説明

ターボファンジェットエンジン

【課題】従来の変速機構に比べ遊星歯車の歯数についての設計自由度が高く、タービン回転数に対するファン回転数の減速比を大きく確保することが可能であり、ファン及びタービンを最適回転数の範囲でそれぞれ駆動することが可能なターボファンジェットエンジンを提供する。
【解決手段】内歯車61と太陽歯車62の中間に位置する遊星歯車を、同軸かつ一体となって回転する遊星大歯車63および遊星小歯車64から成る二段遊星歯車とし、遊星大歯車63は内歯車61と噛み合うのと同時に遊星小歯車64は太陽歯車62と噛み合うようにする。また、各遊星大歯車63および各遊星小歯車64は固定軸65によって回転可能に支持されながら定位置において固定軸65を中心として回転するように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ターボファンジェットエンジン、特に従来の変速機構に比べ、機構が簡易で、遊星歯車の歯数についての設計自由度が高く、タービン回転数に対するファン回転数の減速比を所望の値に設定することが可能であり、ファン及びタービンを最適回転数の範囲でそれぞれ駆動することが可能な変速機構を備えたターボファンジェットエンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
亜音速で飛行する旅客機に広く用いられているターボファンジェットエンジンは、一般に、コア部を通過する空気量に対するファン部を通過する空気量の割合(バイパス比)が大きいほど、エンジンの排気速度が巡航速度に近くなり、推進効率が高くなる上に、ジェット排気騒音が好適に低減されるようになる。従って、バイパス比の大きいターボファンジェットエンジンは、燃料消費率に優れ、ジェット排気騒音が小さくなる。従って、近年のターボファンジェットエンジンは高バイパス化の傾向にある。ただし、高バイパス比化すると、一般にファンが大きくなり、ファンの周速が高くなりすぎて衝撃波の発生等により効率が低下する他、ファン自体の重量の制約があるため、一定以上の高バイパス比は実現されていない。
ターボファンジェットエンジンの更なる高バイパス比を実現するために、コアエンジンの軸方向に沿って圧縮機の上流側およびタービンの下流側にフロントファン、アフトファンをそれぞれタンデム状に備え、フロントファン流路とリアファン流路がコアエンジンの軸方向に沿って互いに螺旋状にツイストしながら、断面の幾何学的関係がエンジンの入口と出口において反転するように配設されている横長の楕円形ターボファンジェットエンジンに係る発明が知られている(特許文献1を参照。)。
この楕円形ターボファンジェットエンジンでは、フロントファンは、第1低圧タービンとシャフトを介して結合され、第1低圧タービンによって駆動され、一方、アフトファンは、第1低圧タービンの後段に設けられた第2低圧タービンの外周端部に直結され、第2低圧タービンによって駆動されるように構成されている。従って、フロントファンとアフトファンはそれぞれ別個独立の低圧タービンによって駆動されるように構成されている。
一般に、ターボファンジェットエンジンにおけるファン駆動機構としては、ファンロータとタービンロータをシャフトによって直結し、タービンの回転動力をシャフトを介して伝達する駆動機構が採用されている。バイパス比が大きくなると、タービン径に対してファン径が大きくなるが、一般に、タービンやファンなどの回転機械は、翼列の回転速度(=回転数×径)によってその仕事量や効率が決まるため、ファンとタービンそれぞれに最適な回転数は、ファンの方がタービンより小さくなる。このため、高バイパス比エンジンでは、タービン回転軸とファン回転軸の間に変速機構を介し、タービンの回転数よりファンの回転数を低くして、両者共に最適な回転数で駆動させようとするものがある。
このようなターボファンジェットエンジン用変速機構としては、サンギア、複数のプラネタリーギア及びリングギアから成る、いわゆる遊星歯車を利用した変速機構が知られている(例えば、特許文献2を参照。)。
特許文献2の図1−2に記載の変速機構では、サンギア(24)が低圧タービンの回転動力を伝達するシャフト(20)に直結し、複数のプラネタリーギア(28)がプラネタリーギア・キャリア(30)によってモジュール化されて、固定リングギア(26)と噛み合い、サンギア(24)が回転すると、複数のプラネタリーギア(28)が回転し、それに直結したプラネタリーギア・キャリア(30)も回転し、そのプラネタリーギア・キャリア(30)に直結したトルクフレーム(10)が回転し、トルクフレーム(10)の外周部でスプライン結合したファン(4)が回転するように構成されている。
