説明

ダイコンソウの有機抽出物およびその利用

【課題】損傷骨格筋の線維性組織の形成を抑制しながら、重度の損傷骨格筋線維の完全な治癒を引き起こすことが可能な薬剤を提供する
【解決手段】外傷性骨格筋において急速な血管形成(24時間未満)、筋線維形成、および線維性組織形成阻害に対して強力な刺激効果を示す、漢方薬のダイコンソウ(Geum Japonicum Thunb Var.)の有機抽出物を同定した。該抽出物はウサギおよびラットの動物モデルにおいて骨格筋の完全な治癒につながる、損傷した骨格筋での血管形成および筋線維形成に対して強力な二重効果を示した。本発明の抽出物は、骨格筋外傷、熱傷、皮膚創傷および手術時の傷口を含む軟組織の治療、および骨折や骨欠損の治療に効果的な治療薬に発展させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は漢方薬に関するものである。特に、本発明はダイコンソウ(Geum Japonicum Thunb Variant)の有機抽出物(以下「EGJV」)、および、損傷した骨格筋と皮膚を含む軟組織とにおいて、血管新生、骨格筋再生および線維性組織形成阻害を刺激するための有機抽出物の利用に関するものである。また本発明はEGJVの有機抽出物を製造する方法、および、骨格筋損傷あるいは皮膚損傷の治療、手術時の傷口の治癒の促進、あるいは皮膚治療や形成外科における瘢痕形成の軽減のための方法にも関する。
【0002】
(発明の背景)
ダイコンソウは、G. ボリシイ、G. キロエンセ、G. コッシキネウム、G. マクロフィルム、G. モンタヌム、G. レプタンス、G. リバレ、G. トリフロルム、G. ウルバヌム、およびダイコンソウ(G. ジャポニクム)などの65種の根茎草本および亜低木の属であり、単純葉または羽状複葉、および標準的な花を有する。ダイコンソウは多年生草でバラ科の顕花植物である。ダイコンソウの植物全体の水抽出物は漢方では利尿薬として用いられてきた(Perry、L.M.、Medicinal Plants of East and Southeast Asia、MIT出版、Cambridge、Mass、pp.242、1980年)。
【0003】
重度の損傷後の骨格筋の治癒は遅くかつ不十分である。損傷した骨格筋の再生能力の限界、および外傷部位における急速な線維性瘢痕組織の形成は大きな臨床治療の問題である。重度の外傷性骨格筋の共通運命は線維症となる。現在まで、重度の損傷後の完全な骨格筋の治癒を促進することができる効果的な治療上の処置は見つかっていない。
【0004】
上述のように、重度の損傷後の筋肉治癒は遅く、そして不完全であり、その結果として線維性組織に置換されてしまう(Grounds、M.D.Muscle regeneration:molecular aspects and therapeutic implications.Curr.Opin.Neurol.12、535−543(1999年);Nikolaou,P.K.ら、Biomechanical and histological evaluation of muscle after controlled strain injury.American J Sports Med.15、9−14(1987年))。現在のところ、重度の筋肉損傷後に顕著な骨格筋の再生を促進するのに用いることができる効果的な治療法はない。我々の以前の研究(Li、M.ら、Two novel myogenic factors identified and isolated by sequential isoelectric focusing and sodium dodecyl sulfate‐polyacrylamide gel electrophoresis.Electrophoresis 21、289−292(2000年);Li、M.ら、Identification and purification of an intrinsic human muscle myogenic factor that enhances muscle repair and generation.Arch.Biochem.Biophys.384、263−268(2000年))にあるように、動物モデルにおいて、筋線維の再生と同様に培養サテライト細胞の増殖および分化をも増進しうる筋線維形成因子を同定した。しかしながら、これらの筋線維形成因子は筋肉治癒を高めることはできたが、重度の筋肉損傷後の完全な治癒は生じなかった。
