タービン翼の探傷方法
【課題】内部壁面に生じたき裂を熟練を要することなく判定可能なタービン翼の探傷方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明にかかるタービン翼の探傷方法の代表的な構成は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し(ステップ304)、検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し(ステップ310)、基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定する(ステップ316)ことを特徴とする。
【解決手段】本発明にかかるタービン翼の探傷方法の代表的な構成は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し(ステップ304)、検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し(ステップ310)、基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定する(ステップ316)ことを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、その内部壁面のき裂を判定する探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所ではタービンを回転させることによって発電を行っている。タービンは、軸に固定されたタービン翼(タービンブレード)に高温の蒸気や燃焼ガスなどの流体を通過させることによって、50Hzであれば3000rpmの速度で回転させている。タービン翼はロータ(翼車)の外周に数十枚から100枚以上が着脱可能に取り付けられている。タービン翼は高温の流体にさらされるため、内部に空気や蒸気が流通する冷却空間を形成している。このような構造をしたタービン翼、例えば動翼には、流体から受ける圧力と、ロータを回転させる反力の曲げ応力と、強い遠心力と、回転振動とに加えて、高温であるという条件が加わり、き裂が生じるおそれがある。
【0003】
そのため、タービン翼は定期的に点検作業が行われる。このとき探傷検査が行われ、まだ損傷(き裂)を受けていないタービン翼は継続使用される。ここで探傷検査の精度を鑑みて、運転中に破損する危険を避けるために、き裂が確認できなくても疑わしきものは使用しないこととなっている。しかしタービン翼は、構造が複雑であることと、高い寸法精度、高品質な材料が要求されることから、高価な部材である。このため、タービン翼の劣化を適切に評価し、交換時期を最適化したいという要請がある。
【0004】
例えば特許文献1には、タービンのロータとタービン翼との取付け部位に超音波検査法を適用して欠陥の有無の検査を行うタービンの検査方法が開示されている。特許文献1では、タービン翼をロータに植え込んだ状態では外部に露出しない取付け部位を、まず超音波探傷法によって検査している。そして、欠陥が検出されなかった場合、複数のうちの一部のタービン翼をロータから抜き取って取付け部位を露出させ、その取付け部位を超音波探傷法よりもさらに欠陥検出限界(検出可能な欠陥の長さの下限)の小さい非破壊検査法によって検査している。
【0005】
特許文献1では、上記欠陥検出限界の小さい非破壊検査法として、まず周知の磁粉探傷法や浸透探傷法が適用されている。そして、それらよりもさらに欠陥検出限界の小さい方法として、レプリカ法が適用されている。このレプリカ法とは、液状シリコンゴムを主成分とした樹脂によってタービン翼の外表面を転写したレプリカを作成し、そのレプリカの形状を測定することでタービン翼の欠陥を検出する方法である。特許文献1ではこれらの検査方法により、タービン翼の検査作業が効率良くかつ精度良く実施できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1で適用される超音波探傷法以外の非破壊検査法(磁粉探傷法、浸透探傷法、レプリカ法)は、いずれもタービン翼の外表面の欠陥を検査対象とする方法である。しかし、タービン翼は内部壁面にもき裂(欠陥)が発生しやすい。冷却空間には剛性担保用のボス(柱)や流路形成用のスリットなどの構造が形成されており、形状異方性による応力集中が各所に生じ、また壁面の肉厚にも多寡が生じるためである。このような内部壁面のき裂には、特許文献1に記載された超音波探傷法以外の非破壊検査法の適用は困難である。
【0008】
一方、超音波探傷法であれば内部壁面の探傷検査も行うことが可能である。しかし、入射した超音波は上記のように複雑な形状をした冷却空間のボスやスリットに乱反射して戻ってくる。したがって反射波のエコー画面を観察しても、形状による反射波の中に傷の反射波が埋もれてしまいやすく、エコー画面から傷を識別するには熟練を要する。このため、傷を見落としてしまったり、傷でない箇所に傷があると判断してしまったりするおそれがあり、探傷精度の向上が図りにくいという問題がある。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、内部壁面に生じたき裂を熟練を要することなく判定可能なタービン翼の探傷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるタービン翼の探傷方法の代表的な構成は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し、検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し、基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定することを特徴とする。
【0011】
物体が荷重を受けて弾性変形を生じると、物体の外表面も変形する。物体の変形には、物性として曲げ剛性、伸び剛性、せん断剛性などが関係し、また形状によって断面二次モーメント、断面二次極モーメントを考えることができ、さらには屈曲部や隅部に形状異方性による応力集中が発生する。このように弾性変形中には複数の条件や現象が同時に作用するが、中でも今回のように内部にき裂が生じると、部分的に剛性が小さくなる。すると、局部的に付加的な弾性変形を生じるため、物体の外表面も付加的な変形が現れる。そして、模範的な高さ分布の変化(基準分布変化)と検査対象の高さ分布の変化(検査分布変化)との差分において、正負が逆転する褶曲形状を検出することで、内部壁面のき裂を判定することが可能である。
【0012】
なお、本発明では、ナノメートルオーダーの高さ分布の変化を取得してき裂の判定を行う。一方、物体の外表面には、表面仕上げの粗さや、傷、酸化による組織変化、付着した汚れなどにより、始めから無視できない大きさの凹凸がある。しかし上記のように、基準分布変化や検査分布変化とすることによって荷重による変形以外の高さ分布を相殺することができる。そして、さらに基準分布変化と検査分布変化の差分を取ることによって、き裂に起因する形状のみを検出することができる。
【0013】
上記のようなナノメートルオーダーの高さ分布の測定には、デジタルホログラフィック顕微鏡を用いるとよい。デジタルホログラフィック顕微鏡は、垂直方向の距離の測定に対し高い分解能を有し、1μm以下(サブミクロン)の起伏も測定可能である。これにより、タービン翼の外表面の高さ分布を精密に測定することが可能となる。
【0014】
基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得してもよい。詳しくは、有限要素法解析または境界要素法解析を用いて、3次元モデルに荷重をかけて、高さ分布の変化を取得することができる。これにより、同一形状でき裂のないタービン翼が入手困難な場合でも、基準分布変化を取得することができる。
【0015】
基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得してもよい。逆向きに荷重を印加すると、き裂が閉じる方向に荷重がかけられることになるため、傷がない場合と同様の挙動を示す。変位の方向は逆向きとなるが、絶対値を取ることによって基準分布変化とすることができる。これにより、検査対象のタービン翼を用いて、より実際に即した基準分布変化を取得することができ、正確な判定をすることが可能となる。
【0016】
上記のタービン翼の探傷方法では、検査分布変化を取得する際には、前記内部壁面に生じたき裂が広がるようにタービン翼が反る方向に荷重を印加するとよい。き裂の位置では壁面の有効厚さが減少して、曲げ剛性が低下する。そのため、き裂の位置の変形が大きくなる。ここでき裂がふさがる方向に曲げ応力をかけても、き裂の位置の変形は大きくならない。このため、上記の方向にタービン翼を弾性変形させることで、内部壁面のき裂の存在を判定することが可能になる。
