説明

ダイシング装置およびダイシング方法

【課題】薄型の半導体ウェハを対象とする場合においても良好な切削性を確保することができるダイシング装置およびダイシング方法を提供する。
【解決手段】半導体ウェハ6を回転するブレード13によって切削することにより個片の半導体チップ6aに分割するダイシング装置において、ラバールノズルを用いてブレード13に対して洗浄水の凍結粒子20a、過冷却状態の液滴20bを含む洗浄媒体20を噴射するアイスブラストノズル15を配設し、ブレード13による半導体ウェハ6切削加工部位やブレード13の側面に対して噴射する。これにより、冷却効果とともにブレード13へ微細な有機異物が付着することによる目詰まりを防止して、薄型の半導体ウェハを対象とする場合においても良好な切削性を確保することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング装置およびダイシング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子機器に使用される半導体素子は、円板状の半導体ウェハに複数個分の機能回路を一括して作り込んだ後、この半導体ウェハを個片毎に分割するダイシング工程を経て製造される。ダイシング工程は、従来より一般に高速回転するダイシングブレードを用いて、半導体ウェハを素子毎の区分線であるスクライブラインに沿って切削することにより行われる。この工程に用いられるダイシング装置では、ダイシングブレードによる切削部位に研削液が供給され、これにより切削屑を加工部位から排出するとともに、切削によって生じた熱によってダイシングブレードやウェハシートが過熱されることによる切削不良を防止するようにしている(特許文献1参照)。この特許文献例に示す先行技術では、圧縮空気を冷気と熱気とに分離する冷却気体発生器を用いて、研削水を低温に冷却するようにしている。
【特許文献1】特開2005−209884号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで近年半導体素子の薄型化が進展し、数十μm程度の極薄の半導体素子が用いられるようになっている。このためダイシング工程においても、同様の厚みの半導体ウェハを対象としてダイシングを行うことが求められている。しかしながら、粘着シートに貼着されたこのような極薄の半導体ウェハをダイシングブレードを用いて切断するに際しては、以下に述べるような課題がある。
【0004】
切削対象の半導体ウェハが薄い場合には、切削過程においてダイシングブレードに付着する粘着シートの樹脂成分の残留度合いが増大する。すなわち、半導体ウェハの厚みが大きい場合には、切削過程においてダイシングブレードに付着した樹脂成分は半導体ウェハ自体との摩擦によって除去される割合が大きいのに対し、半導体ウェハが薄い場合には、付着した樹脂成分は半導体ウェハとの摩擦によって除去されずに相当部分が残留する。この結果、ダイシングブレードの目詰まりが進行しやすくなり、切削部位における欠けの多発など切削性の低下が顕著となる。このように、従来のダイシング装置においては、薄型の半導体ウェハを対象とする場合には、良好な切削性を確保することが困難であるという課題があった。
【0005】
そこで本発明は、薄型の半導体ウェハを対象とする場合においても良好な切削性を確保することができるダイシング装置およびダイシング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のダイシング装置は、半導体ウェハを回転するブレードによってスクライブラインに沿って切削することにより前記半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング装置であって、ウェハシートに貼着された状態の前記半導体ウェハを保持するウェハテーブルと、前記ブレードが装着されたダイシングヘッドと、前記ウェハテーブルを前記ダイシングヘッドに対して相対移動させる移動手段と、前記ブレードに対して洗浄液の凍結粒子およびまたは過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を噴射する凍結洗浄媒体噴射手段とを備え、前記凍結洗浄媒体噴射手段は、ラバールノズルを用いることにより前記洗浄液を微粒化するとともに断熱膨張による急冷効果により前記洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む固液2相の噴霧粒子群を形成して噴射する。
【0007】