上記遊星歯車を利用した変速機構では、プラネタリーギア(28)はサンギア(24)とリングギア(26)の両方と噛み合う構成である。この構成とは異なり、各プラネタリーギアが別々のサンギアと噛み合う差動歯車システムが知られている(例えば、特許文献3を参照。)。
特許文献3の図1に記載の差動歯車システム(20)では、プラネタリーギアは歯数及び径の異なる第1プラネタリーギア(46)と第2プラネタリーギア(52)によって構成され、第1プラネタリーギア(46)と第2プラネタリーギア(52)は伴に同一のシャフト(48)に固定され、そのシャフト(48)は一端をキャリアディスク(50)上に回転可能に支持されている。従って、第1プラネタリーギア(46)、第2プラネタリーギア(52)及びシャフト(48)は一体で回転しながらサンギア(44)の周りを回転するように構成されている。従って、サンギア(44)が入力するタービンの回転動力は、サンギア(44)と噛み合う第1プラネタリーギア(46)によって第2プラネタリーギア(52)とキャリアディスク(50)にそれぞれ分配され、これらが結合するコンプレッサロータシャフト(22)及びファンロータシャフト(24)がそれぞれ回転駆動され、そしてこれらに直結しているコンプレッサ(17)とファン(13)がそれぞれ回転する。なお、コンプレッサロータシャフト(22)及びファンロータシャフト(24)の外周部分には、円筒マグネットロータ(66,72)及びステータ(68,74)から成るモータがそれぞれ取り付けられている。このモータは、必要に応じて発電機または電動機として機能し、コンプレッサロータシャフト(22)及びファンロータシャフト(24)の各回転数、すなわちコンプレッサ(17)及びファン(13)の各回転数を最適範囲に調節することとしている。
また、特許文献4の図2に記載のギアードターボファンジェットエンジンでは、タービンの回転動力は、シャフト(36)に直結したサンギア(70)に伝達され、サンギア(70)と噛み合う第1プラネタリーギア(72)によって、それが噛み合うリングギア(74)と、第1プラネタリーギア(72)にリジッドに同軸結合された第2プラネタリーギア(86)にそれぞれ分配される。リングギア(74)に分配された回転動力はシャフト(38)を介してファン回転翼(15)に伝達される一方、第2プラネタリーギア(86)に分配された回転動力はギア(88)を介して圧縮機ロータ(18)に伝達される。なお、第1プラネタリーギア(72)および第2プラネタリーギア(86)はシャフト(78)によって回転可能に支持され、そのシャフト(78)は前方キャリア(82)および後方キャリア(77)によって固定され、後方キャリア(77)は静的な構造物(52)に結合されている。従って、第1プラネタリーギア(72)および第2プラネタリーギア(86)は伴にサンギア(70)の周りを公転せずに定位置においてシャフト(78)を中心として回転している(例えば、特許文献4を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−215895号公報
【特許文献2】米国特許第5466198号明細書
【特許文献3】米国特許第6895741号明細書
【特許文献4】米国特許第4251987号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献2−4の変速機構では、遊星歯車(プラネタリーギア)は何れも太陽歯車(サンギア)と環状内歯車(リングギア)の両方と噛み合う構成のため、各遊星歯車の各歯は太陽歯車および内歯車の両方の各歯と正確に噛み合わせる必要がある。一般に、2つの歯車を正確に噛み合わせるためには、2つの歯車の各モジュールを等しくしなけれならず、なお且つ2つの歯車の基準円が接した状態でバックラッシュ及び頂げき等の歯面間の隙間(遊び)が最適となるように各歯の歯数を設定する必要がある。
しかし、上記特許文献2−4の遊星歯車機構の場合、遊星歯車、環状内歯車および太陽歯車の3つの歯車が同時に噛み合うことになるため、環状歯車と遊星歯車の各基準円が接した状態ならびに遊星歯車と太陽歯車の各基準円が接した状態で、2つの歯車のバックラッシュ及び頂げき等の歯面間の隙間(遊び)が最適となるように各歯車の歯数を設定しなければならなず、歯車間の減速比に関して最重要設計要素である各歯車の各歯数については種々の拘束条件が課せられ、その結果、各歯車の各歯数について自由に設計することは難しかった。その結果、タービン回転数に対するファン回転数の減速比を大きく確保することが難しかった。