【0017】
上記のタービン翼の探傷方法は、超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を行い、超音波探傷において傷があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、その位置の基準分布変化および検査分布変化を取得してもよい。
【0018】
上記構成では、まず超音波探傷によって内部壁面におけるき裂のおおよその位置を迅速に把握する。そして、その位置のき裂の有無を判定することにより、超音波探傷の判定の妥当性を確認することができる。すなわち、超音波探傷の精度を補い、迅速かつ確実なき裂の判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部壁面に生じたき裂を、熟練を要することなく判定可能なタービン翼の探傷方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】タービンを示す図である。
【図2】タービン翼を示す図である。
【図3】タービン翼の部分断面図である。
【図4】本実施形態にかかるタービン翼の探傷方法を示すフローチャートである。
【図5】デジタルホログラフィック顕微鏡を用いてタービン翼の高さ分布を測定する様子を示す図である。
【図6】荷重が印加された状態で高さ分布を測定する様子を示す図である。
【図7】図6(a)の内部壁面を拡大した概略図である。
【図8】基準分布変化と検査分布変化、およびこれらの差分を説明する模式図である。
【図9】他の手法によって荷重が印加されているタービン翼を示す図である。
【図10】他の手法によって荷重が印加されているタービン翼を示す図である。
【図11】図9(a)の内部壁面を拡大した概略図である。
【図12】FEM解析において使用したタービン翼のFEMモデルを示す図である。
【図13】荷重が印加されているFEMモデルを示している。
【図14】FEM解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(タービン翼)
図1はタービンを示す図である。タービン100は、円板状のロータ102(翼車)と、その外周に取り付けられたタービン翼104(動翼)とを有している。タービン翼104は流体の流れを受ける翼である。タービン翼104はロータ102の外周に数十枚から100枚以上が着脱可能に取り付けられている。ロータ102の中央には、回転エネルギーを伝達する不図示のタービン軸が挿入される。発電所等では、タービン100から得られる回転エネルギーによって発電機が回され、発電が行われている。
【0023】
図2はタービン翼104を示す図である。タービン翼104は、ロータ102への固定を強固に行うために、その固定箇所である翼根106がいわゆるクリスマスツリー形状となっている。この形状により、タービン100の回転時に発生する遠心力を分散させている。一般的に、タービン翼104は金属材料を用いて鋳造により成形される。
【0024】
タービン翼104は高温の蒸気や燃焼ガスにさらされるため、各種の冷却機能が備えられている。例えば、タービン翼104の内部には破線で示す内部壁面110が形成されている。この内部壁面110に囲われた空間は、冷却用の空気や蒸気(以下、「冷却空気」と称す)を通過させることが可能な冷却空間として形成されている。
【0025】
図3は、図2の部分断面図である。図3に示すように、冷却空間を囲う内部壁面110には、剛性担保用に複数の小さな円形のリブ112と、縦長のリブ114等が形成されている。リブ112等が形成されている空間の上方には、その空間よりも幅広な空間(幅広部115)が形成されている。幅広部115の上方には、幅広部115から放出孔108に通じる複数の流路116が形成されている。冷却空気は、冷却空間の内部を翼根106から放出孔108に向かって通過する。
【0026】
内部壁面110は、タービン翼104の鋳造時に鋳造中子を用いて形成される。また、流路116は放電加工等によって形成される。このような冷却空間が内部に設けられているため、タービン翼104にはその回転時に形状異方性による応力集中が内部壁面110の各所に生じやすい構成となっている。特に、上記の幅広部115の近傍の内部壁面110は断面形状が急激に変化しているため、応力集中が生じてき裂が発生するおそれがある。
【0027】
(タービン翼の探傷方法)
図4は、本実施形態にかかるタービン翼104の探傷方法を示すフローチャートである。以下の説明において、各種データ処理および演算は、不図示の演算部が行う。演算部とは、CPUがRAM上で動作させるソフトウェアによって実現することができる。
【0028】
本実施形態にかかる探傷方法では、タービン翼104の内部壁面110のき裂を、その外表面から判定することが可能である。また本実施形態では、タービン翼104の外表面の高さ分布を測定するためにデジタルホログラフィック顕微鏡118(図5参照)を使用している。
【0029】
図5はデジタルホログラフィック顕微鏡を用いてタービン翼104の高さ分布を測定する様子を示す図である。デジタルホログラフィック顕微鏡118は、測定対象の3次元像を測定することが可能な顕微鏡である。デジタルホログラフィック顕微鏡118はレーザー光のホログラフィ技術を用いた三次元顕微鏡であって、垂直方向の距離の測定に対し高い分解能を有し、1μm以下の起伏も非接触で測定可能である。タービン翼104は鋳造品であって極めて高い剛性を有しており、また長さが数十cm程度であるため、従来の測定法では破壊を伴わずに弾性変形を測定することは極めて困難であった。しかしデジタルホログラフィック顕微鏡118を用いることにより、タービン翼104の外表面の高さ分布(形状)を精密に測定することが可能となる。デジタルホログラフィック顕微鏡118が測定した高さ分布は、位置に対する高さの集合(プロファイル)として出力される。またデジタルホログラフィック顕微鏡118は、取得したプロファイルをモニタ上に3Dデジタル画像として表示することも可能である。
【0030】
まずステップ300において、図5に示すように、き裂のないタービン翼103の外表面の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定する。き裂のないタービン翼103としては、例えば未使用の同型の部品か、またはき裂がないことが確認された同型の部品を用いることができる。
【0031】
ステップ302において、き裂のないタービン翼103に荷重を印加した状態で、高さ分布を測定する。図6は、荷重が印加された状態で高さ分布を測定する様子を示す図である。図6(a)は、荷重が印加されているタービン翼の概念図である。図6(a)に示すように、荷重の印加は、タービン翼103の根元側(翼根106側)および先端側を固定支点120、122によりそれぞれ支えて行う。荷重の印加は、荷重試験機(不図示)のヘッド部124によって集中荷重として印加する。図6(b)は、図6(a)に対応する斜視図である。図6(b)に示すように、ヘッド部124は先端が二またに分かれている。これは、タービン翼103における集中荷重が印加された箇所の中央(ヘッド部124の二またの先端の間)の外表面をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定するためである。
【0032】
ここで、図6(a)に示すように、荷重はタービン翼104の上方から下方に向かって印加されている。これは、図中に太い破線で示す上側の内部壁面110を検査する場合の処理である。
【0033】
ステップ304において、演算部は、荷重印加前後の高さ分布を比較し、き裂のないタービン翼103に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得する。基準分布変化では、き裂のないタービン翼103の表面に、表面仕上げの粗さや、傷、酸化による組織変化、付着した汚れなどにより凹凸があったとしてもこれを相殺することができ、荷重による変形のみを取得することができる。
【0034】
次に、ステップ306において、き裂があるかもしれない検査対象のタービン翼104の外表面の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定する(図5参照)。ステップ308において、検査対象のタービン翼104に荷重を印加した状態で、高さ分布を測定する(図6参照)。なお本実施形態では、タービン翼104の内部にき裂があるものとして説明する。
【0035】
ステップ310において、演算部は、荷重印加前後の高さ分布を比較し、検査対象のタービン翼104に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得する。検査分布変化でも、基準分布変化と同様に、表面に存在する凹凸を相殺し、荷重による変形のみを取得することができる。
【0036】
