説明

タンパク質を選択的に濃縮する方法及び関連する応用

ここでは生体サンプル中に存在するリガンドを選択的に濃縮する方法が提供される。本発明にしたがって、1つ又は複数の受容体担体を用いて、受容体担体の表面上で固定化された受容体と結合可能なリガンドを捕捉する。リガンドと結合した受容体担体は残留サンプルから分離し、リガンドはその後リガンド溶出溶液で溶出することによって、リガンドを含む溶液が結果として生じる。このリガンドを含む溶液はさらに濃縮され、リガンドサンプルをもたらす。ある実施形態において、受容体担体は細胞膜の外葉上に複数の受容体担体を備える。本発明によって獲得されたリガンドサンプルは、例えば、質量分析法とともに2次元ゲル電気泳動法などの公知の技術を介してリガンドプロファイリングに用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は米国特許第60/819,990号(出願日:2006年7月11日)の優先権を主張する。前出願の内容は参照することにより全体として本出願に組み込まれるものとする。
【0002】
本発明は基本的にプロテオミクスに関する。より詳細には、本発明は生体サンプルからリガンドタンパク質を選択的に濃縮することに関する。
【背景技術】
【0003】
ヒトゲノム計画の完了を受けて、生物医学の焦点はゲノム配列のハイスループット解析からゲノム配列によりコード化されたタンパク質の機能的及び構造的な研究へと移ってきた。ヒトプロテオームに存在するタンパク質全体の数及びその機能を究明するため、及び様々な器官、組織、生体液、又は細胞型における各タンパク質の発現量を研究するために、様々な取り組みが行われている。プロテオーム研究の重要な目標は、特定のタンパク質の発現及びその修飾をその表現型又は病状と関連付けることである。なぜなら、これらのタンパク質は薬剤のターゲット、又は診断マーカとして役立つ可能性があるためである。
【0004】
無数の2次構造及び翻訳後に起こりえる修飾に関連するタンパク質の多様性ゆえに、プロテオーム研究はゲノム研究よりも数段困難である。結果として、遺伝子アレイ技術及びハイスループット解析技術等のゲノム全般の解析道具があるゲノミクスとは違って、プロテオミクス研究は全般的にプロテオーム解析技術の道具を欠いている。プロテオーム研究で用いられる共通した取り組みはいわゆるタンパク質プロファイリングである。該タンパク質プロファイリングでは、タンパク質の混合物を含むサンプルはある解析にかけられ、該解析はタンパク質の1以上の物理的又は生化学的特質に従ってタンパク質の分布情報をもたらす。現在用いられているタンパク質プロファイリング法の実施例は、2次元ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィ、及びタンパク質/抗体アレイである。2次元ゲル電気泳動及び液体クロマトグラフィは、混合物中のタンパク質の大きさ及び化学的特質に従ってタンパク質混合物をプロファイルする。一方で、タンパク質/抗体アレイは、アレイ上に点在する抗体とサンプル中の対応するタンパク質との結合を通して、生化学的な機能性に従いタンパク質をプロファイルする。最近では、2次元ゲル電気泳動又は液体クロマトグラフィ法を質量分析法と組み合わせることによって、より強力なタンパク質プロファイリング技術が開発され、分離したタンパク質の同定を可能にしている。それにもかかわらず、これらのプロテオーム方法は分解能の限界により所望の1つのサンプルから3000程度のたんぱく質しか発見できない。ヒト血漿及び/又はヒト血清等の複雑な生体サンプル中には、150万以上の特徴的なタンパク質の分子化合物が存在すると推測され(非特許文献1)、1つのサンプル中に存在する個々のタンパク質の相対量は1000億−1200億に至るまで様々である(非特許文献2)。最も重要な生理学的なシグナル分子の多くは一般的には低含量タンパク質の部類に分類されるため、より高含量のタンパク質類の存在が低含量タンパク質の検出を妨げる従来のプロテオミクス方法では低含量タンパク質の研究は非常に困難である。このため、比較的高含量のタンパク質類を排除することによって検出限界を上げるための多くの取り組みがなされてきた。例えば、アフィニティカラムクロマトグラフィは、タンパク質プロファイリング解析の前にヒト血清中に存在するもっとも高含量なタンパク質のうちの6−12のタンパク質を除去するために用いられてきた(非特許文献3)。しかしながら、たとえ12のもっとも豊富なタンパク質の除去が完了しても、血清又は血漿サンプル中のタンパク質のダイナミックレンジがひと桁減少するだけである。アルブミン又は他の高含量タンパク質が減少すると、アルブミン又は他の高含量タンパク質と結合する低含量タンパク質も結果として減少することになる(非特許文献4)。高含量タンパク質の妨げを克服してある程度の成功を収めた他の手法に、細胞下分画、アフィニティ精製、及びタンパク質及びペプチドの生理学的な特質に従ったタンパク質及びペプチドの分画が挙げられる(非特許文献5)。本濃縮方法はインタクト細胞の膜タンパク質をビオチニル化した後にビオチニル化された原形質膜タンパク質を濃縮すること(非特許文献6)、及びリン酸化タンパク質を濃縮すること(非特許文献7)を含む。しかしながら、膜タンパク質(細胞タンパク質全体の1/10)及びリン酸化タンパク質(細胞タンパク質全体の1/10)双方の広がりを考慮すれば、上記技術を用いた濃縮の効率は限定される。したがって、上記現在の手法は、比較的希少な又は低含量タンパク質を効率よくプロファイルする点においてある程度の成功を収めただけに過ぎない。
【0005】
特定の機能のタンパク質を検出する効果的な手段の1つは、機能性に依存した技術を用いてタンパク質を単離させることである。この手法は選択されたタンパク質の機能とは無関係なタンパク質を除去し、一方でその後のプロファイリング研究のために関連するタンパク質を濃縮するものである。この手法で濃縮されたタンパク質のサンプルは、タンパク質の数が劇的に減少したため、従来の方法の分解能の範囲でも容易にプロファイルすることが可能である。一例として、リガンド、受容体、又は他の結合タンパク質として機能するタンパク質はアフィニティ精製によって単離されてきた。公知のリガンド又は公知の受容体のいずれかは対応するタンパク質分子を捕捉する「おとり(bait)」分子として機能する(非特許文献8)。同様に、関連するタンパク質は、リガンド−受容体結合のアフィニティ相互作用スキームで公知のおとり分子と対応する分子との間で結合するとすぐに誘発される生物学的活動に基づいて単離されることもある(非特許文献9)。しかしながら、このタンパク質精製法又はたんぱく質濃縮法は、目標とする分子を単離させることに限定される。該目標分子のおとり分子は公知であるとともに、主に1つのリガンド又は受容体の分子は一度に単離される。
【0006】
リガンド又は受容体は、組織のコミュニケーションネットワークを備えるため、多細胞組織中では重要な分子である。多くのリガンドが炎症に関連のあるバイオマーカであると明らかにされてきた。今日まで、市場の50%以上の薬剤がリガンド又は受容体由来であるか、あるいはリガンド又は受容体を標的としている。リガンド又は受容体は主に低含量タンパク質であるため、濃縮を伴わない現在のプロテオミクス方法では見過ごされる傾向にある。
【0007】
【特許文献1】米国特許第60/819,990号
【非特許文献1】Hachy DL and Chaurand P., J. Reprod Immunol. 2004 Aug; 63(1): 61-73
【非特許文献2】”U.S. HUPO Symposium Focuses on Proteomics” Genetic Engineering News 25 (7) April 1
【非特許文献3】Lee WC, Anal Biochem. 2004 Jan 1; 324(1):1-10
【非特許文献4】Sahab Z. J. et al. Analytical Biochemistry 2007 June; Shen Y. & J. Liao Genetic Engineering News 2006 May 26 (10): 28
【非特許文献5】Stasykt T, Proteomics. 2004 Dec; 4 (12): 3704-16; Ahmed N, J Chromatogr B Analyt Technol Biomed Life Sci. 2005 Feb5; 815(1-2): 39-50
【非特許文献6】Zhang W. et al. Elctrophoresis, 2003, 24, 2855-2863
【非特許文献7】Saiful M. et al., Rapid Commun. Mass Spectrom. 2005; 19: 899-909
【非特許文献8】Feshchenko EA et al. Oncogene. 2004 Jun 10; 23 (27) : 4690-706. Erratum, et al. Oncogene. 2004 Dec 16; 23(58): 9449
【非特許文献9】Civelli O, et al. FEBS Lett. 1998 Jun 23; 430(1-2): 55-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、生体サンプルからのリガンド及び受容体等の低含量ながら生物学的に重要なタンパク質を効率よく濃縮する方法を開発するのが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は複合的なシステム(例えば体液)中に存在する適切な生体分子を1以上の受容体担体を用いることによって選択的に濃縮する方法に関する。各受容体担体は表面上に複数の受容体を備える。受容体担体又は担体は、細胞、下部細胞の細胞小器官、小嚢であってもよい。該小嚢は細胞膜を備え、該細胞膜は複数の受容体又は複数の受容体を備える人工生体表面を備える。本発明の好適な実施形態において、受容体担体又は担体は生細胞である。外部膜と結合した細胞の受容体は生体液サンプル中に存在するリガンドを結合/捕捉することができる。
【0010】
選択的リガンドの濃縮方法は一般的に以下の4つの段階を備える。すなわち、1)生体サンプルの流体抽出物を十分な時間、受容体担体又は担体に暴露させることで、流体抽出物中に存在する適切なリガンドを受容体担体又は担体の生体表面上で夫々の受容体と結合させる段階と、2)リガンド−受容体の結合後に生体サンプルの流体抽出物中の非結合分子を除去する段階と、3)リガンド溶出溶液を用いて受容体担体又は担体から受容体に結合したリガンドを解離させる段階と、及び、4)受容体担体から濃縮されたリガンドを含む液体を分離することにより、濃縮されたリガンドのサンプルを作り出す段階である。
【0011】
濃縮リガンドサンプルはリガンドプロファイリングを含む様々な目的に適している。該リガンドはリガンドの濃縮工程前の原サンプル中に存在するとともに、所望の選択された生物学的機能性に関連する。タンパク質プロファイリング又はリガンドプロファイリングは、リガンドの物理的及び生化学的特質に従って、混合物中に存在するリガンドの組成及び量の観点から混合物の「フィンガープリント(finger-print)」情報をもたらす。濃縮されたリガンドサンプルのプロファイリングは、1次元ゲル又は2次元ゲルの電気泳動法、クロマトグラフィ、質量分析法、又は他の手段を用いて行われることにより、分子量、pI、疎水性/親水性などによってリガンドを分離及び解析する。
【0012】
本発明によると、濃縮されたリガンドサンプルを用いたリガンドプロファイリングには多くの実用的な用途がある。例えば、任意の有機体のリガンドのプロテオームをマッピングすること、個体のメタボロミクスを特徴付けるとともに個体の健康状態を判断すること、人間の病気診断及び予後診断、薬物反応及び薬物スクリーニングのためのバイオマーカを同定することである。
【0013】
ある実施形態において、サンプル中の多重リガンドを濃縮する方法が提供される。該方法は、a)複数のリガンド分子を備えるサンプルを複数の受容体担体と接触させる段階を備え、この段階では受容体担体はリガンド分子が結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)洗浄することによって非結合リガンド分子を除去する段階と、及び、c)結合リガンド分子を受容体担体から溶出することにより、複数のリガンド分子で濃縮された溶液を得る段階を備える。
【0014】
他の実施形態において、1以上の受容体担体のリガンドをプロファイリングする方法が提供される。該方法は、a)複数のリガンド分子を備えるサンプルを1以上の受容体担体と接触させる段階を備え、該段階では受容体担体はリガンド分子が結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)洗浄することによって非結合リガンド分子を除去する段階と、c)受容体担体から結合リガンド分子を溶出することにより、リガンド分子の画分を得る段階と、及び、d)リガンド分子の画分を分画することにより、受容体担体の受容体と結合するリガンド分子のプロファイルを得る段階を備える。
【0015】
他の実施形態において、リガンド分子の混合物を備える2以上の特徴的なサンプル間でリガンドのディファレンシャルプロファイリングを行う方法が提供される。該方法は、a)特徴的なサンプルの各々を受容体担体の別の群と接触させる段階を備え、該段階では各受容体担体はリガンド分子が結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)非結合リガンド分子を洗い流すとともに受容体担体から結合リガンド分子を溶出することにより、別のリガンド画分を得る段階と、c)リガンド画分を分画することにより、受容体担体の受容体と結合するリガンド分子の別々のプロファイルを得る段階と、及び、d)(c)で得られたプロファイルを比較することにより、特徴的なサンプル間でリガンドのディファレンシャルプロファイルを得る段階を備える。
【0016】
他の実施形態において、細胞群のポリペプチドリガンドをプロファイルする方法が提供される。該方法は、a)複数のポリペプチドリガンドを備えるサンプルを細胞へと接触させる段階を備え、該段階では細胞はポリペプチドリガンドが結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)洗浄することによって非結合分子を除去する段階と、c)細胞から結合性ポリペプチドリガンドを溶出することにより、ポリペプチドリガンド画分を得る段階と、及び、d)ポリペプチドリガンド画分を分画することにより、細胞の受容体と結合するポリペプチド画分のプロファイルを得る段階を備える。
【0017】
他の実施形態において、ポリペプチドリガンドを備える2以上のサンプル間でポリペプチドリガンドのディファレンシャルプロファイリングを行う方法が提供される。該方法は、a)ポリペプチドリガンドを備える各サンプルを細胞の別の一群と接触させる段階を備え、該段階では細胞の各群はポリペプチドリガンドが結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)非結合分子を洗い流すとともに各細胞群から結合性ポリペプチドリガンドを溶出することにより、別々のポリペプチドリガンド画分を得る段階と、c)ポリペプチドリガンド画分を分画することにより、細胞の受容体と結合するポリペプチドリガンドの別々のプロファイルを得る段階と、及び、d)(c)で得られたプロファイルを比較することにより、ポリペプチドリガンドの特徴的なサンプル間でポリペプチドリガンドのディファレンシャルプロファイルを得る段階を備える。
【0018】
他の実施形態において、未知の特性又は量を有するリガンドを備えるサンプルから多様なリガンドを濃縮するためのキットが提供される。該キットはブロッキング溶液、結合溶液、溶出溶液、及び請求項1の方法に従った実験手順に関する使用説明書を備える。このキットはさらに複数の受容体担体を備え、該複数の受容体担体はリガンドが結合する複数の受容体を備える。
