説明

ターボ式血液ポンプ及びその製造方法

【課題】血栓の形成を効果的に回避可能な構成を有し、しかも、製造工程の煩雑さを回避可能な簡潔なハウジング構造とする。
【解決手段】インペラ5の複数のベーン6の一部はその内周端が回転軸7と結合し、各ベーンの外周端は環状連結部8に結合している。ハウジング1の底部壁を上方に突出させて形成された台座18は、環状連結部の内部空間に対応する円筒状である。ハウジングは上部材24と下部材25に分割形成され、上部材の周縁部は下方に伸びて接合円筒壁24aを形成し、下部材は、ポンプ室の底部を形成する底部壁25a、及び斜め上外方に延在する側部壁25bを含む。下部材の側部壁の周縁部は上部材の接合円筒壁の基端部の内側に嵌合し、当接箇所に形成された凹部に接着剤26が充填されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インぺラの回転によって血液に遠心力を与えて駆出し流動させるターボ式血液ポンプに関し、特に、インぺラが回動自在に収容されるポンプ室を形成するためのハウジングの構造の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
血液ポンプは、人工心肺装置等における体外血液循環を行うために不可欠である。血液ポンプの一種として、ターボ式血液ポンプが知られている。ターボ式血液ポンプは、ポンプ室内でインペラ(羽根車)を回転させることにより、遠心力により、血液を送液するための差圧を発生させるように構成されている。
【0003】
ターボ式血液ポンプは、その動作原理の故に、血液ポンプの小型化、軽量化、低コスト化が可能である。また、ローラポンプ型の血液ポンプのようにチューブの損傷などがなく、血液ポンプの耐久性に優れているので、長時間の連続運転に好適に使用することができる。したがって、ターボ式血液ポンプは、人工心肺装置や開心術後の心補助装置の体外循環回路用の血液ポンプとして極めて有用である。
【0004】
例えば特許文献1に記載されているターボ式血液ポンプは、図9に示すような構造を有する。同図において、1はハウジングであり、血液を通過させ流動させるためのポンプ室2を形成している。ハウジング1には、ポンプ室2の上部に連通する入口ポート3と、ポンプ室2の側部に連通する出口ポート4が設けられている。ポンプ室2内にはインペラ5が配置されている。インペラ5は、6枚のベーン6、回転軸7、及びリング状の環状連結部8を有する。
【0005】
インペラ5の上面図を図10に、インペラ5の断面図を図11に示す。図10に示すように、6枚のベーンは2種類の形状のもの、すなわち、主ベーン6aと、それより短い副ベーン6bを含み、それらが交互に配置されている。主ベーン6aと副ベーン6bを総称してベーン6と記す。主ベーン6aは、中心側端部が回転軸7に結合し、周縁側端部が環状連結部8に結合している。副ベーン6bは、中心側端部が回転軸7には結合せず自由端となっており、周縁側端部のみが環状連結部8に結合している。副ベーン6bを混在させることにより、全てのベーン6を回転軸7に結合させた場合と比べて、ベーン6による流路の妨げを軽減している。従って、主ベーン6aは、インペラ5を回転軸7で支持し、かつ十分な駆出力を得るための最小限の本数に設定される。なお、図9におけるベーン6の断面形状は、図示の便宜上、図10に示した主ベーン6aに沿った形状のみが示されている。
【0006】
ベーン6(主ベーン6a及び副ベーン6bとも)の下端縁は、頂点が上方に向いた円錐面に沿うように配置されている。すなわち、ベーン6は回転軸7に対して傾斜して、斜流ポンプを形成している。また、ベーン6の形状は、3次元曲面に形成されている。それにより、充分な駆出能を有しながら、ベーン6の出口側で発生するキャビテション(流れの剥離、渦流)を抑制し、溶血の低減した血液ポンプを実現できる。
【0007】
図9に示すように、回転軸7は、ハウジング1に設けた上部軸受け9及び下部軸受け10により、回転自在に支持されている。従って、上部軸受け9と下部軸受け10により、インペラ5が上下位置で安定な状態に支持され、その回転は安定したものとなる。環状連結部8には、磁石ケース11が設けられ、磁石ケース11には従動磁石12が埋設され固定されている。従動磁石12は、円柱状であり、環状連結部8の周方向に6個、一定間隔をもって配置されている。環状連結部8及び磁石ケース11は円筒形内周面を形成している。
