説明

タンパク質キナーゼに結合する二基質蛍光プローブ

本発明は、タンパク質キナーゼに結合する化合物の同定用、タンパク質キナーゼのインヒビターの親和性の測定用の蛍光プローブ、及び該蛍光プローブに結合するタンパク質キナーゼの活性濃度の決定に関する。本プローブの二基質-類似体特性が、キナーゼのATP結合部位と基質タンパク質/ペプチド結合ドメインの両方を標的にするインヒビターの同時評価を可能にする。本プローブの高い親和性(cAMP-依存性タンパク質キナーゼに対してKd=1.0nM)が低濃度の酵素の適用をもたらし、キナーゼの消費の実質的な低減につながる。本発明のオリゴ(D-アルギニン)とATP結合部位標的インヒビターとの抱合体の、高い親和性で広範な(好塩基性)キナーゼに結合する能力のため、多数のタンパク質キナーゼに向けた化合物の阻害効力の評価に単一の蛍光プローブを適用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願〕
この出願は、2006年8月15日提出のエストニア仮出願第P200600030号に対する優先権を主張する。なお、該出願の内容を本明細書に援用する。
〔発明の分野〕
本発明は、タンパク質キナーゼの活性部位に結合する新規な蛍光プローブ、並びに該キナーゼのATP-結合ポケット及び/又はタンパク質/ペプチド基質結合ドメインの両方を標的とする化合物のスクリーニング及びインヒビターの評価のための該プローブの適用、並びに該プローブの製造方法に関する。
本発明は、タンパク質キナーゼスーパーファミリーの種々多様なメンバーに結合してその活性を調節する化合物を同定するためのスクリーニングアッセイにも関する。本発明は、タンパク質キナーゼインヒビターの同定と評価及びタンパク質キナーゼの濃度の決定のためのアッセイに関する。
【背景技術】
【0002】
〔発明の背景〕
(タンパク質キナーゼ及びタンパク質キナーゼインヒビター)
タンパク質キナーゼ(PK)は、生きている細胞内のタンパク質機能の調節で重要な役割を果たす。PKは、1/3のタンパク質の活性を、該タンパク質の1以上のセリン、スレオニン及びチロシン残基のリン酸化を通じて調節すると推定されている。400を超えるヒト疾患(癌を含む)が異常なタンパク質キナーゼのシグナル伝達に関係している。このことがPKを、Gタンパク質結合受容体後の第2の最大薬物標的(及び開発で最も速く成長しているカテゴリーの薬物)にした[Cohen, Nat. Rev. Drug Discov. 1 (2002) 309; Fischer, Curr. Med. Chem. 11 (2004) 1563]。
タンパク質キナーゼは、活性部位でATPからタンパク質基質へのホスホリル基の直接転移が起こる、三成分の複雑な運動機構に従う[Adams, Chem. Rev. 101 (2001) 2271]。
3つの異なる種類の活性部位-標的タンパク質キナーゼインヒビターが既知である。第1に、厳しい選択性の問題(全500のタンパク質キナーゼと1500を超える他のタンパク質がプリンヌクレオチドに結合しうる)、及び細胞環境内で競合するATPの高い濃度にもかかわらず、製薬会社の主な労力は、ATP競合インヒビターの開発に向けられてきた。Ablキナーゼの特異的小分子インヒビターであるイマチニブが、キナーゼ標的癌療法で最初に成功したブレークスルーになった。
タンパク質キナーゼの第2のタイプの活性部位標的インヒビターは、タンパク質-タンパク質相互作用を選択的に妨害し、タンパク質キナーゼの活性部位への基質タンパク質の結合を遮断する化合物を含む[最近のレビュー:Bogoyevitch et al., Biochim. Biophys. Acta. 1754 (2005) 79; Lawrence, New Design Strategies for Ligands That Target Protein Kinase-Mediated Protein-Protein Interactions.; Pinna, A. L., Cohen, P. T. W. Eds.; 2005; p. 11]。
第3に、二重基質酵素のATP及びタンパク質結合ドメインの両方と同時に会合する二基質-類似体(ビリガンド)インヒビターの上記アプローチと開発の組合せが、PKの選択的かつ強力なインヒビターを与えた。二基質-類似体インヒビターの設計のいくつかの戦略が開示されている[この主題に関するレビューのため、以下参照:Parang et al., Pharmacol. Therap. 93 (2002) 145]。二基質-類似体(二機能性)インヒビターの構築は、タンパク質キナーゼの阻害の特異性と効力の向上をもたらすことができた。このインヒビターは、所定キナーゼの2つの天然の基質/リガンドを模倣して、2つの領域と同時に会合する。ATPと受容体成分を模倣するように多くの二基質類似体が設計されている。この種のインヒビターは、ATP結合を阻害する1つの部分と、タンパク質キナーゼへのタンパク質/ペプチド基質の結合を阻害する1つの部分との共有結合抱合体である[Ricouart et al., J. Med. Chem. 34 (1991) 73; Medzihradszky et al., J. Am. Chem. Soc. 116 (1994) 9413; PKの二基質類似体インヒビターを開示している特許出願:WO0070029, WO0170770, WO03010281, WO2004110337, EE200300187]。
【0003】
本発明者の一人は、マイクロモル以下の範囲の活性を有する、タンパク質セリン/スレオニンキナーゼPKA及びPKCのための二基質-類似体インヒビターを以前に開発した[Loog et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 9 (1999) 1447, Uri et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 12 (2002) 2117, WO0070029, EE200300187]。これらのインヒビターは、タンパク質キナーゼの両基質:ATP結合部位標的アデノシン-5'-カルボン酸(Adc)とタンパク質基質ドメイン指向性オリゴ-(L-アルギニン)の類似体部分を含む。タンパク質基質ドメイン指向性オリゴ-(L-アルギニン)フラグメントの設計は、好塩基性タンパク質キナーゼ(cAPK、PKC、Akt/PKB、PKG等)の基質のリン酸化部位が、アルギニン及び/又はリジン残基に富む領域と隣接するという知識に基づいていた[Pinna et al., Biochim. Biophys. Acta. 1314 (1996) 191]。該インヒビターの2つの活性フラグメントは、構造-活性研究で長さを最適化したテザー(tether)によって連結された。
優先日(2006年8月15日)後、本特許出願の発明者らは、本特許出願の主題である、D-アルギニン残基を組み入れたタンパク質セリン/スレオニンキナーゼ用の二基質-類似体インヒビターの合成と特徴づけを2つの公表論文に記載した[Enkvist et al., J.Med.Chem. 49 (2006) 7150; Viht et al., Anal.Biochem., 362 (2007) 268]。
【0004】
(現存するアッセイ方法)
製薬業界にとって有効なインヒビターの重要性が増すにつれ、タンパク質キナーゼインヒビターの評価のための新規なアッセイ法の開発が平行して行われている。最近の数年の間に、フレキシブルな蛍光定量的キナーゼアッセイ法が問題の(例えば、人的リスク、環境危険、32P-及び33P-標識化合物の短い半減期、長い曝露時間)放射分析法と置き換わった。蛍光分析法は放射分析法より空間的及び時間的に集中することができ、それ自体、高処理能力スクリーニング(HTS)アッセイでの適用のため、より好適である[Olive, Expert Rev Proteomics. 1 (2004) 327]。
キナーゼインヒビターの大多数の評価は動的試験の形態で行われ、新しい潜在的インヒビターは、該キナーゼによって触媒される基質(ペプチド又はタンパク質)リン酸化反応の速度に及ぼすその遅延効果に基づいてスクリーニング及び特徴づけされる。放射分析法の場合、放射性リン同位体で共有結合によって標識されている、リン酸化反応の生成物を放射性ATPから分離して定量化する。労働集約的分離工程の適用及び大量の放射能の使用のため、高処理能力アッセイでは、これらの方法は問題がある。
【0005】
リン酸化反応の生成物の量を、抗体(キナーゼ反応で形成されたリンペプチドが、リン特異性抗体から蛍光標識化リンペプチドを置き換える)又は他のリンペプチド結合巨大分子の蛍光バインダーとのその競合によって立証する動的方法(リン化学薬品の固定化金属アッセイ(Immobilized Metal Assay for Phosphochemicals, IMAP))は、活発に使用されている別分類のアッセイである[例えば、WO9818956]。この場合、通常、蛍光バインダーの、抗体とのその複合体からの置換の結果生じる蛍光異方性の変化を測定する。これらの方法はHTSアッセイによく適合するが、それでもやはり該方法のための有効な基質、蛍光バインダー及び高親和性抗体又は他のリン-結合巨大分子を必要とする。比較できるKi値を有するインヒビター化合物を特徴づけるため、多数の測定を行わなければならない。
或いは、インヒビターのキナーゼへの結合の直接又は間接的測定によってキナーゼインヒビターを検出しうる。いくつかの小分子インヒビターを、キナーゼへのその結合親和性をゆるめることなく蛍光色素に結合することができる。次に、該キナーゼ結合型標識化インヒビターを競合的なキナーゼインヒビターと置き換えて、蛍光特性の変化を測定することができる。従って、この相互作用は、基質の知識が無いか又はリン酸化キナーゼ基質に対する抗体が必要な、キナーゼインヒビターの競合結合アッセイの基礎を形成する。いくつかの論文及び特許出願はタンパク質キナーゼインヒビターの結合特性の決定用蛍光プローブの使用を開示している[例えば、Chen et al., 268 (1993) 15812, WO2005/033330]。
【0006】
〔現在の結合アッセイの限界〕
cAPKに向けてマイクロモルの親和性を有する蛍光プローブがChenらによって開示された[Chen et al., 268 (1993) 15812]。これらのATP-競合プローブは、蛍光色素とビスインドリルマレイミドリガンドの両方の蛍光に起因する複雑な発光特性を有する。低い(マイクロモルの)親和性と複雑な蛍光スペクトルが、これらの蛍光抱合体を結合アッセイ用のプローブとして使用し難くしている[WO9906590]。他のATP競合的蛍光プローブが文献で開示されている[例えば、WO2005/033330]。
cAMP-依存性タンパク質キナーゼ(cAPK)のタンパク質/ペプチド基質結合ドメインを標的とする蛍光プローブ、タンパク質キナーゼの熱安定性インヒビタータンパク質PKIのフルオレッセイン-標識した20のアミノ酸残基含有配列(PKI 5-24)は、蛍光偏光アッセイにおいてマイクロモルの親和性(Kd=1.6μM)でcAPKに結合することが分かった[Shneider et al., Org. Lett. 7 (2005) 1695]。プローブの低い結合親和性がタンパク質/ペプチド基質-結合ドメイン標的インヒビターの結合定数の決定のための該プローブの適用を阻止する。
【0007】
今までに開示された結合アッセイの主な限界は以下の通りである。
A. 利用可能な蛍光プローブはタンパク質キナーゼに向けて低い親和性(通常マイクロモル又はマイクロモル以下)を有し、これらの方法を使用する場合、動的アッセイに比べて、キナーゼの実質的に高い消費をもたらし、かつ高親和性のインヒビターの正確な結合特性の決定用プローブの適用が不可能となる。
B. 利用可能な蛍光プローブは単一キナーゼ又は小ファミリーのキナーゼに活性であり、複数のキナーゼによるインヒビターの包括的な特徴づけのために単一のプローブを使用できなくする。
C. これまでのところ利用可能な全ての蛍光プローブは、ATP又はタンパク質/ペプチド基質結合部位のどちらかに結合する化合物の試験を可能にし、それ自体、動的方法と異なり、ATPとタンパク質-ペプチド基質結合部位-標的インヒビターの同時スクリーニングを許容しない。
【0008】
我々の知る限りでは、本発明に最も関連する、他グループによって公表された先行技術は、特許出願WO2005/033330「タンパク質キナーゼインヒビター結合アッセイで使うための蛍光プローブ(“Fluorescent probes for use in protein kinase inhibitor binding assay”)」に開示されている。この発明は、高いナノモル範囲(Kd=161nM)の親和性を有する蛍光プローブを開示しており、該アッセイ形式ではキナーゼの高濃度が必要となる(開示実施例では200nMのSTK12キナーゼを使用した)。蛍光プローブのKd値に起因して要求されるキナーゼ濃度は、動的測定で通常適用されるキナーゼ濃度より数百倍高い(動的アッセイでは約1nM濃度の酵素を使用することが多い)。これは、アッセイのコストの実質的増加につながる。プローブのマイクロモル以下の解離定数のため、ナノモルの親和性を有するインヒビターの結合定数の決定に該プローブを使用できない[Fluorescence Polarization Technical Resource Guide THIRD EDITION 2004, Invitrogen Corporation. Chapter 7]。
WO2005/033330で開示されたプローブはキナーゼのATP結合部位を標的とし、それ自体、PKインヒビターのスクリーニングのための該プローブの適用は、キナーゼのタンパク質/ペプチド結合ドメインを標的とするインヒビターを無視する。さらに、WO2005/033330で開示された蛍光プローブは、特有のキナーゼ(STK12及び精密な類似体)のインヒビターの試験に適用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
〔本発明の利点〕
本特許出願で開示する発明は、全ての既知蛍光プローブの限界を克服し、かつ多くのタンパク質キナーゼのインヒビターの同定と特徴づけ及び該タンパク質キナーゼの濃度の決定のための競合的置換アッセイに適用できる。以前の発明のプローブと比較すると、本発明の蛍光プローブは非常に高い親和性(Kd≦1nM)を有し、かつATP及び/又はタンパク質基質結合部位の両方を標的とする、種々のタンパク質キナーゼのインヒビターの試験のために使用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
〔発明の概要〕
本発明は、タンパク質キナーゼに結合する化合物の同定用、タンパク質キナーゼのインヒビターの親和性の測定用の蛍光プローブ及び該プローブに結合するタンパク質キナーゼの活性濃度の決定に関する。本プローブの二基質-類似体特性は、キナーゼのATP結合部位及び/又は基質タンパク質/ペプチド結合ドメインの両方を標的とするインヒビターの同時評価を可能にする。
本プローブの高い親和性(cAPKに向けてKd=1.0nM)が非常に低い濃度(≦1nM)での酵素の適用をもたらし、キナーゼの消費の実質的な低減につながる。ナノモル及びマイクロモルの親和性を有するインヒビターの結合定数の正確な決定に本プローブを適用できる。この発明の、オリゴ(D-アルギニン)とATP結合部位標的インヒビターの抱合体が高い親和性で広範な(好塩基性)キナーゼに結合する能力のため、いくつかのタンパク質キナーゼに単一の蛍光プローブを適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】蛍光プローブARC-TAMRA(10nM)のcAPK Cαによる滴定(0.5mlの石英セルを備えた蛍光分光計LS 55(Perkin Elmer))。下記関係式(A)に非線形回帰分析を適用してKd=1.1nMを計算した。
【数1】

