タンパク質
【課題】新規キシラナーゼの生地への使用法を提供する。
【解決手段】(a)小麦粉におけるキシラナーゼ阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼを選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼの適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ、及び/又は適量のキシラナーゼを小麦粉に添加する方法。パン製品の製造過程で、適正量のキシラナーゼを使用することにより、生地系(通常、塩、小麦粉、酵母、及び水からなる)がより安定することが知られており、例えばパン嵩が増したふっくらとしたパンを製造することができる。
【解決手段】(a)小麦粉におけるキシラナーゼ阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼを選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼの適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ、及び/又は適量のキシラナーゼを小麦粉に添加する方法。パン製品の製造過程で、適正量のキシラナーゼを使用することにより、生地系(通常、塩、小麦粉、酵母、及び水からなる)がより安定することが知られており、例えばパン嵩が増したふっくらとしたパンを製造することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質に関する。特に本発明は、小麦粉に含まれる内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の単離に関し、また該阻害剤が種々のキシラナーゼに及ぼす効果を特徴化することに関する。本発明はさらに、該阻害剤を用いたスクリーニングにより同定されたキシラナーゼ、及びかかるスクリーニングにより同定された新規のキシラナーゼに関する。
【0002】
[従来の技術]
キシラナーゼは、ここ数年製パンに使用されてきた。このことに関しては、小麦粉には内胚乳細胞壁由来のアラビノキシランが含まれていることが知られている。小麦粉に含まれるアラビノキシランの量は小麦粉の種類によって異なり、Rouau et al, Journal of Cereal Science, (1994), 19, 259-272, Effect of an Enzyme Preparation Containing Pentosanases on the Bread-making Quality of Flour in Relation to Changes in Pentosan Properties、Fincher and Stone, (1986) Advances in Cereal Technology, Vol. VIII (Why Pomeranz, Ed.) AACC, St.Paul, Minnesota, 207-295、及びMeuser and Suckow (1986), Chemistry and Physics of Baking (J.M.V. Blanchard, P J Frasier and T Gillard, Eds.) Royal Society of Chemistry, London, 42-61が、文献例として挙げられる。一般的にアラビノキシラン量は、2〜5%(小麦粉乾燥量に基づく(w/w))である。
【0003】
Fincher and Stone(1986)は、内胚乳細胞壁における多糖類の70%はアラビノキシランであると報告している。アラビノキシランの特徴は、水への結合力である。アラビノキシランの一部分は不溶性ペントサン(WIP)であり、また一部分は水溶性ペントサン(WSP)である。WIPの高分子量(HMW)水溶性重合体への分解と、パン嵩との間に相関関係があることが実験結果から明らかにされている。
【0004】
パン製品の製造過程で、適正量のキシラナーゼを使用することにより、生地系(通常、塩、小麦粉、酵母、及び水からなる)がより安定することが知られており、例えばパン嵩が増したふっくらとしたパンを製造することができる。
この点に関し、パン嵩を増すために良好なキシラナーゼとは、WIPを可溶化し、WSPをキシロースオリゴマーまで分解することなく生地液の粘度を増加させるものをいう。WIPが低分子量(LMW)WSPに分解されると、生地が損なわれ、粘度増加につながると考えられている(Rouau et al and McCleary (1986) International Journal of Biological Macro Molecules, 8, 349-354)。
【0005】
米国特許5306633号明細書には、Bacillus subtilis株から得たキシラナーゼが開示されている。かかるキシラナーゼは、該キシラナーゼを含むパン及び焼き製品のコンシステンシーを改良し、嵩の増量に寄与すると考えられている。
Bacillus subtilisからはこの他にもキシラナーゼが単離され、配列決定がなされている(Paice, M.G., Bourbonnais, R., Desrochers, M., Jurasek, L. and Yaguchi, M. A xylanasse gene from Bacillus subtilis: nucleotide sequence and comparison with B. pumilus gene, Arch. Microbiol. 144, 201-206 (1986)を参照のこと)。
細菌性キシラナーゼを使用すると、非常に粘度の高い生地になると考えられてきた。そのため、Bacillus subtilis由来のキシラナーゼ(例えば米国特許5306633号明細書に開示された)を用いると非常に粘度の高い生地になると考えられていた。
【0006】
粘度増加の原因となる先行技術における酵素は、粘度が逆に効率的大量生産上の取扱いを困難にさせることがないように、その使用量を注意深く調整する必要がある。しかし使用量を注意深く調整しなければならないということは、生地製造の前にキシラナーゼを直接小麦粉に加えることができないことを意味する。従って、先行技術によるシステムでは、生地製造過程において極めて注意深くキシラナーゼを加えなければならなかった。
【0007】
真菌性キシラナーゼは、今日に至るまでベーキングに一般的に用いられてきた。例えばJ Maat et al.(Xylans and xylanases, J Visser et al著, 349-360, Xylanases and their application in bakery)は、Aspergillus niger var. awarmori株から産生されるβ−1,4−キシラナーゼについて教示している。J Maat et al.らによると、かかる真菌性キシラナーゼは、明らかにパン嵩増量に効果的であり、他の種類の真菌、又は細菌由来のキシラナーゼを用いるときにみられるような生地取扱い上の不利益(生地の粘度)を生じることなく、パン嵩を増量できると述べている。
【0008】
W Debyser et al.,(J. Am. Soc. Brew. Chem. 55(4), 153-156, 1997, Arabinoxylan Solubilization and Inhibition of the Barely Malt Xylanolytic System by Wheat During Mashing with Wheat Wholemeal Adjunt: Evidence for a New Class of Enzyme Inhibitors in Wheat)は、キシラナーゼ阻害剤が小麦粉に含まれている可能性について言及している。W Debyser et al.が論じている該阻害剤は単離されていない。さらにW Debyser et al.は、該阻害剤が内因性であるか又は微生物由来であるかについても言及していない上に、かかる阻害剤に関する化学的データも全く提示していない。
【0009】
キシラナーゼ阻害剤の小麦粉における存在については近年X Rouau and A Surget, (Journal of Cereal Science, 28 (1998) 63-70, Evidence for the Presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flours)も論じている。Debyser et al.,と同様に、Rouau and Surgetも、小麦粉の水溶性画分における、添加ペントサナーゼ活性を抑制する熱不安定性成分の存在を同定したと考察しているが、Debyser et al.,と同様に、阻害剤を単離しておらず、該阻害剤が内因性であるかあるいは細菌由来であるかについての結論を導き得なかった。かかる阻害剤に関する化学的データを提示していない点についてもDebyser et al.,と同様である。
【0010】
【非特許文献1】Rouau et al, Journal of Cereal Science, (1994), 19, 259-272, Effect of an Enzyme Preparation Containing Pentosanases on the Bread-making Quality of Flour in Relation to Changes in Pentosan Properties
【非特許文献2】Fincher and Stone, (1986) Advances in Cereal Technology, Vol. VIII (Why Pomeranz, Ed.) AACC, St.Paul, Minnesota, 207-295
【非特許文献3】Meuser and Suckow (1986), Chemistry and Physics of Baking (J.M.V. Blanchard, P J Frasier and T Gillard, Eds.) Royal Society of Chemistry, London, 42-61
【非特許文献4】Rouau et al and McCleary (1986) International Journal of Biological Macro Molecules, 8, 349-354
【非特許文献5】Paice, M.G., Bourbonnais, R., Desrochers, M., Jurasek, L. and Yaguchi, M. A xylanasse gene from Bacillus subtilis: nucleotide sequence and comparison with B. pumilus gene, Arch. Microbiol. 144, 201-206 (1986)
【非特許文献6】J Maat et al.(Xylans and xylanases, J Visser et al著, 349-360, Xylanases and their application in bakery)
【非特許文献7】W Debyser et al., J. Am. Soc. Brew. Chem. 55(4), 153-156, 1997, Arabinoxylan Solubilization and Inhibition of the Barely Malt Xylanolytic System by Wheat During Mashing with Wheat Wholemeal Adjunt: Evidence for a New Class of Enzyme Inhibitors in Wheat
【非特許文献8】X Rouau and A Surget, Journal of Cereal Science, 28 (1998) 63-70, Evidence for the Presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flours
【特許文献1】米国特許5306633号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、当該技術が抱える課題は、取扱い上の不利な性質を有さない生地からの焼き製品の生産方法に関するものであり、より詳細には、低粘度の生地(取扱い及び製造過程において問題となるほど粘度が高くない生地)をいかに提供するかということにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決する目的でなされたものであり、本発明の内容は請求項及び以下の記述に示される。簡潔に述べると本発明は、
1.内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤、該阻害剤をコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びにそれらの変異体、相同物又は断片
2.β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が、種々のキシラナーゼにもたらす効果を測定するアッセイ方法
3.種々のキシラナーゼが、生地にもたらす効果を測定するアッセイ方法
4.グルカナーゼ(類)が、種々のキシラナーゼ含有生地にもたらす効果を測定するアッセイ方法
5.新規のキシラナーゼ類、該新規キシラナーゼ類をコードするヌクレオチド及びアミノ酸配列、並びにそれらの変異体、相同物又は断片
6.キシラナーゼの新規な使用法
7.種々のキシラナーゼを用いて生産した食品に関するものである。
【0013】
[発明の詳細な説明]
本発明のアミノ酸配列及び/又は本発明のヌクレオチド配列には、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る構築物、本発明の配列を含むか若しくは発現し得るベクター、本発明の配列を含むか若しくは発現し得るプラスミド、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る組織、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る器官、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る形質転換宿主、及び本発明の配列を含むか若しくは発現し得る形質転換生物が含まれる。本発明はまた、本発明のアミノ酸配列及び/又は本発明のヌクレオチド配列を発現させる方法、例えば、上記配列を転移させる方法を含め、微生物において発現させる方法に関する。
【0014】
本発明はWO−A−98/49278の教示とは異なる。なぜならかかるPCT特許出願においては、開示しているタンパク性阻害剤の配列に関する情報が最小限のものでしかないからである。
本発明の詳細について、以下に適当な見出しをつけて説明する。便宜上本発明に関し、一般的に応用可能な教示については、「一般的定義」及び「一般的教示」としたセクションにおいて述べたが、各セクションにおける教示は必ずしもそのセクションの内容に限定されるものではない。
【0015】
(一般的定義)
ここで使用する「小麦粉」なる用語は、小麦を細かくひいた粗挽き粉と同義語である。しかし好ましくは、該用語は、小麦自体から得た小麦粉を意味し、他種の穀類から得たものを意味しない。よって、特に限定しないときには、ここで使う「小麦粉」とは、生地等の媒体中に含まれる小麦粉同様、小麦粉自体を意味することが好ましい。
「キシラナーゼ」なる用語は、その通常の意味で使われる。すなわち、小麦に含まれると考えられるアラビノキシランの脱重合をそれ自体で触媒し得る酵素(すなわち、該酵素自体がWIPの可溶化の触媒能を有し、小麦に含まれるWSPの脱重合の触媒能を有する酵素)のことである。
エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性を測定するアッセイに関しては後述する。便宜上かかるアッセイを「キシラナーゼアッセイ」と呼ぶ。
【0016】
本発明において、「ヌクレオチド配列」なる用語は、ゲノムDNA、cDNA、組換えDNA(すなわち、組換えDNA技術により調製したDNA)、合成DNA、及びRNA、さらにこれらの組み合わせを含む。
好ましくは「ヌクレオチド配列」なる用語はDNAを意味する。
本発明のヌクレオチド配列は、一本鎖又は二本鎖のどちらでもよい。
本発明のヌクレオチド配列には、合成又は修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。当該技術分野において、オリゴヌクレオチドに対する修飾方法は、数多く知られている。かかる修飾方法には、分子の3'及び/又は5'側においてアクリジン又はポリリジン鎖を付加するメチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)をバックボーンとするものが含まれる。本発明の目的に鑑みて、本発明におけるヌクレオチド配列は当該技術分野のいかなる手法によって修飾してもよいと理解すべきである。本発明のヌクレオチド配列のインビボでの活性増強又は長期生存をはかるために、このような修飾が行われるのである。
【0017】
本発明のヌクレオチド配列及び本発明のアミノ酸配列について、「変異体」又は「相同物」なる用語は、それら配列の対立変異と同義語である。
特に、ここで使われる「相同性(homology)」とは「同一性(identity)」と同じ意味と解釈してよい。ここにいう本発明のヌクレオチド配列及び本発明のアミノ酸配列における配列の相同性は、1又は2以上の配列を別の配列と比較して、その別の配列が、元の配列と少なくとも75%一致しているかどうかをみるという、単に「目測(eyeball)」による比較(厳密な比較のこと)を行うことによって決定できる。相対的な配列の相同性(すなわち配列の同一性)は、2又は3以上の配列間における相同性割合(%)を計算する市販のコンピュータープログラムを用いて決定することも可能である。かかるコンピュータープログラムの主な例としてCLUSTALが挙げられる。
【0018】
相同性は、目視により比較可能である。しかし、容易に入手できる配列比較プログラムによる比較が、より一般的である。かかる市販のコンピュータープログラムにより、2又は3以上の配列間における相同割合が計算できる。
近接した配列間の相同割合を計算することもできる。すなわち、ある配列が別の配列と一直線上に並び、そのある配列における各アミノ酸と、もう一方の配列においてそれぞれ対応しているアミノ酸とを一残基毎に直接比較することもできる。これを「アンギャップ」アラインメント(alignment)と呼ばれ、このようなアンギャップアラインメントは、残基数が比較的少ない場合に行われる(例えば50個未満の近接したアミノ酸)。
【0019】
かかる方法は、極めて簡便かつ堅実な方法ではあるが、例えば、本来は互いに同一な配列であっても、挿入又は欠失が1個でも生じれば、以下に続くアミノ酸残基がアラインメントからはみ出すことになり、従ってこの方法をアラインメント全体に行うときには相同割合が大きく低下する可能性があることを考慮する必要がある。そのため殆どの配列比較法は、全体としての相同割合を過度に損なわない程度の挿入及び欠失を考慮した最適アラインメントを作出するようにデザインされている。このことは、局所的相同性を最大化するために、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することにより達成できる。
【0020】
しかしながら、上述のより複雑な方法では、アラインメントに生じるギャップの各々に「ギャップペナルティー」を割り当てており、そのため同一アミノ酸の数が同じ場合には、できるだけギャップが少ない配列アラインメントの方が(比較する二配列間の高い相関性を反映して)、ギャップが多い配列アラインメントよりも高いスコアが得られる。ギャップの存在には比較的高コストを課し、該ギャップにおいて次に現れる各残基には少ないペナルティーを課す「アフィンギャップコスト」が一般的に用いられている。これは、最もよく使用されるギャップ評価システムである。ギャップの高ペナルティーにより、少ないギャップで最適なアラインメントを作製できることはいうまでもない。殆どのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティーの修飾が可能である。しかし、配列比較のためにこのようなソフトウエアを使用する際には、デフォールト値を用いることが好ましい。例えば、後述するGCG Wisconsin Bestfit packageを使用するとき、アミノ酸配列に対するデフォールトギャップペナルティーは、ギャップについて−12で、各伸張部分について−4である。
【0021】
従って、相同性の最大値(%)を算出するには、ギャップペナルティーを考慮しつつ、先ず最適アラインメントを作出することが必要とされる。かかるアラインメントを実行するのに適したコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実施できるソフトウエアとしては、この他に、例えば、BLAST package(Ausubel et al., 1999 (Chapter 18)を参照のこと)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410)、及びGENEWORKS suite of comparison toolsを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。BLAST及びFASTAでは、オフライン及びオンラインによるサーチが可能である(Ausubel et al., 1999, 7-58〜7-60頁を参照のこと)。しかし、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0022】
相同性の最終的な割合(%)は、同一性の観点から測定できるが、アラインメントプロセス自体は通常、オールオアナッシング式の二者比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性又は進化論的距離に基づく各ペアの比較評価を行う目盛りのついた類似性評価マトリックスが一般的に用いられる。かようなマトリックスのうち汎用されているものの一例としては、プログラムのBLAST suiteのデフォールトマトリックスであるBLOSUM62マトリックスが挙げられる。GCG Wisconsinプログラムでは、公知のデフォールト値、又は、もし供給されていれば特別仕様のシンボル比較表のどちらかを使用するのが一般的である(詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。GCGパッケージには公知のデフォールト値、その他のソフトウエアにはBLOSUM62等のデフォールトマトリックスを使用することが好ましい。一旦ソフトウエアが最適アラインメントを作出すると、相同割合(%)、好ましくは配列の同一割合(%)の計算が可能になる。ソフトウエアは通常、配列比較の一端としてかかる計算をし、数字で結果が出る。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTで入手でき、デフォールトパラメーターを使う簡便なBLASTサーチアルゴリズムによって配列比較を行うことが好ましい。
【0023】
また本発明には、本発明のヌクレオチド配列の相補配列、その派生物、断片又はその派生物も含まれる。配列が、その断片と相補的であれば、他の生物等における類似のコード配列を同定するプローブとして、該配列を用いることができる。本発明にはまた、本発明のヌクレオチド配列とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列、並びにその派生物、断片又はその派生物も含まれる。本発明のヌクレオチド配列の相補配列、その派生物、断片又はその派生物とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列、並びにその派生物、断片又はその派生物も本発明に含まれる。「相補」なる用語は、コード配列のヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列も包含している。
【0024】
「変異体」なる用語は、ここに示すヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能な配列の相補配列も包含している。「変異体」なる用語は、ストリンジェントな条件(65℃で0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Na3クエン酸塩pH7.0})において、ここに示すヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列の相補配列を包含している。
【0025】
本発明はまた、本発明のヌクレオチド配列(相補配列を含む)とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列や、本発明のヌクレオチド配列(ここに示す相補配列を含む)とハイブリダイズ可能な配列の相補ヌクレオチド配列に関する。ここで「ハイブリダイゼーション」なる用語は、Dieffenbach CW and GS Dveksler (1995, PCR Primer, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY)記載のポリメラーゼ鎖反応(PCR)技術により行う増幅プロセス同様、「核酸の鎖が、塩基ペアリングにより相補鎖と結合するプロセス」(Coombs J (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York NY)を含む。
【0026】
本発明の範囲には、中程度ないし最大限のストリンジェンシーにおいて、ここに示すヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有するポリヌクレオチド配列もまた含まれる。Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)が教示しているように、ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体の溶解温度(Tm)に基づいており、それにより後述の明確な「ストリンジェンシー」が決まる。
【0027】
最高にストリンジェントな条件は、Tm−5℃(プローブのTmより5℃低い)で生じる。Tm−5℃〜10℃で高度のストリンジェンシーが生じる。Tm−10℃〜20℃で中間ストリンジェンシーが生じる。Tm−20℃〜25℃で緩やかなストリンジェンシーが生じる。当該技術の専門家であれば理解するところであるが、最高にストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、同一ポリヌクレオチド配列を同定、若しくは検出するときに行い、一方、中間(又は緩やかな)ストリンジェンシーによるハイブリダイゼーションは、類似、若しくは関連ポリヌクレオチド配列を同定、若しくは検出するときに行う。
本発明は、好ましくは、本発明のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下(65℃で0.1×SSC)でハイブリダイズできるヌクレオチド配列を含んでいる。
【0028】
(内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤)
本発明の目的の一つは、小麦粉から得られる内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を提供することであり、本発明者らの研究の結果、かかる阻害剤は分子量約40kDa(SDS又はMSで測定)のジ−ペプチド(di-peptide)であり、そのplは、約8〜約9.5であることを見い出した。本発明において該阻害剤は、単離した形態及び/又は実質的に純粋な形態にあるものをいい、ここで「単離した」とは、該阻害剤が天然の環境下にはないことを意味する。
【0029】
現在までの配列解析によって、上記阻害剤が、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内、少なくとも1又は2以上の配列をもつことが解明されている。このように本発明は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19、並びにそれらの変異体、相同物、又は断片の内、少なくとも1又は2以上の配列をもつエンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を包含している。
【0030】
本発明の阻害剤に関して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果生じたアミノ酸配列が、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内少なくとも1又は2以上の配列を含む阻害剤と、好ましくは少なくとも同程度の活性を有するキシラナーゼ阻害活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られる阻害剤にキシラナーゼ阻害活性が、好ましくは配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内少なくとも1又は2以上の配列を有する阻害剤と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列の相同性(配列の類似性又は配列の同一性)に関しては、添付の配列リストに示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも90%の相同性を有することが望ましい。とりわけ、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、一層好ましくは少なくとも98%の相同性を有することが望ましい。阻害剤の想定される変異体としては、現在のところ、配列番号1及び配列番号2として示される少なくとも1以上の配列を有するものを例示することができる。
【0031】
本発明の阻害剤は、多くの理由から有用である。例えば、内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の化学的な同定が公知である今日においては、研究者らは、例えば小麦に存在する該阻害剤を定量できるのである。便宜上、この方法を「阻害剤含有量測定法(Inhibitor Amount Determination Method)」と呼ぶことにする。かかる阻害剤含有量測定法により研究者らは、小麦に添加するのに適したキシラナーゼを1又は2種以上選択できるようになり、及び/又は小麦に添加する1又は2以上のキシラナーゼ類の適量を選択できるようになった。
【0032】
すなわち本発明は、(a)小麦粉における阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼを選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼの適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ、及び/又は適量のキシラナーゼを小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0033】
また本発明は、(a)小麦粉における阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼ阻害剤を選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼ阻害剤の適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ阻害剤、及び/又は適量のキシラナーゼ阻害剤を小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0034】
本発明はまた、(a)小麦粉に含まれる阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼ、及び適したキシラナーゼ阻害剤を選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼ阻害剤の適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ及び適正なキシラナーゼ阻害剤、及び/又は適量のキシラナーゼ阻害剤を小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0035】
阻害剤の含有量は、固体状態のNMR分光分析等の標準的な化学的な手法により測定できる。阻害剤の含有量は、該阻害剤が有害作用をもたらすことが知られているキシラナーゼ酵素を使っても測定できる。かかる方法では、小麦粉を試料とし、かかるキシラナーゼの所定量を添加することも可能である。一定時間後にキシラナーゼ活性を測定し、その活性測定結果と小麦粉の阻害剤含有量との相関関係から含有量を決定できる。よって本発明はまた、小麦粉試料中に含まれる阻害剤の量をキャリブレーションし、及び/又は測定する手段として、キシラナーゼとその阻害剤を組み合わせて使用することも含むものである。
【0036】
本発明の阻害剤の存在を確認するために、かかる阻害剤に対する抗体を用いて小麦粉試料のスクリーニングを行うことができる。かかる抗体は、小麦粉試料に含まれる阻害剤を単離することにも利用できる。
【0037】
(種々のキシラナーゼ類に対しβ−1,4−キシラナーゼ阻害剤が及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
本発明の阻害剤にはさらに有用な使用法がある。この点に関し、阻害剤によって損なわれるキシラナーゼを同定するアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができる。例えばある条件下では、阻害剤に対して低耐性(つまり、あまり耐性のない)を有するキシラナーゼをスクリーニングすることが好ましく、ある場合においては、阻害剤に対して、並(中程度)の耐性(つまり、程々に耐性のある)を有するキシラナーゼを同定するためのアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができ、また他の場合においては、阻害剤に対して高耐性を示すキシラナーゼを同定するためのアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができる。阻害剤による阻害の程度を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「阻害剤アッセイプロトコール」と呼ぶこととする。
【0038】
このように本発明は、キシラナーゼ阻害剤に対し、キシラナーゼが示す耐性の程度の測定方法を提供するものであって、かかる方法には、(a)目的のキシラナーゼをその阻害剤と接触せしめ、(b)かかる阻害剤が、目的のキシラナーゼ活性を阻害するか否かを測定することが含まれる。便宜上、かかる方法を「阻害剤アッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0039】
ここで「耐性」なる用語は、阻害剤によって、キシラナーゼ活性が完全には阻害されないことを意味する。換言すれば、阻害剤によって損なわれることのないキシラナーゼ類を同定するアッセイ/スクリーニングに、阻害剤を用いることが可能となるのである。よって、キシラナーゼ阻害剤に対応するキシラナーゼに関し、「耐性の程度」なる用語が意味するところは、キシラナーゼ阻害剤によるキシラナーゼ活性の非阻害の程度と同じ意味である。従って、キシラナーゼ阻害剤に高い耐性を示すキシラナーゼは、かかるキシラナーゼ阻害剤に対し、高度の非阻害を示すキシラナーゼと類似しているのである。
【0040】
本発明はまた、(a)阻害剤アッセイ方法を行い、(b)阻害剤に対し高度(又は中程度、又は低度)の耐性をもつキシラナーゼを1又は2種以上同定し、(c)同定された1種以上のキシラナーゼを一定量調製するステップを含むプロセスを包含するものである。相応であると同定されたキシラナーゼは、食品製造、特に焼き製品製造用の生地に使用することができる。さらに、阻害剤に対しある程度の耐性をもつキシラナーゼ(他種のキシラナーゼに比べ阻害を受けにくいキシラナーゼ)を同定することにより、実用に際し、かかる同定されたキシラナーゼを、培地に少量添加するだけでこと足りるようになる。キシラナーゼの最終使用には、食品、タンパク質、及び澱粉製品、紙製品、及びパルププロセシング等のいずれかの1又は2以上の調製が含まれる。
【0041】
従って、本発明にはさらに、(a)阻害剤アッセイ方法を実施し、(b)阻害剤に対して高度(又は中程度、又は低度)の耐性をもつキシラナーゼを1種以上同定し、さらに(c)同定されたキシラナーゼを1種以上含む生地を調製するステップを含むプロセスが包含される。
本発明に関する実験の過程において、バクテリア由来キシラナーゼの活性が完全には損なわれなかったという意味において、かかるキシラナーゼが阻害剤に対し耐性を示すことを見い出したのは驚くべきことである。
【0042】
(種々のキシラナーゼが生地に及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
阻害剤アッセイ方法によって適していると同定された細菌性キシラナーゼ類が、生地混合物に含まれていると、意外なことにその生地は、真菌性キシラナーゼを含む生地に比べ粘度が低くなることを見い出した。これらの結果は、先行文献の教示からは全く予想されなかったことである。よって本発明はさらに、焼き食品調製に用いるのに適した細菌性キシラナーゼ又はそれらの変異体を同定する方法を提供するものである。かかる方法には、(a)目的の細菌性キシラナーゼを、生地混合物に取り入れ、また真菌性キシラナーゼを含む類似の生地混合物に比べて該生地混合物の粘度が低い場合には、かかる細菌性キシラナーゼ又はそれらの変異体が焼き食品調製に用いるのに適していることになるので、(b)該生地混合物の粘度を測定することが含まれる。便宜上、かかる方法を「粘度アッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0043】