【0019】
他の実施形態において、リガンドの同じ混合物を用いて、2以上の特徴的な細胞サンプル間で受容体のディファレンシャルプロファイリングを行う方法が提供される。該方法は、a)リガンドの混合物の一部を細胞サンプルの各々と接触させる段階を備え、該段階では各細胞サンプルはリガンドが結合する複数の受容体を備える。該方法はさらに、b)非結合リガンドを洗い流すとともに細胞サンプルの各々から結合リガンドを溶離することにより、別のリガンド画分を得る段階と、c)リガンド画分を分画することにより、細胞サンプルの各々の受容体と結合するリガンドの別々のプロファイルを得る段階と、及び、d)(c)で得られたプロファイルを比較することにより、特徴的な細胞サンプル間の受容体のディファレンシャルプロファイルを示すリガンドのディファレンシャルプロファイルを得る段階を備える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】受容体担体の表面上に受容体分子(R1、R2、R3、R4、R5及びR6)を備える受容体担体を用いて、生体サンプルのなかからリガンド分子を選択的に濃縮する工程の概略図である。
【図2】受容体担体によって生体サンプルからリガンド分子(L1、L2、L3、L4、L5及びL6)を選択的に濃縮する工程の概略図である。
【図3】図3AはNIH3T3及びヒーラ細胞によって濃縮された血清サンプル(血清HC)のリガンドのウェスタンブロット法の1次元画像であり、図3Bは4人の多発性骨髄腫患者と1人の健康体の個体におけるリガンドのディファレンシャルプロファイリングのウェスタンブロット法の1次元画像である。
【図4】図4Aは2つのヒト血漿サンプルから濃縮されたリガンドを組み合わせた2次元電気泳動ゲルの蛍光像であり、図4Bは、Cy5で標識されたヒト血清とCy3で標識されたヒト血漿の等量の混合物を用いて得られた2次元ゲルの蛍光像である。
【図5】図5Aは図4Aと同じであり、図5Bは2つのサンプルそれぞれで特異的に発現したリガンドを表している。
【図6】1次元のSDS−PAGEのゲル画像であり、同じヒト血漿サンプルの異なるリガンドプロファイルをリガンド濃縮に用いられる受容体単体の機能として示している。
【0021】
図1は、受容体担体の表面上に受容体分子(R1、R2、R3、R4、R5及びR6)を備える受容体担体を用いて、生体サンプルのなかからリガンド分子を選択的に濃縮する工程の概略図である。概略図に示されるリガンドの数及び受容体の対応する数は、説明目的のためのものでしかない。リガンド及び受容体の実際の数は、細胞システム又は生体サンプル内に存在するリガンド及び受容体の通常の数であってもよい。受容体担体は、ほんの一例として、規則的又は不規則的な球状、規則的又は不規則的なシート状、あるいは規則的又は不規則的な棒形状などの任意の物理的な形状を呈してもかまわない。受容体担体は、受容体担体細胞、細胞小器官、外翻した細胞膜でできた小嚢、外翻した細胞小器官膜、又は合成脂質であってもよい。小嚢表面は複数の受容体、又は表面を複数の受容体で固定化された人工表面又は人工物体で固定化される。卵型の物体は受容体分子を表す。三日月型の物体はリガンド分子を表し、三角形の物体は非リガンド分子を表す。
【0022】
図2は受容体担体によって生体サンプルからリガンド分子(L1、L2、L3、L4、L5及びL6)を選択的に濃縮する工程の概略図である。該受容体担体は容器(ガラス瓶など)の表面に別の生体サンプルからの受容体分子(R1、R2、R3、R4、R5及びR6)を固定することにより準備される。概略図で示されたリガンドの数及び受容体の対応する数は説明目的のためのものにすぎない。リガンド及び受容体の実際の数は生体サンプル中に通常存在する数であってもよい。
卵型の物体は受容体分子を表し、三角形の物体は非受容体分子及び非リガンド分子を表す。三日月型の物体はリガンド分子を表す。
【0023】
図3AはNIH3T3及びヒーラ細胞によって濃縮された血清サンプル(血清HC)のリガンドのウェスタンブロット法の1次元画像である。図3Bは4人の多発性骨髄腫患者と1人の健康体の個体におけるリガンドのディファレンシャルプロファイリングのウェスタンブロット法の1次元画像で、血清由来のビオチン標識リガンドを特異的に検出することによってもたらされる。
【0024】
図4Aは2つのヒト血漿サンプルから濃縮されたリガンドを組み合わせた2次元電気泳動ゲルの蛍光像で、インタクトヒーラ細胞を受容体担体として用いることにより得られる。2つのサンプルからの結合リガンドプロファイルを獲得するために、サンプル#1の濃縮されたリガンドサンプルは蛍光染料Cy3(緑の擬似色)で最小限標識されるとともに、サンプル#2の濃縮されたリガンドサンプルは他の染料Cy5(赤の擬似色)で最小限標識される。2つの標識サンプルは同じ量で結合され、2次元のゲル電気泳動にかけられる。図4Bは、Cy5で標識されたヒト血清とCy3で標識されたヒト血漿の等量の混合物を用いて得られた2次元ゲルの蛍光像である。図4Bは図4Aの引例として用いられ、ヒーラ細胞を受容体担体として用いてヒト血漿中のタンパク質の小集団が選択的に濃縮されていることを示している(実施例8を参照)。
【0025】
図5Aは図4Aと同じである。図5A中の強調された四角は特徴的な緑と赤の領域を見るために拡大されている。該領域は2つのサンプルそれぞれで特異的に発現したリガンドを表している(図5B)。
【0026】
図6は1次元のSDS−PAGEのゲル画像であり、同じヒト血漿サンプルの異なるリガンドプロファイルをリガンド濃縮に用いられる受容体単体の機能として示している。ヒト血漿サンプルは、3つの異なるリガンドサンプル(LHela、LMCF7、及びLJurkat)をそれぞれ得るために、3つの異なる細胞株(ヒーラ、MCF7、及びジャーカット)を受容体担体として用いて濃縮された。各リガンドサンプルはその後、1次元のSDS−PAGEにかけられ、レーンLHela、LMCF7、及びLJurkatそれぞれで示されるプロファイルを得る。レーンLCHela、LCMCF7、及びLCJurkatは5ミリリットルのPBSで培養後に、ヒーラ、MCF7、及びJurkat細胞から溶出されたタンパク質のプロファイルを表す(実施例9を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の様々な様態、特性、実施形態の詳細な記載は添付図と関連して提供される。添付図は以下に簡潔に記載されている。図は説明的なもので、必ずしも一定の縮尺で描かれたものではない。図は本発明の様々な様態または特性を説明するもので、全体において又は一部において、本発明の1以上の実施形態又は実施例を説明するものであってもよい。特定の要素又は特性について言及する1つの図で用いられる引用数字、引用文字、及び/又は引用記号は、別の図で用いられ、同様の要素や特性を言及するものであってもよい。
【0028】
簡単な要約及び詳細に関して、暗黙のうちに又は明確に別の方法で理解されたり又は記載されたりしない限り、単数形の単語は複数形の単語を包含するとともに、複数形の単語は単数形の単語を包含することを理解されたい。さらに、本記載の任意の所定の要素について、暗黙のうちに又は明確に別の方法で理解されたり又は記載されたりしない限り、その要素に列挙された可能性のある候補又は代替物は、個別に又は互いに任意の組み合わせで一般的に用いられることもあることを理解されたい。さらに、暗黙のうちに又は明確に別の方法で理解されたり又は記載されたりしない限り、上記のような候補又は代替物は単なる例示に過ぎず、限定的なものではないことを理解されたい。また、さらに、暗黙のうちに又は明確に別の方法で理解されたり又は記載されたりしない限り、本発明と関連してここで提供される任意の形状、数字、又は量は概算であるということ、及び数値域は範囲を定義する最小限の数及び最大限の数を含むということを理解されたい。加えて、暗黙のうちに又は明確に別の方法で理解されたり又は記載されたりしない限り、許容された、公開の、又は制約のない任意の言語は、比較的許容された言語から限定的な言語、周知の言語から閉鎖的な言語、制約のない言語から範囲が限定された言語をそれぞれ包含することを理解されたい。ほんの一例として、「備えている」という単語は、「備えている」、「本質的に〜からなっている」、及び/又は「「からなっている」という類の言葉を包含することもある。
【0029】
本発明の理解を促進するために、様々な用語が本明細書中に記載されるか又は用いられている。これらの様々な用語の対応する記載又は使用は、これらの用語の対応する言語的又は文法的な変化又は形式に基本的に適用されることを理解されたい。本明細書中に記載の概要又は対応する概要の使用又は任意の用語の使用について、その用語が一般的でない又は特有な方法で用いられている際には、適用されない、又は完全には適用されないことがあることも理解されたい。本発明は特定の実施形態の記載を理由に本明細書中で用いられる専門用語又はその記載に限定されるものではないことも同様に理解されたい。さらに、本発明は本明細書中に記載された本発明の実施形態又は記載された本発明の応用例に限定されるものではなく、それ自体は変化することもあるということを理解されたい。
【0030】
一般的に、「生体表面」という用語は表面又は基質のことについて言及する。該表面又は基質上では、複数の受容体が非共有結合的又は共有結合的のどちらかで固定される又は固定可能であることにより、サンプル中に存在するリガンドと相互作用する。生体表面は壁細胞、細胞膜の外部表面又は内部表面、細胞小器官膜、組織、リポゾーム又はミセルの外部表面など自然のままのものでもよく、又は非生体物質の表面など人工的なものでもかまわない。該非生体物質とは、ウェル、プレート、粒子、ビーズ、ファイバ、基質、多孔質構造、棒、膜、チップ等の物理的な形状であってもよい。該物質は以下からなるリストから選択されても良い。すなわち、セファロース、アガロース、ラテックス、デキストラン、脂質単分子層、脂質二重層、金属、金属酸化物、ガラス、セラミック、クォーツ、プラスチック、シリコン、ポリアクリルアミド、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリマ、コロイド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、酸化ケイ素、窒化ケイ素、セルロースアセテート膜、ニトロセルロース膜、ナイロン膜及びポリプロピレン膜、非晶質炭化ケイ素、不定形酸化物、ポリイミド、ポリメタクリル酸メチル、及びシリコンエラストマーなどである。生体表面がリガンド分子を含む又は含むと思われる溶液から、遠心分離、濾過、沈殿、磁場、親和性の獲得といった従来の分離方法によって分離可能である限り、生体表面は表面及び基質以外のさらに他の形状であってもよい。生体表面の1つの実施例は生体サンプルに存在するリガンドと相互作用可能な受容体タンパク質に埋め込まれた細胞膜の外葉である。人工生体表面の1つの実施例はアッセイウェル、アッセイプレート又はアッセイビーズの表面、又はカラム内部の基質で、該カラムは生体サンプル中に存在するリガンドと相互作用可能な固定化タンパク質でコーティングされた物質を含む。
【0031】
一般的に、「受容体」という用語は、タンパク質、タンパク質複合体、ペプチド、ペプチド複合体、核酸、代謝産物及び副産物、又は細胞によって与えられた有機分子、又は上記のごとく生体表面に固定されるとともに生体液などの溶液中に存在するリガンドと相互作用可能な有機分子について言及する。例えば、「受容体」は成長因子又はサイトカインのための細胞膜受容体分子であってもよい。「受容体」は細胞外ドメイン、膜受容体分子のリガンド結合ドメインのみを含む切頭した膜受容体分子であってもかまわない。「受容体」はリガンドタンパク質であってもよく、該リガンドタンパク質は溶液中の膜受容体分子の可溶性の細胞外ドメインと結合可能である。さらに、受容体はサンプル中の抗原に対して抗体として機能する膜タンパク質又は膜ペプチドであってもよい。逆に、受容体はサンプル中に存在する抗原に対して抗体として機能する膜タンパク質又はペプチドであってもかまわない。制約のない実施例としてではあるが、多重に固定化されたポリペプチドを有するアフィニティクロマトグラフィの基質、又は可溶性基質に結合した単離細胞膜画分、又はインタクト細胞は、本発明によって包含される受容体を含む表面の実施形態である。
【0032】
一般的に、「受容体担体」という用語は複数の受容体分子を運搬する物質について言及し、受容体はサンプル中のリガンド分子と相互作用可能である。上記で定めた生体表面は受容体担体の1つの形状である。
【0033】
一般的に、「リガンド」という用語は、準備された又は自然発生するサンプル中に存在するタンパク質、ポリペプチド、ペプチド、核酸、代謝産物及び副産物、有機分子又は無機分子である。例えば、好ましくは実験環境又は工業環境中の公知のポリペプチドの混合物は、自然発生する生体液又は生体物質の抽出物と同様に、「リガンド」の源として本明細書中に包含される。機能的観点から、「リガンド」は、人工的な又は自然発生的な生体表面上の受容体分子の1以上の部位と結合可能な分子である。「リガンド」は、成長因子、サイトカイン、受容体の可溶性の細胞外ドメイン、可溶性ポリペプチド、又は生体表面上に固定された別のポリペプチド又はタンパク質と結合可能な有機体中の他の分子であっても良い。制約のない実施例として、タンパク質、ペプチド、糖類/炭水化物、脂質、ステロイド又はステロイドホルモン、核酸は、本発明によって包含されるリガンドの実施形態である。
【0034】
サンプル中にあるとされる想定上のリガンドをプロファイリングするために、当業者は「受容体」及び「リガンド」という用語が公知の生理的機能を有する又は有さないということを理解するであろう。
【0035】
一般的に、「バイオマーカ」という用語はある特徴又は特徴の組み合わせについて言及するものである。該特徴は通常の生物学的工程、発病過程、又は治療的介入に対する薬理反応として客観的に測定及び評価可能である。
【0036】
「有機体」という用語は単細胞の有機体又は多細胞の有機体について言及し、該多細胞の有機体とは植物種、動物、又はヒトである。動物については、多細胞の有機体とは無脊椎動物又は脊椎動物であってもよい。典型的には、多細胞の有機体は以下からなる群から選択される。すなわち、ウシ、ニワトリ、シチメンチョウ、マウス、アルガリ、ラット、イノシシ(一般的には昆虫、ぜん虫、魚、マウス、ラット、犬、猫、乳牛、山羊、ニワトリ、ブタ)及びヒトである。
【0037】
一般的に、「生体液」という用語は、本発明に記載されたリガンドとして生物学的に関連した分子(タンパク質、ペプチド、核酸、ステロイド又はステロイドホルモン、糖類/又は炭水化物、脂質、他の小さな分子を含むが、これらに限定されるものではない)を含む又は含むと思われるすべての流体について言及するものである。生体液は公知又は未知の多重リガンドを含む溶液、又は公知又は未知の多重リガンドを含む混合物であってもかまわない。生体液の典型的な実施例は以下から選択される体液を含む。すなわち、血液、血漿、血清、溶血血液、脊髄液、尿、リンパ液、滑液、唾液、精液、糞便、痰、脳脊髄液、涙、粘液、羊水、涙液、嚢胞液、汗腺分泌物、胆汁、乳などである。「生体液」の追加的な実施例は、細胞、組織、細菌、又はウィルスから獲得された溶解物と同様に、培養細胞、培養組織、培養細菌、及び培養ウィルスの培地上清を含む。細胞及び組織は上記の任意の単細胞又は多細胞に由来することもある。
【0038】
一般的に、「サンプル」という用語はすべての生物学的標本又は生物学的種の誘導体について言及する。該生物学的種の誘導体は本発明に記載のリガンドとして生物学的に関連した分子(タンパク質、ペプチド、核酸、ステロイド、又はステロイドホルモン、糖類、脂質、他の小さな分子を含むが、これらに限定されるわけではない)を含む又は含むと思われる。標本は公知又は未知の多重リガンド、あるいは公知又は未知の多重リガンドを含む混合物を有することもある。標本は生体液;植物、菌類、動物又はヒト由来の組織;細菌、植物、菌類、動物又はヒト由来の細胞;ウィルス及び他の微生物;溶解物;上記生物学的標本の画分又は誘導体;又は、上記の生物学的標本を含む自然発生的な物質(水、土壌、空気など)であってもよい。
