説明

ダイヤモンド及びこれを用いた磁気センサー

【課題】磁気感度を向上させることが可能なダイヤモンド及びこれを用いた磁気センサーを提供する。
【解決手段】本発明に係るダイヤモンドは、NVセンターの含有量が1×10−7mol%以上であり、炭素原子12C及び炭素原子13Cの合計量を基準とする炭素原子12Cの含有量が99.9mol%を超えることを特徴とする。本発明に係る磁気センサーは、本発明に係るダイヤモンドを用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド及びこれを用いた磁気センサーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、微細な磁気ビーズから発生する磁場を検出して、抗体抗原反応などの発生位置を検出することが盛んに行われている。磁気検出を高精度に行うため磁気ビーズの小型化が望まれているが、磁気ビーズの小型化に伴い、磁気ビーズより発生する磁場も弱くなる傾向がある。磁気ビーズとして、フェライト粒子を高分子などで包み込んだものは、既に数10nmサイズのものが市販されている。しかしながら、発生磁場が小さいことから、これを用いて単一磁気ビーズの分解能や反応過程を検出することは困難である。
【0003】
これを克服するため、複数個の磁気粒子がビーズ状につながったものから発生する磁場を検出する方法がある。しかしながら、この場合には空間分解能が失われ、正確な位置検出が困難となる。
【0004】
そのため、単一磁気ナノ粒子から発生する磁場を検出できる高感度な磁気センサーが必要とされており、1nT以下の磁場を検出する技術として、SQUIDのような測定器が有望視されている。ところが、SQUIDは、液体窒素温度以下の低温で動作するデバイスであるため、冷却系や断熱のための真空系の設置が必須であり煩雑である。
【0005】
一方、磁気センサーとして、NVセンターと呼ばれるカラーセンターを含む天然のダイヤモンドを用いることが提案されている(例えば、下記非特許文献1参照)。NVセンターは、S=0とS=1との間でゼロ磁場分裂していると共に、そのゼロ磁場分裂に相当するマイクロ波を照射することによって、S=+1又はS=−1の磁気モーメントを有する状態をとることができる。そのため、磁気共鳴を行うことで、外部磁場によって現れる微細な磁気分裂を利用して磁場を検出することができる。
【0006】
また、磁場の検出は、通常の電子スピン共鳴(ESR)によっても可能であるが、蛍光の強弱によっても行うことができる。すなわち、NVセンターは、530nm近傍の波長の光を吸収して637nmの光を放出するが、このような蛍光過程は磁気共鳴しているときに起こり難くなる。このようにNVセンターの蛍光の強度が磁場に応じて変化することを利用して磁場を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2913796号公報
【特許文献2】特開平8−141385号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】J.R.Maze et al.,“Nanoscale magnetic sensing with and individual electronic spin in diamond”,Nature vol.455, p.644 (2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1において提案されている磁気センサーは、室温で利用することが可能であるものの、磁気感度が0.5μTでありSQUIDのような1nT以下の磁気感度は得られていない。そのため、近年、磁気センサー等に用いられるダイヤモンドに対しては、従来に比して磁気感度を更に向上させることが求められている。
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、磁気感度を向上させることが可能なダイヤモンド及びこれを用いた磁気センサーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ダイヤモンド中に存在する核スピンや電子スピンの影響を調整する観点から、NVセンターの含有量を調整すると共に炭素同位体の含有割合を調整することにより、上記課題を解決可能であることを見出した。この点、従来、熱伝導率を向上させる観点から、ダイヤモンド中の炭素同位体の含有割合を調整することが提案されている(例えば、上記特許文献1,2参照)。しかしながら、従来、磁気センサー等に用いられるダイヤモンドにおいてNVセンターの含有量と共に炭素同位体の含有割合を調整することについては検討されていない。
