説明

ダイナミックマイクロホン

【課題】背部空気室の容積が小さい場合であっても、背部空気室の音響インピーダンスを等価的に低くすることにより、低い周波数(低音域)の収音を可能にする。
【解決手段】ボイスコイル21a付き振動板21および磁気ギャップを有する磁気回路22を含むマイクロホンユニット20と、一端側でマイクロホンユニット20を支持し、内部に音響抵抗材26を介して振動板21の背面側に設けられる背部空気室12aを有するマイクロホンケース10とを含むダイナミックマイクロホンにおいて、マイクロホンユニット20とは別に副マイクロホンユニット40を備え、音響抵抗材26と背部空気室12aとの間に、印加電圧に応じて背部空気室12a側に向けて湾曲変形する圧電素子からなる膜板50を設け、副マイクロホンユニット40から出力される音声信号(電圧信号)にて膜板50を駆動し、背部空気室12aの音響インピーダンスを等価的に小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイナミックマイクロホンに関し、さらに詳しく言えば、振動板の背面側に設けられている背部空気室の音響インピーダンスを振動板の前面側の圧力が上昇する際に等価的に小さくして低音域まで収音可能とする技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
まず、図4により、ダイナミックマイクロホンの一般的な構成について説明する。ダイナミックマイクロホンは、主にボーカル用やスピーチ用として用いられるため、グリップ部となる円筒状のマイクロホンケース10を備える。通常、マイクロホンケース10は、黄銅合金などの金属製である。
【0003】
この例では、マイクロホンケース10内に、ゴム弾性体からなるショックマウント部材11を介して中筒12が同軸的に保持され、中筒12の一端部側にマイクロホンユニット20が支持される。
【0004】
マイクロホンユニット20は、ボイスコイル21aを有する振動板21と、磁気回路22とを備える。振動板21は、センタードームとその周りに形成されたサブドームとを有し、センタードームとサブドームとの境界部分にボイスコイル21aが接着材を介して取り付けられる。
【0005】
磁気回路22は、厚み方向に着磁された円盤状のマグネット22aと、マグネット22aの一方の極側に配置される有底円筒状のヨーク22bと、マグネット22aの他方の極側に配置されるセンターポールピース22cとを含み、ヨーク22bとセンターポールピース22cとの磁気ギャップが形成される。
【0006】
振動板21と磁気回路22は、ボイスコイル21aを上記磁気ギャップ内に振動可能に配置した状態でユニットホルダー23の一端側に組み付けられる。振動板21の上に、前部音響端子24aを有するレゾネータ24が被せられる。
【0007】
また、単一指向性の場合、ユニットホルダー23には、振動板21の背面に連通する後部音響端子23aが設けられる。前部音響端子24a,後部音響端子23aは、ともに音波を通す孔である。
【0008】
ユニットホルダー23の他端側には、音響抵抗材26にて覆われた音孔25aを有するキャップ25が嵌合される。これにより、中筒12の内部には、音響抵抗材26を介して振動板21の背面側に連通する背部空気室12aが形成される。
【0009】
マイクロホンケース10の一端側には、マイクロホンユニット20を落下衝撃等から保護するための金属メッシュからなる保護カバー27が取り付けられ、マイクロホンケース10の他端側には、出力コネクタ30が装着される。
【0010】
ところで、単一指向性のダイナミックマイクロホンは、質量制御的性質と抵抗制御的性質とを兼ね備える。これに対して、無指向性ダイナミックマイクロホンは、抵抗制御である。無指向性成分の駆動力は、振動板21の前面側(受音面側)と、その背面側に存在する背部空気室12aとの圧力差で得られるとともに、音響抵抗材26の音響抵抗によって制御される。
【0011】
図5に、単一指向性ダイナミックマイクロホンの音響的な等価回路を示す。P1が前方音源、P2が後方音源、m0,s0が振動板21の質量とスチフネス、r1が音響抵抗材26の音響抵抗、s1が背部空気室12aのスチフネス、m1が背部空気室12aの質量である。
【0012】
ダイナミックマイクロホンにおいて、背部空気室12aの大きさ(容積)は、収音する周波数帯域に大きな影響をもつ。例えば、背部空気室12aが小さいと、低い周波数では背部空気室12aのインピーダンスが高くなる。
【0013】