図7は、図6(a)の内部壁面110を拡大した概略図である。図7では、内部壁面110を実線で示している。ヘッド部124によって上方から荷重P1が印加されることで、タービン翼104は全体的にたわもうとする。詳細には、内部壁面110側には引張り応力N1が生じ、外表面側には圧縮荷重N2が生じる。デジタルホログラフィック顕微鏡118は、2つの荷重P1の中間である領域E1の表面の高さ分布を測定する。このとき、上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130が広がる方向に変形する。
【0037】
き裂130の位置では、断面積が極端に小さいことから局部的に曲げ剛性が弱く、また急激な形状変化があることから応力集中が生じる。そのため、き裂130の位置の変形(屈折)が大きくなる。
【0038】
図8は、基準分布変化と検査分布変化、およびこれらの差分を説明する模式図である。図8(a)で破線にて示すように、き裂のないタービン翼103の基準分布変化は、専らタービン翼104の構造に基づく変形を生じるため、なめらかなたわみ曲線を描いている。一方、き裂のあるタービン翼104の検査分布変化は、き裂の位置で急激な形状変化を生じており、基準分布変化に対してずれを生じている。
【0039】
そしてステップ312において、演算部は、基準分布変化と検査分布変化の差分を算出する。すると図8(b)に示すように、き裂による影響を基準分布変化に対する検査分布変化のずれとして抽出することができる(図8(b)の縦軸のスケールは図8(a)よりも小さい)。ここで特徴的なのは、一般的にはき裂の位置で折れを生じると予想されるところ、き裂位置を中心に一方は凸となり、一方は凹となる褶曲形状を描いていることである。これは、タービン翼103、104が剛性の高い鋳造品であること、1μm以下(サブミクロン)の微小変位を観察していることから、圧縮荷重N2によって生じた褶曲形状が顕在化したものと考えられる。
【0040】
そこでステップ314において、演算部は、算出した差分から正負が逆転する褶曲形状を検出する。これによりステップ316において、タービン翼104の内部壁面110にき裂を判定することができる。なお誤判定を防止するために、き裂の褶曲形状の検出には、差分の大きさに閾値を設けることが好ましい。
【0041】
ここで、き裂130がふさがる方向に曲げ応力をかけても、き裂130の位置の変形は大きくならない。このため本実施形態では、き裂130が広がる方向にタービン翼104を弾性変形させることで、内部壁面110のき裂130の存在を外表面(領域E1)の変形としてより明確に出現させている。すなわち、ステップ302、306の荷重の印加は、内部壁面110に生じたき裂130が広がるようにタービン翼104が反る方向に行うとよい。換言すれば、ヘッド部124による荷重をかけた面の高さ分布を測定することが好ましい。
【0042】
さらには、集中荷重をかける場合には、き裂130の位置が最も大きく変形するように荷重をかけることが望ましい。このためヘッド部124は二またの先端形状をしており、その二またの間において高さ分布を測定するように構成している。
【0043】
上記実施形態では、き裂のないタービン翼103として、例えば未使用の同型の部品か、またはき裂がないことが確認された同型の部品を用いることができると説明した。しかし、き裂のないタービン翼103は鋳造品であって、未使用であっても鋳造欠陥等がないと保証するのは難しい。
【0044】
そこで、基準分布変化は、き裂のないタービン翼103に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得してもよい。詳しくは、有限要素法解析または境界要素法解析を用いて、3次元モデルに荷重をかけて、基準分布変化(高さ分布の変化)を取得することができる。これにより、同一形状でき裂のないタービン翼が入手困難な場合でも、基準分布変化を取得することができる。
【0045】
また、基準分布変化は、き裂のないタービン翼103に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼104に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得してもよい。逆向きに荷重を印加すると、き裂が閉じる方向に荷重がかけられることになるため、傷がない場合と同様の挙動を示す。変位の方向は逆向きとなるが、絶対値を取ることによって基準分布変化と検査分布変化とを比較することができる。これにより、検査対象のタービン翼を用いて、より実際に即した基準分布変化を取得することができ、正確な判定をすることが可能となる。
【0046】
また上記実施形態では測定位置(領域E1)の近傍に集中荷重をかける例について説明したが、タービン翼104には他の手法を用いて荷重を印加してもよい。図9および図10は、他の手法によって荷重が印加されているタービン翼104を示す図である。
【0047】
図9は、タービン翼104の根元側のみを固定し、その先端側に集中荷重を印加する手法を例示している。図9(a)は、本例の概念図である。図9(a)に示すように、本例ではタービン翼104の根元側の固定をより確実にするために、クリスマスツリー形状の翼根106に対応する形状の治具125を使用している。荷重は、タービン翼104の先端側に、その上方から荷重試験機のヘッド部126によって集中荷重として印加する。
【0048】
図10は、タービン翼104の根元側のみを固定し、その片側の外表面に分布荷重(複数の集中荷重による擬似的な分布荷重)を印加する方法を示している。図10(a)は、本例の概念図である。図10(a)に示すように、本例でも図9(a)と同一の治具125を使用している。荷重は、タービン翼104の片側の外表面に、その上方から荷重試験機の複数のヘッド部128によって分布荷重として印加する。
【0049】
図9および図10のいずれも、図9(a)および図10(a)にそれぞれ太い破線で示す上側の内部壁面110を検査する場合の処理を示している。
【0050】
図11を参照して、図9および図10を参照して説明した荷重の印加手法に共通する、荷重の印加によるき裂の広がりについて説明する。図11は、図9(a)の内部壁面110を拡大した概略図である。図11は図7に対応していて、内部壁面110を実線で示している。
【0051】
例えば、図9(a)において、タービン翼104の根元側を支え、先端部に上方から荷重P2(図11参照)を印加することで先端部は下方を向き、タービン翼104は全体として上に凸となる形状に弾性変形する。このとき、図11に示すように、荷重P2(実際にはタービン翼104の先端位置)が印加されることで、タービン翼104のほぼ全体において、タービン翼104の凸側(図中上側)には引張り応力N3が生じ、その凹側(図中下側)には圧縮応力N4が生じる。このとき、上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130は広がる。
【0052】
図11を参照したき裂130の広がりは、図10に示した分布荷重を印加する手法にも共通する。例えば、図10(a)に示すように、タービン翼104の根元側を支え、上方から分布荷重を印加することでタービン翼104は全体として上に凸となる形状に弾性変形する。このとき図11と同様に、タービン翼104のほぼ全体において、タービン翼104の凸側には引張り応力が生じ、その凹側には圧縮応力が生じる。そして、図11のように上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130は広がる。
【0053】
これらのように、図9および図10に示す荷重の印加手法によっても、内部壁面110のき裂130の存在を外表面(図11の領域E2)の変形として出現させることができる。そして、図11の領域E2の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118(図9(b)および図10(b)参照)によって測定することで、外部から視認不能な内部壁面110のき裂130の判定が可能である。
【0054】
(検証)
上記のステップ300〜ステップ316の処理は、荷重負荷によってタービン翼の外表面に変形を生じさせ(基準分布変化および検査分布変化)、その差分からき裂130の有無を判定するものである。以下では、その高さ分布の変化が、デジタルホログラフィック顕微鏡の垂直方向分解能に対して十分に大きい値になり得るかどうかを確認するために、FEM(有限要素法)解析を行った。
【0055】
図12は、FEM解析において使用したタービン翼104のFEMモデルを示す図である。FEMモデルは、タービン翼104の1/2モデルとした。図12(a)に示すように、FEMモデルは、根元側から先端側までの長手方向が600mm、幅方向が150mmとした。FEMモデルの内部には冷却空間として長手方向が250mm、幅方向が100mmのスリットを形成した。