また、低圧タービンの回転速度とファンの回転速度は低圧タービンの方が速いため、上記特許文献2−4の遊星歯車機構において見られるように、低圧タービンからの回転動力を伝達するシャフトとファンは一般に直結されることはなく、遊星歯車機構等の減速機構を介して結合され、低圧タービンからの回転動力はシャフト、太陽歯車、遊星歯車および環状内歯車を介してファンの最適回転数の範囲内にまで減速されてファンへ伝達されることになる。従って、例えば圧縮機の上流側およびタービンの下流側にファンをそれぞれ有する、すなわちフロントファンとアフトファンを備えたターボファンジェットエンジンの場合、図5(a)に示すように、低圧タービンからの回転動力を入力する太陽歯車の回転数を減速するための減速機構が一般に2個必要となる。従って、減速機構が2個の場合、このターボファンジェットエンジンは重量が増加するという問題がある。
他方、図5(b)に示すように、減速機構を介さずにシャフトと各ファンが直結される場合、低圧タービンの回転動力は減速機構を介して予めファンの最適回転数の範囲内まで減速された上でシャフトに伝達されることになる。この場合、減速機構は1個で済むことになる。
しかし、減速機構が1個の場合、フロントファン及びアフトファンに直結するシャフトは太陽歯車の中を通ることになるため、太陽歯車の回転軸及びその軸を受ける軸受機構が別途必要となり、その結果、減速機構自体が複雑化し、減速機構が2個の場合と同様にターボファンジェットエンジンの重量が増加するという問題がある。
そこで、本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は従来の変速機構に比べ、簡易な構造で、遊星歯車の歯数についての設計自由度が高く、タービン回転数に対するファン回転数の減速比を所望の値に設定することが可能であり、ファン及びタービンを最適回転数の範囲でそれぞれ駆動することが可能な変速機構を備えたターボファンジェットエンジンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、請求項1に記載のターボファンジェットエンジンは、タービンの動翼と一体に回転して回転動力を入力する環状内歯車と、該環状内歯車に対し同軸で設けられファンを駆動する回転動力を出力する太陽歯車と、前記環状内歯車と前記太陽歯車の中間に設けられる1又は複数の遊星歯車とから成る変速機構を備えてなり、
各前記遊星歯車は、同軸一体となって回転する遊星大歯車と遊星小歯車から成る二段遊星歯車であり、前記太陽歯車の周りを公転せずに定位置において固定軸によって回転可能に支持され、且つ前記遊星大歯車および前記遊星小歯車は、前記環状内歯車、前記太陽歯車、または隣接する他の遊星大歯車もしくは遊星小歯車の何れか一つの歯車と噛み合うことを特徴とする。
上記ターボファンジェットエンジンでは、遊星歯車を上記構成とすることにより、遊星歯車に係る大歯車および小歯車の各歯は、通常の遊星歯車とは異なり、一つの歯車の歯に正確に噛み合っていればよく、遊星歯車の歯数に係る拘束条件が緩和されるようなる。これにより、遊星歯車の歯数についての設計自由度が高くなる。その結果、環状内歯車の回転数に対する太陽歯車の回転数の比(減速比)を所望の値に設定することが出来るようになる。
【0006】
請求項2に記載のターボファンジェットエンジンでは、一の遊星大歯車と同軸一体となって回転する遊星小歯車が次の遊星大歯車と噛み合うように複数の前記二段遊星歯車が多段に噛み合いながら、最外側の遊星大歯車は前記環状内歯車と噛み合い且つ最内側の遊星小歯車は前記太陽歯車と噛み合うように構成されていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、上記二段遊星歯車を順に上記多段に噛み合わせることにより、環状内歯車の回転数に対する太陽歯車の回転数の比(減速比)を所望の値に設定することが容易となる。
【0007】