【0012】
本発明は、NVセンターの含有量が1×10−7mol%以上であり、炭素原子12C及び炭素原子13Cの合計量を基準とする炭素原子12Cの含有量が99.9mol%を超えるダイヤモンドを提供する。
【0013】
天然のダイヤモンドを構成する炭素には、炭素同位体である炭素原子12C及び炭素原子13Cがそれぞれ98.9mol%、1.1mol%含まれている。炭素原子12Cは核スピンを有していないのに対し、炭素原子13Cは核スピンを有している。この炭素原子13Cは、磁気共鳴を用いて外部磁場を検出する場合において、磁気的なノイズとなり、感度(S/N)を低くする原因となる。本発明に係るダイヤモンドは、NVセンターの含有量を1×10−7mol%以上とした上で、炭素原子12C及び炭素原子13Cの合計量を基準とする炭素原子12Cの含有量が99.9mol%を超えるものである。これにより、磁気感度に優れる充分量のNVセンターを含有しつつ、磁気的なノイズの要因となり得る炭素原子13Cの含有量を低減することができる。したがって、従来に比して磁気感度を向上させることができる。
【0014】
NVセンターの含有量は、1×10−3mol%以下であることが好ましい。この場合、NVセンター同士が接近することを抑制し、磁気感度を更に向上させることができる。
【0015】
窒素含有量は、1×10−7〜1×10−3mol%であることが好ましい。この場合、ダイヤモンドが充分量のNVセンターを含有しつつ、NVセンターを形成しない窒素原子が過度に存在することが抑制されるため、磁気感度を更に向上させることができる。
【0016】
NVセンターの含有量は、窒素含有量の10mol%以上であることが好ましい。この場合、NVセンターを形成しない窒素原子の存在量を低減できるため、磁気感度を更に向上させることができる。
【0017】
水素含有量は、0.1mol%以下であることが好ましい。この場合、核スピンを有する水素原子の存在量を低減できるため、磁気感度を更に向上させることができる。
【0018】
ホウ素含有量は、窒素含有量の50〜90mol%であることが好ましい。この場合、NVセンターを形成しない窒素原子がNVセンターの磁気共鳴に作用して磁気感度が低下することを抑制できるため、磁気感度を更に向上させることができる。
【0019】
ケイ素含有量は、1×10−6mol%以下であることが好ましい。この場合、NVセンターの磁気共鳴に作用して磁気感度を低下させ得るSi−欠陥の形成を抑制できるため、磁気感度を更に向上させることができる。
【0020】
本発明は、上記ダイヤモンドを用いた磁気センサーを提供する。本発明に係る磁気センサーでは、上記ダイヤモンドを用いていることにより、磁気感度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るダイヤモンドは、従来に比して磁気感度を向上させることが可能であり、磁気センサー用途として有用である。このようなダイヤモンドを用いた磁気センサーによれば、磁気感度を向上させることができる。このような磁気センサーは、室温で利用することが可能であり、例えば1nT(1×10−9T)以下の磁場を感知することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本実施形態に係るダイヤモンド及び磁気センサーについて説明する。
【0023】
ダイヤモンドは、単結晶や多結晶のいずれでもよい。ダイヤモンドを得る方法としては、周知の高圧合成法や気相合成法が挙げられる。ダイヤモンドは、含有される不純物やその濃度等により分類される。本実施形態では、不純物として窒素を含有するIIa型やIb型と呼ばれるダイヤモンド結晶や、これらの中間の窒素不純物濃度のダイヤモンド結晶が好ましい。
【0024】