【0005】
線維性組織は、比較的に虚血性の環境で生育が可能であるが、しかし、通常組織の細胞は生育が困難である。骨格筋が損傷した際、血管系もしばしば損傷を受け、そのため損傷部位周辺の血液の供給が不十分になる。通常、線維性組織はより早く生育し、損傷した筋線維が占めていたスペースを占めるため、新しい筋線維の置換のためのスペースをブロックすることになる。以前の研究によると、VEGF、aFGF、bFGF、あるいはPDGFのようないくつかの成長因子は血管新生を増進しうるが、しかし、これらの成長因子に仲介されるこの血管新生にはおよそ2〜9週間を要する可能性がある。重度の骨格筋損傷の完全な治癒をもたらす、特に数時間のうちに新血管形成を引き起こすことが可能な製品は世界市場で入手することができない。現在まで、重度の損傷骨格筋に完全な治癒をもたらすことが可能な記録された薬品あるいは要素は、市場あるいは研究においてさえも存在しない。
【0006】
(発明の概要)本発明の主な目的は、損傷骨格筋の線維性組織の形成を抑制しながら、重度の損傷骨格筋線維の完全な治癒を引き起こすことが可能な薬剤を提供することである。本目的を達するために、本発明者は入念な調査を遂行した。その結果、自然源からの有機抽出物(ダイコンソウの全体)が迅速な血管新生および筋線維形成に二重の効果を示すことを発見した。これらの二重効果は骨格筋損傷の治療、皮膚治癒、手術の傷口の治癒、熱傷および潰瘍のような他の軟組織の治療、および骨折治癒や骨欠損修復のような硬組織の治療に用いることが可能である。
【0007】
本発明の目的の一つはEGJVを提供することである。「EGJV」はゲミン(gemin)A、B、C、D、E、およびFを含むタンニン、および、2−ヒドロキシオレアノール酸(2−Hydroxyoleanolic Acid)、2−ヒドロキシウルソル酸(2−Hudroxylursolic Acid)、2,19−ジヒドロキシ−ウルソル酸(2,19−Dihydroxy−ursolic Acid)、2−アルファ、19−アルファ−ジヒドロキシ−3−オキソ−12−ウルセン−28−オイク酸(2−alpha、19−alpha−Dihydroxy−3−oxo−12−ursen−28−oic Acid)、ウルソル酸(Ursolic Acid)、エピモリック酸(Epimolic Acid)、マスリニック酸(Maslinic Acid)、エウスカフィク酸(Euscaphic Acid)、トルメンティク酸(Tormentic Acid)、トルメンティク酸の28−ベータ−D−グルコシド(28−beta−D−glucoside of tormentic Acid)などを含むトリテルペンを主に含有する。
【0008】
本発明の他の目的は、骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折の治療のための薬剤の製造において「EGJV」の利用を提供することである。このEGJVは製薬的に可能な添加剤と組み合わせて、骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折の治療のための様々な種類の薬剤に調剤することが可能である。
【0009】
本発明の他の目的は、骨格筋損傷あるいは皮膚損傷を患う哺乳動物への有効量の「EGJV」の投与を含む、骨格筋損傷あるいは皮膚損傷の治療方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、C1〜C4アルコールを用いた植物ダイコンソウの抽出物を抽出するステップを含む、「EGJV」の製造方法を提供することである。
(発明の詳細な説明)本発明は以下の4つの態様を呈する:
第一の態様はEGJV製造の方法に関する。
【0011】
1.ダイコンソウからの有機抽出物を製造するための方法を提供する。本方法はa)C1〜C4アルコールから成る群より選択されたアルコールによる植物ダイコンソウの抽出物を抽出するステップを含む。ステップa)は室温にて3〜6回、好ましくは5回、繰り返される。ステップa)を行う前に、ダイコンソウ植物を粉末にしておくことが好ましい。C1〜C4アルコールはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールおよびテルブタノールを含む。より好ましいアルコールはメタノールおよびエタノールである。そして最も好ましいのはメタノールである。アルコールで抽出されるダイコンソウに対してのアルコールの総量についての明確な制限はない。しかしながら経済的な観点から言えば、使用されるアルコールの総量は抽出されるダイコンソウの総量の1〜10倍重量であることが好ましい。
【0012】
2.上記項目1で記載されたような方法は、さらに、b)ステップa)から得られた抽出物を乾燥して乾燥粉末にするステップと、c)C6アルカン、酢酸エチルおよびC1〜C4アルコールから成る群より選択されたアルコールを用いて、ステップb)より得られた粉末から連続的に抽出するステップとを含むことができる。C6アルカンは、例えばシクロヘキサン、n−ヘキサン、およびネオへキサン等を含む6炭素原子のサイクリックおよび非サイクリックなアルカンを含む。C1〜C4アルコールはメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、およびテルブタノールを含む。ステップc)においてより好ましいアルコールは、n−プロパノールおよびn−ブタノールである。さらに、最も好ましいのはn−ブタノールである。前の乾燥するステップで得られた乾燥粉末に対するC6アルカン、酢酸エチルおよびアルコールの総量に関して厳密な制限はない。しかしながら、経済的観点から言えば、用いられる有機溶媒の総量はさらに抽出される粉末量に対し、1〜10倍重量であることが好ましい。
【0013】
3.EGJVをより適用しやすくするために、上記項目2で記載された方法は、d)ステップc)で得られた抽出物を乾燥粉末へと乾燥するステップを有さらに含んでいる。乾燥ステップd)を行う前に、前のステップc)で得られた抽出物をその中のどんな不溶性粉末も除去するためにろ過することが好ましい。乾燥ステップd)は例えば、50℃の室温より高い温度で減圧下において達成できる。
【0014】
4.EGJVをより精製するために、上記項目3で記載されたような方法は好ましくはさらにe)ステップd)で得られた粉末のクロマトグラフ・カラムに充填し、そしてf)C1〜C4アルコールから成る群から選択されるアルコールを水溶液におけてその濃度を上げることでカラムを溶出するステップを含む。ステップe)においてクロマトグラフ・カラムに制約はない。例えば、Sephadexあるいは逆行性フェーズカラムを用いることができる。ステップf)において用いられるアルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、およびテルブタノールから成る群より選択されるいずれかであり、メタノールが最も好ましい。
【0015】
本発明の二つ目の態様は、上記項目1〜4に記載のいずれかの方法で得られるダイコンソウの有機抽出物に関する。NMR分析により、本発明のEGJVはゲミンA、B、C、D、E、およびFを含むタンニン、および、2−ヒドロキシオレアノール酸、2−ヒドロキシウルソル酸、2,19−ジヒドロキシ−ウルソル酸、2−アルファ、19−アルファ−ジヒドロキシ−3−オキソ−12−ウルセン−28−オイク酸、ウルソル酸、エピモリック酸、マスリニック酸、エウスカフィク酸、トルメンティク酸、トルメンティク酸の28−ベータ−D−グルコシドなどを含むトリテルペンを主に含有する。
【0016】
