説明

ターボチャージャの潤滑装置

【課題】簡便な構成により、2ステージターボシステムに対して潤滑油供給を適切に行う。
【解決手段】ターボチャージャの潤滑装置は、2ステージターボシステムに対して適用される。潤滑油路は、第1のターボチャージャに対して潤滑油を供給する第1の分岐通路、及び第2のターボチャージャに対して潤滑油を供給する第2の分岐通路を有する。潤滑油量調整弁は、潤滑油路の分岐箇所に設けられ、第1の分岐通路へ供給する潤滑油量と第2の分岐通路へ供給する潤滑油量とを調整する。具体的には、潤滑油量調整弁は、第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧とを利用して動作する。これにより、簡便な構成で、潤滑油の油圧を必要としているターボチャージャへの油圧を適切に確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボチャージャに対して潤滑油による潤滑を行う技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術が、例えば特許文献1乃至3に提案されている。特許文献1には、エンジン回転数に応じて、ターボチャージャに供給する潤滑油の油圧(油量)を制御する技術が提案されている。特許文献2には、エンジンオイルをターボチャージャに潤滑油として供給すること、及びエンジン回転数に応じて供給油量を制御することが提案されている。特許文献3には、2つのターボチャージャを有するターボエンジンにおいて、セカンダリターボチャージャの不作動時に潤滑油の供給を遮断する技術が提案されている。その他にも、本発明に関連する技術が特許文献4に提案されている。
【0003】
【特許文献1】特開2002−332864号公報
【特許文献2】特開平2−173323号公報
【特許文献3】特開平6−10688号公報
【特許文献4】実開平4−30230号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、2つのターボチャージャを用いて過給を行うシステム(以下では、「2ステージターボシステム」)においては、それぞれのターボチャージャによる過給圧が同じ運転状態であっても異なる傾向にあるため、ターボチャージャの駆動状態に応じた潤滑油供給制御を適切に行うことが困難であった。具体的には、それぞれのターボチャージャにおける過給圧(言い換えると回転数)に応じて必要な潤滑油量が変わるが、このような必要な潤滑油量を適切に供給することが困難であった。なお、上記した特許文献1乃至4に記載された技術では、2ステージターボシステムについて、潤滑油供給を簡便且つ適切に行うことが困難であった。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、簡便な構成により、2ステージターボシステムに対して潤滑油供給を適切に行うことが可能なターボチャージャの潤滑装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの観点では、第1のターボチャージャと第2のターボチャージャとに対して潤滑油を供給することで潤滑を行うターボチャージャの潤滑装置は、内燃機関からの潤滑油が通過する通路であって、前記第1のターボチャージャに対して前記潤滑油を供給する第1の分岐通路と、前記第2のターボチャージャに対して前記潤滑油を供給する第2の分岐通路とに分岐する潤滑油路と、前記潤滑油路上における前記第1の分岐通路と前記第2の分岐通路との分岐箇所に設けられ、前記第1の分岐通路へ供給する潤滑油量と、前記第2の分岐通路へ供給する潤滑油量とを調整可能な潤滑油量調整弁と、を備え、前記潤滑油量調整弁は、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧とを利用して動作する。
【0007】
上記のターボチャージャの潤滑装置は、第1のターボチャージャ及び第2のターボチャージャを有するシステム(2ステージターボシステム)に対して潤滑を行うために好適に利用される。具体的には、潤滑油路は、第1のターボチャージャに対して潤滑油を供給する第1の分岐通路、及び第2のターボチャージャに対して潤滑油を供給する第2の分岐通路を有する。潤滑油量調整弁は、第1の分岐通路と第2の分岐通路との分岐箇所に設けられ、第1の分岐通路へ供給する潤滑油量と第2の分岐通路へ供給する潤滑油量とを調整する。具体的には、潤滑油量調整弁は、第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧とを利用して動作する。これにより、潤滑油の油圧を必要としているターボチャージャへの油圧を適切に確保することができる。また、上記のターボチャージャの潤滑装置では、吸気圧を利用して潤滑油量調整弁を動作させているので、電気的な駆動力を必要としないため、簡便な構成にすることができる。