本発明はさらに、(a)粘度アッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上のキシラナーゼを同定し、(c)同定された1種以上のキシラナーゼを一定量調製するステップを含むプロセスを提供するものである。生地の粘度を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「粘度プロトコール」と呼ぶこととする。本発明のキシラナーゼを含み、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地を、本発明では必要に応じて「非粘着性生地」と呼ぶこととする。
【0044】
細菌性キシラナーゼを用いると、真菌性キシラナーゼを含む生地のように粘度のある生地にはならないという好ましい性質を有するとき、かかるキシラナーゼを、焼き製品を調製する生地等の食品の調製に用いることができる。このように本発明は、(a)粘度アッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上のキシラナーゼを同定し、さらに(c)同定されたキシラナーゼを1種以上含む生地を調製するステップを含むプロセスを提供するものである。
【0045】
(キシラナーゼを含む生地の生地特性に対してグルカナーゼ(類)が及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
本発明に関する実験の過程において、本発明者らは、グルカナーゼ酵素がある程度存在するときにキシラナーゼ類が有害な影響を受けることも見い出した。よって、キシラナーゼ酵素を調製又は抽出するのに用いる培地等のキシラナーゼ調製物に、有害レベルのグルカナーゼ酵素が含まれないようにすることが大切である。さらに、キシラナーゼを含む食品を調製する際に使用する培地に、有害レベルのグルカナーゼ酵素が含まれないことが大切である。ここにいう「有害レベル」とは、グルカナーゼ酵素の有害な作用によってキシラナーゼの効果が相殺されてしまう程のグルカナーゼ量を意味する。
【0046】
従って本発明はさらに、キシラナーゼ組成物(キシラナーゼ調製物等)、キシラナーゼを調製する培地、又は焼き食品調製に用いるのに適したキシラナーゼを添加する培地を同定するアッセイ方法を提供するものであり、かかる方法には、(a)目的のキシラナーゼを含む組成物、該キシラナーゼを調製する培地、又は該キシラナーゼを添加する培地を提供し、また、組成物又は培地に存在する活性グルカナーゼ酵素(類)が低レベルであれば、かかる組成物又は培地は焼き食品の調製に適していることになるので、(b)かかる組成物又は培地に活性グルカナーゼ酵素(類)の存在を確認することを含む。便宜上、かかる方法を「グルカナーゼアッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0047】
本発明はさらに、(a)グルカナーゼアッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上の組成物又は培地を同定し、また(c)それら1種以上の同定された組成物又は培地を一定量調製するステップを含むプロセスを提供するものである。グルカナーゼ活性を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「グルカナーゼプロトコール」と呼ぶ。
【0048】
キシラナーゼがもつ有用な効果が、好ましくない量のグルカナーゼ酵素の存在によって完全に損なわれることがないという意味において、かかる組成物又は培地が好ましい性質をもつとき、かかる組成物又は培地を、食品、好ましくは焼き製品製造用の生地の調製に用いることができる。よって本発明はさらに、(a)グルカナーゼアッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に適した1種以上の組成物又は培地を同定し、さらに(c)1種以上の同定された組成物又は培地を含む生地を調製するステップを含むプロセスを包含するものである。このように本発明は、キシラナーゼ調製法を包含するものであって、かかるキシラナーゼ調製法は、実質的にグルカナーゼ酵素(類)非存在下にて行われる。
【0049】
すなわちキシラナーゼ調製法は、存在すると考えられる少なくとも実質的に全てのグルカナーゼ酵素(類)を先ず除去し、ひいてはグルカナーゼ酵素(類)活性を抑制若しくは消失せしめる初期調製を行うことから始められる。これを達成する技術には、グルカナーゼ酵素(類)を認識し結合する抗体を用いることも含まれ、その場合はグルカナーゼ酵素(類)活性が不活化される。グルカナーゼ酵素(類)特異的抗体を支持体に結合することにより、初期調製物のパッセージがその結合抗体を通過し、その結果グルカナーゼ酵素(類)が上記初期調製物から除去され、実質的にグルカナーゼ酵素(類)を含まないキシラナーゼ調製物を得ることができる。別の実施例、さらには追加の実施例においても、グルカナーゼ酵素活性が最低限であるか、若しくは全くない宿主生物から キシラナーゼ調製物を得ることができることが示されている。この点で、宿主生物に存在するグルカナーゼ酵素活性は不活化されるといえる。他にも、グルカナーゼ遺伝子の発現が抑制され、及び/又は消失する例もある。これを達成する技術には、グルカナーゼコード配列のアンチセンス配列を使用することも含まれる。さらなる実施例においては、グルカナーゼ酵素の発現が全くみられないか若しくは極微量発現される宿主生物を使用している。
【0050】
(Kiアッセイ)
キシラナーゼのKi値測定(ここでは「Kiアッセイ」という)が有用な場合もある。適用例(applications)によっては、Ki値がときにキシラナーゼ適性の指標足り得ることを見いだした。Ki値の知見自体が有用である。
【0051】
(コンビネーションアッセイ)
本発明はまた、本発明のアッセイ類を適正に組み合わせることを含むものである。本発明は、阻害剤含有量測定方法を含むステップ、阻害剤アッセイ方法を含むステップ、粘度アッセイ方法を含むステップ、グルカナーゼアッセイ方法を含むステップ、及びKiアッセイを含むステップの内2又は3以上のステップを含む組み合わせを包含している。かかる組み合わせにおいては、ステップの組み合わせはどの順番でもよく、また必ずしも同時に若しくは続けて行う必要はない。
【0052】
(新規のキシラナーゼ類)
上述したように本発明は、食品、特に焼き製品調製に用いる生地の調製に使用可能なキシラナーゼを同定するのに適したアッセイを提供するものである。そこで本発明者らは、食品、特に焼き製品調製に用いる生地の調製に適した新規のキシラナーゼ3種を同定した。すなわち本発明はさらに、配列番号7、配列番号9、配列番号11、又はそれらの変異体、相同物、並びに断片として示されるアミノ酸配列のいずれかを含むアミノ酸配列を包含している。
【0053】
本発明のキシラナーゼに関連して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果できたアミノ酸配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかの配列を含むキシラナーゼ活性と、好ましくは少なくとも同程度の活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られるタンパク質にキシラナーゼ活性が、好ましくは配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかの配列と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列相同性(配列類似性又は配列同一性)に関しては、添付の配列リストに示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%の相同性がある。さらに、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、さらに少なくとも98%の相同性があることがより好ましい。
キシラナーゼが、配列番号7若しくは配列番号11、又はそれらの変異体、相同物若しくはその断片の配列を含むことが好ましい。
【0054】
本発明はさらに、本発明のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むものである。本発明のヌクレオチド配列は次のものから選択することが好ましい。
(a)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はそれらの変異体、相同物、並びに断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかを含むヌクレオチド配列
(b)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその相補配列の内いずれか1つのヌクレオチド配列、
(c)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかとのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列、
(d)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかの相補配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列、及び
(e)(a)、(b)、(c)又は(d)に示したヌクレオチドに対する遺伝コードの結果、変性したヌクレオチド配列。
【0055】
本発明のヌクレオチド配列に関連して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果できたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかのアミノ酸配列を含む活性と、好ましくは少なくとも同程度のキシラナーゼ活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られる発現タンパク質にキシラナーゼ活性が、好ましくは配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列相同性(配列類似性又は配列同一性)に関しては、添付の配列リストに配列番号8、配列番号10、配列番号12として示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%の相同性があるものが望ましく、さらに、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の相同性があるものが望ましい。
本発明のヌクレオチド配列が、配列番号8、配列番号12、又はそれらの変異体、相同物、若しくは断片として示される配列を含むことが好ましい。
【0056】
(キシラナーゼ類の新規の使用方法)
上述したように本発明はまた、焼き製品の調製に用いる非粘着性生地(本記載中にて定義)を調製する際に使用できるキシラナーゼの同定に適したアッセイを提供するものである。
我々は、食品、特に焼き製品調製に用いる生地、の調製に適した公知及び新規の細菌性キシラナーゼ数種を同定した。
よって本発明は、本発明のアッセイにより同定し得るキシラナーゼを含む非粘着性生地(本記載中にて定義)を包含するものである。かかるキシラナーゼが、配列番号3、5、7、9、11、又はそれらの変異体、派生物、若しくは相同物として示されるアミノ酸配列のいずれかを有することが好ましい。より好ましくは、かかるキシラナーゼが、配列番号5、7、9、11、又はそれらの変異体、派生物、若しくは相同物として示されるアミノ酸配列のいずれかを有することが好ましい。
【0057】
先行技術によるシステムとは対照的に本発明は、生地を製造する前にキシラナーゼを小麦粉に直接添加し得る方法を提供する。従って、シングルバッチの小麦粉/キシラナーゼ混合物を生地製造器に投入する。さらに、取扱い容易な生地を得るために使う投入装置が生地製造器に必要でなくなる。
【0058】
(キシラナーゼ類を用いて調製した食品)
本発明は、食品製造に用いるのに適したキシラナーゼの同定手法を提供するものである。動物用飼料も含む食品の代表例としては、日常食品、食肉製品、禽肉製品、魚肉製品、及び焼き製品が挙げられるが、かかる食品が焼き製品であることが好ましい。本発明の技術範囲に含まれる焼き製品の代表例としては、食パン、ロールパン、バーガー用パン、ピザ台等のパン類、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等が挙げられる。
【0059】
(一般的な教示)
以下に述べる「本発明のヌクレオチド配列」及び「本発明のアミノ酸配列」なる語句は、ここに挙げるヌクレオチド配列のいずれか1つ若しくは2以上、またここに挙げるアミノ酸配列のいずれか1つ若しくは2以上について言及するものである。
【0060】
(アミノ酸配列/ポリペプチド配列)
「本発明のアミノ酸配列」なる用語は、「本発明のポリペプチド配列」と同義語である。ここでかかるアミノ酸配列は、キシラナーゼ又はキシラナーゼ阻害剤のアミノ酸配列を意味すると考えてよい。
本発明のポリペプチドには、ここに示すアミノ酸配列の断片、及びその変異体も含まれる。断片の長さとして適正なのは、少なくとも5、又は少なくとも10、12、15、さらには20個のアミノ酸で構成される断片である。
本発明のポリペプチドは、保存的置換を含む、1又は2個以上(例えば少なくとも2、3、5、又は10個)の置換、欠失、又は挿入を有するように修飾されていてもよい。保存的置換は、保存置換を示す次の表によって作製できる。次の表には、2列目の同じブロックと、3列目の同じ行にあるアミノ酸を相互置換することが好ましい。
【0061】
【表1】
【0062】
本発明のポリペプチドは実質的に単離されているものである。かかるポリペプチドは、意図するポリペプチドの目的を損なわないように、担体又は希釈剤と混合してもよく、その場合も依然として実質的に単離されていると考えられる。本発明のポリペプチドはまた実質的に精製されており、そのとき該ポリペプチドは、調製過程におけるポリペプチドを含み、かかる調製過程におけるポリペプチドの90%以上、例えば95%、98%、又は99%以上は、本発明のポリペプチドである。本発明のポリペプチドは後述するように例えば、その精製を容易とするためヒスチジン残基を付加し、又は細胞からの分泌を促進すべくシグナル配列を付加することにより修飾してもよい。本発明のポリペプチドは、後述するように合成法(例:Geysen et al., 1996記載の方法)、又は組換え法により作出できる。
【0063】
酵母、真菌、又は植物宿主細胞等の適正な宿主細胞を用いることにより、本発明の組換え発現産物が最適な生物活性を備えるために必要とされる翻訳後修飾(例えばミリストイル化、グリコシル化、N−末端切断化(truncation)、ラピデーション(lapidation)、及びチロシン、セリン、又はトレオニンの燐酸化)が可能になる。
【0064】
truncation lapidation(ヌクレオチド配列/ポリヌクレオチド配列)
「本発明のヌクレオチド配列」なる用語は、「本発明のポリヌクレオチド配列」なる用語と同義である。本発明のポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド酸配列が含まれる。遺伝的コードが縮重することにより、種々のポリヌクレオチド領域が、所定のアミノ酸配列をコードすることがわかる。
【0065】
ここに詳述するアミノ酸配列に関する知識をもってすれば、本発明のポリペプチドをコードするcDNA及び/又はゲノムクローン等の部分及び完全長核酸配列の作製が可能である。例えば、ここに挙げるアミノ酸配列をコードする配列を標的とするよう設計されたプライマーを使用する縮重PCRを用いることにより、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。かかるプライマーには通常複数の縮重部分が含まれる。しかし縮重を最小化するために、ここで述べるアミノ酸配列において1コドンにのみ対応してコードされるメチオニン等のアミノ酸を含む領域をコードする配列が選択される。さらにPCR法を実施するときに鋳型DNAとして用いる核酸をもつ生物におけるコドンの使われ方を考慮した上で配列を選択する。公知の配列に対する一本鎖配列(非縮重)プライマーを用いて配列クローニングを行うときのストリンジェンシーより緩やかなストリンジェンシー条件下にて、PCRを行う。
【0066】
PCRで得られた本発明のポリペプチド断片をコードする核酸配列を使用して、ハイブリダイゼーションライブラリースクリーニング技術によって、より長い配列を得ることができる。例えばPCRクローンを放射性原子によって標識し、又は他種、好ましくは他種の植物又は菌種のcDNA又はゲノムライブラリーをスクリーニングするのに用いる。ハイブリダイゼーション条件は、通常よりストリンジェントな条件下(例えば0.03Mの塩化ナトリウム及び0.03Mのクエン酸ナトリウム、約50℃〜約60℃)の培地条件である。アミノ酸配列の全体又は部分をコードする縮重核酸プローブは、他種、好ましくは他種の植物又は菌種のcDNA及び/又はゲノムライブラリーをプローブするのに用いられる。しかしPCRは本来、一本鎖配列を得てさらにスクリーニングを行うために行うことが好ましい。
【0067】
上記の技術により得られた本発明のポリヌクレオチド配列は、上述の技術を用いて、さらなる相同配列及び変異体を得るために用いることができる。また、かかるポリヌクレオチド配列は、使用に際し、種々の宿主細胞系において本発明のポリペプチドを発現せしめるために修飾される。例えば、ポリヌクレオチド配列が発現される特定の宿主細胞に対するコドン選択性向を最適化するよう修飾される。その他、制限酵素認識部位を導入すべく、またかかるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの機能若しくは特性を変えるべく、配列を変化させることが考えられる。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、PCRプライマー、代替的増幅反応におけるプライマー等のプライマー、放射活性若しくは非放射活性標識を用いる慣用手法による顕現(revealing)標識等により標識されたプローブを作出するのに用いられる。またかかるポリヌクレオチドは、ベクターにクローニングされる。かかるプライマー、プローブ、及び他の断片は、その長さが少なくとも15、好ましくは少なくとも20、例えば少なくとも25、30又は40ヌクレオチドであって、これらはまた本発明のポリヌクレオチドなる用語に包含される。
本発明のポリヌクレオチド又はプライマーは、顕現標識を有する。標識として適しているものとしては、32P又は35S等の放射性同位元素、酵素標識、並びにビオチン等の他のタンパク質標識が挙げられる。かかる標識により、本発明のポリヌクレオチド又はプライマーを標識化し、公知の技術により検出を行うことができる。
【0069】
DNAポリヌクレオチド等のポリヌクレオチド、及び本発明によるプライマーは、組換え、合成、又は当該技術の専門家が実施可能ないかなる手法によって作出してもよい。標準技術によってクローニングしてもよい。
一般的にはプライマーは、所望の核酸配列を1ヌクレオチド毎に作製していく段階的製法を含む合成法により作出される。かかる作出を自動方式で行う技術は、先行文献に既にみられる。
【0070】
長いポリヌクレオチドは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術等の組換え法により作出されるのが一般的である。かかる方法には、クローニングの対象であるエンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害遺伝子の領域において一対のプライマー(約15〜30ヌクレオチド)を作製し、かかるプライマーを、真菌、植物、又は原核細胞から得られるmRNA又はcDNAと接触せしめ、所望の領域の増幅、増幅断片の単離(反応混合物をアガロースゲル上にて精製することによる)、及び増幅DNAの回収が実施可能な条件下にてPCR法を行うことが含まれる。適正なクローニングベクターに増幅DNAをクローニングできるよう、かかるプライマーは、適当な制限酵素認識部位を含むように設計されている。
【0071】
(調節配列)
本発明のポリヌクレオチドは、選択された宿主細胞等により、コード配列の発現能を有する調節配列とオペラブル(operable)に結合していることが好ましい。例えば本発明は、かかる調節配列にオペラブルに結合した本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、すなわち発現ベクターを包含するものである。
「オペラブルに結合」なる用語は、ここに記載する各成分が、その意図どおりに機能し得る関係にあり、互いに並列関係にあることを意味する。コード配列に「オペラブルに結合」した調節配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列が発現されるように連結される。
「調節配列」なる用語には、プロモーター、エンハンサー、及びその他の発現調節シグナルが含まれる。ここにいう「プロモーター」なる用語は、RNAポリメラーゼ結合部位等、当該技術分野にて通常使われる意味で使用される。
【0072】
発現の、また必要とあれば選択した発現宿主からの目的タンパク質の分泌量の増強、及び/又は本発明のポリペプチド発現の誘導制御を行う異種構造の調節領域、例えばプロモーター、分泌リーダー、及び末端領域等を選択することにより、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が増強される。本発明のヌクレオチド配列は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合していることが好ましい。
本発明のポリペプチドをコードする遺伝子由来のプロモーター以外にも、本発明のポリペプチドを発現させるプロモーターを用いることができる。かかるプロモーターは、所望の発現宿主において本発明のポリペプチドを発現させる上での効率性を考慮して選択される。
【0073】
実施例において、本発明における所望のポリペプチドを発現させるため、構成プロモーターが選択される。誘導基質含有培地において発現宿主を培養させることが不要になるので、かかる発現構成物は非常に好都合である。
真菌発現宿主に対して用いるのに適した強力な構成及び/又は誘導プロモーターとしては、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP−シンテターゼ、サブユニット9(OliC)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、α−アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子からのAG)、アセトアミダーゼ(amdS)、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)プロモーターにおける真菌性遺伝子から得られるものが挙げられる。強力な酵母プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセレートキナーゼ、及びトリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子から得られるものが挙げられる。また、強力な細菌性プロモーターとしては、細胞外プロテアーゼ遺伝子由来のプロモーターの他に、α−アミラーゼ及びSP02プロモーターが挙げられる。ハイブリッドプロモーターもまた、発現構成の誘導調節を改良するために用いられる。
【0074】
プロモーターはさらに、適合した宿主における発現を確実にし、又は増強させるという特徴を備えている。例えばかかる特徴としては、Pribnow Box又はTATAbox等の保存領域が考えられる。それ以外にもプロモーターはさらに、本発明のヌクレオチド配列の発現レベルに影響(保持、増強、減少等の)を及ぼす配列をもつ場合もある。それらプロモーターの適正例としては、Sh1イントロン又はADHイントロンが挙げられる。その他の配列には、温度、化学物質、光、又はストレス誘導エレメント等の誘導エレメントが含まれる。また、転写又は翻訳を増強するのに適したエレメントも存在する。かようなエレメントの例としては、TMV5'シグナル配列(Sleat Gene 217 [1987] 217-225; 及びDawson Plant Mol. Biol. 23 [1993] 97を参照のこと)が挙げられる。
【0075】
(分泌)
本発明のポリペプチドは、宿主細胞から、本発明のポリペプチドがより簡便に回収できる培養培地へ分泌されることが望ましい。本発明においては、分泌リーダー配列は、所望の発現宿主に基づいて選択される。ハイブリッドシグナル配列もまた本発明において用いられる。
異種構造分泌リーダー配列の一般的な例としては、真菌アミログリコシダーゼ(AG)遺伝子(例えばglaA;Aspergillus由来で、18及び24アミノ酸の二形態)、a−ファクター遺伝子(Saccharomyces及びKluyveromyces等の酵母)、又はα−アミラーゼ遺伝子(Bacillus)由来のものが挙げられる。
【0076】
(構築物)
「共役物(conjugate)」、「カセット」、及び「ハイブリッド」なる用語と同義である「構築物(construct)」なる用語には、直接又は間接にプロモーターと接合する本発明におけるヌクレオチド配列が含まれる。本発明のプロモーター及びヌクレオチド配列を仲介するSh1−イントロンやADHイントロン等のイントロン配列などの適正なスペーサーグループを供給することが間接接合の例として挙げられる。
直接又は間接接合を意味する本発明における「融合」なる用語に関しても「構築」と同じことがいえる。それぞれの場合において各用語は、元来野生型遺伝子プロモーター、及び通常会合するタンパク質をコードするヌクレオチド配列の組合わせにおいて、かかるプロモーター及びヌクレオチド配列がその自然環境下にあるときに、それらの自然組合わせを意味するものではない。
【0077】
構築物が、その転移先である好ましくはBacillus subtillis等のBacillus属の細菌など、又はジャガイモ、サトウキビ等の植物における遺伝子構築の選択を可能にするマーカーを有していたり、発現させる場合もある。例えばマンノース−6−リン酸イソメラーゼ(特に植物における)をコードするマーカー、又はG418、ヒグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、及びゲンタマイシン等に耐性を示す抗生物質耐性を供するマーカー等、実際に使用できる種々のマーカーが存在する。
本発明の構築物は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合した本発明のヌクレオチド配列を含んでいることが好ましい。
【0078】
(ベクター)
「ベクター」なる用語には、発現ベクター、形質転換ベクター、及びシャトルベクターが含まれる。
「発現ベクター」なる用語は、インビボで、又はインビトロでの発現能を有する構築物を意味する。
「形質転換ベクター」なる用語は、ある物からある物へ、同種の場合もあれば他種間の場合もあるが、転移できる構築物を意味する。構築物がある種から別の種へ、例えば大腸菌プラスミドから細菌、好ましくはBacillus属の細菌へ、転移できるとき、かかる形質転換ベクターを「シャトルベクター」と呼ぶことがある。大腸菌プラスミドから植物に存在するアグロバクテリア菌へと転移できる構築物の場合もある。
【0079】
本発明のポリペプチドを発現させるため、後述するように本発明のベクターで適当な宿主細胞を形質転換させることができる。よって本発明はさらに、後述するように発現ベクターにより形質転換若しくはトランスフェクトした宿主細胞を、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現条件下で培養し、また発現したポリペプチドを回収することからなる本発明のポリペプチドを調製するプロセスを提供するものである。
かかるベクターの例としては、複製によるプラスミド、ウイルス、又はファージベクターが挙げられ、また、かかるポリヌクレオチドの発現プロモーター、及びそのプロモーターの調節因子(regulator)も適宜に例として挙げられる。
【0080】
本発明のベクターには、1又は2以上の選択マーカー遺伝子も含まれる。工業用微生物に対する選択系として最も適しているのは、宿主生物において変異を必要としない選択マーカー集団によって形成されるものである。真菌性選択マーカーの例としては、アセトアミダーゼ(amdS)、ATPシンテターゼ、サブユニット9(oliC)、オロチジン−5’−リン酸−脱カルボキシル酵素(pvrA)、ファレオマイシン、及びベノミル耐性(benA)遺伝子がある。非真菌性選択マーカーの例としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)をコードする細菌由来G418耐性遺伝子(これは酵母でも用いられるが、真菌では用いない)、アンピシリン耐性遺伝子(大腸菌)、ネオマイシン耐性遺伝子(Bacillus)、及び大腸菌uidA遺伝子がある。
RNA作製、並びに宿主細胞のトランスフェクト又は形質転換を行うときなどは、ベクターをインビトロで用いることもできる。
【0081】
このように本発明のポリヌクレオチドを、クローニング又は発現ベクター等の組換えベクター(通常複製ベクター)に取り込むことも可能である。かかるベクターを、和合性宿主細胞における核酸の複製に用いることができる。そこで実施例において、本発明のポリヌクレオチドを複製ベクターに導入し、かかるベクターを和合性宿主細胞に導入し、そしてベクター複製が可能となる条件下にてかかる宿主細胞を培養することにより、本発明のポリヌクレオチドを作出する方法を提供する。上記ベクターは宿主細胞から回収する。この方法に適した宿主細胞については、発現ベクターとの関連において後述する。
【0082】
(組織)
ここにいう「組織」なる用語は、組織それ自体、及び器官を意味する。
(宿主細胞)
本発明における「宿主細胞」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる細胞をも包含し、かかる宿主細胞にプロモーターが存在するときには、該プロモーターが本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な宿主細胞を意味するものである。
本発明の実施例においては、本発明のポリヌクレオチドを形質転換した又はトランスフェクトした宿主細胞が提供される。かかるポリヌクレオチドを複製及び発現せしめるために、該ポリヌクレオチドがベクターに取り込まれていることが好ましい。かかるベクターと適合する細胞、例えば原核生物(例として細菌)、真菌、酵母、又は植物細胞を選択する。
【0083】
グラム陰性の細菌である大腸菌は、異種遺伝子を発現させるときの宿主として広く使用されている。しかし、大量の異種タンパク質は、細胞内に蓄積する傾向がある。大量の大腸菌細胞質内タンパク質から所望のタンパク質をその状態から精製することはときに困難である。大腸菌とは対照的に、培地へのタンパク質分泌能を有することからバチルス属の細菌は、異種宿主として非常に適している。宿主として適した細菌には、ストレプトミセス属及びシュードモナス属の細菌が知られている。
【0084】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの特質から、及び/又は発現タンパク質のさらなるプロセシングが望まれることから、酵母又は真菌等の原核生物宿主が好ましい。酵母細胞の方が容易に操作できるため、真菌細胞より酵母細胞が一般的に好まれる。しかしタンパク質の中には、酵母細胞からはあまり分泌されなかったり、正しくプロセシングされない(例えば酵母の高グリコシル化)ものがある。かかる場合には真菌宿主生物を選択すべきである。
【0085】
本発明の技術範囲にある発現宿主の好適例としては、Aspergillus種(ヨーロッパ特許A0184438号及びA0284603号)、及びTrichoderma種等の真菌類、Bacillus種(ヨーロッパ特許A0134048号及びA0253455号に記載があるものなど)、Streptomyces種、及びPseudomonas種等の細菌類、並びにKluyveromyces種(ヨーロッパ特許A0096430号及びA0301670号に記載があるものなど)、及びSaccharomyces種等の酵母類がある。
典型的な発現宿主は、Aspergillus niger、Aspergillus niger var. tubigenis、Aspergillus niger var. awamori、Aspergillus aculeatis、Aspergillus nidulans、Aspergillus orvzae、Trichoderma reesei、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Kluyveromyces lactis、及びSaccharomyces cerevisiaeから選択できる。
【0086】
(生物)
本発明の「生物」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる生物をも包含し、かかる生物にプロモーターが存在するときには、該プロモーターが本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な生物を意味するものである。本発明のキシラナーゼの観点から適当な生物としては、好ましくはBacillus属、より好ましくはBacillus subtilis属の細菌が挙げられる。
【0087】
本発明における「トランスジェニック生物」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる生物をも包含し、そのプロモーターが、かかる生物内に本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な生物を意味するものである。かかるヌクレオチド配列が、該生物のゲノムに取り込まれていることが好ましい。「トランスジェニック生物」なる用語は、本発明の無処理(native)のヌクレオチドコード配列がその自然環境下にあり、やはり自然環境下にある無処理のプロモーターのコントロール下にあるときには、かかるコード配列を含まない。さらに本発明には、本発明の無処理のタンパク質がその自然環境下にあり、やはりその自然環境下にある無処理のヌクレオチドコード配列により発現され、かかるヌクレオチド配列が、その自然環境下にある無処理のプロモーターのコントロール下にあるときには、かかるコード配列を含まない。
【0088】
従って本発明のトランスジェニック生物は、本発明のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列のいずれか1つ又はそれらの組合せ、本発明の構築物(その組合せを含む)、本発明のベクター、本発明のプラスミド、本発明の細胞、本発明の組織、並びにそれらの産物を含む。形質転換した細胞又は組織を用いて、かかる細胞又は組織から所望の成分の必要量を容易に回収し、調製することができるのである。
【0089】
(宿主細胞/宿主生物の形質転換)
前述したように、宿主生物としては原核又は真核生物を挙げることができ、原核生物宿主の好適例としては、大腸菌及びBacillus subtilisがある。原核生物宿主の形質転換に関する詳しい教示例としては、Sambrook et al(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)、及びAusubel et al., Current Protocles in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sons, Inc.等の文献がある。原核生物宿主を用いる際には、形質転換の前にそのヌクレオチド配列を、イントロン除去等により適当に修飾することが必要になる。そして、上述したように宿主生物として適しているのは、Bacillus subtilis等のBacillus属の細菌である。
【0090】
他の実施例として、トランスジェニック生物として酵母を用いることもできる。酵母は、異種遺伝子発現のビヒクル(vehicle)として広く使われている。Saccharomyces cerevisiaeは、異種遺伝子発現への使用も含め、かなり以前から工業用に使用されている。Saccharomyces cerevisiaeにおける異種遺伝子発現に関しては、Goodey et al(1987, Yeast Biotechnology, D R Berry et al., eds, pp 401-429, Allen and Unwin, London)、及びKing et al.,(1989, Molecular and Cell Biology of Yeasts, E F Walton and G T Yarronton, eds, pp 107-133, Blackie, Glasgow)が報告している。
【0091】
いくつかの点から、Saccharomyces cerevisiaeは異種遺伝子発現に適している。第1に、Saccharomyces cerevisiaeはヒトに対し非病原性であり、特定のエンドトキシンの産生能をもたない。第2に、Saccharomyces cerevisiaeは、何世紀にもわたり多様な目的のために、商業目的に安全に利用されてきた歴史がある。その結果、広く世間に認知されている。第3に、広く商業目的に使用され、また研究も数多くされてきているため、その大規模な発酵特性とともに、Saccharomyces cerevisiaeの発生学的及び生理学的特質に関する豊富な知識が蓄積されている。
