説明

タンディッシュ上部ノズル

【課題】上段のポーラス質耐火物及び下段のポーラス質耐火物へのガス供給を独立して行えるタンディッシュ上部ノズルを提供すること。
【解決手段】上段ポーラス耐火物1と下段ポーラス耐火物2との間における吹き込みガスの透過を抑制するガスシール層8を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンディッシュ底部に装着されるタンディッシュスライディングノズル装置の上部ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
連続鋳造において、溶湯をタンディッシュからモールドに注入する際に、従来から図2に示すようなスライディングノズル装置が用いられている。図示のように、この装置は、タンディッシュの底部に、上部ノズル10が装着された固定盤20を設け、この固定盤20の下面を、コレクターノズル21および浸漬ノズル22が接続された摺動盤23をスライドさせてモールドへの溶鋼量をコントロールするようになっている。
【0003】
ところで、このような装置では、Al2O3などの介在物の析出によるノズル閉塞防止対策として、従来から上部ノズルによるガスバブリングが広く実施されている。そして、このノズル閉塞の防止を有効に行うためには、導入するガスを有効に溶鋼流中に吹き分ける必要があり、そこで近年、上部ノズルは図2に示されるような、その本体が鉄皮12bで上下に区分けされ、その区分けされた上部側と下部側との双方のポーラス質耐火物11a、11bにそれぞれ別個にガス導入管14が連結される、いわゆる2段式上部ノズルが汎用されてきている。これによれば、摺動盤23の絞り部により近い部位からガス吹き込みができるとともに、モールド内溶鋼流の状況に応じて、ガス吹き込み量を上下で独立に調整でき、ガスバブリングが極めて有効に行えるものとなる。
【0004】
しかし、上述した従来のいわゆる2段式上部ノズルは、ガス吹き込み量の調整を行えるものであるが、本体上部側のガス吹き込みに着目すると、ポーラス質耐火物面より均一なガス吐出が行われず、その結果Al2O2などの介在物を除去することができず、やはりノズル閉塞防止が有効に図れないものとなっていた。
【0005】
そこで、ノズル閉塞防止を有効に行わせるために、図3に示すような上部側と下部側のポーラス質耐火物11a、11bの間に緻密質耐火物13bを介装させた上部ノズル10Aが開発された(特許文献1参照。)。
【0006】
図示のように、この上部ノズル10Aは、本体外周部が外周鉄皮12aで包囲される。また、その内部が仕切り鉄皮12bで上下に区分けされるとともに、区分けされた本体の上部側と下部側との双方のポーラス質耐火物11a、11bにそれぞれ別個にガス導入管14a、14bがガスプール15を介して連結されており、いわゆる2段式上部ノズルとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−104215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、上述した従来の改良型2段式上部ノズル10Aでも、ポーラス質耐火物11aと緻密質耐火物13bとの間及び緻密質耐火物13bとポーラス質耐火物11bとの間の気密性がなく、ガス導入管14aから導入されたガスがポーラス質耐火物11bに漏れ出したり、ガス導入管14bから導入されたガスがポーラス質耐火物11aに漏れ出したりしてしまう。その結果、上段のポーラス質耐火物11a及び或いは下段のポーラス質耐火物11bへのガス供給が不完全になり、ノズル閉塞防止が有効に行われなくなる。
【0009】
本発明は、以上のような従来技術の問題点に鑑み創案されたもので、上段のポーラス質耐火物及び下段のポーラス質耐火物へのガス供給を独立して行えるタンディッシュ上部ノズルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するためになされた本発明のタンディッシュ上部ノズルは、相対的に上側に配置され溶湯が通過する通路にガスを吹き込む筒状上段ポーラス耐火物と、前記上段ポーラス耐火物よりも相対的に下側に配置され溶湯が通過する通路にガスを吹き込む筒状下段ポーラス耐火物と、前記上段ポーラス耐火物と前記下段ポーラス耐火物との間に介装される筒状緻密質耐火物と、前記上段ポーラス耐火物に吹込ガスを供給する上段ガス導入通路と、前記下段ポーラス耐火物に吹込ガスを供給する下段ガス導入通路と、前記上段ポーラス耐火物、前記緻密質耐火物及び前記下段ポーラス耐火物の外周面を包囲する金属皮体と、を具備するタンディッシュ上部ノズルにおいて、前記上段ポーラス耐火物と前記下段ポーラス耐火物との間における吹き込みガスの透過を抑制するガスシール層を備えることを特徴とするタンディッシュ上部ノズルである。