本発明のダイシング方法は、半導体ウェハを回転するブレードによってスクライブラインに沿って切削することにより前記半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング方法であって、ウェハシートに貼着された状態の前記半導体ウェハをウェハテーブルによって保持するウェハ保持工程と、前記ウェハテーブルを前記ブレードが装着されたダイシングヘッドに対して相対移動させることにより、半導体ウェハを回転する前記ブレードによって切削する切削工程と、前記ブレードに対して洗浄液の凍結粒子およびまたは過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を噴射する凍結洗浄媒体噴射工程とを含み、前記凍結洗浄媒体噴射工程において、ラバールノズルを用いることにより前記洗浄液を微粒化するとともに断熱膨張による急冷効果により前記洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む固液2相の噴霧粒子群を形成して噴射する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラバールノズルを用いることにより洗浄液を微粒化するとともに断熱膨張による急冷効果により洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む固液2相の噴霧粒子群を形成してブレードに対して噴射することにより、冷却効果とともにブレードへ微細な有機異物が付着することによる目詰まりを防止して、薄型の半導体ウェハを対象とする場合においても良好な切削性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態のダイシング装置の斜視図、図2は本発明の一実施の形態のダイシング装置に使用されるラバールノズルによる洗浄媒体の噴射状態の説明図、図3は本発明の一実施の形態のダイシング装置における作動流体供給部の配管系統図、図4は本発明の一実施の形態のダイシング装置に使用されるラバールノズルの構造説明図、図5は本発明の一実施の形態のダイシング方法における切削異物洗浄の説明図、図6、図7は本発明の一実施の形態のダイシング装置におけるラバールノズルの配置状態の説明図、図8は本発明の一実施の形態のダイシング方法におけるブレード付着異物除去の説明図である。
【0010】
まず図1を参照して、ダイシング装置1の構成を説明する。ダイシング装置1は、複数の半導体チップが作り込まれた半導体ウェハを、高速回転するダイシングブレードによって切削することにより、半導体ウェハを個片の半導体チップに分割する機能を有するものである。図1においてウェハ装着部2は、ウェハテーブル3をテーブル移動機構4によってXYZΘ方向に移動自在に保持した構成となっている。ウェハテーブル3の上面には、切削加工対象のワークを保持するためのウェハチャック機構3aが設けられている。
【0011】
本実施の形態においては、半導体ウェハ6を樹脂製のウェハシート7に貼着状態で保持し、さらにウェハシート7を円環状のウェハリング8に展張したウェハ冶具5が、切削加工対象のワークとして、ウェハチャック機構3aに保持される。すなわち、ウェハテーブル3はウェハシート7に貼着された状態の半導体ウェハ6を保持する。ここでは、半導体ウェハ6として厚みが100μm以下の薄型の半導体ウェハを対象としている。
【0012】
ウェハテーブル3がテーブル移動機構4によってY方向に移動した位置は、ダイシング機構10によるダイシング作業位置となっている。ダイシング機構10は、回転駆動機構を内蔵したスピンドル部11の端部にダイシングヘッド12を設けて構成されている。ダイシングヘッド12には、半導体ウェハ6を切削するための薄型砥石であるダイシングブレード13(以下、単にブレード13と記述する。)が、装着フランジ14によって挟み込まれた状態で装着されている。
【0013】
ウェハチャック機構3aにウェハ冶具5を保持させた状態で、テーブル移動機構4を駆動してウェハテーブル3をY方向に移動させることにより、ウェハシート7に貼着された半導体ウェハ6はダイシングヘッド12によるダイシング作業位置に位置決めされる。すなわち、テーブル移動機構4はウェハテーブル3をダイシングヘッド12に対して相対移動させる移動手段となっている。なお移動手段としては、ウェハテーブル3を固定配置し、ダイシングヘッド12をスピンドル部11とともにウェハテーブル3に対して移動させる構成を用いてもよい。
【0014】
