説明

ダイカスト用金型及びダイカスト法

【課題】バルブ装置に押し出しピンを設けなくとも、排気ランナーにおいて凝固した溶湯が確実に固定型から分離できるようにする。
【解決手段】バルブ装置9は、開口部37を開閉する弁体32を備えている。排気ランナーは、キャビティに近い側に位置し、可動型の分割面10に形成された溝により構成される可動側ランナー部80と、インナー排気路に近い側に位置し、固定型の分割面20に形成された溝により構成される固定側ランナー部90とを有している。固定側ランナー部90のうち少なくとも前記開口部37の周辺部における抜き勾配βは、可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト用金型と該ダイカスト用金型を使用したダイカスト法に関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカストに用いられる金型として、固定型と可動型の間に形成されたキャビティからガスを金型の外部に抜くためのガス抜き路が形成されたものが知られている。該金型には、ガス抜き路を選択的に連通し遮断するためのバルブ装置が備えられ、この技術に関して、本出願人も既に提案している(下記特許文献1参照)。金型のガス抜き路は、固定型と可動型の間に形成されてキャビティと連通している排気ランナーと、固定型の内部に形成されて排気ランナーと開口部により連通しているインナー排気路を有している。該開口部は、排気ランナーの両端部のうち、キャビティから遠い側の端部付近に形成され、該開口部をバルブ装置の弁体が開閉する。即ち、弁体が開口部を閉じることでガス抜き路が遮断され、弁体が開口部を開くとガス抜き路が連通してキャビティ内のガスがガス抜き路を通って金型の外部に排出される。
【0003】
キャビティに注入された溶湯は排気ランナーに入って弁体まで到達する。排気ランナーにおいて凝固した溶湯は、型開きの際に、キャビティにおいて凝固した溶湯と共に可動型側に付着して固定型から離れることが必要である。その後、排気ランナーにおいて凝固した溶湯は、キャビティにおいて凝固した溶湯と共に可動型の押し出しピンによって押し出されて、可動型から分離される。そのため、排気ランナーは、主として、可動型の分割面に溝を形成することによって可動型側に形成されている。即ち、排気ランナーのうちキャビティに近い部分は可動型側に形成されている。その一方、排気ランナーのうちキャビティから遠い部分は、固定型の分割面にも溝を形成することによって可動型側と固定型側の両方に形成されている。上述のように、排気ランナーにおいて凝固した溶湯は、可動型に設けられた押し出しピンによって押し出されて可動型から分離されるが、キャビティから遠い箇所に押し出しピンを配置することが金型設計上難しい場合もある。従って、下記特許文献1においては、排気ランナーのうちキャビティから遠い部分を固定型側のみに形成し、型開きの際に、バルブ装置に設けた押し出しピンで、凝固した溶湯を可動型側に押し出すようにしている。
【0004】
このようにバルブ装置に押し出しピンを設けると、排気ランナーにおいて凝固した溶湯を型開きの際に確実に固定型から分離することができる。また、可動型においてキャビティから遠い箇所に押し出しピンを配置する必要がなくなり、可動型の構造が簡単になるという利点もある。また、金型の構造上、可動型の押し出しピンを任意の位置に配置できない場合、例えばバルブ装置に対向した可動型の部分に押し出しピンをレイアウトできない場合であっても、バルブ装置側に押し出しピンを設けることによって、凝固した溶湯を確実に固定型から分離することができるという利点もある。
【0005】
しかしながら、バルブ装置に押し出しピンを設けるとバルブ装置の構造が複雑になり、押し出しピンのメンテナンスも必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−69511号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