【0008】
上記のターボチャージャの潤滑装置の一態様では、前記潤滑油量調整弁は、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧が前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧よりも高い場合には、前記第1の分岐通路へ供給される潤滑油量が前記第2の分岐通路へ供給される潤滑油量よりも多くなるように動作し、前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧が前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧よりも高い場合には、前記第2の分岐通路へ供給される潤滑油量が前記第1の分岐通路へ供給される潤滑油量よりも多くなるように動作する。これにより、潤滑油量を必要としているターボチャージャに対して、必要な潤滑油量を適切に供給することが可能となる。
【0009】
上記のターボチャージャの潤滑装置において好適には、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧との差圧に応じて動作する動作弁を更に備え、前記潤滑油量調整弁は、前記動作弁の動作に従って動作する。
【0010】
また、上記のターボチャージャの潤滑装置において好適には、前記動作弁及び前記潤滑油量調整弁のサイズは、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧との差圧と、前記潤滑油路における前記潤滑油の油圧との関係に基づいて設定される。これにより、吸気圧の差圧と油圧とが同程度であるような場合や、吸気圧の差圧が油圧よりも小さい場合などにおいても、適切に、動作弁を動作させて潤滑油量調整弁を動作させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0012】
[全体構成]
図1は、本実施形態に係るターボチャージャの潤滑装置が適用された2ステージターボシステム50の概略構成図を示す。図1では、太実線はガス(吸気、排気)が通過する通路を示しており、破線は潤滑油が通過する通路を示している。また、実線矢印はガスの流れを示しており、破線矢印は潤滑油の流れを示している。
【0013】
2ステージターボシステム50は、主に、吸気通路2と、高圧ターボチャージャ3と、低圧ターボチャージャ4と、バイパス通路5と、バイパス弁6と、排気通路9と、潤滑油量調整部10と、潤滑油路11と、過給圧供給通路12a、12bと、を備える。
【0014】
吸気通路2には、上流側から順に、吸気量を調整するスロットルバルブ(不図示)、吸気を過給する低圧ターボチャージャ4のコンプレッサ4a、吸気を過給する高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aが設けられており、吸気通路2はエンジンのインテークマニホールド(不図示)に接続されている。また、吸気通路2には、高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aをバイパスさせて吸気を流すことが可能に構成されたバイパス通路5が設けられている。具体的には、バイパス通路5は、高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aの上流側と、コンプレッサ3aの下流側とを連結している。また、バイパス通路5には、バイパス通路5を流れる吸気の流量を調整可能なバイパス弁6が設けられている。
【0015】
高圧ターボチャージャ3は、低中速域で過給能力の大きい、小容量の低速型のターボチャージャとして構成されている。具体的には、高圧ターボチャージャ3は、吸気通路2にコンプレッサ3aが配置され、排気通路9にタービン3bが配置されている。この場合、高圧ターボチャージャ3のタービン3bには、エンジンのエキゾーストマニホールド(不図示)からの排気ガスが供給される。低圧ターボチャージャ4は、中高速域で過給能力の大きい、大容量の高速型のターボチャージャとして構成されている。低圧ターボチャージャ4は、高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aの上流側の吸気通路2にコンプレッサ4aが配置され、高圧ターボチャージャ3のタービン3bの下流側の排気通路9にコンプレッサ4bが配置されている。なお、高圧ターボチャージャ3は本発明における第1のターボチャージャに相当し、低圧ターボチャージャ4は本発明における第2のターボチャージャに相当する。