ダイシング機構10には、アイスブラストノズル15およびアイスブラストノズル15に作動流体を供給する作動流体供給部16が付随して設けられており、アイスブラストノズル15は、ブレード13に対して洗浄媒体を噴射することにより、切削加工部位を冷却するとともに切削により発生した切削屑やブレード13に付着する異物を除去して切削性を向上させる機能を有するものである。
【0015】
半導体ウェハ6を個片に分割するダイシング過程においては、図2(a)に示すように、ブレード13を矢印a方向に高速回転させて半導体ウェハ6に設定された個片の区画線であるスクライブライン6bに沿って切削を行いながら、半導体ウェハ6をブレード13に対して矢印b方向に相対移動させる。これにより、半導体ウェハ6におけるスクライブライン6bに沿って、数十μm程度の厚みのブレード13によって半導体ウェハ6を厚み方向に貫通したダイシング溝6cが形成され、これにより半導体ウェハ6は個片の半導体チップ6aに分割される。
【0016】
前述のように、対象となる半導体ウェハ6は薄型ウェハであり、厚みt1は半導体ウェハ6を保持するウェハシート7の厚みt2よりも小さい。ブレード13による半導体ウェハ6の切削においては、図2(b)に示すように、ブレード13の先端部は半導体ウェハ6を厚み方向に貫通して、ウェハシート7に部分的に切り込んだ形で切削が行われる。このため、ダイシング過程においては、半導体ウェハ6の成分であるシリコンが切削された切削屑やウェハシート7が部分的に切削されることによって発生した有機異物などの異物がスクライブライン6bに沿って生じてダイシング溝6cから排出される。これらの異物の一部は半導体ウェハ6の表面に付着するとともに、一部はブレード13の先端部にも付着する。このような有機異物は、半導体ウェハ6に付着したものは製品品質を損なうため、またブレード13に付着したものは目詰まりの原因となって切削性を低下させるため、いずれもダイシング過程において除去する必要がある。
【0017】
しかしながらこのような異物のうち、有機異物はウェハシート7の主成分である樹脂と半導体ウェハ6とウェハシート7とを貼着するための粘着物質とが切削時に発生した熱によって軟化したものであり、半導体ウェハ6やブレード13の表面に付着するとこれらを剥離させて除去するのは容易ではない。特に薄型の半導体ウェハ6を対象とする場合には、有機異物を高硬度の半導体ウェハ6によって研磨して除去する作用が小さいことから、有機異物の付着による影響はより顕著となる。そこで本実施の形態に示すダイシング装置1においては、このような除去難易度が高い有機異物を対象として、アイスブラストノズル15による洗浄を適用することにより、良好な異物除去結果を得るようにしている。
【0018】
すなわち、図2(b)に示すように、アイスブラストノズル15によって洗浄液(ここでは洗浄水)の凍結粒子20a、過冷却状態の液滴20bの双方またはどちらか一方を含む洗浄媒体20を、ブレード13において半導体ウェハ6と接触して切削する切削加工部位に対して噴射するようにしている。これにより、切削加工部位をウェハシート7ごと冷却するとともに、スクライブライン6bに生じた切削屑や有機異物などを除去するようにしている。洗浄媒体20の半導体ウェハ6の入射角度や、半導体ウェハ6からの距離などの詳細は、個別の半導体ウェハ6を対象として実際にダイシングテストを行った試行結果に基づいて設定される。
【0019】
次に、図3を参照して、作動流体供給部16の配管系の構成を説明する。図3において、作動流体供給部16には、洗浄水供給源22およびエア供給源21から、洗浄液として使用される水および噴射媒体として使用される圧縮空気がそれぞれ供給される。アイスブラストノズル15に洗浄水と圧縮空気を供給する配管系について説明する。エア供給源21に接続されたエア供給管21aは、レギュレータ23、フィルタ24、冷凍式エアドライヤ25、および開閉バルブ27を介してアイスブラストノズル15に接続されている。開閉バルブ27を開閉制御することにより、アイスブラストノズル15に供給される圧縮空気がオンオフ制御される。
【0020】
レギュレータ23はエア供給配管21aに供給される圧縮空気の圧力を調整し、フィルタ24は共給される圧縮空気の異物を濾過して除去する。冷凍式エアドライヤ25は圧縮空気を冷却することにより水分を凍結させて除去する。エア供給配管21aに接続された温度センサ26は、供給される圧縮空気の温度を検出する。レギュレータ23を操作することにより、アイスブラストノズル15に供給される圧力を所定の圧力に設定することができる。
【0021】
