説明

タンパク質分離処理における温度応答性重合体粒子

【課題】本発明の課題は、環境に優しく、費用対効果に優れたタンパク質含有溶液からのタンパク質単離方法を提供することにある。
【解決手段】タンパク質含有溶液からタンパク質を単離する方法であって、以下の工程を含むタンパク質単離方法。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる。温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持が促進される。
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する。
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子によって保持せしめられたタンパク質を溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する。
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質含有溶液からタンパク質単離方法に関する。また、本発明は、タンパク質のクロマトグラフ分離方法に関する。さらに、また、本発明は、温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子に関し、かかる粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クロマトグラフィーは、分子の混合物を分離するために使用される技術である。クロマトグラフィーは、溶媒または溶媒の組み合せ(いわゆる移動相)中に混合物を溶解して溶液を形成し、次いで固体(いわゆる固定相)上に溶液を通過させることを伴う。移動相と固定相との適切な組み合せによって、各分子と固定相との優先的または選択的な相互作用を異なった程度に可能にすることにより、分子を分離することができる。この異なった相互作用によって分子を分離できるので、単離、分析または特定が可能となる。クロマトグラフィーの移動相と固定相との両方が、(i)分離される分子のタイプ、(ii)分離の規模(例えば分析用、製造用または工業用)、及び(iii)分離された分子の所望の官能性(例えば生物活性)に適合するように変えられる。移動相の例として、アセトニトリル、水、塩類水溶液、メタノールまたはそれらの混合物などが挙げられ、一般的な固定相として、イオン交換樹脂、疎水性相互作用樹脂または親和性相互作用樹脂などが挙げられる。クロマトグラフィーは、分析的目的のために製薬工業及び食品工業において広範に使用され、また、実験規模及び商業規模において有用な分子を単離するために使用される。
【0003】
「スマート」重合体または「インテリジェント」重合体は、外部からの物理的刺激、化学的刺激または電気的刺激に応答して、それらの構造及び機能を迅速・可逆的に変化させる材料である。温度は、「スマート重合体」系の最も広範囲に研究された刺激であり、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)(以下、ポリNIPAAmと略す)は、一般的かつ広範に研究された温度応答性重合体である。
【0004】
温度応答性材料は、イオン交換クロマトグラフィーにおいて万能な分離手段としての可能性を有する。イオン交換クロマトグラフィーにおいては、標的生体分子の溶離が温度調節などの緩やかな物理変化によって誘発される。これらのスマート重合体のクロマトグラフィーシステムは、特に農業食品、製薬、化学物質及び水及び他の複合飼料から有用な成分を単離するに際し、環境に優しく、費用対効果に優れた方法を提供することを保証する。
【0005】
ポリNIPAAm及び関連重合体は、イオンクロマトグラフィーの温度応答固定相を生じさせるために分離分野(非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3)、サイズ排除(非特許文献4、非特許文献5;)、疎水性相互作用(非特許文献6)、及び広範囲の異なった支持材料を使用するアフィニティークロマトグラフィー分離(非特許文献7)に使用されてきた。
【0006】
さらに、N−イソプロピルアクリルアミド、アクリル酸とtert−ブチルアクリルアミドの共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−acrylic acid−co−tert−butylacrylamide)」は、pH及び温度応答性を有し、シリカビーズ上にグラフトされて、アニオン温度応答性クロマトグラフィー媒体として評価されている(非特許文献8、非特許文献9)。塩基性生理活性ペプチドの有効な分離はアニオン温度/pH応答重合体で表面が修飾されたシリカビーズを用いて水性条件下でのみ達成された。同様に、N−イソプロピルアクリルアミド、ブチルメチルアクリレートとN,N’−ジメチルアミノプロピルアクリルアミドとの共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−butyl methylacrylate−co−N,N’−dimethylaminopropylacrylamide)」でグラフトされたシリカビーズは、カチオン温度応答性クロマトグラフィー媒体として評価されている(非特許文献10、非特許文献11)。媒体は、アイソクラチック水性移動相を用いて生理活性化合物及び医薬品を効率的に分離できるように設計された。
【0007】
イオン交換クロマトグラフィー用にシリカビーズにグラフトされたスマート重合体の使用について多数の報告が存在する。しかしながら、食品及び他の産業は、コスト、高pH域での不安定さの他、食品及び他の産業において、洗浄条件下における操作上の強靭さが欠けるためにシリカベースマトリックスを避ける傾向がある。さらに、シリカをベースとする吸着剤は一般的に分析的分離に適切であり、食品工業及び他の工業において工程に応用する際に要求される柔軟性に欠ける。
【0008】
さらに、スマート重合体で表面修飾されたシリカビーズが充填されたカチオン交換クロマトグラフィーにおけるスマート重合体の可能性に関する従来の研究によれば、スマート重合体は、アミノ酸及びステロイドのような小さな化合物の分離に使用されるにすぎなかった。食品工業、製薬工業、化学工業または水処理産業に重要な巨大タンパク質(例えば、ラクトフェリン)の保持及び分離に関して温度応答性イオン交換クロマトグラフ用樹脂を用いて検討する文献はほとんど存在しなかった。
【0009】
非シリカマトリックス上にはスマート重合体イオン交換樹脂が必要である。特に、食品工業、製薬工業及び他の工業によって近年使用されたシステムと互換性を有するマトリックス上をベースとするスマート重合体イオン交換媒体(例えば、架橋アガロース)が必要である。
【0010】
さらに、食品工業及び他の工業において商業的に重要な巨大タンパク質(例えば、ラクトフェリン)の単離へ応用するためには、熱応答性カチオン交換アガロースをベースとしたクロマトグラフィー樹脂が必要である。
【0011】
明細書の詳細な説明及びクレームの全体を通じて、「comprise」と「comprising」及び「comprises」などのようなこの語の変型の意味は、他の添加剤、成分、完全体または工程を除外することを意図しない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Kobayashi及びその他の者、Analytical Chemistry、2003年、75(13),3244〜3249ページ
【非特許文献2】Sakamoto及びその他の者、Journal of Chromatography A、2004年、1030、247〜253ページ
【非特許文献3】Ayano及びその他の者、Journal of Separation Science,2006年、29,738〜749ページ
【非特許文献4】Hosoya及びその他の者、Macromolecules1994年、 27、3973〜3976ページ
【非特許文献5】Adrados及びその他の者、Journal of Chromatography A 2001年、930(1〜2)、73〜78ページ
【非特許文献6】Kanazawa及びその他の者、Analytical Chemistry、2000年、72、5961〜5966ページ
【非特許文献7】Hoffman及びStayton、Macromolecular Symposia 2004年、207、139〜151ページ
【非特許文献8】Kobayashi及びその他の者、Journal of Chromatography A、2002年、958、109〜119ページ
【非特許文献9】Kobayashi及びその他の者、Analytical Chemistry、2003年,75 (13)、3244〜3249ページ
【非特許文献10】Sakamoto及びその他の者、Journal of Chromatography A、2004年、1030、247〜253ページ
【非特許文献11】Ayano及びその他の者、Journal of Chromatography A、2006年、1119、58〜65ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の課題は、環境に優しく、費用対効果に優れたタンパク質含有溶液からのタンパク質単離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち本発明のタンパク質単離方法は、以下の工程を含む。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持を促進させる工程、
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する工程、
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子からタンパク質を、溶離溶液中に溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する工程、
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する工程。
【0015】
さらなる見地から、本発明は、温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供する。かかる温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含む。
【0016】
さらなる見地から、本発明は、温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供する。かかる温度応答性共重合体は、以下を含む。
(a)共重合体に温度応答性を付与するモノマー単位;
(b)共重合体にイオン化可能な化学基を付与するモノマー単位。
【0017】
なおさらなる見地から、本発明は、タンパク質含有溶液からタンパク質を単離する方法を提供する。かかる方法は、以下の工程を含み、工程(a)〜(c)は、入口と出口とを有するクロマトグラフカラム内で行なわれる。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持を促進させる工程、
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する工程、
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子からタンパク質を、溶離溶液中に溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する工程、
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する工程。
【0018】
別の見地から、本発明は、温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を製造する方法を提供する。前記温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する。かかる方法は、以下の工程を含む。
(a)架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(b)架橋ヒドロキシル重合体粒子を化学修飾して、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(c)架橋ヒドロキシル重合体粒子を、モノマー溶液に接触させる工程であって、架橋ヒドロキシル重合体粒子は、重合開始可能な官能基を有し、モノマー溶液は、共重合体に温度応答性を付与可能な少なくとも1のモノマーと共重合体にイオン化可能な化学基を付与可能な少なくとも1のモノマーを含有し、前記接触によりモノマーの重合が開始される工程、
(d)温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を単離する工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する工程。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、工程(a)〜(d)を含むことにより、食品工業、製薬工業、化学工業または水処理産業に重要な巨大タンパク質(例えば、ラクトフェリン)を効率的に単離でき、かつ、環境に優しく、費用対効果に優れたタンパク質含有溶液からのタンパク質単離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】20℃及び50℃における、N−イソプロピルアクリルアミド、tert−ブチルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−tert−butylacrylamide−co−acrylic acid)」によって官能化されたアガロース(以下、ItBAと略す)並びにカルボキシメチル基で官能化されたアガロース(CM)に対する、ラクトフェリン吸着等温線を示す。
【図2】20℃及び50℃における、ItBAに対するラクトペルオキシダーゼ吸着等温線を示す。
【図3】20℃及び50℃における、ItBAに対するパパイン吸着等温線を示す。
【図4】20℃及び50℃における、ItBA上並びにCM上のラクトフェリンの保持に対する、塩濃度の影響を示す。
【図5】20℃及び50℃における、ItBA上のラクトフェリンの保持に対する、ナトリウム濃度の影響を示す。
【図6】ラクトフェリンがCM(1)上並びにItBA(2)上に動的に添加され、溶離される際に生じたクロマトグラムを示す。A:20℃で12分間(0〜12分)ラクトフェリンがCM(1)及びItBA(2)上に動的に添加された。その後、20℃で10分間(12〜22分)、ラクトフェリンが溶離された。その後、10分間(23〜33分)、NaCl濃度を0.1Mとし、さらに、その後、10分間(35〜45分)、NaCl濃度を1Mとした。B:50℃で12分間(0〜12分)ラクトフェリンがCM(1)及びItBA(2)上に動的に添加された。その後、20℃で10分間(12〜22分)、ラクトフェリンが溶離された。その後、10分間(23〜33分)、NaCl濃度を0.1Mとし、さらに、その後、10分間(35〜45分)、NaCl濃度を1Mとした。C:50℃で12分間(0〜12分)ラクトフェリンがCM(1)及びItBA(2)上に動的に添加された。その後、50℃で10分間(12〜22)、ラクトフェリンが溶離された。その後、10分間(23〜33分)、NaCl濃度を0.1Mとし、さらにその後、10分間(35〜45分)、NaCl濃度を1Mとした。
【図7】4〜50℃の温度範囲における4つの異なった樹脂製剤によって保持されたラクトフェリンの量(mg/mL樹脂及び総量の%)を示す。樹脂製剤は、IA、ItBA、CtBA及びIPhAを使用した。IA;N−イソプロピルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−acrylic acid)」ItBA;N−イソプロピルアクリルアミド、tert−ブチルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−tert−butylacrylamide−co−acrylic acid)」によって官能化されたアガロースCtBA;N−ビニルカプロラクタム、N−tert−ブチルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−vinylcaprolactam−co−N−tert−butylacrylamide−co−acrylic acid)」IPhA;N−イソプロピルアクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−N−tert−butylacryamide−co−acrylic acid)」
