ターボチャージャおよびターボチャージャの製造方法
【課題】タービンハウジングについて、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができるターボチャージャを提供すること。
【解決手段】タービンホイール2に対して排気ガスを導くための排気ガス通路8を形成するタービンハウジング6を有するターボチャージャ1において、タービンハウジング6は、板状の部材により構成されるシェル7と、シェル7とともに排気ガス通路8を形成しシェル7を補強する環状ベース20とを備え、環状ベース20は、略円環形状を有し回転軸3の軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸心C周りに設けられる一対の環状部21・22と、これら環状部21・22を接続する接続部23とを有し、一対の環状部21・22および接続部23が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である。
【解決手段】タービンホイール2に対して排気ガスを導くための排気ガス通路8を形成するタービンハウジング6を有するターボチャージャ1において、タービンハウジング6は、板状の部材により構成されるシェル7と、シェル7とともに排気ガス通路8を形成しシェル7を補強する環状ベース20とを備え、環状ベース20は、略円環形状を有し回転軸3の軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸心C周りに設けられる一対の環状部21・22と、これら環状部21・22を接続する接続部23とを有し、一対の環状部21・22および接続部23が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車エンジン等のエンジンに搭載されるターボチャージャおよびターボチャージャの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車エンジン等のエンジンには、エンジンの出力の向上等を図るため、ターボチャージャを搭載するものがある。ターボチャージャは、エンジンからの排気ガスをタービンホイールによって動力源とし、エンジンに対する過給を行うものである。
【0003】
ターボチャージャにおいては、排気ガスのクリーン化を図るため、熱容量を低減させるニーズが高い。これは次のような理由による。すなわち、エンジンには、排気ガスの流れにおけるターボチャージャの下流側に、NOx還元触媒等の触媒によって排気ガスを浄化する触媒装置が設けられるものがある。かかる触媒装置においては、触媒の温度が所定範囲内にある状態で、触媒が活性化し、排気ガスが効率よく浄化される。
【0004】
このため、ターボチャージャの熱容量が大きい場合、例えばエンジンの始動時等の、排気ガスを浄化するための触媒の温度を活性化温度(触媒が活性化する温度)にまで上昇させる必要がある状態において、触媒の温度が上昇しにくい。すなわち、触媒装置の触媒の温度は、ターボチャージャを通過した排気ガスの熱によって上昇する。そこで、ターボチャージャの熱容量が大きいと、排気ガスについて奪われる熱量が多くなるため、触媒の温度上昇が妨げられる。
【0005】
ターボチャージャの熱容量については、特に、エンジンからの排気ガスをタービンホイールに導くための排気ガスの通路を形成するハウジング(タービンハウジング)の熱容量が、排気ガスの温度上昇に大きく影響する。したがって、エンジンの排気系部品としてのタービンハウジングの熱容量が小さいほど、排気ガスについて奪われる熱量が少なくなるため、触媒の温度を活性化温度にまで短時間で上昇させることができ、排気ガスのクリーン化を図るうえで有利である。
【0006】
ターボチャージャの熱容量の低減化についての対応策としては、従来、種々の提案がなされているが、その一案として、タービンハウジングを薄肉化あるいは板金化(以下単に「薄肉化」という。)する技術がある。タービンハウジングの薄肉化は、例えば、タービンハウジングが、SUS板金等の耐熱材料がプレス成形されることで得られる薄板材で構成されることにより達成される。しかし、タービンハウジングの薄肉化は、タービンハウジングの剛性の低下を招く。タービンハウジングの剛性の低下は、ターボチャージャの性能(ターボ効率)や信頼性の低下や、タービンハウジングの耐久性の低下の原因となる。
【0007】
すなわち、薄肉化されることで剛性が低下したタービンハウジングは、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮や、エンジンを構成する部品あるいはターボチャージャの周辺部品(支持ステー等)の熱変形や、エンジンの運転にともなう振動の入力等により、熱変形しやすくなる。そして、タービンハウジングが熱変形することで、タービンハウジングのガスシール部の変形や、タービンハウジングの他の部材との間のクリアランスの増加等により、ガス漏れが生じる場合がある。このようなターボチャージャにおけるガス洩れは、ターボチャージャの性能や信頼性の低下につながる。また、薄肉化により剛性が低下したタービンハウジングについては、エンジンの運転時等において、タービンハウジング自体が熱変形したり、周辺部品の熱変形の影響を受けて変形したりすることにより、耐久性の確保が困難となる。
【0008】
そこで、このようなタービンハウジングの薄肉化にともなう問題を解消するため、ターボチャージャにおいては、タービンハウジングを補強するための部材(以下「補強部材」という。)が備えられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。つまり、補強部材により、タービンハウジングにおいて薄板材で構成される部分であるハウジング本体の剛性が確保される。かかる補強部材は、全体として略環状の形状を有し、ターボチャージャの回転軸心周りに排気ガスの通路を形成するハウジング本体に沿うように設けられる。
【0009】
具体的には、補強部材は、ターボチャージャの回転軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸心周りに設けられる一対の円環形状の環状部と、これらの環状部を接続する柱状の接続部とを有する。そして、両側の環状部がそれぞれハウジング本体に対して溶接等によって固定されることで、補強部材がハウジング本体に固定され、タービンハウジングが構成される。
【0010】
このように、薄板材で構成されるハウジング本体に対して設けられる補強部材は、従来、一対の環状部およびこれらを接続する接続部それぞれを構成する部品が溶接により一体化されることで構成されたり、鋳造により一体的に構成されたりしている。具体的には、特許文献1のターボチャージャにおいては、補強部材が有する一対の環状部を構成する一対のフランジが、同じく補強部材が有する接続部を構成する連結リングによって溶接により一体化されている。また、特許文献1には、環状部を構成する一対のフランジが接続部を含み一体の鋳造部品とされてもよい旨記載されている。また、特許文献2のターボチャージャにおいても、一対の環状部を構成する一対のベース部とこれらを接続する接続部が、鋳造により一体に形成される旨記載されている。
【0011】
しかし、タービンハウジングの補強部材が、鋳造部品や溶接による一体化構造のものである場合、次のような問題がある。すなわち、補強部材が鋳造部品として構成される場合、表面の面粗度がわるくなりやすいため、補強部材の壁面を流れる流体(排気ガス)の損失の増加が問題となる。また、鋳造部品については、素形材の精度不足を補うための機械加工が必要となるため、コストの増加が問題となる。一方、補強部材が溶接による一体化構造のものとして構成される場合、溶接を行うための工程が必要となるため、工程が複雑となる。さらに、溶接構造の場合、溶接歪による精度の低下から、コスト増の問題が生じる。
【0012】
また、補強部材については、エンジンの運転時等におけるハウジング本体や周辺部品の熱変形等に起因する外力として、主に、補強部材をターボチャージャの回転軸方向に圧縮する方向の荷重、あるいは補強部材を回転軸方向に引っ張る方向の荷重(引き伸ばす力)が作用することが、実験等によりわかっている。このように補強部材に入力する外力は、補強部材の変形量を増加させ、補強部材の疲労寿命を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−106667号公報
【特許文献2】特開2008−121470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、タービンハウジングについて、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができるターボチャージャおよびターボチャージャの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0016】
すなわち、請求項1においては、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャであって、前記タービンハウジングは、板状の部材により構成されるハウジング本体と、該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備え、前記補強部材は、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部と、を有し、前記一対の環状部および前記接続部が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品であるものである。
【0017】
請求項2においては、請求項1に記載のターボチャージャにおいて、前記塑性加工は、少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造であるものである。
【0018】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載のターボチャージャにおいて、前記接続部は、前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、前記排気ガス通路孔は、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部であるものである。
【0019】
請求項4においては、請求項3に記載のターボチャージャにおいて、前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に複数設けられているものである。
【0020】
請求項5においては、請求項3または請求項4に記載のターボチャージャにおいて、前記一対の環状部は、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部であり、前記接続部は、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部と、を有し、前記円筒部に、前記排気ガス通路孔が設けられているものである。
【0021】
請求項6においては、請求項3〜5のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記第一環状部は、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を有し、前記軽量孔は、前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に設けられているものである。
【0022】
請求項7においては、請求項3〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記タービンハウジングは、エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、前記支持部材は、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けられるものである。
【0023】
請求項8においては、請求項1〜7のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記補強部材を構成する板状の部材について、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であるものである。
【0024】
請求項9においては、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャの製造方法であって、前記タービンハウジングは、板状の部材により構成されるハウジング本体と、該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備えるものであり、前記補強部材を、板状の部材に対する塑性加工により、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部とを有する部品として一体成形するものである。
【0025】
請求項10においては、請求項9に記載のターボチャージャの製造方法において、前記塑性加工として、少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造を行うものである。
【0026】
請求項11においては、請求項9または請求項10に記載のターボチャージャの製造方法において、前記接続部は、前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、前記排気ガス通路孔を、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成するものである。
【0027】
請求項12においては、請求項11に記載のターボチャージャの製造方法において、前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、該排気ガス通路孔を、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に同一工程にて形成するものである。
【0028】
請求項13においては、請求項11または請求項12に記載のターボチャージャの製造方法において、前記一対の環状部として、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部とを形成し、前記接続部を、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部とを有する部分として形成し、前記円筒部に、前記排気ガス通路孔を設けるものである。
【0029】
請求項14においては、請求項11〜13のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記第一環状部における前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を設けるものである。
【0030】
請求項15においては、請求項11〜14のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記タービンハウジングは、エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、前記支持部材を、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けるものである。
【0031】
請求項16においては、請求項9〜15のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記補強部材を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料を用いるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、タービンハウジングについて、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るターボチャージャを示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係るタービンハウジングの構成を示す断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るターボチャージャの構成を示す部分断面図。
【図4】VN機構部の構成を示す図。
【図5】環状ベースの構成を示す斜視図。
【図6】同じく断面図。
【図7】図6におけるA−A断面図。
【図8】環状ベースに付与される残留圧縮応力についての説明図。
【図9】排気ガス通路孔についての説明図。
【図10】排気ガス通路孔を形成するための構成および工程についての説明図。
【図11】環状ベースと出口フランジとの位置関係についての説明図。
【図12】環状ベースを構成する材料についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、ターボチャージャを構成するタービンハウジングが、耐熱鋼板のプレス成形等によって構成されることで薄肉化が図られたハウジング本体と、このハウジング本体を補強するための補強部材とを備える構成において、補強部材を、プレス成形等の塑性加工により一体的に成形しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0035】
図1〜図3に示すように、本実施形態に係るターボチャージャ1は、例えば自動車エンジン等のエンジンに搭載されるものであり、エンジンからの排気ガスを動力源とするためのタービンホイール2を備える。タービンホイール2は、エンジンからの排気ガスを受けて回転するものであり、回転軸3により回転可能に支持される。
【0036】
回転軸3は、ターボチャージャ1を構成するベアリングハウジング4(図3)の内部において回転可能に支持される。回転軸3は、ベアリングハウジング4対して軸受5(図3)等を介して所定の回転軸心Cを中心に回転可能に支持される。回転軸3の一端側に、タービンホイール2が固定される。かかる構成により、タービンホイール2は、ターボチャージャ1において回転軸心Cを中心として回転可能に設けられる。
【0037】
ターボチャージャ1は、コンプレッサホイール(図示略)を有し、このコンプレッサホイールを回転させることで、エンジンからの排気ガスを回収して圧縮し、エンジンに対する過給を行う。コンプレッサホイールは、回転軸3の他端側、つまり回転軸3においてタービンホイール2が設けられる側と反対側に固定される。これにより、コンプレッサホイールは、前記のとおりエンジンからの排気ガスを受けて回転するタービンホイール2の回転にともなって回転する。
【0038】
このように、ターボチャージャ1においては、回転軸3と、回転軸3の両端側にそれぞれ固定されるタービンホイール2およびコンプレッサホイールとを含む構成により、ベアリングハウジング4に支持された状態で一体的に回転する回転体が構成される。
【0039】
タービンホイール2は、回転軸3を支持するベアリングハウジング4の外側に位置し、タービンハウジング6により覆われる。タービンハウジング6は、図3に示すように、ベアリングハウジング4の一側(タービンホイール2が設けられる側)に取り付けられる。タービンハウジング6は、ハウジング本体としてのシェル7と、シェル7に対する補強部材としての環状ベース20とを備える。
【0040】
シェル7は、ターボチャージャ1の回転軸心C周りに排気ガスの通路を形成するための部材である。シェル7は、例えばSUS板金等の耐熱材料がプレス成形されることにより薄板材で構成される。なお、シェル7は、中空の部材が液圧によって成形されるいわゆるハイドロフォーム加工によって成形されることにより薄板材で構成されてもよい。
【0041】
シェル7は、回転軸3の軸心方向視(図1参照)で略環状の外形を有するハウジング部材である。シェル7は、回転軸3の軸方向(回転軸心Cの方向、以下「ターボ軸方向」という。)の一側(図2における右側)に、回転軸心Cの位置を中心とする円形の孔部7aを有する。孔部7aは、シェル7の外側(図2における右側)に筒状に突出する円筒部7bにより形成される。つまり、円筒部7bの内周面により、孔部7aが形成される。円筒部7bは、その筒軸方向がターボ軸方向となるように形成される。
【0042】
また、シェル7においては、ターボ軸方向の他側(図2における左側)が全面的に開放されている。つまり、シェル7のターボ軸方向の他側は、円筒状の内周面により形成される開口部7cとなっている。