洗浄水供給源22に接続された洗浄水供給配管22aは定量吐出型のポンプ28に接続されており、ポンプ28は供給された洗浄水を定量吐出する。吐出された洗浄水は、吐出水配管28aを介して冷却ユニット32に送給される。吐出水配管28aには、流量センサ29、逆止弁30、フィルタ31が介設されている。流量センサ29は吐出水配管28aを流れる洗浄液の流量を検出する。逆止弁30は洗浄液の逆流を防止し、フィルタ31は洗浄液中の異物を濾過して除去する。
【0022】
冷却ユニット32には冷媒循環部33によって冷却される不凍液などの冷媒が循環しており、吐出水配管28aから送給された洗浄液は、冷却ユニット32内を通過することによって所定の設定温度(本実施の形態においては、約5℃)に冷却され、この状態で冷水供給配管32aを介してアイスブラストノズル15に供給される。このとき、流量センサ29の検出結果に基づいて制御部(図示省略)によってポンプ28の駆動を制御することにより、アイスブラストノズル15には常に予め設定された規定流量の冷水が供給される。
【0023】
次に図4を参照して、アイスブラストノズル15の構造およびアイスブラストノズル15による洗浄媒体20の噴射態様について説明する。図4(a)に示すように、アイスブラストノズル15は、円筒形状のノズル本体部15aを主体としており、ノズル本体部15aには長手方向に貫通して内部流路孔17が形成されている。内部流路孔17の上流側は、エア供給配管21aが接続されて圧縮空気(矢印c)が導入される導入部17aとなっている。導入部17aの下流側には、内部流路孔17の流路径が流れ方向に沿って絞られた縮径部17b、流路径が最も小さく絞られた喉部17c、流路径が拡大する拡径部17dおよび流路径が漸増する加速冷却部17eが圧縮空気の流れ方向に順次設けられている。
【0024】
すなわち、上述構成のアイスブラストノズル15は、縮径部17b、喉部17cおよび拡径部17dを有するラバールノズルを形成している。縮径部17b、喉部17cおよび拡径部17dの形状は、供給される圧縮空気が断熱膨張により低温に冷却されるように設定される。喉部17cの上流側には、洗浄液を圧縮空気の流れと同方向に導入する液滴供給管18が設けられており、冷水供給配管32aから予め設定された規定量で供給される冷却された洗浄水は、液滴供給管18の先端部から微細な液滴19の状態で下流側へ放出される。
【0025】
導入部17aに0.2Mpa〜1MPa程度の圧力で供給された圧縮空気の流れは、縮径部17bによって加速され(矢印d)、音速程度の流速で喉部17cを通過する。そして拡径部17dを通過して拡径部17d内に移動することにより圧力が低下してさらに加速され(矢印e)、断熱膨張により−110℃程度まで温度が低下する。そして液滴供給管18の先端部から流出して圧縮空気の流れによって微粒化した液滴19は、温度が低下した圧縮空気によって急激に冷却され、液滴19が凍結した凍結粒子20aおよび液滴19が過冷却のまま液滴の状態で存在する液滴20bの双方またはどちらか一方が生成される。ここでは凍結粒子20aおよび液滴20bを含む固液2相の噴霧粒子群を形成させるようにしている。そしてこのような固液2相の噴霧粒子群を含む圧縮空気の流れである洗浄媒体20は、徐々に拡径する加速冷却部17e内で加速されながら下流側へ高速で流動し(矢印f)、アイスブラストノズル15の先端部から噴射される。
【0026】
上記構成において、アイスブラストノズル15およびアイスブラストノズル15に洗浄水、圧縮空気を供給するエア供給源21、ポンプ28は、洗浄液の凍結粒子20aおよび過冷却の液滴20bを含む洗浄媒体を半導体ウェハ6のブレード13による切削加工部位に対してアイスブラストノズル15を介して噴射する凍結洗浄媒体噴射手段を構成する。そして、図6に示す例においては、凍結洗浄媒体噴射手段は、ラバールノズルを用いることにより洗浄水を微粒化するとともに、断熱膨張による急冷効果により洗浄水の凍結粒子20aおよび過冷却状態の液滴20bを含む固液2相の噴霧粒子群を形成するようにしている。このようなアイスブラストノズル15は既に公知のものであり、その構成は特開2007−73615号公報に詳述されている。
【0027】
なお、ラバールノズルを用いた凍結洗浄媒体噴射手段の構成としては、図4(a)に示す構成例以外にも、図4(b)に示す構成例のものを用いることもできる(特開平10−223587号公報参照)。すなわち図4(b)に示すアイスブラストノズル115は、ノズル本体部115aを長手方向に貫通して、内部流路孔117を形成した構成となっている。内部流路孔117の上流側は、エア供給配管33bが接続されて圧縮空気(矢印g)が導入される導入部117aとなっている。導入部117aの下流側には、内部流路孔117の流路径が流れ方向に沿って絞られた縮径部117b、流路径が最も小さく絞られた喉部117c、流路径が拡大する拡径部117dおよび流路径が漸増する加速冷却部117eが圧縮空気の流れ方向に順次設けられている。縮径部117b、喉部117cおよび拡径部117dの形状は、アイスブラストノズル15の場合と同様に、供給される圧縮空気が断熱膨張により低温に冷却されるように設定される。