(A)
Aは、測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、結合したARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度、10nMであり;RTは、全キナーゼ(cAPK Cα)の濃度である。
【図2】ARC-TAMRA(2nM及び10nM)のcAPK Cαによる滴定(0.5mlの石英セルを備えた蛍光分光計LS 55(Perkin Elmer))。前記関係式(A)(図1)から2nM及び10nMのARC-TAMRAについてそれぞれ1.1nM及び0.94nMというKd値を計算した。
【図3】活性キナーゼの濃度の決定(0.5mlの石英セルを備えた蛍光分光計LS 55(Perkin Elmer))。 下記関係式(B)に非線形回帰分析を適用して、溶液中のキナーゼの活性(結合)形態のフラクション、k=0.317を計算した。
【数2】

(B)
Aは、測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、結合したARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度、10nMであり;RTは、キナーゼ(cAPK Cα)の全(公称)濃度であり;Kdは、ARC-TAMRAとcAPK Cαとの間の反応の解離定数である(Kd=1.0nM)。
【図4】インヒビターH89;PKI[阻害ペプチドPKI(5-24)]、ARC[AdcAhx(L-Arg)6-NH2]、及びD-ARC[AdcAhx(D-Arg)6-NH2]の濃度に対する異方性の依存度(正規化値)。アッセイ条件:10nMのARC-TAMRAと10nMのキナーゼ(cAPK Cα)、0.5mlの石英セルを備えた蛍光分光計LS 55(Perkin Elmer)。ARC-TAMRAについて1.0nMというKd値を使用した。 インヒビターについて得られた阻害特性は以下の通りである。
【0012】

【図5】ARC-TAMRA(2nM及び20nM)のcAPK Cαによる滴定(蛍光プレートリーダーPHERAstar(BMG LABTECH)、Corning 384ウェル低体積NBSマイクロプレート(30μlの反応体積))。前記関係式(A)(図1)から0.4nMといKd値を計算した。
【図6】インヒビターH89;ARC[AdcAhx(L-Arg)6-NH2]、D-ARC[AdcAhx(D-Arg)6-NH2]、及びcAMP-依存性タンパク質キナーゼRIIαの調節サブユニットの濃度に対する異方性の依存度(正規化値)。アッセイ条件:2nMのARC-TAMRAと3nMのキナーゼ(cAPK Cα)、蛍光プレートリーダーPHERAstar(BMG LABTECH)。ARC-TAMRAについて0.4nMというKd値を用いた。21nM(AdcAhx(L-Arg)6-NH2)、13nM(H89)、1.1nM(AdcAhx(D-Arg)6-NH2)、及び0.5nM(RIIa)というKi値を得た。
【図7】ARC-TAMRA(2nM及び20nM)のRho-関連キナーゼROCK IIによる滴定(蛍光プレートリーダーPHERAstar、BMG LABTECH)。前記関係式(A)(図1)に従ってARC-TAMRA-ROCK II複合体について4nMというKd値を計算した。
【図8】インヒビターH89、Y-27632、及びARC[AdcAhx(L-Arg)6-NH2]の濃度に対する異方性の依存度。アッセイ条件:2nMのARC-TAMRAと15nMのROCK II、蛍光プレートリーダーPHERAstar(BMG LABTECH)。ARC-TAMRAについて4.0nMというKd値を用いた。45nM(H89)、40nM(Y-27632)及び5nM(AdcAhx(L-Arg)6-NH2)というKi値を得た。
【発明を実施するための形態】
【0013】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、タンパク質キナーゼに結合する化合物の同定用、タンパク質キナーゼに向けたインヒビターの親和性の測定用の蛍光プローブ及び該プローブに結合するタンパク質キナーゼの活性濃度の決定に関する。本プローブの二基質-類似体特性は、キナーゼのATP結合部位とタンパク質/ペプチド基質結合ドメインの両方を標的とするインヒビターの評価を可能にする。本発明の蛍光プローブは、該キナーゼに対して非常に高い親和性を有し(Kd=1.0nM)、アッセイにおける低濃度のキナーゼの適用及び高い(低ナノモルの)親和性を有するインヒビターの結合定数の決定を可能にする。インヒビターと多くのタンパク質キナーゼとの反応の解離定数Kd値の決定のため、インヒビターによる本蛍光プローブの置換を使用できる。
【0014】
(蛍光プローブ)
本発明の第1の実施形態は、下記一般式(I)を有する蛍光プローブである。
(X-Y-Z)-L-F (I)
式中、X-Y-Zはタンパク質キナーゼの二基質-類似体インヒビターであり、XはキナーゼのATP-結合ポケットを標的とし、Zは該キナーゼのタンパク質/ペプチド-結合ドメインに結合し、Yは、XとZを連結し、かつ該キナーゼの活性部位へのXとZの同時結合を可能にするテザーであり;Fは、該キナーゼに(X-Y-Z)-L-Fが結合する過程で光学特性が変化する蛍光色素であり;Lは二基質-類似体インヒビターXYZと蛍光標識Fとの間のリンカーである。
結合アッセイに適用するために現在好ましい蛍光プローブは下記構造を有する。
【0015】
【化1】