本発明の第三の態様は、骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折の治療のための薬剤の製造におけるダイコンソウの有機抽出物の利用に関する。EGJVは血管新生および筋線維形成を増進するための薬剤に用いることが可能である。EGJVに加えて、薬剤にはEGJVと混合可能な他の薬剤も含むことができる。前記他の薬剤には抗生物質、ビタミン、サイトカイン、および骨誘導タンパク質等が含まれるが、それに限ったものではない。製薬的に可能な添加物とともにEGJVは粉末、溶液、懸濁液、クリーム、あるいはペーストなどを含む様々な形態に調剤が可能であるがそれに限ったものではない。これら様々な形態の薬剤を製造するための添加物および方法は当分野の技術者に周知である。
【0017】
本発明の第四の態様は、骨格筋損傷、皮膚損傷、手術時の傷口あるいは骨折を患う哺乳動物への、ダイコンソウからの有機抽出物の有効量の投与を含む、骨格筋損傷、皮膚損傷あるいは骨折の治療の方法に関する。「有効量」という言葉は、細胞培養システムあるいは動物モデルシステムにおいて血管新生及び筋線維形成を効果的に増進することが可能な量のことである。この「有効量」は治療をうける動物の種、投与されるEGJVの濃度、および筋肉あるいは皮膚の重傷度を含むいくつかの要素によって決まる。この「有効量」を決定する方法は当分野の技術者に周知である。ここで用いられる「投与」という言葉は薬剤を届けるためのいずれの標準的な手段も意味する。投与の手段は当分野で周知であり、静脈注射、腹腔内注射、筋肉内注射、皮内投与、あるいは経皮投与等を含むが、これに限ったものではない。「動物」という言葉は好ましくはラット、ハツカネズミ、ネコ、イヌ、ウマおよびヒツジ等を含む哺乳動物をさす。より好ましくは、この言葉は人間をさす。
【0018】
(例)以下の例を参照して本発明を下記でより詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はこれらの例に限られるものではない。
【0019】
(例1)「EGJV」の製造
ダイコンソウは中国の貴州省から採取した。乾燥植物(1キログラム)を粉末にし、室温で2〜3時間かけメタノール(8リットル)でろ過し、これを5回繰り返した。そして抽出物を減圧下で乾燥させ、約50グラムの残留物を産出する。乾燥粉末(50グラム)を120ミリリットルの水に懸濁し、続けてヘキサン(5x250ミリリットル)、エタノール(5x250ミリリットル)およびn−ブタノール(5x250ミリリットル)で分離する。n−ブタノール溶解画分をろ過し、減圧下(50℃)で濃縮し粉末状の残留物を産出した。粉末状残留物を10%メタノールで平衡を保ったSephadexLH−20のカラムに充填し、水中のメタノールの濃度上昇により溶出した。NMR分析により、ゲミンA、B、C、D、E、およびFのようなタンニン、及び、2−アルファ、19−アルファ−ジヒドロキシ−3−オキソ−12−ウルセン−28−オイク酸、ウルソル酸、エピモリック酸、マスリニック酸、エウスカフィク酸、トルメンティク酸、トルメンティク酸の28−ベータ−D−グルコシドなどを含むトリテルペンを主に含有する、12の画分が溶出された。これらの12のメタノール溶出画分を混合し、例2および3においてEGJVとして用いた。
【0020】
漢方薬である血管新生および筋線維形成薬剤のスクリーニングの過程で、本発明の発明者はn−ブタノール可溶性画分も後のメタノール溶出画分と同様に、重度の損傷骨格筋での新しい血管および筋肉の再生の初期成長(24時間以内)の刺激において強力な二重効果を示すことを発見した。特に記載がない限り、以下で用いられる「EGJV」という言葉はメタノール溶出画分をさす。
【0021】
(例2)ウサギ筋肉損傷モデルにおける活性画分の二重効果の評価
ここで、本発明者は「EGJV」の効果を分析した。実験結果では、コントロールにおける線維性瘢痕組織と比較すると、EGJVは重度の損傷骨格筋の治癒過程において、損傷箇所での再生筋線維の存在を伴う顕著な効果があることを驚くほど示した。EGJVは損傷筋肉の治癒過程の初期における筋線維形成および血管新生の両方の刺激、および骨格筋治癒および皮膚損創傷の治癒の両方における線維性瘢痕形成の阻害に対して、非常に有益な効果があると思われる。