【0056】
図12(b)は図12(a)のA−A断面図である。図12(b)に示すように、FEMモデルの厚みは20mmとした。なお、図12(b)に示すように、冷却空間の存在しない箇所は中実な構造である。
【0057】
図12(c)は図12(a)のB−B断面図である。図12(c)に示すように、冷却空間は、FEMモデルの厚み方向の中央に、図中縦4mmに形成した。冷却空間の先端側には、図中縦5.0mm、横5.0mmの幅広の空間を形成した。
【0058】
このFEM解析では、き裂を有するFEMモデルと、き裂のないFEMモデルとの両方を用意し、解析した。図12(d)は、き裂を有するFEMモデルにおけるき裂を示している。き裂は冷却空間の先端側の幅広の空間において、その上側の面の中央に形成した。き裂の深さ(図中、縦方向)は1、0mmとした。図12(e)は、図12(d)のC−C断面図である。図12(e)に示すように、き裂の長さは5、0mmとした。なお、き裂は、図12(a)のスリットの幅方向(100mm)のほぼ中央に位置している。
【0059】
図13を参照してFEM解析における荷重の印加条件について説明する。図13は、荷重が印加されているFEMモデルを示している。図13(a)は、図6を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側および先端側をそれぞれ支えてき裂の近傍に集中荷重を印加する例を示している。図13(b)は、図9を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側のみを固定し、その先端側に集中荷重を印加する例を示している。図13(c)は、図10を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側のみを固定し、その片側の外表面に分布荷重を印加する例を示している。これらの荷重の印加は、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの両方に対して行った。
【0060】
図14は、FEM解析の結果を示す図である。図14(a)の表は、荷重の印加条件と、各FEMモデルにおける変位(荷重の印加によって生じる各点の移動量)および応力の計算結果を示している。図14(a)に示すように、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとでは、き裂部に生じる最大軸方向応力が異なっている。特に、集中荷重(き裂位置)の荷重印加条件において、き裂部に生じる最大軸方向応力(き裂を開く方向の応力)に、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとで値に大きな差異が現れている。
【0061】
なお、本FEM解析では、き裂部に生じる最大軸方向応力の大きさが、き裂が進行しない程度(100MPa前後)の大きさになるように印加する荷重を設定している。また、最大変位および梁曲げ応力に、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの差異は見られなかった。
【0062】
図14(b)は、各条件の荷重の印加時において、き裂のないFEMモデルの基準分布変化とき裂のあるFEMモデルの検査分布変化の差分を示すグラフである。なお、実線のグラフはき裂のほぼ直上における変化の差分を示していて、破線は側部(冷却空間の幅広の空間のうちき裂がない位置)における変化の差分を示している。なお、き裂のないFEMモデルには、荷重の印加時において局部的な凹凸変形が生じないことを確認している。
【0063】
図14(b)の実線のグラフに示すように、各荷重の印加条件において、正負が逆転する褶曲形状の勾配のグラフが描かれている。この勾配は、集中荷重(き裂位置)の荷重印加条件において特に顕著に現れている、これは、き裂位置の外表面に、凸変形と凹変形とを伴う褶曲形状(シワのような形状)の変位が発生することを示している。この褶曲形状の勾配は、各荷重の印加条件において、破線で示すき裂の側部のグラフにも僅かながら現れている。
【0064】
ここで前述のFEM解析では、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの間において顕著な褶曲形状を得ることができた。そして、その高さ分布の変化は、デジタルホログラフィック顕微鏡の垂直方向分解能に対して十分に大きい値であった。
【0065】
なお上記実施形態の簡略な実施方法として、以下に示す方法も可能である。すなわち、き裂のないFEMモデルには、荷重の印加時において局部的な凹凸変形が生じないことを確認している。したがって、基準分布変化を用いることなく、検査分布変化のみを取得し、局部的な凹凸変形の有無によってき裂の有無を判定することができる。
【0066】
この場合において、表面に存在する凹凸を相殺し、荷重による変形のみを取得することができる。しかしマスターカーブである基準分布変化がないため、全体的な変形をキャンセルすることはできず、正負の逆転では褶曲形状を検出することができない。そこで検査分布変化を微分して変化率を求め、変化率に急激な変化(棘波)が存在することによってき裂を判定してもよい。
【0067】
以上、上記如く説明したように、本実施形態にかかるタービン翼104の探傷方法であれば、内部壁面に生じたき裂を熟練を要することなく判定することができる。
【0068】
なお、上記の方法によって傷を探すためには、本質的にはタービン翼104の全面の表面形状を測定する必要がある。そのため、デジタルホログラフィック顕微鏡118の先端を移動させて、タービン翼104全体をスキャンすることが好ましい。ただし内部壁面110の形状によっては、き裂の生じやすい箇所のみを測定すれば十分である。
【0069】
また、特に集中荷重をかける場合には、き裂が存在し得る箇所をある程度把握した後に荷重を印加することが効率的である。そのため、図4に示す各処理を行う前に、超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を予め行い、超音波探傷において傷があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、その位置の基準分布変化および検査分布変化を取得してもよい。
【0070】
上記構成では、まず超音波探傷によって内部壁面におけるき裂のおおよその位置を迅速に把握することができる。そして、その位置のき裂の有無を判定することにより、超音波探傷の判定の妥当性を確認することができる。すなわち、超音波探傷の精度を補い、迅速かつ確実なき裂の判定を行うことができる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、その内部壁面のき裂を判定する探傷方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
P1…荷重、P2…荷重、N1…引張り荷重、N2…圧縮荷重、N3…引張り荷重、N4…圧縮荷重、E1…領域、E2…領域、100…タービン、102…ロータ、103…(き裂のない)タービン翼、104…(検査対象の)タービン翼、106…翼根、108…放出孔、110…内部壁面、112、114…リブ、115…幅広部、116…流路、118…デジタルホログラフィック顕微鏡、120、122…固定支点、124、126、128…ヘッド部、125…治具、130…き裂
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、その内部壁面のき裂を判定する探傷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や原子力発電所ではタービンを回転させることによって発電を行っている。タービンは、軸に固定されたタービン翼(タービンブレード)に高温の蒸気や燃焼ガスなどの流体を通過させることによって、50Hzであれば3000rpmの速度で回転させている。タービン翼はロータ(翼車)の外周に数十枚から100枚以上が着脱可能に取り付けられている。タービン翼は高温の流体にさらされるため、内部に空気や蒸気が流通する冷却空間を形成している。このような構造をしたタービン翼、例えば動翼には、流体から受ける圧力と、ロータを回転させる反力の曲げ応力と、強い遠心力と、回転振動とに加えて、高温であるという条件が加わり、き裂が生じるおそれがある。
【0003】
そのため、タービン翼は定期的に点検作業が行われる。このとき探傷検査が行われ、まだ損傷(き裂)を受けていないタービン翼は継続使用される。ここで探傷検査の精度を鑑みて、運転中に破損する危険を避けるために、き裂が確認できなくても疑わしきものは使用しないこととなっている。しかしタービン翼は、構造が複雑であることと、高い寸法精度、高品質な材料が要求されることから、高価な部材である。このため、タービン翼の劣化を適切に評価し、交換時期を最適化したいという要請がある。