【0008】
ハウジング1の下部には、ロータ13が配置されている。ロータ13は、駆動軸14に略円柱状の磁気結合部15が設けられた構造を有する。駆動軸14は、図示しないが、回転自在に支持されるとともに、モータ等の回転駆動源に連結されて回転駆動される。また、ロータ13とハウジング1とは、図示しない要素により、相互の位置関係が一定に保持されている。磁気結合部15の上面部には駆動磁石16が、埋設され、固定されている。駆動磁石16は円柱状であり、周方向に6個、一定間隔をもって配置されている。
【0009】
駆動磁石16は、ハウジング1の壁を挟んで従動磁石12と対向する位置関係となるように配置されている。従って、ロータ13とインペラ5との間には、磁気的に連結された状態が形成され、ロータ13を回転させることにより、磁気結合を介してインペラ5に回転駆動力が伝達される。
【0010】
ベーン6の下端縁が円錐面に沿って配置されているので、従動磁石12が設置された環状連結部8の上下面も、回転軸7に対して直交せず、同様の円錐面に沿っている。同様に駆動磁石16が設置された磁気結合部15の上面も傾斜面である。このように、従動磁石12と駆動磁石16とが、インペラ5の回転軸に対して傾斜した面において磁気結合を形成していることにより、インペラ5とロータ13の間に作用する磁気吸引力は、インペラ5の回転軸に対して傾斜した方向に発生する。その結果、下部軸受け10に対する下向きの負荷が軽減される。
【0011】
インペラ5は、環状連結部8の内側の領域に空間17を有し、ベーン6の間を上下に貫通する流路が形成されている。ハウジング1の底部の中央部には、上方、すなわちポンプ室2内部に突出した円筒形外周面を有する台座18が形成されている。台座18は、インペラ5の下部の、従動磁石12および環状連結部8の内側の領域の空間17を埋めるように形成され、空間の体積を最少限に抑制している。台座18の上面は、ベーン6の下端縁に沿って上に凸となった円錐面状の傾斜面に形成されている。台座18の周囲におけるハウジング1の底部も同様の傾斜面に形成されている。
【0012】
台座18が形成されていることにより、ポンプ室2内の血液充填量が低減される。また、環状連結部8が、ハウジング1の底面全体を覆う大きさではなく、空間17が形成されていることにより、インペラ5は軽量となり、回転に必要な駆動力が低減される。下部軸受け10は、台座18の上面部中央に設けられている。なお、上部軸受け9は、入口ポート3の下端部内に配置された3本の軸受け支柱19の先端に支持されている。
【0013】
上記構成は、インペラ5の下部に血液が滞留する状態を改善して、血液ポンプの長期使用時(経皮的心肺補助法など)に、血栓が形成される惧れを解消するために効果的である。すなわち、環状連結部8の内側の空間領域に、ベーン6の間を上下に貫通する流路が形成され、インペラ5の下部に流れてきた血液は、下部軸受け10の近傍を通過して、ベーン6の外径方向に向かって流れ出る作用が得られるからである。
【0014】
インペラ5は更に、回転軸7と環状連結部8の間に亘る領域のベーン6の下部に配置された封鎖部材20を有する。閉鎖部材20は、回転軸7と環状連結部8の間に亘る領域の空間からベーン6の間に貫通する流路を、回転軸7の周囲に一部の開口部21を残して封鎖している。
【0015】
閉鎖部材20を設けることにより、台座18の上面の下部軸受け10の近傍における血栓の形成を抑制する効果が向上する。すなわち、ハウジング1の底面部の血液が、封鎖部材20の下面に沿ってインペラ5の中心に向って流動する流れが強まるからである。血液流はその後、封鎖部材20の開口部21を通って上昇するので、下部軸受け10に隣接し回転軸7に沿って十分な速度の血液流が形成され、下部軸受け10に対する洗浄効果が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2010−207346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上記構成の血液ポンプにおけるハウジング1の構造について、本発明者は、製造を容易にするための改良を検討した。望ましい構造案は、ハウジング1が上下分割面により、入口ポート3を含む側の上部材と、台座18を含む側の下部材とに2分割されることを前提とする。その場合、インペラ5をハウジング1内に装着するために、上部軸受け9と下部軸受け10の間に回転軸7を支持させた状態にして、上部材と下部材とを結合させる。
