説明

ダイナミックダンパ

【課題】 ダイナミックダンパとしての性能を維持しつつ軽量でかつコンパクトにする。
【解決手段】 回転軸5の外径よりも大きな内径を有して回転軸5の外周を包囲する質量部材2と、該質量部材2の内周にあって回転軸5に保持される保持部3と、保持部3と質量部材2とを繋いで質量部材2を支える周方向に複数個均等配置された弾性部4からなるダイナミックダンパ1において、弾性部4が質量部材2あるいは回転軸5の法線6に対して径方向に同一方向に傾斜して設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドライブシャフトなどの回転軸の周囲に取付けて、その回転軸に生ずる有害振動を抑制するダイナミックダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のドライブシャフトやプロペラシャフトなどの回転軸の回転に伴って生ずる回転アンバランスによる曲げ振動やねじり振動など、本来発生しないのが望ましい有害振動を抑制するために、ダイナミックダンパが多く用いられている。これらのダイナミックダンパは、固有振動数を励起される有害振動の卓越振動数に合せることにより、回転軸の振動エネルギを共振によりダイナミックダンパの振動エネルギとして変換して吸収することでその機能を果たしている。
【0003】
従来のダイナミックダンパとしては、回転軸に保持される固定部材と、この固定部材の外周に配設される筒状の質量部材と、これら固定部材と質量部材とを径方向に連結する弾性部材とで構成され、質量部材の径方向における振動に対し弾性部材の圧縮・引張りによって荷重を受ける構造のものがある(特許文献1)。
【0004】
また、異なるタイプのダイナミックダンパとしては、軸方向に所定間隔を隔てて回転軸に支持される一対のリング状の固定部材と、回転軸の外周面より大きい内周面を有し一対の固定部材の間に配置される筒状の質量部材と、各固定部材と固定部材に隣接する質量部材の各軸端部とを一体的に連結する一対の弾性部材とを備え、質量部材の内周面と回転軸の外周面との間に質量部材の径方向における変位を可能とする環状の空所を画成して、固定部材と弾性部と質量部材とを軸方向に同軸上に配置して、一対の弾性部材の剪断方向の変位で質量部材の振動を抑制する構造のものがある(特許文献2)。
【0005】
さらに、弾性部材の支配的なばね定数が剪断ばね定数となるタイプの他のダイナミックダンパとしては、回転軸の外周面より所定間隔を隔てて同軸的に配置される筒状の質量部材と、一端が該質量部材の内周面に一体的に結合され他端が中心方向に伸びて図示していない回転軸の外周面に当接保持されて質量部材を支えるハの字形の弾性部材とで構成されるものがある。このダンパの弾性部材は、法線に対して対称的な断面略ハ字形状の変位部を互いに周方向に間隔を隔てて一周するように配置したもの、または断面略逆ハ字形状をなす複数個の弾性部材の集合として有し、法線に対して対称形状を成すハの字形の弾性部材を径方向に変形させることで質量部材の振動を抑制する構造のものがある(特許文献3)。
【0006】
【特許文献1】特開平9−229137
【特許文献2】特公平6−37915
【特許文献3】特公平6−94892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した引用文献1記載のタイプのダイナミックダンパでは、弾性部材が質量部材を圧縮方向で支持しているため、ダイナミックダンパの外径を小さくしようとすると、弾性部材が径方向に薄くなり、圧縮ばね定数が大きくなる問題がある。その結果、ダイナミックダンパの固有振動数が高くなってしまうため、所定の固有振動数が得られない。他方、質量部材の質量を大きくしてその固有振動数を低い値に維持する場合には、重量の増加を招く問題がある上に、さらに捩り方向の剛性が圧縮方向の剛性に対して相対的に低下する影響も無視できなくなる。このように従来のダイナミックダンパでは、その外径を小さくすることは非常に困難であり、その小型化、軽量化が大きな課題となっている。
【0008】
また、固定部材と質量部材と弾性部材とを径方向に重ならないように軸方向に配置するタイプの特許文献2記載のダイナミックダンパでは、軸方向に長くなってしまう問題を有している。しかも、質量部材を挟んで左右に配置された弾性部材は、ハの字状に対を為して質量部材を支持するため、剛性がその分だけ高くなるため、コンパクト化が難しくなる問題を有している。
【0009】
さらに、剪断方向のばね定数を利用した特許文献3記載のダイナミックダンパにおいても、弾性部材がハの字状に対を為していることから、剛性がその分だけ高くなるため、コンパクト化が難しくなる問題を有している。さらに、ハの字状の弾性部材が円周方向に分断されているダイナミックダンパでは、回転軸への圧入、固定作業がやっかいである。