そこで、低音域までの収音を意図してダイナミックマイクロホンでは、単一指向性,無指向性ともに背部空気室12aの容積を大きくして、背部空気室12aのインピーダンスが低くなるように設計している。
【0014】
しかしながら、背部空気室12aの容積を大きくすると、他の部分の設計に支障をきたす。とりわけ、ワイヤレスマイクロホンのように、グリップ部となるマイクロホンケース10内に電子回路を搭載するマイクロホンでは、背部空気室12aの容積を十分に確保することができない。
【0015】
なお、特許文献1には、ダイナミックマイクロホンにおいて、機種に応じて、背部空気室の容積を可変にできる発明が記載されているが、これは、決められた一定容積の背部空気室内に可動仕切板を設け、その背部空気室内を可動仕切板によって2分割する構成であるため、背部空気室自体の容積をそれ以上に大きくすることができない。
【0016】
【特許文献1】特開昭62−197号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって、本発明の課題は、背部空気室の容積が小さい場合であっても、背部空気室の音響インピーダンスを等価的に低くすることにより、低い周波数(低音域)の収音を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するため、本発明は、ボイスコイルを有する振動板および上記ボイスコイルが振動可能に配置される磁気ギャップを有する磁気回路を含むマイクロホンユニットと、一端側で上記マイクロホンユニットを支持し、内部に音響抵抗材を介して上記振動板の背面側に設けられる背部空気室を有するマイクロホンケースとを含むダイナミックマイクロホンにおいて、上記マイクロホンユニットに到来する音波を受けて音声信号を出力する副マイクロホンユニットを備えるとともに、上記音響抵抗材と上記背部空気室との間に、印加電圧に応じて上記背部空気室側に向けて湾曲変形する圧電素子からなる膜板が設けられ、上記膜板が上記副マイクロホンユニットから出力される音声信号にて駆動されることを特徴としている。
【0019】
本発明において、上記副マイクロホンユニットには、好ましくは無指向性マイクロホンユニットが用いられる。
【0020】
無指向性マイクロホンユニットの中でも、特に電源を必要としてないエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットや圧電型マイクロホンユニットがより好ましいが、ワイヤレスマイクロホンのように電池を内蔵している場合や、有線にて電源が供給されるマイクロホンであれば、コンデンサマイクロホンユニットが用いられてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、マイクロホンユニットに到来する音波を受けて音声信号を出力する副マイクロホンユニットを備えるとともに、音響抵抗材と背部空気室との間に、印加電圧に応じて背部空気室側に向けて湾曲変形する圧電素子からなる膜板が設けられ、振動板の前面側の圧力が上昇するに伴って副マイクロホンユニットから出力される音声信号が膜板に印加され、これにより膜板が背部空気室を圧縮するように動作し、背部空気室の音響インピーダンスが等価的に低くなるため、背部空気室が小さくても低い周波数(低音域)の収音が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、図1ないし図3により、本発明の実施形態について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係るダイナミックマイクロホンを示す断面図、図2は本発明の第2実施形態に係るダイナミックマイクロホンを示す断面図、図3は上記各実施形態に係るダイナミックマイクロホンにおける音響的な等価回路図である。なお、先の図4で説明した従来例と同一の構成要素には同じ参照符号を用いる。
【0023】
まず、図1に示す第1実施形態について説明する。このダイナミックマイクロホンは、黄銅合金などの金属材からなるグリップ部として用いられる円筒状のマイクロホンケース10を備える。
【0024】
この実施形態においても、マイクロホンケース10内に、ゴム弾性体からなるショックマウント部材11を介して中筒12が同軸的に保持され、中筒12の一端部側にマイクロホンユニット20が支持されている。
【0025】
マイクロホンユニット20は、ボイスコイル21aを有する振動板21と、磁気回路22とを備える。振動板21は、合成樹脂フィルム製で、センタードームとその周りに形成されたサブドームとを有し、センタードームとサブドームとの境界部分にボイスコイル21aが接着材を介して取り付けられている。