【0018】
下部材は、ポンプ室2の内面を形成するために、台座18を含む底面を形成する底部壁と、ハウジング1の側面の一部を形成する側部壁を含むことになる。上部材の側部壁の下端部と、下部材の側部壁の上端部とが当接する箇所が上下分割面であり、その箇所で上部材と下部材が接合される。
【0019】
このようなハウジング1の分割構造において、下部材の側部壁は、図9に示されるように、傾斜面を形成するように構成することが望ましい。これは、ベーン6が回転軸7に対して傾いており、それに合わせて環状連結部8も傾いた形態になるので、環状連結部8の縁端面が傾いていることに対応させるためである。すなわち、この形態において下部材の側部壁を回転軸7に平行にすると、環状連結部8の縁端面との間に形成される空間の容積が大きくなり、血液充填量の増大の原因となる。これを回避するためには、下部材の側部壁は、環状連結部8の縁端面に合わせて傾いた形状を採る。
【0020】
このように傾いた側部壁を形成した場合、通常用いられている超音波溶着により、上部材の側部壁と下部材の側部壁を直接接合することは困難である。そのため、上部材及び下部材の側部壁が互いに当接する箇所で、ウレタン樹脂等の接着剤により接合せざるを得ない。その場合、ウレタン樹脂等の接着剤がポンプ室2内部に漏れると、不良の原因となるので、そのような事態を回避するための構成上の工夫は不可欠である。
【0021】
従って本発明は、血栓の形成を効果的に回避可能な構成を有し、しかも、ハウジングを形成する上部材と下部材の接合を、接着剤により容易かつ不良を発生させるなく行うことが可能なハウジング構造を有するターボ式血液ポンプ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明のターボ式血液ポンプは、ポンプ室を形成し、上部に入口ポートが設けられ、側部に出口ポートが設けられたハウジングと、回転軸、複数のベーン及び環状連結部を有し、前記複数のベーンの少なくとも一部の内周端は前記回転軸と結合し、前記各ベーンの外周端は前記環状連結部に結合しているインペラと、前記ハウジングの底部壁を上方に突出させて形成され、前記環状連結部の円筒状の内周面が形成する空間領域に対応する円筒状の外周面を有する台座と、前記ハウジングの上部に配置され前記インペラの回転軸の上端を回転自在に支持する上部軸受けと、前記台座の上面部に設けられ前記インペラの回転軸の下端を回転自在に支持する下部軸受けと、前記ハウジングの外側下部に配置され、前記環状連結部との磁気結合を介して前記インペラを回転駆動するロータとを備え、前記ベーンの下端縁は、上向きの円錐面に沿うように前記回転軸に対して傾斜している。
【0023】
そして、上記課題を解決するために、本発明のターボ式血液ポンプは、前記ハウジングは、前記入口ポート及び前記出口ポートを含む側の上部材と前記台座を含む側の下部材とに2分割して形成され、前記上部材の周縁部は下方に伸びて円筒状の接合円筒壁を形成し、前記下部材は、前記台座を含み前記ポンプ室の底部を形成する底部壁、及び前記ポンプ室の側部の一部を形成して斜め上外方に延在する側部壁を含み、前記下部材の前記側部壁の周縁部は、前記上部材の前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合し、前記側部壁の周縁部が前記接合円筒壁の基端部に当接する箇所において、前記側部壁と前記接合円筒壁の間に形成された凹部に接着剤が充填されて、前記上部材と前記下部材とを接合していることを特徴とする。
【0024】
