説明

タンパク質中の高分子結合領域および凝集しやすい領域を同定するための方法およびその使用

本発明は、タンパク質の高分子結合領域および凝集しやすい領域を同定するコンピュータシミュレーションに少なくとも部分的に基づく方法およびコンピュータツールを提供する。次いで、置換は、増強された安定性および/または低下した凝集傾向を有するタンパク質を設計するためにこれらの凝集しやすい領域においてなされてもよい。同様に、次いで、置換は、高分子に対する変更された結合親和性を有するタンパク質を設計するためにこれらの高分子結合領域においてなされてもよい。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
タンパク質安定性の理解およびコントロールは、生物学者、化学者、および技術者にとって切望される試みであった。アミノ酸置換および疾患の間の第1の関係(非特許文献1)は、健康および疾患における、タンパク質安定性に対する新しく本質的な展望を提供した。タンパク質に基づく医薬品の最近の莫大な増加は、新しい障害を生み出した。治療用タンパク質は、非常に高濃度で数か月の間、液体中で保存される。非単量体種のパーセントが、時と共に増加する。凝集体が形成されると、産物の効能が減少するだけではなく、投与に際しての免疫応答などのような副作用が生じ得る。産物の貯蔵寿命のためのタンパク質医薬品の安定性を確実にすることは、避けられない。
【0002】
様々な疾患の治癒におけるそれらの潜在能力のために、抗体は、現在最も急速に成長しているクラスのヒト治療薬を構成する(非特許文献2)。2001年以来、それらの市場は、35%の平均年間成長率で成長しており、これは、バイオテクノロジー薬剤のすべてのカテゴリーの中で最も高い率である(非特許文献3)。
【0003】
治療用抗体は、疾患治療に必要なように、高濃度で水溶液中に調製および保存される。しかしながら、これらの抗体は、これらの条件下で熱力学的に不安定となり、凝集により分解する。凝集は、ひいては、抗体活性の減少に至り、薬剤を無効性にし、さらに、免疫応答を生成し得る。そのため、タンパク質のどの領域が凝集に関与するのかを発見するためにおよび凝集を妨害するための戦略を開発するために、どのようにこれらの抗体および実際にタンパク質全般が凝集するのかについてメカニズムの理解を深めるための緊急の必要性がある。
【0004】
これらの実施は、抗体治療薬にとって特に重要である。抗体安定化に対する1つのアプローチは、抗原結合特異性を付与するCDRループをより安定性のフレームワーク上に移植することである(Ewert, HoneggerおよびPluckthun、Biochemistry.2003年、42巻(6号):1517〜28頁)。このアプローチは、CDRループ中のアミノ酸配列が凝集の推進力とならない場合およびCDRループを、より安定性のフレームワーク上に移植することにより抗原結合特異性が変化しない場合にのみ成功するであろう。
【0005】
タンパク質の凝集しやすい領域の予測に関する技術は、2つのカテゴリー、1)現象論的モデルおよび2)分子シミュレーション技術に分類することができる。現象論的モデルは、疎水性、β−シート傾向などのような特性を使用してタンパク質一次配列から凝集「ホットスポット」を予測することに主に基づくのに対して、分子シミュレーション技術は、凝集する傾向がある領域を位置づけるためにタンパク質の3次元構造および動力学を使用する。ほとんどの技術は、アミロイド線維形成、およびβ−シート形成が優勢である他の小さなタンパク質の凝集を理解することに向けられてきた。
【0006】
現象論的モデルは、タンパク質一次配列から凝集しやすい領域を予測するために疎水性、β−シート傾向などのような物理化学的特性に基づいて開発されてきた(Caflisch、Current Opinion in Chemical Biology.2006年、10巻、437〜444頁、ChitiおよびDobson. Annu. Rev. Biochem.2006年、75巻:333〜366頁)。最初の現象論的モデルの1つは、小さな球状タンパク質「ヒト筋肉アシルホスファターゼ(AcP)、加えて、他の構造不定のペプチドおよび本来折り畳まれていないタンパク質の凝集の動態の突然変異研究に基づくものであった(Chitiら Nature.2003年、424巻 805〜808頁、米国特許第7379824号]。この研究は、凝集と、β−シート傾向、疎水性、および電荷などのような物理化学的特性との間の単純な相関を明らかにした。これらの研究は、タンパク質が主に構造不定である条件下で行われた。したがって、配列を凝集傾向に関連づける3パラメータ経験的モデルが開発された(Chitiら Nature.2003年、424巻、805〜808頁)。このモデルはまた、その凝集傾向を低下させるための、32残基ペプチドホルモンカルシトニンの変異体を提案するために使用された(Fowlerら Proc Natl Acad Sci USA.2005年、102巻、10105〜10110頁)。DuBayおよび共同研究者らは、3パラメータ方程式(Chitiら Nature.2003年、424巻、805〜808頁)を、ポリペプチド鎖の内部特性ならびに溶液のペプチド濃度、pH値、およびイオン強度などのような環境に関する外因子を含む7パラメータ式に拡張した(Dubayら J Mol Biol.2004年、341巻、1317〜1326頁)。このモデルを使用して、彼らは、広範囲の構造不定のペプチドおよびタンパク質のin vitro凝集率を再現することができた。しかしながら、7パラメータモデルの主な限界は、配列中のすべての残基が同じ相対的重要度を与えられたということである。これは、ある領域がそれらの二次構造の傾向に依存して他のものよりも重要であることを示す実験的な観察およびシミュレーション観察と一致しない。最近、この分析は、明確な構造をもつポリペプチド鎖の凝集を説明するための保護因子(protection factor)を含むようにさらに拡張された(Tartaglia, G. G.、Pawar, A. P.、Campioni, S、Dobson, C. M.、Chiti, F.、およびVendruscolo, M. J Mol Biol(2008年) 印刷中)。予測された部位のいくつかは、リゾチーム、ミオグロビンなどのようなタンパク質について公知の凝集傾向部位と一致していた。突然変異に際しての凝集体線維の伸長率の変化を予測し、凝集傾向セグメントを同定するために、自由パラメータを有していない現象論的モデルが開発された(Tartagliaら Protein Sci.2004年、13巻、1939〜1941頁、Tartagliaら Protein Sci.2005年、14巻、2723〜2734頁)。使用される物理化学的特性は、突然変異に際してのβ−傾向の変化、芳香族残基の数の変化、および全電荷の変化である。さらに、野生型および突然変異体の側鎖が両方とも極性または両方とも無極性である場合、露出表面積の比率が考慮に入れられるのに対して、極性側鎖の双極子モーメントは、無極性から極性への(または極性から無極性への)突然変異の場合に使用される。このモデルは、一組の26ヘプタペプチド配列の相対的な凝集傾向を再現し、これは、見当の合った(in−register)平行β−シート配置を好むことが予測された。
【0007】
DuBayおよび共同研究者らのモデル(Dubayら J Mol Biol.2004年、341巻、1317〜1326頁)は、α−ヘリックス傾向および疎水性パターンを包含し、所与のアミノ酸配列の凝集傾向スコアを、同様の長さの一組の配列について計算された平均傾向と比較することにより改変された(Pawarら、J Mol Biol.2005年、350巻、379〜392頁)。このモデルは、3つの本来折り畳まれていないポリペプチド鎖:Aβ42、αシヌクレイン、およびタウタンパク質の凝集傾向セグメントについて検証された。
【0008】
TANGOと呼ばれる他のアルゴリズム(Fernandez−Escamillaら、Nat Biotechnol.2004年、22巻、1302〜1306頁)が、開発され、これは、アミノ酸が凝集状態で完全に埋没しているという仮定を補い、同じ物理化学的パラメータを比較検討する。これは、タンパク質配列のβ−凝集性領域および突然変異の効果を予測するための二次構造傾向および脱溶媒和ペナルティー(desolvation penalty)の評価に基づく。前に議論されたモデルとは対照的に、TANGOは、FOLD−X力場を使用することによって本来の状態安定性を考慮に入れる。TANGOを用いて凝集の絶対的な比率を計算することはできないが、それは、配列が著しく異なるペプチドまたはタンパク質間の質的な比較を提供する。Serranoおよび共同研究者ら(Lindingら、J Mol Biol.2004年、342巻、345〜353頁)は、40%の配列同一性の上限を有する一組の非重複球状タンパク質のβ−凝集傾向を分析するためにTANGOを使用した。
【0009】
さらなるアルゴリズム、Prediction of Amyloid StrucTure Aggregation(PASTA)は、β−シート内で互いに面する残基についての対のエネルギー関数を編集することによって最近導入された(Trovatoら、Protein Engineering, Design & Selection.2007年、20巻(10号)、521〜523頁、Trovatoら、PLoS Comput. Biol.2006年、2巻、1608〜1618頁、Trovatoら、J. Phys.: Condens. Matter.2007年 19巻、285221頁)。YoonおよびWelsh(YoonおよびWelsh、Protein Sci.2004年、13巻:2149〜2160頁)は、三次接触の数を条件とするタンパク質セグメントのβ−凝集傾向を検出するための構造ベースのアプローチを開発した。スライド7残基ウィンドウを使用して、密接に詰められた環境(つまり多くの三次接触(tertiary contact)を有する)において強いβ−シート傾向を有するセグメントは、線維形成の局所的な媒介物となることが示唆された。
【0010】
上記に説明される現象論的モデルが、小さなペプチドおよび変性タンパク質について十分に機能することが示されたが、凝集傾向は、三次構造および本来の状態の安定性が非常に重要となる、抗体などのような球状タンパク質では異なり得るであろう。
【0011】
凝集しやすい領域を予測し、凝集のメカニズムを研究するための分子シミュレーション技術は、多くは、より単純なシミュレーションモデルを使用してきた(MaおよびNussinov. Curr. Opin. Chem. Biol.2006年、10巻、445〜452頁、Cellmerら、TRENDS in Biotechnology 2007年、25巻(6号)、254頁)。採用された最も細密性が低いシミュレーションモデルは、格子モデルであり、それぞれの残基は、三次元格子上の単一の部位を占めるビーズとして表される。中間の解像度モデルなどのようなより精密なモデルが後続したが、同様に、タンパク質の二次および三次構造を正確に表すことができなかった。
【0012】
より単純なモデルとは異なり、原子モデルは、水素結合などのような原子の細部をすべて含み、したがって、格子モデルまたは中間の解像度モデルよりも正確である。そのような原子モデルは、明示的な(explicit)溶媒または暗黙の(implicit)溶媒と共に使用され、ここで溶媒は連続体(continuum)として扱われる。明示的なモデルは、より正確なだけではなく、コンピュータへの要求が高い。その後、分子動力学シミュレーションプロトコールが、アミロイド形成的ポリペプチドの規則的なβ−凝集についての構造情報を得るために開発された(Cecchiniら、J Mol Biol.2006年、357巻、1306〜1321頁)。しかしながら、そのような手順が、特に抗体などのような大きなタンパク質については、コンピュータへの要求が極めて高いので、文献中に完全抗体原子シミュレーションはないように思われる。しかしながら、多くはFabフラグメントについての、抗体の小さな部分の原子シミュレーションはあった(Noonら、PNAS.2002年、99巻、6466頁、SinhaおよびSmith−Gill、Cell Biochemistry and Biophysics.2005年、43巻、253頁)。
【0013】
抗体凝集を予防するための多数の既存のアプローチは、タンパク質製剤における添加剤の使用を利用する。これは、抗体それ自体が分子シミュレーションから予測される凝集しやすい領域に基づいて改変される、本明細書において記載される直接的なアプローチとは異なる。抗体安定化において一般に使用される添加剤は、アルギニン、グアニジン、またはイミダゾールなどのような窒素含有塩基の塩である(EP0025275)。安定化に適した他の添加剤は、ポリエーテル(EPA0018609)、グリセリン、アルブミン、および硫酸デキストラン(米国特許第4808705号)、洗浄剤およびポリソルベートを主成分とする界面活性剤などのような界面活性剤(公開DA2652636および公開GB2175906(英国特許出願GB8514349))、GroELなどのようなシャペロン(Mendoza、Biotechnol. Tech.1991年、(10巻)535〜540頁)、シトレートバッファー(WO9322335)、またはキレート剤(WO9115509)である。これらの添加剤は、溶液中である程度までタンパク質を安定化することができるが、それらは、添加剤除去のためのさらなるプロセシングステップの必要性などのようなある種の不利益を被る。したがって、新しい方法が、タンパク質凝集に関与するメカニズムを理解し、この現象を媒介するタンパク質領域を同定するために必要とされる。そのような方法は、様々な診断分野および治療分野において有用となろう、また、抗体治療薬などのようなタンパク質組成物が、添加剤の使用を伴わないで直接安定化されることを可能にするであろう。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Ingram. Nature.(1957年)180巻(4581号):326〜8頁
【非特許文献2】Carter. Nature Reviews Immunology.(2006年)6巻(5号),343頁
【非特許文献3】S. Aggarwal. Nature. BioTech.(2007年)25巻(10号)1097頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、タンパク質の凝集しやすい領域を同定するコンピュータシミュレーションに少なくとも部分的に基づく方法およびコンピュータツールを提供する。次いで、置換は、増強された安定性および/または低下した凝集傾向を有するタンパク質を設計するためにこれらの凝集しやすい領域においてなされてもよい。
【0016】
さらに、本発明は、タンパク質の高分子結合領域を同定するコンピュータシミュレーションに少なくとも部分的に基づく方法およびコンピュータツールを提供する。次いで、置換および欠失は、高分子に対する変更された結合親和性を有するタンパク質を設計するためにこれらの高分子結合領域においてなされてもよい。
【0017】
一態様では、本発明は、タンパク質中の特定の原子についての空間的凝集傾向(Spatial−Aggregation−Propensity)(SAP)を計算するための方法であって、(a)タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数の原子を同定するステップであって、1つまたは複数の原子は、特定の原子を中心とする、またはその近くの規定された空間的領域内にある、ステップ、(b)規定された空間的領域内の1つまたは複数の原子について、原子の溶媒接触可能面積(SAA)の、完全に露出した同一残基中の原子のSAAに対する比率を計算するステップ、(c)それぞれの比率に1つまたは複数の原子の原子疎水性を掛けるステップ、ならびに(d)ステップ(c)の積を合計するステップを含み、それによってその合計が特定の原子についてのSAPとなる方法を提供する。
【0018】
関連する実施形態では、タンパク質中の特定の原子についての空間的凝集傾向(SAP)を計算するための方法は、(a)タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数のアミノ酸残基を同定するステップであって、1つまたは複数のアミノ酸残基は、特定の原子を中心とする、またはその近くの規定された空間的領域内の少なくとも1つの原子を有する、ステップ、(b)規定された空間的領域内の原子について、原子の溶媒接触可能面積(SAA)の、完全に露出した同一残基中の原子のSAAに対する比率を計算するステップ、(c)それぞれの比率に、アミノ酸疎水性スケールによって決定される1つまたは複数のアミノ酸残基の疎水性を掛けるステップ、ならびに(d)ステップ(c)の積を合計するステップを含み、それによってその合計が特定の原子についてのSAPとなる。
【0019】
特定の実施形態では、規定された空間的領域は、任意の三次元の体積または領域であることが理解される。特定の実施形態では、規定された空間的領域は、球体、立方体、円柱、角錐形、および回転楕円体(elliptical spheroid)を含む群から選択される。いくつかの実施形態では、規定された空間的領域は、1〜30Åまたはそれ以上の半径を有する球体と等価な体積を有する領域である。いくつかの実施形態では、半径は、50Åまたはそれ以上であってもよい。いくつかの好ましい実施形態では、規定された空間的領域の半径は、5Åまたは10Åである。
【0020】
好ましい実施形態では、規定された空間的領域は、1〜30Åの半径を有する球体である。いくつかの実施形態では、球体は、特定の原子を中心とするのに対して、他の実施形態では、規定された空間的領域または球体は、化学結合を中心とする、またはSAPが計算される原子の近くの空間におけるある点を中心とする。
【0021】
いくつかの実施形態では、規定された空間的領域は、特定の原子から30Å以内の空間におけるある点を中心とする、またはいくつかの好ましい実施形態では、規定された空間的領域は、特定の原子から20Å以内、10Å以内、5Å以内、2Å以内、1Å以内の空間におけるある点を中心とする。
【0022】
いくつかの実施形態では、規定された空間的領域内の1つまたは複数の原子は、1つまたは複数のアミノ酸の側鎖中の原子である。
【0023】
さらなる実施形態では、構造モデル中の選ばれた半径内の1つまたは複数の原子は、1つもしくは複数のアミノ酸の側鎖中にあってもよいまたは1つもしくは複数のアミノ酸の側鎖中にあることが必要とされる。あるいは、構造モデル中の選ばれた半径内の1つまたは複数の原子は、1つもしくは複数のアミノ酸の主鎖原子であってもよいまたは1つもしくは複数のアミノ酸の主鎖原子であることが必要とされる。
【0024】
SAP計算の一部である溶媒接触可能面積(SAA)は、いくつかの実施形態では、アミノ酸側鎖中の原子についてのみ計算されてもよいまたはいくつかの実施形態では、主鎖原子についてのみ計算されてもよい。主鎖原子は、結合水素原子を含んでいてもよいまたは含んでいなくてもよい。
【0025】
いくつかの特に好ましい実施形態では、タンパク質構造モデルは、たとえば、任意選択で溶媒を含む分子動力学シミュレーションを実行することによってSAPの計算前に処理される。溶媒は、水、当技術分野で公知の他の溶媒であってもよいまたは溶媒はなくてもよい。いくつかの特に好ましい実施形態では、タンパク質構造モデルは、たとえば、Monte Carloシミュレーションを実行することによってSAPの計算前に処理される。
【0026】
他の態様では、SAPの計算は、分子動力学シミュレーションを実行するステップおよび分子動力学シミュレーションにおける複数回のステップに関して計算されたSAPの値を平均するステップをさらに含んでいてもよい。たとえば、特定の原子についてのSAPは、上記のステップ(a)の前に分子動力学シミュレーションを行い、ステップ(a)〜(d)を繰り返し、複数回のステップで、毎回、さらなる分子動力学シミュレーションを行い、それによって、ステップ(d)でのように複数の合計をもたらし、合計の平均を計算することによって計算されてもよく、計算された平均は、特定の原子についてのSAPとなる。他の実施例では、Monte Carloシミュレーションは、適所に使用することができる、または分子動力学シミュレーションと組み合わせて使用することができる。
【0027】
さらなる実施形態では、SAPスコアは、複数のアミノ酸に関して合計されてもよい、たとえば、タンパク質構造モデル上の凝集しやすい領域または表面パッチ中の1〜50のアミノ酸に関して合計してもよい。特に好ましい実施形態では、SAPは、1〜20のアミノ酸、1〜15のアミノ酸、1〜10のアミノ酸、1〜5のアミノ酸、1〜3のアミノ酸に関して合計されるまたはSAPは、2つの隣接アミノ酸にわたって合計されてもよい。いくつかの実施形態では、合計は、タンパク質配列に沿って連続してまたはタンパク質構造において空間的に隣接していてもよい、隣接アミノ酸に関して得られてもよい。
【0028】
方法が、分子動力学シミュレーションを必要とする場合、シミュレーションは、ABINIT、AMBER、Ascalaph、CASTEP、CPMD、CHARMM、DL_POLY、FIREBALL、GROMACS、GROMOS、LAMMPS、MDynaMix、MOLDY、MOSCITO、NAMD、Newton−X、ProtoMol、PWscf、SIESTA、VASP、TINKER、YASARA、ORAC、およびXMDを含むまたはそれからなる群から選ばれるシミュレーションパッケージを使用して実行されてもよい。特に好ましい実施形態では、シミュレーションパッケージは、CHARMMシミュレーションパッケージである。他の好ましい実施形態では、シミュレーションパッケージは、NAMDシミュレーションパッケージである。
【0029】
方法が、側鎖、残基、またはタンパク質内の1つまたは複数の原子について計算を実行する(たとえば1つまたは複数の原子についてSAAを計算する)ことを必要とする場合、計算は、原子、原子の対、原子の組合せもしくは群、原子の部分、または空間的領域、側鎖、残基、タンパク質などにおけるそれぞれの原子もしくはすべての原子についてのものとすることができることが当業者によって十分に理解されるであろう。本発明の方法論において示される計算を実行する場合、当業者はまた、計算(たとえばSAA計算)が、アミノ酸残基、側鎖、および原子、原子の群などを含むその他同種のものについてなすことができることも十分に理解するであろう。
【0030】
さらなる好ましい実施形態では、構造モデルは、タンパク質もしくはその部分のX線結晶構造モデルであるまたは構造モデルは、タンパク質もしくはその部分の理論的なタンパク質構造モデルであってもよい。関連する実施形態では、理論的な構造モデルは、タンパク質またはその部分の相同性モデルである。他の実施形態では、理論的な構造モデルは、タンパク質またはその部分のアブイニシオタンパク質構造モデル(ab initio protein structural model)である。
【0031】
他の態様では、本発明は、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法を提供する。一実施形態では、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法は、(a)タンパク質中の原子について本明細書において記載される任意の方法に従って計算されるSAPを構造モデル上にマッピングするステップおよび(b)SAP>0を有する複数の原子を有する、タンパク質内の領域を同定するステップを含み、凝集しやすい領域は、上述の複数の原子を含むアミノ酸を含む。いくつかの実施形態では、方法は、選ばれた閾値を超えるSAPを有する1つまたは複数の原子を含有する1つまたは複数のアミノ酸を同定するステップを含み、SAPは、本明細書において記載される任意の方法に従って計算され、凝集しやすい領域は、同定されたアミノ酸を含む。
【0032】
他の実施形態では、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法は、本明細書において記載される任意の方法に従って計算されるSAP値をプロットするステップ、プロット中のピークについて曲線下面積(AUC)をさらに計算するステップ、および正のAUCを有する1つまたは複数のタンパク質領域を同定するステップを含み、凝集しやすい領域は、同定されたタンパク質領域を含む。
【0033】
他の態様では、本発明は、低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法を提供する。好ましい一実施形態では、低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、タンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を交換する、または欠失させるステップを含み、凝集しやすい領域は、本明細書において記載される任意の方法に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、アミノ酸残基が交換される場合、それは、変異体の凝集傾向が低下するように、より親水性のアミノ酸残基と交換される。いくつかの特定の実施形態では、少なくとも1つの残基は、交換され、少なくとも1つの残基は、欠失させられる。
【0034】