【0022】
EGJVは重度の筋肉損傷ウサギ動物モデル(メス、N=12、平均体重:2.5キログラム)に用いた。ウサギは前脛骨筋に手術用ハサミでの切断による損傷から生じる筋肉損傷を受けた。6匹のウサギには筋損傷の直後に前脛骨筋の表皮下に5%DMSOに溶解したEGJVを1ミリリットル注射した。他の6匹のウサギにはコントロールとして同じ容量の5%DMSOを注射した。注射は一度だけ行った。各グループの2匹のウサギを損傷の2日後に犠牲にした。前脛骨筋を取り出し、パラフィン切片およびHE(つまりヘマトキシリンおよびエオジン)染色用に加工した。各グループの別の2匹のウサギを損傷の1週間後に犠牲にし、残りの各グループの2匹は損傷の2週間後に犠牲にした。異なる時点で犠牲にしたウサギは全て、以下の同じ方法で処理した。
【0023】
図1Eに見られるように、5%DMSOを一回注射した前脛骨筋の切断損傷の1日後では、損傷箇所の領域は炎症細胞の浸潤はほとんど見られないまま依然として乾燥しておらず、新しく形成された血管および再生筋管も見られない。一方で、1日目のEGJV処理群では、創傷箇所は多数の炎症細胞で満たされており、新しく再生した薄い筋管をわずかに伴った新しく形成された血管が創傷箇所にいくらか見られた(図1B)。筋肉損傷の2日後には創傷箇所で多くの新しく形成された血管が見られ、新しい再生筋管もまた形成されていた(図1C)。対照的に、DMSOのコントロール群では創傷箇所は未だ乾燥せず、炎症細胞の浸潤もほとんど見られなかった(図1E)。このコントロール群では新しく形成された血管も新しい再生筋管も見られなかった(図1E)。18日目のEGJV処理群では、創傷の隙間に新しく再生し比較的に成熟した多数の筋管(中心核を備えた通常の筋線維よりもわずかに小さい)が観察された(図1D)。一方、コントロールでは創傷の隙間は線維性組織で満たされていた(図1F)。
【0024】
(例3)
ラットの筋肉損傷モデルにおける活性画分の二重効果の評価
ラットの骨格筋損傷モデルでEGJVをさらに調べた。実験結果は重度の損傷筋肉の創傷箇所においてEGJVが血管再生(24時間以内の)およびサテライト細胞の増殖を顕著に刺激しうることを示した。EGJVで処理された動物の損傷箇所は、コントロールの動物においては筋線維形成が主な特徴であるのとは著しく対照的に、損傷の2週間以内に新しい再生筋線維で完全に置き換えられた。
【0025】
実験のラット(SDラット、メス、N=40、平均体重:150グラム)は前脛骨筋に手術用ハサミでの切断による損傷から生じる筋肉損傷を受けた。20匹のラットは前脛骨筋の皮下に5%DMSOに溶かしたEGJVを筋損傷の直後に0.1ミリリットル注射した。他の20匹のラットにはコントロールとして同量の5%DMSOを注射した。注射は一度だけ行った。各グループから4匹のラットを損傷のそれぞれ1、2および3日後に犠牲にした。前脛骨筋を取り出し、パラフィン切片およびHE染色用に加工した。各グループからの別の4匹のラットを損傷の7日後に犠牲にし、残りの各グループの4匹のラットは損傷の14日後に犠牲にした。異なる時点で犠牲にしたラットは全て、以下の同じ方法で処理した。
【0026】
損傷の1日後に調べた際、コントロールのラットの前脛骨筋における創傷箇所は、多数の炎症細胞で満たされており、2日目にはさらに多くの炎症細胞が浸潤していた(図2a)。また、新しく形成された血管も非常にわずかに観察された。対照的に、EGJV処理したラットにおける損傷箇所では、1日目には多数の新しく形成された血管(図2b)が、そして2日目には新しく再生した長くて薄い筋管を伴ったより多くの血管(筋管の中央に核を伴う)(図2c)がはっきりと認められた。EGJV処理した群の3日目においては、創傷箇所で、多数のより新しい再生筋管の一団が損傷した筋線維に置き換わっているのが観察された(図2d)。
【0027】
