タンデム飛行時間型質量分析計
タンデム質量分析計は、リニア式飛行時間型質量分析部及びカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部を含む。カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部は、リニア式飛行時間型分析部で形成された複数のイオン質量を有するイオンがカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部に入るように、リニア式飛行時間型質量分析部の端部に配置される。タンデム質量分析計はまた、飛行時間型質量分析部とカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部の間に配置された質量選択ゲートを含む。質量選択ゲートは複数のイオン質量からあるイオン質量を選択する。さらにタンデム質量分析計は、リニア式飛行時間型分析部で形成されるイオンの経路内に設けられた解離用構成要素も含む。解離用構成要素は、イオンを複数のイオンフラグメントに解離させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年2月21日出願の仮出願60/449168に基づくものであり、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所の助成RR−64402によってすべて又は一部の資金提供を受けた研究から得られたものである。
【0003】
本発明は、一般に質量分析計、特に2つの飛行時間型質量分析計を組み合わせたタンデム質量分析計に関する。
【背景技術】
【0004】
質量分析計は、物質の化学組成及び分子構造を決定するために用いられる計測器である。これらは一般に、中性分子をイオン化するイオン源、イオンをその質量/電荷比に従って分離する質量分析部、及び検出器からなる。質量分析部は、磁場(B)計測器、電場と磁場を組み合わせた又は2重収束の計測器(EB又はBE)、4重極電場(Q)計測器、及び飛行時間(TOF)型計測器を含めて様々なタイプに分類される。さらに2つ以上の分析部を1台の計測器内で組み合わせて、タンデム(MS/MS)質量分析計を製造することもできる。これには、3連分析部(EBE)、4セクタ質量分析計(EBEB又はBEEB)、3連4重極(QqQ)、及びハイブリッド型(EBqQなど)が含まれる。
【0005】
タンデム質量分析計では、第1の質量分析部は、一般に質量スペクトル中に通常観察されるイオンの中からある前駆イオンを選択するために用いられる。次いで、質量分析部相互間に位置する領域でフラグメンテーションが引き起こされ、第2の質量分析部は、生成イオンの質量スペクトルを与えるために用いられる。一連の分子及びフラグメントの前駆イオンとその生成物との間の関係を決めることにより、タンデム質量分析計をイオン構造の研究に利用することもできる。或いは、タンデム質量分析計は現在では一般に、クロマトグラフィ法によって完全に分別されない複雑な混合物中の生体分子の構造を決定するために用いられている。これには、例えばペプチド、糖ペプチド、糖脂質などが含まれる。ペプチドの場合、フラグメンテーションによってアミノ酸配列に関する情報が生成される。
【0006】
質量分析計の1つのタイプが、飛行時間(TOF)型質量分析計である。図1に示した飛行時間型質量分析計の最も単純なもの(Cotter,Robert J.,Time−of−Flight Mass Spectrometry:Instrumentation and Applications in Biological Research,American Chemical Society,Wasington,DC,1997、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)は、短いソース領域10、より長いフィールドフリードリフト領域12及び検出器14からなっている。イオンが形成され、バックプレート16の電圧及び引き抜きグリッド18の電圧によって決まる電場により、短いソース領域10でその最終的な運動エネルギーまで加速される。引き出しを高め、質量分解能を改善するために、ソース領域に他のグリッド又はレンズ17を加えることもできる。より長いフィールドフリードリフト領域12は、引き抜きグリッド18及び出口グリッド20によって境界が定められている。
【0007】
最も一般的な構成では、引き抜きグリッド18及び出口グリッド20(したがってドリフト長全体)は接地電位であり、バックプレート16の電圧はVであり、またイオンはソース領域で、mv2/2=zeV(ただし、mはイオンの質量、vはその速度、eは電子の電荷、zはイオンの電荷数)で表されるエネルギーまで加速される。次いで、イオンはドリフト領域12を通過し、その(おおよその、1つ又は複数の)飛行時間は次式によって与えられる。
t=[(m/z)2eV]1/2D (I)
これは質量の平方根に依存することを示している。一般に、ソース領域10の長さは0.5cm程度であり、ドリフト長(D)は15cm〜18メートルの範囲である。加速電圧(V)は数百ボルト〜30kVの範囲とすることができ、飛行時間は5〜100マイクロ秒程度である。一般に、初期運動エネルギーによる質量分解能への影響を最小限に抑え、大きいイオンの検出を可能にするために、加速電圧は比較的高くなるように選択される。例えば、(例えば図1の実施例に示すような)20KVの加速電圧は、300キロダルトン(kDa)を越える質量を検出するのに十分であることが分かっている。
【0008】
質量分解能は、バックプレート16やグリッド17など1つ又は複数のソース要素にパルスを発生させることによって改善することができる。ソースに他の時間依存型のパルス又は波形を適用してもよい(Kovtoun,S.V.,English、R.D.and Cotter,R.J.,Mass Correlated Acceleration in a Reflectron MALDI TOF Mass Spectrometer:An Approach for enhanced Resolution over a Broad Range,J.Amer.Soc.Mass Spectrom,13(2002)135−143)。
【0009】
質量分解能は、リフレクトロンを追加することによって改善することもできる(Mamyrin,B.A.,Karataev,V.I.,Shmikk,D.V.Zagulin,V.A.Sov.Phys.JETP 37(1973)45)。通常のリフレクトロンは、本質的にイオンを速度ゼロまで減速させる減速電場であり、イオンが方向転換して同じ又はほとんど同じ経路に沿って戻ることを可能にする。高い運動エネルギー(速度)を有するイオンは、低い運動エネルギーを有するイオンよりリフレクトロンに深く侵入し、したがって検出器までより長い経路を有するようになる。イオンは検出器に到達したとき、その初期運動エネルギーの分布を保持しているが、異なる質量のイオンは異なる時間に到達する。
【0010】
リフレクトロンを利用した飛行時間型質量分析計の例を、図2に概略的に示す(図1及び図2の同じ番号は同じ要素を指すために用いているが、異なる位置にある)。リフレクトロンは、1段式30でも2段式でもよい。1段式及び2段式リフレクトロンのどちらでも、それぞれが互いに抵抗するように接続された電極の積み重ね32(イオンレンズとも呼ばれる)により、1段式リフレクトロン30では1つのグリッド34によって分離された一定の減速場領域が形成される。最も一般的なケースでは、グリッド及びレンズはリング電極を用いて構成される。図2に示したグリッド34の場合、リング電極は薄いワイヤメッシュで覆われている。
【0011】
1段式リフレクトロンでは、単一の減速領域が用いられ、おおよそのイオンの飛行時間は次式によって与えられる。
t=[(m/z)/2eV]1/2[L1+L2+4d] (II)
これは、式(I)に表されていた同様の平方根依存性を有している。式(I)に表されていた項に加えて、項L1、L2及びdがある。L1及びL2は、それぞれ図2に示した直線状のドリフト領域の順方向及び戻り方向における長さであり、dは平均の侵入深さである。収束動作は、式(II)の分母を2eV+U0(ただし、U0は初期運動エネルギー分布からのイオン速度への寄与を表す)で置き換えることによって理解することができる。
【0012】
リフレクトロンは当初、イオン源領域で形成されたイオンに対する質量分解能を改善するためのものであったが、最近ではターゲットガス若しくは面との衝突、光解離又は電子の衝突によって引き起こされる準安定分解或いはフラグメンテーションにより、イオン源外部に形成された生成イオンの質量スペクトルを記録するために利用されている。飛行経路内で分子イオンのフラグメンテーションから生じるイオンは、以下の式で与えられる時間に観察することができる。
t=[(m/z)/2eV]1/2[L1+L2+4(m’+m)d] (III)
上式で、m’は新しいフラグメントイオンの質量である。ペプチドの場合、こうしたイオンによりアミノ酸配列が与えられる。収束動作は、式(III)の分母を2eV+U0(ただし、U0は初期運動エネルギー分布からのイオン速度への寄与を表す)で置き換えることによって理解することができる。こうしたイオンは一般に、リフレクトロンの電圧VRを階段状にする又は走査することによって、或いはCornish及びCotterが述べているカーブしたフィールドリフレクトロン(curved−field reflectron)(Cornish,T.J.,Cottor,R.J.,Non−linear Field Reflectron,米国特許第5464985号、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)など非直線状のリフレクトロンを用いることによって収束させる。
【0013】
生成イオンは、所与の前駆イオンと容易に関連付けることができない、一般に弱く収束が不十分なピークとして通常の質量スペクトルの形で現れる。しかし、第1のドリフト領域を通過する単一の質量のイオンを選択することにより、単一の前駆体に対する生成イオンの質量スペクトルを記録することが可能になる。この手法の例をSchlag等が述べており(Weinkauf,R.;Walter,K.;Weickhardt,C.;Boesl,U.;Schlag,E.W.:Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes Vol.44A(1989)pp.1219−25)、その中では、第1のドリフト領域に静電ゲートが設けられている。次いで、そのゲートを通過したイオンはパルス式UVレーザーを用いた光解離によって断片化され、生成イオンはリフレクトロンの後に検出される。
【0014】
同軸の2段式リフレクトロンを用いた別の手法がLeBeyecと共同研究者等によって紹介され、Standing等(Standing,K.G.;Beavis,R.;Bollbach,G.;Ens.W.;LaFortune,F.;Main,D.;Schueler,B.;Tang,X.;Westmore,J.B.Analytical Instrumentation 16(1)(1987)pp.173−89)が1段式リフレクトロンを用いてそれを発展させている。この手法では、イオンはすべてリフレクトロンに入ることができる。またリフレクトロンの後方に検出器が設けられ、第1のフィールドフリードリフト長での準安定分解から生じた中性種を記録する。こうした中性種は前駆イオンの質量に対応する時間に現れるため、前駆質量に対応する中性種を受け取ったときのみ、リフレクトロン検出器でイオンを記録することが可能である。その結果得られたスペクトルは、相関反射スペクトルとして知られており、単一のイオンパルスのカウントを用いる方法によってのみ得ることができる。
【0015】
今までに設計されたリフレクトロンの主な制限は、生成イオンの収束(質量分解能)が質量範囲全体で一定にならないことである。特に、選択された前駆イオンの質量は、一般に生成イオンの質量スペクトルの中で最も適切に収束されるイオンであるが、低質量の生成イオンでは収束が低下する。これは一般に、低質量の生成イオンは、質量が前駆イオンの質量に近いイオンほどリフレクトロンに深く侵入しないためである。したがって、リフレクトロンの電圧を下げることにより、収束がかなり改善され、スペクトルの低質量部分を記録することが可能になるが、高質量のイオンはただリフレクトロンの後端を通過するだけになるというのが一般的な意見であった。
【0016】
このため、何人かの研究者は、質量スペクトルの異なる領域を記録するためにリフレクトロンの電圧を階段状にすること、或いはリフレクトロンの電圧を走査して一連の中間体から収束させる質量スペクトルを再構成することを提案している(Weinkauf,R.;Walter,K.;Weickhardt,C.;Boesl,U.;Schlag,E.W.Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes Vol.44a(1989)pp.1219−25、及びSpengler,B.;Kirsch,D.;Kaufmann,R.;Jaeger,E.Rapid Commun.Mass Spectrom.6(1992)pp.105−08)。生成イオンの質量スペクトルについては、この手法も、飛行時間型質量分析計の多重記録の利点すべてが実現されないという点で、Wiley及びMcLarenが使用したタイムスライス法と同じ欠点を有している。
【0017】