他の実施形態では、低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法は、(a)それぞれの変異体において、タンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つの残基を交換することによって複数のタンパク質変異体を生成するステップであって、凝集しやすい領域は、本明細書において記載される任意の方法に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、1つまたは複数の異なる残基または残基の異なる組合せは、それぞれの変異体において交換され、少なくとも1つの残基は、より親水性の残基と交換されるステップおよび(b)低下した凝集傾向を示す(a)でのように調製されたタンパク質変異体を選択するステップを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、置換のために選択されるアミノ酸は、凝集しやすい領域内で最も疎水性のアミノ酸(当技術分野で認識される疎水性スケールによって決定される)である。特定の実施形態では、置換のために選択されるアミノ酸は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、Ala、またはGlyである。そのような特定の実施形態では、タンパク質に置換されるより親水性のアミノ酸は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、Asp、およびArgからなる群から選択されてもよい。多くの場合、どの残基が他のものよりも親水性または疎水性が高いかまたは低いかを決めるための好ましい疎水性スケールは、Black and Mould疎水性スケールである。
【0036】
いくつかの実施形態では、凝集しやすい領域内の少なくとも2つのアミノ酸残基が、交換される。関連する実施形態では、凝集しやすい領域内の少なくとも3つのアミノ酸残基が、交換される。さらに、同様の実施形態では、少なくとも1つの残基は、タンパク質内の1つを超える凝集しやすい領域内で交換される。
【0037】
好ましい実施形態では、本明細書において記載される方法は、抗体、Fab断片、Fab’断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)断片、およびFc断片からなる群から選択されるタンパク質に適用される。
【0038】
他の好ましい実施形態では、本明細書において記載される方法は、サイトカイン、ケモカイン、リポカイン、ミオカイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、またはインターフェロンからなる群から選択されるタンパク質に適用される。いくつかの特定の実施形態では、タンパク質は、ホルモンもしくは増殖因子、受容体もしくは受容体ドメイン、または神経伝達物質もしくはニューロトロフィンであってもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質は、ペプチド模倣薬、改変タンパク質、非天然アミノ酸を含むタンパク質、またはまれなアミノ酸を含むタンパク質である。
【0039】
他の態様では、本発明はまた、タンパク質中のアミノ酸残基についての有効−SAAを計算するための方法をも提供する。タンパク質中のアミノ酸残基についての有効−SAAを計算するための好ましい方法は、(a)アミノ酸について、完全に露出した同一残基中の原子の溶媒接触可能面積(SAA)に対するアミノ酸中の原子のSAAの比率を計算するステップ、(b)比率に、アミノ酸疎水性スケールによって決定されるアミノ酸の疎水性を掛けるステップを含み、それによって、その積がアミノ酸についての有効−SAAとなる。さらに、タンパク質中のアミノ酸残基についての有効−SAAは、3つのアミノ酸またはいくつかの実施形態では、タンパク質配列中で隣接する2、4、5、もしくは6つのアミノ酸に関して有効−SAAを合計するステップをさらに含む方法によって計算されてもよい。
【0040】
他の態様では、本発明はまた、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、(a)タンパク質中の原子について先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPをタンパク質の構造モデル上にマッピングするステップおよび(b)SAP>0を有する複数の原子を有する、タンパク質内の領域を同定するステップを含み、高分子結合領域は、上述の複数の原子を含むアミノ酸を含む方法をも含む。
【0041】
他の態様では、本発明は、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、選ばれた閾値を超えるSAPを有する1つまたは複数の原子を含有する1つまたは複数のアミノ酸を同定するステップを含み、SAPは、先の態様のいずれか1つの方法に従って計算され、高分子結合領域は、同定されたアミノ酸を含む方法を含む。
【0042】
他の態様では、本発明は、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、先の態様のいずれか1つにおいて計算されるSAP値をプロットするステップ、プロット中のピークについて曲線下面積(AUC)を計算するステップ、および正のAUCを有する1つまたは複数のタンパク質領域を同定するステップを含み、高分子結合領域は、同定されたタンパク質領域を含む方法を含む。
【0043】
他の態様では、本発明は、高分子に対する低下した結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、タンパク質中の高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を交換する、または欠失させるステップであって、高分子結合領域は、先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、アミノ酸残基が交換される場合、それは、高分子に対する結合親和性が低下するように、より親水性のアミノ酸残基と交換される方法を含む。ある実施形態では、少なくとも1つの残基は、交換され、少なくとも1つの残基は、欠失させられる。他の態様では、本発明はまた、高分子に対する変更された結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、(a)それぞれの変異体において、タンパク質中の高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つの残基を交換することによって複数のタンパク質変異体を生成するステップであって、高分子結合領域は、先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、1つまたは複数の異なる残基または残基の異なる組合せは、それぞれの変異体において交換されるステップおよび(b)高分子に対する変更された結合親和性を示す(a)でのように調製されたタンパク質変異体を選択するステップを含む方法をも含む。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基は、高分子結合領域内の最も疎水性の残基である。ある実施形態では、凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、Ala、またはGlyである。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、Asp、およびArgからなる群から選択される。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、まれなアミノ酸、非天然アミノ酸、または改変アミノ酸である。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、Black and Mouldの疎水性スケールに従って決定される。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも2つのアミノ酸残基が、交換される。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも3つのアミノ酸残基が、交換される。ある実施形態では、少なくとも1つの残基は、タンパク質内の1つを超える凝集しやすい領域内で交換される。ある実施形態では、凝集しやすい領域は、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための先の態様のいずれか1つの方法に従って同定される。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、高分子は、他のタンパク質、ポリヌクレオチド、または多糖である。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、抗体、Fab断片、Fab’断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)断片、およびFc断片からなる群から選択される。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、リポカイン、ミオカイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、またはインターフェロンである。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子である。ある実施形態では、高分子は、ホルモン受容体または増殖因子受容体である。ある実施形態では、タンパク質は、受容体または受容体のドメインである。ある実施形態では、高分子は、受容体または受容体ドメインの受容体アゴニストまたは受容体アンタゴニストである。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、神経伝達物質またはニューロトロフィンである。ある実施形態では、高分子は、神経伝達物質受容体またはニューロトロフィン受容体である。
【0044】
他の態様では、本発明はまた、結合パートナーとの相互作用に対する改変された傾向を示すタンパク質変異体を含む医薬組成物を作製するための方法であって、薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または賦形剤と一緒に、先の態様のいずれかのプロセスに従って得られるタンパク質変異体を製剤するステップを含む方法をも含む。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明は、より深くタンパク質凝集のメカニズムを理解し、凝集に関与するタンパク質領域を同定するための未解決の必要性について検討する。本発明は、少なくとも部分的に、凝集に対する、可能性としてすべての治療用タンパク質の安定性を改良するために、本明細書において記載される実験的方法と共に使用することができるシミュレーション技術を提供する。この技術は、抗体ベースの療法が、すべてのクラスのヒト治療薬の中で最も高いペースで成長していることを考慮すると、莫大な科学的および営利的な潜在能力を示す。凝集は、潜在的な抗体医薬候補の迅速な製品化を妨害する、抗体医薬開発のほとんどのステージにおいて遭遇する一般の問題である。したがって、本明細書において記載される方法を使用する凝集の予防は、タンパク質医薬開発に重要な影響を有し得る。
【0046】
さらに、本発明は、本明細書において示される方法を使用して容易に同定することができる大きな疎水性パッチによって少なくとも部分的に媒介されることが多い、他の高分子との結合に関与するタンパク質領域を正確に同定するための未解決の必要性について検討する。本発明は、少なくとも部分的に、大きな疎水性パッチによって少なくとも部分的に媒介される、可能性としてすべてのタンパク質−分子間相互作用の結合親和性を改変するために本明細書において記載される実験的方法と共に使用することができるシミュレーション技術を提供する。この技術は、タンパク質ベースの療法が、すべてのクラスのヒト治療薬の中で最も高いペースで成長していることを考慮すると、莫大な科学的および営利的な潜在能力を示す。1つまたは複数の高分子に対するタンパク質治療薬の結合親和性を改変するための能力は、効能を改良し、望まれない第2の高分子結合領域によって媒介される活性を低下させるまたは排除するために使用することができる。
【0047】
本発明は、とりわけ、タンパク質の凝集を低下させるもしくは予防する、または高分子に対する結合親和性を改変するための方法を提供する。特に、方法は、タンパク質相互作用、タンパク質−高分子間相互作用、またはタンパク質凝集に参加し得る、タンパク質構造上の疎水性領域を同定するために提供される。提供される方法は、「空間的凝集傾向」または「SAP」として本明細書において開示される新しい技術に基づく。SAPツールはまた、他のタンパク質と結合する傾向がある抗体の領域を正確に同定する。抗体に加えて、このツールは、凝集しやすい領域または他のタンパク質もしくはリガンドに結合する領域の同定のためにすべてのタンパク質に広く適用することができる。本発明の方法は、3次元構造が入手可能であるまたは3次元構造がホモロジーモデリング、分子モデリング、もしくはアブイニシオ構造決定を使用して作製されてもよい任意のタンパク質に適用されてもよい。一般に、「SAP」は、本明細書において記載される方程式および方法論を使用して、複数の方法で計算されてもよく、たとえば、SAPは、タンパク質構造モデルに基づいて計算されてもよいまたは構造モデルの分子動力学シミュレーションの複数回のステップに関しての平均として計算されてもよい。特定の計算法および得られる結果は、本明細書において記載されるように変動してもよいが、根本原理は、SAPは、タンパク質中の残基の疎水性を説明するだけではなく、タンパク質の3次元構造における残基の疎水性および折り畳まれたタンパク質構造中のアミノ酸残基の近くの残基の疎水性をも説明する測定値であるという事実に基づく。
【0048】
「タンパク質」は、長さ、翻訳後修飾、化学的修飾、または機能には関係なく、隣接アミノ酸のカルボキシル基およびアミノ基の間のペプチド結合によってともに結合される2つまたはそれ以上のアミノ酸(「アミノ酸残基」または「残基」とも本明細書において呼ばれる)の任意の配列を意味する。「ポリペプチド」、「ペプチド」、および「タンパク質」は、区別なく本明細書において使用される。好ましい実施形態では、本発明の方法は、折り畳まれて3次元構造になるのに十分な長さのタンパク質に適用される。いくつかの実施形態では、タンパク質は、天然に存在するタンパク質である。いくつかの実施形態では、タンパク質は、化学的に合成される。いくつかの実施形態では、タンパク質は、組換えタンパク質、たとえばハイブリッドタンパク質またはキメラタンパク質である。いくつかの実施形態では、タンパク質は、複合体形成タンパク質(たとえば複合体形成相互作用性タンパク質)である。タンパク質は、単離することができる(たとえば天然の供給源または化学的な環境から)。いくつかの実施形態では、タンパク質は、改変タンパク質またはペプチド模倣薬であってもよい。いくつかの実施形態では、タンパク質は、誘導体化タンパク質、たとえば化学的にコンジュゲートされたタンパク質であってもよい(ポリマーコンジュゲートタンパク質(たとえばペグ化タンパク質)を含むが、これらに限定されない)。本明細書において使用されるように、用語「タンパク質」はまた、タンパク質断片を含むようにも意図される。例示的なタンパク質は、抗体を含む(その断片、変異体、および誘導体を含むが、これらに限定されない)。
【0049】
実際に、本発明の方法は、構造モデルが入手可能であるまたは生成されてもよい任意のアミノ酸を主成分とする分子に適用されてもよいことが考えられる。たとえば、本明細書において記載される方法は、本明細書において記載される改変タンパク質またはまれなアミノ酸もしくは非天然アミノ酸を組み込むタンパク質に適用されてもよい。いくつかの実施形態では、まれなアミノ酸、非天然アミノ酸、または改変アミノ酸の構造は、本明細書において記載される方法の適用のためにコンピュータで構造モデルに置換されてもよいまたは挿入されてもよい。ペプチド類似体、ペプチド誘導体、およびペプチド模倣薬を実験的に設計するための方法は、当技術分野で公知である。たとえば、Farmer, P.S. Drug Design (E.J. Ariens編)Academic Press、New York、1980年、10巻、119〜143頁中、Ball. J.B.およびAlewood, P.F.(1990年)J. Mol. Recognition 3巻:55頁、Morgan, B.A.およびGainor, J.A.(1989年)Ann. Rep. Med. Chem. 24巻:243頁、ならびにFreidinger, R.M.(1989年)Trends Pharmacol. Sci.10巻:270頁を参照されたい。Sawyer, T.K.(1995年)「Peptidomimetic Design and Chemical Approaches to Peptide Metabolism」、Taylor, M.D.およびAmidon, G.L.(編)Peptide−Based Drug Design: Controlling Transport and Metabolism、17章中、Smith, A.B. 3rdら(1995年)J. Am. Chem. Soc. 117巻:11113〜11123頁、Smith, A.B. 3rdら(1994年)J. Am. Chem. Soc.116巻:9947〜9962頁、ならびにHirschman, R.ら(1993年)J. Am. Chem. Soc.115巻:12550〜12568頁もまた参照されたい。
【0050】
多数の様々なペプチド治療剤、ポリペプチド治療剤、およびタンパク質治療剤が、当技術分野で公知であり、本発明の方法から利益を得ることが期待される。これらの治療剤は、とりわけホルモン、タンパク質、抗原、免疫グロブリン、リプレッサー/活性化因子、酵素、サイトカイン、ケモカイン、ミオカイン、リポカイン、増殖因子、受容体、受容体ドメイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、およびインターフェロンを含むいくつかの非常に広いクラスを含む。
【0051】
本発明の範囲内で利用することができる、適したホルモンは、血糖を調節するインスリンおよびグルカゴンなどのようなタンパク質ホルモンを含む。当業者によって十分に理解されるように、著名なホルモンは、癌、代謝性疾患、心血管疾患、脳下垂体状態、および閉経を含む、多様な状態および疾患の治療のために典型的に利用される。
【0052】
当初、いくつかのタンパク質だけが原線維または凝集体を形成すると考えられた。最近は、期待されるよりも多くのタンパク質が凝集しやすい領域を有することが証明されている(Fandrich, M.、Fletcher, M. A.、およびDobson, C. M.(2001年)Nature 410巻、165〜166頁)。実際に、4残基ほどの短いペプチドが線維を形成することができることが立証されている(J. Biol. Chem.、277巻、45号、43243〜43246頁、2002年11月8日)。
【0053】
タンパク質治療薬は、治療薬の市場シェアが成長している。たとえば、インスリンおよびグルカゴンは、血糖を調節する重要なタンパク質治療薬であり、本明細書においてされる方法から利益を得てもよい。島アミロイドポリペプチド(IAPP)は、糖尿病の治療において使用される、膵臓によって分泌される、さらなるホルモンである。対象の他のタンパク質は、血液細胞の産生を増加させるために使用されてもよい血液増殖因子である顆粒球コロニー刺激因子、すなわちG−CSFである。組織プラスミノーゲン活性化因子は、脳卒中または心臓発作の治療において使用される血餅溶解薬(clot busting)である。さらに、エリスロポエチンは、AIDS、貧血症、腎不全、および他の状態の治療において使用されてもよい、腎臓によって産生されるホルモンである。最後に、カルシトニンは、高カルシウム血症、パジェット病、およびある種のタイプの骨粗鬆症の治療に有効であることが分かったペプチドである。
【0054】
本明細書において記載される方法から利益を得ることが期待されるタンパク質のさらなる例は、限定を伴うことなく、ACTH、アミリン、アンギオテンシン、アンジオジェニン、抗炎症ペプチド、BNP、エンドルフィン、エンドセリン、GLIP、成長ホルモン放出因子(GRF)、ヒルジン、インスリノトロピン、神経ペプチドY、PTH、VIP、成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)、オクトレオチド、下垂体ホルモン(たとえばhGH)、ANF、増殖因子、bMSH、ソマトスタチン、血小板由来増殖因子放出因子、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、ハーユログ(hirulog)、インターフェロンアルファ、インターフェロンベータ、インターフェロンガンマ、インターロイキン、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)、メノトロピン(尿性卵胞性刺激ホルモン(FSH)およびLH)、ストレプトキナーゼ、ウロキナーゼ、ANF、ANP、ANPクリアランス阻害因子、抗利尿ホルモンアゴニスト、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、IGF−1、ペンチゲチド(pentigetide)、プロテインC、プロテインS、サイモシンアルファ−1、バソプレッシンアンタゴニスト類似体、ドミナントネガティブTNF−α、アルファ−MSH、VEGF、PYY、ならびにポリペプチド、断片、ポリペプチド類似体、および先のものから誘導される誘導体を含む。
【0055】
特に好ましい実施形態では、タンパク質は、抗体または免疫グロブリンである。用語「抗体」は、最も広い意味で使用され、特に、モノクローナル抗体(完全長モノクローナル抗体を含む)、ポリクローナル抗体、多特異性抗体(たとえば二重特異性抗体)、単鎖抗体、キメラ抗体、組換え抗体、および抗体断片を包含する。完全長抗体は、ジスルフィド結合によって相互に連結された少なくとも2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖を含む糖タンパク質である。CH2中のAsn−297残基は、Nグリコシル化される。それぞれの重鎖は、重鎖可変領域(Vと本明細書において略される)および重鎖定常領域から成る。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3から成る。Fc受容体は、CH2の下の方のヒンジ領域で結合し、抗体依存性細胞媒介性細胞障害(ADCC)などのようなエフェクター機能を媒介する。プロテインAは、FcのCH2−CH3ジャンクションで結合し、完全抗体の精製で広く使用される。それぞれの軽鎖は、軽鎖可変領域(Vと本明細書において略される)および軽鎖定常領域から成る。軽鎖定常領域は、1つのドメイン、Cから成る。V領域およびV領域は、相補性決定領域(CDR)と称される超可変性の領域にさらに細分することができ、フレームワーク領域(FR)と称される、より保存された領域と共に分散している。それぞれのVおよびVは、以下の順:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4でアミノ末端からカルボキシ末端に配置される3つのCDRおよび4つのFRから構成される。重鎖および軽鎖の可変領域は、抗原と相互作用する結合ドメインを含有する。したがって、用語「抗体」は、様々な抗体アイソタイプまたはサブクラス、たとえばIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgMまたはIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を包含するであろう。さらに、V、V、C、およびCH1ドメインから成る一価断片であるFab断片;ヒンジ領域でジスルフィド架橋によって連結される2つのFab断片を含む二価断片であるF(ab’)断片;ヒンジ領域の一部を有する本質的にFabであるFab’断片(FUNDAMENTAL IMMUNOLOGY (Paul編、第3版 1993年を参照されたい);VドメインおよびC1ドメインから成るFd断片;抗体の単一アームのVドメインおよびVドメインから成るFv断片、Vドメインから成るdAb断片(Wardら、(1989年)Nature 341巻:544〜546頁);単離相補性決定領域(CDR);ならびに単一の可変ドメインおよび2つの定常ドメインを含有する重鎖可変領域であるナノボディを含む。
【0056】