【0016】
このように、2ステージターボシステム50は、高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とを直列に配置することで、多段過給方式(2段過給方式)にて過給を行っている。基本的には、2ステージターボシステム50においては、エンジン回転数が低〜中回転の領域にある場合(低中速域)には高圧ターボチャージャ3が仕事を行い、エンジン回転数が中〜高回転の領域にある場合(中高速域)には低圧ターボチャージャ4が仕事を行う。例えば、エンジン回転数が1800rpm程度で、高圧ターボチャージャ3から低圧ターボチャージャ4へ切り替わる。
【0017】
排気通路9には、上流側から順に、高圧ターボチャージャ3のタービン3b、低圧ターボチャージャ4のタービン4b、排気ガスを浄化可能に構成された排気浄化触媒(不図示)が設けられている。
【0018】
潤滑油量調整部10は、高圧ターボチャージャ3に対して供給する潤滑油量と、低圧ターボチャージャ4に対して供給する潤滑油量とを調整可能に構成されている。具体的には、潤滑油量調整部10は、潤滑油路11上に設けられており、過給圧供給通路12a、12bが接続されている。潤滑油路11は、エンジンからの潤滑油が通過する通路であり、オイルポンプから吐出された潤滑油が供給される。また、潤滑油路11は、分岐通路11a及び分岐通路11bを備えて構成されている。具体的には、潤滑油路11は、潤滑油量調整部10が設けられた箇所で分岐通路11aと分岐通路11bとに分岐している(言い換えると、分岐箇所に潤滑油量調整部10が設けられている)。分岐通路11aは高圧ターボチャージャ3に潤滑油を供給する通路であり、分岐通路11bは低圧ターボチャージャ4に潤滑油を供給する通路である。なお、分岐通路11aは本発明における第1の分岐通路に相当し、分岐通路11bは本発明における第2の分岐通路に相当する。
【0019】
過給圧供給通路12a、12bは、耐圧ホースなどで構成されており、過給圧を潤滑油量調整部10に対して供給する通路である。具体的には、過給圧供給通路12aは、高圧ターボチャージャ3の下流側の吸気通路2に接続されており、高圧ターボチャージャ3によって過給された後の吸気の一部が通過する。また、過給圧供給通路12bは、低圧ターボチャージャ4の下流側の吸気通路2に接続されており、低圧ターボチャージャ4によって過給された後の吸気の一部が通過する。つまり、潤滑油量調整部10には、過給圧供給通路12aを介して、高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aの下流側における吸気圧(以下、「高圧ターボ過給圧」と呼ぶ。)が供給されると共に、過給圧供給通路12bを介して、低圧ターボチャージャ4のコンプレッサ3bの下流側における吸気圧(以下、「低圧ターボ過給圧」と呼ぶ。)が供給される。
【0020】
潤滑油量調整部10は、このようにして供給される高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧とに基づいて動作して、分岐通路11aに対して供給する潤滑油量と分岐通路11bに対して供給する潤滑油量とを調整する。言い換えると、潤滑油量調整部10は、高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧とを利用して、高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とに供給する潤滑油量の分配を行う。なお、潤滑油量調整部10の構成については、詳細は後述する。
【0021】
[潤滑油量調整部の構成]
次に、潤滑油量調整部10の構成について具体的に説明する。
【0022】
図2は、図1に示した潤滑油量調整部10、潤滑油路11、及び過給圧供給通路12a、12bの斜視図を概略的に表している。なお、図2では、一部の構成要素を透視して表しており、実線矢印はガスの流れを示しており、破線矢印は潤滑油の流れを示している。
【0023】
