説明

ターボ分子ポンプ

【課題】ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【解決手段】ターボ分子ポンプ1において、真空処理室から飛来したパーティクル20をターボ分子ポンプ内において捕捉、あるいはパーティクルが跳ね返るときの速度を小さくする構成を備え、これによって、吸気口12から上流側へのパーティクルの跳ね返りを減少させ、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。飛来したパーティクルをターボ分子ポンプ内で捕捉する構成として、パーティクルを捕捉するトラップスペース40や凹部30を設ける構成、パーティクルを埋没させて捕捉する捕捉部材50の構成、あるいは、パーティクルが跳ね返るときの速度を小さくする構成として、突入して反跳するパーティクルの跳ね返り速度を低下させる緩衝部材の構成を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータを高速回転させることによって高真空を得るターボ分子ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
真空装置では、ターボ分子ポンプ等の吸引機構によって真空容器内等を吸引することによって真空状態を形成している。一般に、ターボ分子ポンプはステータとロータとを有するポンプユニットを備え、モータの電源駆動によってロータを回転させ、真空容器内を吸引・排気している。
【0003】
成膜やドライ・エッチングなどを行う半導体製造装置では、反応生成物等のパーティクルや真空処理室内などの内壁に堆積した物質が剥離したパーティクル等が真空処理室で発生する。これらのパーティクルがウエハ上に付着した場合には、半導体デバイスの欠陥の原因となる。
【0004】
半導体製造プロセスでは、微細加工が進むにつれて真空処理室内の圧力は、より低いことが求められている。このような低圧力では、真空処理室の下流に取り付けられたターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流が、圧力低下を妨げる原因として指摘されている(例えば、特許文献1、2)。
【0005】
パーティクルがターボ分子ポンプ内に吸引されると、高速回転する回転翼と衝突して反跳し、真空処理室に逆流する。逆流したパーティクルは、ガス圧が有る程度高い場合には、ガスの抵抗力が比較的大きいため、真空処理室までは到達しないが、ガス圧力が低下すると、逆流距離が延びて真空処理室内にまで到達する。真空処理室に到達したパーティクルは、ウエハ上に達し、半導体の歩留まりを悪化させる。
【0006】
上記した特許文献1,2には、この問題を解決する構成が提案されている。
【0007】
特許文献1には、ポンプケーシング内において、微小塵防止用の静翼ディスクを最上流段の動翼よりも上流に設ける構成が提案されている。
【0008】
また、特許文献2には、最も吸気側に位置する回転翼ブレードにおいて、吸気側の平面部の傾きを所定角に設定する構成が提案されている。この所定角は、吸気側平面の内向きの法線と、排気方向とのなす角を0度以上としている。
【特許文献1】特開平8−14188号公報
【特許文献2】特開2004−19493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一般に、成膜あるいはドライ・エッチングなどを行う半導体製造装置では、ウエハサイズの大型化や高真空プロセスへの移行に伴って、ターボ分子ポンプの排気性能を最大限に引き出す排気設計が求められている。そのため、排気性能の減少を極力抑えるには、パーティクルの真空処理室側への跳ね返りを低減させることが必要である。
【0010】
上記特許文献1に提案される構成では、静翼ディスクが排気作用を邪魔するため、ポンプの排気速度が低下するという問題がある。また、多数の翼で構成されているため、コストが高くなるという問題もある。
【0011】
また、上記特許文献2に提案される構成によれば、翼の上面で跳ね返るパーティクルの跳ね返り量を減らし、また、跳ね返ったパーティクルを接続配管の内面でさらに跳ね返すことができる。しかしながら、ロータ翼のエッジ(リーディングエッジ)部に跳ね返されたパーティクルが真空処理室方向に飛び出した場合、接続配管のV字溝で再びポンプ側に跳ね返されたとしても、これはパーティクルの往復運動を誘発するに過ぎず、一時的に真空処理室に到達するパーティクルが減少したとしても、いずれは飛び回るパーティクルの総量は増加し、真空処理室に到達するパーティクルが再び増加することになる。
【0012】