本明細書において使用されるように、タンパク質「構造モデル」は、タンパク質の三次元の二次、三次、および/または四次構造の表現である。構造モデルは、X線結晶構造、NMR構造、理論的なタンパク質構造、ホモロジーモデリングから作製された構造、タンパク質断層撮影モデル、および電子顕微鏡研究から構築された原子モデルを包含する。典型的には、「構造モデル」は、タンパク質の一次アミノ酸配列を包含するだけではなく、三次元空間におけるタンパク質中の原子についての座標を提供し、したがって、タンパク質のフォールディングおよびアミノ酸残基位置を示すであろう。好ましい実施形態では、分析される構造モデルは、X線結晶構造、たとえば、Protein Data Bank(PDB、rcsb.org/pdb/home/home.do)から得られる構造または同様のタンパク質の公知の構造に基づいて構築される相同性モデルである。好ましい実施形態では、構造モデルは、本発明の方法を適用する前に前処理されるであろう。たとえば、構造モデルは、タンパク質側鎖がより自然なコンフォメーションに達することを可能にするために、分子動力学シミュレーションにかけられてもよい、または構造モデルは、分子動力学シミュレーションにおいて溶媒、たとえば水と相互作用させてもよい。前処理は、分子動力学シミュレーションに限定されず、溶液中のタンパク質の運動を決定するために任意の当技術分野で認識されている手段を使用して達成することができる。例示的な代替シミュレーション技術は、Monte Carloシミュレーションである。シミュレーションは、シミュレーションパッケージまたは任意の他の許容される計算手段を使用して実行することができる。ある実施形態では、タンパク質コンフォメーション空間を検索する、プローブする、またはサンプリングするためのシミュレーションは、タンパク質の運動を決定するために構造モデルに基づいて実行することができる。
【0057】
「理論的なタンパク質構造」は、多くの場合タンパク質の本来の構造のあらゆる直接的な実験的測定を伴わないでコンピュータによる方法を使用して作製される三次元タンパク質構造モデルである。「理論的なタンパク質構造」は、アブイニシオ法およびホモロジーモデリングによって作製される構造モデルを包含する。「相同性モデル」は、ホモロジーモデリングによって作製される三次元タンパク質構造モデルであり、これは、典型的に、タンパク質の一次配列を、類似するタンパク質の公知の3次元構造と比較することを含む。ホモロジーモデリングは、当技術分野で周知であり、Kolinskiら Proteins.1999年;37巻(4号):592〜610頁、Rostら、B, Potein Sci.1996年;5巻(8号):1704〜1718頁、ならびに米国特許第7212924号、第6256647号、および第6125331号で記載されており、これらは、参照によって本明細書において組み込まれる。特に、Xiang.(Curr Protein Pept Sci.2006年6月;7巻(3号):217〜27頁、参照によって本明細書において組み込まれる)は、優れた説明および本発明の方法に有用な構造を生成するために使用されてもよいホモロジーモデリング技術の検討を提供する。実際に、当技術分野で公知の任意のホモロジーモデリングソフトウェア、たとえばMODELLER(Eswarら、Comparative Protein Structure Modeling With MODELLER. Current Protocols in Bioinformatics、John Wiley & Sons, Inc.、補足15、5.6.1〜5.6.30、200)、SEGMOD/ENCAD(Levitt M. JMolBiol 1992年;226巻:507〜533頁)、SWISS−MODEL(Schwede T、Kopp J、Guex N、Peitsch MC. Nucleic Acids Research 2003年;31巻:3381〜3385頁)、3D−JIGSAW(Batesら、Proteins: Structure, Function and Genetics、補足2001年;5巻:39〜46頁)、NEST(Xiang. Curr Protein Pept Sci.2006年6月;7巻(3号):217〜227頁)、ならびにBUILDER(KoehlおよびDelarue. Curr Opin Struct Biol 1996年;6巻(2号):222〜226頁)が、本発明の方法に従って使用されてもよい。特に抗体については、抗体可変領域の構造は、極限構造による方法を使用して正確に得ることができる(Chothia CおよびLesk AM、J.Mol.Biol. 1987年、196巻、901頁、Chothia Cら、Nature 1989年、342巻、877頁)。
【0058】
特定の実施形態では、ホモロジーモデリングは、抗体Fab断片がFc断片のモデルになる場合またはFab断片を理論的なタンパク質構造として作製し、Fc断片結晶構造のモデルになる場合などのように、公知の構造断片から完全なタンパク質を組み立てるために使用されてもよい。当業者は、様々な可能性が存在することを理解するであろう。特定の一実施形態では、Fab断片は、異なるクラスまたはアイソタイプの様々な抗体Fc構造のモデルになってもよい。
【0059】
アブイニシオモデルもまた、本発明の方法で利用されてもよい。「アブイニシオタンパク質構造モデル」は、物理化学で公知の方程式を使用してタンパク質フォールディングプロセスをシミュレートすることによってタンパク質一次配列から直接作製されるタンパク質構造モデルである(BonneauおよびBaker. Annual Review of Biophysics and Biomolecular Structure.2001年、30巻、173〜189頁、Lesk Proteins 1997年;1巻:151〜166頁 補足、Zemlaら.Proteins 1997年;1巻:140〜150頁 補足、Ingwallら Biopolymers 1968年;6巻:331〜368頁、ならびに米国特許第6832162号、第5878373号、第5436850号、第6512981号、第7158891号、第6377893号ならびに米国特許出願第9/788,006号、第11/890,863号、および第10/113,219号、これらは、すべて、参照によって本明細書において組み込まれる)。典型的には、新規のタンパク質のフォールディングをシミュレートする際の困難さにより、ある場合に、不正確なタンパク質構造モデルに至り得るので、実験的に決定される構造(たとえばX線結晶構造)および相同性モデルは、アブイニシオモデルよりも好ましい。
【0060】
理論的なタンパク質構造を生成するための当技術分野で公知の任意の方法は、本発明に従って有用となり得ることが理解される。上記に記載される方法に加えて、Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction (CASP)の会合で説明されるものなどのような方法は、本発明の方法論で使用されてもよい。様々な例は、CASPの会報で、たとえば7th Community Wide Experiment on the Critical Assessment of Techniques for Protein Structure Prediction Asilomar Conference Center、Pacific Grove、CA 11月26〜30日、2006年に関する刊行物で、さらにCASP6会報Proteins: Structure, Function, and Bioinformatics.2005年 61巻(S7号):1〜236頁、CASP5会報Proteins: Structure, Function, and Genetics.2003年、53巻(S6号):333〜595頁、CASP4会報Proteins: Structure, Function, and Genetics.2001年、45巻(S5号):1〜199頁、CASP3会報、Proteins: Structure, Function, and Genetics、1999年、37巻(S3号):1〜237頁(1999年)で記載されている。
【0061】
本発明はまた、低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法を提供する。本明細書において使用されるように、「凝集傾向」は、クラスターまたは塊を形成するタンパク質の傾向である。そのようなクラスターまたは塊は、典型的に同じ種類の2つまたはそれ以上の、多くの場合3つまたはそれ以上のタンパク質を含有していてもよい。したがって、「低下した凝集傾向」を示すタンパク質は、改変されていないまたは処理されていない同じタンパク質と比較して、改変されたまたは処理された場合、より少数の凝集体またはより小さな凝集体を形成するものである。
【0062】
用語「阻害する」は、タンパク質結合相互作用またはタンパク質凝集に関して本明細書において使用されることが多い現象の測定可能な低下を担うことを意味する。
【0063】
アミノ酸残基、残基のクラスター、タンパク質領域、ペプチド、またはタンパク質表面上のパッチは、親水性または疎水性であると本明細書において記載されてもよい。本発明の方法に従って、空間的凝集傾向は、疎水性について説明し、当技術分野で公知のアミノ酸疎水性スケールを使用して部分的に計算される。好ましい実施形態では、アミノ酸疎水性スケールは、Black and Mould、Anal. Biochem.1991年、193巻、72〜82頁(参照によって本明細書において組み込まれる)で記載されるスケールである。一般に、Black and Mouldに従って、アミノ酸疎水性は以下のとおり進む(最も疎水性の残基から始めて):Phe>Leu=Ile>Tyr≒Trp>Val>Met>Pro>Cys>Ala>Gly>Thr>Ser>Lys>Gln>Asn>His>Glu>Asp>Arg。Black and Mouldによって報告される疎水性についてのスケール値は、下記の表1に示される。
【0064】
【表1】

したがって、アミノ酸が、本発明の方法による置換に選択される場合(たとえば高SAPスコアを有する、または凝集しやすい領域内に存在することが同定されることによって)、それは、疎水性スケールがより低い、他のアミノ酸と交換されるであろう。たとえば、アミノ酸、メチオニンが置換に選択される場合、それは、それほど疎水性ではない任意のアミノ酸、たとえばPro、Cys、Ala、Glyなどと交換されてもよい。特に好ましい実施形態では、疎水性アミノ酸は、Lysと交換される。さらなる好ましい実施形態では、疎水性アミノ酸は、Glu、Gln、Asp、Thr、またはSerと交換される。そのため、残基が、「より疎水性の」、「より親水性の」、「最も疎水性の」、または「最も親水性の」と記載される場合、疎水性/親水性の決定は、当技術分野で公知の任意の疎水性スケール、たとえばBlack and Mouldの好ましいスケールに従ってなされる。
【0065】
実際上、アミノ酸疎水性の任意の当技術分野で認識されるスケールが、本発明の方法によって利用されてもよい。したがって、表1中に記載されるスケールは、空間的凝集傾向の計算の間に使用されてもよいが、当技術分野で公知の他のスケールが代用されてもよい。Biswasら(J. Chromatogr. A 1000巻(2003年)637〜655頁;参照によって本明細書において組み込まれる)による最近の検討は、本発明に従って使用されてもよい様々な疎水性スケールを記載する。
【0066】
アミノ酸疎水性に加えて、本明細書において記載される方法は、タンパク質またはタンパク質構造モデル内の原子疎水性に対応させてもよい。一実施形態では、「原子疎水性」は、その原子を含むアミノ酸の疎水性と、そのアミノ酸中の原子の総数、より好ましくは、アミノ酸側鎖中の原子の総数との比率である。同様の実施形態では、「原子疎水性」は、問題の原子のサイズ、表面積、または体積に比例する、残基疎水性のうちの割合であってもよい。たとえば、酸素原子が、アミノ酸残基の体積の5%を構成する場合、酸素原子の原子疎水性は、アミノ酸残基の疎水性の5%となるであろう。他の実施形態では、原子疎水性は、原子がアミノ酸残基に寄与する表面積の割合に等価であるかまたはそれに比例する、残基疎水性のうちの割合であってもよい。関連する実施形態では、原子に対応する疎水性ウェイト(つまり残基疎水性のうちの割合)は、原子が残基中に占める体積、残基中の原子の質量、疎水性に対する原子の寄与などの割合を反映してもよい。上記に記載されるように、アミノ酸疎水性は、当技術分野で公知の疎水性スケールに従って決定される。
【0067】
本明細書において議論される用語「凝集しやすい領域」は、他のタンパク質への結合に対する傾向を有し、したがって、凝集体形成に対する可能性を増加させる、タンパク質構造上の領域である。凝集しやすい領域は、本明細書において記載されるSAPスコアによって同定される疎水性の特徴を示す。他の実施形態では、凝集しやすい領域は、周囲の領域よりも疎水性の領域である。特定の実施形態では、凝集しやすい領域は、三次元の規定された空間的領域、たとえば、原子を囲む半径Rの球体(またはあるいは、半径Rの内側に少なくとも1の原子を有するすべてのアミノ酸残基)であってもよく、疎水性の特徴は、SAPスコアとなる。さらなる実施形態では、「凝集しやすい領域」は、SAPスコアによって計算される疎水性の特徴を示す残基または原子の任意のクラスターまたはグルーピングを包含する。あるいは、「凝集しやすい領域」は、ある閾値よりも高いSAPスコア、たとえば>−0.5、>0、>0.5などを有する、近くの原子または残基を含んでいてもよいまたは同様の実施形態では、それは、ある閾値、たとえば>−0.5、>0、>0.5、>1、>1.5、>2、>2.5などを上回る、計算された曲線下面積を有する原子または残基を含んでいてもよい(下記に記載されるSAPスコアのプロット中で)。
【0068】
一態様では、本発明の方法は、タンパク質構造モデルを前処理するためにおよび/またはタンパク質中の凝集しやすい領域を同定するために分子シミュレーション技術を利用する。たとえば、分子動力学シミュレーションは、SAPまたはSAAを計算する前に利用されてもよい。実際上、コンフォメーション空間サンプリングする任意のシミュレーション技術/パッケージは、本明細書において記載される方法に従って使用されてもよい。分子シミュレーションの好ましいモードは、分子動力学シミュレーション(MDS)である。MDSは、分子構造中の原子を物理学の法則に従って移動させ、相互作用させることを可能にする、たとえば、タンパク質内の化学結合を、化学および物理学の法則によって可能になるように、屈曲させる、回転させる、曲がらせる、または振動させることを可能にしてもよい数学的なシミュレーションである。静電力、疎水性力、ファンデルワールス相互作用、溶媒との相互作用、および他などのような相互作用もまた、MDSのシミュレーション中でモデルにされてもよい。そのようなシミュレーションは、当業者が、溶媒和した場合に見られるかもしれないタンパク質構造を観察することまたはシミュレーションの間の様々なポイントでの複数の測定を平均することによってタンパク質構造に基づいてより正確な測定を行うことを可能にする。好ましい実施形態では、分子シミュレーションは、CHARMMシミュレーションパッケージを使用して行われる(Brooksら J. Comput. Chem.、1983年、4巻、187頁)。他の好ましい実施形態では、分子シミュレーションは、NAMDパッケージを使用して行われる(Phillipsら Journal of Computational Chemistry.2005年、26巻、1781頁)。当業者は、複数のパッケージが、使用されてもよい、たとえば、CHARMMパッケージが、タンパク質構造モデルをセットアップしまたは前処理し、構造を溶媒和するためなどに利用されてもよいことおよびNAMDパッケージが、空間的凝集傾向計算の一部になるシミュレーションのために利用されてもよいことを理解するであろう。MDSのシミュレーションを行うための当技術分野で公知の多数の方法論のいずれも、本発明に従って使用されてもよい。参照によって本明細書において組み込まれる以下の刊行物は、利用されてもよい複数の方法論を記載する:GuvenchおよびMacKerell. Methods Mol Biol.2008年;443巻:63〜88頁、NorbergおよびNilsson. Q Rev Biophys.2003年8月;36巻(3号):257〜306頁、米国特許第5424963号、第7096167号、ならびに米国特許出願第11/520,588号および第10/723,594号。特に、以下のソフトウェアプラットフォームが、分子動力学シミュレーションに利用されてもよい:ABINIT(Gonzeら Comput. Mat. Science.2002年、25巻、478頁、Gonzeら Kristallogr.2005年、220巻、558頁;abinit.org/)、AMBER(Duanら Journal of Computational Chemistry.2003年、24巻(16号):1999〜2012頁;amber.scripps.edu)、Ascalaph(agilemolecule.com/Products.html、2008年6月19日)、CASTEP(Segallら J. Phys.: Cond. Matt.2002年、14巻(11号):2717〜2743頁、Clarkら Zeitschrift fuer Kristallographie.2005年、220巻(5−6)567〜570頁;castep.org)、CPMD(CMPD manual for CMPD version 3.11.0、2006年3月29日;cpmd.org/manual.pdf)、CHARMM(Brooksら J Comp Chem. 1983年、4巻:187〜217頁;charmm.org)、DL_POLY(Todorov & Smith、THE DL POLY 3 USER MANUAL. STFC Daresbury Laboratory. Version 3.09.3、2008年2月;cse.scitech.ac.uk/ccg/software/DL_POLY/MANUALS/USRMAN3.09.pdf)、FIREBALL(fireball.phys.wvu.edu/LewisGroup/fireballHome.html)、GROMACS(Van Der Spoelら、J Comput Chem.2005年、26巻(16号):1701〜18頁、Hessら、J Chem Theory Comput.2008年、4巻(2号):435頁;gromacs.org)、GROMOS(Schuler, Daura, van Gunsteren. Journal of Computational Chemistry.2001年、22巻(11号):1205〜1218頁;igc.ethz.ch/GROMOS/index)、LAMMPS(Plimpton, J Comp Phys.1995年、117巻、1〜19頁;lammps.sandia.gov)、MDynaMix(Lyubartsev and Laaksonen. Computer Physics Communications.2000年、128巻、565〜589頁;fos.su.se/〜sasha/mdynamix/)、MOLDY(Moldy: a portable molecular dynamics simulation program for serial and parallel computers.,Computer Physics Communications.2000年、126巻(3号):309〜328頁;earth.ox.ac.uk/〜keithr/moldy.html)、MOSCITO(Dietmar PaschekおよびAlfons Geiger. User’s Guide and Manual,MOSCITO 4, Performing Molecular Dynamics Simulations、2003年4月7日、ganter.chemie.uni−dortmund.de/MOSCITO/manual4.pdf)、NAMD(Kumarら IBM Journal of Research and Development.2007年、52巻、1/2号;Phillipsら、Proceedings of SC 2002年;charm.cs.uiuc.edu/research/moldyn/)、Newton−X(M. Barbatti、G. Granucci、M. Ruckenbauer、M. Persico、H. Lischka、Newton−X:a package for Newtonian dynamics close to the crossing seam, version 0.15b、2007年;univie.ac.at/newtonx、Barbattiら、J. Photochem. Photobio. A 190巻、228頁(2007年))、ProtoMol(Mattheyら ACM Trans. Math. Softw.、2004年、30巻(3号):237〜265頁;protomol.sourceforge.net/)、PWscf(User’s Guide for Quantum−ESPRESSO version 3.2、pwscf.org/guide/3.2.3/users−guide−3.2.3.pdf)、SIESTA(Solerら Journal of Physics: Condensed Matter.2002年、14巻:2745〜2779頁;uam.es/departamentos/ciencias/fismateriac/siesta/)、VASP(Georg KresseおよびJuergen Furthmueller、VASP the GUIDE, Institut fuer Materialphysik、Universitaet Wien、Sensengasse 8巻、A−1130 Austria、Vienna、2007年3月1日;cms.mpi.univie.ac.at/vasp/)、TINKER(RenおよびPonder. J. Phys. Chem. B.2003年、107巻、5933〜5947頁;dasher.wustl.edu/tinker/)、YASARA(Krieger E、Koraimann G、Vriend G.Proteins. 2002年 47巻(3号):393〜402頁)、ORAC(Procacciら、Phys. Chem.1996年、100巻 10464〜10469頁;chim.unifi.it/orac/)、XMD(XMD online manual, XMD − Molecular Dynamics Program Jon Rifkin, v2.5.30 20 2002年1月)。
【0069】
本明細書において使用されるように、用語「アミノ酸」、「アミノ酸残基」、および「残基」は、いくつかの実施形態では、それが、単離された状態で存在する、たとえば溶液中で非結合アミノ末端基およびカルボキシ末端基を有するようにまたはそれが、タンパク質中に存在する、たとえば、アミノ酸残基は、ペプチド結合を介して少なくとも1つの他のアミノ酸に共有結合しているように、アミノ酸を指すために同義的に使用されてもよい。当業者は、意図されるタンパク質の化学的性質を理解するであろう。
【0070】
本明細書において使用されるように、「非天然アミノ酸」は、天然で存在しないと知られているアミノ酸である。用語「非天然アミノ酸」は、アミノ酸類似体を包含する。それは、アルキル基、アリール基、アシル基、アジド基、シアノ基、ハロ基、ヒドラジン基、ヒドラジド基、ヒドロキシル基、アルケニル基、アルキニル(alkynl)基、エーテル基、チオール基、スルホニル基、セレノ基、エステル基、チオ酸基、ホウ酸基、ボロン酸基(boronate group)、ホスホ基(phospho group)、ホスホノ基、ホスフィン基、複素環基、エノン基、イミン基、アルデヒド基、ヒドロキシルアミノ基、ケト基、糖基、アルファ−ヒドロキシ基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、2−ニトロベンジル基、3,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル基、3,5−ジメトキシ−2−ニトロベラトロールカルバミン酸基(3,5−dimethoxy−2−nitroveratrole carbamate group)、ニトロベンジル基、3,5−ジメトキシ−2−ニトロベンジル基、およびアミノ基を含む群から選択される置換または付加を含む天然アミノ酸の誘導体をさらに包含してもよい。
【0071】