【0016】
AdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2、ARC-TAMRA
本プローブ、ARC-TAMRAは、cAMP-依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニット(cAPK Cα)に向けて高い親和性を有し(Kd=1.0nM;図1及び2、実施例4)、本プローブは、そのキナーゼとの複合体から、ATP-競合インヒビターH89、タンパク質基質競合インヒビターペプチドPKI(5-24)、及び二基質インヒビターAdcAhx(D-Arg)6-NH2によって置換された(実施例5、図3)。従って、本発明の蛍光プローブARC-TAMRAは、キナーゼのATPとタンパク質基質結合部位に結合するインヒビターの親和性を同時に測定するために使用できると開示した最初の高親和性プローブである。本プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2の二基質(ビリガンド)特性は、キナーゼとの複合体からの、ATP-結合部位標的インヒビターH89とタンパク質/ペプチド基質結合部位標的インヒビターPKI(5-24)の両者によるその置換によって立証され、本蛍光プローブの非常に高い親和性によっても立証される。
プローブAdcAhx(D-Arg)6-NH2の阻害部は、多くのタンパク質キナーゼに対して高い阻害効力を有する(表3)。それ自体で、本蛍光プローブは、多くの好塩基性タンパク質キナーゼに関するアッセイでの適用の可能性がある。AdcAhx(D-Arg)6-NH2による好塩基性キナーゼの選択的阻害は(表3)、本発明のインヒビターの二基質性の別の実証である。
5-TAMRA、5-カルボキシテトラメチルローダミンは単一の位置異性体として該色素を含み、該プローブは長波長で励起し、高い輝度と大きい光安定性を有するので、蛍光偏光アッセイで使用するための良い蛍光標識である。
他の蛍光標識は、蛍光プローブ(X-Y-Z)-L-Fの部分Fとして適用するのに適する。これらの蛍光色素は当業者に周知である。蛍光標識の選択の原則は下記ウェブで開示されている[Polarization Technical Resource Guide ・ THIRD EDITION 2004 Invitrogen Corporation , USA www.invitrogen.com/panvera]。多くのこのような標識が下記ハンドブックに記載されている:[The Handbook - A Guide to Fluorescent Probes and Labeling Technologies Web Edition of The Handbook, Tenth Edition 2006 Invitrogen Corporation]。
通常、蛍光標識の輝度が高いほど(蛍光色素の輝度はその吸光係数とその量子効率の積に比例する)、より長い励起波長と発光波長、及びより高い光安定性が好ましいが、標識の選択は、アッセイで使用する分析機器及び特殊な分析状況によって決まる。本発明で有用な他の蛍光色素として、フルオレッセインとフルオレッセイン誘導体、ローダミンとローダミン誘導体、及び種々の会社によって製造販売されている多くの他の蛍光標識が挙げられる。構造(X-Y-Z)-L-FのFとして鉱物蛍光標識、例えば、量子ドットを組み入れた蛍光プローブは特殊な用途に有用だろう。
【0017】
蛍光プローブ(X-Y-Z)-L-Fの構造中のリンカーLの目的は、蛍光標識Fが二基質インヒビターX-Y-Zの該キナーゼへの結合に対して最小の障害をもたらす位置に基Fを位置決めすることである。好ましい蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2では、D-リジンがリンカーLを意味するが、他のプローブの場合、リンカーはC1-C20アルキレン基、C1-C20アルケニレン基、C1-C20アルキニレン基でよく、ここで、該C1-C20アルキレン基、C1-C20アルケニレン基、C1-C20アルキニレン基中に存在する1以上のCH2基は、任意に-O-、-C(O)-、-C(O)N-、-S-、-S(O)-、-SO2-、-N(R)-と置き換わっていてもよく;RはH又はC1-6アルキルである。いくつかのプローブの場合、Lを省略しうる。
本発明の実施例では、蛍光色素FをリンカーLを介して二基質インヒビターX-Y-Zの成分Zに連結するが、LをX、Y及びZ成分に、いずれの種々の位置で結合してもよい。
本発明の後部で示すように、他のタイプの二基質インヒビターが蛍光プローブの活性成分X-Y-Zを形成しうる。別の蛍光プローブ構造の例は、HidakaのATP競合PKインヒビターH9がフレキシブルなヘキサン酸テザーを介してヘキサ(D-アルギニン)ペプチドと結合している化合物である。非常に高い阻害効力(IC50=5.3nM;Ki=1〜2nM;実施例2、表2)を有する化合物26、H9-(CH2)5C(O)(D-Arg)6-NH2をD-リジンリンカーを介して蛍光標識5-TAMRAに連結して、本発明の高親和性蛍光プローブH9-Hex(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2を得た。
【0018】
【化2】

【0019】
さらに実施例2で述べるように、H9-Hex(D-Arg)6NH2(化合物26)はキナーゼcAPKに向けて非常に高い親和性を有する。二基質インヒビターAdcAhx(D-Arg)6-NH2及びH9-Hex(D-Arg)6NH2の好塩基性キナーゼに向けた阻害選択性はいくらか異なり(実施例3)、誘導される蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2及びH9-Hex(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2(両プローブの合成は実施例1に記載)は、異なるアッセイ形式で用途が見つかる。
本発明の好ましい方法は、蛍光偏光測定で蛍光プローブを使用することであるが、環境に敏感な蛍光プローブは本発明の別の選択である:キナーゼへの該プローブの結合の結果として蛍光偏光の変化ではなく、蛍光強度の変化を測定するであろう。これらの測定に好ましい蛍光プローブは下記式のAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(NBD)-NH2である。
【0020】
【化3】

【0021】
本プローブは、蛍光強度が環境に強く依存するNBD(7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール)色素を含む。本プローブはcAPKに対して非常に高い親和性を有する(Kdが約1nM)。本蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(NBD)-NH2の合成を実施例1で述べる。
当業者は、プローブのキナーゼとの会合の結果としてのプローブの蛍光の変化を測定するために他の可能性(蛍光偏光及び蛍光強度の測定に加えて)があることを知っている。蛍光関連分光法、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)、蛍光寿命、光退色と光活性化、蛍光強度分布分析及びそれらの組合せのような方法を使用して、蛍光プローブとタンパク質との間の反応の平衡をモニタリングすることができる。これらの方法は文献[例えば、White et al. Adv. Drug Deliv. Rev. 57 (2005) 17]で良く特徴づけられ、かつ本発明で開示する蛍光プローブに関連するキナーゼ会合研究での適用を見出しうる。本発明のプローブを、単一及び複数パラメーター画像処理形式で伝統的な蛍光技術及び共焦点単分子技術と併用することができる[Tinnefeld et al., Angew. Chem. Int. Ed. 44 (2005) 2642]。
本発明の著者らは、アデノシン-オリゴアルギニン抱合体は細胞膜浸透性なので[Uri et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 12 (2002) 2117]、本発明の蛍光プローブを生きた細胞、組織及び器官による実験に適用できることを示した。本発明の好ましい実施形態である蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2、H9-Hex(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2、AdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(NBD)-NH2は、アミノ酸のL-異性体を組み入れている以前に開示された二基質インヒビターと異なり、D-アルギニンを含有する。これらのプローブは、それ自体で酵素的分解に対して安定であり[Elmquist, Biol. Chem. 384 (2003) 387]、生体系内での用途によく適合する。生体系内で、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)の測定に基づく二色画像処理及びタンパク質-インヒビター相互作用の研究のため、蛍光プローブに融合したキナーゼと共に本発明の蛍光プローブを使用できた。
【0022】
(蛍光偏光アッセイ)
本発明の蛍光プローブの適用に好ましいアッセイ法は蛍光偏光又は蛍光異方性である。両用語を同義に用いて、溶液中の分子の相互作用を描写する[Fluorescence Polarization Technical Resource Guide・Analysis of FP Binding Data Invitrogen Corporation・USA・www.invitrogen.com/panvera]。
この技術は、リガンドがその受容体に結合中のその励起寿命間のリガンドの回転速度の変化を測定する。
蛍光偏光アッセイは均質であり、かつそれ自体、クロマトグラフィー、ろ過、遠心分離、沈殿又は電気泳動のような分離工程を必要としない。このアッセイのレシオメトリックな(ratiometric)性質のため、蛍光偏光はアッセイの小型化によく適合し、かつ蛍光分光計のキュベットと、蛍光偏光検出器を備えた安定プレートリーダーを有する1536-ウェル微量定量プレートのウェル内の低μl体積とで等しくうまく実施することができる。本発明の実施形態では、0.5mlの石英セルを備えた蛍光分光計LS 55(Perkin Elmer)又は384ウェル低体積NBSマイクロプレート(30μlの反応体積)を備えた蛍光プレートリーダーPHERAstar(BMG LABTECH)をアッセイに使用した。
【0023】
ここで使用する実験装備では、蛍光色素がその回転速度が劇的に遅くなると、蛍光偏光シグナルが大きく増加する。これは、本発明の小さい蛍光標識プローブが標的タンパク質キナーゼの有意に大きい分子に結合すると起こる。直線偏光した励起光の面に対して平行及び垂直な放射光の蛍光強度を測定することによって、偏光の度合を決定する。本発明の蛍光プローブの好ましい実施形態ARC-TAMRA、AdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2は、1869というMWを有し、かつキナーゼcAPK CαのMWは約40000である。これは、フリーな ARC-TAMRA(Af=40mA)の溶液と、キナーゼ蛍光プローブと複合化したARC-TAMRA(Ab=240mA)の溶液の異方性値に大きな差異をもたらす。
異方性値を成分値にデコンボリュートすることは、偏光値をデコンボリュートするより容易なので、数学的平易さのためには異方性値が好ましい。
結合事象に関与する蛍光プローブARC-TAMRAは2つの状態、すなわち結合状態又はフリー状態の混合状態で存在する。2つの種だけでは、異方性加法方程式は以下の形を有する。
A=FfAf+FbAb
式中:Ff+Fb=1;
A=観測異方性値
Ff=フリーな蛍光リガンドのフラクション
Fb=結合している蛍光リガンドのフラクション
Af=フリーな蛍光リガンドの異方性
Ab=結合している蛍光リガンドの異方性
半対数平衡結合等温線(異方性対Log全受容体濃度)の上部及び下部のプラトーがフリー及び結合状態の異方性、Af及びAbを定義する。観測異方性値、Aを用いて、我々は、所定異方性値について結合した蛍光リガンドとフリーな蛍光リガンドのフラクションを計算することができる。蛍光異方性の変化をキナーゼ濃度[cAPK Cα]に対してプロットした。データを下記方程式に当てはめた。
【0024】
【数3】