E Hinchcliffe E Kenny(1993, "Yeast as a vehicle for the expression of heterologous genes", Yeasts, Vol. 5, Anthony H Rose and J Stuart Harrison, eds, 2nd edition, Academic Press Ltd.)は、Saccharomyces cerevisiaeにおける異種遺伝子発現及び遺伝子産物の分泌の原理について報告している。
【0092】
使用できる酵母ベクターは、その保持のために宿主ゲノムとの組換えを必要とし、プラスミドベクターを自律的に複製する組込み(integrative)ベクターを含む数種類ある。
トランスジェニックSaccharomycesを調製するため、酵母での発現を目的として設計した構築物に、本発明のヌクレオチド配列を挿入して発現構築物を調製した。今までに数種類、異種発現に用いる構築物が作製されている。かかる構築物には、本発明のヌクレオチド配列に融合された酵母において活性を示すプロモーターが含まれ、GAL1プロモーター等の酵母由来のプロモーターが用いられる。SUC2シグナルペプチドをコードする配列等の酵母由来のシグナル配列が用いられる。酵母において活性を示すターミネーターが発現系を終了させる。
【0093】
酵母の形質転換を行うための形質転換プロトコールがいくつか見いだされている。例えば本発明のトランスジェニックSaccharomycesは、Hinnen et al(1978, Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 75, 1929)、Beggs, J D (1978, Nature, London, 275, 104)、及びIto, H et al(1983, J Bacteriology 153, 13-168)の教示によって調製できる。形質転換した酵母細胞は、種々の選択マーカーを使って選択でき、形質転換に用いるマーカーには、LEU2、HIS4、及びTRP1等の数多くの栄養要求性マーカー、及びアミノグリコシド抗生物質マーカー(G418等)などのドミナント抗生物質耐性マーカーがある。
【0094】
宿主生物としては他にも植物を挙げることができる。遺伝子改変植物を構築する際の基本原理は、挿入された遺伝物質が安定的に保持されるような形で、ゲノム情報を植物ゲノムに挿入することであり、ゲノム情報を挿入する技術はいくつかあるが、主な2つの原理は、ゲノム情報の直接導入、及びベクター系を用いたゲノム情報の導入である。かかる一般的な技術は、Potrykus(Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol [1991] 42:205-225)、及びChristou(Agro-Food-Industry Hi-Tech March/April 1994 17-27)に記載されている。
【0095】
さらに、本発明は、本発明のヌクレオチド配列又は構築物を運び、また該ヌクレオチド配列又は構築物を、植物等の生物ゲノムに導入し得るベクター系に関する。かかるベクター系は、1つのベクターを含むことができるが、2つのベクターをもつこともできる。ベクターを2つ有する場合、かかるベクター系は通常二元ベクター系と呼ばれる。二元ベクター系については、Gynheung An et al.(1980)、Binary Vectors, Plant Molecular Biology Manual A3, 1-19に、より詳細な記載がある。
【0096】
所定のヌクレオチド配列を用いた植物細胞の形質転換に広く使用されるシステムは、Agrobacterium tumefaciens由来のTiプラスミド、又はAgrobacterium rhizogenes An et al.(1986), Plant Physiol. 81, 301-305、及びButcher D.N. et al.(1980), Tissue Culture Methods for Plant Pathologists, eds.:D.S. Ingrams and J.P. Helgeson, 203-208由来のRiプラスミドを使用することを基本にしている。上述した植物又は植物細胞構築物の構築に適したTi及びRiプラスミドを数種類構築した。かかるTiプラスミドの非限定例としては、pGV3850がある。
【0097】
本発明のヌクレオチド配列又は構築物は、T−DNAボーダーを直接取り囲む配列が分裂しないよう、またこれら領域の内少なくとも1領域が修飾T−DNAを植物ゲノムに挿入する際に重要となるように、T−DNAの末端配列間に存在する、又はT−DNA配列に隣接するTiプラスミドに挿入されることが好ましい。上述した説明から理解されるように、生物が植物の場合には、本発明のベクター系は、植物を感染させるのに必要な配列(vir領域等)、またT−DNA配列の少なくともボーダー部分を1つ有していることが好ましい。ここにいうボーダー部分は、遺伝子構築物と同一ベクター上に位置するものである。かかるベクター系は、Agrobacterium tumefaciensTiプラスミド、若しくはAgrobacterium rhizogenesRiプラスミド、又はその派生物であることが好ましい。なぜならこれらのプラスミドは公知であり、トランスジェニック植物の構築に広く使用されており、これらのプラスミド又はその派生物に基づくベクター系は数多く存在しているからである。
【0098】
トランスジェニック植物を構築するにあたっては、本発明のヌクレオチド配列又は構築物を植物に挿入する前に、ベクターが複製可能かつ操作が容易な微生物内に先ず構築する。有用な微生物としては大腸菌があるが、上述の特質をもつ微生物であれば他の微生物も使用できる。上記に定義したベクター系のベクターを大腸菌において構築した後、必要とあれば該ベクターを、Agrobacterium tumefaciens等の適当なアグロバクテリア株に転移させる。このように、本発明のヌクレオチド配列又は構築物をハーバリングするアグロバクテリア細胞を得るため、本発明のヌクレオチド配列又は構築物をハーバリングするTiプラスミドを、Agrobacterium tumefaciens等の適当なアグロバクテリア株に転移させることが好ましい。次に、かかるアグロバクテリア細胞のDNAを、修飾する予定の植物細胞に転移させる。
【0099】
かかる方法により、本発明のヌクレオチド又は構築物をベクターにおける適当な制限部位(position)に導入し得る。そこに含まれるプラスミドを用いて大腸菌の形質転換を行う。かかる大腸菌細胞を適した栄養培地で培養した後、回収し溶解させる。かかるプラスミドはこのようにして回収される。分析方法としては、配列分析、制限分析、電気泳動、またさらに生化学−分子生物学的方法が通常実施される。操作を行う毎に使用したDNA配列は制限され、隣接するDNA配列に結合される。各配列は、同じ又は別のプラスミド内にてクローニングされる。
【0100】
所望の本発明のヌクレオチド配列を植物へ導入する各種導入方法を行った後、さらなるDNA配列の存在及び/又は挿入が必要となる。例えば植物細胞のTi−又はRi−プラスミドを用いて形質転換を行うときには、導入遺伝子のフランキング領域としてのTi−及びRi−プラスミドT−DNAの少なくとも右の境界、またはしばしば左右の境界が結合される。植物細胞の形質転換にT−DNAを用いることについては鋭意研究がなされており、ヨーロッパ特許A120516号、Hoekema(The Binary Plant Vector System Offset-drukkerij Kanters B.B., Alblasserdam, 1985, Chapter V)、Fraley, et al.(Crit. Rev. Plant Sci., 4:1-46)、及びAn et al.(EMBO J. 1985, 4:277-284)に報告されている。また、植物組織を直接アグロバクテリアに感染させることは、広く行われている簡便な方法であり、Butcher D.N. et al.(1980, Tissue Culture Methods for Plant Pathologists, eds.:D.S. Ingrams and J.P. Helgeson, 203-208)にその記載がみられる。この方法に関しては、Potrykus(Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol[1991] 42:205-225)、及びChristou(Agro-Food-Industry Hi-Tech March/April 1994 17-27)に教示されている。かかる方法により、葉、根、茎、又は植物の他の部分等の植物組織における特定部位において植物を感染させることができる。
【0101】
植物を、ヌクレオチド配列をもつアグロバクテリウムに直接感染させると、通常感染させる植物は、剃刀による切開、針による穿孔、研磨用具による摩擦などで損傷する。かかる損傷部分にアグロバクテリウムを接種するのである。そして接種された植物又は植物の部分を適当な培養培地で生育させ、成熟植物とするのである。植物細胞が構築されると、アミノ酸、植物ホルモン、ビタミン等の成長必須因子を含む適当な培養培地で細胞を培養する方法等の公知の組織培養方法によって、かかる細胞は生育し、かつ保持される。細胞又は組織培養物から植物を再生させる公知の方法により、形質転換細胞を、遺伝子修飾植物において再生させることができる。かかる公知の方法としては例えば、抗生物質を使って形質転換した芽を選択し、その選択した芽を適正な栄養分や植物ホルモン等を含む培地で、継代培養する方法がある。植物の形質転換については、ヨーロッパ特許A0449375号にも教示されている。
【0102】
(ポリペプチドの作出)
本発明においては、従来公知の栄養発酵培地における1又は2以上の本発明のポリヌクレオチドを形質転換された微生物発現宿主等の培養により、本発明のポリペプチドの産生が影響される。発現宿主の選択に基づき、及び/又は発現構築物における調節の必要性に基づいて適当な培地を選択する。当該技術の専門家であれば、かような培地を熟知している。必要とあれば培地は、汚染の可能性がある他の微生物よりも形質転換された発現宿主が好む成分をさらに含有させることができる。
【0103】
(抗体)
本発明のアミノ酸配列を、かかるアミノ酸配列に対する抗体を標準的な手法により作製するために用いることができる。抗体を作製するために、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス等の種々の宿主を、その阻害剤、何らかのタンパク質、変異体、相同物、又はその断片や派生物、並びに免疫原性特質を維持しているオリゴペプチドを投与することにより免疫する。免疫応答を強化するために種々のアジュバントを、宿主種依存で用いる。かかるアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、KLH(keyhole limpet hemocyanin:スカシガイのヘモシアニン)、及びジニトロフェノール等の界面活性物質が含まれるが、これらに限定されるものではない。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)及びCorynebacterium parvumも使用が考えられる有用なヒトアジュバントである。
【0104】
アミノ酸配列に対するモノクローナル抗体は、培地における連続細胞株による抗体分子の作製方法のいずれによっても調製し得る。かかる方法には、Koehier及びMilstein(1975 Nature 256:495-497)が最初に報告したハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al (1983) Immunol Today 4:72; Cote et al (1983) Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030)及びEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al (1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss Inc, pp77-96)が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに適当な抗原特異性及び生物活性を得るためにマウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングする「キメラ抗体」の作製方法(Morrison et al (1984) Proc Natl Acad Sci 81:6851-6855; Neuberger et al (1984) Nature 312:604-608; Takeda et al (1985) Nature 314:452-454)も用いることができる。その他にも一本鎖抗体(米国特許A4946779号)の作製技術を、阻害剤特異的一本鎖抗体の作製に用いることができる。
【0105】
Orlandi et al(1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)、並びにWinter G及びMilstein C(1991; Nature 349: 293-299)が開示しているように、インビボでの産物をリンパ球集団に誘導することにより、又は組換え免疫グロブリンライブラリー若しくは高度に特異的な結合試薬パネルのスクリーニングにより、抗体を作製することもできる。
【0106】
プロトコール
プロトコール1;キシラナーゼアッセイ(エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性)
クエン酸(0.1M)−リン酸水素二ナトリウム(0.2M)緩衝液(pH5.0)でキシラナーゼ試料を希釈し、最終アッセイにおいてOD(光学密度)が約0.7となるようにした。該試料の希釈液3種類、及び既知活性の内部標準液を、40℃で5分間サーモスタットで調節した。反応開始5分後に、1個のXylazyme剤(架橋結合され、染色されたキシラン基質)を上記酵素溶液に加えた。反応開始15分後に、10mlの2%TRISを添加して反応を終了させた。該反応混合液を遠心分離にかけ、上清のODを590nmにて測定した。希釈液及びキシラナーゼ量を考慮しつつ、試料の活性(TXU:Total-Xylanase-Units)が標準と相対的に算出された。
【0107】
プロトコール2;粘度プロトコール(粘度測定)
生地の粘度を、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により測定した。本プロトコールは、Chen及びHoseney(1995)が報告したプロトコールに修正を加えたものである。生地は、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400BU(Brabender Units)で作製した。小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合した。そこに水を加え、さらに5分間生地を混ぜる。できあがった生地を密封容器において30℃で、10、30又は45分間寝かせる。
【0108】
約4gの生地をDough Stickness Cellに積載する。均一に押し出すように、該生地を4mm押し出す。その後Stable Micro Systems protocol(生地の粘度を測定するTA−XT2のアプリケーション研究)に従って5回測定を行った。簡潔に述べると、1mmの生地が押し出される。TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で生地を押圧する。そのプローブを持ち上げ、生地とプローブが粘着する度合を記録する。以下のTA−XT2の設定を用いた。
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
このテストで記録した結果はピーク時の力であり、これは押し出した生地からプローブを持ち上げるのに必要な力を意味する。距離は、プローブに付着している距離を意味する。範囲は、得られた曲線の下の部分を意味する。
【0109】
生地の粘度は、使用する小麦粉の品質及びレシピに依存している。従って低粘度の生地とは、参考生地と比べて粘度が100%から200%(相対的)と幅があり、キシラナーゼを含まない生地、若しくは焼きテストにおいて同程度の嵩増量が得られるように市販の真菌性キシラナーゼ(Pentopan mono BG, Novo Nordisk社製)を添加したときの粘度に対し、その粘度が好ましくは70%(相対的)未満である生地をいう。
【0110】
プロトコール3;阻害剤アッセイプロトコール(阻害剤アッセイ)
単離及び特徴化の過程で阻害剤を検出するには、以下のアッセイを用いる。100μlの阻害剤画分、250μlのキシラナーゼ溶液(12TXU/mlを含む)、及び650μlの緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)を混合する。この混合液を40.0℃で5分間サーモスタットで調節する。反応開始5分後にXylazyme剤1個を加える。反応開始15分後に10mlの2%TRISを添加して、反応を終了させた。かかる反応混合液を遠心分離(3500g、10分間、室温)にかけ、上清を590nmで測定した。阻害剤は、残留活性としてブランクとの比較において測定した。ブランクも同様にして調製するが、100μlの阻害剤は100μlの緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)と置き換えた。例えばXM−1は、阻害剤に対し高耐性を示すと考えられる(図20参照)。XM−2及びXM−3は、阻害剤に対し中程度の耐性を示すと考えられる(図20参照)。
【0111】
プロトコール4;グルカナーゼプロトコールI(エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性 0.1M酢酸ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH5.0)でグルカナーゼ試料を希釈し、最終アッセイにおいてODが約0.7となるようにした。該試料の希釈液3種類、及び既知活性の内部標準を、40℃で5分間サーモスタットで調節した。反応開始5分後に、Xylazyme剤1個を上記酵素溶液に加えた。反応開始15分後に、10mlの2%TRISを添加して反応を終了させた。該反応混合液を遠心分離にかけ、上清のODを590nmにて測定した。希釈液及びグルカナーゼ量を考慮しつつ、試料の活性(BGU:Beta-Glucanase-Units)の標準との相対算出を行った。
【0112】
プロトコール5;阻害剤アッセイプロトコールII(阻害剤キネティックスアッセイ)
阻害剤のキネティックスを考察するために水溶性基質(Azo-xylan、Megazyme社製)を用いた。製造者のプロトコールに従い、20mMのNaPi(pH6.0)において、基質の2%(w/v)溶液を調製した。このアッセイは、基質、キシラナーゼ、及び阻害剤を40℃で5分間予熱して行った。
阻害剤の予備的な特徴化を行うために、用いたキシラナーゼを40TXU/mlまで希釈した。K1測定を行うために、キシラナーゼを約40TXU/mlまで希釈した。
反応開始後0分時に、0.5mlの基質、0.1mlのキシラナーゼ及び0.1mlの阻害剤を40℃で混合し、反応開始125分後に、2mlのエタノール(95%)を添加して反応を終了させ、続いて10秒間渦動した。加水分解されずに沈殿した基質を遠心分離(3500×g、10分間、室温)にかけて除去した。上清のODを590nmにて測定した。
【0113】
ブランクも同様にして調製した。変更を加えた点は、阻害剤を20mMのNaPi(pH6.0)に置き換えたことだけである。
基質濃度を順次減少させてキネティック実験を行うために、20mMのNaPi(pH6.0)で希釈して、2%、1%、0.5%、及び0.25%可溶性アゾキシラン(w/v)の基質濃度をそれぞれ用意した。
上記のキシラナーゼ及び基質濃度を用いてK1測定を行った。かかる測定アッセイを行うにあたり、この双方を以下の各濃度、すなわち0、2、5、10、25、50、及び100μl、の阻害剤抽出物と組み合わせた。阻害剤のモル濃度ではなく、μl阻害剤を用いることから、K1は、μl阻害剤として表される。
【0114】
要約すると本発明は以下のことを提供する。
a.小麦粉から内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を単離すること。
b.小麦粉から単離した内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を特徴化すること。
c.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤がキシラナーゼ類に及ぼす効果を特徴化すること。
d.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類を選択する方法。
e.エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類を選択する方法。
f.真菌性キシラナーゼを含む生地に比べて、好ましい嵩及び適度な粘度を備えた生地を提供するキシラナーゼ。
g.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を用いたキシラナーゼ類のスクリーニング方法及び/又は該キシラナーゼ類を変異させる方法、並びに該キシラナーゼ類又はそれらの変異体を生地製造に使用すること。
h.本発明のキシラナーゼ類を用いた食品の調製。
【0115】
以下の試料はブダペスト条約に基づき、公認の寄託機関であり、英国AB2 1RY、スコットランド、アバディーン、マーチャードライブ、23St.に所在するThe National Collections of Industrial and Marine Bacteria Limited (NCIMB)に1998年12月に寄託された。
DH5α::pCR2.1#BSキシラナーゼ NCIMB番号NCIMB 40999
BL21(DE3)::pET24A#XM1 NCIMB番号NCIMB 41000
BL21(DE3)::pET24A#XM3 NCIMB番号NCIMB 41001
DH5α::pCR2.1#BSキシラナーゼには、野生型キシラナーゼが含まれる。
BL21(DE3)::pET24A#XM1には、XM1キシラナーゼが含まれる。
BL21(DE3)::pET24A#XM3には、XM3キシラナーゼが含まれる。
本発明はまた、これらの寄託物に由来し、及び/又はこれらの寄託物から発現される配列、並びにそれらの配列を含む実施例を包含するものである。
次に図面を参照しながら、例を挙げるだけではあるが、本発明を説明する。
図1〜図10、図12〜図16及び図18〜図31はグラフであり、図11はSDS PAGE実験の結果を示す画像であり、図17はIEF実験の結果を示す画像である。
【実施例1】
【0116】
実施例1(異なる種類のキシラナーゼを用い、添加量及び寝かせ時間を変えて作製した生地の粘度)
生地に粘度を与える以下のキシラナーゼ能をテストした。(W.Z. and Hoseney, R.C. (1995). Development of an objective method for dough stickiness. Lebensmittel Wiss u.-Technol., 28, 467-473も参照されたい)
(酵素)
「X1」は、Aspergillus niger由来のエンド−β−1,4−キシラナーゼを精製した試料のことである。このキシラナーゼは、8400TXU(15000TXU/mg)の活性をもつ。
「Novo」は、Thermomyces由来のNovo Nordisk's Pentopan Mono BGのことである。このキシラナーゼは、350000TXU(56000TXU/mg)の活性をもつ。
「BX」は、新規の細菌性キシラナーゼを精製した試料のことである。この試料は、2000TXU(25000TXU/mg)の活性をもつ。
「R▲o▼hm」は、R▲o▼hm GmbH社製の細菌性キシラナーゼであるVeron Specielのことである。この試料は、10500TXU(25000TXU/mg)の活性をもつ。
【0117】
(キシラナーゼアッセイ)
キシラナーゼアッセイは、プロトコール1に従って行った。
(小麦粉)
この実験においては、デンマーク産小麦粉(バッチ番号98022)及びドイツ産小麦粉(バッチ番号98048)の2種類の小麦粉を使用した。400BUにおける上記2種類の小麦粉の水分吸収率は、それぞれ58%及び60%であった。
(生地の調製)
生地は、プロトコール2に従って調製した。生地を混合した後、密封容器において30℃で、それぞれ10分間及び45分間寝かせた(粘度測定)
粘度は、プロトコール2に従って測定した。
(真菌性キシラナーゼと新規細菌性キシラナーゼの比較)
以下の生地を作り、10分後及び45分後における小麦粉98048の生地の粘度を測定した。2種類の真菌性キシラナーゼ、及び1種類の細菌性キシラナーゼの添加量を変えて(表2参照)、生地を作製した(分量は小麦粉1kgに対するもの)。
【0118】
【表2】
【0119】
表2における生地から、表3及び図1に示す生地の粘度に関する結果が導きだされる。種々のキシラナーゼを、その分量を様々に変えて添加し、生地を製造してブランクと比較した製造した生地は、それぞれ10分間及び45分間寝かせた。表3には、粘度がg×sとして表わされ、粘度の測定結果は、5回測定を行った平均値で示されている。上記表3のデータは、図1に示されている。表3及び図1から、真菌性キシラナーゼX1及びNovo生成物中に含まれるキシラナーゼが生地の粘度を上昇させていることがわかる。新規細菌性キシラナーゼを加えたときには、X1及びNovoと同様の粘度にはならず、さらにコントロールと比較しても該新規キシラナーゼの粘度は減少していた。
【0120】
【表3】
【0121】
(新規細菌性キシラナーゼとR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの比較)
新規細菌性キシラナーゼの機能を、R▲o▼hm製品の細菌性キシラナーゼであるVeron Specialとの比較において考察するために、小麦粉98022を使用して以下の生地を製造した。2種類の細菌性キシラナーゼの添加量を変えて(表4参照)、生地を作製した(分量は小麦粉1kgに対するもの)。表4に示す生地から、表5及び図2に示す生地粘度の結果を得た。表5には、粘度がg×sとして表わされ、粘度の測定結果は、5回測定を行った平均値で示されている。表5に示すデータを、図2に図示した。この結果から、BX(新規の細菌性キシラナーゼ)を加えた生地の粘度は、テストした真菌性キシラナーゼの粘度に比べ、非常に低いことが明らかになった。さらに新規の細菌性キシラナーゼを加えると、R▲o▼hm細菌性キシラナーゼとの比較において生地の粘度が減少することもわかった。
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【実施例2】
【0124】
実施例2(阻害剤の精製、特徴化、及びキシラナーゼに与える効果)
(小麦粉)
種類の異なる3種類の小麦粉(バッチ番号98002、98026、及び98058)を使用して以下の実験を行った。小麦粉バッチ番号98002及び98058はデンマーク産の小麦粉である。小麦粉バッチ番号98026はドイツ産の小麦粉である。
(阻害剤抽出)
氷温の蒸留水を用いた撹拌により、阻害剤を小麦粉から抽出した。小麦粉1に対し、2の氷温蒸留水を加えた。この混合物に磁気バーを加え、氷浴させて20分間撹拌した。小麦粉を撹拌した後、スラリーを遠心分離器のバイアルに入れ、遠心分離(10000g、4℃で10分間)にかけた。上清にはキシラナーゼ阻害剤が含まれていた。
(阻害剤アッセイ)
プロトコール3に従って阻害剤アッセイを行った。
【0125】
(阻害剤の単離)
100gの小麦粉試料(98026)を抽出した後、クロマトグラフィー法によりキシラナーゼ阻害剤の精製を行った。
(ゲル濾過クロマトグラフィー(2回実施))
75mlの抽出物を、500mlSupredex G-25F(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに10ml/分の割合で投入し、20mMのNaOAc(pH4.25)でキャリブレートした。溶離液を同一フローにおいて、30ml画分として回収した。これら全ての画分において阻害活性が認められた。
【0126】
(陽イオン交換クロマトグラフィー(2回実施))
ゲル濾過のランから回収された阻害剤のピーク(240ml)を50mlSP Sepharose(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに5ml/分の割合で投入した。阻害剤投入後、A緩衝液(20mMのNaOAc、pH4.25)を用いて、このカラムをベースラインまで洗浄した。同じフローにおいて、10カラムボリュームを超えるA緩衝液からB緩衝液(B:A+350mMのNaCl)に至るリニアグラディエントによって阻害剤を溶離させた。この溶離液を10ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。
【0127】
(疎水性相互作用クロマトグラフィー(2回実施))
陽イオン交換クロマトグラフィーによって得られた阻害剤のピーク(110ml)に、(NH4)2SO4を加えて1.0Mとし、10mlPhenyl Sepharose HIC(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに2ml/分の割合で投入した。A(20mMのNaPi、1Mの(NH4)2SO4、pH6.0)からB(20mMのNaPi、pH6.0)緩衝液に至る12カラムボリュームのリニアグラディエントによって、阻害剤をカラムから溶離させた。かかる溶離液を2.5ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。(この実験は2回実施した)
【0128】
(分取ゲル濾過クロマトグラフィー)
回転式蒸発装置を使って、HICランで得られた5mlの阻害剤ピークを2mlに濃縮した。この試料を330mlSuperdex 75PG(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに1ml/分の割合で投入した。50mMのNaOAc及び0.2MのNaClからなる緩衝液系(pH5.0)を用いた。溶離液は5.5ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。
【0129】
(プロテアーゼ活性分析)
見いだされた阻害剤効果が、阻害剤によるものか、或いはキシラナーゼを加水分解するプロテアーゼによるものかを確認するために以下の実験を実施した。
(インキュベーションテスト)
2mlの精製キシラナーゼである980601(エンド−β1,4−キシラナーゼを参照のこと)を、0.25mlの阻害剤抽出物共存下において40℃で3時間インキュベーションした。コントロールとして、煮沸(5分間)した阻害剤抽出物を同様にインキュベーションした。インキュベーション後、各試料に50mMのNaOAc(pH4.5)を加え2.5mlとし、PD-10カラム(スウェーデン、Pharmacia社製)を使ったゲル濾過によって脱塩し、50mMのNaOAc(pH4.5)において3.5mlの試料を得た。
【0130】
(加水分解分析)
インキュベーションで得られた精製キシラナーゼ2種類の試料を、SOURCE 15 Sカラムを使って分析した。ゲル濾過した試料1mlを上記カラム(A緩衝液(50mMのNaOAc、pH4.5)でキャリブレートした)に2ml/分の割合で投入した。20カラムボリュームを超えるAからB(B:A+1M NaCl)のリニアグラディエントによって試料を溶離させ、2ml画分として回収した。OD280nmでキシラナーゼが検出され、得られた画分(100μl画分+900μl緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)+1Xylazyme剤、10分間、40℃。10mlの2%TRISを加え反応を終了した。青色=キシラナーゼ活性)の中にキシラナーゼ活性がみられた。
【0131】
(阻害剤の特徴化)
(分析用ゲル濾過クロマトグラフィー)
HICランで得られた阻害剤ピーク100μl(回転式蒸発装置を用いて2回濃縮)を、24mlSuperdex 75 10/30(スウェーデン、Pharmacia社製)に0.5ml/分の割合で投入した。50mMのNaOAc及び0.1MのNaClからなる緩衝液(pH5.0)をランニング緩衝液として用いた。溶離液は、2ml画分として回収した。これらの画分全てにおいて阻害剤が認められた。
かかる阻害剤の大きさを測定するため、24mlSuperdex 75 10/30カラムに、公知のタンパク質を連続して投入した。このランを実行するときの条件は上述のとおりである。使用した標準タンパク質は以下のとおりである。
タンパク質 大きさ(KDa)
BSA 67オバルブミン 43キモトリプシン 25リボ核酸A 13.7上記タンパク質は、280nmにて測定した。
【0132】
(SDS PAGE)
調製ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分に、SDS試料緩衝液(NOVEX社のプロトコールによって調製)を加え3分間煮沸し、8−16%PAGEゲル(NOVEX社製)にかけた。このゲルを、NOVEX社のシルバー染色プロトコールに従って染色した。分子量マーカーとしてPharmacia社のLMWマーカーを使用した。
【0133】
(Isoエレクトリックフォーカシング(IEF))
無処理の阻害剤のplを測定するため、精製阻害剤試料(330mlSuperdex 75 PGによる画分33)を、pH3-10 IEF GEL(NOVEX)にかけた。ゲルに対するランは、製造者のプロトコールに従って実行した。標準として、Pharmacia社(スウェーデン)のBroad Pl kit, 3.5-9.3を用いた。ゲルは、製造者のプロトコールに従って、クマシブリリアントブルーに染色した。
【0134】
(クロマトフォーカシングクロマトグラフィー)
調製ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33の試料を、水に対してゲル濾過した。100μlの脱塩した試料を、Mono P HR 5/5(Pharmacia社製、スウェーデン)にかけた。25mMのエタノールアミン−HCl(pH9.4)により、開始条件を設定した。このカラムをPoly緩衝液96と水との割合が、1:10において溶離した。pHは6.0に調整した(フロー:0.5ml/分、画分サイズ:0.5ml)。Poly緩衝液96による溶離後、Poly緩衝液74と水との割合が1:10において、該カラムをさらに溶離させた。
プロトコール3により、全画分のpHを測定し、キシラナーゼ阻害剤を示した。
【0135】
(アミノ酸配列)
調製精製法によって得られた精製阻害剤の試料(330mlSuperdex 75 PGによる画分33から得た)が用いられた。該試料200μlを、C4 Reverse Phase column(Applied Biosystems)にかけた。A:水に0.1%TFAを添加したもの、及びB:100%アセトニトリルに0.1%TFAを添加したものを緩衝液系として用いた。このランによる阻害剤ピークを、カルボキシメチル化して、C4カラムにて再度ランを実行した。かかる方法によって、目的とする阻害剤ペプチド2種を得た。これらのペプチドのN末端における配列決定を行った。さらに上記ペプチド2種をLys-Cによって消化した。逆相クロマトグラフィーにより、得られたペプチドを回収してアミノ酸配列決定した。アミノ酸配列決定により得られた配列を確認するため、目的試料の小断片をMS(Voyager社製)を用いて分析した。
【0136】
(阻害剤キネティックス)
プロトコール5に従って、阻害剤アッセイを行った。この点に関し、阻害剤に対する予備的な特徴化を行うために用いたキシラナーゼは980601であり、このキシラナーゼを40TXU/mlまで希釈し、小麦粉98002から阻害剤を抽出した。K1測定を行うために用いたキシラナーゼは、980601、980603、980801、980901、980903、980906、及び980907であり、これらのキシラナーゼを約40TXU/mlに希釈して用いた。K1測定に用いた阻害剤は、小麦粉98058から抽出した。
【0137】
(pHとの関連における阻害剤の測定)
プロトコール3に以下の修正を加えて実験を行った。650μl、pH5.0の緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム)を本アッセイで使用するが、これ以外にもpHが4、6、及び7である同じ緩衝液系も本アッセイに使用できる。
【0138】
(エンド−β−1,4−キシラナーゼ類)
以下のキシラナーゼ調製物を使用した。
980601(BX):大腸菌において発現されるDaniscoの新規細菌性キシラナーゼの精製調製物(1225TXU/ml)
980603(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hmのものと同一)の精製調製物(1050TXU/ml)
980801(X1):Aspergillus niger由来の精製X1(8400TXU/g)
980802(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hmのものと同一)の精製調製物(265TXU/ml)