たとえば、非天然アミノ酸は、限定を伴うことなく、以下のアミノ酸のいずれかであってもよい:ヒドロキシメチオニン、ノルバリン、O−メチルセリン、クロチルグリシン、ヒドロキシロイシン、allo−イソロイシン、ノルロイシン、α−アミノ酪酸、t−ブチルアラニン、ヒドロキシグリシン、ヒドロキシセリン、F−アラニン、ヒドロキシチロシン、ホモチロシン、2−F−チロシン、3−F−チロシン、4−メチル−フェニルアラニン、4−メトキシ−フェニルアラニン、3−ヒドロキシ−フェニルアラニン、4−NH−フェニルアラニン、3−メトキシ−フェニルアラニン、2−F−フェニルアラニン、3−F−フェニルアラニン、4−F−フェニルアラニン、2−Br−フェニルアラニン、3−Br−フェニルアラニン、4−Br−フェニルアラニン、2−Cl−フェニルアラニン、3−Cl−フェニルアラニン、4−Cl−フェニルアラニン、4−CN−フェニルアラニン、2,3−F−フェニルアラニン、2,4−F−フェニルアラニン、2,5−F−フェニルアラニン、2,6−F−フェニルアラニン、3,4−F−フェニルアラニン、3,5−F−フェニルアラニン、2,3−Br−フェニルアラニン、2,4−Br−フェニルアラニン、2,5−Br−フェニルアラニン、2,6−Br−フェニルアラニン、3,4−Br−フェニルアラニン、3,5−Br−フェニルアラニン、2,3−Cl−フェニルアラニン、2,4−Cl.sub.−フェニルアラニン、2,5−Cl−フェニルアラニン、2,6−Cl−フェニルアラニン、3,4−Cl.sub.−フェニルアラニン、2,3,4−F−フェニルアラニン、2,3,5−F−フェニルアラニン、2,3,6−F−フェニルアラニン、2,4,6−F−フェニルアラニン、3,4,5−F3−フェニルアラニン、2,3,4−Br.sub.−フェニルアラニン、2,3,5−Br−フェニルアラニン、2,3,6−Br−フェニルアラニン、2,4,6−Br.sub.−フェニルアラニン、3,4,5−Br−フェニルアラニン、2,3,4−Cl−フェニルアラニン、2,3,5−Cl−フェニルアラニン、2,3,6−Cl−フェニルアラニン、2,4,6−Cl−フェニルアラニン、3,4,5−Cl−フェニルアラニン、2,3,4,5−F−フェニルアラニン、2,3,4,5−Br.sub.−フェニルアラニン、2,3,4,5−Cl−フェニルアラニン、2,3,4,5,6−F−フェニルアラニン、2,3,4,5,6−Br−フェニルアラニン、2,3,4,5,6−Cl−フェニルアラニン、シクロヘキシルアラニン、ヘキサヒドロチロシン、シクロヘキサノール−アラニン、ヒドロキシルアラニン、ヒドロキシフェニルアラニン、ヒドロキシバリン、ヒドロキシイソロイシン、ヒドロキシルグルタミン、チエニルアラニン、ピロールアラニン、N−メチル−ヒスチジン、2−アミノ−5−オキソヘキサン酸、ノルバリン、ノルロイシン、3,5−F−フェニアラニン、シクロヘキシアラニン、4−Cl−フェニアラニン、p−アジド−フェニルアラニン、o−アジド−フェニルアラニン、O−4−アリル−L−チロシン、2−アミノ−4−ペンタン酸、および2−アミノ−5−オキソヘキサン酸。少なくとも、上記に列挙される非天然アミノ酸についておよびAmbrx ReCODE(商標)技術(ambrx.com/wt/page/technology)によって利用されるものについて、非天然アミノ酸は、たとえばBlack and Mouldにおいて記載されるように、一般の20種のアミノ酸の疎水性スケールに類似する疎水性スケールに従うであろうということが期待される。あるいは、任意の非天然またはまれなアミノ酸の疎水性は、Biswasら(J. Chromatogr. A 1000巻(2003年)637〜655頁)で検討され、参照されるものなどのような当技術分野で周知の様々な技術によって決定されてもよい。
【0072】
用語「アミノ酸類似体」は、C末端カルボキシ基、N末端アミノ基、または側鎖官能基が他の官能基に化学的に修飾されたアミノ酸を指す。たとえば、アスパラギン酸−(ベータ−メチルエステル)は、アスパラギン酸のアミノ酸類似体である、N−エチルグリシンは、グリシンのアミノ酸類似体である、またはアラニンカルボキサミドはアラニンのアミノ酸類似体である。
【0073】
用語「まれなアミノ酸」は、珍しいまたはそうでなければ最も一般のアミノ酸の中にない天然アミノ酸を指し、一般のアミノ酸は、セレノシステイン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、およびバリンである。
【0074】
本発明の方法に従ってタンパク質に置換されてもよい改変アミノ酸、まれな(つまり珍しい)アミノ酸、非天然アミノ酸、または類似体アミノ酸のさらなる非限定的な例は、O−メチル−L−チロシン、L−3−(2−ナフチル)−アラニン、3−メチル−L−フェニルアラニン、フッ化フェニルアラニン、p−ベンゾイル−L−フェニルアラニン、p−ヨード−L−フェニルアラニン、p−ブロモ−L−フェニルアラニン、p−アミノ−L−フェニルアラニン、3,4−ジヒドロキシ−L−フェニルアラニン、イソプロピル−L−フェニルアラニン、p−アジド−L−フェニルアラニン、p−アセチル−L−フェニルアラニン、m−アセチル−L−フェニルアラニン、4−(2−オキソ−プロポキシ)−L−フェニルアラニン、およびアミノ酸(ならびに同じものを組み込む方法)であり、これらは、米国特許第7,083,970号、第7,045,337号、米国特許出願第10/126,931号、第11/002,387号、第11/254,170号、第11/009,635号、第11/670,354号、第11/284,259号、第10/563,686号、第11/326,970号、第10/563,656号、第10/563,655号、第11/715,672号、第11/671,036号、第11/255,601号、第11/580,223号、第11/137,850号、第11/233,508号、第10/575,991号、第11/232,425号、Wipo刊行物WO/2007/094916、WO/2007/130453、ならびに刊行物Liao J. Biotechnol Prog. 2007年1月〜2月;23巻(1号):28〜31頁、RajeshおよびIqbal. Curr Pharm Biotechnol.2006年8月;7巻(4号):247〜59頁、Cardilloら Mini Rev Med Chem.2006年3月;6巻(3号):293〜304頁、Wangら Annu Rev Biophys Biomol Struct.2006年;35巻:225〜49頁、Chakrabortyら、Glycoconj J. 2005年3月;22巻(3号):83〜93頁中に記載されており、これらは、すべて、参照によって本明細書において組み込まれる。非天然アミノ酸のさらなる例は、たとえば以下の米国特許刊行物中に見つけることができ、これらの内容は、参照によってこれによって組み込まれる:2003−0082575、2005−0250183、2003−0108885、2005−0208536、および2005−0009049。
【0075】
空間的凝集傾向
本明細書の本発明は、タンパク質表面上の凝集しやすい領域を同定するため、タンパク質の凝集を予防または低減するため、およびタンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法に関する。本明細書の方法は、タンパク質の凝集傾向を低減するか、または高分子に対するタンパク質の結合親和性を低減するために改変することができるタンパク質領域を同定するための、計算法の能力の進歩を示す。特に、これらの方法は、タンパク質表面を特徴付けるために当技術分野で公知であるSAA(溶媒接触可能面積)の計算に、少なくとも一部分は基づく。SAAは、溶媒と接触した各アミノ酸またはタンパク質構造の表面積を与える。それがタンパク質表面、すなわちタンパク質構造モデルの表面を転がるときの、プローブ球体の中心位置を計算することによって、SAAは典型的に計算することができる。プローブ球体は、水分子のそれと同じ半径、R=1.4Åを有する。以下に記載するSAAを計算する別の方法は当技術分野で公知であり、本明細書に記載する方法と適合性がある。SAAはタンパク質表面を特徴付けるのに非常に有用であるが、以下の欠点のため、それが、おそらく凝集傾向があるタンパク質表面上の疎水性パッチを特徴付けるのに適しているとは見出されていない。
【0076】
1.SAAは疎水性領域と親水性領域を区別しない
2.SAAは残基の疎水性に正比例しない(例えば、METはLEUより広い表面積を有するが疎水性は低い)
3.SAAは、数個の疎水性残基が近接し、したがって特定領域の疎水性を高めることができたかどうか示さない。これらの残基は一次配列中、またはそれらが一次配列中で離れている場合でさえ三次構造中のいずれかで近接している可能性がある。どちらにしても、それらは抗体表面上の特定パッチの疎水性を高め得る。
【0077】
本明細書に記載する1つの尺度、有効−SAAは、以下の式に従い、露出したアミノ酸画分の疎水性を計算することによって生成する:
【0078】
【化1】

有効−SAAのさらなる実施形態は、一次タンパク質配列中で隣接した少なくとも2個、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個または少なくとも6個(例えば、2個、3個、4個、5個、6個など)のアミノ酸残基にわたって有効−SAAを合計することをさらに含む。有効−SAAは基本SAAに優る改善を示すが、それにもかかわらず、それはフォールディングしたタンパク質の構造、およびタンパク質配列中で隣接していないアミノ酸が、フォールディングしたタンパク質の二次、三次、または四次構造中で互いに接近している可能性があるという事実を完全に説明する能力を欠く。このようなタンパク質のフォールディングは、一次構造単独には出現せず、またはフォールディングしたタンパク質の構造をより正確に分析することによってのみ検出することができる凝集しやすい領域を形成する可能性がある。
【0079】
本発明は、タンパク質表面上の特定パッチまたは領域の有効な疎水性を強調する、空間的凝集傾向と呼ぶ、新たな、より進歩した尺度を提供する。空間的凝集傾向は、タンパク質構造モデルの原子上または近辺の規定された空間領域に関して計算する。
【0080】
この文脈において、「規定された空間領域」は、タンパク質構造上または近辺の局所物理的構造および/または化学的環境を得るために選択した三次元の空間または体積である。特に好ましい実施形態では、空間的凝集傾向を、タンパク質中の原子(例えば、タンパク質構造モデル中の原子)に中心があり半径Rを有する球状領域に関して計算する。空間的凝集傾向は、化学結合に中心がある、または構造モデル近辺の空間中に位置する、半径Rを有する球状領域に関して計算することもできる。したがって、別の好ましい実施形態では、原子近辺に中心がある、例えば特定原子または化学結合の中心から1〜10Å、より好ましくは1〜5Å、より好ましくは1〜2Åの間に存在する空間中の地点に中心がある規定された空間領域に関して、SAPを計算することができる。
【0081】
好ましい実施形態では、選択する半径Rは1Åと50Åの間、より好ましくは1Åと50Åの間である。特定の実施形態では、選択する半径は少なくとも1Å、少なくとも3Å、少なくとも4Å、少なくとも5Å、少なくとも6Å、少なくとも7Å、少なくとも8Å、少なくとも9Å、少なくとも10Å、少なくとも11Å、少なくとも12Å、少なくとも15Å、少なくとも20Å、少なくとも25Å、または少なくとも30Åである。特に好ましい実施形態では、選択する半径は5Åと15Åの間、より好ましくは5Åと12Åの間、より好ましくは5Åと10Åの間である。具体的な実施形態では、選択する半径は5Åまたは10Åである。
【0082】
さらなる実施形態では、空間的凝集傾向を計算する領域は球状ではない。考えられる領域の形状は、立方体、円柱、円錐形、楕円、回転楕円体(elliptical spheroid)、角錐形、半球、またはそれを使用して空間の一部を囲うことができる任意の他の形状をさらに含むことができる。かかる実施形態では、半径以外の尺度、例えば形状の中心から表面または頂点までの距離を使用して、領域の大きさを選択することができる。
【0083】
好ましい実施形態では、SAPを使用して、タンパク質中の残基を選択することができ、これを置換し、したがってタンパク質の安定性を増大することができる。以前の試験では、in vitroでタンパク質を安定化するための2つの主な手法は、(1)タンパク質の配列自体を操作すること、および(2)液体製剤中に添加剤を含めることであった。両方の手法が調べられており、有意な結果が得られている。第一の手法は、in silicoまたは実験によるランダム変異体の広範囲のライブラリーのスクリーニングに頼るものである。第二の手法では、安定化添加剤に関するハイスループットスクリーニング、および添加剤の合理的設計が、治療用タンパク質の最適製剤の同定を可能にする。
【0084】
本発明は、コンピュータにより既存の凝集ホットスポットを同定すること、および実験によりこれらの部位に置換を有する変異体を分析することによって、安定性増大のプロセスを簡素化すると予想される。
【0085】
したがって、一般論として、タンパク質中の特定の原子に関する空間的凝集傾向を計算するための方法は、(a)タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数の原子を同定するステップであって、1つまたは複数の原子が、特定の原子に中心があるまたはその近辺の規定された空間領域内に存在する、ステップ、(b)規定された空間領域中の1つまたは複数の原子のそれぞれに関して、それらの原子の溶媒接触可能面積(SAA)と完全に露出した同一残基中の原子のSAAの比を計算するステップ、(c)それぞれの比と1つまたは複数の原子の原子疎水性をかけ合わせるステップ、および(d)ステップ(c)の積を合計するステップであって、その合計が特定の原子に関するSAPである、ステップを含む。
【0086】
関連する実施形態では、(a)タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数のアミノ酸残基を同定するステップであって、1つまたは複数のアミノ酸残基が、特定の原子に中心があるまたはその近辺の規定された空間領域内に少なくとも1つの原子を有する、ステップ、(b)同定した1つまたは複数のアミノ酸残基のそれぞれに関して、アミノ酸中の原子の溶媒接触可能面積(SAA)と完全に露出した同一残基中の原子のSAAの比を計算するステップ、(c)それぞれの比とアミノ酸疎水性尺度によって測定した1つまたは複数のアミノ酸残基の疎水性をかけ合わせるステップ、および(d)ステップ(c)の積を合計するステップであって、その合計が特定の原子に関するSAPである、ステップを含む、異なる方法に従いSAPを計算することができる。好ましい実施形態では、分子動力学シミュレーションにおいて構造モデルを溶媒と相互作用させることによって、ステップ(a)の前に構造モデルを処理する。規定された空間領域内に少なくとも1つの原子を有するとしてアミノ酸を同定するとき、その少なくとも1つの原子は排他的にアミノ酸側鎖中の原子であることが必要とされ得る。あるいはそれは、主鎖原子であることが必要とされる原子で有り得る。
【0087】
他の実施形態では、この方法は、ステップ(a)の前に分子動力学シミュレーションを場合によっては実施するステップ、およびステップ(a)〜(d)を繰り返すステップであって、毎回さらなる分子動力学シミュレーションを複数回のステップで実施し、それによってステップ(d)中と同様に多数の合計を生成するステップ、および合計の平均を計算するステップであって、計算した平均が特定の原子に関するSAPである、ステップをさらに含むことができる。
【0088】
他の好ましい実施形態において、SAPを使用して、置換され得るタンパク質中の残基を選択し得、それによって高分子に対するタンパク質の結合親和性を提言することができる。
【0089】
当業者は、分子動力学シミュレーションで計算した値の平均を利用する本発明の実施形態は、よりコンピュータ集約型であろうことを理解しているはずである。かかる実施形態は、いくつかの場合、空間的凝集傾向のさらに正確なまたは高解像度マップも与え得る。しかしながら、本明細書で論じる実験は、分子動力学による平均化を利用しないとき、方法は一層高度に正確であることを示している。好ましい一実施形態では、空間的凝集傾向値は、データベース、例えばタンパク質構造データバンク(PDB)中のすべてのタンパク質構造に関して計算することができ、それによってすべての公知のタンパク質構造上の疎水性残基およびパッチを迅速に同定することができる。この方法は多数組のタンパク質の迅速なスクリーニングを可能にして、潜在的な凝集しやすい領域および/またはタンパク質相互作用部位を同定する。
【0090】
好ましい適用例では、空間的凝集傾向は以下の式によって記載する:
【0091】
【化2】

上式で:
1)半径R内の側鎖原子のSAAは、それぞれのシミュレーションスナップショットで計算される。SAAは、それがタンパク質表面を回転するときのプローブ球体の中心位置を計算することによって、シミュレーションモデルにおいて計算することが好ましい。プローブ球体は、水分子のそれと同じ半径、R=1.4Aを有する。当業者は、SAAを計算する他の方法が、SAPを計算するための本明細書に記載した方法と適合性がある可能性があることを理解しているはずである。例えば、SAAはアミノ酸側鎖原子のみで計算することができる。SAAは、アミノ酸主鎖原子(すなわち、ペプチド骨格の原子および付随した水素)のみでも計算することができる。あるいはSAAは、付随した水素を除いたアミノ酸主鎖原子のみで計算することができる:
2)完全に露出した残基(例えばアミノ酸「X」)の側鎖のSAAは、トリペプチド「Ala−X−Ala」の完全に伸長したコンフォメーション中の中央残基の側鎖のSAAを計算することによって好ましい実施形態中で得られる:かつ
3)原子疎水性は、Black and Mould(Black and Mould、Anal.Biochem.1991年、193巻、72〜82頁)の疎水性尺度を使用して前に記載したように得る。
【0092】
「完全に露出した」残基は、トリペプチドAla−X−Alaの完全に伸長したコンフォメーション中の残基Xである。当業者は、このような残基XにおけるSAAの計算が利用可能な最大の溶媒接触可能面積をもたらすように、この配置を設計することを理解しているはずである。したがって、結果を完全に妨害または変更せずに、計算中でアラニン以外の他の残基を使用することができると企図される。
【0093】
前に記載したように、本発明の方法は、任意のタンパク質構造モデルに適用することができる。したがって、X線構造にのみ基づくSAPは、以下のように示され得る:
【0094】
【化3】

同様に、X線構造が利用可能ではない場合、同じ空間的凝集傾向パラメータを、ホモロジーモデリングによって作製した構造に適用することができ、したがって、SAPパラメータは、以下のように示され得る:
【0095】
【化4】

好ましい実施形態では、タンパク質構造モデル中のすべての原子に関して空間的凝集傾向を計算する。いくつかの実施形態では、原子の空間的凝集傾向値をそれぞれ個別のタンパク質残基で、または小群の残基で平均化することができる。
【0096】
II.本発明の使用
1つの態様では、本発明は、タンパク質における疎水性アミノ酸残基、領域またはパッチを同定するために上記のように使用することができる。特異的な閾値に維持する必要なしに、空間的凝集傾向>0を有する原子またはアミノ酸残基は、疎水性であるか、凝集しやすい領域にあると考えられる。タンパク質のタイプ、特定の構造およびそれが存在する溶媒によって、例えば、−0.1、−0.15、−0.2などより大きい空間的凝集傾向を有する原子または残基を選ぶことにより、わずかにゼロより小さいカットオフを使用して、原子または残基を同定することが望ましい場合がある。あるいは、最も高い疎水性原子、残基またはパッチを選ぶために、例えば、0、0.05、0.1、0.15、0.2などのより厳密なカットオフを採用することが望ましい場合もある。別の実施形態では、配列的に(すなわち、タンパク質配列に沿って)、または好ましい実施形態では空間的に(すなわち、3次元構造において)隣接する原子または残基より大きい空間的凝集傾向を有する原子または残基を、単に選択することが有利である場合もある。疎水性パッチ中の原子または残基を選択するための1つの好ましい方法は、例えば、それらが由来したタンパク質構造のモデル上へのカラーコーディングまたは数値コーディングを使用して、計算した空間的凝集傾向値をマップすることであり、したがってタンパク質表面にわたって空間的凝集傾向の違いが可視化され、故に疎水性パッチまたは残基の容易な選択が可能になる。特に好ましい実施形態では、空間的凝集傾向の計算は、半径に関して選んだ2つの値、1つは例えば5Aなどのより高解像度、および1つは例えば10Aなどのより低解像度を使用して、別々に行う。かかる実施形態では、より大きいまたはより広範な疎水性パッチを、より低解像度のマップによるタンパク質構造上に見ることができる。対象の疎水性パッチが、低解像度のマップ上に選択されると、これらのパッチを、より高解像度のマップにおいて、より詳細に見ることができ、いくつかの実施形態では、当業者が、より容易に、またはより正確に、突然変異または改変する残基を選ぶことが可能になる。例えば、より高解像度のマップにおいて疎水性パッチを見たとき、最高のSAPスコアを有する、または最も高い疎水性である残基(例えば、Black and Mould、Anal.Biochem.1991年、193巻、72〜82頁のスケールによる、パッチ中の最も高い疎水性残基)の突然変異を選択することが望ましい可能性がある。
【0097】
具体的な実施形態において、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定する方法は、(a)タンパク質中の原子に関して本明細書で記載されている任意の方法に従って計算したとき、構造モデルのSAPについてにマップするステップ、および(b)SAP>0を有する複数の原子を有するタンパク質内で領域を同定するステップを含み、凝集しやすい領域が、前記複数の原子を含むアミノ酸を含む。かかる実施形態では、タンパク質中の全原子または一部の原子に関して、SAPを計算することができる。対象の特定の残基または残基群に関してのみSAPを計算できることが企画される。
【0098】
同様の実施形態では、原子のSAPスコア(またはアミノ酸残基にわたり平均化したときのSAPスコア)をプロットすることが有益となり得る。タンパク質の原子または残基に沿ったSAPスコアを示すかかるプロットにより、ピークの容易な同定が可能になり、交換する候補を示すことができる。特定の好ましい実施形態では、タンパク質中の原子または残基に沿ったSAPスコアをグラフ中にプロットし、グラフ中のピークに関して曲線下面積(AUC)を計算する。かかる実施形態では、より大きいAUCを有するピークは、より大きいまたはより高い疎水性の凝集しやすい領域を表す。特定の実施形態では、ピーク、またはより好ましくは大きいAUCを有するピーク中に存在すると同定される1つまたは複数の残基の交換を選択することが望ましいであろう。
【0099】
特定の実施形態では、本発明は、凝集傾向の低下を示すタンパク質変異体をつくるために使用することができ、これは、変異体の凝集傾向が低下するように、本明細書に記載の任意の方法によって同定された、タンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を、交換される残基より高い親水性であるアミノ酸残基と交換することによるものである。本明細書で使用するとき、アミノ酸残基を「より高い」または「より低い」親水性または疎水性と言及するとき、これは、当技術分野で公知の疎水性(親水性)の尺度、例えばBlack and Mouldの疎水性スケールによって別のアミノ酸と比較したときに、より高いまたはより低い疎水性であることを意味すると、当業者に理解されよう。
【0100】
同様の実施形態では、本発明は、各タンパク質においてタンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つの残基を交換することにより、複数のタンパク質変異体を産生すること、および(b)凝集傾向の低下を示す(a)で調製されたタンパク質変異体を選択することによって、凝集傾向の低下を示すタンパク質変異体をつくるために使用することができ、ここでは、凝集しやすい領域が、本明細書に記載の任意の方法によって計算されたSAPスコアを使用して同定され、1つもしくは異なる残基、または残基の異なる組合せが、各変異体において交換され、少なくとも1つの残基が、より強い親水性である残基と交換されている。
【0101】
さらに、凝集しやすい領域におけるアミノ酸残基は、交換よりむしろ欠失させる場合もある。複数のアミノ酸残基が交換に選択されるいくつかのタンパク質では、交換され得る残基もあれば、欠失される残基もある。
【0102】
さらなる実施形態では、上記の方法によって(例えば、残基が選択される上記の空間的凝集傾向カットオフを使用することによって)、複数の凝集しやすい領域または残基を、最初のタンパク質において同定することができる。続いて、様々な異なるアミノ酸置換を表す複数のタンパク質変異体をつくり出すように、前記最初のタンパク質において、1つまたは複数の選択されたアミノ酸残基(または選択されたパッチに入る1つもしくは複数の残基)を、より強い親水性のアミノ酸残基と交換することによって、複数のタンパク質変異体を産生することができる。次いで、この集団をスクリーニングし、凝集傾向の低下を有する1つまたは複数のタンパク質変異体を選択することができる。当業者は、複数の凝集しやすい領域が同定される場合があり、1つまたは複数の置換および/または欠失が、1つまたは複数の凝集しやすい領域でつくられ得ることを理解するであろう。アミノ酸の相対的な疎水性は、上記のBlack and Mouldの疎水性スケールによって決定することができる。具体的な実施形態では、交換するアミノ酸は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、AlaまたはGlyを含む、またはこれらからなる群から選択される。関連する実施形態では、タンパク質に置換することになるより高い親水性アミノ酸は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、AspおよびArgを含む、またはこれらからなる群から選ぶであろう。
【0103】
タンパク質変異体は、部位特異的突然変異誘発および他の組換えDNA技術を含む、当技術分野で公知の任意の方法によって作製されてもよく、たとえば、参照によって本明細書において組み込まれる米国特許第5284760号、第5556747号、第5789166号、第6878531号、第5932419号、および第6391548号を参照されたい。
【0104】
特定の実施形態では、本発明は、変異体の凝集傾向が低下するように、本明細書において記載される方法のいずれかによって同定されるタンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を、交換される残基よりも親水性である天然アミノ酸残基、改変アミノ酸残基、まれなアミノ酸残基、非天然アミノ酸残基、またはアミノ酸類似体もしくは誘導体と交換することによって、低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するために使用されてもよい。