【0043】
環状ベース20は、略環状の外形を有し、シェル7に沿うように設けられる。環状ベース20は、シェル7とともに回転軸心C周りに排気ガスの通路を形成する。環状ベース20は、略円環状の形状を有するベース本体部20aと、略円筒状の形状を有するスリーブ部20bとを有する。
【0044】
ベース本体部20aとスリーブ部20bとは、いずれも軸心位置がターボチャージャ1の回転軸心Cに一致するように設けられる。つまり、ベース本体部20aは、その中心軸方向がターボ軸方向となるように設けられ、スリーブ部20bは、その筒軸方向がターボ軸方向となるように設けられる。スリーブ部20bは、ベース本体部20aのターボ軸方向の一側から突出するように形成される。
【0045】
環状ベース20は、シェル7に対して内側に設けられる。言い換えると、シェル7は、環状ベース20を外側から覆うように設けられる。具体的には、環状ベース20は、スリーブ部20bをシェル7の内側から孔部7aを介して突出させた状態(スリーブ部20bが孔部7aを貫通した状態)で、シェル7に対して固定される。
【0046】
本実施形態では、シェル7と環状ベース20とは、溶接により互いに接合されることで固定される。シェル7と環状ベース20との溶接箇所には、シェル7の孔部7aを形成する円筒部7bの内周面と環状ベース20のスリーブ部20bの外周面との接触部、およびシェル7の開口部7cを形成する内周面とベース本体部20aの外周面との接触部が含まれる。これらの各溶接箇所においては、例えば回転軸心Cの軸心周りに略全周にわたって溶接が施される。
【0047】
このように、互いに固定されてタービンハウジング6を構成するシェル7と環状ベース20とにより、回転軸心C周りに環状でありトンネル状の空間が形成される。かかる空間が、エンジンからの排気ガスをタービンホイール2に導くための排気ガス通路8となる。排気ガス通路8は、エンジンからの排気ガスがタービンホイール2の回転方向に沿う方向に(回転軸心C周りに)旋回して流れるような形状を有する。
【0048】
タービンハウジング6においては、排気ガス通路8の排気ガスの入口に、入口フランジ9が設けられる(図1)。排気ガス通路8の入口は、シェル7における一側(図1において上側)に開口する開口部として形成される。この排気ガス通路8の入口の周縁に、入口フランジ9が設けられる。入口フランジ9には、エンジンから排出される排気ガスの通路を形成する排気管が接続される。
【0049】
また、タービンハウジング6においては、排気ガスの出口に、出口フランジ10が設けられる。排気ガスの出口は、環状ベース20においてターボ軸方向の一側(図2において右側)に開口するスリーブ部20bにより形成される。この排気ガスの出口、つまりスリーブ部20bの先端開口部の周縁に、出口フランジ10が設けられる。出口フランジ10は、例えばスリーブ部20bの外周面に対する溶接等により、スリーブ部20bに固定される。出口フランジ10には、ターボチャージャ1を通過した排気ガスの通路を形成する排気管が接続される。このため、出口フランジ10には、排気管の接続用のボルト孔10aが設けられている(図1)。
【0050】
このような構成において、エンジンから排出され入口フランジ9側から排気ガス通路8に流入した排気ガスは、回転軸心C周りに旋回して流れるとともに(図1矢印A1参照)、回転軸心C側に流れ込み、タービンホイール2に導かれる。タービンホイール2を回転させた排気ガスは、タービンホイール2の回転にともなって環状ベース20のスリーブ部20b内を通過して出口フランジ10を介して排気管へと排出される。
【0051】
排気ガス通路8を旋回して流れる排気ガスは、環状ベース20を介して環状ベース20の内側に位置するタービンホイール2に導かれる(図2矢印A2参照)。このため、環状ベース20においては、ベース本体部20aに、排気ガス通路8を流れる排気ガスをタービンホイール2に導くための孔部である排気ガス通路孔26が形成されている。
【0052】
なお、ターボチャージャ1から排出される排気ガスの排気経路には、NOx還元触媒等の触媒によって排気ガスを浄化する触媒装置が設けられる。つまり、前記のとおり出口フランジ10を介して排気管に排出された排気ガスは、触媒装置によって浄化された後、大気中に排出される。
【0053】
また、ターボチャージャ1においては、VN(Variable Nozzle)機構部11が設けられている。VN機構部11は、ターボチャージャ1における排気ガスの流れについてのタービンホイール2の上流側に設けられる。具体的には、VN機構部11は、排気ガス通路8とタービンホイール2との間の位置にて構成される。
【0054】
VN機構部11は、排気ガス通路8からタービンホイール2に向かう排気ガスの流路(以下「タービンガス流路」という。)を形成するとともにそのタービンガス流路の開度を調整するためのものである。VN機構部11は、複数のノズルベーン12を有する。このノズルベーン12の傾きの調整により、タービンガス流路の開度の調整が行われる。すなわち、VN機構部11により、エンジンの運転状況等に応じてタービンガス流路の開度が調整されることで、タービンホイール2に作用する排気ガスの流速や流量等が調整される。
【0055】
図3および図4に示すように、ノズルベーン12は、略矩形板状の部材であり、その板面方向をターボ軸方向に沿わせる姿勢で回動可能(傾動可能)に支持される。ノズルベーン12は、回転軸3の周方向に等間隔で全周にわたって設けられる(図4参照)。ノズルベーン12は、隣り合うノズルベーン12とともに、互いに対向する板面によりタービンガス流路を形成する。かかる構成により、ノズルベーン12の傾き(回動角度)が調整されることで、タービンガス流路の開度が調整される。
【0056】
図3に示すように、ノズルベーン12は、ターボ軸方向に間隔を隔てて設けられる支持プレート13・14に挟まれた状態で回動可能に支持される。支持プレート13・14は、その板面がターボ軸方向に対して垂直となるように設けられる。支持プレート13・14は、いずれも略円環形状を有し、タービンハウジング6の内部(環状ベース20のベース本体部20aの内部)であって、タービンホイール2の周囲に位置するように設けられる。
【0057】
図4に示すように、ノズルベーン12は、ターボ軸方向視における板面方向(長手方向)の略中央位置に設けられる回転軸部12aにより、支持プレート13・14に対して回動可能に支持される。ノズルベーン12の回動は、ユニゾンリング15が用いられて行われる。
【0058】
ユニゾンリング15は、略円環形状を有する板状の部材であり、支持プレート13・14と同様に、板面がターボ軸方向に対して垂直となるように設けられる。ユニゾンリング15は、ターボ軸方向における排気ガスの出口側(図3において右側、以下「排気出口側」という。)と反対側(同図左側、以下「コンプレッサ側」という。)に位置する支持プレート14のコンプレッサ側に設けられる。
【0059】
ユニゾンリング15は、その中心軸方向がターボ軸方向となるように回動可能に設けられる。ユニゾンリング15の回動は、図示せぬアクチュエータからの駆動力が用いられて行われる。ユニゾンリング15は、駆動アーム16を介して各ノズルベーン12に連結される。駆動アーム16は、一端側がユニゾンリング15の内周部に形成される凹部15aに嵌合するとともに、他端側がノズルベーン12の回動軸部12aと同軸に支持される。
【0060】
このような構成により、ユニゾンリング15が回転軸心Cを中心に回動することで、駆動アーム16がノズルベーン12の回動軸部12aの軸心を中心に回動する。かかる駆動アーム16の回動により、ノズルベーン12が回動軸部12aにより回動する。このように、ユニゾンリング15の回動が調整されることにより、ノズルベーン12の傾きが調整され、タービンガス流路の開度が調整される。
【0061】
なお、ターボチャージャ1においては、ターボ軸方向における排気出口側に位置する支持プレート13と環状ベース20との間にガスシール部が設けられる。具体的には、図3に示すように、支持プレート13は、その内周側の部分に、ターボ軸方向における排気出口側に向けて円筒状に突出する円筒部13aを有する。この支持プレート13の円筒部13aの外周面と環状ベース20の内周面との間に円環状のガスケット17が介装されることにより、ガスシール部が構成される。
【0062】
また、ターボチャージャ1においては、ベアリングハウジング4とタービンハウジング6との間にガスシール部が設けられる。具体的には、図3に示すように、ベアリングハウジング4とタービンハウジング6を構成する環状ベース20との接触面間に円環状のガスケット18が介装されることにより、ガスシール部が構成される。これらのガスシール部により、排気ガス通路8内に導入されタービンホイール2に作用する排気ガスについての気密性が確保される。
【0063】
以上のような構成を備えるターボチャージャ1は、エンジンに搭載された状態で次のように機能する。すなわち、エンジンからの排気ガスが、エンジンの排気通路を介してタービンハウジング6により形成される排気ガス通路8内に流入し、環状ベース20に形成される排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に作用する。これにより、タービンホイール2が回転する。ここで、VN機構部11により、タービンホイール2に作用する排気ガスの流速や流量等が調整される。そして、タービンホイール2の回転にともなって、回転軸3を介してターボチャージャ1が備えるコンプレッサホイールが回転する。このコンプレッサホイールの回転により、ターボチャージャ1内に回収されたエンジンからの排気ガスが、圧縮されて吸気として再びエンジンに供給される。
【0064】
以上のように、本実施形態のターボチャージャ1は、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸3により回転可能に支持されるタービンホイール2に対して排気ガスを導くための排気ガス通路8を形成するタービンハウジング6を有する。そして、タービンハウジング6は、板状の部材により構成されるハウジング本体としてのシェル7と、シェル7とともに排気ガス通路8を形成しシェル7を補強する補強部材としての環状ベース20とを備える。
【0065】
タービンハウジング6を構成する環状ベース20について、図5〜図7を加えて具体的に説明する。なお、図7は、図6におけるA−A断面図である。環状ベース20は、略円環形状を有しターボ軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸3の軸心(回転軸心C)周りに設けられる一対の環状部(21・22)と、この一対の環状部同士を接続する接続部23とを有する。これら一対の環状部(21・22)および接続部23は、環状ベース20においてベース本体部20aを構成する部分である。
【0066】
そして、環状ベース20は、一対の環状部(21・22)および接続部23が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である。すなわち、平板状の素材(ブランク)に対して塑性加工が施されることにより、一対の環状部(21・22)および接続部23を含み環状ベース20が有する各形状部分が形成される。
【0067】
環状ベース20を形成するための塑性加工としては、ブランクに力を加えることでブランクを変形させ目的の形状とする加工であれば特に限定されるものではないが、例えば、冷間鍛造や熱間鍛造やプレス加工等が採用され得る。環状ベース20として成形される板状の部材としては、例えば、シェル7を構成する薄板材に対して比較的厚い板厚を有する板材であって、シェル7と同様に例えばSUS板金等の耐熱材料が用いられる。
【0068】
このように、本実施形態に係るターボチャージャの製造方法(以下単に「製造方法」という。)においては、タービンハウジング6を構成する環状ベース20が、板状の部材に対する塑性加工により、一対の環状部(21・22)と接続部23とを有する部品として一体成形される。
【0069】
第一環状部21は、ターボ軸方向のうちタービンホイール2に導かれた排気ガスの出口側(排気出口側)に位置する環状部である。第二環状部22は、第一環状部21よりも回転軸3の径方向(以下「ターボ径方向」という。)外側かつターボ軸方向のうちコンプレッサ側に位置する環状部である。
【0070】
第一環状部21および第二環状部22は、いずれも円環板状の部分であり、その板面がターボ軸方向に対して垂直となるように形成される。また、第一環状部21および第二環状部22は、いずれもその中心軸方向がターボ軸方向となるように形成される。
【0071】
第一環状部21は、環状ベース20のベース本体部20aにおいてスリーブ部20bが突出する側の部分を形成する。つまり、円環形状を有する第一環状部21の内周側の部分から、略円筒状のスリーブ部20bが排気出口側に向けて突出する。
【0072】
第二環状部22は、環状ベース20における最大外径部分である。第二環状部22の外周面が、前述したようにシェル7の開口部7cを形成する内周面に対して溶接されるベース本体部20aの外周面に相当する。第一環状部21の外周側の端部と第二環状部22の内周側の端部とは、ターボ径方向について略同じ位置となる。
【0073】
接続部23は、前記のとおりターボ径方向について略同じ位置となる第一環状部21の外周側の端部と第二環状部22の内周側の端部とを接続する部分である。接続部23は、円筒部24とR形状部25とを有する。
【0074】
円筒部24は、回転軸3の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり筒軸方向の一側(第二環状部22側、図6において左側)が第二環状部22の内周側に連続する部分である。すなわち、円筒部24は、第二環状部22の内周側の部分から第二環状部22の板面方向に対して略垂直方向に折り曲げ形成され、全体として円筒状の外形に沿う形状を有する部分である。
【0075】
R形状部25は、円筒部24の筒軸方向の他側(第一環状部21側、図6において右側)から第一環状部21の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分である。すなわち、R形状部25は、第一環状部21および第二環状部22に対して略垂直方向に折り曲げ形成される部分である接続部23について、第一環状部21と円筒部24との間の部分であり、ターボ軸方向に沿う断面視でR形状となる部分である。
【0076】
このように、円筒部24とR形状部25とを有する接続部23に、排気ガス通路8を流れる排気ガスをタービンホイール2に導くための孔部である排気ガス通路孔26が形成される。つまり、本実施形態の環状ベース20においては、接続部23が、排気ガスをターボ径方向内側に導くための排気ガス通路孔26を形成する部分である。
【0077】
排気ガス通路孔26の形状(孔形状)は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、排気ガス通路孔26は、第一環状部21および第二環状部22の周方向(回転軸3の周方向、以下「ターボ周方向」という。)を長手方向とする長孔部として形成される。そして、本実施形態では、四個の排気ガス通路孔26が、ターボ周方向において等間隔に設けられる。
【0078】
環状ベース20においては、ターボ周方向における隣り合う排気ガス通路孔26の間の部分として、柱部27が形成される。柱部27は、ターボ軸方向について排気ガス通路孔26よりも第一環状部21側の部分と、排気ガス通路孔26よりも第二環状部22側の部分とを、ターボ周方向について部分的に接続する部分となる。ターボ周方向において等間隔に設けられる四個の排気ガス通路孔26を有する本実施形態の環状ベース20は、略同一形状の柱部27を四箇所に有する。
【0079】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、板状の部材に対する塑性加工により成形される環状ベース20について、一対の環状部として、第一環状部21と第二環状部22とが形成される。また、これら環状部(21・22)同士を接続する接続部23が、円筒部24とR形状部25とを有する部分として形成される。そして、接続部23に、排気ガス通路孔26が設けられる。
【0080】
以上のような各形状部分を有する環状ベース20を成形するための塑性加工は、好ましくは次のようにして行われる。すなわち、本実施形態では、環状ベース20を成形するための塑性加工は、少なくとも接続部23の部分に、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力と対抗するように、ターボ軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造である。
【0081】
環状ベース20に対しては、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮や、エンジンを構成する部品あるいはターボチャージャ1の周辺部品(支持ステー等)の熱変形や、エンジンの運転にともなう振動の入力等により、外力が作用する。このように環状ベース20に作用する外力については、ターボ軸方向の外力、つまりターボ軸方向に引っ張る方向の外力(以下「引張方向の外力」という。)、またはターボ軸方向に圧縮する方向の外力(以下「圧縮方向の外力」という。)が相対的に大きいということが、実験等によりわかっている。
【0082】
そこで、環状ベース20を成形するための塑性加工が冷間鍛造とされるとともに、その冷間鍛造において、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力に応じて(外力と対抗するように)残留応力が付与される。言い換えると、環状ベース20を成形するための冷間鍛造において、成形時にターボ軸方向の残留応力が加えられ、その残留応力の方向および大きさが、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力に対抗するように意図的にコントロールされる。
【0083】
したがって、環状ベース20に作用する外力として、引張方向の外力が圧縮方向の外力に対して比較的大きい場合は、冷間鍛造による残留応力として、ターボ軸方向の残留圧縮応力(以下単に「残留圧縮応力」という。)が付与される。逆に、環状ベース20に作用する外力として、圧縮方向の外力が引張方向の外力に対して比較的大きい場合は、冷間鍛造による残留応力として、ターボ軸方向の残留引張応力(以下単に「残留引張応力」という。)が付与される。
【0084】
環状ベース20に対して残留圧縮応力が付与される場合の一例を、図8を用いて説明する。前述したように、環状ベース20に残留圧縮応力が付与される場合は、環状ベース20に作用する外力について引張方向の外力が比較的大きい場合である。
【0085】
図8に示すように、環状ベース20に引張方向の外力が加わった場合(矢印B1参照)、接続部23において、ターボ径方向の内側の部分(領域B2参照)には、引張荷重が加わり、ターボ径方向の外側の部分(領域B3参照)には、圧縮荷重が加わることとなる。そこで、このような接続部23の各部に加わる荷重に対抗するように、環状ベース20の冷間鍛造において接続部23に対して残留圧縮応力が付与される。
【0086】
すなわち、この場合に接続部23に付与される残留圧縮応力は、環状ベース20において、引張方向の外力が加わることにより引張荷重が加わる部分(領域B2参照)には圧縮の応力が残り、同じく引張方向の外力が加わることにより圧縮荷重が加わる部分(領域B3参照)には引張の応力が残るような残留応力となる。つまり、環状ベース20に付与される残留圧縮応力は、環状ベース20をターボ軸方向に圧縮する方向の残留応力であり、環状ベース20に引張方向の外力が作用することで各部に作用する荷重(引張荷重または圧縮荷重)に対抗するような荷重が各部に残るような残留応力である。
【0087】
したがって、環状ベース20に作用する外力について圧縮方向の外力が比較的大きい場合、環状ベース20に対して付与される残留引張応力は、例えば次のように付与される。環状ベース20に圧縮方向の外力が加わった場合、接続部23において、ターボ径方向の内側の部分(領域B2参照)には、圧縮荷重が加わり、ターボ径方向の外側の部分(領域B3参照)には、引張荷重が加わることとなる。
【0088】