【図8】N−イソプロピルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−acrylic acid)」で官能化された架橋アガロース上のラクトフェリンの吸着等温線を示す。重合混合物は、5%のアクリル酸を含有した。20℃及び50℃についての結果を示す。
【図9】N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−N−phenylacrylamide−co−acrylic acid)」で官能化された架橋アガロース上のラクトフェリンの吸着等温線を示す。重合混合物は5%のアクリル酸を含有した。4℃及び50℃についての結果を示す。
【図10】N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−N−phenylacrylamide−co−acrylic acid)」で官能化された架橋アガロース上のラクトフェリンの吸着等温線を示す。重合混合物は10%のアクリル酸を含有した。4℃及び50℃についての結果を示す。
【図11】20℃及び50℃における、N−イソプロピルアクリルアミド、t−ブチルアクリルアミドとアクリル酸との共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−tert−butylacrylamide−co−acrylic acid)」に基づく温度応答性重合体樹脂で官能化されたToyopearl(登録商標)−ItBAによって保持されたラクトフェリンの量を示す。
【図12】α−ラクトアルブミン(12mg)、β−ラクトグロブリン(13mg)及びラクトフェリン(24mg)の混合物が10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相と共に、ItBAが充填されたカラムに20℃で12分間(0〜12分)添加され、20℃で10分間(12〜22分)、ラクトフェリンが溶離された。その後、30分(22〜52分)かけてNaClの濃度を0M〜0.1Mと段階的に変化させ、14分間(52〜66分)、NaClの濃度を1Mとした際に得られたクロマトグラフを示す。
【図13】α−ラクトアルブミン(12mg)、β−ラクトグロブリン(13mg)及びラクトフェリン(24mg)の混合物が10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相と共に、ItBAが充填されたカラムに50℃で12分間(0〜12分)添加され、20℃で10分間(12〜22分)、ラクトフェリンが溶離され、その後、30分(22〜52分)かけてNaClの濃度を0M〜0.1Mと段階的に変化させ、14分間(52〜66分)、NaClの濃度を1Mとした際に得られたクロマトグラフを示す。
【図14】20℃及び50℃における、ItBAによって保持されたチトクロームCの量を示す。
【図15】(i)他のタンパク質を伴わないラクトフェリン、(ii)新鮮な乳清溶液中のラクトフェリン、及び(iii)濃縮された乳清溶液(約10倍)中のラクトフェリンが動的に添加されてItBAから溶離された際に得られたクロマトグラフを示す。10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相中の試料溶液(1mL)は、1.7mLのItBAが充填されたカラムに50℃で12分間(0〜12分)添加され、その後、20℃で10分間(13〜23分)、NaClの濃度を0.1Mとして、ラクトフェリンが溶離され、10分間(25〜35分)、NaClの濃度を1Mとした。
【図16】異なる濃度のラクトフェリンのみを含有する溶液から保持されたラクトフェリンの量及びパーセンテージを示す。10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相中のラクトフェリンは、1.7mLのItBAが充填されたカラムに50℃で12分間(0〜12分)添加された。その後、20℃で10分間(13〜23分)、NaClの濃度を0.1Mとして、ラクトフェリンが溶離され、10分間(25〜35分)、NaClの濃度を1Mとした。
【図17】異なる濃度のラクトフェリンを含有する新鮮なレンネット乳清溶液から保持されたラクトフェリンの量及びパーセンテージを示す。10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相中の乳清は1.7mLのItBAが充填されたカラムに50℃で12分間(0〜12分)添加された。その後、20℃で10分間(13〜23分)、NaClの濃度を0.1Mとして、ラクトフェリンが溶離され、10分間(25〜35分)、NaClの濃度を1Mとした。
【図18】異なる濃度のラクトフェリンを含有する実際の濃縮レンネット乳清溶液から保持されたラクトフェリンの量及びパーセンテージを示す。濃縮乳清は10mMのリン酸塩緩衝溶液移動相と共に1.7mLのItBAが充填されたカラムに50℃で12分間(0〜12分)添加された。その後、20℃で10分間(13〜23分)、NaClの濃度を0.1Mとして、ラクトフェリンが溶離され、10分間(25〜35分)、NaClの濃度を1Mとした。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本明細書において定義された「タンパク質」は、カルボキシ基と隣接するアミノ酸残基のアミノ基との間のペプチド結合によって結合され、直鎖状に配列されたアミノ酸から作られた有機化合物である。タンパク質は典型的に、20の標準アミノ酸から形成されるが、セレノシステイン及びピロリシン、または他の合成的な化学成分のような変種を含めてもよい。タンパク質は、単一分子であるか、あるいは選択的に、一つまたは複数の他のタンパク質または分子と会合して安定したタンパク質複合体が形成されてもよい。本発明のタンパク質は、天然のものであってもよく、遺伝子工学の方法及び醗酵または細胞培養によって製造されてもよく、もしくは化学的にまたは物理的に改良されていてもよい。本発明において使用されたタンパク質は1種、2種または多種のイソ型で存在してもよい。
【0022】
用語「タンパク質溶液」は、タンパク質分子が存在する任意の水性または非水性液体を意味する。タンパク質溶液は、さらなる生体分子、溶質、共溶媒、緩衝液または添加剤を含有するかまたは含有しなくてもよい。タンパク質溶液は、タンパク質の1種類のみ又は1種以上を含有してもよい。タンパク質溶液は別のプロセスの生成物または副生成物であってもよく、天然起源または合成的な液体であってもよい。タンパク質溶液中のタンパク質は、単一形態または凝集形態のいずれの形態で存在してもよい。乳清溶液及び濃縮乳清溶液はタンパク質溶液の例である。
【0023】
本発明において定義された「温度応答性重合体」は、下部臨界溶解温度(LCST)を有する重合体である。重合体のLCSTは、重合体溶液の相転移が生じる温度であり、典型的には、その温度を上回ると重合体が特定の溶媒にもはや溶解しない温度である。温度応答性は、重合体構造に疎水性部分または親水性部分を統合することによって操作され得る。温度応答性重合体を合成した後の修飾によって重合体構造へ疎水性部分または親水性部分を付加することができ、または重合体の合成の際に特定割合の親水性基または特定割合の疎水性基のいずれかを付与するコモノマーを使用することによって重合体構造へ疎水性部分または親水性部分を付加することができる。温度応答性重合体を生成するモノマーと親水性モノマーとの共重合により、重合体の親水性を増加させ、共重合体のLCSTを増加させる。対照的に、温度応答性重合体を生成するモノマーと疎水性モノマーとの共重合により、重合体の親水性を減少させ、共重合体のLCSTを低下させる。温度応答性重合体を製造するために使用される典型的なモノマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルメチルエーテル、N−ビニルカプロラクタム及びN,N−ジエチルアクリルアミドなどが挙げられる。温度応答性重合体の例として、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(ビニルメチルエーテル)などが挙げられる。
【0024】
本発明において定義された用語「モノマー」は、モノマー由来の多数の繰り返し単位を含む重合体を形成することが可能な任意の化学分子とみなされている。本発明で使用されるモノマーとして、ラジカル重合、カチオン重合またはアニオン重合によって重合可能な不飽和基を有するモノマーが典型的に挙げられる。本発明で使用されるモノマーは、典型的なアクリレート、メタクリレート、スチレン、アクリルアミドまたはメタクリルアミドフアミリーに属する。本発明において、使用に好適な他のモノマーとして、アリル系モノマー及びビニル系モノマーが挙げられる。用語「モノマー単位」は、対応するモノマーの重合から生じる重合体または共重合体の繰り返し単位とみなされる。
【0025】
用語「温度応答性を共重合体に付与可能なモノマー」は、単独重合の際又は共重合の際のいずれかにおいて温度応答性重合体を形成するものとして、その技術分野で公知の任意モノマーを指すものとみなされる。温度応答性を共重合体に付与可能なモノマーの例として、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルメチルエーテル又はN−ビニルカプロラクタムなどが挙げられる。温度応答性を付与可能なモノマーの具体的な実施形態は、N−イソプロピルアクリルアミドである。用語「温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位」は、温度応答性を共重合体に付与可能なモノマーから誘導される共重合体におけるモノマー単位を指すものとみなされている。
【0026】
用語「イオン化可能な化学基」は、荷電部分をもたらすことが可能な任意の化学部分を包含する。プロトン付加の結果として(例えば、アミン基では、アンモニウム基を形成する)、または脱プロトンの結果として(例えば、カルボン酸またはスルホン酸基では、カルボキシレート基またはスルホネート基を形成する)、化学種は帯電してもよい。他のイオン化可能な化学基は、水溶液環境においてイオン化する化学基であってよく、例えば、アルカリ金属カチオン及びアルカリ土類金属カチオンの重合ポリ塩(例えばアクリル酸ナトリウム、アクリル酸カルシウムまたはアクリル酸リチウム)のようなものがよい。
【0027】
用語「イオン化可能な化学基を共重合体に付与することが可能なモノマー」には、重合体に導入される際に、イオン化され、それによって重合体に荷電部分を付与することが可能な、その重合体の側基またはその重合体上に化学基を付与する、任意のモノマーが包含される。イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位の典型的な例として、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドなどが挙げられる。イオン化可能な化学基を付与するモノマーの具体的な実施形態は、アクリル酸である。用語「イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位」は、イオン化可能な化学基を共重合体に付与することが可能なモノマーから誘導された共重合体中における単位を指す。
【0028】
「二官能性モノマー」は、重合反応に各々が関与することが可能な2つの不飽和基を有するモノマーを指すものとみなされている。二官能性モノマーは、対称的であってもよいが、対称的である必要はない。本発明において用いられる典型的な二官能性モノマーには、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、及びN,N−メチレンビスアクリルアミドなどが挙げられる。二官能性モノマーの具体的な実施形態は、N,N−メチレンビスアクリルアミドである。二官能性モノマー単位という用語は、対応する二官能性モノマー単位の重合から誘導される重合体または共重合体中における繰り返し単位を指すものとみなされている。
【0029】
「付加的なモノマー単位」は、温度応答性共重合体に導入された任意の付加的なモノマー単位とみなされる。重合体の親水性及び/または疎水性を変化させるために、またはイオン化可能な基を共重合体に付与するモノマー単位を希釈することによって共重合体上の電荷密度に影響を与えるために付加的なモノマー添加が行なわれてもよい。付加的なモノマー単位の典型的な例として、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位などが挙げられる。付加的なモノマー単位の具体的な実施形態は、N−tert−ブチルアクリルアミド単位である。
【0030】
用語「クロマトグラフィ用カラム」には、任意のガラス、セラミック、金属または重合体の円筒が含まれる。分離されるタンパク質含有溶液は、カラムを通過させられる。クロマトグラフィ用カラムは、温度応答性重合体で官能化された多数の架橋ヒドロキシル重合体粒子を充填してもよい。カラムは、タンパク質溶液、洗浄溶液及び溶離溶液がポンプによって送液される自動化システムの一部であってもよく、または重力送り及び通常のコックのように手動で使用されてもよい。オーブン内または温度制御された温浴内にカラムを格納することによって、または本発明の属する技術分野で公知の任意の他の熱交換機構を用いることによって、カラムを、任意の特定温度に維持してもよい。温度制御された温浴は、温度制御された水浴または温度制御された油浴のいずれであってもよい。温浴内で用いられる流体は、当業者によって理解される他のいかなる添加剤を含有してもよい。また、制御された温度の流体が通される熱交換ジャケット内にカラムを収容することによってカラム温度が調整されてもよい。流体は、液体または気体のいずれであってもよい。幾つかの実施形態において流体は液体の水である。カラムは、有効な分離のために必要と思われる任意の寸法(長さ、内径、外径)を有するのが好ましい。使用される具体的な大きさは当業者には明白である。
【0031】
本発明で用いられる用語「重合体粒子」は、炭素ベースの重合体から主に形成された任意の粒子を含む。重合体粒子は、合成重合体、例えば、ビニル、アリル、アクリル、メタクリル、スチレン、アクリルアミドまたはメタクリルアミドモノマーの重合から形成されたような合成重合体を含めてもよく、または多糖類またはセルロース材料を含めてもよい。本発明において用いられる重合体粒子は親水性または疎水性のいずれであってもよい。本発明において用いられる重合体粒子の例には、架橋アガロース粒子、架橋セルロース粒子、親水性架橋ビニル重合体粒子、及びメタクリレートをベースとした重合体樹脂粒子などが挙げられる。具体的な実施例において架橋ポリマー粒子は、セファロース(Sepharose(登録商標))、セファセル(Sephacel(登録商標))、トヨパール(Toyopearl(登録商標))、及びフラクトゲル(Fractogel(登録商標))からなる群から選択される。架橋重合体粒子の具体的な実施形態は、セファロース(Sepharose(登録商標))粒子のような架橋アガロース粒子である。
【0032】