980901(Novo):Novo's Pentopan mono BG由来のThermomycesキシラナーゼの精製調製物(2900TXU/ml)
980903(XM1):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(1375TXU/ml)
980906(XM3):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(1775TXU/ml)
980907(XM2):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(100TXU/ml)
9535(X3):Aspergillus niger由来の精製キシラナーゼX3(6490TXU/ml)
【0139】
(単離及び特徴化のための阻害剤抽出)
小麦粉(98026)100gを抽出した。遠心分離にかけた後、150mlの上清を得た。この抽出物における阻害剤の存在を調べたところ(表6)、その結果はポジティブだった。表6には、キシラナーゼ980601を使用し、小麦粉(98026)阻害剤抽出物の+/−添加による残存活性の結果が示されている。
【0140】
【表6】
【0141】
(阻害剤単離)
阻害剤抽出物75mlを500mlゲル濾過カラムにかけた(図3)。阻害剤を検出したところ、画分[4〜11]において阻害剤が認められた。75mlの阻害剤抽出物をゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分のキシラナーゼ阻害剤アッセイを行った。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。表7に示されるように、画分[4〜11]において阻害剤が認められた。かかる阻害剤をそれぞれのランでプールし、プールした量は2回分で240mlだった。
【0142】
【表7】
【0143】
ゲル濾過カラムの両ランにおける阻害剤ピークのプールは、約240mlだった。ゲル濾過で得た240mlのプールを陽イオン交換器を用いて2回処理した。フロースルーの結果は阻害剤ネガティブだった。図4及び表8から明らかなように、約750mMのNaClにおいて阻害剤はカラムに結合し、溶離した。
ゲル濾過した阻害剤抽出物240mlを陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られた画分のアッセイを行って、キシラナーゼ阻害剤の存在を確認した。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。画分[44〜54]において阻害剤が存在していた。
【0144】
【表8】
【0145】
陽イオン交換のランで得られた阻害剤のプールは、1ランにつき110mlだった。これらプールした2画分に、(NH4)2SO4を加えて1.0Mにし、2回のランでHICカラムにかけた。フロースルーで阻害剤を検出したところ、ネガティブだった。図5及び表9から明らかなように、全ての阻害剤がカラムに結合し、好ましい分離を得ることができた。HICクロマトグラフィーによる画分分析の結果が表9に示されている。
147mlの阻害剤抽出物をHICクロマトグラフィーにかけて得られた画分のキシラナーゼ阻害剤のアッセイを行った。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。画分[15〜23]に阻害剤が存在していた。HICクロマトグラフィーで得られた画分17及び18を2回程度濃縮し、分取ゲル濾過カラムにかけた(図6)。
【0146】
【表9】
【0147】
かかる予備的濾過カラムにおける画分の分析結果を表10に示す。表10には、濃縮阻害剤試料2mlを分取ゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分におけるキシラナーゼ阻害剤の存在を確認するアッセイの結果が示されている。画分[31〜33]において阻害剤が存在していた。
【0148】
【表10】
【0149】
(プロテアーゼ活性分析)
キシラナーゼ阻害剤に関する上記のアッセイからは、小麦粉抽出物と混合したときのキシラナーゼ活性低下が、キシラナーゼのタンパク質分解性加水分解に依るものではない可能性を除外することはできない。そこで精製キシラナーゼを「阻害剤」抽出物共存下でインキュベートした。図7及び8から明らかなように、加水分解は生じなかったと考えられる。活性阻害剤のクロマトグラムの方が、少しではあるが、バックグラウンドが大きかった(図8)。しかし、このバックグラウンドは阻害剤のみのクロマトグラムに相当している(阻害剤のクロマトグラムは示さず)。バックグラウンドの差は、煮沸した阻害剤試料の沈殿によるものである。
【0150】
(阻害剤の特徴化)
(分析用ゲル濾過クロマトグラフィー)
2回目のHICランの画分18における2回濃縮した阻害剤試料100μlを、24ml分析用Superdex 75 10/30(Pharmacia社製、スウェーデン)にかけた(図9)。溶離液を2ml画分として回収した。これらの画分のキシラナーゼ阻害剤アッセイを行った。濃縮阻害剤試料100μlを分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分におけるキシラナーゼ阻害剤の存在をみるためにアッセイを行った結果が表11に示されている。画分[6〜7]において阻害剤が認められた。
【0151】
【表11】
【0152】
濃縮した(up-concentrated)阻害剤試料をゲル濾過した後、4種類の標準分子量タンパク質を、全く同じ手順でカラムにかけた(クロマトグラフは示さず)。表12に、上記タンパク質の分子量及び溶離時間をまとめた。標準タンパク質を阻害剤の分子量(MW)測定のために用い、表12中の略語及び数式は表下に示した。
【0153】
【表12】
【0154】
Kavの作用としてlog(MW)をプロットする。公式化ができることから、未知分子の分子量を推定できる(図10)。図10から導き出された公式、及び阻害剤の保持時間から、阻害剤の分子量の算出が可能になる。
MW、kDa=10(-2.4485×Kav+1.9602)
=10(-2.4485×0.173559+1.9602)
=101.5352
=34.29
【0155】
計算した阻害剤の分子量は、本発明者らがRouau及びSurget(1988, Evidence for the presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flour. Journal of Cereal Science. 28:63-70)の報告をもとに予想していたより高く、そのMW(分子量)は約8KDaだった。ゲル濾過により算出されるMWは、阻害剤分子数種が集合することから説明し得る。詳細を知るために、分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得た画分31、32、及び33に対して、SDS PAGEゲルのランを実行した(図11)。上記ゲルに示されるように、精製した阻害剤試料と共に処理したレーンに3つのバンドが現れた。これらのバンドは分子量が約40、30、及び10kDaであるタンパク質に相当する。
【0156】
(MSを用いた分子量測定)
分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得た阻害剤の画分33を、Presorbシステム及び5容量の20mM酢酸により脱塩した。脱塩処理した画分200μlを、C4 Reverse Phase column(Applied Biosystems)にかけた。このランにおいてはピークが3つ認められた。これらピークの内の1つ(ピーク3)が明らかに優勢であり、阻害剤であると考えられた(図12)。このランで認められた他の2つのピークについても配列決定した。得られた配列から、これらは全て同じ小麦粉タンパク質Serpin由来であり、阻害剤(ピーク3)と同一ではなかった。よってピーク3が目的とするキシラナーゼ阻害剤であるとの結論が得られた。MS(Voyager社製)を用いて、ピーク3の特徴化をさらに行った。シナピン酸をマトリックスとして用いたMS分光分析により、39503Daのタンパク質に相当するシグナルが認められた(図13)。
【0157】
上述したように、SDS PAGEゲルからは3つのバンドが認められた。10kDa近辺、30kDa近辺、及び40kDa近辺にそれぞれ1つのバンドがみられた。SDS−PAGEの結果を説明するために、上述の条件と同一条件下で、精製したドミナント画分を回収し、減圧凍結乾燥し、カルボキシメチル化した後、C4カラムに戻した。カラムに戻したことにより得られた画分(図14)をMSにより分析した。図15、16から明らかなように、これらのポリペプチドの分子量(MW)は、12104及び28222Daだった。かかるキシラナーゼ阻害剤は、元々ジ−ペプチド(MW39503Da)であったか、或いは分析過程において変性及び還元(MWがそれぞれ12104及び28222Daである2つのペプチド)されたかのどちらかであると考えられる。
【0158】
(IEF及びクロマトフォーカシングクロマトグラフィーによるキシラナーゼ阻害剤のpl測定)
IEFゲルにおいては、アルカリ性領域に3つのバンド(それぞれ約9.3、8.6、及び8.2)が認められ、酸性領域に3つのバンド(それぞれ5.1、5.3、及び5.5)が認められた(図17)。この結果からだけでは、無処理のキシラナーゼ阻害剤のplを決定するのは無理であると考えられる。この点に関しては、かかる試料にはキシラナーゼ阻害剤及び約4500DaのSerpinの3断片だけが含まれていることが、配列決定から明らかになっている。Serpinのplを理論的に計算した結果は5.58であり、配列決定により得られた断片により計算したplは5.46(Swiss Prot programmesを使用した)だった。このことから、上記ゲルにみられた3つの酸性バンドは、逆相クロマトグラフィー(図12)で認められたSerpinの3つのピークであり、また3つのアルカリ性バンドは、キシラナーゼ阻害剤の異なる3形態(天然のジ−ペプチド形態、及び2つのペプチド)であることが示唆される(配列決定から示唆される)。
【0159】
図18に示すクロマトフォーカシングクロマトグラフィーの結果から明らかなように、キシラナーゼ阻害剤は所定の条件下ではカラムに結合しない。これは天然のキシラナーゼ阻害剤のplは8.5若しくはそれ以上であることを意味する。よって上述の推定、つまりIEFゲル上に3つのアルカリ性バンドがあることから3種類のキシラナーゼ阻害剤の形態が考え得るという推定は正しいと思われる。
天然のキシラナーゼ阻害剤のplは、8.0〜9.5の間であると結論づけられる。かかる幅内に3つのバンドがある。かかる3バンドは恐らく3形態で存在していると考えられるキシラナーゼ阻害剤に相当している(IEFによる結果を参照されたい)。この点に関して、IEFを用いるときには、タンパク質は天然のタンパク質のままランを行うが、ジ−ペプチドタンパク質の中にはIEF法により部分的に損傷を受けるものがあり、その結果1以上のバンドが出現することがある。
【0160】
(配列データ)
阻害剤を形成する2つのペプチドは配列決定され、N末端及び内在配列が決定された。配列決定の結果は、添付の配列表に配列番号13〜19として示した。
第1鎖(A鎖)を形成する配列を、配列番号13及び14として示した。第2鎖(B鎖)を形成する配列を配列番号15〜19として示した。配列決定したポリペプチドと相同性を有するポリペプチドをデータベース上で検索したが、その結果はネガティブだった。いずれのポリペプチドも、かつて配列決定されたことも記載されたこともなかった。
【0161】
(種類の異なるキシラナーゼ類に対する阻害剤の効果)
種々のキシラナーゼの阻害を考察する目的でいくつかの実験を行った。先ず本発明者らは、キシラナーゼ活性の低下は、抽出物におけるタンパク質分解作用によるものであると考えた。そこで「阻害剤」抽出物の分量を様々に変えて、種々のキシラナーゼをインキュベートした(図19)。かかるキシラナーゼ類は、程度の差はあれ阻害を受けていた。「阻害剤」濃度条件により、阻害活性が上昇することも見いだした。図19に示す結果から、タンパク質分解作用又は阻害剤によりキシラナーゼ活性が低下することが示された。しかし一定のキシラナーゼ及び一定濃度の阻害剤による経時実験の結果、並びに「プロテアーゼ活性分析」に基づく上述の結果からは、活性低下が時間の経過に伴って生じることを明らかにできなかった。プロテアーゼと阻害剤を識別するために正式なキネティックスを行った(「阻害剤キネティックス」を参照のこと)。
【0162】
Bacillus subtillisキシラナーゼ2種を、そのベーキングに及ぼす効果に着目して詳細に研究した。これらのキシラナーゼは機能的に若干違いがみられ、同量を添加して焼いたときに1種類のキシラナーゼを添加した製品の嵩が幾分大きかった。その理由の1つとして、小麦粉において上記キシラナーゼ類の活性が阻害される程度が異なることが挙げられる。このことを確認するために実験を行った。阻害剤の供給源として小麦粉を2種類用い、かかる実験を2回繰り返して行った。表13には、種類の小麦粉(98002及び98026)から抽出した阻害剤により、2種類のキシラナーゼ(980601及び980603)が受ける阻害の結果が示されている。阻害は、%阻害及び%残存活性として算出し、ブランクと比較した。かかる実験からこれら2種類のキシラナーゼは、阻害剤によって程度の差はあるが阻害されることがわかる。上記キシラナーゼ2種は、6アミノ酸が異なるだけである。
【0163】
【表13】
【0164】
980601を基礎として3種のキシラナーゼ変異体を作出した(XM1、XM2、及びXM3)。これらの変異体を分析して阻害を調べた(図20)。図20から明らかなように、上記変異体3種における残存活性は異なるが、これはキシラナーゼ阻害剤により異なる程度の阻害を受けていることを意味している。5種類のキシラナーゼの内4種類(BX、R▲o▼hm、XM1、及びXM3)のキシラナーゼが同じ特異的活性(約25000TXU/mgのタンパク質)を備えている。XM2は同様の特異的活性を有していると予想される。XM1とXM2における阻害の差は、約250%である(XM1の残存活性は、XM2の静止活性の2.5倍と高い)。この差は1個のアミノ酸に起因する。XM2のアミノ酸122は、アルギニンからアスパラギンに変化し、活性部位近辺で陽電荷の減少をもたらす。
【0165】
(阻害剤キネティックス)
阻害剤が拮抗阻害剤であるか非拮抗阻害剤であるかを決定することだけを対象として、簡便な予備的キネティックスを行った。一定のキシラナーゼ及び一定の阻害濃度条件下で、基質の量を様々に変化させてインキュベートした(図21)。図21からわかるように、阻害剤存在下のキシラナーゼ及び阻害剤非存在下のキシラナーゼ双方のVmaxは、約1.19だった。このことからこの阻害が拮抗阻害であることが示唆される。
上述の予備的阻害実験では、検討したキシラナーゼ類の間でK1値が異なることを示していたため、キシラナーゼ数種の正式なK1値を測定した。図22のデータが示すように、キシラナーゼ種間におけるK1値には有意の差がみられた。簡単な予備的阻害の特徴化により示された結果が、このことから確認された。
【0166】
(pHと阻害との関係)
異なるpHにおいてキシラナーゼ阻害剤の存在が容易に認められることから、キシラナーゼ阻害にpHが何らかの影響を及ぼしていると考えられる。そこでかかる影響を調べるために実験を行った。図23から明らかなように、キシラナーゼ阻害はpHの影響を受ける。図24には、キシラナーゼに対する最適pHが示されている。これらの2曲線を比較すると、Novoキシラナーゼ(980901)のpH4での測定を別にすれば、キシラナーゼにとっての最適pHにおいて最大阻害が生じることがわかる。
【0167】
本発明のアッセイにより測定した阻害率が、生地と関連性を有しているかを調べるために計算を行った。
阻害剤抽出
小麦粉(グラム): 6
水(ml): 12
小麦粉g/ml: 0.5
アッセイにおける小麦粉(g): 0.05
キシラナーゼ溶液
TXU/ml: 12
アッセイでのTXU/ml: 3
阻害剤:キシラナーゼの割合
小麦粉TXU/kg:60000(阻害剤アッセイ時)
小麦粉TXU/kg:3000(ベーカリーへの使用時)
上記の計算から、アッセイにおける阻害剤:キシラナーゼの割合は、生地に含まれるときの割合よりも、アッセイにおける割合の方が20分の1と低い結果になった。これはキシラナーゼが生地に含まれるときに、より顕著に阻害されることを意味している。しかしながら、移動度及び水分活性は生地における方が低く、このことが阻害に影響を及ぼしているとも考えられる。
【0168】
小麦粉には、内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が存在している。かかる阻害剤は、水を用いた簡便な抽出法により小麦粉から抽出でき、この阻害剤が水溶性であることを示している。阻害剤はゲル濾過、イオン交換、及び疎水性相互作用クロマトグラフィー技術により精製される。
分析用ゲル濾過クロマトグラフィー、SDS PAGE、逆相クロマトグラフィー、及びMSを用いた精製阻害剤の特徴化により、約40kDaのポリペプチドが見いだされた。このポリペプチドは、分子量がそれぞれ12104及び28222Daである2つのペプチドを含むジ−ペプチドであることが判明した。上記精製阻害剤(厳密には2つのペプチド)は、N末端で配列決定され、次に、得られたペプチドの消化及び配列決定を行った。
【0169】
阻害剤を用いた予備実験は、キシラナーゼ活性の低下は、タンパク質分解作用に起因することを示している。しかし、インキュベーション(キシラナーゼ+阻害剤)の分析結果及び阻害剤のキネティックスは、観察されたキシラナーゼ活性の低下は、拮抗阻害によるものであることを示している。
キシラナーゼ数種類を用いた阻害剤実験からは、阻害剤に対する感受性の違いが見受けられる。キシラナーゼの中には、阻害剤によってほぼ100%阻害されるものも数種類ある(小麦粉においてよりも、低い阻害剤:キシラナーゼの割合)。pHを様々に変化させて阻害剤アッセイを行ったところ、阻害剤はアッセイにおいては、高度にpH依存性であることが判明した。キシラナーゼ変異体を調べたところ、アミノ酸を1個換えることは、阻害を250%減少させることを意味した。
【0170】
上述の結果を確認するために、キシラナーゼ数種のK1値を測定した。その結果から、使用したキシラナーゼの種類によってK1値が異なることが判明し、予備結果においてみられたキシラナーゼと阻害剤に対する耐性の違いとの相関関係が確認された。
【実施例3】
【0171】
実施例3(ベーキングテスト)
以下のデータは、XM1変異体を使ったベーキング実験から得たものである。かかる新規のキシラナーゼ変異体が、嵩の点において明らかにBX(Bacillus subtilis野生型)に勝っていることが、このデータから読みとれる。粘度測定結果からは、上記2種のキシラナーゼ間に有意の差は認められなかった。
(酵素)
980902(BX):大腸菌において発現され、精製したBacillus sub.野生型キシラナーゼ(2000TXU/ml)
980903(XM1):大腸菌において発現され、精製したBacillus sub.野生型キシラナーゼ変異体(1375TXU/ml)
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉、バッチ番号98022
【0172】
(ベーキングテスト:ハードクラストロール)
小麦粉2000g、乾燥酵母40g、砂糖32g、塩32g、GRINDSTEDTMPanodanA2020 4g、水400Brabender Units+4%を、Hobartミキサーを用い、ロースピードで2分間、ハイスピードで9分間のフックで捏和した。生地の温度は26℃だった。生地を1350g計量し、30℃で10分間寝かせて、次にFortunaモールドに流し込んだ。34℃、85%RHで45分間プルーフした後、Bagoオーブンで220℃で18分間焼成し、12秒間蒸らした。
荒熱をとった後、ロールパンを計量し、パンの容積をrape seed deplacement法により測定した。
比容積= パンの容積(ml)/パンの重さ(g)
【0173】
(粘度測定)
粘度測定は、プロトコール2に従って行った。
表14から明らかなように、新規のキシラナーゼ変異体(XM1)を添加すると、BXを添加したときに比べ、パン嵩が顕著に増した。表14には、2種類のキシラナーゼ(BX及びXM1)の分量を様々に変えて添加したときのパン嵩増量分(ml/g)及び粘度(g×s)が示されている。また、表14のデータは、図25、26、及び27に示されている。
【0174】
【表14】
【実施例4】
【0175】
実施例4(XM1、R▲o▼hm Veron specialキシラナーゼ、及びR▲o▼hm Veron Specialキシラナーゼの精製物と生地の粘度との関係)
新規キシラナーゼのXM1添加により、R▲o▼hm's Veron Specialキシラナーゼ(さらに該キシラナーゼを精製したもの)を添加したときよりも、生地の粘度が増減するか否かを調べるために生地を調製し、キシラナーゼの作用結果としての粘度を測定した。
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉、バッチ番号98022を使用した。
(生地の調製)
生地は、プロトコール2に従って調製した。生地を混合し、粘度測定を行う前に密封容器において、それぞれ10分間及び45分間寝かせた。
(粘度測定)
粘度測定は、プロトコール2に従って行った。
(酵素)
980903(XM1):大腸菌において発現されるBacillus sub.野生型の精製変異体(1375TXU/ml)
#2199:R▲o▼hm Veron Specialキシラナーゼ(10500TXU/g)
980603(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hm'sと同じ)の精製調製物(1050TXU/ml)
粘度測定を行うために以下の生地を作製した(表15)。
【0176】
【表15】
【0177】
表15に示される生地を用いて、表16の粘度測定結果が得られた。表16には、精製R▲o▼hmキシラナーゼ、コントロール、XM1、及びR▲o▼hm's Veron Specialキシラナーゼを使用して調製した生地の粘度測定結果が示されている。上記データは、図28、29、及び30に示されている。
XM1を使用したときの粘度増加量は、精製R▲o▼hmキシラナーゼを使用したときの粘度増加量より少なかった。未精製のR▲o▼hmキシラナーゼを使用したときの粘度増加量は、それと比べかなり多かった。
【0178】
【表16】
【実施例5】
【0179】
実施例5(細菌性エンド−β−1,4−グルカナーゼと生地の粘度との関係)
以下の結果は、細菌性エンド−β−1,4−グルカナーゼが粘度に与える影響を調べるために行った実験から得られたものである。
(酵素)
981102−1(Xyl):Veron Special製品のR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの精製調製物に相当する。かかる調製物は精製キシラナーゼであり、エンド−β−1,4−グルカナーゼを全く含まない(350TXU/ml)。
981102−2(Xyl+Gluc):Veron Special製品のR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの精製調製物に相当し、エンド−β−1,4−グルカナーゼ(900TXU/ml+19BGU/ml)を含む。
【0180】
(キシラナーゼアッセイ)
プロトコール1に従ってキシラナーゼアッセイを行った。
(グルカナーゼアッセイ)
プロトコール4に従ってグルカナーゼアッセイを行った。
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉バッチ番号98058を使用した。400BUにおける水分吸収率は60%だった。
(生地の調製)
生地はプロトコール2に従って調製した。生地を混合した後、密封容器にて30℃でそれぞれ10分間及び45分間寝かせた。
(粘度測定)
粘度測定はプロトコール2に従って行った。表17に示した生地を作製し、粘度測定を行った。
【0181】
【表17】
【0182】
表17に示した生地により、表18に示される粘度測定の結果が得られた。表18には、キシラナーゼを添加した生地、並びにキシラナーゼ及びグルカナーゼを添加した生地の粘度測定の結果が示され、表18中の生地番号は、表17の生地番号に対応している。表18中、Stik#10は、生地を10分寝かせた後に粘度測定を行った結果を、Stik#45は、45分寝かせた後に粘度測定を行った結果をそれぞれ示す。表18から明らかなように、生地にエンド−β−1,4−グルカナーゼを添加すると、生地の粘度は増す。表18に示した結果を図31に図示した。
【0183】
【表18】
【0184】
要約すると本発明は、実施例に示しながら、以下のものを提供するものである。
a.小麦粉から内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を単離すること。
b.小麦粉から単離した内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の特徴化を行うこと。
c.種類の異なるキシラナーゼ類に対し内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が及ぼす効果の特徴化。
d.内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類の選択方法。
e.エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類の選択方法。
f.真菌性キシラナーゼ類を含む生地に比べ、好ましい嵩と程良い粘度を備えた生地を提供するキシラナーゼ類。
g.キシラナーゼ類のスクリーニング方法及び/又は内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を用いて該キシラナーゼを変異させる方法、並びに該キシラナーゼ類又は変異体を生地製造に用いる方法。
h.本発明のキシラナーゼ類を用いて調製した食品。
【0185】
本明細書において引用した全ての刊行物は、参考として引用した。当該技術の専門家であれば、本発明の範囲及びその精神から逸脱することなく、本発明において説明した方法及びシステムに様々な修正及び変更を加えることが可能であるのは明白である。特に好ましい実施例を用いて本発明の説明を行ったが、ここにクレームした発明は、これらの実施例に限定されるべきではない。実際、ここに述べた本発明の実施形態に対し、生化学及びバイオテクノロジー又はその関連分野の専門家が充分考慮し得る種々の変更は、本発明のクレームの範囲内でなければならない。
【0186】
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】キシラナーゼの種類、添加量、及び寝かせた時間と粘度の関係を示す図である。
【図2】キシラナーゼの種類、添加量、及び寝かせた時間と粘度の関係を示す図である。
【図3】75mlの阻害剤抽出試料をゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:500mlSuperdex G-25 F、フロー:10ml/分、画分サイズ:30ml
【図4】ゲル濾過にかけた240mlの阻害剤抽出試料を陽イオン交換クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:50mlSepharose SP、フロー:5.0ml/分、画分サイズ10ml
【図5】147mlのイオン交換阻害剤抽出試料に、(NH4)2SO4を加え1.0MにしたものをHICクロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:10mlPhenyl HIC、フロー:2.0ml/分、画分サイズ:2.5ml
【図6】2mlの濃縮阻害剤試料を分取ゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。阻害剤は176mlで溶離した。カラム:330ml Superdex 75 PG (Pharmacia社製)、溶離液:50mMのNaOAc、200mMのNaCl、pH5.0。フロー:1ml/分、画分サイズ:5.5ml
【図7】純粋キシラナーゼ+煮沸阻害剤抽出物の陽イオン交換クロマトグラムを示す図である。試料:1mlの脱塩980601+煮沸阻害剤抽出物。カラム:1ml Source S 15、緩衝液系:A:50mM NaOAc、pH4.5、B:A+1M NaCl。フロー:2ml/分
【図8】阻害剤抽出物共存下での3時間にわたるインキュベーション後の純粋キシラナーゼの陽イオン交換クロマトグラムを示す図である。試料:1mlの脱塩980601+阻害剤。カラム:1ml Source S15、緩衝液系:A:50mM NaOAc、pH4.5、B:A+1M NaCl。フロー:2ml/分
【図9】100μlの濃縮阻害剤試料を分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。阻害剤は10.81mlで溶離した。カラム:24ml Superdex 75 10/30(Pharmacia社製、スウェーデン)、溶離液:50mM NaOAc、100mM NaCl、pH5.0、フロー:0.5ml/分、画分サイズ:2.0ml
【図10】Superdex 75 10/30でランにかけて標準タンパク質のKavとLog(MW)との関係を調べた結果を示す図である。
【図11】分取ゲル濾過により得られた画分31、32及び33のSDS PAGEの結果を示す図である。1列目及び3列目は、MWマーカーである(Pharmacia's LMW markers,スウェーデン)。2列目及び4列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分32である。6列目及び8列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分31である。7列目及び9列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分33である。
【図12】ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33の逆相クロマトグラムを示す図である。クロマトグラムでは4つのピークが明確に示されている。ピーク3はキシラナーゼ阻害剤である。ピーク4、5、及び6の配列決定を行ったところ、小麦タンパク質であるSerpinと高度な相同性を示した。
【図13】逆相クロマトグラフィーで得られた画分3のMSの結果を示す図である。分光分析から、分子量39503Daの分子が一個見いだされた。
【図14】画分33を逆相クロマトグラムにかけて得られたカルボキシメチル化された画分3(図12参照)を逆相クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。かかるクロマトグラムでは、ジ−ペプチドを示唆する2個の明確なピークが明らかになった。
【図15】カルボキシメチル化逆相クロマトグラフィー(図14参照)で得られた画分2をMSにかけた結果を示す図である。分光分析から分子量12104Daのペプチドが明らかになった。
【図16】カルボキシメチル化逆相クロマトグラフィー(図14参照)で得られた画分3をMSにかけた結果を示す図である。分光分析から分子量28222Daのペプチドが明らかになった。
【図17】分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33及び34をIEFにかけた結果を示す図である。2列目はpl3〜10標準、3列目はpl2.5〜6.5標準、4列目及び5列目はそれぞれ画分33及び画分34、6列目はトリシン阻害剤(pl4.55)、7列目はβ−ラクトグロブリン(pl5.20)、また8列目及び9列目はそれぞれ画分33及び34である。矢印は、認められた画分33のバンドを示す。
【図18】キシラナーゼ阻害剤のクロマトフォーカシングクロマトグラフィーから明らかになった、pH及び相対的OD(阻害剤アッセイより)と画分との関係を示す図である。図からわかるように画分7においてODが相対的に減少しているが、これは阻害剤活性によるものである。このときのpHは9.4である。
【図19】キシラナーゼ4種類の残存活性%と、阻害剤濃度との関係を示す図である。用いたキシラナーゼ4種は、◆=X1、■=X3、×=BX、▲=Novoである。
【図20】小麦粉抽出物共存下でのインキュベーション後における980601(coli-1)、980603(Belase)、及び980601の変異体3種(XM1、XM2、及びXM3)の残存活性を示す図である。
【図21】キシラナーゼ(980601)+/−阻害剤のラインウィーバー・バークプロット(二重逆数プロット)を示す図である。基質濃度は%アゾキシランである。Vは、アッセイにおける相対的OD590である(100がS=2%のとき)。
【図22】種々のキシラナーゼのK1値をμl阻害剤として示した図である。
【図23】3種類のキシラナーゼ(980601=Bac. Sub. wt、980801=X1、及び980901=Thermomyces)の阻害とpHとの関係を示す図である。関連のブランクを基質にしてデータを得た。
【図24】3種類のキシラナーゼ(980601=BX、980801=X1、及び980901=Novo)の最適pH条件を示す図である。
【図25】比容積=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図26】比容積増加量=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図27】粘度=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図28】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後で測定した粘度と種々のキシラナーゼ調製物及びコントロールとの関係を示す図である。980603は精製したR▲o▼hmキシラナーゼを、XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図29】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後の、粘度の増加と3種類のキシラナーゼ調製物の関係を示す図である。980603は精製したR▲o▼hmキシラナーゼを、XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図30】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後の、粘度の増加と2種類のキシラナーゼ調製物の関係を示す図である。XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図31】粘度の増加とエンド−β−1,4−グルカナーゼ添加との関係を示す図である。1:キシラナーゼ無添加のコントロール生地、2:7500TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉、3:7500TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉+158BGU/kg小麦粉、4:15000TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉、5:15000TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉+316BGU/kg小麦粉を示している。10分(Stik#10)及び45分(Stick#45)後に生地の測定を行った。
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質に関する。特に本発明は、小麦粉に含まれる内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の単離に関し、また該阻害剤が種々のキシラナーゼに及ぼす効果を特徴化することに関する。本発明はさらに、該阻害剤を用いたスクリーニングにより同定されたキシラナーゼ、及びかかるスクリーニングにより同定された新規のキシラナーゼに関する。
【0002】
[従来の技術]
キシラナーゼは、ここ数年製パンに使用されてきた。このことに関しては、小麦粉には内胚乳細胞壁由来のアラビノキシランが含まれていることが知られている。小麦粉に含まれるアラビノキシランの量は小麦粉の種類によって異なり、Rouau et al, Journal of Cereal Science, (1994), 19, 259-272, Effect of an Enzyme Preparation Containing Pentosanases on the Bread-making Quality of Flour in Relation to Changes in Pentosan Properties、Fincher and Stone, (1986) Advances in Cereal Technology, Vol. VIII (Why Pomeranz, Ed.) AACC, St.Paul, Minnesota, 207-295、及びMeuser and Suckow (1986), Chemistry and Physics of Baking (J.M.V. Blanchard, P J Frasier and T Gillard, Eds.) Royal Society of Chemistry, London, 42-61が、文献例として挙げられる。一般的にアラビノキシラン量は、2〜5%(小麦粉乾燥量に基づく(w/w))である。