生成イオンの質量スペクトルを、リフレクトロンを使用した単一のTOF分析部で記録することもできるが、第1の質量分析部を前駆イオンの質量を選択するために利用し、第2の質量分析部をその生成イオンの質量スペクトルを記録するために用いる、様々なタンデム構成について述べている研究者もある。2つのリニア式TOF質量分析部(すなわちリフレクトロンなし)及び生成イオンの再加速を用いた手法が、Derrick(Jardine,D.R.;Morgan,J.;Alderdice,D.S.;Derrick,P.J.:Org.Mass Spectrom.Vol.27(1992)pp.1077−83)及びCooks(Schey,K.L.;Cooks,R.G.;Grix,R;Wollnik,H.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes Vol.77(1987)pp.49−61)によって述べられている。
【0018】
リニア/リフレクトロン(TOF/RTOF)構成も、Cooksによって報告されている(Schey,K.L.;Cooks,R.G.;Kraft,A.;Grix,R.;Wollnik,H.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes Vol.94(1989)pp.1−14)。最近では、Strobel及びRussell(Strobel,F.H.;Solouki,T.;White,M.A.;Russell,D.H.,J.Am.Soc.Mass Spectrom.Vol.2(1990)pp.91−94、及びStrobel,F.H.;Preston,L.M.;Washburn,K.S.;Russell,D.H.,Anal.Chem.Vol.64(1992)pp.754−62)が、質量選択用の2重収束セクタ質量分析部、及び生成イオンを記録するためのリフレクトロンTOFを用いたハイブリッド型計測器(EB/RTOF)について述べている。
【0019】
さらに、Cottor及びCornish(Cornish,T.J.;Cotter,R.J.Analytical Chemistry Vol.65(1993)pp.1043−47、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む、及びCornish,T.J.;Cotter,R.J.Org.Mass Spectrom.、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)は、2つの反射式飛行時間型質量分析部を用いたタンデム(RTOF/RTOF)飛行時間型計測器について述べている。第1の分析部は、衝突セルより前に電子ゲートによって前駆イオンを高分解能で選択することを可能にし、第2の質量分析部は、衝突誘起解離(CID)又は生成イオンの質量スペクトルを記録するために用いられる。この計測器では、2段式リフレクトロンと1段式リフレクトロンの両方が用いられている。しかし現在のところ、1段式と2段式リフレクトロンのどちらにも前述の収束上の制限がある。
【0020】
タンデム飛行時間型質量分析計には、生成イオンの重量スペクトルの記録に関してリフレクトロンTOF分析部に勝るいくつかの明確な利点がある。多くの場合、こうした利点は2セクタ(EB)質量分析計に使用されるリンクE/B走査法に対する4セクタ(EBEB)計測器の利点に類似している。
【0021】
すなわち、衝突チャンバでイオンを時間収束させるときに電子ゲートが実施されるため、タンデムの飛行時間によって前駆イオンをより高い質量分解能で選択することが可能になる。それに対して、リフレクトロンTOFの第1の直線領域(L1)でのイオン質量ゲートは、リフレクトロンによる収束の前に実施される。第2に、2つのリフレクトロンを組み込んだタンデム飛行時間型質量分析計では、第1のフィールドフリー領域で発生して第1のリフレクトロンを横断する準安定イオンがイオン質量ゲートに同時に到着しないため、準安定過程を衝突誘起解離からより明確に分離することができる。
【0022】
1993年に、Enkeと共同研究者等(Seterlin,M.A.;Vlasak,P.R.;McLane,R.D.;Enke,C.G.,J.Am.Chem.Soc.4(1993)751−754)もタンデム飛行時間型質量分析計を設計しているが、光解離を用いて生成イオンを形成している。収束の問題には、解離直前にイオンを減速させ、生成イオンを第2のリフレクトロン分析部内へ向けて再加速することによって対処している。しかしこの手法は、衝突誘起解離を用いる場合の初期運動エネルギーすべてを十分に利用していない。Vestalと共同研究者等(Medzihradsky,K.F.;Campbell,J.M.;Baldwin,M.A.;Falik,A.M.;Juhasz,P.;Vestal,M.L.;Burlingham,A.L.,Anal.Chem.72(2000)552−558)によって述べられ、applied biosystems of Framingham(マサチューセッツ州)によって商品化されているタンデム計測器では、イオンはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によって形成され、パルス引き出し又は遅延引き出しにより、タイミングを合わせたイオンゲートによってイオンが質量選択される収束点に収束される。次いで、イオンは衝突セルを通過し、そこで解離される。生成イオンは、質量選択されたその前駆体と同じ速度を持ち続け、したがって、すべてが同時に第2の「ソース」に入る。次いで生成イオンは、パルス引き出しによってリフレクトロン質量分析部内へ向けて加速される。限られたリフレクトロンのバンド幅を適応させるために、前駆イオンの運動エネルギー(したがって実験室系衝突エネルギー)は1〜2keVに保たれ、第2のソース内のパルス引き出しによって、生成イオンにさらに18keVが与えられる。このようにして、イオンは18〜20keVに対するエネルギー範囲を有してリフレクトロンに入る。BRUKER DALTONICS(マサチューセッツ州ビレリカ)で設計された計測器では、初期運動エネルギー(及び実験室系衝突エネルギー)はやはり数keVに設定され、イオンが滞留している間にリフトセルの電位を上げることにより、生成イオンがさらに加速される(Schnaible,V.;Wefing,S.;Resemann,A.;Suckau,D.;Bucker,A.;Wolf−Kummeth,Hoffman,D.,Anal.Chem.74(2002)4980−4988)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の態様は、リニア式飛行時間型質量分析部及びカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部を含むタンデム質量分析計を提供することである。リニア式飛行時間型質量分析部で形成された複数のイオン質量を有するイオンがカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部に入るように、カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部はリニア式飛行時間型質量分析部の端部に配置される。タンデム質量分析計はまた、飛行時間型質量分析部とカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部の間に配置された質量選択ゲートを含む。質量選択ゲートは複数のイオン質量からあるイオン質量を選択する。さらにタンデム質量分析計は、リニア式飛行時間型分析部で形成されるイオンの経路内に設けられた解離用構成要素も含む。解離用構成要素は、イオンを複数のイオンフラグメントに解離させる。
【0024】
一実施例では、リニア式飛行時間型分析部はイオン源を含む。このイオン源には、例えば試料プレート及びイオン化エネルギー源を含めることができる。イオン源は、試料プレートに近接して配置された引き出し電極を備えていてもよい。イオン化エネルギー源は、例えばレーザー、電子ビーム源、エネルギーイオンビーム、エネルギー原子ビーム源又は高周波電源とすることができる。試料プレートは、約1キロボルト〜50キロボルトの大きさの試料電圧に保つことができる。試料電圧は、イオン源で形成されたイオンを収束させるためにパルス化することができる。同様に、引き出し電極も約1キロボルト〜50キロボルトの大きさの引き出し電圧に保つことができる。
【0025】
一実施例では、カーブしたフィールドリフレクトロン分析部は選択された電圧電位に接続された複数の中空電極を含み、その結果、複数の中空電極は共同して、イオンフラグメントを速度ゼロまで減速させてイオンフラグメントの方向転換を可能にする非直線状の減速電場を生成する。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、イオンフラグメントの侵入深さへのその依存性が例えば円弧を描く電圧電位によって決まる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、少なくともタンデム質量分析計の飛行部分に沿った任意の点で形成されるイオンフラグメントの主要部分を収束させるように構成することができる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場はまた、カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにカーブしたフィールドリフレクトロン内の電圧電位を走査する、又は階段状にする必要なしに、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分を収束させるように構成することもできる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにイオンフラグメントに追加の運動エネルギーを与えることなく、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分にわたってイオンフラグメントを収束させるように構成することもできる。
【0026】
タンデム質量分析計は、イオンフラグメントの経路内に配置されたイオン検出器を備えることもできる。このイオン検出器には、チャンネルトロン、電子増倍器、又は測定される粒子を捕らえるように配置されたマイクロチャンネルプレート組立体が含まれる。
【0027】
解離用構成要素は、衝突チャンバや衝突セルを含むことができる。衝突チャンバは、イオンの経路内の質量選択ゲートより前、又はイオンの経路内の質量選択ゲートより後に配置することができる。衝突チャンバは、例えば不活性ガスなどのガスで満たすことができる。解離用構成要素は衝突チャンバに限定されず、イオンを解離させるように構成された電子ビーム、エネルギー原子源又は光子ビームを含むこともできる。
【0028】
一実施例では、質量選択ゲートは、複数のイオン質量中の所望されるイオン質量を選択するように適合されたBrandbury−Nielsenイオンゲートである。
【0029】
添付図面と共に取り上げ、これから言及する本発明の例示的な実施例についての以下の詳細な記述から、本発明のこうした態様及び特徴、並びに他の態様及び特徴がより明らかとなり、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明では、カーブしたフィールドリフレクトロン(リフレクトロン分析部)と連結させたリニア式飛行時間型分析計を用いることにより、高性能の飛行時間型質量分析計によってイオンの衝突誘起解離(CID)及びタンデム質量分析が可能になる。カーブしたフィールドリフレクトロンは、(実験室系で)比較的高い衝突エネルギーの使用を可能にするバンド幅を収束させる高い運動エネルギーを与える。このようにして、イオンフラグメント、すなわち解離による生成物をリフレクトロン分析部に入る前に再加速する、又はエネルギーを「高める」ことが不要になる。
【0031】
本発明による質量分析計の一実施例を図3に示す。質量分析計40は、リニア式飛行時間型質量分析部42及びカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部44を含んでいる。カーブしたフィールド質量分析部44は、リニア式飛行時間型質量分析部42の端部に配置されている。質量分析計40はまた、リニア式飛行時間型質量分析部42とカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部44の間に配置された質量選択ゲート46を含んでいる。
【0032】
飛行時間型質量分析部はイオン源50を含んでいる。イオン源50は、試料プレート52及びイオン化源54を有している。試料プレート52は、質量分析される材料の試料(図示せず)を保持する。試料プレート52は、単純な試料プローブ、可動ステージを備えたより複雑な試料の配列、又はイオン化源54に対して試料を配置することを可能にする他の機構とすることができる。試料材料は、例えば化学薬品やDNAなどの生体分子とすることができる。試料プレート52には、比較的高い電圧、例えば20kVでバイアスがかけられる。
【0033】
