説明

タンパク質の複雑な混合物を単純化するためのRRNKペプチドの選択的単離に基づくタンパク質の同定及び相対的定量の方法

【課題】現在のマススペクトロメーター及びクロマトグラフィーシステムでは特別のプロテオームのタンパク質分解により発生するペプチドの複雑な混合物を直接分析することはできなかった。
【解決手段】本発明はクロマトグラフィーステップの非保持フラクション中に、アミノ基の修飾体を持たず、アルギニン残基のC−末端におけるトリプシン切断により生じ、その配列中にリシン残基を持たない(RRnKペプチド)ペプチドを単離することによりタンパク分解ペプチドの複雑な混合物の分析を可能にした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバイオテクノロジーの分野、特にプロテオミクスの分野に関係する。プロテオミクスは、生物の全遺伝子群(ゲノム)のタンパク質の全てとして定義されるプロテオームを試験の対象とする分析手段及び方法の全群を含む学問分野である。
【背景技術】
【0002】
生物のプロテオームは非常にダイナミックであり、そしてゲノムから由来するタンパク質を予測することは可能であるが、所与の瞬間に発現するタンパク質及びそのそれぞれの相対的量(定量的プロテオミクス)を予測することは不可能である。プロテオミクスは今日、二つの分析手段:二次元電気泳動(2DE)及びマススペクトロメトリー(MS)の調和の取れた組合せのお陰で実現している。2DEはタンパク質の複雑な混合物の分離のためには最も強力な手段であり、それらの相対的定量も可能にする。一方マススペクトロメトリーは、非常に高い感度(fモル)を有しており、分析したペプチドの構造の解明及び翻訳後修飾の検出を可能にする。
【0003】
2DEは、プロテオミクス試験において大量スケールにそれを使用することを阻害するいくつかの欠点を持っている(Membrane proteins and proteomics:An impossible amour. Santoni V., Molloy M., Rabilloud T. Electrophoresis. 21,1054−1070,2000; Proteome profiling−pitfall and progress. Haynes P.A., Yachts III J.R. Yeast. 17,81−87,2000):
−疎水性タンパク質の分析の困難さ。例えば、常にワクチン開発の魅力的な候補である膜タンパク質は二次元ゲルにおいて低く呈示されることは良く知られている。
−極端な等電点のタンパク質は効率よく集めることができない。
−高品質で再現性のある二次元ゲルの精巧さには非常な苦心と熟練が必要である。
−マススペクトロメーターと直接結合できないので、合理的時間内の高処理分析をかなり制限する。
−別々に発現したタンパク質を検出するための自動的方法におけるゲルの画像解析は専門家の介入を不要にするほどには有効でないので、時間を要する。
【0004】
このような理由のために、完全なタンパク質でプロテオームの定量的試験を行う代わりにペプチドで行う傾向が生じた。マススペクトロメトリーによって決定されるペプチド(3〜5個のアミノ酸)の短い配列は、配列データベースにおいて元のタンパク質の信頼性のある同定を行うのに充分であるために、これが可能である(Error−tolerant identification of peptides in sequence databases by peptide sequence tags. Mann M, Wilm M. Anal. Chem. 66, 4390−4399, 1994)。
【0005】
一方、疎水性タンパク質のタンパク分解消化は、取り扱い易い非疎水性ペプチドを一部発生させることさえできる。この理由により、大多数のタンパク質を同定することにより高処理定量的プロテオミクスの試験を行い、二次元電気泳動を使用しない戦略が生じることも促進された。
【0006】
この方向の先駆的仕事は1999年にLinkと共同研究者により成され(Link,A.J.et al. Direct analysis of protein complexes using mass spectrometry. Nat. Biotechnol. 17,676−682,1999)、彼らはマススペクトロメトリーに直結した二次元クロマトグラフィーシステムを開発した(LC−MS/MS)。
【0007】
これらの著者はミクロキャピラリーカチオン交換カラム、続いて逆相カラムを充填した。ペプチドは酸性のpHにおいて注入され、全てカチオン交換樹脂に吸着され、その後移動相の塩濃度を増加することにより、これらのペプチドのフラクションが逆相カラム上に溶出される。アセトニトリルの連続グラジエントにより逆相カラムに残留したペプチドは溶出され、それらはマススペクトロメトリーにより分析され、配列データベースにおいてその同定が行われる。カチオン交換カラムに吸着されたペプチドが全て完全に溶出するまで、この操作は数回繰り返される。科学文献においてこの方法はMudPiT(Multidimensional Technology for the Identification of Proteins)として知られており、Saccharomyces cerevisiaeの総タンパク質の加水分解物から出発して1484個のタンパク質を同定することができた(Washburn M.P. et al. Large−scale analysis of the yeast proteome by multidimensional protein identification technology, Nature Biotechnology 19,242−247,2001)。
【0008】
現在のマススペクトロメーター及びクロマトグラフィーシステムの効率では特別のプロテオームのタンパク質分解により発生するペプチドの複雑な混合物を直接分析することはできないので、現在の知識はこの分画は大多数のタンパク質の同定には必須であることを示している。マススペクトロメーターにクロマトグラフィーシステムをオンラインで結んだときに、この方法は疑いもなく高処理タンパク質同定を促進したが、しかし試験している混合物中に存在するタンパク質の相対的定量測定は未だ解決されていなかった。この問題を解決する最初のステップは、Saccharomyces cerevisiaeの細胞が窒素−14(14N)を含有する培地中で、そして他の細胞が窒素−15(15N)を含有する培地中で増殖したときに、Washburn MP et al.(Analysis of quantitative proteomic dates generated via multidimensional protein identification technology. Anal. Chem. 74:1650−1656,2002)によって行われた。この方法を実施した際に、一つの条件に由来するタンパク質は全て15Nで標識され、そして他の条件に由来するタンパク質は14Nで標識された。彼らは両条件下で得られたタンパク質を混合した;全タンパク質の特異的タンパク分解が行われ、次いでマススペクトロメトリーによるペプチド配列分析によりタンパク質の同定が行われた。タンパク質の相対量の測定は15N/14Nで標識されたペプチドの強度比により行われた。
【0009】
しかし、この同位元素標識の方法は常に実施することができるものではなく、同位元素を加えた培地の高いコストのために、イースト及び細菌のような単純な生物においてのみ現在のところ実行可能である。他方、このタイプの標識は試験する生物学的システムにおいて常に実現可能というものではなく、また標識されたペプチドと非標識ペプチドの間に生じるマスシフトはペプチド配列中に存在する窒素原子の数によるので、15Nによる標識は同定操作に一定の複雑さをもたらすことを指摘する必要がある。この最後の困難を乗り越えるために、特別な標識アミノ酸を添加した培地において試験中の生物を増殖するときに他の著者は一部のアミノ酸への同位元素標識の導入を制限した。この方法はSILAC(stable isotope labeling by amino acids in cell culture)と命名され、二つの比較される条件において標識及び非標識ロイシン又はリシンを添加した培地を使用して12C/13C及びH/Hによる標識を使用したかなりの数の出版物がある(S.E.Ong, B.Blagoev, I.Kratchmarova, D.B.Kristensen, H.Steen, A.Pandey, M.Mann, Mol. Cell Proteomics 2002,1,376−386;Berger SJ, Lee SW, Anderson GA, Lijiana PT, Tolic N, Shen E, Zhao R, Smith RD Global High−throughput Peptide Proteomic Analysis by Combining Stable Isotope Amino Acid Labeling and Date−Dependent Multiplexed−MS/MS. Analytical Chemistry 2002,74,4994−5000;及びPrecise peptide sequencing and protein quantification in the human proteome through in vivo lysine−Specific Mass Tagging, J.Am.Soc.Mass Spectrom. 2003,14,1−7)。重いペプチドに対して軽いペプチドのマスシフトは、ペプチド配列が標識アミノ酸を含む場合にのみ生じる;したがって標識アミノ酸を持たないペプチドは定量に使用できない。SILACの使用は、その高コストのためにプロテオミクスの実験の全てに普遍的な方法として使用することはできず、培地を使用して試験する生物学的課題にのみ適用される。
【0010】
タンパク質の複雑な混合物のタンパク質分解によって発生するペプチドの全てのC−末端カルボキシル基に取り込むことができるので、プロテオミクスの実験において定量を行うための18Oによる標識はより普遍的方法である。一つのタンパク質混合物は通常の水で調整された緩衝液の存在下に消化され、一方別の混合物は18Oで標識された水(H18O)の存在下に消化される。H18Oで調製された緩衝液中で得られたペプチドはそのC−末端に1および2原子の18Oを取り込むことができ、他方、他のペプチドは自然の同位元素分布を示す。標識及び非標識分子種の相対的定量を行うために、マススペクトル中で16O/18Oで標識された分子種の同位元素分布に相当する面積を計算する必要があり、ペプチドが同定された後に、それらを含むタンパク質の比率を推定する。このタイプの標識には二つの限界があり、一つは、標識及び非標識ペプチドの同位体分布の間に充分な分離が生ぜず、もう一つは、18Oの付加が各ペプチドに対して1及び2原子の18Oの均一な付加ではない。適当なソフトウエアが複雑に重複した同位体の分布を正しく解釈できなければ、これらの二つの問題は軽い種及び重い種の相対的定量に重大な意味を持つ可能性がある。
【0011】
同位体分布の重複を避けるために、そしてペプチドのC−末端の18Oの取り込みを均一化するために、Yao及び共同研究者(Yao X, Afonso C and Fenselau C. Dissection of proteolytic 18O labeling: endoprotease−catalyzed 16O−to−18O exchange of truncated peptide substrates. J.Proteome Res.2003,2,147−52)は、トリプシンの存在下にタンパク分解ペプチドの長時間インキュベーションにより消化操作後のタンパク分解ペプチドを 18Oで完全に標識することを提案した。
【0012】
この方法により、トリプシン分解ペプチドのC−末端に2原子の18Oの完全取り込みが保証されそして標識及び非標識ペプチドの同位元素分布の間に4 Daの分離が達成される。しかし、塩基性アミノ酸リシン及びアルギニンのC−末端におけるペプチド結合のトリプシン切断の親和性に比較してこの方法の親和性は非常に劣っているので、18O−原子の取り込みに抵抗するペプチドがある。これが起こった場合には、大きな誤差が定量に持ち込まれる可能性がある。他方で、18Oによる16Oの完全な交換を保証するトリプシン分解ペプチドの長いインキュベーション時間は配列の非特異的切断の出現を促進する可能性があり、それはタンパク質データベースにおける同定の結果に影響する。
【0013】
しかし、18Oによる標識は、特殊な様式においては配列データベースにおける信頼できる方法としてN−グリコペプチドを同定するために(Gonzalez J, Takao T, Hori H, Besada V, Rodriguez R, Padron G, Shimonishi Y. A Method for Determination of N−Glycosylation Sites in Glicoproteins by Collision−Induced Dissociation Analysis in Fast Atom Bombardment Mass Spectrometry: Identification of the Positions of Carbohydrate−Linked Asparagine in Recombinant−Amylase by treatment with PNGase−F in 18O−labeled Water. Anal. Biochem., 1992,205,151−158)、そして偽陽性を識別するために(Kuster, B and Mann M. 18O−labeling of N−glycosylation sites to improve the identification of gel−separated glycoproteins using peptide mass mapping and database searching. Anal. Chem. 1999,71,1431−1440)プロテオミクスにおいて使用されてきた。糖タンパク質又はグリコペプチドは18O標識水で調製された緩衝液の存在下にPNGアーゼ−Fで脱グリコシル化され、そしてN−グリコシル化アスパラギン残基(Asn−X−Ser/Thr)は高度に特異的様式でその側鎖に18O原子を取り込んだアスパラギン酸残基に変換される。定量的プロテオミクスにおいて、一つの条件では通常の水で調製した緩衝液において、そして別の条件では18O標識水の存在下において糖タンパク質を脱グリコシル化するために、これと同じ方法を使用することができる。
【0014】
分析された検体の同比率を混合したのち、各タンパク質の相対的量が16O/18Oの比として同様に推定された(Gonzalez J, Takao T, Hori H, Besada V, Rodriguez R, Padron G, Shimonishi Y. A Method for Determination of N−Glycosylation Sites in Glycoproteins by Collision−Induced Dissociation Analysis in Fast Atom Bombardment Mass Spectrometry: Identification of the Positions of Carbohydrate−Linked Asparagine in Recombinant−Amylase by treatment with PNGase−F in 18O−labeled Water. Anal. Biochem., 1992,205,151−158)。
【0015】