本発明のターボ式血液ポンプの製造方法は、上記構成の血液ポンプを製造する方法であって、前記ハウジングの前記上部材と前記下部材の間に前記インペラを配置し、前記回転軸が前記上部軸受けと前記下部軸受けにより支持された状態になるように、前記下部材の前記側部壁の周縁部を前記上部材の前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合させ、前記側部壁の周縁部が前記接合円筒壁の基端部に当接する箇所において、前記側部壁と前記接合円筒壁の間に形成された凹部に接着剤を充填し固化させて、前記上部材と前記下部材とを接合することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
上記構成によれば、上部材の円筒状の接合円筒壁の内側に、下部材の斜め上外方に延在する側部壁が嵌合した結合構造が用いられるため、側部壁と接合円筒壁の間に形成された凹部に接着剤を容易に充填することができ、仮接着の工程が不要で、接着剤がポンプ室内部に漏れる恐れも解消される。従って、血栓の形成を効果的に回避可能なように下部材が傾いた側部壁を有する構造を採用しながら、上部材と下部材の接合工程が簡潔になり、ハウジングの製造コストを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態におけるターボ式血液ポンプの断面図
【図2】同ターボ式血液ポンプを分解して構成を示す断面図
【図3】同ターボ式血液ポンプのハウジングを構成する下部材を示す斜視図
【図4】同ターボ式血液ポンプの製造方法の一工程を示す断面図
【図5】比較例のターボ式血液ポンプの構成を示す断面図
【図6】同ターボ式血液ポンプを分解して構成を示す断面図
【図7】同ターボ式血液ポンプのハウジングを構成する下部材を示す斜視図
【図8】同ターボ式血液ポンプの製造工程の一部を示す斜視図
【図9】従来例のターボ式血液ポンプの断面図
【図10】図9のターボ式血液ポンプのインペラの上面図
【図11】同インペラの断面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、上記構成を基本として以下のような態様をとることができる。
【0028】
すなわち、上記構成のターボ式血液ポンプにおいて、前記台座の上面、及び前記台座の周囲の前記ハウジングの底部壁は、前記ベーンの下端縁に沿った円錐面に形成されている構成とすることができる。
【0029】
また、前記下部材の前記底部壁により、前記ロータを配置するための凹部が形成されている構成とすることができる。
【0030】
また、上記構成のターボ式血液ポンプの製造方法において、前記側部壁の周縁部を前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合させた嵌合体を形成した後、前記回転軸が上下方向を向き、前記下部材が前記上部材の上部に位置するように前記嵌合体を配置して、前記凹部に対して前記接着剤を充填することが好ましい。
【0031】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0032】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態におけるターボ式血液ポンプを示す断面図である。このターボ式血液ポンプの基本的な構造は、図9〜図11に示した従来例のものと同様である。従って、図9〜図11に示した要素と同様の要素については、同一の参照符号を付して、説明の繰り返しを簡略化する。
【0033】
図1に示す本実施の形態のターボ式血液ポンプでは、ハウジング22が形成するポンプ室2内に配置されたインペラ5が、複数のベーン6を有し、その少なくとも一部の内周端部が回転軸7と結合し、外周縁部を形成する環状連結部8に各ベーン6の外周端部が結合している。回転軸7は、上部軸受け9と下部軸受け10により回転自在に支持されている。下部軸受け10は、台座18の上面部に設けられている。
【0034】
ハウジング1は、上下分割面23により、入口ポート3及び出口ポート4を含む側の上部材24と、台座18を含む側の下部材25とに2分割して形成されている。上部軸受け9は上部材24に設けられている。インペラ5は、その回転軸7が上部軸受け9と下部軸受け10により支持されており、その状態で上部材24と下部材25が接合されている。
【0035】