本実施形態に係るダイヤモンドにおいて窒素含有量の下限値は、ダイヤモンドの全体積を基準として1×1014/cm以上、すなわちダイヤモンド中の全原子数を基準として1×10−7mol%(0.001ppm)以上が好ましく、1×10−6mol%(0.01ppm)以上がより好ましく、1×10−5mol%(0.1ppm)以上が更に好ましい。窒素含有量が1×10−7mol%未満であると、NVセンターの存在量が少なくなる傾向にあり、磁気感度が低下する場合がある。窒素含有量の上限値は、ダイヤモンドの全体積を基準として1×1018/cm以下、すなわちダイヤモンド中の全原子数を基準として1×10−3mol%(10ppm)以下が好ましく、1×10−4mol%(1ppm)以下がより好ましく、1×10−5mol%(0.1ppm)以下が更に好ましい。窒素含有量が1×10−3mol%を超えると、電子スピンが増加して磁気感度が低下する場合がある。窒素含有量は、可視・紫外分光スペクトルやSIMS元素分析(Secondary Ion Mass Spectrometry)により測定することが可能であり、炭素源(原料炭素)又は合成溶媒へ窒素ゲッター(例えばTi粉末)を添加することやその添加量を増減させることにより調整することができる。なお、窒素含有量は、ダイヤモンド中の窒素原子の総量であり、後述するNVセンターを形成しない窒素原子の含有量と共に、NVセンターを形成している窒素原子の含有量も含まれる。
【0025】
本実施形態に係るダイヤモンドは、カラーセンターとしてNVセンターを含有している。ここで、NVセンターとは、ダイヤモンド中の空格子欠陥Vと当該空格子欠陥Vに隣接した置換位置にある窒素原子Nとで構成される中性のNVセンターに一つの電子が入り込み負に帯電した窒素−空孔中心をいう。NVセンターは、S=1の安定したスピン状態を有している。ダイヤモンド中にNVセンターを導入する方法としては、ダイヤモンドに電子線等を照射してダイヤモンド中に欠陥を生じさせた後に、当該ダイヤモンドを真空アニール(例えば真空度10−2Pa)する方法等が挙げられる。なお、ダイヤモンドに電子線を照射した後に真空アニールすることにより、ダイヤモンドにおける上記窒素含有量や、後述する炭素同位体の含有割合、水素含有量、ホウ素含有量及びケイ素含有量等は大きく変化するものではない。
【0026】
NVセンターの含有量の下限値は、ダイヤモンドの全体積を基準として1×1014/cm以上、すなわちダイヤモンド中の全原子数を基準として1×10−7mol%(0.001ppm)以上であり、1×10−6mol%(0.01ppm)以上が好ましく、1×10−5mol%(0.1ppm)以上がより好ましい。NVセンターの含有量が1×10−7mol%未満であると、NVセンターの含有量が小さいため、磁気感度が低下する。一方、NVセンターの含有量の上限値は、ダイヤモンドの全体積を基準として1×1018/cm以下、すなわちダイヤモンド中の全原子数を基準として1×10−3mol%(10ppm)以下が好ましく、1×10−6mol%(0.01ppm)以下がより好ましく、1×10−5mol%(0.1ppm)以下が更に好ましい。NVセンターの含有量が1×10−3mol%を超えると、電子スピンを有するNVセンター同士が接近し易くなり、磁気感度が低下する場合がある。NVセンターの含有量は、ESR法により測定することができる。NVセンターの含有量は、電子線の照射条件やアニール条件により調整可能であり、例えば局所的な電子線照射を行うことや、アニール温度、アニール時間を増加させることにより、窒素原子からNVセンターへの変換率を向上させることができる。
【0027】
窒素原子は、炭素原子に比べて電子が1個多いために電子スピンを有しており、当該電子スピンが磁気センシングにおけるノイズとなる。そのため、NVセンターを形成しない窒素原子は、NVセンターの磁気共鳴に磁気的に作用して感度を低下させる場合がある。したがって、磁気感度を更に向上させる観点から、ダイヤモンド中の窒素原子のうちNVセンターを形成している窒素原子の割合は高いほど好ましい。すなわち、NVセンターの含有量は、窒素含有量の10mol%以上が好ましく、20mol%以上がより好ましい。NVセンターの含有量の上限値は、窒素含有量の100mol%である。
【0028】
ここで、窒素原子からNVセンターへの変換率が10%であり、窒素含有量が0.01ppm(1015/cm)及び10ppm(1018/cm)である場合を一例として磁気感度について説明する。スピン同士が近接することによる磁気感度の低下を更に抑制する観点から、NVセンター同士は1nm以上の間隔で配置されることが好ましく、NVセンターが1nm内に1個という状態(ダイヤモンドの格子定数は3.5Å)は、窒素含有量10ppm、NVセンターの含有量1ppmである場合に相当する。
【0029】