イオン化源54は、図3の実施例に示すようなレーザー放射源、電子ビーム、イオン源、又は高速(エネルギ)原子源など任意の放射源とすることができる。レーザー放射源は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)に適している。電子ビーム源では、電子が試料材料と衝突することによってイオンが生成される。同様に、材料の試料に対してイオンビームを衝突させることによって、分析するイオンを生成させることもできる。イオン化源54をプラズマトロン、すなわち、例えば高周波を用いて試料材料内でイオン化及びイオンの形成を引き起こすことが可能なプラズマ放電イオン源とすることもできる(この技術は、比較的小さい分子サイズを有する化学薬品の質量分析に適している)。
【0034】
イオン源50はさらに、試料プレート52に近接して配置された(1つ又は複数の)引き出し電極56を含んでいる。引き出し電極56は、試料プレート52で形成されたイオンを引き出すために、試料プレート52に対してある電位に保たれたグリッド電極を含むことができる。引き出し電極56は他のイオン引き出し用の光学系を含むことも可能であり、これを図3に示すように環状形にして、形成されたイオンが環状のイオン光学系の中央開口を通って移動できるようにしてもよい。
【0035】
試料プレート52の電圧、或いは(1つ又複数の)引き出し電極の電圧をパルス化することができる。試料源52の電圧、又は電圧引き出し電極をパルス化することにより、イオンをより適切に収束させることが可能になる。電圧波形の複数の変形形態(例えば線形、指数)の使用、並びに(MALDIにおける)レーザーパルスに対する電圧パルスの遅延時間の調整を含めて、様々なパルス方式が存在している。例示的なパルス式イオン引き出し法は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第6518568号に記載されており、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0036】
カーブしたフィールドリフレクトロン44は、例えば連続的であるが非直線状の単一の領域を有することができる。カーブしたフィールドリフレクトロンは、電極の積み重ね60(イオンレンズとも呼ばれる)を有している。それぞれの電極は、非直線状の減速場を定めるために互いに抵抗するように接続されている。最も一般的なケースでは、電極の積み重ね60はリング電極を用いて構成される。電極の積み重ね60は共同して、イオンを速度ゼロまで減速させ、イオンが方向転換してほぼ同じ経路に沿って戻ることを可能にする減速電場を生成するように、選択された電圧電位に接続されている。戻り経路では、イオンはイオン検出器62の方へ向けられる。高い運動エネルギー(速度)を有するイオンは、低い運動エネルギーを有するイオンよりカーブしたフィールドリフレクトロン、すなわち電極の積み重ね60に深く侵入し、したがって検出器62までより長い経路を有するようになる。イオンは検出器62に到達するとき、その初期運動エネルギー分布を保持している。しかし、異なる質量のイオンは異なる時間に到達する。
【0037】
検出器62は、任意の市販の荷電粒子検出器から選択することができる。こうした検出器には、それだけには限らないが、電子増倍器、チャンネルトロン又はマイクロチャンネルプレート(MCP)組立体が含まれる。電子倍増器は、互いに向かい合っているが互いにずれた一連の湾曲プレートを有する不連続なダイノードであり、1つのプレートに衝突したイオンによって2次電子が生じ、次いで一連のプレートを通る電子なだれが発生する。チャンネルトロンは、内部を電子放射材料で被覆された角のような形をした連続ダイノード構造である。チャンネルトロンに衝突したイオンによって2次電子が生じ、その結果、電子なだれの効果が生じてさらに多くの2次電子、最終的には電流パルスが発生する。マイクロチャンネルプレートは、エッチングされた何千若しくは何百万の小さい孔を含む加鉛ガラスのディスクでできている。各孔の内側表面は、高エネルギーの電子又はイオンが衝突したとき、多数の2次電子を放出しやすいように被覆されている。イオンなど高エネルギー粒子が孔への入口付近で材料に衝突して電子を放出すると、電子は加速して孔の深部に入り、壁に衝突して多数の2次電子を放出させ、電子なだれを引き起こす。
【0038】
検出器に衝突したイオンに対応する検出された電子の信号は、さらに増幅、積算、デジタル化されて後の解析のためにメモリに記録され、且つ/又は評価のためにグラフィカルインターフェースによって表示される。検出法の例は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第5572025号に開示されており、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0039】
質量分析部42で発生したイオンが、以下の段落でより詳細に説明する他の質量分析のために質量分析部44に入るように、リニア式飛行時間型質量分析部42及びカーブしたフィールド質量分析部44は、端と端を接して配置されている。タンデム質量分析計40の動作中にイオン源50で形成されたイオンが衝突せずに移動することができるように、引き出し電極56など質量分析部42内の電極、減速電極60など質量分析部44内の電極、及び検出器62は、真空チャンバ65に収められている。真空チャンバ65は、1つ又は複数の真空ポンプを用いて排気され、5×10−7トルより低い圧力に保たれる。例えば、2つのターボ分子ポンプを用いることができる。ターボ分子ポンプ66を用いて質量分析部42の領域が排気され、ターボ分子ポンプ68を用いて質量分析部44の領域が排気される。
【0040】
質量分析計40は、イオン源50で形成された複数のイオン質量の中からあるイオン質量(前駆イオン質量)を選択するように動作する。次いで、前駆イオン質量がガスとの衝突によって解離されて(衝突解離)、複数の生成イオンが形成される。しかし、前駆イオン質量の解離はガスとの衝突による解離には限定されず、前駆イオン質量の解離を、光子ビーム(レーザー)の使用による光解離や、電子源の使用による電子衝突解離によっても実施可能であることが理解できる。リフレクトロン質量分析部44を用いて、前駆イオン質量の解離から生じた生成イオンの生成イオン質量スペクトルが記録される。
【0041】
例えば図3に示すように、衝突解離の場合には、選択されたイオン質量の経路内に衝突チャンバ70(すなわち解離用構成要素)が配置される。衝突チャンバ70は、ヘリウム、アルゴン、キセノンなど不活性ガスで満たされている。衝突チャンバは、様々な形を有することができる。一実施例では、衝突チャンバ70は内径Xcm、長さYcm(例えば、内径0.2インチ(5mm)、長さ1.125インチ(2.85cm))のステンレス鋼の円筒である。衝突チャンバ70内部のガスの密度は、質量分解能の低下を避けるために質量分析部42と質量分析部44の両方の領域で比較的低い周囲圧力を維持しながら、効果的な解離を実現するように選択される。したがって、チャンバ62内部の圧力と衝突チャンバ70内部の圧力の両方をモニターするために、圧力モニターも設けられる。
【0042】
質量選択ゲート46は、質量分析部42と質量分析部44の間に配置されている。図3に示すように、質量選択ゲート46は、イオン源50の端部からの距離がD1、リフレクトロン電極60の端部からの距離がD2の所に配置されている。図3に示した実施例では、衝突チャンバ70は、前駆イオンの経路内の質量選択ゲート46より前に配置されている。しかし、衝突チャンバ70をイオンの経路に沿った任意の場所に配置することもできる。例えば、衝突チャンバ70を質量選択ゲート46より後に配置することもできる。適切な質量選択ゲート46はBradbury−Nielsenイオンゲートである(Bradbury,N.E.;Nielsen,R.A.,Phys.Rev.49(1936)388−393)。Bradbury−Nielsenイオンゲートは、平行なワイヤで構成されたイオンゲートである。このゲートは、イオンの軌跡に垂直な電場を生成する隣接したワイヤを横切る電位を印加することによって閉じられ、したがって選択されたイオンの通過を効果的に遮断することができる。このようにして、選択されたイオンだけがその経路内に留まることが可能になり、他のイオンは拒絶又は遮断される。
【0043】
前駆イオン質量は、不活性ガス(例えばヘリウム)と衝突すると解離して、中性フラグメント種並びにイオンフラグメント種(生成イオン)を生成する。中性種はリフレクトロンの電位場による影響を受けず、比較的一直線のままであるが、イオンフラグメント種は速度ゼロまで減速し、Uターンしてほぼ同じ経路に沿って戻り、検出器62の方へ移動する。
【0044】
質量選択は、飛行時間ドリフト長の範囲内の位置で行われ、この位置では、イオン源50からのパルス式イオン引き出しとカーブしたフィールドリフレクトロン44の両方が収束する。図3に示すように、衝突チャンバ70は、質量選択ゲート46の前に取り付けられている。分子イオン前駆体及びそれが解離したフラグメント(生成)イオンは、ほとんど同じ速度で衝突チャンバ70から出て、実質的に同時にイオンゲート46に入る。したがって、衝突チャンバをイオンゲートの前に配置することも可能である。実際には、前駆イオン及びその生成物それぞれの速度は、イオン源50からカーブしたフィールドリフレクトロン60の入口まで変わらないため、衝突チャンバ70及びイオンゲート46を、互いに任意の順番で配置することができる。1段式及び2段式のリフレクトロンを利用するタンデム計測器とは異なり、前駆イオン及び生成イオンは衝突後に減速されず、運動エネルギーの全範囲を維持してカーブしたフィールドリフレクトロンに入る。さらに、現在のタンデム質量分析計では、エネルギーの違いを適応させるためにリフレクトロンの電圧を階段状にする、又は走査することはせず、ソースから出るイオンの全運動エネルギー(例えば20keV)を衝突エネルギーとして利用することができる。
【0045】
動作、並びに、化学試料及び生物試料の分析への適用に関する以下の実施例から、本発明をさらに詳しく理解することができる。
【0046】
図4A〜4Fは、バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示している。図4Aはガス、すなわちヘリウムなしでのフラーレンの質量スペクトルである。図4B〜4Fは、衝突チャンバ又は衝突セルに加えるヘリウムの量を増加させた場合のフラーレンの質量スペクトルである。図4Bに最初に現れる初期フラグメントは、C2n+系列のイオンであり、C44+及びC50+が主なクラスターである。中性生成物の再イオン化により、この系列が段階的なC2の損失ではなく大きいCn中性種の損失から生じることが示されている。その研究(McHale,K.J.;Polce,M.J.;Wesdemiotes,C.,J.Mass Spectrom.30(1995)33−38)において、最大の中性種としてC28が観察されていることは、最小のC2n+クラスターイオンがC32+イオンであるこの観察と一致している。図4Dでは、より低質量のクラスターの分布が衝突誘起解離(CID)スペクトルとして観察され、これらのクラスターは炭素原子が1つだけ異なっている。発明者はイオン強度の測定から、このスペクトルは約80%の分子イオンビームの減衰に相当すると推定している。こうした低質量のクラスターは、図4E及び4Fに示した質量スペクトルでは強度が高まっており、その場合、減衰はそれぞれ95%及び98%である。高い減衰で低質量のCn+系列が現れることは、これらのイオンが、グラファイトのレーザーアブレーションで観察される分布パターンと類似の、C11+、C15+、C19+及びC23+に主なピークを有する分布パターンをもたらす、多数の又は「壊滅的な」衝突から生じることを示唆している。20keVのイオンの運動エネルギーを用いる場合、その20keVのイオンの運動エネルギーはヘリウムとの衝突によってあまり変化せず、したがって分解能はCn+系列に対して維持される。4keVでは、発明者は、どんな減衰レベルでもアルゴン又はキセノンとの衝突によって低質量のCn+系列のみが生成され、これらは一般に適切な分解能があったこと、すなわちただ1度の衝突でも壊滅的であったことが示唆されることに注目した。その観察と一致して、20keVのビームを用いると、ビームが減衰されても有意味のフラグメントは検出されず、アルゴン又はキセノンが検出された。この実施例及び以下の他の実施例では、高い実験室系エネルギーではヘリウムが最も有利であることが分かる。
【0047】
図5A〜5Dは、ペプチドに対して得られたタンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを表している。図5Aは物質Pのゲートされた質量スペクトルを示している。特にプロトン化された分子イオンが質量選択される、すなわち衝突ガスは存在せず、レーザー出力は十分低くポストソース分解からフラグメンテーションは観察されない。図5B〜5Dは、衝突チャンバに加えるヘリウムの量を増加させることによる効果を示している。図5B〜5Dに見られるように、CID質量スペクトルでは「a及びa−17」系列が主であり、衝突ガスの圧力を高めるに従って、より低質量の系列のイオンが増加する。
【0048】
こうした研究では、使用される実験系衝突エネルギーは、20kVのイオン源からの加速によって得られる最大の前駆イオン運動エネルギー、すなわち例えば20keVである。これは、リフレクトロンのエネルギーバンド幅の要求を満たすために生成イオンを再加速する必要がないために可能となる。
【0049】
重心系(center of mass frame)では、衝突エネルギーは次式によって与えられる。
【0050】
【数1】
上式でvrelは重心系における相対速度である。前駆イオンの速度と比べると、不活性ガスの熱速度は無視できる。したがって、上記の式は、
【0051】
【数2】
となる。
【0052】