それゆえに本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされ、バルブ装置に押し出しピンを設けなくとも、排気ランナーにおいて凝固した溶湯が確実に固定型から分離できるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記課題を解決すべくなされたものであって、本発明に係るダイカスト用金型は、固定型と可動型の間のキャビティからガスを抜くためのガス抜き路が形成され、該ガス抜き路を選択的に連通遮断するためのバルブ装置が前記固定型に設けられたダイカスト用金型において、ガス抜き路は、固定型と可動型の間に形成されてキャビティと連通している排気ランナーと、固定型の内部に形成されて開口部によって排気ランナーと連通しているインナー排気路とを有し、該インナー排気路はバルブ装置に形成された装置内排気路と該装置内排気路と固定型の外部とを連通する型内排気路とから構成され、バルブ装置は、前記開口部を開閉する弁体を備え、排気ランナーは、キャビティに近い側に位置し、可動型の分割面に形成された溝により構成される可動側ランナー部と、インナー排気路に近い側に位置し、固定型の分割面に形成された溝により構成される固定側ランナー部とを有し、固定側ランナー部のうち少なくとも前記開口部の周辺部における抜き勾配は、可動側ランナー部の抜き勾配よりも大きいことを特徴とする。
【0009】
該構成のダイカスト用金型にあっては、排気ランナーのうちインナー排気路に近い側の部分即ちキャビティから遠い側の部分は、固定型側に形成された固定側ランナー部である。固定側ランナー部のうち少なくとも開口部の周辺部における抜き勾配が、可動側ランナー部の抜き勾配よりも大きいので、固定側ランナー部において凝固した溶湯は、型開き時に、キャビティにおいて凝固した溶湯及び可動側ランナー部において凝固した溶湯と共に可動型に保持されて、固定型からスムーズに分離する。開口部はキャビティから離れた箇所にあって弁体も存在しているので、開口部の周辺部は固定型から分離する際の抵抗が大きくなりやすい部分であるが、開口部の周辺部における抜き勾配が可動側ランナー部のそれに比して大きいので、凝固した溶湯が固定型からスムーズに分離する。
【0010】
また、本発明に係るダイカスト法は、上記構成のダイカスト用金型を用いてダイカストを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、固定側ランナー部のうち少なくとも開口部の周辺部における抜き勾配を可動側ランナー部の抜き勾配よりも大きくしているので、型開き時に、固定側ランナー部において凝固した溶湯が固定型からスムーズに分離する。従って、固定型のバルブ装置に押し出しピンを設ける必要がなくなり、バルブ装置の構造を簡素化でき、そのメンテナンスも容易になる。また、バルブ装置に対向した可動型の部分あるいはその近傍に押し出しピンを設けなくとも、製品押し出し時に、固定側ランナー部において凝固した溶湯を可動型からスムーズに分離することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態におけるダイカスト用金型を示す概略断面図。
【図2】同ダイカスト用金型に使用されているバルブ装置を示す正面図。
【図3】同バルブ装置の平面図。
【図4】図2のI−I線に沿った断面図。
【図5】(a)は同ダイカスト用金型における固定型の分割面の要部を示した正面図、(b)は(a)のII−II線に沿った断面図。
【図6】図5(a)のIII−III線に沿った断面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態にかかるダイカスト用金型とそれを使用したダイカスト法について図1〜図6を参酌しつつ説明する。図1に示すダイカスト用金型1は、固定型2と可動型3を備えている。このダイカスト装置は横型であるので、固定型2と可動型3はそれぞれの前面同士が水平方向に向かい合うように設置されている。金型1は真空ダイカスト法を行う真空ダイカスト装置に好適に使用される。金型1には、キャビティ4から空気等のガスを抜くためのガス抜き路が形成されている。該ガス抜き路の詳細については後述する。
【0014】
可動型3は、その前面に、固定型2に対向してこれに当接可能な分割面10を有している。可動型3は、可動ホルダー11と可動ダイス12とを備えている。可動ホルダー11には、固定型2側に開口するダイス収容部が形成され、このダイス収容部に可動ダイス12が収容されている。
【0015】
固定型2は、その前面に、可動型3に対向してこれに当接可能な分割面20を有している。固定型2は、固定ホルダー21と固定ダイス22とを備えている。また、固定ホルダー21には、可動型3側に開口するダイス収容部が形成され、このダイス収容部に固定ダイス22が収容されている。固定ダイス22と可動ダイス12との間にキャビティ4が形成される。