【0003】
Fincher and Stone(1986)は、内胚乳細胞壁における多糖類の70%はアラビノキシランであると報告している。アラビノキシランの特徴は、水への結合力である。アラビノキシランの一部分は不溶性ペントサン(WIP)であり、また一部分は水溶性ペントサン(WSP)である。WIPの高分子量(HMW)水溶性重合体への分解と、パン嵩との間に相関関係があることが実験結果から明らかにされている。
【0004】
パン製品の製造過程で、適正量のキシラナーゼを使用することにより、生地系(通常、塩、小麦粉、酵母、及び水からなる)がより安定することが知られており、例えばパン嵩が増したふっくらとしたパンを製造することができる。
この点に関し、パン嵩を増すために良好なキシラナーゼとは、WIPを可溶化し、WSPをキシロースオリゴマーまで分解することなく生地液の粘度を増加させるものをいう。WIPが低分子量(LMW)WSPに分解されると、生地が損なわれ、粘度増加につながると考えられている(Rouau et al and McCleary (1986) International Journal of Biological Macro Molecules, 8, 349-354)。
【0005】
米国特許5306633号明細書には、Bacillus subtilis株から得たキシラナーゼが開示されている。かかるキシラナーゼは、該キシラナーゼを含むパン及び焼き製品のコンシステンシーを改良し、嵩の増量に寄与すると考えられている。
Bacillus subtilisからはこの他にもキシラナーゼが単離され、配列決定がなされている(Paice, M.G., Bourbonnais, R., Desrochers, M., Jurasek, L. and Yaguchi, M. A xylanasse gene from Bacillus subtilis: nucleotide sequence and comparison with B. pumilus gene, Arch. Microbiol. 144, 201-206 (1986)を参照のこと)。
細菌性キシラナーゼを使用すると、非常に粘度の高い生地になると考えられてきた。そのため、Bacillus subtilis由来のキシラナーゼ(例えば米国特許5306633号明細書に開示された)を用いると非常に粘度の高い生地になると考えられていた。
【0006】
粘度増加の原因となる先行技術における酵素は、粘度が逆に効率的大量生産上の取扱いを困難にさせることがないように、その使用量を注意深く調整する必要がある。しかし使用量を注意深く調整しなければならないということは、生地製造の前にキシラナーゼを直接小麦粉に加えることができないことを意味する。従って、先行技術によるシステムでは、生地製造過程において極めて注意深くキシラナーゼを加えなければならなかった。
【0007】
真菌性キシラナーゼは、今日に至るまでベーキングに一般的に用いられてきた。例えばJ Maat et al.(Xylans and xylanases, J Visser et al著, 349-360, Xylanases and their application in bakery)は、Aspergillus niger var. awarmori株から産生されるβ−1,4−キシラナーゼについて教示している。J Maat et al.らによると、かかる真菌性キシラナーゼは、明らかにパン嵩増量に効果的であり、他の種類の真菌、又は細菌由来のキシラナーゼを用いるときにみられるような生地取扱い上の不利益(生地の粘度)を生じることなく、パン嵩を増量できると述べている。
【0008】
W Debyser et al.,(J. Am. Soc. Brew. Chem. 55(4), 153-156, 1997, Arabinoxylan Solubilization and Inhibition of the Barely Malt Xylanolytic System by Wheat During Mashing with Wheat Wholemeal Adjunt: Evidence for a New Class of Enzyme Inhibitors in Wheat)は、キシラナーゼ阻害剤が小麦粉に含まれている可能性について言及している。W Debyser et al.が論じている該阻害剤は単離されていない。さらにW Debyser et al.は、該阻害剤が内因性であるか又は微生物由来であるかについても言及していない上に、かかる阻害剤に関する化学的データも全く提示していない。
【0009】
キシラナーゼ阻害剤の小麦粉における存在については近年X Rouau and A Surget, (Journal of Cereal Science, 28 (1998) 63-70, Evidence for the Presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flours)も論じている。Debyser et al.,と同様に、Rouau and Surgetも、小麦粉の水溶性画分における、添加ペントサナーゼ活性を抑制する熱不安定性成分の存在を同定したと考察しているが、Debyser et al.,と同様に、阻害剤を単離しておらず、該阻害剤が内因性であるかあるいは細菌由来であるかについての結論を導き得なかった。かかる阻害剤に関する化学的データを提示していない点についてもDebyser et al.,と同様である。
【0010】
【非特許文献1】Rouau et al, Journal of Cereal Science, (1994), 19, 259-272, Effect of an Enzyme Preparation Containing Pentosanases on the Bread-making Quality of Flour in Relation to Changes in Pentosan Properties
【非特許文献2】Fincher and Stone, (1986) Advances in Cereal Technology, Vol. VIII (Why Pomeranz, Ed.) AACC, St.Paul, Minnesota, 207-295
【非特許文献3】Meuser and Suckow (1986), Chemistry and Physics of Baking (J.M.V. Blanchard, P J Frasier and T Gillard, Eds.) Royal Society of Chemistry, London, 42-61
【非特許文献4】Rouau et al and McCleary (1986) International Journal of Biological Macro Molecules, 8, 349-354
【非特許文献5】Paice, M.G., Bourbonnais, R., Desrochers, M., Jurasek, L. and Yaguchi, M. A xylanasse gene from Bacillus subtilis: nucleotide sequence and comparison with B. pumilus gene, Arch. Microbiol. 144, 201-206 (1986)
【非特許文献6】J Maat et al.(Xylans and xylanases, J Visser et al著, 349-360, Xylanases and their application in bakery)
【非特許文献7】W Debyser et al., J. Am. Soc. Brew. Chem. 55(4), 153-156, 1997, Arabinoxylan Solubilization and Inhibition of the Barely Malt Xylanolytic System by Wheat During Mashing with Wheat Wholemeal Adjunt: Evidence for a New Class of Enzyme Inhibitors in Wheat
【非特許文献8】X Rouau and A Surget, Journal of Cereal Science, 28 (1998) 63-70, Evidence for the Presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flours
【特許文献1】米国特許5306633号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、当該技術が抱える課題は、取扱い上の不利な性質を有さない生地からの焼き製品の生産方法に関するものであり、より詳細には、低粘度の生地(取扱い及び製造過程において問題となるほど粘度が高くない生地)をいかに提供するかということにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、かかる課題を解決する目的でなされたものであり、本発明の内容は請求項及び以下の記述に示される。簡潔に述べると本発明は、
1.内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤、該阻害剤をコードするヌクレオチド配列及びアミノ酸配列、並びにそれらの変異体、相同物又は断片
2.β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が、種々のキシラナーゼにもたらす効果を測定するアッセイ方法
3.種々のキシラナーゼが、生地にもたらす効果を測定するアッセイ方法
4.グルカナーゼ(類)が、種々のキシラナーゼ含有生地にもたらす効果を測定するアッセイ方法
5.新規のキシラナーゼ類、該新規キシラナーゼ類をコードするヌクレオチド及びアミノ酸配列、並びにそれらの変異体、相同物又は断片
6.キシラナーゼの新規な使用法
7.種々のキシラナーゼを用いて生産した食品に関するものである。
【0013】
[発明の詳細な説明]
本発明のアミノ酸配列及び/又は本発明のヌクレオチド配列には、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る構築物、本発明の配列を含むか若しくは発現し得るベクター、本発明の配列を含むか若しくは発現し得るプラスミド、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る組織、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る器官、本発明の配列を含むか若しくは発現し得る形質転換宿主、及び本発明の配列を含むか若しくは発現し得る形質転換生物が含まれる。本発明はまた、本発明のアミノ酸配列及び/又は本発明のヌクレオチド配列を発現させる方法、例えば、上記配列を転移させる方法を含め、微生物において発現させる方法に関する。
【0014】
本発明はWO−A−98/49278の教示とは異なる。なぜならかかるPCT特許出願においては、開示しているタンパク性阻害剤の配列に関する情報が最小限のものでしかないからである。
本発明の詳細について、以下に適当な見出しをつけて説明する。便宜上本発明に関し、一般的に応用可能な教示については、「一般的定義」及び「一般的教示」としたセクションにおいて述べたが、各セクションにおける教示は必ずしもそのセクションの内容に限定されるものではない。
【0015】
(一般的定義)
ここで使用する「小麦粉」なる用語は、小麦を細かくひいた粗挽き粉と同義語である。しかし好ましくは、該用語は、小麦自体から得た小麦粉を意味し、他種の穀類から得たものを意味しない。よって、特に限定しないときには、ここで使う「小麦粉」とは、生地等の媒体中に含まれる小麦粉同様、小麦粉自体を意味することが好ましい。
「キシラナーゼ」なる用語は、その通常の意味で使われる。すなわち、小麦に含まれると考えられるアラビノキシランの脱重合をそれ自体で触媒し得る酵素(すなわち、該酵素自体がWIPの可溶化の触媒能を有し、小麦に含まれるWSPの脱重合の触媒能を有する酵素)のことである。
エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性を測定するアッセイに関しては後述する。便宜上かかるアッセイを「キシラナーゼアッセイ」と呼ぶ。
【0016】
本発明において、「ヌクレオチド配列」なる用語は、ゲノムDNA、cDNA、組換えDNA(すなわち、組換えDNA技術により調製したDNA)、合成DNA、及びRNA、さらにこれらの組み合わせを含む。
好ましくは「ヌクレオチド配列」なる用語はDNAを意味する。
本発明のヌクレオチド配列は、一本鎖又は二本鎖のどちらでもよい。
本発明のヌクレオチド配列には、合成又は修飾ヌクレオチドを含んでいてもよい。当該技術分野において、オリゴヌクレオチドに対する修飾方法は、数多く知られている。かかる修飾方法には、分子の3'及び/又は5'側においてアクリジン又はポリリジン鎖を付加するメチルホスホネート(methylphosphonate)及びホスホロチオエート(phosphorothioate)をバックボーンとするものが含まれる。本発明の目的に鑑みて、本発明におけるヌクレオチド配列は当該技術分野のいかなる手法によって修飾してもよいと理解すべきである。本発明のヌクレオチド配列のインビボでの活性増強又は長期生存をはかるために、このような修飾が行われるのである。
【0017】
本発明のヌクレオチド配列及び本発明のアミノ酸配列について、「変異体」又は「相同物」なる用語は、それら配列の対立変異と同義語である。
特に、ここで使われる「相同性(homology)」とは「同一性(identity)」と同じ意味と解釈してよい。ここにいう本発明のヌクレオチド配列及び本発明のアミノ酸配列における配列の相同性は、1又は2以上の配列を別の配列と比較して、その別の配列が、元の配列と少なくとも75%一致しているかどうかをみるという、単に「目測(eyeball)」による比較(厳密な比較のこと)を行うことによって決定できる。相対的な配列の相同性(すなわち配列の同一性)は、2又は3以上の配列間における相同性割合(%)を計算する市販のコンピュータープログラムを用いて決定することも可能である。かかるコンピュータープログラムの主な例としてCLUSTALが挙げられる。
【0018】
相同性は、目視により比較可能である。しかし、容易に入手できる配列比較プログラムによる比較が、より一般的である。かかる市販のコンピュータープログラムにより、2又は3以上の配列間における相同割合が計算できる。
近接した配列間の相同割合を計算することもできる。すなわち、ある配列が別の配列と一直線上に並び、そのある配列における各アミノ酸と、もう一方の配列においてそれぞれ対応しているアミノ酸とを一残基毎に直接比較することもできる。これを「アンギャップ」アラインメント(alignment)と呼ばれ、このようなアンギャップアラインメントは、残基数が比較的少ない場合に行われる(例えば50個未満の近接したアミノ酸)。
【0019】
かかる方法は、極めて簡便かつ堅実な方法ではあるが、例えば、本来は互いに同一な配列であっても、挿入又は欠失が1個でも生じれば、以下に続くアミノ酸残基がアラインメントからはみ出すことになり、従ってこの方法をアラインメント全体に行うときには相同割合が大きく低下する可能性があることを考慮する必要がある。そのため殆どの配列比較法は、全体としての相同割合を過度に損なわない程度の挿入及び欠失を考慮した最適アラインメントを作出するようにデザインされている。このことは、局所的相同性を最大化するために、配列アラインメントに「ギャップ」を挿入することにより達成できる。
【0020】
しかしながら、上述のより複雑な方法では、アラインメントに生じるギャップの各々に「ギャップペナルティー」を割り当てており、そのため同一アミノ酸の数が同じ場合には、できるだけギャップが少ない配列アラインメントの方が(比較する二配列間の高い相関性を反映して)、ギャップが多い配列アラインメントよりも高いスコアが得られる。ギャップの存在には比較的高コストを課し、該ギャップにおいて次に現れる各残基には少ないペナルティーを課す「アフィンギャップコスト」が一般的に用いられている。これは、最もよく使用されるギャップ評価システムである。ギャップの高ペナルティーにより、少ないギャップで最適なアラインメントを作製できることはいうまでもない。殆どのアラインメントプログラムでは、ギャップペナルティーの修飾が可能である。しかし、配列比較のためにこのようなソフトウエアを使用する際には、デフォールト値を用いることが好ましい。例えば、後述するGCG Wisconsin Bestfit packageを使用するとき、アミノ酸配列に対するデフォールトギャップペナルティーは、ギャップについて−12で、各伸張部分について−4である。
【0021】
従って、相同性の最大値(%)を算出するには、ギャップペナルティーを考慮しつつ、先ず最適アラインメントを作出することが必要とされる。かかるアラインメントを実行するのに適したコンピュータープログラムは、GCG Wisconsin Bestfit package(University of Wisconsin, U.S.A.; Devereux et al., 1984, Nucleic Acids Research 12:387)である。配列比較を実施できるソフトウエアとしては、この他に、例えば、BLAST package(Ausubel et al., 1999 (Chapter 18)を参照のこと)、FASTA(Atschul et al., 1990, J. Mol. Biol., 403-410)、及びGENEWORKS suite of comparison toolsを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。BLAST及びFASTAでは、オフライン及びオンラインによるサーチが可能である(Ausubel et al., 1999, 7-58〜7-60頁を参照のこと)。しかし、GCG Bestfitプログラムを使用することが好ましい。
【0022】
相同性の最終的な割合(%)は、同一性の観点から測定できるが、アラインメントプロセス自体は通常、オールオアナッシング式の二者比較に基づくものではない。その代わりに、化学的類似性又は進化論的距離に基づく各ペアの比較評価を行う目盛りのついた類似性評価マトリックスが一般的に用いられる。かようなマトリックスのうち汎用されているものの一例としては、プログラムのBLAST suiteのデフォールトマトリックスであるBLOSUM62マトリックスが挙げられる。GCG Wisconsinプログラムでは、公知のデフォールト値、又は、もし供給されていれば特別仕様のシンボル比較表のどちらかを使用するのが一般的である(詳細についてはユーザーマニュアルを参照されたい)。GCGパッケージには公知のデフォールト値、その他のソフトウエアにはBLOSUM62等のデフォールトマトリックスを使用することが好ましい。一旦ソフトウエアが最適アラインメントを作出すると、相同割合(%)、好ましくは配列の同一割合(%)の計算が可能になる。ソフトウエアは通常、配列比較の一端としてかかる計算をし、数字で結果が出る。
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLASTで入手でき、デフォールトパラメーターを使う簡便なBLASTサーチアルゴリズムによって配列比較を行うことが好ましい。
【0023】
また本発明には、本発明のヌクレオチド配列の相補配列、その派生物、断片又はその派生物も含まれる。配列が、その断片と相補的であれば、他の生物等における類似のコード配列を同定するプローブとして、該配列を用いることができる。本発明にはまた、本発明のヌクレオチド配列とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列、並びにその派生物、断片又はその派生物も含まれる。本発明のヌクレオチド配列の相補配列、その派生物、断片又はその派生物とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列、並びにその派生物、断片又はその派生物も本発明に含まれる。「相補」なる用語は、コード配列のヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列も包含している。
【0024】
「変異体」なる用語は、ここに示すヌクレオチド配列とハイブリダイズ可能な配列の相補配列も包含している。「変異体」なる用語は、ストリンジェントな条件(65℃で0.1×SSC{1×SSC=0.15M NaCl、0.015Na3クエン酸塩pH7.0})において、ここに示すヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有する配列の相補配列を包含している。
【0025】
本発明はまた、本発明のヌクレオチド配列(相補配列を含む)とハイブリダイズすることができるヌクレオチド配列や、本発明のヌクレオチド配列(ここに示す相補配列を含む)とハイブリダイズ可能な配列の相補ヌクレオチド配列に関する。ここで「ハイブリダイゼーション」なる用語は、Dieffenbach CW and GS Dveksler (1995, PCR Primer, a Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, Plainview NY)記載のポリメラーゼ鎖反応(PCR)技術により行う増幅プロセス同様、「核酸の鎖が、塩基ペアリングにより相補鎖と結合するプロセス」(Coombs J (1994) Dictionary of Biotechnology, Stockton Press, New York NY)を含む。
【0026】
本発明の範囲には、中程度ないし最大限のストリンジェンシーにおいて、ここに示すヌクレオチド配列とのハイブリダイズ能を有するポリヌクレオチド配列もまた含まれる。Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques, Methods in Enzymology, Vol 152, Academic Press, San Diego CA)が教示しているように、ハイブリダイゼーション条件は、核酸結合複合体の溶解温度(Tm)に基づいており、それにより後述の明確な「ストリンジェンシー」が決まる。
【0027】
最高にストリンジェントな条件は、Tm−5℃(プローブのTmより5℃低い)で生じる。Tm−5℃〜10℃で高度のストリンジェンシーが生じる。Tm−10℃〜20℃で中間ストリンジェンシーが生じる。Tm−20℃〜25℃で緩やかなストリンジェンシーが生じる。当該技術の専門家であれば理解するところであるが、最高にストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーションは、同一ポリヌクレオチド配列を同定、若しくは検出するときに行い、一方、中間(又は緩やかな)ストリンジェンシーによるハイブリダイゼーションは、類似、若しくは関連ポリヌクレオチド配列を同定、若しくは検出するときに行う。
本発明は、好ましくは、本発明のヌクレオチド配列とストリンジェントな条件下(65℃で0.1×SSC)でハイブリダイズできるヌクレオチド配列を含んでいる。
【0028】
(内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤)
本発明の目的の一つは、小麦粉から得られる内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を提供することであり、本発明者らの研究の結果、かかる阻害剤は分子量約40kDa(SDS又はMSで測定)のジ−ペプチド(di-peptide)であり、そのplは、約8〜約9.5であることを見い出した。本発明において該阻害剤は、単離した形態及び/又は実質的に純粋な形態にあるものをいい、ここで「単離した」とは、該阻害剤が天然の環境下にはないことを意味する。
【0029】
現在までの配列解析によって、上記阻害剤が、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内、少なくとも1又は2以上の配列をもつことが解明されている。このように本発明は、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19、並びにそれらの変異体、相同物、又は断片の内、少なくとも1又は2以上の配列をもつエンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を包含している。
【0030】
本発明の阻害剤に関して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果生じたアミノ酸配列が、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内少なくとも1又は2以上の配列を含む阻害剤と、好ましくは少なくとも同程度の活性を有するキシラナーゼ阻害活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られる阻害剤にキシラナーゼ阻害活性が、好ましくは配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、及び/又は配列番号19の内少なくとも1又は2以上の配列を有する阻害剤と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列の相同性(配列の類似性又は配列の同一性)に関しては、添付の配列リストに示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、さらに好ましくは少なくとも85%、特に好ましくは少なくとも90%の相同性を有することが望ましい。とりわけ、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、一層好ましくは少なくとも98%の相同性を有することが望ましい。阻害剤の想定される変異体としては、現在のところ、配列番号1及び配列番号2として示される少なくとも1以上の配列を有するものを例示することができる。
【0031】
本発明の阻害剤は、多くの理由から有用である。例えば、内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の化学的な同定が公知である今日においては、研究者らは、例えば小麦に存在する該阻害剤を定量できるのである。便宜上、この方法を「阻害剤含有量測定法(Inhibitor Amount Determination Method)」と呼ぶことにする。かかる阻害剤含有量測定法により研究者らは、小麦に添加するのに適したキシラナーゼを1又は2種以上選択できるようになり、及び/又は小麦に添加する1又は2以上のキシラナーゼ類の適量を選択できるようになった。
【0032】
すなわち本発明は、(a)小麦粉における阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼを選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼの適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ、及び/又は適量のキシラナーゼを小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0033】
また本発明は、(a)小麦粉における阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼ阻害剤を選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼ阻害剤の適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ阻害剤、及び/又は適量のキシラナーゼ阻害剤を小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0034】
本発明はまた、(a)小麦粉に含まれる阻害剤の含有量又は種類を決定し、(b)小麦粉に添加するのに適したキシラナーゼ、及び適したキシラナーゼ阻害剤を選択し、及び/又は小麦粉に添加するキシラナーゼ阻害剤の適量を選択し、また(c)適正なキシラナーゼ及び適正なキシラナーゼ阻害剤、及び/又は適量のキシラナーゼ阻害剤を小麦粉に添加する方法を提供するものである。
【0035】
阻害剤の含有量は、固体状態のNMR分光分析等の標準的な化学的な手法により測定できる。阻害剤の含有量は、該阻害剤が有害作用をもたらすことが知られているキシラナーゼ酵素を使っても測定できる。かかる方法では、小麦粉を試料とし、かかるキシラナーゼの所定量を添加することも可能である。一定時間後にキシラナーゼ活性を測定し、その活性測定結果と小麦粉の阻害剤含有量との相関関係から含有量を決定できる。よって本発明はまた、小麦粉試料中に含まれる阻害剤の量をキャリブレーションし、及び/又は測定する手段として、キシラナーゼとその阻害剤を組み合わせて使用することも含むものである。
【0036】
本発明の阻害剤の存在を確認するために、かかる阻害剤に対する抗体を用いて小麦粉試料のスクリーニングを行うことができる。かかる抗体は、小麦粉試料に含まれる阻害剤を単離することにも利用できる。
【0037】
(種々のキシラナーゼ類に対しβ−1,4−キシラナーゼ阻害剤が及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
本発明の阻害剤にはさらに有用な使用法がある。この点に関し、阻害剤によって損なわれるキシラナーゼを同定するアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができる。例えばある条件下では、阻害剤に対して低耐性(つまり、あまり耐性のない)を有するキシラナーゼをスクリーニングすることが好ましく、ある場合においては、阻害剤に対して、並(中程度)の耐性(つまり、程々に耐性のある)を有するキシラナーゼを同定するためのアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができ、また他の場合においては、阻害剤に対して高耐性を示すキシラナーゼを同定するためのアッセイ/スクリーニングにおいて、阻害剤を用いることができる。阻害剤による阻害の程度を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「阻害剤アッセイプロトコール」と呼ぶこととする。
【0038】
このように本発明は、キシラナーゼ阻害剤に対し、キシラナーゼが示す耐性の程度の測定方法を提供するものであって、かかる方法には、(a)目的のキシラナーゼをその阻害剤と接触せしめ、(b)かかる阻害剤が、目的のキシラナーゼ活性を阻害するか否かを測定することが含まれる。便宜上、かかる方法を「阻害剤アッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0039】
ここで「耐性」なる用語は、阻害剤によって、キシラナーゼ活性が完全には阻害されないことを意味する。換言すれば、阻害剤によって損なわれることのないキシラナーゼ類を同定するアッセイ/スクリーニングに、阻害剤を用いることが可能となるのである。よって、キシラナーゼ阻害剤に対応するキシラナーゼに関し、「耐性の程度」なる用語が意味するところは、キシラナーゼ阻害剤によるキシラナーゼ活性の非阻害の程度と同じ意味である。従って、キシラナーゼ阻害剤に高い耐性を示すキシラナーゼは、かかるキシラナーゼ阻害剤に対し、高度の非阻害を示すキシラナーゼと類似しているのである。
【0040】
本発明はまた、(a)阻害剤アッセイ方法を行い、(b)阻害剤に対し高度(又は中程度、又は低度)の耐性をもつキシラナーゼを1又は2種以上同定し、(c)同定された1種以上のキシラナーゼを一定量調製するステップを含むプロセスを包含するものである。相応であると同定されたキシラナーゼは、食品製造、特に焼き製品製造用の生地に使用することができる。さらに、阻害剤に対しある程度の耐性をもつキシラナーゼ(他種のキシラナーゼに比べ阻害を受けにくいキシラナーゼ)を同定することにより、実用に際し、かかる同定されたキシラナーゼを、培地に少量添加するだけでこと足りるようになる。キシラナーゼの最終使用には、食品、タンパク質、及び澱粉製品、紙製品、及びパルププロセシング等のいずれかの1又は2以上の調製が含まれる。
【0041】
従って、本発明にはさらに、(a)阻害剤アッセイ方法を実施し、(b)阻害剤に対して高度(又は中程度、又は低度)の耐性をもつキシラナーゼを1種以上同定し、さらに(c)同定されたキシラナーゼを1種以上含む生地を調製するステップを含むプロセスが包含される。
本発明に関する実験の過程において、バクテリア由来キシラナーゼの活性が完全には損なわれなかったという意味において、かかるキシラナーゼが阻害剤に対し耐性を示すことを見い出したのは驚くべきことである。
【0042】
(種々のキシラナーゼが生地に及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
阻害剤アッセイ方法によって適していると同定された細菌性キシラナーゼ類が、生地混合物に含まれていると、意外なことにその生地は、真菌性キシラナーゼを含む生地に比べ粘度が低くなることを見い出した。これらの結果は、先行文献の教示からは全く予想されなかったことである。よって本発明はさらに、焼き食品調製に用いるのに適した細菌性キシラナーゼ又はそれらの変異体を同定する方法を提供するものである。かかる方法には、(a)目的の細菌性キシラナーゼを、生地混合物に取り入れ、また真菌性キシラナーゼを含む類似の生地混合物に比べて該生地混合物の粘度が低い場合には、かかる細菌性キシラナーゼ又はそれらの変異体が焼き食品調製に用いるのに適していることになるので、(b)該生地混合物の粘度を測定することが含まれる。便宜上、かかる方法を「粘度アッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0043】
本発明はさらに、(a)粘度アッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上のキシラナーゼを同定し、(c)同定された1種以上のキシラナーゼを一定量調製するステップを含むプロセスを提供するものである。生地の粘度を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「粘度プロトコール」と呼ぶこととする。本発明のキシラナーゼを含み、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地を、本発明では必要に応じて「非粘着性生地」と呼ぶこととする。
【0044】
細菌性キシラナーゼを用いると、真菌性キシラナーゼを含む生地のように粘度のある生地にはならないという好ましい性質を有するとき、かかるキシラナーゼを、焼き製品を調製する生地等の食品の調製に用いることができる。このように本発明は、(a)粘度アッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上のキシラナーゼを同定し、さらに(c)同定されたキシラナーゼを1種以上含む生地を調製するステップを含むプロセスを提供するものである。
【0045】
(キシラナーゼを含む生地の生地特性に対してグルカナーゼ(類)が及ぼす効果を測定するアッセイ方法)
本発明に関する実験の過程において、本発明者らは、グルカナーゼ酵素がある程度存在するときにキシラナーゼ類が有害な影響を受けることも見い出した。よって、キシラナーゼ酵素を調製又は抽出するのに用いる培地等のキシラナーゼ調製物に、有害レベルのグルカナーゼ酵素が含まれないようにすることが大切である。さらに、キシラナーゼを含む食品を調製する際に使用する培地に、有害レベルのグルカナーゼ酵素が含まれないことが大切である。ここにいう「有害レベル」とは、グルカナーゼ酵素の有害な作用によってキシラナーゼの効果が相殺されてしまう程のグルカナーゼ量を意味する。
【0046】
従って本発明はさらに、キシラナーゼ組成物(キシラナーゼ調製物等)、キシラナーゼを調製する培地、又は焼き食品調製に用いるのに適したキシラナーゼを添加する培地を同定するアッセイ方法を提供するものであり、かかる方法には、(a)目的のキシラナーゼを含む組成物、該キシラナーゼを調製する培地、又は該キシラナーゼを添加する培地を提供し、また、組成物又は培地に存在する活性グルカナーゼ酵素(類)が低レベルであれば、かかる組成物又は培地は焼き食品の調製に適していることになるので、(b)かかる組成物又は培地に活性グルカナーゼ酵素(類)の存在を確認することを含む。便宜上、かかる方法を「グルカナーゼアッセイ方法」と呼ぶこととする。
【0047】
本発明はさらに、(a)グルカナーゼアッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に用いるのに適した1種以上の組成物又は培地を同定し、また(c)それら1種以上の同定された組成物又は培地を一定量調製するステップを含むプロセスを提供するものである。グルカナーゼ活性を測定するのに適したプロトコールについては後述するが、便宜上、かかるプロトコールを「グルカナーゼプロトコール」と呼ぶ。
【0048】
キシラナーゼがもつ有用な効果が、好ましくない量のグルカナーゼ酵素の存在によって完全に損なわれることがないという意味において、かかる組成物又は培地が好ましい性質をもつとき、かかる組成物又は培地を、食品、好ましくは焼き製品製造用の生地の調製に用いることができる。よって本発明はさらに、(a)グルカナーゼアッセイ方法を実施し、(b)焼き食品調製に適した1種以上の組成物又は培地を同定し、さらに(c)1種以上の同定された組成物又は培地を含む生地を調製するステップを含むプロセスを包含するものである。このように本発明は、キシラナーゼ調製法を包含するものであって、かかるキシラナーゼ調製法は、実質的にグルカナーゼ酵素(類)非存在下にて行われる。