ここで、μTオーダーの磁気モーメントを有するNVセンターの磁場は、NVセンターからの距離rが大きくなるに伴い減少し、距離rの位置における磁場は1/r倍になる。そのため、磁気感度を更に向上させる観点から隣接するNVセンターへの影響を1fT以下とするためには、NVセンター同士の間隔が1μm以上である必要があり、NVセンターが1μm内に1個という状態は、窒素含有量が0.01ppm、NVセンターの含有量0.001ppmである場合に相当する。
【0030】
NVセンターが1μm内に1個という状態におけるNVセンターの磁気感度(磁気ノイズの影響)は、ESRの基礎式に基づき以下のように算出される。すなわち、窒素含有量が0.01ppm、NVセンターの含有量0.001ppmの条件において、天然のダイヤモンド(炭素原子12Cの含有量:98.9mol%)を用いて実験的に得られているスピン緩和時間300μsecから外挿すると、炭素原子12Cの含有量が99.9molを超えるダイヤモンドを用いた場合のスピン緩和時間Tは100msecである。このスピン緩和時間Tと、理想的に得られる光子の収率C=約0.3とをESRの基礎式に代入すると、磁気感度ηは下記式(1)のように表される。
【数1】


(式中、hバー(ディラック定数)=1.054×10−34J・s、μβ(ボーア磁子)=927.4×10−26J/T、g(g因子)=約2とする)
【0031】
さらに、これをミリメートル(mm)当たりの磁気感度に直すと、下記式(2)のように表される。
【数2】


したがって、窒素含有量が0.01ppmであり、NVセンターの含有量が0.001ppmであり、炭素原子12Cの含有量が99.9mol%を超える場合には、1fT以下の磁気感度を得ることができる。
【0032】
核スピンの磁気モーメントは、電子スピンのおよそ1/1000の大きさであるものの、磁気センシングにおいて理想的にはダイヤモンド中に存在しないことが好ましい。ここで、本実施形態に係るダイヤモンドは、炭素成分として炭素同位体である炭素原子12C及び炭素原子13Cを含有している。炭素原子12Cは核スピンを有していないのに対し、炭素原子13Cは核スピンを有している。そのため、炭素成分における炭素原子13Cの含有割合が大きい場合には、炭素原子13Cの核スピンの影響が顕著になり磁気感度が著しく低下する。このような炭素原子13Cの核スピンの影響を抑制する観点から、炭素成分における炭素原子13Cの含有割合が小さい、すなわち相対的に炭素原子12Cの含有割合が大きいことが必要である。
【0033】
炭素原子12C及び炭素原子13Cの合計量を基準とする炭素原子12Cの含有量(炭素同位体比)は、99.9mol%を超えるものであり、99.99mol%以上が好ましく、99.999mol%以上がより好ましい。上記炭素原子12Cの含有量が99.9mol%以下であると、核スピンを有する炭素原子13Cの含有量が増加して磁気感度が低下する。炭素原子12Cの含有量の上限値は、100mol%が好ましい。炭素成分における各炭素同位体の含有割合は、燃焼質量分析法を用いて測定することができる。ダイヤモンドにおける炭素同位体の含有割合は、ダイヤモンドの合成に用いる炭素源における炭素同位体の含有割合により調整することができる。なお、ダイヤモンドにおける炭素成分の含有量は、窒素含有量の残部であればよく、その他の不純物の含有量の増加に伴い減少する。
【0034】
陽子数又は中性子数の少なくとも一方が奇数である原子は、炭素原子13Cと同様に核スピンを有しているため、磁気感度を更に向上させる観点から、このような原子の含有量は小さいことが好ましい。例えば、水素含有量は、ダイヤモンド中の全原子数を基準として0.1mol%以下が好ましく、0.01mol%以下がより好ましく、0.001mol%以下が更に好ましい。水素含有量は、SIMS元素分析により測定することが可能であり、合成溶媒又は原料への自然添加又は人工添加や、脱気を行うことにより調整することができる。
【0035】
ところで、理想的にはダイヤモンド中の窒素原子の全てがNVセンターを形成している、すなわちNVセンターへの変換率が100%であることが好ましい。しかしながら、その技術開発は未だ不十分であり、変換率が100%未満である場合には、磁気感度の低下を抑制する観点から、窒素原子の余剰スピンを補償することが好ましい。ここで、窒素原子は炭素原子に比べて電子が1個多いためにスピンを有しているのに対し、ホウ素(ボロン)原子(B)は炭素原子に比べて電子が1個少ないため、隣接する窒素原子からホウ素原子が電子を受け取り、スピンを有さないB−Nを形成することができる。ダイヤモンド結晶の合成に際して原料にホウ素原子を予め含有させておくことで、ひずみを緩和するように窒素原子及びホウ素原子が配置されたダイヤモンド結晶が得られる。