したがって、上記提案された構成では、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を十分に抑制することができないという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は上記課題を解決して、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制することを目的とする。
【0014】
より詳細には、排気速度の低下を抑えると共に、吸気口から上流側へのパーティクルの跳ね返りを減少させ、これによってターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のターボ分子ポンプは、ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、真空処理室から飛来したパーティクルをターボ分子ポンプ内において捕捉、あるいはパーティクルが跳ね返るときの速度を小さくする構成を備え、これによって、吸気口から上流側へのパーティクルの跳ね返りを減少させ、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0016】
本発明は、飛来したパーティクルをターボ分子ポンプ内で捕捉する構成として、パーティクルを捕捉するトラップスペースや凹部を設ける第1の態様、パーティクルを埋没させて捕捉する第2の態様を備える。また、本発明は、パーティクルが跳ね返るときの速度を小さくする構成として、突入して反跳するパーティクルの跳ね返り速度を低下させる第3の態様を備える。
【0017】
本発明の第1の態様は、ポンプケーシングの内部の内壁面に、吸気口から内部に流入したパーティクルを捕捉する構成を備える。
【0018】
本発明の第1の態様において、第1の形態は、ポンプケーシングは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側の内部にパーティクルを捕捉するトラップスペースを備える。
【0019】
吸気口から内部に流入したパーティクルは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼に衝突して反跳する。反跳したパーティクルはトラップスペース内に入り込む。このトラップスペースに入り込んだパーティクルは、ロータ翼と衝突した時の反発力によって、トラップスペースの内周の壁面に押し付けられ、トラップスペースからの飛び出しが抑制されている。このトラップスペースでパーティクルを捕捉することによって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0020】
このトラップスペースは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側の内壁の内径を、このロータ翼部における内壁の内径よりも大径とすることで形成することができる。
【0021】
本発明の第1の態様において、第2の形態は、ポンプケーシングの内部においてロータの吸い込み側の端部面の中央部分に凹部を備える。この凹部は、ロータの軸方向の断面形状において、径方向の長さは軸方向の長さよりも長くする。さらに、凹部は、軸方向の吸い込み側は吸気口側に向かって開口し、軸方向の吐き出し側を有底の内底部を形成する。この軸方向の開口と内底部との間にある中間部分は、その内径を開口の内径及び内底部の内径のいずれよりも大径とする。
【0022】
吸気口から内部に流入したパーティクルは、凹部の開口を通って凹部内に入り込む。この凹部に入り込んだパーティクルは、ロータの回転によって生じる遠心力によって、凹部内の開口と内底部との中間部分の内壁面に押し付けられる。中間部分の内壁面の内径は、凹部の開口の内径及び内底部の内径のいずれよりも大径であるため、凹部からの飛び出しが抑制されている。この凹部でパーティクルを捕捉することによって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0023】
第1の態様において、上記した第1の形態のトラップスペースの構成と凹部の構成とを組み合わせてもよい。この構成によれば、ロータ翼で反跳したパーティクルをトラップスペース内に捕捉することができ、また、ロータ翼で反跳せずにロータの上端に向かったパーティクルについては凹部内に捕捉することができるため、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0024】
本発明の第2の態様は、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側のポンプケーシング内壁面に柔軟性を有する捕捉部材を備える。この捕捉部材は、突入したパーティクルを反跳させることなく、表面部分に埋没させて捕捉する素材であり、例えば、ゴム材、スポンジ材等を用いることができる。この捕捉部材に衝突したパーティクルは、捕捉部材の柔軟性によって運動エネルギーが吸収されると共に、ロータの回転によって生じる遠心力によって捕捉部材に押し付け、捕捉部材の表面に埋没するようにして止まる。この捕捉部材によるパーティクルの捕捉によって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0025】