台座18は、ハウジング22の底部壁内側の中央部を上方に突出させて形成されており、環状連結部8の円筒状の内周面が形成する空間領域に対応する円筒状の外周面を有する。インペラ5は、ベーン6の下部に配置された封鎖部材20を備えている。封鎖部材20は、ベーン6の下端縁の傾斜に沿った円錐面状の傾斜面を形成している。閉鎖部材20は、環状連結部8の内部領域の空間を、回転軸7の周囲に開口部21を残して封鎖している。
【0036】
本実施の形態は、下部材25の形状、及び上部材24と下部材25の接合形態に特徴を有する。図2は、図1のターボ式血液ポンプの上部材24と下部材25を結合させる前の分解状態を示す断面図である。下部材25にはインペラ5が装着された状態が示されている。上下分割面23は、出口ポート4を上下に2分する位置に設けられているが、上部材24の周縁部は下方に伸びて円筒状の接合外筒壁24aを形成しているので、出口ポート4は上部材24に付属するように形成されている。
【0037】
下部材25のみの外観を、図3に斜視図で示す。下部材25は、台座18を含むポンプ室2の底部を形成する底部壁25a、及びポンプ室2の側部の一部を形成する側部壁25bを有する。側部壁25bは、斜め上外方に伸びている。台座18の上面及び下部軸受け10の上面を含む面は、上に凸となった円錐面状の傾斜面となっている。また、台座18の周囲の底部壁25a、すなわち、環状連結部8と対向する壁面も、環状連結部8に沿った傾斜面となっている。さらに、底部壁25aと側部壁25bの境界部から下方に分岐して延在する下部円筒壁25cが設けられ、ロータ13を配置するための凹部(図1参照)を形成している。
【0038】
下部材25の側部壁25bの周縁部が、上部材24の接合外筒壁24aの内側に嵌合している。その嵌合により側部壁25bの周縁部が接合円筒壁24aの基端部に当接する箇所において、側部壁25bと接合円筒壁24aの間に形成された凹部に接着剤26が充填されて、上部材24と下部材25とを接合している。
【0039】
この構造では、下部材25の側部壁25bの周縁部のみが接合外筒壁24aの内側に嵌合している。この構造により、十分に安定で強固な結合状態を得ることが可能である。また、接着剤26の充填は、側部壁25bと接合外筒壁24aの外部に形成され開放された凹部に対して行うので、わざわざ両壁(側部壁25b、接合外筒壁24a)の接合面に接着剤を注入する必要はない。従って、嵌合部から接着剤26がポンプ室2の内部へ浸入する可能性は低く、接着剤漏れに起因する不良が低減される。また、接着剤を注入するための治具が不要である。以上のように、下部材25の周縁部の形状を簡素にすることができ、製造が容易で製品コストの低減に効果的である。
【0040】
この血液ポンプを組み立てる際には、上部材24と下部材25の間にインペラを配置して、回転軸7が上部軸受け9と下部軸受け10により支持された状態にする。その際、側部壁25bの周縁部を接合円筒壁24aの基端部の内側に嵌合させる。そして、図4に示すように、回転軸7が上下方向を向き、下部材25と上部材24が倒置した姿勢にして載置する。この状態で、側部壁25bと接合円筒壁24aの間に形成された凹部に接着剤26を充填し硬化させて、上部材24と下部材25の接合が完了する。
【0041】
上記構成の血液ポンプの利点を説明するために、図5〜図8に示す比較例について説明する。この比較例は、製造を容易にするためのハウジングの構造の改良の別案としてを検討したものである。
【0042】
図5に示すハウジング27は、上下分割面23により、入口ポート3を含む側の上部材24と、台座18を含む側の下部材28とに2分割して形成されている。図6は、上部材24と下部材28を結合させる前の分解状態を示す断面図である。下部材28にはインペラ5が装着された状態が示されている。この比較例では、下部材28の構造が、本実施の形態における下部材25とは相違する。下部材28のみの外観を図7に斜視図で示す。
【0043】
下部材28は、ポンプ室2の内面を形成する要素部分として、底面を形成し台座18が形成された底部壁28a、及び側面の一部を形成する側部壁28bを含む。また、底部壁28aと側部壁28bの境界部から、下方に分岐して延在する下部円筒壁28cが設けられている。さらに、側部壁28bの周縁が下方に伸びて円筒状の接合内筒壁28dを形成している。接合内筒壁28dが上部材24の接合外筒壁24aの内側に嵌合することにより、上部材24と下部材28が結合している。