【0036】
ホウ素含有量の上限値は、窒素含有量の90mol%以下が好ましく、80mol%以下がより好ましく、70mol%以下が更に好ましい。ホウ素含有量が90mol%を超えると、ホウ素原子が窒素原子を全て補償して余ったり、NVセンターの形成を妨げたりする場合がある。ホウ素含有量の下限値は、窒素含有量の50mol%以上が好ましい。ホウ素含有量が50mol%未満であると、NVセンターを形成していない窒素原子の余剰スピンを充分に補償することができない傾向があるため、磁気感度が低下する場合がある。上述のとおり、窒素含有量は1×10−7mol%(0.001ppm)〜1×10−3mol%(10ppm)が好ましいことから、ホウ素含有量は、5.0×10−8mol%(0.0005ppm)〜9.0×10−4mol%(9ppm)が好ましい。ホウ素含有量は、赤外分光測定(FT−IR)により測定することが可能であり、合成溶媒又は原料への自然添加又は人工添加により調整することができる。
【0037】
ダイヤモンドに不純物としてケイ素原子(Si)が混入すると、NVセンターと同様にケイ素原子と欠陥が結合して電子スピンを有するSi−欠陥が形成される場合がある。この場合、Si−欠陥は、NVセンターのようにスピンが固定されることはなく、室温で動くことができるので、NVセンターの磁気共鳴に磁気的に作用して感度が低下する場合がある。そのため、ダイヤモンドにおけるケイ素含有量は、Si−欠陥由来の電子スピンの影響を除去して磁気感度を更に向上させる観点から、ダイヤモンドの全原子数を基準として1×10−6mol%(0.01ppm)以下が好ましい。ケイ素含有量は、SIMS元素分析により測定することが可能であり、合成溶媒又は原料への自然添加又は人工添加により調整することができる。
【0038】
本実施形態に係る磁気センサーは、上記ダイヤモンドを磁気センサーのセンサー素子部に用いることを特徴とする。本実施形態に係る磁気センサーでは、ダイヤモンドへの磁場印加によって、NVセンターの磁気共鳴吸収、蛍光強度の変化が起こり、その共鳴周波数の変化又は蛍光強度の変化に基づいて外部磁場が検出される。磁気センサーとしては、磁場強度測定用、位置測定用、速度・回転測定用、微小磁気記録読み出し用が挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
Fe粉末、Co粉末、Ti粉末をそれぞれ質量比49%、49%、2%で混合し、ミキサーで1時間ほど混ぜ合わせて粉末混合物を得た。粉末混合物をプレス機によってペレット化し、合成溶媒を作製した。その後、ペレットを真空中、1000℃で30分間加熱し、脱ガスを行った。この合成溶媒と、炭素同位体比が炭素原子12C:99.999mol%、炭素原子13C:0.001mol%のメタンガスを1700℃で熱分解して得られたグラファイト(炭素源)とを混合した後、0.3ppmのホウ素を添加した。
【0041】
種結晶としてIIa型のダイヤモンド結晶を用いて、高温高圧合成法によって、1550℃、5.5GPaでダイヤモンドの合成を行った。ダイヤモンドは、わずかにクリーム色を帯びた、ほぼ透明の結晶であった。
【0042】
可視・紫外分光スペクトルによってダイヤモンド中の窒素含有量を測定したところ、1.0ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中の水素含有量を測定したところ、0.001ppm(1×10−7mol%,1×10−15/cm)以下であった。赤外分光測定によってダイヤモンド中のホウ素含有量を測定したところ、0.2ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中のケイ素含有量を測定したところ、1017/cm以下、すなわち0.01ppm以下であることが確認された。燃焼質量分析法(サーモフィッシャー社製、商品名:「DELTA V」)によってダイヤモンド中の炭素同位体比を測定したところ、炭素原子12C:99.999mol%、炭素原子13C:0.001mol%であった。
【0043】