本発明の第3の態様は、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側のポンプケーシング内壁面に反発係数の小さな緩衝部材を備える。この緩衝部材は、突入して反跳するパーティクルの跳ね返り速度を低下させる素材であり、例えば、テフロン(登録商標)等を用いることができる。この緩衝部材に衝突したパーティクルは、緩衝部材の低反発率によって反跳するパーティクルの跳ね返り速度がロータ翼やロータの上端面等の金属面に衝突して反跳したときの跳ね返り速度よりも低速となる。この緩衝部材によるパーティクルの跳ね返り速度の低下によって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0026】
また、本発明は、上記した第1の態様は、上記した第2の態様あるいは第2の態様と組み合わせた構成としてもよい。例えば、トラップスペースの構成と捕捉部材と備える構成と組み合わせる構成、トラップスペースの構成と緩衝部材と備える構成と組み合わせる構成、凹部の構成と捕捉部材と備える構成と組み合わせる構成、凹部の構成と緩衝部材と備える構成と組み合わせる構成などとすることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。また、排気速度の低下を抑えると共に、吸気口から上流側へのパーティクルの跳ね返りを減少させ、これによってターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態について、図を参照しながら詳細に説明する。
【0029】
図1は本発明のターボ分子ポンプの概要、および、前記した本発明の第1の態様の一つである凹部を備える構成例を説明するための図である。
【0030】
ターボ分子ポンプ1は、ポンプケーシング2内にモータ駆動されるロータ3を備える。ロータ3はロータ翼3aを備え、ポンプケーシング2側に設けたステータ翼4aに対して駆動モータ10によって高速回転する。これによって、吸気口12から吸引して排気口13から排気し、吸気口12に接続される真空処理室(図示していない)内の気体分子を排気する。なお、ステータ翼4aはスペーサ5を介してポンプケーシング2に取り付けられステータ4を構成している。また、吸気口12の上流側には保護ネット14が設けられている。
【0031】
ロータ3は、ロータ3と同軸に固定された駆動軸6をDCモータや高周波モータ等の駆動モータ10を回転駆動させることで回転させている。駆動モータ10は、駆動軸6に設けられた磁極とポンプケーシング2側に設けたコイルによって構成される。また、駆動軸6はラジアル軸受7及びアキシャル(スラスト)軸受8によって非接触で支持される。
【0032】
ラジアル軸受7は、駆動軸6を挟んで対向して配置されたラジアル軸受電磁石と駆動軸6のラジアル方向に変位を検出するラジアル位置センサを有し、ラジアル位置センサで検出した位置変位に基づいてラジアル軸受電磁石に供給する電流を制御することによって、駆動軸6がラジアル方向で所定位置となるように位置制御を行う。なお、図1では、ラジアル軸受7は駆動モータ10を挟んで上下に2組備えている。
【0033】
また、アキシャル(スラスト)軸受8は、駆動軸6と同軸に設けたロータディスクと、このロータディスクを挟んで上下に設けたスラスト軸受電磁石と、駆動軸6のスラスト方向の変位を検出するアキシャル(スラスト)位置センサ11を有し、アキシャル(スラスト)位置センサ11で検出した位置変位に基づいてスラスト軸受電磁石に供給する電流を制御することによって、駆動軸6がアキシャル(スラスト)方向で所定位置となるように位置制御を行う。
【0034】
本発明のターボ分子ポンプ1は、ポンプケーシング2内において、真空室等(図示していない)から飛来したパーティクル20をターボ分子ポンプ内に捕捉する構成を備える。本発明は、このパーティクル20をポンプケーシング1内に捕捉する構成は、凹部30(以下、図1〜3を用いて説明する)、トラップスペース40(以下、図4を用いて説明する)、捕捉部材50(以下、図5を用いて説明する)、緩衝部材60(以下、図6を用いて説明する)の各形態によって実現することができる。
【0035】
図2は、パーティクルをポンプケーシング2内に捕捉する一形態である凹部の構成を示している。
【0036】
凹部30は、ロータ3の軸方向の端部面3bの中央部分に形成される。この凹部30は、ロータ3の軸方向の断面形状において、径方向の長さ(Da、Db、Dc)は軸方向の長さHよりも長い横長の形状とする。
【0037】