【0105】
非天然アミノ酸の合成は、当業者らに公知であり、たとえば米国特許出願公開第2003−0082575号でさらに記載されている。一般に、すべて、参照によって本明細書において組み込まれる刊行物、Liao J. Biotechnol Prog. 2007年1月〜2月;23巻(1号):28〜31頁、RajeshおよびIqbal. Curr Pharm Biotechnol.2006年8月;7巻(4号):247〜59頁、Cardilloら Mini Rev Med Chem.2006年3月;6巻(3号):293〜304頁、Wangら Annu Rev Biophys Biomol Struct. 2006年;35巻:225〜49頁、ChakrabortyらおよびGlycoconj J. 2005年3月;22巻(3号):83〜93頁中に記載されるまたは参照される方法を含むが、これらに限定されない、非天然アミノ酸、改変アミノ酸、またはまれなアミノ酸を合成する、またはタンパク質に組み込むための当技術分野で公知の任意の方法が、利用されてもよい。さらなる例として、Ambrx ReCODE(商標)技術は、本明細書において記載される方法によって示されるように、非天然アミノ酸またはまれなアミノ酸を開発し、タンパク質に組み込むために利用されてもよい。
【0106】
本発明によるタンパク質変異体は、たとえば加速安定性研究によって決定されるように、増強されたまたは改良された安定性を示すことができる。例示的な加速安定性研究は、増加する保存温度を特色とする研究を含むが、これらに限定されない。野生型または最初のタンパク質と比較した、タンパク質変異体について観察される凝集体の形成の減少は、増加した安定性を示す。タンパク質変異体の安定性はまた、野生型または最初のタンパク質と比較した、変異体の融解温度遷移の変化を測定することによって試験されてもよい。そのような実施形態では、増加した安定性は、変異体における融解温度遷移の増加として明らかとなるであろう。タンパク質凝集を測定するためのさらなる方法は、参照によって本明細書において組み込まれる米国特許出願第10/176,809号で記載されている。
【0107】
本発明の他の態様では、計算される空間的凝集傾向は、タンパク質構造の表面上のタンパク質間相互作用部位を同定するために使用されてもよい。タンパク質相互作用部位が疎水性残基または疎水性パッチを含有することが多いことは当技術分野で公知である。本明細書において記載される方法は、疎水性パッチを同定することによって結合部位を位置づけるのに有用であることが期待される。次いで、そのような疎水性パッチは、タンパク質間またはタンパク質−リガンド間認識部位についての候補になるであろう。
【0108】
他の態様では、本発明はまた、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、(a)タンパク質中の原子について先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPをタンパク質の構造モデル上にマッピングするステップおよび(b)SAP>0を有する複数の原子を有する、タンパク質内の領域を同定するステップを含み、高分子結合領域は、上述の複数の原子を含むアミノ酸を含む方法をも含む。
【0109】
他の態様では、本発明は、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、選ばれた閾値を超えるSAPを有する1つまたは複数の原子を含有する1つまたは複数のアミノ酸を同定するステップを含み、SAPは、先の態様のいずれか1つの方法に従って計算され、高分子結合領域は、同定されたアミノ酸を含む方法を含む。
【0110】
他の態様では、本発明は、タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、先の態様のいずれか1つにおいて計算されるSAP値をプロットするステップ、プロット中のピークについて曲線下面積(AUC)を計算するステップ、および正のAUCを有する1つまたは複数のタンパク質領域を同定するステップを含み、高分子結合領域は、同定されたタンパク質領域を含む方法を含む。
【0111】
他の態様では、本発明は、高分子に対する低下した結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するために使用されてもよく、タンパク質中の高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を交換する、または欠失させるステップであって、高分子結合領域は、先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、アミノ酸残基が交換される場合、それは、変異体の高分子に対する結合親和性が低下するように、より親水性のアミノ酸残基と交換される。ある実施形態では、少なくとも1つの残基は、交換され、少なくとも1つの残基は、欠失させられる。他の態様では、本発明はまた、高分子に対する変更された結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、(a)それぞれの変異体において、タンパク質中の高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つの残基を交換することによって複数のタンパク質変異体を生成するステップであって、高分子結合領域は、先の態様のいずれか1つに従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、1つまたは複数の異なる残基または残基の異なる組合せは、それぞれの変異体において交換されるステップおよび(b)高分子に対する変更された結合親和性を示す(a)でのように調製されたタンパク質変異体を選択するステップを含む方法をも含む。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基は、高分子結合領域内の最も疎水性の残基である。ある実施形態では、凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、Ala、またはGlyである。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、Asp、およびArgからなる群から選択される。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、まれなアミノ酸、非天然アミノ酸、または改変アミノ酸である。ある実施形態では、より親水性であるアミノ酸残基は、Black and Mouldの疎水性スケールに従って決定される。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも2つのアミノ酸残基が、交換される。ある実施形態では、高分子結合領域内の少なくとも3つのアミノ酸残基が、交換される。ある実施形態では、少なくとも1つの残基は、タンパク質内の1つを超える凝集しやすい領域内で交換される。ある実施形態では、凝集しやすい領域は、タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための先の態様のいずれか1つの方法に従って同定される。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、高分子は、他のタンパク質、ポリヌクレオチド、または多糖である。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、抗体、Fab断片、Fab’断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)断片、およびFc断片からなる群から選択される。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、リポカイン、ミオカイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、またはインターフェロンである。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子である。ある実施形態では、高分子は、ホルモン受容体または増殖因子受容体である。ある実施形態では、タンパク質は、受容体または受容体のドメインである。ある実施形態では、高分子は、受容体または受容体ドメインの受容体アゴニストまたは受容体アンタゴニストである。先の実施形態と組み合わせられてもよいある実施形態では、タンパク質は、神経伝達物質またはニューロトロフィンである。ある実施形態では、高分子は、神経伝達物質受容体またはニューロトロフィン受容体である。
【0112】
いくつかの実施形態では、本発明はさらに、本発明の方法に従ってSAPを決定するためのコンピュータコードに関する。他の実施形態では、本発明は、本発明の方法を行うために決められたコンピュータ、スーパーコンピュータまたはコンピュータのクラスターに関する。さらなる別の態様では、本発明は、タンパク質上の凝集しやすい領域を決定するための、ウェブベース、サーバベースまたはインターネットベースのサービスを提供し、前記サービスが、ユーザ(例えば、インターネットにわたる)からタンパク質(例えば、タンパク質構造モデル)についてのデータを受容するステップ、またはサービスプロバイダがタンパク質の静的構造を作成、回収、また受容できるように、データベースからかかるデータを回収するステップを含み、任意選択として、タンパク質の動的構造を提供するためのタンパク質の動的分子モデリングのステップ、作成されるような静的または動的構造に基づくタンパク質の原子または残基に関するSAPを決定するステップ、および例えば、前記SAPデータによりマップした構造モデルとして、サービスプロバイダによってSAPデータをユーザに返すステップを含む。いくつかの実施形態では、ユーザは人である。他の実施形態では、ユーザはコンピュータシステムまたは自動化したコンピュータアルゴリズムである。
【0113】
いくつかの実施形態では、本発明は、SAP計算システムを証明し、これには、インターネットを通してユーザ端末にSAPを計算するためのウェブサービスを提供するウェブサーバと、計算方法、アミノ酸疎水性などの一般的な情報を蓄積するためのデータベースと、データベース中の情報およびインターネットを通してユーザによって提供または伝達された情報に基づくSAP計算を行うための計算サーバが含まれる。
【0114】
いくつかの実施形態では、ウェブサーバおよび計算サーバは、同じコンピュータシステムである。いくつかの実施形態では、コンピュータシステムは、スーパーコンピュータ、クラスターコンピュータ、または単一のワークステーションもしくはサーバである。関連する実施形態では、SAP計算システムのウェブサーバには、さらに、全体の作動を制御するためのコントローラ、インターネットに接続するためのネットワーク接続ユニット、およびインターネットを通して接続されたユーザ端末にSAPを計算するためのウェブサービスを提供するウェブサービスユニットが含まれる。
【0115】
さらに、本発明の実施形態は、コンピュータ実行型の様々な作動、例えば、構造モデルのためのSAPの計算、SAAの計算、有効SAAの計算、構造モデルの操作、分子の動的シミュレーションの実行、関連データの組織化および蓄積、または本明細書に記載の他の作動の実行を行うためのプログラムコードを含む、コンピュータ可読媒体を有するコンピュータ蓄積プロダクトにさらに関連する。コンピュータ可読媒体とは、データを蓄積でき、その後コンピュータシステムによってそれを読むことができる任意のデータ蓄積装置である。コンピュータ可読媒体の例には、これに限定されないが、ハードディスク、フロッピー(登録商標)ディスク、フラッシュドライブ、光ディスク(例えば、CD、DVD、HD−DVD,Blu−Rayディスクなど)、および特定用途向け集積回路(ASIC)またはプログラム可能論理回路(PLD)などの特別に構成されたハードウェア装置が挙げられる。コンピュータ可読コードが、分散方式で蓄積および実行されるように、コンピュータ可読媒体は、結合コンピュータシステムのネットワークにわたる搬送波中に具体化されたデータシグナルとして、分散させることもできる。上記のハードウェアおよびソフトウェアエレメントが、標準的な設計および構成であることを、当業者は理解するであろう。上記の実施形態に関連する、コンピュータ、インターネット、サーバおよびサービスは、さらに、SAAおよび有効SAAならびにSAPに適用することができる。
【0116】
III.本発明のペプチドおよびペプチド変異体を含む医薬組成物
別の態様では、本発明は、例えば、本発明の方法によって産生される1つまたは複数のタンパク質変異体を含み、薬学的に許容される担体と共に処方される、医薬組成物などの組成物を提供する。本発明の医薬組成物は、併用療法、すなわち他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。例えば、併用療法には、少なくとも1つの他の抗癌剤と組み合わせた本発明のタンパク質を挙げることができる。
【0117】
本明細書で使用するとき、「薬学的に許容される担体」には、生理的適合性のある任意およびすべての溶媒、分散媒、コーティング、抗菌剤および抗真菌剤、等張性吸収遅延剤などが挙げられる。好ましくは、担体は、静脈内、筋肉内、皮下、非経口、脊髄または表皮投与(例えば、注射または注入による)に適している。投与の経路によって、活性化合物、すなわち本発明のタンパク質またはその変異体は、酸の作用、および化合物を不活性化し得る他の自然条件から化合物を保護するために物質中にコートすることができる。
【0118】
本発明の医薬化合物には、1つまたは複数の薬学的に許容される塩を含めることができる。「薬学的に許容される塩」とは、親化合物の所望の生物学的活性を保持し、所望されないどんな毒性影響も与えない塩をいう(例えば、Berge、S.M.ら(1977年)J. Pharm. Sci.、66巻:1〜19頁を参照されたい)。かかる塩の例には、酸付加塩および塩基付加塩が挙げられる。酸付加塩には、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、亜リン酸などの非毒性無機酸、ならびに脂肪族のモノおよびジカルボン酸、フェニル置換したアルカン酸、ヒドロキシアルカン酸、芳香族酸、脂肪族および芳香族スルホン酸などの非毒性有機酸に由来するものが挙げられる。塩基付加塩には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属、およびN,N’−ジベンジルエチレンジアミン、N−メチルグルカミン、クロロプロカイン、コリン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、プロカインなどの非毒性有機アミンに由来するものが挙げられる。
【0119】
本発明の医薬組成物には、薬学的に許容される抗酸化剤を含めることもできる。薬学的に許容される抗酸化剤の例には、(1)アスコルビン酸、塩酸システイン、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウムなどの水溶性抗酸化剤、(2)パルミチン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、レシチン、没食子酸プロピル、アルファトコフェロールなどの油溶性抗酸化剤、(3)クエン酸、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ソルビトール、酒石酸、リン酸などの金属キレート剤が挙げられる。
【0120】
本発明の医薬組成物中に採用できる、適した水性および非水性担体の例には、水、エタノール、ポリオール(グリセロール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなど)およびその適した混合物、オリーブオイルなどの植物油、ならびにオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルが挙げられる。適切な流動度は、例えば、レシチンなどのコーティング物質の使用によって、分散物の場合の必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。
【0121】
これらの組成物には、保存剤、湿潤剤、乳化剤および分散剤などのアジュバントを含めることもできる。微生物の存在の防止は、滅菌手順ならびに様々な抗生物質および抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、ソルビン酸フェノールなどの封入の両方によって、確実にすることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を組成物中に含めることが望ましい場合もある。さらに、注射可能な医薬品形態の吸収の遅延は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収を遅らせる薬剤の封入によって引き起こすことができる。
【0122】
薬学的に許容される担体には、無菌水溶液または分散物、および注射可能な無菌溶液または分散剤を即座に調製するための無菌粉末が含まれる。薬学的な活性物質のためのかかる媒体および薬剤の使用は、当技術分野で公知である。任意の従来の媒体または薬剤が、活性化合物と適合しない場合を除き、本発明の医薬組成物中でのそれらの使用が、企画されている。追加の活性化合物を、組成物中に組み込むこともできる。
【0123】
典型的な製剤には、本発明の少なくとも1つのタンパク質変異体を含み、本明細書に開示の方法に加えて、タンパク質の凝集を防ぐまたは減少させるために使用できる、より低濃度の安定化(または脱凝集)剤を含めることができる。したがって、凝集を防ぐために使用される従来の方法を、本発明の方法によって産生されるタンパク質変異体を含む医薬組成物の開発に採用することができる。例えば、様々な安定化または脱凝集化合物を、本発明の医薬組成物の意図する使用およびそれらの生物学的毒性によって、医薬組成物中に含めることができる。かかる安定化化合物には、例えば、シクロデキストリンおよびその誘導体(米国特許第5730969号)、アルキルグリコシド組成物(米国特許出願第11/474,049号)、シャペロン分子の使用(例えば、LEA(Goyalら、Biochem J.、2005年、388巻(Pt1):151〜7頁;米国特許第5688651号の方法)、ベタイン化合物(Xiao、Burn、Tolbert、Bioconjug Chem.、2008年 May 23)、界面活性剤(例えば、Pluronic F127、Pluronic F68、Tween 20(Weiら、International Journal of Pharmaceutics.、2007年、338巻(1〜2号):125〜132頁))および米国特許第5696090号、5688651号および6420122号(これらは、参考として本明細書に援用される)に記載の方法を含めることができる。
【0124】
例示的な製剤はまた、薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または賦形剤と一緒に、結合パートナーとの相互作用に対する変更された傾向を示す本発明のタンパク質変異体をも含む。
【0125】
さらに、タンパク質、そして特に抗体は、異なる種類の賦形剤の組合せを使用して製剤中で安定化され、この賦形剤は、例えば(1)ジサッカリド(例えば、ショ糖、トレハロース)またはポリオール(例えば、ソルビトール、マンニトール)は、優先的な排除によって安定化剤として働き、凍結乾燥の間、凍結保護剤(cryoprotectant)として働くこともでき、(2)界面活性剤(例えば、ポリソルベート80、ポリソルベート20)は、液体/氷、液体/物質表面、および/または液体/空気の界面のような界面でのタンパク質相互作用を最小化させることによって働き、(3)緩衝液(例えば、リン酸−、クエン酸−、ヒスチジン)は、製剤pHの制御および維持に役立つ。したがって、かかるジサッカリドポリオール、界面活性剤および緩衝液は、本発明の方法に加えて、タンパク質をさらに安定化させ、それらの凝集を防ぐために使用することができる。
【0126】
治療用組成物は、一般的に、製造および貯蔵の条件下で、無菌および安定でなければならない。組成物は、溶液、マイクロエマルション、リポソームまたは高い薬物濃度に適する他の秩序だった構造として処方することができる。担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液体ポリエチレングリコールなど)およびそれらの適した混合物を含む溶媒または分散媒であってよい。適切な流動度は、例えば、レシチンなどのコーティングの使用によって、分散物の場合に必要な粒径を維持することによって、および界面活性剤の使用によって、維持することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖、例えばマンニトール、ソルビトールなどの多価アルコールまたは塩化ナトリウムを組成物中に含めることが望ましいであろう。注射可能な組成物の吸収の延長は、例えば、モノステアリン酸塩およびゼラチンなどの吸収を遅らせる剤を組成物中に含めることによって引き起こすことができる。
【0127】
注射可能な無菌溶液は、適切な溶媒中の必要な量の活性化合物と、必要とする上述で列挙された成分の1つまたは組合せとを組み込み、続いて滅菌微量濾過をすることによって調製することができる。一般的に、分散物は、基本的な分散媒および上述で列挙されたものからの必要な他の成分を含む無菌ビヒクル中に、活性化合物を組み込むことによって調製される。注射可能な無菌溶液を調製するための無菌粉末の場合、好ましい調製方法は、真空乾燥およびフリーズドライ(凍結乾燥)であり、これにより、事前に無菌濾過したそれらの溶液から活性成分および任意の追加の所望の成分の粉末が得られる。
【0128】
担体物質と組み合わせて単回剤形を産生できる活性成分の量は、治療する対象および特定の投与様式によって変化するであろう。担体物質と組み合わせて単回剤形を産生できる活性成分の量は、一般的に、治療効果をもたらす組成物の量であろう。一般的に、100パーセントの中で、この量は、活性成分の約0.01パーセントから約99パーセント、好ましくは約0.1パーセントから約70パーセント、最も好ましくは薬学的に許容される担体と組み合わせた活性成分の約1パーセントから約30パーセントの範囲であろう。
【0129】
投与計画は、所望の最適な応答(例えば、治療応答)をもたらすように調整する。例えば、1回のボーラスで投与でき、数回に分けた用量を経時的に投与することもでき、または治療状況の緊急性が示されるとき、用量を比例的に減少または増加させることもできる。投与の容易さおよび投薬の一様性のために、投薬単位形態において非経口の組成物を処方することは、特に有利である。本明細書で使用するとき、投薬単位形態とは、治療する対象への単回の投薬に適する、物理的に別々のユニットをいい、各ユニットには、必要な医薬担体と共に所望の治療効果をもたらすように計算された、活性化合物の所定の量が含まれる。本発明の投薬単位形態に関する仕様は、(a)活性化合物および達成すべき特定の治療効果の特有の特徴、および(b)個体における治療の感受性のために、かかる活性化合物を混合する当技術分野の固有の制限によって指定され、そして直接的に依存する。
【0130】
タンパク質の投与のために、投与量は、宿主の体重当たり、約0.0001から100mg/kgであり、より一般的には0.01から5mg/kgの範囲である。例えば、投与量は、0.3mg/kg体重、1mg/kg体重、3mg/kg体重、5mg/kg体重もしくは10mg/kg体重、あるいは1〜10mg/kgの範囲内であってよい。典型的な治療計画は、1週間につき1回、2週間毎に1回、3週間毎に1回、4週間毎に1回、1カ月に1回、3カ月毎に1回または3から6カ月毎に1回の投与を必要とする。本発明のタンパク質のための好ましい投与計画には、静脈内投与による1mg/kg体重または3mg/kg体重が挙げられ、抗体が、次の投与スケジュール:(i)4週間毎に6回の投薬、次いで3カ月毎、(ii)3週間毎、(iii)3mg/kg体重で1回の後、3週間毎に1mg/kg体重のうち1つを用いて与えられる。
【0131】
あるいは、本発明のタンパク質は、持続的な放出性製剤として投与することができ、この場合、必要な投与頻度はより少ない。投与量および頻度は、患者に投与した物質の半減期によって変化する。一般的に、ヒト抗体は、最も長い半減期を示し、次いでヒト化抗体、キメラ抗体、そして非ヒト抗体が続く。投与の投与量および頻度は、治療が予防的か治療的かによって変えることができる。予防的な適用では、比較的少ない投与量を、長期間にわたり比較的低頻度の間隔で投与する。幾人かの患者は、彼らの残りの人生の間、治療を受け続ける。治療的な適用では、疾患の進行が遅くなるまたは止まるまで、好ましくは、患者が疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔での比較的多い投与量が、時々必要とされる。その後、患者は、予防的な計画で投与され得る。
【0132】
本発明の医薬組成物における活性成分の実際の投与量レベルは、患者に対して毒性がなく、特定の患者、組成物および投与様式に関して所望の治療応答を達成するのに効果的な量の活性成分が得られるように、変えることができる。選択される投与量レベルは、採用する本発明の特定の組成物またはエステル、塩もしくはそのアミドの活性、投与の経路、投与の時間、採用する特定の化合物の排泄速度、治療の期間、採用する特定の組成物と組み合わせて使用される他の薬物、化合物および/または物質、年齢、性別、体重、状態、全体的の健康、および治療する患者の以前の病歴、ならびに医学分野で周知の類似の要因を含む、様々な薬物動態の要因に依存する。