【0026】
磁気回路22は、円盤状で厚み方向に着磁されたマグネット22aと、マグネット22aの一方の極側に配置される有底円筒状のヨーク22bと、マグネット22aの他方の極側に配置されるセンターポールピース22cとを含み、ヨーク22bとセンターポールピース22cとの磁気ギャップが形成される。
【0027】
振動板21と磁気回路22は、ボイスコイル21aを上記磁気ギャップ内に振動可能に配置した状態でユニットホルダー23の一端側に組み付けられる。振動板21の上に、前部音響端子24aを有するレゾネータ24が被せられる。
【0028】
この実施形態に係るダイナミックマイクロホンは、単一指向性であるため、ユニットホルダー23には、振動板21の背面に連通する後部音響端子23aが設けられている。前部音響端子24a,後部音響端子23aは、ともに音波を通す孔である。
【0029】
ユニットホルダー23の他端側には、音響抵抗材26にて覆われた音孔25aを有するキャップ25が嵌合されている。マイクロホンユニット20は、ユニットホルダー23の他端側を中筒12に差し込むことにより、中筒12に支持される。
【0030】
マイクロホンケース10の一端側には、マイクロホンユニット20を落下衝撃等から保護するための金属メッシュからなる保護カバー27が取り付けられ、また、マイクロホンケース10の他端側には、出力コネクタ30が装着されている。
【0031】
本発明では、上記マイクロホンユニット20とは別に副マイクロホンユニット40を備える。副マイクロホンユニット40は、好ましくはレゾネータ24上に配置され、図示しない音源からマイクロホンユニット20に到来する音波を受音する。
【0032】
副マイクロホンユニット40には、好ましくは無指向性マイクロホンユニットが用いられる。この第1実施形態では、副マイクロホンユニット40として、無指向性のエレクトレットコンデンサマイクロホンユニット41が用いられている。
【0033】
本発明においても、中筒12内に背部空気室12aが設けられるが、この実施形態においては、中筒12内に図示しない電子回路部品等を収納する関係上、中筒12内が仕切り板13により仕切られ、背部空気室12aの容積が上記従来例によりもかなり小さくされている。
【0034】
このようにすると、低い周波数では背部空気室12aの音響インピーダンスが高くなり、低音域での収音に支障をきたす。この点を解決するため、本発明では、音響抵抗材26と背部空気室12aとの間に圧電素子からなる膜板50を設ける。膜板50は、接着材などの固定手段でその周縁を中筒12に内壁面に固定する。
【0035】
圧電素子は印加電圧に応じて変形するが、本発明では、電圧印加時に膜板50の中央部分が背部空気室12a側に向けて湾曲変形するように設計する。
【0036】
そして、この第1実施形態では、副マイクロホンユニット40としてのエレクトレットコンデンサマイクロホンユニット41から出力される音声信号(電圧信号)を増幅器41aにて所定に増幅して膜板50に印加する。
【0037】
図示しない音源から到来する音波により、振動板21の前面側(受音面側)の圧力が上昇すると、エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット41から出力される電圧信号のレベルが高くなり、膜板50の中央部分が背部空気室12a側に向けて湾曲変形し、背部空気室12aを圧縮する。これに伴って、振動板21の背面側の圧力が相対的に下がる。
【0038】
これにより、背部空気室12aの音響インピーダンスが等価的に小さくなったように動作し、背部空気室12aの容積が小さい場合でも、低い周波数の収音が可能になる。
【0039】
次に、図2に示す第2実施形態について説明する。この第2実施形態において、上記第1実施形態と異なるところは、副マイクロホンユニット40として圧電型マイクロホンユニット42を用いる点であり、その他の構成は、上記第1実施形態と同じであってよいため、その説明は省略する。
【0040】
圧電型マイクロホンユニット42の場合、圧電素子からなる振動板が音波によって変形することにより起電圧が発生するため、その出力端子を2本のリード線42a,42bを介して膜板50に直接接続することができる。場合によっては、電圧増幅器を介してもよい。
【0041】
動作は上記第1実施形態と同じで、図示しない音源から到来する音波により、振動板21の前面側(受音面側)の圧力が上昇すると、圧電型マイクロホンユニット42からそれに比例した電圧が出力される。
【0042】