【0028】
すなわち導入部117aに供給された圧縮空気の流れは、縮径部117bによって加速され(矢印h)、音速程度の流速で喉部117cを通過する。そして拡径部117dを通過して拡径部24d内に移動することにより圧力が低下してさらに加速され(矢印i)、断熱膨張により−110℃程度まで温度が低下する。喉部117cの上流側には、洗浄液を圧縮空気の流れと同方向に導入する液滴供給路118が開口した開口部118aが縮径部117bの内側面に設けられており、冷水供給配管32aから供給される洗浄液は開口部118aから微細な液滴19の状態で放出される。
【0029】
そして圧縮空気の流れによって微粒化した液滴19は、温度が低下した圧縮空気によって急激に冷却され、アイスブラストノズル15と同様に凍結粒子20aおよび過冷却状態の液滴20bを含む固液2相の噴霧粒子群が形成される。このような噴霧粒子を含む圧縮空気の流れである洗浄媒体20は、徐々に拡径する加速冷却部117e内で加速されながら下流側へ高速で流動し(矢印j)、アイスブラストノズル115の先端部から噴射される。
【0030】
次に図5を参照して、ブレード13によって半導体ウェハ6を切削するダイシング過程におけるアイスブラストノズル15の機能を説明する。図5(a)は、ブレード13によって半導体ウェハ6を切削する切削加工部位40における異物発生状態を模式的に示している。すなわち半導体ウェハ6をブレード13によって切削する際には、図5(a)に示すように、半導体ウェハ6を厚み方向に貫通するダイシング溝6cがスクライブライン6bに沿って形成され、このときブレード13の先端部はウェハシート7の内部にまで進入する。
【0031】
この溝形成時においては、半導体ウェハ6が切削された切削屑のほか、ウェハシート7の樹脂成分やウェハシート7の表面に形成された粘着層などの有機成分が切削時の熱によって軟化して細片となった有機異物7aがスクライブライン6bに沿って発生し、半導体ウェハ6の表面に付着する。そしてこれとともに、ブレード13の先端部の側面においても、有機異物7bの付着が発生し、ブレード13の切削性能を低下させる原因となる目詰まりが発生する。
【0032】
図5(b)は、このように半導体ウェハ6の表面に有機異物7aが付着した状態の切削加工部位40に対して、アイスブラストノズル15によって洗浄媒体20を噴射した状態を示している。洗浄媒体20の噴射により、切削加工部位40の半導体ウェハ6およびウェハシート7は、凍結粒子20aや液滴20bによって冷却され、ブレード13による切削性が向上する。この冷却効果とともに、切削により半導体ウェハ6の成分が細片化して発生した切削屑や、有機異物7aのうち半導体ウェハ6への付着力が小さいものが、圧縮空気の噴流や凍結粒子20aによる衝撃力によって除去される。
【0033】
これらによって除去されずに半導体ウェハ6の表面に付着した状態となっている有機異物7aに対しては、液滴20bが作用する。すなわち、液滴20bは過冷却状態にあることから、微細な有機異物7aに接触すると急速に凍結固化する。そして複数の液滴20bが有機異物7aに付着堆積することにより、有機異物7aは液滴20bが凍結固化した氷結体20cによって包み込まれ、固形物34が生成される。このような固形物34は有機異物7aそのもののサイズと比較して格段に大きく広い受圧面積を有していることから、図5(c)に示すように、洗浄媒体20の噴射による外力によって容易に切削加工部位40の半導体ウェハ6の表面から剥離脱落し、これにより有機異物7aが半導体ウェハ6から除去される。すなわち、ここに示す例では、凍結洗浄媒体噴射手段は、洗浄媒体20をブレード13において半導体ウェハ6と接触して切削する切削加工部位40に対して噴射することにより、切削加工部位40をウェハシート7ごと冷却するとともに、スクライブライン6bに生じた切削屑や有機異物7aなどの異物を除去するようにしている。
【0034】