【0133】
本発明のタンパク質の「治療上効果的な投薬」により、好ましくは、疾患症状の重症度の低下、疾患症状のない時期の頻度および期間の増加、または疾患の苦痛に起因する機能障害もしくは身体障害の予防がもたらされる。例えば、腫瘍の治療のために、「治療上効果的な投薬」により、好ましくは、細胞増殖または腫瘍増殖が、治療していない対象と比較して、少なくとも約20%、より好ましくは少なくとも約40%、さらにより好ましくは少なくとも約60%、さらにより好ましくは少なくとも約80%阻害される。腫瘍増殖を阻害する化合物の能力は、ヒト腫瘍における効力を予測する動物モデル系で評価することができる。あるいは、組成物のこの特性は、化合物の阻害能を試験することによって評価でき、かかる阻害は、当業者に公知のアッセイによってin vitroで評価される。治療上効果的な量の治療用化合物により、腫瘍の大きさを減少させるか、他の方法で対象の症状を改善することができる。当業者は、対象の大きさ、対象の症状の重症度、および選択する特定の組成物または投与経路のような要因に基づき、かかる量を決定することができよう。
【0134】
本発明の組成物は、当技術分野で公知の1つまたは複数の様々な方法を用いて、1つまたは複数の投与経路によって投与することができる。当業者に理解されるように、投与の経路および/または様式は、所望の結果によって変えるであろう。本発明の結合部分のための好ましい投与経路には、例えば、注射または注入による、静脈内、筋肉内、皮内、腹腔内、皮下、脊髄または他の非経口の投与経路が挙げられる。本明細書で使用するとき、「非経口投与」という表現は、通常、注射による、腸内および局所投与以外の投与様式を意味し、これに限定されないが、静脈内、筋肉内、動脈内、髄腔内、嚢内、眼窩内、心臓内、皮内、腹腔内、経気管、皮下、表皮下、関節内、嚢下、くも膜下、脊髄内、硬膜外および胸骨内(intrasternal)注射および注入が挙げられる。
【0135】
あるいは、本発明のタンパク質は、局所、表皮または粘膜の投与経路などの非経口ではない経路によって、例えば、鼻腔内に、経口的に、経膣的に、直腸に、舌下にまたは局所的に投与することができる。
【0136】
活性化合物は、移植物、経皮パッチおよびマイクロカプセル化による送達系が挙げられる、制御された放出製剤などの、急速な放出に対して化合物を保護するであろう担体と共に調製することができる。エチレン酢酸ビニル、ポリ酸無水物、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリオルトエステルおよびポリ乳酸などの生分解性、生体適合性ポリマーを使用することができる。かかる製剤を調製するための多くの方法は、特許を取得されているか、または一般的に当業者に公知である。例えば、Sustained and Controlled Release Drug Delivery Systems、J.R. Robinson編、Marcel Dekker, Inc.、New York、1978年を参照されたい。
【0137】
治療用組成物は、当技術分野で公知の医療機器により投与することができる。例えば、好ましい実施形態では、本発明の治療用組成物は、米国特許第5,399,163号、5,383,851号、5,312,335号、5,064,413号、4,941,880号、4,790,824号または4,596,556号に開示された機器などの、針なしの皮下注射器を用いて投与することができる。本発明に有用な周知の移植物およびモジュールの例には、制御された速度で医薬を分注するための移植可能なマイクロ注入ポンプを開示する米国特許第4,487,603号、皮膚から医薬を投与するための治療用機器を開示する米国特許第4,486,194号、正確な注入速度で医薬を送達するための医薬注入ポンプを開示する米国特許第4,447,233号、持続的な薬物送達のための流速可変型移植注入器具を開示する米国特許第4,447,224号、複数のチャンバー区画を有する浸透圧性薬物送達系を開示する米国特許第4,439,196号、および浸透圧性薬物送達系を開示する米国特許第4,475,196号が挙げられる。これらの特許は、参考として本明細書に援用される。多くの他のこのような移植物およびモジュールは、当業者に公知である。
【実施例】
【0138】
実施例への導入
凝集しやすい領域を予測する、および凝集メカニズムを研究するための分子シミュレーション技法には、本発明に採用できる詳細な原子モデルではなく、大部分は、比較的単純なシミュレーションモデル(Ma and Nussinov. Curr. Opin. Chem. Biol.、2006年、10巻、445〜452頁;Cellmerら、TRENDS、Biotechnology 2007年、25巻(6号)、254頁)を採用した。採用した最も詳細でないシミュレーションモデルは、格子モデルであり、これは、タンパク質凝集の多くの研究に使用されている(Harrisonら、J. MoL Biol. 1999年、286巻,593〜606頁;DimaおよびThirumalai、Protein Sci. 2002年、11巻、1036〜1049頁;Leonhardら、Protein Sci. 2004年、13巻、358〜369頁;PatroおよびPrzybycien、Biophys. J. 1994年、66巻、1274〜1289頁;PatroおよびPrzybycien、Biophys. J. 1996年、70巻、2888−2902頁;Brogliaら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 1998年、95巻、12930〜12933頁;Istrailら、Comput. Biol. 1999年、6巻、143〜162頁;Giugliarelliら、Chem. Phys. 2000年、113巻、5072〜5077頁;Bratkoら、J. Chem. Phys. 2001年、114巻、561〜569頁;BratkoおよびBlanch、J. Chem. Phys. 2003年、118巻、5185〜5194頁;CombeおよびFrenkel、Chem. Phys. 2003年、118巻、9015〜9022頁;TomaおよびToma.、Biomacromolecules 2000年、1巻、232〜238頁;Guptaら、Protein Sci. 1998年、7巻、2642〜2652頁;およびNguyenおよびHall、Biotechnol. Bioeng. 2002年、80巻、823〜834頁)。ここで各残基は、3次元格子上の単一部位を占めるビーズとして表される。その単純さのため、格子モデルは、計算の要求がより少なく、長時間スケールでの大きなシステムをシミュレートするために使用した。これらの格子モデルは、タンパク質凝集の根底にある基礎物理学への洞察を与えるが、2次および3次構造を正確には表さず、水素結合などの異なる原子レベルの相互作用を十分に説明することはできない。
【0139】
格子モデルと比較してより詳細なモデルは、中間の解像度モデルであり、通常、数個の原子を単一ビーズに組み合わせ、骨格の結合角および異性化状態を維持するために仮性結合を時々導入する(SmithおよびHall、Mol. Biol. 2001年、312巻、187〜202頁;SmithおよびHall、Proteins: Struct., Funct., Genet. 2001年、44巻、344〜360頁;SmithおよびHall、Proteins: Struct., Funct., Genet. 2001年、44巻、376〜391頁;Nguyenら、Protein Sci. 2004年、13巻、2909〜2924頁;NguyenおよびHall、Proc.Natl. Acad. Sci. U.S.A.、2004年、101巻(46号)、16180〜16185頁;NguyenおよびHall、J. Am. Chem. Soc.、2006年、128巻、1890〜1901頁;Jangら、Biophys. J. 2004年、86巻、31〜49頁;Jangら、Protein Sci. 2004年、13巻、40〜53頁)。このモデルを、無秩序な状態から開始する、12および96個の間のポリアラニンペプチド(それぞれ16残基)を含む系から、線維形成をシミュレートするために首尾よく使用した(NguyenおよびHall、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、2004年、101巻(46号)、16180〜16185頁;NguyenおよびHall、J. Am. Chem. Soc.、2006年、128巻、1890〜1901頁)。Dokholyanおよび共同研究者らは、8つのモデルSrcSH3ドメインタンパク質によって(Dingら、Mol. Biol.、2002年、324巻、851〜857頁)、または28個のモデルAβ(1〜40)ペプチド(Pengら、Phys. ReV. E: Stat. Ph. Interdiscip. Top. 2004年、69巻、41908〜41914頁)によって、原線維βシート構造の形成を研究するために、かかるモデルを適用した。
【0140】
より単純なモデルとは違い、原子モデルは、水素結合などのすべての原子の詳細を含み、したがって、格子または中間の解像度モデルより正確である。かかる原子モデルは、明示的な(explicit)溶媒または暗黙の(implicit)溶媒のいずれかを用いて使用し、溶媒は、連続体として処理した。明示的なモデルは、暗黙のモデルより正確であるが、計算もより要求される。暗黙の溶媒を用いるかかる原子モデルを、酵母タンパク質Sup35の一部であるヘプタペプチドGNNQQNY(配列番号:1)の凝集の初期段階を研究するために使用した(Gsponerら、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 2003年、100巻、5154〜5159頁)。同様のモデルを、逆平行βシートへのAb16〜22アミロイドペプチド(KLVFFAE(配列番号:2))の凝集に使用した(KlimovおよびThirumalai、Structure 2003年、11巻、295〜307頁)。Dokholyanおよび共同研究者ら(Khareら、Proteins. 2005年、61巻、617〜632頁)は、酵素Cu,Znスーパーオキシドジスムターゼ(SOD1)の配列に沿った秩序的な凝集傾向を調査するために、明示的な原子モデルを使用した。彼らは、SOD1配列を、オーバーラップするヘプタペプチドに分解し、単量体、二量体および四量体セグメントの多数の明示的な水分子動的シミュレーション(それぞれ0.5ns)を行った。これにより、彼らは、SOD1配列におけるアミロイド形成領域が、β鎖4および7の2つの末端、ならびに2つのクロスオーバーループであることを同定した。
【0141】
同様の分子動的シミュレーションプロトコールを、アミロイド形成ポリペプチドの秩序的なβ凝集に関する構造情報を得るために開発した(Cecchiniら、J Mol Biol. 2006年、357巻、1306〜1321頁)。手順は、オーバーラップするセグメントへのポリペプチド鎖の分解、および各セグメントの少数のコピーの平衡分子動的(MD)シミュレーションに基づく。アルツハイマーのAβ(1〜42)ペプチドの配列に沿ったβ凝集傾向が、非常に不均一であることが見出され、セグメントV12HHQKLVFFAE22(配列番号:3)で最大、および4つのターン様ジペプチドで最小であった。この技法を用いて、酵母プリオンUra2pのN末端ドメインの二重点突然変異の凝集傾向における予測した変化を、チオフラビンT結合アッセイを使用してin vitroで検証した。ポリペプチド鎖をオーバーラップするセグメントに分解するかかる手順は、抗体などの系に関して、それらの巨大さから、非常に困難であろう。さらに、明示的な溶媒中の単一の完全抗体の原子シミュレーションは、抗体の巨大さから、非常に計算を要求される。したがって、本文献では、完全抗体の原子シミュレーションではないと思われる。
【0142】
しかし、抗体の小さい部分の原子シミュレーションはあり、大部分はFab断片に関してであった(Noonら、PNAS. 2002年、99巻、6466頁;SinhaおよびSmith−Gill、Cell Biochemistry and Biophysics. 2005年、43巻、253頁)。この研究では、明示的な溶媒を用いる完全抗体分子の原子シミュレーションを行った。これらのシミュレーションに基づき、抗体上の凝集しやすい領域を、本明細書に記載の「空間的凝集傾向」パラメータを使用して同定した。これらの凝集しやすい領域を、次いで、強化した安定性を有する抗体を設計するように突然変異させた。本明細書に記載の実施例には、特に、本発明の特定の実施形態を言及する。
【0143】
(実施例1)分子動的シミュレーション法
分子動的シミュレーションを、全原子モデルを使用して、完全抗体に関して行った。完全抗体に関するシミュレーションの最初の構造を、個々のFabおよびFc断片のX線構造から得た。概念実証(POC)のFab断片のX線構造を、IgG1抗体1HZHから得たFcのX線構造上にモデリングするために選択した(Saphireら、Science. 2001年、293巻、1155頁)。完全抗体に関するX線構造が公知であり、Fc構造が、すべてのIgG1クラスの抗体で同じため、1HZHを選んだ。次いで、1HZH構造をモデルテンプレートとして使用し、FabおよびFc断片を整列させることによってPOC完全抗体の構造を得た。正しい距離および方向で断片を整列させるために、RMSD(標準偏差)を、断片および完全抗体テンプレート(1HZH)の共通のCYS残基間で最小にした。各抗体のサブドメイン(cHl、cH2など)が、ジスルフィド結合を含み、よって、CYS残基が全体の抗体構造にわたって広範に分布するため、CYS残基を選んだ。結果として得られる完全抗体構造を、次いで、30ns間、明示的な原子シミュレーションの実行に使用した。G0グリコシル化パターンをシミュレーションに使用した。なぜなら、これが、抗体において観察される最も共通のグリコシル化パターンであるからである。
【0144】
CHARMMシミュレーションパッケージ(Brooksら、J. Comput. Chem.、1983年、4巻、187頁)を、セットアップおよび解析に使用し、NAMDパッケージ(Phillips ら、Journal of Computational Chemistry. 2005年、26巻、1781頁)をシミュレーションの実行に使用した。CHARMM全原子力場(atomistic force field)(MacKerellら、J. Phys Chem. B. 1998年、102巻、3586頁)を、水に対するタンパク質およびTIP3P(Jorgensen ら、J. Chem. Phys.、1983年、79巻、926頁)溶媒モデルに使用した。シミュレーションは、NPTアンサンブルにおいて298Kおよび1気圧で行った。Fc断片のグリコシル化に関連する糖基に関するパラメータは、CSFF力場(Kuttelら、J. Comput. Chem.、2002年、23巻、1236頁)に続くCHARMM力場と一致するように導く。pH−7でのヒスチジン残基のプロトン化状態を、電気陰性基の空間的近接に基づいて選んだ。完全抗体を斜方晶ボックス(orthorhombic box)において溶媒和した。なぜなら、これが、必要な水分子の数を最小にし、よって計算時間を最小にするからである。周期的境界条件(periodic boundary condition)を、すべて3方向において使用した。8Åの水の溶媒和シェルを、斜方晶ボックスの各方向において使用した。結果として得られた全体の系サイズは、202130原子であった。全体の系の電荷を中和するために十分なイオンを添加した。電荷の中性は、系における静電気相互作用の寄与を計算するために採用されるEwald合計法によって必要とされる。
【0145】
抗体を溶媒和した後、タンパク質周囲で水の緩和を可能にするために、タンパク質を固定することによって、エネルギーを最初にSD(最急降下(steepest descent))により最小にした。次いで、拘束を除去し、構造をSDおよびABNR(Adopted Basis Newton−Raphson)でさらに最小にした。次いで系を、より短い時間ステップを用いて0.5ps毎に5℃上昇させて室温までゆっくり加熱した。シミュレーションから対象の特性を計算する前に、次いで系をInsに対して平衡にした。さらなる統計解析のために、シミュレーションの間、0.1ps毎にコンフォメーションを保存した。
【0146】
(実施例2)空間的凝集傾向(SAP)の計算
SAAの欠点を克服するために、上記のような「空間的凝集傾向」と呼ばれる新しいパラメータを規定した。
【0147】
この実施例では、実施例1で記載の抗体におけるあらゆる原子で中央に位置する半径Rの球状領域に関して、「空間的凝集傾向」を計算した。したがって、パッチの2つの異なる半径(R=5Å、10Å)に対する抗体のFc断片に関して30nsのシミュレーションの平均を用いて、空間的凝集傾向値を評価した(当業者は、利用可能な計算資源および結果の所望の解像度にしたがって、シミュレーションのための様々な時間ステップが選択可能であることを理解するであろう)。両方の場合において、値の大部分が負であり、ほとんどの露出領域が親水性を示すことに注記のこと。露出したタンパク質表面のほとんどが、通常、親水性であるため、これは予想通りであった。露出した高い疎水性を示す、空間的凝集傾向が正であるピークを有する少数の領域があることも観察された。パッチのより小さい半径(5Å)からより大きい半径(10Å)にすることにより、いくつかのピークが消失し、一方、いくつかの他のピークが強化される。これらの領域において、小さい疎水性パッチ(半径5Å未満)が、親水性パッチによって囲まれるため、いくつかのピークは消失し、したがって、平均して10Åを超えることにより、この領域に関する疎水性の効果的な低下が導かれる。一方、いくつかの他の領域では、R=10Åでの空間的凝集傾向は、疎水性パッチが同様の疎水性パッチを囲むため、強化される。
【0148】
上記で、空間的凝集傾向は、30nsのシミュレーション実行の間の平均として計算した。シミュレーションを用いて計算した結果を、次いで、分子シミュレーションなしのX線構造のみの空間的凝集傾向と比較した。空間的凝集傾向(X線)は、シミュレーションの平均した値のものと同様であり、同じ位置にピークを有したが、ピークの振幅は異なった。差は、パッチのより大きな半径R=10Åでより大きくなった。これはおそらく、大きなパッチサイズで見たとき、差が相加的であるためであろう。動的シミュレーションの実行において残基の変化する表面の露出により、これらの差は生じる。それにもかかわらず、この比較により、特にパッチの小さい半径Rに関して、空間的凝集傾向の優れた最初の推定を、そのX線構造から取得できることが示される。
【0149】
R=5ÅおよびR=10Åに関するシミュレーションから得た空間的凝集傾向値を、抗体構造上にマップした。両場合において、抗体表面を、空間的凝集傾向の値によって色付けした。空間的凝集傾向(疎水性)の正の値は、灰色または黒色で示すが、負の値(親水性)は、より明るい灰色または白色とする。色の強度は、SESの大きさに比例する。そのため、高度に露出した疎水性パッチは、濃い黒色になり、同様に、高度に露出した親水性パッチは、より明るい白色となるであろう。さらに、抗体の構造表現は、それぞれの残基についての溶媒接触可能面積に基づく。空間的凝集傾向の計算で使用される両方の半径(5Åおよび10Å)で、表面が主に白色であることが観察され、これは、表面が多くは親水性であることを示す。これはまた、ほとんどのタンパク質表面が通常親水性であるので、期待されるとおりである。しかしながら、少数の黒色のエリアが顕著であり、これは、露出した疎水性領域を示す。黒色および白色領域間の対比は、SAPの計算において使用したパッチのより大きい半径R=10Åでより顕著である。これらの黒色(疎水性)領域は、他のタンパク質と相互作用することが公知である抗体の領域との優れた相関を有する。ヒンジ領域における濃い黒色の領域は、Fc受容体が相互作用する場所である。Fc断片中の黒色の領域は、プロテインAおよびプロテインGが相互作用する場所である。Fc断片中の領域に相当する。Fab断片の末端の黒色のパッチは、抗体が抗原と結合する場所である。R=5Åおよび10Åのそれぞれに関する空間的凝集傾向をプロットし、ここでは、相互作用領域とピークとの同じ相関を観察することができた。タンパク質相互作用部位を、タンパク質複合体、すなわちPDB登録1T89、1FC2および1FCC(Radaev、J. Biol. Chem. 2001年、276巻(19号)16469頁;Deisenhoferら、Hoppe−Seyler’s Z Physiol Chem. 1978年、359巻、975〜985頁;Deisenhofer、J. Biochemistry. 1981年、20巻、2361〜2370頁;Sauer−Erikssonら、Structure. 1995年、3巻、265頁)のX線構造から得た。疎水性相互作用は、正のピークと非常によく相関し、親水性相互作用は、負のピークとよく相関する。したがって、空間的凝集傾向パラメータは、タンパク質の結合部位を予測するためにも使用することができる。低い空間的凝集傾向(すなわち、ゼロ近くの正または負のいずれか)を有する残基も相互作用する稀な例外では、実際には、側鎖の代わりに、骨格の主鎖自体の原子と相互作用することが観察された。
【0150】
上記で議論した、他のタンパク質との相互作用が既に示された黒色のパッチとは別に、抗体表面上の追加の黒色のパッチを同定した。Fcの底部の1つのパッチは、顕著に疎水性であるが、いくらか内部に埋まっており、その境界上に親水性領域がある。同様に、2つのパッチは、疎水性であり、溶媒にさらされるが、それらは抗体の内側に向いている。抗体の顕著なコンフォメーション的変化またはアンフォールディングのために、これらのパッチが露出すると、これらはさらに他のタンパク質との相互作用に潜在的に関与できた。より大きいパッチ半径(R=10Å)と比較してコントラストはより小さいが、すべての疎水性パッチを、より小さいパッチ半径(R=5Å)でも観察できた。
【0151】
X線構造のみに基づく空間的凝集傾向(X線)値も、シミュレーションの平均値と比較するために、抗体表面上にマップした。シミュレーションにより、またはX線構造のみを使用して計算した空間的凝集傾向の間で、黒色の疎水性の凝集しやすいパッチがかなり類似していることが示された。当然、プロテインAおよびGが相互作用する領域中のパッチの強度などのいくらかの違いはある。それにもかかわらず、この比較により、X線構造のみに基づく空間的凝集傾向(X線)は、表面上の疎水性パッチの分布に関するよい説明を得るために使用可能であることが実証される。完全抗体の原子シミュレーションが、計算を要求するため、このことは重要である。X線構造モデルを欠くタンパク質のために、同じ空間的凝集傾向パラメータを、ホモロジーモデリングまたは非経験的な(ab−initio)構造予測により産出された構造に適用することができる。ホモロジー構造が、X線構造に非常に類似することが観察され、その空間的凝集傾向値もX線構造に類似する。
【0152】
このように、空間的凝集傾向により、抗体の表面上の疎水性パッチが同定される。これらのパッチは、天然で露出するか、抗体の動的な変動または部分的なアンフォールディングのためにさらされ得た。これらの疎水性パッチのいくらかも、他のタンパク質と相互作用する領域とよく相関する。空間的凝集傾向により予測されたこれらの疎水性パッチが、凝集にも関連するかどうかを試験するために、疎水性残基を親水性残基に変化させる、これらの特定領域における突然変異を行った。結果として得られる抗体は、より低下した凝集挙動および改善された安定性を示した。凝集しやすい残基の同定とは別に、SAP法は、他のタンパク質と結合しやすい抗体の領域を正確に同定することが観察された。したがって、この方法は、凝集しやすい領域または他のタンパク質との結合領域を同定するために全タンパク質に広範に適用することができた。
【0153】
(実施例3)
安定性操作のための抗体部位の選択
増強された抗体安定性のために操作される部位は、SAPパラメータに基づいて選択した。この空間的パラメータは、(1)それぞれの残基の溶媒接触可能面積(SAA)、(2)残基の疎水性、および(3)ある半径内のすべての残基の空間的寄与を説明する。本実施例では、CH2中で正のピークに相当する疎水性残基は、非疎水性残基に変化させた。これは全体的なタンパク質安定性を改良するであろうということが期待された。2つの選択された部位(A1およびA2)は、2つの非常に疎水性の残基に相当する。これらの残基の、正電荷側鎖を有する非常に親水性のアミノ酸であるリジンとの置換について分析を試みた。変異体A1および変異体A2は、単一のアミノ置換によって野生型と異なる。
【0154】
(実施例4)
抗体変異体の発現および精製
抗体変異体は、部位特異的突然変異誘発によって生成した。すべての構築物は、DNA配列決定によって確認した。mgスケールのプラスミドDNAを細菌培養物から精製し、HEK293細胞に一時的にトランスフェクトした。抗体野生型および変異体をプロテインAカラム上で組織培養上清から精製し、Qセファロースカラムを通過させて、負電荷不純物を除去した。pH7.0以下で、抗体は、正に電荷しており、フロースルー中に残るが、負電荷不純物は、Qセファロースカラムの正電荷マトリックスに結合する。精製抗体を有する溶液は、濃縮し、20mM Hisバッファー pH 6.5を用いてバッファーを交換し、150mg/mlの最終濃度にした。