【0016】
可動型3は、水平方向である図1の左右方向に進退するように構成されている。可動ホルダー11と可動ダイス12は一体で進退する。型締めの際に、可動型3が図1の右側へ前進して可動型3の分割面10と固定型2の分割面20が互いに当接することにより、可動ダイス12と固定ダイス22との間にキャビティ4が形成される。また、型開きの際には、可動型3が図1の左側へ後退して可動型3の分割面10が固定型2の分割面20から離れる。
【0017】
なお、可動型3には、図示しない複数の押し出しピンが設けられている。複数の押し出しピンの一端は、可動ダイス12の前面から前側に突出可能である。複数の押出しピンの他端は図示しない押し出し板に連結されており、この押し出し板を前後に駆動することにより、複数の押し出しピンは同時に進退する。型締めしてキャビティ4が形成されているときには、押し出しピンの一端は、キャビティ4の壁面である可動ダイス12の表面と面一となり、型開きして可動型3からダイカスト品を取り出すときには、可動型3ダイスの表面から突出してダイカスト品を前側に押し出す。
【0018】
また、固定型2にはスリーブ23とスリーブ23内を摺動可能なプランジャ24とが設けられている。スリーブ23内にはアルミニウム合金等の溶湯が供給される。この溶湯は、プランジャ24によってスリーブ23内からランナー5へと送られ、ランナー5からゲート6を介してキャビティ4に送られる。キャビティ4の上側にはゲート7を介して排気ランナー8が形成されている。排気ランナー8には図示しないセンサーが設けられている。ゲート7を介して排気ランナー8に流入してきた溶湯がセンサーの位置まで到達すると、センサーがその溶湯を検出して信号を発する。
【0019】
固定ダイス22には収容孔25が形成されている。収容孔25は、固定型2の分割面20に開口している。収容孔25は、可動ダイス12から離れる方向である横方向に向けて延びており、固定型2の分割面20と直交する方向の軸線を有している。尚、収容孔25は、段付き孔であって、前側の部分が大きく、段差部25aを介して後側の部分が前側の部分よりも小さい。
【0020】
収容孔25の奥側の位置から上側に向けて貫通孔26が形成されている。この貫通孔26は収容孔25から固定型2の上面2aまで形成されている。貫通孔26には、圧縮エアを通すためのエア供給管27が挿入されており、流体供給源である図示しないコンプレッサからエア供給管27に圧縮エアが送られる。また、図1に二点鎖線で示している部材は、バルブ装置9を取り外すための工具70であり、工具70を貫通孔26に上側から挿入することができる。
【0021】
また、収容孔25の比較的前側の位置から上側に向けて排気用貫通孔28が形成されている。排気用貫通孔28は収容孔25から固定型2の上面2aまで形成されており、排気用貫通孔28には排気管29が挿入されている。排気管29は図示しない真空ポンプに接続されている。また、収容孔25の比較的前側の位置から上側に向けて図示しない冷却用貫通孔が二本形成されている。この二本の冷却用貫通孔は収容孔25から固定型2の上面2aまで形成されており、二本の冷却用貫通孔には冷却水を流すための図示しない冷却管がそれぞれ挿入されている。この冷却水は金型1を冷却するための冷却用媒体である。
【0022】
収容孔25にガス抜き路を選択的に連通遮断するためのバルブ装置9が嵌め込まれている。バルブ装置9は、収容孔25の前側の開口から挿入されている。即ち、バルブ装置9は、収容孔25に図1の左側から右側に向けて挿入されている。そして、バルブ装置9の前面は固定型2の分割面20と面一になっている。
【0023】
バルブ装置9は、図2〜図4に示すように、排気孔30が形成されたメインボディ31と、メインボディ31の排気孔30を開閉可能な弁体32と、弁体32を駆動するためのシリンダ33と、シリンダ33への圧縮エアの供給ルートを切り替える電磁切替弁34とを備えている。
【0024】