【0044】
図5に示すように、接合外筒壁24aと接合内筒壁28dの接合面には、内腔が設けられ、ウレタン樹脂などの接着剤29が注入されている。内腔は、ハウジング27の全周に亘って設けられている。接合外筒壁24aには、内腔と外部を連通させる注入孔30が設けられ、この注入孔30を通じて接着剤29が注入され、上部材24と下部材28の嵌合を固定している。
【0045】
この血液ポンプを組み立てる際には、上部材24、インペラ5及び下部材28を、図6に示す状態に準備し、溶剤仮接着部31に溶剤を塗布する。そして接合外筒壁24aと接合内筒壁28dを図5に示したように嵌合させて、仮接着させる。このときの接合外筒壁24aと接合内筒壁28dの嵌合部分を、図8に拡大して断面図で示す。この状態で、注入孔30を通じてウレタン樹脂等の接着剤29をシリンジにより圧入し硬化させて、上部材24と下部材28の接合が完了する。
【0046】
以上に示したハウジング27の比較例では、下部材28の周縁部の形状が複雑になる。これは、上述のとおり血液充填量の増大を回避するために、環状連結部8の縁端面の傾きに対応させて側部壁28bを傾斜させ、接着のために、側部壁28bの周縁を回転軸7に平行に延在させて接合内筒壁28dを形成して、接合外筒壁24aとの間に接着部29を充填する構成を採ることに起因する。
【0047】
この結果、下部材28を接合するための構造が複雑であり、また、組み立て工程も、溶剤による仮接着と接着剤による接着を行う必要がある。さらに、接着剤による接着に際しては、注入孔30を通じてシリンジにより接着剤を注入しなければならず、治具が必要である。しかも、接着剤がシリンジにより圧入されるので、溶剤による仮接着が不十分な場合、ウレタン樹脂等の接着剤がポンプ室2内部に漏れて、不良の原因となるおそれがある。
【0048】
これに対して、上述の本実施の形態の構造では、図6、図7に示した比較例の場合に設けられた下部材28の接合内筒壁28dを設けない。実験の結果によれば、接合内筒壁28dを設けなくとも、下部材25の側部壁25bの周縁部のみが接合外筒壁24aの内側に嵌合することにより、十分に安定で強固な結合状態を得ることが可能であることが判った。これにより、下部材25の周縁部の形状を簡素にすることができ、製造が容易で製品コストの低減に効果的である。
【0049】
また、本実施の形態によれば、上部材24と下部材25とを接合する工程において、比較例の工程における溶剤による仮接着が不要である。また、接着剤26の充填は、側部壁25bと接合円筒壁24aの間に形成された開放された凹部に対して行うので、接着剤を注入する際にシリンジにより圧入することは不要である。そのため、嵌合部から接着剤がポンプ室2の内部へ浸入することはなく、不良率の低減に効果的である。また、溶剤による仮接着が不要であるため、塗布後の溶剤乾燥処理も必要なく、作業効率を向上できる。
【0050】
なお、本実施の形態のターボ式血液ポンプは、一例として、以下のような材質を用いて構成することができる。インペラ5及びハウジング1の材質(従って台座18の材質も)としては、例えば、軽量化、易成型性、強度、寸法安定性等の点からポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルフォン等の合成樹脂を用いることができる。軸受けの素材は耐摩耗性の大きいものであれば良く、例えば超高分子量ポリエチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の高耐久性プラスチックが好適に利用できる。インペラ5の回転軸7の材質としては、例えばSUS(ステンレス鋼)を用いることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明のターボ式血液ポンプは、血栓の形成を効果的に回避可能な構成を有し、しかも、製造工程の煩雑さを回避可能な簡潔なハウジング構造を有するので、人工心肺装置等における体外血液循環に用いる血液ポンプとして有用である。
【符号の説明】
【0052】
1、22、27 ハウジング
1a、24 上部材
1b、25、28 下部材
2 ポンプ室
3 入口ポート
4 出口ポート