【0155】
品質管理として、精製し、濃縮した試料のアリコートを、SDS−PAGEおよび円二色性によって分析した。還元および非還元条件の両方をタンパク質ゲルに使用した。発明者らはまた、円二色性によって野生型抗体および変異体A1の二次構造を比較した。
【0156】
(実施例5)
生物物理的な特徴づけ
変異体A1の安定性は、加速凝集実験で野生型と比較した。20mM Hisバッファー pH 6.5中150mg/mlの試料は、24時間までの間、58℃でインキュベートした。インキュベーションは、15mM K−リン酸バッファー、pH 6.5を用いて10mg/mlまで試料を希釈することによって停止し、凝集のパーセントは、SEC−HPLCによって決定した。凝集は、すべてのピークの総面積によって割ったすべての非単量体ピークの面積の合計として計算した。それぞれの時点についての2〜4の試料の平均を示す。変異体A1についての凝集体は、野生型についての凝集体の80%しかない。したがって、単一の点突然変異は、凝集体形成を20%低下させる。
【0157】
野生型および変異体A1は、Differential Scanning Micro−calorimetry(DSC、Microcal)によって比較した。完全抗体は、多ドメインタンパク質である。DSC分析は、異なるドメインについての異なる融解温度を示す(Ionescu, R.M.ら、J Pharm Sci.2008年、97巻(4号):1414〜26頁、Mimura, Y.ら、J Biol Chem.2001年、276巻(49号):45539〜47頁)。ヒトIgG1 Fcの定常CH2ドメインおよび定常CH3ドメインは、中性のpHで、70℃および82℃のあたりの融解温度をそれぞれ有する(Ionescu, R.M.ら、J Pharm Sci.2008年、97巻(4号):1414〜26頁、Mimura, Y.ら、Role of oligosaccharide residues of IgG1−Fc in Fc gamma RIIb binding. J Biol Chem,2001年 276巻(49号):45539〜47頁)。抗体可変ドメインの配列に依存して、Fab断片は、CH2およびCH3と比較して、異なる融解温度を有し得る。抗体Cは、CH2およびCH3の遷移の間に位置する、折り畳まれていない遷移を有するFabドメインを含有する。したがって、CH2は、最も低い融解温度を有する抗体ドメインである。
【0158】
野生型および変異体A1は、15mM His pH6.5バッファー中2mg/mlの濃度でおよび毎分1.5度の加熱速度で分析した。試料データは、参照データの減算、タンパク質濃度およびDSC細胞体積に対する正規化、ならびに3次ベースライン(cubic baseline)の補間によって分析した。サーモグラムの比較は、野生型と比較した、変異体A1のCH2融解遷移(melting transition)の増加を示す。
【0159】
空間的凝集傾向値に基づいて安定性について操作した変異体A2の分析もまた、変異体A1についての発見を繰り返す。
【0160】
要約すると、操作した抗体変異体の生物物理的な分析は、低下した凝集および増強された安定性を実証した。操作した部位、変異体安定性、およびDSCプロファイルの間の強い相関は、治療用タンパク質を安定化するための方法論の有効性の証拠である。
【0161】
(実施例6)
有効−SAA
有効SAAにおけるピーク(3残基の合計)は、タンパク質構造中の凝集しやすい領域と相互に関連し得ることが観察された。したがって、有効−SAAは、タンパク質の凝集しやすい領域を同定するためのそれほど有力でないとはいえ独立した方法として使用されてもよい。高有効SAA(3残基の合計)値は、最も疎水性の領域を示し、低い値は、最も親水性の領域を示す。凝集体形成に対する傾向を有する試験タンパク質に基づいたデータは、1.2ns(折り畳まれた)および1ns(誤って折り畳まれた)の短い分子シミュレーションから得た。有効SAAを、タンパク質の残基についてプロットし、好適な相関が、有効SAAのピークおよびタンパク質構造の結合ネットワークにおけるミスマッチの間にあったことが観察された。これは、有効SAAが、タンパク質の誤ったフォールディングまたは凝集を促進する、タンパク質構造の残基を正確に同定していたことを示す。試験タンパク質のいくつかの突然変異体を作製し、少なくとも1つは、適切に折り畳まれたタンパク質構造を保持する際に有望な結果を示した。
【0162】
(実施例7)
SAPを使用するタンパク質結合領域の予測
SAP法は、タンパク質結合部位を予測するために使用した。結合領域は、2つの異なるタンパク質:IgG1抗体およびEGFRについて予測した。IgG1抗体は、Fc受容体、プロテインA、およびプロテインGなどのようなタンパク質と結合することが周知である。EGFRは、上皮増殖因子(EGF)、トランスホーミング増殖因子(TGFα)と結合し、さらに、それ自体と結合して、二量体を形成する。IgG1抗体およびEGFRに対するこれらの結合領域は、結合領域を予測する際のSAPツールの能力を実証するためにモデルとして使用した。
【0163】
分子シミュレーション法
分子動力学シミュレーションは、明示的な溶媒と共にすべての原子モデルを使用して完全IgG1抗体について実行した。シミュレーションのための出発構造は、抗体の個々のFab断片およびFc断片のX線構造を結合することによって得た。Fab断片のX線構造は、Novartis Pharma AGから得た。Fc断片のX線構造は、類似する配列の別のIgG1抗体、1HZHのFc断片から得た(Saphireら、Science.2001年、293巻、1155頁)。次いで、完全抗体の構造は、モデル鋳型として1HZH構造を使用してFab断片およびFc断片を整列させることによって得た。この抗体構造を抗体−Aと呼んだ。正確な距離および方向づけで断片を整列させるために、RMSD(平均二乗偏差)は、断片および完全抗体鋳型(1HZH)の共通のCYS残基の間で最小限にした。次いで、この構造は、30ns間、明示的な原子シミュレーションを実行するために使用した。結果として生じる抗体−A中CYS残基はすべて、ヒンジ領域内のものを含めて、ジスルフィド結合に関与した。G0グリコシル化パターンは、これが抗体で観察される最も一般のグリコシル化パターンの1つであるので、シミュレーションに使用した。
【0164】
CHARMMシミュレーションパッケージ(Brooksら J. Comput. Chem.、1983年、4巻、187頁)は、セットアップおよび分析に使用し、NAMDパッケージ(Phillipsら Journal of Computational Chemistry.、2005年、26巻、1781頁)は、シミュレーションを実行するために使用した。CHARMM全原子力場(atomistic force field)(Phillipsら Journal of Computational Chemistry.2005年、26巻、1781頁)は、タンパク質に使用し、TIP3P(Jorgensenら J. Chem. Phys.、1983年、79巻、926頁)は、水についての溶媒モデルに使用した。シミュレーションは、NPTアンサンブルで298Kおよび1atmで実行した。Fc断片のグリコシル化に関与する糖基についてのパラメータは、CSFF力場から得られるCHARMM力場と一貫して導き出した(Kuttelら J. Comput. Chem.、2002年、23巻、1236頁)。pH−7でのヒスチジン残基のプロトン化状態は、電気陰性基の空間的近接に基づいて決定した。完全抗体は、斜方晶系ボックス中で溶媒和した、なぜなら、これが、必要とされる水分子の数を最小限にし、したがって、必要とされる計算時間を最小限にするからである。周期境界条件は、3つの方向すべてで使用した。8Åの水溶媒和シェルは、斜方晶系ボックスのそれぞれの方向で使用した。結果として生じる全系サイズは、202,130原子であった。斜方晶系ボックスは、3つの軸すべてについてボックス寸法におけるいかなる重要な変化を伴わないで、30nsのシミュレーションの間、安定性のままであったことが観察された。最初のボックス寸法は、それぞれ、161.9Å、145.4Å、および83.2Åであり、それらは、30nsのシミュレーションの間にほとんど変化せず、それぞれ、161.2Å、144.7Å、および82.8Åで終了した。抗体は、30nsのシミュレーションの間、著しく回転せず、それによって、14Åを超える、抗体およびその周期イメージの間の最小限の距離を維持した。十分なイオンを、系の全電荷を中和するために追加した。電荷的中性は、静電的相互作用による寄与を計算するために使用されるEwald総和技術によって必要とされた。
【0165】
抗体を溶媒和した後、エネルギーは、水がタンパク質のまわりで平衡状態に戻ることを可能にするためにタンパク質を固定することによってSD(最急降下)を用いて最初に最小限にした。次いで、制約を除去し、構造は、SDおよびABNR(Adopted Basis Newton−Raphson)を用いてさらに最小限にした。次いで、系は、1fs時間ステップを使用して0.5psごとに5℃の増分で室温までゆっくり加熱した。次いで、系は、シミュレーションからの様々な特性の計算を始める前に1ns間、平衡化した。立体配置は、さらなる統計分析のためにシミュレーションの間に0.1psごとに保存した。
【0166】
IgG1抗体の結合領域を予測するためのSAPツール
SAPツールは、分子シミュレーションから得たタンパク質立体配置に適用した。高生産性適用でのより速い予測のために、SAPツールはまた、正確度の損失に至るという注意を伴うが、タンパク質X線構造または相同性から得られた構造に適用することができる。タンパク質中のそれぞれの原子についてのSAP値は、以下のとおり規定した。
【0167】
【化5】

ここで、
1)半径R以内の側鎖原子のSAAは、それぞれのシミュレーションスナップショットで計算される。
2)完全に露出した残基の側鎖のSAA(「X」アミノ酸について言う)は、トリペプチド「Ala−X−Ala」の完全に伸長したコンフォメーション中の中央の残基の側鎖のSAAを計算することによって得られる。
3)残基疎水性は、Black and Mouldの疎水性スケールから得られる(S. D. BlackおよびD. R. Mould、Anal. Biochem.193巻、72頁(1991年))。スケールは、グリシンがゼロの疎水性を有するように正規化される。そのため、グリシンよりも疎水性のアミノ酸は正で、グリシンよりも疎水性ではないものは、疎水性スケールが負となる。
【0168】
SAPは、タンパク質表面上の所与の原子を中心とするあるパッチに動力学的露出疎水性を与える。SAPは、タンパク質中のすべての原子を中心とする半径Rを有する球状の領域について計算する。これは、それぞれの原子についての特有のSAP値を与える。次いで、残基についてのSAPは、そのすべての構成原子のSAPを平均することによって得る。したがって、SAP値は、IgG1抗体にR=10Åを使用して評価し、値は、−0.5〜+0.5の範囲内のSAP値を示すために色スケールを使用して抗体表面上にマッピングした。これらのSAP値は、30nsの完全抗体に関しての原子シミュレーションを平均することによって計算した。それぞれの残基のSAP値は、単に単一の残基についての疎水性ではなく、その残基を中心とするパッチの全露出疎水性を与えることに注意されたい。疎水性スケール(S. D. BlackおよびD. R. Mould、Anal. Biochem.193巻、72頁(1991年))はまた、比較のために表面上に直接マッピングした。疎水性マップを見ると、疎水性領域は、表面の全体にわたってばらばらに分布しているように思われ、他と比較して、ある疎水性領域を選んでより有力とするのは困難であったであろう。しかしながら、同じ構造のSAPマップを検査した際に、動力学的に露出する疎水性領域を示す高SAP領域を見つけるのは容易であった。これらのパッチが水に露出されることはそれらの疎水性のために熱力学的に不利である。そのため、それらは、溶媒露出を低下させるためにタンパク質結合に関与し得た。これらの高SAP領域は、「1」〜「6」として同定した。パッチ「1」および「6」は、Fab断片中に位置し、パッチ「2」〜「5」は、Fc断片中に位置した。パッチ「1」〜「3」は、あからさまに露出し、そのため、他のタンパク質と容易に相互作用し得た。他方では、パッチ「4」〜「6」は、溶媒露出性であったが、タンパク質に面しており、これは、それらが折り畳まれていないことにより、よりあからさまに露出しない限り、それらが他のタンパク質と相互作用することを困難にした。
【0169】
次に、タンパク質結合領域を有する露出疎水性パッチを表す高SAP領域の相関を試験した。Fc受容体、プロテインA、およびプロテインGとの抗体の結合領域をSAP値に加えてマッピングした。タンパク質結合部位は、タンパク質複合体、PDBエントリー1T89、1FC2、および1FCCのX線構造から得た(S. Radaevら、J. Biol. Chem,276巻(19号)16469頁(2001年)、Deisenhofer, J.ら Hoppe−Seyler’s Z. Physiol. Chem.359巻、975〜985頁(1978年)、Deisenhofer, J、Biochemistry 20巻、2361〜2370頁(1981年)、Sauer−Eriksson A. E.ら、Structure、3巻、265頁(1995年))。強い相関が、SAPを通して同定された疎水性パッチおよびタンパク質結合領域の間で見つかった。抗原は、SAPパッチ「1」としてマークしたCDRループ領域と結合し、Fc受容体は、SAPパッチ「2」と結合し、プロテインAおよびプロテインGは、SAPパッチ「3」と結合する。さらに、DeLanoら(DeLano W. L.ら、Science 287巻、1279頁(2000年))は、プロテインAおよびプロテインGが結合する領域(SAPパッチ「3」)が、高親和性について、in vitroで選択された任意のペプチドに結合するのに有力であるコンセンサス結合領域であることを示した。パッチ「3」はまた、リウマチ因子および新生児Fc受容体と結合することも知られている。そのため、SAPを通して示されるパッチ「3」の疎水性露出度は、それを、多数のタンパク質と結合するのに有利な領域にする。非常に目立って、3つすべてのあからさまに露出したパッチ(SAPパッチ「1」〜「3」)は、結合に関与した。パッチのコアは、疎水性相互作用に関与するのに対して、周辺部は、極性相互作用に関与する。
【0170】
R=10ÅのSAPは、他のタンパク質との結合に関与する広い疎水性パッチを見つけるために分析した。これらのパッチは、より高い解像度で、つまりSAP計算で使用するより小さな半径のRで、SAPを使用してより詳細に調査することができる。そのため、SAP値は、抗体についてR=5Åで計算した。これらのSAP値は、抗体表面上にマッピングした。ここで、正のSAP値は、動力学的露出疎水性パッチを示すのに対して、負のSAP値は、動力学的露出親水性パッチを示す。Fc受容体、プロテインA、およびプロテインGと結合する領域もまた同定した。R=10ÅでのSAPでの結果に類似して、R=5ÅでのSAPもまた、タンパク質結合領域およびSAP値におけるピークの間の強い相関を示した。疎水性結合領域は、正のピークとよく相関し、親水性(極性)結合領域は、負のピークとよく相関した。低SAP(つまり、ゼロに近似しており、正また負である)を有する残基もまた相互作用したわずかな例外において、発明者らは、相互作用が、実際に、側鎖とではなく、主鎖自体の原子とのものであったことを観察した。
【0171】
SAPは、結合領域および凝集しやすい領域の両方を予測する
SAPにおけるピークはまた、タンパク質自己凝集の傾向がある領域にも相当することが実証された(Chennamsetty, N.ら Design of therapeutic antibodies with enhanced stability(投稿中))。凝集は、治療用タンパク質についての主な分解経路であり、活性および潜在的な免疫原性のそれらの損失に至る。SAPのピークに基づいて操作された突然変異は、より少ない凝集傾向を有する安定性の抗体に至った(Chennamsetty, N.ら Design of therapeutic antibodies with enhanced stability(投稿中))。SAPピークにおける疎水性残基を親水性残基に変化させることによって生成した8つの突然変異体は、A1(L235K)、A2(I253K)、A3(L309K)、A4(L235K L309K)、A5(L234K L235K)、A6(L235S)、A7(V282K)、およびA8(L235K V282K L309K)であった。次いで、突然変異体は、150mg/mlで熱ストレス下で加速凝集実験を使用して、それらの凝集の挙動について試験した。SEC−HPLC(サイズ排除高速液体クロマトグラフィー)結果は、野生型についての91%から変異体についての92〜97%への単量体の増加を示し、突然変異体のより少ない凝集傾向を示した。そのため、高SAPを有する部位はまた、高凝集傾向の領域をも表す。
【0172】
SAPツールは、したがって、タンパク結合領域および凝集しやすい領域の両方を予測した。適当な説明としては、同じ種類のタンパク質内でとはいえ、タンパク質凝集もまた、タンパク質間結合の形態であるということである。さらに、凝集しやすい領域のいくつかおよびタンパク質結合領域のいくつかの間にオーバーラップがあることが示された。このオーバーラップは、タンパク質結合および凝集の両方に関与する残基L235およびI253から明白であった。類似するSAP分析およびタンパク質工学が、別のIgG1抗体について実行され、凝集しやすい領域がタンパク質結合領域とオーバーラップすることが示された(Chennamsetty, N.ら Design of therapeutic antibodies with enhanced stability(投稿中))。この場合、突然変異は、抗体が抗原に結合するCDR領域で実行された。CDR領域における結果として生じる突然変異体は、より少ない凝集傾向を示したが、抗原に結合することができず、それらの活性を失った。したがって、タンパク質結合および凝集しやすい領域に対する共通の特徴がある。これは、タンパク質結合および凝集しやすい領域がオーバーラップする配列からなされた他の計算上の予測に一致している(Wang, X.ら、mAbs、1巻、1〜14頁(2009年))。したがって、SAPを通して同定された動力学的露出疎水性パッチは、タンパク質結合およびタンパク質自己凝集の両方に関与する。
【0173】
しかしながら、タンパク質結合部位および凝集傾向部位の間のオーバーラップは、その機能に必要なタンパク質結合を維持しながら、凝集が予防される必要があるので、治療用タンパク質設計における新しい障害を提起する。この障害を解決するために、より高い解像度での(R=5Åでの)SAP分析は、タンパク質結合を妨害することなく、結合領域のあたりの凝集傾向部位を位置づけ、改変するために使用することができる。たとえば、IgG1抗体に対するSAP分析を使用して、部位I253、L309、およびV282がすべて、凝集に関与する広いパッチ(SAP領域「3」)の一部となることが決定された(Chennamsetty, N.ら Design of therapeutic antibodies with enhanced stability(投稿中))。プロテインAへの結合に関与する部位I253を残して、部位L309およびV282{A3(L309K)、A4(L235K L309K)、A7(V282K)、およびA8(L235K V282K L309K)}を含む突然変異体を設計した。結果として生じる突然変異体は、より少ない凝集傾向を示したが、なおプロテインAに結合した。したがって、SAP技術は、タンパク質結合能力を維持しながら、より低い凝集傾向を有するタンパク質を設計するために有効に使用することができる。
【0174】
SAPは、EGFRの結合領域を予測する
抗体に加えて、SAP分析は、上皮増殖因子受容体(EGFR)と呼ばれる別のタンパク質について、その結合領域を予測するために実行した。EGFRは、上皮増殖因子受容体(EGF)およびトランスホーミング増殖因子β(TGFβ)を含む特異的なリガンドの結合によって活性化される細胞表面受容体である。EGFR過剰発現または過剰活性は、肺癌および脳癌などのような多くの癌と関連している。EGFRはまた、それ自体と結合して、二量体を形成する。SAP分析は、予測される結合領域がEGF、TGFαの結合領域とおよび二量体形態をした別のEGFRと一致するかどうか確かめるために、EGFRについて実行した。
【0175】
R=10ÅでEGFRについて評価したSAP値は、EGFR表面上にマッピングした。これらのSAP値は、PDBエントリー1IVOから得られるEGFRのX線構造について直接、分析を実行することによって計算された(Ogiso, H.ら、Cell、110巻:775〜787頁(2002年))。疎水性スケール(S. D. BlackおよびD. R. Mould、Anal. Biochem.193巻、72頁(1991年))もまた、比較のためにEGFR表面上にマッピングした。抗体の場合で前に見られたように、EGFRについての疎水性残基は、表面の全体にわたって分布し、結合に可能性として関与するものを単離することは困難であったであろう。しかしながら、空間的露出疎水性領域を示す高SAP領域を見つけることは比較的、より容易であった。そのような主な2つのパッチを同定し、「1」および「2」としてマークした。
【0176】
EGF、TGFαとのおよび二量体形態をした別のEGFRとのEGFRの公知の結合領域をSAP値に加えてマッピングした。これらのタンパク質結合部位は、タンパク質複合体、PDBエントリー1IVOおよび1MOXのX線構造から得た(Ogiso, H.ら Cell、110巻:775〜787頁(2002年)、Garrett, T.P.J.ら Cell、110巻:763〜773頁(2002年))。マッピングは、SAPを通して同定された疎水性パッチおよびタンパク質結合領域の間の強い相関を示した。EGFRは、SAPパッチ「1」および別のより小さなパッチでEGFおよびTGFαと結合し、それはまた、SAPパッチ「2」で別のEGFRと結合する。したがって、2つの主なSAPパッチは、両方とも結合に関与する。また、抗体の場合でのように、パッチのコアは、疎水性相互作用に関与し、周辺部は、極性相互作用に関与する。したがって、SAPは、EGFRの結合領域を正確に予測した。
【0177】
結論
タンパク質結合領域を予測するために使用することができる疎水性パッチの動力学的露出の測定を提供するSAPと呼ばれるコンピュータツールを記載した。2つのモデルタンパク質、IgG1抗体およびEGFRを使用して、SAPがタンパク質結合領域を正確に予測することが示された。IgG1抗体の場合には、Fc受容体、プロテインA、およびプロテインGとの結合領域は、SAPピークとよく相関した。EGFRについては、EGF、TGFβとのおよび別のEGFRとの結合領域は、SAPピークとよく相関した。したがって、SAPは、結合領域の予測で正確であることが示され、タンパク質間結合に対する疎水性露出パッチの重要性が実証された。同じSAP分析は、それらの結合領域を予測するために他のタンパク質についても同様に実行することができた。さらに、タンパク質結合領域のいくつかが、凝集しやすい領域とオーバーラップすることが示された。その機能に必要なタンパク質結合を維持しながら、不利な凝集を予防しなければならないので、これは、治療用タンパク質設計に対する障害を提起する。タンパク質工学が後続するSAP分析を使用して、この障害を克服することができることが示された。SAPを使用して、凝集に関与する結合部位の近くの部位を、結合を維持しながら、凝集傾向を減少させるために検出し、改変することができる。これは、プロテインA結合部位の近くの凝集しやすい領域を、結合能力を維持しながら凝集を減少させるために改変したIgG1抗体を使用して実証された。活性を維持しながら凝集傾向を減少させるために、抗原結合領域の近くで、SAPに基づく類似するタンパク質工学を実行することができた。したがって、本明細書で記載されるSAPツールは、同時にそれらの結合部位を維持しながら、安定性の治療用タンパク質を設計するために使用することができた。SAPツールはまた、構造ゲノミクス計画から現われる多数のタンパク質について未知の結合部位を決定するために使用し、それによって、それらの機能の重要な手掛かりを提供することもできるかもしれない。
等価物
当業者らは、ルーチン的な実験作業だけを使用して、本明細書において記載される本発明の特定の実施形態に対する多くの等価物を認識する、または確認することができるであろう。そのような等価物は、以下の請求項によって包含されるように意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質中の特定の原子についての空間的凝集傾向(SAP)を計算するための方法であって、
(a)前記タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数の原子を同定するステップであって、前記1つまたは複数の原子は、前記特定の原子を中心とする、またはその近くの規定された空間的領域内にある、ステップ、
(b)前記規定された空間的領域内の前記1つまたは複数の原子について、前記原子の溶媒接触可能面積(SAA)の、完全に露出した同一残基中の原子のSAAに対する比率を計算するステップ、