メインボディ31は、一つのブロックであって、バルブ装置9の前側の部分を構成している。メインボディ31は、固定型2と同じ材料から形成されている。この材料としては、例えば炭素鋼や熱間工具鋼等の特殊鋼が用いられる。メインボディ31は、直方体であって、図2のように、縦方向の寸法よりも横方向の寸法が長く、また図3に示すように、前後方向の寸法は、メインボディ31の縦方向の寸法よりも短い。メインボディ31の前面31aは略長方形である。このメインボディ31の前面31aはバルブ装置9の前面である。従って、バルブ装置9が収容孔25に嵌め込まれると、メインボディ31は収容孔25の前側の開口を閉鎖し、メインボディ31の前面31aは固定型2の分割面20と面一となってその分割面20の一部を構成する。収容孔25の壁面にメインボディ31の上面31bと左右の側面31cと底面31dが密着し、収容孔25の段差部25aにメインボディ31の後面31eが当接する。
【0025】
メインボディ31の前面31aには、図2及び図4のように、円形凹部42と、該円形凹部42の下部から下方に伸びてメインボディ31の底面31dに達する縦溝部41とが形成されている。縦溝部41の幅は円形凹部42の直径よりも狭く、縦溝部41の深さは円形凹部42の深さよりも若干浅い。
【0026】
メインボディ31に形成された排気孔30は、円形凹部42に開口し、そこから後側に延びる横孔30aと、横孔30aから上方に延びてメインボディ31の上面31bに開口する縦孔30bとから構成されている。排気孔30はその前側の開口部37を介して円形凹部42と連通しており、排気孔30の前側の開口部37の周囲には、弁体32が前側から当接可能な弁座43が形成されている。排気孔30の横孔30bには後方から筒体50が突出しており、該筒体50に、弁体32から後側に延びる弁軸51が挿入され、該弁軸51は筒体50によって前後方向に摺動自在に支持されている。
【0027】
弁軸51の後端にはピストン52が設けられている。ピストン52は、シリンダ33に収容されており、シリンダ33の空間を前室33aと後室33bに区画する。シリンダ33は、メインボディ31の後面31eに固定されて後側に延びており、シリンダ33の軸線は収容孔25の軸線と平行である。
【0028】
シリンダ33の上面に電磁切替弁34が取り付けられている。図4のように、電磁切替弁34はメインボディ31から後側に離れた位置に配置されており、メインボディ31と電磁切替弁34との間には隙間が形成されている。電磁切替弁34は、切替弁本体34aと、切替弁本体34aに圧縮エアを供給するための接続管34bとを備えている。切替弁本体34aはシリンダ33の上面にネジにより取り付けられて、バルブ装置9の外部から送られてくる電気信号により、圧縮エアの供給ルートをシリンダ33の前室33aと後室33bに切り替える。圧縮エアはピストン52を前後に駆動するための駆動用流体である。圧縮エアがシリンダ33の前室33aに供給されるとピストン52が後退して弁体32が閉じた状態になり、圧縮エアがシリンダ33の後室33bに供給されるとピストン52が前進して弁体32が開いた状態になる。また、接続管34bは、切替弁本体34aの後面に接続されていてその後面から後側に延び、更に上側に延びていて、上側に開口する上端開口部にエア供給管27が接続される。
【0029】
尚、メインボディ31には、冷却水を流すための冷却孔が形成されている。図3及び図4に示すように、冷却孔は、二本の縦孔44aと、二本の縦孔44aの下端同士をつなぐ横孔44bとから構成されている。二本の縦孔44aは、排気孔30の両側に位置していて、何れもメインボディ31の上面31bに開口している。これらの縦孔44aの上部にはコネクタ45が挿入されていて、このコネクタ45に冷却管が接続される。
【0030】
また、メインボディ31の上面31bには、図3のように、バルブ装置9を位置決めするための凹部46が二つ形成されている。二つの凹部46は、排気孔30の上端開口部を中心として左右対称にある。固定型2の図示しないネジ孔に図示しないネジ棒を挿入し、そのネジ棒の先端を凹部46に係合させることにより、収容孔25に対するバルブ装置9の位置を決めることができる。
【0031】
シリンダ33の後面には、取り外し用ブロック53が取り付けられていて後側に延びている。図4のように、取り外し用ブロック53の後端部はバルブ装置9の最後部に位置していて、取り外し用ブロック53の後端部には、上側に向かうほど前側となる傾斜面53aが形成されている。図1に二点鎖線で示すように上方から取り外し用の工具70を金型1に挿入して傾斜面53aを下方に押すことにより、バルブ装置9を収容孔25から前側に取り外すことができる。
【0032】
後部ブロック56の上面にはコネクタ用凹部57が形成され、このコネクタ用凹部57にコネクタ58が設けられている。電磁切替弁34に電気信号を送るための図示しない電気ケーブルは、上側からコネクタ58に接続される。