【0049】
すなわちキシラナーゼ調製法は、存在すると考えられる少なくとも実質的に全てのグルカナーゼ酵素(類)を先ず除去し、ひいてはグルカナーゼ酵素(類)活性を抑制若しくは消失せしめる初期調製を行うことから始められる。これを達成する技術には、グルカナーゼ酵素(類)を認識し結合する抗体を用いることも含まれ、その場合はグルカナーゼ酵素(類)活性が不活化される。グルカナーゼ酵素(類)特異的抗体を支持体に結合することにより、初期調製物のパッセージがその結合抗体を通過し、その結果グルカナーゼ酵素(類)が上記初期調製物から除去され、実質的にグルカナーゼ酵素(類)を含まないキシラナーゼ調製物を得ることができる。別の実施例、さらには追加の実施例においても、グルカナーゼ酵素活性が最低限であるか、若しくは全くない宿主生物から キシラナーゼ調製物を得ることができることが示されている。この点で、宿主生物に存在するグルカナーゼ酵素活性は不活化されるといえる。他にも、グルカナーゼ遺伝子の発現が抑制され、及び/又は消失する例もある。これを達成する技術には、グルカナーゼコード配列のアンチセンス配列を使用することも含まれる。さらなる実施例においては、グルカナーゼ酵素の発現が全くみられないか若しくは極微量発現される宿主生物を使用している。
【0050】
(Kiアッセイ)
キシラナーゼのKi値測定(ここでは「Kiアッセイ」という)が有用な場合もある。適用例(applications)によっては、Ki値がときにキシラナーゼ適性の指標足り得ることを見いだした。Ki値の知見自体が有用である。
【0051】
(コンビネーションアッセイ)
本発明はまた、本発明のアッセイ類を適正に組み合わせることを含むものである。本発明は、阻害剤含有量測定方法を含むステップ、阻害剤アッセイ方法を含むステップ、粘度アッセイ方法を含むステップ、グルカナーゼアッセイ方法を含むステップ、及びKiアッセイを含むステップの内2又は3以上のステップを含む組み合わせを包含している。かかる組み合わせにおいては、ステップの組み合わせはどの順番でもよく、また必ずしも同時に若しくは続けて行う必要はない。
【0052】
(新規のキシラナーゼ類)
上述したように本発明は、食品、特に焼き製品調製に用いる生地の調製に使用可能なキシラナーゼを同定するのに適したアッセイを提供するものである。そこで本発明者らは、食品、特に焼き製品調製に用いる生地の調製に適した新規のキシラナーゼ3種を同定した。すなわち本発明はさらに、配列番号7、配列番号9、配列番号11、又はそれらの変異体、相同物、並びに断片として示されるアミノ酸配列のいずれかを含むアミノ酸配列を包含している。
【0053】
本発明のキシラナーゼに関連して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果できたアミノ酸配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかの配列を含むキシラナーゼ活性と、好ましくは少なくとも同程度の活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られるタンパク質にキシラナーゼ活性が、好ましくは配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかの配列と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列相同性(配列類似性又は配列同一性)に関しては、添付の配列リストに示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%の相同性がある。さらに、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、さらに少なくとも98%の相同性があることがより好ましい。
キシラナーゼが、配列番号7若しくは配列番号11、又はそれらの変異体、相同物若しくはその断片の配列を含むことが好ましい。
【0054】
本発明はさらに、本発明のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含むものである。本発明のヌクレオチド配列は次のものから選択することが好ましい。
(a)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はそれらの変異体、相同物、並びに断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかを含むヌクレオチド配列
(b)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその相補配列の内いずれか1つのヌクレオチド配列、
(c)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかとのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列、
(d)配列番号8、配列番号10、配列番号12、又はその断片として示されるヌクレオチド配列のいずれかの相補配列とのハイブリダイズ能を有するヌクレオチド配列、及び
(e)(a)、(b)、(c)又は(d)に示したヌクレオチドに対する遺伝コードの結果、変性したヌクレオチド配列。
【0055】
本発明のヌクレオチド配列に関連して、「変異体」、「相同物」、又は「断片」なる用語は、配列に対する1(又は2以上)個のアミノ酸のいかなる置換、変異、修飾、代替、欠失、又は付加をも含み、その結果できたアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列が、配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかのアミノ酸配列を含む活性と、好ましくは少なくとも同程度のキシラナーゼ活性を示すものをいう。特に「相同性」なる用語は、結果として得られる発現タンパク質にキシラナーゼ活性が、好ましくは配列番号7、配列番号9、配列番号11のいずれかのアミノ酸配列と少なくとも同程度の活性を示すような構造及び/又は機能に関する相同性を意味する。配列相同性(配列類似性又は配列同一性)に関しては、添付の配列リストに配列番号8、配列番号10、配列番号12として示される配列と、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも85%、さらにより好ましくは少なくとも90%の相同性があるものが望ましく、さらに、添付の配列リストに示される配列と、より好ましくは少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%の相同性があるものが望ましい。
本発明のヌクレオチド配列が、配列番号8、配列番号12、又はそれらの変異体、相同物、若しくは断片として示される配列を含むことが好ましい。
【0056】
(キシラナーゼ類の新規の使用方法)
上述したように本発明はまた、焼き製品の調製に用いる非粘着性生地(本記載中にて定義)を調製する際に使用できるキシラナーゼの同定に適したアッセイを提供するものである。
我々は、食品、特に焼き製品調製に用いる生地、の調製に適した公知及び新規の細菌性キシラナーゼ数種を同定した。
よって本発明は、本発明のアッセイにより同定し得るキシラナーゼを含む非粘着性生地(本記載中にて定義)を包含するものである。かかるキシラナーゼが、配列番号3、5、7、9、11、又はそれらの変異体、派生物、若しくは相同物として示されるアミノ酸配列のいずれかを有することが好ましい。より好ましくは、かかるキシラナーゼが、配列番号5、7、9、11、又はそれらの変異体、派生物、若しくは相同物として示されるアミノ酸配列のいずれかを有することが好ましい。
【0057】
先行技術によるシステムとは対照的に本発明は、生地を製造する前にキシラナーゼを小麦粉に直接添加し得る方法を提供する。従って、シングルバッチの小麦粉/キシラナーゼ混合物を生地製造器に投入する。さらに、取扱い容易な生地を得るために使う投入装置が生地製造器に必要でなくなる。
【0058】
(キシラナーゼ類を用いて調製した食品)
本発明は、食品製造に用いるのに適したキシラナーゼの同定手法を提供するものである。動物用飼料も含む食品の代表例としては、日常食品、食肉製品、禽肉製品、魚肉製品、及び焼き製品が挙げられるが、かかる食品が焼き製品であることが好ましい。本発明の技術範囲に含まれる焼き製品の代表例としては、食パン、ロールパン、バーガー用パン、ピザ台等のパン類、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、クラッカー等が挙げられる。
【0059】
(一般的な教示)
以下に述べる「本発明のヌクレオチド配列」及び「本発明のアミノ酸配列」なる語句は、ここに挙げるヌクレオチド配列のいずれか1つ若しくは2以上、またここに挙げるアミノ酸配列のいずれか1つ若しくは2以上について言及するものである。
【0060】
(アミノ酸配列/ポリペプチド配列)
「本発明のアミノ酸配列」なる用語は、「本発明のポリペプチド配列」と同義語である。ここでかかるアミノ酸配列は、キシラナーゼ又はキシラナーゼ阻害剤のアミノ酸配列を意味すると考えてよい。
本発明のポリペプチドには、ここに示すアミノ酸配列の断片、及びその変異体も含まれる。断片の長さとして適正なのは、少なくとも5、又は少なくとも10、12、15、さらには20個のアミノ酸で構成される断片である。
本発明のポリペプチドは、保存的置換を含む、1又は2個以上(例えば少なくとも2、3、5、又は10個)の置換、欠失、又は挿入を有するように修飾されていてもよい。保存的置換は、保存置換を示す次の表によって作製できる。次の表には、2列目の同じブロックと、3列目の同じ行にあるアミノ酸を相互置換することが好ましい。
【0061】
【表1】
【0062】
本発明のポリペプチドは実質的に単離されているものである。かかるポリペプチドは、意図するポリペプチドの目的を損なわないように、担体又は希釈剤と混合してもよく、その場合も依然として実質的に単離されていると考えられる。本発明のポリペプチドはまた実質的に精製されており、そのとき該ポリペプチドは、調製過程におけるポリペプチドを含み、かかる調製過程におけるポリペプチドの90%以上、例えば95%、98%、又は99%以上は、本発明のポリペプチドである。本発明のポリペプチドは後述するように例えば、その精製を容易とするためヒスチジン残基を付加し、又は細胞からの分泌を促進すべくシグナル配列を付加することにより修飾してもよい。本発明のポリペプチドは、後述するように合成法(例:Geysen et al., 1996記載の方法)、又は組換え法により作出できる。
【0063】
酵母、真菌、又は植物宿主細胞等の適正な宿主細胞を用いることにより、本発明の組換え発現産物が最適な生物活性を備えるために必要とされる翻訳後修飾(例えばミリストイル化、グリコシル化、N−末端切断化(truncation)、ラピデーション(lapidation)、及びチロシン、セリン、又はトレオニンの燐酸化)が可能になる。
【0064】
truncation lapidation(ヌクレオチド配列/ポリヌクレオチド配列)
「本発明のヌクレオチド配列」なる用語は、「本発明のポリヌクレオチド配列」なる用語と同義である。本発明のポリヌクレオチドには、本発明のポリペプチドをコードするヌクレオチド酸配列が含まれる。遺伝的コードが縮重することにより、種々のポリヌクレオチド領域が、所定のアミノ酸配列をコードすることがわかる。
【0065】
ここに詳述するアミノ酸配列に関する知識をもってすれば、本発明のポリペプチドをコードするcDNA及び/又はゲノムクローン等の部分及び完全長核酸配列の作製が可能である。例えば、ここに挙げるアミノ酸配列をコードする配列を標的とするよう設計されたプライマーを使用する縮重PCRを用いることにより、本発明のポリヌクレオチドを得ることができる。かかるプライマーには通常複数の縮重部分が含まれる。しかし縮重を最小化するために、ここで述べるアミノ酸配列において1コドンにのみ対応してコードされるメチオニン等のアミノ酸を含む領域をコードする配列が選択される。さらにPCR法を実施するときに鋳型DNAとして用いる核酸をもつ生物におけるコドンの使われ方を考慮した上で配列を選択する。公知の配列に対する一本鎖配列(非縮重)プライマーを用いて配列クローニングを行うときのストリンジェンシーより緩やかなストリンジェンシー条件下にて、PCRを行う。
【0066】
PCRで得られた本発明のポリペプチド断片をコードする核酸配列を使用して、ハイブリダイゼーションライブラリースクリーニング技術によって、より長い配列を得ることができる。例えばPCRクローンを放射性原子によって標識し、又は他種、好ましくは他種の植物又は菌種のcDNA又はゲノムライブラリーをスクリーニングするのに用いる。ハイブリダイゼーション条件は、通常よりストリンジェントな条件下(例えば0.03Mの塩化ナトリウム及び0.03Mのクエン酸ナトリウム、約50℃〜約60℃)の培地条件である。アミノ酸配列の全体又は部分をコードする縮重核酸プローブは、他種、好ましくは他種の植物又は菌種のcDNA及び/又はゲノムライブラリーをプローブするのに用いられる。しかしPCRは本来、一本鎖配列を得てさらにスクリーニングを行うために行うことが好ましい。
【0067】
上記の技術により得られた本発明のポリヌクレオチド配列は、上述の技術を用いて、さらなる相同配列及び変異体を得るために用いることができる。また、かかるポリヌクレオチド配列は、使用に際し、種々の宿主細胞系において本発明のポリペプチドを発現せしめるために修飾される。例えば、ポリヌクレオチド配列が発現される特定の宿主細胞に対するコドン選択性向を最適化するよう修飾される。その他、制限酵素認識部位を導入すべく、またかかるポリヌクレオチドがコードするポリペプチドの機能若しくは特性を変えるべく、配列を変化させることが考えられる。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドは、PCRプライマー、代替的増幅反応におけるプライマー等のプライマー、放射活性若しくは非放射活性標識を用いる慣用手法による顕現(revealing)標識等により標識されたプローブを作出するのに用いられる。またかかるポリヌクレオチドは、ベクターにクローニングされる。かかるプライマー、プローブ、及び他の断片は、その長さが少なくとも15、好ましくは少なくとも20、例えば少なくとも25、30又は40ヌクレオチドであって、これらはまた本発明のポリヌクレオチドなる用語に包含される。
本発明のポリヌクレオチド又はプライマーは、顕現標識を有する。標識として適しているものとしては、32P又は35S等の放射性同位元素、酵素標識、並びにビオチン等の他のタンパク質標識が挙げられる。かかる標識により、本発明のポリヌクレオチド又はプライマーを標識化し、公知の技術により検出を行うことができる。
【0069】
DNAポリヌクレオチド等のポリヌクレオチド、及び本発明によるプライマーは、組換え、合成、又は当該技術の専門家が実施可能ないかなる手法によって作出してもよい。標準技術によってクローニングしてもよい。
一般的にはプライマーは、所望の核酸配列を1ヌクレオチド毎に作製していく段階的製法を含む合成法により作出される。かかる作出を自動方式で行う技術は、先行文献に既にみられる。
【0070】
長いポリヌクレオチドは、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)クローニング技術等の組換え法により作出されるのが一般的である。かかる方法には、クローニングの対象であるエンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害遺伝子の領域において一対のプライマー(約15〜30ヌクレオチド)を作製し、かかるプライマーを、真菌、植物、又は原核細胞から得られるmRNA又はcDNAと接触せしめ、所望の領域の増幅、増幅断片の単離(反応混合物をアガロースゲル上にて精製することによる)、及び増幅DNAの回収が実施可能な条件下にてPCR法を行うことが含まれる。適正なクローニングベクターに増幅DNAをクローニングできるよう、かかるプライマーは、適当な制限酵素認識部位を含むように設計されている。
【0071】
(調節配列)
本発明のポリヌクレオチドは、選択された宿主細胞等により、コード配列の発現能を有する調節配列とオペラブル(operable)に結合していることが好ましい。例えば本発明は、かかる調節配列にオペラブルに結合した本発明のポリヌクレオチドを含むベクター、すなわち発現ベクターを包含するものである。
「オペラブルに結合」なる用語は、ここに記載する各成分が、その意図どおりに機能し得る関係にあり、互いに並列関係にあることを意味する。コード配列に「オペラブルに結合」した調節配列は、制御配列と適合する条件下でコード配列が発現されるように連結される。
「調節配列」なる用語には、プロモーター、エンハンサー、及びその他の発現調節シグナルが含まれる。ここにいう「プロモーター」なる用語は、RNAポリメラーゼ結合部位等、当該技術分野にて通常使われる意味で使用される。
【0072】
発現の、また必要とあれば選択した発現宿主からの目的タンパク質の分泌量の増強、及び/又は本発明のポリペプチド発現の誘導制御を行う異種構造の調節領域、例えばプロモーター、分泌リーダー、及び末端領域等を選択することにより、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの発現が増強される。本発明のヌクレオチド配列は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合していることが好ましい。
本発明のポリペプチドをコードする遺伝子由来のプロモーター以外にも、本発明のポリペプチドを発現させるプロモーターを用いることができる。かかるプロモーターは、所望の発現宿主において本発明のポリペプチドを発現させる上での効率性を考慮して選択される。
【0073】
実施例において、本発明における所望のポリペプチドを発現させるため、構成プロモーターが選択される。誘導基質含有培地において発現宿主を培養させることが不要になるので、かかる発現構成物は非常に好都合である。
真菌発現宿主に対して用いるのに適した強力な構成及び/又は誘導プロモーターとしては、キシラナーゼ(xlnA)、フィターゼ、ATP−シンテターゼ、サブユニット9(OliC)、トリオースリン酸イソメラーゼ(tpi)、アルコールデヒドロゲナーゼ(AdhA)、α−アミラーゼ(amy)、アミログルコシダーゼ(glaA遺伝子からのAG)、アセトアミダーゼ(amdS)、及びグリセルアルデヒド−3−リン酸デヒドロゲナーゼ(gpd)プロモーターにおける真菌性遺伝子から得られるものが挙げられる。強力な酵母プロモーターとしては、アルコールデヒドロゲナーゼ、ラクターゼ、3−ホスホグリセレートキナーゼ、及びトリオースリン酸イソメラーゼの遺伝子から得られるものが挙げられる。また、強力な細菌性プロモーターとしては、細胞外プロテアーゼ遺伝子由来のプロモーターの他に、α−アミラーゼ及びSP02プロモーターが挙げられる。ハイブリッドプロモーターもまた、発現構成の誘導調節を改良するために用いられる。
【0074】
プロモーターはさらに、適合した宿主における発現を確実にし、又は増強させるという特徴を備えている。例えばかかる特徴としては、Pribnow Box又はTATAbox等の保存領域が考えられる。それ以外にもプロモーターはさらに、本発明のヌクレオチド配列の発現レベルに影響(保持、増強、減少等の)を及ぼす配列をもつ場合もある。それらプロモーターの適正例としては、Sh1イントロン又はADHイントロンが挙げられる。その他の配列には、温度、化学物質、光、又はストレス誘導エレメント等の誘導エレメントが含まれる。また、転写又は翻訳を増強するのに適したエレメントも存在する。かようなエレメントの例としては、TMV5'シグナル配列(Sleat Gene 217 [1987] 217-225; 及びDawson Plant Mol. Biol. 23 [1993] 97を参照のこと)が挙げられる。
【0075】
(分泌)
本発明のポリペプチドは、宿主細胞から、本発明のポリペプチドがより簡便に回収できる培養培地へ分泌されることが望ましい。本発明においては、分泌リーダー配列は、所望の発現宿主に基づいて選択される。ハイブリッドシグナル配列もまた本発明において用いられる。
異種構造分泌リーダー配列の一般的な例としては、真菌アミログリコシダーゼ(AG)遺伝子(例えばglaA;Aspergillus由来で、18及び24アミノ酸の二形態)、a−ファクター遺伝子(Saccharomyces及びKluyveromyces等の酵母)、又はα−アミラーゼ遺伝子(Bacillus)由来のものが挙げられる。
【0076】
(構築物)
「共役物(conjugate)」、「カセット」、及び「ハイブリッド」なる用語と同義である「構築物(construct)」なる用語には、直接又は間接にプロモーターと接合する本発明におけるヌクレオチド配列が含まれる。本発明のプロモーター及びヌクレオチド配列を仲介するSh1−イントロンやADHイントロン等のイントロン配列などの適正なスペーサーグループを供給することが間接接合の例として挙げられる。
直接又は間接接合を意味する本発明における「融合」なる用語に関しても「構築」と同じことがいえる。それぞれの場合において各用語は、元来野生型遺伝子プロモーター、及び通常会合するタンパク質をコードするヌクレオチド配列の組合わせにおいて、かかるプロモーター及びヌクレオチド配列がその自然環境下にあるときに、それらの自然組合わせを意味するものではない。
【0077】
構築物が、その転移先である好ましくはBacillus subtillis等のBacillus属の細菌など、又はジャガイモ、サトウキビ等の植物における遺伝子構築の選択を可能にするマーカーを有していたり、発現させる場合もある。例えばマンノース−6−リン酸イソメラーゼ(特に植物における)をコードするマーカー、又はG418、ヒグロマイシン、ブレオマイシン、カナマイシン、及びゲンタマイシン等に耐性を示す抗生物質耐性を供するマーカー等、実際に使用できる種々のマーカーが存在する。
本発明の構築物は、少なくともプロモーターにオペラブルに結合した本発明のヌクレオチド配列を含んでいることが好ましい。
【0078】
(ベクター)
「ベクター」なる用語には、発現ベクター、形質転換ベクター、及びシャトルベクターが含まれる。
「発現ベクター」なる用語は、インビボで、又はインビトロでの発現能を有する構築物を意味する。
「形質転換ベクター」なる用語は、ある物からある物へ、同種の場合もあれば他種間の場合もあるが、転移できる構築物を意味する。構築物がある種から別の種へ、例えば大腸菌プラスミドから細菌、好ましくはBacillus属の細菌へ、転移できるとき、かかる形質転換ベクターを「シャトルベクター」と呼ぶことがある。大腸菌プラスミドから植物に存在するアグロバクテリア菌へと転移できる構築物の場合もある。
【0079】
本発明のポリペプチドを発現させるため、後述するように本発明のベクターで適当な宿主細胞を形質転換させることができる。よって本発明はさらに、後述するように発現ベクターにより形質転換若しくはトランスフェクトした宿主細胞を、ポリペプチドをコードするコード配列のベクターによる発現条件下で培養し、また発現したポリペプチドを回収することからなる本発明のポリペプチドを調製するプロセスを提供するものである。
かかるベクターの例としては、複製によるプラスミド、ウイルス、又はファージベクターが挙げられ、また、かかるポリヌクレオチドの発現プロモーター、及びそのプロモーターの調節因子(regulator)も適宜に例として挙げられる。
【0080】
本発明のベクターには、1又は2以上の選択マーカー遺伝子も含まれる。工業用微生物に対する選択系として最も適しているのは、宿主生物において変異を必要としない選択マーカー集団によって形成されるものである。真菌性選択マーカーの例としては、アセトアミダーゼ(amdS)、ATPシンテターゼ、サブユニット9(oliC)、オロチジン−5’−リン酸−脱カルボキシル酵素(pvrA)、ファレオマイシン、及びベノミル耐性(benA)遺伝子がある。非真菌性選択マーカーの例としては、β−グルクロニダーゼ(GUS)をコードする細菌由来G418耐性遺伝子(これは酵母でも用いられるが、真菌では用いない)、アンピシリン耐性遺伝子(大腸菌)、ネオマイシン耐性遺伝子(Bacillus)、及び大腸菌uidA遺伝子がある。
RNA作製、並びに宿主細胞のトランスフェクト又は形質転換を行うときなどは、ベクターをインビトロで用いることもできる。
【0081】
このように本発明のポリヌクレオチドを、クローニング又は発現ベクター等の組換えベクター(通常複製ベクター)に取り込むことも可能である。かかるベクターを、和合性宿主細胞における核酸の複製に用いることができる。そこで実施例において、本発明のポリヌクレオチドを複製ベクターに導入し、かかるベクターを和合性宿主細胞に導入し、そしてベクター複製が可能となる条件下にてかかる宿主細胞を培養することにより、本発明のポリヌクレオチドを作出する方法を提供する。上記ベクターは宿主細胞から回収する。この方法に適した宿主細胞については、発現ベクターとの関連において後述する。
【0082】
(組織)
ここにいう「組織」なる用語は、組織それ自体、及び器官を意味する。
(宿主細胞)
本発明における「宿主細胞」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる細胞をも包含し、かかる宿主細胞にプロモーターが存在するときには、該プロモーターが本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な宿主細胞を意味するものである。
本発明の実施例においては、本発明のポリヌクレオチドを形質転換した又はトランスフェクトした宿主細胞が提供される。かかるポリヌクレオチドを複製及び発現せしめるために、該ポリヌクレオチドがベクターに取り込まれていることが好ましい。かかるベクターと適合する細胞、例えば原核生物(例として細菌)、真菌、酵母、又は植物細胞を選択する。
【0083】
グラム陰性の細菌である大腸菌は、異種遺伝子を発現させるときの宿主として広く使用されている。しかし、大量の異種タンパク質は、細胞内に蓄積する傾向がある。大量の大腸菌細胞質内タンパク質から所望のタンパク質をその状態から精製することはときに困難である。大腸菌とは対照的に、培地へのタンパク質分泌能を有することからバチルス属の細菌は、異種宿主として非常に適している。宿主として適した細菌には、ストレプトミセス属及びシュードモナス属の細菌が知られている。
【0084】
本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの特質から、及び/又は発現タンパク質のさらなるプロセシングが望まれることから、酵母又は真菌等の原核生物宿主が好ましい。酵母細胞の方が容易に操作できるため、真菌細胞より酵母細胞が一般的に好まれる。しかしタンパク質の中には、酵母細胞からはあまり分泌されなかったり、正しくプロセシングされない(例えば酵母の高グリコシル化)ものがある。かかる場合には真菌宿主生物を選択すべきである。
【0085】
本発明の技術範囲にある発現宿主の好適例としては、Aspergillus種(ヨーロッパ特許A0184438号及びA0284603号)、及びTrichoderma種等の真菌類、Bacillus種(ヨーロッパ特許A0134048号及びA0253455号に記載があるものなど)、Streptomyces種、及びPseudomonas種等の細菌類、並びにKluyveromyces種(ヨーロッパ特許A0096430号及びA0301670号に記載があるものなど)、及びSaccharomyces種等の酵母類がある。
典型的な発現宿主は、Aspergillus niger、Aspergillus niger var. tubigenis、Aspergillus niger var. awamori、Aspergillus aculeatis、Aspergillus nidulans、Aspergillus orvzae、Trichoderma reesei、Bacillus subtilis、Bacillus licheniformis、Bacillus amyloliquefaciens、Kluyveromyces lactis、及びSaccharomyces cerevisiaeから選択できる。
【0086】
(生物)
本発明の「生物」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる生物をも包含し、かかる生物にプロモーターが存在するときには、該プロモーターが本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な生物を意味するものである。本発明のキシラナーゼの観点から適当な生物としては、好ましくはBacillus属、より好ましくはBacillus subtilis属の細菌が挙げられる。
【0087】
本発明における「トランスジェニック生物」なる用語は、本発明の組換えタンパク質をコードするヌクレオチド配列及び/又はその産物を含むことができるいかなる生物をも包含し、そのプロモーターが、かかる生物内に本発明のヌクレオチド配列を発現させることが可能な生物を意味するものである。かかるヌクレオチド配列が、該生物のゲノムに取り込まれていることが好ましい。「トランスジェニック生物」なる用語は、本発明の無処理(native)のヌクレオチドコード配列がその自然環境下にあり、やはり自然環境下にある無処理のプロモーターのコントロール下にあるときには、かかるコード配列を含まない。さらに本発明には、本発明の無処理のタンパク質がその自然環境下にあり、やはりその自然環境下にある無処理のヌクレオチドコード配列により発現され、かかるヌクレオチド配列が、その自然環境下にある無処理のプロモーターのコントロール下にあるときには、かかるコード配列を含まない。
【0088】
従って本発明のトランスジェニック生物は、本発明のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列のいずれか1つ又はそれらの組合せ、本発明の構築物(その組合せを含む)、本発明のベクター、本発明のプラスミド、本発明の細胞、本発明の組織、並びにそれらの産物を含む。形質転換した細胞又は組織を用いて、かかる細胞又は組織から所望の成分の必要量を容易に回収し、調製することができるのである。
【0089】
(宿主細胞/宿主生物の形質転換)
前述したように、宿主生物としては原核又は真核生物を挙げることができ、原核生物宿主の好適例としては、大腸菌及びBacillus subtilisがある。原核生物宿主の形質転換に関する詳しい教示例としては、Sambrook et al(Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd edition, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)、及びAusubel et al., Current Protocles in Molecular Biology (1995), John Wiley & Sons, Inc.等の文献がある。原核生物宿主を用いる際には、形質転換の前にそのヌクレオチド配列を、イントロン除去等により適当に修飾することが必要になる。そして、上述したように宿主生物として適しているのは、Bacillus subtilis等のBacillus属の細菌である。
【0090】
他の実施例として、トランスジェニック生物として酵母を用いることもできる。酵母は、異種遺伝子発現のビヒクル(vehicle)として広く使われている。Saccharomyces cerevisiaeは、異種遺伝子発現への使用も含め、かなり以前から工業用に使用されている。Saccharomyces cerevisiaeにおける異種遺伝子発現に関しては、Goodey et al(1987, Yeast Biotechnology, D R Berry et al., eds, pp 401-429, Allen and Unwin, London)、及びKing et al.,(1989, Molecular and Cell Biology of Yeasts, E F Walton and G T Yarronton, eds, pp 107-133, Blackie, Glasgow)が報告している。
【0091】
いくつかの点から、Saccharomyces cerevisiaeは異種遺伝子発現に適している。第1に、Saccharomyces cerevisiaeはヒトに対し非病原性であり、特定のエンドトキシンの産生能をもたない。第2に、Saccharomyces cerevisiaeは、何世紀にもわたり多様な目的のために、商業目的に安全に利用されてきた歴史がある。その結果、広く世間に認知されている。第3に、広く商業目的に使用され、また研究も数多くされてきているため、その大規模な発酵特性とともに、Saccharomyces cerevisiaeの発生学的及び生理学的特質に関する豊富な知識が蓄積されている。
E Hinchcliffe E Kenny(1993, "Yeast as a vehicle for the expression of heterologous genes", Yeasts, Vol. 5, Anthony H Rose and J Stuart Harrison, eds, 2nd edition, Academic Press Ltd.)は、Saccharomyces cerevisiaeにおける異種遺伝子発現及び遺伝子産物の分泌の原理について報告している。
【0092】
使用できる酵母ベクターは、その保持のために宿主ゲノムとの組換えを必要とし、プラスミドベクターを自律的に複製する組込み(integrative)ベクターを含む数種類ある。
トランスジェニックSaccharomycesを調製するため、酵母での発現を目的として設計した構築物に、本発明のヌクレオチド配列を挿入して発現構築物を調製した。今までに数種類、異種発現に用いる構築物が作製されている。かかる構築物には、本発明のヌクレオチド配列に融合された酵母において活性を示すプロモーターが含まれ、GAL1プロモーター等の酵母由来のプロモーターが用いられる。SUC2シグナルペプチドをコードする配列等の酵母由来のシグナル配列が用いられる。酵母において活性を示すターミネーターが発現系を終了させる。
【0093】
酵母の形質転換を行うための形質転換プロトコールがいくつか見いだされている。例えば本発明のトランスジェニックSaccharomycesは、Hinnen et al(1978, Proceedings of the National Academy of Sciences of the USA 75, 1929)、Beggs, J D (1978, Nature, London, 275, 104)、及びIto, H et al(1983, J Bacteriology 153, 13-168)の教示によって調製できる。形質転換した酵母細胞は、種々の選択マーカーを使って選択でき、形質転換に用いるマーカーには、LEU2、HIS4、及びTRP1等の数多くの栄養要求性マーカー、及びアミノグリコシド抗生物質マーカー(G418等)などのドミナント抗生物質耐性マーカーがある。
【0094】
宿主生物としては他にも植物を挙げることができる。遺伝子改変植物を構築する際の基本原理は、挿入された遺伝物質が安定的に保持されるような形で、ゲノム情報を植物ゲノムに挿入することであり、ゲノム情報を挿入する技術はいくつかあるが、主な2つの原理は、ゲノム情報の直接導入、及びベクター系を用いたゲノム情報の導入である。かかる一般的な技術は、Potrykus(Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol [1991] 42:205-225)、及びChristou(Agro-Food-Industry Hi-Tech March/April 1994 17-27)に記載されている。
【0095】
さらに、本発明は、本発明のヌクレオチド配列又は構築物を運び、また該ヌクレオチド配列又は構築物を、植物等の生物ゲノムに導入し得るベクター系に関する。かかるベクター系は、1つのベクターを含むことができるが、2つのベクターをもつこともできる。ベクターを2つ有する場合、かかるベクター系は通常二元ベクター系と呼ばれる。二元ベクター系については、Gynheung An et al.(1980)、Binary Vectors, Plant Molecular Biology Manual A3, 1-19に、より詳細な記載がある。
【0096】
所定のヌクレオチド配列を用いた植物細胞の形質転換に広く使用されるシステムは、Agrobacterium tumefaciens由来のTiプラスミド、又はAgrobacterium rhizogenes An et al.(1986), Plant Physiol. 81, 301-305、及びButcher D.N. et al.(1980), Tissue Culture Methods for Plant Pathologists, eds.:D.S. Ingrams and J.P. Helgeson, 203-208由来のRiプラスミドを使用することを基本にしている。上述した植物又は植物細胞構築物の構築に適したTi及びRiプラスミドを数種類構築した。かかるTiプラスミドの非限定例としては、pGV3850がある。
【0097】