したがって重心系では、ヘリウムなど比較的小さい原子(ガス)と衝突した比較的大きいイオンにより、比較的小さい相対エネルギーがもたらされる。
【0053】
例えば、C60/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で55.4eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。C60/Ar衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で1050eVの相対衝突エネルギーがもたらされ、C60/Xe衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で3080eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。同様に、物質P/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で29.6eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。物質P/Ar衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で576eVの相対衝突エネルギーがもたらされ、物質P/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で1770eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。大きい不活性ガスを使用するよりも、ヘリウムを用いた重心系で小さい衝突エネルギーを用いる方が好ましいことがある。分子イオンビームを実質的に減衰させる間、アルゴン及びキセノンによって観察されるイオンの総数が減少した。これはおそらく散乱の効果である。
【0054】
本発明のタンデム質量分析計を様々な具体例で示しているが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、これらの実施例に変化を加えることが可能であることが当業者には理解されよう。例えば、ある一定数の電極(ソース電極、リフレクトロン電極など)を有する質量分析計を示しているが、タンデム質量分析計に1つ又は複数の電極を加えることも本発明の範囲内であることが理解されよう。さらに、質量分析計をレーザーイオン化源の使用と共に記述してきたが、エレクトロスプレー、大気圧イオン化(API)及び大気MALDI(APMALDI)の使用も、本発明の範囲内であることが当業者には理解されよう。本発明の多くの特徴及び利点は詳細な明細書から明らかであり、したがって添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨及び範囲に従った上述の装置のそうした特徴及び利点すべてを包含するものである。
【0055】
さらに、多くの修正及び変更は当業者には容易に考えつくものであるため、本発明を本明細書に記載した正確な構成及び動作に限定することは望ましくない。さらに、本発明の工程及び装置は、質量分析計の分野で使用される関連装置及び工程同様、現実には複雑化する傾向にあり、動作パラメータの適切な値を経験によって決定する、又はコンピュータシミュレーションを実施して所与の用途に最適な設計に到達することによって、最適に実施されることがしばしばである。したがって、本発明の趣旨及び範囲に含まれる適切な変更形態及び同等物すべてを考慮すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】従来の飛行時間型分析計の概略図である。
【図2】リフレクトロンを用いた従来の飛行時間型分析計の概略図である。
【図3】本発明によるタンデム質量分析計の一実施例の概略図である。
【図4A】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4B】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4C】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4D】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4E】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4F】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図5A】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5B】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5C】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5D】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【技術分野】
【0001】
本願は、2003年2月21日出願の仮出願60/449168に基づくものであり、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0002】
本発明は、米国国立衛生研究所の助成RR−64402によってすべて又は一部の資金提供を受けた研究から得られたものである。
【0003】
本発明は、一般に質量分析計、特に2つの飛行時間型質量分析計を組み合わせたタンデム質量分析計に関する。
【背景技術】
【0004】
質量分析計は、物質の化学組成及び分子構造を決定するために用いられる計測器である。これらは一般に、中性分子をイオン化するイオン源、イオンをその質量/電荷比に従って分離する質量分析部、及び検出器からなる。質量分析部は、磁場(B)計測器、電場と磁場を組み合わせた又は2重収束の計測器(EB又はBE)、4重極電場(Q)計測器、及び飛行時間(TOF)型計測器を含めて様々なタイプに分類される。さらに2つ以上の分析部を1台の計測器内で組み合わせて、タンデム(MS/MS)質量分析計を製造することもできる。これには、3連分析部(EBE)、4セクタ質量分析計(EBEB又はBEEB)、3連4重極(QqQ)、及びハイブリッド型(EBqQなど)が含まれる。
【0005】
タンデム質量分析計では、第1の質量分析部は、一般に質量スペクトル中に通常観察されるイオンの中からある前駆イオンを選択するために用いられる。次いで、質量分析部相互間に位置する領域でフラグメンテーションが引き起こされ、第2の質量分析部は、生成イオンの質量スペクトルを与えるために用いられる。一連の分子及びフラグメントの前駆イオンとその生成物との間の関係を決めることにより、タンデム質量分析計をイオン構造の研究に利用することもできる。或いは、タンデム質量分析計は現在では一般に、クロマトグラフィ法によって完全に分別されない複雑な混合物中の生体分子の構造を決定するために用いられている。これには、例えばペプチド、糖ペプチド、糖脂質などが含まれる。ペプチドの場合、フラグメンテーションによってアミノ酸配列に関する情報が生成される。
【0006】
質量分析計の1つのタイプが、飛行時間(TOF)型質量分析計である。図1に示した飛行時間型質量分析計の最も単純なもの(Cotter,Robert J.,Time−of−Flight Mass Spectrometry:Instrumentation and Applications in Biological Research,American Chemical Society,Wasington,DC,1997、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)は、短いソース領域10、より長いフィールドフリードリフト領域12及び検出器14からなっている。イオンが形成され、バックプレート16の電圧及び引き抜きグリッド18の電圧によって決まる電場により、短いソース領域10でその最終的な運動エネルギーまで加速される。引き出しを高め、質量分解能を改善するために、ソース領域に他のグリッド又はレンズ17を加えることもできる。より長いフィールドフリードリフト領域12は、引き抜きグリッド18及び出口グリッド20によって境界が定められている。
【0007】
最も一般的な構成では、引き抜きグリッド18及び出口グリッド20(したがってドリフト長全体)は接地電位であり、バックプレート16の電圧はVであり、またイオンはソース領域で、mv2/2=zeV(ただし、mはイオンの質量、vはその速度、eは電子の電荷、zはイオンの電荷数)で表されるエネルギーまで加速される。次いで、イオンはドリフト領域12を通過し、その(おおよその、1つ又は複数の)飛行時間は次式によって与えられる。
t=[(m/z)2eV]1/2D (I)
これは質量の平方根に依存することを示している。一般に、ソース領域10の長さは0.5cm程度であり、ドリフト長(D)は15cm〜18メートルの範囲である。加速電圧(V)は数百ボルト〜30kVの範囲とすることができ、飛行時間は5〜100マイクロ秒程度である。一般に、初期運動エネルギーによる質量分解能への影響を最小限に抑え、大きいイオンの検出を可能にするために、加速電圧は比較的高くなるように選択される。例えば、(例えば図1の実施例に示すような)20KVの加速電圧は、300キロダルトン(kDa)を越える質量を検出するのに十分であることが分かっている。
【0008】
質量分解能は、バックプレート16やグリッド17など1つ又は複数のソース要素にパルスを発生させることによって改善することができる。ソースに他の時間依存型のパルス又は波形を適用してもよい(Kovtoun,S.V.,English、R.D.and Cotter,R.J.,Mass Correlated Acceleration in a Reflectron MALDI TOF Mass Spectrometer:An Approach for enhanced Resolution over a Broad Range,J.Amer.Soc.Mass Spectrom,13(2002)135−143)。
【0009】
質量分解能は、リフレクトロンを追加することによって改善することもできる(Mamyrin,B.A.,Karataev,V.I.,Shmikk,D.V.Zagulin,V.A.Sov.Phys.JETP 37(1973)45)。通常のリフレクトロンは、本質的にイオンを速度ゼロまで減速させる減速電場であり、イオンが方向転換して同じ又はほとんど同じ経路に沿って戻ることを可能にする。高い運動エネルギー(速度)を有するイオンは、低い運動エネルギーを有するイオンよりリフレクトロンに深く侵入し、したがって検出器までより長い経路を有するようになる。イオンは検出器に到達したとき、その初期運動エネルギーの分布を保持しているが、異なる質量のイオンは異なる時間に到達する。
【0010】
リフレクトロンを利用した飛行時間型質量分析計の例を、図2に概略的に示す(図1及び図2の同じ番号は同じ要素を指すために用いているが、異なる位置にある)。リフレクトロンは、1段式30でも2段式でもよい。1段式及び2段式リフレクトロンのどちらでも、それぞれが互いに抵抗するように接続された電極の積み重ね32(イオンレンズとも呼ばれる)により、1段式リフレクトロン30では1つのグリッド34によって分離された一定の減速場領域が形成される。最も一般的なケースでは、グリッド及びレンズはリング電極を用いて構成される。図2に示したグリッド34の場合、リング電極は薄いワイヤメッシュで覆われている。
【0011】
1段式リフレクトロンでは、単一の減速領域が用いられ、おおよそのイオンの飛行時間は次式によって与えられる。
t=[(m/z)/2eV]1/2[L1+L2+4d] (II)
これは、式(I)に表されていた同様の平方根依存性を有している。式(I)に表されていた項に加えて、項L1、L2及びdがある。L1及びL2は、それぞれ図2に示した直線状のドリフト領域の順方向及び戻り方向における長さであり、dは平均の侵入深さである。収束動作は、式(II)の分母を2eV+U0(ただし、U0は初期運動エネルギー分布からのイオン速度への寄与を表す)で置き換えることによって理解することができる。
【0012】
リフレクトロンは当初、イオン源領域で形成されたイオンに対する質量分解能を改善するためのものであったが、最近ではターゲットガス若しくは面との衝突、光解離又は電子の衝突によって引き起こされる準安定分解或いはフラグメンテーションにより、イオン源外部に形成された生成イオンの質量スペクトルを記録するために利用されている。飛行経路内で分子イオンのフラグメンテーションから生じるイオンは、以下の式で与えられる時間に観察することができる。
t=[(m/z)/2eV]1/2[L1+L2+4(m’+m)d] (III)
上式で、m’は新しいフラグメントイオンの質量である。ペプチドの場合、こうしたイオンによりアミノ酸配列が与えられる。収束動作は、式(III)の分母を2eV+U0(ただし、U0は初期運動エネルギー分布からのイオン速度への寄与を表す)で置き換えることによって理解することができる。こうしたイオンは一般に、リフレクトロンの電圧VRを階段状にする又は走査することによって、或いはCornish及びCotterが述べているカーブしたフィールドリフレクトロン(curved−field reflectron)(Cornish,T.J.,Cottor,R.J.,Non−linear Field Reflectron,米国特許第5464985号、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)など非直線状のリフレクトロンを用いることによって収束させる。