【0039】
一般的に、「分析方法」は、本発明を用いて濃縮されたリガンド分子を同定し、数量化し、識別し、又は特徴付けるために用いられるすべての実験的手法及び手順について言及するものである。分析方法は、ほんの一例として、液体クロマトグラフィ、ガス・クロマトグラフィ、ゲル電気泳動、質量分析法(MS)、濃度測定、比色分析法、分光分析法、磁気エネルギ放射、核磁気共鳴(NMR)、及びこれらの組み合わせを含む。未知の小さな有機分子であるリガンドを分析するために、様々なクロマトグラフィ方法などの分析化学で用いられる従来の方法を用いて、各個別要素を分離するとともに単離し、MS、NMR、元素分析、IR、UV/Visなどの組み合わせによって各個別要素を分析することが可能である。
【0040】
一般的に、プロテオミクス法とは、本発明を用いて濃縮されたタンパク質及びペプチドを同定し、数量化し、識別し、又は特徴付けるために用いられるすべての実験的手法及び手順について言及するものである。プロテオミクス法の中には、Current Protocols in Protein Sciences, 2007, by John Wiley and Sons, Inc. に記載されているものもある。プロテオミクス法は1次元ゲル電気泳動(1−D GE)及び染色法、2次元ゲル電気泳動(2−D GE)及び染色法、2次元ディファレンスゲル内電気泳動(2−D DIGE)、キャピラリー電気泳動法(CE)、ウェスタンブロット分析、ELISA、タンパク質マイクロアレイ、逆相タンパク質マイクロアレイ、液体クロマトグラフィ、質量分析法、同位体コード・アフィニティー・タグ法(ICAT)、相対及び絶対定量用同重体タグ(iTRAQ)、細胞培養液中のアミノ酸を用いた安定同位体標識法(SILAC)表面増強レーザ脱離イオン化飛行時間質量分析法(SELDI−ToF)、及びこれらの組み合わせを、ほんの一例として備える。
【0041】
受容体を用いることにより濃縮されたリガンドサンプルを提供するための、生体サンプルから生物学的リガンドを選択的に濃縮する方法が以下に記載される。本発明によれば、濃縮されたサンプルはリガンドのプロファイルに役立つ。該リガンドは元の生体サンプル中に存在するとともに前記担体上の受容体に特有である。リガンドプロファイリングは、先の段落に記載されていたような任意の公知の分析方法又はプロテオミクス法を用いることによって実行される。リガンドプロファイル情報は、ほんの一例として、様々な病気、病期及び病気の進行のバイオマーカ及び薬剤スクリーニングのバイオマーカを同定する多様な用途に用いられる。
【0042】
リガンド−受容体の相互作用が多細胞有機体における信号伝達にとって必須であることは周知である。多細胞の有機体にとって、外部信号は1以上のリガンド分子の形状であり、該リガンド分子は有機体全体を通って有機体の体液により運搬される。リガンド又は複数のリガンドが対応する受容体又は複数の受容体を有する標的細胞によって捕捉されると、特徴的な細胞活動が外部信号に反応して行われる。ヒトのような複合的な多細胞有機体では、任意の生理反応又は病的反応は、標的細胞上の各受容体に結合することを通して無数のリガンドによって組織化されやすい。往々にして、これらリガンドは特定の病気又は病変のバイオマーカの特徴として機能する。生体リガンドは、生体液中に存在する担体タンパク質など比較的含有量が豊富な他の共通タンパク質と比較すると、基本的にはごく少量で存在する。したがって、これらリガンドの選択的濃縮及びその後の同定は、細胞の機能及び調節への理解を大いに高めることになる。一例として、関節中にある様々な細胞の滑液中のリガンドを同定することにより、関節炎の新しい治療法及び正確な診断のバイオマーカの考案に新しい重要な情報が生物学者にもたらされることもある。
【0043】
多くのプロテオミクス技術はハイスループット解析の影響を受けやすいため(質量分析法を併用する2次元ゲル電気泳動法など)、生体サンプルから選択的に濃縮した低含量リガンドを上記解析にかけると、リガンドの相対量、及び物理的又は生化学的特性に従って、生体サンプル中に存在する上記リガンドのプロファイルが可能となる。例えば、病態のサンプルと非病態のサンプル間のリガンドプロファイルを比較することにより、治療標的又は診断バイオマーカとして役立つ病気に関連したリガンドを容易に同定する。
【0044】
本発明は1つの又は複数の受容体担体を用いて生体サンプル中に存在する適切なリガンドを選択的に濃縮するための方法を提供し、各受容体担体は表面上に複数の受容体を備える。1つの様態において、この方法は生体液を一定時間、受容体担体又は複数の受容体担体に暴露する段階を備え、これによって生体液中に存在する適切なリガンドが受容体担体又は担体の生体表面上でそれぞれの受容体と結合する。この方法はさらに、リガンド/受容体の結合後に残りの生体液から受容体担体又は担体を除去する段階と、リガンドの溶出溶液を用いて受容体担体又は担体から受容体と結合したリガンドを解離させる段階と、及び、濃縮されたリガンドを含む液体を受容体担体又は担体から分離させることにより、濃縮されたリガンドサンプルを得る段階を備える。
【0045】
受容体担体又は担体はその表面の少なくとも一部が生体表面である物質又は物体であってもよい。受容体担体又は担体は、細胞、細胞小器官、複数の受容体を備える膜を備える小嚢、又は複数の受容体を備える生体表面を備える人工的な固形物質であってもかまわない。受容体担体又は担体は液体の吸引又は遠心分離などの任意の公知技術によって液体から容易に分離されてもよい。図1はほんの一例として、本発明のリガンド濃縮工程を例証したものである。
【0046】
本発明のある実施形態において、各受容体担体は公知の特性を有する細胞、公知の組織の特性を有する細胞、又は公知の種の特性を有する細胞である。好ましくは、受容体担体は公知の特性を有する細胞、又は公知の組織の特性を有する細胞である。受容体がリガンド分子を結合させることが可能な限り、細胞は生細胞、アポトーシス細胞、又は死細胞、又は固定細胞であってもよい。細胞は原核性又は真核性であってもよい。細胞は、ほんの一例として、動物細胞、植物細胞、細菌体、酵母細胞、又は真菌細胞であってもよい。細胞が動物に由来するものであれば、任意の脊椎動物又は任意の無脊椎動物からの細胞であってもよい。脊椎動物の実施例は、ヒト、マウス、ラット、ブタ、ウシ、サル、ウサギ、ニワトリなどを含むが、これらに限定されるものではない。無脊椎動物の実施例は、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、ぜん虫などを含むが、これらに限定されるものではない。細胞はほんの一例として、ヒーラ、PC3、COS細胞などの接着細胞であってもよく、又はJurkat、HL−60細胞などの懸濁細胞であってもよい。細胞はほんの一例として、一次細胞タイプ又は不死化細胞タイプに属する。
【0047】
本発明のある実施形態において、各受容体担体は表面上に少なくとも1つの受容体を発現させるよう遺伝子が組み込まれた細胞である。該受容体は細胞の表面上の所望の量に対して自然には発現されない。受容体と結合するリガンドの効率的な濃縮が可能となるほどの、多くの受容体が発現されるわけでもなく、又は十分な量が発現されるわけでもない。細胞表面上にある受容体が外因性で発現することにより、組み換え細胞がリガンドを選択的に濃縮することが可能になる。例えば、ヒーラ細胞は通常、ヒト神経成長因子(hNGF)の受容体の表面発現に乏しい(Grob et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1983 Nov 15 80 (22):6819-6823)。結果として、hNGFはヒーラ細胞を用いては濃縮することができない。ヒーラ細胞表面上で大量のhNGF受容体を発現させるベクターでヒーラ細胞を安定的にトランスフェクションすることにより、ヒーラ細胞のリガンド濃縮能力はhNGFにも拡大可能である。
【0048】
本発明の他の実施形態において、受容体担体は様々な細胞型の混合物である。細胞の各型は表面上で様々な受容体を発現させる。受容体担体として様々な型の細胞をプールすると、1以上の細胞型に存在する十分な量の所望の受容体が1つの生体サンプルの多様なリガンドを濃縮する可能性が高まる。例えば、ヒーラ細胞は、血小板由来成長因子(PDGF)を最低限量発現させるとともに上皮細胞増殖因子(EGF)を大量に発現させる。その一方で、NIH3T3細胞はEGF受容体を最低限量発現させるとともにPDFG受容体を大量に発現させる。ヒーラ細胞及びNIH3T3細胞の双方を受容体担体としてプールすることにより、EGF及びPDFGは所定の生体サンプルから効率的に濃縮されることが可能である。
【0049】
本発明の他の実施形態において、1以上の哺乳類発現ベクター中の複数の受容体遺伝子が細胞に導入されることにより、細胞表面上の対応する受容体が外因性で発現することが可能となる。これにより組み替え遺伝子が各々のリガンドを濃縮することが可能となる。受容体遺伝子は2以上の受容体遺伝子から受容体遺伝子ライブラリまで多岐に渡る。該受容体遺伝子ライブラリはすべてではないにせよほとんどの受容体をエンコードし、そのリガンドは所望である。例えば、ヒーラ細胞は通常はヒト神経成長因子(hHGF)の受容体の細胞表面発現に乏しく(Grob et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 1983 Nov 15 80 (22):6819-6823)、インターロイキン−6(IL−6、Hess et al. J. Immunology, 2000, 165: 1939-1948)の受容体の細胞表面発現は極めて少ない。hNGF受容体及びIL−6受容体を発現させるベクターでヒーラ細胞集団を安定的にトランスフェクションすることにより、ヒーラ細胞を濃縮するリガンドの能力はhNGF及びIL−6にも及ぶように拡大可能である。さらに、公知の細胞表面受容体の分画又はすべてを集団で発現させる発現ベクターのライブラリを用いてヒーラ細胞又は任意の他の細胞型に該ベクターをトランスフェクションすることによって、リガンドの濃縮能力を拡大することができる。受容体の全体の目録は、Izhar, B., et al. Sci. STKE 2003 (187) の9ページ目、及び、付録Aで見ることができる。
【0050】
受容体遺伝子はプラスミドベクターに配されたり又はウィルスゲノムに組み込まれたりすることが可能である。受容体遺伝子はレトロウィルス感染症又はレンチウィルス感染症などのトランスフェクションウィルス感染症によって受容体担体として細胞に導入されることが可能である。
【0051】
本発明の他の実施形態において、各受容体担体は細胞小器官の表面上に複数の受容体を備える細胞小器官である。細胞小器官は細胞核、小胞体、ゴルジ体、ミトコンドリア、リソソーム、エンドソーム、ペルオキシソーム、葉緑体、シナプス小胞、クラスリン被覆小胞、メラノソーム、大量の細胞顆粒、又はCurrent Protocols in Cell Biology, 2005 by John Wiley and Sons. に記載の他の任意の細胞小器官であってもよい。標的細胞小器官は、Current Protocols in Cell Biology, 2005 by John Wiley and Sons. に記載の方法に従って又は他のところに単離されてもよい。Sigma (St. Louis, Missouri) 及びBiovision(Mountain View, CA)は特定の細胞小器官を単離させるすぐに使用可能なキットを販売している。異なる細胞からプールされた同じ細胞小器官を用いて濃縮されたリガンドのスペクトルを増加させることが可能である。
【0052】
本発明の他の実施形態において、各受容体担体は細胞小器官であって、該細胞小器官は細胞小器官の表面上の生体液中に存在する適切なリガンドと結合可能な複数の受容体を備える。受容体の少なくとも一部は細胞に人為的に導入された外因性の発現ベクターから発現する。この実施形態において、細胞小器官は外因性の受容体を発現させるよう遺伝的に組み換えられた細胞から作られ、外因性の受容体の少なくとも一部は細胞小器官の表面上に配される。
【0053】
本発明の他の実施形態において、受容体担体は小嚢からなる。細胞膜又は細胞小器官膜の内部表面が小嚢の外部表面となるように、該小嚢の膜は外翻した細胞膜又は外翻した細胞小器官膜でできている。細胞膜又は細胞小器官膜の内部表面上の多くのタンパク質は、細胞膜又は細胞小器官膜の外部表面上で結合するリガンド/受容体によって発生した信号を信号伝達工程中に細胞質又は細胞小器官の内部に伝達することに関与している(Philips MR, Biochem Soc Trans. 2005 Aug; 33(pt 4): 657-61)。真核細胞または原核細胞の外翻した原形質膜から小嚢を作る方法が以下の文献に記載されている。すなわち、van der Meulen JA et al. Biochem Biophys Acta. 1981 May 20; 643(3):601-15; Kinoshita T et al. J Cell Biol. 1979 Sep; 82(3): 688-96; Kalish DI et al. Biochem Biophys Acta. 1978 Jan 4; 506(1): 97-110; Jacobson BS et al. Biochim Biophys Acta. 1978 Jan 4; 506(1): 81-96; Cohen CM et al. J Cell Biol. 1977 Oct; 75(1): 119-34; Lange Y et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1977 Apr; 74(4): 1538-42; Jascobson BS et al. Science. 1977 Jan 21; 195(4275): 302-4; Harford et. al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1981 Mar; 78(3): 1557-61; HouY., et al. J Biol Chem. 2000 Jul 7; 275(27): 20280-7; Scarborough GA, Methods Enzymol 1989; 174: 667-76. である。異なる細胞からプールされた同一の外翻した細胞膜又は細胞小器官膜を用いて、濃縮されたリガンドのスペクトルを増やすことが可能である。
【0054】
本発明の他の実施形態において、各受容体担体は、外翻した細胞膜又は外翻した細胞小器官膜である。該外翻した細胞膜又は外翻した細胞小器官膜は、外翻した膜の表面上にある生体液中に存在する適切なリガンドと結合可能な複数の受容体を備え、少なくとも1つの受容体が細胞に人為的に導入された外因性発現ベクターから発現される。この実施形態において、外翻された膜は外因性の受容体を発現させるために遺伝的に組み替えられた細胞から作られ、少なくとも1つの外因性の受容体が外翻した膜の表面上に配される。
【0055】
本発明の他の実施形態において、受容体担体は膜を備える人為的に作られた小嚢であって、該小嚢は複数の受容体を備える。この種の受容体担体は、所望の受容体分子の存在下でリポゾームなどの人工的な小嚢を作りだす一般的な技術(Zawada Z. Cell Mol Biol Lett. 2004; 9(4A): 603-15)を用いることによって形成可能である。
【0056】