本発明で用いられる用語「ヒドロキシル重合体粒子」は、少なくとも1のヒドロキシル基を有する任意の重合体粒子を指す。ヒドロキシル重合体粒子には、適切なビニル、アリル、アクリル、メタクリル、スチレン、アクリルアミドまたはメタクリルアミドモノマーの重合から形成されたようなヒドロキシル官能化合成重合体が含まれてもよく、または多糖類またはセルロース材料が含まれてもよい。ヒドロキシル官能性を有するか、もしくは、後にヒドロキシル官能性に転換され得る前駆体を有するモノマーまたはコモノマーの重合によって重合体にヒドロキシル官能性が付与されてもよい。あるいは、重合体は、ヒドロキシル官能性を重合体に与えることが可能な任意の化学的または物理的手段によって重合後に修飾されてもよい。本発明で使用するヒドロキシル重合体粒子は分散粒子であってもよく、または互いに接合または融合されてもよく、もしくは橋かけによって相互接続されて、ヒドロキシル重合体粒子の連続網目を形成してもよい。本発明の幾つかの実施形態において、ヒドロキシル重合体粒子は互いに接合、融合または相互接続されて、いわゆるモノリスを形成してもよい。このようなケースにおける粒子間の結合はそれら自体、温度応答性重合体で官能化されてもよく、または未修飾重合体材料であってもよい。本発明において用いられたヒドロキシル重合体粒子は親水性または疎水性であってもよい。本発明で用いられたヒドロキシル重合体の重合体粒子の例には、架橋アガロース粒子、架橋セルロース粒子、ヒドロキシル基を有する親水性架橋ビニル重合体粒子、及びヒドロキシル基を有するメタクリレートをベースとした重合体樹脂粒子などが挙げられる。幾つかの具体的な実施例において架橋重合体粒子は、セファロース(Sepharose(登録商標))、セファセル(Sephacel(登録商標))、トヨパール(Toyopearl(登録商標))、及びフラクトゲル(Fractogel(登録商標))からなる群から選択される。本発明において、架橋重合体粒子の具体的な実施形態は、セファロース(Sepharose(登録商標))粒子などの架橋アガロース粒子である。
【0033】
明細書及びクレームの全体にわたり、用語「重合(polymerization)」及びその派生語、例えば「重合させる(polymerize)」及び「重合する(polymerizing)」は、モノマー分子から重合体分子を形成する一切のプロセスを意味するようにみなされる。重合は、単一タイプのモノマーが存在する状態を指すだけでなく、いわゆる「共重合体」の形成につながる1タイプ以上のモノマーが存在する状態をも指す。「重合」は、フリーラジカル重合、カチオン重合及びアニオン重合を包含するように用いられる。また、重合は、原子移動重合、原子移動ラジカル重合、触媒連鎖移動重合、連鎖移動重合、官能基移動重合、ヨウ素媒介重合、ニトロキシド媒介重合、可逆的付加開裂連鎖移動重合、チオイニファタ重合(thioiniferter polymerization)、イニファタ重合、開環メタセシス重合、非環状ジエンメタセシス重合及び交互ジエンメタセシス重合など、重合反応に付加的な添加剤が存在するそれらの変種を含めるものとみなされる。
【0034】
「重合を開始可能な官能基」は、重合を開始可能な種を生じうる任意の化学部分を包含するものとみなされる。フリーラジカル重合、原子移動重合、原子移動ラジカル重合、触媒連鎖移動重合、連鎖移動重合、官能基移動重合、ヨウ素媒介重合、ニトロキシド媒介重合、可逆的付加開裂連鎖移動重合、チオイニファタ重合、イニファタ重合、開環メタセシス重合、非環状ジエンメタセシス重合及び交互ジエンメタセシス重合の場合、重合を開始することができる官能基は、ラジカルが形成可能な基である。幾つかのケースにおいて、ラジカルは、温度上昇によって形成される。他のケースにおいて、ラジカルは、紫外線照射が引き金となって形成される。さらに他のケースにおいて、ラジカルは、ガンマ線(γ線)またはX線などの電離放射線の照射によって形成される。
【0035】
本発明は、タンパク質の分離のためのバッチ方法及びクロマトグラフ方法を提供する。また、本発明は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子、及び同重合体粒子を製造する方法を提供する。
【0036】
本発明の一つの形態は、タンパク質含有溶液からタンパク質を単離する方法を提供する。
その方法は、以下の工程を含む。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持を促進させる工程、
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する工程、
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子からタンパク質を、溶離溶液中に溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する工程、
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する工程。
【0037】
幾つかの実施形態において、溶離溶液の温度は、タンパク質含有溶液が架橋重合体粒子と接触させられる温度より低い。あるケースでは、タンパク質溶液及び洗浄溶液の温度は30℃〜60℃である。他のケースでは、タンパク質溶液及び洗浄溶液の温度は40℃〜60℃である。ある実施形態においては、溶離溶液の温度は0℃〜30℃である。他の実施形態においては、溶離溶液の温度は0℃〜20℃である。
【0038】
幾つかの実施形態において、溶離溶液はイオン性溶質を含有する。イオン性溶質は、溶離溶液に可溶な本技術分野で公知である任意のイオン性溶質であってもよい。イオン性溶質の好ましい実施形態は、アルカリ金属ハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物である。イオン性溶質のより好ましい実施形態は、リチウム、ナトリウム又はカリウムのハロゲン化物である。イオン性溶質のさらに好ましい実施形態は、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウム又はヨウ化ナトリウムである。イオン性溶質の実施形態は、塩化ナトリウム及び塩化カリウムから選択される。イオン性溶質の具体的な実施形態は塩化ナトリウムである。
【0039】
本発明のさらなる実施形態において、温度応答性共重合体は、以下を含む。
(i)温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位;
(ii)イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位。
【0040】
本発明の実施形態において、温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位、ビニルメチルエーテル単位またはN−ビニルカプロラクタム単位からなる群から選択されてもよい。温度応答性を付与するモノマー単位の具体的な実施形態は、N−イソプロピルアクリルアミド単位である。
【0041】
イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位の好ましい例として、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、エタクリル酸単位、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート単位、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート単位、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド単位、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート単位、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド単位からなる群から選択されてもよい。イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位の具体的な実施形態は、アクリル酸単位である。
【0042】
本発明のさらなる実施形態において、温度応答性共重合体は少なくとも1の二官能性モノマー単位をさらに含有する。二官能性モノマー単位は、エチレングリコールジメタクリレート単位、1,4−ブタンジオールジメタクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート単位、エチレングリコールジアクリレート単位、1,4−ブタンジオールジアクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート単位、及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。二官能性モノマー単位の具体的な実施形態は、N,N−メチレンビスアクリルアミド単位である。
【0043】
本発明のさらなる実施形態において、温度応答性共重合体は少なくとも1の付加的なモノマー単位をさらに含有する。付加的なモノマー単位は、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。付加的なモノマー単位の具体的な実施形態は、N−tert−ブチルアクリルアミド単位である。付加的なモノマー単位の他の具体的な実施形態は、N−フェニルアクリルアミド単位である。
【0044】
本発明の実施形態において、架橋重合体粒子は、架橋アガロース粒子、架橋セルロース粒子、親水性架橋ビニル重合体粒子、及びメタクリレートをベースとした重合体樹脂粒子からなる群から選択されてもよい。本発明の実施形態において、架橋重合体粒子は、セファロース(Sepharose(登録商標))、セファセル(Sephacel(登録商標))、トヨパール(Toyopearl(登録商標))、及びフラクトゲル(Fractogel(登録商標))からなる群から選択される。本発明において、架橋重合体粒子の具体的な実施形態は、セファロース(Sepharose(登録商標))粒子のような架橋アガロース粒子である。
【0045】
本発明の実施形態において、タンパク質はクロマトグラフ法によって溶液から単離される。したがって、本発明のさらなる形態は、タンパク質分離のためのクロマトグラフ法を提供することである。
【0046】
一つの見地から、本発明はタンパク質含有溶液からタンパク質を単離する方法を提供する。その方法は、以下の工程を含み、工程(a)〜(c)が、入口と出口とを有するカラム内で行なわれる。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持を促進させる工程、
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する工程、
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子からタンパク質を、溶離溶液中に溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する工程、
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する工程。
【0047】
幾つかの実施形態において、溶離溶液の温度が、タンパク質含有溶液が架橋重合体粒子と接触した温度より低くなる。幾つかの場合において、タンパク質溶液及び洗浄溶液は30℃〜60℃の温度範囲内にある。他の場合において、タンパク質溶液及び洗浄溶液は40℃〜60℃の温度範囲内にある。幾つかの実施形態において、溶離溶液は0℃〜30℃の温度範囲内にある。他の実施形態において、溶離溶液は0℃〜20℃の温度範囲内にある。
【0048】
本発明の実施形態において、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子は、カラムの入口と出口との間の流路内に充填される。
【0049】
幾つかの実施形態において、タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液が連続して入口から注入され、出口から収集されてもよい。幾つかの実施形態において、生成物溶液は不連続に一定容積で収集されてもよい。さらに他の実施形態において、各一定容積のタンパク質濃度が定量される。さらに別の実施形態において、溶離溶液中のタンパク質濃度が連続的に測定される。
【0050】
幾つかの実施形態において、溶離溶液は、イオン性溶質を含有する。イオン性溶質は、溶離溶液に溶解する本技術分野で公知の任意のイオン性溶質であってもよい。幾つかの好ましい実施形態において、イオン性溶質は、アルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物である。より好ましい実施形態において、イオン性溶質は、リチウム、ナトリウムまたはカリウムのハロゲン化物である。さらに好ましい実施形態において、イオン性溶質は、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムである。幾つかの実施形態において、イオン性溶質は、塩化ナトリウム、または塩化カリウムである。幾つかの具体的な実施形態において、イオン性溶質は、塩化ナトリウムである。
【0051】
本発明の幾つかの実施形態において、タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液はポンプを用いてカラムに注入される。他の実施形態において、タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液は重力送りによって注入される。
【0052】
幾つかの実施形態において、温度応答性共重合体は、以下を含む。
(i)温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位;
(ii)イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位。
【0053】
温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位、ビニルメチルエーテル単位またはN−ビニルカプロラクタム単位からなる群から選択されてもよい。温度応答性を付与するモノマー単位の具体的な実施形態は、N−イソプロピルアクリルアミド単位である。
【0054】
イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、エタクリル酸単位、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート単位、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート単位、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド単位、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート単位、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド単位からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位である。
【0055】
本発明のさらなる実施形態において、温度応答性共重合体は少なくとも1の二官能性モノマー単位をさらに含有する。二官能性モノマー単位は、エチレングリコールジメタクリレート単位、1,4−ブタンジオールジメタクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート単位、エチレングリコールジアクリレート単位、1,4−ブタンジオールジアクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート単位、及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、二官能性モノマー単位は、N,N−メチレンビスアクリルアミド単位である。
【0056】
本発明のさらに別の実施形態において、温度応答性共重合体は、少なくとも1の付加的なモノマー単位をさらに含有する。付加的なモノマー単位は、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。本発明の幾つかの具体的な実施形態において、付加的なモノマー単位は、N−tert−ブチルアクリルアミド単位である。他の具体的な実施形態において、付加的なモノマー単位は、N−フェニルアクリルアミド単位である。
【0057】