定量的プロテオミクスを行うためにタンパク分解ペプチドの全てに標識を導入する別の方法がZappacosta及びAnnanにより導入された(Zappacosta F, and Annan RS. N−terminal isotope tagging strategy for quantitative proteomics: results−driven analysis of protein abundance changes. Anal Chem. 2004,76,6618−6627)。最初のステップにおいて、リシン残基は全てO−メチルイソ尿素との反応によりホモアルギニンに変換され、次いで比較される条件の一つにおいて得られたタンパク質分解ペプチドの全てのアミノ末端基の全ては重い同位体(特に重水素)に富む保護試薬で誘導体にされ、一方他の条件で得られたペプチドは非標識試薬で修飾される。両検体は混合され、重いペプチドと軽いペプチドの同位体分布の強度比を測定して相対的定量を行う。
【0016】
標識及び非標識種の同位体分布の重複を避けるために、ペプチドの誘導体化は重水素化無水プロピオン酸(d)及び通常の無水プロピオン酸で行われる。しかし、3個を超える重水素原子の導入は、逆相クロマトグラフィーにおけるその保持時間はZhang及び共同研究者により示されているように異なるので、軽−及び重−分子種の相対的定量において誤差を誘発する可能性がある(Zhang R, Sioma CS, Wang S, Regnier FE. Fractionation of isotopically labeled peptides in quantitative proteomics. Anal Chem, 2001,73,5142−5149)。定量の誤差は、一つの分子種の配列中に重水素原子の数が増加する同じ測定において増加する可能性があり(Zhang R, Sioma CS, Thompson RA, Xiong L, Regnier FE. Controlling deuterium isotope effects in comparative proteomics. Anal Chem. 2002; 74,3662−3669)そして誘導体化が13C以外で標識した同じ保護試薬で行われた場合に、これらの誤差は最少になることが認められた(Zhang R, Regnier FE, Minimizing resolution of isotopically coded peptides in comparative proteomics. J. Proteome Res. 2002,1,139−147)。
【0017】
圧倒的な数の発生したペプチドは、現在のクロマトグラフィーシステム及び最新のマススペクトロメーターの分解能を上回るので、複雑なタンパク質の混合物のタンパク質分解の分析は大きな課題である。
【0018】
この課題に取り組み、そして二次元電気泳動を使用する必要のない定量的プロテオミクスを行うことができるようにするための現在の趨勢は、共通の性質を有するペプチドのサブセットの選択的単離をすることができ、そしてその試験がそれが由来したタンパク質の代理性に影響しない方法を開発することによるペプチド混合物の単純化であった。つまり、最初の混合物中に存在する膨大な数のタンパク質を分析するのは不可能である。ペプチドの選択的単離と適当な同位体標識技術を結合することにより、同定のみならず比較された最初の混合物中に存在するタンパク質の相対的定量も可能になる。
【0019】
システイン含有ペプチドの選択的単離。
この方法は、システイン含有ペプチドの選択的単離に基づく良く知られたICAT法(isotope−code affinity tags)を提案しているときに、Gigy及び共同研究者により始められた(Qantitative analysis of complex protein mixes using isotope−coded affinity tags. Gygi,S.P., Rist,B., Gerber, S.A., Turecek, F., Gelb,M.H.,and Aebersold, R. Nat. Biotechnol. 1999,17,994−999)。この方法はアフィニティークロマトグラフィー(ストレプトアビジン−ビオチン)と軽及び重変異体にICAT試薬で標識することを組み合わせている。この試薬は三つの機能的要素よりなる:
1−システイン残基のチオール基と特異的に反応する基。
2−親和要素(ビオチン)を持ち、ICAT試薬と反応するペプチドを選択的に単離することを可能にする基。
3−上記の要素を分離する腕。重い変異体においてその構造(重ICAT)中に8原子の重水素を有し、そして軽い変異体は8原子の水素を有す(軽ICAT)。
【0020】
両条件に由来するタンパク質はDTTの存在下に別々に還元された後、一つの条件で発生した遊離システインは重ICATと反応し、別の条件で発生したものは軽ICATと反応する。両タンパク質混合物は等量で合併され、そしてタンパク分解消化が行われる。発生したペプチドはストレプトアビジンアフィニティーカラムにより精製され、結果としてICATで修飾されたシステイン含有ペプチドは選択的に単離される。
【0021】
相対的定量を行うために、軽及び重−ICATで標識されたペプチドに相当するシグナルの相対的強度が測定される。これらの試薬で標識されたペプチドの質量は、配列中に含まれるシステイン残基の数により、8単位の倍数の質量差がある。
【0022】
この方法にはいくつかの欠点がある:
−ICAT試薬の大きさはかなりあるので、ペプチドのイオン化効率及びマススペクトルの解釈に影響する。
−重ICATで修飾されたペプチド中に8原子の重水素の存在により、保持時間が軽ICATで修飾されたペプチドに対してかなり異なる可能性があるので、定量に大きな誤差を生じる可能性があり(Zhang R, Sioma CS, Wang S, Regnier F. Fractionation of isotopically labeled peptides in quantitative proteomics. Anal Chem. 2001,73,5142−5149)そして強度比は定量すべきペプチドの軽及び重種の溶出の間同じではない。
−ICATについて記述されている定量方法は、同位体分布の重複を避けるためにシグナルを充分に分離していないほかの方法の同位体標識には適用できない。
−MudPit(Washburn M.P.et al. Large−scale analysis of the yeast proteome by multidimensional protein identification technology, Nature Biotechnology,2001,19,242−247)の場合のように、さらにペプチド混合物を分画することが好ましい場合には、ペプチドの選択的単離に使用されるものとは異なるクロマトグラフィーを使用する必要があり、検体の処理中にかなりのロスを生じる。
−選択的単離のステップの間に高親和性クロマトグラフィーを使用する場合は、一部の特別なペプチドについてロスはかなりのものになる可能性がある。
−システインを含まないタンパク質はこの方法によって分析することができない。
【0023】
メチオニン含有ペプチドの選択的単離。
最近、メチオニン含有ペプチドを選択的に単離することを可能にするCOFRADICと命名された方法が文献に記述された(Gevaert K, Van Damme J, Goethals M, Thomas GR, Hoorelbeke B, Demol H, Martens L, Puype M, Staes A, Vandekerckhove J. Chromatographic isolation of methionine−containing peptides for gel−free proteome analysis: identification of lives than 800 Escherichia coli proteins. Mol Cell Proteomics. 2002 ,11,896−903)。この方法は数ステップからなる:全てのタンパク質を還元し、S−アルキル化の後、それらを消化し、得られたペプチドを逆相クロマトグラフィーにより分画し、著者が初回と命名する操作においてかなりの数のフラクションに集める。これらのフラクションのそれぞれを別々に3分間過酸化水素(3%v/v)の溶液と反応させ、第2回の操作において同じ条件の同じクロマトグラフィーシステムにおいて再度分析する。酸化された後にそれらは疎水性の低い分子種になりその保持時間が減少するので、その保持時間が変化しないメチオニンを含まず、廃棄される残りのペプチドとは異なるので、メチオニンを含むペプチドは選択的に単離される。この方法はICATにより得られるのと同程度にペプチドの複雑な混合物を単純化することができ、またホスホペプチド、タンパク質のN−末端ペプチド、ジスルフィド架橋により連結したペプチドの選択的単離にも適用することができると著者は概説した(Martens L, Van Damme P, Damme JV, Staes A, Timmerman and Ghesquiere B, Thomas GR, Vandekerckhove J, Gevaert K. The human platelet proteome mapped by peptide−centric proteomics; To functional Protein frofile. Proteomics. 2005,5(12):3193−204.)。
【0024】
酸化条件は、システイン及びトリプトファンのような不安定な残基の酸化を避けるために最適化したと著者らは述べているが、これが生じた場合には、この方法の選択性に影響し、達成されるペプチド混合物の単純化の程度は、著者らが主張するようにICAT法の程度とは類似しないであろう。
【0025】
他方、メチオニン含有ペプチドを全て選択的に単離することを達成するためにこの方法を自動化することができるが、多数のクロマトグラフィー操作を行う必要があり、この方法の全体収量が逆に影響を受ける可能性がある。
【0026】
N−末端ペプチドの選択的単離。
COFRADICの変法は、全てのタンパク質のN−末端ペプチドを選択的に単離するためにも提案されている(Gevaert K, Goethals M, Martens L, Van Damme J, Staes TO, Thomas GR, Vandekerckhove J. Exploring proteomes and analyzing protein processing by mass spectrometric identification of sorted N−terminal peptides. Nat Biotechnol. 2003;21,566−569)。この方法の最初のステップは、比較される複雑な混合物中に存在するタンパク質の一級アミノ基を全て保護することであり、次いで修飾タンパク質の特別なタンパク質分解が行われ、そして逆相クロマトグラフィーによりペプチド混合物はかなりの数のフラクションに分離される。
【0027】
タンパク質分解により発生した内部のペプチドのそれぞれに一つずつ存在する新しいアミノ基は、さらに高度に疎水性の保護基と反応して、そして再度前記と同じ条件下で同じクロマトグラフィーシステムにおいて分離される。内部ペプチドの全ての保持時間は第二の保護試薬の付加によりかなり増加するが、この方法により最初のステップにおいて保護された全てのN−末端ペプチドは、元のフラクションと同じ保持時間で集められた場合に、選択的に単離される。この方法は不利である可能性がある:信頼性のある定量を行うためには、アミノ基の保護からなる最初のステップは定量的な様式で行われなければならないが、タンパク質が複雑な混合物で存在する場合にはこれは少し困難である可能性がある。
【0028】
またこの最初のステップにおいて、アミノ基の保護はたんぱく質の溶解性をかなり減少させる可能性があり、これがこの方法の定量性に影響することがある沈殿を生じる可能性がある。最後に、タンパク質につき一つのペプチドが単離されるということは、行過ぎた単純化であり、複雑な混合物中に存在するタンパク質の同定及び定量において悪い影響を与える可能性がある。タンパク質につき3〜4ペプチドに減らされた群を単離することにより余裕を生じる方法は、定量結果の確認が可能となるので、二次元電気泳動を使用しないプロテオミクス試験にとって理想的である可能性がある。
【0029】
N−糖タンパク質の選択的単離。
Swissprotデータベースに報告されている膜タンパク質の約91%は糖タンパク質であると報じられている。プロテオミクス試験のためにレクチンアフィニティークロマトグラフィーを使用することによる糖タンパク質の選択単離に基づく方法が提案されている(Geng M, Zhang X, Bina M, Regnier F, Proteomics of glycoproteins based on affinity selection of glycopeptides from tryptic digests. J. Chromatogr. B. Biomed. Sci. Appl. 2001,752,293−306; Kaji H, Saito H, Yamauchi Y, Shinkawa T, Taoka M, Hirabayashi J, Kasai K, Takahashi N, Isobe T. Lectin affinity capture, isotope−coded tagging and mass spectrometry to identify N−linked glycoproteins. Nat Biotechnol. 2003,21,667−672)。クロマトグラフィーカラムに固定した特別なレクチン又は一組のレクチンを使用することは(Ji J, Chakraborty A, Geng M, Zhang X, Amini A, Bina M, Regnier F. Strategy for qualitative and quantitative analysis in proteomics based on signature peptides. J. Chromatogr. B Biomed. Sci. Appl. 2000,745,197−210, Geng M, Ji J, Regnier FE, Signature−peptide approach to detecting proteins in complex mixes. J. Chromatogr. A. 2000,870(1−2),295−313)、それらが存在する全ての糖の型を認識できずまた有効な選択的単離を保証できないので、限界がある。この限界を克服するために、Zhang及び共同研究者は(Zhang H, Li XJ, Martin DB, Aebersold R. Identification and quantification of N−linked glycoproteins using hydrazide chemistry, stable isotope labeling and mass spectrometry. Nat Biotechnol. 2003,21,627−629)、ヒドラジンにより誘導体にすることにより固相支持体に糖タンパク質を固定し、後にPNGアーゼ−Fの作用によりそれを放出することを提案した。この最後のステップをH18Oの存在下及び非存在下において実施するので、二つの生物学的条件の下に発現されるタンパク質の相対的定量が可能になる。この方法は、ワクチン候補と考えられる膜タンパク質のような生物学的に関心がある検体又は受容体又は存在する中では最も複雑なタンパク質である血清に適用できるが、しかしその適用は糖タンパク質が多い検体にのみ限られている。