【0013】
生成イオンは、所与の前駆イオンと容易に関連付けることができない、一般に弱く収束が不十分なピークとして通常の質量スペクトルの形で現れる。しかし、第1のドリフト領域を通過する単一の質量のイオンを選択することにより、単一の前駆体に対する生成イオンの質量スペクトルを記録することが可能になる。この手法の例をSchlag等が述べており(Weinkauf,R.;Walter,K.;Weickhardt,C.;Boesl,U.;Schlag,E.W.:Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes Vol.44A(1989)pp.1219−25)、その中では、第1のドリフト領域に静電ゲートが設けられている。次いで、そのゲートを通過したイオンはパルス式UVレーザーを用いた光解離によって断片化され、生成イオンはリフレクトロンの後に検出される。
【0014】
同軸の2段式リフレクトロンを用いた別の手法がLeBeyecと共同研究者等によって紹介され、Standing等(Standing,K.G.;Beavis,R.;Bollbach,G.;Ens.W.;LaFortune,F.;Main,D.;Schueler,B.;Tang,X.;Westmore,J.B.Analytical Instrumentation 16(1)(1987)pp.173−89)が1段式リフレクトロンを用いてそれを発展させている。この手法では、イオンはすべてリフレクトロンに入ることができる。またリフレクトロンの後方に検出器が設けられ、第1のフィールドフリードリフト長での準安定分解から生じた中性種を記録する。こうした中性種は前駆イオンの質量に対応する時間に現れるため、前駆質量に対応する中性種を受け取ったときのみ、リフレクトロン検出器でイオンを記録することが可能である。その結果得られたスペクトルは、相関反射スペクトルとして知られており、単一のイオンパルスのカウントを用いる方法によってのみ得ることができる。
【0015】
今までに設計されたリフレクトロンの主な制限は、生成イオンの収束(質量分解能)が質量範囲全体で一定にならないことである。特に、選択された前駆イオンの質量は、一般に生成イオンの質量スペクトルの中で最も適切に収束されるイオンであるが、低質量の生成イオンでは収束が低下する。これは一般に、低質量の生成イオンは、質量が前駆イオンの質量に近いイオンほどリフレクトロンに深く侵入しないためである。したがって、リフレクトロンの電圧を下げることにより、収束がかなり改善され、スペクトルの低質量部分を記録することが可能になるが、高質量のイオンはただリフレクトロンの後端を通過するだけになるというのが一般的な意見であった。
【0016】
このため、何人かの研究者は、質量スペクトルの異なる領域を記録するためにリフレクトロンの電圧を階段状にすること、或いはリフレクトロンの電圧を走査して一連の中間体から収束させる質量スペクトルを再構成することを提案している(Weinkauf,R.;Walter,K.;Weickhardt,C.;Boesl,U.;Schlag,E.W.Int.J.Mass Spectrom.Ion Processes Vol.44a(1989)pp.1219−25、及びSpengler,B.;Kirsch,D.;Kaufmann,R.;Jaeger,E.Rapid Commun.Mass Spectrom.6(1992)pp.105−08)。生成イオンの質量スペクトルについては、この手法も、飛行時間型質量分析計の多重記録の利点すべてが実現されないという点で、Wiley及びMcLarenが使用したタイムスライス法と同じ欠点を有している。
【0017】
生成イオンの質量スペクトルを、リフレクトロンを使用した単一のTOF分析部で記録することもできるが、第1の質量分析部を前駆イオンの質量を選択するために利用し、第2の質量分析部をその生成イオンの質量スペクトルを記録するために用いる、様々なタンデム構成について述べている研究者もある。2つのリニア式TOF質量分析部(すなわちリフレクトロンなし)及び生成イオンの再加速を用いた手法が、Derrick(Jardine,D.R.;Morgan,J.;Alderdice,D.S.;Derrick,P.J.:Org.Mass Spectrom.Vol.27(1992)pp.1077−83)及びCooks(Schey,K.L.;Cooks,R.G.;Grix,R;Wollnik,H.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes Vol.77(1987)pp.49−61)によって述べられている。
【0018】
リニア/リフレクトロン(TOF/RTOF)構成も、Cooksによって報告されている(Schey,K.L.;Cooks,R.G.;Kraft,A.;Grix,R.;Wollnik,H.,International Journal of Mass Spectrometry and Ion Processes Vol.94(1989)pp.1−14)。最近では、Strobel及びRussell(Strobel,F.H.;Solouki,T.;White,M.A.;Russell,D.H.,J.Am.Soc.Mass Spectrom.Vol.2(1990)pp.91−94、及びStrobel,F.H.;Preston,L.M.;Washburn,K.S.;Russell,D.H.,Anal.Chem.Vol.64(1992)pp.754−62)が、質量選択用の2重収束セクタ質量分析部、及び生成イオンを記録するためのリフレクトロンTOFを用いたハイブリッド型計測器(EB/RTOF)について述べている。
【0019】
さらに、Cottor及びCornish(Cornish,T.J.;Cotter,R.J.Analytical Chemistry Vol.65(1993)pp.1043−47、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む、及びCornish,T.J.;Cotter,R.J.Org.Mass Spectrom.、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む)は、2つの反射式飛行時間型質量分析部を用いたタンデム(RTOF/RTOF)飛行時間型計測器について述べている。第1の分析部は、衝突セルより前に電子ゲートによって前駆イオンを高分解能で選択することを可能にし、第2の質量分析部は、衝突誘起解離(CID)又は生成イオンの質量スペクトルを記録するために用いられる。この計測器では、2段式リフレクトロンと1段式リフレクトロンの両方が用いられている。しかし現在のところ、1段式と2段式リフレクトロンのどちらにも前述の収束上の制限がある。
【0020】
タンデム飛行時間型質量分析計には、生成イオンの重量スペクトルの記録に関してリフレクトロンTOF分析部に勝るいくつかの明確な利点がある。多くの場合、こうした利点は2セクタ(EB)質量分析計に使用されるリンクE/B走査法に対する4セクタ(EBEB)計測器の利点に類似している。
【0021】
すなわち、衝突チャンバでイオンを時間収束させるときに電子ゲートが実施されるため、タンデムの飛行時間によって前駆イオンをより高い質量分解能で選択することが可能になる。それに対して、リフレクトロンTOFの第1の直線領域(L1)でのイオン質量ゲートは、リフレクトロンによる収束の前に実施される。第2に、2つのリフレクトロンを組み込んだタンデム飛行時間型質量分析計では、第1のフィールドフリー領域で発生して第1のリフレクトロンを横断する準安定イオンがイオン質量ゲートに同時に到着しないため、準安定過程を衝突誘起解離からより明確に分離することができる。
【0022】
1993年に、Enkeと共同研究者等(Seterlin,M.A.;Vlasak,P.R.;McLane,R.D.;Enke,C.G.,J.Am.Chem.Soc.4(1993)751−754)もタンデム飛行時間型質量分析計を設計しているが、光解離を用いて生成イオンを形成している。収束の問題には、解離直前にイオンを減速させ、生成イオンを第2のリフレクトロン分析部内へ向けて再加速することによって対処している。しかしこの手法は、衝突誘起解離を用いる場合の初期運動エネルギーすべてを十分に利用していない。Vestalと共同研究者等(Medzihradsky,K.F.;Campbell,J.M.;Baldwin,M.A.;Falik,A.M.;Juhasz,P.;Vestal,M.L.;Burlingham,A.L.,Anal.Chem.72(2000)552−558)によって述べられ、applied biosystems of Framingham(マサチューセッツ州)によって商品化されているタンデム計測器では、イオンはマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)によって形成され、パルス引き出し又は遅延引き出しにより、タイミングを合わせたイオンゲートによってイオンが質量選択される収束点に収束される。次いで、イオンは衝突セルを通過し、そこで解離される。生成イオンは、質量選択されたその前駆体と同じ速度を持ち続け、したがって、すべてが同時に第2の「ソース」に入る。次いで生成イオンは、パルス引き出しによってリフレクトロン質量分析部内へ向けて加速される。限られたリフレクトロンのバンド幅を適応させるために、前駆イオンの運動エネルギー(したがって実験室系衝突エネルギー)は1〜2keVに保たれ、第2のソース内のパルス引き出しによって、生成イオンにさらに18keVが与えられる。このようにして、イオンは18〜20keVに対するエネルギー範囲を有してリフレクトロンに入る。BRUKER DALTONICS(マサチューセッツ州ビレリカ)で設計された計測器では、初期運動エネルギー(及び実験室系衝突エネルギー)はやはり数keVに設定され、イオンが滞留している間にリフトセルの電位を上げることにより、生成イオンがさらに加速される(Schnaible,V.;Wefing,S.;Resemann,A.;Suckau,D.;Bucker,A.;Wolf−Kummeth,Hoffman,D.,Anal.Chem.74(2002)4980−4988)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明の態様は、リニア式飛行時間型質量分析部及びカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部を含むタンデム質量分析計を提供することである。リニア式飛行時間型質量分析部で形成された複数のイオン質量を有するイオンがカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部に入るように、カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部はリニア式飛行時間型質量分析部の端部に配置される。タンデム質量分析計はまた、飛行時間型質量分析部とカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部の間に配置された質量選択ゲートを含む。質量選択ゲートは複数のイオン質量からあるイオン質量を選択する。さらにタンデム質量分析計は、リニア式飛行時間型分析部で形成されるイオンの経路内に設けられた解離用構成要素も含む。解離用構成要素は、イオンを複数のイオンフラグメントに解離させる。
【0024】
一実施例では、リニア式飛行時間型分析部はイオン源を含む。このイオン源には、例えば試料プレート及びイオン化エネルギー源を含めることができる。イオン源は、試料プレートに近接して配置された引き出し電極を備えていてもよい。イオン化エネルギー源は、例えばレーザー、電子ビーム源、エネルギーイオンビーム、エネルギー原子ビーム源又は高周波電源とすることができる。試料プレートは、約1キロボルト〜50キロボルトの大きさの試料電圧に保つことができる。試料電圧は、イオン源で形成されたイオンを収束させるためにパルス化することができる。同様に、引き出し電極も約1キロボルト〜50キロボルトの大きさの引き出し電圧に保つことができる。
【0025】
一実施例では、カーブしたフィールドリフレクトロン分析部は選択された電圧電位に接続された複数の中空電極を含み、その結果、複数の中空電極は共同して、イオンフラグメントを速度ゼロまで減速させてイオンフラグメントの方向転換を可能にする非直線状の減速電場を生成する。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、イオンフラグメントの侵入深さへのその依存性が例えば円弧を描く電圧電位によって決まる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、少なくともタンデム質量分析計の飛行部分に沿った任意の点で形成されるイオンフラグメントの主要部分を収束させるように構成することができる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場はまた、カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにカーブしたフィールドリフレクトロン内の電圧電位を走査する、又は階段状にする必要なしに、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分を収束させるように構成することもできる。カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速場は、カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにイオンフラグメントに追加の運動エネルギーを与えることなく、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分にわたってイオンフラグメントを収束させるように構成することもできる。