【0010】
このように従来のダイナミックダンパでは、その性能を維持しつつ外径を小さくすることは困難であり、その小型化、軽量化が大きな課題となっている。
【0011】
そこで本発明は、ダイナミックダンパとしての性能を維持しつつ軽量でかつコンパクトなダイナミックダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる目的を達成するため、本発明は、回転軸の外径よりも大きな内径を有して回転軸の外周を包囲する質量部材と、該質量部材の内周にあって回転軸に保持される保持部と、保持部と質量部材とを繋いで質量部材を支える周方向に複数個均等配置された弾性部からなるダイナミックダンパにおいて、弾性部が質量部材あるいは回転軸の法線に対して径方向に同一方向に傾斜して設けられるようにしている。
【0013】
このダイナミックダンパによると、質量部材と弾性部と保持部とが径方向に重なって同一軸上に配置されているにもかかわらず、いずれの弾性部材も同一方向に傾いていることによって、径方向への剛性が低くかつばね定数が主にせん断ばね定数となって非常に小さくなる。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載のダイナミックダンパにおいて、傾斜角度θが20°≦θ≦50°の範囲
[但し、θは弾性部の中心部分の傾斜角度(弾性部の中心線とこの中心線が保持部外
周面と接する位置の法線との角度)を示す。]
であることを特徴とするものである。
【0015】
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載のダイナミックダンパにおいて、保持部と質量部材との間の径方向スペースが1.5mm〜5mmであることを特徴とするものである。
【0016】
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載のダイナミックダンパにおいて、保持部が連続した環状に形成され、回転軸に対して締め代を有し、回転軸への固定部とされていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載のダイナミックダンパによれば、弾性部が質量部材あるいは回転軸の法線に対して径方向に同一方向に傾斜しているので、ばね定数が主にせん断ばね定数となり非常に小さく設定することができる。しかも、弾性部の傾斜方向が同じなので、軸の振動に対して変形し易く(剛性が低い)、ばね定数が一層小さくできる。したがって、固有振動数を小さくすることができるので、ダイナミックダンパの外径を小さくしてコンパクトにすることも、質量部材の質量を小さくして軽量化することも可能となる。即ち、ダイナミックダンパとしての所定の性能を維持しつつ、質量や大きさ、特に外径寸法を小さくすることができる。加えて、弾性部と質量部材と保持部とを重ねて配置しているので、軸方向に並べて配置する場合にも比べてもコンパクト化が図れる。
【0018】
請求項2記載のダイナミックダンパによれば、弾性部の傾斜角度θが20°≦θ≦50°の範囲にすることにより、ばね定数をより小さくすることができる。即ち、θ<20°であるとばね定数の低減効果が小さく、また、コンパクト化が図れない。50°<θであると弾性部の厚さを考慮すると製造がきわめて難しくなる。
【0019】
請求項3記載のダイナミックダンパによれば、保持部と質量部材との間の径方向スペースを1.5mm〜5mmの範囲にすることにより、せん断方向の変形が支配的となってばね定数をより小さくすることができると共に、製造が容易となる。即ち、径方向スペースが1.5mm未満であると、スペースを形成するための金型の厚さが薄くなりすぎて金型強度が弱いために生産性がきわめて低下してしまう。一方、径方向スペースが5mmより大きいと、ばね定数の低減効果が小さい割にダンパー全体の大きさが大きくなりすぎてコンパクト化が図れないか、または保持部の肉厚が薄くなり嵌合力が問題となる。
【0020】
請求項4記載のダイナミックダンパによれば、保持部が環状連続に形成されているので軸に対して十分な嵌合力を有し、また、保持部が質量部材の内周位置にあるため軸方向のコンパクト化が図れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
【0022】
図1から図5に本発明のダイナミックダンパの実施の一形態を示す。このダイナミックダンパ1は、回転軸5の外径よりも大きな内径を有して回転軸5の外周を包囲する質量部材2と、該質量部材2の内周にあって回転軸5に保持される保持部3と、保持部3と質量部材2とを繋いで質量部材を支える周方向に複数個均等配置された弾性部4からなる。そして、弾性部4は質量部材2あるいは回転軸5の法線6に対して径方向に同一方向に傾斜して設けられるものである。