7日目には、コントロールの動物の創傷箇所は炎症細胞および置換した線維性組織で満たされていた(図3a)。極めて対照的に、EGJV処理した動物の創傷箇所では新しく発達した高度に整列した筋管が多数見られた(図3b〜3c)。新しい再生筋管に沿って、増殖したサタライト細胞もまた検出された(図3d)。線維性組織形成の顕著な徴候も見られなかった。
【0028】
14日目には、コントロール動物の創傷箇所は線維性組織形成によって治癒した。筋肉損傷の隙間は図4aに示すように収縮していた。しかしながら、EGJV処理したラットでは、線維性組織形成の徴候はなく、高度に整列した新しい再生筋線維が創傷箇所を埋めていた(図4bおよび4c)。実験動物の筋肉になされた切断の輪郭は依然として既存の筋線維および新しく再生した筋線維の間で異なって筋線維を染色することにより認められた。これはおそらくは二つの異なる時期の筋線維の間のタンパク質の内容の違いによるものである。
【0029】
まとめると、我々の実験結果は、骨格筋の創傷箇所でEGJVの一回局注により引き起こされた活発な新血管形成が見られ、損傷の24時間以内に注射箇所周辺に血液細胞で満たされた多数の新しい毛細血管の芽が形成された。筋肉損傷の2日後の創傷箇所では、多数の新しく形成された血管に加えて、散乱した新しい再生筋線維(長くて薄い)もまた多く観察された。対照的にコントロールにおいては多数の炎症細胞が浸潤していた。7日目では損傷した筋肉の隙間を埋めながら新しい再生筋線維が伸張し、隣接する損傷しなかった筋線維の長軸に沿って正しく方向付けられていた。コントロールにおいては、創傷箇所では浸潤した炎症細胞を除いて、線維性組織が形成されていた。14日目にはEGJV処理した筋肉では新しい再生筋肉により損傷筋肉の創傷が完全に置換されており、このときコントロールでは創傷は線維性組織形成により治癒しており、創傷の隙間が狭まっていた。
【0030】
(実験結果の説明)
実験結果は、重度に損傷した筋肉の治癒過程の間に、本発明のEGJVが早期の血管新生(24時間未満)、筋線維形成、および線維性組織形成阻害へのその多様な影響により骨格筋の治癒過程に介入することを示している。EGJVから生じた早期の血管新生、筋線維形成、および線維性組織形成阻害の多様な影響は互いに協調し、重度に損傷した骨格筋の完全な治癒をもたらす。早期の血管新生、筋線維形成、および線維性組織形成阻害の間の協調は、新しい筋線維成長のためのより理想的な周辺環境を構築する。線維性組織は比較的に虚血性の状態で成長することが可能である。例えば、もし必要な養分が供給されないならば、十分な筋線維形成は不可能であろう。もし血液の供給が不十分であるならば、線維性組織は成長が可能であるが、通常の組織細胞は不可能であろう。筋線維形成は十分な血液の供給があり線維性組織の閉塞がないという状態においてのみ適切に起こる。我々のEGJVは24時間あるいはそれ未満における新しい血管の早い成長を刺激することが可能であり、その結果、適切な細胞の成長および増殖に適した状況を構築する。促進された早期の血管新生、筋線維形成、および線維性組織形成阻害の協調が重度に損傷した筋肉の完全な治癒につながったということが示された。
【産業上の利用可能性】
【0031】
早期の血管新生、筋線維形成、および線維性組織形成阻害におけるEGJVの独特の特長は、骨格筋損傷、軟組織の外傷、手術時の傷口、熱傷、潰瘍、骨折および骨欠損の治療に非常に有益である。またEGJVは他の治療薬と組み合わせて、特に血液の供給が少ないあるいはほとんどの血管が損傷した場所における、骨折および欠損の治療のためのEGJVと骨誘導タンパク質との組み合わせのような、さらに良い薬を作ることも可能である。それゆえに、EGJVは骨格筋損傷、皮膚損傷、手術時の傷口の治癒および骨折の治癒の治療のための治療薬の第一世代へと発展する大きな将来性を有している。
【図面の簡単な説明】
【0032】
これら、およびその他の本発明の特長は、図を考慮した以下の詳細な記述より当分野の技術者に周知のこととなるだろう。