なお図1,図2に示す例においては、1つのアイスブラストノズル15のみによって切削加工部位40に対して洗浄媒体20を噴射する例を示したが、図6に示すように、2つのアイスブラストノズル15を配置するようにしてもよい。すなわち、図6に示す例においては、ブレード13によって半導体ウェハ6を切削する切削加工部位40をブレード13の両面側から狙う位置にアイスブラストノズル15が配置される。これにより、洗浄媒体20を異物除去に最適な方向から切削加工部位40に対して噴射することができ、異物除去性能が向上する。
【0035】
また切削加工部位40をアイスブラストノズル15による洗浄の対象とすることに加えて、図7に示すようにブレード13そのものを洗浄の対象とするようにしてもよい。ここでは、図5(a)に示す有機異物7bをブレード13の表面から除去して目詰まりを防止するために、洗浄媒体20を噴射する。すなわち、図7(a)に示すように、ブレード13の回転方向における切削加工部位40の下流側(ここでは切削加工部位40から略45度〜60度時計回り方向に回転した位置)に、ブレード13の外周端部を洗浄するブレード洗浄部位41を設定し、このブレード洗浄部位41を噴射狙い位置として、アイスブラストノズル15を配置する。ここでは、ブレード13の側面が異物除去対象となることから、2つのアイスブラストノズル15をブレード13の両面側から狙う位置に配置することが望ましい。
【0036】
さらに本実施の形態においては、ブレード13においてブレード洗浄部位41と略対向する位置に、氷結異物剥離部42を配置している。図7(b)に示すように、氷結異物剥離部42にはブレード13の外周側の洗浄対象範囲が通過可能な剥離溝43aが設けられた剥離部材43を備えており、剥離溝43aの内面にはブレード13の側面に摺接する細毛のワイヤブラシ44が植設されている。剥離部材43を装着した状態でブレード13を回転させることにより、ブレード13の側面に付着した異物はワイヤブラシ44の先端部によって掻き落とされて除去される。
【0037】
図8は、アイスブラストノズル15によるブレード付着異物除去を模式的に示している。前述のように、図8(a)は切削加工部位40には発生してブレード13の表面に付着した有機異物7b(図5(a)参照)が、ブレード13の回転によってブレード洗浄部位41に到達した状態を示している。そしてこのような状態のブレード13の表面に対して、図8(b)に示すように、洗浄媒体20がアイスブラストノズル15によって噴射される。これにより、噴射された洗浄媒体20に含まれる凍結粒子20aや液滴20bがブレード13の側面に衝突し、ブレード13に付着した有機異物7bのうちブレード13への付着力が小さいものが、圧縮空気や凍結粒子20aによる衝撃力によって除去される。
【0038】
これらによって除去されずにブレード13の表面の微細な凹凸に付着して目詰まり状態を生じさせている有機異物7bに対しては、液滴20bが作用する。すなわち、液滴20bは過冷却状態にあることから、微細な有機異物7bに接触すると急速に凍結固化する。そして複数の液滴20bが有機異物7bに付着堆積することにより、有機異物7bは液滴20bが凍結固化した氷結体20cによって包み込まれ、固形物34が生成される。
【0039】
そしてこのようにして生成された固形物34が氷結異物剥離部24に到達することにより、図8(c)に示すように、ブレード13の表面に付着した状態の固形物34は、剥離部材43に植毛されたワイヤブラシ44がブレード13の表面に摺接することにより掻き落とされる。すなわち、単独で付着した状態ではワイヤブラシ44によって掻き落とすことが困難な微細な有機異物7bでも、氷結体20cによって包み込まれて固形物34を形成することにより、ワイヤブラシ44によって容易に掻き落とすことができる。
【0040】
すなわち、ここに示す例において洗浄媒体噴射手段は、洗浄媒体20をブレード12において切削加工部位40以外の部位に設定されたブレード洗浄部位41に対して噴射することにより、ブレード13に付着した微細な異物である有機異物7bを除去するようにしている。そして氷結異物剥離部24は、ブレード13に付着した有機異物7bの除去において、有機異物7bを包み込んだ過冷却の液滴20bが凍結固化することによって生成した固形物34をブレード13から剥離させる剥離手段となっている。
【0041】
なお剥離手段としては、ワイヤブラシ44が植毛された剥離部材25以外にも、スクレーパなどの剥離部材をブレード13の側面に接触させる構成や、エアーナイフによって高圧エアをブレード13の側面に対して斜め方向から吹き付ける方法などを用いることも可能である。このような方法を用いる場合においても、微細な有機異物7bを氷結体20cによって包み込んで固形物34を形成することにより、通常の方法では除去困難な有機異物を容易に剥離除去することが可能とる。