【0025】
式中、Aは測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、結合したARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度であり;RTは、活性キナーゼ(cAPK Cα)の全濃度である。
cAMP-依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニットを用いた結合実験における蛍光プローブARC-TAMRAの特徴づけは、実施例4と図1及び2に示される。これらのアッセイで、蛍光プローブARC-TAMRAについて1.0nMというKdを決定した。
【0026】
〔競合実験〕
本発明は、蛍光偏光アッセイにおいて蛍光プローブをその該キナーゼとの複合体から置換する、試験化合物の能力に基づいて試験化合物の結合特性を決定するアッセイで具体化する。このアッセイを実施例5で述べ、かつ図3に示す。
本発明の蛍光プローブの二基質(ビリガンド)特性のおかげで、本蛍光プローブは、ATP結合部位標的インヒビターとタンパク質基質結合部位標的インヒビターの両方によって、タンパク質キナーゼとの複合体から置き換えられる。図3に示したように、以下の3つの異なるタイプのインヒビターが、蛍光プローブARC-TAMRAをそのキナーゼcAPK Cαとの複合体から置き換えることができる:
a) ATP競合インヒビターH89;
b) タンパク質基質競合インヒビターPKI(5-24);
c) 二基質-類似体インヒビターAdcAhx(L-Arg)6-NH2 and AdcAhx(D-Arg)6-NH2
得られた結果(実施例5)は、本発明の蛍光プローブを用いて、キナーゼの活性部位の異なる結合ポケットに結合する化合物を評価できることを明らかにする。従って、本発明の置換法は、単一アッセイで両タイプのインヒビターを検出することにおいて動的方法と肩を並べる。これは、以前は、ATP競合インヒビター又はタンパク質基質競合インヒビターに基づく蛍光プローブでは不可能だった。
本発明の蛍光プローブの高い親和性(Kd=1.0nM)は、本蛍光プローブが高親和性インヒビターH89(Kd=15nM)及びAdcAhx(D-Arg)6-NH2(Kd=2.5nM)を特徴づけできるようにする。これはマイクロモル又はマイクロモル以下の範囲の親和性を有する蛍光プローブでは不可能だった(例えば、特許出願WO2005/033330の蛍光プローブは140nMというKdを有し、この蛍光プローブは、低ナノモル親和性を有するインヒビターの結合定数の決定に使用できない)。
また、蛍光プローブARC-TAMRAの高い親和性(Kd=1.0nM)とその良い蛍光特性は、該プローブを、384-ウェル及び1536-ウェル微量定量プレートによる蛍光偏光アッセイの高処理能力スクリーニング形式で適用できるようにする。蛍光偏光検出器を備えた最新のプレート-リーダーは、ナノモル濃度以下での蛍光プローブの適用を可能にし、キナーゼの必要濃度を3nM未満に減らす。
本発明の二基質インヒビターAdcAhx(D-Arg)6-NH2及びH9-Hex(D-Arg)6NH2の選択性プロファイルを考慮すると(表2)、対応する蛍光プローブは、好塩基性基質プロファイルを有する多くのインヒビターの結合の特徴づけに適用可能である。
さらに、本発明の蛍光プローブの潜在的な標的は、好塩基性タンパク質キナーゼの種々の変異形、タンパク質キナーゼのキナーゼ不活性状態の切断形、及び偽キナーゼである。
【0027】
(キナーゼの活性形の濃度の決定)
キナーゼの特殊な形態の濃度の決定は、多くの酵素用途で最も重要である。動的アッセイでは、アッセイ体積中のキナーゼ量を活性ベースに基づいて特徴づけ、多くの場合、キナーゼのモル濃度は分からない。酵素濃度の決定で使う大多数の方法(Bradford, Lowry, SDS電気泳動法)は、タンパク質の全濃度(その活性形の濃度ではない)を与え、不正確であり、かつ分析のために許容できない大量のタンパク質が必要である。
本発明の蛍光プローブARC-TAMRAの適用は、サンプル中のキナーゼの活性(蛍光プローブに結合している)形の濃度決定の簡単な手順を可能にする。
下記関係式に非線形回帰分析を適用して、溶液中の活性(結合)形のフラクション、kを計算した。
【0028】
【数4】