潤滑油量調整部10は、主に、動作弁10aと、潤滑油量調整弁10bと、ケース10dと、を有する。図示のように、潤滑油路11は、分岐箇所11cにおいて分岐通路11aと分岐通路11bとに分岐しており、潤滑油量調整部10は、当該分岐箇所11cに設けられている。より具体的には、分岐箇所11cには、潤滑油量調整部10の潤滑油量調整弁10bが配置されている。
【0024】
動作弁10aはケース10d内に設けられており、ケース10dには過給圧供給通路12a、12bが接続されている。したがって、ケース10dには、過給圧供給通路12aを介して高圧ターボ過給圧が供給されると共に、過給圧供給通路12bを介して低圧ターボ過給圧が供給される。これにより、動作弁10aは、矢印A1で示すように、高圧ターボ過給圧及び低圧ターボ過給圧に応じて動作することとなる。
【0025】
また、動作弁10aと潤滑油量調整弁10bとは、同一のシャフト(弁軸)10cが用いられている。言い換えると、動作弁10aと潤滑油量調整弁10bとは、シャフト10cでつながっている。この場合、潤滑油路11とシャフト10cとの接合部にはオイルシール15が設けられている。このように動作弁10aと潤滑油量調整弁10bとがシャフト10cでつながっているため、上記した原理にて、動作弁10aが矢印A1で示すように動作した場合、潤滑油量調整弁10bも矢印A2で示すように動作することとなる。これにより、分岐通路11aに供給される潤滑油量と分岐通路11bに供給される潤滑油量とが調整される。つまり、高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とに供給される潤滑油量の分配が行われる。なお、動作弁10aは本発明における動作弁に相当し、潤滑油量調整弁10bは本発明における潤滑油量調整弁に相当する。
【0026】
なお、図2では、潤滑油量調整部10において動作弁10aと潤滑油量調整弁10bとが同一平面上に配置された例を示したが、同一のシャフト10cにて連結されていれば、動作弁と潤滑油量調整弁とを同一平面上に配置せずに潤滑油量調整部を構成しても良い。
【0027】
図3は、図2中の白抜き矢印A3方向から観察した図を示している。図3(a)は、図2中の白抜き矢印A3方向からケース10d及び過給圧供給通路12a、12bを観察した図を示しており、動作弁10aを透視して表している。図示のように、動作弁10aはケース10dの概ね中央に設けられており、ケース10dの内部は動作弁10aによって仕切られている。このようにして動作弁10aによって仕切られた2つの空間には、それぞれ、過給圧供給通路12a、12bから過給圧が供給される。具体的には、一方の空間には過給圧供給通路12aからは高圧ターボ過給圧が供給され、他方の空間には過給圧供給通路12bからは低圧ターボ過給圧が供給される。この場合、過給圧供給通路12aから供給された高圧ターボ過給圧は、動作弁10aに対して白抜き矢印91で示す方向に力を加え、過給圧供給通路12bから供給された低圧ターボ過給圧は、動作弁10aに対して白抜き矢印92で示す方向に力を加える。これにより、高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧との差圧に応じて、動作弁10aが動作することとなる。具体的には、高圧ターボ過給圧が低圧ターボ過給圧よりも高い場合には、動作弁10aは矢印B1で示す方向に動作する。これに対して、低圧ターボ過給圧が高圧ターボ過給圧よりも高い場合には、動作弁10aは矢印B2で示す方向に動作する。
【0028】
図3(b)は、図2中の白抜き矢印A3方向から潤滑油路11を観察した図を示しており、潤滑油量調整弁10bを透視して表している。動作弁10aと潤滑油量調整弁10bとはシャフト10cでつながっているため、上記したように動作弁10aが動作した場合、動作弁10aの動作に応じて潤滑油量調整弁10bも動作する。具体的には、高圧ターボ過給圧が低圧ターボ過給圧よりも高く、動作弁10aが矢印B1で示す方向に動作した場合、潤滑油量調整弁10bは矢印C1で示す方向に動作する。これに対して、低圧ターボ過給圧が高圧ターボ過給圧よりも高く、動作弁10aが矢印B2で示す方向に動作した場合、潤滑油量調整弁10bは矢印C2で示す方向に動作する。このように潤滑油量調整弁10bが動作することで、分岐通路11aと分岐通路11bとに供給される潤滑油量の分配が行われる。
【0029】
次に、図4を参照して、潤滑油量の分配について具体的に説明する。図4は、図2中の白抜き矢印A3方向から潤滑油路11を観察した図を示しており、潤滑油量調整弁10bを透視して表している。
【0030】