本発明の他の実施形態において、各受容体担体は表面を有する物質又は物体であって、少なくともその一部は生体サンプル中に存在する適切なリガンドと結合可能な複数の受容体で固定化される(図2)。その物質又は物体はタンパク質、ペプチド又は他の受容体分子を固定化可能な任意の物質から作られる。上記のような物質の実施例は、プラスチック、シリコン、ナイロン、金属、紙、アガロース、ラテックス、又はこれらの組み合わせ、又はタンパク質及び他の受容体分子の固定化を促進する機能性表面を有する生体表面と列挙される他の物質を含むが、これらに限定されるものではない。物質又は物体の物理的形状は、膜、ビーズ、ファイバ、ロッド、基質、多孔性構造体、粒子、チップ、ウェル、小瓶、又は同様の容器などでもかまわない。受容体は濃縮される標的リガンドを含む生体液以外の別の生体サンプルからのものであってもよい。他の生体サンプルはその内部の受容体が固定化に利用できるように処理されてもかまわない。細胞質中に存在するタンパク質などの水溶性のタンパク質はそれぞれの結合パートナーとの相互作用を介して機能性を発揮する。水溶性タンパク質の結合パートナーを単離させるために、水溶性タンパク質が固定化されるか又は適切な物質又は物体上に埋め込まれることにより、本発明の受容体担体が形成される。固定化工程は一般的には受容体の構成を変化させるほど粗すぎるものであってはならず、その場合はリガンド結合に悪影響を与えかねない。他方で、受容体の固定化は十分に堅固で、その結果、結合リガンドが溶出緩衝液で溶出する前に関連性のない分子が洗い流される際、受容体が固定されたままでなければならない。固定化された受容体と物質又は表面下の対象材料との関連性は、非共有結合性相互作用、共有結合、又はその組み合わせに起因する。タンパク質の機能性を保存するタンパク質の固定化方法はよく知られている。上記方法の実施例は、タンパク質の共有結合及びビオチン化タンパク質のストレプトアビジン上での固定(Ruiz-Taylor et al. PNAS 2001, 98:852-857; Ruiz-Taylor et al. 2001)、活性アミノ基によって官能化された表面へのタンパク質の共有結合(MacBeath G, Schreiber SL, Science 2000, 289:1760-1763; Zhu H., et al. nat Genet 2000, 26:283-289; Arenkov P et al. Anal Biochem 2000, 278:123-131)、
及び反応性アルデヒド基で官能化された表面上での酸化糖タンパク質の共有結合固定化である。リガンド分子の非特異的な吸収作用を最小化又は回避する一方で(Prime KL, et al. Science 1991, 252:1164-1167)、所望のリガンドの固定化を維持するように、物質又は物体の表面を設計する方法も同様に公知である。表面上にタンパク質を共有結合的に又は非共有結合的に固定化する他の実施例は以下の文献で見られる(Prime KL, et al. Science 1991, 252:1164-1167, Kenausis GL, et al. J Phys Chem. B 2000, 104:3298-3309, MacBeath, G. et al., J. Am. Chem. Soc. 1999, 121:7967-7968; Hergenrother, PJ et al. J. Am. Chem. Soc. 2000, 122:7849-7850; Falsey JR et al. Bioconjugate Chem 2001, 12:346-353; Houseman BT et al. Nat. Biotechnol. 2002, 20:270-274; Macbeath G et al. Science 2000, 289:1760-1763; Zhu H et al. Nat. Genet. 2000, 26:283-289; Wang D et al. Nat. Biocheminol. 2002, 20:275-280; and Sun X et al. Bioconjugate Chem. 2006, 17:52-57)。
【0057】
ある実施形態において、受容体担体の生体表面上に固定化された受容体は、受容体の細胞外タンパク質又は細胞外ドメインからなる。大部分の受容体の細胞外ドメインはリガンド結合に関与するとともに、通常は水溶液に溶解する。固定化は共有結合又は非共有結合を通して行われる。受容体の細胞外タンパク質及び細胞外ドメインは、細胞表面からタンパク質を放出するプロテアーゼ(トリプシン及び他の適切な酵素など)によって細胞表面のタンパク質を切断することで作られる。例えば、プロテアーゼTACEは細胞膜からTNFαの細胞外ドメインを特異的に放出するシェダーゼとして作用する。当業者はタンパク質の切断のための1以上の適切なプロテアーゼ又は他の酵素を容易に選択するであろう。様々なプロテアーゼがBarret, A. J., Rawling, N.D. & Woessner, J.F. Handbook of Proteolytic Enzyme 2nd Edn (Academic Press, San Diego, 2004、及び、Puente X. et al, Nature Genetics 4:544-558, 2003に記載されている。
【0058】
好ましくは、受容体の細胞外ドメインはその生体表面と共有的に結合する。上記の方法において、様々な溶出条件を用いることにより、リガンドが結合する受容体の細胞外ドメインからリガンド分子を確実に解離させるとともに、本発明の溶出段階の間、リガンド分子の回復を完了させることが可能である。
【0059】
受容体の細胞外タンパク質及び細胞外ドメインからなる受容体単体は、1つの細胞株、又は複数の細胞株、又は1つの型の細胞又は複数の型の細胞からもたらされる。複数の型の細胞からの受容体の細胞外タンパク質又は細胞外ドメインを含むプールされた受容体担体は、受容体をより広範に切断し、したがって、リガンドをより広範に濃縮することが可能である。
【0060】
他の実施形態において、受容体担体は、可溶性の分泌タンパク質、又は従来リガンドポリペプチドと呼ばれたものからなる。可溶性の分泌タンパク質は成長因子、サイトカイン、及びケモカイン(付録B参照)を有する。特定の受容体の細胞外ドメインは細胞シェダーゼによって細胞膜から放出され、生体液中に至る。さらに、受容体の細胞外ドメインは様々な他の自然な生理学的、病理学、生態学的事象(例えば、アポトーシス、壊死、腫瘍の成長、及び転移)によって生体液中に放出される。生体液中の受容体の細胞外ドメインは対応するリガンドと結合し、したがって細胞外ドメインは対応する固定化されたリガンドによって濃縮可能である。この種の受容体担体を用いることによって、初期の診断で発見するために、癌細胞から血清又は他の生体液に脱離した受容体の細胞外ドメインを濃縮することが可能である。固定化に用いられる分泌タンパク質は自然発生的な完全な又は部分的なリガンドポリペプチドであって、該リガンドポリペプチドは受容体又はその混合物と結合可能である。あるいは、固定化に用いられる分泌タンパク質は、人為的に生成された完全な又は部分的なリガンドポリペプチドであって、該リガンドポリペプチドは受容体又はその混合物と結合可能である。細胞幅の可溶性の分泌タンパク質を作るために、まず、ポリA RNAを分泌タンパク質が翻訳される標的細胞の膜結合型リボソームから単離させる。細胞分泌タンパク質は試験管内翻訳を行うことによって獲得可能であり、該試験管内翻訳には分泌タンパク質用に濃縮された獲得済みのポリA RNAを用いる。上記のような方法は、Diehn M. et al, Nature Genetics 2000, 25:58-62 に記載されている。分泌タンパク質はリガンドポリペプチド又は受容体であってもよい。しかしながら、受容体分子は水溶液に溶けにくい傾向がある。したがって、試験管内翻訳の後に可溶性の分泌タンパク質を獲得することによって、標的細胞からリガンドポリペプチドが獲得され、受容体担体に由来する生体表面上での固定化がさらに促進されることになる。
【0061】
本発明のさらなる他の実施形態において、受容体担体は中空ファイバ、ゲル、又は組織などの多孔質物質などの基質に固定されている。固定された受容体担体は適切なサンプル中に存在する各々のリガンドと相互に作用することが可能である。本発明の好適な実施形態において、固定された受容体担体は組織基質内の細胞であり、該組織は固定されることもあれば固定されないこともある。この組織が本発明の目的にかなうためには、この組織は、細胞膜又は組織基質と緩く結合した任意の細胞外を自由に流動するタンパク質又は細胞外タンパク質を除去する又は固定する処置を行う必要がある。この結果、上記タンパク質がその後のリガンド濃縮工程に干渉しないようになる。前処理は組織を適切な緩衝剤で広範囲に洗浄することを含むか又は適切な固化剤で組織を固定させることを含む。組織が1つの器官の場合、洗浄、リガンド分子の運搬、及び溶出には、かん流が用いられることもある。
【0062】
本発明の適切なサンプルは一般的にはリガンドを備える又は備えると考えられている均一な溶液である。リガンドは自然の形状、又はビオチン化されるなどの化学修飾された形状、又は安定同位体、放射性同位体、又は蛍光色素などで標識されてもよい。生体サンプルが均質で適切な濃度であれば、そのままでも適している。生体サンプルが適するものとなる前に前処理が施されることもある。典型的なサンプルの前処理とは、サンプルを均質化すること、ろ過、遠心分離などの公知の方法を介してサンプルから任意の不溶性物質を除去すること、及び/又は公知の方法を介して適切に希釈又は濃縮することを含む。例えば、組織サンプルは均質化されたり、膜ろ過されたり、又は不溶性物質を除去するために濃縮されるとともに適切なサンプルを得るために適正に希釈されたりしてもよい。また、血液サンプルは血球を除去するために濃縮されたり、その後、適切なサンプルをもたらす適正な希釈が行われたりしてもよい。
【0063】
生体サンプルの典型的な実施例は、血液、血漿、血清、溶血血液、脊髄液、尿、リンパ液、滑液、唾液、精液、羊水、涙液、嚢胞液、汗腺分泌液、及び胆汁などの体液を含む。生体サンプルのさらなる実施例は、細胞、細菌、又はウィルスなどの特定の部分又は全体から獲得された培地の浮遊物及び溶解物だけでなく、組織、培養細胞、細菌、及びウィルスを備える。
【0064】
適切なサンプルがもたらされると、該サンプルは複数の受容体担体を有する管内で複数の受容体担体を用いて一定の十分な時間、インキュベートされる。これにより、サンプル中に存在するリガンドが受容体担体上の受容体と結合する。典型的な培養時間は、10分程度から2時間程度である。培養温度は好ましくは4度から37度付近である。生体サンプル中の非リガンドタンパク質が受容体担体の表面に非特異的に結合するのを最小限に抑えるために、BSA又はIgG又は他の公知のタンパク質を適切な量(例えば1−10mg/mL)含むブロッキング溶液を、約4度から37度の温度で30分から2時間程度、受容体担体を用いて任意で培養してもかまわない。ブロッキング溶液はその後受容体担体から除去される。BSA、IgGは関連性のないタンパク質としてさらに導入されるが、BSA、IgGはその公知の特性及び公知の物理的かつ生化学的な特性ゆえに、下流分析中の他のリガンドと容易に区別され得るとともに、相補的な分子(抗BSA、又は抗IgG)によって除去可能である。受容体担体によって濃縮が行われる前の生体サンプル中のリガンド分子を標識化すると、標識分子が不足するので、ブロッキングタンパク質(BSA及びIgG)による下流分析中の干渉が排除される。受容体担体はその後上記の適切なサンプルで培養される。
【0065】
リガンドがひとたび受容体と十分に結合すると、固体又は半固体から液体を分離させるために用いられる任意の公知の手順を用いて、残りのサンプルはリガンドと接続する受容体担体から分離される。上記方法の実施例は、固体−液体混合物の遠心分離及びバキューム装置を用いた液体段階での吸引を備える。任意で又は好ましくは、分離された受容体担体はさらにPBS緩衝剤又は他の溶液を用いて1度以上洗浄される。該他の溶液は、残った非リガンドタンパク質又は受容体担体と結合する他の成分を除去するためにリガンド/受容体結合を分離するものではない。
【0066】
好ましくは、受容体担体は細胞である。より好ましくは、受容体担体は生細胞である。生細胞は表面上に多様な機能的な受容体を有するものと予測され、したがって、適切なサンプル中に存在する生物学的に関連したリガンドの大部分を補足する可能性が高い。様々な方法を用いて生細胞の受容体担体のリガンド結合能力を最大限化することが可能である。ある方法では、適切なサンプルで培養する前に細胞を飢餓状態に置く。これによって、細胞培養で用いられる血清中に存在する同様のリガンドの占有に起因して、受容体が適切なサンプル中のリガンドと接近できずに結合できなくなる事態を回避する。好ましくは、細胞は適切なサンプルを用いて培養する前に、無血清培地又は血清の少ない培地で1時間から一晩程度、飢餓状態に置く。好ましくは、受容体担体と適切なサンプルを混合させる前に、細胞の任意の培養地は適切な方法を用いて除去及び洗浄される。接着細胞の場合、培地は吸引によって除去されることもある。懸濁液中の細胞の場合、培地は遠心分離によって除去されることもある。
【0067】
生細胞などの受容体担体及び適切なサンプルのインキュベートは、受容体の内在化を最小に留めるために4度程度の低温で行われるのが好ましい(PNAS 89 2854-2858, 1992; Am. J Physiol 129, F46-F52)。4度での一般的な時間は10分から2時間程度である。インキュベーションの後、リガンドと結合した細胞は、遠心分離(浮遊状態の細胞の)又は液体段階(接着細胞の)での吸引のどちらかを用いて残余サンプルから分離される。任意で又は好ましくは、分離した細胞はPBS緩衝剤などのほぼ生理学的なpHをした適切な緩衝剤を用いて1度以上洗浄されることにより、受容体担体と結合する残余非リガンドタンパク質を除去する。
【0068】
受容体担体と結合するリガンドは次に、リガンドが溶出した溶液中のリガンド結合した受容体を適温で(4度から37度程度)、十分な時間(5分から30分程度)インキュベートすることによって、受容体から解離する。リガンドと受容体は通常、疎水性相互作用(ファンデルワールス相互作用)、水素結合、静電相互作用、又はこれらの組み合わせなどの物理的相互作用によって結合される。一般的に、物理的相互作用にかかる力が最大になるのは、受容体−リガンド複合体が生理的pH及びイオン強度を有する水性緩衝液中にあるときである。したがって、pH、又はイオン強度、又はその両方が生理的状態から逸脱すると、リガンド−受容体の結合は弱められる。加えて、カオトロープと呼ばれる特定の物質は、受容体とリガンド間の物理的な相互作用を弱めるために共通して用いられる。適切な溶出溶液を的確に選択できるかどうかは、リガンドと受容体の相互作用の特質次第である。
【0069】
一般的に、本発明に適した溶出溶液は、リガンド構造に化学的に損傷を与えることなくリガンド−受容体の相互作用を弱めることが可能なものである。適切な溶出溶液は受容体担体から受容体を抽出しないほうが好ましい。一般的には、適切な溶出溶液は、生理的pH(pH2.5−3、またはpH9.5−11.5)とは実質的に異なるpHを有する緩衝剤である。さらに一般的には、適切な溶出溶液はカオトロープ剤を備える、pH2.5−3、又はpH9.5−11である。受容体が細胞である場合、150mM程度の塩化ナトリウム等の追加塩も等浸透圧状態で細胞を維持するための溶出溶液の構成要素の1つである。当業者は適切な溶出溶液を容易に導き出すであろう。細胞に基づいた受容体担体の溶出溶液の1つの実施例は、50−100mMのグリシン及び150mMの塩化ナトリウムを備えるpH2.5−3.0の緩衝剤である。この緩衝剤は、タンパク質構造に永久に影響を与えることなく、大部分のタンパク質−タンパク質相互作用を分離する。表1はリガンド溶出溶液の実施例を列挙している。実施例の中には、受容体担体として生細胞からリガンドを溶出するために適したものもある。
【0070】
【表1】