【0029】
式中、Aは測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、キナーゼに結合した形態のARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度、10nMであり;RTは、活性キナーゼ(cAPK Cα)の全濃度であり;Kdは、ARC-TAMRAとcAPK Cαとの間の反応の解離定数である(Kd=1.0nM)。cAPK Cαの濃度の決定のための蛍光プローブARC-TAMRAの適用については実施例6で述べる。
結合しているタンパク質の濃度とcAMP-依存性タンパク質キナーゼの触媒サブユニットの溶液のリン酸化活性との間に良い比例関係があることが確立した(蛍光プローブARC-TAMRAで確立したように)。経時的なキナーゼ活性酵素サンプルの減少は、ARC-TAMRAと会合したキナーゼの決定量と一致した。
【0030】
(二基質インヒビターX-Y-Zの構造の最適化)
生物学的分析法で広く適用性であるため、蛍光プローブは、その標的タンパク質に向けて可能な最高の親和性を有すべきである。蛍光リガンドの親和性が高いほど、分解できるインヒビター効力の範囲が広いことが分かっている[Huang, J. Biomol. Screen. 8 (2003) 34]。FP-ベース結合アッセイで分解できる最も低いインヒビターのKi値は、該蛍光プローブのKd値にほぼ等しい。IC50が400nMの化合物AdcAhx(L-Arg)6から出発して[Viht et al., Anal. Biochem. 340 (2005) 165; Loog et al., Bioorg. Med. Chem. Lett. 9 (1999) 1447]、該抱合体の異なる成分の構造の修飾を行った。構造-活性研究のため、アデニン、アデノシン、アデノシン-5'-カルボン酸(Adc)、及び5-イソキノリンスルホン酸とのオリゴアルギニンペプチドの抱合体の調製のフレキシブルかつ生産的な固相合成法を開発した(スキーム1〜4)。種々の組合せのフラグメントを抱合体に組み入れて、新規化合物をcAPK(cAMP-依存性タンパク質キナーゼ)のインヒビターとして試験した。
【0031】
(新規合成方法:SAR研究用の蛍光プローブと二基質インヒビターの合成)
Adcを含有する第1分類の化合物の合成を(2〜8、スキーム1)、Wang樹脂の代わりにRinkアミド樹脂を適用して行った。テザー及びペプチド成分の構造を変えた。ヌクレオシド部分とペプチド部分の間の6-アミノヘキサン酸の長さ(7つの化学結合に等価)に対応する、該リンカーのcAPKに対して最適な長さを保存することを決めた。他の好塩基性キナーゼでは、テザーの最適長は異なりうる。さらに、テザーは異なるヘテロ原子を含有してよく、かつ簡単な炭化水素鎖は、より複雑な直鎖若しくは分岐連結単位で置換されうる。
抱合体のペプチド部の構造の多様性は、ペプチド部分(L-Arg)4-NH2(2)、(L-Arg)6-NH2(3)、(D-Arg)4-NH2(4)及び(D-Arg)6-NH2(5)によって示されるように、オリゴアルギニン鎖の長さと対掌性の変化によって達成された。
第2群の化合物は、アデノシン及び5'-アミノ-5'-デオキシアデノシン誘導体を含有した(スキーム2)。4-ニトロフェニルクロロホルメートと2',3'-イソプロピリデンアデノシンの反応が活性化カーボネートをもたらし、アミンとの反応でアデノシン-5'-ウレタンを与えた。ヌクレオシド部分とペプチド部分の間のリンカーの長さを変えた。C-末端近傍にフリーなアミン基(例えば、リジンの側鎖又はジアミンリンカー)含有するペプチドを固相上で調製し、切断し、HPLCで精製した。
アデニンをC8又はN9位置でリンカー鎖を介してペプチドに連結することによって、リボース成分を欠く特殊な分類のビリガンドインヒビター、アデニンとオリゴアルギニンの抱合体を合成した。フリーなカルボキシレート基のあるリンカーを含有するこれらの分子の前駆体を溶液中で合成した。前駆体と樹脂結合ペプチドのカップリングが、切断及びTFAによる脱保護後にペプチドとの抱合体をもたらした(スキーム3)。
【0032】
イソキノリンスルホンアミドとオリゴアルギニンの抱合体を合成して、その活性及び選択性を類似のアデノシン含有化合物の活性及び選択性と比較した。以前に合成されたイソキノリンスルホニルペプチド[Ricouart et al., J. Med. Chem. 34 (1991) 73]と比較する場合、いくつかの変化を構造中に導入し、かつFmoc-ペプチド及びペプトイド化学手順を適用して固相上で合成を行った。Rinkアミド樹脂の使用は、負に荷電したC-末端カルボキシレート基の存在を排除し、そのC-末端アミドの形態の産物をもたらした。通常のFmoc-ペプチド化学は、Boc-化学手順の最終工程における過酷なHF処理を迂回できた。以前の抱合体の(β-Ala)-Serリンカーを6-アミノヘキサン酸で置き換え、リン酸化の可能性があるセリン残基を排除し、不要なキラル中心を除去し、全体的な合成手順を単純化した。樹脂結合型オリゴアルギニンペプチドをN-末端で6-ブロモヘキサン酸にてアシル化し、次に5-イソキノリンスルホニルエチレンジアミンと反応させ、TFAで切断して5-イソキノリンスルホニルエチレンジアミン含有抱合体を導いた(スキーム4)。
【0033】
本特許出願の特殊な実施形態は、D-アルギニン-リッチペプチドを組み入れた二基質-類似体インヒビターの群である。cAPK(表2)及び多くの他の好塩基性タンパク質キナーゼ(表3)に対する当該種類の抱合体の高い親和性は以前は知られていなかった。この結果は、驚くべきことに、cAPKが、基質のリン酸化しうるセリン残基及びN-末端アルギニン残基の両方でL-配置に対して強い要求を有するという事実のためである[Eller, Biochem. Int. 25 (1991) 453]。それらの複合体内で、構造的にフレキシブルな相互作用相手、二基質インヒビターとキナーゼの有利な位置決めの結果、高い結合エネルギーが生じうる。そのD-配置の形態のARC中へのアルギニン残基の導入が、ペプチドモチーフを、C-末端に付加したオリゴ(L-アルギニン)ペプチドのレトロ-インベルソ(retro-inverso)対応物に変換する。レトロ-インベルソペプチドは、相対的なアミノ酸側鎖トポロジーが維持されるが、ペプチド主鎖の終端とペプチド結合の方向が逆転している、普通のペプチドの誘導体とみなされる。これは、二基質インヒビターの結合エネルギーの、その構成成分である単一部位特異性インヒビターの結合エネルギーの合計と比較した場合、実質的な相乗作用をもたらしうる。これらのインヒビターとタンパク質キナーゼとの複合体の結晶構造の解析後に、この相互作用の機構をさらに説明できるだろう。
【0034】
上記方法を用いて、構造-活性研究のため、当業者は容易に種々の二基質類似体インヒビターを調製できるだろう。調査中の、キナーゼに対して親和性を有する他の基礎単位(例えば、プリン、ピリミジン、プリン及びピリミジンのヌクレオシド、ビスインドリルマレイミド、イソキノリン、スタウロスポリン、バラノール等)を抱合体X-Y-ZのX成分に導入して、その新規抱合体を活性について試験することができる。同様に、二基質インヒビターX-Y-Zのペプチド部Zの構造及びテザー部Yの構造をさらに最適化して、特有のキナーゼに対して最高の親和性を有する抱合体を達成できるだろう。
有機テザー(Y)の最適構造は、異なるタンパク質キナーゼ間で変化し、X及びZの選択によっても左右される。Yは、1〜50個の原子、例えば1〜30個の原子、例えば1〜18個の原子を含む鎖を与える基の中から選択されるべきである。鎖自体に加え、該鎖から突出する基があってよい。鎖は、アミド(-CONR'-、式中、R'はアミノ酸中に存在する側基から選択される)、アミン(-NR''-、式中、R''は、例えば、低級アルキル(C1-5アルキル)から選択される)、アゾ(-N=N-)、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)、二価炭化水素基などから選択される1以上の基を含みうる。鎖は、α-、若しくはβ、γ-若しくはε-型又はL-若しくはD-型のアミノ酸残基、或いはこれらの混合物で構成されうる。鎖は、1以上の正及び/又負の基、例えば、一級、二級、三級及び四級アンモニウム基、それぞれカルボキシ及びスルホネート基を保有しうる。Lがペプチド鎖の場合、Lは1〜15のアミノ酸残基又はそれより多くのアミノ酸残基を含有しうる。あるタイプのリンカーは(a)直鎖、分岐鎖若しくは環式で、かつ1以上の位置で酸素若しくは窒素にて中断されうる炭化水素鎖及び/又は(b)NR1R2若しくはOR3基で1以上の炭素が置換されている炭化水素鎖(R1〜R3は、C1-10アルキルの中から選択される)を含む。これに従う、ある種のリンカーは、式-(CH2CH2O)n-(式中、nは整数1〜10でよい)を有するポリ(エチレングリコール)リンカーである。
種々の位置でYをX及びZ成分に結合しうる。
cAMP-依存性タンパク質キナーゼの場合、Yの長さの最適化は、L-アルギニン残基を組み入れた低親和性のインヒビターで以前に行われた[Loog et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 9 (1999) 1447]。構造-活性研究は、X=アデノシン-5'-カルボン酸及びZ=ヘキサ(L-アルギニン)の抱合体について、最適なテザーYが6-アミノヘキサン酸[NH2(CH2)nCOOH,n=5]であることを示した。結果的に同じ長さのテザーが、本発明の高親和性二基質インヒビターで最適だった(実施例2、表2)。
最高の親和性を有する抱合体を蛍光色素に連結して、所望特性を有する新しい蛍光プローブが得られるだろう。
二基質-類似体インヒビターの調製のために導入した種々の合成方法を下記スキーム1〜4に示す。
【0035】
【化4】

【0036】
【化5】

【0037】
(cAMP-依存性タンパク質キナーゼ(cAPK)による構造-活性研究)
合成した抱合体の阻害効力を、良く特徴づけされている好塩基性タンパク質キナーゼの代表であるcAMP-依存性タンパク質キナーゼ(cAPK)に対して調べた。Adc-ペプチド抱合体の場合、ペプチドC-末端のアミド化が二基質インヒビターの効力を2〜3倍高めた。これは、カルボキシレート基の負電荷による該キナーゼとの有利な接触に関係するアルギニン残基の正電荷の補償によってもたらされるかもしれない。抱合体のアデノシン成分とペプチド成分との間のテザーの構造の実質的な修飾は、cAPKに良く耐えたが(表2、化合物2、6、8)、構造のわずかな修飾が活性の有意な低減をもたらすこともあった。
抱合体の構造の変化は、オリゴアルギニン鎖のC-末端へのアデノシンの連結及びD-アルギニンの残基の組込みをも包含する。
C-及びN-終端でヌクレオシド部に結合したペプチド成分を有するインヒビターは、L-アミノ酸残基を有するペプチドを含有する化合物の場合、より小さい親和性を有したが、C-末端によって結合したD-アルギニン残基を有するペプチドを含む化合物は、N-末端ペプチドを有する対応物(5)より500倍低い活性を有した。インヒビター5の二基質特性は、該抱合体の単一部位標的構成要素、アデノシン及びオリゴ-(D-アルギニン)のミリモル以下の効力と比較した場合、該化合物の高い阻害効力によって支持される。
阻害アッセイによっても蛍光プローブARC-TAMRA、AdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-NH2の阻害効力を確立した。得られた阻害のIC50値6.2nMは、対応する二基質インヒビターAdcAhx(D-Arg)6NH2(IC50=8.3nM)よりさらに低い。この結果は、ビリガンドインヒビターの特殊な位置へのリンカー(D-リジン)と蛍光色素(5-TAMRA)の付加が該キナーゼへのその結合性を有意に妨げないことを示す。
【0038】
(選択性の研究)
cAPK Cαに向けた最も高い阻害効力を明らかにした2つの化合物、5及び26について選択性試験を行った(実施例3)。キナーゼのパネルは、試験に利用できる全52のキナーゼを含んだ。我々の知識の及ぶ限り、二基質タイプのインヒビターについて、以前に、広いパネルのPKで選択性のプロファイリングを行っていない。阻害効力を比較するため、該キナーゼのKm値に近いATP濃度でアッセイを行った。結果を、1μM濃度のインヒビターについて、該インヒビターを省いたコントロールインキュベーションの活性に対する該インヒビターの残存活性のパーセントとして示す(実施例3)。
2つの化合物の活性プロファイルはほとんど同じだった。両抱合体は、ROCK-II、MSK1、PKBβ、PKBΔph、及びPRK2を強く阻害した(残存活性≦3%)。化合物26は、ほとんど完全にMAPKAP-K1a/rsk1、p70S6K、及びMAPKAP-K1bを阻害したが、化合物5の存在下の残存活性は、これらのキナーゼについて7〜28%だった。2つの化合物間の最大の差異は、MAPKAP-K1a/rsk1の阻害について観測され、化合物26及び5でそれぞれ対応する値が0及び28%だった。
CAMK-1、PKA、PIM2、及びPKD1は、化合物26の存在下で10%未満の活性を保持した。PKD1についても2つの化合物の有意な差異が見つかった(化合物5では残存活性が54%であり、化合物26では9%だった)。チェックポイントキナーゼ(CHK1及びCHK2)は両方とも化合物26によってより化合物5によって強く阻害された。いくつかのキナーゼはビリガンドインヒビターによって弱く阻害されたが、全く阻害されないものもあった。例えば、カゼインキナーゼCK1及びCK2によって代表される好酸性キナーゼは、化合物5及び26の存在下で完全に活性を保持した。表2のデータで示されるように、オリゴ-(D-アルギニン)含有二機能性インヒビターは、いずれの特定のタンパク質キナーゼにも特異的でなかったが、好塩基性キナーゼ、特にAGC(cAMP依存性、cGMP依存性、及びタンパク質キナーゼCファミリー)及びCAMK(カルモジュリン依存性タンパク質キナーゼ)群のキナーゼによって触媒される反応を減速した。1マイクロモル濃度の化合物26によって85%超えまで阻害された14種のPKのうち、11種のキナーゼがAGC群に属し、3種のキナーゼがCAMK群に属す。これら全14種のキナーゼは好塩基性タイプであると報告され、抱合体の阻害効力が該キナーゼの両基質結合部位への結合によって影響されるインヒビターのビリガンド特性を暗示する。この選択から外れる唯一のAGC群のキナーゼはPDKであり、ひどく定義されたコンセンサス配列を発現し、かついずれの位置にも強いArg優先を欠くAGCキナーゼである。
52種のキナーゼ、既知の基質コンセンサス配列及び他の構造特性を用いた2つのインヒビターの選択性研究の結果の分析に基づき、我々は、AGCファミリーから、本発明で開示する蛍光プローブに結合する可能性のある59種のタンパク質キナーゼを選択した(表1)。
【0039】
表1. その基質コンセンサス配列及び他の特性の分析に基づいて本発明で開示する蛍光プローブに結合する可能性のある、AGC群の59種のキナーゼ([Manning et al., Science 298 (2002) 1912]による分類)