【0033】
後部ブロック56の上面にカバー59がネジにより取り付けられている。カバー59は、図3のように、メインボディ31よりも後側に位置する部材を上側から覆う。カバー59の左右両端部は何れも下側に折れ曲がって延びている。従って、カバー59は、主として、電磁切替弁34を覆うことを目的とするものである。電磁切替弁34は、メインボディ31と後部ブロック56との間に位置すると共にカバー59によって覆われている。但し、カバー59の上面の後部には孔59aが形成されており、その孔59aから電磁切替弁34の接続管34bの上端開口部が上側に僅かに突出している。また、カバー59の一部が切り欠かれていて、そこからコネクタ58が上側に露出している。
【0034】
図1に示すように、固定ホルダー21の上面には、第一のシールブロック13と第二のシールブロック14が取り付けられている。第一のシールブロック13の後側に第二のシールブロック14が位置している。第一のシールブロック13を排気管29が貫通している。第二のシールブロック14をエア供給管27が貫通している。第二のシールブロック14によって貫通孔26の上部開口が閉塞され、第二のシールブロック14を固定ホルダー21から外すことで貫通孔26から工具70を挿入できる。
【0035】
金型1に形成されたガス抜き路は、排気ランナー8と、固定型2の内部に形成されて排気ランナー8と連通するインナー排気路とから構成される。該インナー排気路は、バルブ装置9に形成された装置内排気路と、該装置内排気路から固定型2の上面2aまで形成された型内排気路とから構成されている。装置内排気路は、バルブ装置9に形成された排気孔30であり、型内排気路は、排気孔30に接続された排気管29である。従って、インナー排気路は、排気孔30の前側の開口部37によって排気ランナー8と連通している。
【0036】
排気ランナー8は、キャビティ4に近い側に位置する可動側ランナー部80と、インナー排気路に近い側に位置する固定側ランナー部90とから構成されている。排気ランナー8の大部分は可動側ランナー部80である。可動側ランナー部80は、可動型3の分割面10に形成された溝により構成される。具体的には、可動側ランナー部80は、図5(a)においては二点鎖線によって示され、図6においては断面図で示されているように可動ダイス12に形成された溝と固定型2の分割面20との間の空間である。可動側ランナー部80は、複数の横溝部81と、該横溝部81の端部同士を連結する縦溝部82とを有し、縦溝部82が左右交互に配置されることで進行方向を左右交互に変更しつつ上側に向かうように形成されている。可動側ランナー部80は、幅一定で、且つ、深さも一定に形成されている。最もキャビティ4から離れている最上位の横溝部81は、バルブ装置9よりも低い位置にあって且つバルブ装置9の近傍に位置している。
【0037】
固定側ランナー部90は、固定型2の分割面20に形成された溝により構成される。具体的には、固定ダイス22に形成された縦溝部91と、バルブ装置9のメインボディ31の前面31aに形成された円形凹部42及び縦溝部41とから構成されている。固定ダイス22の縦溝部91とメインボディ31の縦溝部41とは一直線状に連続しており、両者の幅と深さは共通している。固定ダイス22の縦溝部91の幅及び深さは、可動ダイス12の横溝部81の幅及び深さと等しい。固定ダイス22の縦溝部91は、可動ダイス12の最上位の横溝部81とメインボディ31の縦溝部41を連通させる。固定ダイス22の縦溝部91は、可動ダイス12の最上位の横溝部81における端部81aから若干離れた位置に形成され、可動ダイス12の最上位の横溝部81の幅全体と連結している。可動ダイス12の最上位の横溝部81における端部81aは可動側ランナー部80の端部である。尚、円形凹部42と縦溝部41の前方には可動型3の分割面10が対向しており、縦溝部91のうちバルブ装置9の縦溝部41に近い部分の前方にも可動型3の分割面10が対向している。即ち、縦溝部91の前方には、最上位の横溝部81との連結部分を除いて、可動型3の分割面10が対向している。
【0038】