【0071】
受容体からのリガンドの解離に続いて、溶出したリガンドを含む溶出溶液は、ほんの一例として、遠心分離、ピペット操作、吸引などの適切な手段を用いて分離される。使用される溶出溶液が酸性又はアルカリ性のいずれかである場合、リガンドを備える分離した溶出溶液は濃縮アルカリ溶液又は濃縮酸性溶液のいずれかを用いて速やかに中性にしてタンパク質の分解を防ぐ必要がある。例えば、pH2.5−3の溶出溶液がリガンドの解離に用いられる場合、1MのpH8.5のトリス緩衝液又はヘペス緩衝剤を用いて溶出されたリガンド溶液を中性にする。他方で高塩濃度を備える溶出溶液が用いられる場合、溶出したリガンド溶液は一般的に透析を介して脱塩されることによって、例えばタンパク質の沈殿を防ぐ。必要とあれば、膜ろ過、スピードバック(Speed-Vac)及び凍結乾燥を用いる蒸発、又はタンパク質沈殿など任意の適切な公知の濃縮方法を利用することにより、分離した溶出溶液は少量に濃縮される。
【0072】
受容体が担体と共有結合していない細胞又は細胞小器官などの受容体担体は、溶出段階中に受容体分子又は他のタンパク質、ペプチド分子又は非タンパク質/ペプチド分子を受容体担体から取り除く。このようにして、受容体担体から取り除かれた分子は濃縮されたリガンド分子が存在する溶出したサンプルに不要な異質分子を導入する。生体サンプルから濃縮された分子と、受容体担体から取り除かれた又はブロッキング工程によって導入された異質分子を区別するために、ある手法ではリガンド濃縮と結合する受容体担体にすべての分子を晒す前に、リガンド分子を含む生体サンプル中のすべての分子に標識分子を用いて標識化する。この手法によってリガンド分子を濃縮した後、回復したリガンド分子は上記のプロテオミクス方法及び分析化学方法などの様々な分離方法によって分離可能であるとともに、標識の存在を検知することにより特異的に同定可能である。受容体担体又はブロッキング溶液から取り除かれた異質分子は標識の存在を欠くために、検出不可能である。
【0073】
標識化された濃縮リガンド分子をプロファイリングするとともに検出する方法では、まず1次元又は2次元電気泳動を通してリガンド分子を分離し、続いてニトロセルロース紙などの基質上にリガンド分子を移動させる。リガンド分子はその後、標識分子に対して相補的な分子によって直接的に(又は間接的に)検出される。
【0074】
標識分子はその相補的な分子によって直接的又は間接的に検出可能な任意の分子である。好ましくは、標識は小さな分子で、該小さな分子のリガンド分子への添加は、受容体担体上でのリガンド分子と受容体分子の結合の妨げにならない。直接的に検出される標識分子の実施例は、フルオレセイン、Alexa fluor dyes、Cy dyesなどの蛍光プローブ、及び、Handbook of Fluorescent Probes, Ninth edition by Richard P. Haugland などに記載される多くの他のプローブを備えるが、これらに限定されるものではない。相補的な分子により間接的に検出される標識分子の実施例は、ビオチン、フルオレセイン、又はジゴキシゲニンあるいはHandbook of Fluorescent Probes, Ninth edition by Richard P. Haugland などに記載される他のハプテンを備えるが、これらに限定されるものではない。ビオチンは商業的に利用され得る相補的な分子のアビジン、ストレプトアビジン、CaptAvidin及びNeutrAvidinによって検出可能である。フルオレセイン及びジゴキシゲニンは、商業的に利用され得る互いに特異的な相補的な分子によって検出可能である。ビオチン及び蛍光色素のような様々な標識のためのリガンド標識方法は、Handbook of Fluorescent Probes, Ninth edition by Richard P. Hauglandなどに記載され、又はMolecular Probes(Eugene, Oregon) 及びPierce(Rockford, IL)などのメーカーによって提供される。
【0075】
標識検出は検出分子を相補的な分子と直接的に結合させることによって行われる。検出分子は、発色基質、化学発光基質又は蛍光基質などの基質を蒸着させることが可能な蛍光分子又は酵素であってもよい。検出分子及び基質は、Handbook of Fluorescent Probes, Ninth edition by Richard P. Hauglandなどに記載されている。その実施例は、アビジン/ストレプトアビジンと結合したCy3(又はCy5)、アビジン/ストレプトアビジンと結合した西洋ワサビペルオキシターゼ(HRP)、アビジン/ストレプトアビジンと結合したアルカリホスホターゼ(AP)、抗FITC抗体と結合したCy3(又はCy5)、抗ジゴキシゲニン抗体と結合したHRP(又はAP)である。相補的な分子も、増幅を行うために、ビオチン又は他のハプテン(フルオレセインあるいはジゴキシゲニン等)のような分子を通して検出分子と間接的に結合可能である。酵素と結合したビオチン又はハプテンに対する抗体と結合した酵素が、その後、アビジン/ストレプトアビジン、アビジン−ハプテン・キメラなどの相補的な分子を検出するために用いられる。増幅を大きくするために、ビオチン及びアビジン/ストレプトアビジン又は他のハプテン(フルオレセイン、ジゴキシゲニン及びこれらの抗体)の多重的な層が構築され、続いて、これらの層が、酵素結合したアビジン/ストレプトアビジン又は酵素結合したビオチン、あるいはハプテン又はハプテンと結合した酵素に対する抗体と結合した酵素によって検出される。
【0076】
検出はその後、基質としての蛍光分子、基質としての発色分子、又は酵素のための基質としての化学発光分子のいずれかから開始される。Ausabel et al., eds., in the Current Protocol of Molecular Biology series of laboratory technique manuals. 1987-1997 Current-Protocols, 1994-1997 John Wiley and Sons, Inc を参照にされたい。今日に至るまで、KPL(Gaithersburg, MD)、Pierce(Rockford, IL)及び、Amesco(Solon, OH)などの多くの商業的メーカーが、標的分子のピコグラム以下、さらにはフェムトグラムの単位での検出が可能なHRP及びAPの基質を提供している。血清又は血漿サンプル中に存在するもっとも低含量なタンパク質の濃縮が1ミリリットル当たり数ピコグラムであることを考慮すると、理論上は、100uLの血清サンプル又は血漿サンプルが十分な量の低含量タンパク質に与えられることにより、該低含量タンパク質は大量生産されている基質によって検出される。しかしながら、高含量タンパク質の存在は低含量タンパク質が検出されるのを隠すことになる。本発明による高含量タンパク質の除去は低含量タンパク質が検出される可能性を劇的に高めるものである。というのも、リガンド分子の種類はプロテオームよりもずっと少なく、ほとんどの場合、低含量タンパク質に属するからである。
【0077】
濃縮されたリガンドサンプルは様々な用途に適している。そのような目的の1つは、特に所望のリガンドの分離である。この場合、濃縮されたリガンドサンプルは予備的な精製段階として機能する。他の目的は濃縮されたリガンドを用いてリガンドをプロファイリングすることである。該リガンドは、リガンド濃縮工程前に元サンプル中に存在するとともに、所望に選択された生理学的機能性に関連する。タンパク質のプロファイリングは、混合物内のタンパク質の含量、完全性、及び修飾状態の観点から見て、タンパク質混合物の「フィンガープリント」情報をもたらす。タンパク質プロファイリングに用いられる技術は、タンパク質の物理的及び生化学的な特徴に共通して基づく。物理的及び生化学的な特徴は分子量、等電点(PI)、及びタンパク質の疎水性/親水性を含むが、これらに限定されるものではない。
【0078】
濃縮されたリガンドサンプルのプロファイリングは、先に記載された分析法及びプロテオーム方法の任意の又は1つの組み合わせによって行われる。所望のリガンドがタンパク質又はペプチドの特性を有している場合、好適なプロファイリング方法は、先に記載のプロテオーム方法(例えば、1次元又は2次元ゲル電気泳動法、クロマトグラフィ、又は分子量、PI、疎水性/親水性、及び/又はCurrent Protocol in Protein Science, 2005 by John Wiley & Sonsに記載された他の方法)の任意又は1つの組み合わせである。好ましくは、プロファイリングは質量分析法とともに2次元ゲル電気泳動法を、及びウェスタンブロット法とともに1次元又は2次元ゲル電気泳動法を用いることにより実施される(図6参照)。他の適切なプロファイリング方法は、Lambert J. et al., Anal. Chem. 2005, 77, 3771-3788 で記載された表面増強レーザ脱離イオン化飛行時間質量分析法(SELDI−TOF MS)、液体クロマトグラフィ質量分析法(LC/MS)、及びキャピラリー電気泳動法(CE)−MSである。
【0079】
あるいは、2つのサンプル間又は複数のサンプル間での液体の違いは、2次元ディファレンシャルゲル電気泳動法中の2次元の微分を用いることで同定可能である(2−D DIGE)。この方法において、各濃縮されたリガンドサンプルはまず独自の標識で最小限及び共有結合的に標識化される。標識は独特の放射波長又は励起波長を有する蛍光標識が好ましい。2以上のサンプルからの標識化されたリガンドはその後ともに混合され、2−D DIGEによって分離にかけられる。異なる蛍光信号を備えるタンパク質スポットは、識別され、切り出され、消化され、及び最終的には質量分析法により同定される(van den Bergh G, Arckens L. 2004. Curr Opin Biotechnol. 15(1): 38-43; Baker MA et al., 2005. Proteomics. 5(4): 1003-12; Friedman DB et al., Proteomics. 4(3):793-811; Zhou G et al., 2002, Mol Cell Proteomics. 1(2): 117-24)。蛍光標識を直接検出する感度が十分でない場合、標識の信号増幅システムが上記のごとく実行される。しかしながら、異なるサンプルからの濃縮リガンドがともに混合及び分離された場合、各々が1つのサンプルを標識化する異なる標識が必要となる。これらの標識は対応する相補的な分子によってその後検出される。該相補的な分子は夫々特徴的な検出分子で標識化されている。増幅システムはローリング・サークル増幅システムであってもよい(Zhou H et al., Genome Biol. 204, 5(4): R28)。増幅システムを用いて2次元ゲル上でポリペプチドリガンドを分析するためには、ポリペプチドを2次元ゲルからニトロセルロース/ナイロン膜に移動させるとともに、ウェスタンブロット法によって標識化されたポリペプチドを検出するのが好ましい。
【0080】
当業者には容易に想到可能であるように、プロファイリング用途の濃縮されたリガンドサンプルは過剰な受容体又は受容体担体を用いることによって獲得されるのが好ましく、その結果、サンプル中の特定のリガンドの濃縮が利用可能な受容体の数によって制限されなくなる。受容体の量は、上記のごとく発現ベクターを細胞にトランスフェクションすることで大量の受容体を人為的に発現させることによって過剰に作成可能である。受容体担体の量は大量の受容体担体を用いることによって過剰に作ることが可能である。「過剰な状態」をもたらすために必要な受容体担体の量は、異なる量の受容体担体を用いて適切なサンプルを濃縮し、その後濃縮されたサンプルをプロファイリングすることによって決定される。サンプルのリガンドプロファイリングが使用された受容体担体の量とは無関係の場合、使用された受容体担体の量は過剰である。
【0081】
あるいは、比較的低濃度のサンプルを用いて、受容体または受容体担体が確実に過剰であるようにしてもよい。例えば、大量のリガンドを含むサンプルを倍数希釈で希釈することも可能である。希釈化の各段階は検査され、受容体の「過剰な状態」をもたらすために必要な希釈係数は、一定数の受容体担体を有するサンプルの希釈物を濃縮して、その後濃縮されたサンプルをプロファイリングすることによって決定される。サンプルのリガンドプロファイリングが使用された希釈係数に比例する場合、受容体担体の量は過剰となる。
【0082】
本発明に従って濃縮されたリガンドサンプルを用いたリガンドプロファイリングには、多くの実用的な用途がある。リガンドプロファイリングは、例えば、病的又は非病的な状態、あるいは「感情的な」状態などを含む所定の生理学的状態における任意の有機体のリガンドプロテオームを策定するために用いることも可能である。同じ生体液ながら異なる細胞に基づいた受容体担体から獲得された濃縮リガンドサンプルのリガンドプロファイリングを比較することによって、病気または生理学的機能に関連のある任意の欠落した受容体を容易に同定することができる。
【0083】
本発明のある実施形態において、本発明に従ったリガンドファイリングを用いることによって、特定の病気、病状のリガンドプロファインリングの特徴を示す病態を検出し、又は新しい病気又は病変に関連するバイオマーカあるいは新しい病気の標的を発見する。このような発見は往々にして「ディファレンシャルプロファイリング」と呼ばれる方法を用いる。該ディファレンシャルプロファイリングとは、特定の病気又は病状からの生体サンプルから得られたリガンドプロファイリングを、健康状態など対照群からのリガンドプロファイリングと比較することである。本発明を活用して検出される病態の実施例は、糖尿病、関節炎、コレステロール値の上昇(又は減少)、心臓病又は脳卒中などの循環器疾患、貧血(例えば、鎌状赤血球貧血)、癌、肝臓病(例えば、肝炎)、エイズ、腎臓病、組織破壊(例えば、心筋梗塞)、アルツハイマー病及びパーキンソン病などの神経変性疾患、牛海綿状脳症(BSE)などの感染性海綿状脳症(TSE)、多発性硬化症(MS)、アレルギー、蕁麻疹、アレルギー喘息及び老化などの自己免疫疾患を含むが、これらに限定されるわけではない。
【0084】
ある実施形態において、リガンドのディファレンシャルプロファイリングは、アテローム性動脈硬化症患者及び健康な個人からの血清又は血漿を生体サンプルとして、及び、内皮細胞を受容体担体として用いることによって行われる。アテローム性動脈硬化症患者及び健康な個人間で結果として生じたリガンドのディファレンシャルプロファイリングを用いることによって、アテローム性動脈硬化症を回避又は抑制する見込みのある新しい標的を導き出す。さらに、リガンドのディファレンシャルプロファイリングは受容体として平滑筋細胞を用い、健康な個人及び心臓発作前後の心臓発作患者からの血清サンプルのリガンドを比較することによって、心臓発作の早期検出のための新しいバイオマーカを同定することが可能である。
【0085】
リガンドのディファレンシャルプロファイリングは同様に肥満の回避及び治療のための新しい食欲抑制分子の同定にも応用可能である。視床下部が満腹制御中枢であることを考慮すれば、したがって、新しい食欲抑制分子を発見する手法の1つは視床下部の細胞を受容体担体として用いて、同じ個人の空腹状態及び満腹状態の血清及び血漿サンプル間のリガンドプロファイリングを比較することである。視床下部のリガンドの量は空腹状態よりも満腹状態時に増加し、該リガンドは食欲抑制分子の候補である。リガンドのディファレンシャルプロファイリングはさらに、受容体として視床下部の細胞を用いて肥満体及び正常体の個人の血清または血漿間で行われることによって、肥満の新しい治療手段として役立つ特異的に発現したリガンドを発見することが可能である。
【0086】
リガンドのディファレンシャルプロファイリングを応用して、初期の癌診断マーカを同定することも可能である。多くの癌細胞は制御不能な増殖を維持する自己分泌システムを発症させる。上記のような自己分泌システムにおいて、癌細胞はある増殖因子を分泌する。該増殖因子は通常の細胞には本来存在せず、同じ癌細胞上で受容体を刺激する。つまり、新しく分泌された増殖因子は初期癌の診断バイオマーカとして役立つことになる。このようなバイオマーカは、例えば、癌患者及び健康体な個人間の血清、又は癌細胞を受容体担体として用いて同じ患者の癌手術前後の血清などの生体液のディファレンシャルプロファイリングによって特定可能である。
【0087】
ディファレンシャルプロファイリングは同様にオーファン受容体の新規なリガンドを特定することにも応用可能である。これは所望のオーファン受容体のリガンドを含むと思われる生体液を2つの細胞集団(オーファン受容体を発現する細胞と発現しない細胞)の各々と接触させることによって実現され、2つの別々のリガンドプロファイルを得ることができる。細胞を発現するオーファン受容体のリガンドプロファイル中に存在し、オーファン受容体のヌル細胞のリガンドプロファイル中には存在しないリガンドは、オーファン受容体のリガンドである可能性がある。
【0088】
本発明のディファレンシャルリガンドの他の実施形態において、薬剤スクリーニング方法が提供され、該方法は、1)本発明に従って受容体を用いて薬剤候補が存在しない生体サンプルから濃縮された対照リガンドサンプルを作る段階と、2)段階1のように同じ受容体担体を用いて薬剤候補が存在する生体液から濃縮された標的リガンドサンプルを作る段階と、3)適切なプロファイリング方法を用いて濃縮された対照リガンドサンプルのプロファイルを決定する段階と、4)同じプロファイリング方法を用いて濃縮された標的リガンドサンプルのプロファイルを決定する段階と、及び、5)上記2つのプロファイルを比較して薬剤候補の効果を評価する段階を備える。
【0089】
本発明のディファレンシャルプロファイリングのさらなる他の実施形態において、治療評価効果方法が提供され、該方法は、1)本発明に従って受容体担体を用いて、治療前の患者の生体液から濃縮された対照リガンドサンプルを作る段階と、2)段階1のように同じ受容体担体を用いて、治療後の同じ患者の同じ種類の生体液から濃縮された治療リガンドサンプルを作る段階と、3)適切なプロファイリング方法を用いて濃縮された対照リガンドサンプルのプロファイルを決定する段階と、4)同じプロファイリング方法を用いて濃縮された治療リガンドサンプルのプロファイルを決定する段階と、及び、5)上記2つのプロファイルを比較するとともに各プロファイルと患者の治療結果との相互関係を示すことによって、治療の効果を評価するバイオマーカを同定する段階を備える。
【0090】
本発明のさらなる他の実施形態において、公知のリガンドプロファイルを有する生体液を用いて標的細胞上の受容体をプロファイリングする方法が提供される。この方法において、生体液はまず受容体担体として対照細胞を用いてプロファイルされることによって、対照リガンドプロファイルが生成される。該対照リガンドプロファイルは間接的に対照細胞の受容体プロファイルを次々と与える。同じ生体液はその後、受容体担体として標的細胞を用いてプロファイルされる。対照細胞及び標的細胞からのリガンドプロファイルが比較される。標的細胞によってもたらされたリガンドプロファイルから欠落した任意のリガンドは、標的細胞上の対応する受容体が検出できないほどの量であるか、または該受容体が欠けていることを示唆する。逆に、標的細胞によってもたらされたリガンドプロファイルからの追加された任意のリガンドは、標的細胞上の新しい受容体の存在を示唆する。この方法は、対照細胞(健康体の細胞など)の受容体プロファイルと異常細胞又は病態と関連する細胞の受容体プロファイルを比較することによって、病気又は病態の発見に応用される。
【0091】
<実施例1 ヒーラ細胞及びNIH3T3細胞を受容体担体として用いるヒト血清サンプルのリガンド濃縮>
10−cmの培養皿のヒーラ細胞又はNIH3T3細胞の密集単層が血清を含まない10mLのDMEM培養物でまず洗浄され、その後血清を含まない10mLのDMEM培養物で再度満たされる。続いて、組織培養インキュベータ内で1時間インキュベートする。インキュベート後、DMEM培養物が除去され、ヒーラ細胞が非常に冷たいPBSでもう一度洗浄される。その後、非常に冷たいPBS又はわずか4度のPBS中の2.5mg/LのIgG又は2−10mg/mLのBSAでインキュベータにおいて30分間インキュベートされることによって、リガンド濃縮のための「準備された」ヒーラ細胞又はNIH3T3が得られる。上記液体が除去された後、準備された細胞はPBS中で1:20又は1:50に希釈された2mLのヒト血清を用いてインキュベータで温度4度で30分間培養されることにより、リガンド−受容体結合が可能になる。液体はその後、吸引によってリガンドと結合した細胞から除去される。リガンドと結合した細胞は、残った非結合タンパク質及び非特定結合タンパク質を除去するためにPBSで1−3度洗浄される。リガンドと結合した細胞はその後、1.5mLの溶出緩衝液(50mLのグリシン、150mM又は500mMのNaCLの塩化ナトリウム)中において4度で10分間インキュベートされることにより、細胞膜からリガンドを解離させる。リガンドを含む溶出緩衝液はその後ヒーラ細胞又はNIH3T3細胞から除去され、残留ヒーラ細胞又はNIH3T3細胞を廃棄するために遠心分離機にかけられ、HEPESによってpH7.5に中和される。
【0092】
<実施例2 ヒーラ細胞を受容体担体として用いるEGF濃縮>
実施例1の記載に従って、スパイクした(spiked)組み換えEGFを有する100μLのヒト血清は、非常に冷たいPBSで2mLに希釈され(1:20の希釈)、リガンド濃縮の遮断薬としてIgGを用いて準備されたヒーラ細胞に加えられる。血清及び組み換えEGFを含まない非常に冷たい2mLのPBSが対照として同時に用いられる。500mMの塩化ナトリウム及び50mMのグリシンの溶液(pH3.0)がリガンド溶出に用いられる。
【0093】
以下のサンプルが濃縮工程中に獲得される。すなわち、1)血清及びスパイクEGFでインキュベートされたヒーラ細胞からの溶出リガンド(EnriSerumEGF)、2)PBSでインキュベートされたヒーラ細胞からの溶出溶液(対照)、3)ヒーラ細胞(SerumEGF)によるインキュベーション前及びヒーラ細胞による30分のインキュベーション後のスパイクEGF溶液を有する血清の1:20希釈物である(PostSerumEGF)。血清の1:10希釈物は、実験に用いない血清中に存在するEGFの濃度の量を計るために用いられる。上記サンプルの各々からの100μLの溶液は、ヒトEGF酵素免疫測定法(ELISA)開発キットを用いて各サンプル中に存在するEGFの濃度を定量化するために使用される。各サンプル中のEGFの全体量は、由来する濃度及び各サンプルの全体積に基づいて計算される。各サンプル中の全体のタンパク質の濃度は、Quant−iTタンパク質測定キット(Invitrogen, CA)により定量化される。溶出リガンドサンプル中に存在するIgGの量は、ゲル電気泳動法、その後のLumitein(Biotium, CA)を用いたタンパク染料によって推定される。回復したリガンドタンパク質の濃度は、全体のタンパク質の濃度から溶出リガンドサンプル中のIgGの濃度を差し引くことにより推定される。リガンドタンパク質の推定濃度は血清由来の溶出リガンドの実際の濃度よりも高くなる。これは、推定値が溶出中のヒーラ細胞から減らされたタンパク質を排除していないためである。したがって、実施の濃縮のフォールド(fold)は、表2で報告された値よりも高くなる。
【0094】
表2に示すごとく、ヒーラ細胞の密集平板培地のEGFの回復率は73%である。濃縮リガンドサンプル中のEGFの割合は0.0018%で、これは全ての回復リガンドタンパク質の総量がわずか10μgに過ぎないと推定されるためである。非濃縮血清中のEGFの割合と比較すると(0.0000048%)、EGFはヒーラ細胞による1度の濃縮段階を経て375倍に濃縮されている。
【0095】
【表2】