また、凹部30は、軸方向の吸い込み側(吸気口側12)の端部面3bを開口端30aとし、軸方向の吐き出し側は有底として内底部30cを形成する。この軸方向の開口端30aと内底部30cの間にある中間部分30bは、その内径Dbを開口の内径Da及び内底部の内径Dcのいずれよりも大径とする。
【0038】
吸気口12側から飛来したパーティクル20の内の一部は、ロータ3の端部面3bに向かう。ロータ3の中央部分は、ロータ翼3aがロータ3の回転軸に取り付けられるロータ翼3aの付け根部分であって翼が設けられていないか、あるいは、ロータ翼3aの回転速度が低速である部分である。パーティクル40がロータ3の中央部分に衝突して跳ね返る際には、ロータ3から運動量が与えられるが、衝突した箇所の回転速度が低速であるため、パーティクル40に付与される運動量は小さい。そのため、ロータ3の中央部分で反跳したパーティクル40は、運動量は小さく、仮に飛び出したとしても、吸気口12を逆流して真空処理室までは到達することはない。
【0039】
また、ロータ3の端部面3bに向かうパーティクル20の一部は、端部面3bに形成した凹部30の開口30aを通過して凹部30内に入る。凹部30内に入ったパーティクル20aは、ロータの回転による遠心力によって径方向の外側に向かう。凹部30の内壁は、前記したように、中間部分30bの内径Dbは開口部分30aの内径Da及び内底部30cの内径Dcよりも大径に形成されているため、パーティクル20aは中間部分30bの内壁部分に押し付けられる。これによって、凹部30内に一旦入ったパーティクル20aは、開口部分30aを通って吸気口12側に飛び出し、吸気口12側に逆流することはない。
【0040】
図3は凹部の別の構成例を説明するための図である。図3に示す凹部は、前記した内底部30cの内径Dcを開口30aの内径Daよりも大径とし、開口30aの周縁部から内底部30cの内縁部に向かって内径の大きさが単純増加する構成例である。この構成では、凹部30のロータ3の軸方向で切り取った断面形状はほぼ台形形状となり、内壁面は傾斜面となる。なお、凹部30の内壁部の壁面は、断面形状において、直線に限らず曲線であってもよい。
【0041】
上記した図3の凹部構成の場合には、凹部30内に入ったパーティクル20aは、ロータの回転による遠心力によって径方向の外側に向かうと共に、内壁の傾斜面に沿ってロータ軸方向の排気側に移動し、内底部30cの内縁部に押し付けられて止まる。これによって、凹部30内に一旦入ったパーティクル20aは、開口部分30aを通って吸気口12側に飛び出し、吸気口12側に逆流することはない。
【0042】
次に、本発明のターボ分子ポンプにおいて、ポンプケーシングの内部の内壁面に吸気口から内部に流入したパーティクルを捕捉する別の一形態であるトラップスペースの構成について、図4を用いて説明する。なお、トラップスペース以外の構成は、前記図1で示した構成と同様とすることができるため、ここでは共通する構成の説明は省略し、主にトラップスペースの構成について説明する。
【0043】
図4において、ポンプケーシング2は、ロータ3の吸い込み側1段目のロータ翼3aよりも上流側の内部にパーティクルを捕捉するトラップスペース40を備える。トラップスペース40は、ポンプケーシング2の吸気口12とロータ3の吸い込み側1段目のロータ翼3aとの空間部分において、ポンプケーシング2の壁部分を径方向で外側に向かって広げ、ロータ翼部3aにおける内壁の内径よりも大径とすることにより構成することができる。この径方向で外側に向かって広がられた内壁が形成するスペース部分は、内部に入り込んだパーティクル20aを捕捉する空間を形成する。
【0044】
吸気口12からターボ分子ポンプ1の内部に流入したパーティクル20は、直接に、あるいは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼で反跳した後、トラップスペース40内に入り込む。このトラップスペース40に入り込んだパーティクル20aは、ロータ翼3aと衝突した時の反発力によって、トラップスペース40の内周の壁面に押し付けられ、トラップスペース40からの飛び出しが抑制されている。このトラップスペース40でパーティクル20aを捕捉することによって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0045】
次に、本発明のターボ分子ポンプにおいて、ポンプケーシングの内部の内壁面に吸気口から内部に流入したパーティクルを捕捉する更に別の一形態である捕捉部材の構成について、図5を用いて説明する。なお、捕捉部材以外の構成は、前記図1で示した構成と同様とすることができるため、ここでは共通する構成の説明は省略し、主に捕捉部材の構成について説明する。
【0046】