このように作製したダイヤモンドに電子線を3MeVで50kGy照射したところ、結晶はうす緑色となった。さらに、ダイヤモンドに対して800℃で60分間の真空アニールを行い、ダイヤモンド中にNVセンターを作製した。これにより、ダイヤモンドは、赤みを帯びた結晶となった。
【0044】
波長532nmの緑色のレーザー照射に対して、ダイヤモンドの発光ピークは637nmであり、700nm付近にはサブバンドからと考えられる蛍光が確認された。これはNVセンターの発光に相当する。ESR測定によってダイヤモンド中のNVセンターの含有量を測定したところ、0.3ppmであった。ESR測定によってスピン緩和時間を測定したところ、0.6msecであった。すなわち、700pTの磁気感度(周波数:10kHz)に到達することが確認された。
【0045】
[実施例2]
Fe粉末、Co粉末、Ti粉末をそれぞれ質量比48.75%、48.75%、2.5%で混合し、ミキサーで1時間ほど混ぜ合わせて粉末混合物を得た。粉末混合物をプレス機によってペレット化し、合成溶媒を作製した。その後、ペレットを真空中、1000℃で30分間加熱し、脱ガスを行った。この合成溶媒と、炭素同位体比が炭素原子12C:99.999mol%、炭素原子13C:0.001mol%のメタンガスを1700℃で熱分解して得られたグラファイト(炭素源)とを混合した後、0.3ppmのホウ素を添加した。
【0046】
種結晶としてIIa型のダイヤモンド結晶を用いて、高温高圧合成法によって、1550℃、5.5GPaでダイヤモンドの合成を行った。ダイヤモンドは、わずかにクリーム色を帯びた、ほぼ透明の結晶であった。
【0047】
可視・紫外分光スペクトルによってダイヤモンド中の窒素含有量を測定したところ、0.3ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中の水素含有量を測定したところ、0.001ppm(1×10−7mol%,1×10−15/cm)以下であった。赤外分光測定によってダイヤモンド中のホウ素含有量を測定したところ、0.2ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中のケイ素含有量を測定したところ、1017/cm以下、すなわち0.01ppm以下であることが確認された。燃焼質量分析法によってダイヤモンド中の炭素同位体比を測定したところ、炭素原子12C:99.999mol%、炭素原子13C:0.001mol%であった。
【0048】
このように作製したダイヤモンドに電子線を3MeVで50kGy照射したところ、結晶はうす緑色となった。さらに、ダイヤモンドに対して800℃で60分間の真空アニールを行い、ダイヤモンド中にNVセンターを作製した。これにより、ダイヤモンドは、赤みを帯びた結晶となった。
【0049】
波長532nmの緑色のレーザー照射に対して、ダイヤモンドの発光ピークは637nmであり、700nm付近にはサブバンドからと考えられる蛍光が確認された。これはNVセンターの発光に相当する。ESR測定によってダイヤモンド中のNVセンターの含有量を測定したところ、0.06ppmであった。ESR測定によってスピン緩和時間を測定したところ、1msecであった。すなわち、500pTの磁気感度(周波数:10kHz)に到達することが確認された。
【0050】
[実施例3]
周知のマイクロ波CVD装置と、原料として炭素原子12Cの炭素同位体比が99.999mol%のメタンガスとを用いて、860℃、メタンガス流量1sccm、水素ガス流量99sccmで、IIa型のダイヤモンド基板の(001)面に対してダイヤモンド薄膜合成を5時間行った。マイクロ波CVD装置は、石英窓にプラズマが当たらない構造とした。メタンガス中の窒素含有量は14ppm程度であり、合成されたダイヤモンド薄膜中には窒素が約1ppm取り込まれていた。ホウ素原料として、水素ガス中にジボランを300ppm混ぜたものを利用した。ダイヤモンド基板部分を切り離し、合成した薄膜の厚さを測定したところ、300μmであった。
【0051】
ダイヤモンド薄膜をプレス機によってペレット化し、合成溶媒を作製した。その後、ペレットを真空中、1000℃で30分間加熱し、脱ガスを行った。この合成溶媒と、炭素同位体比が炭素原子12C:99.99mol%、炭素原子13C:0.01mol%のメタンガスを1700℃で熱分解して得られたグラファイト(炭素源)とを混合した後、0.1ppmのホウ素を添加した。
【0052】