本発明の幾つかの実施形態において、架橋重合体粒子は、架橋アガロース粒子、架橋セルロース粒子、親水性架橋ビニル重合体粒子、及びメタクリレートをベースとした重合体樹脂粒子からなる群から選択されてもよい。本発明の幾つかの実施形態において、架橋重合体粒子は、セファロース(Sepharose(登録商標))、セファセル(Sephacel(登録商標))、トヨパール(Toyopearl(登録商標))、及びフラクトゲル(Fractogel(登録商標))からなる群から選択されてもよい。本発明の具体的な実施形態において、架橋重合体粒子は、セファロース(Sepharose(登録商標))粒子のような架橋アガロース粒子である。
【0058】
幾つかの実施形態において、分離されるタンパク質は、チトクロームC、ラクトフェリン、パパイン及びラクトペルオキシダーゼからなる群から選択される。具体的な実施形態において、タンパク質は、ラクトフェリンである。
【0059】
本発明のさらなる形態は、温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供することである。その形態では、温度応答性共重合体は特定割合のイオン化可能な化学基を含有する。幾つかの実施形態において、温度応答性共重合体は、以下を含む。
(ii)温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位;
(iii)イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位。
【0060】
温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位、ビニルメチルエーテル単位又はN−ビニルカプロラクタム単位からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、温度応答性を付与するモノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位である。
【0061】
イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、エタクリル酸単位、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート単位、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート単位、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド単位、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート単位、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド単位からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位である。
【0062】
本発明のさらなる実施形態において、温度応答性共重合体は少なくとも1の二官能性モノマー単位をさらに含有する。二官能性モノマー単位は、エチレングリコールジメタクリレート単位、1,4−ブタンジオールジメタクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート単位、エチレングリコールジアクリレート単位、1,4−ブタンジオールジアクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート単位、及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、二官能性モノマー単位は、N,N−メチレンビスアクリルアミド単位である。
【0063】
本発明のさらに別の実施形態において、温度応答性共重合体は、少なくとも1の付加的なモノマー単位をさらに含有する。付加的なモノマー単位は、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位からなる群から選択されてもよい。幾つかの具体的な実施形態において、付加的なモノマー単位はN−tert−ブチルアクリルアミド単位である。他の具体的な実施形態において、付加的なモノマー単位は、N−フェニルアクリルアミド単位である。
【0064】
幾つかの実施形態において、架橋ヒドロキシル重合体は、架橋アガロース、架橋セルロース、親水性架橋ビニル重合体、ヒドロキシ官能性架橋ビニル重合体、ヒドロキシ官能性架橋アクリル重合体及びヒドロキシ官能性架橋メタクリル重合体からなる群から選択される。好ましい実施形態において、架橋ヒドロキシル重合体は、架橋アガロース又は親水性架橋ビニル重合体である。一つの具体的な実施形態において、架橋ヒドロキシル重合体は、架橋アガロースである。
【0065】
本発明のさらなる形態は、架橋ヒドロキシル重合体粒子を製造する方法を提供することにある。前記架橋ヒドロキシル重合体粒子は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する温度応答性共重合体で官能化される。
その方法は、以下の工程を含む。
(a)架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(b)架橋ヒドロキシル重合体粒子を化学修飾して、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(c)架橋ヒドロキシル重合体粒子を、モノマー溶液に接触させる工程であって、架橋ヒドロキシル重合体粒子は、重合開始可能な官能基を有し、モノマー溶液は、共重合体に温度応答性を付与可能な少なくとも1のモノマーと共重合体にイオン化可能な化学基を付与可能な少なくとも1のモノマーを含有し、前記接触によりモノマー重合が開始される工程、
(d)温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を単離する工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する工程。
【0066】
幾つかの実施形態において、架橋ヒドロキシル重合体粒子を化学修飾することにより、活性化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供する。架橋ヒドロキシル重合体粒子は、重合開始可能な官能基を有する。かかる化学修飾は、以下の工程を含む。
(i)架橋ヒドロキシル重合体粒子をエポキシド基で官能化する工程、
(ii)エポキシド基をアンモニアと反応させて、アミン基で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供する工程、
(iii)アミン基を少なくとも1のカルボン酸基を有する重合開始剤と反応させる工程。
【0067】
本発明の具体的な実施形態において、架橋ヒドロキシル重合体粒子をエポキシド基で官能化する工程は、水酸化ナトリウム及び水素化ホウ素ナトリウムの存在下でヒドロキシル重合体粒子をエピクロロヒドリンと反応させる工程を含む。さらなる実施形態において、アミン基と、カルボン酸基を有する重合開始剤とを反応させる工程が、縮合剤の存在下で導かれる。縮合剤の具体的な実施形態は、1−(エトキシカルボニル)−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリンである。
【0068】
幾つかの実施形態において、少なくとも1のカルボン酸基を有する重合開始剤は、カルボン酸基を有するペルオキシ開始剤である。他の実施形態において、少なくとも1つのカルボン酸基を有する重合開始剤は、カルボン酸基を有するアゾ開始剤である。さらに他の実施形態において、少なくとも1つのカルボン酸基を有する重合開始剤は、カルボン酸基を有する光開始剤である。本発明の幾つかの実施形態において、少なくとも1のカルボン酸基を有する重合開始剤は、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)である。
【0069】
温度応答性を共重合体に付与可能なモノマーは、N−イソプロピルアクリルアミド、ビニルメチルエーテルまたはN−ビニルカプロラクタムからなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、温度応答性を付与可能なモノマーは、N−イソプロピルアクリルアミドである。
【0070】
イオン化可能な化学基を付与可能なモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリドからなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、イオン化可能な化学基を付与するモノマーは、アクリル酸である。
【0071】
本発明のさらなる実施形態において、モノマー溶液は少なくとも1の二官能性モノマーをさらに含有する。二官能性モノマーは、エチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、及びN,N−メチレンビスアクリルアミドからなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、二官能性モノマーは、N,N−メチレンビスアクリルアミドである。
【0072】
本発明のさらに別の実施形態において、モノマー溶液は少なくとも1の付加的なモノマーをさらに含有する。付加的なモノマーは、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、N−イソプロピルメタクリアミド、ブチルメタクリレート、N−tert−ブチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、及びN−フェニルアクリルアミドからなる群から選択されてもよい。本発明の具体的な実施形態において、付加的なモノマーは、N−tert−ブチルアクリルアミドである。他の具体的な実施形態において、付加的なモノマーは、N−フェニルアクリルアミドである。
【0073】
重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子を、モノマー溶液と接触させる工程は、一般的に、重合開始可能な官能基の重合開始温度において行なわれる。前記モノマー溶液は、温度応答性を共重合体に付与可能な少なくとも1のモノマー及びイオン化可能な化学基を共重合体に付与可能な少なくとも1のモノマーを含有する。選択された具体的な温度は、重合開始可能な特定の官能基に依存し、当業者には容易に明白であろう。幾つかの実施形態においては、室温が選択される。他の実施形態において、温度は、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃、80℃、81℃、82℃、83℃、84℃、85℃、86℃、87℃、88℃、89℃、90℃、91℃、92℃、93℃、94℃、95℃、96℃、97℃、98℃、99℃、及び100℃からなる群から選択されてもよい。具体的な実施形態において、温度は、80℃が選択される。当業者によって理解されるように、粒子上の開始基の密度は変化させられてもよい。
【0074】
他の実施形態において、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子をモノマー溶液と接触させる工程は、紫外光下で行なわれる。さらに他の実施形態において、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子をモノマー溶液と接触させる工程は、電離放射線下で行なわれる。さらに他の実施形態において、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子をモノマー溶液と接触させる工程は、γ線下で行なわれる。さらに他の実施形態において、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子をモノマー溶液と接触させる工程は、X線放射線下で行なわれる。
【0075】
正及び負に荷電されたタンパク質の分離へ応用するため、本発明が改良され得ることは当業者によって理解されるであろう。例えば、イオン化の際に、負に荷電するイオン化可能な化学基を共重合体に付与することが可能なモノマーは、正電荷を有するタンパク質の分離に利用可能である。逆に、イオン化の際に正に荷電するイオン化可能な化学基を共重合体に付与することが可能なモノマーは、負電荷を有するタンパク質の分離に利用可能である。
【0076】
当業者によって理解されるように、官能化された架橋粒子によるタンパク質の保持は、タンパク質が粒子と結合した程度まで溶液からタンパク質が除去され、精製されることを意味する。さらに、粒子とタンパク質間の静電(すなわち正/負)相互作用の他に、粒子とタンパク質間の他の相互作用が生じうることは当業者によって理解されるであろう。例えば、金属−配位子相互作用、疎水性相互作用、水素結合相互作用、立体錯体化相互作用(stereocomplexation interactions)または電荷移動相互作用もまた、本発明のタンパク質と粒子の相互作用に寄与し、これにより、粒子上へのタンパク質の保持が引き起こされる。
【0077】
タンパク質溶液と、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子が接触させられる温度は、特定の温度応答性共重合体及び分離される特定のタンパク質に適切であるように変化させられる。温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する。
温度は、特定割合のタンパク質が官能化された架橋重合体粒子によって保持されるような温度である。一般的には、温度は30℃〜80℃の範囲内である。幾つかの実施形態において、温度は30℃〜60℃の範囲内であり、さらなる実施形態において、温度は45℃〜55℃の範囲内である。幾つかの実施形態において、タンパク質溶液が架橋重合体粒子と接触する温度は、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃及び80℃からなる群から選択される。他の実施形態において、温度は、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、及び60℃からなる群から選択される。さらに他の実施形態において、温度は、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃及び55℃からなる群から選択される。幾つかの具体的な実施形態において、タンパク質が官能化された架橋重合体粒子と接触する温度は、50℃が選択される。他の具体的な実施形態において、タンパク質が官能化された架橋重合体粒子と接触する温度は、40℃が選択される。さらなる他の具体的な実施形態において、タンパク質が官能化された架橋重合体粒子と接触する温度は、60℃が選択される。
【0078】
続いて行なわれる粒子の洗浄溶液との接触は、タンパク質溶液との最初の接触温度と同じ温度において、より高い温度において又はより低い温度において行なわれてもよい。洗浄溶液の温度は、粒子が洗浄溶液と接触している間に特定割合のタンパク質が官能化された重合体粒子によって保持されるような温度である。一般的に洗浄溶液の温度は、30℃〜80℃である。幾つかの実施形態において、温度は、30℃〜60℃であり、さらなる実施形態において、温度は、45℃〜55℃である。幾つかの実施形態において、洗浄溶液の温度は、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃、60℃、61℃、62℃、63℃、64℃、65℃、66℃、67℃、68℃、69℃、70℃、71℃、72℃、73℃、74℃、75℃、76℃、77℃、78℃、79℃及び80℃からなる群から選択される。他の実施形態において、洗浄溶液の温度は、30℃、31℃、32℃、33℃、34℃、35℃、36℃、37℃、38℃、39℃、40℃、41℃、42℃、43℃、44℃、45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃、55℃、56℃、57℃、58℃、59℃及び60℃からなる群から選択される。さらに他の実施形態において、洗浄溶液の温度は45℃、46℃、47℃、48℃、49℃、50℃、51℃、52℃、53℃、54℃及び55℃からなる群から選択される。幾つかの具体的な実施形態において、洗浄溶液の温度は、50℃が選択される。他の具体的な実施形態において、洗浄溶液の温度は、40℃が選択される。さらなる他の具体的な実施形態において、洗浄溶液の温度は、60℃が選択される。