図4(a)は、エンジン回転数が低〜中回転の領域にある場合(低中速域)における潤滑油の流れの一例を示している。この場合には、高圧ターボチャージャ3の回転数が低圧ターボチャージャ4の回転数よりも大きくなる。つまり、高圧ターボ過給圧が低圧ターボ過給圧よりも高くなる。これにより、このような過給圧の差圧に応じた方向(図3(a)中の矢印B1で示す方向)に動作弁10aが動作することで、矢印D1で示す方向に潤滑油量調整弁10bが動作することとなる。この場合には、破線矢印E1で示すように分岐通路11aへ供給される潤滑油量が、破線矢印E2で示すように分岐通路11bへ供給される潤滑油量よりも多くなる。つまり、高圧ターボチャージャ3へ供給される潤滑油量が低圧ターボチャージャ4へ供給される潤滑油量よりも多くなる。言い換えると、高圧ターボチャージャ3に付与される潤滑油の油圧が低圧ターボチャージャ4に付与される潤滑油の油圧よりも高くなる。
【0031】
このように、本実施形態における潤滑油量調整部10によれば、高圧ターボチャージャ3の回転数が高い場合に、高圧ターボチャージャ3に対して供給する潤滑油量を多くすることができる。つまり、高圧ターボチャージャ3の回転数が高い場合には潤滑油の油圧を必要としている状態であると言えるが、このような場合に、高圧ターボチャージャ3への油圧を適切に確保することができる。
【0032】
図4(b)は、エンジン回転数が中〜高回転の領域にある場合(中高速域)における潤滑油の流れの一例を示している。この場合には、低圧ターボチャージャ4の回転数が高圧ターボチャージャ3の回転数よりも大きくなる。つまり、低圧ターボ過給圧が高圧ターボ過給圧よりも高くなる。これにより、このような過給圧の差圧に応じた方向(図3(b)中の矢印B2で示す方向)に動作弁10aが動作することで、矢印D2で示す方向に潤滑油量調整弁10bが動作することとなる。この場合には、破線矢印E3で示すように分岐通路11bへ供給される潤滑油量が、破線矢印E4で示すように分岐通路11aへ供給される潤滑油量よりも多くなる。つまり、低圧ターボチャージャ4へ供給される潤滑油量が高圧ターボチャージャ3へ供給される潤滑油量よりも多くなる。言い換えると、低圧ターボチャージャ4に付与される潤滑油の油圧が高圧ターボチャージャ3に付与される潤滑油の油圧よりも高くなる。
【0033】
このように、本実施形態における潤滑油量調整部10によれば、低圧ターボチャージャ4の回転数が高い場合に、低圧ターボチャージャ4に対して供給する潤滑油量を多くすることができる。つまり、低圧ターボチャージャ4の回転数が高い場合には潤滑油の油圧を必要としている状態であると言えるが、このような場合に、低圧ターボチャージャ4への油圧を適切に確保することができる。
【0034】
ここで、図5を参照して、上述したように潤滑油量の分配を行う理由について説明する。図5(a)は、エンジン回転数(横軸)と、高圧ターボチャージャ3及び低圧ターボチャージャ4の回転数(縦軸)との関係の一例を示している。実線F1は高圧ターボチャージャ3のグラフを示しており、破線F2は低圧ターボチャージャ4のグラフを示している。図示のように、2ステージターボシステム50においては、エンジン回転数が比較的低い領域から、高圧ターボチャージャ3の回転数が高くなる傾向が見て取れる。ここで、通常、ターボ回転数が高くなるほど、潤滑油の油圧クライテリアが高くなるといった傾向がある。そのため、2ステージターボシステム50では、エンジン回転数が比較的低い領域から、潤滑油の油圧(言い換えると潤滑油量)が十分に必要になると言える。つまり、油圧クライテリアが高くなると言える。
【0035】
図5(b)は、エンジン回転数(横軸)と潤滑油の油圧(縦軸)との関係の一例を示している。図示のように、潤滑油の油圧(言い換えると潤滑油量)はエンジン回転数に概ね比例していることがわかる。つまり、潤滑油を供給するオイルポンプの吐出量は、エンジン回転数に概ね比例して増加すると言える。したがって、上記したようにエンジン回転数が比較的低い領域から潤滑油の油圧が十分に必要となるが、このようなエンジン回転数と油圧との関係より、エンジン回転数が比較的低い領域で潤滑油の油圧を確保することが困難になるものと考えられる。つまり、油圧クライテリアを十分に満たすことが困難になるものと考えられる。ここで、当該問題に対してオイルポンプの吐出量を増加させて対処することも考えられるが、こうすると燃費悪化が生じてしまうことが考えられる。つまり、2ステージターボシステム50による燃費効果が減少するものと考えられる。
【0036】