【0004】
例えば特許文献1には、タービンのロータとタービン翼との取付け部位に超音波検査法を適用して欠陥の有無の検査を行うタービンの検査方法が開示されている。特許文献1では、タービン翼をロータに植え込んだ状態では外部に露出しない取付け部位を、まず超音波探傷法によって検査している。そして、欠陥が検出されなかった場合、複数のうちの一部のタービン翼をロータから抜き取って取付け部位を露出させ、その取付け部位を超音波探傷法よりもさらに欠陥検出限界(検出可能な欠陥の長さの下限)の小さい非破壊検査法によって検査している。
【0005】
特許文献1では、上記欠陥検出限界の小さい非破壊検査法として、まず周知の磁粉探傷法や浸透探傷法が適用されている。そして、それらよりもさらに欠陥検出限界の小さい方法として、レプリカ法が適用されている。このレプリカ法とは、液状シリコンゴムを主成分とした樹脂によってタービン翼の外表面を転写したレプリカを作成し、そのレプリカの形状を測定することでタービン翼の欠陥を検出する方法である。特許文献1ではこれらの検査方法により、タービン翼の検査作業が効率良くかつ精度良く実施できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−294716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1で適用される超音波探傷法以外の非破壊検査法(磁粉探傷法、浸透探傷法、レプリカ法)は、いずれもタービン翼の外表面の欠陥を検査対象とする方法である。しかし、タービン翼は内部壁面にもき裂(欠陥)が発生しやすい。冷却空間には剛性担保用のボス(柱)や流路形成用のスリットなどの構造が形成されており、形状異方性による応力集中が各所に生じ、また壁面の肉厚にも多寡が生じるためである。このような内部壁面のき裂には、特許文献1に記載された超音波探傷法以外の非破壊検査法の適用は困難である。
【0008】
一方、超音波探傷法であれば内部壁面の探傷検査も行うことが可能である。しかし、入射した超音波は上記のように複雑な形状をした冷却空間のボスやスリットに乱反射して戻ってくる。したがって反射波のエコー画面を観察しても、形状による反射波の中に傷の反射波が埋もれてしまいやすく、エコー画面から傷を識別するには熟練を要する。このため、傷を見落としてしまったり、傷でない箇所に傷があると判断してしまったりするおそれがあり、探傷精度の向上が図りにくいという問題がある。
【0009】
本発明は、このような課題に鑑み、内部壁面に生じたき裂を熟練を要することなく判定可能なタービン翼の探傷方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明にかかるタービン翼の探傷方法の代表的な構成は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し、検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し、基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定することを特徴とする。
【0011】
物体が荷重を受けて弾性変形を生じると、物体の外表面も変形する。物体の変形には、物性として曲げ剛性、伸び剛性、せん断剛性などが関係し、また形状によって断面二次モーメント、断面二次極モーメントを考えることができ、さらには屈曲部や隅部に形状異方性による応力集中が発生する。このように弾性変形中には複数の条件や現象が同時に作用するが、中でも今回のように内部にき裂が生じると、部分的に剛性が小さくなる。すると、局部的に付加的な弾性変形を生じるため、物体の外表面も付加的な変形が現れる。そして、模範的な高さ分布の変化(基準分布変化)と検査対象の高さ分布の変化(検査分布変化)との差分において、正負が逆転する褶曲形状を検出することで、内部壁面のき裂を判定することが可能である。
【0012】
なお、本発明では、ナノメートルオーダーの高さ分布の変化を取得してき裂の判定を行う。一方、物体の外表面には、表面仕上げの粗さや、傷、酸化による組織変化、付着した汚れなどにより、始めから無視できない大きさの凹凸がある。しかし上記のように、基準分布変化や検査分布変化とすることによって荷重による変形以外の高さ分布を相殺することができる。そして、さらに基準分布変化と検査分布変化の差分を取ることによって、き裂に起因する形状のみを検出することができる。
【0013】
上記のようなナノメートルオーダーの高さ分布の測定には、デジタルホログラフィック顕微鏡を用いるとよい。デジタルホログラフィック顕微鏡は、垂直方向の距離の測定に対し高い分解能を有し、1μm以下(サブミクロン)の起伏も測定可能である。これにより、タービン翼の外表面の高さ分布を精密に測定することが可能となる。
【0014】
基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得してもよい。詳しくは、有限要素法解析または境界要素法解析を用いて、3次元モデルに荷重をかけて、高さ分布の変化を取得することができる。これにより、同一形状でき裂のないタービン翼が入手困難な場合でも、基準分布変化を取得することができる。
【0015】
基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得してもよい。逆向きに荷重を印加すると、き裂が閉じる方向に荷重がかけられることになるため、傷がない場合と同様の挙動を示す。変位の方向は逆向きとなるが、絶対値を取ることによって基準分布変化とすることができる。これにより、検査対象のタービン翼を用いて、より実際に即した基準分布変化を取得することができ、正確な判定をすることが可能となる。
【0016】
上記のタービン翼の探傷方法では、検査分布変化を取得する際には、前記内部壁面に生じたき裂が広がるようにタービン翼が反る方向に荷重を印加するとよい。き裂の位置では壁面の有効厚さが減少して、曲げ剛性が低下する。そのため、き裂の位置の変形が大きくなる。ここでき裂がふさがる方向に曲げ応力をかけても、き裂の位置の変形は大きくならない。このため、上記の方向にタービン翼を弾性変形させることで、内部壁面のき裂の存在を判定することが可能になる。
【0017】
上記のタービン翼の探傷方法は、超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を行い、超音波探傷において傷があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、その位置の基準分布変化および検査分布変化を取得してもよい。
【0018】
上記構成では、まず超音波探傷によって内部壁面におけるき裂のおおよその位置を迅速に把握する。そして、その位置のき裂の有無を判定することにより、超音波探傷の判定の妥当性を確認することができる。すなわち、超音波探傷の精度を補い、迅速かつ確実なき裂の判定を行うことができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、内部壁面に生じたき裂を、熟練を要することなく判定可能なタービン翼の探傷方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】タービンを示す図である。
【図2】タービン翼を示す図である。
【図3】タービン翼の部分断面図である。
【図4】本実施形態にかかるタービン翼の探傷方法を示すフローチャートである。
【図5】デジタルホログラフィック顕微鏡を用いてタービン翼の高さ分布を測定する様子を示す図である。
【図6】荷重が印加された状態で高さ分布を測定する様子を示す図である。
【図7】図6(a)の内部壁面を拡大した概略図である。
【図8】基準分布変化と検査分布変化、およびこれらの差分を説明する模式図である。
【図9】他の手法によって荷重が印加されているタービン翼を示す図である。
【図10】他の手法によって荷重が印加されているタービン翼を示す図である。
【図11】図9(a)の内部壁面を拡大した概略図である。
【図12】FEM解析において使用したタービン翼のFEMモデルを示す図である。
【図13】荷重が印加されているFEMモデルを示している。
【図14】FEM解析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0022】
(タービン翼)
図1はタービンを示す図である。タービン100は、円板状のロータ102(翼車)と、その外周に取り付けられたタービン翼104(動翼)とを有している。タービン翼104は流体の流れを受ける翼である。タービン翼104はロータ102の外周に数十枚から100枚以上が着脱可能に取り付けられている。ロータ102の中央には、回転エネルギーを伝達する不図示のタービン軸が挿入される。発電所等では、タービン100から得られる回転エネルギーによって発電機が回され、発電が行われている。