【0040】
52-キナーゼ選択性パネルによるプロファイリング(実施例3)は、特異的に好塩基性タンパク質キナーゼを阻害する該アルギニン-リッチ抱合体の強い傾向を明らかにし、キナーゼとの二元複合体の形成における両機能性成分の活発な関与を暗示する。大多数のAGCキナーゼに加え、CAMK及びSTE群の多くのキナーゼ並びに主要群に分類されないいくつかのキナーゼ([Manning et al., Science 298 (2002) 1912]による分類)も好塩基性タンパク質キナーゼであることが分かった[Pinna et al., Biochim. Biophys. Acta. 1314 (1996) 191; Zhu et al., J. Biol. Chem. 280 (2005) 36372]。これらの全キナーゼは本発明の蛍光プローブの標的であろう。また、本プローブをこれらのキナーゼに関する分析方法で使用することができる。
さらに、本発明の蛍光プローブの標的は、好塩基性タンパク質キナーゼの種々の変異形、タンパク質キナーゼの不活性状態の切断形、及び偽キナーゼである。
【0041】
〔実験パート〕
(略語)
Adc−5'-アデノシンカルボン酸又は1-(6-アミノ-9H-プリン-9-イル)-1-デオキシ-β-D-リボフラヌロン酸(CAS 3415-09-6);
Ahx−6-アミノヘキサン酸;
Arg−アルギニン;
ARC−アデノシン-アルギニン抱合体;
ATP−アデノシン-5'-三リン酸;
Boc−tert-ブトキシカルボニル;
cAMP−環状アデノシン3',5'-一リン酸;
cAPK−cAMP-依存性タンパク質キナーゼ;
DIC−1,3-ジイソプロピルカルボジイミド;
DIPEA−N,N-ジイソプロピルエチルアミド;
DMF−ジメチルホルムアミド;
DMSO−ジメチルスルホキシド;
DTT−ジチオスレイトール
Fmoc−9-フルオレニルメトキシカルボニル;
HOBt−1-ヒドロキシベンゾトリアゾール;
HPLC−高速液体クロマトグラフィー;
Ip:2',3'-O-イソプロピリデン;
MALDI TOF MS、マトリックス支援レーザー脱着イオン化飛行時間型質量分析;
NMR−核磁気共鳴;
Pbf−2,2,4,6,7-ペンタメチルジヒドロベンゾフランン-5-スルホニル;
PK−タンパク質キナーゼ;
PKA-cAMP-依存性タンパク質キナーゼ;
RP−逆相;
TFA−トリフルオロ酢酸;
TLC−薄層クロマトグラフィー。
【実施例1】
【0042】
〔合成手順〕
(固相合成手順)
RinkアミドMBHA樹脂上で伝統的なFmoc固相ペプチド合成法を用いてペプチドフラグメントを調製した(スキーム1〜4)。保護したアミノ酸(3当量)をDMFに溶かし、DMF/N-メチルモルフォリン中のBOP/HOBt(それぞれ2.94当量)で活性化した。この樹脂にカップリング溶液を加えて40〜60分間振とうさせた。各工程の完全性をカイザーテスト(Kaiser-test)でモニタリング後、DMF中20%のピペリジン溶液でFmoc-基の脱保護(20分)を行った。同手順後のペプチド部分にFmoc-保護したリンカー、6-Fmoc-アミノヘキサン酸を結合した。N-末端のFmoc基をDMF中20%のピペリジン溶液で除去した(20分)。該樹脂-結合ペプチドにDMF中のそのイソプロピリデン保護誘導体の形態で(3当量)アデノシン-5'-カルボン酸を結合し、DMF/ジイソプロピルエチルアミン中のBOP/HOBt(それぞれ2.94当量)で活性化した。保護基を除去し、90%のトリフルオロ酢酸(5%のトリイソプロピルシラン、5%の水)による2時間の処理で抱合体を樹脂から切断した。抱合体をC18逆相HPLCで精製して凍結乾燥した。
【0043】
(蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-NH2(ARC-TAMRA)の合成)
そのTFA塩の形態のAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys-C(O)NH2(2.5mg,1μmol)をDMSOに溶かした。5-TAMRA、DMF(50μl)中のSE(5-カルボキシテトラメチルローダミン、スクシンイミジルエステル)(Anaspec;0.53mg,1μmol)及びDIEA(10μl)を加えた。3時間の反応後、凍結乾燥機内で溶媒を除去し、生成物、AdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2をHPLCでC18逆相カラムにて精製した。MW(MALDI TOF, M+H+)=1870;λmax(吸収)=559nm;λmax(発光)=582nm。
Adc-Ahx-(D-Arg6)-[D-Lys(5-TAMRA)]-NH2は、559nm及び582nm(50mM HEPES、200mM NaCl、0,5g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4)でそれぞれ励起及び発光最大値を有する。Perkin Elmer蛍光分光計LS 55でスペクトルを記録した。
【0044】
(蛍光プローブAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys(NBD)-NH2の合成)
【0045】
【化6】

【0046】
そのTFA塩の形態のAdcAhx(D-Arg)6-D-Lys-C(O)NH2(2.5mg,1mmol)をDMSO(100μl)に溶かした。DMF(100μl)中の4-フルオロ-7-ニトロベンゾフラザン(NBD-F)(Anaspec;0.2mg,1.0μmol)を加えた。室温で3時間の反応後、溶液を凍結乾燥機に入れて溶媒を除去した。水-ACN勾配を用いてC18逆相カラム上でHPLC精製して黒っぽい粉末の形で生成物を得た。MW(MALDI TOF, M+H+)=1751。水中480nmでλ(max)、メタノール中466nmでλ(max)。
【0047】
(蛍光プローブH9-Hex-(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2の合成)
【0048】
【化7】

【0049】
ブロモヘキサン酸(10当量)をDIC(5当量)でDMF中0℃にて活性化し、樹脂[Arg(Pbf)]6Lys(Boc)-[MBHAアミド樹脂]に加えた。45分の撹拌後、樹脂を洗浄した。結果の臭化アルキルをDMSO中の5-イソキノリンスルホニルエチレンジアミン(H9)と50℃で12時間反応させた。この樹脂-結合型抱合体の二級アミノ基をFmoc-Clで保護した(1時間、室温;3当量、10当量、DIEA、DMF)。生成物を樹脂から切断し、90%のTFA(5%の水、5%のジイソプロピルシラン)で2時間処理してイソプロピリデン及びBoc基を除去してIQS-NH-(CH2)2-N(Fmoc)-(CH2)5C(=O)-(D-Arg)6-D-Lys-NH2を生成した。樹脂からの切断(90%のTFA、5%の水、5%のTIS)及び逆相HPLC(水-ACN勾配、0.1%のTFA)による精製後、DMFとDMSO(1:1)の混合物中、DIEA(5当量)の存在下で生成物を5-TAMRA、SE(1当量)と3時間反応させた。樹脂からの切断(90%のTFA、5%の水、5%のTIS)及び逆相HPLC(水-ACN勾配、0.1%のTFA)による精製後、この修飾ペプチドH9-Hex-(D-Arg)6-(D-Lys)-NH2をDIEA(10μl)の存在下、5-TAMRA、DMSO(100μl)中のSEと室温で3時間反応させた。
H9-Hex(D-Arg)6-D-Lys(5-TAMRA)-C(O)NH2をC18逆相カラム上HPLCで精製した。凍結乾燥後、暗赤色粉末を得た;λmax(吸収)=559nm;λmax(発光)=582nm。
【実施例2】
【0050】
〔二基質-類似体インヒビターの構造の最適化:cAPK Cαに対する阻害特性IC50の決定〕
インヒビターのIC50値を以前に記載されている通りに測定した[Viht et al., Anal. Biochem. 340 (2005) 165]。cAPK Cα(Biaffin AG;約1nM)、TAMRA-kemptide(10、30又は100μM)、ATP(100μM又は1mM)、酢酸マグネシウム(10mM)及びウシ血清アルブミン(0.2mg/mL)を含有するHepes緩衝液(50mM、pH=7.5)中30℃で種々の濃度のインヒビターをインキュベートした。最後にATPを加えてリン酸化反応を惹起した。所定時点で、75mMのリン酸で20倍に希釈して反応を停止し、得られた溶液を順相TLC(蛍光指示薬なし、1-ブタノール/ピリジン/酢酸/水(体積で15/10/12/12)で溶出)で分析した。蛍光画像処理で蛍光スポットの可視化と定量化を行った。データをGraphpad Prismソフトウェア(バージョン4、GraphPad)で処理した。
表2. オリゴアルギニンとアデノシン-5'-カルボン酸(スキーム1の構造2〜8)の抱合体、オリゴアルギニンとイソキノリンスルホンアミドの抱合体(25及び26)、蛍光プローブARC-TAMRA、及びcAPK Cαによって触媒されるリン酸化反応のいくつかの単一部位-標的インヒビターのIC50
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【0053】
【表3】