したがって、本実施形態では、高圧ターボチャージャ3及び低圧ターボチャージャ4の仕事に応じて、高圧ターボチャージャ3及び低圧ターボチャージャ4のそれぞれに対して供給する潤滑油量の調整を行う。つまり、高圧ターボチャージャ3及び低圧ターボチャージャ4の回転数若しくは過給圧に応じて必要な油圧(潤滑油量)が変わるため、このような回転数若しくは過給圧に応じて潤滑油の分配を行う。具体的には、本実施形態では、前述したように潤滑油量調整部10を構成して(図2など参照)、高圧ターボ過給圧及び低圧ターボ過給圧を利用して潤滑油量調整弁10bを動作させることにより、潤滑油の分配を行う。これにより、潤滑油の油圧を必要としているターボチャージャへの油圧を適切に確保することができる。つまり、潤滑油量を必要としているターボチャージャに対して、必要な潤滑油量を適切に供給することが可能となる。また、本実施形態によれば、過給圧を利用して潤滑油量調整弁10bを動作させているので、電気的な駆動力を必要としないため、簡便な構成にすることができる。
【0037】
[動作弁及び潤滑油量調整弁のサイズ]
次に、動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bのサイズについて説明する。前述したように、本実施形態では、高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧との差圧を利用して動作弁10aを動作させることで、潤滑油量調整弁10bを動作させる。ここで、適切に、動作弁10aを動作させて潤滑油量調整弁10bを動作させるためには、過給圧より動作弁10aが受ける力が、油圧より潤滑油量調整弁10bが受ける力よりも大きくなければならないものと考えられる。つまり、過給圧により動作弁10aに作用する力が、油圧により潤滑油量調整弁10bに作用する力に対して打ち勝つ必要があると考えられる。
【0038】
したがって、本実施形態では、高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧との差圧と、潤滑油の油圧との関係を考慮に入れて、動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bのサイズを設定する。具体的には、過給圧の差圧で油圧に打ち勝って動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bが確実に動作するように、動作弁10aにおいて過給圧が作用する部分のサイズと、潤滑油量調整弁10bにおいて油圧が作用する部分のサイズとを設定する。例えば、動作弁10aにおいて過給圧が作用する部分のサイズを、潤滑油量調整弁10bにおいて油圧が作用する部分のサイズよりも大きく設定する。つまり、動作弁10aにおいて過給圧が作用する部分の面積を十分に確保する。
【0039】
以上のように動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bのサイズを設定することにより、動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bを適切に動作させることが可能となる。具体的には、過給圧の差圧と油圧とが同程度であるような場合や、過給圧の差圧が油圧よりも小さい場合などにおいても、適切に、動作弁10aを動作させて潤滑油量調整弁10bを動作させることができる。
【0040】
図6は、動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bのサイズの一例を示す図である。図6は、図2中の矢印A4で示す方向から動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bを観察した図を示している。ここでは、高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧との差圧が「20〜100(kPa)」であり、油圧が「100〜300(kPa)」である場合を一例に挙げる。この場合には、過給圧の差圧で油圧に打ち勝って動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bを適切に動作させるためには、図6に示すように、動作弁10aにおいて過給圧が作用する部分の面積と潤滑油量調整弁10bにおいて油圧が作用する部分の面積との比が、少なくとも「5:1」程度である必要があると言える。なお、過給圧の差圧及び油圧はエンジンの運転条件により変化するものなので、上記した例に限定されることはなく、過給圧の差圧及び油圧が取り得る範囲を考慮に入れて、動作弁10a及び潤滑油量調整弁10bのサイズを設定することが望ましい。