【図1】図1は、1、2、3、7および18日間、5%DMSOに溶解した本発明のEGJVあるいは5%DMSOコントロールで処理後のウサギの筋線維損傷した前脛骨筋の様子を示している。図1Aは創傷箇所が多数の炎症細胞(Inf)で満たされていたことを示している。記号「N」は通常の筋線維の様子を示している。図1BはEGJVでの処理後に、1日目の創傷箇所で新しく再生した薄い筋管をわずかに伴ったいくつかの新しい血管が見られたことを示している。新しい血管は黒矢印で示され、新しい再生筋管は緑矢印で示されている。図1Cで示されるように筋線維損傷の2日後には多数の新しく形成された血管が創傷箇所で観察され(緑矢印で示した)、いくらかの新しい再生筋管が形成された(黒矢印で示した)。対照的に図1E(DMSOコントロール群)で見られるように創傷箇所は依然として乾燥せず、炎症細胞の浸潤はほとんどみられなかった。また新しく形成された血管あるいは新しい再生筋管も観察されなかった。
【0033】
18日目には、中心核を備え、比較的に成熟した新しい再生筋管(サイズはNで示される通常の筋線維よりは少し小さい)が黒矢印で示されるように創傷の隙間で多数観察された(図1D)。対照的に、コントロールの創傷の隙間は図1FにおいてFibで示されるような線維性組織で満たされていた。
【図2】図2は1、2および3日間の本発明のEGJV処理後の筋線維損傷した前脛骨筋の様子を示した写真である。図2aは5%DMSOコントロールの2日目において創傷箇所が多数の炎症細胞(Inf)で満たされていることを示している。記号「N」は通常の筋線維の様子を示している。対照的に、図2b〜2dはEGJV処理群の結果を示しており、新しく形成された血管が筋線維損傷1日後の創傷箇所(黒矢印で示した)で多数観察された(図2b参照)。筋線維損傷後2日目においては黒矢印で示された新しく形成された多数の血管に加えて、新しく再生し伸張した薄い筋管(緑矢印で示した)も新しく形成された血管に沿って観察された(図2c参照)。そして、筋線維損傷の3日後には緑矢印で囲まれるようにさらに多くの新しい再生筋管の一団が観察された(図2d参照)。
【図3】図3は7日間のEGJV処理後の、ラットにおける筋線維損傷した前脛骨筋の組織学的な様子を示した写真である。図3aはコントロールでの創傷箇所が炎症細胞(「Inf」で示した)および線維性組織(「Fb」で示した)で満たされていたことを示している。対照的に、図3bおよび3cからのEGJV処理群では、よく整列し伸長した新しい再生筋管(赤矢印で示した)が観察され、それらが創傷箇所の隙間を埋めていた。図3dは図3cにおける青い長方形の領域の拡大である。図3dにおいて赤矢印は新しい再生筋管を示し、緑矢印は新しい再生筋管の中心核を示し、青矢印は活性なサテライト細胞を示唆している。それらのいくつかのサテライト細胞は筋管に融合すると思われる。
【図4】図4は14日間のEGJV処理後の筋線維損傷した前脛骨筋の組織学的な様子を示した写真である。図4aはコントロールにおける創傷箇所が線維性組織形成(「Fb」で示した)により治癒し、損傷の隙間が縮まった(青矢印)ことを示している。対照的に、図4bおよび4cより、EGJV処理群においてはよく整列し伸張した新しい再生筋線維が創傷の隙間を完全に埋めているのが観察された。記号「Rm」は新しい再生筋線維を示し、「Em」は既存の筋線維を示している。切れ目の輪郭は緑矢印で示されるように依然として認識できる。図3bおよび3cにおいて、おそらく2つの異なる時期の細胞群ではタンパク質の内容が異なるために、新しい再生筋線維(2週間未満)は既存の筋線維と比較すると異なって染色される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)C1〜C4アルコールから成る群から選択されたアルコールによる植物ダイコンソウ(Geum Japonicum Thunb Var.)の抽出物を抽出するステップを含むダイコンソウの有機抽出物を製造する方法。
【請求項2】
b)ステップa)より得た抽出物の乾燥粉末へ乾燥し、そして、
c)C6アルカン、酢酸エチルおよびC1〜C4アルコールから成る群から選択されたアルコールによるステップb)より入手した粉末を連続的に抽出する、