【0054】
100μMのATPと30μMのTAMRA-kemptideの存在下でIC50を測定する。
【実施例3】
【0055】
〔PKの二基質-類似体インヒビターの選択性〕
他のキナーゼに向けたcAPKの最も強力なインヒビター(5及び26、表2)の選択性を確立するため、それらの阻害効果を52のキナーゼのパネルで決定した。以前に記載されている通りに、30℃でタンパク質キナーゼのアッセイを行った[Davies et al., Biochem. J. 351 (2000) 95; Murray et al., Biochem. J. 384 (2004) 477]。1マイクロモル濃度のインヒビターの存在下でのキナーゼの残存活性の%として試験結果を表す。
【0056】
表3. ビリガンドインヒビターAdcAhx(D-Arg)6-NH2(5)及びH9-Hex(D-Arg)6-NH2(26)の存在下でのタンパク質キナーゼの残存活性




【実施例4】
【0057】
〔蛍光プローブARC-TAMRAとキナーゼcAPK Cαとの複合体の特徴づけ〕
ARC-TAMRA、Adc-Ahx-(D-Arg6)-[D-Lys(5-TAMRA)]-NH2は、559nm及び582nm(50mM HEPES、200mM NaCl、0.5g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4)でそれぞれ励起及び発光最大値を有する。Perkin Elmer蛍光分光計LS 55でスペクトルと記録した。
キナーゼcAPK Cα(Biaffin)への蛍光プローブARC-TAMRAの結合を10nM又は2nMのARC-TAMRA濃度で検討した(557nm、スリット幅10nmで励起;585nm、スリット幅10nmで発光、蛍光偏光の検出)。
500μlの緩衝液(50mM HEPES、200mM NaCl、0.5g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4)中のARC-TAMRAの10nM溶液をキナーゼcAPK Cα(Biaffin)の溶液で滴定した。1〜3μlの量の種々希釈のキナーゼ溶液を、500μlのARC-TAMRAの2.0nM又は10.0nM溶液に加え、キナーゼ溶液の各添加後、10分の遅延時間後に蛍光異方性を測定した。蛍光異方性の変化をキナーゼ濃度[cAPK Cα]に対してプロットした。データを下記方程式に当てはめた。
【0058】
【数5】

【0059】
式中、Aは測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、結合したARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度、10nMであり;RTは、活性キナーゼ(cAPK Cα)の全濃度である。10nMのARC-TAMRAで計算すると、Kd値が1.0nMだった(図1及び2)。2nMのARC-TAMRAで計算すると、Kd値が1.1nMだった(図2)。
【実施例5】
【0060】
〔インヒビターの結合定数決定のための競合実験〕
0.500mlの緩衝液(50mM HEPES、200mM NaCl、0.5 g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4)中、10nMのARC-TAMRAと10nMのcAPK Cαとの間で複合体を作製した。ARC-TAMRA及びcAPK Cαの所定濃度に対して、cAPK Cαへの結合について種々の化合物をスクリーニングした(図4)。
1〜3μlの量の種々希釈のインヒビター溶液を、キナーゼとのARC-TAMRA複合体の500μlの溶液に添加し、キナーゼ溶液の各添加後、10分の遅延時間後に蛍光異方性を測定した。
ARC-TAMRA−キナーゼ複合体へのインヒビターの競合結合についてIC50及びKiの以下の値を得た。
【0061】

【0062】
化合物についての略語:N-(2-[p-ブロモシンナミルアミノ-]エチル)-5-イソキノリン-スルホンアミド(H89);AdcAhx(L-Arg)6-NH2(L-ARC);AdcAhx(D-Arg)6-NH2(D-ARC);PKIペプチド(5-24)。
下記関係式によりインヒビターの結合親和性定数(Ki値)を計算した[Nikolovska-Coleska et al., Anal. Biochem. 332 (2004) 261]。
【0063】
【数6】

【0064】
式中、[I]50は、50%阻害時のフリーなインヒビターの濃度であり、[L]50は、50%阻害時のフリーな標識リガンドの濃度であり、[P]0は、0%阻害時のフリーなタンパク質の濃度であり、Kdは、タンパク質-リガンド複合体の解離定数である。
2nMのARC-TAMRAと5nMのcAPK Cαとの間で、相互作用相手の低濃度で複合体を作製する条件では、同じインヒビターについて非常に類似したKi値が得られた。
【実施例6】
【0065】
〔キナーゼの活性形の濃度の決定〕
ARC-TAMRA、Adc-Ahx-(D-Arg6)-[D-Lys(5-TAMRA)]-NH2を蛍光プローブとして用いた:558nmで励起(バンド幅10nm)及び585nmで発光(バンド幅10nm):50mM HEPES、200mM NaCl、0.5g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4。Perkin Elmer蛍光分光計LS 55でスペクトルを記録した。
500μlの緩衝液(50mM HEPES、200mM NaCl、0,5g/l BSA、5mM DTT、0.05% TWEEN 20、MilliQ水;pH 7.4)中のARC-TAMRAの10nM溶液をキナーゼcAPK Cα(Biaffin)の溶液で滴定した。1〜3μlの量の種々希釈のキナーゼ溶液をARC-TAMRAの2.0nM又は10.0nM溶液500μlに加え、キナーゼ溶液の各添加後、10分の遅延時間後に蛍光異方性を測定した。蛍光異方性の変化をキナーゼ濃度[cAPK Cα]に対してプロットした(図3)。下記関係式に非線形回帰分析を適用して溶液中のキナーゼの活性(結合)形のフラクション、kを計算した[データをGraphpad Prismソフトウェア(バージョン4、GraphPad)で処理した]。
【0066】
【数7】

【0067】
式中、Aは、測定した異方性であり;Afは、フリーなARC-TAMRAの異方性であり;Abは、結合したARC-TAMRAの異方性であり;LTは、添加したARC-TAMRAの濃度、10nMであり;RTは、活性キナーゼ(cAPK Cα)の全濃度であり;Kdは、ARC-TAMRAとcAPK Cαとの間の反応の解離定数である(Kd=1.0nM)。
得られた0.317というk値は(図3)、キナーゼのこのサンプル中、公称キナーゼの31.7%が活性(プローブに結合している)形態であることを示す。
【実施例7】
【0068】
〔キナーゼcAPK Cαのインヒビターの高処理能力結合アッセイ〕
蛍光プレートリーダーPHERAstar(BMG LABTECH)の高感度は、1nM濃度の蛍光プローブARC-TAMRA、Adc-Ahx-(D-Arg6)-[D-Lys(5-TAMRA)]-NH2での置換実験の実現を可能にした。アッセイには、Corning 384ウェルLow Volume NBSマイクロプレート(20μl又は30μlの反応体積)を使用した。蛍光プローブの極性及び荷電特性のため、マイクロプレートの良い材料の選択は非常に重要であり、極性のペプチド及びタンパク質を用いる蛍光測定用に特別に設計されたコーティングは、通常のガラス又はポリスチレンベースのウェル材料より良く適合する。ガラス又はポリスチレン材料を適用すると、本発明のプローブが微量定量プレートのウェルの表面に吸着してしまい、測定結果を誤って示しうる。
【0069】
〔蛍光プローブの特徴づけ〕
2nM及び20nMのARC-TAMRA溶液の滴定をcAPK Cαで行った。2倍の段階希釈を利用し、100nM〜0.05nMのキナーゼ濃度と、384-ウェル微量定量プレート上の20μLの反応体積を導いた。蛍光異方性の測定前、プレートを30℃で10分間回転させた(400rpm)。測定の光学条件を以下のように設定した:540nmの励起及び590nmの発光(20nmの帯域フィルター)。Kdを見出すため、下記関数を用い、非線形回帰により、滴定曲線を科学的曲線の当てはめプログラム、例えば、GraphPad Prism 4.03で解析した。
【0070】
【数8】