【0030】
ヒスチジン残基を持つペプチドの選択的単離。
ヒトプロテオーム中にヒスチジンが多いことはシステインと類似している。ヒスチジンはヒトプロテオームのタンパク質の83%に、またこのアミノ酸を含有するトリプシン分解ペプチド15%に存在する(Regnier FE, Riggs L, Zhang R, Xiong L, Liu P, Chakraborty E, Seeley E, Sioma C, and Thompson RA. J.Mass Spectrom. 2002,37,133−145)。このために、ペプチドの複雑な混合物のかなりの単純化を達成するために、ヒスチジンを含むペプチドの選択的単離はプロテオミクス試験にとって魅力的である。クロマトグラフィー支持体に固定化された金属イオンと配位複合体を形成することによりヒスチジンを含むペプチドを選択的に捕捉するためにアフィニティークロマトグラフィーが使用された。種々のマトリックス及び固定化金属を評価する研究がいくつかある(Ren D, Penner NA, Slentz BE, Inerowicz HD, Rybalko M, Regnier FE. Contributions of commercial solvents to the selectivity in immobilized metal affinity chromatography with Cu(II). J Chromatogr A. 2004,1031,87−92)が、その結果は、選択的単離のために以前記述されたほかの方法に比較してその特異性がまだ劣ることを示した(Ren D, Penner NA, Slentz BE, Mirzaei H, Regnier F. Evaluating immobilized metal affinity chromatography for the selection of histidine−containing peptides in comparative proteomics. J Proteome Res. 2003,2,321−329; Ren D, Penner NA, Slentz BE, Regnier FE. Histidine−rich peptide selection and quantification in targeted proteomics. J. Proteome Res. 2004,3,37−45)。事実、特異性を増加させるために、過去のタンパク質の修飾方法を含めて変法の探索が行われている。
【0031】
C−末端にアルギニンを持つペプチドの単離。
最近、Foettinger及び共同研究者(Foettinger A., Leitner A., Lindner W. Solid−phase captures and release of arginine peptides by selective tagging and boronate affinity chromatography. J.Chrom.A. 2005,1079,187−196)はボロン酸アフィニティークロマトグラフィーカラムを使用することによりアルギニンを含有するペプチドを固相において捕捉する方法を提案した。この研究において、著者らは、マススペクトロメトリーにより分析される前にこれらのペプチドを効率よく放出することができると述べている。この方法は、アルギニンのグアニジノ基のアルカリ性条件下(pH>8)において2,3−ブタンヂオンによる選択的共有結合修飾及び固定化フェニルボロン酸を持つ固体支持体中に修飾ペプチドを保持することに基づいている。アルギニンを含まないペプチドは保持されないフラクション中に廃棄され、アルギニンを含むペプチドは、前記反応の可逆性のために、酸性pHにおいて固相支持体から溶出することができる。この方法はある場合にプロテオミクス試験における適用性を損なうので、ある強調すべき欠点を持っている。一方で、アフィニティー選択において、このクロマトグラフィーはリシン残基を持つペプチドの非特異的結合を示す可能性があり、その程度は変動する(10〜90%)。他方、アルギニンは配列分析された全てのゲノムの中に多く存在するアミノ酸であるので、達成される単純化の程度(約50%)は不充分であり、したがってボロン酸アフィニティークロマトグラフィーの後であっても検体は非常に複雑であることに変わりはない。
【0032】
N−末端にセリン及びトレオニンを持つペプチドの選択的単離。
2003年にChelius及びShaler(Chelius D, Shaler TA. Capture of peptides with N−terminal serine and threonine: A sequence−specific chemical method for peptide mixtures simplification. Bioconjugate Chem. 2003,14,205−211)は、N−末端にセリン及びトレオニンを持つペプチドを選択的に単離する方法を記述した。この方法は、数ステップ(1)ペプチドのN−末端に存在するセリン及びトレオニンの水酸基の過ヨウ素酸塩での酸化的処理によるカルボニル基への変換;(2)ヒドラゾンを形成するための新しく形成されたカルボニル基の置換ヒドラジドによる反応及び(3)アフィニティークロマトグラフィーを使用することによる標識ペプチドの選択的単離からなる。この研究において、著者らは、後の選択的単離において固定化したストレプトアビジンを持つビーズを使用するために、N−末端にセリン及びトレオニンを持つペプチドをビオチンで標識することを提案している。この方法はいくつかの欠点を持つ:(a)過ヨウ素酸による酸化のステップは全てのメチオニン残基の酸化のようなペプチドの化学的修飾を誘発する、(b)酸性のpHにおける処理によるアフィニティーカラムからのペプチドの溶出ステップは修飾ペプチドのリンカーの分解を誘発する。この研究において、Chelius D, Shaler TA.(Capture of peptides with N−terminal serine and threonine: A sequence−specific chemical method for peptide mixtures simplification. Bioconjugate Chem. 2003,14,205−211)は、タンパク質の複雑な混合物を分析するためのこの方法の応用例を示さなかった。
【0033】
陽イオン交換クロマトグラフィーによるペプチドの選択的単離。
陽イオン交換クロマトグラフィーもまたBetancourtと共同研究者(SCAPE:A new tool for the Selective Captures of Peptides in Protein identification. Betancourt L, Gil J, Besada V, Gonzalez LJ, Fernandez−de−Cossio J, Garcia L, Pajon R, Sanchez A, Alvarez F, Census G.J. Proteome Res.2005,4,491−496)によって、プロテオミクス試験においてその配列中にヒスチジンもアルギニンも含まないペプチド(nHnRペプチド)を選択的に単離する場合に使用された。この方法は、アミノ酸の可逆的保護と中性ペプチド(電荷0)から陽性荷電ペプチド(電荷1+,2+,3+,4+など)を有効にそして簡単に分離することができるクロマトグラフィーシステムの組合せに基づいている。この方法は分析されるペプチド混合物のICAT(Quantitative analysis of complex protein mixes using isotope−coded affinity tags. Gygi,S.P.,Rist,B.,Gerber,S.A.,Turecek,F.,Gelb,M.H.,and Aebersold,R. Nat.Biotechnol. 17,994−999,1999)で達成される程度のかなりの単純化を達成する。
【0034】
アミノ基の保護反応の後、このクロマトグラフィーシステムは、その殆んどがアルギニン及びヒスチジンである荷電ペプチドを保持し、一方非保持フラクションはその配列にヒスチジンもアルギニンも含まない中性ペプチド(nHnRペプチド)である。このnHnRペプチドはマススペクトロメーターで分析される前に、それらが有する保護基が加水分解処理により除去され、遊離アミノ基を再生し、マススペクトロメトリー分析においてイオン化及びフラグメンテーションが容易となるので、データベース中において同定される。
【0035】
この方法は陽イオン交換クロマトグラフィーの非保持フラクション中にnHnRペプチドを分離するので、非常に多数のタンパク質を同定するためには、さらに分画するために別のクロマトグラフィーステップが必要である。これらの追加のクロマトグラフィーステップは操作中に損失を生じ、この方法の結果に影響する可能性がある。他方、ペプチドのアミノ基の脱保護の処理は分解を生じ、一部の特別なペプチドの回収にかなり影響する可能性がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
これらのペプチドの選択的単離の方法については記述したような限界があるので、複雑な混合物を示すタンパク質の同定及び発現レベルの測定のために、そのマススペクトロメトリー分析を行う以前に分析すべき複雑な混合物の単純化による小グループのべプチドの選択的及び特異的な単離方法は引き続き強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0037】
発明の詳細な説明
本発明に提案されているペプチドの選択的単離の方法は、有効にして簡単な方法でクロマトグラフィーステップの非保持フラクション中に(1)アミノ基の修飾体を持たない、(2)アルギニン残基のC−末端におけるトリプシン切断により生じ、そして(3)その配列中にリシン残基を持たない(RRnKペプチド)ペプチドを単離することによりタンパク分解ペプチドの複雑な混合物の単純化を達成する。
【0038】
この方法は、複雑な混合物を構成するタンパク質の同定に使用することができ、そして比較する条件の下に相対的量の測定に使用することができる。この目的のために、人工的に或いは自然資源から得られたタンパク質の混合物は図1に示されそして以下に説明されるステップによって処理される:
【0039】
(1)例えば、ヨウ化酢酸アミド、ヨウ化酢酸、アクリルアミド、4−ビニルピリジンなど、この目的に使用される試薬のいずれかによるシステイン残基の還元及びS−アルキル化。この最初のステップは、いくつかの理由のために非常に重要である:(a)それは分析される混合物中に存在するタンパク質のペプチド結合の次の酵素的加水分解のステップの大きな有効性を保証する;(b)それはシステイン残基を有する別のタンパク質のペプチドの交差結合を回避する;(c)それはデータベース中のタンパク質の同定を容易にする。
【0040】
(2)タンパク質の加水分解。これは、高度に特異的にリシン残基のC−末端においてペプチド結合を加水分解するリシル−エンドペプチダーゼ(LEP)を使用するタンパク分解的消化により達成される。
【0041】
(3)保護反応は、ステップ2のタンパク分解処理により発生したペプチド中に存在するリシンのα−アミノ末端基及びε−アミノ基の化学的共有結合修飾にある。この方法において、生成した修飾ペプチドがクロマトグラフィーカラム中に又は化学的に活性化された固相支持体に選択的に保持されることが保証されるならば、多様な修飾アミノ基を使用することができる。保護試薬には次のものがある:無水酢酸、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−アセトキシスクシンイミド、無水シトラコン酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、クロロギ酸 9−フルオレニルメチル(Fmoc−Cl)、2−メチルスホニルエチル スクシンイミジル カルボナート、尿素及びアミノ基を保護する試薬、例えば(a)ベンジルオキシカルボニル、2−クロロベンジルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、イソニコチニルオキシカルボニル及び4−メトキシベンジルオキシカルボニルを含む芳香族ウレタン型保護基;(b)t−ブトキシカルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、2−(4−ビフェニル)−2−プロピルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル及びメチルスルホニルエトキシカルボニルを含む脂肪族ウレタン型保護基;(c)アダマンチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル及びイソボルニルオキシカルボニルを含むシクロアルキルウレタン型保護基;(d)アシル保護基又はスルホニル保護基。好ましくは、保護基は、ベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、アセチル、2−プロピルペンタノイル、4−メチルペンタノイル、t−ブチルアセチル、3−シクロヘキシルプロピオニル、n−ブタンスルホニル、ベンジルスルホニル、4−メチルベンゼンスルホニル、2−ナフタレンスルホニル、3−ナフタレンスルホニル及び1−カンファースルホニルを含み;(e)m−ニトロフェニル、3,5−ジメトキシベンジル、1−メチル−1−(3,5−ジメトキシフェニル)エチル、α−メチルニトロピペロニル、o−ニトロベンジル、3,4−ジメトキシ−6−ニトロベンジル、フェニル(o−ニトロフェニル)メチル、2−(2−ニトロフェニル)エチル、6−ニトロベラトリル、4−メトキシフェナシル及び3’,5’−ジメチトキシベンゾイン及びビオチン及びその化学的誘導体の活性エステルを含む光感受性保護基。さらに、修飾ペプチドに多価陰性電化を提供するほかの保護基、例えばSO基も使用することができる。一般的に、アミノ基の保護のためにペプチド合成に使用される試薬又は既に説明した性質を充たすアミノ基と反応することができるほかの試薬は使用することができる。
【0042】
アミノ基の修飾を行うのに必要なこの種の試薬及びプロトコールは文献中で容易に見出すことができる(Protective groups in organic synthesis, Teodora W. Greene and Peter G.M. Wuts, pag.494−654, Ed.John Wiley & Sons, Inc.(1990)及びPeptide Chemistry, Bodanszky, N., pag.74−103, Springer−Verlag, New York (1988))、そしてその使用法は本発明の中に含まれる。
【0043】
(4)過剰の保護試薬の分解及びチロシン残基のO−アシル化の除去。このステップは、(1)LEPペプチドのアミノ基の保護試薬の過剰を分解し、この方法により次のトリプシンの再消化により発生する新しいアミノ基との反応を避けるために、そして(2)提案する方法の収率に影響するチロシン残基におけるO−アシル化を除くため、の二つの目的を持って行われる。ほぼpH 11に達するまでアンモニア又はエチルアミンのようなアミンを加え、それを1時間37℃でインキュベーションすることにより前記の目的が保証される。特に、過剰の試薬の分解は、エタノール又はメタノールのような1級アルコール又は遊離アミノ酸の混合物を反応緩衝液に加えることによっても達成することができる。
【0044】
(5)1級アミノ基を保護されたLEPペプチドのトリプシンによる再消化。保護されたLEPペプチドは、アルギニンを含むLEPペプチド中のアルギニンのC−末端のペプチド結合のみを加水分解する高度に選択的な酵素であるトリプシンにより再消化される。