そこで、このような接続部23の各部に加わる荷重に対抗するように、環状ベース20の冷間鍛造において接続部23に対して残留引張応力が付与される。すなわち、環状ベース20において、圧縮方向の外力が加わることにより圧縮荷重が加わる部分(領域B2参照)には引張の応力が残り、同じく圧縮方向の外力が加わることにより引張荷重が加わる部分(領域B3参照)には圧縮の応力が残るような残留応力が、環状ベース20に対する残留引張応力として付与される。つまり、環状ベース20に付与される残留引張応力は、環状ベース20をターボ軸方向に引っ張る方向の残留応力であり、環状ベース20に圧縮方向の外力が作用することで各部に作用する荷重(引張荷重または圧縮荷重)に対抗するような荷重が各部に残るような残留応力である。
【0089】
なお、環状ベース20において冷間鍛造によって残留応力が付与される部分は、接続部23を含む部分であれば、特に限定されない。環状ベース20における残留応力は、環状ベース20がターボ軸方向の外力を受けることにより変形が生じやすい部分である接続部23の部分に重点的に付与されるが、例えば、第一環状部21や第二環状部22等、接続部23以外の部分に付与されてもよい。また、環状ベース20に付与される残留応力について、その付与される部分や方向や大きさ等は、冷間鍛造に用いられる型の形状や冷間鍛造における各部に対する絞り加工等の工程順等により調整される。
【0090】
以上のように、本実施形態に係る製造方法においては、環状ベース20を成形するための塑性加工として、少なくとも接続部23の部分に、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力と対抗するように、ターボ軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造が行われる。
【0091】
本実施形態のターボチャージャ1およびその製造方法によれば、タービンハウジング6について、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができる。
【0092】
すなわち、本実施形態のターボチャージャ1においては、タービンハウジング6を構成する環状ベース20が、ターボ軸方向に作用する外力と対抗するような残留応力が付与される冷間鍛造により成形される。このため、環状ベース20において、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮等により入力される外力の影響としての熱変形が相殺あるいは軽減される。これにより、環状ベース20の熱変形についての変形量が低減し、環状ベース20の疲労寿命が向上する。
【0093】
また、冷間鍛造のような塑性加工によれば、鋳造や溶接による加工等との比較において低コスト化を図ることが容易となる。加えて、冷間鍛造のような塑性加工は、SUS板金等の板状の部材からの成形であるため、鋳造等との比較において、環状ベース20の表面について良好な面粗度が得られる。これにより、環状ベース20の壁面(表面)を流れる排気ガスの損失の発生を抑制することができる。また、冷間鍛造のような塑性加工によれば、溶接による加工との比較において工程の簡略化が図れる。
【0094】
ところで、前述したように接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、ターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部であることが好ましい。具体的には、図9に示すように、接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、例えばパンチ30による打ち抜き加工により形成される。この場合、接続部23に対するターボ径方向の内側(図9において下側)から外側(同図上側)へのパンチ30の移動(矢印C1参照)により、排気ガス通路孔26が打ち抜かれて形成される。
【0095】
このように、排気ガス通路孔26がターボ径方向の内側から外側への打ち抜きによって形成されることにより、排気ガス通路孔26は、次のような形状を有することとなる。すなわち、図9に示すように、排気ガス通路孔26が打ち抜きにより形成される場合、排気ガス通路孔26を形成する面(以下「通路孔形成面」という。)26aは、パンチ30の形状に沿うシェア面26bと、シェア面26bに対して打ち抜き方向に徐々に広がる破断面26cとを有する。
【0096】
ここで、通路孔形成面26aに形成されるシェア面26bとは、パンチ30の刃が接触しながら打ち抜きによるせん断力で切断された面である。このため、シェア面26bは、打ち抜き方向(図9では上方向、以下同じ)に沿う形状を有する。シェア面26bは、通路孔形成面26aにおいて打ち抜き方向の手前側(図9において下側)に形成される。したがって、本実施形態では、シェア面26bは、通路孔形成面26aにおいてターボ径方向の内側の部分、つまり環状ベース20の内周側の部分に形成される(矢印範囲D1参照)。
【0097】
これに対し、通路孔形成面26aに形成される破断面26cとは、パンチ30による打ち抜きにおいて引張応力に基づく破断により切断された面である。このため、破断面26cは、打ち抜き方向に向けて広がる形状を有する。破断面26cは、通路孔形成面26aにおいて打ち抜き方向の奥側(図9において上側)に形成される。したがって、本実施形態では、破断面26cは、通路孔形成面26aにおいてターボ径方向の外側の部分、つまり環状ベース20の外周側の部分に形成される(矢印範囲D2参照)。
【0098】
このように、破断面26cは、シェア面26bの打ち抜き方向の奥側から連続する面であるとともに、排気ガス通路孔26をシェア面26bの部分から打ち抜き方向に向けて徐々に広げる。したがって、ターボ径方向の内側から外側への打ち抜きによって形成される排気ガス通路孔26については、外周側の部分が、破断面26cによって、図9に示すような断面視でターボ径方向の内側から外側にかけて広がる略テーパ形状となる。
【0099】
このように、排気ガス通路孔26の外周側の部分がターボ径方向の内側から外側にかけて広がる略テーパ形状を有することにより、排気ガス通路8から排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に導かれる排気ガスの導入がスムーズとなる。すなわち、排気ガス通路8からタービンホイール2に導かれる排気ガスは、排気ガス通路孔26に対して外周側(ターボ径方向の外側)から流れ込む(矢印C2参照)。このため、排気ガス通路孔26が、外周側が広い側である略テーパ形状を有することにより、排気ガス通路孔26を介する排気ガス通路8からタービンホイール2に対する排気ガスの導入がスムーズとなる。
【0100】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、排気ガス通路孔26が、ターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成されることが好ましい。これにより、排気ガス通路孔26の外周側の部分が略テーパ形状となるので、排気ガス通路孔26について、例えば外周側の部分に対する面取り加工等の追加加工を行うことなく、排気ガス通路8からタービンホイール2に対する排気ガスの導入をスムーズにすることができる。
【0101】
また、本実施形態の環状ベース20においては、前記のとおりターボ周方向を長手方向とする長孔部として接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられている。本実施形態の環状ベース20においては、ターボ径方向に対向する二組の(計四個の)排気ガス通路孔26が設けられている。四個の排気ガス通路孔26は、前述したようにターボ周方向において等間隔に設けられる。
【0102】
具体的には、図7に示すように、四個の排気ガス通路孔26として、任意のターボ径方向(図7における上下方向)に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)と、かかる一対の排気ガス通路孔26の対向方向に対して垂直方向(図7における左右方向)に対向する一対の排気ガス通路孔26(26B)とが形成されている。言い換えると、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26は、ターボ周方向について180°対向する位置に形成される。
【0103】
また、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26は、ターボ径方向について互いに対称に形成される。すなわち、ターボ軸方向視に対応する図7において、上下方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)は、回転軸心C(図1参照)を通る左右方向の直線に対して線対称となる形状およびターボ周方向における位置に形成される。同様に、図7において、左右方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26B)は、回転軸心Cを通る上下方向の直線に対して線対称となる形状およびターボ周方向における位置に形成される。
【0104】
このように、排気ガス通路孔26が、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられることにより、対向する一対の排気ガス通路孔26を一工程で打ち抜くことが可能となる。つまり、ターボ周方向について180°対向する位置に設けられる二個の排気ガス通路孔26を同一の打ち抜き工程にて形成することが可能となる。これにより、排気ガス通路孔26の形成に際してのコストの低減が可能となる。
【0105】
対向する一対の排気ガス通路孔26を一工程で打ち抜くための構成としては、例えば次のような構成が用いられる。すなわち、図10に示すように、本例に係る構成においては、一対の排気ガス通路孔26を打ち抜く一対のパンチ31・31と、これら一対のパンチ31・31を移動させるためのスライダ32とが備えられる。
【0106】
一対のパンチ31・31は、環状ベース20に対して、ターボ径方向について内側から外側に向けて互いに連動して移動するように設けられる。一対のパンチ31・31は、図示せぬガイド機構等によって、排気ガス通路孔26を打ち抜く方向を含む所定の移動方向に移動可能に支持される。
【0107】
スライダ32は、例えば油圧シリンダやモータ等により構成される移動機構(図示略)により、一対のパンチ31・31が移動する方向に対して垂直方向(図10において上下方向)に移動可能に設けられる。スライダ32は、一対のパンチ31・31側へ向かう方向(図10では上方向)への移動により、一対のパンチ31・31を、排気ガス通路孔26を打ち抜く方向に連動して移動させる。
【0108】
スライダ32の移動は、各パンチ31とスライダ32との係合部によって、一対のパンチ31・31の移動に変換される。パンチ31とスライダ32との係合部は、各パンチ31に形成される係合面31aとスライダ32に形成される係合面32aとの合わせ面部である。パンチ31の係合面31aおよびスライダ32の係合面32aは、スライダ32の一対のパンチ31・31側へ向かう方向の移動を、一対のパンチ31・31のターボ径方向について内側から外側に向かう方向(打ち抜き方向)の移動として変換するような各部の移動方向に対する斜面として形成される。つまり、パンチ31の係合面31aおよびスライダ32の係合面32aは、スライダ32の移動にともなう一対のパンチ31・31の移動についての摺動面となる。
【0109】
本例に係る構成において、排気ガス通路孔26は、次のようにして形成される。図10(a)に示すように、一対のパンチ31・31が、排気ガス通路孔26が形成される前の環状ベース20に対して、環状ベース20の内部において、ターボ軸方向について排気ガス通路孔26に対応する所定の位置にセットされる。かかる状態から、スライダ32がパンチ31・31側へ向かう方向に移動することにより、スライダ32が一対のパンチ31・31に係合した状態、つまりスライダ32の係合面32aがパンチ31・31の係合面31aに接触した状態となる。
【0110】
そして、図10(b)に示すように、スライダ32が、一対のパンチ31・31に係合した状態から、さらにパンチ31・31に係合する方向(図10において上方向)に移動することにより(矢印E1参照)、一対のパンチ31・31がターボ径方向の外側に向けて移動する(矢印E2参照)。つまり、スライダ32の矢印E1の方向の移動にともない、スライダ32の係合面32aに対して係合面31aを摺動させながら、一対のパンチ31・31がターボ径方向の外側方向(矢印E2の方向)に移動する。かかる一対のパンチ31・31の移動により、環状ベース20の接続部23におけるターボ周方向について180°対向する位置に、排気ガス通路孔26が形成される。
【0111】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、排気ガス通路孔26が、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に同一工程にて形成される。すなわち、本実施形態の環状ベース20においては、例えば図7に示すようなターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)は、前述したような一対のパンチ31・31およびスライダ32の移動による一工程により形成される。
【0112】
したがって、本実施形態の環状ベース20のように、ターボ径方向に対向する二組の(四個の)排気ガス通路孔26が形成される場合においては、二工程により、四個の排気ガス通路孔26が形成されることとなる。つまり、本例に係る構成によれば、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26が形成された後、一対のパンチ31・31およびスライダ32を備える構成がターボ軸方向を回転軸方向として180°回転した状態で、他の一対の排気ガス通路孔26が形成される。
【0113】
なお、環状ベース20において設けられる排気ガス通路孔26の個数は、特に限定されるものではない。すなわち、排気ガス通路孔26は、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられればよい。したがって、排気ガス通路孔26は、ターボ径方向に対向するように一組(二個)設けられたり三組(六個)以上設けられたりしてもよい。
【0114】
また、本実施形態の環状ベース20においては、前述したように排気ガス通路孔26が設けられる接続部23が円筒部24とR形状部25とを有する構成において、円筒部24に、排気ガス通路孔26が設けられている。すなわち、全体として円筒状の外形に沿う形状を有する部分である円筒部24において、ターボ周方向を長手方向とする長孔部である四個の排気ガス通路孔26が形成されている。
【0115】
具体的には、例えば図6等に示すような環状ベース20の回転軸心Cを通るターボ軸方向の直線を含む断面視で平面状の部分となる円筒部24に対して、前述したような打ち抜きが行われること等により、排気ガス通路孔26が形成される。言い換えると、円筒部24に設けられる排気ガス通路孔26は、円筒部24とともに接続部23を構成するR形状部25にかかることなく(R形状部25を残した状態で)形成される。
【0116】
このように、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路8を旋回しながら排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に導かれる排気ガスについて整流化が図れるとともに、ターボチャージャ1としての性能の確保および環状ベース20の変形の抑制が可能となる。
【0117】
すなわち、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路孔26がターボ径方向に開口する孔部となり、接続部23を構成するR形状部25がターボ周方向について全周にわたって存在することとなる。これにより、排気ガス通路孔26から環状ベース20の内側に流入した排気ガスが沿う環状ベース20の壁面として、滑らかな曲面形状であるR形状部25の内周面がターボ周方向の全周にわたって存在するので、排気ガス通路孔26からVN機構部11に導かれる排気ガスについての整流化が図られる。
【0118】
つまり、R形状部25を含む部分に排気ガス通路孔26が形成された場合、排気ガス通路8を旋回しながら排気ガス通路孔26を介して流入する排気ガスについて流れを妨げる壁面が環状ベース20において形成され、排気ガスのスムーズな流れが妨げられることが考えられる。この点、R形状部25がターボ周方向について全周にわたって存在することにより、前述したように排気ガスの整流化が図られる。
【0119】
また、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路孔26によってVN機構部11のスロート面積(流体通過面積)が確保される。これにより、排気ガスの通路面積確保の観点から、ターボチャージャ1の性能を確保することができる。加えて、ターボ周方向について全周にわたって存在するR形状部25により、環状ベース20についてターボ軸方向の外力等に対して高い剛性を確保することができ、環状ベース20の変形が抑制される。
【0120】
また、本実施形態の環状ベース20においては、熱容量低減の観点から、第一環状部21が、環状ベース20の軽量化を図るための孔部である軽量孔28を有する。軽量孔28は、板面がターボ軸方向に対して垂直となるように形成される平板状の部分である第一環状部21をターボ軸方向に貫通する孔部である。なお、第一環状部21に形成される軽量孔28は、環状ベース20のシェル7に対する位置決めの際等にも用いられる。
【0121】
図5や図7等に示すように、軽量孔28は、ターボ周方向を長手方向とし第一環状部21の円弧形状に沿って湾曲した長孔形状を有する。軽量孔28は、軽量孔28と同様にターボ周方向を長手方向とする長孔部として形成される排気ガス通路孔26との対比において、ターボ周方向の長さが短く形成される。本実施形態では、四個の軽量孔28が、ターボ周方向において等間隔に設けられている。
【0122】
そして、第一環状部21に設けられる軽量孔28は、ターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられている。すなわち、図7に示すように、排気ガス通路孔26と同様に四個設けられ、排気ガス通路孔26よりもターボ周方向の長さが短い軽量孔28が、各排気ガス通路孔26に対して、ターボ周方向について略中央位置に設けられている。
【0123】
言い換えると、軽量孔28は、ターボ周方向について、隣り合う柱部27間の略中央位置に設けられている。したがって、軽量孔28は、ターボ周方向について、柱部27と互い違いに(交互に)設けられる。
【0124】
このように、本実施形態の製造方法においては、第一環状部21におけるターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に、軽量孔28が設けられている。これにより、環状ベース20の軽量化が図られるとともに、第一環状部21および接続部23を含む部分について軽量孔28が設けられることによる剛性の低下が防止され、環状ベース20の変形を抑制することができる。
【0125】
すなわち、軽量孔28が、ターボ周方向について柱部27近傍の位置に形成された場合、柱部27の第一環状部21側の接続部分の強度の確保が困難となる。柱部27の接続部分は、環状ベース20が受ける外力による影響が大きい部分である。このため、軽量孔28がターボ周方向について柱部27近傍の位置に形成されると、第一環状部21および接続部23を含む部分についてターボ軸方向の外力等に対する剛性が不足することが考えられる。この点、軽量孔28がターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられることにより、環状ベース20の軽量化と第一環状部21および接続部23を含む部分についての剛性の確保との両立が可能となる。
【0126】
また、第一環状部21において、ターボ周方向について排気ガス通路孔26が形成される部位は、その排気ガス通路孔26の形成にともなって平面度が低下する部位となる。具体的には、排気ガス通路孔26は、例えば前述したようにターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される。このため、第一環状部21における排気ガス通路孔26に対応する部位については、排気ガス通路孔26の打ち抜き時に材料が引っ張られること等により、平面度が低下する。第一環状部21における平面度の低下の度合いは、ターボ周方向について排気ガス通路孔26の中央部において比較的大きくなる。