請求項3に記載のターボファンジェットエンジンでは、前記太陽歯車には、フロントファンとリアファンを回転駆動する回転動力を前後軸方向に伝達する回転軸が設けられていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、上記太陽歯車に上記回転軸を設けることによって、簡易な構造により、その変速機構に係合する低圧タービンを効率の良い高回転で駆動させながら2つのファン(フロントファン及びリアファン)を同時に効率の良い低回転で駆動させることが可能となる。これにより、タービン一段当たりの仕事量が増大し、タービンの段数を少なくすることが可能となる。
【0008】
請求項4に記載のターボファンジェットエンジンでは、各前記遊星歯車の各固定軸はプレート上に取り付けられ、該プレートは前記タービンの後段に設けられた案内羽根に一端を固定された支持部材によって保持固定されていることとした。
上記ターボファンジェットエンジンでは、遊星歯車を定位置に安定して回転可能に支持することが出来るようになる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る遊星歯車を用いた変速機構によれば、各遊星歯車は一つの歯車の歯に正常に噛み合っていればよく、遊星歯車の歯数に係る拘束条件が緩和されるようなる。従って、遊星歯車の歯数についての設計自由度が高くなる。
これにより、本発明に係る変速機構を備えたターボファンジェットエンジンでは、タービン回転数に対するファン回転数の減速比についての調整範囲が広くなり、ファン及びタービンを各効率が最適となる回転数範囲でそれぞれ回転駆動させることが出来るようになる。その結果、本発明に係る変速機構を備えたターボファンジェットエンジンでは、下記の効果が期待される。
(1)タービンの高回転化によりタービン一段当たりの仕事量が増大し、タービンの段数を少なくすることが可能となる。これにより、エンジン全体を軽量・コンパクトにすることが可能となる。
(2)特に、フロントファンとリアファンをコアエンジンの軸方向に沿ってタンデム状に備えた横長の楕円形ターボファンジェットエンジンに適用することにより、簡易な構造で、フロントファン、リアファン及び低圧タービンを各効率が最適となる回転数範囲で回転駆動させることが可能となり、エンジンのバイパス比を好適に高めることが出来るようになる。
(3)本発明に係る遊星歯車を用いた変速機構は、低圧タービンの回転動力を入力する外側の環状内歯車(リングギア)の回転数は高く、中心に位置する太陽歯車(サンギア)の回転数は所望の回転数範囲まで減速されている特徴を有している。太陽歯車の回転数が予めファン駆動に最適な回転数範囲まで減速されている場合、低圧タービンの回転動力をファンへ伝達する伝達シャフトとファンを駆動する駆動シャフトの間には減速機構が不要となり、そのため、太陽歯車の回転軸、低圧タービンの回転動力を伝達する伝達シャフト並びにファンを駆動する駆動シャフトを同一のシャフトによって構成することが可能となる。つまり、本発明の遊星歯車を用いた変速機構は、低圧タービン回転動力に係る減速・伝達機構およびファン駆動機構を簡素化し、ターボファンジェットエンジンの軽量・コンパクト化にすることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明に係る変速機構を備えた楕円形ターボファンジェットエンジンを示す上半分断面図である。
【図2】図1のA矢視図(全体)およびB矢視図(全体)である。
【図3】本発明に係る変速機構を示す説明図である。
【図4】本発明に係る他の変速機構を示す説明図である。
【図5】従来の低圧タービン回転動力に係る減速・伝達機構ならびにファン駆動機構を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。
【0012】
図1−2は、本発明に係る変速機構60を備えた楕円形ターボファンジェットエンジン100を示す説明図である。図1は、楕円形ターボファンジェットエンジン100の上半分の断面図であり、図2(a)は図1のA矢視図(全体)であり、同(b)は図1のB矢視図(全体)である。
この楕円形ターボファンジェットエンジン100は、圧縮機31、燃焼器32、タービン33および排気ノズル34から成るコアエンジン30と、コアエンジン30より上流に位置するフロントファン10と、フロントファン10が圧縮した空気のうちコアエンジン30に入らないバイパス空気を外部へ導出するフロントファン流路20と、コアエンジン30の下流部に位置するリアファン40と、リアファン40に空気を導入するリアファン流路50と、入力する低圧タービンの回転動力を減速してフロントファン10及びリアファン40に出力する本発明に係る変速機構60と、フロントファン流路20及びリアファン流路50の各流路壁となるエンジンナセル70とを具備して構成される。なお、本発明に係る変速機構60の詳細については、図3−4を参照しながら後述する。