【0045】
(6)RRnKペプチドの選択的単離。使用したクロマトグラフィーカラムは、非保持フラクション中にその遊離アミノ基を持つRRnKペプチドの選択的単離を可能にし、他方、カラム中に第3のステップの間に導入された保護1級アミノ基を有するペプチドが共有又は非共有結合により保持される。RRnKペプチドの選択的単離のために、アミノ基に結合した保護基がこのクロマトグラフィーステップにおいて非常に高い親和性を持って認識されるならば、いずれのアフィニティークロマトグラフィーでも使用することができる。これを達成するために使用できるのは:
(a)ハイブリドーマ技術により得られたモノクロナール又はポリクロナール抗体;抗体フラグメント;1本鎖抗体;天然資源から単離された抗体又はファージディスプレーライブラリーから選択された抗体を固定化したクロマトグラフィーカラム。ペプチドに導入された保護基に高度に選択的に結合する化学的又はファージライブラリーから選抜されたタンパク質又はそのフラグメント、又はペプチドを固定化したクロマトグラフィーカラム。
(b)この保護基が固定化したタンパク質の天然のリガンド、接合団又は単純に固定化タンパク質に高度に特異的に結合する有機性又は無機性の化合物であり得る。例えば、LEPペプチドのアミノ基は、ストレプトアビジン、グルタチオンS−トランスフェラーゼ又はレクチンのそれぞれを固定化したカラムにより特に保持されるビオチン又はグルタチオン又は一部のオリゴ糖基で誘導体にすることができる。他のタンパク質及びそれぞれのリガンドも使用することができ、そしてWang及び共同研究者により要約されている(Wang,R.;Fang,X;Lu,Y.;Wang,S.“The PDBbind Database: Collection of Binding Affinities for Protein−Ligand Complexes with Known Three−Dimensional Structures”,J. Med. Chem.,2004;47(12);2977−2980及びWang,R.;Fang,X.;Lu,Y.;Yang,C.−Y.;Wang,S.“The PDB bind Database: Methodologies and updates”,J.Med.Chem.,2005;48(12);4111−4119)。
(c)固定化した金属キレートを持つクロマトグラフィーカラム及びヒスチジンの尾を持つアミノ基の位置で保護されたLEPペプチドの選択的保持をすることができるクロマトグラフィーカラム。
【0046】
酸性のpHにおけるカチオン交換クロマトグラフィーと例えばスルホン酸基(SO)などであり得るいくつかの陰性電荷を持つ多価官能基を持つ試薬によるペプチドの1級アミノ基の誘導体化の組合せを使用した場合に、RRnKペプチドは保持フラクション中に選択的に単離することができる。RRnKペプチドは全て酸性のpHにおいてN−末端アミノ基及びもう一つはC−末端アルギニンに位置する2個の陽性電荷を有するが、逆に、この試薬により誘導体化されたペプチドは酸性のpHにおいて多価陰性電荷を持ち、それはカチオン交換カラムには保持されないであろう。この変法は、RRnKペプチドがカチオン交換クロマトグラフィーカラムに保持された場合に、マススペクトロメトリーによる分析の前にさらに分画することができるので、同定されるタンパク質の数を増加させる利点がある。前記と同じ原理に基づいて、アニオン交換クロマトグラフィーは少なくとも陰性電荷を有する修飾基を持つペプチドの全てを保持するために使用することもでき、そしてRRnKペプチドは非保持フラクションに選択的に単離されるであろう。
【0047】
また、RRnKペプチドはアミノ保護基とクロマトグラフィーのビーズの中に存在する反応基との間の化学反応により選択することができる。
【0048】
(d)例えば、ステップ3において使用された保護基が1級炭素の位置にハロゲン原子(基本的に臭素又はヨー素)を有している場合、又はそれらがチオエーテル又はマレイン酸イミジル基又はその構造中にチオール基を持つクロマトグラフィーのマトリックス又は磁気ビーズ中に存在するスルフヒドリル基の付加が可能であるその他の不飽和結合を有する場合。この目的のために、システイン残基と結合するチオセファロース(−SH)又はペプチド合成法用に設計されたいずれかの樹脂からBoc/Bzlにより調製されたチオール化された樹脂(例えば、必要な修飾を施したポリスチレンポリマーに基づくアミノメチル化樹脂、PEG−アミノ、Merrifieldの樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン)を使用することができる。また、クロマトグラフィーカラムとして、なかでも4−メトキシトリチルチオール化樹脂、2−クロロトリチルチオール化樹脂、N−(2−メルカプトエチル)アミン樹脂のようなチオール基で活性化された樹脂を使用することができる。
【0049】
RRnKペプチドは脱塩ステップの後にカチオン交換クロマトグラフィーを使用してさらに分画することができ、そしてより大きな数のタンパク質の同定のために逆相を使用することができる(Washburn M.P.et al. Large−scale analysis of the yeast proteome by multidimensional proten identification technology, Nature Biotechnology 19,242−247,2001)、或いは上記目的を達成するために逆相クロマトグラフィーによる二重分画をすることもできる。
【0050】
この方法を定量的プロテオミクスに適用するには、2つの比較条件のうちの1つにおいて発生するペプチドはその構造中に数個の重い同位元素(13C,15N,18O及び/又はH)を有し、一方別の条件において発生したペプチドは前記の天然に多い同位元素(12C,14N,16O及び/又はH)を有している。
【0051】
2つの比較条件のうちの1つにおいて発生するペプチドの構造中への重い同位元素の取り込みは、2つの異なる方法により行うことができる:
【0052】
(a)細胞によって導入された同位元素標識。細胞増殖に必須な一定の栄養素の2つの同位元素種を含む培地で培養された組織又は細胞から得られたタンパク質の抽出に応用される。使用される栄養素の中では、窒素源(14N/15N)を構成する標識化合物が標識される;必須アミノ酸はある位置が水素(H/H)、窒素(14N/15N)、炭素(12C/13C)、酸素(16O/18O)などで標識される。この方法の特殊性のために、RRnKペプチドは全てそのC−末端に少なくとも1個のアルギニン残基有しているので、このアミノ酸への重い同位元素の導入は選択的に単離されたペプチド全てが標識されていることを保証する。例えば、比較する条件の1つにおいて、培地は同位元素標識したアルギニン(13−,15−又は15−アルギニン)の濃度を高くして行うことができ、別の条件では標識は行わない。次いで、両者の全タンパク質の抽出物を混合した後、それらを同時に加水分解し、RRnKペプチドの選択的単離が達成されるまで、ステップ1〜6の記述にしたがってこの方法が行われる。
【0053】
(b)タンパク質分解の間に導入される同位元素標識。この方法のステップ2に記述したように、比較されるタンパク質の検体は別々に水溶液中で加水分解される。水溶液の一つは予め18O(H18O)を加えて調製され、他方の水は天然の同位体濃度を有している。この方法により、最初の条件から得られるタンパク分解ペプチドは全て、そのC−末端のカルボン酸に1又は2原子の18Oを取り込んで、標識される。その後、タンパク分解酵素の阻害物質の混合物又は使用したタンパク分解酵素の特異的阻害物質を添加することにより使用したタンパク分解作用の阻害を行い、両条件において消化されたタンパク質の等量を混合する。特にステップ5においてトリプシンによるLEPペプチドの再消化の間にRRnKペプチドの標識が生じることは注意する必要があり、そのため消化溶液を調整するために使用されるH18Oの同位体純度の汚染を避けるために、このステップの前に試薬の添加を行ってはならない。同位体標識のこの方法を使用する場合には、酸性条件において18O−標識ペプチドの長時間の処理は勧められない。その理由は、ペプチドのC−末端カルボキシル基へ酵素的に導入した標識の部分的又は完全な消失を生じ、定量に大きな誤差を生じる可能性があるからである。
【0054】
相対的定量は、標識及び非標識RRnKペプチドの混合物の同位体分布を計算するための適当なソフトウエアを使用してマススペクトルにより行われる(Fernandez of Cossio et al. Isotopica, A Web Software for Isotopic Distribution Analysis of Biopolymers by Mass Spectrometry. Nuclei Acid Research 2004,32,W674−W678 and /or Fernandez of Cossio et al. Automated Interpretation of Mass Spectra of Comples Mixes by Matching of Isotope Peak Distributions.Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004,18,2465−2472)。このソフトウエアは標識及び非標識RRnKペプチドの理論的同位体分布を算出し、そして理論的同位体分布から得られた面積が実験的に観察された同位体の面積に最も良く一致するような比率でそれらが組み合わされる。軽い及び重い同位元素(12C/13C,14N/15N,16O/18O及び/又はH/H)で標識されたペプチドに対応する面積のそれぞれの間に存在する比は、正規化した後に、比較する混合物中のペプチドを含むタンパク質の相対的比率に相当する。
【0055】
定量を行うために、(to)分析されるペプチド又はその配列の原子組成、(b)実験に使用された同位体標識のタイプ及び(c)関心のRRnKペプチドの実験的同位体分布を含むマススペクトルの領域を知る必要がある。この情報は全て非常に限定的であり、実験上のノイズを非常に正確に計算することができ、定量に関係のないほかの信号の重複を分析から除くことができる。これらの情報は全てソフトウエアを使用する定量方法を非常に強固にし、そして使用した同位体標識の方法とは関係ないものにする。
【0056】
この提案した方法はペプチド及びタンパク質の分析に最も頻繁に使用されているイオン化方法を使用することができる:エレクトロスプレーイオン化(ESI−MS)及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI−MS)。関心のペプチドはマススペクトロメーター中において選択され、それらは衝撃チャンバーを通過し、そこで衝撃として知られる操作を使用して解離を誘発し、充分な構造的情報を含むフラグメントが得られ、そして分析されるペプチドの部分的又は完全なアミノ酸配列の推定が可能になる。この情報を含むマススペクトルは、MS/MSスペクトルとして知られている。それぞれのMS/MSスペクトルは、それを発生したペプチド配列に対して非常に典型的であり、それはフラグメントイオンの指紋と考えることができ、そして適当なソフトウエアの支援により配列データベースの中でそのペプチドの信頼性のある同定を行うのに充分である。事実、これは配列データベース中のタンパク質の同定を行う最も良く知られているサーチエンジンが使用している原理である:MASCOTソフトウエア(Matrix Science Ltd, UK)(Perkins, DN,et al. Probability−based protein identification by searching sequence databases using mass spectrometry data. Electrophoresis. 1999,20,3551−3567);及びSEQUESTソフトウエア(Trademark, University of Washington, Seattle Wash. and McCormack, A.L.et al. Direct Analysis and Identification of Proteins in you Mix by LC/MS/MS and Database Searching at the Low−Femtomole Level, Anal.Chem.1996,69,767−776;Eng,J.K.et al. An Approach to Correlate Tandem Mass Spectral Dates of Peptides with Amino Acid Sequences in to Protein Database, J.Am.Soc.Mass.Spectrom.1994,5,976−989; U.S.Pat.No.5,538,897(Jul.23,1996) Yates,III et al.)。
【0057】
これらのソフトウエア(MASCOT及びSEQUEST)は、実験的に得られたMS/MSスペクトルをタンパク質配列データバース中に一定の分子マスを持ちそして使用したタンパク質分解酵素の特異的切断により生じた全ペプチドの理論的MS/MSと比較する。理論的フラグメントのマス値と実験で得られた値の間で全く一致することを示すMS/MSスペクトルは分析するペプチドの値に相当するはずであり、したがってそれを含むタンパク質が推定され、配列データベースにおいて同定が行われる。
【0058】
以下の参考文献は、タンパク質の同定、特に分析されたプロテオームにおいてマススペクトロメトリーの技術の一部の応用に関係している:Ideker T, Thorsson V, Ranish JTO, Christmas R, Buhler J, Eng JK, Bungarner R, Goodlett DR, Aebersold R, Hood L. Integrated genomic and proteomic analyses of to systematically perturbed metabolic network. Science,2001,292,929−34; Gygi SP, Aebersold R. Mass spectrometry and proteomics. Curr Opin Chem Biol. 2000,4,489−494.; Gygi SP,Rist B, Aebersold R. Measuring gene expression by quatitative proteome analysis. Curr Opin Biotechnol. 2000;1,396−401; Goodlett DR, Bruce JE, Anderson GA, Rist B, Passatolic L, Fiehn OR, Smith RD,Aebersold R. Protein identification with a single accurate mass of a cysteine−containing peptide and constrained database searching. Anal.Chem.2000;72,1112−8.及びGoodlett DR, Aebersold R, Watts JD. Quantitative in vitro kinase reaction ace to guide for phosphoprotein analysis by mass spectrometry. Rapid Commun Mass Spectrom. 2000;14,344−348; Zhou,H.et al.Nature Biotechnol. 2001,19,375−378.