【0079】
続いて行なわれる粒子の溶離溶液との接触は、一般的に、タンパク質溶液との最初の接触よりも低い温度において行なわれる。溶離溶液の温度は、特定割合のタンパク質が官能化された重合体粒子から溶離溶液中に溶離されるような温度である。一般的に溶離溶液の温度は、0℃〜80℃である。幾つかの実施形態において、温度は0℃〜30℃である。他の実施形態において、温度は0℃〜20℃である。さらに他の実施形態において、温度は0℃〜10℃である。幾つかの実施形態において、溶離溶液の温度は、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃、20℃、21℃、22℃、23℃、24℃、25℃、26℃、27℃、28℃、29℃及び30℃からなる群から選択される。他の実施形態において、溶離溶液の温度は、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃、11℃、12℃、13℃、14℃、15℃、16℃、17℃、18℃、19℃及び20℃からなる群から選択される。さらに他の実施形態において、溶離溶液の温度は、0℃、1℃、2℃、3℃、4℃、5℃、6℃、7℃、8℃、9℃、10℃からなる群から選択される。幾つかの具体的な実施形態において、溶離溶液の温度は、20℃が選択される。他の具体的な実施形態において、溶離溶液の温度は、0℃〜4℃である。
【0080】
幾つかのケースにおいて、溶離溶液はイオン性溶質を含有しない。幾つかのケースでは、溶離溶液はイオン性溶質を含有する。イオン性溶質は、溶離溶液に可溶な本技術分野で公知の任意のイオン性溶質であってもよい。好ましい実施形態において、イオン性溶質は、アルカリ金属ハロゲン化物またはアルカリ土類金属ハロゲン化物である。より好ましい実施形態において、イオン性溶質は、リチウム、ナトリウムまたはカリウムのハロゲン化物である。さらにより好ましい実施形態において、イオン性溶質は、塩化リチウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム、臭化リチウム、臭化カリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化カリウムまたはヨウ化ナトリウムである。最も好ましい実施形態におけるイオン性溶質は、塩化ナトリウムである。
【0081】
溶離溶液を温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子と接触する際に溶離溶液中のイオン性溶質の濃度を変化させることが望ましい場合がある。この場合において、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する。溶離溶液中のイオン性溶質の濃度は、0M〜2Mの範囲内の任意の濃度であってもよい。幾つかの実施形態において、溶離溶液中のイオン性溶質の濃度は、0M〜1Mの範囲内の任意の濃度であってもよい。幾つかの具体的な実施形態において、イオン性溶質の濃度は、0M〜0.01M、0M〜0.1M、0M〜1.0Mまで変化させられてもよい。変化は連続的、段階的に増加または段階的に変化してもよい。幾つかの実施形態において、濃度は、NaClの濃度が0M〜0.1M、0M〜1.0Mと段階的に変化される。
【0082】
イオン化可能な化学基を共重合体に付与するモノマー単位、温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位、二官能性モノマー単位及び付加的なモノマー単位の割合は、要求される特定の操業条件及び/または分離されるタンパク質の要求条件に応じて変化させられてもよい。幾つかの実施形態において、二官能性モノマー単位は除かれてもよい。他の実施形態において、付加的なモノマー単位は除かれてもよい。さらに別の実施形態において、二官能性モノマー単位と付加的なモノマー単位との両方が除かれる。幾つかの実施形態において、温度応答性モノマー単位、付加的なモノマー単位及びイオン化可能な化学基を付与するモノマー単位の比率は、温度応答性モノマー単位:付加的なモノマー単位:イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位=(80〜98):(10〜1):(10〜1)である。他の実施形態において、温度応答性モノマー単位、付加的なモノマー単位及びイオン化可能な化学基を付与するモノマー単位の比率は、温度応答性モノマー単位:付加的なモノマー単位:イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)である。幾つかの具体的な実施形態において、温度応答性モノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位であり、付加的なモノマー単位は、tert−ブチルアクリルアミド単位であり、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位である。N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比率は、N−イソプロピルアクリルアミド単位:tert−ブチルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(80〜98):(10〜1):(10〜1)である。他の具体的な実施形態において、温度応答性モノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位であり、付加的なモノマー単位は、N−フェニルアクリルアミド単位であり、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位である。N−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比率は、N−イソプロピルアクリルアミド単位:N−フェニルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(80〜98):(10〜1):(10〜1)である。幾つかの他の具体的な実施形態において、温度応答性モノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位であり、付加的なモノマー単位は、tert−ブチルアクリルアミド単位であり、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位はアクリル酸単位である。N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比率は、N−イソプロピルアクリルアミド単位:tert−ブチルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)である。さらに他の具体的な実施形態において、温度応答性モノマー単位は、N−イソプロピルアクリルアミド単位であり、付加的なモノマー単位は、N−フェニルアクリルアミド単位であり、イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位は、アクリル酸単位である。N−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比率は、N−イソプロピルアクリルアミド単位:N−フェニルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)である。
【0083】
本発明の方法は、食品、製薬、化学及び水処理産業、またはいずれかの他の産業において興味深い任意のタンパク質の分離に応用されてもよい。本発明による分離に適したタンパク質には、抗体、非抗体タンパク質、免疫グロブリン、免疫グロブリンのようなタンパク質、非ヒト成長因子、酵素、ホルモン、サイトカイン、Fc誘導体化タンパク質、及び組換え抗原などがある。他の候補として、顆粒球コロニー刺激因子(GCSF)、幹細胞因子、レプチン、造血因子、非ヒト成長因子、抗肥満因子(antiobesity factors)、栄養因子、抗炎症因子(anti−inflammatory factors)、レセプターまたは可溶性レセプター、酵素の他、これらのタンパク質のいずれかの変種、誘導体、または類似体などがある。他の例には、インスリン、ガストリン、プロラクチン、副腎皮質ホルモン(ACTH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)、黄体形成ホルモン(LH)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(HCG)、モチリン、インターフェロン(アルファ、ベータ、ガンマ、オメガ)、インターロイキン(IL−I〜IL−12)、腫瘍壊死因子(TNF)、腫瘍壊死因子結合タンパク質(TNF−bp)、脳によって得られた神経栄養因子(BDNF)、膠細胞由来神経栄養因子(glial derived neurotrophic factor)(GDNF)、神経栄養因子3(NT3)、繊維芽細胞成長因子(FGF)、神経栄養成長因子(NGF)、骨成長因子、例えばオステオプロテジェリン(osteoprotegerin)(OPG)、インスリン様成長因子(IGFs)、マクロファージコロニー刺激因子(M−CSF)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、巨核球によって得られた成長因子(MGDF)、ケラチノサイト成長因子(KGF)、エリスロポイエチン、トロンボポイエチン、血小板によって得られた成長因子(PGDF)、コロニー刺激成長因子(CSFs)、骨形成たん白質(BMP)、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、ウロキナーゼ、ストレプトキナーゼ、あるいはカリクレイン、レセプターあるいは可溶性レセプター、酵素の他、これらのタンパク質のいずれかの変種、誘導体、または類似体などがある。他の例には、アルブミン、血清アルブミン、インスリン、リボヌクレアーゼA、ミオグロビン、キモトリプシン、トリプシン、キモトリプシノゲン、ヘモグロビン、ヘキソキナーゼ、免疫グロブリンG、RNAポリメラーゼ、DNAポリメラーゼ、アポリポタンパク質B、グルタミン酸デヒドロゲナーゼ、リポタンパク質、糖タンパク質、リンタンパク質、血液タンパク質、フラボタンパク質及び金属タンパク質などがある。幾つかの好ましい実施形態において、本発明による分離に適したタンパク質には、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ及びパパインなどがある。幾つかの具体的な実施形態において、タンパク質は、ラクトフェリンである。
【0084】
本発明の一つの特徴は、イオン化可能な化学基を有するモノマー単位を温度応答性共重合体の一部として導入することによって、イオン化可能な化学基が付与されることにある(すなわち、ヒドロキシル重合体基材粒子からまたはその改質によってではない)。これは温度応答性共重合体とは無関係なイオン化可能な化学基を付与するために基材粒子に関する独自の修飾があってもよい他の方法とは異なっている。例えば、N−イソプロピルアクリルアミド、tert−ブチルアクリルアミド及びアクリル酸の共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−tert−butylacrylamide−co−acrylic acid)」で官能化されたアガロース粒子の場合、イオン化可能な化学基は、アガロース基材粒子の直接修飾によってではなく、重合体中のアクリル酸モノマー単位によって付与される。
【0085】
特定割合のイオン化可能な化学基を有する温度応答性共重合体で官能化された重合体粒子は、食品、製薬、化学物質、水処理及び他の産業において使用されるアルカリ洗浄条件に対して安定していてもよい。さらに、重合体粒子の性質は、両極端のpHまたは高濃度の溶質など、工程の変動に適応するように変化させられてもよい。
【実施例】
【0086】
[材料]
架橋アガロース粒子(セファロース 6ファストフロー(Sepharose(登録商標) 6 fast flow))は、Pharmacia Biotech(Sweden)から得られ、ラクトフェリン試料は、Food Science Australia(Werribee)によって提供された。N−イソプロピルアクリルアミド(97%)、tert−ブチルアクリルアミド(97%)、アクリル酸(≧98%)、1−(エトキシカルボニル)−2−エトキシ−1,2−ジヒドロ−キノリン(≧99%)、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(≧98%)、N,N−ジメチルホルムアミド(≧99.8%)及びN,N’−メチレンビスアクリルアミド(≧98%)は、シグマ・アルドリッチ(Sigma Aldrich)(USA)から得られた。
【0087】
[本発明の架橋アガロース粒子の製造]
N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)を溶媒として及び1−(エトキシカルボニル)−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)を縮合剤として用いてアミノ官能化セファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)上に、重合開始剤である4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)(ACV)を、共有結合によって固定した(Yakushijiら著、Anal.Chem.,1999年,71,1125〜1130ページに記載された方法を応用した)。モノマーとして、N−イソプロピルアクリルアミド(NIPAAm)、アクリル酸(AAc)及びtert−ブチルアクリルアミド(tBAAm)を、架橋剤として、N,N’−メチレンビスアクリルアミド(MBBA)を用いて、ラジカル重合によって、ACV固定セファロース(Sepharose)上に架橋重合体マトリックスを展開した。粒子はItBAとして表示された。
【0088】
合成工程の詳細を以下に記載する。
1.セファロース6ファストフロー(Sepharose(登録商標) 6FF)のアミノ官能化
1.1)エピクロロヒドリンによるセファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)の活性化
セファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)(100g)を焼結ガラス漏斗上に採取し、蒸留水で洗浄した(5×湿潤ゲルの体積)。洗浄されたゲルを吸引乾燥し、500mLのSchottビンに移した。NaBH4(0.187g)を含有する2MのNaOH溶液(100mL)を添加し、懸濁液を、28℃において2時間、揺動プラットホーム上で175rpmの速度で混合した。エピクロロヒドリン(60mL)をゲルスラリーに添加し、次いで28℃においてさらに21時間、揺動プラットホーム上で175rpmの速度で混合した。次に、エポキシ活性化ゲルを真空濾過によって採取し、蒸留水で洗浄した。
【0089】
1.2)エポキシ活性化セファロース(Sepharose(登録商標))とアンモニア水とのカップリング
エポキシ活性化セファロース(Sepharose(登録商標))(95g)を焼結ガラス漏斗上に採取し、蒸留水で洗浄した(5×湿潤ゲルの体積)。洗浄されたゲルを吸引乾燥し、500mLのSchottビンに移した。2Mのアンモニア水溶液(95mL)を添加した。スラリーを揺動プラットホーム上で28℃において21時間混合した。活性化セファロース(Sepharose(登録商標))ゲルを真空濾過によって採取し、濾液のpHが8より小さくなるまで(pH<8)、多量の蒸留水で洗浄した。さらなる使用まで、ゲルを4℃の20%v/vの水性エタノール中に貯蔵した。
【0090】
2.重合開始剤の固定化