【0026】
タンデム質量分析計は、イオンフラグメントの経路内に配置されたイオン検出器を備えることもできる。このイオン検出器には、チャンネルトロン、電子増倍器、又は測定される粒子を捕らえるように配置されたマイクロチャンネルプレート組立体が含まれる。
【0027】
解離用構成要素は、衝突チャンバや衝突セルを含むことができる。衝突チャンバは、イオンの経路内の質量選択ゲートより前、又はイオンの経路内の質量選択ゲートより後に配置することができる。衝突チャンバは、例えば不活性ガスなどのガスで満たすことができる。解離用構成要素は衝突チャンバに限定されず、イオンを解離させるように構成された電子ビーム、エネルギー原子源又は光子ビームを含むこともできる。
【0028】
一実施例では、質量選択ゲートは、複数のイオン質量中の所望されるイオン質量を選択するように適合されたBrandbury−Nielsenイオンゲートである。
【0029】
添付図面と共に取り上げ、これから言及する本発明の例示的な実施例についての以下の詳細な記述から、本発明のこうした態様及び特徴、並びに他の態様及び特徴がより明らかとなり、より容易に理解されるようになるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
本発明では、カーブしたフィールドリフレクトロン(リフレクトロン分析部)と連結させたリニア式飛行時間型分析計を用いることにより、高性能の飛行時間型質量分析計によってイオンの衝突誘起解離(CID)及びタンデム質量分析が可能になる。カーブしたフィールドリフレクトロンは、(実験室系で)比較的高い衝突エネルギーの使用を可能にするバンド幅を収束させる高い運動エネルギーを与える。このようにして、イオンフラグメント、すなわち解離による生成物をリフレクトロン分析部に入る前に再加速する、又はエネルギーを「高める」ことが不要になる。
【0031】
本発明による質量分析計の一実施例を図3に示す。質量分析計40は、リニア式飛行時間型質量分析部42及びカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部44を含んでいる。カーブしたフィールド質量分析部44は、リニア式飛行時間型質量分析部42の端部に配置されている。質量分析計40はまた、リニア式飛行時間型質量分析部42とカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部44の間に配置された質量選択ゲート46を含んでいる。
【0032】
飛行時間型質量分析部はイオン源50を含んでいる。イオン源50は、試料プレート52及びイオン化源54を有している。試料プレート52は、質量分析される材料の試料(図示せず)を保持する。試料プレート52は、単純な試料プローブ、可動ステージを備えたより複雑な試料の配列、又はイオン化源54に対して試料を配置することを可能にする他の機構とすることができる。試料材料は、例えば化学薬品やDNAなどの生体分子とすることができる。試料プレート52には、比較的高い電圧、例えば20kVでバイアスがかけられる。
【0033】
イオン化源54は、図3の実施例に示すようなレーザー放射源、電子ビーム、イオン源、又は高速(エネルギ)原子源など任意の放射源とすることができる。レーザー放射源は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)に適している。電子ビーム源では、電子が試料材料と衝突することによってイオンが生成される。同様に、材料の試料に対してイオンビームを衝突させることによって、分析するイオンを生成させることもできる。イオン化源54をプラズマトロン、すなわち、例えば高周波を用いて試料材料内でイオン化及びイオンの形成を引き起こすことが可能なプラズマ放電イオン源とすることもできる(この技術は、比較的小さい分子サイズを有する化学薬品の質量分析に適している)。
【0034】
イオン源50はさらに、試料プレート52に近接して配置された(1つ又は複数の)引き出し電極56を含んでいる。引き出し電極56は、試料プレート52で形成されたイオンを引き出すために、試料プレート52に対してある電位に保たれたグリッド電極を含むことができる。引き出し電極56は他のイオン引き出し用の光学系を含むことも可能であり、これを図3に示すように環状形にして、形成されたイオンが環状のイオン光学系の中央開口を通って移動できるようにしてもよい。
【0035】
試料プレート52の電圧、或いは(1つ又複数の)引き出し電極の電圧をパルス化することができる。試料源52の電圧、又は電圧引き出し電極をパルス化することにより、イオンをより適切に収束させることが可能になる。電圧波形の複数の変形形態(例えば線形、指数)の使用、並びに(MALDIにおける)レーザーパルスに対する電圧パルスの遅延時間の調整を含めて、様々なパルス方式が存在している。例示的なパルス式イオン引き出し法は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第6518568号に記載されており、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0036】
カーブしたフィールドリフレクトロン44は、例えば連続的であるが非直線状の単一の領域を有することができる。カーブしたフィールドリフレクトロンは、電極の積み重ね60(イオンレンズとも呼ばれる)を有している。それぞれの電極は、非直線状の減速場を定めるために互いに抵抗するように接続されている。最も一般的なケースでは、電極の積み重ね60はリング電極を用いて構成される。電極の積み重ね60は共同して、イオンを速度ゼロまで減速させ、イオンが方向転換してほぼ同じ経路に沿って戻ることを可能にする減速電場を生成するように、選択された電圧電位に接続されている。戻り経路では、イオンはイオン検出器62の方へ向けられる。高い運動エネルギー(速度)を有するイオンは、低い運動エネルギーを有するイオンよりカーブしたフィールドリフレクトロン、すなわち電極の積み重ね60に深く侵入し、したがって検出器62までより長い経路を有するようになる。イオンは検出器62に到達するとき、その初期運動エネルギー分布を保持している。しかし、異なる質量のイオンは異なる時間に到達する。
【0037】
検出器62は、任意の市販の荷電粒子検出器から選択することができる。こうした検出器には、それだけには限らないが、電子増倍器、チャンネルトロン又はマイクロチャンネルプレート(MCP)組立体が含まれる。電子倍増器は、互いに向かい合っているが互いにずれた一連の湾曲プレートを有する不連続なダイノードであり、1つのプレートに衝突したイオンによって2次電子が生じ、次いで一連のプレートを通る電子なだれが発生する。チャンネルトロンは、内部を電子放射材料で被覆された角のような形をした連続ダイノード構造である。チャンネルトロンに衝突したイオンによって2次電子が生じ、その結果、電子なだれの効果が生じてさらに多くの2次電子、最終的には電流パルスが発生する。マイクロチャンネルプレートは、エッチングされた何千若しくは何百万の小さい孔を含む加鉛ガラスのディスクでできている。各孔の内側表面は、高エネルギーの電子又はイオンが衝突したとき、多数の2次電子を放出しやすいように被覆されている。イオンなど高エネルギー粒子が孔への入口付近で材料に衝突して電子を放出すると、電子は加速して孔の深部に入り、壁に衝突して多数の2次電子を放出させ、電子なだれを引き起こす。
【0038】
検出器に衝突したイオンに対応する検出された電子の信号は、さらに増幅、積算、デジタル化されて後の解析のためにメモリに記録され、且つ/又は評価のためにグラフィカルインターフェースによって表示される。検出法の例は、本発明の譲受人に譲渡された米国特許第5572025号に開示されており、その内容全体を参照によって本明細書に組み込む。
【0039】
質量分析部42で発生したイオンが、以下の段落でより詳細に説明する他の質量分析のために質量分析部44に入るように、リニア式飛行時間型質量分析部42及びカーブしたフィールド質量分析部44は、端と端を接して配置されている。タンデム質量分析計40の動作中にイオン源50で形成されたイオンが衝突せずに移動することができるように、引き出し電極56など質量分析部42内の電極、減速電極60など質量分析部44内の電極、及び検出器62は、真空チャンバ65に収められている。真空チャンバ65は、1つ又は複数の真空ポンプを用いて排気され、5×10−7トルより低い圧力に保たれる。例えば、2つのターボ分子ポンプを用いることができる。ターボ分子ポンプ66を用いて質量分析部42の領域が排気され、ターボ分子ポンプ68を用いて質量分析部44の領域が排気される。
【0040】
質量分析計40は、イオン源50で形成された複数のイオン質量の中からあるイオン質量(前駆イオン質量)を選択するように動作する。次いで、前駆イオン質量がガスとの衝突によって解離されて(衝突解離)、複数の生成イオンが形成される。しかし、前駆イオン質量の解離はガスとの衝突による解離には限定されず、前駆イオン質量の解離を、光子ビーム(レーザー)の使用による光解離や、電子源の使用による電子衝突解離によっても実施可能であることが理解できる。リフレクトロン質量分析部44を用いて、前駆イオン質量の解離から生じた生成イオンの生成イオン質量スペクトルが記録される。
【0041】
例えば図3に示すように、衝突解離の場合には、選択されたイオン質量の経路内に衝突チャンバ70(すなわち解離用構成要素)が配置される。衝突チャンバ70は、ヘリウム、アルゴン、キセノンなど不活性ガスで満たされている。衝突チャンバは、様々な形を有することができる。一実施例では、衝突チャンバ70は内径Xcm、長さYcm(例えば、内径0.2インチ(5mm)、長さ1.125インチ(2.85cm))のステンレス鋼の円筒である。衝突チャンバ70内部のガスの密度は、質量分解能の低下を避けるために質量分析部42と質量分析部44の両方の領域で比較的低い周囲圧力を維持しながら、効果的な解離を実現するように選択される。したがって、チャンバ62内部の圧力と衝突チャンバ70内部の圧力の両方をモニターするために、圧力モニターも設けられる。
【0042】
質量選択ゲート46は、質量分析部42と質量分析部44の間に配置されている。図3に示すように、質量選択ゲート46は、イオン源50の端部からの距離がD1、リフレクトロン電極60の端部からの距離がD2の所に配置されている。図3に示した実施例では、衝突チャンバ70は、前駆イオンの経路内の質量選択ゲート46より前に配置されている。しかし、衝突チャンバ70をイオンの経路に沿った任意の場所に配置することもできる。例えば、衝突チャンバ70を質量選択ゲート46より後に配置することもできる。適切な質量選択ゲート46はBradbury−Nielsenイオンゲートである(Bradbury,N.E.;Nielsen,R.A.,Phys.Rev.49(1936)388−393)。Bradbury−Nielsenイオンゲートは、平行なワイヤで構成されたイオンゲートである。このゲートは、イオンの軌跡に垂直な電場を生成する隣接したワイヤを横切る電位を印加することによって閉じられ、したがって選択されたイオンの通過を効果的に遮断することができる。このようにして、選択されたイオンだけがその経路内に留まることが可能になり、他のイオンは拒絶又は遮断される。
【0043】
前駆イオン質量は、不活性ガス(例えばヘリウム)と衝突すると解離して、中性フラグメント種並びにイオンフラグメント種(生成イオン)を生成する。中性種はリフレクトロンの電位場による影響を受けず、比較的一直線のままであるが、イオンフラグメント種は速度ゼロまで減速し、Uターンしてほぼ同じ経路に沿って戻り、検出器62の方へ移動する。
【0044】
質量選択は、飛行時間ドリフト長の範囲内の位置で行われ、この位置では、イオン源50からのパルス式イオン引き出しとカーブしたフィールドリフレクトロン44の両方が収束する。図3に示すように、衝突チャンバ70は、質量選択ゲート46の前に取り付けられている。分子イオン前駆体及びそれが解離したフラグメント(生成)イオンは、ほとんど同じ速度で衝突チャンバ70から出て、実質的に同時にイオンゲート46に入る。したがって、衝突チャンバをイオンゲートの前に配置することも可能である。実際には、前駆イオン及びその生成物それぞれの速度は、イオン源50からカーブしたフィールドリフレクトロン60の入口まで変わらないため、衝突チャンバ70及びイオンゲート46を、互いに任意の順番で配置することができる。1段式及び2段式のリフレクトロンを利用するタンデム計測器とは異なり、前駆イオン及び生成イオンは衝突後に減速されず、運動エネルギーの全範囲を維持してカーブしたフィールドリフレクトロンに入る。さらに、現在のタンデム質量分析計では、エネルギーの違いを適応させるためにリフレクトロンの電圧を階段状にする、又は走査することはせず、ソースから出るイオンの全運動エネルギー(例えば20keV)を衝突エネルギーとして利用することができる。
【0045】