【0042】
本発明のダイシング装置1は上記のような構成を備えており、ダイシング装置1を用いた半導体ウェハ6のダイシング方法、すなわち半導体ウェハ6を高速回転するブレード13によってスクライブライン6bに沿って切削することにより、半導体ウェハ6を個片の半導体チップ6aに分割するダイシング方法は、以下の各工程を含んで構成される。
【0043】
すなわち、まずウェハシート7に貼着された状態の半導体ウェハ6を、図1に示すウェハテーブル3によって保持する(ウェハ保持工程)。次いで、テーブル移動機構4を駆動してウェハテーブル3をダイシング機構10によるダイシング作業位置に移動させる。ここでテーブル移動機構4によってウェハテーブル3を所定の位置合わせ経路で移動させて、ブレード13が装着されたダイシングヘッド12に対して半導体ウェハ6を相対移動させることにより、半導体ウェハ6を高速回転するブレード13によってスクライブライン6bに沿って切削する(切削工程)。
【0044】
この切削工程においては、図2に示すように、アイスブラストノズル15によってブレード13に対して洗浄水の凍結粒子20aおよびまたは過冷却状態の液滴20bを含む洗浄媒体20を噴射する(洗浄媒体噴射工程)。この洗浄媒体噴射工程においては、ラバールノズルを用いたアイスブラストノズル15により洗浄水を微粒化するとともに、断熱膨張による急冷効果により洗浄水の凍結粒子20aおよび過冷却状態の液滴20bを含む固液2相の噴霧粒子群を形成して噴射するようにしている。このように、ラバールノズルを用いることにより、簡略な構成によって固液2相の噴霧粒子群を形成して洗浄媒体として用いることが可能となっている。
【0045】
そして洗浄媒体噴射工程においては、洗浄媒体20をブレード13において半導体ウェハ6と接触して切削する切削加工部位40に対して噴射することにより、切削加工部位40をウェハシート7ごと冷却するとともに、スクライブライン6bに生じた切削屑や有機異物などの異物を除去するようにしている。さらに望ましくは、この洗浄媒体噴射工程において、洗浄媒体20を切削加工部位40以外の部位に設定されたブレード洗浄部位41に対して噴射することにより、ブレード13に付着した有機異物7bなどの微細な異物を除去する。
【0046】
本実施の形態においては、この微細な異物の除去において、異物を包み込んだ過冷却の液滴20bが凍結固化することによって生成した固形物34を氷結異物剥離部24によってブレード13から剥離させる構成を採用している。このような構成を採用することにより、従来は除去することが困難であった微細な有機異物7bを効率よくブレード13から除去することができる。
【0047】
したがって切削過程において付着した微細な有機異物が残留することによるブレードの目詰まりが進行しやすい薄型の半導体ウェハ6を対象とする場合にあっても、一旦付着した有機異物を効率よく除去することにより、目詰まりに起因する切削性の低下を防止して、切削部位における欠けの発生などの不具合を防止することが可能となっている。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の、薄型の半導体ウェハを対象とする場合においても良好な切削性を確保することができるという効果を有し、半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング過程において利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明の一実施の形態のダイシング装置の斜視図
【図2】本発明の一実施の形態のダイシング装置に使用されるラバールノズルによる洗浄媒体の噴射状態の説明図
【図3】本発明の一実施の形態のダイシング装置における作動流体供給部の配管系統図
【図4】本発明の一実施の形態のダイシング装置に使用されるラバールノズルの構造説明図
【図5】本発明の一実施の形態のダイシング方法における切削異物洗浄の説明図
【図6】本発明の一実施の形態のダイシング装置におけるラバールノズルの配置状態の説明図
【図7】本発明の一実施の形態のダイシング装置におけるラバールノズルの配置状態の説明図
【図8】本発明の一実施の形態のダイシング方法におけるブレード付着異物除去の説明図
【符号の説明】
【0050】
1 ダイシング装置
3 ウェハテーブル
6 半導体ウェハ
6a 半導体チップ
6b スクライブライン
6c ダイシング溝
7 ウェハシート
7a、7b 有機異物
10 ダイシング機構
12 ダイシングヘッド
13 ブレード