【0013】
フロントファン10は、動翼11および静翼12から成り、動翼11はファンロータ13上に固定され、静翼12はエンジンナセル70の内周面に固定されている。また、静翼12は中空軸37(圧縮機駆動軸)および回転軸38(ファン駆動軸)を受ける軸受けとしても機能する。
【0014】
リアファン40は、フロントファン10と同様に、動翼41および静翼42から成り、動翼41は回転軸38(またはファンロータ)上に固定されている。静翼42はエンジンナセル70の内周面に固定されている。また、静翼42は回転軸38を受ける軸受けとしても機能する。
【0015】
フロントファン流路20およびリアファン流路50は、エンジンの入口部と出口部における断面の幾何学的関係が反転するように、コアエンジン30を中心として螺旋状に互いにひねり合う態様でコアエンジン30の軸方向に沿って配設されている。従って、コアエンジン30の軸方向に沿ったファン流路20,50の各々の断面は、エンジン全体の断面外形をほぼ一定に保持したまま、コアエンジン30を中心として各断面形状を変化させながら一定方向に回転し、そして最終的にはエンジンの入口部と出口部における断面の幾何学的関係が反転するようになる。このように構成することにより、ファン径を拡大させることなく、コアエンジンに対して二つのファンをタンデム状に設けてバイパス比を高めることが可能となると共に、エンジン全体を空気抵抗の小さい直胴構造にすることが可能となる。
【0016】
図2を見ると分かるように、エンジン全体を正面から見た場合、エンジン正面入口では、中央部にフロントファン空気取入口21が配置され、両側部にリアファン空気取入口51が配置された横長の楕円形状を成している。その外形寸法を出口まで維持したまま、エンジン後面出口端では、中央部にコアエンジン30の排気ノズル34、その周囲にリアファン排気ノズル52、更に、その両側にフロントファン排気ノズル22が配設された横長の楕円形状を成している。
【0017】
再び、図1に戻り、圧縮機31は、動翼31aおよび静翼31bから成り、動翼31aは中空軸37によって高圧タービン動翼33bと結合され、高圧タービン動翼33bと一体化して回転する。
【0018】
燃焼器32は、圧縮機31によって圧縮された圧縮空気に燃料を混合・燃焼させ高温・高圧の燃焼ガスを発生させる。燃焼ガスはタービン33及びリアファン40を回転駆動してコアエンジン用排気ノズル34から外部に高速で噴出し推進力を発生する。
【0019】
タービン33は、圧縮機動翼31aを駆動する高圧タービン部と、フロントファン動翼11およびリアファン動翼41を駆動する低圧タービン部から成る。
【0020】
高圧タービン部は、静翼33aおよび動翼33bから成り、静翼33aは中空軸37を受ける軸受けとしても機能する。また、動翼33bは中空軸37上に固定されている。
【0021】
低圧タービン部は、高圧タービン部の後段に配設され、高圧タービンと同じく静翼33cおよび動翼33dから成る。静翼33cは回転軸38および低圧タービンロータ33eを受ける軸受けとしても機能する。
【0022】
低圧タービン部の後段にはリアファン用インレットタービンノズル(IGV)35が設けられている。このインレットタービンノズル35は、リアファン動翼41への燃焼ガスの流入角度が回転数に合った角度となるように、燃焼ガスを整流してリアファン動翼41に衝突させるための案内羽根である。このインレットタービンノズル35によって整流された燃焼ガスがリアファン動翼41に衝突することにより、燃焼ガスのエネルギーをフロントファン10及びリアファン40を駆動する回転動力として更に取り出すことが出来るようになる。これにより、エンジン全体の効率が向上するようになる。なお、この燃焼ガスは既に低圧タービンを通って仕事をしてきた排気であるため、温度/圧力が十分に低く、冷却は不要で、外周部がファンを成していても、現存する金属材料で製作可能である。また、インレットタービンノズル35とリアファン動翼41の隙間には、ラビリンスシール39が設けられ、高温高圧の燃焼ガスがフロントファン流路20およびリアファン流路50に漏洩することがないようにしている。