可動側ランナー部80の抜き勾配αは全領域において一定であり、例えば10°〜15°である。固定側ランナー部90の抜き勾配βは全領域において一定であり、例えば20°である。即ち、円形凹部42における抜き勾配、メインボディ31の縦溝部41の抜き勾配、及び、固定ダイス22の縦溝部91の抜き勾配は共にβである。固定側ランナー部90の抜き勾配βは、可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きい。また、弁体32の周面32aは、前側に向かって小径となるテーパ面であるが、その傾斜角度γは、円形凹部42の抜き勾配βよりも大きい。つまり、α<β<γという関係にある。但し、α<β≦γであってもよい。
【0039】
弁体32は排気孔30の前側の開口部37を前側から閉じる。即ち、弁体32は固定側ランナー部90側に位置して該固定側ランナー部90側から排気孔30の前側の開口部37を閉じる。弁体32が前進して弁座43から離れると、排気孔30の前側の開口部37が開いて固定側ランナー部90と排気孔30が連通し、図5(a)の矢印のようにキャビティ4内のガスが可動側ランナー部80をバルブ装置9に向かって流れる。弁体32が後退して弁座43に当接すると、排気孔30の前側の開口部37が閉じて固定側ランナー部90と排気孔30とが遮断される。弁体32が閉じた状態において、円形凹部42の底面42aに対して弁体32の前面32bは前方に位置する。また、弁体32は円形凹部42よりも小径であるので、弁体32の周面32aと円形凹部42の壁面との間には隙間が存在する。
【0040】
次に上記金型1を用いたダイカスト法について説明する。まず、可動型3を固定型2に近づける方向、即ち、図1の右側に移動させて、固定型2の分割面20に可動型3の分割面10を当接させて型締めを行う。バルブ装置9の弁体32を開いた状態で、溶湯をスリーブ23に注入する。プランジャ24を初めのうちは図1の左方向に低速で移動させる。そのとき、真空ポンプが排気管29、排気孔30、排気ランナー8を介してキャビティ4内のガスを吸引する。その後、プランジャ24を高速で移動させて溶湯をキャビティ4に充満させる。溶湯はゲート7を通って排気ランナー8に流入してセンサーに接触すると、センサーがそれを感知して信号を発し、その信号によって電磁切替弁34が圧縮エアの供給ルートをシリンダ33の前室33aに切り替える。圧縮エアがシリンダ33の前室33aに供給されることにより、弁体32が後退し、排気孔30が遮断される。溶湯は可動側ランナー部80と固定側ランナー部90を通って弁体32に達する。
【0041】
そして、キャビティ4の溶湯が冷却して凝固した後に、可動型3を図1の左側に移動させて固定型2から離していく。固定側ランナー部90の抜き勾配βが可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きいので、固定側ランナー部90において凝固した溶湯は固定型2からスムーズに離れていく。円形凹部42には弁体32が存在しているために、円形凹部42において凝固した溶湯は、固定側ランナー部90の他の部分において凝固した溶湯、つまり、メインボディ31の縦溝部41や固定ダイス22の縦溝部91において凝固した溶湯よりも形状が複雑であり、また可動側ランナー部80から最も離れているため、固定型2から分離する際の抵抗が大きい。しかしながら、円形凹部42の抜き勾配βを可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きくし、円形凹部42の抜き勾配βよりも弁体32の周面32aの傾斜角度γを大きくしているので、円形凹部42において凝固した溶湯がスムーズに円形凹部42及び弁体32から分離する。また、固定側ランナー部90の抜き勾配βを可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きくしているので、固定側ランナー部90において凝固した溶湯が、固定側ランナー部90と可動側ランナー部80との連結箇所近傍において切断することもない。このように、バルブ装置9に押し出しピンを設けなくても、凝固した溶湯を固定型2から確実に分離させることができる。その後、バルブ装置9に対向する可動型3の部分から離れた位置に設置されている押し出しピンによって、可動側ランナー部80やキャビティ4において凝固した溶湯を押し出して可動型3から分離する。特に、円形凹部42と縦溝部41に対向した可動型3の部分には溝が形成されておらず、フラットな分割面10が円形凹部42や縦溝部41と対峙しているので、バルブ装置9に対向した可動型3の部分あるいはその近傍に押し出しピンを設けなくても、凝固した溶湯を可動型3から容易に分離できる。このようにバルブ装置9の弁体32の周囲には、可動型3と固定型2の何れにも押し出しピンが不要となる。
