウムとの金属間化合物が、Pd3Ta、Pd2Ta、PdTa、PdTa3の少なくとも1つである上記2)記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
4)相対密度99%以上である上記1)〜3)のいずれかに記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
5)タンタルとパラジウムからなる焼結体ターゲットの製造方法であって、タンタルとパラジウムとの金属間化合物を予め作製し、該金属間化合物を混合して焼結することを特徴とするタンタルパラジウムスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、半導体素子への銅拡散バリア性を保持しつつ、銅配線部を無電解めっきすることが可能であるタンタルパラジウムスパッタリングターゲットを提供することができるという優れた効果を有する。
特に、TaとPdの金属間化合物を焼結原料に用いることにより、液相を出現させずに融点近傍まで焼結温度を上げることができ、高密度でスパッタリング時にパーティクル発生の少ないタンタルパラジウムターゲットを提供できる著しい効果を有する。
以上により、銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性とを兼ね備えた銅拡散バリア膜を提供でき、その際にパーティクル付着が極めて少ないタンタルパラジウム膜をスパッタリングにより形成することができるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本願発明の半導体素子配線部の銅拡散防止バリア膜形成用タンタルパラジウムスパッタリングターゲットは、パラジウムが15原子%〜70原子%であり、残部がタンタル及び不可避不純物からなる。パラジウムが15原子%未満では、無電解銅めっきの際の触媒としての機能を有しない。したがって、パラジウムを15原子%以上とする。また、パラジウムが70原子%を超えると、相対的にタンタルが減少することになり、タンタルの減少は銅拡散バリアとしての機能の低下になるので、パラジウムは70原子%以下とすることが必要となる。
【0015】
さらに本願発明のタンタルパラジウムスパッタリングターゲットは、ガス成分を除く不純物の総量が100ppm以下であるのが望ましい。これは、半導体の汚染を防止すると共に、銅拡散バリアとしての機能の低下を抑制するものである。しかし、ガス成分を除く不純物の総量100ppm以下は、絶対的な数値ではない。多少(1000ppm程度)の不純物の含有は、前記特性にそれほど大きな影響を与えないからである。
【0016】
本願発明のタンタルパラジウムスパッタリングターゲットは、焼結によって製造するのが最も効率の良い方法である。この場合、焼結性を向上させるために、タンタルとパラジウムとの金属間化合物相を利用するものである。上記に示すように、タンタル粉末とパラジウム粉末とを単に混合して焼結するだけでは、通常の焼結方法では、密度は90%程度となり、十分な密度の焼結体とすることができないからである。
この理由は上述した通り、タンタルの融点(約3000℃)はパラジウムの融点(約1555℃)より遥かに高く、タンタルを焼結するような高温ではパラジウムが融解し液相として流出してしまうためである。
【0017】
本願発明は、タンタルとパラジウムが様々な金属間化合物を形成することを利用し、焼結原料粉末の融点の差を少なくすることにより、高密度なタンタルパラジウムスパッタリングターゲットの製造を可能としたものである。
タンタルとパラジウムとの金属間化合物が存在すると、焼結温度を下げることができるので、極力金属間化合物を形成するのが良い。特に面積比50%以上である焼結組織を持つように焼結するのが好適である。これによって、焼結体のポアを減少又は消失させ、高密度のターゲットを得ることが可能となる。
【0018】
この場合のタンタルとパラジウムとの金属間化合物としては、Pd3Ta、Pd2Ta、PdTa、PdTa3があり、この金属間化合物の少なくとも1つが形成されるようにするのが望ましい。以上によって、本願発明のタンタルパラジウムスパッタリングターゲットは、相対密度99%以上を達成することが可能となる。
このような高密度のタンタルパラジウムスパッタリングターゲットは従来存在せず、本願発明において初めて得ることが可能となった。
【0019】
本発明の焼結体ターゲットの製造方法としては、融点の差が1000℃以上の2つの金属元素を含む複数の金属元素の、融点の高い金属元素と融点の低い金属元素との金属間化合物を予め作製し、該金属間化合物を混合して焼結することにより、簡便かつ確実に高密度のタンタルパラジウムスパッタリングターゲットの製造が可能となる。本願発明は、このように効率の良い製造方法を提供するものである。
【0020】
金属間化合物の粉末を製造する方法としては、アトマイズなどの粉末製造プロセスを適用することも可能であるが、本発明の焼結体を作製する目的に対しては、完全な金属間化合物を形成しておく必要もない。
各金属間化合物の組成となる量比で混合した粉末を真空中あるいはアルゴンなどの不活性雰囲気で、相互の拡散反応が生じる程度の温度に加熱し、部分的に金属間化合物を形成させておくことでも十分である。すなわち、未反応の部分があってもよい。この方が、低酸素化が容易で、汚染も少ない利点がある。
【0021】
次に、銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性の確認試験について説明する。すなわち、本発明は、銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性とを兼ね備えた銅拡散バリア膜を形成することが目的であるから、その特性をもつタンタル−パラジウム組成の範囲を予め調べた。
Ta割合20%〜99%の量比で平均粒径50μmのタンタル粉末と平均粒径30μmのパラジウム粉末とを混合したものを1600℃、300kg/cm2でホットプレスして焼結体を作製した。
次に、これをターゲット形状に機械加工してスパッタリングターゲットとし、このターゲットを用い、シリコン基板上にスパッタリングにより成膜した。その膜に無電解銅めっきを行い、メッキされた場合は300℃で熱処理して、シリコン基板との界面への銅の拡散をAESで評価した。この結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から明らかなように、銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性とを兼ね備えるのは、Ta30〜85原子%の範囲、すなわちPd15〜70原子%のタンタルパラジウムターゲットにより形成したスパッタ膜であることが分った。