(c)それぞれの比率に前記1つまたは複数の原子の原子疎水性を掛けるステップ、および
(d)ステップ(c)の積を合計するステップを含み、
それによってその合計が前記特定の原子についてのSAPとなる、方法。
【請求項2】
タンパク質中の特定の原子についての空間的凝集傾向(SAP)を計算するための方法であって、
(a)前記タンパク質を表す構造モデル中の1つまたは複数のアミノ酸残基を同定するステップであって、前記1つまたは複数のアミノ酸残基は、前記特定の原子を中心とする、またはその近くの規定された空間的領域内の少なくとも1つの原子を有する、ステップ、
(b)前記規定された空間的領域内の前記1つまたは複数の原子について、前記原子の溶媒接触可能面積(SAA)の、完全に露出した同一残基中の原子のSAAに対する比率を計算するステップ、
(c)それぞれの比率に、アミノ酸疎水性スケールによって決定される前記1つまたは複数のアミノ酸残基の疎水性を掛けるステップ、および
(d)ステップ(c)の積を合計するステップを含み、
それによってその合計が前記特定の原子についてのSAPとなる、方法。
【請求項3】
ステップ(a)の1つまたは複数の原子は、前記1つまたは複数のアミノ酸の側鎖中の原子である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
ステップ(a)の1つまたは複数の原子は、前記1つまたは複数のアミノ酸の主鎖原子である、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記規定された空間的領域は、球体、立方体、円柱、角錐形、および回転楕円体を含む群から選択される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記規定された空間的領域は、1〜30Åの半径を有する球体と等価な体積を有する領域である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記規定された空間的領域は、1〜30Åの半径を有する球体である、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項8】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子を中心とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記規定された空間的領域は、化学結合を中心とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から30Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から20Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から10Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から5Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から2Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記規定された空間的領域は、前記特定の原子から1Å以内の空間におけるある点を中心とする、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
前記SAAは、アミノ酸側鎖中の原子についてのみ計算される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項17】
前記SAAは、主鎖原子についてのみ計算される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項18】
前記SAAは、結合水素原子を除外して主鎖原子についてのみ計算される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項19】
前記構造モデルは、任意選択で溶媒を含む分子動力学シミュレーションを実行することによって、ステップ(a)前に処理される、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項20】
前記溶媒は、水である、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記分子動力学シミュレーションは、ABINIT、AMBER、Ascalaph、CASTEP、CPMD、CHARMM、DL_POLY、FIREBALL、GROMACS、GROMOS、LAMMPS、MDynaMix、MOLDY、MOSCITO、NAMD、Newton−X、ProtoMol、PWscf、SIESTA、VASP、TINKER、YASARA、ORAC、およびXMDを含む群から選ばれるシミュレーションパッケージを使用して実行される、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記分子動力学シミュレーションは、CHARMMシミュレーションパッケージを使用して実行される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記分子動力学シミュレーションは、NAMDシミュレーションパッケージを使用して行われる、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記特定の原子についてのSAPは、ステップ(a)の前に分子動力学シミュレーションを行い、ステップ(a)〜(d)を繰り返し、複数回のステップで、毎回、さらなる分子動力学シミュレーションを行い、それによって、ステップ(d)でのように複数の合計をもたらし、前記合計の平均の計算することによって計算され、
計算された前記平均は、前記特定の原子についてのSAPとなる、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項25】
前記分子動力学シミュレーションは、ABINIT、AMBER、Ascalaph、CASTEP、CPMD、CHARMM、DL_POLY、FIREBALL、GROMACS、GROMOS、LAMMPS、MDynaMix、MOLDY、MOSCITO、NAMD、Newton−X、ProtoMol、PWscf、SIESTA、VASP、TINKER、YASARA、ORAC、およびXMDを含む群から選ばれるシミュレーションパッケージを使用して実行される、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記分子動力学シミュレーションは、CHARMMシミュレーションパッケージを使用して実行される、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
前記分子動力学シミュレーションは、NAMDシミュレーションパッケージを使用して行われる、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
1〜5のアミノ酸に関してSAPスコアを合計するステップをさらに含む、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
前記アミノ酸は、タンパク質配列に沿って連続して隣接する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記アミノ酸は、タンパク質構造モデル中で空間的に隣接する、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記構造モデルは、前記タンパク質またはその部分のX線結晶構造モデルである、請求項1〜請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項32】
前記構造モデルは、前記タンパク質またはその部分の理論的なタンパク質構造モデルである、請求項1〜請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項33】
前記構造モデルは、前記タンパク質またはその部分の相同性モデルである、請求項1〜請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
前記構造モデルは、前記タンパク質またはその部分のアブイニシオタンパク質構造モデルである、請求項1〜請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記半径は、1Å〜30Åである、請求項1〜請求項30のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
前記半径は、5Åである、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
前記半径は、10Åである、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法であって、
(a)前記タンパク質中の原子について請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPを前記タンパク質の構造モデル上にマッピングするステップならびに
(b)SAP>0を有する複数の原子を有する、前記タンパク質内の領域を同定するステップを含み、
前記凝集しやすい領域は、前記複数の原子を含むアミノ酸を含む、方法。
【請求項39】
タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法であって、
選ばれた閾値を超えるSAPを有する1つまたは複数の原子を含有する1つまたは複数のアミノ酸を同定するステップを含み、
前記SAPは、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項の方法に従って計算され、前記凝集しやすい領域は、同定された前記アミノ酸を含む、方法。
【請求項40】
タンパク質上の凝集しやすい領域を同定するための方法であって、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項において計算されるSAP値をプロットするステップ、前記プロット中のピークについて曲線下面積(AUC)を計算するステップ、および
正のAUCを有する1つまたは複数のタンパク質領域を同定するステップを含み、
前記凝集しやすい領域は、同定された前記タンパク質領域を含む、方法。
【請求項41】
低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、
タンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を交換する、または欠失させるステップを含み、
前記凝集しやすい領域は、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、
前記アミノ酸残基が交換される場合、それは、前記変異体の凝集傾向が低下するように、より親水性のアミノ酸残基と交換される、方法。
【請求項42】
少なくとも1つの残基は、交換され、少なくとも1つの残基は、欠失させられる、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、
(a)それぞれの変異体において、タンパク質中の凝集しやすい領域内の少なくとも1つの残基を交換することによって複数のタンパク質変異体を生成するステップであって、
前記凝集しやすい領域は、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、
1つまたは複数の異なる残基または残基の異なる組合せは、それぞれの変異体において交換され、
前記少なくとも1つの残基は、より親水性の残基と交換されるステップならびに
(b)低下した凝集傾向を示す(a)でのように調製されたタンパク質変異体を選択するステップを含む、方法。
【請求項44】
凝集しやすい領域内の前記少なくとも1つのアミノ酸残基は、前記凝集しやすい領域内で最も疎水性の残基である、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項45】
凝集しやすい領域内の前記少なくとも1つのアミノ酸残基は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、Ala、またはGlyである、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項46】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、Asp、およびArgからなる群から選択される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項47】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、まれなアミノ酸、非天然アミノ酸、または改変アミノ酸である、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項48】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、Black and Mouldの疎水性スケールに従って決定される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項49】
前記凝集しやすい領域内の少なくとも2つのアミノ酸残基が、交換される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項50】
前記凝集しやすい領域内の少なくとも3つのアミノ酸残基が、交換される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項51】
少なくとも1つの残基は、前記タンパク質内の1つを超える凝集しやすい領域内で交換される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項52】
前記凝集しやすい領域は、請求項38〜請求項40のいずれか一項の方法に従って同定される、請求項41〜請求項43のいずれか一項に記載の方法。
【請求項53】
前記タンパク質は、抗体、Fab断片、Fab’断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)断片、およびFc断片からなる群から選択される、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項54】
前記タンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、リポカイン、ミオカイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、またはインターフェロンである、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項55】
前記タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子である、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項56】
前記タンパク質は、受容体または受容体ドメインである、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項57】
前記タンパク質は、神経伝達物質またはニューロトロフィンである、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項58】
前記タンパク質は、ペプチド模倣薬、非天然アミノ酸を含むタンパク質、またはまれなアミノ酸を含むタンパク質である、請求項1〜請求項52のいずれか一項に記載の方法。
【請求項59】
タンパク質中のアミノ酸残基についての有効−SAAを計算するための方法であって、
(a)アミノ酸について、前記アミノ酸中の原子の、完全に露出した同一残基中の原子のSAAに対する溶媒接触可能面積(SAA)の比率を計算するステップ、
(b)前記比率に、アミノ酸疎水性スケールによって決定される前記アミノ酸の疎水性を掛けるステップを含み、
それによって、その積が前記アミノ酸についての有効−SAAとなる、方法。
【請求項60】
前記タンパク質配列中で隣接する少なくとも2つのアミノ酸に関して有効−SAAを合計するステップをさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
前記タンパク質配列中で隣接する3つのアミノ酸に関して有効−SAAを合計するステップをさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項62】
前記タンパク質配列中で隣接する4つのアミノ酸に関して有効−SAAを合計するステップをさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項63】
前記タンパク質配列中で隣接する5つのアミノ酸に関して有効−SAAを合計するステップをさらに含む、請求項59に記載の方法。
【請求項64】
低下した凝集傾向を示すタンパク質変異体を含む医薬組成物を作製するための方法であって、
薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または賦形剤と一緒に、請求項41または43のプロセスに従って得られるタンパク質変異体を製剤するステップを含む、方法。
【請求項65】
タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、
(a)前記タンパク質中の原子について請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPを前記タンパク質の構造モデル上にマッピングするステップならびに
(b)SAP>0を有する複数の原子を有する前記タンパク質内の領域を同定するステップを含み、
前記高分子結合領域は、前記複数の原子を含むアミノ酸を含む、方法。
【請求項66】
タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、
選ばれた閾値を超えるSAPを有する1つまたは複数の原子を含有する1つまたは複数のアミノ酸を同定するステップを含み、
前記SAPは、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項の方法に従って計算され、前記高分子結合領域は、同定された前記アミノ酸を含む、方法。
【請求項67】
タンパク質上の高分子結合領域を同定するための方法であって、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項において計算されるSAP値をプロットするステップ、前記プロット中のピークについて曲線下面積(AUC)を計算するステップ、および
正のAUCを有する1つまたは複数のタンパク質領域を同定するステップを含み、
前記高分子結合領域は、同定された前記タンパク質領域を含む、方法。
【請求項68】
高分子に対する低下した結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、
タンパク質中の前記高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つのアミノ酸残基を交換する、または欠失させるステップであって、
前記高分子結合領域は、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、
前記アミノ酸残基が交換される場合、それは、前記変異体の前記高分子に対する結合親和性が低下するように、より親水性のアミノ酸残基と交換される、方法。
【請求項69】
少なくとも1つの残基は、交換され、少なくとも1つの残基は、欠失させられる、請求項68に記載の方法。
【請求項70】
高分子に対する変更された結合親和性を示すタンパク質変異体を作製するための方法であって、
(a)それぞれの変異体において、タンパク質中の前記高分子に対する高分子結合領域内の少なくとも1つの残基を交換することによって複数のタンパク質変異体を生成するステップであって、
前記高分子結合領域は、請求項1、請求項2、および請求項24のいずれか一項に従って計算されるSAPスコアを使用して同定され、
1つまたは複数の異なる残基または残基の異なる組合せは、それぞれの変異体において交換されるステップおよび
(b)前記高分子に対する変更された結合親和性を示す(a)でのように調製されたタンパク質変異体を選択するステップを含む、方法。
【請求項71】
前記高分子結合領域内の前記少なくとも1つのアミノ酸残基は、前記高分子結合領域内で最も疎水性の残基である、請求項68〜請求項70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項72】
凝集しやすい領域内の前記少なくとも1つのアミノ酸残基は、Phe、Leu、Ile、Tyr、Trp、Val、Met、Pro、Cys、Ala、またはGlyである、請求項68〜請求項70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項73】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、Thr、Ser、Lys、Gln、Asn、His、Glu、Asp、およびArgからなる群から選択される、請求項68〜請求項70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項74】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、まれなアミノ酸、非天然アミノ酸、または改変アミノ酸である、請求項68に記載の方法。
【請求項75】
前記より親水性であるアミノ酸残基は、Black and Mouldの疎水性スケールに従って決定される、請求項68に記載の方法。
【請求項76】
前記高分子結合領域内の少なくとも2つのアミノ酸残基が、交換される、請求項68〜請求項70に記載の方法。
【請求項77】
前記高分子結合領域内の少なくとも3つのアミノ酸残基が、交換される、請求項68〜請求項70に記載の方法。
【請求項78】
少なくとも1つの残基は、前記タンパク質内の1つを超える高分子結合領域内で交換される、請求項68〜請求項70に記載の方法。
【請求項79】
前記高分子結合領域は、請求項65〜請求項67のいずれか一項の方法に従って同定される、請求項68〜請求項70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項80】
前記高分子は、別のタンパク質、ポリヌクレオチド、または多糖である、請求項68〜請求項79のいずれか一項に記載の方法。
【請求項81】
前記タンパク質は、抗体、Fab断片、Fab’断片、Fd断片、Fv断片、F(ab’)断片、およびFc断片からなる群から選択される、請求項68〜請求項80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記タンパク質は、サイトカイン、ケモカイン、リポカイン、ミオカイン、神経伝達物質、ニューロトロフィン、インターロイキン、またはインターフェロンである、請求項68〜請求項80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記タンパク質は、ホルモンまたは増殖因子である、請求項68〜請求項80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項84】
前記高分子は、ホルモン受容体または増殖因子受容体である、請求項83に記載の方法。
【請求項85】
前記タンパク質は、受容体または受容体ドメインである、請求項68〜請求項70のいずれか一項に記載の方法。
【請求項86】
前記高分子は、受容体または受容体ドメインの受容体アゴニストまたは受容体アンタゴニストである、請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記タンパク質は、神経伝達物質またはニューロトロフィンである、請求項68〜請求項80のいずれか一項に記載の方法。
【請求項88】
前記高分子は、神経伝達物質受容体またはニューロトロフィン受容体である、請求項87に記載の方法。
【請求項89】
結合パートナーとの相互作用に対する変更された傾向を示すタンパク質変異体を含む医薬組成物を作製するための方法であって、薬学的に許容される担体、アジュバント、および/または賦形剤と一緒に、請求項68または70のプロセスに従って得られるタンパク質変異体を製剤するステップを含む、方法。

【公表番号】特表2011−526382(P2011−526382A)
【公表日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−514845(P2011−514845)
【出願日】平成21年6月19日(2009.6.19)
【国際出願番号】PCT/US2009/047954
【国際公開番号】WO2009/155518
【国際公開日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【出願人】(504389991)ノバルティス アーゲー (806)
【出願人】(596060697)マサチューセッツ インスティテュート オブ テクノロジー (233)
【Fターム(参考)】