【0041】
[変形例]
次に、図7及び図8を参照して、本発明の変形例について説明する。上記した実施形態では、高圧ターボ過給圧及び低圧ターボ過給圧を利用して潤滑油量調整弁10bを動作させることで、潤滑油量の分配を行っていた。これに対して、変形例では、モータを用いて構成された弁を利用して、高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とに供給する潤滑油量の分配を行う。つまり、変形例では、過給圧を利用して潤滑油量調整弁10bを動作させる代わりに、電気的に弁を駆動することによって、潤滑油量の分配を行う。
【0042】
図7は、変形例に係る2ステージターボシステム51の概略構成図を示す。図7では、太実線はガス(吸気、排気)が通過する通路を示しており、破線は潤滑油が通過する通路を示している。また、実線矢印はガスの流れを示しており、破線矢印は潤滑油の流れを示している。なお、図1に示した構成要素と同一のものに対して同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0043】
2ステージターボシステム51は、過給圧供給通路12a、12bを具備せず、潤滑油量調整部10の代わりに潤滑油量調整部10xを有する点で、2ステージターボシステム50と構成が異なる。潤滑油量調整部10xは、弁と、当該弁を駆動するモータ(DCモータ)とを備える。潤滑油量調整部10x内の弁は、基本的には、潤滑油量調整弁10bと同様に動作する(図4など参照)。また、潤滑油量調整部10x内のモータは、ECU(Electronic Control Unit)20によって制御される。具体的には、当該モータは、ECU20から、一点鎖線で示す信号線19を介して供給される制御信号によって制御される。
【0044】
ECU20は、図示しないCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)などを備えて構成され、潤滑油量調整部10x内のモータに対して制御信号を供給することで、潤滑油量調整部10x内の弁の開度に対する制御を行う。こうすることで、ECU20は、潤滑油路11の分岐通路11a及び分岐通路11bに対して供給する潤滑油量の調整を行う、つまり高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とに供給する潤滑油量の分配を行う。基本的には、ECU20は、高圧ターボチャージャ3及び低圧ターボチャージャ4の仕事に応じて、潤滑油量調整部10x内の弁の開度に対する制御を行う。つまり、潤滑油の油圧を必要としているターボチャージャへ適切に油圧が確保されるように制御を行う。
【0045】
このような変形例に係る構成によれば、電気的に弁を駆動することによって潤滑油量の分配を行うため、精度良く潤滑油量の分配を行うことができる。
【0046】
ここで、ECU20が行う制御方法の具体例を挙げる。1つの例では、ECU20は、エンジン回転数及び燃料噴射量によって規定された、潤滑油量調整部10x内の弁の開度に関するマップに基づいて制御を行う。図8は、弁の開度に関するマップの一例を示している。図8は、横軸にエンジン回転数を示しており、縦軸に燃料噴射量を示している。当該マップにおいては、エンジン回転数及び燃料噴射量によって、潤滑油量調整部10x内の弁の開度が規定されている。なお、当該マップは、予め実験などすることにより作成される。
【0047】
他の例では、ECU20は、前述したような高圧ターボ過給圧と低圧ターボ過給圧とを取得して、これらの過給圧に基づいて、潤滑油量調整部10x内の弁の開度を制御する。具体的には、高圧ターボチャージャ3のコンプレッサ3aの下流側における吸気通路2上に圧力センサを設けると共に、低圧ターボチャージャ4のコンプレッサ4aの下流側における吸気通路2上に圧力センサを設けて、ECU20は、これらの圧力センサが検出した圧力に基づいて弁の開度を制御する。詳しくは、圧力センサは、吸気通路2に対して過給圧供給通路12a、12bを接続した位置付近に設けられる。このような制御方法を用いた場合には、圧力センサの検出値に基づいて、弁の開度をフィードバック制御することができ、より精度良く、潤滑油量の調整を行うことが可能となる。
【0048】