動作、並びに、化学試料及び生物試料の分析への適用に関する以下の実施例から、本発明をさらに詳しく理解することができる。
【0046】
図4A〜4Fは、バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示している。図4Aはガス、すなわちヘリウムなしでのフラーレンの質量スペクトルである。図4B〜4Fは、衝突チャンバ又は衝突セルに加えるヘリウムの量を増加させた場合のフラーレンの質量スペクトルである。図4Bに最初に現れる初期フラグメントは、C2n+系列のイオンであり、C44+及びC50+が主なクラスターである。中性生成物の再イオン化により、この系列が段階的なC2の損失ではなく大きいCn中性種の損失から生じることが示されている。その研究(McHale,K.J.;Polce,M.J.;Wesdemiotes,C.,J.Mass Spectrom.30(1995)33−38)において、最大の中性種としてC28が観察されていることは、最小のC2n+クラスターイオンがC32+イオンであるこの観察と一致している。図4Dでは、より低質量のクラスターの分布が衝突誘起解離(CID)スペクトルとして観察され、これらのクラスターは炭素原子が1つだけ異なっている。発明者はイオン強度の測定から、このスペクトルは約80%の分子イオンビームの減衰に相当すると推定している。こうした低質量のクラスターは、図4E及び4Fに示した質量スペクトルでは強度が高まっており、その場合、減衰はそれぞれ95%及び98%である。高い減衰で低質量のCn+系列が現れることは、これらのイオンが、グラファイトのレーザーアブレーションで観察される分布パターンと類似の、C11+、C15+、C19+及びC23+に主なピークを有する分布パターンをもたらす、多数の又は「壊滅的な」衝突から生じることを示唆している。20keVのイオンの運動エネルギーを用いる場合、その20keVのイオンの運動エネルギーはヘリウムとの衝突によってあまり変化せず、したがって分解能はCn+系列に対して維持される。4keVでは、発明者は、どんな減衰レベルでもアルゴン又はキセノンとの衝突によって低質量のCn+系列のみが生成され、これらは一般に適切な分解能があったこと、すなわちただ1度の衝突でも壊滅的であったことが示唆されることに注目した。その観察と一致して、20keVのビームを用いると、ビームが減衰されても有意味のフラグメントは検出されず、アルゴン又はキセノンが検出された。この実施例及び以下の他の実施例では、高い実験室系エネルギーではヘリウムが最も有利であることが分かる。
【0047】
図5A〜5Dは、ペプチドに対して得られたタンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを表している。図5Aは物質Pのゲートされた質量スペクトルを示している。特にプロトン化された分子イオンが質量選択される、すなわち衝突ガスは存在せず、レーザー出力は十分低くポストソース分解からフラグメンテーションは観察されない。図5B〜5Dは、衝突チャンバに加えるヘリウムの量を増加させることによる効果を示している。図5B〜5Dに見られるように、CID質量スペクトルでは「a及びa−17」系列が主であり、衝突ガスの圧力を高めるに従って、より低質量の系列のイオンが増加する。
【0048】
こうした研究では、使用される実験系衝突エネルギーは、20kVのイオン源からの加速によって得られる最大の前駆イオン運動エネルギー、すなわち例えば20keVである。これは、リフレクトロンのエネルギーバンド幅の要求を満たすために生成イオンを再加速する必要がないために可能となる。
【0049】
重心系(center of mass frame)では、衝突エネルギーは次式によって与えられる。
【0050】
【数1】
上式でvrelは重心系における相対速度である。前駆イオンの速度と比べると、不活性ガスの熱速度は無視できる。したがって、上記の式は、
【0051】
【数2】
となる。
【0052】
したがって重心系では、ヘリウムなど比較的小さい原子(ガス)と衝突した比較的大きいイオンにより、比較的小さい相対エネルギーがもたらされる。
【0053】
例えば、C60/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で55.4eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。C60/Ar衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で1050eVの相対衝突エネルギーがもたらされ、C60/Xe衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で3080eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。同様に、物質P/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で29.6eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。物質P/Ar衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で576eVの相対衝突エネルギーがもたらされ、物質P/He衝突系では、20keVの実験室系衝突エネルギーによって重心で1770eVの相対衝突エネルギーがもたらされる。大きい不活性ガスを使用するよりも、ヘリウムを用いた重心系で小さい衝突エネルギーを用いる方が好ましいことがある。分子イオンビームを実質的に減衰させる間、アルゴン及びキセノンによって観察されるイオンの総数が減少した。これはおそらく散乱の効果である。
【0054】
本発明のタンデム質量分析計を様々な具体例で示しているが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく、これらの実施例に変化を加えることが可能であることが当業者には理解されよう。例えば、ある一定数の電極(ソース電極、リフレクトロン電極など)を有する質量分析計を示しているが、タンデム質量分析計に1つ又は複数の電極を加えることも本発明の範囲内であることが理解されよう。さらに、質量分析計をレーザーイオン化源の使用と共に記述してきたが、エレクトロスプレー、大気圧イオン化(API)及び大気MALDI(APMALDI)の使用も、本発明の範囲内であることが当業者には理解されよう。本発明の多くの特徴及び利点は詳細な明細書から明らかであり、したがって添付の特許請求の範囲は、本発明の真の趣旨及び範囲に従った上述の装置のそうした特徴及び利点すべてを包含するものである。
【0055】
さらに、多くの修正及び変更は当業者には容易に考えつくものであるため、本発明を本明細書に記載した正確な構成及び動作に限定することは望ましくない。さらに、本発明の工程及び装置は、質量分析計の分野で使用される関連装置及び工程同様、現実には複雑化する傾向にあり、動作パラメータの適切な値を経験によって決定する、又はコンピュータシミュレーションを実施して所与の用途に最適な設計に到達することによって、最適に実施されることがしばしばである。したがって、本発明の趣旨及び範囲に含まれる適切な変更形態及び同等物すべてを考慮すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】従来の飛行時間型分析計の概略図である。
【図2】リフレクトロンを用いた従来の飛行時間型分析計の概略図である。
【図3】本発明によるタンデム質量分析計の一実施例の概略図である。
【図4A】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4B】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4C】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4D】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4E】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図4F】バックミンスターフラーレン(C60)に対して得られた、ヘリウムによって生じた解離スペクトルを示す図である。
【図5A】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5B】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5C】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【図5D】ペプチドに対して得られた、タンデム衝突誘起解離(CID)質量スペクトルを示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リニア式飛行時間型質量分析部と、
複数のイオン質量を有するイオンが前記リニア式飛行時間型質量分析部で形成されたとき、カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部に入ることができるように、前記リニア式飛行時間型質量分析部の端部に配置されたカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部と、
前記飛行時間型質量分析部と前記カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部の間に配置された質量選択ゲートであって、前記複数のイオン質量からあるイオン質量を選択する質量選択ゲートと、
前記リニア式飛行時間型分析部内で形成されたイオンの経路内に設けられた解離用構成要素と
を有するタンデム質量分析計であって、前記解離用構成要素が前記イオンを複数のイオンフラグメントに解離させるタンデム質量分析計。
【請求項2】
前記リニア式飛行時間型質量分析部がイオン源を有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項3】
前記イオン源が試料プレート及びイオン化エネルギー源を有する請求項2に記載のタンデム質量分析計。
【請求項4】
前記イオン源が、前記試料プレートに近接して配置された引き出し電極をさらに有する請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項5】
前記イオン化エネルギー源がレーザーである請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項6】
前記イオン化エネルギー源が電子ビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項7】
前記イオン化エネルギー源がエネルギーイオンビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項8】
前記イオン化エネルギー源がエネルギー原子ビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項9】
前記イオン化エネルギー源が高周波電源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項10】
前記試料プレートで形成されたイオンが前記試料プレートから引き出されるように、前記引き出し電極が、前記試料プレートに対してある電圧に保たれたグリッド電極を含む請求項4に記載のタンデム質量分析計。
【請求項11】
前記試料プレートが試料電圧に保たれる請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項12】
前記試料電圧が約1キロボルト〜50キロボルトの大きさを有する電圧である請求項11に記載のタンデム質量分析計。
【請求項13】
前記試料電圧が、前記イオン源で形成されたイオンを収束させるようにパルス化される請求項11に記載のタンデム質量分析計。
【請求項14】
前記引き出し電極が引き出し電圧に保たれ、前記引き出し電圧が約1キロボルト〜50キロボルトの大きさを有する電圧である請求項4に記載のタンデム質量分析計。
【請求項15】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン分析部が、選択された電圧電位に接続された複数の中空電極を含み、その結果、該複数の中空電極が共同して、イオンフラグメントを速度ゼロまで減速させてイオンフラグメントの方向転換を可能にする非直線状の減速電場を生成する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項16】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、イオンフラグメントの侵入深さへの依存性が円弧を描く前記電圧電位によって決まる請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項17】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、少なくともタンデム質量分析計の飛行部分に沿った任意の点で形成されるイオンフラグメントの主要部分を収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項18】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、前記カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるために前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の電圧電位を走査する、又は階段状にする必要なしに、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分を収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項19】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、前記カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにイオンフラグメントに追加の運動エネルギーを与えることなく、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分にわたってイオンフラグメントを収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項20】