【0011】
上段ポーラス耐火物と下段ポーラス耐火物との間における吹き込みガスの透過を抑制するガスシール層を備えているので、上段ガス導入通路から導入された吹込みガスが下段ポーラス耐火物に漏れ出したり、下段ガス導入通路から導入された吹込みガスが上段ポーラス耐火物に漏れ出したりすることが抑制される。その結果、上段ポーラス耐火物及び下段ポーラス耐火物へのガス供給を独立して行うことができる。
【0012】
上記タンディッシュ上部ノズルにおいて、前記緻密質耐火物が上段緻密質耐火物と下段緻密質耐火物とに分割され、前記上段緻密質耐火物と前記下段緻密質耐火物との間に耐熱シール材が填装されて前記ガスシール層を形成するようにするとよい(請求項2)。
【0013】
緻密質耐火物が上段緻密質耐火物と下段緻密質耐火物とに分割されているので、上段緻密質耐火物と下段緻密質耐火物との間に耐熱シール材を填装してガスシール層を形成することができる。したがって、上段ポーラス耐火物と上段緻密質耐火物からなる上段部と下段ポーラス耐火物と下段緻密質耐火物とからなる下段部とを耐熱シール材で接着して組み立てることができる。
【0014】
また、前記金属皮体の内側に、前記上段緻密質耐火物、前記下段緻密質耐火物及び前記下段ポーラス耐火物の外周面を包囲する内側金属皮体を備えるとよい(請求項3)。特に、内側焼き嵌め金属皮体を備えることが好ましい。
【0015】
上段ガス導入通路から導入された吹込みガスが下段ポーラス耐火物に漏れ出したり、下段ガス導入通路から導入された吹込みガスが上段ポーラス耐火物に漏れ出したりすることが益々抑制される。
【0016】
また、前記耐熱シール材が焼成により体積が増大して前記上段緻密質耐火物と前記下段緻密質耐火物との間に隙間を生じさせ難い組成を有するとよい(請求項4)。
【0017】
使用中に高温になってもガスシール層からガスが漏れ出し難くなる。
【0018】
また、前記耐熱シール材は、少なくともアルミナを含有し、更にシリカ及び或いはマグネシアを含有するとよい(請求項5)。
【0019】
シリカとアルミナが反応してムライトを及び或いはマグネシアとアルミナが反応してスピネルを、生成する。これらの反応によって生成されたムライト及び或いはスピネルは反応前の材料より体積が膨張(例えば、50%)するので、使用中に高温になってもガスシール層からガスが漏れ出し難くなる。
【発明の効果】
【0020】
上段ポーラス耐火物と下段ポーラス耐火物との間における吹き込みガスの透過を抑制するガスシール層を備えているので、上段ガス導入通路から導入された吹込みガスが下段ポーラス耐火物に漏れ出したり、下段ガス導入通路から導入された吹込みガスが上段ポーラス耐火物に漏れ出したりすることが抑制される。その結果、上段ポーラス耐火物及び下段ポーラス耐火物へのガス供給を独立して行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明に係るタンディッシュ上部ノズルの断面図である。
【図2】従来のタンディッシュ上部ノズルの構造を示す断面図である。
【図3】従来の別のタンディッシュ上部ノズルの断面図であり、(a)はその全体図、(b)は(a)中A部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態を図1を参照して詳しく説明する。
【0023】
本発明のタンディッシュ上部ノズルは、相対的に上側に配置されたガス透過性を有する筒状上段ポーラス耐火物1と、上段ポーラス耐火物1よりも相対的に下側に配置されたガス透過性を有する筒状下段ポーラス耐火物2と、上段ポーラス耐火物1と下段ポーラス耐火物2との間に介装される筒状緻密質耐火物3と、上段ポーラス耐火物1に吹込ガスを供給する上段ガス導入通路としての上段ガス導入パイプ4と、下段ポーラス耐火物2に吹込ガスを供給する下段ガス導入通路としての下段ガス導入パイプ5と、上段ポーラス耐火物1、緻密質耐火物3及び下段ポーラス耐火物2の外周面を包囲して保持する金属皮体としての筒形状をなす外側鉄皮6と、を備えており、上下方向にのびる溶湯通過用の通路7を形成している。なお、16は、上段ポーラス耐火物1の上方に積層された補助緻密質耐火物である。
【0024】