なお、本発明の適用は、高圧ターボチャージャ3と低圧ターボチャージャ4とが直列に配置された2ステージターボシステム50、51に限定はされない。本発明は、2つのターボチャージャが吸気通路及び排気通路に並列に配置されたタイプの2ステージターボシステムにも適用することができる。このように並列に配置された2ステージターボシステムにおいても、ターボチャージャの駆動状態に応じた潤滑油供給を適切に行うことが困難になる傾向にあるため、本発明を適用することは有効であると言える。つまり、当該2ステージターボシステムに対して本発明を適用した場合にも、潤滑油量を必要としているターボチャージャに対して、必要な潤滑油量を適切に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本実施形態に係る2ステージターボシステムの概略構成図を示す。
【図2】潤滑油量調整部などの斜視図を示す。
【図3】図2中の白抜き矢印A3方向から、動作弁及び潤滑油量調整弁を観察した図を示す。
【図4】潤滑油量の分配について具体的に説明するための図である。
【図5】潤滑油量の分配を行う理由を説明するための図である。
【図6】動作弁及び潤滑油量調整弁のサイズの一例を示す図である。
【図7】変形例に係る2ステージターボシステムの概略構成図を示す。
【図8】潤滑油量調整部内の弁の開度を制御するために用いるマップの一例を示す。
【符号の説明】
【0050】
2 吸気通路
3 高圧ターボチャージャ
4 低圧ターボチャージャ
9 排気通路
10、10x 潤滑油量調整部
10a 動作弁
10b 潤滑油量調整弁
10d ケース
11 潤滑油路
11a、11b 分岐通路
12a、12b 過給圧供給通路
20 ECU
50、51 2ステージターボシステム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のターボチャージャと第2のターボチャージャとに対して潤滑油を供給することで潤滑を行うターボチャージャの潤滑装置であって、
内燃機関からの潤滑油が通過する通路であって、前記第1のターボチャージャに対して前記潤滑油を供給する第1の分岐通路と、前記第2のターボチャージャに対して前記潤滑油を供給する第2の分岐通路とに分岐する潤滑油路と、
前記潤滑油路上における前記第1の分岐通路と前記第2の分岐通路との分岐箇所に設けられ、前記第1の分岐通路へ供給する潤滑油量と、前記第2の分岐通路へ供給する潤滑油量とを調整可能な潤滑油量調整弁と、を備え、
前記潤滑油量調整弁は、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧とを利用して動作することを特徴とするターボチャージャの潤滑装置。
【請求項2】
前記潤滑油量調整弁は、
前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧が前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧よりも高い場合には、前記第1の分岐通路へ供給される潤滑油量が前記第2の分岐通路へ供給される潤滑油量よりも多くなるように動作し、
前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧が前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧よりも高い場合には、前記第2の分岐通路へ供給される潤滑油量が前記第1の分岐通路へ供給される潤滑油量よりも多くなるように動作する請求項1に記載のターボチャージャの潤滑装置。
【請求項3】
前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と、前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧との差圧に応じて動作する動作弁を更に備え、
前記潤滑油量調整弁は、前記動作弁の動作に従って動作する請求項1又は2に記載のターボチャージャの潤滑装置。
【請求項4】
前記動作弁及び前記潤滑油量調整弁のサイズは、前記第1のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧と前記第2のターボチャージャのコンプレッサの下流側の吸気圧との差圧と、前記潤滑油路における前記潤滑油の油圧との関係に基づいて設定される請求項3に記載のターボチャージャの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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