【0127】
平板状の部分である第一環状部21の部分は、環状ベース20に対する他の部材の溶接の際等における位置決めに用いられる場合がある。このため、第一環状部21の部分については、所定の平面度が確保されることが望ましい。つまり、第一環状部21の部分については、その平面度が低い場合、所定の平面度を得るための追加加工が必要となるときがある。
【0128】
そこで、軽量孔28が第一環状部21におけるターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられることにより、第一環状部21において平面度の低下の度合いが比較的大きい部位が取り除かれる。これにより、排気ガス通路孔26の形成にともなう第一環状部21の平面度の低下を抑制することができ、環状ベース20の面精度の向上を図ることが可能となる。
【0129】
また、本実施形態のターボチャージャ1においては、前述したようにタービンハウジング6における排気ガスの出口に出口フランジ10が設けられている。このように排気ガスの出口に設けられる出口フランジ10は、ターボチャージャ1を構成するタービンハウジング6をターボチャージャ1が搭載されるエンジンの本体側に対して支持する部材(ステー)として用いられる。あるいは、出口フランジ10に、ステーが取り付けられる。出口フランジ10によるエンジン本体側に対するタービンハウジング6の支持は、エンジンの運転時の振動にともなうターボチャージャ1の振動を防止することを目的として行われる。
【0130】
すなわち、本実施形態では、出口フランジ10は、タービンハウジング6をエンジンの本体側に対して支持するための支持部材として機能する。したがって、ターボチャージャ1は、出口フランジ10によってタービンハウジング6を介してエンジンの本体側に対して支持される。出口フランジ10は、タービンホイール2に導かれた排気ガスの出口側の端部、つまり本実施形態では排気ガスの出口となる環状ベース20のスリーブ部20bの先端開口部の周縁に設けられる。
【0131】
このようにタービンハウジング6において設けられる出口フランジ10は、図1に示すように、締結支持部40を有する。締結支持部40は、出口フランジ10においてターボ径方向外側に延出されるとともにエンジンの本体側に締結される部分である。つまり、本実施形態の出口フランジ10は、締結支持部40を有することにより、タービンハウジング6をエンジンの本体側に対して支持するための支持部材として機能する。
【0132】
締結支持部40は、出口フランジ10において排気管の接続用のボルト孔10aが設けられる部分と連続する部分であり、ボルト孔10aを形成する部分よりもターボ径方向外側に突出するように延設される。本実施形態の出口フランジ10においては、締結支持部40は、ターボ径方向である所定の方向(図1における下方向)に延設されている。
【0133】
締結支持部40は、締結孔41を有する。締結孔41は、締結支持部40の突出方向の先端部に設けられる。つまり、出口フランジ10は、締結支持部40に設けられる締結孔41が用いられることで、例えばエンジンを構成するシリンダブロック等の、エンジンの本体側における所定の部位に対して他の部材を介する等してボルト等の締結具によって固定される。これにより、出口フランジ10は、溶接等によって環状ベース20のスリーブ部20bに固定された状態で、その一端部側(締結支持部40側)が、エンジンの本体側に固定される。このように、タービンハウジング6は、エンジンの本体側に対して、出口フランジ10により支持される。
【0134】
このように締結支持部40を有する出口フランジ10は、回転軸3の軸心周り(回転軸心C周り)の位相について、締結支持部40の位相が所定の位相となるように設けられる。ここで、位相とは、回転軸心C周りにおける位置(ターボ周方向における位置)である。そして、締結支持部40の位相についての所定の位相は、ターボ周方向に隣り合う排気ガス通路孔26の間の部分である柱部27に対して、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相である。つまり、出口フランジ10においてターボ径方向に延出される部分である締結支持部40の突出方向の位相が、隣り合う柱部27の間における中間の位相となるように、出口フランジ10が設けられる。
【0135】
具体的には、図11に示すように、回転軸心Cに対して、締結支持部40の位相(直線F1参照)が、隣り合う柱部27(27A)の位相(直線F2参照)の中間の位相となるように、出口フランジ10が設けられる。ここで、本実施形態では、締結支持部40の位相は、締結支持部40の先端部に設けられる締結孔41(の中心位置)の位相に対応し、柱部27の位相は、ターボ周方向における柱部27の中央の位置の位相に対応する。
【0136】
したがって、例えば、ターボ周方向について締結支持部40を挟む二つの柱部27(27A)の位相差(位相の間隔)が略90°である場合、締結支持部40の位相を示す直線F1は、二つの柱部27(27A)それぞれの位相を示す二本の直線F2に対する位相差が略45°となる。つまり、締結支持部40を挟む柱部27(27A)それぞれの位相を示す二本の直線F2がなす角度(締結支持部40を挟む側の角度)が略90°である場合、出口フランジ10は、締結支持部40の位相を示す直線F1が両方の直線F2に対して略45°の角度をなすように設けられる。
【0137】
このように、本実施形態の製造方法においては、出口フランジ10が、回転軸心C周りの位相について、締結支持部40の位相が、柱部27に対して、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相となるように設けられる。これにより、締結支持部40を介して出口フランジ10から環状ベース20に入力される外力を複数の柱部27(主に締結支持部40を挟む二つの柱部27(27A))によって分散して受け持つことが可能となるので、柱部27の断面積の増加をともなうことなく、環状ベース20の耐久性を向上させることが可能となる。
【0138】
すなわち、例えば、出口フランジ10が、締結支持部40の位相が環状ベース20の柱部27の位相と略同じ位相となるように設けられた場合、締結支持部40を介して出口フランジ10から環状ベース20に入力される外力による負担(応力)が、締結支持部40と位相が略同じ柱部27に集中する。このように一つの柱部27に応力が集中することは、環状ベース20について外力に対する十分な耐久性が得られない原因となる。
【0139】
一方で、環状ベース20について外力に対する耐久性を向上させるための手法としては、柱部27の断面積を増加させることが考えられる。しかし、柱部27の断面積の増加は、環状ベース20の板厚の増加や、排気ガス通路孔26が狭くなることによる排気ガスの通路面積の制約につながる。環状ベース20の板厚の増加は、環状ベース20の質量の増加を招くため、熱容量を低減させる観点から好ましくない。また、排気ガスの通路面積の制約は、ターボチャージャ1の性能の低下につながる。
【0140】
そこで、締結支持部40の位相が二つの柱部27の中間の位相となるように出口フランジ10が設けられることで、環状ベース20の熱容量低減の効果の低下等を招く柱部27の断面積の増加をともなうことなく、環状ベース20の耐久性を向上させることが可能となる。
【0141】
なお、出口フランジ10が有する締結支持部40の形状や配設位置等は、本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態では、締結支持部40は、出口フランジ10において一箇所に設けられているが、複数箇所に設けられてもよい。また、本実施形態では、出口フランジ10が、締結支持部40を有する支持部材として用いられているが、これに限定されるものではない。つまり、締結支持部40を有する支持部材としては、出口フランジ10とは別の部材が用いられてもよい。また、締結支持部40の位相について、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相とは、ターボ周方向に隣り合う二つの柱部27の間の任意の位相であり、好ましくは二つの柱部27の間における中央部の位相である。
【0142】
ところで、本実施形態のターボチャージャ1が備える環状ベース20として成形される板状の部材としては、前述したようにSUS板金等の耐熱材料が用いられる。かかる耐熱材料としては、一般に圧延鋼板が用いられる。
【0143】
具体的には、例えば図12(a)に示すように、環状ベース20として成形される板状の部材は、帯状の圧延鋼板50から得られる。すなわち、圧延鋼板50から、冷間鍛造等の塑性加工の対象となる板材として、円形状のブランク51が切り出される。帯状の圧延鋼板50においては、その長手方向(帯の長さ方向、矢印G1参照)が圧延方向に対応する。
【0144】
このように、環状ベース20を構成する板状の部材である圧延鋼板50については、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であることが好ましい。ここで、Δr値とは、具体的には次のような値である。
【0145】
圧延鋼板50においては、その圧延方向(図12(a)矢印G1参照)と、圧延方向に対する垂直方向(帯の幅方向)とでは、r値(ランクフォード値とも称される。)が異なる。すなわち、図12(b)に示すように、圧延鋼板50の板面に沿う方向について、圧延方向に対応する方向をX方向、圧延方向に対応する方向に対する垂直方向をY方向とすると、圧延鋼板50については、X方向とY方向とでr値が異なる。ここで、r値とは、板材に対して例えば引張試験のような単軸引張が与えられることによる板幅方向の歪と板厚方向の歪との比として表される値である。
【0146】
そして、圧延鋼板50についてのΔr値とは、前記のとおり値が異なるX方向のr値およびY方向のr値の差を示す値である。したがって、圧延鋼板50についてのΔr値は、例えば次のようにして求められる。
【0147】
すなわち、圧延鋼板50について、X方向およびY方向それぞれを長手方向とする短冊状(長方形状)の試験片が切り出される。切り出された各試験片(X方向を長手方向とする試験片およびY方向を長手方向とする試験片)のそれぞれについて、試験片の長手方向を引張方向とする引張試験が行われ、各試験片についてのr値が求められる。これにより、圧延鋼板50について、X方向のr値およびY方向のr値が求められる。そして、これらX方向のr値およびY方向のr値に基づいて、圧延鋼板50についてのΔr値が求められる。
【0148】
このようにして求められる圧延鋼板50についてのΔr値は、その値が小さいほど、材料の成形性が圧延方向(X方向)の影響を受けにくい材料であることを示す。つまり、Δr値が小さいほど、その材料による成形品の形状精度(例えば真円度)が向上する。
【0149】
したがって、図12(b)に示すように、Δr値が大きいと、ブランク51は、冷間鍛造等の塑性加工を受けることにより、例えば図中において破線で示すように、真円形状に対して歪み、四角形に近いような形状となる。これに対し、Δr値が小さいと、ブランク51が塑性加工を受けることによっても、図中において実線で示すように、ブランク51について真円形状に近い形状が保持される。環状ベース20として成形されるブランク51については、真円形状に近い形状が保持されることが好ましい。つまり、圧延鋼板50についてのΔr値は、小さいほど好ましい。なお、図12(b)においては、矢印G2で示す方向が圧延鋼板50の圧延方向に対応する。
【0150】
一方で、Δr値が大きい材料が用いられる場合、成形品(完成品)の形状精度を確保するため、ブランク51について成形時の板厚を余分に確保する必要がある。すなわち、Δr値が大きくなると、前記のとおりブランク51の形状が歪む。このため、ブランク51が成形されることで得られる環状ベース20についての所望の形状(例えば真円形状等)を得るためには、歪んだ形状を含む成形品に対して例えば切削等の追加加工が施されることが必要となる。したがって、追加加工用の加工代を残す必要性から、ブランク51について成形時の板厚を余分に確保する必要が生じる。このようにブランク51の板厚を増加させることは、成形性の低下を招く。
【0151】
そこで、環状ベース20を構成する板状の部材である圧延鋼板50として、Δr値(絶対値)が0.25以下である材料が用いられる。これにより、冷間鍛造等の塑性加工による環状ベース20の成形において、材料の変形についての圧延鋼板50の圧延方向の影響が低減され、成形品について良好な形状精度(例えば真円度等)が得られる。加えて、成形品(完成品)の形状精度を確保するためにブランク51について成形時の板厚を余分に確保することが不要となり、良好な成形性が得られる。
【0152】
Δr値は、圧延鋼板50として用いられる材料の種類によってある程度一定の値となる。実験例として、次のような結果が得られた。圧延鋼板50としてSUS430が用いられた場合、成形品についての歪みが比較的大きく、十分な形状精度を得ることができなかった。SUS430についてのΔr値は、約0.27である。これに対し、圧延鋼板50としてSUS425が用いられた場合、成形品についての歪みが比較的小さく真円に近い形状となり、良好な形状精度を得ることができた。SUS425についてのΔr値は、0.1台の値である。
【0153】
以上のように、本実施形態に係る製造方法においては、環状ベース20を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料が用いられることが好ましい。これにより、成形品としての環状ベース20について形状精度および成形性の向上が図られる。
【符号の説明】
【0154】
1 ターボチャージャ
2 タービンホイール
3 回転軸
6 タービンハウジング
7 シェル(ハウジング本体)
8 排気ガス通路
10 出口フランジ
11 VN機構部
20 環状ベース(補強部材)
21 第一環状部(環状部)
22 第二環状部(環状部)
23 接続部
24 円筒部
25 R形状部
26 排気ガス通路孔
27 柱部
28 軽量孔
40 締結支持部
50 圧延鋼板
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車エンジン等のエンジンに搭載されるターボチャージャおよびターボチャージャの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車エンジン等のエンジンには、エンジンの出力の向上等を図るため、ターボチャージャを搭載するものがある。ターボチャージャは、エンジンからの排気ガスをタービンホイールによって動力源とし、エンジンに対する過給を行うものである。
【0003】
ターボチャージャにおいては、排気ガスのクリーン化を図るため、熱容量を低減させるニーズが高い。これは次のような理由による。すなわち、エンジンには、排気ガスの流れにおけるターボチャージャの下流側に、NOx還元触媒等の触媒によって排気ガスを浄化する触媒装置が設けられるものがある。かかる触媒装置においては、触媒の温度が所定範囲内にある状態で、触媒が活性化し、排気ガスが効率よく浄化される。
【0004】
このため、ターボチャージャの熱容量が大きい場合、例えばエンジンの始動時等の、排気ガスを浄化するための触媒の温度を活性化温度(触媒が活性化する温度)にまで上昇させる必要がある状態において、触媒の温度が上昇しにくい。すなわち、触媒装置の触媒の温度は、ターボチャージャを通過した排気ガスの熱によって上昇する。そこで、ターボチャージャの熱容量が大きいと、排気ガスについて奪われる熱量が多くなるため、触媒の温度上昇が妨げられる。
【0005】
ターボチャージャの熱容量については、特に、エンジンからの排気ガスをタービンホイールに導くための排気ガスの通路を形成するハウジング(タービンハウジング)の熱容量が、排気ガスの温度上昇に大きく影響する。したがって、エンジンの排気系部品としてのタービンハウジングの熱容量が小さいほど、排気ガスについて奪われる熱量が少なくなるため、触媒の温度を活性化温度にまで短時間で上昇させることができ、排気ガスのクリーン化を図るうえで有利である。
【0006】
ターボチャージャの熱容量の低減化についての対応策としては、従来、種々の提案がなされているが、その一案として、タービンハウジングを薄肉化あるいは板金化(以下単に「薄肉化」という。)する技術がある。タービンハウジングの薄肉化は、例えば、タービンハウジングが、SUS板金等の耐熱材料がプレス成形されることで得られる薄板材で構成されることにより達成される。しかし、タービンハウジングの薄肉化は、タービンハウジングの剛性の低下を招く。タービンハウジングの剛性の低下は、ターボチャージャの性能(ターボ効率)や信頼性の低下や、タービンハウジングの耐久性の低下の原因となる。
【0007】
すなわち、薄肉化されることで剛性が低下したタービンハウジングは、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮や、エンジンを構成する部品あるいはターボチャージャの周辺部品(支持ステー等)の熱変形や、エンジンの運転にともなう振動の入力等により、熱変形しやすくなる。そして、タービンハウジングが熱変形することで、タービンハウジングのガスシール部の変形や、タービンハウジングの他の部材との間のクリアランスの増加等により、ガス漏れが生じる場合がある。このようなターボチャージャにおけるガス洩れは、ターボチャージャの性能や信頼性の低下につながる。また、薄肉化により剛性が低下したタービンハウジングについては、エンジンの運転時等において、タービンハウジング自体が熱変形したり、周辺部品の熱変形の影響を受けて変形したりすることにより、耐久性の確保が困難となる。
【0008】
そこで、このようなタービンハウジングの薄肉化にともなう問題を解消するため、ターボチャージャにおいては、タービンハウジングを補強するための部材(以下「補強部材」という。)が備えられている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。つまり、補強部材により、タービンハウジングにおいて薄板材で構成される部分であるハウジング本体の剛性が確保される。かかる補強部材は、全体として略環状の形状を有し、ターボチャージャの回転軸心周りに排気ガスの通路を形成するハウジング本体に沿うように設けられる。
【0009】
具体的には、補強部材は、ターボチャージャの回転軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸心周りに設けられる一対の円環形状の環状部と、これらの環状部を接続する柱状の接続部とを有する。そして、両側の環状部がそれぞれハウジング本体に対して溶接等によって固定されることで、補強部材がハウジング本体に固定され、タービンハウジングが構成される。
【0010】
このように、薄板材で構成されるハウジング本体に対して設けられる補強部材は、従来、一対の環状部およびこれらを接続する接続部それぞれを構成する部品が溶接により一体化されることで構成されたり、鋳造により一体的に構成されたりしている。具体的には、特許文献1のターボチャージャにおいては、補強部材が有する一対の環状部を構成する一対のフランジが、同じく補強部材が有する接続部を構成する連結リングによって溶接により一体化されている。また、特許文献1には、環状部を構成する一対のフランジが接続部を含み一体の鋳造部品とされてもよい旨記載されている。また、特許文献2のターボチャージャにおいても、一対の環状部を構成する一対のベース部とこれらを接続する接続部が、鋳造により一体に形成される旨記載されている。
【0011】
しかし、タービンハウジングの補強部材が、鋳造部品や溶接による一体化構造のものである場合、次のような問題がある。すなわち、補強部材が鋳造部品として構成される場合、表面の面粗度がわるくなりやすいため、補強部材の壁面を流れる流体(排気ガス)の損失の増加が問題となる。また、鋳造部品については、素形材の精度不足を補うための機械加工が必要となるため、コストの増加が問題となる。一方、補強部材が溶接による一体化構造のものとして構成される場合、溶接を行うための工程が必要となるため、工程が複雑となる。さらに、溶接構造の場合、溶接歪による精度の低下から、コスト増の問題が生じる。
【0012】