,
【0071】
式中、Aは測定した異方性であり、Af−フリーなARC-Photoの異方性値、Ab−結合したARC-Photoの異方性値、;Lt−ARC-Photoの全濃度、Rt−酵素の公称全濃度、k−酵素の公称濃度で除した活性酵素の濃度、Kd−酵素とのARC-Photo複合体の解離定数。該複合体について0.4というKd値を決定した(図5)。
【0072】
〔阻害定数(Ki)の決定〕
阻害定数(Ki)を決定するため、所定インヒビターの3-倍の段階希釈を滴定実験と同様に行った。蛍光異方性の測定前、30℃で10分間プレートを回転させた(400rpm)。
ATP-競合インヒビターH89では13nM、基質タンパク質-競合インヒビターRIIa(cAPKの調節サブユニット)では0.5nM、二基質インヒビターAdcAhx(L-Arg)6-NH2では21nM及び二基質インヒビターAdcAhx(D-Arg)6-NH2では1.1nMというKi値を決定した(図6)。
競合的結合について得られたKi値は、cAPK Cαによって媒介されるリン酸化反応の同化合物の阻害定数(実施例2)及び0.5のmlのセル中の蛍光分光計を用いて同蛍光プローブで決定した阻害定数(実施例5)と良く一致する。
【実施例8】
【0073】
〔蛍光プローブARC-TAMRAとRho-関連キナーゼROCK IIとの間の複合体の特徴づけ及びインヒビターの阻害定数の決定〕
実施例7で述べた手順に従い、384-ウェル微量定量プレートのウェル内で、かつプレートリーダーPHERAStarを用いる蛍光異方性の測定によって実験を行った。キナーゼROCK IIによる蛍光プローブARC-TAMRAの滴定により、ARC-TAMRAとキナーゼとの複合体の解離定数Kdを4nMと決定することができた(図7)。
キナーゼとの複合体(2nMのARC-Photoと15nMのROCK IIで形成した)から種々のROCKインヒビターによる蛍光プローブARC-TAMRAの置換は該インヒビターの特徴づけを可能にし、H89、Y-27632、及びL-ARCについてそれぞれ45nM、40nM、及び5nMというKi値だった(図8)。
ROCK IIと高い構造類似性を有する他のRho-関連キナーゼROCK Iを適用して同様の結果が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)を有する蛍光プローブ。
(X-Y-Z)-L-F (I)
(式中、
- X-Y-Zは、タンパク質キナーゼの二基質-類似体インヒビターであり、Xは、前記キナーゼのATP-結合ポケットに結合する化合物であり、かつ;
- Zは、前記キナーゼのタンパク質/ペプチド-結合ドメインに結合する化合物であり;
- Yは、XとZを連結し、かつ前記キナーゼの活性部位へのXとZの同時結合を可能にする有機テザーであり;
- Fは、前記キナーゼへの(X-Y-Z)-L-Fの結合の過程で光学特性が変化する蛍光色素であり;
- Lは、炭化水素鎖、他のタイプの有機分子又は有機分子の一部で形成されたリンカー(前記二基質-類似体インヒビターXYZと蛍光標識Fとの間の)であり、前記プローブ中、Lを省いてよく、かつFをインヒビターXYZに直接結合してよい。)
【請求項2】
XYZの構造がATP又はATP模倣体及びペプチド又はペプチド模倣体を含む、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項3】
Xがアデノシン又はアデノシン-ベース化合物である、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項4】
Xがプリン又はプリン-ベース化合物である、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項5】
Xがイソキノリン又はイソキノリン-ベース化合物である、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項6】
Zがペプチド又はペプチド模倣体である、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項7】
Zが、グアニジノ基を含有するアルギニン-リッチペプチド又はアルギニン-リッチペプチド模倣体、例えばペプトイドである、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項8】
Zが、D-アルギニン残基を含有するペプチドである、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項9】
Zが、6個のD-アルギニン残基を含有するペプチドである、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項10】
Yが1〜20個の炭素原子の炭化水素鎖、又はアルキレン鎖(いずれかのC原子が1個以上のアミド基若しくはエステル基又はO、N、P及びS原子と置き換わっている)であり、Yは、ペプチド若しくはペプトイド又はそれらの模倣体及びそれらの組合せから成る直鎖又は分岐鎖分子でよい、請求項1の蛍光プローブ。
【請求項11】
前記プローブの構造が下記構造である、請求項1の蛍光プローブ。
【化1】

【請求項12】
前記プローブの構造が下記構造である、請求項1の蛍光プローブ。
【化2】

【請求項13】
前記プローブの構造が下記構造である、請求項1の蛍光プローブ。
【化3】

【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブの、その前記キナーゼとの複合体からのインヒビター化合物による置換によって、キナーゼインヒビターを同定するためのアッセイであって、以下の工程:
1) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてKdを確立する工程;
2) 前記蛍光プローブを前記キナーゼと接触させて、形成された複合体の蛍光シグナルを測定する工程;
3) 前の工程で形成された複合体を、阻害性の可能性がある化合物又は化合物の混合物とインキュベートして前記プローブの蛍光シグナルを測定する工程;
4) 工程2)と工程3)の蛍光シグナルを比較する工程(これらの蛍光シグナルの差異は、工程3)の前記プローブ中の活性化合物の存在を示唆している)
を含んでなる方法。
【請求項15】
請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブの、その前記キナーゼとの複合体からのインヒビター化合物による置換によって、タンパク質キナーゼインヒビターの結合特性を決定するための方法であって、以下の工程:
1) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてKdを確立する工程;
2) 前記蛍光プローブを前記キナーゼと接触させて、形成された複合体の蛍光シグナルを測定する工程;
3) 前の工程で形成された複合体を一連の異なる濃度の前記インヒビター化合物とインキュベートして、前記インヒビターの各濃度で蛍光シグナルを測定する工程;
4) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてのKd及び工程3)の測定結果から進めて、前記インヒビター化合物の、その前記キナーゼの活性部位への結合についてKdを計算する工程
を含んでなる方法。
【請求項16】
前記プローブが請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブであり、前記シグナルを前記プローブの蛍光偏光のシフトとして測定する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記スクリーニングを複数ウェルプレート上で行う、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブの、その前記キナーゼとの複合体からのインヒビター化合物による置換によって、前記キナーゼのATP-結合ポケットを標的とする化合物の結合特性を決定するための方法であって、以下の工程:
1) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてKdを確立する工程;
2) 前記蛍光プローブを前記キナーゼと接触させて、形成された複合体の蛍光シグナルを測定する工程;
3) 前の工程で形成された複合体を一連の異なる濃度の前記インヒビター化合物とインキュベートして、前記インヒビターの各濃度で蛍光シグナルを測定する工程;
4) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてのKd及び工程3)の測定結果から進めて、前記インヒビター化合物の、その前記キナーゼのATP結合部位への結合についてKdを計算する工程
を含んでなる方法。
【請求項19】
請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブの、その前記キナーゼとの複合体からのインヒビター化合物による置換によって、前記キナーゼのタンパク質/ペプチド基質結合ドメインを標的とする化合物の結合特性を決定するための方法であって、以下の工程:
1) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてKdを確立する工程;
2) 前記蛍光プローブを前記キナーゼと接触させて、形成された複合体の蛍光シグナルを測定する工程;
3) 前の工程で形成された複合体を一連の異なる濃度の前記インヒビター化合物とインキュベートして、前記インヒビターの各濃度で蛍光シグナルを測定する工程;
4) 前記蛍光プローブと前記キナーゼの複合体についてのKd及び工程3)の測定結果から進めて、前記インヒビター化合物の、その前記キナーゼのタンパク質/ペプチド基質結合ドメインへの結合についてKdを計算する工程
を含んでなる方法。
【請求項20】
前記タンパク質キナーゼが好塩基性タンパク質キナーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
前記キナーゼがcAMP-依存性タンパク質キナーゼである、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
前記キナーゼがRho-関連キナーゼ(ROCK)である、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブをサンプルに接触させて、前記プローブ由来の蛍光異方性を測定することを特徴とする、前記サンプル中の前記キナーゼを定量化する方法であって、以下の工程:
1) 請求項1に記載の蛍光プローブと前記キナーゼとの複合体についてKdを確立する工程;
2) 前記蛍光プローブを、異なる希釈の前記キナーゼの一連のサンプルと接触させて、前記希釈サンプルで形成された複合体の蛍光シグナルを測定する工程;
3) 下記関係式によって前記キナーゼの活性(結合)形態のフラクションを計算する工程
【数1】

,
(式中、Aは測定した異方性であり;Afは、フリーな前記蛍光プローブの異方性であり;Abは、前記結合した蛍光プローブの異方性であり;LTは、添加した前記蛍光プローブの濃度であり;RTは、前記キナーゼの全濃度であり;Kdは、前記蛍光プローブと前記キナーゼとの間の反応の解離定数である)
を含んでなる方法。
【請求項24】
請求項14、15又は23のいずれか1項で定義したとおりの、タンパク質キナーゼのインヒビターの同定方法用又はインヒビターの結合特性の決定方法用のキットであって、請求項1〜13のいずれか1項の蛍光プローブを含んでなるキット。
【請求項25】
下記一般式(II):
X-Y-Z (II)
(式中、Xは、前記キナーゼのATP-結合ポケットに結合する化合物であり、かつ;
- Zは、1〜10個のD-アルギニン残基を組み入れたペプチド又はペプチド類似体であり;
- Yは、XとZを連結し、かつ前記キナーゼの活性部位へのXとZの同時結合を可能にする有機テザーである)
を有する、好塩基性タンパク質キナーゼの二基質-類似体インヒビター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−500580(P2010−500580A)
【公表日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−524078(P2009−524078)
【出願日】平成19年8月14日(2007.8.14)
【国際出願番号】PCT/EE2007/000015
【国際公開番号】WO2008/019696
【国際公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【出願人】(503334909)ユニヴァーシティー オブ タルトゥ (2)
【Fターム(参考)】