【0023】
ここで、弾性部4の傾斜角度θは20°≦θ≦50°の範囲に設定されることが好ましい。但し、傾斜角度θは質量部材2あるいは回転軸5の法線6に対する角度であり、例えば弾性部4の中心部分の傾斜角度つまり弾性部4の中心線とこの中心線が保持部3の外周面と接する位置の法線6との角度を示す。本実施形態の場合、傾斜角度θは20°より小さいとばね定数の低減効果が小さく、また、コンパクト化が図れない。他方、傾斜角度θが50°より大きいと、弾性部4の厚さtを考慮すると製造がきわめて難しくなる。したがって、弾性部4の傾斜角度θは20°≦θ≦50°の範囲に設定すれば、より小さなばね定数の弾性部4を容易に製造することができる。
【0024】
また、保持部3と質量部材2との間の径方向スペース7は1.5mm〜5mmであることが好ましい。径方向スペース7が1.5mm未満であると、スペースを形成するための金型の厚さが薄くなりすぎて金型強度が弱いために生産性がきわめて低下してしまう。他方、径方向スペース7が5mmより大きいと、ばね定数の低減効果が小さい割にダイナミックダンパ1の全体の大きさが大きくなり過ぎてコンパクト化が図れない。さらに、保持部3の肉厚tが薄くなり回転軸5への固定時の嵌合力が不足する問題が生じる。したがって、径方向スペース7が1.5mm〜5mmの範囲に設定されるとき、ばね定数をより小さくして十分な厚みの保持部3を得ることができる。
【0025】
さらに、保持部3は、エチレン・プロピレンゴム(EPDM)等の合成ゴムや天然ゴム等のゴム材料によって連続した環状(筒)に形成され、回転軸5に対して締め代を有し、回転軸5への固定部とされている。即ち、回転軸5に圧入されるように設けられている。保持部3の内径は回転軸5の外径よりも少し小さく形成されているが、さらに軸方向中央部には内側に突出する台形状の凸部から成る嵌合部8が設けられてさらに小さな径とされている。したがって、回転軸5に対して十分な嵌合力を有し、また、保持部3が質量部材2の内方にあるため軸方向への保持部3のはみ出しがなく、軸方向へのコンパクト化が図れる。しかも、締め付けバンドなどの部品を用いずに、簡単にダイナミックダンパを装着可能とすることができる。尚、保持部の両端の開口部付近は、面取りが施されて回転軸の挿入が容易となるように配慮されている。
【0026】
ここで、好ましくは固定相手となる回転軸5の取り付け部の形状を嵌合部8に対応させた形状、即ち僅かな凹部9の環状部を形成することである。この場合、固定効果特に軸方向への固定効果が高まり、ダイナミックダンパ1が軸方向へも移動し難くなる。
【0027】
質量部材2は、筒状の厚肉鋼管等の金属製質量体であり、回転軸5の外方に回転軸5と同軸的に組み付けられるように設けられている。本実施形態の場合、金属管の周りがエチレン・プロピレンゴム(EPDM)等の合成ゴムや天然ゴム等のゴム材料で最小限の肉厚例えば1mm程度の厚みでコーティングされることにより、弾性部4並びに保持部3と一体化されている。
【0028】
質量部材2の内周面には、図1に示すように、その周方向に等間隔に配置された弾性部4が備えられ、該弾性部4を介して質量部材2が支持されている。各弾性部4は、それぞれエチレン・プロピレンゴム(EPDM)等の合成ゴムや天然ゴム等のゴム材料によって形成され、一方の端部が質量部材2の内周面にそれぞれ一体的に結合され、他方の端部が内側の環状の保持部の外周面にそれぞれ一体的に結合されている。
【0029】
弾性部4は法線6に対して径方向に同一方向に傾斜するように複数設けられている。各弾性部4はそれぞれの外側端部が質量部材2を包囲して支持するコーティング10の内周面に結合されると共に内側端部が保持部3の外周面に結合されて互いに一体として連結され、弾性部4を介して質量部材2が支持されると共に保持部3を介して回転軸5に固定されている。
【0030】
なお、本実施形態では、量産性を上げるため、各弾性部4、保持部3および質量部材2のゴムコーティングは型加硫成形によって一体的に形成している。しかしながら、各部材を個別に製造してから、接着などにより一体化するようにしても良い。
【0031】
以上のように構成される本実施形態のダイナミックダンパ1は、次のようにして使用される。
【0032】
まず、ダイナミックダンパ1を回転軸5に圧入によって装着する。保持部3の両端の出入り口付近の内径は回転軸5の外径よりも小径であるが、少し小さい程度であるので圧入による保持部3の出入り口付近における筒状の保持部3は僅かな力で拡がり、さらに軸方向中央のより小径となる嵌合部8の挿入を容易にする。そして、嵌合部8が回転軸5の凹部9に達したときに、嵌合部8が凹部9に嵌り込んで軸方向に均一な締め付け力で回転軸5の外周面に固定される。こうしてダイナミックダンパ1は回転軸5の所定位置に配置され、固定される。