【0096】
<実施例3 PDGFaa濃縮の効率が細胞表面上で多数のPDGF受容体アルファと関連する>
高い発現量のPDGF受容体アルファを有するNIH3T3細胞と、低発現量のPDGF受容体アルファを有するヒーラ細胞間のPDGFaaの濃縮効率を比較するために、実施例1の記載に従って、400pgのスパイクした組み換えPDGFを有する100μLのヒト血清を非常に冷たいPBSで2mLに希釈し(1:20)、リガンドを濃縮するブロッキング工程を経ずに準備されたヒーラ細胞及びNIH3T3細胞に加える。血清及び組み換えPDGFを持たない非常に冷たい2mLのPBSが対照として同時に用いられる。150mMの塩化ナトリウム及び50mMのグリシンの溶液(pH3.0)がリガンド溶出に用いられる。リガンドの溶出後、ヒーラ細胞及びNIH3T3細胞から細胞溶解物が作られ、PDGF受容体アルファの発現量の違いを確認する。
【0097】
以下のサンプルが獲得される。すなわち、1)血清及びスパイクPDGFaaによってインキュベートされたヒーラ細胞からの溶出リガンド(EnriSHela)、2)血清及びスパイクPDGFaaによってインキュベートされたNIH3T3細胞からの溶出リガンド(EnriSNIH3T3)、3)PBSによってインキュベートされたヒーラ細胞から溶出された対照(ControlHela)、4)PBSによってインキュベートされたNIH3T3細胞から溶出された対照(Control NIH3T3)である。上記サンプルはPall Life Sciences社(East Hills, NY)のMicrosep 10k Omegaを用いた膜ろ過により濃縮され、100μL−200μLの濃縮サンプルがもたらされる。上記サンプルの各々からの75μLの濃縮用液を用いることによって、ヒト/マウスのPDGF−AA免疫測定キット(R&D Systems, MN)で各サンプル中に存在するPDGFの量を定量化する。血清の1:10希釈物75μLは、実験に未使用の血清中に存在するPDGFaaの濃度を定量化するために用いられる。PDGFaaの全体量は各サンプルの濃度及び総量に基づいて計算される。各サンプル中の全タンパク質の濃度はQuant−iTタンパク質測定キット(Invitrogen, CA)によって定量化される。このタンパク質の濃度値は、血清由来の濃縮リガンドの実際の濃度より高くなる。これは、濃度値が溶出中のヒーラ細胞又はNIH3T3細胞から脱離したタンパク質を排除していないためである。したがって、実際の濃縮のフォールドは、ここで報告された値よりも高くなる。
【0098】
表3で示されるごとく、PDGFaaの濃縮時において、NIH3T3細胞はヒーラ細胞よりも効率的である。
【0099】
【表3】