【0059】
提案した方法の高度な選択性を考慮すると、より速い同定を保証するために、偽陽性の同定を避けるために、そしてMASCOT及びSEQUESTソフトウエアを使用してより信頼性のある同定をするために、同定はRRnKペプチドのみを有するデータベースに限定することができる。
【0060】
実施例
実施例1.RRnKペプチドの選択的単離のために提案された方法を適用した場合の、種々の生物のプロテオーム中のペプチドの複雑な混合物の単純化のインシリコ評価。
今日、DNA分子の配列分析により達成された高い効率は、いくつかの生物の完全なゲノム配列を知ることを可能にした。これは逆にこれらのゲノムからいかなるタンパク質が誘導されるか、そして試験されているプロテオームに対して行われる特定のタンパク質分解処理によりいかなるペプチドが発生するかを予測することを可能にする。
【0061】
RRnKペプチドを選択的に単離した場合に可能である単純化の程度を見積もるために、所与の生物のプロテオームについて計算するPCに使用するためにSELESTACTと命名されたソフトウエアがCで書かれた:
1−Swissprot databaseに報告されているタンパク質の全数。
2−特定のタンパク質分解処理により発生するペプチド/タンパク質の全数。
3−この特定のタンパク質分解処理により発生するRRnKペプチド/タンパク質の数。
4−プロテオームの範囲内で、本発明において提案されている方法により同定に成功することができるRRnKペプチドを持つタンパク質のパーセンテージ(個別のプロテオームについて報告されているタンパク質の全数に関して)。
【0062】
比較の目的で、このプログラムは、個別のプロテオーム中のシステイン残基を有するタンパク質分解ペプチドに関するパラメーターの算出にも使用され、したがってそれらは、先駆的方法でありそしてペプチドの選択的単離により頻繁に使用されそしてプロテオーム試験へ適用されているICAT法により確実に選択的に単離することができるであろう。
【0063】
表1.図1に提案した方法を適用した場合の、種々の生物のプロテオーム中に含まれるRRnKペプチドのSELESTACTソフトウエアを使用したインシリコ分析。良く知られているICAT法を適用した場合の単純化の結果も示されている。
【表1】


a)Swissprot sequence databaseに報告されているタンパク質の全数に対応。
b)種々の分析されたプロテオームのトリプシンによる特異的タンパク質分解により発生したトリプシン分解ペプチドの全数をコード化されたタンパク質の全数で割った。整数で示されている。
c)図1に提案した方法を使用した場合に分析されたタンパク質当たりのRRnKペプチドの全数及びICAT法により得られた全数。整数で示されている。
d)分析されたプロテオームの範囲は、この表のタイトルに記述したクロマトグラフィーの方法を使用して単離することができるRRnKペプチドを有するタンパク質の全数のパーセンテージを示す。この数字は、提案する方法(左)及びICAT法(右)である。
【0064】
表1において、病原体、細菌、イースト、植物及び哺乳動物を含むいくつかのプロテオームについて得られた結果が示されている。理解できるように、平均5個のRRnKペプチド/タンパク質が選択的に単離され、これはICAT法により得られた値に類似するので、混合物は、平均18個の典型的ペプチド/タンパク質からこれらのタンパク質にとって最適の値までかなり単純化されているであろう。提案された方法により試験することができる生物のプロテオームのパーセンテージとして示されるプロテオームの範囲(86.4%)は、ICATにより達成される値(87%)とも非常に類似している。しかし、個別のプロテオームが分析された場合に、M.tuberculosisプロテオームの場合に著しい差が認められる。本発明による方法において、この生物のプロテオームの94.6%の分析が可能であるが、他方、ICATが使用された場合には80未満が分析できるに過ぎない。この微生物をプロテオミクスの道具を使用して試験する場合には、選択される方法は本発明のRRnKペプチドによる選択的単離でなければならない。SELESTACTソフトウエアの使用は、本発明の方法を適用した時に、個別のプロテオームにおいて予想される結果を推定する場合に非常に有用であり、したがってプロテオミクス用のペプチドの選択的単離のほかの方法と比較することを可能にする。
【0065】
これは、本発明の原理、クロマトグラフィーシステムを使用してRRnKペプチドを選択的に単離することは、ペプチドの複雑な混合物の理想的単純化をすることができ、同時に試験されるプロテオームの広範囲を含むことを保障するので、非常に有用であり、そして異なる進化の程度の生物のプロテオミクスの試験に首尾よく使用することができる。
【0066】
後はだだ、実施例2に示すために、アミノ基の保護と修飾ペプチドを有効な方法で保持することができ、一方マススペクトロメーター中で分析するために非保持フラクションにRRnKペプチドを準備するクロマトグラフィーシステムの組合せが残されている。
【0067】
実施例2.組換えストレプトキナーゼのRRnKペプチドの選択的単離。方法の選択性及び特異性の評価。
図1に提案した方法を組換えストレプトキナーゼ(rSK,明細書の最後の配列1を参照)に適用した。このタンパク質はトリプシン消化により非常に多数のトリプシン分解ペプチドを生じるが(使用した酵素による完全な切断を考慮すると42ペプチド)、RRnKペプチドは5個のみであり(表2参照)、提案した方法の特異性及び選択性を非常に評価し易いので、このタンパク質をモデルとして選んだ。
【0068】
表2.組換えストレプトキナーゼ(rSK)のRRnKペプチドのアミノ酸配列及び理論的質量
【表2】


a)太字で示したアミノ酸はアルギニン残基におけるトリプシンの切断部位に相当する。矢印はトリプシンによる切断部位を示す。
【0069】
続けて行うべきステップは以下の通り:
(1)タンパク質を、塩酸グアニジン2 mol/Lを含む500mM Hepes緩衝液(pH 8.0)に溶解し、1:200の酵素:基質比でリシル−エンドペプチダーゼを加え、消化を37℃で16時間行った。
(2)タンパク分解ペプチドの混合物を0〜5℃の温度でインキュベートし、1級アミノ基(アルファ及びイプシロン)に対してモル比10:1で修飾試薬(ビオチンアミドペンタン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)を加えた。混合物を短時間攪拌し、氷浴中で再度インキュベートした。この操作をさらに2回5分間の間隔を置いて行った。
(3)修飾されたLEPペプチドを塩基性pHでインキュベート(2〜3%トリエチルアミンで1時間37℃)することにより、残った修飾試薬及びチロシン残基のO−アシル化を除いた。
(4)塩酸グアニジンの濃度が1 mol/Lになるまで消化緩衝液を希釈し、1:100の酵素:基質比でトリプシンを加え、4時間37℃で消化を行った。
(5)予めHO/TFA 0.05%の溶液で平衡したRP−C4カラム(Vydac,20x2.1 mm)を使用する逆相クロマトグラフィーにより過剰の修飾試薬を除去し、移動相のアセトニトリル/TFA(0.05%v/v)含量を1から80%まで10分間で増加する急速グラジエントを使用してペプチドを単一フラクションとして集める。
(6)アフィニティーマトリックス(セファロースにストレプトアビジンを固定)を充填したクロマトグラフィーカラムを流量500 cm/hで125 mM HEPES緩衝液(pH 8.0)で平衡した。ペプチド混合物を同じ平衡溶液に溶解し、アフィニティーカラムに負荷した。226 nmにおける吸光度を記録し、マススペクトロメトリーによる後の分析のために非保持フラクションを集めた。
(7)ZipTip(C18)を使用してRRnKペプチドを含有する非保持フラクションを脱塩し、マススペクトロメーターで分析した。
【0070】
ESI−MSスペクトル(図2A)は、rSKのLEPの消化により生じたペプチドに対応するかなりの数のシグナルを示している。これらのシグナルのrSKの配列に対する割当て、並びにそれぞれのペプチドの質量の実験値及び理論値を表3に示す。
【0071】
表3.図2Aで観察されたシグナルに対するrSKのLEPペプチドの割当ての要約。
【表3】


a)太字及びイタリックで強調されたアミノ酸はrSKの5個のRRnKペプチドの配列に相当する。各ペプチドのN−及びC−末端の数字はそれぞれrSKの配列中の位置に相当する。
b)rSKのLEPペプチドの実験で得られた質量。
c)rSKのLEPペプチドの理論上の質量。
【0072】
表3のLEPペプチド13,15及び20は、表2に示されたrSK配列の5個のRRnKペプチドの配列を含んでいることに注意。
【0073】
大部分のLEPペプチドは、その構造の中に含まれる1級アミノ基(リシンの末端アミノ基及びイプシロンアミノ基)に加えられた保護基の数に相当する量でその分子質量が増加した。完全な切断により生じたLEPペプチドの大部分は2個の保護基を付加しているはずである(2x226 Da=552 Da)、一つはN−末端のアミノ基に、そしてもう一つはC−末端に存在するリシン残基に。しかし、これらのペプチドの一部は予想よりも多い保護基を付加していた。例えば、図2Bにおいて、表3のビオチン化ペプチド16及び20に相当する質量3809.75及び4439.07のシグナルは、予想よりも1又は2個多い保護基を付加したことを、明らかに見て取ることができる(図2、網掛け菱形に加えられた数を参照)。
【0074】
この修飾ペプチドに対応するESI−MS/MSの詳細な分析により、これらの付加はチロシン残基の側鎖に存在することが示された。これらの結果は、Zappacosta and Annan(Zappacosta F,and Annan RS. N−terminal isotope tagging strategy for quantitative proteomics:results−deriven analysis of protein abundance changes. Anal Chem.2004,76,6618−6627)がトリプシン分解ペプチドの末端アミノ基を全て定量的に別の試薬で保護しようと試みたときに得られた結果と一致する。後に、チロシン残基におけるこの好ましくない修飾はこの実施例に記述されたステップ3に述べられている塩基による処理(図2C)により除かれた(Zappacosta F. and Annan RS. N−terminal isotope tagging strategy for quantitative proteomics:results−driven analysis of protein abundance changes. Anal Chem 2004,76,6618−6627)。図2Bの黒菱形の付いたシグナルは塩基処理の後には図2Cには存在しないので、塩基処理はこの副反応の影響を元に戻すのに有効であることを示していることに注目。図2Cに白丸で示されているシグナルは、その配列中にRRnKペプチドを有するビオチン化LEPペプチドに相当する。RRnKペプチドを発生させるために、ビオチン化LEPペプチドはトリプシンで消化される。生成した混合物は図2Dに示されている。図2Dにおいて黒丸で標識されたシグナルはrSKのRRnKペプチドに相当する。
【0075】
RRnKペプチドの選択的単離を達成するために、反応混合物は、ストレプトアビジンを固定化したセファロースカラムを通し、非保持フラクションをマススペクトロメトリーにより分析した。その結果を図2Eに示す。質量1423.70,1518.71及び1736.84の3つのシグナルは、RRnKペプチド、NLDFRDLYDPR, DSSIVTHDNDIFR 及び YTEEEREVYSYLRにそれぞれ割付けられた。これら3個のRRnKペプチドの中で、1つだけが表2に含まれている(ペプチド1参照)。図2Eにおいて選択的に単離された質量1423.70及び1736.84のその他の2個のRRnKペプチドは、トリプシンの不完全な切断により生じ、そしてそれらは表2に示された残りの4個のRRnKペプチドを含んでいる。このトリプシンの不完全な切断は、アルギニン残基に隣接して酸性の残基(Asp)の存在により生じる可能性がある。
【0076】
図2Eのアスタリスクを付けた質量1343.66のシグナルは、非RRnKペプチドの非特異的単離によるものではなく、マススペクトロメトリー測定の際にイオン化部分において発生した質量1736.80のRRnKペプチド390YTEEEREVYSYLR402のフラグメント(シリーズy”11)に割り当てられた。
【0077】