【0033】
この状態で回転軸5が回転して有害な振動が励起されると、その有害振動の振動数に固有振動数を適合させたダイナミックダンパ1の質量部材2が共振する。そして、質量部材2の共振によって、回転軸5の振動エネルギを吸収し、回転軸5の励起された有害振動を抑制する。この固有振動数は質量部材2の質量と弾性部4のばね定数で基本的に決定される。したがって、ダイナミックダンパ1の径方向に対して周方向の一定の方向に傾斜している弾性部4は、回転軸5が振動し、部分的に回転軸5の外周面が質量部材2の内周面に近接あるいは遠ざかると、弾性部4がさらにその傾きを大きくする方向に押されて撓むように変形する。その結果、本発明のダイナミックダンパ1では、質量部材2は弾性部4の圧縮方向ではなく剪断方向に支持され、そのばね定数は主として剪断ばね定数となる。剪断ばね定数は、その形状によっても異なるが、その値は圧縮・引張りばね定数に比べてかなり小さい値となっている。したがって、ばね定数を大幅に小さくすることができる。尚、この剪断変形を受ける弾性部4の幅、形状を変更することによって非常に小さなばね定数も実現が可能となる。
【0034】
次に、図4から図6に本発明の他の実施形態について説明する。尚、以下に説明する他の実施形態において上述の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0035】
この実施形態のダイナミックダンパ1は、保持部3の内周面中央の圧入用の嵌合部・凸部8を設けずに、保持部3の両端に固定用のバンド12を装着するためのバンド保持部11を一体的に成形したものである。この場合には、保持部3は回転軸5の外径とほぼ同じに形成され、容易に装着可能とすることができる。尚、バンド保持部11は必ずしも保持部3の両端に設ける必要はなく、保持部3の一端のみであっても良い。
【0036】
さらに、本発明のダイナミックダンパ1の保持部3と質量部材2との間の径方向スペース7は、軸方向に貫通させるものに限られず、図6に示すように、径方向スペース7の途中に径方向スペース7を軸方向に分断する膜13を形成するようにしても良い。この場合、ダイナミックダンパとしての性能を維持しつつ、金型の径方向スペース7を形成する中子を短くして金型強度を高めることができる。
【0037】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態のダイナミックダンパ1を弾性部4として直線状に伸びるものとした例を挙げて主に説明したが、弾性部4はこれに限られず、横断面形状で円弧状やS字状、階段状あるいはその他の非直線形状にしても良く、これら種々の形状とすることにより、弾性部4の長さを長くして更にばね定数を低下させることも可能である。また、弾性部4の厚さtは必ずしも均一でなくても良く、例えば内側(保持部3側)を厚くすれば保持部3の剛性が高くなり回転軸5との嵌合力を高められ、また、外側(質量部材2側)を厚くすれば質量部材2との接合力を高められる。さらに、各弾性部4は全て同じ条件でなくてもよく、例えば、周方向に交互に傾斜角度θ、肉厚t、形状を変えてもよく、このようにすれば種々の特性が得られる。
【実施例】
【0038】
有限要素法解析ソフトを用いたコンピュータシミュレーションにより、図1及び図2に示す構造の本発明のダイナミックダンパについて、径方向スペース7とばね定数との関係、弾性部傾斜角度とばね定数との関係について検討をした。
【0039】
尚、想定したダイナミックダンパの諸元は以下の通りである。ダンパの外径は50mm、保持部3の肉厚2.5mm、径方向スペース7の長さ3mm、弾性部3の肉厚(t)3mm、弾性部3の傾斜角度(θ)50°とした。また、保持部3、弾性部4並びに質量部材2のゴムコーティング10を構成する素材として質量18gのEPDMを用いて、各弾性部4、保持部3および質量部材2のゴムコーティング10を型加硫成形によって一体的に成形した。そして、質量部材2として、S10CあるいはS10C相当材で、外径49mm、内径37.5mm、長さ22mm、質量134gの金属環を採用した。尚、6本の弾性部3を周方向に等間隔に備えるものとした。そして、ダイナミックダンパを圧入する回転軸5の直径は26mmとした。
【0040】
(径方向スペース)
径方向スペース7のスペース高さ(径方向の厚み)を変えてばね定数の変化を求めた。結果を図8並び表1に示す。尚、シミュレーション結果は、径方向スペース3mmを基準(100%)とした場合の径方向スペースの高さの変化に対するばね定数の比率の変化として表している。
【表1】

以上の実験の結果、ばね定数を最小化するには、径方向スペースは、1.5mm〜5mmの範囲、好ましくは2mm〜4mmの範囲とすることが判明した。
【0041】
(弾性部の傾斜角度)