【0100】
<実施例4 塩分濃度の増加がヒーラ細胞からのPDGF溶出効率を高める>
PDGFaaの溶出効率を最適化するために、塩分濃度で変化する2つの溶出緩衝液が実施例3で示されたPDGF及びヒーラ細胞システムを用いて検査される。低塩濃度溶出緩衝液は150mMの塩化ナトリウム、50mMのグリシン(pH3.0)を含み、一方で高塩濃度溶出緩衝液は500mMの塩化ナトリウム、50mMのグリシン(pH3.0)を含む。
【0101】
表4に示されるごとく、高塩濃度溶出緩衝液はヒーラ細胞からPDGFを溶出する際、低塩濃度溶出緩衝液よりも効率的である。
【0102】
【表4】

【0103】
<実施例5 PDGFaa濃度と回復率の関係>
濃縮のために用いられるリガンド濃度とリガンドの回復率との関係を調べるために、実施例3に記載の手順に従って、異なるPDGF濃度又は異なるPDGFの総量を有する同じ100μL血清由来の3つのサンプルは、ヒーラ細胞を用いてリガンド濃縮に使用される。これら3つのサンプルは、1)125pg/mLのPDGFを含む2mLの1:20血清希釈物(サンプル1)、2)325pg/mLのPDGFを含むスパイクPDGFaaを有する2mLの1:20血清希釈物(サンプル2)、3)130pg/mLのPDGFを含む325pg/mLのスパイクPDGFを有する5mLの1:50血清希釈物である(サンプル3)。
【0104】
サンプル5で示されるごとく、PDGFaaの回復率は濃縮に用いられるPDGFaaの濃度に比例し、PDGFaaの総量には無関係である。しかしながら、回復したPDGFの総量は、PDGFaaの濃度及びヒーラ細胞に暴露されたPDGFaaの総量に関連している。
【0105】
【表5】

【0106】
<実施例6 血清由来のリガンドを特異的に検出するための濃縮前のビオチンによる血清ポリペプチド/タンパク質の標識化>
100マイクロリットル(100μL)のヒト血清が300μLのPBS及び100μLの0.5M重炭酸ナトリウム(pH8.5)と混合されることによって、約10mg/mLのタンパク質濃度及びpH8.5の血清反応液を誘導する。80マイクロリットルの20mg/mLビオチン−XX−SE(Biotium, Hayward, CA)がその後この血清反応溶液に滴状加えられ、続いて、室温で1時間軽く揺らす。100マイクロリットルの1.5MのL−リジン(pH8.5)がそのあとに反応を止めるために加えられる。
【0107】
ビオチン−標識化された血清溶液は2mLのPBSとの混合前にpHを7−7.5で調節するために120μLのヘペス(pH7−7.5)で中和されるか(図3A)、又は2mLのPBSで直接混合されるか(図3B)のいずれかであり、上記ビオチン−標識化された血清溶液は、BSA溶液によってブロックされる準備されたヒーラ細胞又はNIH3T3細胞に加えられる。ヒーラ細胞又はNIH3T3細胞のリガンドはその後、実施例1に従って誘導される。
【0108】
それぞれ20ミクロリットルのリガンドサンプルは、トリス緩衝液中のBio-Rad(Hercules, CA)から事前に4−15%の勾配にされたアクリルアミドゲルを用いて、1次元のSDS−PAGE電気泳動法にかけられる。SDS−PAGEは、トリス/グリシン緩衝液(20mMのグリシン、2.5mMのトリス及び0.1%のSDS)をランニング緩衝剤として用いるとともに、一定電流を1時間半の間、35mAにして、Bio-RadからのMini-Protean3ゲル電気泳動システムを行う。電気泳動法の後、ゲル上のタンパク質はニトロセルロース紙に転写される。これは、氷上の転写緩衝液(20mMのトリス、150mMのグリシン、20%のメタノール及び0.038%のSDS)中でMini-Proteanの3ウェスタンブロット転写システムに350mAで2時間かけられることによりなされる。
【0109】
転写されたタンパク質(ブロット)を備えるニトロセルロース紙は、その後、HRP共役ストレプトアビジンで1時間インキュベートされる前に、TBST(10mMでpH8.0のトリス、150mMの塩化ナトリウム、0.05%のTween-20)中の3%ミルクでブロックされる。TBSTで3−5回洗浄された後で、ブロットはPerkin Elmer(Waltham, MA)のWestern Lightening System を用いて改良され、化学発光シグナルがAmersham Hyperfilm(登録商標)のECL(buckinghamshire, UK)によって獲得される。
【0110】
<実施例7 ヒト血清サンプルにおける特異的リガンドプロファイリング>
4人の多発性骨髄腫患者(患者#1−4)及び1人の健康な個人(血清HC)がビオチンにより標識化されるとともに、受容体担体としてNIH3T3細胞を用いて実施例6に記載のリガンド濃縮にかけられた。図3Bに示されたごとく、多発性骨髄腫患者のビオチン標識化されたリガンドのプロファイルは、健康体の個人のプロファイルと比較して、「X」の位置に移動した上昇したタンパク質量を共有する。
【0111】
<実施例8 2次元電気泳動法を用いる2つのヒト血漿サンプルのリガンドのディファレンシャルプロファイリング>
リガンドサンプルL#1及びL#2は、5mLの1:50ヒト血漿希釈剤(サンプル#1又はサンプル#2)及び、実施例1に従って阻害剤として2mg/mLのBSAを備える10−cmの培養皿中の受容体担体としてのヒーラ細胞の密集単層の各々から獲得される。該リガンドサンプルL#1及びL#2の各々は、トリクロロ酢酸(TCA)によってタンパク質沈澱を起こしやすい。L#1のタンパク質沈澱は10μLの2次元の溶解緩衝液(30mMでpH8.8のトリス−HCL、7Mの尿素、2Mのチオ尿素及び4%のCHAPS)で再懸濁され、その後、試薬メーカーから提供されたCydyeの標識化の手順に従って、GE Heathcare(Piscataway, NJ)のCy3で最小限に標識化される。L#2のタンパク質沈澱は同様に10μLの2次元の溶解緩衝液で再懸濁されるが、メーカーの推奨する手順に従って、同じくGE HeathcareのCy5を用いて標識化されてもよい。
【0112】
等電点電気泳動法(IEF)の次元に関して、Cy3及びCy5標識化されたサンプルの総量は等体積で混合され、続いて20μLの2X2次元サンプル緩衝液(IEF用の8Mの尿素、130mMのDTT、4%のw/v CHAPS及び2%のv/v Pharmalyte(登録商標)が3−10)が獲得される。その結果生じる混合タンパク懸濁液は、120μLのDestreak溶液(7M尿素、2Mチオ尿素、4%のCHAPS、1%のw/v ブロモフェノール・ブルー、GE Healthcare(カタログナンバー:17−6003−19)の100mMのDestreak試薬、及び2%のPharmalyte)及び、100μLの再水和緩衝液(8Mの尿素、4%のCHAPS、1%のw/v ブロモフェノール・ブルー、1%のPharmalyte、及び2mg/mLのDTT)によってさらに混合され、総体積が260μLとなる。混合を通して混合物は回転する。浮遊物(250μM)は、GE HealthcareのIPGストリップ(IEF用の13cm、pH3−10リニア)に重層される。IEFは機械メーカーであるGE Healthcareによって推奨される標準条件を用いて、合計して25000ボルト−時間で実行される。
【0113】
IEFの後、IPGストリップは、10mLの平衡緩衝液1(50mMでpH8.8のトリス−HCL、6Mの尿素、30%のv/v グリセロール、2%のSDS、10mg/mLのDTT、及び1%のw/v ブロモフェノール・ブルー)を用いて軽く揺らしながら15分間インキュベートする。IPGストリップはその後、10mLの平衡緩衝液2(50mMでpH8.8のトリス−HCL、6Mの尿素、30%のv/v グリセロール、2%のSDS、45mg/mLのヨードアセトアミド、及び1%のw/v ブロモフェノール・ブルー)を用いて軽く揺らしながら10分間インキュベートする。IPGストリップはSDSゲル液体緩衝材(192mMグリシン、25mMトリス及び0.1%SDS)で1回洗い流し、その後、9%−12%勾配のSDSゲル(18×16cm、1−mmの厚み)に挿入される。ストリップはその後、0.5%のアガロースシール溶液で覆われる。SDS−PAGE電気泳動法は、ブロモフェノール・ブルーがゲルの底部に達するまで16度で行われる。その結果は図4、5及び6で示される。
【0114】
電気泳動後、2次元ゲルは洗浄されるとすぐにGE HealthcareのTyphoon Trioゲルスキャナを用いてスキャンされる。画像はゲルスキャナメーカーによって提供されるImageQuant及びDecyderソフトウェアを用いて解析される。
【0115】
図4で示される如く、受容体担体としてのヒーラ細胞はヒト血漿からの小集団のタンパク質を効率的に濃縮し、したがって、解析されるタンパク質の複雑性を劇的に減少させる。こうして、受容体としてのヒーラ細胞はサンプル内部の低含量タンパク質を個別に検出する感度を増加させる。図4で示される如く、濃縮プロテインの大部分は低量タンパク質であり、元のヒト血清サンプル中に高含量タンパク質があるため、濃縮工程なしでは検出不可能である。同様に図4で示されるごとく、濃縮タンパク質の大部分は50kdよりも小さく、リガンドタンパク質の特性は低分子量になる傾向があるということを示している。
【0116】
図5はこの濃縮方法の一貫性を示している。これは、異なるヒト血漿サンプルから獲得されたリガンドタンパク質プロファイルがリガンドタンパク質のほとんどと類似するためである。該リガンドタンパク質は等量で存在するものの、圧倒的多数のリガンドタンパク質は発現量によって変化する。このことは、この濃縮方法がバイオマーカの候補範囲を監視用に非常に管理しやすい少数に限定することを示している。
【0117】
<実施例9 3つの異なる種類の細胞を受容体として用いるヒト血漿サンプルのリガンド濃縮>
3つの細胞株(ヒーラ、MCF7、及びJurkat)は受容体担体として個別に用いられることによって、ヒト血漿サンプルを濃縮する(血漿3)。結果として生じたリガンドサンプルの1次元ゲル解析は、3つの細胞株膜受容体のプロファイルが異なった結果、サンプル間で異なるリガンドプロファイルを示している(図6)。ヒーラはヒトの子宮頸部腺癌由来の上皮細胞である。MCF7はヒトの乳腺腺癌由来の上皮状細胞である。Jurkatはヒトの白血病T細胞株である。
【0118】
ヒーラ細胞又はMCF7細胞を受容体担体として用いたリガンド濃縮は、ブロッキング剤として2mg/mLのBSAを用いて実施例1の手順に従って行うことにより、リガンドサンプルLHela又はLMCF7を得る。任意の溶出リガンドタンパク質が受容体担体のヒーラ細胞又はMCF7細胞由来かどうかを決定するために、同じ細胞が血漿サンプルでのインキュベーションに用いられたのと同じ条件下でPBSによって同様にインキュベートされることによって、結果として対照サンプルLCHELA又はLCMCF7が生じる。
【0119】
Jurkatは懸濁細胞株であるため、細胞株を用いたリガンド濃縮はわずかに修正した手順を用いて実行された。簡潔にいえば、2.7×10のJurkat細胞が2つの10mLの遠心分離管に均一に分けられ、その後、遠心分離にかけられる。各遠心分離管中の血清を含むRPMI培地は除去され、続いて血清を含まない10mLのRPMI培地で再び満たす。細胞を含む遠心分離管は組織培養インキュベータ内で1時間インキュベートされる。次にJurkat細胞の両方の管は非常に冷たいPBSで一度洗浄され、その後、4度という非常に冷たいPBS中で5mLの2mg/mLのBSAを用いて揺らしながら30分インキュベートする。Jurkat細胞の両方の遠心分離管を再度沈降させることによりBSA溶液を除去する。管#1のJurkat細胞を非常に冷たいPBS中に希釈された5mLの1:50ヒト血漿3の中で再懸濁する。一方で、管#2中のJurkat細胞は、ブランク対照として非常に冷たいPBS中で再懸濁する。両管はその後、揺らしながら30分間、4度で培養されることによって、血漿希釈液中のリガンドが各々の受容体と結合可能となるか又は細胞膜結合タンパク質(もしあるとすれば)がPBS緩衝液中で解離可能となる。管は再度遠心分離機にかけられ、各管の浮遊物が除去される。次に、各管の細胞は残留非結合タンパク質を除去するため、PBSで一度洗浄される。リガンドを細胞膜から溶出するために、1.5mLの非常に冷たい溶出緩衝液(50mMでpH3.0のグリシン、及び150mMの塩化ナトリウム)が各管に追加され、その結果生じる細胞懸濁液を揺らしながら10分間、4度でインキュベートされる。管#1中のリガンドを含む溶出緩衝液及び管#2中の溶出溶液はその後、遠心分離によりJurkat細胞から各々回収されるとともに、Microsep 10K Omega(Pall Life Science, New York)を用いて50−100μLの体積に濃縮される。この結果、リガンドサンプルLJurkat及びJurkat細胞対照サンプルLCJurkatの各々が生じる。
【0120】
10マイクロリットル(10μL)の3つのリガンドサンプル、LHela、LMCF7、及び、LJurkatが、各々の3つの対照溶液LCHELA、LCMCF7、及びLCJurkat(10μL)とともに実施例6に記載の1次元SDS−PAGEにかけられる。
【0121】
図6に示すとごく、異なる受容体担体を有する同じヒト血漿サンプルから濃縮されたリガンドサンプルは、異なるリガンドプロファイルを示しており、各種類の細胞の異なる膜受容体プロファイルを示唆している。LJurkatのリガンドタンパク質のプロファイルは、LHela及びLMCF7のリガンドタンパク質のプロファイルと大きく異なる。一方で、LHela及びLMCF7のリガンドタンパク質のプロファイルは互いに似ている。これは、ヒーラ細胞及びMCF7細胞の形態及び機能が同一であること、及びJurkat細胞との関連性が薄いことにより説明される。LCHELA及びLCMCF7のレーンではタンパク質結合がないため、LCHELA及びLCMCF7上で示されるすべてのタンパク質はヒト血漿由来である一方で、LCJurkatのレーン上で示されるように、わずか30kDより大きい程度のタンパク質だけが元々はヒト血漿であると考えられている。
【0122】
タンパク質を選択的に濃縮する方法が本明細書中に記載されてきた。上記方法は生体サンプル中に存在する高濃縮で機能的に重要なリガンドを含むリガンドサンプルを提供する。このように提供されるリガンドサンプルを、例えば、関心のある1以上のリガンドのさらなる単離、又は質量分析法とともに2次元ゲル電気泳動法を用いたリガンドプロファイリングに使用してもかまわない。上記リガンドプロファイリングには多くの用途があり、例えば、病気の診断、生原体の検出、及び薬剤スクリーニングに用いられる。
【0123】
本発明が適用可能な様々な改良及び工程は、本発明が対象としている当業者にとっては明細書を再考すればすぐに容易に理解できるものである。様々な引用文献、公開公報、米国又は海外の仮特許及び非特許出願、及び/又は米国又は海外の特許が本明細書中で確認されているが、その各々は参照することにより、全体として本発明に組み込まれるものである。本発明は当然のことながら、いかなる特定の理解、信念、理論、根本的な前提、及び/又は実施例あるいは机上の例とも結びつくものではないものの、本発明の様々な様態及び特性は、理解、信念、理論、根本的な前提、及び/又は実施例あるいは机上の例に関して説明又は記載されている。本発明の様々な様態及び特性は、本明細書に記載の様々な実施形態及び実施例に関連して記載されているものの、当然のことながら本発明は付加された請求項の全範囲内で保護を受ける権利を有する。
【0124】
(付録A)