ACV(20.25mmol、5.67g)及びEEDQ(40.5mmol、10.01g)を500mLの3首丸底フラスコ内のDMF(270mL)に溶解した。アミノ官能化セファロース(Sepharose(登録商標))(90g)を50%、75%及び100%のエタノール(各々100mL)でそれぞれ洗浄した。ゲルをACVとEEDQとを含有する溶液に添加した。窒素を45分間通気し、その後に、真空脱気して(3分)スラリー混合物を脱気した。次に、IKA(登録商標)オーバーヘッド攪拌機(RW20、IKA Labortechnik)による一定した攪拌で、カップリング反応を25℃のアルゴン雰囲気下で6時間実施した。ACV固定ゲルを焼結ガラス漏斗上に採取し、DMF及びエタノールで洗浄した。次にさらなる使用まで、ゲルを4℃の20%v/vの水性エタノール中に貯蔵した。
【0091】
3.ACV固定セファロース(Sepharose(登録商標))上への重合体マトリックスの展開
NIPAAm(112.5mmol、12.73g)、tBAAm(6.25mmol、0.79g)、AAc(6.25mmol、0.43mL)及びMBBA(1.25mmol、0.19g)を250mLの3首丸底フラスコ内のエタノール(125mL)中に溶解した。ACV固定Sepharose(登録商標) FF(25g、20%、50%、75%及び100%のエタノールで洗浄された)を溶液混合物に添加した。30分間窒素を通気し、その後に、真空脱気して(3分)混合物を脱気した。IKA(登録商標)オーバーヘッド攪拌機による一定した攪拌で、重合反応を80℃のアルゴン雰囲気内で16時間実施した。ゲルを焼結ガラス漏斗上に採取し、100%、75%、50%、20%のエタノールでそれぞれ洗浄し、最後に冷水で洗浄した。次にさらなる使用まで、ゲルを4℃の20%v/vの水性エタノール中に貯蔵した。
【0092】
3.1)1H NMRを使用するItBAの特性決定
共重合体中のNIPAAmとtBAAmとの比は、溶媒としてCDCl3を用いてBruker400MHz NMR分光計を使用して得られた1H−NMRスペクトルのデータから推定された。1H NMRスペクトルは、粒子官能化プロセスの間に得られた上澄み液からの遊離(フリー)の共重合体を用いて得られた。CDCl3中の遊離(フリー)の共重合体の1H NMRスペクトルは、フリーの共重合体中のNIPAAmの、tBAAmに対する比が23:2であることを裏づけた。検査された溶液中のフリーの共重合体の組成は、樹脂上に固定された共重合体の組成に類似するものと仮定して、ItBA樹脂上のモノマーであるNIPAAm、tBAAm、AAの比は、NIPAAm:tBAAm:AA=86:8:6であると推定される。この比は、重合プロセスにおいて使用されたモノマーの比(90:5:5)に類似する。
【0093】
3.2)元素分析を使用するItBAの特性決定
ItBAのNIPAAm及びtBAAmの総合含有量を、元素窒素分析(Carlo Erba Elemental Analyser EA 1108,Thermo Fisher Scientific,Milan,Italy)を用いて定量した。この分析を用いて、凍結乾燥ゲルのItBA中に存在するNIPAAm及びtBAAmの総合含有量を定量すると2060±62μmol/gであった。
【0094】
3.3)紫外可視分光分析法を使用するItBAのLCSTの特性決定
共重合体の下部臨界溶解温度を定量するために、温度制御されたキュベットチャンバを有する紫外/可視分光光度計(SpectraMax Plus,Molecular Devices,Sunnyvale,USA)を用いて、24℃及び38℃で0.5%(w/w)共重合体水溶液の500nmにおける光学的透過率を測定した。特性決定された共重合体は、粒子官能化プロセスの間に得られた上澄み液から得られた。
【0095】
ItBAのLCSTは、粒子官能化プロセスの間に得られた上澄み液からの共重合体の光学的透過率を調査することによって推定された。LCSTは、重合体溶液が温度勾配にさらされるとき、共重合体溶液の光学的透過率が最大値の50%である温度を観察することによって定量された。反応溶液中に生じたフリー(バルク)ItBA共重合体(NIPAAm、AAc及びtBAAmの共重合体)のLCSTは30℃であった。ItBA中の共重合体の組成は、反応溶液中のフリーの化学種の組成に類似していると仮定した。ItBA樹脂上の共重合体のLSCTは約30℃である。
【0096】
4.CM セファロース(Sepharose(登録商標))の製造方法
セファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)(15g)を焼結ガラス漏斗上に採取し、蒸留水で洗浄した(5×湿潤ゲルの体積)。洗浄されたゲルを吸引乾燥し、50mLのファルコンチューブに移した。11MのNaOH(15mL)をファルコンチューブに添加し、28℃において回転輪(Ratek,Australia)を用いて45分間混合した。次いで1.4Mのクロロ酢酸(15mL)をファルコンチューブに添加し、さらに3時間混合した。最後に樹脂を真空濾過によって採取し、濾液のpHが8より小さくなるまで(pH<8)、多量の蒸留水で洗浄した。次に、さらなる使用まで、ゲルを4℃の20%v/vの水性エタノール中に貯蔵した。カルボキシメチル修飾セファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)はCMと称された。
【0097】
5.塩基滴定を使用するItBA及びCMの特性決定
開発された樹脂の酸基濃度を定量するために、0.02MのNaOHで樹脂を滴定し、Metrohm自動滴定装置(Metrohm Titrando 808,Switzerland)を用いてpHを監視した。樹脂に結合した酸基濃度は、凍結乾燥樹脂1gに対する濃度(μmol/g)で報告された。
【0098】
凍結乾燥ゲルのItBA及びCM樹脂上の酸性基の濃度は、それぞれ、154±7μmol/g及び171±4μmol/gであった。
【0099】
6.タンパク質分離における温度応答性アガロース粒子の処理
6.1)平衡吸着等温線
6.1a)ラクトフェリンの吸着等温線
開発された熱応答性カチオン交換樹脂(ItBA)が、低高温域における特異的な保持に有効であることを示すために、ItBAについてのラクトフェリンの平衡吸着等温線を20℃及び50℃において測定した(図1)。対照実験として、ItBAのイオン交換能力と同様なイオン交換能力を有するカルボキシメチルセファロース(Sepharose)(CM)についても平衡吸着等温線を得た。
【0100】
CMについては20℃及び50℃における吸着等温線間に有意差はなかった。20℃及び50℃におけるCMのBmax値はそれぞれ、76±2mg/mL及び78±2mg/mLであった。ItBAについては20℃及び50℃における吸着等温線間に有意差があり、50℃におけるBmax値(24±2mg/mL)は、20℃におけるBmax値(68±2mg/mL)の約3倍高い値を示した(図1)。観察された50℃におけるBmax値は、ItBAを熱応答性イオン交換樹脂として使用できる可能性を示す。
【0101】
6.1b)ラクトペルオキシダーゼの吸着等温線
また、ラクトペルオキシダーゼを使用して、上述の方法によって製造されたItBAに関する吸着等温線を測定した。ラクトペルオキシダーゼ溶液(1mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、20mg/mL、及び40mg/mL)を10mMのリン酸緩衝液(pH6.5)中で調製した。20℃又は50℃において、500μlの一定分量を0.05gの試料と35分間混合した。50℃で保温するため、混合前にタンパク質溶液及び樹脂試料を50℃に予備平衡化した。
【0102】
次に、20℃又は50℃において混合物を10分間沈殿させ、上澄み液を除去した。3分間15,000×gで上澄み液を遠心分離機にかけた。上澄み液中のラクトペルオキシダーゼ濃度は、280nmでの吸光度を測定することによって定量された。次に、最大保持能力Bmax値を吸着等温線から計算した。図2の吸着等温線は3つの実験の平均であり、各実験では、異なるバッチの樹脂を使用した。
【0103】
ItBAに関するラクトペルオキシダーゼの20℃及び50℃における吸着等温線間に有意差が存在することが示される。Bmax値は、それぞれ、11±5.8mg/mL及び37±5.7mg/mLであった(図2)。
【0104】
6.1c)パパインの吸着等温線
また、パパインを使用して、上述の方法によって製造されたItBAに関する吸着等温線を測定した。パパインの吸着等温線をラクトペルオキシダーゼと同様に作成した。ただし、混合前に50℃での予備平衡化を行なわずに、50℃で保温した。次に、最大保持能力Bmax値を吸着等温線から計算した。図3における吸着等温線は3つの実験の平均であり、各実験では、異なるバッチの樹脂を使用した。
【0105】
20℃及び50℃において、パパインのItBA吸着等温線間に差が存在した。20℃及び50℃におけるBmax値は、それぞれ、28.9±4.4及び36.9±4であった(図3)。
【0106】
6.2)さまざまな塩濃度における保持
6.2a)さまざまな塩濃度におけるItBAとCM間の比較検討
塩の存在は樹脂上のタンパク質とイオン交換基との間の静電相互作用を妨げ、それによってイオン交換体のタンパク質の吸着速度及び吸着能力を低下させる(Yamamoto及びその他の者、1988年)。塩の存在は、疎水性相互作用を低減させないことが知られている。ラクトフェリンと樹脂間における相互作用メカニズムについて、より良い理解を得るために、様々な塩濃度における保持の検討を実施した。結果を図4に示す。
【0107】
CMの場合、低温及び高温における保持プロファイル間に有意差は存在しなかった。いずれの温度においても、0.1M以上の高濃度のNaCl溶液は、CMへのラクトフェリンの保持をほぼ完全に妨害した。これは、20℃及び50℃のいずれにおいてもCMとラクトフェリン間にイオン相互作用が存在することを示している。
【0108】
塩濃度が変化させられる際、20℃及び50℃において、ItBAは有意差を有する保持挙動を示した。20℃において、0.1MのNaCl溶液は、ラクトフェリンの保持を、ほぼ完全に妨害した。それは、より低い温度においては、樹脂上へのタンパク質保持のために、イオン相互作用が、第一の原動力であることを示す。しかしながら、樹脂によって保持されるタンパク質量の著しい低下をもたらすために、50℃においては、0.25M以上の濃度のNaClが必要とされる。それは、高温においては、樹脂とタンパク質間に、より強いイオン相互作用が存在することを示している。さらに、50℃、1MのNaClにおいても、なお、樹脂によるタンパク質の保持が存在する。これは、イオン相互作用が第一の原動力であっても、タンパク質の保持に寄与する他の原動力が存在し、タンパク質の疎水性領域と崩壊した疎水性重合体マトリックス間に疎水性相互作用が存在し得ることを示す。
【0109】
6.2b)ItBAによるラクトフェリン保持に関する低塩濃度の影響
ナトリウム濃度の僅かな差が、ラクトフェリンのItBAへの静的保持に与える影響を調べるために、20℃及び50℃において20mM又は約13mMのナトリウム含有ラクトフェリン溶液を樹脂(0.05g)と35分間混合した。次に、20℃又は50℃において混合物を10分間沈殿させ、上澄み液を取り除いた。15,000×gの条件で3分間、上澄み液を遠心分離機にかけた。上澄み液中のラクトフェリン濃度は、280nmにおける吸光度を測定することによって定量された。次に、最大保持能力Bmax値を吸着等温線から算出した。
【0110】
20℃及び50℃のいずれにおいても、ItBAによるラクトフェリンの保持量は、ナトリウム濃度が約13mMの場合が、ナトリウム濃度が20mMの場合よりも大となった(図5)。したがって、ナトリウム濃度がより低くなると、20℃及び50℃の両方において樹脂の最大保持能力が増加した。
【0111】
6.3)ラクトフェリンの動的保持及び溶離
ItBAの最も将来有望な処理の一つは、50℃において標的タンパク質の溶液を接触させ、標的タンパク質を保持し、次に、単に温度を20℃に低下させることによって保持された材料の特定割合を解放させることを含む。
【0112】
樹脂をPEEKカラム(100×4.6mm i.d.)に充填し、20℃及び50℃におけるラクトフェリンの動的保持及び溶離特性を検討した。動的検討のために用いられたシステムは、ウォーターズ(Waters)2525HPLCポンプ、ウォーターズ2767サンプルマネージャ及びウォーターズダイオードアレイ検出器であった。カラム温度は、要求温度に設定された水浴に螺旋金属管(熱交換領域)及びカラムを浸漬することによって維持された。使用された水性移動相は、pH6.5のリン酸緩衝液又は1MのNaCl溶液であった。
【0113】
図6のクロマトグラム及び表1のデータは、ItBA樹脂がラクトフェリンを保持し、次に、温度低下によって保持されたラクトフェリンの大部分を解放する可能性を示す。開発された樹脂の動的保持及び解放の検討の間中、CMについては3つの異なった試験条件のクロマトグラム間に有意差は存在しないことが見出された。(A−20℃において接触及び20℃において溶離;B−50℃において接触及び20℃において溶離;C−50℃において接触及び50℃において溶離)。CM上へのタンパク質の保持及び解放に関する温度の影響は、有意でなかった。しかしながら、ItBAについては、3つの異なった条件でのクロマトグラムには際立った差が存在した。樹脂の保持能力は、接触温度が20℃から50℃に上昇させられた際に、かなり改善された。タンパク質が50℃で接触されたとき、保持されたタンパク質のほぼ50%がカラム温度を20℃に低下させることによって溶離され得る。解放が50℃において行なわれた際、保持されたタンパク質の大部分を解放するために、より高濃度のNaClが必要とされ、50℃では、樹脂と分析物との間により強い相互作用が存在することが示唆される。
【0114】
【表1】

【0115】
7.温度応答性アガロース粒子の代替調合物
また、N−ビニルカプロラクタムは、N−イソプロピルアクリルアミド重合体と同様にLCST値を有する温度応答性重合体を製造するために使用されるモノマーである。それは、温度応答性イオン交換樹脂を製造するために使用してもさしつかえないN−イソプロピルアクリルアミンのより安価な代替物である。N−フェニルアクリルアミドは、tert−ブチルアクリルアミド及びブチルメタクリレートのコモノマーと比べて、より疎水性のモノマーである。また、N−フェニルアクリルアミドは、改良された温度感受性及び保持能力を有する温度応答性イオン交換樹脂を製造するためのコモノマーとして使用されてもよい。
【0116】
【化1】

【0117】
N−ビニルカプロラクタムを温度応答性モノマーとして使用することによって、経済的な方法で温度応答性イオン交換樹脂を製造する可能性が調査された。また、改良された温度感受性及び保持能力を有する温度応答性イオン交換樹脂を製造するためのコモノマーとして、N−フェニルアクリルアミドを使用することが調査された。ItBAは、上述のように製造した。しかしながら、製造工程で、NIPAAmをN−ビニルカプロラクタムと取り替えてSepharose(登録商標)をベースとしたN−ビニルカプロラクタム、N−tert−ブチルアクリルアミド及びアクリル酸の共重合体(CtBA)を製造した。第2の製造工程で、tBAAmを調合物から取り除き、より親水性の(hydrophlic)モノマーであるNIPAAmと取り替えてセファロース(Sepharose(登録商標))をベースとしたN−イソプロピルアクリルアミド及びアクリル酸の共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−acrylic acid)」(IA)を製造した。第3の製造工程で、tBAAmをより疎水性のモノマーであるN−フェニルアクリルアミドと取り替えてセファロース(Sepharose(登録商標))ベースのN−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド及びアクリル酸の共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−N−phenylacrylamide−co−acrylic acid)」(IPhA)を製造した。ラクトフェリンの保持プロファイルに対する重合体の組成変化による影響が、静的保持方法論を用いて検討された。4℃〜50℃の温度において、樹脂(0.1g)をラクトフェリン溶液(5mg/mLの1mL)と1時間混合した。樹脂を沈殿させ、保持されていないタンパク質の量を定量するため、280nmで上澄み液の吸光度を測定し、次に、それにより樹脂によって保持されたタンパク質の量を定量した。結果を図7に示す。