これらの結果は、図2DのESI−MSスペクトルに示されたペプチドの複雑な混合物をかなり単純化し、モデルタンパク質rSKについて理論的に予測される(表2に示された)5個のRRnKペプチドを、特異性なく、選択的に単離できるので、プロテオームの実験に首尾よく使用できることを示している。他方で、この方法の高い選択性及び特異性により、偽陽性の同定を避けるために、この目的のために工夫されたソフトウエアによるデータベースの調査をRRnKペプチドのみに限定することができる。
【0078】
ICAT法が持っている一つの欠点、二次元電気泳動を使用しないペプチドの選択的単離のためにプロテオミクスに使用されている方法の欠点は、システイン含有ペプチドの全てに導入される試薬の高い分子質量であり、このためにその後のマススペクトロメトリー分析においてイオン化の効率及びフラグメンテーションに影響を及ぼす可能性がある。
【0079】
これに対して、RRnKペプチドはその構造の中に、この方法のステップの間に導入されるいずれのタイプの化学的修飾も有しておらず、衝撃誘発解離実験の際に気相におけるイオン化及びフラグメンテーションに影響しない。この利点は、気相におけるペプチドの有効なフラグメンテーションを得て、配列データベースにおけるより信頼性の高い同定を保証するために高く評価されている。
【0080】
実施例3.化学的に活性な固体支持体を使用するRRnKペプチドの選択的単離。
RRnKペプチドは、LEPペプチドにアミノ基の保護反応により導入された修飾基と反応する化学的に活性な基で官能化された固相支持体を使用して単離することができる。この方法により、既に記述したように修飾ペプチドと固相支持体の間に共有結合が形成される。一方、RRnKペプチドはその構造中に化学的修飾を受けないので、それらは固相支持体と反応せず、非保持フラクション中に選択的に単離され、マススペクトロメトリーにより分析される。
【0081】
この実施例において、遊離チオール基を含有する固相支持体(MBHAメチルベンズヒドリルアミン樹脂)及び図3に示すようにチオール基と定量的に反応する2つの異なる化学試薬(ヨウ化酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びマレインイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)によるLEPペプチドの化学的修飾を使用することによるRRnKペプチドの選択的単離が示される。
【0082】
固体支持体の調製は以下の方法で行われる:
Fmoc−L−Cys(Trt)−OH/HOBt/ DIC(1/1/1)の混合物の4倍過剰をジメチルホルムアミドに溶解して、予め活性化したMBHA樹脂(1〜1.2 mmol/gの置換基を持つ)に加えた。Kaiserアッセイが陰性になるまで反応を続けた。Fmoc−L−Cys(Trt)をジメチルホルムアミド中20%ピペリジン混合物と20分間処理して、末端アミノ基を保護するFmoc基を除去する。続いて、DMFで数回洗う。Cys(Trt)樹脂を数回メタノールで、最後にエーテルで洗う。それを真空中に24時間保ち、そしてCysのチオール基を保護するTrt基を除くために、TFA/EDT/水/TIS(94/2.5/2.5/1)の混合物と2時間反応する。最後に樹脂を濾取し、エーテルで充分に洗う。
【0083】
rSKタンパク質のRRnKペプチドを単離するために続くステップは、ステップ(2)においてアミノ基の保護を2つの異なる試薬、ヨウ化酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びマレインイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルで別々に行ったことが異なる以外は、本発明の実施例3において記述したステップ(1)から(4)と同じであった。これに続くステップを以下に記述する:
【0084】
(5)rSKを溶解したのと同じ溶液で予め平衡した固相支持体に、加えた試薬の量に対するチオール基のモル比を50:1に維持して反応混合物を加えた。反応混合物を室温、暗所に置き、4時間ゆっくりと攪拌し、それぞれ、ヨウ化酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル及びマレインイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを使用した。
【0085】
(6)修飾ペプチドを結合したマトリックスを10000rpm、5分間の遠心分離により除き、同じ反応緩衝液で2回洗った。
【0086】
(7)rSKのRRnKペプチドを含有する上清からZipTipsを使用して脱塩し、マススペクトロメトリーで分析した。
【0087】
上に記述した方法のステップを終えて得られた結果は、互いに非常に近似しており、2種類の試薬を使用して得られたESI−MSスペクトルで見てとることができる:ヨウ化酢酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(図4A)及びマレインイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(図4B)。両者の場合に(図4A及びB)、シグナルm/z929.59,1423.78,1518.91及び1737.03は得られたESI−MSスペクトルの中で最も強く、これらの質量の値はrSKタンパク質のRRnKペプチドの予想される値に良く一致することを理解することができる(実施例2、図2E及び表2を参照)。
【0088】
上記のシグナルの他には、認められる強度の他のシグナルは検出されていないので、非保持フラクション中に非RRnKペプチドの非特異的単離はないことを示している。これらの結果は、固相支持体とLEPペプチドの1級アミノ基に導入された保護基の間の化学反応を使用することは、プロテオミクス試験のRRnKペプチドの選択的単離に有用であることを示している。これらのマトリックスの使用は、その表面に高い濃度の活性化官能基を有する場合には、少量のマトリクスを使用することができ、これによって修飾ペプチドの定量的結合のみならず、LEPペプチドの定量的保護を達成するために加えた過剰の試薬の結合も保証する利点がある。特にこれは、選択的単離の前の脱塩ステップ(実施例2のステップ5を参照)を省略することによりRRnKアミノ基の選択的単離の方法を単純化する。
【0089】
この実施例は、1級アミノ基のLEPペプチドの保護ステップの際に導入された修飾試薬と固相マトリックス官能基の間の定量的化学反応を、RRnKペプチドの高度に選択的で特異的な単離のために使用することができるというコンセプトも示している。
【0090】
他方、この実施例において、修飾ペプチドを結合した固相支持体は簡単な遠心分離操作により除去されたが、固相支持体として1級アミノ基の修飾基と共有結合を形成することにより修飾ペプチドを捕捉するために適当に活性化された磁気ビーズが使用されている場合には磁場によりこれを行うことができる。
【0091】
実施例4.RRnKペプチドの選択的単離のためにカチオン交換クロマトグラフィーの使用。
実施例2及び3において、アフィニティークロマトグラフィーと活性化固相支持体及びLEPペプチドのアミノ基に導入された保護基の間の化学反応をそれぞれ使用することにより、RRnKペプチドは非保持フラクション中に単離される。この実施例において、ペプチドに陰性電荷を導入する試薬でアミノ基を誘導体化することを組み合わせたカチオン交換クロマトグラフィーもこの目的に使用することができることを示す。
【0092】
このアイデアは、RRnKペプチドは末端アミノ基には修飾がなく、そのC−末端にアルギニンを有しているので、酸性pHで溶解された場合には少なくとも2個の陽性電荷を持ち、その配列中にヒスチジン残基を有する場合には陽性電荷の数は増加するという原理に基づいている。すなわち、RRnKペプチドは多価陽性電荷を持つペプチドである。
【0093】
他方、2回の消化LEP/トリプシンにより発生した残りのペプチドは、1級アミノ基、そのN−末端アミノ基又はリシン残基の側鎖のアミノ基のいずれもが保護されている場合に、プロトン付加の場所がなくなるために陽性電荷を持つ可能性が除かれる。さらに、アミノ基の保護基が陰性電荷を持っている場合には、ペプチドの正味の陰性電荷はかなり増える。
【0094】
強い酸に由来するので酸性pHにおいても2個の陰性電荷を追加賦与する試薬によりそのアミノ基を誘導体化した後のRRnKペプチド及びrSKの修飾ペプチドが持つはずの電荷を以下の表に示す。例えば、この特徴を充たす修飾試薬は、ペプチドにスルホン酸(SO)を導入することができる。
【0095】
表4.3,5−ジスルホ安息香酸N−ヒドロキシクスクシンイミドエステルでアミノ基を誘導体化した後に、提案した方法により得られたタンパク分解ペプチドの陽性及び陰性電荷の相対値の分析。
【表4】


a)網掛けの行はrSKのRRnKペプチドである。
b)太字で強調したアミノ酸は塩基性アミノ酸、ヒスチジン及びアルギニンを示す。スルホン酸基で修飾したリシン残基はイタリックで強調されている。示したペプチドはLEP及びトリプシンの完全分解により発生した。
c)トリプシンによる分解により発生した末端アミノ基を有するペプチド。
d)修飾ペプチドの配列中に存在するスルホン酸基により導入された陰性電荷の数。
e)塩基性アミノ酸アルギニン及びヒスチジン及びトリプシンによる切断により発生したペプチドのアミノ末端により提供される陽性電荷。
f)それぞれのペプチドの陰性及び陽性電荷の合計。
【0096】
酸性pHにおけるペプチドの正味電荷は、(遊離の末端アミノ基を有するペプチドにおけるアルギニン及びヒスチジン及び末端アミノ基により分配される(R+H+Nt))陽性電荷及びLEPペプチドの1級アミノ基に加えられた修飾試薬中に存在する2個のスルホン酸基により提供される陰性電荷の合計として考えられた。
【0097】
rSKの5個のRRnKペプチドは多価陽性電荷(z=2+から3+)を持っており、他方、その他のペプチドは中性又は陰性電荷を持つ可能性があることをこの結果は示している。これは、カチオン交換クロマトグラフィーによるこれらのペプチドの混合物の分離は可能であることを示している。
【0098】
各修飾アミノ酸に2個の陰性電荷を導入するために、3,5−ジスルホ安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルが次のプロトコールを使用して合成される:
1モルの3,5−ジスルホ安息香酸をTHFに溶解し、1モルのジイソプロピル カルボジイミド及び1.5モルのNHSと20時間反応させる。沈殿を濾取し、上清をロータリーエバポレーターで濃縮する。得られた沈殿を酢酸エチルで結晶化する。
【0099】
カチオン交換クロマトグラフィーを使用してRRnKペプチドを単離するために、実施例2に記述したのと同じステップ(1)〜(5)が続くが、違いは、LEPペプチドの1級アミノ基を保護するためにステップ2において、同じ反応緩衝液に溶解した3,5−ジスルホ安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルを反応混合物(HEPES 500 mM,pH 8.0)に加えたことである。
【0100】
次のステップを以下に記述する:
(6)カチオン交換クロマトグラフィーカラム(10x5 mm)にMerck社のEMD−650(S)SOマトリックスを充填し、TFA(0.05%v/v)の溶液で平衡した。オクチルグルコシド0.5%(w/v)を含有する平衡緩衝液に溶解したペプチドを500 cm/hの流量でカラムに適用した。226 nmで吸光度を記録した。非保持フラクションを捨て;カラムを充分に洗って使用した洗剤の残りを除去した。保持されたペプチドを2モル/LのNaClを含有する同じ平衡緩衝液を使用して溶出した。保持フラクションをマススペクトロメトリーによる分析のために集めた。
【0101】
(8)RRnKペプチドを含む非保持フラクションをZipTip(C18)で脱塩し、マススペクトロメーターで分析した。
【0102】