また、補強部材については、エンジンの運転時等におけるハウジング本体や周辺部品の熱変形等に起因する外力として、主に、補強部材をターボチャージャの回転軸方向に圧縮する方向の荷重、あるいは補強部材を回転軸方向に引っ張る方向の荷重(引き伸ばす力)が作用することが、実験等によりわかっている。このように補強部材に入力する外力は、補強部材の変形量を増加させ、補強部材の疲労寿命を低下させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−106667号公報
【特許文献2】特開2008−121470号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、タービンハウジングについて、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができるターボチャージャおよびターボチャージャの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0016】
すなわち、請求項1においては、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャであって、前記タービンハウジングは、板状の部材により構成されるハウジング本体と、該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備え、前記補強部材は、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部と、を有し、前記一対の環状部および前記接続部が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品であるものである。
【0017】
請求項2においては、請求項1に記載のターボチャージャにおいて、前記塑性加工は、少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造であるものである。
【0018】
請求項3においては、請求項1または請求項2に記載のターボチャージャにおいて、前記接続部は、前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、前記排気ガス通路孔は、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部であるものである。
【0019】
請求項4においては、請求項3に記載のターボチャージャにおいて、前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に複数設けられているものである。
【0020】
請求項5においては、請求項3または請求項4に記載のターボチャージャにおいて、前記一対の環状部は、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部であり、前記接続部は、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部と、を有し、前記円筒部に、前記排気ガス通路孔が設けられているものである。
【0021】
請求項6においては、請求項3〜5のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記第一環状部は、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を有し、前記軽量孔は、前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に設けられているものである。
【0022】
請求項7においては、請求項3〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記タービンハウジングは、エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、前記支持部材は、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けられるものである。
【0023】
請求項8においては、請求項1〜7のいずれか一項に記載のターボチャージャにおいて、前記補強部材を構成する板状の部材について、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であるものである。
【0024】
請求項9においては、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャの製造方法であって、前記タービンハウジングは、板状の部材により構成されるハウジング本体と、該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備えるものであり、前記補強部材を、板状の部材に対する塑性加工により、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部とを有する部品として一体成形するものである。
【0025】
請求項10においては、請求項9に記載のターボチャージャの製造方法において、前記塑性加工として、少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造を行うものである。
【0026】
請求項11においては、請求項9または請求項10に記載のターボチャージャの製造方法において、前記接続部は、前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、前記排気ガス通路孔を、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成するものである。
【0027】
請求項12においては、請求項11に記載のターボチャージャの製造方法において、前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、該排気ガス通路孔を、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に同一工程にて形成するものである。
【0028】
請求項13においては、請求項11または請求項12に記載のターボチャージャの製造方法において、前記一対の環状部として、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部とを形成し、前記接続部を、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部とを有する部分として形成し、前記円筒部に、前記排気ガス通路孔を設けるものである。
【0029】
請求項14においては、請求項11〜13のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記第一環状部における前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を設けるものである。
【0030】
請求項15においては、請求項11〜14のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記タービンハウジングは、エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、前記支持部材を、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けるものである。
【0031】
請求項16においては、請求項9〜15のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法において、前記補強部材を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料を用いるものである。
【発明の効果】
【0032】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
すなわち、本発明によれば、タービンハウジングについて、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の一実施形態に係るターボチャージャを示す図。
【図2】本発明の一実施形態に係るタービンハウジングの構成を示す断面図。
【図3】本発明の一実施形態に係るターボチャージャの構成を示す部分断面図。
【図4】VN機構部の構成を示す図。
【図5】環状ベースの構成を示す斜視図。
【図6】同じく断面図。
【図7】図6におけるA−A断面図。
【図8】環状ベースに付与される残留圧縮応力についての説明図。
【図9】排気ガス通路孔についての説明図。
【図10】排気ガス通路孔を形成するための構成および工程についての説明図。
【図11】環状ベースと出口フランジとの位置関係についての説明図。
【図12】環状ベースを構成する材料についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明は、ターボチャージャを構成するタービンハウジングが、耐熱鋼板のプレス成形等によって構成されることで薄肉化が図られたハウジング本体と、このハウジング本体を補強するための補強部材とを備える構成において、補強部材を、プレス成形等の塑性加工により一体的に成形しようとするものである。以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0035】
図1〜図3に示すように、本実施形態に係るターボチャージャ1は、例えば自動車エンジン等のエンジンに搭載されるものであり、エンジンからの排気ガスを動力源とするためのタービンホイール2を備える。タービンホイール2は、エンジンからの排気ガスを受けて回転するものであり、回転軸3により回転可能に支持される。
【0036】
回転軸3は、ターボチャージャ1を構成するベアリングハウジング4(図3)の内部において回転可能に支持される。回転軸3は、ベアリングハウジング4対して軸受5(図3)等を介して所定の回転軸心Cを中心に回転可能に支持される。回転軸3の一端側に、タービンホイール2が固定される。かかる構成により、タービンホイール2は、ターボチャージャ1において回転軸心Cを中心として回転可能に設けられる。
【0037】
ターボチャージャ1は、コンプレッサホイール(図示略)を有し、このコンプレッサホイールを回転させることで、エンジンからの排気ガスを回収して圧縮し、エンジンに対する過給を行う。コンプレッサホイールは、回転軸3の他端側、つまり回転軸3においてタービンホイール2が設けられる側と反対側に固定される。これにより、コンプレッサホイールは、前記のとおりエンジンからの排気ガスを受けて回転するタービンホイール2の回転にともなって回転する。
【0038】
このように、ターボチャージャ1においては、回転軸3と、回転軸3の両端側にそれぞれ固定されるタービンホイール2およびコンプレッサホイールとを含む構成により、ベアリングハウジング4に支持された状態で一体的に回転する回転体が構成される。
【0039】
タービンホイール2は、回転軸3を支持するベアリングハウジング4の外側に位置し、タービンハウジング6により覆われる。タービンハウジング6は、図3に示すように、ベアリングハウジング4の一側(タービンホイール2が設けられる側)に取り付けられる。タービンハウジング6は、ハウジング本体としてのシェル7と、シェル7に対する補強部材としての環状ベース20とを備える。
【0040】
シェル7は、ターボチャージャ1の回転軸心C周りに排気ガスの通路を形成するための部材である。シェル7は、例えばSUS板金等の耐熱材料がプレス成形されることにより薄板材で構成される。なお、シェル7は、中空の部材が液圧によって成形されるいわゆるハイドロフォーム加工によって成形されることにより薄板材で構成されてもよい。
【0041】
シェル7は、回転軸3の軸心方向視(図1参照)で略環状の外形を有するハウジング部材である。シェル7は、回転軸3の軸方向(回転軸心Cの方向、以下「ターボ軸方向」という。)の一側(図2における右側)に、回転軸心Cの位置を中心とする円形の孔部7aを有する。孔部7aは、シェル7の外側(図2における右側)に筒状に突出する円筒部7bにより形成される。つまり、円筒部7bの内周面により、孔部7aが形成される。円筒部7bは、その筒軸方向がターボ軸方向となるように形成される。
【0042】
また、シェル7においては、ターボ軸方向の他側(図2における左側)が全面的に開放されている。つまり、シェル7のターボ軸方向の他側は、円筒状の内周面により形成される開口部7cとなっている。
【0043】
環状ベース20は、略環状の外形を有し、シェル7に沿うように設けられる。環状ベース20は、シェル7とともに回転軸心C周りに排気ガスの通路を形成する。環状ベース20は、略円環状の形状を有するベース本体部20aと、略円筒状の形状を有するスリーブ部20bとを有する。
【0044】
ベース本体部20aとスリーブ部20bとは、いずれも軸心位置がターボチャージャ1の回転軸心Cに一致するように設けられる。つまり、ベース本体部20aは、その中心軸方向がターボ軸方向となるように設けられ、スリーブ部20bは、その筒軸方向がターボ軸方向となるように設けられる。スリーブ部20bは、ベース本体部20aのターボ軸方向の一側から突出するように形成される。
【0045】
環状ベース20は、シェル7に対して内側に設けられる。言い換えると、シェル7は、環状ベース20を外側から覆うように設けられる。具体的には、環状ベース20は、スリーブ部20bをシェル7の内側から孔部7aを介して突出させた状態(スリーブ部20bが孔部7aを貫通した状態)で、シェル7に対して固定される。
【0046】
本実施形態では、シェル7と環状ベース20とは、溶接により互いに接合されることで固定される。シェル7と環状ベース20との溶接箇所には、シェル7の孔部7aを形成する円筒部7bの内周面と環状ベース20のスリーブ部20bの外周面との接触部、およびシェル7の開口部7cを形成する内周面とベース本体部20aの外周面との接触部が含まれる。これらの各溶接箇所においては、例えば回転軸心Cの軸心周りに略全周にわたって溶接が施される。
【0047】
このように、互いに固定されてタービンハウジング6を構成するシェル7と環状ベース20とにより、回転軸心C周りに環状でありトンネル状の空間が形成される。かかる空間が、エンジンからの排気ガスをタービンホイール2に導くための排気ガス通路8となる。排気ガス通路8は、エンジンからの排気ガスがタービンホイール2の回転方向に沿う方向に(回転軸心C周りに)旋回して流れるような形状を有する。
【0048】
タービンハウジング6においては、排気ガス通路8の排気ガスの入口に、入口フランジ9が設けられる(図1)。排気ガス通路8の入口は、シェル7における一側(図1において上側)に開口する開口部として形成される。この排気ガス通路8の入口の周縁に、入口フランジ9が設けられる。入口フランジ9には、エンジンから排出される排気ガスの通路を形成する排気管が接続される。
【0049】
また、タービンハウジング6においては、排気ガスの出口に、出口フランジ10が設けられる。排気ガスの出口は、環状ベース20においてターボ軸方向の一側(図2において右側)に開口するスリーブ部20bにより形成される。この排気ガスの出口、つまりスリーブ部20bの先端開口部の周縁に、出口フランジ10が設けられる。出口フランジ10は、例えばスリーブ部20bの外周面に対する溶接等により、スリーブ部20bに固定される。出口フランジ10には、ターボチャージャ1を通過した排気ガスの通路を形成する排気管が接続される。このため、出口フランジ10には、排気管の接続用のボルト孔10aが設けられている(図1)。
【0050】
このような構成において、エンジンから排出され入口フランジ9側から排気ガス通路8に流入した排気ガスは、回転軸心C周りに旋回して流れるとともに(図1矢印A1参照)、回転軸心C側に流れ込み、タービンホイール2に導かれる。タービンホイール2を回転させた排気ガスは、タービンホイール2の回転にともなって環状ベース20のスリーブ部20b内を通過して出口フランジ10を介して排気管へと排出される。
【0051】
排気ガス通路8を旋回して流れる排気ガスは、環状ベース20を介して環状ベース20の内側に位置するタービンホイール2に導かれる(図2矢印A2参照)。このため、環状ベース20においては、ベース本体部20aに、排気ガス通路8を流れる排気ガスをタービンホイール2に導くための孔部である排気ガス通路孔26が形成されている。
【0052】
なお、ターボチャージャ1から排出される排気ガスの排気経路には、NOx還元触媒等の触媒によって排気ガスを浄化する触媒装置が設けられる。つまり、前記のとおり出口フランジ10を介して排気管に排出された排気ガスは、触媒装置によって浄化された後、大気中に排出される。
【0053】
また、ターボチャージャ1においては、VN(Variable Nozzle)機構部11が設けられている。VN機構部11は、ターボチャージャ1における排気ガスの流れについてのタービンホイール2の上流側に設けられる。具体的には、VN機構部11は、排気ガス通路8とタービンホイール2との間の位置にて構成される。
【0054】
VN機構部11は、排気ガス通路8からタービンホイール2に向かう排気ガスの流路(以下「タービンガス流路」という。)を形成するとともにそのタービンガス流路の開度を調整するためのものである。VN機構部11は、複数のノズルベーン12を有する。このノズルベーン12の傾きの調整により、タービンガス流路の開度の調整が行われる。すなわち、VN機構部11により、エンジンの運転状況等に応じてタービンガス流路の開度が調整されることで、タービンホイール2に作用する排気ガスの流速や流量等が調整される。
【0055】
図3および図4に示すように、ノズルベーン12は、略矩形板状の部材であり、その板面方向をターボ軸方向に沿わせる姿勢で回動可能(傾動可能)に支持される。ノズルベーン12は、回転軸3の周方向に等間隔で全周にわたって設けられる(図4参照)。ノズルベーン12は、隣り合うノズルベーン12とともに、互いに対向する板面によりタービンガス流路を形成する。かかる構成により、ノズルベーン12の傾き(回動角度)が調整されることで、タービンガス流路の開度が調整される。
【0056】
図3に示すように、ノズルベーン12は、ターボ軸方向に間隔を隔てて設けられる支持プレート13・14に挟まれた状態で回動可能に支持される。支持プレート13・14は、その板面がターボ軸方向に対して垂直となるように設けられる。支持プレート13・14は、いずれも略円環形状を有し、タービンハウジング6の内部(環状ベース20のベース本体部20aの内部)であって、タービンホイール2の周囲に位置するように設けられる。
【0057】
図4に示すように、ノズルベーン12は、ターボ軸方向視における板面方向(長手方向)の略中央位置に設けられる回転軸部12aにより、支持プレート13・14に対して回動可能に支持される。ノズルベーン12の回動は、ユニゾンリング15が用いられて行われる。
【0058】
ユニゾンリング15は、略円環形状を有する板状の部材であり、支持プレート13・14と同様に、板面がターボ軸方向に対して垂直となるように設けられる。ユニゾンリング15は、ターボ軸方向における排気ガスの出口側(図3において右側、以下「排気出口側」という。)と反対側(同図左側、以下「コンプレッサ側」という。)に位置する支持プレート14のコンプレッサ側に設けられる。
【0059】
ユニゾンリング15は、その中心軸方向がターボ軸方向となるように回動可能に設けられる。ユニゾンリング15の回動は、図示せぬアクチュエータからの駆動力が用いられて行われる。ユニゾンリング15は、駆動アーム16を介して各ノズルベーン12に連結される。駆動アーム16は、一端側がユニゾンリング15の内周部に形成される凹部15aに嵌合するとともに、他端側がノズルベーン12の回動軸部12aと同軸に支持される。
【0060】
このような構成により、ユニゾンリング15が回転軸心Cを中心に回動することで、駆動アーム16がノズルベーン12の回動軸部12aの軸心を中心に回動する。かかる駆動アーム16の回動により、ノズルベーン12が回動軸部12aにより回動する。このように、ユニゾンリング15の回動が調整されることにより、ノズルベーン12の傾きが調整され、タービンガス流路の開度が調整される。
【0061】