5 インペラ
6 ベーン
6a 主ベーン
6b 副ベーン
7 回転軸
8 環状連結部
9 上部軸受け
10 下部軸受け
11 磁石ケース
12 従動磁石
13 ロータ
14 駆動軸
15 磁気結合部
16 駆動磁石
17 空間
18 台座
19 軸受け支柱
20 封鎖部材
21 開口部
23 上下分割面
24a 接合外筒壁
25a、28a 底部壁
25b、28b 側部壁
25c、28c 下部円筒壁
26、29 接着剤
28d 接合内筒壁
30 注入孔
31 溶剤仮接着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプ室を形成し、上部に入口ポートが設けられ、側部に出口ポートが設けられたハウジングと、
回転軸、複数のベーン及び環状連結部を有し、前記複数のベーンの少なくとも一部の内周端は前記回転軸と結合し、前記各ベーンの外周端は前記環状連結部に結合しているインペラと、
前記ハウジングの底部壁を上方に突出させて形成され、前記環状連結部の円筒状の内周面が形成する空間領域に対応する円筒状の外周面を有する台座と、
前記ハウジングの上部に配置され前記インペラの回転軸の上端を回転自在に支持する上部軸受けと、
前記台座の上面部に設けられ前記インペラの回転軸の下端を回転自在に支持する下部軸受けと、
前記ハウジングの外側下部に配置され、前記環状連結部との磁気結合を介して前記インペラを回転駆動するロータとを備え、
前記ベーンの下端縁は、上向きの円錐面に沿うように前記回転軸に対して傾斜しているターボ式血液ポンプにおいて、
前記ハウジングは、前記入口ポート及び前記出口ポートを含む側の上部材と前記台座を含む側の下部材とに2分割して形成され、
前記上部材の周縁部は下方に伸びて円筒状の接合円筒壁を形成し、
前記下部材は、前記台座を含み前記ポンプ室の底部を形成する底部壁、及び前記ポンプ室の側部の一部を形成して斜め上外方に延在する側部壁を含み、
前記下部材の前記側部壁の周縁部は、前記上部材の前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合し、
前記側部壁の周縁部が前記接合円筒壁の基端部に当接する箇所において、前記側部壁と前記接合円筒壁の間に形成された凹部に接着剤が充填されて、前記上部材と前記下部材とを接合していることを特徴とするターボ式血液ポンプ。
【請求項2】
前記台座の上面、及び前記台座の周囲の前記ハウジングの底部壁は、前記ベーンの下端縁に沿った円錐面に形成されている請求項1に記載のターボ式血液ポンプ。
【請求項3】
前記下部材の前記底部壁により、前記ロータを配置するための凹部が形成されている請求項1に記載のターボ式血液ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載のターボ式血液ポンプの製造方法であって、
前記ハウジングの前記上部材と前記下部材の間に前記インペラを配置し、前記回転軸が前記上部軸受けと前記下部軸受けにより支持された状態になるように、前記下部材の前記側部壁の周縁部を前記上部材の前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合させ、
前記側部壁の周縁部が前記接合円筒壁の基端部に当接する箇所において、前記側部壁と前記接合円筒壁の間に形成された凹部に接着剤を充填して、前記上部材と前記下部材とを接合することを特徴とするターボ式血液ポンプの製造方法。
【請求項5】
前記側部壁の周縁部を前記接合円筒壁の基端部の内側に嵌合させた嵌合体を形成した後、
前記回転軸が上下方向を向き、前記下部材が前記上部材の上部に位置するように前記嵌合体を配置して、前記凹部に対して前記接着剤を充填する請求項4に記載のターボ式血液ポンプの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2012−193658(P2012−193658A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−58057(P2011−58057)
【出願日】平成23年3月16日(2011.3.16)
【出願人】(000153030)株式会社ジェイ・エム・エス (452)
【Fターム(参考)】