【0023】
図2はタービン翼104を示す図である。タービン翼104は、ロータ102への固定を強固に行うために、その固定箇所である翼根106がいわゆるクリスマスツリー形状となっている。この形状により、タービン100の回転時に発生する遠心力を分散させている。一般的に、タービン翼104は金属材料を用いて鋳造により成形される。
【0024】
タービン翼104は高温の蒸気や燃焼ガスにさらされるため、各種の冷却機能が備えられている。例えば、タービン翼104の内部には破線で示す内部壁面110が形成されている。この内部壁面110に囲われた空間は、冷却用の空気や蒸気(以下、「冷却空気」と称す)を通過させることが可能な冷却空間として形成されている。
【0025】
図3は、図2の部分断面図である。図3に示すように、冷却空間を囲う内部壁面110には、剛性担保用に複数の小さな円形のリブ112と、縦長のリブ114等が形成されている。リブ112等が形成されている空間の上方には、その空間よりも幅広な空間(幅広部115)が形成されている。幅広部115の上方には、幅広部115から放出孔108に通じる複数の流路116が形成されている。冷却空気は、冷却空間の内部を翼根106から放出孔108に向かって通過する。
【0026】
内部壁面110は、タービン翼104の鋳造時に鋳造中子を用いて形成される。また、流路116は放電加工等によって形成される。このような冷却空間が内部に設けられているため、タービン翼104にはその回転時に形状異方性による応力集中が内部壁面110の各所に生じやすい構成となっている。特に、上記の幅広部115の近傍の内部壁面110は断面形状が急激に変化しているため、応力集中が生じてき裂が発生するおそれがある。
【0027】
(タービン翼の探傷方法)
図4は、本実施形態にかかるタービン翼104の探傷方法を示すフローチャートである。以下の説明において、各種データ処理および演算は、不図示の演算部が行う。演算部とは、CPUがRAM上で動作させるソフトウェアによって実現することができる。
【0028】
本実施形態にかかる探傷方法では、タービン翼104の内部壁面110のき裂を、その外表面から判定することが可能である。また本実施形態では、タービン翼104の外表面の高さ分布を測定するためにデジタルホログラフィック顕微鏡118(図5参照)を使用している。
【0029】
図5はデジタルホログラフィック顕微鏡を用いてタービン翼104の高さ分布を測定する様子を示す図である。デジタルホログラフィック顕微鏡118は、測定対象の3次元像を測定することが可能な顕微鏡である。デジタルホログラフィック顕微鏡118はレーザー光のホログラフィ技術を用いた三次元顕微鏡であって、垂直方向の距離の測定に対し高い分解能を有し、1μm以下の起伏も非接触で測定可能である。タービン翼104は鋳造品であって極めて高い剛性を有しており、また長さが数十cm程度であるため、従来の測定法では破壊を伴わずに弾性変形を測定することは極めて困難であった。しかしデジタルホログラフィック顕微鏡118を用いることにより、タービン翼104の外表面の高さ分布(形状)を精密に測定することが可能となる。デジタルホログラフィック顕微鏡118が測定した高さ分布は、位置に対する高さの集合(プロファイル)として出力される。またデジタルホログラフィック顕微鏡118は、取得したプロファイルをモニタ上に3Dデジタル画像として表示することも可能である。
【0030】
まずステップ300において、図5に示すように、き裂のないタービン翼103の外表面の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定する。き裂のないタービン翼103としては、例えば未使用の同型の部品か、またはき裂がないことが確認された同型の部品を用いることができる。
【0031】
ステップ302において、き裂のないタービン翼103に荷重を印加した状態で、高さ分布を測定する。図6は、荷重が印加された状態で高さ分布を測定する様子を示す図である。図6(a)は、荷重が印加されているタービン翼の概念図である。図6(a)に示すように、荷重の印加は、タービン翼103の根元側(翼根106側)および先端側を固定支点120、122によりそれぞれ支えて行う。荷重の印加は、荷重試験機(不図示)のヘッド部124によって集中荷重として印加する。図6(b)は、図6(a)に対応する斜視図である。図6(b)に示すように、ヘッド部124は先端が二またに分かれている。これは、タービン翼103における集中荷重が印加された箇所の中央(ヘッド部124の二またの先端の間)の外表面をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定するためである。
【0032】
ここで、図6(a)に示すように、荷重はタービン翼104の上方から下方に向かって印加されている。これは、図中に太い破線で示す上側の内部壁面110を検査する場合の処理である。
【0033】
ステップ304において、演算部は、荷重印加前後の高さ分布を比較し、き裂のないタービン翼103に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得する。基準分布変化では、き裂のないタービン翼103の表面に、表面仕上げの粗さや、傷、酸化による組織変化、付着した汚れなどにより凹凸があったとしてもこれを相殺することができ、荷重による変形のみを取得することができる。
【0034】
次に、ステップ306において、き裂があるかもしれない検査対象のタービン翼104の外表面の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118によって測定する(図5参照)。ステップ308において、検査対象のタービン翼104に荷重を印加した状態で、高さ分布を測定する(図6参照)。なお本実施形態では、タービン翼104の内部にき裂があるものとして説明する。
【0035】
ステップ310において、演算部は、荷重印加前後の高さ分布を比較し、検査対象のタービン翼104に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得する。検査分布変化でも、基準分布変化と同様に、表面に存在する凹凸を相殺し、荷重による変形のみを取得することができる。
【0036】
図7は、図6(a)の内部壁面110を拡大した概略図である。図7では、内部壁面110を実線で示している。ヘッド部124によって上方から荷重P1が印加されることで、タービン翼104は全体的にたわもうとする。詳細には、内部壁面110側には引張り応力N1が生じ、外表面側には圧縮荷重N2が生じる。デジタルホログラフィック顕微鏡118は、2つの荷重P1の中間である領域E1の表面の高さ分布を測定する。このとき、上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130が広がる方向に変形する。
【0037】
き裂130の位置では、断面積が極端に小さいことから局部的に曲げ剛性が弱く、また急激な形状変化があることから応力集中が生じる。そのため、き裂130の位置の変形(屈折)が大きくなる。
【0038】
図8は、基準分布変化と検査分布変化、およびこれらの差分を説明する模式図である。図8(a)で破線にて示すように、き裂のないタービン翼103の基準分布変化は、専らタービン翼104の構造に基づく変形を生じるため、なめらかなたわみ曲線を描いている。一方、き裂のあるタービン翼104の検査分布変化は、き裂の位置で急激な形状変化を生じており、基準分布変化に対してずれを生じている。
【0039】
そしてステップ312において、演算部は、基準分布変化と検査分布変化の差分を算出する。すると図8(b)に示すように、き裂による影響を基準分布変化に対する検査分布変化のずれとして抽出することができる(図8(b)の縦軸のスケールは図8(a)よりも小さい)。ここで特徴的なのは、一般的にはき裂の位置で折れを生じると予想されるところ、き裂位置を中心に一方は凸となり、一方は凹となる褶曲形状を描いていることである。これは、タービン翼103、104が剛性の高い鋳造品であること、1μm以下(サブミクロン)の微小変位を観察していることから、圧縮荷重N2によって生じた褶曲形状が顕在化したものと考えられる。
【0040】
そこでステップ314において、演算部は、算出した差分から正負が逆転する褶曲形状を検出する。これによりステップ316において、タービン翼104の内部壁面110にき裂を判定することができる。なお誤判定を防止するために、き裂の褶曲形状の検出には、差分の大きさに閾値を設けることが好ましい。
【0041】
ここで、き裂130がふさがる方向に曲げ応力をかけても、き裂130の位置の変形は大きくならない。このため本実施形態では、き裂130が広がる方向にタービン翼104を弾性変形させることで、内部壁面110のき裂130の存在を外表面(領域E1)の変形としてより明確に出現させている。すなわち、ステップ302、306の荷重の印加は、内部壁面110に生じたき裂130が広がるようにタービン翼104が反る方向に行うとよい。換言すれば、ヘッド部124による荷重をかけた面の高さ分布を測定することが好ましい。