図5において、ポンプケーシング2は、ロータ3の吸い込み側1段目のロータ翼3aよりも上流側の内部の内壁面にパーティクルを捕捉する捕捉部材50を備える。捕捉部材50は、衝突したパーティクルの運動エネルギーを吸収して捕捉し、吸気口12側への逆流を抑制する柔軟性を有する素材であり、例えば、ゴム材、スポンジ材、コットン材等の素材を用いることができる。図5では捕捉部材50は斜線のハッチングで示している。
【0047】
この捕捉部材50は、ポンプケーシング2において、吸気口12と1段目のロータ翼3aとの間の内壁面の内側に、貼り付けや塗布等の任意の手段によって設けることができる。
【0048】
吸気口12からターボ分子ポンプ1の内部に流入したパーティクル20が、直接に、あるいは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼で反跳した後、ポンプケーシング2の内壁面に設けられた捕捉部材50に衝突すると、衝突したパーティクル20aは捕捉部材50によってその運動エネルギーが吸収される。捕捉部材50は、その柔軟性と共に、パーティクル20aを保持する捕捉性を有し、パーティクル20aをその表面に保持し、飛び出しを抑制する。この捕捉部材50でパーティクル20aを捕捉することによって、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流を抑制する。
【0049】
次に、本発明のターボ分子ポンプにおいて、ポンプケーシングの内部の内壁面に吸気口から内部に流入したパーティクルの跳ね返り速度を低下させる一形態である緩衝部材の構成について、図6を用いて説明する。なお、緩衝部材以外の構成は、前記図1で示した構成と同様とすることができるため、ここでは共通する構成の説明は省略し、主に捕捉部材の構成について説明する。
【0050】
図6において、ポンプケーシング2は、ロータ3の吸い込み側1段目のロータ翼3aよりも上流側の内部の内壁面にパーティクルの反跳速度を低下させる緩衝部材60を備える。緩衝部材60は、衝突したパーティクルの運動エネルギーを吸収して、反跳して跳ね返る際の速度を下げ、吸気口12側への逆流を抑制する反発係数の小さな素材であり、例えば、テフロン(登録商標)等の素材を用いることができる。図6では緩衝部材60は斜線のハッチングで示している。
【0051】
この緩衝部材60は、ポンプケーシング2において、吸気口12と1段目のロータ翼3aとの間の内壁面の内側に、貼り付けや塗布やコーティング等の任意の手段によって設けることができる。
【0052】
吸気口12からターボ分子ポンプ1の内部に流入したパーティクル20が、直接に、あるいは、ロータの吸い込み側1段目のロータ翼で反跳した後、ポンプケーシング2の内壁面に設けられた緩衝部材60に衝突すると、衝突したパーティクル20aは緩衝部材60によってその運動エネルギーが吸収される。
【0053】
緩衝部材60で反跳したパーティクル20aの跳ね返り速度は、パーティクルがポンプケーシングを形成する金属材の表面に衝突して跳ね返るときの速度よりも小さくなる。これによって、仮に、緩衝部材60で反跳したパーティクル20aが吸気口12側に向かって跳ね返った場合であっても、その速度は、パーティクル20aが真空室(図示していない)に到達するに至らないため、ターボ分子ポンプから真空処理室内へのパーティクルの逆流は抑制される。
【0054】
前記した図5,6で示した捕捉部材や緩衝部材による構成は、図1で示した凹部による構成や図4で示したトラップスペースによる構成と組み合わせることができる。
【0055】
図7は、凹部30の構成とトラップスペース40を備えるターボ分子ポンプにおいて、トラップスペース40の内壁部に捕捉部材50あるいは緩衝部材60を備える。
【0056】
この構成によれば、ロータ3の中央部に流入したパーティクルは凹部内に捕捉され、ロータ3の外周方向に流入したパーティクルや、一段目のロータ翼で反跳したパーティクルは、トラップスペース40内に捕捉される。
【0057】
さらに、トラップスペース40の内壁面に捕捉部材50が設けられている場合には、パーティクルはこの捕捉部材50に捕捉され、また、トラップスペース40の内壁面に緩衝部材60が設けられている場合には、パーティクルはこの緩衝部材60によって跳ね返り速度が低下する。
【0058】
捕捉部材50や緩衝部材60は、トラップスペース40の内壁に限らず、トラップスペース40と吸気口12との間の内壁や、トラップスペース40と1段目のロータ翼3の外周部分の壁部との間の内壁に設けても良い。
【0059】
また、吸気口12と1段目のロータ翼3aとの間の内壁面の内側において、捕捉部材と緩衝部材との両方の素材を設置場所を異ならせて設けてもよい。例えば、トラップスペース40の内壁のうちで、外周側の壁部に捕捉部材を設け、内周側の緩衝部材を設ける構成としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のターボ分子ポンプの概要を説明するための図である。