【0118】
CtBAは、全ての試験温度において利用可能なラクトフェリンの95%を超えて保持された。4℃において、全ての3つの他の樹脂(IA、ItBA及びIPhA)は利用可能なラクトフェリンの20%未満を保持した。50℃において、同じ3つの樹脂は利用可能なラクトフェリンの80%以上を保持した。これらの温度応答性樹脂のなかで、IAは全ての温度においてラクトフェリンの最小量を保持したのに対して、IphAは全ての温度においてラクトフェリンの最大量を保持した。さらに、IphAは、最も低い温度(40℃)において最大保持状態に達した。これらの結果が示すように、(a)ラクトフェリンのCtBAによる保持は調査された条件において温度応答性を有さなかったが、(b)N−フェニルアクリルアミドを使用してセファロース(Sepharose(登録商標))をベースとした温度応答性イオン交換樹脂を製造することができ、(c)温度応答性イオン交換樹脂の保持及び解放温度は、異なったモノマー(NIPAAm又はN−フェニルアクリルアミド)を重合体構造に導入することによって変更されうる。
【0119】
7a.)N−イソプロピルアクリルアミド、N−フェニルアクリルアミド及びアクリル酸の共重合体「poly(N−isopropylacrylamide−co−N−phenylacrylamide−co−acrylic acid)」(IPhA)修飾セファロース(Sepharose(登録商標))
ItBAの合成と同様な方法を用いて新規な樹脂を合成した。しかしながら、モノマーのタイプ及び濃度を変化させた。簡単に言えば、セファロース6FF(Sepharose(登録商標) 6FF)は、上に略説されたようにエピクロロヒドリンで活性化された。次に、ここに記載された方法によってアンモニア水を用いてエポキシ活性化セファロース(Sepharose(登録商標))をアミノ官能化した。カップリング剤としてEEDQ及び溶媒としてDMFを用いて、フリーラジカル重合開始剤(ACV)をアミノ官能化セファロース(Sepharose(登録商標))上に固定した。最後に、以下の表にあるモノマーに加えて架橋剤N,N−メチレンビスアクリルアミド(MBBA)との重合を不活性雰囲気下において80℃で16時間実施した。
【0120】
調製されたさまざまなモノマー組成物を以下の表に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
20℃及び50℃におけるI5Aに関するラクトフェリンの吸着等温線(図8)並びに4℃及び50℃におけるIPh5A及びIPh10Aに関する吸着等温線(図9及び10)を得た。吸着等温線を得るため以下の方法を用いた。ラクトフェリン溶液(1mg/mL、5mg/mL、10mg/mL、20mg/mL、及び40mg/mL)を10mMのリン酸緩衝液(pH6.5)中で調製し、所望温度で1mLの一定分量を0.1gの樹脂試料と35分間混合した。保持されたラクトフェリンを物質収支から計算した。次に、最大保持能力Bmax値を吸着等温線から計算した。
【0123】
I5Aについて吸着等温線に有意差が存在し、20℃におけるBmax値(Bmax=43mg/mL)及び50℃におけるBmax値(Bmax=90mg/mL)に有意差が存在した。これは図8に示される。
【0124】
IPh5Aについて吸着等温線に有意差が存在し、4℃におけるBmax値(Bmax=14mg/mL)及び50℃におけるBmax値(Bmax=83mg/mL)に有意差が存在した(図9)。また、これはIPh10Aの場合についても当てはまり、そこでは吸着等温線に有意差が存在し、4℃におけるBmax値(Bmax=84mg/mL)及び50℃におけるBmax値(Bmax=133mg/mL)に有意差が存在した(図10)。
【0125】
フィード中のアクリル酸含有量を増加させることによって樹脂の保持能力が低温域及び高温域のいずれにおいても増加した。しかしながら、フィード中のアクリル酸含有量と、このように、樹脂に結合した共重合体中のアクリル酸含有量が増加するにつれて温度感受性(高低温間における保持及びBmax値の差)が減少した。
【0126】
8.本発明の代替重合体粒子
ItBAを開発するために使用された方法は、トヨパール(Toyopearl)(登録商標)をベースとした温度応答性イオン交換樹脂(Toyopearl(登録商標)−ItBA)の開発に使用されている。ACVをトヨパールAF−アミノ−650M(Toyopearl(登録商標)AF−アミノ−650M)上に固定し、ItBAに使用された技術と同じ技術を用いて重合体が開発された(上記参照)。20℃及び50℃において実施例6.1に使用された静的保持方法論を用いてトヨパール−ItBA(Toyopearl(登録商標)−ItBA)の温度応答性を検査した。ItBAと同じように、トヨパール−ItBA(Toyopearl(登録商標)−ItBA)は、20℃の場合と比べて50℃の場合において250%多いタンパク質を保持した(図11)。これらの結果は、開発されたトヨパール(Toyopearl)(登録商標)をベースとした温度応答性イオン交換樹脂がセファロース(Sepharose)(登録商標)をベースとした温度応答性イオン交換樹脂と同様に機能することを示す。
【0127】
9.ItBAの分別能力
典型的な牛乳乳清タンパク質溶液(α−ラクトアルブミン(13mg/mL)、β−ラクトグロブリン(15mg/mL)及びラクトフェリン(27mg/mL)の混合物)を用いてItBAの分離能力を検討した。検討のために使用した方法は、実施例6.3に使用した方法と同様であった。図12及び13のクロマトグラムは、典型的なタンパク質溶液の保持及び溶離プロファイルを示す。典型的なタンパク質溶液が20℃のカラム上に注入されたとき、タンパク質の大部分は保持されず、通過画分としてカラムから溶離された。しかしながら、典型的なタンパク質溶液が50℃のカラム上に注入されたとき、ラクトフェリンの50%が樹脂によって保持されたのに対し、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンは全く保持されなかった。その代わりとして、α−ラクトアルブミン及びβ−ラクトグロブリンは通過画分としてカラムから溶離された。保持されたラクトフェリンの大部分(52%)は移動相及びカラム温度を50℃から20℃に低下させることによって溶離された。残存する保持されたラクトフェリンの大部分(44%)は、20℃において0.1MのNaClと共にカラムから溶離された(表3及び4を参照のこと)。これらの結果は、ItBAが20℃では最少量のカチオン性タンパク質及びアニオン性タンパク質を保持し、50℃では選択的にカチオン性タンパク質(例えば、ラクトフェリン)を保持し、次に、温度変化(例えば、20℃に低下させる)及び塩によって保持されたカチオン性タンパク質の大部分を解放する能力を有することを示す。
【0128】
【表3】

【0129】
【表4】

【0130】
10.チトクロームCの保持
20℃及び50℃におけるItBAによる他の基礎的なタンパク質の保持プロファイルを調べるために、チトクロームC(pI:10−10.5)を用いて静的保持実験を行なった。20℃及び50℃で、ItBA(0.1g)を1時間チトクロームC溶液(5mg/mLの1mL)と混合した。樹脂を沈殿させ、保持されないタンパク質量を定量するために、280nmにおける上澄み液の吸光度を測定し、そして次に、それにより樹脂によって保持されたタンパク質の量が得られた。ItBAは、20℃と比較して50℃では50%多いチトクロームCを保持することが見出された(図14)。
【0131】
11.ItBAのタンパク質保持及び溶離の検討
純粋なラクトフェリン溶液(0.9〜45mg/mL)、新鮮な乳清溶液及び濃縮乳清溶液を用いて、ItBAの動的ラクトフェリンの保持特性をさらに検討した。
新鮮な乳清溶液は、乳清タンパク質とラクトフェリン(0.2〜21.8mg/mL)とを含有する。濃縮乳清溶液は、濃縮乳清タンパク質(約10倍の濃縮物)とラクトフェリン(0.6〜22.2mg/mL)とを含有する。使用した方法は実施例6.3において使用した方法と同様であるが、しかしながら、接触は50℃でのみ実施し、溶離は0.1MのNaClと共に20℃でのみ実施した。
【0132】
図15のクロマトグラムは、検討されたタンパク質溶液の保持及び溶離プロファイルを示す。他のタンパク質が存在しない場合、新鮮な乳清の場合又は濃縮乳清の場合に、ラクトフェリンがItBAによって保持され、ItBAによって解放され得ることはこれらのクロマトグラムから明白である。他のタンパク質が存在しない条件で、0.9〜45mgのラクトフェリンをカラム上に注入した際、注入されたラクトフェリンの95%超が保持された(図16)。保持されたラクトフェリンのパーセンテージは安定状態にならなかったが、それは樹脂が最大保持能力に達しなかったことを示す(図16)。(それらの標準濃度の)乳清タンパク質の存在下で0.2〜21.8mgのラクトフェリンをカラム上に注入した際、注入されたラクトフェリンの70%超が保持された(図17)。フィードにおけるラクトフェリン量と保持されたラクトフェリン量との間は、まさしく直線関係が存在し、このこともまた、樹脂が最大保持能力に達しなかったことを示す(図17)。濃縮乳清タンパク質(約10倍に濃縮された)の存在下で0.6〜22.2mgのラクトフェリンをカラム上に注入した際、注入されたラクトフェリンの約50%が保持された(図18)。また、濃縮乳清を使用した際、フィードにおけるラクトフェリン量と保持されたラクトフェリン量との間に直線関係が観察された(図18)。
【0133】
これらの結果は、ItBAが、ラクトフェリン単独、乳清タンパク質の存在下でラクトフェリンを保持することを示し、ItBAが乳清の標準濃度及び約10倍濃縮濃度でラクトフェリンを保持することを示す。
【0134】
最後に、本明細書に記載された本発明の方法及び組成物のさまざまな改良及び変型が本発明の範囲及び精神から逸脱せずに可能であることは当業者には明らかであることは理解されよう。本発明は具体的な好ましい実施形態と共に説明されたが、本発明の権利範囲は、このような具体的な実施形態に不当に限定されるべきでないことは理解されるはずである。確かに、当業者には明らかである本発明を実施するために説明された方法のさまざまな改良は本発明の範囲内であることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0135】
温度応答性材料を、クロマトグラフィーのカラム充填材として用いているので、標的生体分子の溶離が温度調節などの緩やかな物理変化によって誘発される。本発明は、特に農業食品、製薬、化学物質及び水及び他の複合飼料から有用な成分を単離するに際し、効率が良く、環境に優しく、費用対効果に優れた方法を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質含有溶液からタンパク質を単離する方法であって、以下の工程を含むタンパク質単離方法。
(a)タンパク質含有溶液を、温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子に接触させる工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を含み、前記接触が、30℃〜80℃の温度範囲内で行なわれ、架橋重合体粒子によってタンパク質の保持を促進させる工程、
(b)タンパク質含有溶液を、洗浄溶液で置換する工程、
(c)洗浄溶液を、架橋重合体粒子からタンパク質を溶離させるのに有効な溶離溶液で置換する工程、
(d)タンパク質を含有する溶離溶液を単離する工程。
【請求項2】
溶離溶液の温度が、タンパク質含有溶液を架橋重合体粒子と接触させた温度より低い、請求項1に記載のタンパク質単離方法。
【請求項3】
タンパク質溶液及び洗浄溶液の温度が30℃〜60℃である請求項1又は2に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項4】
タンパク質溶液及び洗浄溶液の温度が40℃〜60℃である請求項1〜3のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項5】
溶離溶液の温度が0℃〜30℃である請求項1〜4のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項6】
溶離溶液の温度が0℃〜20℃である請求項1〜5のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項7】
溶離溶液がイオン性溶質を含有する請求項1〜6のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項8】
イオン性溶質がアルカリ金属ハロゲン化物又はアルカリ土類金属ハロゲン化物である請求項7に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項9】
イオン性溶質が塩化ナトリウムである請求項7又は8に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項10】
温度応答性共重合体が、下記を含有する請求項1〜9のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
(a)共重合体に温度応答性を付与するモノマー単位
(b)共重合体にイオン化可能な化学基を付与するモノマー単位
【請求項11】
共重合体に温度応答性を付与する前記モノマー単位が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、ビニルメチルエーテル単位またはN−ビニルカプロラクタム単位からなる群から選択される請求項1〜10のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項12】
温度応答性を付与する前記モノマー単位が、N−イソプロピルアクリルアミド単位である請求項1〜11のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項13】
イオン化可能な化学基を付与する前記モノマー単位が、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、エタクリル酸単位、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート単位、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート単位、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド単位、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート単位、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド単位からなる群から選択される請求項1〜12のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項14】
イオン化可能な化学基を付与する前記モノマー単位が、アクリル酸単位である請求項1〜13のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項15】
温度応答性共重合体が、少なくとも1の二官能性モノマー単位をさらに含有する請求項1〜14のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項16】
二官能性モノマー単位が、エチレングリコールジメタクリレート単位、1,4−ブタンジオールジメタクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート単位、エチレングリコールジアクリレート単位、1,4−ブタンジオールジアクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート単位、及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位からなる群から選択される請求項15に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項17】