【0042】
さらには、集中荷重をかける場合には、き裂130の位置が最も大きく変形するように荷重をかけることが望ましい。このためヘッド部124は二またの先端形状をしており、その二またの間において高さ分布を測定するように構成している。
【0043】
上記実施形態では、き裂のないタービン翼103として、例えば未使用の同型の部品か、またはき裂がないことが確認された同型の部品を用いることができると説明した。しかし、き裂のないタービン翼103は鋳造品であって、未使用であっても鋳造欠陥等がないと保証するのは難しい。
【0044】
そこで、基準分布変化は、き裂のないタービン翼103に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得してもよい。詳しくは、有限要素法解析または境界要素法解析を用いて、3次元モデルに荷重をかけて、基準分布変化(高さ分布の変化)を取得することができる。これにより、同一形状でき裂のないタービン翼が入手困難な場合でも、基準分布変化を取得することができる。
【0045】
また、基準分布変化は、き裂のないタービン翼103に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼104に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得してもよい。逆向きに荷重を印加すると、き裂が閉じる方向に荷重がかけられることになるため、傷がない場合と同様の挙動を示す。変位の方向は逆向きとなるが、絶対値を取ることによって基準分布変化と検査分布変化とを比較することができる。これにより、検査対象のタービン翼を用いて、より実際に即した基準分布変化を取得することができ、正確な判定をすることが可能となる。
【0046】
また上記実施形態では測定位置(領域E1)の近傍に集中荷重をかける例について説明したが、タービン翼104には他の手法を用いて荷重を印加してもよい。図9および図10は、他の手法によって荷重が印加されているタービン翼104を示す図である。
【0047】
図9は、タービン翼104の根元側のみを固定し、その先端側に集中荷重を印加する手法を例示している。図9(a)は、本例の概念図である。図9(a)に示すように、本例ではタービン翼104の根元側の固定をより確実にするために、クリスマスツリー形状の翼根106に対応する形状の治具125を使用している。荷重は、タービン翼104の先端側に、その上方から荷重試験機のヘッド部126によって集中荷重として印加する。
【0048】
図10は、タービン翼104の根元側のみを固定し、その片側の外表面に分布荷重(複数の集中荷重による擬似的な分布荷重)を印加する方法を示している。図10(a)は、本例の概念図である。図10(a)に示すように、本例でも図9(a)と同一の治具125を使用している。荷重は、タービン翼104の片側の外表面に、その上方から荷重試験機の複数のヘッド部128によって分布荷重として印加する。
【0049】
図9および図10のいずれも、図9(a)および図10(a)にそれぞれ太い破線で示す上側の内部壁面110を検査する場合の処理を示している。
【0050】
図11を参照して、図9および図10を参照して説明した荷重の印加手法に共通する、荷重の印加によるき裂の広がりについて説明する。図11は、図9(a)の内部壁面110を拡大した概略図である。図11は図7に対応していて、内部壁面110を実線で示している。
【0051】
例えば、図9(a)において、タービン翼104の根元側を支え、先端部に上方から荷重P2(図11参照)を印加することで先端部は下方を向き、タービン翼104は全体として上に凸となる形状に弾性変形する。このとき、図11に示すように、荷重P2(実際にはタービン翼104の先端位置)が印加されることで、タービン翼104のほぼ全体において、タービン翼104の凸側(図中上側)には引張り応力N3が生じ、その凹側(図中下側)には圧縮応力N4が生じる。このとき、上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130は広がる。
【0052】
図11を参照したき裂130の広がりは、図10に示した分布荷重を印加する手法にも共通する。例えば、図10(a)に示すように、タービン翼104の根元側を支え、上方から分布荷重を印加することでタービン翼104は全体として上に凸となる形状に弾性変形する。このとき図11と同様に、タービン翼104のほぼ全体において、タービン翼104の凸側には引張り応力が生じ、その凹側には圧縮応力が生じる。そして、図11のように上側の内部壁面110にき裂130が生じている場合、き裂130は広がる。
【0053】
これらのように、図9および図10に示す荷重の印加手法によっても、内部壁面110のき裂130の存在を外表面(図11の領域E2)の変形として出現させることができる。そして、図11の領域E2の高さ分布をデジタルホログラフィック顕微鏡118(図9(b)および図10(b)参照)によって測定することで、外部から視認不能な内部壁面110のき裂130の判定が可能である。
【0054】
(検証)
上記のステップ300〜ステップ316の処理は、荷重負荷によってタービン翼の外表面に変形を生じさせ(基準分布変化および検査分布変化)、その差分からき裂130の有無を判定するものである。以下では、その高さ分布の変化が、デジタルホログラフィック顕微鏡の垂直方向分解能に対して十分に大きい値になり得るかどうかを確認するために、FEM(有限要素法)解析を行った。
【0055】
図12は、FEM解析において使用したタービン翼104のFEMモデルを示す図である。FEMモデルは、タービン翼104の1/2モデルとした。図12(a)に示すように、FEMモデルは、根元側から先端側までの長手方向が600mm、幅方向が150mmとした。FEMモデルの内部には冷却空間として長手方向が250mm、幅方向が100mmのスリットを形成した。
【0056】
図12(b)は図12(a)のA−A断面図である。図12(b)に示すように、FEMモデルの厚みは20mmとした。なお、図12(b)に示すように、冷却空間の存在しない箇所は中実な構造である。
【0057】
図12(c)は図12(a)のB−B断面図である。図12(c)に示すように、冷却空間は、FEMモデルの厚み方向の中央に、図中縦4mmに形成した。冷却空間の先端側には、図中縦5.0mm、横5.0mmの幅広の空間を形成した。
【0058】
このFEM解析では、き裂を有するFEMモデルと、き裂のないFEMモデルとの両方を用意し、解析した。図12(d)は、き裂を有するFEMモデルにおけるき裂を示している。き裂は冷却空間の先端側の幅広の空間において、その上側の面の中央に形成した。き裂の深さ(図中、縦方向)は1、0mmとした。図12(e)は、図12(d)のC−C断面図である。図12(e)に示すように、き裂の長さは5、0mmとした。なお、き裂は、図12(a)のスリットの幅方向(100mm)のほぼ中央に位置している。
【0059】
図13を参照してFEM解析における荷重の印加条件について説明する。図13は、荷重が印加されているFEMモデルを示している。図13(a)は、図6を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側および先端側をそれぞれ支えてき裂の近傍に集中荷重を印加する例を示している。図13(b)は、図9を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側のみを固定し、その先端側に集中荷重を印加する例を示している。図13(c)は、図10を参照して説明した荷重の印加に対応し、FEMモデルの根元側のみを固定し、その片側の外表面に分布荷重を印加する例を示している。これらの荷重の印加は、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの両方に対して行った。
【0060】
図14は、FEM解析の結果を示す図である。図14(a)の表は、荷重の印加条件と、各FEMモデルにおける変位(荷重の印加によって生じる各点の移動量)および応力の計算結果を示している。図14(a)に示すように、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとでは、き裂部に生じる最大軸方向応力が異なっている。特に、集中荷重(き裂位置)の荷重印加条件において、き裂部に生じる最大軸方向応力(き裂を開く方向の応力)に、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとで値に大きな差異が現れている。
【0061】