本発明のヌクレオチド配列又は構築物は、T−DNAボーダーを直接取り囲む配列が分裂しないよう、またこれら領域の内少なくとも1領域が修飾T−DNAを植物ゲノムに挿入する際に重要となるように、T−DNAの末端配列間に存在する、又はT−DNA配列に隣接するTiプラスミドに挿入されることが好ましい。上述した説明から理解されるように、生物が植物の場合には、本発明のベクター系は、植物を感染させるのに必要な配列(vir領域等)、またT−DNA配列の少なくともボーダー部分を1つ有していることが好ましい。ここにいうボーダー部分は、遺伝子構築物と同一ベクター上に位置するものである。かかるベクター系は、Agrobacterium tumefaciensTiプラスミド、若しくはAgrobacterium rhizogenesRiプラスミド、又はその派生物であることが好ましい。なぜならこれらのプラスミドは公知であり、トランスジェニック植物の構築に広く使用されており、これらのプラスミド又はその派生物に基づくベクター系は数多く存在しているからである。
【0098】
トランスジェニック植物を構築するにあたっては、本発明のヌクレオチド配列又は構築物を植物に挿入する前に、ベクターが複製可能かつ操作が容易な微生物内に先ず構築する。有用な微生物としては大腸菌があるが、上述の特質をもつ微生物であれば他の微生物も使用できる。上記に定義したベクター系のベクターを大腸菌において構築した後、必要とあれば該ベクターを、Agrobacterium tumefaciens等の適当なアグロバクテリア株に転移させる。このように、本発明のヌクレオチド配列又は構築物をハーバリングするアグロバクテリア細胞を得るため、本発明のヌクレオチド配列又は構築物をハーバリングするTiプラスミドを、Agrobacterium tumefaciens等の適当なアグロバクテリア株に転移させることが好ましい。次に、かかるアグロバクテリア細胞のDNAを、修飾する予定の植物細胞に転移させる。
【0099】
かかる方法により、本発明のヌクレオチド又は構築物をベクターにおける適当な制限部位(position)に導入し得る。そこに含まれるプラスミドを用いて大腸菌の形質転換を行う。かかる大腸菌細胞を適した栄養培地で培養した後、回収し溶解させる。かかるプラスミドはこのようにして回収される。分析方法としては、配列分析、制限分析、電気泳動、またさらに生化学−分子生物学的方法が通常実施される。操作を行う毎に使用したDNA配列は制限され、隣接するDNA配列に結合される。各配列は、同じ又は別のプラスミド内にてクローニングされる。
【0100】
所望の本発明のヌクレオチド配列を植物へ導入する各種導入方法を行った後、さらなるDNA配列の存在及び/又は挿入が必要となる。例えば植物細胞のTi−又はRi−プラスミドを用いて形質転換を行うときには、導入遺伝子のフランキング領域としてのTi−及びRi−プラスミドT−DNAの少なくとも右の境界、またはしばしば左右の境界が結合される。植物細胞の形質転換にT−DNAを用いることについては鋭意研究がなされており、ヨーロッパ特許A120516号、Hoekema(The Binary Plant Vector System Offset-drukkerij Kanters B.B., Alblasserdam, 1985, Chapter V)、Fraley, et al.(Crit. Rev. Plant Sci., 4:1-46)、及びAn et al.(EMBO J. 1985, 4:277-284)に報告されている。また、植物組織を直接アグロバクテリアに感染させることは、広く行われている簡便な方法であり、Butcher D.N. et al.(1980, Tissue Culture Methods for Plant Pathologists, eds.:D.S. Ingrams and J.P. Helgeson, 203-208)にその記載がみられる。この方法に関しては、Potrykus(Annu Rev Plant Physiol Plant Mol Biol[1991] 42:205-225)、及びChristou(Agro-Food-Industry Hi-Tech March/April 1994 17-27)に教示されている。かかる方法により、葉、根、茎、又は植物の他の部分等の植物組織における特定部位において植物を感染させることができる。
【0101】
植物を、ヌクレオチド配列をもつアグロバクテリウムに直接感染させると、通常感染させる植物は、剃刀による切開、針による穿孔、研磨用具による摩擦などで損傷する。かかる損傷部分にアグロバクテリウムを接種するのである。そして接種された植物又は植物の部分を適当な培養培地で生育させ、成熟植物とするのである。植物細胞が構築されると、アミノ酸、植物ホルモン、ビタミン等の成長必須因子を含む適当な培養培地で細胞を培養する方法等の公知の組織培養方法によって、かかる細胞は生育し、かつ保持される。細胞又は組織培養物から植物を再生させる公知の方法により、形質転換細胞を、遺伝子修飾植物において再生させることができる。かかる公知の方法としては例えば、抗生物質を使って形質転換した芽を選択し、その選択した芽を適正な栄養分や植物ホルモン等を含む培地で、継代培養する方法がある。植物の形質転換については、ヨーロッパ特許A0449375号にも教示されている。
【0102】
(ポリペプチドの作出)
本発明においては、従来公知の栄養発酵培地における1又は2以上の本発明のポリヌクレオチドを形質転換された微生物発現宿主等の培養により、本発明のポリペプチドの産生が影響される。発現宿主の選択に基づき、及び/又は発現構築物における調節の必要性に基づいて適当な培地を選択する。当該技術の専門家であれば、かような培地を熟知している。必要とあれば培地は、汚染の可能性がある他の微生物よりも形質転換された発現宿主が好む成分をさらに含有させることができる。
【0103】
(抗体)
本発明のアミノ酸配列を、かかるアミノ酸配列に対する抗体を標準的な手法により作製するために用いることができる。抗体を作製するために、ヤギ、ウサギ、ラット、マウス等の種々の宿主を、その阻害剤、何らかのタンパク質、変異体、相同物、又はその断片や派生物、並びに免疫原性特質を維持しているオリゴペプチドを投与することにより免疫する。免疫応答を強化するために種々のアジュバントを、宿主種依存で用いる。かかるアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウム等のミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニック(pluronic)ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性エマルジョン、KLH(keyhole limpet hemocyanin:スカシガイのヘモシアニン)、及びジニトロフェノール等の界面活性物質が含まれるが、これらに限定されるものではない。BCG(Bacilli Calmette-Guerin)及びCorynebacterium parvumも使用が考えられる有用なヒトアジュバントである。
【0104】
アミノ酸配列に対するモノクローナル抗体は、培地における連続細胞株による抗体分子の作製方法のいずれによっても調製し得る。かかる方法には、Koehier及びMilstein(1975 Nature 256:495-497)が最初に報告したハイブリドーマ技術、ヒトB細胞ハイブリドーマ技術(Kosbor et al (1983) Immunol Today 4:72; Cote et al (1983) Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030)及びEBV−ハイブリドーマ技術(Cole et al (1985) Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy, Alan R Liss Inc, pp77-96)が含まれるが、これらに限定されるものではない。さらに適当な抗原特異性及び生物活性を得るためにマウス抗体遺伝子をヒト抗体遺伝子にスプライシングする「キメラ抗体」の作製方法(Morrison et al (1984) Proc Natl Acad Sci 81:6851-6855; Neuberger et al (1984) Nature 312:604-608; Takeda et al (1985) Nature 314:452-454)も用いることができる。その他にも一本鎖抗体(米国特許A4946779号)の作製技術を、阻害剤特異的一本鎖抗体の作製に用いることができる。
【0105】
Orlandi et al(1989, Proc Natl Acad Sci 86: 3833-3837)、並びにWinter G及びMilstein C(1991; Nature 349: 293-299)が開示しているように、インビボでの産物をリンパ球集団に誘導することにより、又は組換え免疫グロブリンライブラリー若しくは高度に特異的な結合試薬パネルのスクリーニングにより、抗体を作製することもできる。
【0106】
プロトコール
プロトコール1;キシラナーゼアッセイ(エンド−β−1,4−キシラナーゼ活性)
クエン酸(0.1M)−リン酸水素二ナトリウム(0.2M)緩衝液(pH5.0)でキシラナーゼ試料を希釈し、最終アッセイにおいてOD(光学密度)が約0.7となるようにした。該試料の希釈液3種類、及び既知活性の内部標準液を、40℃で5分間サーモスタットで調節した。反応開始5分後に、1個のXylazyme剤(架橋結合され、染色されたキシラン基質)を上記酵素溶液に加えた。反応開始15分後に、10mlの2%TRISを添加して反応を終了させた。該反応混合液を遠心分離にかけ、上清のODを590nmにて測定した。希釈液及びキシラナーゼ量を考慮しつつ、試料の活性(TXU:Total-Xylanase-Units)が標準と相対的に算出された。
【0107】
プロトコール2;粘度プロトコール(粘度測定)
生地の粘度を、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により測定した。本プロトコールは、Chen及びHoseney(1995)が報告したプロトコールに修正を加えたものである。生地は、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400BU(Brabender Units)で作製した。小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合した。そこに水を加え、さらに5分間生地を混ぜる。できあがった生地を密封容器において30℃で、10、30又は45分間寝かせる。
【0108】
約4gの生地をDough Stickness Cellに積載する。均一に押し出すように、該生地を4mm押し出す。その後Stable Micro Systems protocol(生地の粘度を測定するTA−XT2のアプリケーション研究)に従って5回測定を行った。簡潔に述べると、1mmの生地が押し出される。TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で生地を押圧する。そのプローブを持ち上げ、生地とプローブが粘着する度合を記録する。以下のTA−XT2の設定を用いた。
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
このテストで記録した結果はピーク時の力であり、これは押し出した生地からプローブを持ち上げるのに必要な力を意味する。距離は、プローブに付着している距離を意味する。範囲は、得られた曲線の下の部分を意味する。
【0109】
生地の粘度は、使用する小麦粉の品質及びレシピに依存している。従って低粘度の生地とは、参考生地と比べて粘度が100%から200%(相対的)と幅があり、キシラナーゼを含まない生地、若しくは焼きテストにおいて同程度の嵩増量が得られるように市販の真菌性キシラナーゼ(Pentopan mono BG, Novo Nordisk社製)を添加したときの粘度に対し、その粘度が好ましくは70%(相対的)未満である生地をいう。
【0110】
プロトコール3;阻害剤アッセイプロトコール(阻害剤アッセイ)
単離及び特徴化の過程で阻害剤を検出するには、以下のアッセイを用いる。100μlの阻害剤画分、250μlのキシラナーゼ溶液(12TXU/mlを含む)、及び650μlの緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)を混合する。この混合液を40.0℃で5分間サーモスタットで調節する。反応開始5分後にXylazyme剤1個を加える。反応開始15分後に10mlの2%TRISを添加して、反応を終了させた。かかる反応混合液を遠心分離(3500g、10分間、室温)にかけ、上清を590nmで測定した。阻害剤は、残留活性としてブランクとの比較において測定した。ブランクも同様にして調製するが、100μlの阻害剤は100μlの緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)と置き換えた。例えばXM−1は、阻害剤に対し高耐性を示すと考えられる(図20参照)。XM−2及びXM−3は、阻害剤に対し中程度の耐性を示すと考えられる(図20参照)。
【0111】
プロトコール4;グルカナーゼプロトコールI(エンド−β−1,4−グルカナーゼ活性 0.1M酢酸ナトリウム−クエン酸緩衝液(pH5.0)でグルカナーゼ試料を希釈し、最終アッセイにおいてODが約0.7となるようにした。該試料の希釈液3種類、及び既知活性の内部標準を、40℃で5分間サーモスタットで調節した。反応開始5分後に、Xylazyme剤1個を上記酵素溶液に加えた。反応開始15分後に、10mlの2%TRISを添加して反応を終了させた。該反応混合液を遠心分離にかけ、上清のODを590nmにて測定した。希釈液及びグルカナーゼ量を考慮しつつ、試料の活性(BGU:Beta-Glucanase-Units)の標準との相対算出を行った。
【0112】
プロトコール5;阻害剤アッセイプロトコールII(阻害剤キネティックスアッセイ)
阻害剤のキネティックスを考察するために水溶性基質(Azo-xylan、Megazyme社製)を用いた。製造者のプロトコールに従い、20mMのNaPi(pH6.0)において、基質の2%(w/v)溶液を調製した。このアッセイは、基質、キシラナーゼ、及び阻害剤を40℃で5分間予熱して行った。
阻害剤の予備的な特徴化を行うために、用いたキシラナーゼを40TXU/mlまで希釈した。K1測定を行うために、キシラナーゼを約40TXU/mlまで希釈した。
反応開始後0分時に、0.5mlの基質、0.1mlのキシラナーゼ及び0.1mlの阻害剤を40℃で混合し、反応開始125分後に、2mlのエタノール(95%)を添加して反応を終了させ、続いて10秒間渦動した。加水分解されずに沈殿した基質を遠心分離(3500×g、10分間、室温)にかけて除去した。上清のODを590nmにて測定した。
【0113】
ブランクも同様にして調製した。変更を加えた点は、阻害剤を20mMのNaPi(pH6.0)に置き換えたことだけである。
基質濃度を順次減少させてキネティック実験を行うために、20mMのNaPi(pH6.0)で希釈して、2%、1%、0.5%、及び0.25%可溶性アゾキシラン(w/v)の基質濃度をそれぞれ用意した。
上記のキシラナーゼ及び基質濃度を用いてK1測定を行った。かかる測定アッセイを行うにあたり、この双方を以下の各濃度、すなわち0、2、5、10、25、50、及び100μl、の阻害剤抽出物と組み合わせた。阻害剤のモル濃度ではなく、μl阻害剤を用いることから、K1は、μl阻害剤として表される。
【0114】
要約すると本発明は以下のことを提供する。
a.小麦粉から内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を単離すること。
b.小麦粉から単離した内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を特徴化すること。
c.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤がキシラナーゼ類に及ぼす効果を特徴化すること。
d.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類を選択する方法。
e.エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類を選択する方法。
f.真菌性キシラナーゼを含む生地に比べて、好ましい嵩及び適度な粘度を備えた生地を提供するキシラナーゼ。
g.内因性エンド−β−1、4−キシラナーゼ阻害剤を用いたキシラナーゼ類のスクリーニング方法及び/又は該キシラナーゼ類を変異させる方法、並びに該キシラナーゼ類又はそれらの変異体を生地製造に使用すること。
h.本発明のキシラナーゼ類を用いた食品の調製。
【0115】
以下の試料はブダペスト条約に基づき、公認の寄託機関であり、英国AB2 1RY、スコットランド、アバディーン、マーチャードライブ、23St.に所在するThe National Collections of Industrial and Marine Bacteria Limited (NCIMB)に1998年12月に寄託された。
DH5α::pCR2.1#BSキシラナーゼ NCIMB番号NCIMB 40999
BL21(DE3)::pET24A#XM1 NCIMB番号NCIMB 41000
BL21(DE3)::pET24A#XM3 NCIMB番号NCIMB 41001
DH5α::pCR2.1#BSキシラナーゼには、野生型キシラナーゼが含まれる。
BL21(DE3)::pET24A#XM1には、XM1キシラナーゼが含まれる。
BL21(DE3)::pET24A#XM3には、XM3キシラナーゼが含まれる。
本発明はまた、これらの寄託物に由来し、及び/又はこれらの寄託物から発現される配列、並びにそれらの配列を含む実施例を包含するものである。
次に図面を参照しながら、例を挙げるだけではあるが、本発明を説明する。
図1〜図10、図12〜図16及び図18〜図31はグラフであり、図11はSDS PAGE実験の結果を示す画像であり、図17はIEF実験の結果を示す画像である。
【実施例1】
【0116】
実施例1(異なる種類のキシラナーゼを用い、添加量及び寝かせ時間を変えて作製した生地の粘度)
生地に粘度を与える以下のキシラナーゼ能をテストした。(W.Z. and Hoseney, R.C. (1995). Development of an objective method for dough stickiness. Lebensmittel Wiss u.-Technol., 28, 467-473も参照されたい)
(酵素)
「X1」は、Aspergillus niger由来のエンド−β−1,4−キシラナーゼを精製した試料のことである。このキシラナーゼは、8400TXU(15000TXU/mg)の活性をもつ。
「Novo」は、Thermomyces由来のNovo Nordisk's Pentopan Mono BGのことである。このキシラナーゼは、350000TXU(56000TXU/mg)の活性をもつ。
「BX」は、新規の細菌性キシラナーゼを精製した試料のことである。この試料は、2000TXU(25000TXU/mg)の活性をもつ。
「R▲o▼hm」は、R▲o▼hm GmbH社製の細菌性キシラナーゼであるVeron Specielのことである。この試料は、10500TXU(25000TXU/mg)の活性をもつ。
【0117】
(キシラナーゼアッセイ)
キシラナーゼアッセイは、プロトコール1に従って行った。
(小麦粉)
この実験においては、デンマーク産小麦粉(バッチ番号98022)及びドイツ産小麦粉(バッチ番号98048)の2種類の小麦粉を使用した。400BUにおける上記2種類の小麦粉の水分吸収率は、それぞれ58%及び60%であった。
(生地の調製)
生地は、プロトコール2に従って調製した。生地を混合した後、密封容器において30℃で、それぞれ10分間及び45分間寝かせた(粘度測定)
粘度は、プロトコール2に従って測定した。
(真菌性キシラナーゼと新規細菌性キシラナーゼの比較)
以下の生地を作り、10分後及び45分後における小麦粉98048の生地の粘度を測定した。2種類の真菌性キシラナーゼ、及び1種類の細菌性キシラナーゼの添加量を変えて(表2参照)、生地を作製した(分量は小麦粉1kgに対するもの)。
【0118】
【表2】
【0119】
表2における生地から、表3及び図1に示す生地の粘度に関する結果が導きだされる。種々のキシラナーゼを、その分量を様々に変えて添加し、生地を製造してブランクと比較した製造した生地は、それぞれ10分間及び45分間寝かせた。表3には、粘度がg×sとして表わされ、粘度の測定結果は、5回測定を行った平均値で示されている。上記表3のデータは、図1に示されている。表3及び図1から、真菌性キシラナーゼX1及びNovo生成物中に含まれるキシラナーゼが生地の粘度を上昇させていることがわかる。新規細菌性キシラナーゼを加えたときには、X1及びNovoと同様の粘度にはならず、さらにコントロールと比較しても該新規キシラナーゼの粘度は減少していた。
【0120】
【表3】
【0121】
(新規細菌性キシラナーゼとR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの比較)
新規細菌性キシラナーゼの機能を、R▲o▼hm製品の細菌性キシラナーゼであるVeron Specialとの比較において考察するために、小麦粉98022を使用して以下の生地を製造した。2種類の細菌性キシラナーゼの添加量を変えて(表4参照)、生地を作製した(分量は小麦粉1kgに対するもの)。表4に示す生地から、表5及び図2に示す生地粘度の結果を得た。表5には、粘度がg×sとして表わされ、粘度の測定結果は、5回測定を行った平均値で示されている。表5に示すデータを、図2に図示した。この結果から、BX(新規の細菌性キシラナーゼ)を加えた生地の粘度は、テストした真菌性キシラナーゼの粘度に比べ、非常に低いことが明らかになった。さらに新規の細菌性キシラナーゼを加えると、R▲o▼hm細菌性キシラナーゼとの比較において生地の粘度が減少することもわかった。
【0122】
【表4】
【0123】
【表5】
【実施例2】
【0124】
実施例2(阻害剤の精製、特徴化、及びキシラナーゼに与える効果)
(小麦粉)
種類の異なる3種類の小麦粉(バッチ番号98002、98026、及び98058)を使用して以下の実験を行った。小麦粉バッチ番号98002及び98058はデンマーク産の小麦粉である。小麦粉バッチ番号98026はドイツ産の小麦粉である。
(阻害剤抽出)
氷温の蒸留水を用いた撹拌により、阻害剤を小麦粉から抽出した。小麦粉1に対し、2の氷温蒸留水を加えた。この混合物に磁気バーを加え、氷浴させて20分間撹拌した。小麦粉を撹拌した後、スラリーを遠心分離器のバイアルに入れ、遠心分離(10000g、4℃で10分間)にかけた。上清にはキシラナーゼ阻害剤が含まれていた。
(阻害剤アッセイ)
プロトコール3に従って阻害剤アッセイを行った。
【0125】
(阻害剤の単離)
100gの小麦粉試料(98026)を抽出した後、クロマトグラフィー法によりキシラナーゼ阻害剤の精製を行った。
(ゲル濾過クロマトグラフィー(2回実施))
75mlの抽出物を、500mlSupredex G-25F(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに10ml/分の割合で投入し、20mMのNaOAc(pH4.25)でキャリブレートした。溶離液を同一フローにおいて、30ml画分として回収した。これら全ての画分において阻害活性が認められた。
【0126】
(陽イオン交換クロマトグラフィー(2回実施))
ゲル濾過のランから回収された阻害剤のピーク(240ml)を50mlSP Sepharose(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに5ml/分の割合で投入した。阻害剤投入後、A緩衝液(20mMのNaOAc、pH4.25)を用いて、このカラムをベースラインまで洗浄した。同じフローにおいて、10カラムボリュームを超えるA緩衝液からB緩衝液(B:A+350mMのNaCl)に至るリニアグラディエントによって阻害剤を溶離させた。この溶離液を10ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。
【0127】
(疎水性相互作用クロマトグラフィー(2回実施))
陽イオン交換クロマトグラフィーによって得られた阻害剤のピーク(110ml)に、(NH4)2SO4を加えて1.0Mとし、10mlPhenyl Sepharose HIC(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに2ml/分の割合で投入した。A(20mMのNaPi、1Mの(NH4)2SO4、pH6.0)からB(20mMのNaPi、pH6.0)緩衝液に至る12カラムボリュームのリニアグラディエントによって、阻害剤をカラムから溶離させた。かかる溶離液を2.5ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。(この実験は2回実施した)
【0128】
(分取ゲル濾過クロマトグラフィー)
回転式蒸発装置を使って、HICランで得られた5mlの阻害剤ピークを2mlに濃縮した。この試料を330mlSuperdex 75PG(スウェーデン、Pharmacia社製)カラムに1ml/分の割合で投入した。50mMのNaOAc及び0.2MのNaClからなる緩衝液系(pH5.0)を用いた。溶離液は5.5ml画分として回収した。1秒毎の画分がキシラナーゼ阻害剤の存在を示していた。
【0129】
(プロテアーゼ活性分析)
見いだされた阻害剤効果が、阻害剤によるものか、或いはキシラナーゼを加水分解するプロテアーゼによるものかを確認するために以下の実験を実施した。
(インキュベーションテスト)
2mlの精製キシラナーゼである980601(エンド−β1,4−キシラナーゼを参照のこと)を、0.25mlの阻害剤抽出物共存下において40℃で3時間インキュベーションした。コントロールとして、煮沸(5分間)した阻害剤抽出物を同様にインキュベーションした。インキュベーション後、各試料に50mMのNaOAc(pH4.5)を加え2.5mlとし、PD-10カラム(スウェーデン、Pharmacia社製)を使ったゲル濾過によって脱塩し、50mMのNaOAc(pH4.5)において3.5mlの試料を得た。
【0130】
(加水分解分析)
インキュベーションで得られた精製キシラナーゼ2種類の試料を、SOURCE 15 Sカラムを使って分析した。ゲル濾過した試料1mlを上記カラム(A緩衝液(50mMのNaOAc、pH4.5)でキャリブレートした)に2ml/分の割合で投入した。20カラムボリュームを超えるAからB(B:A+1M NaCl)のリニアグラディエントによって試料を溶離させ、2ml画分として回収した。OD280nmでキシラナーゼが検出され、得られた画分(100μl画分+900μl緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム緩衝液、pH5.0)+1Xylazyme剤、10分間、40℃。10mlの2%TRISを加え反応を終了した。青色=キシラナーゼ活性)の中にキシラナーゼ活性がみられた。
【0131】
(阻害剤の特徴化)
(分析用ゲル濾過クロマトグラフィー)
HICランで得られた阻害剤ピーク100μl(回転式蒸発装置を用いて2回濃縮)を、24mlSuperdex 75 10/30(スウェーデン、Pharmacia社製)に0.5ml/分の割合で投入した。50mMのNaOAc及び0.1MのNaClからなる緩衝液(pH5.0)をランニング緩衝液として用いた。溶離液は、2ml画分として回収した。これらの画分全てにおいて阻害剤が認められた。
かかる阻害剤の大きさを測定するため、24mlSuperdex 75 10/30カラムに、公知のタンパク質を連続して投入した。このランを実行するときの条件は上述のとおりである。使用した標準タンパク質は以下のとおりである。
タンパク質 大きさ(KDa)
BSA 67オバルブミン 43キモトリプシン 25リボ核酸A 13.7上記タンパク質は、280nmにて測定した。
【0132】
(SDS PAGE)
調製ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分に、SDS試料緩衝液(NOVEX社のプロトコールによって調製)を加え3分間煮沸し、8−16%PAGEゲル(NOVEX社製)にかけた。このゲルを、NOVEX社のシルバー染色プロトコールに従って染色した。分子量マーカーとしてPharmacia社のLMWマーカーを使用した。
【0133】
(Isoエレクトリックフォーカシング(IEF))
無処理の阻害剤のplを測定するため、精製阻害剤試料(330mlSuperdex 75 PGによる画分33)を、pH3-10 IEF GEL(NOVEX)にかけた。ゲルに対するランは、製造者のプロトコールに従って実行した。標準として、Pharmacia社(スウェーデン)のBroad Pl kit, 3.5-9.3を用いた。ゲルは、製造者のプロトコールに従って、クマシブリリアントブルーに染色した。
【0134】
(クロマトフォーカシングクロマトグラフィー)
調製ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33の試料を、水に対してゲル濾過した。100μlの脱塩した試料を、Mono P HR 5/5(Pharmacia社製、スウェーデン)にかけた。25mMのエタノールアミン−HCl(pH9.4)により、開始条件を設定した。このカラムをPoly緩衝液96と水との割合が、1:10において溶離した。pHは6.0に調整した(フロー:0.5ml/分、画分サイズ:0.5ml)。Poly緩衝液96による溶離後、Poly緩衝液74と水との割合が1:10において、該カラムをさらに溶離させた。
プロトコール3により、全画分のpHを測定し、キシラナーゼ阻害剤を示した。
【0135】
(アミノ酸配列)
調製精製法によって得られた精製阻害剤の試料(330mlSuperdex 75 PGによる画分33から得た)が用いられた。該試料200μlを、C4 Reverse Phase column(Applied Biosystems)にかけた。A:水に0.1%TFAを添加したもの、及びB:100%アセトニトリルに0.1%TFAを添加したものを緩衝液系として用いた。このランによる阻害剤ピークを、カルボキシメチル化して、C4カラムにて再度ランを実行した。かかる方法によって、目的とする阻害剤ペプチド2種を得た。これらのペプチドのN末端における配列決定を行った。さらに上記ペプチド2種をLys-Cによって消化した。逆相クロマトグラフィーにより、得られたペプチドを回収してアミノ酸配列決定した。アミノ酸配列決定により得られた配列を確認するため、目的試料の小断片をMS(Voyager社製)を用いて分析した。
【0136】
(阻害剤キネティックス)
プロトコール5に従って、阻害剤アッセイを行った。この点に関し、阻害剤に対する予備的な特徴化を行うために用いたキシラナーゼは980601であり、このキシラナーゼを40TXU/mlまで希釈し、小麦粉98002から阻害剤を抽出した。K1測定を行うために用いたキシラナーゼは、980601、980603、980801、980901、980903、980906、及び980907であり、これらのキシラナーゼを約40TXU/mlに希釈して用いた。K1測定に用いた阻害剤は、小麦粉98058から抽出した。
【0137】
(pHとの関連における阻害剤の測定)
プロトコール3に以下の修正を加えて実験を行った。650μl、pH5.0の緩衝液(0.1Mクエン酸−0.2Mリン酸水素二ナトリウム)を本アッセイで使用するが、これ以外にもpHが4、6、及び7である同じ緩衝液系も本アッセイに使用できる。
【0138】
(エンド−β−1,4−キシラナーゼ類)
以下のキシラナーゼ調製物を使用した。
980601(BX):大腸菌において発現されるDaniscoの新規細菌性キシラナーゼの精製調製物(1225TXU/ml)
980603(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hmのものと同一)の精製調製物(1050TXU/ml)
980801(X1):Aspergillus niger由来の精製X1(8400TXU/g)
980802(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hmのものと同一)の精製調製物(265TXU/ml)
980901(Novo):Novo's Pentopan mono BG由来のThermomycesキシラナーゼの精製調製物(2900TXU/ml)
980903(XM1):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(1375TXU/ml)
980906(XM3):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(1775TXU/ml)
980907(XM2):大腸菌において発現される野生型キシラナーゼであるBacillus sub.の精製変異体(100TXU/ml)
9535(X3):Aspergillus niger由来の精製キシラナーゼX3(6490TXU/ml)
【0139】
(単離及び特徴化のための阻害剤抽出)
小麦粉(98026)100gを抽出した。遠心分離にかけた後、150mlの上清を得た。この抽出物における阻害剤の存在を調べたところ(表6)、その結果はポジティブだった。表6には、キシラナーゼ980601を使用し、小麦粉(98026)阻害剤抽出物の+/−添加による残存活性の結果が示されている。
【0140】
【表6】
【0141】
(阻害剤単離)
阻害剤抽出物75mlを500mlゲル濾過カラムにかけた(図3)。阻害剤を検出したところ、画分[4〜11]において阻害剤が認められた。75mlの阻害剤抽出物をゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分のキシラナーゼ阻害剤アッセイを行った。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。表7に示されるように、画分[4〜11]において阻害剤が認められた。かかる阻害剤をそれぞれのランでプールし、プールした量は2回分で240mlだった。
【0142】
【表7】
【0143】
ゲル濾過カラムの両ランにおける阻害剤ピークのプールは、約240mlだった。ゲル濾過で得た240mlのプールを陽イオン交換器を用いて2回処理した。フロースルーの結果は阻害剤ネガティブだった。図4及び表8から明らかなように、約750mMのNaClにおいて阻害剤はカラムに結合し、溶離した。
ゲル濾過した阻害剤抽出物240mlを陽イオン交換クロマトグラフィーにかけて得られた画分のアッセイを行って、キシラナーゼ阻害剤の存在を確認した。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。画分[44〜54]において阻害剤が存在していた。
【0144】
【表8】
【0145】
陽イオン交換のランで得られた阻害剤のプールは、1ランにつき110mlだった。これらプールした2画分に、(NH4)2SO4を加えて1.0Mにし、2回のランでHICカラムにかけた。フロースルーで阻害剤を検出したところ、ネガティブだった。図5及び表9から明らかなように、全ての阻害剤がカラムに結合し、好ましい分離を得ることができた。HICクロマトグラフィーによる画分分析の結果が表9に示されている。
147mlの阻害剤抽出物をHICクロマトグラフィーにかけて得られた画分のキシラナーゼ阻害剤のアッセイを行った。ODラン1及び2は、同じカラムで実行した2回のランに相当する。画分[15〜23]に阻害剤が存在していた。HICクロマトグラフィーで得られた画分17及び18を2回程度濃縮し、分取ゲル濾過カラムにかけた(図6)。
【0146】
【表9】
【0147】
かかる予備的濾過カラムにおける画分の分析結果を表10に示す。表10には、濃縮阻害剤試料2mlを分取ゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分におけるキシラナーゼ阻害剤の存在を確認するアッセイの結果が示されている。画分[31〜33]において阻害剤が存在していた。
【0148】
【表10】
【0149】
(プロテアーゼ活性分析)
キシラナーゼ阻害剤に関する上記のアッセイからは、小麦粉抽出物と混合したときのキシラナーゼ活性低下が、キシラナーゼのタンパク質分解性加水分解に依るものではない可能性を除外することはできない。そこで精製キシラナーゼを「阻害剤」抽出物共存下でインキュベートした。図7及び8から明らかなように、加水分解は生じなかったと考えられる。活性阻害剤のクロマトグラムの方が、少しではあるが、バックグラウンドが大きかった(図8)。しかし、このバックグラウンドは阻害剤のみのクロマトグラムに相当している(阻害剤のクロマトグラムは示さず)。バックグラウンドの差は、煮沸した阻害剤試料の沈殿によるものである。
【0150】
(阻害剤の特徴化)
(分析用ゲル濾過クロマトグラフィー)
2回目のHICランの画分18における2回濃縮した阻害剤試料100μlを、24ml分析用Superdex 75 10/30(Pharmacia社製、スウェーデン)にかけた(図9)。溶離液を2ml画分として回収した。これらの画分のキシラナーゼ阻害剤アッセイを行った。濃縮阻害剤試料100μlを分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにかけて得られた画分におけるキシラナーゼ阻害剤の存在をみるためにアッセイを行った結果が表11に示されている。画分[6〜7]において阻害剤が認められた。
【0151】
【表11】
【0152】
濃縮した(up-concentrated)阻害剤試料をゲル濾過した後、4種類の標準分子量タンパク質を、全く同じ手順でカラムにかけた(クロマトグラフは示さず)。表12に、上記タンパク質の分子量及び溶離時間をまとめた。標準タンパク質を阻害剤の分子量(MW)測定のために用い、表12中の略語及び数式は表下に示した。
【0153】
【表12】
【0154】