【0042】
尚、固定側ランナー部90の抜き勾配βを全領域において一定としたが、例えば、円形凹部42の抜き勾配のみを可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きくし、固定側ランナー部90の他の部分の抜き勾配については可動側ランナー部80の抜き勾配αと等しくしてもよい。また、固定ダイス22の縦溝部91及びメインボディ31の縦溝部41の抜き勾配を可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きくすると共に、更に円形凹部42の抜き勾配を固定ダイス22の縦溝部91及びメインボディ31の縦溝部41の抜き勾配よりも大きくしてもよい。少なくとも円形凹部42の抜き勾配を可動側ランナー部80の抜き勾配αよりも大きくすることにより、バルブ装置9に押し出しピンを設ける必要がなくなり、バルブ装置9の構造を簡素化できる。また、バルブ装置9のメンテナンスも容易になる。
【0043】
尚、バルブ装置9は、真空ダイカスト装置の金型1に使用される他、キャビティ内のガスを真空ポンプによって吸引しない方式のダイカスト装置の金型にも適応可能である。この方式の場合、キャビティ内のガスは、真空ポンプによって強制的に排出されることはなく、キャビティが金型の外部の外気と単に連通することによって排出される。
【0044】
バルブ装置9を固定ダイス22に設けたが、固定ダイス22と固定ホルダー21の境界部分にバルブ装置9を設けてもよい。
【符号の説明】
【0045】
1 金型
2 固定型
2a 上面
3 可動型
4 キャビティ
5 ランナー
6 ゲート
7 ゲート
8 排気ランナー
9 バルブ装置
10 分割面
11 可動ホルダー
12 可動ダイス
13 第一のシールブロック
14 第二のシールブロック
20 分割面
21 固定ホルダー
22 固定ダイス
23 スリーブ
24 プランジャ
25 収容孔
25a 段差部
26 貫通孔
27 エア供給管
28 排気用貫通孔
29 排気管
30 排気孔
37 開口部
30a 横孔
30b 縦孔
31 メインボディ
31a 前面
31b 上面
31c 側面
31d 底面
31e 後面
32 弁体
32a 周面
32b 前面
33 シリンダ
33a 前室
33b 後室
34 電磁切替弁
34a 切替弁本体
34b 接続管
41 縦溝部
42 円形凹部
42a 底面
43 弁座
44a 縦孔
44b 横孔
45 コネクタ
46 凹部
50 筒体
51 弁軸
52 ピストン
53 取り外し用ブロック
53a 傾斜面
56 後部ブロック
57 コネクタ用凹部
58 コネクタ
59 カバー
59a 孔
70 工具
80 可動側ランナー部
81 横溝部
81a 端部
82 縦溝部
90 固定側ランナー部
91 縦溝部
α 可動側ランナー部の抜き勾配
β 固定側ランナー部の抜き勾配
γ 弁体の周面の傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型の間のキャビティからガスを抜くためのガス抜き路が形成され、該ガス抜き路を選択的に連通遮断するためのバルブ装置が前記固定型に設けられたダイカスト用金型において、
ガス抜き路は、固定型と可動型の間に形成されてキャビティと連通している排気ランナーと、固定型の内部に形成されて開口部によって排気ランナーと連通しているインナー排気路とを有し、該インナー排気路はバルブ装置に形成された装置内排気路と該装置内排気路と固定型の外部とを連通する型内排気路とから構成され、
バルブ装置は、前記開口部を開閉する弁体を備え、
排気ランナーは、キャビティに近い側に位置し、可動型の分割面に形成された溝により構成される可動側ランナー部と、インナー排気路に近い側に位置し、固定型の分割面に形成された溝により構成される固定側ランナー部とを有し、
固定側ランナー部のうち少なくとも前記開口部の周辺部における抜き勾配は、可動側ランナー部の抜き勾配よりも大きいことを特徴とするダイカスト用金型。
【請求項2】
請求項1記載のダイカスト用金型を用いてダイカストを行うことを特徴とするダイカスト法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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