なお、ターボチャージャ1においては、ターボ軸方向における排気出口側に位置する支持プレート13と環状ベース20との間にガスシール部が設けられる。具体的には、図3に示すように、支持プレート13は、その内周側の部分に、ターボ軸方向における排気出口側に向けて円筒状に突出する円筒部13aを有する。この支持プレート13の円筒部13aの外周面と環状ベース20の内周面との間に円環状のガスケット17が介装されることにより、ガスシール部が構成される。
【0062】
また、ターボチャージャ1においては、ベアリングハウジング4とタービンハウジング6との間にガスシール部が設けられる。具体的には、図3に示すように、ベアリングハウジング4とタービンハウジング6を構成する環状ベース20との接触面間に円環状のガスケット18が介装されることにより、ガスシール部が構成される。これらのガスシール部により、排気ガス通路8内に導入されタービンホイール2に作用する排気ガスについての気密性が確保される。
【0063】
以上のような構成を備えるターボチャージャ1は、エンジンに搭載された状態で次のように機能する。すなわち、エンジンからの排気ガスが、エンジンの排気通路を介してタービンハウジング6により形成される排気ガス通路8内に流入し、環状ベース20に形成される排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に作用する。これにより、タービンホイール2が回転する。ここで、VN機構部11により、タービンホイール2に作用する排気ガスの流速や流量等が調整される。そして、タービンホイール2の回転にともなって、回転軸3を介してターボチャージャ1が備えるコンプレッサホイールが回転する。このコンプレッサホイールの回転により、ターボチャージャ1内に回収されたエンジンからの排気ガスが、圧縮されて吸気として再びエンジンに供給される。
【0064】
以上のように、本実施形態のターボチャージャ1は、エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸3により回転可能に支持されるタービンホイール2に対して排気ガスを導くための排気ガス通路8を形成するタービンハウジング6を有する。そして、タービンハウジング6は、板状の部材により構成されるハウジング本体としてのシェル7と、シェル7とともに排気ガス通路8を形成しシェル7を補強する補強部材としての環状ベース20とを備える。
【0065】
タービンハウジング6を構成する環状ベース20について、図5〜図7を加えて具体的に説明する。なお、図7は、図6におけるA−A断面図である。環状ベース20は、略円環形状を有しターボ軸方向に間隔を隔てた状態で回転軸3の軸心(回転軸心C)周りに設けられる一対の環状部(21・22)と、この一対の環状部同士を接続する接続部23とを有する。これら一対の環状部(21・22)および接続部23は、環状ベース20においてベース本体部20aを構成する部分である。
【0066】
そして、環状ベース20は、一対の環状部(21・22)および接続部23が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である。すなわち、平板状の素材(ブランク)に対して塑性加工が施されることにより、一対の環状部(21・22)および接続部23を含み環状ベース20が有する各形状部分が形成される。
【0067】
環状ベース20を形成するための塑性加工としては、ブランクに力を加えることでブランクを変形させ目的の形状とする加工であれば特に限定されるものではないが、例えば、冷間鍛造や熱間鍛造やプレス加工等が採用され得る。環状ベース20として成形される板状の部材としては、例えば、シェル7を構成する薄板材に対して比較的厚い板厚を有する板材であって、シェル7と同様に例えばSUS板金等の耐熱材料が用いられる。
【0068】
このように、本実施形態に係るターボチャージャの製造方法(以下単に「製造方法」という。)においては、タービンハウジング6を構成する環状ベース20が、板状の部材に対する塑性加工により、一対の環状部(21・22)と接続部23とを有する部品として一体成形される。
【0069】
第一環状部21は、ターボ軸方向のうちタービンホイール2に導かれた排気ガスの出口側(排気出口側)に位置する環状部である。第二環状部22は、第一環状部21よりも回転軸3の径方向(以下「ターボ径方向」という。)外側かつターボ軸方向のうちコンプレッサ側に位置する環状部である。
【0070】
第一環状部21および第二環状部22は、いずれも円環板状の部分であり、その板面がターボ軸方向に対して垂直となるように形成される。また、第一環状部21および第二環状部22は、いずれもその中心軸方向がターボ軸方向となるように形成される。
【0071】
第一環状部21は、環状ベース20のベース本体部20aにおいてスリーブ部20bが突出する側の部分を形成する。つまり、円環形状を有する第一環状部21の内周側の部分から、略円筒状のスリーブ部20bが排気出口側に向けて突出する。
【0072】
第二環状部22は、環状ベース20における最大外径部分である。第二環状部22の外周面が、前述したようにシェル7の開口部7cを形成する内周面に対して溶接されるベース本体部20aの外周面に相当する。第一環状部21の外周側の端部と第二環状部22の内周側の端部とは、ターボ径方向について略同じ位置となる。
【0073】
接続部23は、前記のとおりターボ径方向について略同じ位置となる第一環状部21の外周側の端部と第二環状部22の内周側の端部とを接続する部分である。接続部23は、円筒部24とR形状部25とを有する。
【0074】
円筒部24は、回転軸3の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり筒軸方向の一側(第二環状部22側、図6において左側)が第二環状部22の内周側に連続する部分である。すなわち、円筒部24は、第二環状部22の内周側の部分から第二環状部22の板面方向に対して略垂直方向に折り曲げ形成され、全体として円筒状の外形に沿う形状を有する部分である。
【0075】
R形状部25は、円筒部24の筒軸方向の他側(第一環状部21側、図6において右側)から第一環状部21の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分である。すなわち、R形状部25は、第一環状部21および第二環状部22に対して略垂直方向に折り曲げ形成される部分である接続部23について、第一環状部21と円筒部24との間の部分であり、ターボ軸方向に沿う断面視でR形状となる部分である。
【0076】
このように、円筒部24とR形状部25とを有する接続部23に、排気ガス通路8を流れる排気ガスをタービンホイール2に導くための孔部である排気ガス通路孔26が形成される。つまり、本実施形態の環状ベース20においては、接続部23が、排気ガスをターボ径方向内側に導くための排気ガス通路孔26を形成する部分である。
【0077】
排気ガス通路孔26の形状(孔形状)は、特に限定されるものではないが、本実施形態では、排気ガス通路孔26は、第一環状部21および第二環状部22の周方向(回転軸3の周方向、以下「ターボ周方向」という。)を長手方向とする長孔部として形成される。そして、本実施形態では、四個の排気ガス通路孔26が、ターボ周方向において等間隔に設けられる。
【0078】
環状ベース20においては、ターボ周方向における隣り合う排気ガス通路孔26の間の部分として、柱部27が形成される。柱部27は、ターボ軸方向について排気ガス通路孔26よりも第一環状部21側の部分と、排気ガス通路孔26よりも第二環状部22側の部分とを、ターボ周方向について部分的に接続する部分となる。ターボ周方向において等間隔に設けられる四個の排気ガス通路孔26を有する本実施形態の環状ベース20は、略同一形状の柱部27を四箇所に有する。
【0079】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、板状の部材に対する塑性加工により成形される環状ベース20について、一対の環状部として、第一環状部21と第二環状部22とが形成される。また、これら環状部(21・22)同士を接続する接続部23が、円筒部24とR形状部25とを有する部分として形成される。そして、接続部23に、排気ガス通路孔26が設けられる。
【0080】
以上のような各形状部分を有する環状ベース20を成形するための塑性加工は、好ましくは次のようにして行われる。すなわち、本実施形態では、環状ベース20を成形するための塑性加工は、少なくとも接続部23の部分に、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力と対抗するように、ターボ軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造である。
【0081】
環状ベース20に対しては、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮や、エンジンを構成する部品あるいはターボチャージャ1の周辺部品(支持ステー等)の熱変形や、エンジンの運転にともなう振動の入力等により、外力が作用する。このように環状ベース20に作用する外力については、ターボ軸方向の外力、つまりターボ軸方向に引っ張る方向の外力(以下「引張方向の外力」という。)、またはターボ軸方向に圧縮する方向の外力(以下「圧縮方向の外力」という。)が相対的に大きいということが、実験等によりわかっている。
【0082】
そこで、環状ベース20を成形するための塑性加工が冷間鍛造とされるとともに、その冷間鍛造において、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力に応じて(外力と対抗するように)残留応力が付与される。言い換えると、環状ベース20を成形するための冷間鍛造において、成形時にターボ軸方向の残留応力が加えられ、その残留応力の方向および大きさが、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力に対抗するように意図的にコントロールされる。
【0083】
したがって、環状ベース20に作用する外力として、引張方向の外力が圧縮方向の外力に対して比較的大きい場合は、冷間鍛造による残留応力として、ターボ軸方向の残留圧縮応力(以下単に「残留圧縮応力」という。)が付与される。逆に、環状ベース20に作用する外力として、圧縮方向の外力が引張方向の外力に対して比較的大きい場合は、冷間鍛造による残留応力として、ターボ軸方向の残留引張応力(以下単に「残留引張応力」という。)が付与される。
【0084】
環状ベース20に対して残留圧縮応力が付与される場合の一例を、図8を用いて説明する。前述したように、環状ベース20に残留圧縮応力が付与される場合は、環状ベース20に作用する外力について引張方向の外力が比較的大きい場合である。
【0085】
図8に示すように、環状ベース20に引張方向の外力が加わった場合(矢印B1参照)、接続部23において、ターボ径方向の内側の部分(領域B2参照)には、引張荷重が加わり、ターボ径方向の外側の部分(領域B3参照)には、圧縮荷重が加わることとなる。そこで、このような接続部23の各部に加わる荷重に対抗するように、環状ベース20の冷間鍛造において接続部23に対して残留圧縮応力が付与される。
【0086】
すなわち、この場合に接続部23に付与される残留圧縮応力は、環状ベース20において、引張方向の外力が加わることにより引張荷重が加わる部分(領域B2参照)には圧縮の応力が残り、同じく引張方向の外力が加わることにより圧縮荷重が加わる部分(領域B3参照)には引張の応力が残るような残留応力となる。つまり、環状ベース20に付与される残留圧縮応力は、環状ベース20をターボ軸方向に圧縮する方向の残留応力であり、環状ベース20に引張方向の外力が作用することで各部に作用する荷重(引張荷重または圧縮荷重)に対抗するような荷重が各部に残るような残留応力である。
【0087】
したがって、環状ベース20に作用する外力について圧縮方向の外力が比較的大きい場合、環状ベース20に対して付与される残留引張応力は、例えば次のように付与される。環状ベース20に圧縮方向の外力が加わった場合、接続部23において、ターボ径方向の内側の部分(領域B2参照)には、圧縮荷重が加わり、ターボ径方向の外側の部分(領域B3参照)には、引張荷重が加わることとなる。
【0088】
そこで、このような接続部23の各部に加わる荷重に対抗するように、環状ベース20の冷間鍛造において接続部23に対して残留引張応力が付与される。すなわち、環状ベース20において、圧縮方向の外力が加わることにより圧縮荷重が加わる部分(領域B2参照)には引張の応力が残り、同じく圧縮方向の外力が加わることにより引張荷重が加わる部分(領域B3参照)には圧縮の応力が残るような残留応力が、環状ベース20に対する残留引張応力として付与される。つまり、環状ベース20に付与される残留引張応力は、環状ベース20をターボ軸方向に引っ張る方向の残留応力であり、環状ベース20に圧縮方向の外力が作用することで各部に作用する荷重(引張荷重または圧縮荷重)に対抗するような荷重が各部に残るような残留応力である。
【0089】
なお、環状ベース20において冷間鍛造によって残留応力が付与される部分は、接続部23を含む部分であれば、特に限定されない。環状ベース20における残留応力は、環状ベース20がターボ軸方向の外力を受けることにより変形が生じやすい部分である接続部23の部分に重点的に付与されるが、例えば、第一環状部21や第二環状部22等、接続部23以外の部分に付与されてもよい。また、環状ベース20に付与される残留応力について、その付与される部分や方向や大きさ等は、冷間鍛造に用いられる型の形状や冷間鍛造における各部に対する絞り加工等の工程順等により調整される。
【0090】
以上のように、本実施形態に係る製造方法においては、環状ベース20を成形するための塑性加工として、少なくとも接続部23の部分に、環状ベース20に作用するターボ軸方向の外力と対抗するように、ターボ軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造が行われる。
【0091】
本実施形態のターボチャージャ1およびその製造方法によれば、タービンハウジング6について、熱変形による変形量の低減、疲労寿命の向上、およびコストの低減を図ることができるとともに、良好な面粗度が得られることから壁面を流れる排気ガスの損失を抑制することができる。
【0092】
すなわち、本実施形態のターボチャージャ1においては、タービンハウジング6を構成する環状ベース20が、ターボ軸方向に作用する外力と対抗するような残留応力が付与される冷間鍛造により成形される。このため、環状ベース20において、エンジンの運転にともなう冷熱サイクルによる熱膨張および熱収縮等により入力される外力の影響としての熱変形が相殺あるいは軽減される。これにより、環状ベース20の熱変形についての変形量が低減し、環状ベース20の疲労寿命が向上する。
【0093】
また、冷間鍛造のような塑性加工によれば、鋳造や溶接による加工等との比較において低コスト化を図ることが容易となる。加えて、冷間鍛造のような塑性加工は、SUS板金等の板状の部材からの成形であるため、鋳造等との比較において、環状ベース20の表面について良好な面粗度が得られる。これにより、環状ベース20の壁面(表面)を流れる排気ガスの損失の発生を抑制することができる。また、冷間鍛造のような塑性加工によれば、溶接による加工との比較において工程の簡略化が図れる。
【0094】
ところで、前述したように接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、ターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部であることが好ましい。具体的には、図9に示すように、接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、例えばパンチ30による打ち抜き加工により形成される。この場合、接続部23に対するターボ径方向の内側(図9において下側)から外側(同図上側)へのパンチ30の移動(矢印C1参照)により、排気ガス通路孔26が打ち抜かれて形成される。
【0095】
このように、排気ガス通路孔26がターボ径方向の内側から外側への打ち抜きによって形成されることにより、排気ガス通路孔26は、次のような形状を有することとなる。すなわち、図9に示すように、排気ガス通路孔26が打ち抜きにより形成される場合、排気ガス通路孔26を形成する面(以下「通路孔形成面」という。)26aは、パンチ30の形状に沿うシェア面26bと、シェア面26bに対して打ち抜き方向に徐々に広がる破断面26cとを有する。
【0096】
ここで、通路孔形成面26aに形成されるシェア面26bとは、パンチ30の刃が接触しながら打ち抜きによるせん断力で切断された面である。このため、シェア面26bは、打ち抜き方向(図9では上方向、以下同じ)に沿う形状を有する。シェア面26bは、通路孔形成面26aにおいて打ち抜き方向の手前側(図9において下側)に形成される。したがって、本実施形態では、シェア面26bは、通路孔形成面26aにおいてターボ径方向の内側の部分、つまり環状ベース20の内周側の部分に形成される(矢印範囲D1参照)。
【0097】
これに対し、通路孔形成面26aに形成される破断面26cとは、パンチ30による打ち抜きにおいて引張応力に基づく破断により切断された面である。このため、破断面26cは、打ち抜き方向に向けて広がる形状を有する。破断面26cは、通路孔形成面26aにおいて打ち抜き方向の奥側(図9において上側)に形成される。したがって、本実施形態では、破断面26cは、通路孔形成面26aにおいてターボ径方向の外側の部分、つまり環状ベース20の外周側の部分に形成される(矢印範囲D2参照)。
【0098】
このように、破断面26cは、シェア面26bの打ち抜き方向の奥側から連続する面であるとともに、排気ガス通路孔26をシェア面26bの部分から打ち抜き方向に向けて徐々に広げる。したがって、ターボ径方向の内側から外側への打ち抜きによって形成される排気ガス通路孔26については、外周側の部分が、破断面26cによって、図9に示すような断面視でターボ径方向の内側から外側にかけて広がる略テーパ形状となる。
【0099】
このように、排気ガス通路孔26の外周側の部分がターボ径方向の内側から外側にかけて広がる略テーパ形状を有することにより、排気ガス通路8から排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に導かれる排気ガスの導入がスムーズとなる。すなわち、排気ガス通路8からタービンホイール2に導かれる排気ガスは、排気ガス通路孔26に対して外周側(ターボ径方向の外側)から流れ込む(矢印C2参照)。このため、排気ガス通路孔26が、外周側が広い側である略テーパ形状を有することにより、排気ガス通路孔26を介する排気ガス通路8からタービンホイール2に対する排気ガスの導入がスムーズとなる。
【0100】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、排気ガス通路孔26が、ターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成されることが好ましい。これにより、排気ガス通路孔26の外周側の部分が略テーパ形状となるので、排気ガス通路孔26について、例えば外周側の部分に対する面取り加工等の追加加工を行うことなく、排気ガス通路8からタービンホイール2に対する排気ガスの導入をスムーズにすることができる。
【0101】
また、本実施形態の環状ベース20においては、前記のとおりターボ周方向を長手方向とする長孔部として接続部23に形成される排気ガス通路孔26は、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられている。本実施形態の環状ベース20においては、ターボ径方向に対向する二組の(計四個の)排気ガス通路孔26が設けられている。四個の排気ガス通路孔26は、前述したようにターボ周方向において等間隔に設けられる。
【0102】
具体的には、図7に示すように、四個の排気ガス通路孔26として、任意のターボ径方向(図7における上下方向)に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)と、かかる一対の排気ガス通路孔26の対向方向に対して垂直方向(図7における左右方向)に対向する一対の排気ガス通路孔26(26B)とが形成されている。言い換えると、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26は、ターボ周方向について180°対向する位置に形成される。