ステップをさらに含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
d)ステップc)より得た抽出物の乾燥粉末へ乾燥する、
ステップをさらに含むことを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項4】
e)ステップd)より得た粉末をクロマトグラフ・カラムに充填し、そして、
f)C1〜C4アルコールから成る群から選択されるアルコールの水溶液におけるその濃度を上げることによってカラムを溶出する、
ステップをさらに含むことを特徴とする請求項3記載の方法。
【請求項5】
ステップa)が2〜3時間室温で実施され、そして5回繰り返されることを特徴とする請求項1〜4いずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
有機溶媒がメタノールであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項7】
C6アルカンはn−ヘキサンであり、かつステップc)で用いられるアルコールはn−ブタノールであることを特徴とする請求項2記載の方法。
【請求項8】
クロマトグラフ・カラムは10%重量のメタノールで平衡を保たれたSephadexLH−20のカラムであり、かつステップe)で用いられるアルコールはメタノールであることを特徴とする請求項4記載の方法。
【請求項9】
ステップb)あるいはd)が減圧下で実施されることを特徴とする請求項2〜8いずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
得られた抽出物が、ゲミン(Gemin)A、B、C、D、E、およびFを含むタンニン、および2−ヒドロキシオレアノール酸、2−ヒドロキシウルソル酸、2,19−ジヒドロキシ−ウルソル酸、2−アルファ、19−アルファ−ジヒドロキシ−3−オキソ−12−ウルセン−28−オイク酸、ウルソル酸、エピモリック酸、マスリニック酸、エウスカフィク酸、トルメンティク酸、トルメンティク酸の28−ベータ−D−グルコシドを含むトリテルペンを主に含有することを特徴とする請求項1〜9いずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1〜10いずれか一項に記載の方法により得られるダイコンソウの有機抽出物。
【請求項12】
骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折を治療するための薬剤の製造における請求項1〜10いずれか一項に記載の方法に従って得られるダイコンソウの有機抽出物の利用。
【請求項13】
請求項1〜10いずれか一項に記載の方法により得られる有効量のダイコンソウの有機抽出物を、骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折を被った動物へ投与することを含むことを特徴とする、骨格筋損傷、皮膚損傷、あるいは骨折の治療の方法。
【請求項14】
動物とは哺乳動物であることを特徴とする請求項13記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物とは人間であることを特徴とする請求項14記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−510637(P2006−510637A)
【公表日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−557739(P2004−557739)
【出願日】平成14年12月10日(2002.12.10)
【国際出願番号】PCT/CN2002/000878
【国際公開番号】WO2004/052381
【国際公開日】平成16年6月24日(2004.6.24)
【出願人】(505214331)ザ・チャイニーズ・ユニバーシティー・オブ・ホンコン (1)
【氏名又は名称原語表記】THE CHINESE UNIVERSITY OF HONG KONG
【Fターム(参考)】