ここに記述されたクロマトグラフィーシステムは、タンパク質のC−末端(Isolation and characterization of modified species of to mutated(Cys125−Ala) recombinant human interleukin−2. Moya G. Gonzalez LJ, Huerta V, Garcia Y, Mulberry V, Perez D, Heath F, M. Claws J Chromatogr A. 2002,971(1−2),129−42)及びタンパク質の保護されたN−末端(Selective isolation and identification of N−terminal blocked peptides from tryptic protein digests. Betancourt L, Besada V, Gonzalez LJ, Takao T, Shimonishi Y, J. Pept. Res. 2001,57(5),345−53)を含むペプチドの選択的単離のために工夫された方法において中性のペプチドから陽性荷電ペプチドを分離するために首尾よく使用することができ、そしてそれより最近その使用はプロテオーム試験のためのペプチドの選択的単離に拡張された(SCAPE:A new tool for the Selective Captures of Peptides in Protein Identification. Betancourt L, Gil J, Besade V, Gonzalez LJ、Fernandez−de−Cossio J, Garcia L, Pajon R, Sanchez A, Alvarez F, Padron G. J.Proteome Res. 2005,4,491−496)。
【0103】
表4に示された結果を分析すると、rSKの5個のRRnKペプチド(ペプチド18,29,30,37及び38)は、そのアミノ基が2個のスルホン酸基を導入する試薬で修飾された後に酸性pHにおいて正味の陽性電荷を持つ唯一のペプチドであることが明らかに理解することができる。逆に、その他のペプチドは、この修飾を受けているので、その正味の電荷は陰性又は中性であるために、中性のペプチドから陽性に荷電したペプチドを分離するために設計されたこのクロマトグラフィーシステムもまた保持フラクション中のRRnKペプチドの選択的単離のために首尾よく使用することができる。
【0104】
このことは、保持フラクションのESI−MSスペクトルが得られ、そして予想されるrSKのRRnKペプチドだけがすべて検出されたときに示された(図5)。質量1423.75及び1736.88のシグナルはこの実施例の表4には含まれていないが、これらはペプチド321N−R331及び390D−R402に対応し、またそれらはアルギニン残基の位置での特異的切断により生じたのでRRnKに分類され、そしてそれらは配列の中にリシン残基を持っていないことを指摘するのは重要なことである。これらのペプチドはトリプシンの不完全な切断により生じ、表4に示されたRRnKペプチド(29及び30)及び(37及び38)の配列を含んでいる。
【0105】
同様に、修飾ペプチドは陰性電荷を持ちそして容易に保持することができるので、アニオン交換クロマトグラフィーをRRnKペプチドの選択的単離に使用することができるであろう。逆に、RRnKペプチドは構造の中にスルホン酸基を持たないペプチドであり、それらは非保持フラクションに単離されるであろう。この場合に、RRnKペプチドは非保持フラクションに単離されるであろう。
【0106】
修飾ペプチドはより多くの陰性電荷を持つが、提案した方法の選択性及び特異性は高いので、カチオン交換クロマトグラフィーを使用することにより修飾ペプチドとRRnKペプチドの分離を容易に達成することができる。
【0107】
LEPペプチドのアミノ基が保護された後に、それらがより疎水性の分子種に変換され、ある場合にはその溶解性が損なわれることがあるが、荷電した基で修飾した場合は前の実施例に使用した試薬よりも水性媒体における溶解性の増加が保証されるはずである。このことは、本発明の方法に提案されたアミノ基の保護に伴う損失の減少に役立つはずである。
【0108】
RRnKペプチドの選択的単離に使用されたのと同じクロマトグラフィーカラムは、関心のペプチドの追加の分画に使用することができる。これはこの方法を単純化するのみならず、MudPit実験(Washburn M.P. et al. Large−scale analysis of the yeast proteome by multidimensional protein identification technology, Nature Biotechnology 19,242−247,2001)において行われたのと同様な方法で交代塩グラジエント及び逆相による多数のタンパク質の同定を行うこともできる。
【0109】
この実施例で得られた結果は、陰性電荷を導入するペプチドのアミノ基の適当な誘導体と組合せたカチオン交換クロマトグラフィーは、プロテオーム実験におけるRRnKペプチドの選択的単離のために首尾よく使用できることを示している。
【0110】
実施例5.18Oによる同位体標識を使用するRRnKペプチドの選択単離による2つの人工的混合物(A及びB)中のタンパク質成分の同定及び相対的定量。
それぞれタンパク質rSK、組換えヒトエリトロポエチン(EPO)、リゾチームC、オボアルブミン、P64K及びBSAからなる2つの人工的混合物A及びBが調製された。A/Bのモル比は、それぞれのタンパク質について異なった:rSK 1:1、リゾチーム 2:1、オボアルブミン 3:1、P64K 1:3、そしてBSA 1:5。これらのタンパク質の配列は本明細書の配列表(1〜6)に示されている。
【0111】
5 mg/mlの濃度のタンパク質A及びBの混合物を別々に、2 mol/Lの塩酸グアニジン及び10 mM EDTAを含有する200 mM HEPES緩衝液(pH 8.0)に溶解した。システイン残基の濃度に対して50倍モル過剰のDTTを加え、反応混合物を窒素雰囲気中37℃で4時間インキュベートした。溶液を室温に冷却し、前に加えたDTTの量に対して2倍過剰のアクリルアミド溶液を加え、暗所に1時間置いた。両混合物を、1:100の酵素:基質比を使用してLEPタンパク分解酵素で8時間37℃において消化した。反応混合物を0〜5℃の温度に冷却し、発生したペプチドの1級アミノ基の濃度に対して8:1の比率を使用して保護試薬(ビオチンアミドペンタン酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステル)を20分の間隔で3回加える。次いで、5%の濃度でトリエチルアミンを加え、反応を37℃で1時間インキュベートする。生成する混合物を透析し、別々に通常の水(混合物A)及びISOTECにより提供された99%同位体純度の18O−標識水(H18O)(混合物B)を使用して再構成する。両者を1:20の比率のトリプシンを使用して37℃で消化する。4時間後、タンパク分解を停止し、発生した標識ペプチドと非標識ペプチドを混合した後に酵素により触媒される同位体交換を避けるために、トリプシンの量に対して2:1の濃度でアプロチニン溶液を両混合物に加えた。ペプチドの両混合物は混合され、そして加えられた過剰の保護試薬を除くためにアセトニトリルの急速グラジエントを使用して逆相クロマトグラフィーにより脱塩する。ペプチドの混合物を濃縮し、ストレプトアビジンを固定化したセファロースからなるアフィニティーマトリックスに使用したのと同じ平衡溶媒に溶解した。検体に2 cm/hの流量を適用し、非保持フラクションを脱塩し、LC−MS/MSにより分析した。
【0112】
混合物Bのタンパク分解の間に、18Oで標識されたペプチドはそのC−末端に1及び2原子の18Oを付加することができるので、両条件の下に得られたペプチドの相対的量を計算するためのこの比はペプチドに対応する同位体分布の面積比により与えられるので、1原子(18)及び2原子(18)の18−酸素を取り込んだペプチドの分布の面積で16の面積を割った、次の式:
(面積16)/(面積18+面積18
に従って得られることを記憶に留めておくことが必要である。
【0113】
分析する混合物中のペプチドの相対的定量は、本発明の方法の詳細な説明の中で説明されているように、ISOTOPICAソフトウエアを使用して行われる(Fernandez of Cossio et al. Isotopica, A Web Software for Isotopic Distribution Analysis of Biopolymers by Mass Spectrometry. Nuclei Acid Research 2004,32,W674−W678 and/or Fernandez of Cossio et al. Automated Interpretation of Mass Spectra of Complex Mixtures by Matching of Isotope Peak Distributions. Rapid Commun. Mass Spectrom. 2004;18;2465−2472)。
【0114】
調製された混合物中に存在する6個のタンパク質のRRnKペプチドは単離され、そして1回のLC−MS/MS実験において配列分析され、MASCOTソフトウエアにより行われた同定の結果並びに定量の結果は表3に示される。
【0115】
特に、定量を行うために、これらのペプチドの同位体分布の拡大された領域が選ばれ、分析されるペプチドの全体の式及び18Oによる標識と共にISOTOPICAソフトウエアに導入された。
【0116】
表3.18O/16Oで標識された2つの人工的混合物中に存在する5個のタンパク質のRRnKペプチドの選択的単離及びその選択的定量の要約。
【表5】


a)MASCOTソフトウエアにより自動的に同定されたRRnKペプチドの配列。
b)比較された人工的混合物A及びBの中のタンパク質の理論的比。
c)2つの比較された人工的混合物中に存在するタンパク質の相対的量を測定したときに得られた実験値。太字は相対的定量値の平均及びカッコ内は標準偏差の値。
【0117】
6個のタンパク質について、相対的定量に対応する実験値の平均は理論値に良く一致し、得られた標準偏差は非常に小さかった(5%未満)。
【0118】
これらの結果は、この方法は定量的プロテオミクスに使用することができ、非常に良い精度で混合物中に存在するタンパク質の相対的量を測定できることを示している。同定されたタンパク質の一つのタンパク質について得られた実験的同位体分布に対応する面積の調整は図3に示す。
【0119】
全ての場合に、理論的分布の理論的輪郭(赤線)及び実験で得られたスペクトル(黒い影をつけたスペクトル)の間で非常に良好な調整が得られたことが認められる。それぞれのタンパク質に属すペプチドの相対的定量について得られた結果は、理論値に非常に近似しており、定量的プロテオーム試験におけるこの方法の有用性を示している。
【0120】
RRnKペプチドの選択的単離方法は18O−標識と完全に調和しており、ペプチドのC−末端に導入される標識に影響しない単離方法でそのステップが構成されているのでいずれの生物学的システムの定量的プロテオミック試験にも適用することができる。16O/18O標識法は、比較するタンパク質混合物のタンパク分解の間に発生するペプチドの全てに普遍的に導入することができる。
【0121】
それぞれのタンパク質の相対的定量に関する実験値と理論値の一致は、使用した同位体標識(18O)が標識ペプチドと非標識ペプチドの同位体分布の分離を保証しない場合でも、ISOTOPICAソフトウエアが信頼性のある結果を提供することをわれわれに確証する。
【0122】
選択的単離のこの方法において、RRnKペプチドは全てC−末端にアルギニンを有しているので、アルギニン残基に13で特異的に標識を導入するSILACとして知られている方法(Gruhler A, Schulze WX,Matthiesen R, Mann M, Jensen ON. Stable isotope labeling of Arabidopsis thaliana cells and quantitative proteomics by mass spectrometry. Mol Cell Proteomics. 2005,4(11),1697−709)が相対的量の測定に使用できると予想することができる。一部の方法において、培養条件により導入されるいずれかの他のタイプの標識(H/H又は14N/15N)をアルギニン残基に使用することができる。
【0123】
LC−MS/MS及びデータベース検索。
測定はMicromass社(マンチェスター、英国)のハイブリッドマススペクトロメーター(4重極及び飛行時間、QTof−2)において行われる。マススペクトロメーターは200x1 mm(Vydac, USES)のカラムを通してオンラインでHPLC(AKTA Basic, Amersham Pharmacia Biotech, Sweden)に連結された。ペプチドは、緩衝液B(アセトニトリル中ギ酸0.2%)の5から45%への直線的グラジエント(120分)で溶出した。
【0124】