種結晶としてIIa型のダイヤモンド結晶を用いて、高温高圧合成法によって、1550℃、5.5GPaでダイヤモンドの合成を行った。ダイヤモンドは、わずかにクリーム色を帯びた、ほぼ透明の結晶であった。
【0053】
可視・紫外分光スペクトルによってダイヤモンド中の窒素含有量を測定したところ、1.0ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中の水素含有量を測定したところ、0.001ppm(1×10−7mol%,1×10−15/cm)以下であった。赤外分光測定によってダイヤモンド中のホウ素含有量を測定したところ、0.5ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中のケイ素含有量を測定したところ、1017/cm以下、すなわち0.01ppm以下であることが確認された。マイクロ波CVD装置において石英窓にプラズマが当たらない構造にしたため、CVDを用いた場合でもケイ素含有量を低く抑えることができた。燃焼質量分析法によってダイヤモンド中の炭素同位体比を測定したところ、炭素原子12C:99.999mol%、炭素原子13C:0.001mol%であった。
【0054】
ダイヤモンドに対してアニールや酸洗浄を行った後、このダイヤモンドに電子線を3MeVで50kGy照射したところ、結晶はうす緑色となった。さらに、ダイヤモンドに対して800℃で60分間の真空アニールを行い、ダイヤモンド中にNVセンターを作製した。これにより、ダイヤモンドは、赤みを帯びた結晶となった。
【0055】
波長532nmの緑色のレーザー照射に対して、ダイヤモンドの発光ピークは637nmであり、700nm付近にはサブバンドからと考えられる蛍光が確認された。これはNVセンターの発光に相当する。ESR測定によってダイヤモンド中のNVセンターの含有量を測定したところ、0.3ppmであった。ESR測定によってスピン緩和時間を測定したところ、1msecであった。すなわち、500pTの磁気感度(周波数:10kHz)に到達することが確認された。
【0056】
[比較例1]
Fe粉末、Co粉末、Ti粉末をそれぞれ質量比49.5%、49.5%、1.0%で混合し、ミキサーで1時間ほど混ぜ合わせて粉末混合物を得た。粉末混合物をプレス機によってペレット化し、合成溶媒を作製した。その後、ペレットを真空中、1000℃で30分間加熱し、脱ガスを行った。この合成溶媒と、天然炭素同位体比(炭素原子12C:98.9mol%、炭素原子13C1.1:mol%)のメタンガスを1700℃で熱分解して得られたグラファイト(炭素源)とを混合した後、0.3ppmのホウ素を添加した。
【0057】
種結晶としてIIa型のダイヤモンド結晶を用いて、高温高圧合成法によって、1550℃、5.5GPaでダイヤモンドの合成を行った。ダイヤモンドは、わずかにクリーム色を帯びた、ほぼ透明の結晶であった。
【0058】
可視・紫外分光スペクトルによってダイヤモンド中の窒素含有量を測定したところ、1.0ppmであった。赤外分光測定によってダイヤモンド中のホウ素含有量を測定したところ、0.2ppmであった。SIMS元素分析によってダイヤモンド中のケイ素含有量を測定したところ、1017/cm以下、すなわち0.01ppm以下であることが確認された。燃焼質量分析法によってダイヤモンド中の炭素同位体比を測定したところ、炭素原子12C:98.9mol%、炭素原子13C:1.1mol%であった。
【0059】
このように作製したダイヤモンドに電子線を3MeVで50kGy照射したところ、結晶はうす緑色となった。さらに、ダイヤモンドに対して800℃で60分間の真空アニールを行い、ダイヤモンド中にNVセンターを作製した。これにより、ダイヤモンドは赤みを帯びた結晶となった。
【0060】
波長532nmの緑色のレーザー照射に対して、ダイヤモンドの発光ピークは637nmであり、700nm付近にはサブバンドからと考えられる蛍光が確認された。これはNVセンターの発光に相当する。ESR測定によってダイヤモンド中のNVセンターの含有量を測定したところ、0.3ppmであった。ESR測定によってスピン緩和時間を測定したところ、15μsecであった。すなわち、5nTを超える磁気感度(周波数:10kHz)となってしまうことが分かった。
【0061】
[比較例2]