これにより、膜板50の中央部分が背部空気室12a側に向けて湾曲変形し、背部空気室12aを圧縮し、これに伴って振動板21の背面側の圧力が相対的に下がるため、背部空気室12aの音響インピーダンスが等価的に小さくなったように動作し、背部空気室12aの容積が小さい場合でも、低い周波数の収音が可能になる。
【0043】
図3に、上記第1実施形態および上記第2実施形態で説明した本発明によるダイナミックマイクロホンの音響的な等価回路を示す。
【0044】
P1が前方音源、P2が後方音源、m0,s0が振動板21の質量とスチフネス、r1が音響抵抗材26の音響抵抗、s1が背部空気室12aのスチフネス、m1が背部空気室12aの質量であるが、本発明の場合、背部空気室12aの音響インピーダンスを等価的に小さくできることから、背部空気室12aのスチフネスs1は、可変コンデンサで表される。
【0045】
上記第1,第2実施形態における副マイクロホンユニット40の場合、特にその駆動電源を必要としない点で好ましいが、ワイヤレスマイクロホンのように電池を内蔵している場合や、有線にて例えばファントム電源から電源が供給されるマイクロホンであれば、副マイクロホンユニット40として、成極電源を必要とするコンデンサマイクロホンユニットを用いることもできる。
【0046】
なお、上記の実施形態では、マイクロホンケース10内に配置される中筒12内に背部空気室12aを設けているが、この場合、中筒12はマイクロホンケース10にその構成要素として含まれることから、背部空気室12aは実質的にマイクロホンケース10内に設けられているとしてよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1実施形態に係るダイナミックマイクロホンを示す断面図。
【図2】本発明の第2実施形態に係るダイナミックマイクロホンを示す断面図。
【図3】上記各実施形態に係るダイナミックマイクロホンにおける音響的な等価回路図。
【図4】従来例としてダイナミックマイクロホンの一般的な構成を示す断面図。
【図5】上記従来例に係るダイナミックマイクロホンにおける音響的な等価回路図。
【符号の説明】
【0048】
10 マイクロホンケース
12 中筒
12a 背部空気室
20 マイクロホンユニット
21 振動板
21a ボイスコイル
22 磁気回路
23 ユニットケース
26 音響抵抗材
30 出力コネクタ
40 副マイクロホンユニット
41 エレクトレットコンデンサマイクロホンユニット
42 圧電型マイクロホンユニット
50 圧電素子よりなる膜板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイスコイルを有する振動板および上記ボイスコイルが振動可能に配置される磁気ギャップを有する磁気回路を含むマイクロホンユニットと、一端側で上記マイクロホンユニットを支持し、内部に音響抵抗材を介して上記振動板の背面側に設けられる背部空気室を有するマイクロホンケースとを含むダイナミックマイクロホンにおいて、
上記マイクロホンユニットに到来する音波を受けて音声信号を出力する副マイクロホンユニットを備えるとともに、上記音響抵抗材と上記背部空気室との間に、印加電圧に応じて上記背部空気室側に向けて湾曲変形する圧電素子からなる膜板が設けられ、上記膜板が上記副マイクロホンユニットから出力される音声信号にて駆動されることを特徴とするダイナミックマイクロホン。
【請求項2】
上記副マイクロホンユニットに無指向性マイクロホンユニットが用いられる請求項1に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項3】
上記無指向性マイクロホンユニットにエレクトレットコンデンサマイクロホンユニットが用いられる請求項2に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項4】
上記無指向性マイクロホンユニットにコンデンサマイクロホンユニットが用いられる請求項2に記載のダイナミックマイクロホン。
【請求項5】
上記無指向性マイクロホンユニットに圧電型マイクロホンユニットが用いられる請求項2に記載のダイナミックマイクロホン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−232176(P2009−232176A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−75319(P2008−75319)
【出願日】平成20年3月24日(2008.3.24)
【出願人】(000128566)株式会社オーディオテクニカ (787)
【Fターム(参考)】