イオンフラグメントの経路内に配置されたイオン検出器をさらに有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項21】
前記イオン検出器が、測定される粒子を捕らえるように配置されたチャンネルトロンを有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項22】
前記イオン検出器が、測定されるイオンフラグメントを捕らえるように配置された電子増倍器を有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項23】
前記イオン検出器が、測定されるイオンを捕らえるように配置されたマイクロチャンネルプレート組立体を有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項24】
前記解離用構成要素が衝突チャンバを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項25】
前記衝突チャンバが、イオンの経路内の前記質量選択ゲートより前に配置される請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項26】
前記衝突チャンバが、イオンの経路内の前記質量選択ゲートより後に配置される請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項27】
前記衝突チャンバが不活性ガスで満たされる請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項28】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成された電子ビームを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項29】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成されたエネルギー原子源を有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項30】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成された光子ビームを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項31】
前記質量選択ゲートが、前記複数のイオン質量中の所望されるイオン質量を選択するように適合されたBrandbury−Nielsenイオンゲートである請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項1】
リニア式飛行時間型質量分析部と、
複数のイオン質量を有するイオンが前記リニア式飛行時間型質量分析部で形成されたとき、カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部に入ることができるように、前記リニア式飛行時間型質量分析部の端部に配置されたカーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部と、
前記飛行時間型質量分析部と前記カーブしたフィールドリフレクトロン質量分析部の間に配置された質量選択ゲートであって、前記複数のイオン質量からあるイオン質量を選択する質量選択ゲートと、
前記リニア式飛行時間型分析部内で形成されたイオンの経路内に設けられた解離用構成要素と
を有するタンデム質量分析計であって、前記解離用構成要素が前記イオンを複数のイオンフラグメントに解離させるタンデム質量分析計。
【請求項2】
前記リニア式飛行時間型質量分析部がイオン源を有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項3】
前記イオン源が試料プレート及びイオン化エネルギー源を有する請求項2に記載のタンデム質量分析計。
【請求項4】
前記イオン源が、前記試料プレートに近接して配置された引き出し電極をさらに有する請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項5】
前記イオン化エネルギー源がレーザーである請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項6】
前記イオン化エネルギー源が電子ビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項7】
前記イオン化エネルギー源がエネルギーイオンビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項8】
前記イオン化エネルギー源がエネルギー原子ビーム源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項9】
前記イオン化エネルギー源が高周波電源である請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項10】
前記試料プレートで形成されたイオンが前記試料プレートから引き出されるように、前記引き出し電極が、前記試料プレートに対してある電圧に保たれたグリッド電極を含む請求項4に記載のタンデム質量分析計。
【請求項11】
前記試料プレートが試料電圧に保たれる請求項3に記載のタンデム質量分析計。
【請求項12】
前記試料電圧が約1キロボルト〜50キロボルトの大きさを有する電圧である請求項11に記載のタンデム質量分析計。
【請求項13】
前記試料電圧が、前記イオン源で形成されたイオンを収束させるようにパルス化される請求項11に記載のタンデム質量分析計。
【請求項14】
前記引き出し電極が引き出し電圧に保たれ、前記引き出し電圧が約1キロボルト〜50キロボルトの大きさを有する電圧である請求項4に記載のタンデム質量分析計。
【請求項15】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン分析部が、選択された電圧電位に接続された複数の中空電極を含み、その結果、該複数の中空電極が共同して、イオンフラグメントを速度ゼロまで減速させてイオンフラグメントの方向転換を可能にする非直線状の減速電場を生成する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項16】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、イオンフラグメントの侵入深さへの依存性が円弧を描く前記電圧電位によって決まる請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項17】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、少なくともタンデム質量分析計の飛行部分に沿った任意の点で形成されるイオンフラグメントの主要部分を収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項18】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、前記カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるために前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の電圧電位を走査する、又は階段状にする必要なしに、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分を収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項19】
前記カーブしたフィールドリフレクトロン内の非直線状の減速電場が、前記カーブしたフィールドリフレクトロンのエネルギーバンド幅を適応させるためにイオンフラグメントに追加の運動エネルギーを与えることなく、少なくともイオンフラグメントの質量範囲の主要部分にわたってイオンフラグメントを収束させるように構成される請求項15に記載のタンデム質量分析計。
【請求項20】
イオンフラグメントの経路内に配置されたイオン検出器をさらに有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項21】
前記イオン検出器が、測定される粒子を捕らえるように配置されたチャンネルトロンを有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項22】
前記イオン検出器が、測定されるイオンフラグメントを捕らえるように配置された電子増倍器を有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項23】
前記イオン検出器が、測定されるイオンを捕らえるように配置されたマイクロチャンネルプレート組立体を有する請求項20に記載のタンデム質量分析計。
【請求項24】
前記解離用構成要素が衝突チャンバを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項25】
前記衝突チャンバが、イオンの経路内の前記質量選択ゲートより前に配置される請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項26】
前記衝突チャンバが、イオンの経路内の前記質量選択ゲートより後に配置される請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項27】
前記衝突チャンバが不活性ガスで満たされる請求項24に記載のタンデム質量分析計。
【請求項28】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成された電子ビームを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項29】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成されたエネルギー原子源を有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項30】
前記解離用構成要素が、イオンを解離させるように構成された光子ビームを有する請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【請求項31】
前記質量選択ゲートが、前記複数のイオン質量中の所望されるイオン質量を選択するように適合されたBrandbury−Nielsenイオンゲートである請求項1に記載のタンデム質量分析計。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【図2】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図4C】
【図4D】
【図4E】
【図4F】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図5D】
【公表番号】特表2006−518918(P2006−518918A)
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503795(P2006−503795)
【出願日】平成16年2月23日(2004.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/005278
【国際公開番号】WO2004/077488
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(505313977)ジヨーンズ ホプキンズ ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年2月23日(2004.2.23)
【国際出願番号】PCT/US2004/005278
【国際公開番号】WO2004/077488
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(505313977)ジヨーンズ ホプキンズ ユニバーシティ (1)
【Fターム(参考)】
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