温度応答性共重合体が、少なくとも1の付加的なモノマー単位をさらに含有する請求項1〜16のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項18】
付加的なモノマー単位が、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位からなる群から選択される請求項17に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項19】
付加的なモノマー単位が、N−tert−ブチルアクリルアミド単位である請求項17または18に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項20】
温度応答性共重合体が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比が、N−イソプロピルアクリルアミド単位:tert−ブチルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)となるように、N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位を含有する請求項18に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項21】
温度応答性共重合体が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比が、N−イソプロピルアクリルアミド単位:N−フェニルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)となるように、N−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位を含有する請求項18に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項22】
架橋重合体粒子が、架橋アガロース粒子、架橋セルロース粒子、親水性架橋ビニル重合体粒子、及びメタクリレートをベースとした重合体樹脂粒子からなる群から選択される請求項1〜21のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項23】
架橋重合体粒子が、Sepharose(登録商標)、Sephacel(登録商標)、Toyopearl(登録商標)、及びFractogel(登録商標)からなる群から選択される請求項1〜22のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項24】
工程(a)〜(c)が、入口と出口とを有するクロマトグラフィー用カラム内で行なわれる請求項1〜23のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項25】
温度応答性共重合体で官能化された架橋重合体粒子が、入口と出口との間の通路内に充填される請求項24に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項26】
タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液が、入口を通して連続的に注入され、出口から採取される請求項24または25に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項27】
溶離溶液が、不連続に一定容積で採取される請求項24〜26のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項28】
一定容積毎のタンパク質濃度が、定量される請求項27に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項29】
溶離溶液中のタンパク質濃度が、連続的に測定される請求項24〜28のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項30】
タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液が、ポンプによって入口に導入される請求項24〜29のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項31】
タンパク質含有溶液、洗浄溶液及び溶離溶液が、重力送りによって入口に導入される請求項23〜30のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項32】
タンパク質が、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ、パパイン及びチトクロームCからなる群から選択される請求項1〜31のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項33】
タンパク質が、ラクトフェリンである請求項1〜32のいずれか一項に記載のタンパク質の単離方法。
【請求項34】
温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子であって、前記温度応答性共重合体が、特定割合のイオン化可能な化学基を含む架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項35】
温度応答性共重合体が、下記を含有する請求項34に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
(a)共重合体に温度応答性を付与するモノマー単位
(b)共重合体にイオン化可能な化学基を付与するモノマー単位
【請求項36】
温度応答性を共重合体に付与するモノマー単位が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、ビニルメチルエーテル単位またはN−ビニルカプロラクタム単位からなる群から選択される請求項35に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項37】
温度応答性を付与するモノマー単位が、N−イソプロピルアクリルアミド単位である請求項35または36に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項38】
イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位が、アクリル酸単位、メタクリル酸単位、エタクリル酸単位、ナトリウム2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホネート単位、ナトリウム3−アクリルアミド−3−メチルブタノエート単位、(3−アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド単位、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート単位、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート単位、及び4−ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロリド単位からなる群から選択される請求項35〜37のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項39】
イオン化可能な化学基を付与するモノマー単位が、アクリル酸単位である請求項35〜38のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項40】
温度応答性共重合体が、少なくとも1の二官能性モノマー単位をさらに含有する請求項35〜38のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項41】
二官能性モノマー単位が、エチレングリコールジメタクリレート単位、1,4−ブタンジオールジメタクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート単位、エチレングリコールジアクリレート単位、1,4−ブタンジオールジアクリレート単位、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート単位、及びN,N−メチレンビスアクリルアミド単位からなる群から選択される請求項41に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項42】
二官能性モノマー単位が、N,N−メチレンビスアクリルアミド単位である請求項40または41に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項43】
温度応答性共重合体が、少なくとも1の付加的なモノマー単位をさらに含有する請求項34〜42のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項44】
付加的なモノマー単位が、メチルアクリレート単位、エチルアクリレート単位、プロピルアクリレート単位、ブチルアクリレート単位、メチルメタクリレート単位、エチルメタクリレート単位、プロピルメタクリレート単位、N−イソプロピルメタクリアミド単位、ブチルメタクリレート単位、N−tert−ブチルアクリルアミド単位、N,N−ジメチルアクリルアミド単位、N,N−ジエチルアクリルアミド単位、及びN−フェニルアクリルアミド単位からなる群から選択される請求項43に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項45】
付加的なモノマー単位が、N−tert−ブチルアクリルアミド単位である請求項43または44に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項46】
温度応答性共重合体が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比が、N−イソプロピルアクリルアミド単位:tert−ブチルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)となるように、N−イソプロピルアクリルアミド単位、tert−ブチルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位を含有する請求項44に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項47】
温度応答性共重合体が、N−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位の比が、N−イソプロピルアクリルアミド単位:N−フェニルアクリルアミド単位:アクリル酸単位=(84〜96):(8〜2):(8〜2)となるようにN−イソプロピルアクリルアミド単位、N−フェニルアクリルアミド単位及びアクリル酸単位を含有する請求項44に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項48】
架橋ヒドロキシル重合体が、架橋アガロース、架橋セルロース、ヒドロキシ官能性架橋ビニル重合体、ヒドロキシ官能性架橋アクリル重合体及びヒドロキシ官能性架橋メタクリル重合体からなる群から選択される請求項34〜47のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。
【請求項49】
請求項34〜48のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子を製造する方法であって、以下の工程を含む架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
(a)架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(b)架橋ヒドロキシル重合体粒子を化学修飾して、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程、
(c)架橋ヒドロキシル重合体粒子を、モノマー溶液に接触させる工程であって、架橋ヒドロキシル重合体粒子は、重合開始可能な官能基を有し、モノマー溶液は、共重合体に温度応答性を付与可能な少なくとも1のモノマーと共重合体にイオン化可能な化学基を付与可能な少なくとも1のモノマーを含有し、前記接触によりモノマーの重合が開始される工程、
(d)温度応答性共重合体で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を単離する工程であって、温度応答性共重合体は、特定割合のイオン化可能な化学基を有する工程。
【請求項50】
架橋ヒドロキシル重合体粒子を化学修飾して、重合開始可能な官能基を有する架橋ヒドロキシル重合体粒子を供給する工程が、下記工程を含む請求項49に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
(a)架橋ヒドロキシル重合体粒子を少なくとも1のエポキシド基で官能化する工程、
(b)エポキシド基をアンモニアと反応させて、アミン基で官能化された架橋ヒドロキシル重合体粒子を提供する工程、
(c)アミン基を少なくとも1のカルボン酸基を有する重合開始剤と反応させる工程。
【請求項51】
架橋ヒドロキシル重合体粒子を少なくとも1のエポキシド基で官能化する工程が、ヒドロキシル重合体粒子をエピクロロヒドリンと水酸化ナトリウム及び水素化ホウ素ナトリウムの存在下で反応させる工程を包含する請求項50に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
【請求項52】
カルボン酸基を有する重合開始剤とアミン基を反応させる工程が、縮合剤の存在下で行なわれる請求項50または51に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
【請求項53】
縮合剤が、1−(エトキシカルボニル)−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリンである請求項52に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
【請求項54】
少なくとも1のカルボン酸基を有する重合開始剤が、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)である請求項50〜53のいずれか一項に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子の製造方法。
【請求項55】
実質的に明細書に記載されたものである請求項1、24又は49に記載の製造方法。
【請求項56】
実質的に明細書に記載されたものである請求項34に記載の架橋ヒドロキシル重合体粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公表番号】特表2012−502924(P2012−502924A)
【公表日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−527158(P2011−527158)
【出願日】平成21年9月22日(2009.9.22)
【国際出願番号】PCT/AU2009/001253
【国際公開番号】WO2010/031144
【国際公開日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(305039998)コモンウェルス サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ オーガニゼイション (92)
【出願人】(511071511)モナッシュ ユニバーシティ (2)
【氏名又は名称原語表記】MONASH UNIVERSITY
【Fターム(参考)】