なお、上記のスパッタリングターゲットの製造方法は既に述べたとおり、原料粉末のタンタル粉末とパラジウム粉末とを混合しホットプレスしただけであるため、相対密度90%程度でしかなく、焼結体にはポアが多く残るという問題がある。
さらに密度を上げるために、この焼結体を1800℃1500気圧のHIP処理を試みたものの、密度は92%程度に留まり、依然としてポアが多く残る結果となった。パーティクルの発生が0.75個/cm2程度になった。
【実施例】
【0024】
銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性の評価行うための成膜には特に問題ではないが、さらに成膜の品質を高めるためには、より高密度のタンタルパラジウムターゲットが必要とされる。
以上から、本願発明に基づき、高密度のタンタルパラジウムターゲットを得るために次の試験を実施した。本実施例は、あくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0025】
まず、Pd3Ta、Pd2Ta、PdTa、PdTa3の組成になるように、平均粒径50μmのタンタル粉末と平均粒径30μmのパラジウム粉末を混合した。各混合粉末を、真空中で1400℃、24時間加熱し、それぞれの組成の金属間化合物が主成分となる焼成体を作製した。その焼成体をタンタルライニングのボールミルで50μmまで粉砕した。粉砕して得られた各粉末はXRDにより各金属間化合物が形成されていることを確認した。
以上の金属間化合物を以下の実施例に供した。
【0026】
(実施例1)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.85Pd0.15となるように、平均粒径50μmのTa粉末4564gと、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa3粉末5436gとを混合した。混合粉末を真空中で2100℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.5%と十分な密度を有していた。またおよそ60%は金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0027】
(実施例2)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.85Pd0.15となるように、平均粒径50μmのTa粉末5913gと、上記で作製した平均粒径50μmのPd3Ta粉末4087gとを混合した。混合粉末を真空中で1700℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.2%と十分な密度を有していた。また、およそ40%は金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.45個/ cm程度と実施例1に比べて少し多くなった。これは金属間化合物相の比率が少なかったためと考えられる。
上記のパーティクルの発生量が0.45個/ cmは、特に問題となるレベルではないが、望ましくは金属間化合物相は、面積比率で50%以上が良いと言える。
【0028】
(実施例3)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.7Pd0.3となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa3粉末9394gと、平均粒径50μmのPd3Ta粉末606gとを混合した。混合粉末を真空中で1700℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.4%と、十分な密度を有していた。また、ほとんどが金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0029】
(実施例4)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.65Pd0.35となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa3粉末8182gと平均粒径50μmのPdTa粉末1818gとを混合した。
混合粉末を真空中1700℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度99.3%と、十分な密度を有していた。ほとんどは金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0030】
(実施例5)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.6Pd0.4となるように、平均粒径50μmのTa 粉末499gとPdTa3粉末7133gと、平均粒径50μmのPdTa粉末528gと平均粒径50μmのPdTa粉末724gと平均粒径50μmのPdTa粉末920gとPd粉末196gを混合した。混合粉末を真空中で1520℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度99%の高密度を有していた。また、40%程度が金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.35個/cm程度と実施例1に比べて少し多くなってしまった。これは金属間化合物相が少なかったためと考えられる。
上記のパーティクルの発生量が0.35個/ cmは、特に問題となるレベルではないが、望ましくは金属間化合物相は、面積比率で50%以上が良いと言える。
【0031】
(実施例6)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.5Pd0.5となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa粉末10000gを真空中で1675℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.5%と、十分な密度を有していた。ほとんどが金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0032】