【図2】本発明のパーティクルをポンプケーシング内に捕捉する一形態である凹部の構成を示す図である。
【図3】本発明のパーティクルをポンプケーシング内に捕捉する一形態である凹部の別の構成を説明するための図である。
【図4】本発明のパーティクルをポンプケーシング内に捕捉する一形態であるトラップスペースの構成を説明するための図である。
【図5】本発明のパーティクルをポンプケーシング内に捕捉する一形態である捕捉部材の構成を説明するための図である。
【図6】本発明のパーティクルの跳ね返り速度を低下させる一形態である緩衝部材の構成の構成を説明するための図である。
【図7】本発明の凹部の構成とトラップスペースの構成と捕捉部材、緩衝部材60の構成との組み合わせを説明するための図である。
【符号の説明】
【0061】
1…ターボ分子ポンプ、2…ポンプケーシング、3…ロータ、3a…ロータ翼、3b…端部面、4…ステータ翼、4a…ステータ翼、5…スペーサ、6…駆動軸、7…ラジアル軸受、8…アキシャル軸受、9…タッチダウンベアリング、11…ギャップセンサ、12…吸気口、13…排気口、14…保護ネット、20,20a…パーティクル、30…凹部、30a…開口、30b…中間部分、30c…内底部、40…トラップスペース、50…捕捉部材、60…緩衝部材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ポンプケーシングは、吸気口から内部に流入したパーティクルをポンプケーシングの内部の内壁面に捕捉することを特徴とする、ターボ分子ポンプ。
【請求項2】
ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ポンプケーシングは、前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側の内部にパーティクルを捕捉するトラップスペースを備えることを特徴とする、ターボ分子ポンプ。
【請求項3】
前記トラップスペースは、
前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側の内壁の内径を、前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼部における内壁の内径よりも大径とすることで形成することを特徴とする、請求項1に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項4】
ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータの吸い込み側の端部面の中央部分に凹部を備え、
前記凹部は、ロータの軸方向の断面形状において、
径方向の長さは軸方向の長さよりも長く、
軸方向の吸い込み側の端部は吸気口側に向かって開口し、
軸方向の吐き出し側は有底として内底部を形成し、
軸方向の前記開口と内底部の中間部分の内径は、前記開口の内径及び前記内底部の内径よりも大径であることを特徴とする、ターボ分子ポンプ。
【請求項5】
前記ロータの吸い込み側の端部面の中央部分に、ロータの軸方向の断面形状において、径方向の長さが軸方向の長さよりも長く、軸方向の吸い込み側の端部は吸気口側に向かって開口し、軸方向の吐き出し側の端部は閉じて内底部を形成し、軸方向の前記両端部の中間部分の内径が前記開口の内径及び前記内底部の内径よりも大径である凹部を備えることを特徴とする、請求項2又は3に記載のターボ分子ポンプ。
【請求項6】
ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側のポンプケーシング内壁面に柔軟性を有する捕捉部材を備え、
当該捕捉部材は、突入したパーティクルを埋没させて捕捉することを特徴とする、ターボ分子ポンプ。
【請求項7】
ポンプケーシング内に回転自在に軸支された多段のロータ翼を有するロータと、
前記ロータ翼間に固定された多段のステータ翼を有するステータとを備えるターボ分子ポンプにおいて、
前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側のポンプケーシング内壁面に反発係数の小さな緩衝部材を備え、
当該緩衝部材は、突入して反跳するパーティクルの跳ね返り速度を低下させることを特徴とする、ターボ分子ポンプ。
【請求項8】
前記ロータの吸い込み側1段目のロータ翼よりも上流側のポンプケーシング内壁面に、柔軟性を有する捕捉部材又は反発係数の小さな緩衝部材を備えることを特徴とする、請求項2から請求項5のいずれか一つに記載のターボ分子ポンプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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