【0103】
また、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26は、ターボ径方向について互いに対称に形成される。すなわち、ターボ軸方向視に対応する図7において、上下方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)は、回転軸心C(図1参照)を通る左右方向の直線に対して線対称となる形状およびターボ周方向における位置に形成される。同様に、図7において、左右方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26B)は、回転軸心Cを通る上下方向の直線に対して線対称となる形状およびターボ周方向における位置に形成される。
【0104】
このように、排気ガス通路孔26が、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられることにより、対向する一対の排気ガス通路孔26を一工程で打ち抜くことが可能となる。つまり、ターボ周方向について180°対向する位置に設けられる二個の排気ガス通路孔26を同一の打ち抜き工程にて形成することが可能となる。これにより、排気ガス通路孔26の形成に際してのコストの低減が可能となる。
【0105】
対向する一対の排気ガス通路孔26を一工程で打ち抜くための構成としては、例えば次のような構成が用いられる。すなわち、図10に示すように、本例に係る構成においては、一対の排気ガス通路孔26を打ち抜く一対のパンチ31・31と、これら一対のパンチ31・31を移動させるためのスライダ32とが備えられる。
【0106】
一対のパンチ31・31は、環状ベース20に対して、ターボ径方向について内側から外側に向けて互いに連動して移動するように設けられる。一対のパンチ31・31は、図示せぬガイド機構等によって、排気ガス通路孔26を打ち抜く方向を含む所定の移動方向に移動可能に支持される。
【0107】
スライダ32は、例えば油圧シリンダやモータ等により構成される移動機構(図示略)により、一対のパンチ31・31が移動する方向に対して垂直方向(図10において上下方向)に移動可能に設けられる。スライダ32は、一対のパンチ31・31側へ向かう方向(図10では上方向)への移動により、一対のパンチ31・31を、排気ガス通路孔26を打ち抜く方向に連動して移動させる。
【0108】
スライダ32の移動は、各パンチ31とスライダ32との係合部によって、一対のパンチ31・31の移動に変換される。パンチ31とスライダ32との係合部は、各パンチ31に形成される係合面31aとスライダ32に形成される係合面32aとの合わせ面部である。パンチ31の係合面31aおよびスライダ32の係合面32aは、スライダ32の一対のパンチ31・31側へ向かう方向の移動を、一対のパンチ31・31のターボ径方向について内側から外側に向かう方向(打ち抜き方向)の移動として変換するような各部の移動方向に対する斜面として形成される。つまり、パンチ31の係合面31aおよびスライダ32の係合面32aは、スライダ32の移動にともなう一対のパンチ31・31の移動についての摺動面となる。
【0109】
本例に係る構成において、排気ガス通路孔26は、次のようにして形成される。図10(a)に示すように、一対のパンチ31・31が、排気ガス通路孔26が形成される前の環状ベース20に対して、環状ベース20の内部において、ターボ軸方向について排気ガス通路孔26に対応する所定の位置にセットされる。かかる状態から、スライダ32がパンチ31・31側へ向かう方向に移動することにより、スライダ32が一対のパンチ31・31に係合した状態、つまりスライダ32の係合面32aがパンチ31・31の係合面31aに接触した状態となる。
【0110】
そして、図10(b)に示すように、スライダ32が、一対のパンチ31・31に係合した状態から、さらにパンチ31・31に係合する方向(図10において上方向)に移動することにより(矢印E1参照)、一対のパンチ31・31がターボ径方向の外側に向けて移動する(矢印E2参照)。つまり、スライダ32の矢印E1の方向の移動にともない、スライダ32の係合面32aに対して係合面31aを摺動させながら、一対のパンチ31・31がターボ径方向の外側方向(矢印E2の方向)に移動する。かかる一対のパンチ31・31の移動により、環状ベース20の接続部23におけるターボ周方向について180°対向する位置に、排気ガス通路孔26が形成される。
【0111】
このように、本実施形態に係る製造方法においては、排気ガス通路孔26が、ターボ周方向について、ターボ径方向に対向する位置に同一工程にて形成される。すなわち、本実施形態の環状ベース20においては、例えば図7に示すようなターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26(26A)は、前述したような一対のパンチ31・31およびスライダ32の移動による一工程により形成される。
【0112】
したがって、本実施形態の環状ベース20のように、ターボ径方向に対向する二組の(四個の)排気ガス通路孔26が形成される場合においては、二工程により、四個の排気ガス通路孔26が形成されることとなる。つまり、本例に係る構成によれば、ターボ径方向に対向する一対の排気ガス通路孔26が形成された後、一対のパンチ31・31およびスライダ32を備える構成がターボ軸方向を回転軸方向として180°回転した状態で、他の一対の排気ガス通路孔26が形成される。
【0113】
なお、環状ベース20において設けられる排気ガス通路孔26の個数は、特に限定されるものではない。すなわち、排気ガス通路孔26は、ターボ径方向に対向する位置に複数設けられればよい。したがって、排気ガス通路孔26は、ターボ径方向に対向するように一組(二個)設けられたり三組(六個)以上設けられたりしてもよい。
【0114】
また、本実施形態の環状ベース20においては、前述したように排気ガス通路孔26が設けられる接続部23が円筒部24とR形状部25とを有する構成において、円筒部24に、排気ガス通路孔26が設けられている。すなわち、全体として円筒状の外形に沿う形状を有する部分である円筒部24において、ターボ周方向を長手方向とする長孔部である四個の排気ガス通路孔26が形成されている。
【0115】
具体的には、例えば図6等に示すような環状ベース20の回転軸心Cを通るターボ軸方向の直線を含む断面視で平面状の部分となる円筒部24に対して、前述したような打ち抜きが行われること等により、排気ガス通路孔26が形成される。言い換えると、円筒部24に設けられる排気ガス通路孔26は、円筒部24とともに接続部23を構成するR形状部25にかかることなく(R形状部25を残した状態で)形成される。
【0116】
このように、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路8を旋回しながら排気ガス通路孔26を介してタービンホイール2に導かれる排気ガスについて整流化が図れるとともに、ターボチャージャ1としての性能の確保および環状ベース20の変形の抑制が可能となる。
【0117】
すなわち、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路孔26がターボ径方向に開口する孔部となり、接続部23を構成するR形状部25がターボ周方向について全周にわたって存在することとなる。これにより、排気ガス通路孔26から環状ベース20の内側に流入した排気ガスが沿う環状ベース20の壁面として、滑らかな曲面形状であるR形状部25の内周面がターボ周方向の全周にわたって存在するので、排気ガス通路孔26からVN機構部11に導かれる排気ガスについての整流化が図られる。
【0118】
つまり、R形状部25を含む部分に排気ガス通路孔26が形成された場合、排気ガス通路8を旋回しながら排気ガス通路孔26を介して流入する排気ガスについて流れを妨げる壁面が環状ベース20において形成され、排気ガスのスムーズな流れが妨げられることが考えられる。この点、R形状部25がターボ周方向について全周にわたって存在することにより、前述したように排気ガスの整流化が図られる。
【0119】
また、排気ガス通路孔26が接続部23の円筒部24に設けられることにより、排気ガス通路孔26によってVN機構部11のスロート面積(流体通過面積)が確保される。これにより、排気ガスの通路面積確保の観点から、ターボチャージャ1の性能を確保することができる。加えて、ターボ周方向について全周にわたって存在するR形状部25により、環状ベース20についてターボ軸方向の外力等に対して高い剛性を確保することができ、環状ベース20の変形が抑制される。
【0120】
また、本実施形態の環状ベース20においては、熱容量低減の観点から、第一環状部21が、環状ベース20の軽量化を図るための孔部である軽量孔28を有する。軽量孔28は、板面がターボ軸方向に対して垂直となるように形成される平板状の部分である第一環状部21をターボ軸方向に貫通する孔部である。なお、第一環状部21に形成される軽量孔28は、環状ベース20のシェル7に対する位置決めの際等にも用いられる。
【0121】
図5や図7等に示すように、軽量孔28は、ターボ周方向を長手方向とし第一環状部21の円弧形状に沿って湾曲した長孔形状を有する。軽量孔28は、軽量孔28と同様にターボ周方向を長手方向とする長孔部として形成される排気ガス通路孔26との対比において、ターボ周方向の長さが短く形成される。本実施形態では、四個の軽量孔28が、ターボ周方向において等間隔に設けられている。
【0122】
そして、第一環状部21に設けられる軽量孔28は、ターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられている。すなわち、図7に示すように、排気ガス通路孔26と同様に四個設けられ、排気ガス通路孔26よりもターボ周方向の長さが短い軽量孔28が、各排気ガス通路孔26に対して、ターボ周方向について略中央位置に設けられている。
【0123】
言い換えると、軽量孔28は、ターボ周方向について、隣り合う柱部27間の略中央位置に設けられている。したがって、軽量孔28は、ターボ周方向について、柱部27と互い違いに(交互に)設けられる。
【0124】
このように、本実施形態の製造方法においては、第一環状部21におけるターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に、軽量孔28が設けられている。これにより、環状ベース20の軽量化が図られるとともに、第一環状部21および接続部23を含む部分について軽量孔28が設けられることによる剛性の低下が防止され、環状ベース20の変形を抑制することができる。
【0125】
すなわち、軽量孔28が、ターボ周方向について柱部27近傍の位置に形成された場合、柱部27の第一環状部21側の接続部分の強度の確保が困難となる。柱部27の接続部分は、環状ベース20が受ける外力による影響が大きい部分である。このため、軽量孔28がターボ周方向について柱部27近傍の位置に形成されると、第一環状部21および接続部23を含む部分についてターボ軸方向の外力等に対する剛性が不足することが考えられる。この点、軽量孔28がターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられることにより、環状ベース20の軽量化と第一環状部21および接続部23を含む部分についての剛性の確保との両立が可能となる。
【0126】
また、第一環状部21において、ターボ周方向について排気ガス通路孔26が形成される部位は、その排気ガス通路孔26の形成にともなって平面度が低下する部位となる。具体的には、排気ガス通路孔26は、例えば前述したようにターボ径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される。このため、第一環状部21における排気ガス通路孔26に対応する部位については、排気ガス通路孔26の打ち抜き時に材料が引っ張られること等により、平面度が低下する。第一環状部21における平面度の低下の度合いは、ターボ周方向について排気ガス通路孔26の中央部において比較的大きくなる。
【0127】
平板状の部分である第一環状部21の部分は、環状ベース20に対する他の部材の溶接の際等における位置決めに用いられる場合がある。このため、第一環状部21の部分については、所定の平面度が確保されることが望ましい。つまり、第一環状部21の部分については、その平面度が低い場合、所定の平面度を得るための追加加工が必要となるときがある。
【0128】
そこで、軽量孔28が第一環状部21におけるターボ周方向について排気ガス通路孔26の略中央に対応する位置に設けられることにより、第一環状部21において平面度の低下の度合いが比較的大きい部位が取り除かれる。これにより、排気ガス通路孔26の形成にともなう第一環状部21の平面度の低下を抑制することができ、環状ベース20の面精度の向上を図ることが可能となる。
【0129】
また、本実施形態のターボチャージャ1においては、前述したようにタービンハウジング6における排気ガスの出口に出口フランジ10が設けられている。このように排気ガスの出口に設けられる出口フランジ10は、ターボチャージャ1を構成するタービンハウジング6をターボチャージャ1が搭載されるエンジンの本体側に対して支持する部材(ステー)として用いられる。あるいは、出口フランジ10に、ステーが取り付けられる。出口フランジ10によるエンジン本体側に対するタービンハウジング6の支持は、エンジンの運転時の振動にともなうターボチャージャ1の振動を防止することを目的として行われる。
【0130】
すなわち、本実施形態では、出口フランジ10は、タービンハウジング6をエンジンの本体側に対して支持するための支持部材として機能する。したがって、ターボチャージャ1は、出口フランジ10によってタービンハウジング6を介してエンジンの本体側に対して支持される。出口フランジ10は、タービンホイール2に導かれた排気ガスの出口側の端部、つまり本実施形態では排気ガスの出口となる環状ベース20のスリーブ部20bの先端開口部の周縁に設けられる。
【0131】
このようにタービンハウジング6において設けられる出口フランジ10は、図1に示すように、締結支持部40を有する。締結支持部40は、出口フランジ10においてターボ径方向外側に延出されるとともにエンジンの本体側に締結される部分である。つまり、本実施形態の出口フランジ10は、締結支持部40を有することにより、タービンハウジング6をエンジンの本体側に対して支持するための支持部材として機能する。
【0132】
締結支持部40は、出口フランジ10において排気管の接続用のボルト孔10aが設けられる部分と連続する部分であり、ボルト孔10aを形成する部分よりもターボ径方向外側に突出するように延設される。本実施形態の出口フランジ10においては、締結支持部40は、ターボ径方向である所定の方向(図1における下方向)に延設されている。
【0133】
締結支持部40は、締結孔41を有する。締結孔41は、締結支持部40の突出方向の先端部に設けられる。つまり、出口フランジ10は、締結支持部40に設けられる締結孔41が用いられることで、例えばエンジンを構成するシリンダブロック等の、エンジンの本体側における所定の部位に対して他の部材を介する等してボルト等の締結具によって固定される。これにより、出口フランジ10は、溶接等によって環状ベース20のスリーブ部20bに固定された状態で、その一端部側(締結支持部40側)が、エンジンの本体側に固定される。このように、タービンハウジング6は、エンジンの本体側に対して、出口フランジ10により支持される。
【0134】
このように締結支持部40を有する出口フランジ10は、回転軸3の軸心周り(回転軸心C周り)の位相について、締結支持部40の位相が所定の位相となるように設けられる。ここで、位相とは、回転軸心C周りにおける位置(ターボ周方向における位置)である。そして、締結支持部40の位相についての所定の位相は、ターボ周方向に隣り合う排気ガス通路孔26の間の部分である柱部27に対して、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相である。つまり、出口フランジ10においてターボ径方向に延出される部分である締結支持部40の突出方向の位相が、隣り合う柱部27の間における中間の位相となるように、出口フランジ10が設けられる。
【0135】
具体的には、図11に示すように、回転軸心Cに対して、締結支持部40の位相(直線F1参照)が、隣り合う柱部27(27A)の位相(直線F2参照)の中間の位相となるように、出口フランジ10が設けられる。ここで、本実施形態では、締結支持部40の位相は、締結支持部40の先端部に設けられる締結孔41(の中心位置)の位相に対応し、柱部27の位相は、ターボ周方向における柱部27の中央の位置の位相に対応する。
【0136】
したがって、例えば、ターボ周方向について締結支持部40を挟む二つの柱部27(27A)の位相差(位相の間隔)が略90°である場合、締結支持部40の位相を示す直線F1は、二つの柱部27(27A)それぞれの位相を示す二本の直線F2に対する位相差が略45°となる。つまり、締結支持部40を挟む柱部27(27A)それぞれの位相を示す二本の直線F2がなす角度(締結支持部40を挟む側の角度)が略90°である場合、出口フランジ10は、締結支持部40の位相を示す直線F1が両方の直線F2に対して略45°の角度をなすように設けられる。
【0137】
このように、本実施形態の製造方法においては、出口フランジ10が、回転軸心C周りの位相について、締結支持部40の位相が、柱部27に対して、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相となるように設けられる。これにより、締結支持部40を介して出口フランジ10から環状ベース20に入力される外力を複数の柱部27(主に締結支持部40を挟む二つの柱部27(27A))によって分散して受け持つことが可能となるので、柱部27の断面積の増加をともなうことなく、環状ベース20の耐久性を向上させることが可能となる。
【0138】
すなわち、例えば、出口フランジ10が、締結支持部40の位相が環状ベース20の柱部27の位相と略同じ位相となるように設けられた場合、締結支持部40を介して出口フランジ10から環状ベース20に入力される外力による負担(応力)が、締結支持部40と位相が略同じ柱部27に集中する。このように一つの柱部27に応力が集中することは、環状ベース20について外力に対する十分な耐久性が得られない原因となる。
【0139】
一方で、環状ベース20について外力に対する耐久性を向上させるための手法としては、柱部27の断面積を増加させることが考えられる。しかし、柱部27の断面積の増加は、環状ベース20の板厚の増加や、排気ガス通路孔26が狭くなることによる排気ガスの通路面積の制約につながる。環状ベース20の板厚の増加は、環状ベース20の質量の増加を招くため、熱容量を低減させる観点から好ましくない。また、排気ガスの通路面積の制約は、ターボチャージャ1の性能の低下につながる。
【0140】
そこで、締結支持部40の位相が二つの柱部27の中間の位相となるように出口フランジ10が設けられることで、環状ベース20の熱容量低減の効果の低下等を招く柱部27の断面積の増加をともなうことなく、環状ベース20の耐久性を向上させることが可能となる。
【0141】
なお、出口フランジ10が有する締結支持部40の形状や配設位置等は、本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態では、締結支持部40は、出口フランジ10において一箇所に設けられているが、複数箇所に設けられてもよい。また、本実施形態では、出口フランジ10が、締結支持部40を有する支持部材として用いられているが、これに限定されるものではない。つまり、締結支持部40を有する支持部材としては、出口フランジ10とは別の部材が用いられてもよい。また、締結支持部40の位相について、ターボ周方向に隣り合う柱部27の中間の位相とは、ターボ周方向に隣り合う二つの柱部27の間の任意の位相であり、好ましくは二つの柱部27の間における中央部の位相である。
【0142】
ところで、本実施形態のターボチャージャ1が備える環状ベース20として成形される板状の部材としては、前述したようにSUS板金等の耐熱材料が用いられる。かかる耐熱材料としては、一般に圧延鋼板が用いられる。
【0143】