【0023】
また、このインレットタービンノズル35は、本発明に係る変速機構60の遊星歯車キャリア(図3−4)の支持部材を固定する構造部材としても機能する。
【0024】
同様に、リアファン静翼42の排気ノズル34近傍にはリアファン用アウトレットタービンノズル(OGV)36が設けられている。このアウトレットタービンノズル36は、リアファン動翼41を通過した燃焼ガスを整流して排気ノズル34から排出させるための案内羽根である。このアウトレットタービンノズル36によって整流された燃焼ガスが排気ノズル34から噴出することにより、燃焼ガスのエネルギーを推進力として好適に取り出すことが出来るようになる。これにより、エンジン全体の効率が更に向上するようになる。なお、リアファン動翼41とアウトレットタービンノズル36の隙間には、ラビリンスシール39が設けられ、高温高圧の燃焼ガスがフロントファン流路20およびリアファン流路50に漏洩することがないようにしている。
【0025】
図3は、本発明に係る変速機構60を示す説明図である。なお、図3(a)は正面図であり、同(b)は右側面図である。
この変速機構60は、低圧タービン動翼33dと一体となって回転し低圧タービンの回転動力を入力する内歯車61と、回転軸38と直結しファンを駆動する回転動力を出力する太陽歯車62と、内歯車61と噛み合う遊星大歯車63と、遊星大歯車63と一体となって回転し太陽歯車62と噛み合う遊星小歯車64と、遊星大歯車63および遊星小歯車64を回転可能に支持する固定軸65と、固定軸65が取り付けられた遊星歯車キャリア66とを具備して構成される。なお、遊星歯車キャリア66は支持部材66aによって支持され、支持部材66aはインレットタービンノズル35に固定されている。
【0026】
内歯車61と太陽歯車62の中間に設けられた中間歯車としての遊星歯車は、同軸一体となって回転する遊星大歯車63と遊星小歯車64から成る二段遊星歯車であり、遊星大歯車63および遊星小歯車64は太陽歯車62の周りを公転せずに定位置において固定軸65を中心として回転し、遊星大歯車63は内歯車61のみと噛み合い、遊星小歯車64は太陽歯車62のみと噛み合う。一般に、2つの歯車が正常に噛み合っているとは、2つの歯車の各基準円(各歯中心を通る円)が接した状態で、バックラッシュ及び頂隙等の歯面間のクリアランスが小さいこととされている。そのため、噛み合う2つの歯車の各モジュールは互いに等しくなければならない。従って、内歯車、太陽歯車および遊星歯車の3つの歯車が同時に噛み合う場合、各歯車に対しては、3つの歯車の基準円が接した状態で3つの歯車が正確に噛み合いながら、且つ各歯車の各歯数(z)については、種々の拘束条件を満足しなければならない。
そのため、変速機構の減速比に関して最重要設計要素である内歯車、太陽歯車および遊星歯車の各歯数(zi、zs、zp)については、所望の値に自由に設計することは難しく、その結果、タービン回転数(内歯車の回転数)に対するファン回転数(太陽歯車の回転数)の減速比を所望の値に設定することは難しかった。
【0027】
これに対して、本発明では遊星大歯車63は内歯車61と、遊星小歯車64は太陽歯車62とのみそれぞれ噛み合う構成であるため、2つの歯車の基準円が接した状態で2つの歯車が正常に噛み合えばよく、各基準直径(d)についての拘束条件は不要になるため、各歯車の各歯数(z)についてある程度自由に設計することができるようになる。これにより、タービン回転数(内歯車の回転数)に対するファン回転数(太陽歯車の回転数)の減速比を後述する通り大きくすることが可能となる。
【0028】
ここで、この変速機構60の動作について、説明する。なお、内歯車61の歯数は120歯と、遊星大歯車63の歯数は40歯と、遊星小歯車64の歯数は8歯と、太陽歯車62の歯数は72歯とする。
4組の二段遊星歯車を回転支持する各固定軸65は遊星歯車キャリア66によって各々固定されているため、内歯車61が回転する場合、各遊星大歯車63は太陽歯車62の周りを公転することはせずに、定位置において、{内歯車61の回転数}×{内歯車61の歯数/遊星大歯車63の歯数}に等しい回転数で自転する。例えば、最外側の内歯車61(歯数120)が1回転すると、内歯車61と噛み合っている遊星大歯車63(歯数40)は、定位置において固定軸65によって回転支持されながら3回転(=1×(120/40))する。すると、遊星大歯車63に同軸で一体化されている遊星小歯車64(歯数8)も3回転する。すると、遊星小歯車64が噛み合っている太陽歯車62は、歯数が72より、3×(8/72)=1/3回転する。つまり、最外側の内歯車61を回転させる場合、その回転数の3分の1に等しい回転数で最内側の太陽歯車62を回転駆動させることが出来る。このことは、図1の低圧タービン動翼33dの回転数の3分の1に等しい回転数で、フロントファン動翼11およびリアファン動翼41を回転駆動させることが出来ることを示している。