(実施例7)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.4Pd0.6となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa粉末4091gと平均粒径50μmのPd2Ta粉末4485gと平均粒径50μmのPd3Ta粉末1424gとを混合した。
この混合粉末を真空中1650℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。この焼結体の相対密度は99.7%と、十分な密度を有していた。
これをターゲット形状に機械加工してスパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0033】
(実施例8)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.35Pd0.65となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa粉末1746gと平均粒径50μmのPdTa粉末1164gと平均粒径50μmのPd3Ta粉末7090gとを混合した。
この混合粉末を真空中1700℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。この焼結体の相対密度は99.8%と、十分な密度を有していた。
これをターゲット形状に機械加工してスパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0034】
(実施例9)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.30Pd0.70となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa粉末1256gと平均粒径50μmのPdTa粉末8744gとを混合した。混合粉末を真空中で1680℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.7%と、十分な密度を有していた。またほとんどが金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.2個/cm以下と極めて少なかった。
【0035】
(実施例10)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.30Pd0.70となるように、上記で作製した平均粒径50μmのPdTa粉末8020gと平均粒径50μmのPd粉末1980gとを混合した。混合粉末を真空中で1500℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は99.0%の高密度を有していた。また30%程度が金属間化合物相であった。これをターゲット形状に機械加工し、スパッタリング試験を実施した。パーティクルの発生が0.4個/cm程度と実施例1に比べて少し多くなってしまった。これは金属間化合物相が少なかったためと考えられる。
上記のパーティクルの発生量が0.4個/ cmは、特に問題となるレベルではないが、望ましくは、金属間化合物相は、面積比率で50%以上が良いと言える。
【0036】
(比較例1)
タンタルとパラジウムの元素比がTa0.85Pd0.15となるように、平均粒径50μmのTa粉末と、上記で作製した平均粒径50μmのPd粉末とを混合した。混合粉末を真空中で2100℃、300kg/cm2でホットプレスにより焼結体を作製した。
この焼結体の相対密度は90%程度しかなかった。このように、上記のスパッタリングターゲットの製造方法は、既に述べたとおり、原料粉末のタンタル粉末とパラジウム粉末とを混合し、ホットプレスしただけであるため、低密度の原因となったと考えられる。このように、相対密度90%程度しかないため、焼結体には当然ポアが多く残り、これが原因となって、パーティクルの発生数も0.75個/cm2程度と増加した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
半導体素子への銅拡散バリア性を保持しつつ、銅配線部を無電解めっきすることが可能であるタンタルパラジウムスパッタリングターゲットを提供することができるという優れた効果を有する。特に、TaとPdの金属間化合物を焼結原料に用いることにより、液相を出現させずに融点近傍まで焼結温度を上げることができ、高密度でスパッタリング時にパーティクル発生の少ないタンタルパラジウムターゲットを提供できる著しい効果を有する。以上により、銅拡散バリア性と表面への無電解銅めっきの触媒性とを兼ね備えた銅拡散バリア膜を提供でき、その際にパーティクル付着が極めて少ないタンタルパラジウム膜をスパッタリングにより形成することができるという効果を有するので、半導体素子への銅拡散バリア材として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンタルとパラジウムとからなる半導体素子配線部の銅拡散防止バリア膜形成用スパッタリングターゲットであって、パラジウムが15原子%以上、70原子%以下であり、残部がタンタル及び不可避不純物からなるタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
【請求項2】
タンタルとパラジウムとの金属間化合物相が、面積比50%以上である焼結組織を持つ請求項1記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
【請求項3】
タンタルとパラジウムとの金属間化合物が、Pd3Ta、Pd2Ta、PdTa、PdTa3の少なくとも1つである請求項2記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
【請求項4】
相対密度99%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のタンタルパラジウムスパッタリングターゲット。
【請求項5】
タンタルとパラジウムからなる焼結体ターゲットの製造方法であって、タンタルとパラジウムとの金属間化合物を予め作製し、該金属間化合物を混合して焼結することを特徴とするタンタルパラジウムスパッタリングターゲットの製造方法。

【公開番号】特開2009−46733(P2009−46733A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−214318(P2007−214318)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(591007860)日鉱金属株式会社 (545)
【Fターム(参考)】