緻密質耐火物3は、上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとに分割され、上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとの間には耐熱シール材が填装されてガスシール層8を形成している。
【0025】
上段緻密質耐火物3a、下段緻密質耐火物3b及び下段ポーラス耐火物2の外周面には焼嵌めされた鉄皮(内側金属皮体)9を備え、この部分は二重鉄皮になっている。鉄皮6と鉄皮9との間にはモルタル17が介装されている。
【0026】
上段ガス導入パイプ4は、先端部4aが緻密質耐火物3内において上向きになるように導入され、ガスプール18を介して上段ポーラス耐火物1に連通している。パイプ4と接する鉄皮6及び緻密質耐火物3との間には、ガスシール層8と同じ耐熱シール材が填装されており(不図示)、パイプ4の外側を通ってガスが漏れ出せないようになっている。
【0027】
下段ガス導入パイプ5は、先端部5aが横向きになるように導入され、ガスプール19を介して下段ポーラス耐火物2に連通している。
【0028】
上段ポーラス耐火物1及び下段ポーラス耐火物2は、ガスを透過できる多数の連通細孔を有し、同系材料で形成されている。材料としては、例えば、アルミナ系、マグネシア系、ジルコニア系等を例示できる。
【0029】
緻密質耐火物3と補助緻密質耐火物16とは、焼成された耐火物で形成されており、不焼成のキャスタブル層とは異なり、気孔率が極めて低く、ガス透過性が小さく、高い緻密性及び高い強度を有する。すなわち、緻密質耐火物3は、上段ポーラス耐火物1及び下段ポーラス耐火物2よりもガス透過性が小さく緻密性を有する。
【0030】
ガスシール層8を形成する耐熱シール材は、少なくともアルミナ(Al2O3)を含有し、更にシリカ(SiO2)及び或いはマグネシア(MgO)を含有することが好ましい。
【0031】
また、耐熱シール材は、質量比でSiO2及び或いはMgOよりも多くのAl2O3を含有することがより好ましい。
【0032】
例えば、SiO2と、SiO2より多くのAl2O3を含む材料を水で練って、上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとの間に填装して作製した上部ノズルを連続鋳造に使用すると、溶湯からの受熱で(1)式のような反応が起こる。
【0033】
2SiO2+3Al2O3→3Al2O3・2SiO2 (1)
生成される3Al2O3・2SiO2(ムライト)は、気孔が閉じられ且つ体積が反応前より膨張(例えば、約50%)する。
【0034】
SiO2とAl2O3の粒径が小さい程、(1)式の反応が起こりやすいので、SiO2、MgO、Al2O3の粒径は小さい方がよい。粒径は、100μm以下が好ましく、50μm以下、10μm以下が更に好ましく、1μm以下が特に好ましい。
【0035】
耐熱シール材の組成は、SiO2及び或いはMgOが5〜50質量%で、残りがAl2O3であると、体積膨張の点で好ましい。さらに、SiO2及び或いはMgOが10〜20質量%で、残りがAl2O3であると、特に好ましい。
【0036】
次に、本実施形態のタンディッシュ上部ノズルを連続鋳造に使用する際のガスの流れについて説明する。
【0037】
使用の際には、取鍋から移し替えられたタンディッシュ内の溶鋼等の溶湯は連鋳機に向けて流れるが、溶湯は、通路7内を下方(図1に示す矢印A1方向)に向けて流れる。この場合、ガス源から上段ガス導入パイプ4、下段ガス導入パイプ5にガスが供給される。上段ガス導入パイプ4に供給されたガスは、ガスプール18を介して上段ポーラス耐火物1のポーラス部分に供給され、上段ポーラス耐火物1の内周面から通路7内に向けて(矢印B1方向に)吹き出される。これによりノズル上部へのアルミナの付着が抑制される。下段ガス供給パイプ5に供給されたガスは、ガスプール19を介して下段ポーラス耐火物2のポーラス部分に供給され、下段ポーラス耐火物2の内周面から通路7内に向けて(矢印C1方向に)吹き出される。これによりタンディッシュスライディングノズル装置の摺動盤、コレクターノズル、浸漬ノズルへのアルミナの付着が抑制される。
【0038】