なお、本FEM解析では、き裂部に生じる最大軸方向応力の大きさが、き裂が進行しない程度(100MPa前後)の大きさになるように印加する荷重を設定している。また、最大変位および梁曲げ応力に、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの差異は見られなかった。
【0062】
図14(b)は、各条件の荷重の印加時において、き裂のないFEMモデルの基準分布変化とき裂のあるFEMモデルの検査分布変化の差分を示すグラフである。なお、実線のグラフはき裂のほぼ直上における変化の差分を示していて、破線は側部(冷却空間の幅広の空間のうちき裂がない位置)における変化の差分を示している。なお、き裂のないFEMモデルには、荷重の印加時において局部的な凹凸変形が生じないことを確認している。
【0063】
図14(b)の実線のグラフに示すように、各荷重の印加条件において、正負が逆転する褶曲形状の勾配のグラフが描かれている。この勾配は、集中荷重(き裂位置)の荷重印加条件において特に顕著に現れている、これは、き裂位置の外表面に、凸変形と凹変形とを伴う褶曲形状(シワのような形状)の変位が発生することを示している。この褶曲形状の勾配は、各荷重の印加条件において、破線で示すき裂の側部のグラフにも僅かながら現れている。
【0064】
ここで前述のFEM解析では、き裂のあるFEMモデルとないFEMモデルとの間において顕著な褶曲形状を得ることができた。そして、その高さ分布の変化は、デジタルホログラフィック顕微鏡の垂直方向分解能に対して十分に大きい値であった。
【0065】
なお上記実施形態の簡略な実施方法として、以下に示す方法も可能である。すなわち、き裂のないFEMモデルには、荷重の印加時において局部的な凹凸変形が生じないことを確認している。したがって、基準分布変化を用いることなく、検査分布変化のみを取得し、局部的な凹凸変形の有無によってき裂の有無を判定することができる。
【0066】
この場合において、表面に存在する凹凸を相殺し、荷重による変形のみを取得することができる。しかしマスターカーブである基準分布変化がないため、全体的な変形をキャンセルすることはできず、正負の逆転では褶曲形状を検出することができない。そこで検査分布変化を微分して変化率を求め、変化率に急激な変化(棘波)が存在することによってき裂を判定してもよい。
【0067】
以上、上記如く説明したように、本実施形態にかかるタービン翼104の探傷方法であれば、内部壁面に生じたき裂を熟練を要することなく判定することができる。
【0068】
なお、上記の方法によって傷を探すためには、本質的にはタービン翼104の全面の表面形状を測定する必要がある。そのため、デジタルホログラフィック顕微鏡118の先端を移動させて、タービン翼104全体をスキャンすることが好ましい。ただし内部壁面110の形状によっては、き裂の生じやすい箇所のみを測定すれば十分である。
【0069】
また、特に集中荷重をかける場合には、き裂が存在し得る箇所をある程度把握した後に荷重を印加することが効率的である。そのため、図4に示す各処理を行う前に、超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を予め行い、超音波探傷において傷があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、その位置の基準分布変化および検査分布変化を取得してもよい。
【0070】
上記構成では、まず超音波探傷によって内部壁面におけるき裂のおおよその位置を迅速に把握することができる。そして、その位置のき裂の有無を判定することにより、超音波探傷の判定の妥当性を確認することができる。すなわち、超音波探傷の精度を補い、迅速かつ確実なき裂の判定を行うことができる。
【0071】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、その内部壁面のき裂を判定する探傷方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
P1…荷重、P2…荷重、N1…引張り荷重、N2…圧縮荷重、N3…引張り荷重、N4…圧縮荷重、E1…領域、E2…領域、100…タービン、102…ロータ、103…(き裂のない)タービン翼、104…(検査対象の)タービン翼、106…翼根、108…放出孔、110…内部壁面、112、114…リブ、115…幅広部、116…流路、118…デジタルホログラフィック顕微鏡、120、122…固定支点、124、126、128…ヘッド部、125…治具、130…き裂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、
き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し、
検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し、
前記基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定することを特徴とするタービン翼の探傷方法。
【請求項2】
前記基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得することを特徴とする請求項1に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項3】
前記基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得することを特徴とする請求項1に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項4】
前記検査分布変化を取得する際には、前記内部壁面に生じたき裂が広がるようにタービン翼が反る方向に荷重を印加することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項5】
超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を行い、
前記超音波探傷においてき裂があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、該位置の基準分布変化および検査分布変化を取得することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項1】
内部に冷却用の空気を通過させる冷却空間を有するタービン翼に対し、該内部壁面のき裂を判定する探傷方法であって、
き裂のないタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を基準分布変化として取得し、
検査対象のタービン翼に荷重を印加した場合の高さ分布の変化を検査分布変化として取得し、
前記基準分布変化と検査分布変化の差分において、正負が逆転する位置にき裂が存在すると判定することを特徴とするタービン翼の探傷方法。
【請求項2】
前記基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、数値解析によって取得することを特徴とする請求項1に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項3】
前記基準分布変化は、き裂のないタービン翼に荷重を印加することに代えて、検査対象のタービン翼に逆向きに荷重を印加した場合の高さ分布の変化を取得することを特徴とする請求項1に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項4】
前記検査分布変化を取得する際には、前記内部壁面に生じたき裂が広がるようにタービン翼が反る方向に荷重を印加することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタービン翼の探傷方法。
【請求項5】
超音波の反射を用いてき裂を判定する超音波探傷を行い、
前記超音波探傷においてき裂があると判定された位置に弾性変形を生じさせると共に、該位置の基準分布変化および検査分布変化を取得することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のタービン翼の探傷方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2012−32195(P2012−32195A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−170057(P2010−170057)
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】
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