【0125】
(付録Aの続き−1)

【0126】
(付録Aの続き−2)

【0127】
(付録Aの続き−3)

【0128】
(付録Aの続き−4)

【0129】
(付録Aの続き−5)

【0130】
(付録Aの続き−6)

【0131】
(付録Aの続き−7)

【0132】
(付録Aの続き−8)

【0133】
(付録Aの続き−9)

【0134】
(付録Aの続き−10)

【0135】
(付録Aの続き−11)

【0136】
(付録Aの続き−12)

【0137】
(付録Aの続き−13)

【0138】
(付録Aの続き−14)

【0139】
(付録Aの続き−15)

【0140】
(付録Aの続き−16)

【0141】
(付録Aの続き−17)

【0142】
(付録Aの続き−18)



【0143】
(付録Aの続き−20)





【0144】
(付録Aの続き−21)

【0145】
(付録Aの続き−22)

【0146】
(付録Aの続き−23)

【0147】
(付録Aの続き−24)

【0148】
(付録Aの続き−25)

【0149】
(付録Aの続き−26)

【0150】
(付録Aの続き−27)

【0151】
(付録Aの続き−28)

【0152】
(付録Aの続き−29)

【0153】
(付録Aの続き−30)

【0154】
(付録Aの続き−31)

【0155】
(付録Aの続き−32)

【0156】
(付録Aの続き−33)

【0157】
(付録Aの続き−34)

【0158】
(付録Aの続き−35)

【0159】
(付録Aの続き−36)

【0160】
(付録Aの続き−37)

【0161】
(付録Aの続き−38)

【0162】
(付録Aの続き−39)

【0163】
(付録Aの続き−40)

【0164】
(付録Aの続き−41)

【0165】
(付録Aの続き−42)

【0166】
(付録Aの続き−43)

【0167】
(付録Aの続き−44)

【0168】
(付録Aの続き−45)

【0169】
(付録Aの続き−46)

【0170】
(付録Aの続き−47)

【0171】
(付録Aの続き−48)

【0172】
(付録Aの続き−49)

【0173】
(付録Aの続き−50)


【0174】
(付録Aの続き−51)

【0175】
(付録Aの続き−52)

【0176】
(付録Aの続き−53)

【0177】
(付録Aの続き−54)

【0178】
(付録Aの続き−55)

【0179】
(付録Aの続き−56)

【0180】
(付録Aの続き−57)

【0181】
(付録Aの続き−58)

【0182】
(付録Aの続き−59)

【0183】
(付録Aの続き−60)

【0184】
(付録Aの続き−61)


【0185】
(付録Aの続き−62)

【0186】
(付録Aの続き−63)

【0187】
(付録Aの続き−64)

【0188】
(付録Aの続き−65)

【0189】
(付録Aの続き−66)

【0190】
(付録Aの続き−67)

【0191】
(付録Aの続き−68)

【0192】
(付録Aの続き−69)

【0193】
(付録Aの続き−70)

【0194】
(付録Aの続き−71)

【0195】
(付録Aの続き−72)

【0196】
(付録Aの続き−73)

【0197】
(付録B)


【0198】
(付録Bの続き−1)

【0199】
(付録Bの続き−2)

【0200】
(付録Bの続き−3)

【0201】
(付録Bの続き−4)

【0202】
(付録Bの続き−5)

【0203】
(付録Bの続き−6)

【0204】
(付録Bの続き−7)

【0205】
(付録Bの続き−8)

【0206】
(付録Bの続き−9)

【0207】
(付録Bの続き−10)

【0208】
(付録Bの続き−11)

【0209】
(付録Bの続き−12)

【0210】
(付録Bの続き−13)

【0211】
(付録Bの続き−14)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リガンド分子の混合物を備える1以上の特徴的なサンプルの各々のリガンドプロファイリング方法であって、前記方法は
a)前記特徴的なサンプルの各々を1以上の受容体群と接触させる段階を備え、
各受容体担体は前記リガンドが結合する複数の受容体を備え、
前記方法はさらに、
b)非結合リガンド分子を洗浄するとともに前記受容体担体の各群から結合リガンド分子を溶出することにより、別々のリガンド画分をもたらす段階と、
c)前記リガンド画分を分画することにより、前記特徴的なサンプルの各々に対するリガンド分子の別々のプロファイルをもたらす段階を備えることを特徴とする方法。
【請求項2】
リガンド分子の各混合物が未知の特性又は量を有する1以上のリガンドを備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1以上の受容体担体群が互いに異なる又は異ならないことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記受容体担体が細胞、細胞の混合物、細胞小器官、複数の受容体を備える小嚢、又は複数の固定化された受容体を備える人工的な生体表面であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記細胞又は細胞小器官が生存している又は固定されていることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記細胞が少なくとも1つの外因性の受容体を発現することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記人工的な生体表面が培養ウェル、培養皿、ビーズ、又は基質の表面であることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記人工的な生体表面がニトロセルロース、セルロース、デキストラン、ナイロン、金属、プラスチック、ラテックス、アガロース、ガラス、又はシリコン物質からできていることを特徴とする請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記受容体が細胞表面ポリペプチド、分泌ポリペプチド、受容体の細胞外ドメイン、核酸、炭水化物、脂質、有機分子又は無機分子であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記リガンド分子がポリペプチド又は非ポリペプチド分子であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルは培養上清、溶解物、又は有機体の体液を備える生体液であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記溶解物が細胞、細菌、ウィルス、又は有機体の組織から獲得されることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記体液が血液、血漿、血清、溶血血液、脊髄液、尿、リンパ液、滑液、唾液、精液、糞便、痰、涙、粘液、羊水、涙液、嚢胞液、汗腺分泌液、乳汁、又は胆汁であることを特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプルが健常な個人、病気にかかっている個人、又は治療中の個人から獲得されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記リガンド画分を分画する段階が多重リガンド分子を連続して又は同時に検出するとともに定量化する段階を備えることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記リガンド分子の検出及び定量化が質量分析法又は抗体を使用する段階を備えることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記リガンド分子が前記受容体担体と接触する前後に標識分子で標識化され、前記標識分子が直接的又は間接的に検出可能であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
1以上のサンプル中のリガンド分子の前記標識分子が蛍光染料を備えることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記標識分子がビオチンを備えるとともに、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラアビジン、及びキャプトアビジンからなる群から選択される分子を検出することによって、前記標識分子が検出されることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項20】
未知の特性又は量を有するリガンドを備えるサンプルから多重リガンドを濃縮するキットであって、前記キットは、
a)結合溶液と、
b)洗浄溶液と、
c)溶出溶液と、
d)請求項1の方法に従った実験手順の使用説明書を備えることを特徴とするキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2009−543555(P2009−543555A)
【公表日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519609(P2009−519609)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【国際出願番号】PCT/US2007/072947
【国際公開番号】WO2008/008709
【国際公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【出願人】(509009739)リープ・バイオサイエンシーズ・コーポレーション (1)
【Fターム(参考)】