具体的には、例えば図12(a)に示すように、環状ベース20として成形される板状の部材は、帯状の圧延鋼板50から得られる。すなわち、圧延鋼板50から、冷間鍛造等の塑性加工の対象となる板材として、円形状のブランク51が切り出される。帯状の圧延鋼板50においては、その長手方向(帯の長さ方向、矢印G1参照)が圧延方向に対応する。
【0144】
このように、環状ベース20を構成する板状の部材である圧延鋼板50については、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であることが好ましい。ここで、Δr値とは、具体的には次のような値である。
【0145】
圧延鋼板50においては、その圧延方向(図12(a)矢印G1参照)と、圧延方向に対する垂直方向(帯の幅方向)とでは、r値(ランクフォード値とも称される。)が異なる。すなわち、図12(b)に示すように、圧延鋼板50の板面に沿う方向について、圧延方向に対応する方向をX方向、圧延方向に対応する方向に対する垂直方向をY方向とすると、圧延鋼板50については、X方向とY方向とでr値が異なる。ここで、r値とは、板材に対して例えば引張試験のような単軸引張が与えられることによる板幅方向の歪と板厚方向の歪との比として表される値である。
【0146】
そして、圧延鋼板50についてのΔr値とは、前記のとおり値が異なるX方向のr値およびY方向のr値の差を示す値である。したがって、圧延鋼板50についてのΔr値は、例えば次のようにして求められる。
【0147】
すなわち、圧延鋼板50について、X方向およびY方向それぞれを長手方向とする短冊状(長方形状)の試験片が切り出される。切り出された各試験片(X方向を長手方向とする試験片およびY方向を長手方向とする試験片)のそれぞれについて、試験片の長手方向を引張方向とする引張試験が行われ、各試験片についてのr値が求められる。これにより、圧延鋼板50について、X方向のr値およびY方向のr値が求められる。そして、これらX方向のr値およびY方向のr値に基づいて、圧延鋼板50についてのΔr値が求められる。
【0148】
このようにして求められる圧延鋼板50についてのΔr値は、その値が小さいほど、材料の成形性が圧延方向(X方向)の影響を受けにくい材料であることを示す。つまり、Δr値が小さいほど、その材料による成形品の形状精度(例えば真円度)が向上する。
【0149】
したがって、図12(b)に示すように、Δr値が大きいと、ブランク51は、冷間鍛造等の塑性加工を受けることにより、例えば図中において破線で示すように、真円形状に対して歪み、四角形に近いような形状となる。これに対し、Δr値が小さいと、ブランク51が塑性加工を受けることによっても、図中において実線で示すように、ブランク51について真円形状に近い形状が保持される。環状ベース20として成形されるブランク51については、真円形状に近い形状が保持されることが好ましい。つまり、圧延鋼板50についてのΔr値は、小さいほど好ましい。なお、図12(b)においては、矢印G2で示す方向が圧延鋼板50の圧延方向に対応する。
【0150】
一方で、Δr値が大きい材料が用いられる場合、成形品(完成品)の形状精度を確保するため、ブランク51について成形時の板厚を余分に確保する必要がある。すなわち、Δr値が大きくなると、前記のとおりブランク51の形状が歪む。このため、ブランク51が成形されることで得られる環状ベース20についての所望の形状(例えば真円形状等)を得るためには、歪んだ形状を含む成形品に対して例えば切削等の追加加工が施されることが必要となる。したがって、追加加工用の加工代を残す必要性から、ブランク51について成形時の板厚を余分に確保する必要が生じる。このようにブランク51の板厚を増加させることは、成形性の低下を招く。
【0151】
そこで、環状ベース20を構成する板状の部材である圧延鋼板50として、Δr値(絶対値)が0.25以下である材料が用いられる。これにより、冷間鍛造等の塑性加工による環状ベース20の成形において、材料の変形についての圧延鋼板50の圧延方向の影響が低減され、成形品について良好な形状精度(例えば真円度等)が得られる。加えて、成形品(完成品)の形状精度を確保するためにブランク51について成形時の板厚を余分に確保することが不要となり、良好な成形性が得られる。
【0152】
Δr値は、圧延鋼板50として用いられる材料の種類によってある程度一定の値となる。実験例として、次のような結果が得られた。圧延鋼板50としてSUS430が用いられた場合、成形品についての歪みが比較的大きく、十分な形状精度を得ることができなかった。SUS430についてのΔr値は、約0.27である。これに対し、圧延鋼板50としてSUS425が用いられた場合、成形品についての歪みが比較的小さく真円に近い形状となり、良好な形状精度を得ることができた。SUS425についてのΔr値は、0.1台の値である。
【0153】
以上のように、本実施形態に係る製造方法においては、環状ベース20を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料が用いられることが好ましい。これにより、成形品としての環状ベース20について形状精度および成形性の向上が図られる。
【符号の説明】
【0154】
1 ターボチャージャ
2 タービンホイール
3 回転軸
6 タービンハウジング
7 シェル(ハウジング本体)
8 排気ガス通路
10 出口フランジ
11 VN機構部
20 環状ベース(補強部材)
21 第一環状部(環状部)
22 第二環状部(環状部)
23 接続部
24 円筒部
25 R形状部
26 排気ガス通路孔
27 柱部
28 軽量孔
40 締結支持部
50 圧延鋼板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャであって、
前記タービンハウジングは、
板状の部材により構成されるハウジング本体と、
該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備え、
前記補強部材は、
略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、
該一対の環状部同士を接続する接続部と、を有し、
前記一対の環状部および前記接続部が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である、
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記塑性加工は、
少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造である、
ことを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記接続部は、
前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、
前記排気ガス通路孔は、
前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
前記排気ガス通路孔は、
前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に複数設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記一対の環状部は、
前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部であり、
前記接続部は、
前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、
前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部と、を有し、
前記円筒部に、前記排気ガス通路孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記第一環状部は、
前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を有し、
前記軽量孔は、
前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項7】
前記タービンハウジングは、
エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、
前記支持部材は、
前記回転軸の軸心周りの位相について、
前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けられる、
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項8】
前記補強部材を構成する板状の部材について、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項9】
エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャの製造方法であって、
前記タービンハウジングは、
板状の部材により構成されるハウジング本体と、
該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備えるものであり、
前記補強部材を、板状の部材に対する塑性加工により、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部とを有する部品として一体成形することを特徴とするターボチャージャの製造方法。
【請求項10】
前記塑性加工として、
少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造を行うことを特徴とする請求項9に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項11】
前記接続部は、
前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、
前記排気ガス通路孔を、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成することを特徴とする請求項9または請求項10に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項12】
前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、
該排気ガス通路孔を、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に同一工程にて形成することを特徴とする請求項11に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項13】
前記一対の環状部として、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部とを形成し、
前記接続部を、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部とを有する部分として形成し、
前記円筒部に、前記排気ガス通路孔を設けることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項14】
前記第一環状部における前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を設けることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項15】
前記タービンハウジングは、
エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、
前記支持部材を、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けることを特徴とする請求項11〜14のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項16】
前記補強部材を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料を用いることを特徴とする請求項9〜15のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項1】
エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャであって、
前記タービンハウジングは、
板状の部材により構成されるハウジング本体と、
該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備え、
前記補強部材は、
略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、
該一対の環状部同士を接続する接続部と、を有し、
前記一対の環状部および前記接続部が、板状の部材に対する塑性加工により一体成形された部品である、
ことを特徴とするターボチャージャ。
【請求項2】
前記塑性加工は、
少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造である、
ことを特徴とする請求項1に記載のターボチャージャ。
【請求項3】
前記接続部は、
前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、
前記排気ガス通路孔は、
前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成される孔部である、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のターボチャージャ。
【請求項4】
前記排気ガス通路孔は、
前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に複数設けられている、
ことを特徴とする請求項3に記載のターボチャージャ。
【請求項5】
前記一対の環状部は、
前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部であり、
前記接続部は、
前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、
前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部と、を有し、
前記円筒部に、前記排気ガス通路孔が設けられている、
ことを特徴とする請求項3または請求項4に記載のターボチャージャ。
【請求項6】
前記第一環状部は、
前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を有し、
前記軽量孔は、
前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に設けられている、
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項7】
前記タービンハウジングは、
エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、
前記支持部材は、
前記回転軸の軸心周りの位相について、
前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けられる、
ことを特徴とする請求項3〜6のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項8】
前記補強部材を構成する板状の部材について、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載のターボチャージャ。
【請求項9】
エンジンからの排気ガスを動力源とするため所定の回転軸により回転可能に支持されるタービンホイールに対して前記排気ガスを導くための排気ガス通路を形成するタービンハウジングを有するターボチャージャの製造方法であって、
前記タービンハウジングは、
板状の部材により構成されるハウジング本体と、
該ハウジング本体とともに前記排気ガス通路を形成し前記ハウジング本体を補強する補強部材と、を備えるものであり、
前記補強部材を、板状の部材に対する塑性加工により、略円環形状を有し前記回転軸の軸方向に間隔を隔てた状態で前記回転軸の軸心周りに設けられる一対の環状部と、該一対の環状部同士を接続する接続部とを有する部品として一体成形することを特徴とするターボチャージャの製造方法。
【請求項10】
前記塑性加工として、
少なくとも前記接続部の部分に、前記補強部材に作用する前記回転軸の軸方向の外力と対抗するように、前記回転軸の軸方向の残留圧縮応力または残留引張応力を付与する冷間鍛造を行うことを特徴とする請求項9に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項11】
前記接続部は、
前記排気ガスを前記回転軸の径方向内側に導くための排気ガス通路孔を形成する部分であり、
前記排気ガス通路孔を、前記回転軸の径方向について内側から外側への打ち抜きにより形成することを特徴とする請求項9または請求項10に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項12】
前記排気ガス通路孔は、前記環状部の周方向を長手方向とする長孔部であり、
該排気ガス通路孔を、前記環状部の周方向について、前記回転軸の径方向に対向する位置に同一工程にて形成することを特徴とする請求項11に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項13】
前記一対の環状部として、前記回転軸の軸方向のうち前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側に位置する前記環状部である第一環状部と、該第一環状部よりも前記回転軸の径方向外側かつ前記回転軸の軸方向のうち前記出口側と反対側に位置する前記環状部である第二環状部とを形成し、
前記接続部を、前記回転軸の軸心方向を筒軸方向とする円筒状の部分であり前記筒軸方向の一側が前記第二環状部の内周側に連続する円筒部と、前記円筒部の前記筒軸方向の他側から前記第一環状部の外周側にかけて連続する折曲げ形状部分であるR形状部とを有する部分として形成し、
前記円筒部に、前記排気ガス通路孔を設けることを特徴とする請求項11または請求項12に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項14】
前記第一環状部における前記環状部の周方向について前記排気ガス通路孔の略中央に対応する位置に、前記補強部材の軽量化を図るための孔部である軽量孔を設けることを特徴とする請求項11〜13のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項15】
前記タービンハウジングは、
エンジンの本体側に対して、前記タービンホイールに導かれた前記排気ガスの出口側の端部に設けられ前記回転軸の径方向外側に延出されるとともに前記本体側に締結される部分である締結支持部を有する支持部材により支持されるものであり、
前記支持部材を、前記回転軸の軸心周りの位相について、前記締結支持部の位相が、前記環状部の周方向に隣り合う前記排気ガス通路孔の間の部分である柱部に対して、前記環状部の周方向に隣り合う前記柱部の中間の位相となるように設けることを特徴とする請求項11〜14のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【請求項16】
前記補強部材を構成する板状の部材として、塑性異方性を示すΔr値の絶対値が0.25以下の材料を用いることを特徴とする請求項9〜15のいずれか一項に記載のターボチャージャの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2010−163966(P2010−163966A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−6985(P2009−6985)
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(000100805)アイシン高丘株式会社 (202)
【Fターム(参考)】
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