マススペクトロメーターは、コーン及びキャピラリー電圧、それぞれ35及び3000ボルトで運転された。MS/MSスペクトルの取得のために、7カウント/セグの強度を越えた後、1価、2価、3価荷電の前駆イオンを自動的に選択した。測定モードは、全イオン流(TIC)が2カウント/セグに減少した場合又はMS/MSスペクトルを4秒間で取る場合にはMS/MSからMSに変更した。取得及びデータ処理はMassLynxソフトウエア(バージョン3.5、Micromass,英国)により行い、一方、MS/MSスペクトルに基づくタンパク質の同定はインターネットのMASCOTソフトウエア無料バージョンにより行った。探査パラメーターの中に、システイン修飾並びに酸化及び脱アミド化の可能性を含めた。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】定量的プロテオミクスに応用するために本発明に記述された方法を使用してRRnKペプチドの選択的単離を示す図。黒い菱形により、LEPペプチドの1級アミノ基に加えられたビオチン基が示されている。
【図2】RRnKペプチドの選択的単離がモデルタンパク質:組換えストレプトキナーゼ(rSK)で示されている。(A)LEPペプチドの混合物のESI−MSスペクトル。ビオチン化反応により数個の保護基を加えた2つのLEPペプチドは黒矢印で示されている。(B)その1級アミノ基の完全なビオチン化の後のペプチド混合物のESI−MSスペクトル。1級アミノ基及びチロシン残基にそれぞれ加えられたビオチン残基は白と黒の菱形で示されている。(C)チロシン残基のO−アシル化の除去及び過剰の保護基の分解の後のESI−MSスペクトル。潜在的RRnKペプチドを含む保護されたLEPペプチドは白丸で示されている。(D)保護されたLEPペプチドのトリプシン消化のESI−MSスペクトル。rSKのRRnKペプチドは黒丸で示されている。(E)本発明の目的の方法を適用した後のRRnKペプチドの選択的単離。
【図3】固相支持体中のチオール基とLEPペプチドの1級アミノ基に導入された保護基(マレインイミドプロピオニル及びヨー化アセチル)の間の化学反応。網の入った円は遊離チオール基で活性化された支持固相を示す。
【図4】固相支持体としてチオール基で活性化されたMBHA樹脂及び2つの保護基:マレインイミジル及びヨウ化アセチルを使用したrSKのRRnKペプチドの選択単離に対応する(A)及び(B)に示されたESI−MSスペクトル。
【図5】本発明中で提案されている方法及びカチオン交換クロマトグラフィー及び保護基として3,5−ジスルホ−安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドエステルの組合せを使用するrSKのRRnKペプチドの単離に対応するESI−MSスペクトル。
【図6−1】黒色で示されたESI−MSスペクトルは、アミノ基をビオチンで保護した後、セファロースにストレプトアビジンを固定化したアフィニティークロマトグラフィー及び2つの人工的混合物におけるタンパク質の相対的定量を行うために18Oの標識を使用し、実施例1に示した選択的単離方法を適用した後得られたペプチド、327LDVVEMMDGLMQGADR322(P64K),143ELINSWVESQTNGIIR158(ovalbumin),62WWCNDGR68(lysozyme),54MEVGQQAVEVWQGLALLSEAVLR76(EPO),及び337HPEYAVSVLLR347(BSA)の実験的同位体分布に対応する。それぞれのスペクトルにおいて、2原子の16(青色)、及びC−末端に1原子(紫色)及び2原子の18O(黄色)を持つペプチドに相当する同位体分布が示される。それぞれの場合に示された比率において既に述べた3種の混合物(1618及び18)の理論的同位体の分布は赤色で示されている。
【図6−2】黒色で示されたESI−MSスペクトルは、アミノ基をビオチンで保護した後、セファロースにストレプトアビジンを固定化したアフィニティークロマトグラフィー及び2つの人工的混合物におけるタンパク質の相対的定量を行うために18Oの標識を使用し、実施例1に示した選択的単離方法を適用した後得られたペプチド、327LDVVEMMDGLMQGADR322(P64K),143ELINSWVESQTNGIIR158(ovalbumin),62WWCNDGR68(lysozyme),54MEVGQQAVEVWQGLALLSEAVLR76(EPO),及び337HPEYAVSVLLR347(BSA)の実験的同位体分布に対応する。それぞれのスペクトルにおいて、2原子の16(青色)、及びC−末端に1原子(紫色)及び2原子の18O(黄色)を持つペプチドに相当する同位体分布が示される。それぞれの場合に示された比率において既に述べた3種の混合物(1618及び18)の理論的同位体の分布は赤色で示されている。
【図6−3】黒色で示されたESI−MSスペクトルは、アミノ基をビオチンで保護した後、セファロースにストレプトアビジンを固定化したアフィニティークロマトグラフィー及び2つの人工的混合物におけるタンパク質の相対的定量を行うために18Oの標識を使用し、実施例1に示した選択的単離方法を適用した後得られたペプチド、327LDVVEMMDGLMQGADR322(P64K),143ELINSWVESQTNGIIR158(ovalbumin),62WWCNDGR68(lysozyme),54MEVGQQAVEVWQGLALLSEAVLR76(EPO),及び337HPEYAVSVLLR347(BSA)の実験的同位体分布に対応する。それぞれのスペクトルにおいて、2原子の16(青色)、及びC−末端に1原子(紫色)及び2原子の18O(黄色)を持つペプチドに相当する同位体分布が示される。それぞれの場合に示された比率において既に述べた3種の混合物(1618及び18)の理論的同位体の分布は赤色で示されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルギニン残基(RR)のC−末端での切断により生じそしてその配列中にリシン残基を含まない(nK)ペプチド(RRnKとここでは命名する)の選択的単離によって特徴付けられ、タンパク質の相対的濃度の測定が比較する検体中の異なる同位体で標識された各RRnKペプチドの理論的スペクトルに対応する面積の比により行われ、以下のステップ:
a)分析される複雑な混合物中に存在するタンパク質のシステイン残基の非中性化及びS−アルキル化、及び酵素リシルエンドペプチダーゼ(LEP)を使用するリシン残基のC−末端におけるそのペプチド結合の特異的加水分解、
b)ステップ(a)で得られたペプチドの1級アミノ基(アルファ及びイプシロン)の、非共有結合相互作用(静電的、親和性、疎水性など)又は共有結合の形成によりステップ(e)においてクロマトグラフィーカラム中又は活性化した固相支持体中に保持され得る可逆的又は不可逆的な化学的修飾、
c)加えられた過剰の保護試薬の分解及びチロシン残基のO−アシル化の除去のためのアルカリ処理、
d)ステップ(b)において得られたLEP保護ペプチドのトリプシンによる消化、
e)ステップ(a)に先立つSILACとして知られる方法を使用する培養条件によるタンパク質の検体の異なる同位体による標識、又はステップ(a)及び/又は(d)におけるペプチドの標識、
f)相互作用、共有結合又は高い親和性を持つ非共有結合のいずれかによりクロマトグラフィーカラム又は活性化固相支持体の中にステップ(b)において導入された保護基を持つペプチドを保持し、場合によって非保持フラクション中に又は保持フラクション中にRRnKペプチドを得る、
g)液体クロマトグラフィーに連結したマススペクトロメトリーによるステップ(e)において選択的に単離したRRnKペプチドを含むタンパク質の同定、
h)ステップ(f)において同定されたRRnKペプチドのマススペクトルの面積の実験値と理論値の比によるステップ(g)の混合物中の1又は数個のタンパク質の相対的定量、
よりなる細胞抽出又は生物学的液に由来する複雑な混合物中の1つ又は数個のタンパク質の同定及び相対的定量のための方法。
【請求項2】
アミノ基の修飾試薬:例えば、無水酢酸、N−ヒドロキシスクシンイミド、N−アセトキシスクシンイミド、無水シトラコン酸、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水テトラヒドロフタル酸、クロロギ酸 9−フルオレニルメチル(Fmoc−Cl)、2−メチルスルホニルエチル スクシンイミジルカルボナート、尿素及びアミノ基を保護する試薬:例えば、(a)ベンジルオキシカルボニル、2−クロロベンジルオキシカルボニル、9−フルオレニルメチルオキシカルボニル、イソニコチニルオキシカルボニル及び4−メトキシベンジルオキシカルボニルを含む芳香族ウレタン型保護基;(b)t−ブトキシカルボニル、t−アミルオキシカルボニル、イソプロピルオキシカルボニル、2−(4−ビフェニル)−2−プロピルオキシカルボニル、アリルオキシカルボニル及びメチルスルホニルエトキシカルボニルを含む脂肪族ウレタン型保護基;(c)アダマンチルオキシカルボニル、シクロペンチルオキシカルボニル、シクロヘキシルオキシカルボニル及びイソボルニルオキシカルボニルを含むシクロアルキルウレタン型保護基;(d)アシル保護基又はスルホニル保護基、好ましい保護基はベンジルオキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル、アセチル、2−プロピルペンタノイル、4−メチルペンタノイル、t−ブチルアセチル、3−シクロヘキシルプロピオニル、n−ブタンスルホニル、ベンジルスルホニル、4−メチルベンゼンスルホニル、2−ナフタレンスルホニル、3−ナフタレンスルホニル及び1−カンファースルホニルを含む;(e)m−ニトロフェニル、3,5−ジメトキシベンジル、1−メチル−1(3,5−ジメトキシフェニル)エチル、アルファメチル−2−ニトロピペロニル、o−ニトロベンジル、3,4−ジメトキシ−6−ニトロベンジル、フェニル(o−ニトロフェニル)メチル、2−(2−ニトロフェニル)エチル、6−ニトロベラトリル、4−メトキシフェナシル及び3’,5’−ジメトキシベンゾインのカルバメート誘導体を含む光感受性保護基及びビオチンの活性化誘導体及びその化学的誘導体、さらに例えばSO基のような修飾ペプチドに多価陰性電荷を提供する他の保護基、一般的にアミノ基を保護するためにペプチド合成に使用される試薬又は前に説明した性質を充たすアミノ基と反応できるほかの試薬、
を使用するステップ(a)におけるタンパク分解処理において発生したペプチドに含まれるリシンのステップ(b)における末端α−アミノ基及びε−アミノ基の共有結合修飾によって特徴付けられる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ファージディスプレーライブラリー又は1本鎖抗体、合成により得られたモノクロナール抗体又は抗体フラグメント又は天然資源から単離されたか又は合成ペプチドライブラリーから単離されたか又はファージディスプレーペプチドライブラリーにより得られたペプチド、LEPペプチドのアミノ基に導入された天然又は人工的リガンドに結合する高い親和性を持つ他のタンパク質を固定化したアフィニティーマトリックス、及び一般的にペプチドのアミノ基に導入された保護基と共有結合又は非共有結合で結合することができる反応基を含有する活性マトリックスのいずれかをステップ(a)において使用することによって特徴付けられる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
RRnKペプチドを保持フラクション中に選択的に単離するためにアミノ基に陰性電荷を導入する誘導体と組み合わせたカチオン交換クロマトグラフィーの使用によって特徴付けられる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
ステップ(e)において発生したペプチドの実験的に得られたマススペクトルに最も良く合うRRnKペプチドの標識及び非標識分子種の理論的スペクトルに対応する面積の比を計算することにより検体中の1個又は数個のタンパク質の相対的濃度を測定することによって特徴付けられる請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図6−3】
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【公開番号】特開2007−139787(P2007−139787A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−315403(P2006−315403)
【出願日】平成18年11月22日(2006.11.22)
【出願人】(304012895)セントロ デ インジエニエリア ジエネテイカ イ バイオテクノロジア (46)
【Fターム(参考)】