弾性部3の傾斜角を変えてばね定数の変化を求めた。結果を図9並びに表2に示す。尚、シミュレーション結果は、傾斜角度0°時を基準(100%)とした場合の弾性部傾斜角度の変化に対するばね定数の比率の変化として表している。
【表2】

以上の実験の結果、ばね定数を最小化するには、弾性部の傾斜角度θは、20°〜50°の範囲、好ましくは30°〜40°の範囲とすることである。
【0042】
(比較例との対比)
比較例として、図7に示す構造のダイナミックダンパ101を想定して、有限要素法解析ソフトを用いて上述の本発明のダイナミックダンパのばね定数と比較した。この比較例のダイナミックダンパ101は、6本の弾性部103が2本ずつ互いに逆方向に傾きを以て向かい合うハの字状(台形状)に配置されている構成である。尚、図中の符号102は環状の質量部材、104は保持部、105は質量部材102を覆うゴムコーティングである。また、このシミュレーションにおけるダンパの諸元は双方共に、ダンパの外径は50mm、保持部3の肉厚2.5mm、径方向スペース7の長さ3mm、弾性部3の肉厚(t)3mm、弾性部3の傾斜角度(θ)50°とした。そして、本発明のダイナミックダンパのばね定数を基準(100%)として比較例のばね定数を表した結果を表3に示す。
【表3】

ばね定数を比較したところ、本発明のダイナミックダンパのばね定数を100とすると、比較例のダイナミックダンパは115%の数値であった。このことから、本発明のダイナミックダンパの構造はばね定数が小さく、ダイナミックダンパのコンパクト化並びに軽量化に適していることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明のダイナミックダンパの一実施形態を示す正面図である。
【図2】図1のII-II線に沿う断面図である。
【図3】図1のダイナミックダンパを回転軸に装着した状態を示す説明図であり、ダイナミックダンパの構造を仮想線で示す。
【図4】本発明のダイナミックダンパの他の実施形態を示す正面図である。
【図5】図4のダイナミックダンパを回転軸に装着した状態を示す説明図である。
【図6】本発明のダイナミックダンパのさらに他の実施形態を示す図であり、(A)は正面図、(B)はVI−VI線に沿う断面図である。
【図7】比較例のダイナミックダンパの構造を示す図であり、(A)は中央縦断面図、(B)はVII−VII線に沿う横断面図である。
【図8】有限要素法解析ソフトを用いた径方向スペース3mmを基準(100%)とした場合の径方向スペースの高さの変化に対するばね定数の比率の変化をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【図9】有限要素法解析ソフトを用いた傾斜角度0°時を基準(100%)とした場合の弾性部傾斜角度の変化に対するばね定数の比率の変化をシミュレーションした結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0044】
1 ダイナミックダンパ
2 質量部材
3 保持部
4 弾性部
5 回転軸部
6 法線
7 径傾斜角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸の外径よりも大きな内径を有して前記回転軸の外周を包囲する質量部材と、該質量部材の内周にあって前記回転軸に保持される保持部と、前記保持部と前記質量部材とを繋いで前記質量部材を支える周方向に複数個均等配置された弾性部からなるダイナミックダンパにおいて、前記弾性部が前記質量部材あるいは前記回転軸の法線に対して径方向に同一方向に傾斜して設けられるものであるダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記傾斜角度θが20°≦θ≦50°の範囲
[但し、θは弾性部の中心部分の傾斜角度(弾性部の中心線とこの中心線が保持部外
周面と接する位置の法線との角度)を示す。]
である請求項1記載のダイナミックダンパ。
【請求項3】
前記保持部と前記質量部材との間の径方向スペースが1.5mm〜5mmである請求項1または2記載のダイナミックダンパ。
【請求項4】
前記保持部は連続した環状に形成され、前記回転軸に対して締め代を有し、前記回転軸への固定部とされている請求項1から3のいずれか1つに記載のダイナミックダンパ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−31926(P2010−31926A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−193071(P2008−193071)
【出願日】平成20年7月28日(2008.7.28)
【出願人】(000104490)キーパー株式会社 (23)
【Fターム(参考)】