Kavの作用としてlog(MW)をプロットする。公式化ができることから、未知分子の分子量を推定できる(図10)。図10から導き出された公式、及び阻害剤の保持時間から、阻害剤の分子量の算出が可能になる。
MW、kDa=10(-2.4485×Kav+1.9602)
=10(-2.4485×0.173559+1.9602)
=101.5352
=34.29
【0155】
計算した阻害剤の分子量は、本発明者らがRouau及びSurget(1988, Evidence for the presence of a Pentosanase Inhibitor in Wheat Flour. Journal of Cereal Science. 28:63-70)の報告をもとに予想していたより高く、そのMW(分子量)は約8KDaだった。ゲル濾過により算出されるMWは、阻害剤分子数種が集合することから説明し得る。詳細を知るために、分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得た画分31、32、及び33に対して、SDS PAGEゲルのランを実行した(図11)。上記ゲルに示されるように、精製した阻害剤試料と共に処理したレーンに3つのバンドが現れた。これらのバンドは分子量が約40、30、及び10kDaであるタンパク質に相当する。
【0156】
(MSを用いた分子量測定)
分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得た阻害剤の画分33を、Presorbシステム及び5容量の20mM酢酸により脱塩した。脱塩処理した画分200μlを、C4 Reverse Phase column(Applied Biosystems)にかけた。このランにおいてはピークが3つ認められた。これらピークの内の1つ(ピーク3)が明らかに優勢であり、阻害剤であると考えられた(図12)。このランで認められた他の2つのピークについても配列決定した。得られた配列から、これらは全て同じ小麦粉タンパク質Serpin由来であり、阻害剤(ピーク3)と同一ではなかった。よってピーク3が目的とするキシラナーゼ阻害剤であるとの結論が得られた。MS(Voyager社製)を用いて、ピーク3の特徴化をさらに行った。シナピン酸をマトリックスとして用いたMS分光分析により、39503Daのタンパク質に相当するシグナルが認められた(図13)。
【0157】
上述したように、SDS PAGEゲルからは3つのバンドが認められた。10kDa近辺、30kDa近辺、及び40kDa近辺にそれぞれ1つのバンドがみられた。SDS−PAGEの結果を説明するために、上述の条件と同一条件下で、精製したドミナント画分を回収し、減圧凍結乾燥し、カルボキシメチル化した後、C4カラムに戻した。カラムに戻したことにより得られた画分(図14)をMSにより分析した。図15、16から明らかなように、これらのポリペプチドの分子量(MW)は、12104及び28222Daだった。かかるキシラナーゼ阻害剤は、元々ジ−ペプチド(MW39503Da)であったか、或いは分析過程において変性及び還元(MWがそれぞれ12104及び28222Daである2つのペプチド)されたかのどちらかであると考えられる。
【0158】
(IEF及びクロマトフォーカシングクロマトグラフィーによるキシラナーゼ阻害剤のpl測定)
IEFゲルにおいては、アルカリ性領域に3つのバンド(それぞれ約9.3、8.6、及び8.2)が認められ、酸性領域に3つのバンド(それぞれ5.1、5.3、及び5.5)が認められた(図17)。この結果からだけでは、無処理のキシラナーゼ阻害剤のplを決定するのは無理であると考えられる。この点に関しては、かかる試料にはキシラナーゼ阻害剤及び約4500DaのSerpinの3断片だけが含まれていることが、配列決定から明らかになっている。Serpinのplを理論的に計算した結果は5.58であり、配列決定により得られた断片により計算したplは5.46(Swiss Prot programmesを使用した)だった。このことから、上記ゲルにみられた3つの酸性バンドは、逆相クロマトグラフィー(図12)で認められたSerpinの3つのピークであり、また3つのアルカリ性バンドは、キシラナーゼ阻害剤の異なる3形態(天然のジ−ペプチド形態、及び2つのペプチド)であることが示唆される(配列決定から示唆される)。
【0159】
図18に示すクロマトフォーカシングクロマトグラフィーの結果から明らかなように、キシラナーゼ阻害剤は所定の条件下ではカラムに結合しない。これは天然のキシラナーゼ阻害剤のplは8.5若しくはそれ以上であることを意味する。よって上述の推定、つまりIEFゲル上に3つのアルカリ性バンドがあることから3種類のキシラナーゼ阻害剤の形態が考え得るという推定は正しいと思われる。
天然のキシラナーゼ阻害剤のplは、8.0〜9.5の間であると結論づけられる。かかる幅内に3つのバンドがある。かかる3バンドは恐らく3形態で存在していると考えられるキシラナーゼ阻害剤に相当している(IEFによる結果を参照されたい)。この点に関して、IEFを用いるときには、タンパク質は天然のタンパク質のままランを行うが、ジ−ペプチドタンパク質の中にはIEF法により部分的に損傷を受けるものがあり、その結果1以上のバンドが出現することがある。
【0160】
(配列データ)
阻害剤を形成する2つのペプチドは配列決定され、N末端及び内在配列が決定された。配列決定の結果は、添付の配列表に配列番号13〜19として示した。
第1鎖(A鎖)を形成する配列を、配列番号13及び14として示した。第2鎖(B鎖)を形成する配列を配列番号15〜19として示した。配列決定したポリペプチドと相同性を有するポリペプチドをデータベース上で検索したが、その結果はネガティブだった。いずれのポリペプチドも、かつて配列決定されたことも記載されたこともなかった。
【0161】
(種類の異なるキシラナーゼ類に対する阻害剤の効果)
種々のキシラナーゼの阻害を考察する目的でいくつかの実験を行った。先ず本発明者らは、キシラナーゼ活性の低下は、抽出物におけるタンパク質分解作用によるものであると考えた。そこで「阻害剤」抽出物の分量を様々に変えて、種々のキシラナーゼをインキュベートした(図19)。かかるキシラナーゼ類は、程度の差はあれ阻害を受けていた。「阻害剤」濃度条件により、阻害活性が上昇することも見いだした。図19に示す結果から、タンパク質分解作用又は阻害剤によりキシラナーゼ活性が低下することが示された。しかし一定のキシラナーゼ及び一定濃度の阻害剤による経時実験の結果、並びに「プロテアーゼ活性分析」に基づく上述の結果からは、活性低下が時間の経過に伴って生じることを明らかにできなかった。プロテアーゼと阻害剤を識別するために正式なキネティックスを行った(「阻害剤キネティックス」を参照のこと)。
【0162】
Bacillus subtillisキシラナーゼ2種を、そのベーキングに及ぼす効果に着目して詳細に研究した。これらのキシラナーゼは機能的に若干違いがみられ、同量を添加して焼いたときに1種類のキシラナーゼを添加した製品の嵩が幾分大きかった。その理由の1つとして、小麦粉において上記キシラナーゼ類の活性が阻害される程度が異なることが挙げられる。このことを確認するために実験を行った。阻害剤の供給源として小麦粉を2種類用い、かかる実験を2回繰り返して行った。表13には、種類の小麦粉(98002及び98026)から抽出した阻害剤により、2種類のキシラナーゼ(980601及び980603)が受ける阻害の結果が示されている。阻害は、%阻害及び%残存活性として算出し、ブランクと比較した。かかる実験からこれら2種類のキシラナーゼは、阻害剤によって程度の差はあるが阻害されることがわかる。上記キシラナーゼ2種は、6アミノ酸が異なるだけである。
【0163】
【表13】
【0164】
980601を基礎として3種のキシラナーゼ変異体を作出した(XM1、XM2、及びXM3)。これらの変異体を分析して阻害を調べた(図20)。図20から明らかなように、上記変異体3種における残存活性は異なるが、これはキシラナーゼ阻害剤により異なる程度の阻害を受けていることを意味している。5種類のキシラナーゼの内4種類(BX、R▲o▼hm、XM1、及びXM3)のキシラナーゼが同じ特異的活性(約25000TXU/mgのタンパク質)を備えている。XM2は同様の特異的活性を有していると予想される。XM1とXM2における阻害の差は、約250%である(XM1の残存活性は、XM2の静止活性の2.5倍と高い)。この差は1個のアミノ酸に起因する。XM2のアミノ酸122は、アルギニンからアスパラギンに変化し、活性部位近辺で陽電荷の減少をもたらす。
【0165】
(阻害剤キネティックス)
阻害剤が拮抗阻害剤であるか非拮抗阻害剤であるかを決定することだけを対象として、簡便な予備的キネティックスを行った。一定のキシラナーゼ及び一定の阻害濃度条件下で、基質の量を様々に変化させてインキュベートした(図21)。図21からわかるように、阻害剤存在下のキシラナーゼ及び阻害剤非存在下のキシラナーゼ双方のVmaxは、約1.19だった。このことからこの阻害が拮抗阻害であることが示唆される。
上述の予備的阻害実験では、検討したキシラナーゼ類の間でK1値が異なることを示していたため、キシラナーゼ数種の正式なK1値を測定した。図22のデータが示すように、キシラナーゼ種間におけるK1値には有意の差がみられた。簡単な予備的阻害の特徴化により示された結果が、このことから確認された。
【0166】
(pHと阻害との関係)
異なるpHにおいてキシラナーゼ阻害剤の存在が容易に認められることから、キシラナーゼ阻害にpHが何らかの影響を及ぼしていると考えられる。そこでかかる影響を調べるために実験を行った。図23から明らかなように、キシラナーゼ阻害はpHの影響を受ける。図24には、キシラナーゼに対する最適pHが示されている。これらの2曲線を比較すると、Novoキシラナーゼ(980901)のpH4での測定を別にすれば、キシラナーゼにとっての最適pHにおいて最大阻害が生じることがわかる。
【0167】
本発明のアッセイにより測定した阻害率が、生地と関連性を有しているかを調べるために計算を行った。
阻害剤抽出
小麦粉(グラム): 6
水(ml): 12
小麦粉g/ml: 0.5
アッセイにおける小麦粉(g): 0.05
キシラナーゼ溶液
TXU/ml: 12
アッセイでのTXU/ml: 3
阻害剤:キシラナーゼの割合
小麦粉TXU/kg:60000(阻害剤アッセイ時)
小麦粉TXU/kg:3000(ベーカリーへの使用時)
上記の計算から、アッセイにおける阻害剤:キシラナーゼの割合は、生地に含まれるときの割合よりも、アッセイにおける割合の方が20分の1と低い結果になった。これはキシラナーゼが生地に含まれるときに、より顕著に阻害されることを意味している。しかしながら、移動度及び水分活性は生地における方が低く、このことが阻害に影響を及ぼしているとも考えられる。
【0168】
小麦粉には、内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が存在している。かかる阻害剤は、水を用いた簡便な抽出法により小麦粉から抽出でき、この阻害剤が水溶性であることを示している。阻害剤はゲル濾過、イオン交換、及び疎水性相互作用クロマトグラフィー技術により精製される。
分析用ゲル濾過クロマトグラフィー、SDS PAGE、逆相クロマトグラフィー、及びMSを用いた精製阻害剤の特徴化により、約40kDaのポリペプチドが見いだされた。このポリペプチドは、分子量がそれぞれ12104及び28222Daである2つのペプチドを含むジ−ペプチドであることが判明した。上記精製阻害剤(厳密には2つのペプチド)は、N末端で配列決定され、次に、得られたペプチドの消化及び配列決定を行った。
【0169】
阻害剤を用いた予備実験は、キシラナーゼ活性の低下は、タンパク質分解作用に起因することを示している。しかし、インキュベーション(キシラナーゼ+阻害剤)の分析結果及び阻害剤のキネティックスは、観察されたキシラナーゼ活性の低下は、拮抗阻害によるものであることを示している。
キシラナーゼ数種類を用いた阻害剤実験からは、阻害剤に対する感受性の違いが見受けられる。キシラナーゼの中には、阻害剤によってほぼ100%阻害されるものも数種類ある(小麦粉においてよりも、低い阻害剤:キシラナーゼの割合)。pHを様々に変化させて阻害剤アッセイを行ったところ、阻害剤はアッセイにおいては、高度にpH依存性であることが判明した。キシラナーゼ変異体を調べたところ、アミノ酸を1個換えることは、阻害を250%減少させることを意味した。
【0170】
上述の結果を確認するために、キシラナーゼ数種のK1値を測定した。その結果から、使用したキシラナーゼの種類によってK1値が異なることが判明し、予備結果においてみられたキシラナーゼと阻害剤に対する耐性の違いとの相関関係が確認された。
【実施例3】
【0171】
実施例3(ベーキングテスト)
以下のデータは、XM1変異体を使ったベーキング実験から得たものである。かかる新規のキシラナーゼ変異体が、嵩の点において明らかにBX(Bacillus subtilis野生型)に勝っていることが、このデータから読みとれる。粘度測定結果からは、上記2種のキシラナーゼ間に有意の差は認められなかった。
(酵素)
980902(BX):大腸菌において発現され、精製したBacillus sub.野生型キシラナーゼ(2000TXU/ml)
980903(XM1):大腸菌において発現され、精製したBacillus sub.野生型キシラナーゼ変異体(1375TXU/ml)
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉、バッチ番号98022
【0172】
(ベーキングテスト:ハードクラストロール)
小麦粉2000g、乾燥酵母40g、砂糖32g、塩32g、GRINDSTEDTMPanodanA2020 4g、水400Brabender Units+4%を、Hobartミキサーを用い、ロースピードで2分間、ハイスピードで9分間のフックで捏和した。生地の温度は26℃だった。生地を1350g計量し、30℃で10分間寝かせて、次にFortunaモールドに流し込んだ。34℃、85%RHで45分間プルーフした後、Bagoオーブンで220℃で18分間焼成し、12秒間蒸らした。
荒熱をとった後、ロールパンを計量し、パンの容積をrape seed deplacement法により測定した。
比容積= パンの容積(ml)/パンの重さ(g)
【0173】
(粘度測定)
粘度測定は、プロトコール2に従って行った。
表14から明らかなように、新規のキシラナーゼ変異体(XM1)を添加すると、BXを添加したときに比べ、パン嵩が顕著に増した。表14には、2種類のキシラナーゼ(BX及びXM1)の分量を様々に変えて添加したときのパン嵩増量分(ml/g)及び粘度(g×s)が示されている。また、表14のデータは、図25、26、及び27に示されている。
【0174】
【表14】
【実施例4】
【0175】
実施例4(XM1、R▲o▼hm Veron specialキシラナーゼ、及びR▲o▼hm Veron Specialキシラナーゼの精製物と生地の粘度との関係)
新規キシラナーゼのXM1添加により、R▲o▼hm's Veron Specialキシラナーゼ(さらに該キシラナーゼを精製したもの)を添加したときよりも、生地の粘度が増減するか否かを調べるために生地を調製し、キシラナーゼの作用結果としての粘度を測定した。
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉、バッチ番号98022を使用した。
(生地の調製)
生地は、プロトコール2に従って調製した。生地を混合し、粘度測定を行う前に密封容器において、それぞれ10分間及び45分間寝かせた。
(粘度測定)
粘度測定は、プロトコール2に従って行った。
(酵素)
980903(XM1):大腸菌において発現されるBacillus sub.野生型の精製変異体(1375TXU/ml)
#2199:R▲o▼hm Veron Specialキシラナーゼ(10500TXU/g)
980603(R▲o▼hm):Frimond's Belaseキシラナーゼ(R▲o▼hm'sと同じ)の精製調製物(1050TXU/ml)
粘度測定を行うために以下の生地を作製した(表15)。
【0176】
【表15】
【0177】
表15に示される生地を用いて、表16の粘度測定結果が得られた。表16には、精製R▲o▼hmキシラナーゼ、コントロール、XM1、及びR▲o▼hm's Veron Specialキシラナーゼを使用して調製した生地の粘度測定結果が示されている。上記データは、図28、29、及び30に示されている。
XM1を使用したときの粘度増加量は、精製R▲o▼hmキシラナーゼを使用したときの粘度増加量より少なかった。未精製のR▲o▼hmキシラナーゼを使用したときの粘度増加量は、それと比べかなり多かった。
【0178】
【表16】
【実施例5】
【0179】
実施例5(細菌性エンド−β−1,4−グルカナーゼと生地の粘度との関係)
以下の結果は、細菌性エンド−β−1,4−グルカナーゼが粘度に与える影響を調べるために行った実験から得られたものである。
(酵素)
981102−1(Xyl):Veron Special製品のR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの精製調製物に相当する。かかる調製物は精製キシラナーゼであり、エンド−β−1,4−グルカナーゼを全く含まない(350TXU/ml)。
981102−2(Xyl+Gluc):Veron Special製品のR▲o▼hm細菌性キシラナーゼの精製調製物に相当し、エンド−β−1,4−グルカナーゼ(900TXU/ml+19BGU/ml)を含む。
【0180】
(キシラナーゼアッセイ)
プロトコール1に従ってキシラナーゼアッセイを行った。
(グルカナーゼアッセイ)
プロトコール4に従ってグルカナーゼアッセイを行った。
(小麦粉)
デンマーク産小麦粉バッチ番号98058を使用した。400BUにおける水分吸収率は60%だった。
(生地の調製)
生地はプロトコール2に従って調製した。生地を混合した後、密封容器にて30℃でそれぞれ10分間及び45分間寝かせた。
(粘度測定)
粘度測定はプロトコール2に従って行った。表17に示した生地を作製し、粘度測定を行った。
【0181】
【表17】
【0182】
表17に示した生地により、表18に示される粘度測定の結果が得られた。表18には、キシラナーゼを添加した生地、並びにキシラナーゼ及びグルカナーゼを添加した生地の粘度測定の結果が示され、表18中の生地番号は、表17の生地番号に対応している。表18中、Stik#10は、生地を10分寝かせた後に粘度測定を行った結果を、Stik#45は、45分寝かせた後に粘度測定を行った結果をそれぞれ示す。表18から明らかなように、生地にエンド−β−1,4−グルカナーゼを添加すると、生地の粘度は増す。表18に示した結果を図31に図示した。
【0183】
【表18】
【0184】
要約すると本発明は、実施例に示しながら、以下のものを提供するものである。
a.小麦粉から内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を単離すること。
b.小麦粉から単離した内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤の特徴化を行うこと。
c.種類の異なるキシラナーゼ類に対し内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤が及ぼす効果の特徴化。
d.内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類の選択方法。
e.エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤によって有害な影響を受けないキシラナーゼ類の選択方法。
f.真菌性キシラナーゼ類を含む生地に比べ、好ましい嵩と程良い粘度を備えた生地を提供するキシラナーゼ類。
g.キシラナーゼ類のスクリーニング方法及び/又は内因性エンド−β−1,4−キシラナーゼ阻害剤を用いて該キシラナーゼを変異させる方法、並びに該キシラナーゼ類又は変異体を生地製造に用いる方法。
h.本発明のキシラナーゼ類を用いて調製した食品。
【0185】
本明細書において引用した全ての刊行物は、参考として引用した。当該技術の専門家であれば、本発明の範囲及びその精神から逸脱することなく、本発明において説明した方法及びシステムに様々な修正及び変更を加えることが可能であるのは明白である。特に好ましい実施例を用いて本発明の説明を行ったが、ここにクレームした発明は、これらの実施例に限定されるべきではない。実際、ここに述べた本発明の実施形態に対し、生化学及びバイオテクノロジー又はその関連分野の専門家が充分考慮し得る種々の変更は、本発明のクレームの範囲内でなければならない。
【0186】
【図面の簡単な説明】
【0187】
【図1】キシラナーゼの種類、添加量、及び寝かせた時間と粘度の関係を示す図である。
【図2】キシラナーゼの種類、添加量、及び寝かせた時間と粘度の関係を示す図である。
【図3】75mlの阻害剤抽出試料をゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:500mlSuperdex G-25 F、フロー:10ml/分、画分サイズ:30ml
【図4】ゲル濾過にかけた240mlの阻害剤抽出試料を陽イオン交換クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:50mlSepharose SP、フロー:5.0ml/分、画分サイズ10ml
【図5】147mlのイオン交換阻害剤抽出試料に、(NH4)2SO4を加え1.0MにしたものをHICクロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。カラム:10mlPhenyl HIC、フロー:2.0ml/分、画分サイズ:2.5ml
【図6】2mlの濃縮阻害剤試料を分取ゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。阻害剤は176mlで溶離した。カラム:330ml Superdex 75 PG (Pharmacia社製)、溶離液:50mMのNaOAc、200mMのNaCl、pH5.0。フロー:1ml/分、画分サイズ:5.5ml
【図7】純粋キシラナーゼ+煮沸阻害剤抽出物の陽イオン交換クロマトグラムを示す図である。試料:1mlの脱塩980601+煮沸阻害剤抽出物。カラム:1ml Source S 15、緩衝液系:A:50mM NaOAc、pH4.5、B:A+1M NaCl。フロー:2ml/分
【図8】阻害剤抽出物共存下での3時間にわたるインキュベーション後の純粋キシラナーゼの陽イオン交換クロマトグラムを示す図である。試料:1mlの脱塩980601+阻害剤。カラム:1ml Source S15、緩衝液系:A:50mM NaOAc、pH4.5、B:A+1M NaCl。フロー:2ml/分
【図9】100μlの濃縮阻害剤試料を分析用ゲル濾過クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。阻害剤は10.81mlで溶離した。カラム:24ml Superdex 75 10/30(Pharmacia社製、スウェーデン)、溶離液:50mM NaOAc、100mM NaCl、pH5.0、フロー:0.5ml/分、画分サイズ:2.0ml
【図10】Superdex 75 10/30でランにかけて標準タンパク質のKavとLog(MW)との関係を調べた結果を示す図である。
【図11】分取ゲル濾過により得られた画分31、32及び33のSDS PAGEの結果を示す図である。1列目及び3列目は、MWマーカーである(Pharmacia's LMW markers,スウェーデン)。2列目及び4列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分32である。6列目及び8列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分31である。7列目及び9列目は、それぞれ10μl及び25μlを投入した画分33である。
【図12】ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33の逆相クロマトグラムを示す図である。クロマトグラムでは4つのピークが明確に示されている。ピーク3はキシラナーゼ阻害剤である。ピーク4、5、及び6の配列決定を行ったところ、小麦タンパク質であるSerpinと高度な相同性を示した。
【図13】逆相クロマトグラフィーで得られた画分3のMSの結果を示す図である。分光分析から、分子量39503Daの分子が一個見いだされた。
【図14】画分33を逆相クロマトグラムにかけて得られたカルボキシメチル化された画分3(図12参照)を逆相クロマトグラフィーにかけた結果を示す図である。かかるクロマトグラムでは、ジ−ペプチドを示唆する2個の明確なピークが明らかになった。
【図15】カルボキシメチル化逆相クロマトグラフィー(図14参照)で得られた画分2をMSにかけた結果を示す図である。分光分析から分子量12104Daのペプチドが明らかになった。
【図16】カルボキシメチル化逆相クロマトグラフィー(図14参照)で得られた画分3をMSにかけた結果を示す図である。分光分析から分子量28222Daのペプチドが明らかになった。
【図17】分取ゲル濾過クロマトグラフィーで得られた画分33及び34をIEFにかけた結果を示す図である。2列目はpl3〜10標準、3列目はpl2.5〜6.5標準、4列目及び5列目はそれぞれ画分33及び画分34、6列目はトリシン阻害剤(pl4.55)、7列目はβ−ラクトグロブリン(pl5.20)、また8列目及び9列目はそれぞれ画分33及び34である。矢印は、認められた画分33のバンドを示す。
【図18】キシラナーゼ阻害剤のクロマトフォーカシングクロマトグラフィーから明らかになった、pH及び相対的OD(阻害剤アッセイより)と画分との関係を示す図である。図からわかるように画分7においてODが相対的に減少しているが、これは阻害剤活性によるものである。このときのpHは9.4である。
【図19】キシラナーゼ4種類の残存活性%と、阻害剤濃度との関係を示す図である。用いたキシラナーゼ4種は、◆=X1、■=X3、×=BX、▲=Novoである。
【図20】小麦粉抽出物共存下でのインキュベーション後における980601(coli-1)、980603(Belase)、及び980601の変異体3種(XM1、XM2、及びXM3)の残存活性を示す図である。
【図21】キシラナーゼ(980601)+/−阻害剤のラインウィーバー・バークプロット(二重逆数プロット)を示す図である。基質濃度は%アゾキシランである。Vは、アッセイにおける相対的OD590である(100がS=2%のとき)。
【図22】種々のキシラナーゼのK1値をμl阻害剤として示した図である。
【図23】3種類のキシラナーゼ(980601=Bac. Sub. wt、980801=X1、及び980901=Thermomyces)の阻害とpHとの関係を示す図である。関連のブランクを基質にしてデータを得た。
【図24】3種類のキシラナーゼ(980601=BX、980801=X1、及び980901=Novo)の最適pH条件を示す図である。
【図25】比容積=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図26】比容積増加量=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図27】粘度=f(キシラナーゼ×添加量)を示す図である。
【図28】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後で測定した粘度と種々のキシラナーゼ調製物及びコントロールとの関係を示す図である。980603は精製したR▲o▼hmキシラナーゼを、XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図29】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後の、粘度の増加と3種類のキシラナーゼ調製物の関係を示す図である。980603は精製したR▲o▼hmキシラナーゼを、XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図30】10分間(#10)及び45分間(#45)寝かせた後の、粘度の増加と2種類のキシラナーゼ調製物の関係を示す図である。XM1はキシラナーゼ変異体1を、また#2199はR▲o▼hm's Veron Special productを示している。
【図31】粘度の増加とエンド−β−1,4−グルカナーゼ添加との関係を示す図である。1:キシラナーゼ無添加のコントロール生地、2:7500TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉、3:7500TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉+158BGU/kg小麦粉、4:15000TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉、5:15000TXU純粋R▲o▼hmキシラナーゼ/kg小麦粉+316BGU/kg小麦粉を示している。10分(Stik#10)及び45分(Stick#45)後に生地の測定を行った。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のペプチド:
(a)配列番号5として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号6として示されるヌクレオチド配列からなるDNAを発現することにより得られるポリペプチド;
からなるキシラナーゼの、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地を調製するための使用であって、
前記粘度が、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により生地粘度を測定することを含む粘度測定方法により測定可能であり、生地が、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400Brabender Units(BU)で、小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合し、そこに水を加え、さらに5分間前記生地を混ぜ、できあがった生地を密封容器において30℃で、有利には10、30又は45分間寝かせ、約4gの生地をDough Stickness Cellに積載し、均一に押し出すように前記生地を4mm押し出し、1mmの生地を押し出し、TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で、押し出した生地を押圧し、前記プローブを持ち上げ、前記生地と前記プローブとが粘着する度合を記録し、以下のTA−XT2の設定:
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
を用いて作製されることを特徴とする使用。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のペプチド:
(a)配列番号5として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号6として示されるヌクレオチド配列からなるDNAを発現することにより得られるポリペプチド;
からなるキシラナーゼを用いて調製された、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地であって、
前記粘度が、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により生地粘度を測定することを含む粘度測定方法により測定可能であり、生地が、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400Brabender Units(BU)で、小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合し、そこに水を加え、さらに5分間前記生地を混ぜ、できあがった生地を密封容器において30℃で、有利には10、30又は45分間寝かせ、約4gの生地をDough Stickness Cellに積載し、均一に押し出すように前記生地を4mm押し出し、1mmの生地を押し出し、TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で、押し出した生地を押圧し、前記プローブを持ち上げ、前記生地と前記プローブとが粘着する度合を記録し、以下のTA−XT2の設定:
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
であることを特徴とする生地。
【請求項3】
請求項2記載の生地を用いて調製される焼き製品であって、パン、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、又はクラッカーであることを特徴とする焼き製品。
【請求項1】
以下の(a)又は(b)のペプチド:
(a)配列番号5として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号6として示されるヌクレオチド配列からなるDNAを発現することにより得られるポリペプチド;
からなるキシラナーゼの、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地を調製するための使用であって、
前記粘度が、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により生地粘度を測定することを含む粘度測定方法により測定可能であり、生地が、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400Brabender Units(BU)で、小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合し、そこに水を加え、さらに5分間前記生地を混ぜ、できあがった生地を密封容器において30℃で、有利には10、30又は45分間寝かせ、約4gの生地をDough Stickness Cellに積載し、均一に押し出すように前記生地を4mm押し出し、1mmの生地を押し出し、TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で、押し出した生地を押圧し、前記プローブを持ち上げ、前記生地と前記プローブとが粘着する度合を記録し、以下のTA−XT2の設定:
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
を用いて作製されることを特徴とする使用。
【請求項2】
以下の(a)又は(b)のペプチド:
(a)配列番号5として示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;
(b)配列番号6として示されるヌクレオチド配列からなるDNAを発現することにより得られるポリペプチド;
からなるキシラナーゼを用いて調製された、真菌性キシラナーゼを含む生地より粘度の低い生地であって、
前記粘度が、SMS Dough Stickness Cellを用い、TA−XT2システム(Stable Micro Systems社製)により生地粘度を測定することを含む粘度測定方法により測定可能であり、生地が、Farinograph(AACC法54-21)を用いて、小麦粉、2%のNaCl及び水400Brabender Units(BU)で、小麦粉とNaClを1分間乾燥状態で混合し、そこに水を加え、さらに5分間前記生地を混ぜ、できあがった生地を密封容器において30℃で、有利には10、30又は45分間寝かせ、約4gの生地をDough Stickness Cellに積載し、均一に押し出すように前記生地を4mm押し出し、1mmの生地を押し出し、TA−XT2システムに接合したプローブ(25mmのパースペクスシリンダープローブ)を用い、設定した力で、押し出した生地を押圧し、前記プローブを持ち上げ、前記生地と前記プローブとが粘着する度合を記録し、以下のTA−XT2の設定:
科目: 粘着テスト
テスト前速度: 2.0mm/s
テスト速度: 2.0mm/s
テスト後速度: 10.0mm/s
距離: 15mm
力: 40g
時間: 0.1s
トリガータイプ 自動−5g
データ収集率 400pps
であることを特徴とする生地。
【請求項3】
請求項2記載の生地を用いて調製される焼き製品であって、パン、プレッツェル、トルティヤ、ケーキ、クッキー、ビスケット、又はクラッカーであることを特徴とする焼き製品。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2011−92199(P2011−92199A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−280581(P2010−280581)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2000−591181(P2000−591181)の分割
【原出願日】平成11年12月17日(1999.12.17)
【出願人】(397060588)ダニスコ エイ/エス (67)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【分割の表示】特願2000−591181(P2000−591181)の分割
【原出願日】平成11年12月17日(1999.12.17)
【出願人】(397060588)ダニスコ エイ/エス (67)
【Fターム(参考)】
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