【0029】
図4は、本発明の他の変速機構60Aを示す説明図である。なお、図4(a)は正面図であり、同(b)は右側面図である。
この変速機構60Aは、各二段遊星歯車が太陽歯車の周りを公転せずに、遊星歯車キャリアに固定された固定軸によって回転可能に支持されながら定位置で回転するという構成に関しては、上記変速機構と共通している。ただし、本変速機構60Aでは、各二段遊星歯車が2段で構成されているという点に関して上記変速機構60とは異なっている。各二段遊星歯車は、大径の遊星大歯車63A,66Aと小径の遊星小歯車64A,67Aがそれぞれ組み合わされた構成である。第1遊星大歯車63Aは内歯車61Aと噛み合い、第1遊星小歯車64Aは第2遊星大歯車66Aと噛み合い、第2遊星小歯車67Aは太陽歯車62Aと噛み合う。各二段遊星歯車は、上記変速機構60と同様に、遊星歯車キャリア69Aに取り付けられた各固定軸65A,68Aに支持されながら、その固定軸を中心として回転している。なお、遊星歯車キャリア66Aは支持部材66A_aによって支持され、支持部材66A_aはインレットタービンノズル35に固定されている。
【0030】
ここで、この変速機構60Aの動作について説明する。なお、内歯車61Aの歯数は120歯と、第1遊星大歯車63Aの歯数は40歯と、第1遊星小歯車64Aの歯数は12歯と、第2遊星大歯車66Aの歯数は36歯と、第2遊星小歯車67Aの歯数は12歯と、太陽歯車62Aの歯数は60歯とする。
最外側の内歯車61A(歯数120)が1回転すると、内歯車61Aと噛み合っている第1遊星大歯車63A(歯数40)は、定位置において第1固定軸65Aによって回転可能に支持されながら3回転(=1×(120/40))する。従って、第1遊星大歯車63Aに同軸で一体化されている第1遊星小歯車64A(歯数12)も3回転する。すると、第1遊星小歯車64Aが噛み合っている第2遊星大歯車66Aは、歯数が36より、3×(12/36)=1回転する。従って、第2遊星大歯車66Aに同軸で一体化されている第2遊星小歯車67A(歯数12)も1回転する。すると、第2遊星小歯車67Aが噛み合っている太陽歯車62Aは、歯数が60より、1×(12/60)=1/5回転する。つまり、最外側の内歯車61Aを回転させる場合、その回転数の5分の1に等しい回転数で最内側の太陽歯車62Aを回転駆動させることが出来る。このことは、図1の低圧タービン動翼33dの回転数に対し、その回転数の5分の1に等しい回転数でフロントファン動翼11およびリアファン動翼41を回転駆動させることが出来ることを示している。
【0031】
この場合、内歯車61Aの歯数をz1、太陽歯車62の歯数をz2と、第1遊星大歯車63Aの歯数をz3、第1遊星小歯車64Aの歯数をz4、第2遊星大歯車66Aの歯数をz5、第2遊星大歯車67Aの歯数をz6、内歯車61Aの回転数をN1と、太陽歯車62Aの回転数をN2とする場合、最終の太陽歯車62Aでの回転数N2は下記の通りとなる。従って、各歯車の歯数(z)を適当に調節することにより、低圧タービンの回転数に対するファンの回転数の減速比を大きくすることができる。
[数1]
2=N1×{z1/z3}×{z4/z5}×{z6/z2}=N1×{z1/z2}×{z3/z4}×{z5/z6
【0032】
一般に、内歯車と太陽歯車の中間に設けられた中間歯車としての二段遊星歯車がN段で構成されている場合、最終の太陽歯車62Aでの回転数N2は下記の通りとなる。
[数2]
2=N1×{z1/z2}×{z3/z4}×・・・×{z2N+1/z2(N+1)
【0033】
以上より、本発明に係る変速機構60,60Aによれば、各遊星歯車は一つの歯車の歯に正常に噛み合っていればよく、各遊星歯車の歯数に係る拘束条件が緩和されるようなる。従って、各遊星歯車の歯数について設計自由度は高くなる。
【0034】