緻密質耐火物3は、不焼成のキャスタブルと異なり、焼成された緻密な焼成耐火物で形成されているためガス透過性が小さいが、僅かながらガスが透過する。すなわち、上段ポーラス耐火物1に供給されたガスの一部が上段緻密質耐火物3a内を透過して下段緻密質耐火物3bに漏れ出そうとする。同様に、下段ポーラス耐火物2に供給されたガスの一部が下段緻密質耐火物3b内を透過して上段緻密質耐火物3aに漏れ出そうとする。しかし、上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとの間にガスシール層8を備えているので、上段緻密質耐火物3aから下段緻密質耐火物3bへの漏れ出しがブロックされ、且つ下段緻密質耐火物3bから上段緻密質耐火物3aへの漏れ出しがブロックされる。したがって、上段ポーラス耐火物1及び下段ポーラス耐火物2へのガス供給を独立して行うことができる。
【0039】
また、ガスシール層8を形成する耐熱シール材が、焼成により体積が増大して上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとの間に隙間を生じさせ難い組成を有しているので、使用中に高温になってもガスシール層8からガスが漏れ出し難くなる。
【0040】
また、上段緻密質耐火物3a、下段緻密質耐火物3b及び下段ポーラス耐火物2の外周面を包囲する焼き嵌め金属皮体9を備えており、ガスシール層8の外周縁部が金属皮体9の内周壁に当接しているので、上段緻密質耐火物3a、下段緻密質耐火物3b及び下段ポーラス耐火物2の外周に沿ってガスが流れることが抑制される。したがって、上段ポーラス耐火物1及び下段ポーラス耐火物2へのガス供給を一層独立して行うことができる。
【0041】
また、パイプ4と接する鉄皮6及び緻密質耐火物3との間には、ガスシール層8と同じ耐熱シール材が填装されており(不図示)、パイプ4の外側を通ってガスが漏れ出せないようになっている。したがって、上段ポーラス耐火物1及び下段ポーラス耐火物2へのガス供給を一層独立して行うことができる。
【0042】
また、上段緻密質耐火物3aと下段緻密質耐火物3bとの間に耐熱シール材が填装されてガスシール層8を形成するので、上段ポーラス耐火物1と上段緻密質耐火物3aからなる上段部と下段ポーラス耐火物2と下段緻密質耐火物3bとからなる下段部とを耐熱シール材で接着して組み立てることができる。
【符号の説明】
【0043】
1・・・・・・上段ポーラス耐火物
2・・・・・・下段ポーラス耐火物
3・・・・・・緻密質耐火物
3a・・・・上段緻密質耐火物
3b・・・・下段緻密質耐火物
4・・・・・・上段ガス導入通路
5・・・・・・下段ガス導入通路
6・・・・・・金属皮体
7・・・・・・通路
8・・・・・・ガスシール層
9・・・・・・内側金属皮体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に上側に配置され溶湯が通過する通路にガスを吹き込む筒状上段ポーラス耐火物と、前記上段ポーラス耐火物よりも相対的に下側に配置され溶湯が通過する通路にガスを吹き込む筒状下段ポーラス耐火物と、前記上段ポーラス耐火物と前記下段ポーラス耐火物との間に介装される筒状緻密質耐火物と、前記上段ポーラス耐火物に吹込ガスを供給する上段ガス導入通路と、前記下段ポーラス耐火物に吹込ガスを供給する下段ガス導入通路と、前記上段ポーラス耐火物、前記緻密質耐火物及び前記下段ポーラス耐火物の外周面を包囲する金属皮体と、を具備するタンディッシュ上部ノズルにおいて、
前記上段ポーラス耐火物と前記下段ポーラス耐火物との間における吹き込みガスの透過を抑制するガスシール層を備えることを特徴とするタンディッシュ上部ノズル。
【請求項2】
前記緻密質耐火物が上段緻密質耐火物と下段緻密質耐火物とに分割され、前記上段緻密質耐火物と前記下段緻密質耐火物との間に耐熱シール材が填装されて前記ガスシール層を形成する請求項1に記載のタンディッシュ上部ノズル。
【請求項3】
前記金属皮体の内側に、前記上段緻密質耐火物、前記下段緻密質耐火物及び前記下段ポーラス耐火物の外周面を包囲する内側金属皮体を備える請求項2に記載のタンディッシュ上部ノズル。
【請求項4】
前記耐熱シール材は、焼成により体積が増大して前記上段緻密質耐火物と前記下段緻密質耐火物との間に隙間を生じさせ難い組成を有する請求項2または3に記載のタンディッシュ上部ノズル。
【請求項5】
前記耐熱シール材は、少なくともアルミナを含有し、更にシリカ及び或いはマグネシアを含有する請求項4に記載のタンディッシュ上部ノズル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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