Fe粉末、Co粉末、Ti粉末をそれぞれ質量比49.5%、49.5%、1.0%で混合し、ミキサーで1時間ほど混ぜ合わせて粉末混合物を得た。粉末混合物をプレス機によってペレット化し、合成溶媒を作製した。その後、ペレットを真空中、1000℃で30分間加熱し、脱ガスを行った。この合成溶媒と、炭素同位体比が炭素原子12C:99.9mol%、炭素原子13C:0.1mol%のメタンガスを1700℃で熱分解して得られたグラファイト(炭素源)とを混合したものを用い、ボロン添加は行わなかった。
【0062】
種結晶としてIIa型のダイヤモンド結晶を用いて、高温高圧合成法によって、1550℃、5.5GPaでダイヤモンドの合成を行った。ダイヤモンドは、わずかにクリーム色を帯びた、ほぼ透明の結晶であった。
【0063】
可視・紫外分光スペクトルによってダイヤモンド中の窒素含有量を測定したところ、1.0ppmであった。燃焼質量分析法によってダイヤモンド中の炭素同位体比を測定したところ、炭素原子12C:99.9mol%、炭素原子13C:0.1mol%であった。
【0064】
このように作製したダイヤモンドに電子線を3MeVで50kGy照射したところ、結晶はうす緑色となった。さらに、ダイヤモンドに対して800℃で60分間の真空アニールを行い、ダイヤモンド中にNVセンターを作製した。これにより、ダイヤモンドは赤みを帯びた結晶となった。
【0065】
波長532nmの緑色のレーザー照射に対して、ダイヤモンドの発光ピークは637nmであり、700nm付近にはサブバンドからと考えられる蛍光が確認された。これはNVセンターの発光に相当する。ESR測定によってダイヤモンド中のNVセンターの含有量を測定したところ、0.3ppmであった。ESR測定によってスピン緩和時間を測定したところ、100μsecであった。すなわち、およそ1.5nTの磁気感度(周波数:10kHz)となってしまうことが分かった。
【0066】
ところで、従来、炭素原子12Cの炭素同位体比を99.9mol%まで高めてダイヤモンド合成が行われているが、その目的は主に熱伝導率の向上であり、磁気センシングの感度を向上させる観点からダイヤモンドにおいて99.9mol%を超えるように炭素原子12Cの炭素同位体比を調整することや、その他の不純物元素の含有量を調整することは行われていない。
【0067】
一方、本発明では、NVセンターの含有量を調整した上で、99.9mol%を超える炭素原子12Cの炭素同位体比を採用することにより、例えば1nT以下の磁気感度を有する磁気センサーへ適用可能なダイヤモンドが得られる。また、その他の不純物元素の含有量を調整することにより、磁気感度を更に向上させることができる。したがって、本発明は、従来のダイヤモンドとは根本的に異なる性質のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NVセンターの含有量が1×10−7mol%以上であり、
炭素原子12C及び炭素原子13Cの合計量を基準とする前記炭素原子12Cの含有量が99.9mol%を超える、ダイヤモンド。
【請求項2】
NVセンターの含有量が1×10−3mol%以下である、請求項1に記載のダイヤモンド。
【請求項3】
窒素含有量が1×10−7〜1×10−3mol%である、請求項1又は2に記載のダイヤモンド。
【請求項4】
前記NVセンターの含有量が窒素含有量の10mol%以上である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のダイヤモンド。
【請求項5】
水素含有量が0.1mol%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のダイヤモンド。
【請求項6】
ホウ素含有量が窒素含有量の50〜90mol%である、請求項1〜5のいずれか一項に記載のダイヤモンド。
【請求項7】
ケイ素含有量が1×10−6mol%以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のダイヤモンド。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のダイヤモンドを用いた、磁気センサー。


【公開番号】特開2012−121748(P2012−121748A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−272776(P2010−272776)
【出願日】平成22年12月7日(2010.12.7)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】