これにより、本発明に係る変速機構60,60Aを備えた楕円形ターボファンジェットエンジン100では、タービン回転数に対するファン回転数の減速比についての調整範囲が広くなり、ファン及びタービンを各効率が最適となる回転数範囲でそれぞれ回転駆動させることが出来るようになる。その結果、本発明に係る変速機構60,60Aを備えた楕円形ターボファンジェットエンジン100では、下記の効果が期待される。
(1)タービンの高回転化によりタービン一段当たりの仕事量が増大し、タービンの段数を少なくすることが可能となる。これにより、エンジン全体を軽量・コンパクトにすることが可能となる。
(2)簡易な構造で、フロントファン、リアファン及び低圧タービンを各効率が最適となる回転数範囲で回転駆動させることが可能となるため、エンジンのバイパス比を好適に高めることが出来るようになる。
(3)本発明に係る変速機構60,60Aは、低圧タービンの回転動力を入力する外側の内歯車61,61Aの回転数は高く、中心に位置する太陽歯車62,62Aの回転数は所望の回転数範囲まで減速されている特徴を有している。太陽歯車62,62Aの回転数が予めファン駆動に最適な回転数範囲まで減速されている場合、低圧タービンの回転動力をファンへ伝達する伝達シャフトとファンを駆動する駆動シャフトの間には減速機構が不要となり、そのため、太陽歯車の回転軸、低圧タービンの回転動力を伝達する伝達シャフト並びにファンを駆動する駆動シャフトを同一のシャフト38によって構成することが可能となる。つまり、本発明に係る変速機構60,60Aは、低圧タービン回転動力に係る減速・伝達機構およびファン駆動機構を簡素化し、ターボファンジェットエンジンの軽量・コンパクト化にすることが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の楕円形ターボファンジェットエンジンは、航空機用ターボファンジェットエンジン、特に巡航時に亜音速で飛行する航空機用ターボファンジェットエンジンに対し好適に適用され得る。
【符号の説明】
【0036】
10 フロントファン
20 フロントファン流路
21 フロントファン空気取入口
22 フロントファン排気ノズル
30 コアエンジン
40 リアファン
50 リアファン流路
51 リアファン空気取入口
52 リアファン排気ノズル
60,60A 変速機構
70 エンジンナセル
100 楕円形ターボファンジェットエンジン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービンの動翼と一体に回転して回転動力を入力する環状内歯車と、該環状内歯車に対し同軸で設けられファンを駆動する回転動力を出力する太陽歯車と、前記環状内歯車と前記太陽歯車の中間に設けられる1又は複数の遊星歯車とから成る変速機構を備えてなり、
各前記遊星歯車は、同軸一体となって回転する遊星大歯車と遊星小歯車から成る二段遊星歯車であり、前記太陽歯車の周りを公転せずに定位置において固定軸によって回転可能に支持され、且つ前記遊星大歯車および前記遊星小歯車は、前記環状内歯車、前記太陽歯車、または隣接する他の遊星大歯車もしくは遊星小歯車の何れか一つの歯車と噛み合うことを特徴とするターボファンジェットエンジン。
【請求項2】
一の遊星大歯車と同軸一体となって回転する遊星小歯車が次の遊星大歯車と噛み合うように複数の前記二段遊星歯車が多段に噛み合いながら、最外側の遊星大歯車は前記環状内歯車と噛み合い且つ最内側の遊星小歯車は前記太陽歯車と噛み合うように構成されている請求項1に記載のターボファンジェットエンジン。
【請求項3】
前記太陽歯車には、フロントファンとリアファンを回転駆動する回転動力を前後軸方向に伝達する回転軸が設けられている請求項1又は2に記載のターボファンジェットエンジン。
【請求項4】
各前記遊星歯車の各固定軸はプレート上に取り付けられ、該プレートは前記タービンの後段に設けられた案内羽根に一端を固定された支持部材によって保持固定されている請求項1に記載のターボファンジェットエンジン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−53561(P2013−53561A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−192503(P2011−192503)
【出願日】平成23年9月5日(2011.9.5)
【出願人】(503361400)独立行政法人 宇宙航空研究開発機構 (453)
【Fターム(参考)】