15 アイスブラストノズル
16 作動流体供給部
20 洗浄媒体
20a 凍結粒子
20b 液滴
21 エア供給源
22 洗浄水供給源
34 固形物
40 切削加工部位
41 ブレード洗浄部位
42 氷結異物剥離部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウェハを回転するブレードによってスクライブラインに沿って切削することにより前記半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング装置であって、
ウェハシートに貼着された状態の前記半導体ウェハを保持するウェハテーブルと、前記ブレードが装着されたダイシングヘッドと、前記ウェハテーブルを前記ダイシングヘッドに対して相対移動させる移動手段と、前記ブレードに対して洗浄液の凍結粒子およびまたは過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を噴射する凍結洗浄媒体噴射手段とを備え、
前記凍結洗浄媒体噴射手段は、ラバールノズルを用いることにより前記洗浄液を微粒化するとともに断熱膨張による急冷効果により前記洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む固液2相の噴霧粒子群を形成して噴射することを特徴とするダイシング装置。
【請求項2】
前記凍結洗浄媒体噴射手段は、前記洗浄媒体を前記ブレードにおいて前記半導体ウェハと接触して切削する切削加工部位に対して噴射することにより、前記切削加工部位を前記ウェハシートごと冷却するとともに切削により前記スクライブラインに生じた異物を除去することを特徴とする請求項1に記載のダイシング装置。
【請求項3】
前記凍結洗浄媒体噴射手段は、前記洗浄媒体を前記ブレードにおいて前記半導体ウェハと接触して切削する切削加工部位以外の部位に対して噴射することにより、前記ブレードに付着した微細な異物を除去することを特徴とする請求項1に記載のダイシング装置。
【請求項4】
前記ブレードに付着した微細な異物の除去において、前記異物を包み込んだ前記過冷却の液滴が凍結固化することによって生成した固形物をブレードから剥離させる剥離手段を備えたことを特徴とする請求項3に記載のダイシング装置。
【請求項5】
半導体ウェハを回転するブレードによってスクライブラインに沿って切削することにより前記半導体ウェハを個片の半導体チップに分割するダイシング方法であって、
ウェハシートに貼着された状態の前記半導体ウェハをウェハテーブルによって保持するウェハ保持工程と、前記ウェハテーブルを前記ブレードが装着されたダイシングヘッドに対して相対移動させることにより、半導体ウェハを回転する前記ブレードによって切削する切削工程と、前記ブレードに対して洗浄液の凍結粒子およびまたは過冷却状態の液滴を含む洗浄媒体を噴射する凍結洗浄媒体噴射工程とを含み、
前記凍結洗浄媒体噴射工程において、ラバールノズルを用いることにより前記洗浄液を微粒化するとともに断熱膨張による急冷効果により前記洗浄液の凍結粒子および過冷却状態の液滴を含む固液2相の噴霧粒子群を形成して噴射することを特徴とするダイシング方法。
【請求項6】
前記凍結洗浄媒体噴射工程において、前記洗浄媒体を前記ブレードにおいて前記半導体ウェハと接触して切削する切削加工部位に対して噴射することにより、前記切削加工部位を前記ウェハシートごと冷却するとともに切削により前記スクライブラインに生じた異物を除去することを特徴とする請求項5に記載のダイシング方法。
【請求項7】
前記凍結洗浄媒体噴射工程において、前記洗浄媒体を前記ブレードにおいて前記半導体ウェハと接触して切削する切削加工部位以外の部位に対して噴射することにより、前記ブレードに付着した微細な異物を除去することを特徴とする請求項5に記載のダイシング方法。
【請求項8】
前記ブレードに付着した微細な異物の除去において、前記異物を包み込んだ前記過冷却の液滴が凍結固化することによって生成した固形物をブレードから剥離させることを特徴とする請求項7に記載のダイシング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−270627(P2008−270627A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113704(P2007−113704)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000179328)リックス株式会社 (33)
【Fターム(参考)】